(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒアルロン酸及び/又はその塩と不純物とを含むヒアルロン酸溶液を酸性側のpHに調製した後、限外ろ過膜にて透析処理することにより不純物を除去する工程を含む、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法であって、
前記限外ろ過膜の分画分子量と限外ろ過膜による透析処理時のpHとが以下の式
pH≦−5×10−5×(分画分子量)+4.4978
を満たす条件下で限外ろ過膜による透析処理が行われる、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔用語の説明〕
本明細書における「ヒアルロン酸及び/又はその塩」と「ヒアルロン酸類」は同義であって、交換可能に使用され、遊離のヒアルロン酸、及び、本発明の目的を損なわない範囲で使用可能な任意のヒアルロン酸塩(これに限定されるものではないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩などの金属塩や、塩酸塩、リン酸塩、クエン酸塩などの酸付加物など)や水和物、それらの混合物を意味する。ここで、ヒアルロン酸とは、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とが結合した2糖単位がくりかえし連鎖してなる高分子量の多糖類をいい、各種塩は主にグルクロン酸部分が塩の形となったものをいう。ヒアルロン酸は、折り畳み可能な鎖部分と、D−グルクロン酸部分のカルボキシル基の負電荷の相互作用によって、空間に展開しやすく、これにより大量の水と結合してゲルを形成することができる。また、低濃度であっても、分子間力が強いため、比較的高い粘性を有する。このような作用から、例えば、関節の湿潤作用、皮膚の柔軟作用などを有し、生理的にもそれらの役割を担っている。
【0010】
ヒアルロン酸類の中でも、分子量約200万Daのヒアルロン酸ナトリウムは、分子量約80万Daのものに比べて医薬品として、変形性膝関節症、肩関節周囲炎、慢性関節リウマチ等の治療に優れた効果を発揮することが知られている(薬理と治療、Vol.22、No.9、289(1994);薬理と治療、Vol.22、No.9、319(1994))。また、その他に、外科手術後の癒着防止用として、さらに皮膚科領域、眼科領域においても医薬品としての効果が知られており、一部は臨床的に一般に使用されている。医薬品として用いる場合には、平均分子量が100万以上のヒアルロン酸類を用いることが望ましい。さらに、入手や取り扱いの容易さを勘案すると、平均分子量100万〜500万Daのヒアルロン酸類が医薬品としては望ましく、平均分子量150万〜400万Daのヒアルロン酸類が特に望ましい。また、このような高分子量のヒアルロン酸類は、化粧品用途として使用した際にも、その高い保湿力から優れた効果を発揮する。
本明細書における「平均分子量」について、特記しない限り、ヒアルロン酸類の平均分子量を示す際は、粘度平均分子量のことをいう。粘度平均分子量は、当業者が通常行う方法により求めることができる。好ましくは、各国の薬局方等で一般的に用いられている測定方法により求めることができ、より好ましくは、日本薬局方で用いられている測定方法により求めることができる。一例としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムが本願発明に近い平均分子量(150万〜390万)を有すると期待される場合、これに限定されるものではないが、その平均分子量は、極限粘度[η]を用いて、次式により求めることができる。
【0012】
医薬品として、ヒアルロン酸類を溶解する注射用溶解液としては、注射用水、生理食塩水等に、酸、アルカリ、リン酸塩のような緩衝剤を含むpH調整剤等を加えた一般に用いられる注射用溶解液(例えば、各国薬局方で認められているもの)を適宜使用することができる。
【0013】
これらのヒアルロン酸類は、動物組織から抽出する抽出法により製造したものでも、ヒアルロン酸生産微生物菌株を用いて発酵させて得る発酵法で製造したものでもよい。しかしながら、動物組織から抽出したものには、他のムコ多糖などの不純物が比較的多く、ヒアルロン酸類の分子量も小さいため、発酵法で得られるものを用いることが望ましい。本発明に適した発酵法の一例では、例えばストレプトコッカス属の微生物を使用して既知の方法でヒアルロン酸類を得ることができる。
発酵法により得られた発酵液を本発明の方法等に用いる場合には、既知の方法、例えば、遠心分離やろ過処理等で除菌した液を使用することが望ましい。場合によっては、アルコール等の水溶性有機溶媒を添加してヒアルロン酸を析出精製したものを使用してもよい。また、アルミナ等で処理したものを用いてもよい。
【0014】
本明細書における「ストレプトコッカス」には、ヒアルロン酸を生産することのできるストレプトコッカス(Streptococcus)属の任意の細菌・その変異株が含まれる。特に、特許文献2に記載されたストレプトコッカス・エキFM−100(微工研菌寄第9027号)、特開平2−234689号公報に記載されたストレプトコッカス・エキFM−300(微工研菌寄第2319号)のような高収率で安定にヒアルロン酸を生産する変異株を用いることが望ましい。ヒアルロン酸の生産に適したストレプトコッカス属の細菌の例としては、他に、これに限定されるものではないが、例えば、ストレプトコッカス・エキ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)、ストレプトコッカス・エキシミリス(Streptococcus equisimilis)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcusdysgalactiae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)及びこれらの変異株などが挙げられる。
【0015】
本明細書における「限外ろ過膜」とは、孔径が0.001〜0.01μmのろ過膜及び/又は分画分子量が1000〜300000程度のろ過膜を意味する。限外ろ過膜の材質は、無機膜と有機膜に大別され、さらに疎水性と親水性に分けられる。疎水性の有機膜として、これに限定されるものではないが、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。親水性の有機膜として、これに限定されるものではないが、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、酢酸セルロースなどが挙げられる。その濾材形状としては、平膜、管状膜、スパイラル膜、ホロファイバー(中空糸)膜等、あらゆるモジュール形式が含まれる。
【0016】
ろ過方式としては、全量ろ過方式とクロスフロー方式が含まれる。全量ろ過方式は膜に供給される水の全量をろ過する方式のことをいう。これに対して、クロスフロー方式は膜面に対し平行な流れを作ることで膜に供給される水に含まれる懸濁物質やコロイドが膜面に堆積する現象を抑制しながらろ過を行う方式のことをいう。クロスフロー方式には、これに限定されるものではないが、ワンパス方式、バックフラッシュ方式及びリバース方式が含まれる。ワンパス方式とは、
図1のAに示すように、限外ろ過膜からの透過液を再利用せずにろ過を行う方式のことをいう。バックフラッシュ方式とは、
図1のBに示すように、限外ろ過膜からの透過液を透過液タンクに貯蔵し、透過液タンクから限外ろ過膜へ移送し、ろ過膜表面に付着したヒアルロン酸類を洗い流す工程を含むろ過方式のことをいう。リバース方式とは、
図1のCに示すように、限外ろ過膜からの透過液を、透過液バルブを閉めて逆流させることにより、ろ過膜表面に付着したヒアルロン酸類を洗い流す工程を含むろ過方式のことをいう。
【0017】
本明細書における「不純物」とは、ヒアルロン酸類、水その他の溶媒成分、無機塩以外の物質、特に、最終製品としてのヒアルロン酸類を用いる際に不利益を与え得る物質(発熱性物質など)のことをいう。主な不純物源としては、ヒアルロン酸類の生産段階での組織、微生物又は培養液(培地)由来のもの、あるいは、その後の精製段階等で混入したものが挙げられる。本明細書における不純物の例としては、これに限られるものではないが、組織又は菌体、タンパク質、核酸、多糖類、低分子化合物、あるいはエンドトキシンなどが挙げられる。不純物としての組織又は菌体には、これに限られるものではないが、それぞれ、抽出法で用いた抽出原料としての組織由来の組織片などや、発酵法で用いた微生物の菌体あるいは菌体片などが含まれる。不純物としてのタンパク質には、これに限られるものではないが、上記組織、菌由来のタンパク質や、生産後の工程で混入したタンパク質などが含まれる。不純物としてのエンドトキシンには、これに限られるものではないが、上記菌由来のリポ多糖類などが含まれる。
【0018】
本明細書における「低分子化合物」とは、ヒアルロン酸類と比較して、分子量の比較的小さな化合物のことをいい、例えば、これに限られるものではないが、分子量2000Da以下、あるいは、分子量1000Da、あるいは分子量500Da以下の化合物のことをいう。このような低分子化合物には、各種アミノ酸、有機酸(例えば、乳酸)、糖(例えば、グルコース)などが含まれる。
【0019】
本明細書における「除去」には、対象の物質を完全に除き去ることに加え、部分的に除き去る(その物質の量を減少させる)ことも含まれる。本明細書における「精製」には、任意の又は特定の不純物を除去することが含まれる。
【0020】
本明細書におけるそれぞれの数値範囲については、「〜」で示された上限値及び下限値をそれぞれ含むものとする。
【0021】
〔実施の形態〕
本発明は、これに限られるものではないが、例えば、以下の実施態様に関する。
【0022】
実施態様1.
ヒアルロン酸及び/又はその塩と不純物とを含むヒアルロン酸溶液を酸性側のpHに調製した後、限外ろ過膜にて透析処理することにより不純物を除去する工程を含む、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。
【0023】
実施態様2.
限外ろ過膜の分画分子量と限外ろ過膜による透析処理時のpHとが以下の式
pH≦−5×10
−5×(分画分子量)+4.4978
を満たす条件下で限外ろ過膜による透析処理が行われる、実施態様1に記載の方法。
【0024】
実施態様3.
限外ろ過膜の分画分子量が25000〜35000であり、透析処理時のpHが3.3以下である、実施態様1又は2に記載の方法。
【0025】
実施態様4.
前記限外ろ過膜の分画分子量が12000〜14000であり、透析処理時のpHが3.9以下である、実施態様1又は2に記載の方法。
【0026】
実施態様
5.
前記限外ろ過膜の分画分子量が9000〜11000であり、透析処理時のpHが4.1以下である、実施態様1又は2に記載の方法。
【0027】
実施態様
6.
前記限外ろ過膜の分画分子量が6000〜8000であり、透析処理時のpHが4.2以下である、実施態様1又は2に記載の方法。
【0028】
実施態様
7.
前記限外ろ過膜の分画分子量が4000〜5000であり、透析処理時のpHが4.3以下である、実施態様1又は2に記載の方法。
【0029】
実施態様
8.
前記限外ろ過膜が疎水性有機膜である、実施態様
1ないし7の何れか一項に記載の方法。
【0030】
実施態様
9.
前記処理のろ過方式がリバース方式である、実施態様
1ないし8の何れか一項に記載の方法。
【0031】
実施態様
10.
前記処理時の透過流速が、20〜50L/m
2・hrである、実施態様
1ないし9の何れか一項に記載の方法。
【0032】
実施態様
11.
前記不純物が、菌体、タンパク質、核酸、低分子化合物、又はエンドトキシンを含む、実施態様
1ないし10の何れか一項に記載の方法。
【0033】
実施態様
12.
精製後の上記ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量が350万〜700万Daである、実施態様
1ないし11の何れか一項に記載の方法。
【0034】
実施態様
13.
前記ヒアルロン酸類溶液中のヒアルロン酸及び/又はその塩の濃度が1〜5g/Lである、実施態様
1ないし12の何れか一項に記載の方法。
【0035】
以下、本発明の態様について説明する。
【0036】
本発明の態様(例えば、実施態様1)は、ヒアルロン酸及び/又はその塩と不純物とを含むヒアルロン酸類溶液を酸性側のpHに調製した後、限外ろ過膜にて透析処理することにより不純物を除去する工程を含む、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法である。この精製方法によると、酸性側のpHに調製することにより限外ろ過膜によるろ過におけるヒアルロン酸類の損失が減少し、不純物を効率よく除去することができる。
【0037】
限外ろ過膜の分画分子量と限外ろ過膜による透析処理時のpHとが以下の式
pH≦−5×10−
5×(分画分子量)+4.4978
を満たす条件下で限外ろ過膜による透析処理が行うことにより、実質的にヒアルロン酸類を損失することなく精製することができる。上記の式を満たす限外ろ過膜の分画分子量と限外ろ過膜による透析処理時のpHとして、例えば分画分子量35000の限外ろ過膜ではpH2.7、分画分子量30000の限外ろ過膜ではpH3.0、分画分子量25000の限外ろ過膜ではpH3.3、分画分子量20000の限外ろ過膜ではpH3.5、分画分子量14000の限外ろ過膜ではpH3.8、分画分子量13000の限外ろ過膜ではpH3.9、分画分子量12000の限外ろ過膜ではpH3.9、分画分子量11000の限外ろ過膜ではpH4.0、分画分子量10000の限外ろ過膜ではpH4.0、分画分子量9000の限外ろ過膜ではpH4.1、分画分子量8000の限外ろ過膜ではpH4.1、分画分子量7000の限外ろ過膜ではpH4.2、分画分子量6000の限外ろ過膜ではpH4.2、分画分子量5000の限外ろ過膜ではpH4.3、分画分子量4000の限外ろ過膜ではpH4.3が挙げられる。
ここで、「実質的にヒアルロン酸類を損失することなく」とは、ヒアルロン酸類の損失率が3%以下(回収率が97%以上)となることをいう。
【0038】
分画分子量の高い膜を使用するとヒアルロン酸類が限外ろ過膜を透過して損失が起こるリスクが高くなる一方、分画分子量の低い膜を使用するとタンパク質等の比較的高分子の不純物の除去効率が低下する。上記実施形態の方法によると、分画分子量の高い膜を使用しても、分画分子量の低い膜を使用しても、膜の分画分子量に適したpHに調整することでヒアルロン酸類を損失せずに不純物を除去できることから、上記態様の方法において用いる限外ろ過膜の分画分子量は、特に限定されるものではない。例えば25000〜35000の分画分子量を有する限外ろ過膜を用いる場合、pHを3.3以下に調整することでヒアルロン酸類を損失せずに精製することができる。12000〜14000の分画分子量を有する限外ろ過膜を用いる場合、pHを3.9以下に調整することでヒアルロン酸類を損失せずに精製することができる。9000〜11000の分画分子量を有する限外ろ過膜を用いる場合、pHを4.1以下に調整することでヒアルロン酸類を損失せずに精製することができる。6000〜8000の分画分子量を有する限外ろ過膜を用いる場合、pHを4.2以下に調整することでヒアルロン酸類を損失せずに精製することができる。4000〜5000の分画分子量を有する限外ろ過膜を用いる場合、pHを4.3以下に調整することでヒアルロン酸類を損失せずに精製することができる。
【0039】
ここで、限外ろ過膜の分画分子量は、表1に示したような指標物質を用いてろ過を行い、それぞれの阻止率が90%に相当する分子量を調べることにより決定することができる。
【表1】
【0040】
上記態様の方法において用いる限外ろ過膜の材質は、特に限定されるものではないが、不純物の除去の観点からは、疎水性有機膜が望ましく、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに望ましい。
【0041】
上記態様の方法において用いる限外ろ過膜として、例えば、PM−10、PM−50、PM−100(Koch社製)、NTU−3050(日東電工社製)、IRIS3065(ローヌ・プラン社製)、FS−10(旭化成社製)、MU−6303(クラレ社製)、DUSO400(ダイセル化学工業社製)、SLP−3053(旭化成ケミカルズ社製)等が使用できるが、これらに制限されるものではない。
【0042】
上記態様の方法におけるろ過方式は、特に限定されるものではないが、水の膜透過流速が安定化しやすいこと、ろ過膜の寿命が延長することなどから、クロスフロー方式が望ましく、中でもリバース方式が特に望ましい。
【0043】
上記態様の方法において、ヒアルロン酸類溶液の限外ろ過膜処理時における透過流速は、ヒアルロン酸類溶液の性状や限外ろ過膜の種類により異なり一律に規定する事ができないが、例えば、工業的規模でのヒアルロン酸類の精製においては20L/m
2・hr以上であることが望ましく、25L/m
2・hr以上であることがさらに望ましく、30L/m
2・hr以上であることが特に望ましい。ヒアルロン酸類がせん断され、分子量の低下が起こることから、ヒアルロン酸類溶液のろ過における透過流速は、100L/m
2・hr以下であることが望ましく、50L/m
2・hr以下であることがさらに望ましい。
【0044】
上記態様の方法において、送液のための圧力についての限定はないが、一般に加圧にてろ過膜を通過させることが好ましい。特に加圧はポンプなどで送る方法が好ましい。送液時にポンプで圧力をかけるにあたり、ろ過膜を破損したり目詰まりさせたりして性能を劣化させない限り、特に限定されない。ろ過膜にかかる圧力としては、0.01MPa以上0.30MPaが好ましく、さらに0.03MPa以上0.20MPaが好ましく、0.05MPa以上0.10MPaが特に好ましい。
【0045】
さらに、上記態様の方法によると、精製時におけるヒアルロン酸類の分子量の低下を低減させることができ、特に、高分子量(例えば、精製後の平均分子量が350万〜700万Da)のヒアルロン酸類の精製において、優れた効果を発揮する。また、従来は処理が困難であった比較的高濃度(例えば、0.1〜20g/L、0.5〜15g/L、1〜10g/L)のヒアルロン酸類溶液についても、効率的に処理することができる。
【0046】
また、上記態様の方法によると、ヒアルロン酸類の消失は低く抑えながらも、不純物として、一般的に限外ろ過膜により除去可能とされる低分子化合物(例えば、アミノ酸、糖、有機酸)のみならず、高分子化合物(例えば、核酸、エンドトキシン、タンパク質)までも効率的に分離・除去することが可能であった。また、上記態様の方法は、核酸、エンドトキシン及び/又はタンパク質の除去にも優れた効果を発揮する。
【0047】
上記態様の方法を用いる際のヒアルロン酸類溶液のヒアルロン酸類濃度は、溶液粘度の高さに起因する取り扱いの困難さ及びヒアルロン酸類の溶解度の観点からは、これに限定されるものではないが、0.1〜20g/Lが望ましく、1〜10g/Lが最も望ましい。
【0048】
また、上記態様の方法において、ヒアルロン酸類溶液の粘度を下げる目的で、ヒアルロン酸類溶液に塩化ナトリウム等の塩類を共存させることもできる。この場合、精製効果が損なわれないように、高濃度の塩の共存は避けることが望ましい。このような塩の共存の具体例としては、0.1〜5重量%の塩化ナトリウムをヒアルロン酸類溶液に添加することが挙げられる。
【0049】
上記態様の方法を用いる際のヒアルロン酸類溶液の温度は、これに限定されるものではないが、0〜80℃であることが望ましい。温度が80℃以下であれば、処理中のヒアルロン酸類の分解及び分子量の低下を、強く抑えることができる。
【0050】
また、限外ろ過透祈処理を行うにあたり、膜前処理として、2%以下のアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)、過酸化物(例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液)、界面活性剤、クエン酸、クエン酸アンモニウム・酵素洗剤等の薬剤で膜を洗浄処理する化学的方法や、フラッシング、スポンジボール、空気インジェクション法等の物理的方法により行うことが望ましい。
【0051】
本発明の更なる態様は、上記第一の態様において、上述の工程とは別に、ヒアルロン酸類溶液を無機吸着剤、有機吸着剤及び/又は活性炭と接触させる工程をさらに含んでもよい。
【0052】
また、その後に必要となる分離・精製工程等を考慮すると、追加の精製工程を必要とする成分の混入を避けることが望ましい。すなわち、新たな不純物の混入を避けるための、本発明の他の態様は、上記第一の態様において、ヒアルロン酸類溶液の限外ろ過後に無機吸着剤又は有機吸着剤と接触させる工程を含まない精製方法である。本発明の更なる態様では、上記第一の態様において、ヒアルロン酸類溶液を、無機吸着剤又は有機吸着剤と接触させる工程を含まない。本発明においては、限外ろ過でも十分な精製効果を奏することが可能であるため、新たな不純物の混入を避けることを重視する場合には、限外ろ過単独で処理することが望ましい。もちろん、この場合も、限外ろ過とは別に、他の精製処理等の工程を行うことはできる。
【0053】
また、本発明の更なる態様では、上記態様において、ヒアルロン酸類がストレプトコッカス・エキFM−100(微工研条寄第9027号)あるいはストレプトコッカス・エキFM−300(微工研条寄第2319号)により生産される。これらの微生物により生産されたヒアルロン酸類を精製対象として用いることで、より不純物が少なく、高分子量のヒアルロン酸類精製物を得ることができ、特に医薬として用いる際には優れた効果を発揮する。
【0054】
上記態様の精製方法を用いることで、ヒアルロン酸類の分離・精製工程の負荷を軽減することができるため、上記態様に関する精製方法は、製造の工業的なプロセスの比較的初期段階で用いることが特に有効的である。
【0055】
なお、上記実施態様、態様により説明される精製方法等は、本発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるものであり、当業者は、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲において種々の設計的変更が可能である。
【0056】
例えば、上記精製方法は、更なる他の工程を含むか、あるいは、上記精製方法に引き続いて更なる他の工程・方法が実施され、ヒアルロン酸類等を製造する方法であってもよい。そのような工程・方法としては、例えば、ヒアルロン酸生産微生物菌株を培養する工程、ヒアルロン酸産生微生物菌株培養液から培養濾液を製造する工程、精製対象液を遠心分離する工程、対象液を中和する工程、精製対象液を精密ろ過する工程、対象液を透析処理する工程、精製対象液に芳香族系吸着樹脂を加えて攪拌及びろ過する工程、対象液をクロマトグラフィーで精製する工程、活性炭を対象液から分離する工程、活性炭を対象液から除去する工程、有機溶媒を加えてヒアルロン酸類を沈殿させる工程、ヒアルロン酸類を結晶化する工程、ヒアルロン酸類を乾燥させる工程などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
実施例1
ストレプトコッカス・エキFM−100(微工研寄第9027号)を用いて培養した培養液45Lを純水で80Lに希釈し(ヒアルロン酸ナトリウム濃度2.0g/1)、遠心分離で菌体を除いた。得られた粗製ヒアルロン酸をpH2.9に調整した後、分画分子量30000材質ポリスルフォンの限外ろ過膜(Koch社製・PM−100)2m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍希釈操作を繰り返し透析回数10回、リバース方式で処理した。得られた液80Lに食塩2.4kgを溶解し、pH7に調整後エタノール240Lで析出、エタノール8Lで洗浄し、40℃で真空乾燥してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0059】
実施例2
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH2.9に調整した後、分画分子量30000材質ポリエーテルスルフォンの限外ろ過膜(旭化成社製・FS−10)5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透祈回数11回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分折結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0060】
実施倒3
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.3に調整した後、分画分子量20000材質ポリスルフォンの限外ろ過膜(日東電工社製・NTU−3050)3m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数8回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸ナトリウムの回収率を表2に示す。
【0061】
実施例4
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH2.9に調整した後、分画分子量30000材質ポリフッ化ビニリデンの限外ろ過膜(ローヌ・プラン社製・IRIS3065)5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数9回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理してヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸ナトリウムの回収率を表2に示す。
【0062】
実施例5
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH2.7に調整した後、分画分子量40000材質ポリエーテルスルフォンの限外ろ過膜(ダイセル化学工業社製・DUSO400)5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数11回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、150gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。分析結果、及びヒアルロン酸ナトリウムの回収率を表2に示す。
【0063】
実施例6
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.7に調整した後、分画分子量13000材質ポリスルフォンの限外ろ過膜(クラレ社製・MU−6303)5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数11回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸ナトリウムの回収率を表2に示す。
【0064】
実施例7
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.7に調整した後、分画分子量10000材質ポリスルフォンの限外ろ過膜(旭化成ケミカルズ社製・SLP−3053)4.5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数11回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸ナトリウムの回収率を表2に示す。
【0065】
比較例1
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH5.5に調整した後、分画分子量10000材質ポリスルフォンの疎水性限外ろ過膜(Koch社製・PM−10)2m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍希釈操作を繰り返し透析回数15回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0066】
比較例2
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.6に調整した後、分画分子量20000材質酢酸セルロースの親水性限外ろ過膜(DDS社製・CA600PP)4.5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数10回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0067】
比較例3
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.3に調整した後、分画分子量20000材質酢酸ポリイミドの親水性限外ろ過膜(日東電工社製・NTU−4220)5m
2にて透過流速30L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数9回、リバース方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0068】
比較例4
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.7に調整した後、分画分子量13000材質酢酸ポリスルフォンの疎水性限外ろ過膜(クラレ社製・MU−6303)5m
2にて透過流速5L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数11回、ワンパス方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0069】
比較例5
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸をpH3.7に調整した後、分画分子量13000材質酢酸ポリスルフォンの疎水性限外ろ過膜(クラレ社製・MU−6303)5m
2にて透過流速15L/m
2・hr、容積比2倍濃縮、等倍純水希釈を繰り返し透析回数11回、バックフラッシュ方式で処理した。得られた液は実施例1と同様に処理し、ヒアルロン酸ナトリウムを得た。分析結果、及びヒアルロン酸回収率を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
測定方法
(1)核酸含量:0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの260nmにおける吸光度を測定した。
(2)タンパク質含量:ヒアルロン酸ナトリウムを0.1N水酸化ナトリウムに溶解し、ローリー法で行った。
(3)乳酸:ヒアルロン酸ナトリウムを、0.1%の濃度に溶解し、L−LDH法にて行った。
(4)金属:ヒアルロン酸ナトリウムを、0.05%の濃度に8N硝酸に溶解し、ICP発光分光分析を行った。
(5)極限粘度:ヒアルロン酸ナトリウムを、0.02%の濃度に0.2M塩化ナトリウムに溶解し、30℃における極限粘度を測定した。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例8
実施例1で用いた粗製ヒアルロン酸を、様々な分画分子量を有するポリスルフォンの疎水性限外ろ過膜を用いて以下の条件で精製し、限外ろ過時のpHとヒアルロン酸の回収率との関係を調べた。
HA溶液条件
HA濃度:2g/L
分子量:440万 (極限粘度:55dL/g)
ろ過条件
線速:1m/s
透過流速:30L/(m
2・hr)
濃縮:2倍濃縮
温度:25℃
【0074】
限外ろ過時のpHとヒアルロン酸回収率との関係を示すグラフを
図2に示す。また、各分画分子量の膜について、限外ろ過時のpHとヒアルロン酸損失率との関係を示す式1〜5が得られた。下記式1〜5を用いて、各分画分子量の限外ろ過膜におけるヒアルロン酸類の損失が実質的に起こらないpHを算出し、そのpHの範囲内(至適pH)で限外ろ過による精製を行うことで、ヒアルロン酸類を損失することなく精製することができる。
分画分子量30,000の限外ろ過膜を用いた場合
(式1)ヒアルロン酸類の損失率(%)=44.86×(限外ろ過時のpH)−131.79
(至適pH≦2.9)
分画分子量13,000の限外ろ過膜を用いた場合
(式2)ヒアルロン酸類の損失率(%)=40.84×(限外ろ過時のpH)−86.92
(至適pH≦3.7)
分画分子量10,000の限外ろ過膜を用いた場合
(式3)ヒアルロン酸類の損失率(%)=24.36×(限外ろ過時のpH)−97.19
(至適pH≦4.0)
分画分子量7,000の限外ろ過膜を用いた場合
(式4)ヒアルロン酸類の損失率(%)=7.09×(限外ろ過時のpH)−29.02
(至適pH≦4.1)
分画分子量5,000の限外ろ過膜を用いた場合
(式5)ヒアルロン酸類の損失率(%)=0.79×(限外ろ過時のpH)−2.01
(至適pH≦4.2)
【0075】
ヒアルロン酸類の損失率が3%以下となるpHと限外ろ過膜の分画分子量との関係を
図3に示す。また、ヒアルロン酸類の損失率が3%以下となるpHと限外ろ過膜の分画分子量との関係は以下の式6を満たすことが明らかとなった。
(式6)ヒアルロン酸類の損失率が3%以下となるpH=−5×10
−5×(分画分子量)+4.4978
式6を用いることで、限外ろ過膜の分画分子量に対する至適pHの上限を求めることができ、至適pHで限外ろ過膜による透析を行うことにより、損失率3%以下でヒアルロン酸類を精製することができる。
【0076】
以上の実験から、本発明に係る精製方法を用いると、ヒアルロン酸類溶液から、不純物を効果的に除去し、高分子量のヒアルロン酸類を精製できることが確認された。
【0077】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。