(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術で製造される成型コークスの強度は未だ十分ではない。また、成型コークスの強度は、原料の種類や性状に応じて変動するため、安定して高い強度を有する成型コークスを製造することが困難である。特に低品位な石炭を用いた場合には、このような現象が顕著であった。このため、低品位な石炭を用いた場合であっても、十分に高い強度を有する成型コークスを安定して製造することが可能な技術を確立することが求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、一つの側面において、安定的に高い強度を有する成型コークスを製造することができる成型コークスの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、別の側面において、安定的に高い強度を有する成型コークスを製造することが可能な成型炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、成型コークスの強度を向上するための方策を種々検討した。その結果、成型コークスの製造に用いる原料の性状と、成型コークスを製造する際の製造条件が、成型コークスの強度に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0008】
そこで、本開示では、石炭とバインダとを混練して成型し成型炭を作製する成型工程と、成型炭を乾留して成型コークスを得る乾留工程と、を有する成型コークスの製造方法であって、成型工程の前に、石炭とバインダとを用いて、バインダの含有率による成型炭の膨張率の変化と、成型圧力による成型炭の膨張率の変化と、を予測する準備工程を有しており、成型工程では、準備工程の予測結果に基づく膨張率の予測値yが1以上である成型炭を作製する、成型コークスの製造方法を提供する。
【0009】
上記製造方法では、成型工程の前に、バインダの含有率による成型炭の膨張率の変化と、成型圧力による成型炭の膨張率の変化と、を予測する準備工程を有している。これは、バインダの含有率と成型炭の成型圧力は、成型炭の膨張率と高い相関性を有することを見出した本発明者の知見に基づくものである。このため、成型炭の膨張率を高い精度で予測することができる。
【0010】
ここで、成型炭の膨張率は、成型炭を通常の乾留条件で乾留する際に、乾留前に対する乾留後の体積変化を示す数値である。たとえば、膨張率が1以上であれば、乾留後の体積が乾留前の体積以上になっていることを意味する。一方、膨張率が1未満であれば、乾留後の体積が乾留前の体積よりも小さくなっていることを意味する。通常、成型炭を乾留すると、300℃付近から成型炭に含まれる石炭からガスが抜け始める。そして、400〜600℃の温度範囲で、石炭からのガスの発生量が大きくなり、それに伴って成型炭の収縮量は大きくなる。
【0011】
一方、成型炭に含まれるバインダは、温度上昇とともに膨張する。上記製造方法では、成型炭の膨張率の予測値が1以上であることから、乾留して得られる成型コークスにおける空隙の量を減らして、密に充填された成型コークスとすることができる。したがって、高い強度を有する成型コークスを製造することができる。
【0012】
ところで、成型炭の膨張率は、成型炭に含まれる石炭とバインダの種類、及びこれらの含有率の影響を受ける。また、成型炭の膨張率は、成型炭作製時の成型圧の影響も受ける。すなわち、成型圧力が低い場合には、成型炭における空隙の割合が高くなるため、乾留時における成型炭の膨張率は低くなる。一方、成型圧力を高くすると、成型炭における空隙の割合が低くなるため、乾留時における成型炭の膨張率は高くなる。
【0013】
上記製造方法では、バインダの含有率と成型圧力による膨張率の変化を予測することによって、成型炭の膨張率を高い精度で予測することを可能としている。そして、成型工程において、この予測工程の予測結果に基づいて求められる膨張率の予測値が1以上である成型炭を作製している。したがって、安定的に高い強度を有する成型コークスを製造することができる。このような成型コークスは、安定的に高い強度を有することが求められる高炉用の成型コークスとして有用である。なお、上記成型工程で得られる成型炭の膨張率の実測値も1以上であることが好ましい。
【0014】
上記製造方法では、バインダと混練される石炭の揮発分は20質量%以下であってもよい。揮発分が小さい石炭を用いることによって、乾留時における石炭からのガスの発生量が低減される。これによって、膨張率を1以上とすることが一層容易となる。
【0015】
上記準備工程は、以下の第1工程と第2工程とを有していてもよい。
(1)石炭とバインダとからバインダの含有率が異なる複数の混練物サンプルを調製し、混練物サンプルを所定の成型圧力で成型して得られる第1の成型炭サンプルを用いて、バインダの含有率の変化に伴う膨張率の変化量wを求め、バインダの含有率に対する変化量wの割合A[1/質量%]を求める第1工程。
(2)石炭とバインダとを含む混練物サンプルを、異なる成型圧力で成型して得られる複数の第2の成型炭サンプルを用いて、成型圧力の変化に伴う膨張率の変化量zを求め、所定の成型圧力との差に対する変化量zの割合C[cm/ton又はcm
2/ton]を求める第2工程。
【0016】
上記第1工程と第2工程とによって求めた割合A,Cを用いて、成型炭の膨張率の予測値yを下記式(1)で予測してもよい。
y=x+A×b+C×(d−d
0) (1)
式(1)中、xは所定の成型圧力で成型された石炭の膨張率を示し、bは成型工程におけるバインダの含有率(質量%)を示し、dは成型工程における成型圧力(ton/cm又はton/cm
2)を示し、d
0は所定の成型圧力(ton/cm又はton/cm
2)を示す。なお、式(1)において、dとd
0の成型圧力の単位は同一である。
【0017】
上記第1工程では、バインダの含有量が異なる複数の第1の成型炭サンプルを用いて、バインダの含有率に対する変化量wの割合A[1/質量%]を求めている。上記第2工程では、異なる成型圧力で成型して得られる第2の成型炭サンプルを用いて、成型圧力と所定の成型圧力(以下、「基準成型圧力」という場合もある。)との差に対する変化量zの割合Cを求めている。そして、これらの割合A、Cと、成型工程におけるバインダの含有率と成型圧力と基準成型圧力との差に基づいて、成型炭の膨張率を予測している。したがって、一層高い精度で成型炭の膨張率を予測することが可能となり、より一層安定的に高い強度を有する成型コークスを製造することができる。
【0018】
また、本開示では、石炭とバインダとを混練して成型し成型炭を作製する成型工程を有する成型炭の製造方法であって、成型工程の前に、石炭とバインダとを用いて、バインダの含有率による成型炭の膨張率の変化と、成型圧力による成型炭の膨張率の変化と、を予測する準備工程を有しており、成型工程では、準備工程の予測結果に基づく膨張率の予測値yが1以上である成型炭を作製する、成型炭の製造方法を提供する。
【0019】
上記製造方法では、高い精度で成型炭の膨張率を予測し、成型炭の膨張率の予測値yが1以上である成型炭を作製する。このような成型炭を乾留すれば、安定的に高い強度を有する成型コークスを得ることができる。すなわち、上述の成型炭の製造方法で得られる成型炭は、成型コークス製造用の成型炭として有用である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安定的に高い強度を有する成型コークスを製造することが可能な成型コークスの製造方法及び成型炭の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る成型コークスの製造方法を詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、本実施形態の成型コークスの製造方法のフローチャートである。
図1に示す成型コークスの製造方法は、以下の工程を有する。
【0024】
(i)石炭とバインダとを含む混練物サンプルを用いて作製された第1の成型炭サンプルを用いて、バインダの含有率の変化に伴う成型炭の膨張率の変化量wを求める第1工程(S1)
(ii)石炭とバインダとを含む混練物サンプルを用いて作製された第2の成型炭サンプルを用いて、成型圧力の変化に伴う成型炭の膨張率の変化量zを求める第2工程(S2)
(iii)石炭を加熱する前処理を行って、石炭の揮発分を低減する前処理工程(S3)
(iv)石炭とバインダとを混練して混練物を得る混合工程(S4)
(v)混練物を成型して成型炭を作製する成型工程(S5)
(vi)成型炭を乾留して成型コークスを得る乾留工程(S6)
【0025】
石炭としては、粘結炭及び非粘結炭などの様々な品種を特に制限なく用いることができる。本実施形態の製造方法では、非粘結炭を用いても、十分に高い強度を有する成型コークスを製造可能な成型炭、及び、十分に高い強度を有する成型コークスを製造することができる。このため、石炭の品種選択の自由度を高くできるとともに、成型炭及び成型コークスの製造コストを低減することができる。
【0026】
石炭の粒径が大きい場合には、事前に、石炭を粉砕する粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程によって、石炭の粒径を例えば1.5mm以下にする。粒径の大きい粉砕粉が含まれる場合には、篩い分けによって石炭の粒径を調整してもよい。
【0027】
本明細書における石炭の膨張率xは、JIS M 8801:2004の「9.膨張性試験方法(ジラトメータ法)」に準拠して求めることができる。具体的には、石炭を所定の圧力(基準成型圧力:d
0)で棒状に加圧成型して、下端が封止された細管に挿入する。細管に挿入された成型体の上に所定の荷重を有するピストンを挿入する。成型体にピストンの荷重をかけた状態で、電気炉を用いて所定の昇温速度で加熱する。成型体の作製は、後述する成型工程の成型条件と同様に、ダブルロールを用いて行ってもよく、通常の成型機を用いて一軸加圧することによって行ってもよい。
【0028】
昇温速度は例えば1〜10℃/分の範囲から、最高温度は例えば400〜600℃の範囲から、それぞれ適宜設定することが可能である。加熱前と加熱後におけるピストンの位置からピストンの変位量を求める。ピストンの変位量から、石炭の成型体の体積変化を求める。加熱前の成型体の体積をx
0、加熱後の石炭の体積をx
1としたとき、石炭の膨張率xは、以下の式(2)によって求めることができる。
x=x
1/x
0 (2)
【0029】
本明細書における膨張率は、加熱に伴う体積変化を体積比率(=加熱後の体積/加熱前の体積)として示す数値である。膨張率は、加熱前後の体積変化を測定できる方法を用いて求めることができる。膨張率の測定は、上述の方法に限定されるものではなく、加熱に伴う体積変化を測定する方法であれば、特に制限なく適用することが可能である。
【0030】
第1工程S1では、まず、上述の石炭とバインダとを用いて、バインダの含有率が異なる複数の混練物サンプルを調製する。バインダは、粒状の石炭を結合させる機能を有するものであり、通常の石炭タール、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、軟ピッチ、ポリビニルアルコール、石油アスファルト及び廃油等からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。石炭とバインダとを、これらの合計に対するバインダの含有率が互いに異なる複数の混練物サンプルを調製する。混練物サンプルにおけるバインダの含有率は、例えば5〜20質量であってもよく、5〜15質量%であってもよい。
【0031】
調製した複数の混練物サンプルを、石炭の膨張率xの測定と同様にして、所定の圧力(d
0)で加圧して成型し、バインダの含有率が互いに異なる複数の第1の成型炭サンプルを作製する。この所定の成型圧力(d
0)を基準成型圧力とする。
【0032】
得られた複数の第1の成型炭サンプルの膨張率を求める。この膨張率は、石炭の膨張率xと同様に、JIS M 8801:2004の「9.膨張性試験方法(ジラトメータ法)」に準拠して求めることができる。
【0033】
加熱前の第1の成型炭サンプルの体積をa
0、加熱後の第1の成型炭サンプルの体積をa
1としたとき、第1の成型炭サンプルの膨張率w
0は、a
1/a
0を計算することによって求められる。この膨張率w
0から石炭の膨張率xを差し引いて、第1の成型炭サンプルの膨張率の変化量wが求められる。そして、複数の第1の成型炭サンプルの膨張率の変化量wとバインダの含有率bの値から、バインダ含有率1質量%当たりの膨張率の変化量を下記式(3)によって算出する。このようにして、バインダの含有率に対する成型炭の膨張率の変化量の割合A[1/質量%]が求められる。
A=w/b (3)
【0034】
式(3)中、wはバインダの含有率による成型炭の膨張率の変化量を示し、bはバインダの含有率(質量%)を示す。Aは、バインダの種類によって異なってもよい係数であり、例えば0.01〜0.05である。バインダの含有率bは、例えば、5〜20質量%である。膨張率の変化量wは、例えば、0.05〜0.4である。
【0035】
なお、バインダの含有率に対する成型炭の膨張率の変化量の割合Aは、上述のように求めてもよいし、回帰分析によって求めてもよい。例えば、バインダの含有率bを独立変数とし、バインダの含有率bに伴う膨張率の変化量wを従属変数とする単回帰分析によって、上記割合Aを求めてもよい。
【0036】
第2工程S2では、まず、石炭とバインダとを含む混練物サンプルを、所定の圧力(d
0)、及び、これとは異なる成型圧力dで成型して、成型圧力が互いに異なる複数の第2の成型炭サンプルを作製する。混練物サンプルにおけるバインダの含有率は、例えば5〜20質量%の範囲で任意に設定することができる。ただし、複数の第2の成型炭サンプルの作製に用いられるそれぞれの混練物サンプルのバインダの含有率は同一とする。
【0037】
成型圧力は、線圧で例えば2〜6ton/cm、面圧で例えば1〜1.9ton/cm
2の範囲とすることができる。このようにして、複数の第2の成型炭サンプルを得ることができる。第2の成型炭サンプルは、石炭の膨張率を測定する際の成型方法、及び、第1の成型炭サンプルの成型方法、及び、成型工程における成型方法と同じ方法で作製することが好ましい。これによって、成型炭の膨張率を一層正確に予測することができる。
【0038】
得られた複数の第2の成型炭サンプルの膨張率を求める。この膨張率は、石炭の膨張率x及び第1の成型炭サンプルの膨張率w
0と同様に、JIS M 8801:2004の「9.膨張性試験方法(ジラトメータ法)」に準拠して求めることができる。
【0039】
加熱前の第2の成型炭サンプルの体積をc
0、加熱後の第2の成型炭サンプルの体積をc
1としたとき、第2の成型炭サンプルの膨張率z
0は、c
1/c
0を計算することによって求められる。そして、複数の第2の成型炭サンプルの膨張率の変化量zと成型圧力dと基準成型圧力との差から、成型圧力1ton/cm(又は1ton/cm
2)当たりの膨張率の変化量を下記式(4)によって算出する。このようにして、成型圧力dと基準成型圧力d
0との差に対する成型炭の膨張率の変化量の割合C[cm/ton(又はcm
2/ton)]が求められる。
C=z/(d−d
0) (4)
【0040】
式(4)中、zは成型圧力と基準成型圧力との差に伴う膨張率の変化量を示し、dは成型圧力を、d
0は基準成型圧力を示す。Cは、例えば0.01〜0.05(1/質量%)である。dは、例えば2〜6ton/cm(1.1〜1.9ton/cm
2)である。膨張率の変化量zは、例えば、0〜0.2である。d
0は、例えば、2〜4ton/cm(1.1〜1.5ton/cm
2)である。
【0041】
なお、成型圧力の基準成型圧力との差に対する成型炭の膨張率の変化量の割合Cは、上述のように求めてもよいし、回帰分析によって求めてもよい。例えば、成型圧力と基準成型圧力との差(d−d
0)を独立変数とし、成型圧力の基準成型圧力との差に伴う成型炭の膨張率の変化量zを従属変数とする単回帰分析によって、上記割合Cを求めてもよい。
【0042】
図2は、石炭の膨張率xと、成型炭の膨張率の予測値yとの関係を示す図である。成型炭の膨張率の予測値yは、石炭の膨張率xとバインダの含有率bに基づく膨張率の変化量の予測値(A×b)と、成型圧力と基準成型圧力との差に基づく膨張率の変化量の予測値[C×(d−d
0)]の和で表される。すなわち、成型炭の膨張率の予測値yは、下記式(1)によって求めることができる。
【0043】
y=x+A×b+C×(d−d
0) (1)
式(1)によって予測される成型炭の膨張率の予測値yは、石炭の膨張率xに加えて、バインダの含有率と成型圧力の両方の影響が反映される。このため、成型炭の膨張率を高い精度で予測することができる。上述の第1工程S1及び第2工程S2は準備工程として行うことができる。
【0044】
前処理工程S3では、石炭を、例えば400〜700℃に加熱して乾留(事前乾留)し、石炭の揮発分を低減する。このような前処理工程S3では、揮発分の高い石炭を加熱して、揮発分の低い石炭を調製する。例えば、揮発分が35質量%以上である石炭を加熱して乾留し、揮発分が20質量%以下の石炭を調製する。前処理工程S3では、例えば、揮発分が3〜20質量%の石炭が調製される。このような揮発分の石炭を調製することによって、膨張率が1以上の成型炭を容易に得ることができる。ただし、揮発分が3〜20質量%の範囲外であっても、バインダの含有率、及び/又は成型圧力を調整することによって、膨張率が1以上の成型炭を得ることができる。
【0045】
前処理工程S3を行うことは必須ではなく、例えば、原料として、揮発分が低い石炭(例えば、20%質量以下)を用いる場合は、前処理工程を行わなくてもよい。なお、本明細書における揮発分は、JIS M 8812:2006の「角形電気炉法」に準拠して測定されるドライベースの値である。揮発分が低減された粉コークスを用いて製造された成型炭は、後述する乾留工程S6において、成型炭の内部から放出される揮発分を低減することができる。これによって、成型炭の膨張率が高くなって、成型コークスの強度を向上することができる。また、前処理工程S3を、第1工程S1及び第2工程S2の前に行い、上述の前処理を行った石炭を用いて、第1工程及び第2工程を行ってもよい。
【0046】
混合工程S4では、第1工程S1及び第2工程S2で用いた石炭とバインダとを混練して混練物を得る。このとき、第1工程S1及び第2工程S2で求めた成型炭の膨張率の変化量の予測値[A×b+C×(d−d
0)]から求められる成型炭の膨張率の予測値yが1以上になり得るように、石炭とバインダとの配合比を設定する。石炭とバインダの混練は、通常の混練機を用いて行うことができる。
【0047】
成型工程S5では、混練物を成型して成型炭を作製する。成型機としては、ダブルロール成型機、又は一軸加圧成型機等を用いることができる。式(1)によって予測される成型炭の膨張率の予測値yが1以上となり得るような成型圧力dで成型する。成型圧力dとしては、線圧で例えば2〜6ton/cm、面圧で例えば
1.1〜1.9ton/cm
2の範囲である。混合工程S4及び成型工程S5は、第1工程S1及び第2工程S2で求めた上記割合A及びCを用いて予測される、乾留工程S6における成型炭の膨張率が1以上となるように行われる。すなわち、式(1)で求められる成型炭の膨張率の予測値yが1以上となるようなバインダ含有率b及び成型圧力dで成型炭を製造する。
【0048】
このような製造方法で得られる成型炭の膨張率の実測値は1以上であることが好ましい。成型炭の膨張率が1以上であれば、乾留することによって、空隙の量が少なく密に充填された構造を有する成型コークスを得ることができる。これによって、高い強度を有する成型コークスを得ることができる。成型炭の膨張率は、石炭の膨張率xの測定方法と同様に、JIS M 8801:2004の「9.膨張性試験方法(ジラトメータ法)」に準拠して求めることができる。成型炭の膨張率は、例えば、1〜1.2である。
【0049】
乾留工程S6では、成型炭を乾留して成型コークスを製造する。乾留は、竪型シャフト炉、コークス炉、トンネルキルン炉などの通常の乾留炉を用いて行うことができる。乾留工程では、成型炭と加熱ガスと接触させて昇温し、乾留を行って成型コークスを得る。このようして得られる成型コークスは、安定的に高い強度を有する。JIS K 2151に準拠して測定される成型コークスのDI強度(ドラム強度)は、DI
15015で表すと、例えば80%以上である。
【0050】
DI
15015は、以下の手順で測定される。内径及び長さがともに1500mmで、径方向に沿って内面に高さ250mmの羽根が設けられたドラム試験機に、25mm以上の粒度を有する成型コークスを10kg入れる。そして、ドラム試験機を、15rpmで150回転させた後、篩分けを行う。篩分けで、15mm篩上に残った割合(質量%)をDI
15015とする。
【0051】
本実施形態の成型炭及び成型コークスの製造方法では、成型コークスの強度との相関性の高い膨張率という指標を採用し、成型炭及び成型コークスの製造条件のうち、バインダ含有率bと基準成型圧力と成型圧力の差(d−d
0)に基づいて膨張率を予測している。バインダ含有率b、及び基準成型圧力と成型圧力の差(d−d
0)は、成型炭の膨張率と高い相関性を有することから、本実施形態の製造方法によれば、成型炭の膨張率を高い精度で予測することができる。これによって、安定的に高い強度を有する成型コークス、及びこのような成型コークスを製造することが可能な成型コークス製造用の成型炭を製造することができる。
【0052】
図3は、本実施形態の成型炭及び成型コークスの製造方法が適用される連続式成型コークス製造設備の一例を示す模式図である。
図3の連続式成型コークス製造設備100は、石炭とバインダとを含む原料を加圧成型して成型炭を作製する成型炭製造部10と、成型炭製造部10の下流側に設けられ、成型炭を乾留してガス化溶融炉用コークスを製造する乾留部20とを有する。このような連続式成型コークス製造設備100を用いて、成型コークスの製造方法を実施することができる。
【0053】
石炭は、タンク11から一次粉砕機12に導入されて粉砕された後、乾燥器13に導入される。ここで、石炭に含まれる水分を2〜3質量%にまで低減してもよい。乾燥器13で乾燥された石炭は、二次粉砕機14で粉砕されて微粒化される。微粒化後に、石炭を加熱して揮発分を低減する前処理を行ってもよい。混練機15では、石炭とバインダとを混練して混練物を調製する。混練物におけるバインダ含有率bは、成型炭の膨張率の予測値yが1以上となるように設定される。
【0054】
混練機15で調製された原料を成型機16に導入して加圧成型し成型炭を複数作製する。成型機16としてはダブルロール成型機を用いることができる。成型機16の成型圧力は、成型炭の膨張率の予測値yが1以上となるように設定される。このようにして作製された成型炭は、一旦タンク17に保管される。成型炭の形状は特に限定されず、例えば、マセック型としてもよい。成型炭の平均粒径は、例えば30〜100mmである。ここでいう平均粒径は、成型炭の体積V
1[ml]を同一体積の球と仮定したうえで下記式(5)によって算出される粒径A
1[mm]の算術平均値である。
A
1=2×((V
1×3/4/π)
1/3)×10 (5)
【0055】
成型工程S5で作製されたタンク17の成型炭は、乾留部20に移送される。乾留工程S6では、成型工程で作製された成型炭を、竪型シャフト炉である乾留炉21の頂部から導入し、加熱されたガスと接触させて昇温する。乾留炉21は、成型炭を加熱する第1の加熱ガスを乾留炉21内部に供給する第1の羽口21aと、第1の羽口21aよりも下方に、第1の加熱ガスよりも高い温度を有する第2の加熱ガスを供給する第2の羽口21bと、を有する。
【0056】
第1の加熱ガスを第1の羽口21aから乾留炉21に導入する際の第1の加熱ガスの温度、すなわち第1の加熱ガスの導入温度は、好ましくは600〜700℃である。第2の加熱ガスを第2の羽口21bから乾留炉21に導入する際の第2の加熱ガスの温度、すなわち第2の加熱ガスの導入温度は、好ましくは850〜1000℃であり、より好ましくは850〜950℃である。このように、乾留炉21は、互いに温度が異なる第1の加熱ガスと第2の加熱ガスとをそれぞれ導入する複数の羽口を有することから、成型炭の昇温速度を精度よく調整することができる。
【0057】
乾留炉21は、第2の羽口21bの下方に、ガス抽出口21cを有する。エジェクター25によって、ガス抽出口21cから抽出されたガスは、エジェクター25を駆動するガスと一体になって第1の加熱ガスとなる。乾留炉21は、ガス抽出口21cの下方に、乾留によって生成したコークスを冷却する冷却ガスを導入する冷却ガス導入口21dを有する。冷却ガス導入口21dから導入される冷却ガスの温度、すなわち冷却ガスの導入温度は、好ましくは20〜60℃である。すなわち、乾留炉21には、上方から下方に向けて、第1の羽口21a、第2の羽口21b、ガス抽出口21c及び冷却ガス導入口21dが順次設けられている。
【0058】
成型炭が乾留炉21の頂部から導入されると、成型炭は乾留炉21内を上昇する加熱ガスと向流接触する。これによって、成型炭の昇温が開始される。成型炭の導入当初の加熱温度は、乾留炉21の頂部の温度を変えることによって調整することができる。乾留炉21の頂部の温度は、例えば250〜400℃である。成型炭は、乾留炉21内を降下しながら昇温される。そして、乾留炉21の第2の羽口21b付近で最高温度に到達する。この最高温度は、第2の加熱ガスの導入温度とほぼ同等である。このようにして、成型炭の乾留が進行して成型コークスが生成する。乾留時における成型炭の最高温度は、例えば850〜1000℃である。
【0059】
生成した成型コークスは、乾留炉21を下方に移動して、冷却ガス導入口21dから導入された冷却ガスと向流接触し、50〜150℃程度まで冷却される。冷却された成型コークスは乾留炉21の底部から取り出される。このようにして、安定的に高い強度を有する成型コークスを連続的に製造することができる。
【0060】
乾留炉21の頂部から排出されたガスは、顕熱回収装置22a及びガスクーラー22bを備えるタール回収設備22に導入される。タール回収設備22では、ガスに含まれる水分やタール及びピッチの軽質留分を除去してガスの精製を行う。精製されたガスは、循環設備によって乾留炉21に再び導入され、循環して使用される。循環設備には、蓄熱炉23と熱交換器24が備えられている。精製されたガスの一部は、蓄熱炉23において例えば850〜1000℃に加熱された後、第2の加熱ガスとして、第2の羽口21bから乾留炉21に導入される。また、生成されたガスの他の一部は、熱交換器24において例えば500〜600℃に加熱された後、エジェクター25の駆動ガスとなる。このガスは、エジェクター25において、乾留炉21のガス抽出口21cから抽出されたガスと一体になって第1の加熱ガスとなる。この第1の加熱ガスは、第1の羽口21aから乾留炉21に導入される。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、成型炭及び成型コークスの製造方法を、
図3に示すような連続式成型コークス製造設備で行うことは必須ではなく、バッチプロセスで行ってもよい。
【実施例】
【0062】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[原料の準備]
石炭として、表1に示す性状を有する原炭(A炭及びB炭)を準備した。表1に示す性状は、JIS M 8812:2006に準拠して測定された値である。また、バインダとして、市販のソフトピッチ及びタールを準備した。
【0064】
【表1】
【0065】
[石炭の膨張率の測定]
各原炭の前処理(事前乾留)を行って、揮発分が5質量%の石炭とした。JIS M 8801:2004の「9.膨張性試験方法(ジラトメータ法)」に準拠して、棒状の石炭の成型体を作製し、石炭単体の膨張率xを求めた。具体的には、前処理後、粉砕して石炭の粒径を150μm以下にした。この石炭を、基準成型圧力(d
0=2ton/cm)で成型して、直径6mm、長さ60mmのサイズに成型して成型体を作製した。成型した成型体を内径8mmの細管に入れ、その上にピストンを載せて、1.47Nの荷重をかけた。荷重をかけた状態で、電気炉内で3℃/分の昇温速度で500℃まで加熱した。ピストンの変位量から、上式(2)によって石炭単体の膨張率xを求めた。前処理を行っていない原炭の膨張率xも同様にして求めた。
【0066】
[割合Aの導出]
石炭とバインダ(ソフトピッチ又はタール)とを混合して、表2及び表3に示すとおり、バインダ含有率の異なる複数の混練物サンプルを作製した。この混練物サンプルを表2に示す成型圧力d
0で成型して、直径6mm、長さ60mmのサイズを有する棒状の第1の成型炭サンプルを作製した。この第1の成型炭サンプルの膨張率w
0を、石炭単体の膨張率xと同様の方法によって求めた。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表2及び表3の結果を用いて、バインダの含有率bを独立変数とし、バインダの添加による膨張率の変化量wを従属変数とする単回帰分析をそれぞれ行った。このとき、切片は0の設定とした。この単回帰分析によって、バインダの種類ごとに下記式(6)を導出し、傾き、すなわち割合Aを求めた。
w=A×b (6)
【0070】
式(6)中、wはバインダ含有率による膨張率の変化量を示し、bはバインダの含有率(質量%)を示す。また、Aはバインダの含有率に対する成型炭の膨張率の変化量の割合[1/質量%]を示す。表2の結果を単回帰分析して求められた割合Aは
0.018であり、表3の結果を単回帰分析して求められた割合Aは
0.02であった。表2及び表3の単回帰分析結果の相関係数は、それぞれ、R
2=0.995、R
2=0.996であった。このことは、バインダの含有率bによって、成型炭の膨張率を精度よく予測できることを示している。
【0071】
[割合Cの導出]
石炭とソフトピッチとを混合して、ソフトピッチの含有率が8質量%の混練物サンプルを作製した。この混練物サンプルを表4に示すとおり、基準成型圧力d
0又はこれとは異なる成型圧力で成型して、直径6mm、長さ60mmのサイズを有する棒状の第2の成型炭サンプルを作製した。この第2の成型炭サンプルの膨張率z
0を、石炭の膨張率xと同様の方法によって求めた。これらの結果を表4に示す。
【表4】
【0072】
成型圧力の基準成型圧力d
0は2ton/cmである。したがって、成型圧力が5ton/cmのときの膨張率の変化量(z
0−x)と、成型圧力が2ton/cmのときの膨張率の変化量(z
0−x)差を、成型圧力の差(d−d
0=5−2=3)で割ることによって、成型圧力と基準成型圧力の差(d−d
0)に対する、膨張率の変化量zの割合C[z/(d−d
0)]を求めた。その結果、上記割合Cは、0.025であった。
【0073】
バインダとして、ソフトピッチに変えてタールを用いて、タールの含有率が8質量%の混練物サンプルを作製した。この混練物サンプルを表4と同様の条件で成型して、第2の成型炭サンプルを作製し、膨張率z
0を求めた。この結果から、割合Cを求めたところ、0.025であり、ソフトピッチを用いた場合と同一であった。
【0074】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
上述の石炭とバインダとを用い、
図3に示すような連続式成型コークス製造設備を準備した。表1に示す原炭(A炭、B炭)を、電気炉を用いて400〜650℃に加熱して前処理工程を行った。前処理後の石炭の揮発分は、表1に示すとおりであった。この石炭と表5に示すバインダとを用いて、
図3の連続式成型コークス製造設備によって、混合工程、成型工程及び乾留工程を行って、成型炭及び成型コークスを作製した。乾留炉21では、成型炭を900℃まで加熱した。混練物におけるバインダの含有率及びダブルロール成型機による成型圧力(線圧)は表5に示すとおりである。
【0075】
【表5】
【0076】
表5には、成型圧力として線圧の値と、面圧の値を示している。線圧及び面圧は互いに換算することが可能であり、成型圧力としては、どちらの指標を用いてもよい。表5に記載した面圧は、計算式[0.2×
(線圧−2)+1.08]で算出された値である。
【0077】
表6に、各実施例及び各比較例のバインダ含有率bによる膨張率の変化量の予測値、成型圧力dによる膨張率の変化量の予測値、成型炭の膨張率の予測値及び実測値、並びに成型コークスのドラム強度を示す。バインダ含有率bによる膨張率の変化量は、上述の[割合Aの導出]で求めた割合Aを用いて計算された値である。成型圧力dによる膨張率の変化量は、上述の[割合Cの導出]で求めた割合Cを用いて計算された値である。なお、基準成型圧力d
0は、2ton/cmである。
【0078】
【表6】
【0079】
成型炭の膨張率の実測値は、上述の[石炭の膨張率の測定]と同様の方法で測定された値である。表6に示す結果から、バインダ含有率b及び成型圧力と基準成型圧力の差(d−d
0)と、割合A,Cを用いることによって、成型炭の膨張率を高い精度で予測できることが確認された。そして、高い精度で予測される成型炭の膨張率を1以上とすることによって、高い強度を有する成型コークスを安定して製造できることが確認された。
【解決手段】石炭とバインダとを混練して成型し成型炭を作製する成型工程と、成型炭を乾留して成型コークスを得る乾留工程と、を有する成型コークスの製造方法であって、成型工程の前に、石炭とバインダとを用いて、バインダの含有率による成型炭の膨張率の変化と、成型圧力による成型炭の膨張率の変化と、を予測する準備工程を有しており、成型工程では、準備工程の予測結果に基づく膨張率の予測値yが1以上である成型炭を作製する、成型コークスの製造方法を提供する。