特許第5714191号(P5714191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金マテリアルズ株式会社の特許一覧 ▶ 日鉄住金マイクロメタル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5714191
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】半田ボールおよび電子部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20150416BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20150416BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20150416BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   C22C13/00
   C22C13/02
   H05K3/34 512C
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-544846(P2014-544846)
(86)(22)【出願日】2014年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2014062588
【審査請求日】2014年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-113421(P2013-113421)
(32)【優先日】2013年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄住金マイクロメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 晋一
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝之
(72)【発明者】
【氏名】田中 將元
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝一
(72)【発明者】
【氏名】佐川 忠礼
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/131114(WO,A1)
【文献】 特表2008−521619(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051255(WO,A1)
【文献】 特開2013−000744(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有し、残部がSn、或いは、残部がSnおよび不可避不純物であるSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物が前記Sn-Bi系合金中に形成されている
ことを特徴とする半田ボール。
【請求項2】
前記Sn-Bi系合金はAgを含有し、前記Agの含有量が1.0質量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の半田ボール。
【請求項3】
前記Cuと前記Niの比率が(5〜20):1である
ことを特徴とする請求項1または2記載の半田ボール。
【請求項4】
Mg,Ga,Pのいずれか、もしくは2種以上を総計で0.0001〜0.005質量%含有している
ことを特徴とする請求項1〜のうちいずれか1項記載の半田ボール。
【請求項5】
Ge,Sb,In,P,As,Al,Auのうち少なくともいずれか1種を不可避不純物として含有ている
ことを特徴とする請求項1〜のうちいずれか1項記載の半田ボール。
【請求項6】
上記のSnが低α線Snからなり、発するα線量が1[cph/cm2]以下である
ことを特徴とする請求項1〜のうちいずれか1項記載の半田ボール。
【請求項7】
複数の電子部品間を接合部によって接合した電子部材であって、該接合部の一部又は全部が請求項1〜のうちいずれか1項記載の半田ボールによって形成されている
ことを特徴とする電子部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体実装用の半田ボール、およびこれを用いた電子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板等には電子部品が実装されている。電子部品の実装は、プリント配線基板等と電子部品との間を半導体実装用半田ボール(以下、「半田ボール」という。)とフラックスとで仮接合させた後、プリント配線基板全体を加熱して前記半田ボールを溶融させて、その後に基板を常温まで冷却して半田ボールを固体化することで強固な半田接合部(単に、接合部とも呼ぶ)を確保する、いわゆるリフロー法と呼ばれる手法にて行うことが一般的である。
【0003】
プリント配線基板等を組み込んだ電子機器を動作させると、動作のために印加した電流に起因して、電子機器内部では熱が発生する。前記半田ボールはシリコンチップや樹脂基板等という熱膨張係数が異なる材料を接続しているため、電子機器の動作に伴い、半田ボールは熱疲労の環境下に置かれることになる。その結果、半田ボールの内部にはクラックと呼ばれる亀裂が進展してしまい、半田ボールを通じた電気信号の授受に支障をきたす虞もある。このような熱疲労の環境下における半田ボールの長期信頼性は、一般的には熱疲労特性やTCT(Thermal Cycling Test)特性と呼ばれ、半田ボールに求められる最重要特性とされている。
【0004】
昨今では、電子装置を廃棄処理する際の環境への悪影響を最小限にとどめるために電子装置の接続材料として使用される半田合金の無鉛化(鉛フリー化)が要求されつつあるが、前記半田ボールの組成として、純Snを使用することは一般的では無い。これは、純Snが極端に軟らかいことから、前述の熱疲労特性を調べる際のTCT試験の過程でクラックが進展し易くなり、半田ボールの長期信頼性が劣悪となるからである。そこで、半田ボールの組成としては、一般にSn-Ag共晶組成(Ag:3.5質量%、Sn:残部)の他、例えば、特許文献1や特許文献2で開示されているように、前記Sn-Ag共晶の周辺組成に第3元素として少量のCuを添加した半田組成が広く使用されている。
【0005】
これは、Agの濃度を高めることで半田ボール中にAg3Snと呼ばれる金属間化合物を多数析出させて、析出硬化により半田ボールを硬化させ、外力に対して半田ボールが変形し難い状態とする。従来はAgの濃度を高めることにより、熱疲労に伴う荷重が生じても熱疲労に伴う変位量そのものを小さくすることで、半田ボールの内部に進展する亀裂の進行を遅くできると考えられていた。
【0006】
しかしながら、Agは高価であることから3質量%程度の添加は望ましくなく、また、Agを3質量%程度添加すると、針状のAg3SnがSn中に多量に析出することになり、前記仮接合時に使用したフラックスがリフロー時の熱で気体化した際、その気体が針状のAg3Snにトラップされ、気泡起因のボイドが接合界面近傍に形成され易い。直径が180[μm]以上のボールサイズでなる従来の半田ボールの場合は、半田ボールと電極から成る接合部の面積が充分大きく、そのため、仮に針状のAg3Snが接合部近傍に析出したとしても、半田ボールと電極との間の接合強度の低下は問題とはならず、熱疲労特性にも悪影響を及ぼさなかった。
【0007】
しかしながら、近年の携帯型電子機器の小型化・軽量化の加速に伴い、直径が180[μm]未満の半田ボールのニーズが高まっており、この場合、電子部材に使用されている半田接合部の接合面積も縮小されることから、ボイドの抑制は、従来以上に重要視されてきている。そこで、Sn-Bi系合金のように、Agを使用しない半田ボールも提案されている。BiはSn中に固溶するので前記Ag3Snのような針状析出物は形成されず、その結果、昨今の接合面積が縮小する環境でも上記ボイドの懸念は生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−1481号公報
【特許文献2】特開2004−1100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、Sn中にBiを添加すると、半田の強度は向上するものの、半田が脆化してしまう。昨今急増しているBGA(Ball Grid Array)用の半田ボールにおいては、電子機器を不意に落下してしまっても故障を生じさせない耐落下衝撃特性(以下、ドロップ特性とも呼ぶ)の確保がTCT特性と並んで重視されているが、従来のSn-Bi系合金からなる半田ボールでは、TCT特性が向上するものの、ドロップ特性が劣悪となってしまうという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得られる半田ボール及びこれを用いた電子部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る半田ボールはCuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有し、残部がSn、或いは、残部がSnおよび不可避不純物であるSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物が前記Sn-Bi系合金中に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項に係る半田ボールは、請求項1において、前記Sn-Bi系合金はAgを含有し、前記Agの含有量が1.0質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項に係る半田ボールは、請求項1または2において、前記Cuと前記Niの比率が(5〜20):1であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項に係る半田ボールは、請求項1〜のうちいずれか1項において、Mg,Ga,Pのいずれか、もしくは2種以上を総計で0.0001〜0.005質量%含有していることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項に係る半田ボールは、請求項1〜のうちいずれか1項において、Ge,Sb,In,P,As,Al,Auのうち少なくともいずれか1種を不可避不純物として含有ていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項に係る半田ボールは、請求項1〜のうちいずれか1項において、上記のSnが低α線Snからなり、発するα線量が1[cph/cm2]以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項に係る電子部材は、複数の電子部品間を接合部によって接合した電子部材であって、該接合部の一部又は全部が請求項1〜のうちいずれか1項記載の半田ボールによって形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半田ボールおよび電子部材によれば、接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得られる半田ボール及びこれを用いた電子部材を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前記のように、従来のSn-Bi系合金でなる半田ボールではTCT特性は向上するものの、耐落下衝撃特性(ドロップ特性)が劣悪となってしまう。この理由を本発明者らが鋭意検討した結果、この現象は、従来のSn-Bi系合金の半田ボールを実装すると、電極(例えばCu電極)との間に主としてCu6Sn5という脆性的な金属間化合物が厚く形成され、耐落下衝撃特性試験(以下、ドロップ特性試験とも呼ぶ)時の衝撃によってCu6Sn5、もしくはその近傍が脆性破壊してしまうことに起因することが明らかとなった。
【0021】
そこで、本発明では、Sn-Bi系合金でなる半田ボールにおいて、実装後に半田ボールと電極との間に主として(Cu,Ni)6Sn5という比較的延性な金属間化合物を薄く形成したことにより、ドロップ特性試験による衝撃が加わっても、金属間化合物やその近傍が延性的に変形し得、脆性破壊が生じ難くなり、高いドロップ特性を確保し得ることを見出した。但し、半田ボールを製造する際、Sn-Bi系合金となる原料中にNiを単に添加しただけでは、半田ボール中のNiは、半田ボール中のBiと結合して、NiBiやNiBi3等の金属間化合物や、Sn-Bi固溶体にNiが更に固溶した固溶体等が先行して形成されてしまい、Niが消費されてしまう。そのため、実装時に電極との間に形成される相は主としてCu6Sn5となってしまい、ドロップ特性を改善できない。
【0022】
そのため、本発明では、半田ボールを製造する際、所定の濃度に見合うように添加元素を調合した半田母合金を、るつぼや鋳型中で加熱して溶解することで均一化し、しかる後に凝固させる手法を利用するが、この際、予めCuとNiを用いてCu-Ni系母合金を作製しておき、それをSn-Bi系合金の原料中に添加してから溶解で均一化させるようにした。
【0023】
ここでCuとNiは、両者間で全率固溶の平衡状態図を示すことからも示唆されるように、互いに結合しやすい性質を有しており、予めCu-Ni系母合金を作製しておけば、その後に、Cu-Ni系母合金をSn-Bi系合金の原料中に添加しても、Cu-Ni系母合金が分解してBiと金属間化合物を形成したり、Sn-Bi固溶体と新たな固溶体を形成したりすることなく、そのままSn-Bi系合金中のSnと反応して(Cu,Ni)6Sn5になり易いと考えられる。
【0024】
これにより、本発明では、NiBiやNiBi3等の金属間化合物や、Sn-Bi固溶体にNiが更に固溶した固溶体等の生成が抑制され、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物をSn-Bi系合金中に分散させた、TCT特性およびドロップ特性がともに優れた半田ボールを製造することができた。
【0025】
また、(Cu,Ni)6Sn5の融点は500℃以上と高温であるため、プリント配線基板や半導体チップ等の電子部品間を半田ボールで接合させるリフロー工程(おおむね250℃程度)での加熱では(Cu,Ni)6Sn5は分解したり消失したりせず、半田ボールにより電極上に接合部が形成された後でも接合部中に(Cu,Ni)6Sn5は存在し得る。なお、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物は、微粒子状に形成され、Sn-Bi系合金中に微細分散されていることが望ましい。
【0026】
このようなCu-Ni系母合金を活用して作製した半田ボールを電極上に実装すれば、半田ボール中に存在している(Cu,Ni)6Sn5が析出核となって電極上に形成される金属間化合物が主として(Cu,Ni)6Sn5となり、その結果、Biの添加によるTCT特性の向上効果と、(Cu,Ni)6Sn5によるドロップ特性の向上効果とを同時に得ることができる。なお、半田ボール中における(Cu,Ni)6Sn5の観察はSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)により行え、1000倍〜5000倍程度の倍率で観察できる程度に(Cu,Ni)6Sn5が存在していれば上述の効果が得られる。(Cu,Ni)6Sn5の同定はTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)の電子線回折パターンの解析により行うことができる。
【0027】
ここで、半田ボールと電極との接合界面で(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物を効率的に得るには、半田ボールの状態での組成が、Snを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%含有していることが望ましい。Cuが0.3質量%未満、或いはNiが0.01質量%未満では、Cu-Ni系母合金が充分に生成されず、半田ボールと電極との接合界面で(Cu,Ni)6Sn5金属間化合物が形成され難くなるため好ましくない。逆に、Cuを2.0質量%超、或いはNiを0.2質量%超とすると半田ボールが酸化され易くなるため、例えば半田ボールの表面がミラーボール状にいびつとなって実装時の誤認識を招いたり、或いは半田ボールの表面を厚い酸化被膜が覆うことで通常のフラックス量ではその酸化被膜を除去しきれず、半田ボールおよび電極間の接合強度(プル強度やシェア強度)が劣化してしまうことから好ましくない。
【0028】
半田ボールの状態での組成でSn-Bi系合金中のBiを0.1〜3.0質量%とすれば、半田ボールを適度に硬化させることができ、その結果、TCT特性が良好となる。しかしながら、Biを0.1質量%未満とすると、TCT特性について顕著な効果が得られず、逆にBiが3.0質量%超となると(Cu,Ni)6Sn5によるドロップ特性の向上効果を打ち消す程、半田ボールが硬化してしまい、TCT特性とドロップ特性の両立はできなくなることから好ましくない。
【0029】
更にドロップ特性を向上させるには、本願のように(Cu,Ni)6Sn5が形成されるという特徴を考慮した手法が必要である。ここで、従来のようなCu6Sn5が形成される半田ボールでは、Cu6Sn5が固く脆性であるがために、Cu6Sn5とSn母相との固さの差が大きくなり、ドロップ試験時に進展する亀裂は、Cu6Sn5の内部もしくはその近傍で発生した後に、Cu6Sn5の内部もしくはその近傍で優先的に進展してゆく。そのため、従来の半田ボールでは、Sn母相の内部を亀裂が進展することは極めてまれである。
【0030】
これに対して、本願のように(Cu,Ni)6Sn5が形成される半田ボールでは、(Cu,Ni)6Sn5がCu6Sn5と比較して延性を示すことから、(Cu,Ni)6Sn5とSn母相との固さの差が小さくなり、ドロップ試験時に進展する亀裂は、(Cu,Ni)6Sn5の内部もしくはその近傍で発生した後に、(Cu,Ni)6Sn5の内部もしくはその近傍のみで進展するわけではなく、Sn母相の内部にもしばしば亀裂が進展するという従来では見られない現象が生じる。
【0031】
そのため、本願のように(Cu,Ni)6Sn5が形成される半田ボールでは、ドロップ特性の向上効果を更に得るために従来から一般的に考えられている、(i)金属間化合物(本願では(Cu,Ni)6Sn5)で発生する亀裂を抑制することと、(ii)発生した亀裂が金属間化合物(本願では(Cu,Ni)6Sn5)の内部もしくはその近傍を進展するのを防ぐことと、を行うだけでは不十分であり、更に、(iii)発生した亀裂がSn母相中を進展するのを防ぐという点も考慮する必要があり、これら上述した(i)、(ii)および(iii)という3つのアプローチを組み合わせることが重要となることを本願発明者らは見出した。
【0032】
そこで、まず上記(iii)への対策手法としては、Sn-Bi系合金に含有させるBiを0.1〜0.5質量%とすることが有効である。なぜなら、Biの濃度をこの範囲とすれば、Bi濃度の適正化に伴って半田ボールを構成するSn母相の粒界エネルギーを低下させることができ、その結果、ドロップ試験時に(Cu,Ni)6Sn5近傍にあるSn母相の粒界で亀裂が進展するのを防ぐことができるため、ドロップ特性が向上するからである。なお、この手法は、本願のように(Cu,Ni)6Sn5が形成されることによって亀裂がSn母相中も進展する半田ボールに対して有効な手法であり、従来のようにCu6Sn5が形成される半田ボールでは、亀裂がSn母相の内部を進展することは極めて稀であることから有効な手法とはならない。
【0033】
あるいは上記(i)や(ii)への対策手法としては、Sn-Bi系合金に含有させるCuとNiとについて、Cuを0.8〜1.2質量%、Niを0.04〜0.15質量%、とすることがある。この場合、(Cu,Ni)6Sn5中の格子欠陥の量を減らせることで、(Cu,Ni)6Sn5内部で亀裂が進展することを抑制でき、その結果、ドロップ特性の向上効果が更に得られる。
【0034】
ここで、上記(i)、(ii)、および(iii)への対策を組み合わせた手法としては、Sn-Bi系合金に含有させるCu,Ni,Biについて、Cuを0.8〜1.2質量%、Niを0.04〜0.15質量%、Biを0.1〜0.5質量%含有させる手法がある。この場合、Bi濃度の適正化に伴ってSn母相の粒界エネルギーを低下させる効果と、(Cu,Ni)6Sn5中の格子欠陥の量を減らす効果とが同時に得られるため、ドロップ特性の向上効果がより一層得られる。
【0035】
しかしながら、TCT特性も更に高める目的で、Biの濃度が0.5質量%を超えた半田ボールを製造する際は、上記(i)と(ii)への対策を組み合わせた手法(即ち、Cuを0.8〜1.2質量%、Niを0.04〜0.15質量%添加する手法)を行うことに加えて、更にCuとNiとの添加量を(5〜20):1の比率にすることが好ましい。これは、このような半田ボールでは、(Cu,Ni)6Sn5中の格子欠陥の量を格段的に減らすことができるので、Biの濃度が0.5質量%を超えたとしても、ドロップ特性の向上効果を更に得ることができるためである。
【0036】
なお、本発明の半田ボールにおいて、含有させるCu,Niについては、(Cu,Ni)6Sn5中のCuとNiの比率が10:1となる際に、(Cu,Ni)6Sn5中の格子欠陥の量が最小化することから、(Cu,Ni)6Sn5中のCuとNiを(10±3):1の比率にすることが、極めて良好なドロップ特性の向上効果を得ることができ、より好ましい。あるいは、本発明の半田ボールにおいては、CuとNiの添加量を(5〜7):1もしくは(13〜20):1の比率にした場合でも、Biの添加量を0.1〜0.5質量%とできるのであれば、上述の効果の複合効果によって、CuとNiの比率を(10±3):1とした場合と同程度に、極めて良好なドロップ特性の向上効果を得ることができる。
【0037】
なお、半田ボールとなるSn-Bi系合金では、Snを95質量%以上含有させることで、Snを主体としており、このようなSnを主体としたSn-Bi系合金にCu,Ni,Biを所定量添加し、更に必要に応じて後述のMg,Agを添加する。
【0038】
また、半田ボールの濡れ性を高めるには、Sn-Bi系合金に対して、更にMg,Ga,Pのうちいずれか、もしくは2種以上を総計で0.0001〜0.005質量%添加することが好ましい。これは、MgやGa、PがSnよりも卑な金属であるため、Snよりも優先的に酸化することで、急冷状態において非晶質状の酸化物層を形成し、半田ボール表面のSn酸化物の成長が抑制されるためと考えられる。この硬化はMg,Ga,Pのうちいずれか、もしくは2種以上の添加量が総計で0.0001質量%未満になると得られず、逆に0.005質量%を超えるとMgやGa、P自体が激しく酸化してしまい、半田ボールが球状とはならずに多角形状となってしまうことから好ましくない。このような半田ボール表面の酸化の形跡は、通常のLaB6やタングステンをフィラメントにしているSEMでは電子銃を絞ることができず、上記酸化の形跡は観察し難いが、例えばFE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope:電界放出型走査電子顕微鏡)のように高分解能な電子顕微鏡で観察することができる。
【0039】
また、本願発明者らが鋭意検討した結果、MgとGaの両方を同時にSn-Bi系合金である半田合金中に添加したり、あるいはMgとPの両方を同時にSn-Bi系合金である半田合金中に添加すると、上記の効果に加えて、更に半田ボール表面の明度が向上するという効果が合わせて得られることがわかった。この効果は、MgとGa、もしくはMgとPの同時添加による複合効果によるものと考えられ、Mg単独、Ga単独、もしくはP単独では得られない。具体的には、0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のGaとを総計で0.0002質量%以上0.005質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加するか、もしくは0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のPとを総計で0.0002質量%以上0.005質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加すると、明度L*(エルスター)が70%以上となる。
【0040】
このような明度L*が高い半田ボールは、例えば、半田ボールをマウンター装置で基板上やデバイス上に転写する際に、マウンター装置が半田ボールを誤認識するリスクを減らすことができる。なお、このような明度L*の高い半田ボールとして、より好ましくは、0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のGaとを総計で0.0005質量%以上0.0007質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加するか、もしくは0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のPとを総計で0.0005質量%以上0.0007質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加すると、明度L*を80%以上にでき、上述したマウンター装置による半田ボールの誤認識の発生リスクを更に減らすことができる。
【0041】
さらに、このような明度L*の高い半田ボールとして、もっとも好ましくは、0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のGaとを総計で0.0008質量%以上0.005質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加するか、もしくは0.0001質量%以上のMgと、0.0001質量%以上のPとを総計で0.0008質量%以上0.005質量%以下の範囲でSn-Bi系合金である半田合金中に添加すると、明度L*を85%以上にでき、上述したマウンター装置による半田ボールの誤認識の発生リスクを更に減らすことができる。なお、ここで明度L*の測定は、JIS-Z8729に沿って測定できる。
【0042】
また、本発明の半田ボールでは、Sn-Bi系合金中のAgの含有量が、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析による検出限界以下であることが望ましく、Sn-Bi系合金中にAgを含有していなくても、Biを0.1〜3.0質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%含有させることで硬化し得、良好なTCT特性を得ることができ、更にはドロップ特性の向上効果も得ることができる。なお、Si-Bi系合金中に含有させるBiは2.0質量%以下とすることで、さらにドロップ特性の向上効果も得ることができる。なお、ここで、ICP分析とは、ICP発光分光分析や、ICP質量分析を示し、ここで「検出限界以下」とは、ICP発光分光分析またはICP質量分析のいずれかで検出限界以下となればよい。
【0043】
一方、本発明の半田ボールでは、Sn-Bi系合金に対し、更にAgを含有させてもよく、Sn-Bi系合金中のAgの含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.1〜1.0質量%にすれば、半田ボール中に前述のAg3Snが析出して半田ボールが硬化し、TCT特性を更に高めることもできる。しかしながら、1.0質量%超のAgの添加は前述のボイドが発生しやすくなるので好ましくない。既に述べたように、ドロップ特性を向上させるには、添加するBiの濃度を0.1〜0.5質量%とすることが望ましいが、その場合はBiの添加量が少ないことからTCT特性を確保し難い。その場合には、Sn-Bi系合金に対して更にAgを0.1〜1.0質量%添加すると、半田ボールのドロップ特性を損なわずに、TCT特性を確保できるので、製造過程において、Sn-Bi系合金に対して更にAgを0.1〜1.0質量%添加することが望ましい。
【0044】
また、本発明の半田ボールでは、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物がSn-Bi系合金中に形成できればよく、例えばSnを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有したSn-Bi系合金中に、Ge,Sb,In,P,As,Al,Au等の他の元素を含有させてもよい。但し、Sn-Bi系合金中のGe,Sb,In,P,As,Al,Au等の他の元素が、ICP分析による検出限界以下であることが望ましい。この場合、本発明の半田ボールは、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有し、残部がSn、或いは残部がSnおよび不可避不純物であるSn-Bi系合金により形成され得る。
【0045】
特に、Ge,Sb,In,P,As,Al,Auは、Sn-Bi系合金中において、ICP分析による検出限界以下か、または前記Ge,Sb,In,P,As,Al,Auのうち少なくともいずれか1種を含有していたとしても、いずれも不可避不純物として含有されていることが望ましい。なお、ここで不可避不純物とは、精錬、溶解等の製造工程で、材料中への混入が避けられない不純物元素を指すものであり、例えばGe,Sb,In,P,As,Al,Auであれば、30質量ppm以下を指す。因みに、これら以外のSnの不可避不純物には、例えば、Pb,Zn,Fe,Cdがある。
【0046】
以上の構成において、半田ボールでは、Snを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有したSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物がSn-Bi系合金中に形成されるようにしたことにより、電極に接合させた際に接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得ることができる。
【0047】
また、半田ボールでは、Agの含有量をICP分析による検出限界以下にすることで、針状のAg3Snが形成され難くなり、その分、ボイドの発生を抑制でき、その一方でAgの含有量がICP分析による検出限界以下となっても、Biの添加により、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得ることができる。
【0048】
但し、Agは、Sn-Bi系合金中に含有させてもよく、この際、Agの含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.1〜1.0質量%にすれば、半田ボール中にAg3Snが析出するものの、従来よりもボイドの発生を十分に抑制でき、その一方で半田ボール中に析出したAg3Snにより半田ボールが硬化し、TCT特性を更に高めることができる。
【0049】
実際上、この半田ボールでは、電子部品間に実装させたときの熱疲労特性(TCT特性)の評価として、後述する実施例に従ったTCT試験を目安とした場合、例えば半田ボールを−40[℃]で30分間維持した後、125[℃]で30分間維持する一連の工程を1サイクルとし、この1サイクルを200回以上連続して行ったTCT試験を行っても、電気抵抗値がTCT試験を行う前の電気抵抗値以下となり、良好な熱疲労特性を得ることができている。
【0050】
また、この半田ボールでは、電子部品間に実装させたときの耐落下衝撃特性(ドロップ特性)の評価として、後述する実施例に従った耐落下衝撃特性試験を目安とした場合、例えばJEDEC規格のJESD22−b111に準拠した試験法により、耐落下衝撃特性試験を行ったとき、20回超、落下衝撃を加えても、電気抵抗値が耐落下衝撃特性試験を行う前の電気抵抗値以下となり、良好な耐落下衝撃特性を得ることができている。
【0051】
なお、半田ボール中の組成を同定する手法については特に制限は無いが、例えばエネルギー分散X線分光法(EDS;Energy Dispersive Xray Spectrometry)、電子プローブ分析法(EPMA;Electron Probe Micro Analyzer)、オージェ電子分光法(AES;Auger Electron Spectroscopy)、二次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)、誘導結合プラズマ分析法(ICP;Inductively Coupled Plasma)、グロー放電スペクトル質量分析法(GD-MASS;Glow Discharge Mass Spectrometry)、蛍光X線分析法(XRF;X-ray Fluorescence Spectrometer)等が実績も豊富で精度も高いので好ましい。
【0052】
因みに、本発明の半田ボールを半導体メモリーへの実装に使用したり、もしくは半導体メモリーの近傍での実装に使用した場合は、当該半田ボールにより形成された接合部からα線が放射されると、当該α線が半導体メモリーに作用してデータが消去されてしまう虞もある。そこで、α線による半導体メモリーへの影響を考慮した場合、本発明の半田ボールは、α線量が1[cph/cm2]以下というように、通常よりもα線量が少ない、いわゆる低α線量の半田合金から成る半田ボールとしてもよい。このような低α線量でなる本発明の半田ボールは、α線の発生源となる不純物を除去することで純度を99.99%以上とした高純度のSnを原料として使用し、上述したSn-Bi系合金を製造することで実現できる。
【0053】
また、本発明の半田ボールの形状は特に問わないが、ボール状の半田合金を接合部へ転写して突起状としたり、更にその突起物を別な電極に実装したりするのが、実績も豊富であるので工業的には好ましい。
【0054】
本発明の半田ボールは、前記BGA以外にも、CSP(Chip Scale Package)、或いはFC(Flip Chip)と呼ばれる実装形態を有する半導体デバイスの接続端子として使用した場合でも効果を発現することができる。本実施形態による半田ボールをこれら半導体デバイスの接続端子として利用する場合には、例えば、フラックスや半田ペーストという有機物を予めプリント配線基板上の電極に塗布してから半田ボールを電極に並べ、前述のリフロー法で強固な半田接合部を形成することで電子部材を得ることができる。
【0055】
本実施形態の電子部材では、これらのBGA、CSP、FCに本実施形態の半田ボールを実装した電子部材も含み、またフラックスや半田ペーストを予めプリント配線基板上の電極に塗布してから電子部材を電極上に乗せ、前述のリフロー法で強固に半田付けすることで電子部材を更にプリント配線基板に実装させた電子部材も含むものとする。さらに、このプリント配線基板の代わりに、TAB(Tape Automated Bonding)テープと呼ばれるフレキシブル配線テープや、リードフレームと呼ばれる金属製配線を使用しても良い。
【0056】
以上の構成によれば、このような半田ボールとなり得る本発明の半導体実装用の半田合金の製造方法では、CuおよびNiを添加して作製したCu-Ni系母合金を用意した後、SnおよびBiを添加して作製したSn-Bi系原料中に、当該Cu-Ni系母合金を添加して加熱・溶解することで均一化して凝固させることによって、Snを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有したSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物がSn-Bi系合金中に形成された半田合金を製造する工程を含む。
【0057】
ここで、予め作製しておくCu-Ni系母合金は、CuおよびNiを添加して加熱・溶解させることにより均一化し、凝固させることにより作製される。
【0058】
そして、半田合金から半田ボールを製造する製造方法では、上述した半田合金の製造工程に加えて、当該半田合金から線材を作製した後、当該線材を切断して一定体積にしてから加熱・溶解して凝固させることにより球状の半田ボールを製造する工程を含む。
【0059】
ここで、一の実施の形態による半導体実装用の半田合金の製造方法では、Cu-Ni系母合金と、Sn-Bi系原料とのいずれにもAgを添加せずに、Sn-Bi系合金からなる半田合金を製造する。これにより、この半導体実装用の半田合金の製造方法では、Agの含有量が、ICP分析による検出限界以下である半田合金を製造し得る。このような半導体実装用の半田合金では、半田ボールとして半導体の実装に用いた際、針状のAg3Snが形成され難くなり、その分、ボイドの発生を抑制でき、その一方でAgの含有量がICP分析による検出限界以下となっても、Biの添加により、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得ることができる。
【0060】
その一方、上述した一の実施の形態とは異なり、Agを含有した半田合金により半田ボールを製造してもよく、この場合、半導体実装用の半田合金の製造方法としては、上述した工程において、Cu-Ni系母合金と、Sn-Bi系原料とのうち、少なくともいずれか一方にAgを添加し、Agの含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.1〜1.0質量%であるSn-Bi系合金からなる半導体実装用の半田合金を製造する工程となる。このような半導体実装用の半田合金では、半田ボールとして半導体の実装に用いた際、半田ボール中にAg3Snが析出するものの、Biの添加により、従来よりもボイドの発生を十分に抑制でき、その一方で半田ボール中に析出したAg3Snにより半田ボールが硬化し、TCT特性を更に高めることができる。
【実施例】
【0061】
半田ボールとなる半田合金の組成を変えてゆき、各半田ボールのボール表面、ボイド発生の有無、熱疲労特性(TCT特性)および耐落下衝撃特性(ドロップ特性)についてそれぞれ調べた。ここでは、予め所定量のCuとNiを高周波溶解炉で275[℃]に加熱して母合金化しCu-Ni系母合金を作製した後、Snを主成分としBi等を添加したSn-Bi系原料に、その母合金(Cu-Ni系母合金)を加えて原料を生成した。次いで、この原料を黒鉛るつぼ内に設置してから高周波溶解炉で275[℃]に加熱して溶解させた後、冷却することで半導体実装用の半田合金を得た。
【0062】
その後、半田合金を線径20[μm]の線材とした。この線材を長さ6.83[mm]で切断してゆき、一定体積にしてから再度高周波溶解炉で加熱・溶解し、冷却することで直径160[μm]の半田ボールを得た。実施例1〜122、比較例1〜4の各半田ボールの組成についてICP発光分光分析で測定した。プラズマ条件高周波出力は1.3[KW]とし、発光強度の積分時間は3秒とし、各元素の検量線用標準液並びに各元素の標準溶液はあらかじめ調製しておいたものを用い、検量線法で同定したところ、下記の表1〜3のような組成であった。今回用いたSn原料の不可避不純物は、Ge,Sb,In,As,Al,Au,Zn,Fe,Cdであった。
【0063】
ここで、下記に示す表1は、Cu-Ni系母合金と、Sn-Bi系原料とのいずれにもAgを添加せずに、Sn-Bi系合金からなる半田合金を製造し、Agの含有量が、ICP分析による検出限界以下である半田合金を用いて半田ボールを製造した実施例を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
下記に示す表2は、Sn-Bi系原料にAgを添加し、Agの含有量を0.1〜1.0質量%としたSn-Bi系合金からなる半田合金を製造し、当該半田合金を用いて半田ボールを製造した実施例を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
なお、表1および表2における半田合金に用いたSnは、特にα線量が低減されていない市販の原料を用いた。一方、表3における実施例121と実施例122では、比較のため、純度99.99%の高純度Snを原料として用いて、α線量が1[cph/cm2]以下の低α線となる半田ボールを作製した。また、半田ボールのα線量は市販の半導体用α線測定機器でカウントし、その結果を表3の「α線発生量」の欄に示した。
【0068】
【表3】
【0069】
半田ボール表面の酸化の程度をFE-SEM並びにEDXを用いて7万倍の倍率で観察した。その際、半田ボールの表面が多角形状に変形していれば×とし、そのような変形が僅かだけ観察されれば△とし、そのような変形がまったく観察されなければ○として、表1の実施例1〜60と、比較例1〜4と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122とについてそれぞれ調べ、表1〜3の「ボール表面の酸化」の欄に示した。その結果、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122とについては、いずれも「ボール表面の酸化」が○か△のいずれかであった。特に、Mgや、Ga、Pを総計で0.0001〜0.005質量%添加した半田ボールでは「ボール表面の酸化」が○となり、良好な結果が得られた。
【0070】
また、半田ボール表面の明度L*を市販の分光測光計を用いて測定した。光源は白色光源を用い、直径3[mm]の円形状の筒の中に半田ボールを敷き詰めて試験片としたものを3個ずつ用意し、その中央部分を測定した際の明度L*をJIS-Z8729に沿って求め、その平均値を本実施例の明度L*とした。明度L*が60%未満の場合は×を、60%以上70%未満の場合は△を、70%以上80%未満の場合は○を、80%以上85%未満の場合は◎を、85%以上の場合は◎○を、それぞれ表1〜3に記載した。
【0071】
表1〜表3から、MgおよびGaの両方を添加した半田ボールや、MgおよびPを添加した半田ボールでは、Mg単体、Ga単体、およびP単体を添加した半田ボールに比べて明度が向上することが確認できた。
【0072】
次に、半田ボールを構成するSn-Bi系合金中に(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物が形成されているか否かについて調べた。まず、FE-SEMで5000倍の倍率で3視野、金属間化合物を観察した後、代表的な金属間化合物の回折パターンをTEMの電子回折パターンから得て、その結晶構造を同定した。(Cu,Ni)6Sn5と同定された場合、SEMで観察された同様のコントラストを有する金属間化合物を(Cu,Ni)6Sn5とみなした。表1〜表3では、上述のSEM観察において(Cu,Ni)6Sn5が観察されれば、「(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物の形成有無」の欄に○印を示し、観察されなければ×印を示した。SEM用の試料は機械研磨で行い、SEM観察時の加速電圧は20[kV]とした。
【0073】
また、特定した(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物のサイズについても調べた。金属間化合物のサイズの同定は、SEM像を撮影して粒子状の金属間化合物の直径を計測してゆき、これら金属間化合物の10個の平均粒径を金属間化合物のサイズとした。TEM用の薄膜試料はFIB(Focused Ion Beam)で切り出し加工を行うことで得て、TEM観察時の加速電圧は100[kV]とした。その結果、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122全てにおいて(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物が、Sn結晶粒内並びにSn結晶粒界上の両位置で1[μm]よりも小さいサブミクロンサイズのものが主体として形成されていることが確認できた。一方、表1の比較例1〜4では、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物は観察されなかった。また、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122の各半田ボールのSn-Bi系合金中には、NiBiやNiBi3でなる金属間化合物や、Sn-Bi固溶体にNiが更に固溶した固溶体の形成が抑制されていることも確認できた。
【0074】
次に、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122と、表1の比較例1〜4の各半田ボールについて、ボイド発生の有無、熱疲労特性、および耐落下衝撃特性について調べた。ここでは、半田ボールを実装するプリント基板として、40[mm]×30[mm]×1[mm]サイズ、電極は0.27[mm]ピッチ、電極表面はCu電極のままという仕様のプリント基板を用いた。そして、プリント基板上に水溶性フラックスを塗布してから半田ボールを搭載し、ピーク温度が250[℃]に保たれたリフロー炉内で加熱し、冷却することで前記プリント基板上に半田バンプを形成した。
【0075】
更にその半田バンプ上に、同様の方法で半導体デバイスを接合(半導体デバイス上の電極に水溶性フラックスを塗布してからプリント基板上の半田バンプに当該電極を位置決めし、ピーク温度が250[℃]に保たれたリフロー炉内で加熱し、冷却することで半導体デバイスに半田バンプを接合)させ、プリント基板(電子部品)/半田バンプ(接合部)/半導体デバイス(電子部品)という構成の電子部材を得た。なお、半導体デバイスは8[mm]角、324ピンで、電極はCuであった。
【0076】
半田ボールの組成を変えた各電子部材に対するボイドの観察は、X線透過観察装置で100バンプを観察し、バンプ径の5分の1超の直径のボイドが観察されたら不良として×とし、観察されなければ○とした。その結果、表1〜3の「ボイド」の欄に示すような結果が得られた。表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122の各半田ボールにおいて「ボイド」の評価が○であった。
【0077】
次に、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122と、表1の比較例1〜4の各半田ボールを用いて作製した上述の電子部材に対してTCT試験を行い、各電子部材について熱疲労特性の評価を行った。TCT試験は、−40[℃]で30分間維持した後、125[℃]で30分間維持する一連の工程を1サイクルとし、この1サイクルを所定回数連続して行った。そして、この1サイクルを25回行った毎にTCT試験装置内から試験片(電子部材)を取り出し、プリント基板および半導体デバイス間の接合部を含む電気抵抗値をあらかじめプリント基板にひきまわした端子間の抵抗値で測定する導通試験を行った。導通試験では、電子部材の電気抵抗値がTCT試験を行う前の初期値の2[Ω]を超えたら不良が発生したと見なし、その結果を表1〜表3の「TCT寿命」の欄に示した。
【0078】
表1〜3の「TCT寿命」の欄では、初めて不良が発生した回数が200回以下であれば不良として×とし、200回超350回以下であれば実用上使用できるレベルということで△とし、350回超450回以下であれば良好として○とし、450回超であれば極めて良好として◎とした。その結果、表1の実施例1〜60のAgを添加していない半田ボール(すなわち、Agの含有量がICP分析による検出限界以下の半田ボール)であっても、Biを所定量添加することで、実用上使用できるレベル以上にまでTCT特性が良くなることが確認できた。
【0079】
次に、表1の実施例1〜60と、表2の実施例61〜120と、表3の実施例121,122と、表1の比較例1〜4の各半田ボールを用いて作製した上述の電子部材に対して、耐落下衝撃特性試験を行い、各電子部材について耐落下衝撃特性の評価を行った。具体的に耐落下衝撃特性の評価は、JEDEC(半導体技術協会;Solid State Technology Association)規格のJESD22-b111に準拠した試験法として、1500[G]の加速度を0.5[ms]印加する衝撃波を用いて評価した。その際、落下させる毎に試験片(電子部材)のプリント基板および半導体デバイス間の接合部における導通性を導通試験により確認した。そして、電子部材におけるプリント基板および半導体デバイス間の接合部を含む電気抵抗値を、予めプリント基板にひきまわした端子間の抵抗値で測定し、耐落下衝撃特性試験を行う前の初期値の2[Ω]を超えたら不良(破断)が発生したと見なした。
【0080】
表1〜3の「ドロップ寿命」の欄では、初めて不良が発生した回数が20回以下であれば不良として×とし、20回超40回以下であれば実用上使用できるレベルということで△とし、40回超70回以下であれば良好として○とし、70回超90回未満であれば極めて良好として◎とし、90回以上であれば最も良好であるとして◎○とした。その結果、Sn-Bi系合金中にBiを0.1〜3.0質量%添加することで、実用上使用できるレベル以上にまで耐落下衝撃特性が良くなることが確認できた。特に、Sn-Bi系合金中にBiを0.5〜2.0質量%含有させることで、一段と良好な耐落下衝撃特性を得ることが確認できた。
【0081】
以上より、Snを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%、Agを0〜1.0質量%含有したSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物がSn-Bi系合金中に形成される半田ボールでは、電極に接合させた際に接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得られることが確認できた。
【0082】
また、Cu,Niについては、表1〜3に示すように、CuとNiの添加量を(5〜20):1の比率にしたとき、もしくはBiの濃度を0.1〜0.5質量%としたとき、のいずれかにおいて、ドロップ特性を○以上にでき、TCT特性とドロップ特性について、ともに良好な結果が得られた。特に、CuとNiの添加量を10前後:1の比率にしたとき、TCT特性の向上効果を得つつ、ドロップ特性の良好な向上効果が得られることが確認できた。具体的には、CuとNiの添加量を(10±3):1の比率とした場合、TCT特性の向上効果を得つつ、ドロップ特性の良好な向上効果が得られることが確認できた。また、CuとNiの添加量を(5〜20):1の比率にした上で、更にCuを0.8〜1.2質量%、Niを0.04〜0.15質量%、Biを0.1〜0.5質量%含有させた場合にも、TCT特性の向上効果を得つつ、ドロップ特性の良好な向上効果が得られることが確認できた。

【要約】
接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得られる半田ボール及びこれを用いた電子部材を提供する。Snを主体とし、Cuを0.3〜2.0質量%、Niを0.01〜0.2質量%、Biを0.1〜3.0質量%含有したSn-Bi系合金からなり、(Cu,Ni)6Sn5からなる金属間化合物がSn-Bi系合金中に形成されるようにしたことにより、電極に接合させた際に接合部におけるボイドの発生を抑制しつつ、熱疲労特性に優れ、かつ良好な耐落下衝撃特性をも得ることができる。