(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による制振装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
はじめに、後述する各実施形態に共通する制振装置1の基本構造について説明する。
制振装置1は、例えば建築構造物のように風を受けることで振動が生じる構造物200に設置されることで、構造物200に生じる振動を低減するものであり、
図1に示すように、制振装置本体3と、ストッパ機構10と、から構成されている。
制振装置本体(以下、単に本体)3は、外力を加えることなく構造物200の揺れに同調して振動体5を振動させ、この振動体5の振動を構造物200に伝達することで構造物200の揺れを減衰させる。本体3は、質量体である振動体5と、振動体5と構造物200の間に配置される固有周期調整用、および原点復帰要素としてのバネ7と、振動体5と構造物200の間にバネ7と並列的に配置される減衰要素としてのダンパ9と、を備えている。
ストッパ機構10は、想定外の外乱が生じて振動体5の揺れが過大となった時に、その揺れを制止するように、振動体5を挟んだ両側に一つずつ設置されている。振動体5とストッパ機構10は、クリアランスaだけ離間して配置されているが、振動体5の揺れが過大となると、振動体5がストッパ機構10に衝突することで、ストッパ機構10が機能する。ただし、衝突しても、振動体5とストッパ機構10は係合するなどの機械的な結合関係を持たない。このストッパ機構10は、振動体5に対してストッパとしての機能を果たしながらも原点に復帰できるとともに、本体3からの振動エネルギを吸収する機能をし、ストッパ許容変位がbとされている。ストッパ機構10の具体的な構成については、後述する第1実施形態〜第4実施形態において詳細に説明する。
なお、ストッパ許容変位bは、設置するストッパ機構10の変形限界値に対して余裕を持って設定されるのがよい。つまり、それ以上変形すると破損あるいは機能が失われる変形限界値をLとすると、ストッパ許容変位b<変形限界値L、とする。
【0014】
次に、外的要因により振動した制振装置1の振動特性(荷重−変位特性)を、
図2を用いて説明する。
本体3が単体では、
図2(a)に示される楕円状の荷重−変位履歴曲線に沿って、−a〜a(a:クリアランス)の範囲で変位(振動)する。
ストッパ機構10は、単体でみると、
図2(b)に示される荷重−変位履歴曲線に沿って、−b〜b(b:ストッパ許容変位)の範囲で変位(振動)する。制振装置1に設置されていると、
図2(c)に示すように、一対のストッパ機構10は、各々、−(a+b)〜−aの範囲、及び、a〜a+bの範囲で変位(振動)する。
図2(b)、(c)は、ストッパ機構10が、この範囲を変位する過程で本体3からの振動エネルギを吸収するとともに、原点に復帰することを示している。
【0015】
[第1実施形態]
以下、
図1に示す制振装置1のストッパ機構10をより具体化したストッパ機構20を
図3に基づいて説明する。
ストッパ機構20は、本体3(振動体5)の衝突を受け止める振動伝達体21と、振動伝達体21を保持し、高減衰ゴムからなる弾性減衰体25と、構造物200に立設され、弾性減衰体25を支持する支持板27と、からなる。
振動伝達体21は、振動により変位した振動体5が直接衝突する接触部22と、弾性減衰体25により保持される保持部23と、を備え、接触部22の幅方向の中心部に保持部23の一端部が接続されることで、平面視するとT字状の形態をなしている。接触部22は、変位する振動体5が衝突しうる範囲の位置に配置される。振動伝達体21は、弾性減衰体25に対して十分に剛性の高い材料、例えば金属材料で構成することができる。
なお、振動伝達体21は上記したT字状の形態に限られず、振動体5が衝突する接触部22、弾性減衰体25により保持される保持部23がそれぞれ有する機能を備える限り、いかなる形態であってもよい。
なお、振動体5に対向する接触部22が設けられる側を、実施形態を通じて、ストッパ機構20の前方とする。
保持部23の表裏両側に配置される一対の弾性減衰体25は、保持部23に接合されるとともに、その両側に配置される一対の支持板27に各々接合されることで、振動伝達体21を保持する。断面が円形の弾性減衰体25は、高減衰ゴムからなることで、ストッパ機構20に自己復帰性能及び減衰性能を付与する。つまり、弾性減衰体25は、自己復帰要素としてのバネと減衰要素としてのダンパとを兼ね備える部材である。なお、高減衰ゴムは、基材となるゴムに添加物を配合することにより、ゴム分子間の摩擦減衰要素及び分子間に存在する粘性体による粘性減衰要素を併せ持つように配合設計されたゴム材料である。具体的な例としては、イソプレンゴムと、シリカ微粒子と、加硫剤と、を主成分とする高減衰ゴム、エピクロルヒドリンゴムとエチレン−プロピレン−ジエンゴムと、振動特性改良剤と、からなる高減衰ゴム、ポリイソプレンゴムと、カーボンブラックと、ペンタエリスリトールエステル樹脂と、を含有する高減衰ゴムが該当する。ただし、本発明に適用される高減衰ゴムはこれらに限るものでないことは言うまでもない。
弾性減衰体25の表裏両側に配置される一対の支持板27は、弾性減衰体25を介して振動伝達体21を支持する。支持板27も、振動伝達体21と同様に、弾性減衰体25に対して十分に剛性の高い材料、例えば金属材料で構成することができる。
保持部23と弾性減衰体25の接合、及び、弾性減衰体25と支持板27の接合の手段は任意であり、締結具(例えばボルト)、あるいは、接着剤を用いることができる。
【0016】
以上の構成を備えるストッパ機構20の動作について以下説明する。
構造物200に生じる振動が定常範囲内、例えば風による揺れのみの場合には、本体3はほぼ水平方向に直線的に往復運動する。この時、中立な位置からの振動体5の変位は、クリアランスa以下である。したがって、本体3は、
図2(a)で示す振動特性を示す。
構造物200に生じる振動が地震により定常範囲を超え、振動体5がクリアランスaを超えて変位すると、本体3の振動体5が変位し、一方のストッパ機構20(この例では、図中右側)の振動伝達体21の接触部22に衝突する。そうすると、
図2(c)に示すように、振動伝達体21が後退するので、接触部22及び保持部23を介して、各々の弾性減衰体25にはせん断力が生じ、一対の弾性減衰体25を全体としてみると、幅方向の中央部が振動体5の変位の向きに後退するように変形する。この際、弾性減衰体25が変形するための運動エネルギとして、振動体5の振動エネルギが消費される。
したがって、ストッパ機構20は、定常範囲を超えて振動する本体3の変位を制止する作用を果たしながら、本体3の振動エネルギを減衰させることができる。しかも、弾性減衰体25が高減衰ゴムで形成されているので、ストッパ機構20は、定常範囲を超える振動が収まると、外力を加えることなく、原点位置に戻る自己復帰特性を有している。したがって、このストッパ機構20を備える制振装置1は、ストッパ機構20が一旦機能した後にも、外部から操作力を加えることなく、振動体5が振動して制振機能を発揮することができる。
【0017】
また、ストッパ機構20は、単純な構造の部材を用い、かつ、これら部材を組み付ける構造も簡易であるため、製造が容易である。しかも、ストッパ機構20は、平面視すると対称形状の振動伝達体21が同じ厚さを有する一対の弾性減衰体25に保持されている。したがって、振動伝達体21に振動体5が衝突した際に、振動伝達体21は振動体5に対して平面方向に傾くことなく後退し、振動伝達体21を介した一対の弾性減衰体25の変位も対称となるので、ストッパ機構20は安定して本体3の振動エネルギを減衰させることができる。
ただし、本発明におけるストッパ機構は、平面視して対称形状に限るものではなく、例えば、一つの支持板27で一つの弾性減衰体25を支持し、この弾性減衰体25に振動伝達体21を固定することで、自己復帰性能と減衰性能とを併せ持つことができる。
また、弾性減衰体25は、ここでは横断面が円形の例を示したが、
図5、
図6に示す例のような、矩形の横断面を有する弾性減衰体25とすることもできる。
【0018】
以上の実施形態では、ストッパ機構20の側に振動体5に向けて突出する振動伝達体21を設け、そこに振動体5が衝突する構成としたが、本発明は、
図4に示すように、弾性減衰体26に向けて突出する振動伝達体24を振動体5の側に設け、これを弾性減衰体26に衝突させ
た参考例としてもよい。
図4に示すストッパ機構30において、バルク状をなしているこの弾性減衰体26は、一対の支持板27に保持されている。振動伝達体24は、弾性減衰体26の幅方向の中央に接触するように振動体5に接続されており、振動伝達体24の先端と弾性減衰体26は、クリアランスaだけ離れている。
【0019】
弾性減衰体26と一対の支持板27からなるストッパ機構30においても、以上説明した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。それに加えてストッパ機構30は、T字状をなす振動伝達体21に比べて振動伝達体24が単純な板状の形態をなしているので、材料コストが少なくてすむ。さらに、弾性減衰体26は単純なバルク形状で足り、また、振動伝達体24を挟む必要もない。したがって、ストッパ機構30は、ストッパ機構20に比べて、製作コストが低い利点がある。なお、ストッパ機構30も本体3を挟んだ両側に配置されることは上述した第1実施形態と同様である。
【0020】
[第2実施形態]
ストッパ機構20,30は、振動体5の変位の向きに係らず適用できる。その中で、例えば、円弧状の軌道を運動する振動体5にも適用できる。第2実施形態では、その一例として、振り子形の制振装置101を
図5に基づいて、また、逆振り子形の制振装置102を
図6に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号を
図5、6に示すことで、その説明を省略することがある。第3実施形態以降についても同様である。
【0021】
振り子形の制振装置101は、振動体5が自在継手29を介して門型のフレーム201に設置されているところ、及び、ストッパ機構20がフレーム201に設けられているところが相違するが、他の構成は第1実施形態と同じである。フレーム201は構造物200上に設けられ、自在継手29はフレーム201に継手本体29aが接続されることで、フレーム201に垂下されている。したがって、制振装置101の振動体5は、構造物200(フレーム201)に対して、継手本体29aを中心にして、水平方向に対して任意の向きに、かつ鉛直方向の下向きに突となる円弧上を変位する。
一方、ストッパ機構20は、振動体5の変位に対応するように、各々の先端、つまり振動伝達体21の側が下向きになるように傾斜して配置されている。そうすることで、振動体5が振動伝達体21に平行に衝突することを担保する。
図5(a)では、自在継手29により吊下げた振動体5を円弧状の軌道を往復運動させているが、自在継手29の代わりに円弧状に形成されたレール11を用いて振動体5に同様の運動をさせることもできる。その一例を
図5(b)に示している。なお、
図5(b)には
図5(a)に記載したストッパ機構20、ダンパ9、フレーム201の記載は省略しており、要部のみを示している。
具体的には、
図5(b)に示すように、振動体5はその下部に支持体12を備える。この支持体12は任意であるが、例えば車輪により構成することができる。一方、レール11は、鉛直方向の下向きに突となる円弧状の走行面を備えている。振動体5は、支持体12を介してレール11を走行可能に配置される。したがって、構造物200に振動が生じると、
図5(b)に示す例においても、振動体5が円弧状のレール11上を決まった周期で振動することによって、
図5(a)に示した制振装置101と同様の制振機能を発揮することができる。
【0022】
次に、
図6に示す逆振り子形の制振装置102は、自在継手29の継手本体29a、及び、ストッパ機構が構造物200上に配置されているところが
図5に示す振り子形の制振装置101と相違するが、それ以外は制振装置101と同様である。
【0023】
振り子型の制振装置101、逆振り子型の制振装置102においても、本体3が定常範囲を超えて振動すると、振動体5はストッパ機構20に衝突する。この際、第1実施形態で説明した通り、弾性減衰体25に振動体5の振動エネルギが吸収されるため、ストッパ機構20は、振動体5に対して制振作用効果を与える。また、弾性減衰体25が高減衰ゴムで形成されているので、ストッパ機構20は、前述した自己復帰特性を有している。したがって、振り子型の制振装置101、逆振り子型の制振装置102においても、ストッパ機構20が一旦機能した後にも、外部から操作を加えることなく、振動体5が振動して制振機能を発揮することができる。
【0024】
図5、
図6には、水平方向に一対のストッパ機構20を配置した例を示しているが、前述したように、振り子型の制振装置101(逆振り子型の制振装置102)は、振動体5が水平方向に対して任意の向きに変位(振動)できる。そこで、本実施形態においては、この任意の向きの振動に対応するべく、
図7(a)に示すように、平面形状が八角形の振動体5の周囲を取り囲むように複数のストッパ機構20(20A,20B,20C,20D)を設けることができる。
以上のように振動体5を取り囲むように複数のストッパ機構20を設けることで、振動体5が水平方向の異なる任意の向きに振動したとしても、いずれかのストッパ機構20に振動体5が衝突し、ストッパとしての機能を発揮することができる。例えば、振動体5が図中の右側に変位したときにはストッパ機構20Bが振動体5を受け止め、振動体5が図中の左斜め下側に変位したときにはストッパ機構20Cとストッパ機構20Dが振動体5を受け止めることで、振動体5の振動を減衰させる。
【0025】
図7(a)は、合計4つのストッパ機構20を用意することで振動体5の周囲を取り囲む例を示しているが、この数は一例に過ぎない。例えば、
図7(b)に示すように、合計8つのストッパ機構20(20A〜20H)で振動体5の周囲を取り囲むこともできる。
図7(a)、(b)ともに振動体5が同じ仕様だとすると、
図7(b)の例のほうが、各々のストッパ機構20を小さくすることができる。したがって、振動体5の周囲のスペースの問題で、単体として大きいストッパ機構20を配置できない場合には、
図7(b)の方が有利である。
しかも、上述したように振動体5が図中左斜め下方向に変位した場合に、
図7(a)の場合には2つのストッパ機構20C,20Dで振動体5を受け止めるので、各々のストッパ機構20C,20Dに作用する力は、接触部22に対して向きが傾く。これに対して、
図7(b)の場合には、振動体5が同じ方向に変位した場合に、1つのストッパ機構20Fで振動体5を受け止める。しかも、ストッパ機構20Fに作用する力は、接触部22に対して垂直である。したがって、ストッパ機構20Fにはモーメントが生じないか、生じたとしてもわずかであるから、
図7(b)に示すように配置することで、設置場所が狭い環境下においても、ストッパ機構20が適正に振動体5の振動エネルギを吸収することができる。
なお、
図7で示した複数のストッパ機構を設ける形態は、振り子型又は逆振り子型の制振装置に限らず適用できることは言うまでもない。次に説明する
図8の形態も同様である。
【0026】
以上の説明では、振動体5の衝突する面とストッパ機構20の衝突する面とが平行であることにしている。しかし、振動体5が振動(変位)してストッパ機構20に衝突する際に、振動体5が水平方向に傾いてストッパ機構20に衝突する場合もある。
この振動形態に対して好ましいストッパ機構40が
図8に示されている。
図8に示されるストッパ機構40は、水平方向に並列に配置された複数のストッパ機構40A,40B,40Cから構成されており、隣接するストッパ機構40Aとストッパ機構40Bが連結され、また、ストッパ機構40Bとストッパ機構40Cが連結されることで、3つのストッパ機構が一体化されている。各々のストッパ機構40A〜40Cは、前述したストッパ機構20のようにストッパ機構40を単体として作製するのに比べて、個々のサイズを小さくしている。
【0027】
図8(b)に示すように、振動体5が傾いてストッパ機構40に衝突する場合、仮に、最初にストッパ機構40Aが振動体5を受け止め、続いてストッパ機構40B、40Cの順に振動体5を受け止めたものとする。この際、各ストッパ機構40A〜40Cの接触部42の端部に振動体5が衝突するので、各々の振動伝達体41には反時計回りのモーメントが生じ、各々の振動伝達体41の保持部43は先端側が図中の下向きに傾く。
仮に、3つのストッパ機構40A〜40Cに小分けすることなく、ストッパ機構20を単体として作製したとする。このストッパ機構20に
図8(b)と同様に振動体5が傾いて衝突する場合、その保持部23も保持部43と同様に傾く。しかし、ストッパ機構20の振動伝達体21は、振動伝達体41よりもサイズが大きいため、保持部23の傾きは保持部43よりも大きくなる。
したがって、小型化したストッパ機構40A〜40Cを複数個連結したストッパ機構40によれば、これまで説明した効果に加えて、斜め方向への変形を抑制して各弾性減衰体45に意図した変形を与えることができるので、振動体5の振動を適切に減衰させることができる。
また、個々のストッパ機構40A〜40Cを小型化することにより、各構成部材のコスト、ストッパ機構40A〜40Cの製作コスト、あるいは、ストッパ機構40A〜40Cストッパ機構を作製する際使用する装置の規模を小さくできるため、コスト低減につながる。
【0028】
以上の例では、構造物200に対しストッパ機構40A〜40Cを水平方向に並列接続しているが、本発明は、構造物200に対し鉛直方向に並列接続させることもできる。
また、以上の例では、ストッパ機構40A〜40Cの接触部42の水平方向の位置が、無負荷の状態で、同一平面上に配置されているが、この形態に限られず、本発明は、接触部42の位置をずらして配置することもできる。
さらに、並列させる個々のストッパ機構は異なる仕様であっても構わない。
【0029】
[第3実施形態]
次に、
図9を用いて、第3実施形態を説明する。
上述した第1実施形態の制振装置1において、振動体5と接触部22が直接衝突するため、衝撃による欠損や破損が生じることが想定される。
そこで、第3実施形態のストッパ機構50では、接触部22に緩衝用バッファ31を備えることで、衝突による当該部材の欠損等を回避する。
緩衝用バッファ31の材質はその目的を達成できるものであればよく、弾性の高い材料、例えばゴム材料で構成することができる。また、緩衝用バッファ31の形態も同様であり、相当の厚みを備えることが好ましい。
【0030】
振動体5が変位してストッパ機構20の緩衝用バッファ31に衝突すると、振動体5の振動エネルギは、初めに緩衝用バッファ31に吸収される。続いて、振動伝達体21が変位すると、第1実施形態と同様にして、振動体5の振動エネルギが弾性減衰体25に吸収され、当該振動は減衰されるなどの効果を享受する。
【0031】
以上、接触部22に緩衝用バッファ31を設ける例を示すが、振動体5の側に緩衝用バッファ31を設けても、同様の効果を得ることができる。
【0032】
[第4実施形態]
振動体5の振動エネルギが過大となり、振動伝達体21を介して弾性減衰体25に限界を超える過度な変形が生じると、ストッパ機構20がその機能を果たさなくなる恐れがある。そこで、第4実施形態のストッパ機構60は、弾性減衰体25の過度な変形を防止するために、変位規制体33を設けることを特徴とするものである。
ストッパ機構60は、
図10に示すように、第3実施形態のストッパ機構50に加え、弾性減衰体25に保持される振動伝達体21の後端から所定間隔を開けて配置される変位規制体33を備える。板状の変位規制体33は、両端が一対の支持板27の各々に接続されており、支持板27と同様に金属材料から構成される。
【0033】
ストッパ機構60においては、第1実施形態と同様の効果を有するのに加えて、振動体5の振動エネルギが大きく振動伝達体21がストッパ許容変位bを超える変位をしようとしても、保持部23の後端が変位規制体33に衝突するので、ストッパ許容変位bを超える変形(変位)が弾性減衰体25に生じるのを避けることができる。したがって、ストッパ機構60は、弾性減衰体25を構成する高減衰ゴムの健全性を担保することができるので、設計段階で予め想定する外的要因のばらつきを心配することなく、ストッパ機構60における変位の許容範囲(ストッパ許容変位b)に対してロバストな評価ができる。
また、衝突した際、変位規制体33自体が変形することで振動体5の振動エネルギを吸収する効果も期待できる。
さらに、衝突後の変位規制体33の塑性変形量に基づいて、振動体5の変位量を定量的に評価できるのに加えて、ストッパ機構60の構成要素の損傷有無あるいは健全性を評価できる。
【0034】
以上の第4実施形態のストッパ機構60は、変位規制体33を保持部23の後端よりも後方に設けているが、以下説明するように、これとは異なる部位に同様の機能を発揮する部材を設けることができる。
例えば、
図11(a)に示すように、支持板27の前端に変位規制体34を設けることができる。この変位規制体34は、各々の支持板27の前端を相手側の支持板27に向けて延出した形態をなしている。この形態では、接触部22が変位規制体34に係止されることで、弾性減衰体25に過大な変形が生じるのを避けることができる。この変位規制体34も前述した変位規制体33と同様の効果を有するのに加えて、ストッパ機構60をコンパクト化できる効果を有する。つまり、変位規制体33は保持部23の後端よりも間隔を空けて配置される必要があり、当該ストッパ機構60はこの間隔を含む面積を占めることになるが、変位規制体34を支持板27の前端に設ける場合には当該間隔は必要がない。
なお、無負荷の状態における、接触部22と変位規制体34との間隔は、弾性減衰体25の許容変形量に応じて設定される。
【0035】
本発明においては、
図11(b)に示すように、変位規制体34の機能を接触部22に持たせることができる。つまり、接触部22の幅方向の寸法を一対の支持板27の間隔よりも大きくすることで、過大な変位が生じたときに接触部22を支持板27の前端に係止させても、変位規制体34を備えるストッパ機構60と同様の効果を有する。
変位規制体33(34)は、金属材料、つまり弾塑性材料のみから構成されているが、本発明では、複数の材料を複合させて同様の機能を有する弾塑性体とすることを許容する。例えば、弾性材料と薄い鋼板を積層することで弾塑性体とすることもできる。この場合、変位規制は弾性材料が受け持ちながら、変形量は薄い鋼板の塑性変形の程度から評価することができる。もっとも、本発明は、変位規制体33を弾塑性体から構成することを必須とするものではなく、弾性材料、例えば剛性の高いゴム材料のみから構成することもできる。
【0036】
ストッパ許容変位bを超える変形(変位)が弾性減衰体25に生ずるのを避けるための他の形式によるストッパ機構70を
図12に基づいて説明する。
図12に示すように、ストッパ機構70は、弾性減衰体25と支持板27の間にスライド板35が介在している点で、ストッパ機構40と相違する。スライド板35は弾性減衰体25と一体的に接合されているが、支持板27に対して所定範囲内において前後方向に摺動可能とされている。スライド板35がこの摺動運動を確保するために、ストッパ機構70は以下の構成を備えている。
まず、一対の支持板27には、前後方向及び上下方向に間隔をあけて合わせて4つの支持孔37が形成されている。支持孔37は、前後方向に沿って長径を有する長孔とされている。
一方、スライド板35には、各々の支持孔37に対応する位置に、支持ボルト38が固定されている。支持ボルト38は、図示を省略するが、支持孔37を貫通して支持板27の表側にその先端部が突出する。スライド板35は、ストッパ機構70が無負荷の状態で、支持ボルト38が支持孔37の前端縁に接触するように、配置される。突出したボルトの先端部にナットを捻じ込むことにより、スライド板35を支持板27に押し付ける。スライド板35と支持板27の間には所定の摩擦力が生じている。
【0037】
以上の構成を備えるストッパ機構70において、定常範囲の振動を超えて、振動体5が衝突すると、上述したように、弾性減衰体25は、幅方向の中央部が振動体5の変位の向きに後退する。さらに振動伝達体21を介して弾性減衰体25がストッパ許容変位bを超える変位をしようとすると、振動伝達体21を保持する弾性減衰体25は、スライド板35とともに後退する。つまり、弾性減衰体25の変位がストッパ許容変位bを超えようとするときに、スライド板35には後ろ側向きに所定の摩擦力を超える力が作用し、スライド板35が後退する。スライド板35は、支持ボルト38が支持孔37の後端縁に係止されるまで後退できる。したがって、ストッパ機構70においても、弾性減衰体25の過度な変位を抑制することができる。
また、ストッパ機構70によると、スライド板35が後退する際に支持板27との間に生じる摩擦によって、振動体5の振動エネルギを吸収できる効果もある。
さらに、支持ボルト38が止まった支持孔37の位置によって、振動体5の変位を定量的に評価できる。例えば、支持ボルト38が支持孔37の後端縁に係止されていれば、振動体5は定常範囲を可動量cだけ超えて変位したことがわかる。
【0038】
スライド板35に設ける支持ボルト38、及び、支持板27に形成する支持孔37の形態は、以上に限るものではなく、スライド板35に上述した動作を行わせることができるのであれば如何なる形態であってもよい。例えば、前後方向の2つの支持孔37を繋げて一つに集約することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上述した実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは他の構成に適宜変更することが可能である。
第1〜4実施形態では、自己復帰性能及び減衰性能を兼備する高減衰ゴムで弾性減衰体25,26,45を構成したが、本発明は、自己復帰性能と減衰性能とを個別の部材、典型的には弾性バネとダンパで構成することを許容する。