(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714069
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】フッ素含有及び貴金属含有製品の熱処理のための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20150416BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20150416BHJP
B01D 53/14 20060101ALN20150416BHJP
B01D 53/68 20060101ALN20150416BHJP
B01D 53/77 20060101ALN20150416BHJP
C22B 7/00 20060101ALN20150416BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B11/00 101
!B01D53/14 CZAB
!B01D53/34 134D
!C22B7/00 A
!C22B7/00 C
!C22B7/00 F
!C22B7/00 B
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-171148(P2013-171148)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2014-40662(P2014-40662A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】10 2012 016 420.3
(32)【優先日】2012年8月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512069429
【氏名又は名称】ヘレーウス プレシャス メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Precious Metals GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ホセ マヌエル ロメロ
(72)【発明者】
【氏名】ホアスト マイアー
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン フォス
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−161129(JP,A)
【文献】
特開2011−212530(JP,A)
【文献】
特開2005−231984(JP,A)
【文献】
特開2007−263554(JP,A)
【文献】
特開昭60−003864(JP,A)
【文献】
特許第2684171(JP,B2)
【文献】
特表2008−511752(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0129996(US,A1)
【文献】
特開2008−036569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00−11/12
C22B 7/00
C22B 1/00
B01D 53/14
B01D 53/34−53/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理チャンバ(1)の内側における耐火性断熱ライニングを有する熱処理チャンバ(1)と、排ガス浄化システムとを備え、前記耐火性断熱ライニングは、85質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)含有率を有し、前記排ガス浄化システムは、少なくとも1つの、黒鉛から形成された二重壁設計の酸スクラバ(3)と、少なくとも1つのアルカリスクラバ(5)とを有することを特徴とする、フッ素含有材料から貴金属を濃縮するための灰化プラント。
【請求項2】
前記排ガス浄化システムは、少なくとも1つの熱後灰化チャンバ(2)をさらに有する、請求項1記載の灰化プラント。
【請求項3】
前記少なくとも1つの熱後灰化チャンバ(2)の内部に、85質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)含有率を有する耐火性断熱ライニングが設けられている、請求項2記載の灰化プラント。
【請求項4】
前記熱処理チャンバ(1)から排ガスを案内するための排ガス導管(6)をさらに備え、該排ガス導管(6)の内部に、85質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)含有率を有する耐火性断熱ライニングが設けられている、請求項1から3までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項5】
前記耐火性断熱ライニングは、88質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)含有率を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項6】
前記熱処理チャンバ(1)、前記後灰化チャンバ(2)及び前記排ガス導管(6)は同じ又は異なる断熱ライニングを有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項7】
前記熱処理チャンバ(1)、前記後灰化チャンバ(2)及び/又は前記排ガス導管(6)はさらに外側ライニングを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項8】
前記外側ライニングは、鉱物繊維である、請求項7記載の灰化プラント。
【請求項9】
黒鉛から形成された二重壁設計の酸スクラバ(3)は、水冷システムを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項10】
前記排ガス浄化システムは、黒鉛から形成された少なくとも1つの、酸スクラバとしての単一壁スクラバ(4)を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項11】
前記アルカリスクラバ(5)は、内側において、プラスチック材料から形成されたコーティングを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項12】
前記コーティングは、ポリプロピレンから形成されている、請求項11記載の灰化プラント。
【請求項13】
制御ユニットをさらに備える、請求項1から12までのいずれか1項記載の灰化プラント。
【請求項14】
フッ素及び貴金属を含有する材料を熱処理する方法であって、85質量%以上の酸化アルミニウム(Al2O3)含有率を有する耐火性断熱ライニングを有する熱処理チャンバ(1)における材料の熱処理と、該熱処理中に発生した排ガスの浄化とを含み、該浄化は、以下の順序で以下のステップ、すなわち、
a)後灰化チャンバ(2)における熱後灰化、
b)水及び/又は酸による排ガスのスクラビング、及び
c)塩基による排ガスのスクラビング、
を含み、
ステップb)は、以下の2つのステップ、すなわちb1)二重壁黒鉛スクラバ(3)における排ガスのスクラビング及び同時冷却、その後のb2)単一壁黒鉛スクラバ(4)における排ガスのスクラビング、を含むことを特徴とする、フッ素及び貴金属を含有する材料を熱処理する方法。
【請求項15】
ステップb)において得られた塩が濃縮されたスクラビング水を、副流として周期的に又は継続的に排水処理プラントに供給する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記排ガスは、少なくとも10以上のpHを有する塩基によってステップc)において浄化される、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記排ガスは、少なくとも11以上のpHを有する塩基によってステップc)において浄化される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
5質量%までのフッ素含有率を有する材料が、熱処理に曝される材料として使用される、請求項14から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
有機フッ素材料、PTFEフィルム、燃料電池、触媒及び/又はペーストが、熱処理に曝される材料として使用される、請求項14から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
5質量%までのフッ素含有率を有する材料を灰化するための、請求項1から13までのいずれか1項記載の灰化プラントの使用。
【請求項21】
有機フッ素材料、PTFEフィルム、除草剤、燃料電池、触媒及び/又はペーストを灰化するための、請求項1から13までのいずれか1項記載の灰化プラントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属の他にフッ素も含有する貴金属含有製品の熱処理のための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば触媒又は燃料電池などの貴金属含有製品から貴金属を回収するための様々な方法が確立されてきた。湿式冶金法において、触媒の貴金属含有層は、強い酸又は塩基によってセラミック支持体から溶解させられる。その後、例えば析出反応によって溶液から貴金属が分離される。
【0003】
高温冶金法において、貴金属の分離は、冶金プロセスにおいて貴金属含有製品を溶融させることによって進行する。セラミック部分は、スラグ相に移行させられかつタップされ、貴金属は、コレクタ金属に合金化され、コレクタ金属も、次いで、タップされ、さらに処理される。
【0004】
独国特許第3134733号明細書及び国際公開第99/037823号に記載されているように、貴金属含有スラッジ及び多元素廃棄材料の直接的な灰化も知られている。このように得られた貴金属含有灰は、次いで、貴金属を回収するために浸出させられる。
【0005】
熱的な再処理において、貴金属の他にフッ素も含有する貴金属含有製品は、問題であることが証明された。これらの製品の熱処理は、フッ化水素ガスHFを発生する。前記ガスは、周囲空気における水と反応し、フッ化水素酸を発生する。
【0006】
慣用の熱再処理プラント、特に灰化プラントは、熱処理チャンバと、排ガス浄化システムとを有する。熱処理チャンバは、炉の構成部分であり、例えば粘土質れんが又はラミング質量から形成された断熱ライニングが設けられている。これらは、組成が異なる。しかしながら、全ての断熱ライニングは、特に、二酸化ケイ素SiO
2(ガラス)及び酸化カルシウムCaOを含む。これらの成分は、発生した少量のフッ化水素酸及びフッ化水素によってさえも攻撃され、これにより、断熱ライニングから溶出させられ、これは、炉、ひいてはプラントの寿命を短縮する。
【0007】
フッ化水素ガスに関連した別の問題は、支持外側鋼製シェルにおけるフッ化水素酸の凝縮である。これらは、灰化プラントの構成部材の成形及び機械的荷重支持フレームである。フッ化水素ガスは、断熱ライニングにおける孔を通じて拡散することができ、鋼製シェルの領域において、周囲空気の水と反応してフッ化水素酸を発生する。鋼製シェルにおけるフッ化水素酸の凝縮は、鋼製シェルを腐食させ、これは、プラント全体を不安定にする。
【0008】
HFの発生が防止される方法は、欧州特許出願公開第1478042号明細書に開示されている。この方法では、燃料要素及び触媒の成分は、無機添加物と混合される。その後の熱処理プロセスにおいて、フッ化水素及びその他のフッ素成分は、添加物によって吸収され、化学的に結合される。この目的のために、100倍を超える添加物が、発生されるフッ化水素ガスに添加される。しかしながら、低温においてすでにフッ化水素を放出し、僅かなフッ化水素ガスを逃がす材料の場合、添加物における吸収は不十分又は遅すぎることが分かった。さらに、添加物は、灰化スペースの体積の一部分を占め、これにより、処理することができる材料の量が減じられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第3134733号明細書
【特許文献2】国際公開第99/037823号
【特許文献3】欧州特許出願公開第1478042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、貴金属に加えてフッ素を含有する貴金属含有製品の熱再処理用のプラントを提供することである。本発明によるプラントは、含有される材料の揮発性にかかわらず、全てのフッ素含有製品が再処理されることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の別の課題は、フッ素含有材料から貴金属を濃縮する方法を提供することである。
【0012】
第1の実施の形態は、熱処理チャンバ(1)の内側における耐火性断熱ライニングを有する熱処理チャンバ(1)と、排ガス浄化システムとを備え、耐火性断熱ライニングは、フッ化水素酸に対して耐性であり、排ガス浄化システムは、少なくとも1つ以上の酸スクラバ(2,4)と、少なくとも1つのアルカリスクラバ(5)とを有する、フッ素含有材料から貴金属を濃縮するための灰化プラントによって、本発明の基礎となる課題を解決する。
【0013】
本発明の別の主体は、熱処理チャンバ(1)の内側における耐火性断熱ライニングを有する熱処理チャンバ(1)と、排ガス浄化システムとを備え、耐火性断熱ライニングは、85質量%以上の酸化アルミニウム含有率を有し、排ガス浄化システムは、少なくとも1つ以上の酸スクラバ(3,4)と、少なくとも1つのアルカリスクラバ(5)とを有する、フッ素含有材料から貴金属を濃縮するための灰化プラントである。
【0014】
さらに、本発明による排ガス浄化システムは、好適には、少なくとも1つ以上の熱後灰化チャンバ(2)を有する。好適には、排ガス浄化システムは、1つの後灰化チャンバ(2)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明による灰化プラントの概略図を示す。図面は、2つの酸スクラバ(3,4)を有する好適な実施の形態を示す。
【0017】
熱処理チャンバ(1)は、処理される材料が導入される炉の構成部分である。この目的のために、熱処理チャンバ(1)は、対応する材料を導入するための開口を有する。本発明によれば、熱処理チャンバ(1)は、理論量未満の量で又は過剰な空気とともに作動させることができる。熱処理チャンバ(1)の内部は、フッ素含有及び貴金属含有材料の灰化用の装置を有することができる。これは、例えば、固体材料の灰化用のトラフの収容のための火格子に関する。液体材料を、熱処理チャンバ(1)に導入することができ、トラフにおいてバッチごとに、又は対応する計量供給設備によって連続的に、熱処理チャンバにおいて灰化させることができる。
【0018】
熱処理チャンバ(1)の内部の温度は通常約800℃である。これに関し、耐火性断熱ライニングは、この連続的な温度において安定しているように設計されている。さらに、耐火性断熱ライニングは、約2000℃のピークに達する温度にも耐える。本発明によれば、直接的又は間接的に熱処理チャンバ(1)を加熱することが可能である。従来技術に従って公知の全ての加熱手段、例えばガス及びオイル加熱又は電気加熱が可能である。
【0019】
本発明によれば、酸スクラバ(3,4)は、スクラビング段階であり、ここで、熱処理チャンバ(1)からの排ガスは、水、又は洗い出されたフッ化水素ガスによって酸性化させられた水によって、浄化される。本発明によれば、アルカリスクラバ(5)は、排ガスがアルカリ性作用物質によって浄化されるようなスクラビング段階である。
【0020】
本発明による灰化プラントにおける熱処理チャンバ(1)においてフッ素含有材料を加熱することは、フッ化水素ガスを含有する排ガスを発生する。熱処理チャンバ(1)は、フッ化水素酸に耐性の断熱ライニングで被覆されているので、チャンバは排ガスによって攻撃されない。本発明による排ガス浄化システムにおいて、排ガスは、まず、熱後処理チャンバ(2)において熱的な再処理を受け、次いで、既に形成された全てのフッ化水素又はフッ化水素酸が、酸及びアルカリスクラビング段(3,4,5)において除去され、これにより、排ガスは無害となり、例えば煙突によって外部へ案内することができる。
【0021】
本発明による灰化プラントは、排ガスから例えばすす、塩素又は窒素ガスを除去するために、別の浄化段又は排ガス浄化用の清浄剤を提供することができる。関連する清浄剤又は清浄段が従来技術に説明されている。
【0022】
本発明によれば、フッ化水素酸に耐性の断熱ライニングは、フッ化水素ガス及びフッ化水素酸の両方に対して耐性である。
【0023】
貴金属含有及びフッ素含有材料は、熱処理チャンバ(1)に配置される。熱処理中に熱処理チャンバ(1)において発生された排ガスを、まず熱後灰化チャンバ(2)内へ案内することができる。好適には、前記チャンバにも、フッ化水素酸に耐性の耐火性断熱ライニングが提供されている。さらに、灰化プラントは、熱処理チャンバ(1)から排ガスを案内するための排ガス導管(6)を有する。好適には、前記排ガス導管(6)の内部にも、フッ化水素酸に耐性の耐火性断熱ライニングが提供されている。
【0024】
熱処理チャンバ(1)、排ガス導管(6)、及び設けられていることが好ましい後灰化チャンバ(2)は、灰化プラントの構成部材であり、酸スクラバ及びアルカリスクラバ(3,4,5)において排ガスからフッ化水素ガスが除去される前に、前記灰化プラントを排ガスが流過する。フッ化水素酸に耐性の耐火性断熱ライニングを備えた熱処理チャンバ(1)、後灰化チャンバ(2)及び排ガス導管(6)を提供することは、本発明による灰化プラントの寿命を延長する。なぜならば、これらの構成部材は、フッ化水素酸又はフッ化水素ガスによって攻撃され得ないからである。
【0025】
本発明の耐火性断熱ライニングは、ラミング質量であることができる。前記ラミング質量は、好適には、85質量%以上、特に88質量%以上の酸化アルミニウム(Al
2O
3)を有する。前記断熱ライニングは、作動温度及び約800℃の継続的な温度において安定している。しかしながら、断熱ライニングは、約2000℃の最高温度にも耐える。
【0026】
ラミング質量は、通常、酸化アルミニウムに加えて二酸化ケイ素(SiO
2)及び/又は酸化カルシウム(CaO)を含有する。これらの成分は、慣用の耐火性断熱ライニングにも存在する。これらは、フッ化水素酸によって溶解させられ、これは断熱ライニングを破壊する。
【0027】
驚くべきことに、ラミング質量に存在する85質量%以上、特に88質量%以上の酸化アルミニウム割合が、フッ化水素酸耐性を提供するのに十分であることが分かった。本発明によるラミング質量は、酸化アルミニウムに加えて、別の成分として酸化カルシウム及び酸化ケイ素の様々な割合を含有することもできる。15質量%、特に12質量%までのラミング質量の酸化カルシウム及び/又は酸化ケイ素割合にもかかわらず、ラミング質量は、フッ化水素酸によって攻撃されない。これに関して、酸化カルシウム及び/又は酸化ケイ素の相対的な含有率、又は互いに対するそれらの比は無関係である。さらに、対応するラミング質量は、容易に処理され、熱処理チャンバ(1)、排ガス導管(6)及び後灰化チャンバ(2)の内壁に容易に適応する。
【0028】
これに関して、本発明によれば、熱処理チャンバ(1)、後灰化チャンバ(2)及び排ガス導管(6)は同じ又は異なる断熱ライニングを有することが可能である。
【0029】
好適には、熱処理チャンバ(1)、後灰化チャンバ(2)及び/又は排ガス導管(6)はさらに外側ライニングを有する。外側ライニングは、従来技術に従って公知の材料を使用して提供することができる。好適には、外側ライニングは鉱物繊維である。外側断熱材は、鋼板によって包囲されている。鋼板は、外側断熱材を所定の位置に固定し、灰化プラントの構成部材の安定化及び成形のために機能する。
【0030】
フッ素含有製品の灰化中の1つの問題は、支持する外側鋼製シェルの領域における腐食を生じるフッ化水素酸の発生である。フッ化水素ガスHFが孔を通じて拡散し、反応スペースにおける耐熱性断熱ライニングの背後の空間に達すると、フッ化水素ガスは、外側鋼構造物に達し、その一部は荷重を支持している。フッ化水素ガスは、周囲空気の水分と反応することができ、この位置にフッ化水素酸を形成する。フッ化水素酸は、38.2%のHFの濃度で水との共沸混合物を形成し、共沸混合物の沸点は112℃である。フッ化水素酸が鋼壁部において凝縮すると、フッ化水素酸は鋼壁部を腐食させる。
【0031】
外側断熱材を有することの効果は、鋼シェルにおける、すなわちプラント構成部分の外側鋼壁部における温度が120℃未満に低下しないということである。これに関して、外側断熱材の厚さは、灰化プラントの対応する構成部分の内側における温度分布に関連する。フッ化水素酸の凝縮は120℃の温度では生じない。従って、フッ化水素ガスが、耐火性断熱ライニングを通って外部に向かって拡散するとしても、荷重支持鋼構造物に対する腐食損傷は予想されない。
【0032】
本発明によれば、熱処理チャンバ(1)、排ガス導管(6)及び後灰化チャンバ(2)における断熱材の厚さは異なることができる。しかしながら、全ての構成部材の断熱材の厚さが等しいことも可能である。従って、熱処理チャンバ(1)、排ガス導管(6)及び後灰化チャンバ(2)は、例えば、約10cmの厚さで鉱物繊維から形成された外側断熱材を有することができる。
【0033】
好適な実施の形態において、熱処理チャンバ(1)は、内側において耐火性断熱ライニングを有し、この場合、チャンバの壁部に断熱ライニングを加えた厚さは約30cmであり、さらに約10cmの厚さの外側断熱材を有する。
【0034】
本発明によれば、灰化プラントは、好適には、二重壁設計を備えた、黒鉛から形成された少なくとも1つのスクラバ(3)を有する。前記二重壁スクラバ(3)は、好適には、冷却システム、特に水冷システムを有する。スクラバ(3)は、外側シェルとして鋼板を有することができる。二重壁スクラバ(3)は、冷却材を供給及び排出するための弁を有する。
【0035】
冷却材、例えば水は、外側黒鉛壁と外側シェルとの間を流れる。これは、スクラビング媒体及び黒鉛壁を介する排ガスからの熱の間接的な放散につながる。
【0036】
水は、冷却材として特に適していることが証明された。水は、安価であり、取り扱いやすい。さらに、排ガスに曝されても、望ましくない化学反応が生じる危険性がない。
【0037】
黒鉛壁の厚さは、好適には、3cm〜4cmである。この厚さは、十分な温度及び酸安定性を維持するために十分であることが分かった。
【0038】
水は、排ガスのためのスクラビング剤として二重壁スクラバ(3)に流入する。水は、排ガスにおけるフッ化水素ガスHFと反応し、フッ化水素ガスHFをスクラビングによって除去する。塩の形態でフッ化水素ガスを含有するスクラビング水は、次いで、収集され、廃棄される。
【0039】
黒鉛は、耐酸性のみならず、耐熱性をも特徴とする。排ガスは、熱後灰化チャンバ(2)又は熱処理チャンバ(1)から酸スクラバ内へ流れる。前記排ガスの温度は1000℃に達する。黒鉛の耐熱性はこれに関して十分であることが分かった。
【0040】
好適には、本発明による排ガス浄化システムは、さらに、少なくとも1つの、黒鉛から形成された単一壁スクラバ(4)を含む。このスクラバも、外側シェル用の鋼板を有する。好適には、黒鉛壁の厚さは3cm〜4cmである。
【0041】
好適な実施の形態において、排ガス浄化システムは、黒鉛から形成された二重壁スクラバ(3)と、黒鉛から形成された単一壁スクラバ(4)とを有する。この実施の形態は
図1に示されている。両方の酸スクラバ(3,4)は、この好適な実施の形態において円筒形であり、1mを超える内径を有する。排ガスは、約4m以上の全高にわたってスクラビング水と接触し、このプロセスにおいて浄化される。スクラビング水は、通常、上方からスクラバに流入し、これにより、排ガスは、スクラバの上側の領域において水によって浄化される。このプロセスにおいて、排ガスは、排ガスがより下側の領域において、酸、すなわちフッ化水素酸割合を含有する水によって浄化されるという意味で、フッ化水素ガスの濃度が高くなる。これに関して、上側及び下側という用語は、
図1にも示された空間的配列をいう。
【0042】
第1の二重壁スクラバ(3)において、フッ化水素ガスの少なくとも大部分又は全ては、水によって排ガスから浄化除去される。さらに、排ガスは冷却もされる。第2の単一壁スクラバ(4)において、依然として存在することがあるフッ化水素ガスは、結合され、これにより、排ガスから除去される。排ガスのさらなる冷却は不要である。
【0043】
本発明の灰化プラントはさらに、アルカリスクラバ(5)を有する。排ガスは、ほとんど又は全てのフッ化水素が除去された後、少なくとも1つの酸スクラバ(3,4)から前記アルカリスクラバへ案内される。アルカリスクラバ(5)は、アルカリスクラビング水、及び排ガスに依然として存在することがあるフッ化水素ガスのあらゆる痕跡に対して耐性のコーティングを内側に有することができる。特に、コーティングは、少なくとも10以上、特に少なくとも11以上のpHを有する塩基に曝されたときに安定している。好適には、アルカリスクラバ(5)は、内側において、プラスチック材料から形成された、特にポリプロピレンから形成されたコーティングを有する。アルカリスクラバの外側シェルは、鋼から成ることができる。
【0044】
プラスチックコーティングは、取り扱うのが容易であることが判明した。ライニングは、均質であるように形成されており、き裂のリスクに関連していない。さらに、プラスチック材料、特にポリプロピレンは、このスクラビング段階において使用されるようなアルカリスクラビング水に耐性である。あらゆる残留HFがこの段階において依然として存在したとしても、コーティングは残留HFによって攻撃されない。
【0045】
アルカリスクラバ(5)内に案内される排ガスは、ほとんどフッ化水素ガスを有さない。しかしながら、フッ化水素ガスの僅かな痕跡が依然として存在することがあることは排除され得ない。アルカリスクラバ(5)が、その他の一般的なガラス繊維強化プラスチック材料(GFR)でライニングされていると、これらのフッ化水素ガスの残留量は、プラスチック材料におけるガラス繊維を攻撃し、急速にエッチング除去するのに十分である。内側ライニングは、このような条件下では短い時間の後に交換されねばならない。
【0046】
本発明による灰化プラントは、さらに、制御ユニットを有することができる。制御ユニットは、特定の材料に応じて熱処理中に必要とされる温度分布を制御し、排ガスの負圧、温度及び酸素含有量に関して排気ラインも制御する。原理的に、連続運転及び不連続運転の両方が可能である。不連続運転が好ましい。
【0047】
別の実施の形態において、本発明は、フッ素含有材料から貴金属を濃縮する方法であって、フッ化水素酸に耐性の耐火性断熱ライニングを有する熱処理チャンバ(1)における材料の熱処理と、該熱処理中に発生した排ガスの浄化とを含み、該浄化は、以下の順序で以下のステップを含む:a)適用可能であるならば、後灰化チャンバ(2)における熱後灰化、b)水及び/又は酸による排ガスのスクラビング、及びc)塩基による排ガスのスクラビング、フッ素含有材料から貴金属を濃縮する方法を含む。
【0048】
貴金属含有及びフッ素含有材料の熱処理中に、貴金属を含有する灰が生ぜしめられる。前記灰は、次いで、該灰が含有する貴金属を回収するために、従来技術により公知の湿式化学的方法に従って再処理される。本発明の範囲において、貴金属は、金、銀、及びプラチナ群の金属である。
【0049】
熱処理は、通常、800℃までの温度で進行する。約2000℃までの最高温度が短期間に生じる場合がある。熱処理チャンバ(1)への材料の導入に続き、温度は、約600℃〜800℃の温度へゆっくりと上昇させられる。特定の温度は、処理される材料に依存する。
【0050】
熱処理中に生ぜしめられた排ガスは、まず、適用可能であるならば後灰化チャンバ(2)における熱後灰化に曝される。その後、排ガスは、酸スクラバにおいて水又は酸によって浄化される。本発明によれば、水がスクラビング剤として使用される。水は、排ガスからフッ化水素ガスを浄化除去する。これは酸を生ぜしめ、この酸は、より多くのフッ化水素ガスを浄化除去し、これにより、スクラビングプロセス全体の経過において、水及び酸の両方が排ガスを浄化する。
【0051】
スクラビング水は、これに関して室温を有することができる。しかしながら、スクラビング水が室温よりも僅かに高い温度を有することも可能である。これに関して、温度は、周囲温度よりも10〜20℃以上高くなるべきではない。
【0052】
スクラビングプロセスのステップb)において得られた塩が濃縮されたスクラビング水を、副流として周期的に又は継続的に排水処理プラントに供給することができる。
好適には、水及び/又は酸による排ガスのスクラビングは、2つのステップ、すなわちb1)二重壁黒鉛スクラバ(3)における排ガスのスクラビング及び同時冷却、その後のb2)単一壁黒鉛スクラバ(4)における排ガスのスクラビング、を含む。
【0053】
冷却システム、特に水冷システムによって二重壁黒鉛スクラバ(3)において排ガスを冷却することが好ましい。提供される水は冷却材として使用され、水温は好適には約60℃である。
【0054】
水を二重壁スクラバ(3)の内部に導入することによって排ガスからフッ化水素ガスが除去される。
【0055】
フッ化水素ガスが排ガスからできるだけ完全に除去されることを保証するために、排ガスは、好適な実施の形態において水及び/又は酸によって二回浄化され、この目的のために、第1の二重壁黒鉛スクラバ(3)から第2の単一壁黒鉛スクラバ(4)内へ案内される。排ガスは、両方のスクラバ(3,4)において水及び/又は酸によって浄化される。両方のスクラビング段階において、最初のスクラビング剤は水である。水は、排ガスから浄化除去されたフッ化水素ガスによって酸性化され、これにより、全体として、水及び酸が、それぞれの段階において排ガスを浄化する。フッ化水素ガスが第1の段階においてガスから既に完全に除去されていると、第2の段階は、水による浄化のみを必然的に行う。
【0056】
スクラビングステップc)において、排ガスは中和させられ、ステップb)から発生した酸性成分が除去される。少なくとも10以上、特に少なくとも11以上のpHを有する塩基を、この関連における塩基として使用することができる。ステップc)において排ガスをスクラビングするために水酸化ナトリウム溶液を使用することが好ましい。水酸化ナトリウム溶液は、排ガス成分との望ましくない反応を一切受けない。さらに、水酸化ナトリウム溶液は、安価であり、取り扱いやすい。
【0057】
本発明による方法は、好適には、5質量%までのフッ素含有率を有する材料の処理に適している。熱処理に曝される材料として、有機フッ素材料、PTFEフィルム、燃料電池、触媒及び/又はペーストを使用することが好ましい。原則的に、方法は、約800℃、特に約600℃の温度で分解する、5質量%までのフッ素含有率を有する全ての材料に適している。
【0058】
上述のタイプの灰化プラントにおいて本発明による方法を実施することが好ましい。本発明による灰化プラントは、本発明による方法の使用及び実施に適している。
【符号の説明】
【0059】
1 熱処理チャンバ
2 後灰化チャンバ
3 二重壁黒鉛スクラバ
4 単一壁黒鉛スクラバ
5 アルカリスクラバ
6 排ガス導管