【文献】
矢辺茂昭、渡辺慎也,アミノ酸銀錯体を用いた工業用抗菌防腐剤の開発,日本防菌防ばい学会年次大会要旨集,2009年,Vol.36th,p.191
【文献】
矢辺茂昭,有機無機ハイブリッド型新規防腐剤,工業塗装,2010年,No.227,p.49-53,ISSN:0286-6943
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来知られている銀を含む木材等の建築材料保存剤は、必ずしも効力が充分ではなく、安定性に問題がある場合があった。
また、上記したようにネオニコチノイド系化合物等の殺虫成分がシロアリに対して効力があることは知られているが、十分な効力を得るためには比較的高濃度で使用しなければならないという問題があった。
一方、上記したように、銀−ヒスチジン錯体等の銀−アミノ酸錯体が抗菌剤、または殺菌剤として効力があることは知られているが、木材腐朽菌に効力があることは知られておらず、従って、木材等の建築材料の保存剤として使用されることは知られていない。
また、特許文献1では、キトサンの銅または亜鉛錯体に、防蟻効果があることが記載されているが、銀−アミノ酸錯体に、防蟻効果があることは知られていない。
本発明は、長期に亘って防腐効果が持続し、低濃度で殺虫作用効果を有する、木材等の建築材料保存剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のものを含む。
(1)銀−アミノ酸水溶性錯体
および殺虫成分を含有
し、殺虫成分が、ニテンピラム、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、およびチアクロプリドからなる群から選ばれる少なくとも1種である建築材料保存剤、
(2)銀−アミノ酸水溶性錯体が、銀1モル部およびアミノ酸1〜3モル部からなるものである
(1)に記載の建築材料保存剤、
(3)アミノ酸がヒスチジン、メチオニン、及びN−アセチルメチオニンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)に記載の建築材料保存剤、
(4)さらに水を含有する(1)〜(3)のいずれか
一に記載の建築材料保存剤、
(5)銀−アミノ酸水溶性錯体1質量部に対して、殺虫成分を0.1〜40質量部含有する
(1)〜(4)のいずれか一に記載の建築材料保存剤、
(
6)銀−アミノ酸水溶性錯体0.0001〜0.5質量%、殺虫成分0.0001〜0.5質量%、および水10質量%以上、を含有する(
4)または(
5)に記載の建築材料保存剤、
(
7)殺虫成分は25℃の水に対する飽和溶解度が500ppm以上である、(
1)〜(
6)のいずれか
一に記載の建築材料保存剤、
(8)シロアリ防除用である(1)〜(
7)のいずれか
一に記載の建築材料保存剤、
(
9)建築材料が発泡樹脂製断熱材または木材である(1)〜(
8)のいずれか
一に記載の建築材料保存剤、
(
10)建築材料を、(1)〜(
9)のいずれか
一に記載の建築材料保存剤で処理することを含む建築材料加工方法、
(
11)処理が、塗布処理、浸漬処理、注入処理、及び加圧注入処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である(
10)に記載の建築材料加工方法、
(
12)(
10)または(
11)に記載の建築材料加工方法によって得られる加工建築材料、
(
13)加工建築材料が、発泡樹脂製の加工断熱材または木材である(
12)に記載の加工建築材料、
(
14)銀−アミノ酸水溶性錯体および殺虫成分を含有
し、殺虫成分が、ニテンピラム、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、およびチアクロプリドからなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物、
(
15)さらに水を含有する、(
14)に記載の組成物、
(
16)銀−アミノ酸水溶性錯体0.0001〜0.5質量%、殺虫成分0.0001〜0.5質量%、および水10質量%以上を含有
し、殺虫成分が、ニテンピラム、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、およびチアクロプリドからなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物、
(
17)殺虫成分は25℃の水に対する飽和溶解度が500ppm以上である(
14)〜(
16)のいずれか
一に記載の組成物、
(18)アミノ酸がヒスチジン、メチオニン、及びN−アセチルメチオニンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(
14)〜(
17)のいずれか
一に記載の組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の建築材料保存剤は、安全性が非常に高く、しかも、有効な薬剤の少ない木材腐朽菌も含め、広範囲の有害微生物に対して防除効果がある。さらにシロアリなどの木材害虫に対しても殺虫効果を示すため、他種の殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、殺虫剤、害虫忌避剤などを併用せずとも、十分な木材保存効果を示す。
【0007】
本発明の建築材料保存剤は、急性経口毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性などの毒性が低く、また木材の品質に影響を及ぼさない。さらに、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、殺虫性などの効果が長期間に亘り持続する。従って、本発明の建築材料保存剤で処理された木材製品は長期にわたりその品質が損なわれない。
また、殺虫成分と混用した場合には、その相乗効果より、殺虫成分が低濃度であっても、充分な効力を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、銀−ヒスチジン水溶性錯体等の銀−アミノ酸錯体を木材に施用すると、木材腐朽菌などの菌類を効果的に防除し、長期に亘って防腐効果が持続し、さらにシロアリなどの木材害虫に対する殺虫効果を示し、殺虫剤と混用した場合には、相乗効果を示し、低濃度で殺虫効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の木材等の建築材料(以下、建材と略すことがある。)保存剤は、銀−アミノ酸水溶性錯体を含む組成物である。ここで、水溶性とは25℃の水に対する溶解度が好ましくは0.1質量%以上であること、より好ましくは1質量%以上であることをいう。
【0010】
本発明の建材保存剤に用いられる銀−アミノ酸水溶性錯体は、銀1モル部とアミノ酸1〜3モル部とからなるものであることが好ましく、銀1モル部とアミノ酸1.1〜2.5モル部とからなるものであることがより好ましい。
【0011】
本発明の建材保存剤における銀の濃度は、好ましくは0.0002〜10質量%、より好ましくは0.003〜5質量%、より更に好ましくは0.2〜2.5質量%である。銀濃度が前記下限値以上である場合に特に優れた有害生物防除効果が奏される。一方、製造コストの観点から、銀濃度は前記上限値以下であることが好ましい。
【0012】
銀−アミノ酸水溶性錯体は、銀化合物とアミノ酸化合物とを用いることによって調製される。
銀−アミノ酸水溶性錯体の調製に用いられる銀化合物は、特に限定されないが、酸化数1の銀化合物が特に好ましい。銀化合物としては、例えば、硝酸銀、酸化銀、塩化銀などが挙げられる。該銀化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
銀−アミノ酸水溶性錯体の調製に用いられるアミノ酸化合物は、得られる銀−アミノ酸錯体が水溶性となるものであれば特に限定されない。アミノ酸化合物としては、アミノ酸とアミノ酸誘導体が挙げられる。
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、バリン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、チロシン、トリプトファンなどが挙げられる。
【0014】
アミノ酸誘導体としては、アミノ酸塩酸塩、アミノ酸硫酸塩、アミノ酸アンモニウム塩、アミノ酸ナトリウム塩、アミノ酸カリウム塩などのアミノ酸塩; N−ホルミルアミノ酸、N−アセチルアミノ酸、N−プロピオニルアミノ酸、N−ブチリルアミノ酸などのN−アシル化アミノ酸; N−メチルアミノ酸、N−エチルアミノ酸、N−n−プロピルアミノ酸、N−イソプロピルアミノ酸、N−n−ブチルアミノ酸などのN−アルキルアミノ酸; アミド窒素原子が無置換の化合物、およびアミド窒素原子がメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基などのアルキル基で置換された化合物などのアミノ酸アミド; アミノ酸メチルエステル、アミノ酸エチルエステル、アミノ酸−n−プロピルエステル、アミノ酸イソプロピルエステル、アミノ酸−n−ブチルエステルなどのアミノ酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
これらのアミノ酸化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、塩基性アミノ酸;含硫アミノ酸;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などの低級アシル基を有するN−アシル化アミノ酸;およびこれらの塩が好ましく、塩基性アミノ酸、含硫アミノ酸、およびN−アシル化アミノ酸がより好ましく、塩基性アミノ酸、および含硫アミノ酸が特に好ましい。塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン、リジンおよびアルギニンが好ましく、ヒスチジンがより好ましい。含硫アミノ酸としては、メチオニンが好ましい。N−アシル化アミノ酸としては、N−アセチルメチオニンが好ましい。
【0016】
銀−アミノ酸水溶性錯体の調製に用いられる銀化合物とアミノ酸化合物との組み合わせは特に限定されないが、得られる銀−アミノ酸水溶性錯体の保存安定性の点で、酸化銀とヒスチジンとの組み合わせ、または酸化銀とメチオニンとの組み合わせが好ましい。
【0017】
銀−アミノ酸水溶性錯体の調製方法は、特に限定されないが、例えば、硝酸銀などの水溶性銀化合物を水に溶解させ、これにアミノ酸化合物をそのまま若しくは水に溶解させて添加混合することによって、銀−アミノ酸水溶性錯体を調製することができる。また、アミノ酸化合物を予め水に溶解させ、これに酸化銀や塩化銀などの水難溶性銀化合物を添加し、撹拌することによって、銀−アミノ酸水溶性錯体を調製することができる。
【0018】
銀−アミノ酸水溶性錯体の調製においては、銀化合物中の銀1モル部に対して通常アミノ酸化合物が1〜3モル部、好ましくは1.1〜2.5モル部を用いることができる。アミノ酸化合物が1モル部以上だと、銀イオンをより安定に溶液として存在させることができ、変色、析出や沈殿などの変質を防ぐことができる。一方、製造コストの観点からは、アミノ酸化合物が3モル部以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の建材保存剤は、前記のような、水中での銀−アミノ酸水溶性錯体の調製によって水性液として直接に得ることができるし、また、前記のようにして調製された銀−アミノ酸水溶性錯体の乾燥固形物若しくは後述する銀−アミノ酸水溶性錯体を含む水和剤または水溶剤として得ることができる。
【0020】
本発明の建材保存剤に含有する銀−アミノ酸水溶性錯体の濃度は、好ましくは0.0005質量%〜20質量%、より好ましくは0.05質量%〜10質量%、さらに好ましくは0.25質量%〜5質量%である。
【0021】
本発明の建材保存剤に用いられる水は特に制限されないが、水道水、精製水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられる。これらのうち、安定性や経済性の点で、精製水またはイオン交換水が好ましい。本発明の建材保存剤中の水の割合は特に制限されないが、銀−アミノ酸水溶性錯体の濃度が前記の範囲となるように選択することが好ましい。
【0022】
本発明の建材保存剤の製造における各工程の温度は特に限定されないが、好ましくは10〜30℃である。また、各成分の混合には、公知の撹拌装置を用いることができる。前記の方法などで製造された本発明の建材保存剤は濾過などにより異物などが取り除かれていることが好ましい。
【0023】
本発明の建材保存剤のpHは特に制限されないが、好ましくは5以上、より好ましくは6.5以上である。pHの上限は特に制限されないが、好ましくは12、より好ましくは11である。
建材保存剤のpHの調整は、銀−アミノ酸水溶性錯体を生成した後に行ってもよいし、銀−アミノ酸水溶性錯体を生成する前に行ってもよいし、銀−アミノ酸水溶性錯体を生成している最中に行ってもよい。
【0024】
pHを調整するために、一般に使用されている公知のpH調整剤を使用することができる。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸塩などが挙げられる。これらのうちアルカリ性化合物が好ましい。該アルカリ性化合物は、特に限定されないが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましい。
【0025】
本発明の建材保存剤には、さらに殺虫成分を含ませることができ、そのような殺虫成分としては殺虫効果を有する化合物であれば、特に限定されないが、水に溶解する化合物であることが好ましく、25℃の水に対する飽和溶解度が500ppm以上であるものがより好ましい。
【0026】
殺虫成分としては、ニテンピラム、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリドなどのネオニコチノイド系化合物; フェニトロチオン、ホキシム、アジンホスメチル、DDVP、シアノホス、フェンチオン、ダイアジノン、クロルピリホス、フェントエートなどの有機リン系化合物; アルディカルブ、メソミル、チオジカルブ、カルボフラン、カルボスルファン、ベンフラカルブ、プロポキスル、BPMC、カルバリル、ピリミカーブ、エチオフェンカルブ、フェノキシカルブなどのカーバメート系化合物; フェノトリン、シフェノスリン、ペルメトリン、シペルメトリン、フェンバレレート、エトフェンプロクス、トラロメトリン、デルタメスリン、フルバリネート、シフルトリンなどのピレスロイド系化合物; ジフルベンズロン、クロルフルアズロン、ヘキサフルムロン、トリフルムロン、フルフェノクスロン、ピリプロキシフェン、メトプレン、ジアフェンチウロンなどのベンゾイルウレア系化合物; フィプロニルなどのピラゾール系化合物; カルタップ、ベンスルタップなどのネライストキシン系化合物; アバメクチン、ミルベメクチン、スピノサドなどのマクロライド系化合物; ホウ酸、ホウ酸塩などのホウ素系化合物;が挙げられる。
これらの殺虫成分は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
これらのうち、シロアリに対して高い防除効果を有するという観点から、ホウ素系化合物、ネオニコチノイド系化合物、ピレスロイド系化合物、カーバメート系化合物、有機リン系化合物、が好ましく、さらに安全性が高く持続性があるという観点から、ネオニコチノイド系化合物がより好ましい。
また、ネオニコチノイド系化合物のうちで、ニテンピラム、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、およびチアクロプリドが好ましく、アセタミプリドが特に好ましい。
【0028】
本発明の殺虫成分を含む建材保存剤は、水を含有していることが好ましい。水を含有することによって、臭気の発生を防ぎ、より安全性の高いものとなる。またシロアリ防除効果の持続性が高く、長期にわたって使用できる。
使用される水は、水道水、精製水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられるが、安定性や経済性の面から、精製水またはイオン交換水が好ましい。
【0029】
銀−アミノ酸水溶性錯体、殺虫成分、および水の成分比は特に限定されず、用途、施用法、各成分の効力、物性などに応じて任意に選択することができるが、銀−アミノ酸水溶性錯体1質量部に対して、殺虫成分を0.1〜40質量部の範囲で用いるのが好ましい。
本発明の殺虫成分をさらに含む好適な建材保存剤は、銀−アミノ酸水溶性錯体0.0001〜0.5質量%、殺虫成分0.0001〜0.5質量%、および水10質量%以上(10質量%以上99.9998質量%未満、より好ましくは10質量%以上99質量%未満)、を含有するものであり、水溶液にして用いることが好ましい。
【0030】
本発明の建材保存剤には、さらに他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、香料、消泡剤、有機溶剤などが挙げられる。
【0031】
界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニドなどのカチオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、α−オレフィン脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸塩などのアニオン性界面活性剤;アルキルメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタインなどの両性界面活性剤が挙げられる。
【0032】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガムなどが挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−t−ブチルフェノール]、アルキルジフェニルアミンなどが挙げられる。
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−セバケート)、WO2009/098850号公報に開示されている、ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸またはそれらの塩などが挙げられる。これらのうち、グルクロン酸、クエン酸またはそれらの塩は、銀−アミノ酸錯体の光照射による変色を抑制する点で好ましい。
【0033】
本発明の建材保存剤には、安全性など、本発明の目的および利点を損なわない限度において、有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、プロピレンカーボネートなどのケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチルピロリドンなどの極性溶剤が挙げられる。
【0034】
また、本発明の建材保存剤には、その目的および用途に応じて、公知の殺菌防カビ剤、防腐剤、防藻剤などの活性成分が含まれていてもよい。
活性成分としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート(DDAA)などの第4級アンモニウム塩系化合物;ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、グルコン酸クロルへキシジンなどのビグアナイド系化合物;セチルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライドなどのピリジニウム系化合物;1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系化合物;3−ヨード−2−プロピニル−ブチルカーバメートなどの有機ヨウ素系化合物;2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどのピリジン系化合物;ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオンなどのピリチオン系化合物;2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾールなどのベンゾチアゾール系化合物、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾールなどのイミダゾール系化合物;テトラメチルチウラムジスルフィドなどのチオカーバメート系化合物;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物;N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミドおよびN−(フルオロジクロロメチルチオ)−N,N’−ジメチル−N−フェニル−スルファミドなどのハロアルキルチオ系化合物;α−t−ブチル−α(p−クロロフェニルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名テブコナゾール)などのトリアゾール系化合物;3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(慣用名DCMU)などのフェニルウレア系化合物;2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S−トリアジンなどのトリアジン系化合物などが挙げられる。
これらの活性成分は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これら活性成分の配合割合は、用途に応じて適宜選択することができる。
【0035】
本発明の建材保存剤の剤型は、特に限定されないが、水溶液や水懸濁液などの水性液、水和剤、または水溶剤である。
前記水性液は、例えば、前記水中での銀−アミノ酸水溶性錯体の調製によって直接得ることができる。
本発明の建材保存剤の剤型が水性液である場合、そのままの形態で、または、適宜希釈して、木材等の建材処理に使用することができる。
本発明の建材保存剤は、水性であっても、溶脱しにくい。これは、本発明に係る建材保存剤の活性成分である銀−アミノ酸水溶性錯体が木材に含浸されると多量体に変化し、水不溶性となるためであると推測される。
【0036】
前記水和剤または水溶剤は、粉状、粒状などの固形製剤であり、保管や運搬の利便性、錯体の長期安定性などの観点から好ましい。
固形製剤化の具体的な手法としては、例えば、前記銀−アミノ酸水溶性錯体を、クレー、タルク、シリカ、アルミナ、モンモリロナイトなどの固体担体に吸着させる方法;前記銀−アミノ酸水溶性錯体と、糖類、尿素、アルカリ金属塩などの水溶性担体を共存させる方法;前記銀−アミノ酸水溶性錯体をエタノール中へ滴下することによって粉体状にする方法などが挙げられる。
本発明の建材保存剤の剤型が水和剤または水溶剤である場合、使用時に水もしくは水を含有する溶媒に溶解もしくは懸濁して水性液とし、これを木材処理に使供することができる。
【0037】
本発明の建材加工方法は、前記建材保存剤を用いて木材等の建材を処理するものであれば特に限定されない。具体的な処理方法としては、例えば前記建材保存剤を建材に刷毛塗りやスプレー塗りなどにより塗布する方法;前記建材保存剤に建材を浸漬する方法;または前記建材保存剤を建材に常圧、減圧若しくは加圧下に注入する方法などが挙げられる。建材の処理方法は、木材等の建材の用途、形状などに応じて適宜に選択することができる。このうち、建材の長期保存性の点から、浸漬法または注入法が好ましく、加圧注入法が特に好ましい。本発明の建材保存剤は、これらの処理方法などによって、建材中に容易に浸透し、しかも施用後は建材組織中に固定され溶脱し難いので、効果が長期間持続する。
【0038】
本発明の建材保存剤は、木材害虫、木材腐朽菌、およびその他の木材を汚染する真菌類の防除に好ましく適用できる。
木材害虫としては、シロアリ目のミゾガシラシロアリ科に属するヤマトシロアリ、イエシロアリなど、レイビシロアリ科に属するアメリカカンザイシロアリなどが挙げられる。木材腐朽菌としては、オオウズラタケ、ナミダタケ、イドタケ、キチリメンタケ、キカイガラタケなどの褐色腐朽菌;カワラタケ、タマチョレイタケ、スエヒロタケなどの白色腐朽菌が挙げられる。
これらの中でも、本発明の建材保存剤は、シロアリ防除用としてより好ましく適用される。
【0039】
本発明の建材保存剤による処理対象である建材として、住宅や事務所、公共の建物などの任意の建築物を建てるために使用されるあらゆる材料を用いることができる。ここで、「建築物を建てるために使用される材料」とは、建築物としての基本的な形状を構成する為の材料を意味し、光設備、免振設備、および防音設備といった建築物に最初から組み込まれる仕組みを備えた部位の構成材料は含まれるが、クーラーのような付加的サービスを提供する機械設備や、電気配線、水道・ガスの配管類、および空調ダクトなどは含まれない。具体的には、建材として、床材、壁材、屋根材、木材、天井材、断熱材、遮熱材、階段、合成集成材、改修下地調整材、基礎・下地材、手摺・スロープ、ロートアイアン、庇、内外装飾材、内外装仕上材、防音・遮音材、デザイン建材等を例示することができる。前記断熱材としては、具体的には、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタンなどの発泡樹脂により構成されたものが挙げられる。木材として、具体的には、丸太、板材、柱材、集成材、合板、単板積層材、木質ボードなどの木質材料、またこれらを加工してなる家具類、道具類などが挙げられる。
本発明の建築材料保存剤は、特に発泡樹脂製断熱材、及び木材に好適に用いることができる。
【0040】
本発明の加工建築材料は、上記建材を、上記建材保存剤を用いて、上記建材加工方法により処理することにより得ることができる。このようにして得られた加工建築材料は、上記銀−アミノ酸水溶性錯体が建材組織中に固定され溶脱し難いので、長期わたり、有害生物の防除効果を持続する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0042】
実施例1
酸化銀(試薬特級 和光純薬社製)1.074g、L−ヒスチジン(試薬特級 和光純薬社製)2.88gおよび水96.046gを適切な容器に入れ、室温で30分間以上攪拌して溶解させ、銀1モル部とヒスチジン1モル部とからなる銀−ヒスチジン錯体(銀濃度1質量%)を含有する水溶液からなる建材保存剤を得た。
【0043】
実施例2
酸化銀(試薬特級 和光純薬社製)1.074g、L−メチオニン(試薬特級 和光純薬社製)1.65gおよび水97.276gを適切な容器に入れ、50℃で60分間以上攪拌して溶解させ、銀1モル部とメチオニン1モル部とからなる銀−メチオニン錯体(銀濃度1質量%)を含有する水溶液からなる建材保存剤を得た。
【0044】
試験例1(木材防かび試験)
実施例1および実施例2で得られた建材保存剤をそれぞれ蒸留水で希釈し銀濃度12.5ppm、25ppm、50ppm、100ppm、および200ppmの水溶液を得た。アカマツKD材の試験木片(0.5×2×2cm)を、上記各水溶液に10分間浸漬し、次いで一晩風乾させた。対照例として上記水溶液の代わりに蒸留水を用いた。
シャーレに2質量%寒天水溶液を注ぎ固化させ、その上に上記試験木片を置いた。表1に示す各種カビ菌株の胞子懸濁液(胞子濃度1×105個/mL)を木片上およびその周辺に100μL滴下し、シャーレの蓋を閉めた。シャーレを27℃の恒温器内にて2週間培養し、木片の汚染程度を下記の基準で評価した。反復数は2とした。結果を表1および表2に示す。
【0045】
評価基準:
− :菌の生育なし
± :僅かに菌の生育が認められる
+ :菌の生育が木片の全表面積の25%未満に認められる
++ :菌の生育が木片の全表面積の25%以上50%未満に認められる
+++:菌の生育が木片の全表面積の50%以上に認められる
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
試験例2(木材防腐試験)
実施例1および実施例2で得られた建材保存剤をそれぞれ蒸留水で希釈し銀濃度250ppm、500ppm、1000ppm、および2000ppmの水溶液を得た。アカマツKD材の試験木片(0.5×2×2cm)を、上記各水溶液に10分間浸漬し、次いで一晩風乾させ、試験区とした。
また、対照区として、前記アカマツKD材の試験木片を、蒸留水に10分間浸漬し、次いで一晩風乾させた。
シャーレに、1質量%のアカマツおが粉を添加したポテトデキストロース寒天培地(栄研化学社製)を注ぎ固化させ、その上に上記試験木片を置き、さらにその上にコルクボーラーによりくりぬいた試験菌の菌叢を置き、シャーレの蓋を閉めた。シャーレを27℃の恒温器内に入れて4週間培養した。その後、試験木片上の菌糸被覆程度を下記の方法で評価した。反復数は3とした。結果を表3および4に示す。
【0049】
<評価方法>
まず以下の汚染指標により判定した。
0 :木片上に菌糸の被覆なし
0.5:木片上に僅かに菌糸が被覆する
1 :木片上の全表面積の1/4程度に菌糸が被覆する
2 :木片上の全表面積の1/2程度に菌糸が被覆する
3 :木片上の全表面積の3/4程度に菌糸が被覆する
4 :木片上全体に菌糸が被覆する
次に、得られた指標を下記式に代入して汚染度を求めた。
汚染度=Σ(木片の汚染指標)/(4×(反復数3))×100
さらに、得られた汚染度から、下記式より防除価を求めた。
防除価=(対照区の汚染度−試験区の汚染度)/(対照区の汚染度)×100
最終評価については、得られた防除価を下記の基準にて評価した。
− :80%以上100%以下
± :60%以上80%未満
+ :40%以上60%未満
++ :20%以上40%未満
+++:0%以上20%未満
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
試験例3(防蟻試験)
実施例1で得られた銀−ヒスチジン錯体の水溶液を蒸留水で希釈して、銀濃度200ppmの水溶液を得た。アカマツKD材の試験木片(0.5×4×4cm)を、上記水溶液に20分間浸漬し、次いで一晩風乾させた。対照例として上記水溶液の代わりに蒸留水を用いた。
直径8cm、高さ6cmのアクリル樹脂製円筒を水平台上に縦に置き、円筒の下端に硬石膏を厚さ約5mmに敷いて固め、硬石膏を底とする有底円筒を作製した。硬石膏製の底板上に上記の試験木片1個を置き、有底円筒内にイエシロアリ(職蟻30頭および兵蟻3頭)を投入した。
ガラスシャーレ中に、水を浸み込ませた脱脂綿を敷き、脱脂綿上に上記の有底円筒を置いて、28℃の暗所にて12日間飼育した。上記職蟻30頭の死亡または苦悶の率を経日的に計測した。又、放虫から12日経過後に試験木片の加害状況を外観観察し食害の有無で判定した。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
以上の結果から、本発明の銀−アミノ酸錯体および水を含有してなる建材保存剤は、木材を害するカビ類、木材腐朽菌、およびシロアリに対して防除効果を発揮することがわかる。
【0055】
試験例4(防蟻試験)
銀−アミノ酸水溶性錯体としての銀1モル部とヒスチジン2モル部とからなる銀−ヒスチジン水溶性錯体を含有する水溶液、および殺虫成分としてのアセタミプリド原体(日本曹達社製)、にイオン交換水を加え、溶解、混合して、表6に記載した濃度で各成分を含有する組成物(実施例3〜7、および比較例1〜3)を製造した。
容積90mlのプラスチックカップの底面に、直径55mmの濾紙を2枚重ねて敷き、その中央に表1に示す組成物1mlをそれぞれ滴下し風乾した。この濾紙上にイエシロアリの職蟻10頭および兵蟻1頭を放虫し、通気孔を開けた蓋をかぶせた。放虫から5日間経過時および7日間経過時に職蟻10頭の死亡または苦悶の有無を判定するとともに、放虫から7日間経過時における濾紙食害の程度を観察した。結果を表1に示す。
【0056】
食害の程度:
+:明瞭な食害あり
±:わずかな食害あり
−:食害なし
【0057】
【表6】
【0058】
表6の結果から、本発明の建材保存剤は、シロアリの防除効果が飛躍的に高く、且つ防除効果の持続性が十分に長いことがわかった。
【0059】
試験例5(防蟻試験)
実施例8として、銀−アミノ酸水溶性錯体としての銀1モル部とヒスチジン2モル部とからなる銀−ヒスチジン水溶性錯体を含有する水溶液、および殺虫成分としてのアセタミプリド原体(日本曹達社製)、にイオン交換水を加え、溶解、混合して、アセタミプリド0.02質量%(200ppm)および銀−ヒスチジン水溶性錯体0.001質量%(10ppm)を含有する水溶液を製造した。
比較例4として、銅塩(銅として0.29質量%)および第4級アンモニウム塩0.32質量%をイオン交換水に溶解し、ACQ保存剤水溶液を調製した。
発泡ポリスチレン製断熱材の試験片(2.9×2.9×2.9cm)を、実施例6および比較例6の各水溶液に20分間浸漬し、次いで一晩風乾させた。
直径8cm、高さ6cmのアクリル樹脂製円筒を水平台上に縦に置き、円筒の下端に硬石膏を厚さ約5mmに敷いて固め、硬石膏を底とする有底円筒を作製した。硬石膏製の底板上に上記の試験片1個を置き、有底円筒内にイエシロアリ(職蟻20頭および兵蟻2頭)を投入した。
ガラスシャーレ中に、水を浸み込ませた脱脂綿を敷き、脱脂綿上に上記の有底円筒を置いて、28℃の暗所にて8日間飼育した。上記職蟻20頭の死亡または苦悶の率を経日的に計測した。又、放虫から8日経過後に試験片の加害状況を外観観察し食害の有無で判定した。結果を表7に示す。
【0060】
食害の程度:
+:明瞭な食害あり
−:食害なし
【0061】
【表7】
【0062】
表7の結果から、本発明の建材保存剤は特に発泡樹脂製断熱材において、シロアリに対し飛躍的に高い防除効果を発揮することがわかる。