特許第5714208号(P5714208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714208
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】透明なポリアミド成形コンパウンド
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20150416BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20150416BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K5/101
   C08G69/26
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2008-325246(P2008-325246)
(22)【出願日】2008年12月22日
(65)【公開番号】特開2009-149896(P2009-149896A)
(43)【公開日】2009年7月9日
【審査請求日】2011年8月2日
(31)【優先権主張番号】102007062063.4
(32)【優先日】2007年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508375468
【氏名又は名称】エムス−パテント・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ・ゼベリン・ビューラー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン,リトゥカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター,トビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゼップ,バス
【審査官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/087896(WO,A1)
【文献】 特開2004−143319(JP,A)
【文献】 特開2004−083858(JP,A)
【文献】 特表2009−525362(JP,A)
【文献】 特開平08−269194(JP,A)
【文献】 特開2002−327829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08G 69/00− 69/50
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のコポリアミドおよび1種の潤滑剤を含む透明なポリアミド成形コンパウンドであって、
(A1) a)50モル%までビス−(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(PACM)および/またはヘキサメチレンジアミン(HMDA)に代えることができる15〜45モル%のビス−(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン(MACM)、
b)50モル%までテレフタル酸(TPS)および/または脂肪族ジカルボン酸に代えることができる15〜45モル%のイソフタル酸(IPS)、および
c)10〜70モル%のラウリンラクタム(LC12)
からなるコポリアミド50〜99.99重量部、
(A2) MACMおよび/またはPACM並びにおよび少なくとも9個の炭素原子を有するジカルボン酸に基づく透明なポリアミド0〜49.99重量部、
(A3) 少なくとも8個の炭素原子を有するジアミン、少なくとも10個の炭素原子を有するジカルボン酸、少なくとも10個の炭素原子を有するラクタムおよび少なくとも10個の炭素原子を有するアミノカルボン酸から選択されるモノマーに基づく脂肪族ポリアミド0〜29.99重量部、ここで(A2)および(A3)の合計は多くとも49.99重量%である、
(B) イソトリデシルステアレートである潤滑剤0.01〜5重量部、および
(C) さらなる添加剤0〜3重量部
を含み、ただし、(A1)、(A2)および(A3)並びに(B)の合計は100重量部である、
ことを特徴とする、上記のポリアミド成形コンパウンド。
【請求項2】
潤滑剤(B)が0.1〜3重量%の割合で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項3】
潤滑剤(B)が0.2〜2重量%の割合で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項4】
潤滑剤(B)が0.5〜1.5重量%の割合で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項5】
潤滑剤(B)が0.8〜1.2重量%の割合で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項6】
コポリアミド(A1)が
a) 50モル%までPACMに代えることができる30〜42モル%のMACM、
b) 50モル%までTPSおよび/または脂肪族ジカルボン酸に代えることができる30〜42モル%のIPS、および
c) 16〜40モル%のLC12
の成分からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項7】
コポリアミド(A1)が
a) 35〜40モル%のMACM、
b) 18〜22モル%のIPS、そしてさらに
16〜20モル%のTPS、および
c) 22〜27モル%のLC12
の成分からなることを特徴とする、請求項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項8】
さらなる添加剤(C)がUV安定剤、熱安定剤、触媒、透明着色剤、フォトトロピー添加剤、静電防止剤、加工助剤およびレーザーマーキング添加剤から選択されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項9】
0.5%m−クレゾール溶液中で測定したポリアミド成形コンパウンドの相対粘度(RV)が>1.45であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項10】
0.5%m−クレゾール溶液中で測定したポリアミド成形コンパウンドの相対粘度(RV)が1.53〜1.56であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項11】
Tg値が>175℃であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項12】
厚さ2mmのシートの形で試験したとき、ASTM1003に従うBykガードナー試験により測定した不透明度(曇り度)が、潤滑剤(B)を含まない他の同一のポリアミド成形コンパウンドからつくられた厚さ2mmのシートと比較して大きくとも200%までであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項13】
厚さ2mmのシートの形で試験したとき、ASTM1003に従うBykガードナー試験により測定した不透明性(曇り度)が、タンブラー中で2時間処理した後、タンブラー中で同じ処理をした潤滑剤(B)を含まない他の同一のポリアミド成形コンパウンドからつくられた厚さ2mmのプレートと比較してより少ないことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項14】
厚さ2mmのシートの形で試験したときの透過率が>90%であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項15】
厚さ2mmのシートの形で試験したときの透過率が>91%であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項16】
透明なポリアミド成形コンパウンドから製造した試験体で測定した弾性率が少なくとも1800MPaであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンド。
【請求項17】
請求項1〜16の少なくとも一項に記載の透明なポリアミド成形コンパウンドから製造された成形品。
【請求項18】
さらなる表面を被覆することなく、高度に透明で耐引っ掻き性の用途に用いられる請求項17に記載の成形品。
【請求項19】
表面が少なくとも部分的に被覆されている、高度に透明で耐引っ掻き性の用途に用いられる請求項17に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された耐引っ掻き性を有する、透明な非晶質もしくは微晶質ポリアミド、コポリアミドまたはポリアミドブレンドの配合(物)、製造および仕上げに関する。
【背景技術】
【0002】
耐引っ掻き性は、外部からの単発的な機械的影響、例えば、鋭角部の引っ掻き動作に対する表面の耐性である。えぐられ(gouging)引っ掻き作用、粘着滑り(stick−slip)引っ掻き作用および切削(cutting)引っ掻き作用の区別がある。
【0003】
耐磨耗性は、摩擦相手の切削または引っ掻き除去作用に起因するプラスチック材料の有用表面の望まれない連続的材料損失に対する耐性である。
透明なポリアミドはすぐれた透明性と低い曇り度(不透明性)を有する。たいていの添加剤はこれらの光学的性質に非常にマイナスな変化をもたらす。透明な生成物の使用適性は、表面の損傷によって増す不透明性(曇り度)によって実質的に決まる。耐引っ掻き性の具体的なタイプは、例えば、PEペンに対する非被覆プラスチック材料表面の耐性である。この性質は、例えば、PEペンで操作されるディスプレー用途において必要とされる。
【0004】
US2007/0066726 A1には、添加剤を含むABS、PBT、PVC、PET、ナイロン6、ナイロン66、ABS/PBT、PC/ABSにおける耐引っ掻き性の改善が記載されている。添加剤はオレフィンポリマーまたはコポリマーであり、それらはカルボン酸、例えばPolybondまたはEpoleneおよび脂肪酸アミドで官能化されている。適した脂肪酸アミドはオレイン酸、パルミチンアミドおよびステアリルエルカアミドである。完成ポリマーは、高い光沢値を維持しながら、すぐれた耐引っ掻き性、耐候安定性、良好な加工挙動および良好な機械的性質を示す。しかしながら、透明なポリマーの光学的性質に関する情報はこの公報から推定することができない。
【0005】
EP0 943 651には、耐引っ掻き性を改善するための0.1〜1.0%フルオロアルキルエチレンを含むショアD=25−82を有するコポリエステルエラストマーが記載されている。耐引っ掻き性はISO1518に従うエリクソン・スクラッチ・テスターで試験された。透明なポリアミドの透明性についてはこの公報から同様に推測することはできない。
【0006】
牛脂を含むPPについての耐引っ掻き性の増加はEP0 682 679から公知である。US5,731,376の実施例に記載されているように、耐引っ掻き性はポリシロキサンの使用によってさらに改善することができる。引っ掻き試験は「シーン・インスツルメンツ社」のテスターで行われ、視覚的に評価された。測定された部品はPPからつくられており、従って透明ではない。しかしながら、この特許明細書からポリアミドの耐引っ掻き性に対して用いられる材料の影響について結論を引き出すことはできない。
【0007】
WO2007/087896には、潤滑剤を共に含むPA配合物が記載されているが、これらの潤滑剤は一般的に述べられているだけで、この点に関するさらなる情報は得られない。
【0008】
透明なポリアミドおよび各種潤滑剤はEP1 570 983に記載されている。「耐引っ掻き性」という用語はレンズのハードコート(ハードラッカーコーティング)の接着試験に関連して述べられている。この特許明細書による耐引っ掻き性は常にハードラッカーコーティングに由来する。
【0009】
DE101 22 188には、とりわけ高い耐引っ掻き性を有する高屈折(光学的屈折率)透明コポリアミドが記載されており、ジアミンは芳香族核を有するものから選択されるのが好ましい。潤滑剤は可能な添加剤の中のひとつと一般に述べられているにすぎない。
【0010】
JP2003−118055により製造されるポリアミドは比較的耐引っ掻き性として一般に分類されるが、ノルマルな脂肪族ポリアミドが常に用いられる。
JP08−083515の場合では、透明で耐引っ掻き性の表面層はポリアミドイミド、すなわち、ポリアミドではなく、「半」ポリアミドにすぎないポリマーを含む。後者では、脂環式ジアミンがこの公報の教示により含まれる。
【0011】
US4,740,450には、PA成形コンパウンドの記載はないが、複写画像または写真表面の耐引っ掻き性の改善について記載されている。ポリアミドは他のポリマーに加えて単に可能な結合剤またはホットメルト接着材料として述べられている。このUS特許によると、感光性樹脂層またはその上の層が耐引っ掻き性改善剤で仕上げされており、多くの適した化合物が挙げられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この技術的背景から出発して、本発明の目的は耐引っ掻き性が高められた透明なポリアミド組成物を示すことである。特に、透明なポリアミドのすぐれた光学的性質がそれによってマイナスの影響を受けないようにするものである。同様に本発明の目的は、相当するポリアミド組成物から形成された成形品および相当する使用の可能性を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴を有するポリアミド成形コンパウンドによって達成される。請求項14では、PA組成物から製造された成形品が示されている。各従属請求項は有利な態様に関する。
【0014】
本発明では、少なくとも1種のコポリアミドおよび1種の潤滑剤を含む透明なポリアミド成形コンパウンドが提供され、ポリアミド成形コンパウンドは
(A1) a)50モル%までビス−(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン(PACM)および/またはヘキサメチレンジアミン(HMDA)に代えることができる15〜45モル%のビス−(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン(MACM)、
b)50モル%までテレフタル酸(TPS)および/または脂肪族ジカルボン酸に代えることができる15〜45モル%のイソフタル酸(IPS)、および
c)10〜70モル%のラウリンラクタム(LC12)
からなるコポリアミド50〜99.99重量部、
(A2) MACMおよび/またはPACM並びに少なくとも9個の炭素原子を有するジカルボン酸に基づく透明なポリアミド0〜49.99重量部、
(A3) 少なくとも8個の炭素原子を有するジアミン、少なくとも10個の炭素原子を有するジカルボン酸、少なくとも10個の炭素原子を有するラクタムおよび少なくとも10個の炭素原子を有するアミノカルボン酸から選択されるモノマーに基づく脂肪族ポリアミド0〜29.99重量部、ここで(A2)および(A3)の合計は多くとも49.99重量%である、
(B) ステアリン酸の塩、イソトリデシルステアレートおよび/またはモンタン酸の塩から選択される少なくとも1種の潤滑剤0.01〜5重量部、および
(C) さらなる添加剤0〜3重量部
を含み、ただし、(A1)、(A2)および(A3)並びに(B)の合計は100重量部である。
【0015】
意外なことに、ポリアミドは本発明によるモノマーの選択によって耐引っ掻き性に影響があることをこの度見出した。例えば、ハードコートで被覆されたポリカーボネートからつくられた成形品のような、比較的耐引っ掻き性の組成物を見出した。
【0016】
本発明によるこれらのポリアミドはそれによって、平均的な剛性の範囲内にあり、すぐれた靭性を有する。同時に、曇り値が1.0%未満のPMMAのそれに近いすぐれた透明性が得られる。
【0017】
さらに、耐引っ掻き性は潤滑剤の本発明による選択およびまた含有量によってさらに増加し、すぐれた透明性はそれによって同時に維持される。潤滑剤が曇り度を高めそして透過率を低下させるという問題は、技術の現状から知られている。
【0018】
意外なことに、透明なポリアミドの透明性にマイナスな影響を及ぼさず、曇り度を高めず、そして耐引っ掻き性を改善する潤滑剤を見出した。これらの潤滑剤は、ポリマーと混合することによって、または好ましくは高濃縮マスターバッチとしてポリマーへ直接加えることができる。
【0019】
本発明による使用に非常に適したものは、低い不透明度を示すので、ステアリン酸の塩、イソトリデシルステアレートおよび/またはモンタン酸の塩、モンタン酸エステルおよびそれらのCa塩(LicomontおよびLicomont CAVタイプ)である。
【0020】
その結果、毎日の暴露またはPEペンに対する耐引っ掻き性は改善される。改善された耐引っ掻き性は光沢の減少または表面の曇りを防止する。その結果、光学的機能、表面外観または使用時の滑り性がより長く維持され、その結果、そのような成分の信頼性および寿命が実質的に増加する。
【0021】
特に、硬質または軟質材料によってもたらされる引っ掻きに対する本発明のポリアミド組成物表面の耐性は著しく改善される。そのような材料はハンドバック、クリーニングワイプまたは洗濯ブラシの材料となりうる。
【0022】
少なくとも1種の潤滑剤(B)が0.1〜3重量%、好ましくは0.2〜2重量%、特に好ましくは0.5〜1.5重量%、非常に特に好ましくは0.8〜1.2重量%の割合で含まれるのが好ましい。
【0023】
特に好ましい潤滑剤は、モンタン酸のCa塩および/またはイソトリデシルステアレート、ステアリルステアレートおよび/またはステアリン酸の金属塩であり、イソトリデシルステアレート(商標名Loxiol G40)が特に好ましい。
【0024】
モノマーの好ましい選択は、コポリアミド(A1)が
a) 50モル%までPACMに代えることができる30〜42モル%のMACM、
b) 50モル%までTPSおよび/または脂肪族ジカルボン酸に代えることができる30〜42モル%のIPS、および
c) 16〜40モル%のLC12
の成分(educts)からなることである。
【0025】
特に、
a) 35〜40モル%のMACM、
b) 18〜22モル%のIPS、そしてさらに
16〜20モル%のTPS、および
c) 22〜27モル%のLC12
の成分を選択することが可能である。
【0026】
さらなる添加剤(C)はUV安定剤、熱安定剤、触媒、透明着色剤、フォトトロピー添加剤、静電防止剤、加工助剤およびレーザーマーキング添加剤から選択されるのが好ましい。
【0027】
0.5%m−クレゾール溶液中で測定したポリアミド成形コンパウンドの相対粘度(RV)は好ましくは>1.45、特に好ましくは1.53〜1.56である。
ポリアミド成形コンパウンドは好ましくはTg値が>175℃であることを特徴とする。
【0028】
ポリアミド成形コンパウンドを厚さ2mmのシートの形で試験したとき、ASTM1003に従うBykガードナー試験により測定した不透明度(曇り度)が、潤滑剤(B)を含まない他の同一のポリアミド成形コンパウンドからつくられた厚さ2mmのシートのそれより大きくとも200%までであるのが好ましい。
【0029】
ポリアミド成形コンパウンドを厚さ2mmのシートの形で試験したとき、ASTM1003に従うBykガードナー試験により測定した不透明性(曇り度)が、タンブラー(tumbler)中で2時間処理した後、タンブラー中で同じ処理をした潤滑剤(B)を含まない他の同一のポリアミド成形コンパウンドからつくられた厚さ2mmのプレートのそれより少ないことが同様に有利である。
【0030】
ポリアミド成形コンパウンドはすぐれた透明性を有する。厚さ2mmのシートの形で試験したときの透過率が>90%、好ましくは>91%であることが有利である。
さらに有利な態様は、ポリアミド成形コンパウンドから製造した試験体の弾性率が少なくとも1800MPaであることである。
【0031】
本発明では、本発明による透明なポリアミド成形コンパウンドから製造された成形品を同様に提供する。ハードコートラッカーのような追加表面被覆を有するまたは有さない成形品を形成することができる。
【0032】
本発明の成形コンパウンドからつくられた成形品の加工または製造法として、すべての熱可塑性樹脂成形法、例えば、射出成形、射出−圧縮成形、射出吹込み成形、射出ストレッチ吹込み成形、押出し、パイプ押出し、異形押出し、シート押出し、押出し−吹込み成形が原則として可能である。もちろん、成形品は引き続きさらに加工することもできる。
【0033】
本発明の成形品、特に高度に透明で耐引っ掻き性用途のものは、追加表面被覆(すなわち、表面への保護ラッカーまたはハードコーティング)がないのが好ましく、特に有利である。
【0034】
しかしながら、表面被覆を有する(例えば、保護コーティングとして)成形品を提供することは同様に可能である。この場合、すなわち、本発明の成形品をハードコートで被覆するとき、二重の保護手段がもたらされる。すなわち成形品は、ラッカー層がこすられたり、いつか擦り減っても、なおいっそうそしてより長い時間不透明になることなくその機能を果たすことができる。二重保護のためのそのような要件は、透明な機能部品の交換が不可能なまたはあまりにも複雑な複合技術デバイスまたはシステム、例えば、ディスプレーまたはカメラレンズで実際にすでに利用されている。そのような特殊な使用目的では、すでにそれ自体が耐引っ掻き性である成形品のラッカーでさらなる保護手段を得ることができ、そして全体システムの寿命を延長することができる。複雑な全体システムの価格に照らして判断すると、小さい透明な成形品のその後のラッカー塗りは大きなコストではない。
【0035】
成形コンパウンドまたはそれから製造された成形品は、高度に透明で耐引っ掻き性用途の機器、特に、レンズ、拡大鏡、メガネ、光学フィルター、プリズム、フレネルレンズ、赤外線窓、窓、保護窓、保護ホイル、ディスプレーウインドウ、光カバー、クラッドまたは囲い(housing)、タッチスクリーン、センサーの囲い、携帯電話、電話、測定デバイス、音楽システム、TVセット、ナビゲーション装置、カメラ、腕時計、ゲームコンピューター、プレイコンソール(play consoles)、PC、操作ボタン、スクリーンまたはタッチパネル、ハンドル、容器、ビン、箱、パイプまたは形材(profile)に用いられる可能性がある。
【0036】
本発明を下記の試験および実施例を参照してさらに詳しく明らかにする。本発明は特に実施例で用いられるパラメーターに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
商業的に入手しうるプラスチック材料との耐引っ掻き性の比較
本発明のポリアミド組成物の特に高い耐引っ掻き性は、ハンドバッグ試験またはタンブラー試験によって測定した。ハンドバッグ試験の場合、後ろ側で接着した2つのレンズプレートをハンドバッグの中身に加え、粒子ミキサー(granulate mixer)中で1時間攪拌し、タンブラー試験の場合、10kgバレルを5kgPE粒で満たし、試験片、寸法100×80×2mmのレンズプレートを粒状物中に置く。バレルはその後、望ましい時間(この場合、2時間)非対称に回転させる。タンブラーという用語は、重力と一緒になってバレルを傾斜位置で回転させ、これから混合効果を生じるための、外部モーター運転の回転バレルを表す。バレルの中で通常、粒状物は小規模試験用の粉末添加剤と共に回転される。本発明の場合、このバレルはしかしながら回転のためではなく、もっぱらタンブラーとしての機能に用いられ、またある量のポリエチレン粒が2mm厚さの試験プレートの他にバレルへ満たされる。実際にある程度の丸い部分と少しの鋭さを有するPE粒は、タンブラーの回転の間、PEペンと同様にまたは振り動かされるハンドバック中の物体と同等に、試験プレートの表面をこすり、引っ掻く。
【0038】
ハンドバッグ試験はあらゆる予想されるタイプの引っ掻きに対する非特異的な試験である。しばしば生じるタイプの暴露での一般的な耐引っ掻き性をここで測定する。
ハンドバッグ試験の結果は表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
Tg=190℃のGrilamid TR60は、ハンドバッグ試験による曇り度の増加が最も少ないことを示す。これと比べて、ポリカーボネートおよびPMMAはかなり高い曇り度を示す。PCおよびPMMAをメガネ業界で用いられる商業的に入手しうるハードコートで被覆した後、両ポリマーはハンドバッグ試験による曇り度がかなりよくなる。しかしながら、それらはハードコートのないGrilamid TR60よりもまだ劣っている。ハンドバッグ試験は透明な表面にしばしば生じる暴露に相当する。このタイプの暴露に対して、Grilamid TR60は最も高い許容度を示し、被覆されたPCまたはPMMAよりもやはり良好である。ハードコートはもっぱら初めは有利であり、後にかなり不利である。ハンドバッグ試験におけるPA TR60は様々なタイプの効果に対して非常にバランスのとれた性質を有する。潤滑剤の添加は、PE粒のような先端が丸い衝撃に対する耐性を高める。ハンドバッグ試験から、保護コーティングがなくても一般的な耐引っ掻き性が改善されることははおおいに明らかである。
タンブラー試験における追加添加剤の比較
耐引っ掻き性は、非常に大きく、引っ掻き傷がつくられる様子によって決まる。従って、針状の硬い金属の先端は、ディスプレー表面における軟質PEペンの先端からの損傷とは異なるタイプの損傷を生じる。鉛筆または例えば洗浄液を含むまたは含まないクリーニングワイプは別の耐引っ掻き性を示す。しばしば、鉛筆硬度または研磨硬度のようなデータは、予想される耐引っ掻き性の尺度として用いられる。潤滑剤はポリマーの耐引っ掻き性を改善したり、損なったりする。透明な材料の場合、正確には、耐引っ掻き性を改善する潤滑剤は魅力のない不透明性の原因となり、使用の妨げとなる。透明なポリアミド、例えばGrilamid TR60(XE3942)からつくられた100×80×2mmのシートでは、Versapol(登録商標)(ポリケム社から入手しうる、パラフィン油)、Loxiol(登録商標)G40(コグニス社から入手しうる、イソトリデシルステアレート)、ステアリルステアレート、Licomont(登録商標)CAV102P(クラリアント社から入手しうる、モンタン酸のCa塩)、Laventin(登録商標)LNB(BASF社から入手しうる、アルカノールポリグリコールエーテル)およびAcrawax(登録商標)C(IMS CX社から入手しうる、N,N´−エチレン−ビスステアリン酸アミド)、Licomont(登録商標)ET 132P(クラリアント社から入手しうる、モンタン酸エステル)、Licowax(登録商標)E(クラリアント社から入手しうる、モンタン酸エステル)、Licowax(登録商標)OP(クラリアント社から入手しうる、部分的にケン化されたモンタン酸エステル)は少し不透明(曇り)を招く。PE粒で満たしたタンブラー内でこれらのプレートを2時間暴露した後、潤滑剤Loxiol、ステアリン酸CaおよびLicomont CAV102Pは曇り度の増加が最も少なく、光沢損失は最も少ない。実施例2〜11の潤滑剤はポリマー粒Grilamid TR60(XE3942)上でころがし(tumbled)、WPによってZSK25二軸押出し機で混合した。フィルムスプルーを有する100×80×2mmのシートをArburgマシーンで製造した。実施例の結果は表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
追加潤滑剤の比較
添加剤は、射出成形機で成形中に一般にマスターバッチ(MB)の形で加えられる。このために、ポリマー粒に対して5%未満のMBの補充で必要量の添加剤を提供するためには、有効添加剤が高レベル、すなわち、高い割合のMBを製造する必要がある。しばしば、低粘性添加剤はポリマーメルト中に十分に分布できなかったり、あるいはほんのわずかし
【0044】
MBとして配合されたあるいは混合された同量の添加剤の効果は、特にそれらの効果が主に機械部分と接する面で現れなければならない潤滑剤の場合、しばしば互いに逸脱してしまう。
【0045】
表面に容易に移動する潤滑剤は通常、ポリマーメルトと非常に不相溶性であり、相分離する傾向があり、透明な成形品を曇らせる(不透明にする)原因となる。
潤滑剤を押出し機の供給部へ量り入れるコンパウンドとしてのMBの製造の通常のプロセスは、液体としてメルトへ量り入れるプロセスと同様に失敗し、ポリマーメルトが潤滑剤を吸収するわずかな傾向によってだめになる。
【0046】
予想に反して、10%の割合のMBは選択された効果的な潤滑剤で製造することが可能であった。潤滑剤はこの目的でいくつかの押出し機帯域から隔てて供給部からメルトへ加えられる。その結果、すぐれた均一性、すぐれた断面を有するMB粒(実施例13〜23で用いられた)を製造することが可能であった(表3参照)。
【0047】
実施例17〜21におけるステアリン酸Ca、Loxiol G40およびLicomont CAV102Pは、最初の状態では、すなわち、タンブラー試験前は、成形品の曇り度が非常に低い。タンブラー試験後、Loxiol G40(実施例18および19)は元のものより曇り度が著しく低く、光沢度の減少はより少ない。これらの結果は容易に再現することができる(実施例13/14、18/19、20/21)。
【0048】
従って、成形品は、透明性にマイナスな影響を及ぼすことなく、耐引っ掻き性に関して著しく改善されることが可能であった。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
表4の測定結果は、Versapol変形体に比べてすぐれた測定結果を生じるステアリン酸Ca、ステアリルステアレートおよびLicowaxを0.5重量%含むGrilamid TR60の場合、タンブラー試験後は最良の曇り値が得られることを示している。
【0054】
表2の潤滑剤を1重量%含むGrilamid TR60の曇り値は、タンブラー試験前は、Loxiol G40およびLicomont CAV102Pの場合が有利である。タンブラー試験後の曇り値は、これとは異なり、Loxiol G40、ステアリルステアレートおよびLicomont CAV102Pの場合が有利である。Licomontと比べて、Loxiol G40はより低い黄色性を示し、従って、添加剤が多量である場合の最善の解決策である。
【0055】
潤滑剤を含まない成形品に比べて、タンブラー試験後の耐引っ掻き性の著しい改善が得られ、そのため曇り度はより低いことを特徴とする。