【実施例1】
【0011】
先ず、この発明の実施例1に係る車輪用軸受装置を
図1〜
図3にしたがって説明する。
図1に示すように、車輪用軸受装置としての車輪用ハブユニットは、フランジ付き軸部材(ハブホイール)1と、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41とを一体状に有してユニット化されている。
フランジ付き軸部材1は、外周面に転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受41が組み付けられる軸部10と、この軸部10の一端側に形成されかつ軸部10よりも大径で車輪(図示しない)の中心孔が嵌込まれる嵌合軸部30と、軸部10と嵌合軸部30との間に位置するフランジ基部20aと、このフランジ基部20aの外周面に外径方向へ放射状に延出されかつ車輪を締め付けるハブボルト27が圧入によって配置されるボルト孔24が先端寄り部分に貫設された複数のフランジ部21とを一体に有する。
また、嵌合軸部30には、フランジ部21側にブレーキロータ用嵌合部31が形成され、先端側にブレーキロータ用嵌合部31よりも若干小径の車輪用嵌合部32が形成されている。
【0012】
この実施例1において、フランジ付き軸部材1の軸部10の外周面には環状の隙間を保って外輪部材45が配置され、この外輪部材45の内周面の軸方向に所定間隔を保って形成された両軌道面46、47と、軸部10側の両軌道面43、44との間に転動体としての複数個の玉50、51が保持器52、53によって保持されてそれぞれ組み込まれることで複列のアンギュラ玉軸受41が構成されている。
また、この実施例1においては、フランジ付き軸部材1の軸部10は、フランジ部21側が大径で先端側が小径に形成された段軸状に形成され、軸部10の大径部11の外周面に一方の軌道面43が形成されている。
また、軸部10の小径部12の外周面には内輪体42が嵌め込まれ、この内輪体42の外周面に他方の軌道面44が形成されている。
さらに、軸部10の先端部には、小径部12と同径の端軸部15が延出されている。この端軸部15の端面中心部には軸端凹部16が形成され、端軸部15の先端部が径方向外方へかしめられてかしめ部17が形成されることによって小径部12の外周面に内輪体42が固定される。
【0013】
また、外輪部材45の外周面の軸方向中央部には車体側フランジ48が一体に形成され、車輪用ハブユニットは、車体側フランジ48において、車体側部材、例えば、車両の懸架装置(図示しない)に支持されたナックル、又はキャリアの取付面にボルトによって連結される。
【0014】
図2と
図3に示すように、フランジ付き軸部材1の複数のフランジ部21は、冷間鍛造によって嵌合軸部30の中心部端面に鍛造凹部33が形成される際の側方押出加工によって形成される。また、フランジ部21の根元部(基部)及びその近傍(以下、単に根元部近傍という)の一側(フランジ部21のローター支持面22を車外側面としたときに車内側面となる側)には車内側に向けて突出された厚肉部23が形成されている。
さらに、厚肉部23はフランジ部21の根元部(基部)側から同フランジ部21のボルト孔24側に向かって漸次減少する傾斜状に形成されている。この厚肉部23の傾斜面23aの傾斜角度(フランジ付き軸部材1の回転中心線Sと直交する円環状平坦面23cに対する角度)θ1は、冷間鍛造時の材料流れや成形後の脱型を考慮すると、20°≦θ1≦45°の関係に設定されることが望ましい。
【0015】
また、
図2に示すように、フランジ付き軸部材1のフランジ部21の側方押出方向端部の最外径形状は、嵌合軸部30側に構成されてブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側の端部位置の外径φKが、ロータ支持面22の反対側面に構成され車輪を締め付けるハブボルト27を配置するためのボルト座面21c側の端部位置の外径φJよりも大きい又は同一の形状に形成されている。
【0016】
また、
図3に示すように、各フランジ部21の幅方向両側面の根元部に応力が集中して作用することがないように、各フランジ部21の幅方向両側面の根元部はフランジ基部20aの外周面に向かってしだいに幅広となる湾曲面(円弧面も含む)21bをなしてフランジ基部20aの外周面に連続している。
また、
図3に示すように、各フランジ部21の先端面は、嵌合軸部30のブレーキロータ用嵌合部31(
図1参照)の直径寸法の約半分の半径をもつ円弧面21aに形成されている。すなわち、ブレーキロータ用嵌合部31(
図1参照)の直径寸法をφPとし、フランジ部21の先端の円弧面21aの半径寸法をrQとしたときに、φP/2≒rQに形成されることが望ましい。
【0017】
また、
図4に示すように、フランジ部21の長手方向に直交する横断面形状の角部21eがR面取り形状に形成されている。例えば、フランジ部21の板厚寸法が6mm〜8mm程度である場合、角部21eは半径3mmのR面に形成されることが望ましい。
【0018】
上述したように構成されるこの発明の実施例1に係る車輪用軸受装置においては、冷間鍛造の側方押出加工によって軸部10と嵌合軸部30との間に位置するフランジ基部20aの外周面に複数のフランジ部21を放射状に形成することによって、重量軽減を図りながら製造コストの低減を図ることができる。
また、フランジ部21の側方押出方向端部の最外径形状は、嵌合軸部30側に構成されてブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側の端部位置の外径φKが、このロータ支持面22の反対側面に構成され車輪を締め付けるハブボルト27を配置するためのボルト座面21c側の端部位置の外径φJよりも大きい又は同一の形状に形成されている。これにより、ローター支持面22側の面積は、ボルト座面21c側の面積より大きい又は同一の面積で形成されるため剛性を確保することができる。そのため、ブレーキロータは、より大きなフランジ面で支持されることになりブレーキロータをより一層、安定よく取り付けることができる。
また、
図4に示すように、フランジ部21の長手方向に直交する横断面形状の角部21eがR面取り形状に形成されることによって、冷間鍛造の側方押出加工によってフランジ部21が形成される際、
図7に示すように、フランジ部21の横断面形状に対応して角部80b、81bがR面に形成されたフランジ成形部(後述する)78を有する成形型(後述する第1、第2成形型71、72)を用いてフランジ部21を形成することができる。
このため、フランジ成形部78の横断面形状の角部80b、81bに冷間鍛造の材料流圧が集中して作用することを回避することができる。
この結果、フランジ成形部78の横断面形状の角部80b、81bの早期摩耗を防止して型寿命を向上させることができ、ひいては、車輪用軸受装置の製造コストを軽減することができる。
また、
図2に示すように、フランジ部21の根元部近傍の一側に厚肉部23を形成することによって、フランジ部21の根元部近傍の強度を良好に高めることができ、耐久性に優れる。
【0019】
次ぎに、前記実施例1に係る車輪用軸受装置の製造方法を
図5〜
図9にしたがって説明する。
図5に示すように、構造用炭素鋼(例えば、S45C、S50C、S55C等の炭素量0.5%前後の炭素鋼が望ましい)の丸棒材を所要長さに切断して軸状素材60を形成する。
次ぎに、軸状素材60を、例えば800℃前後に加熱した後、冷却し焼鈍する。
その後、冷間鍛造の前方押出加工の鍛造型装置(図示しない)を用いて軸状素材60を前方押出加工し、これによって、軸部(大径部11、小径部12及び端軸部(この状態では軸端凹部16が形成されていない)15を含む)10と、中間軸部20と、嵌合軸部(この状態では鍛造凹部33やブレーキロータ用嵌合部31が形成されていない)30を形成し、冷間鍛造の前方押出加工による一次成形品61を製作する。
【0020】
次ぎに、
図5〜
図9に示すように、冷間鍛造の側方押出加工の鍛造型装置70によって嵌合軸部30の中心部端面に鍛造凹部33を形成しながら一次成形品61の軸部10と嵌合軸部30との間に位置する中間軸部20の外周面に複数のフランジ部21を放射状に形成し、二次成形品62を製作する。
【0021】
図6〜
図9に示すように、冷間鍛造の側方押出加工の鍛造型装置70において、第1、第2の両成形型71、72の間には、一次成形品61がセットされかつ複数のフランジ部21を側方押出加工によって形成するための複数のフランジ成形部78を放射状に有するキャビティ75が形成される。
このフランジ成形部78は、第1、第2の両成形型71、72にそれぞれ形成された成型溝部76、77によって構成されている。
すなわち、
図6と
図7に示すように、第1、第2の両成形型71、72の成型溝部76、77の上下両壁面の案内面80、81の対向間隔がフランジ部21の板厚寸法と同等の大きさに設定され、左右両側壁面の案内面80a、81aの対向間隔がフランジ部21の幅寸法と同等の大きさに設定されている。そして、フランジ成形部78の長手方向に直交する横断面形状は、フランジ部21の横断面形状と同じ形状に形成され、角部80b、81bがR面(例えば、半径3mmのR面)に形成されている。
【0022】
また、この実施例1において、フランジ部21の根元部近傍の厚肉部23と反対側の第2成形型72の成型溝部77には、
図9に示すように、案内面81の材料流入側近傍を除く奥側にフランジ部21との間に隙間S2を保持する逃がし部84が形成されている。
一方、この実施例1において、フランジ部21の根元部近傍の厚肉部23側を形成する第1成形型71の成型溝部76の案内面80は、逃がし部がない型構造に形成されている。
【0023】
また、この実施例1において、第1成形型71の成型溝部76の材料流入側には、フランジ部21の厚肉部23を形成するための厚肉部成形用溝部82が形成されている。この厚肉部成形用溝部82の底面は、フランジ部21の根元部側からボルト孔24側に向かって漸次減少する傾斜面82aに形成されて案内面80に連続している(
図9参照)。
また、厚肉部成形用溝部82底面の傾斜面82aの傾斜角度θ2は、フランジ部21の圧肉部23の傾斜面23aの傾斜角度θ1と同じ、すなわち「20°≦θ2≦45°」の関係に設定される。ことが望ましい。
【0024】
また、
図6、
図8、
図9、
図13、
図14に示すように、冷間鍛造の鍛造型装置70が備える第1、第2の両成形型71、72に形成されたキャビティ75のうち、フランジ部21に対応するフランジ成形部78の側方押出方向端部は、フランジ部21の先端部が当接してフランジ部21の側方押出寸法を拘束する拘束面781を有している。
この拘束面781は、嵌合軸部30側に構成されてブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側の端部位置の外径φKが、ロータ支持面の反対側面に構成され車輪を締め付けるハブボルトを配置するためのボルト座面側の端部位置の外径φJよりも大きい又は同一の形状に形成される傾斜面を有している。
詳しくは、第2の成形型72に構成される成型溝部77の側方押出方向端部は、フランジ面に垂直な垂直端面771で形成されている。これは、フランジ付き軸部材1の二次成形品62の離型を可能とするために垂直端面771が形成されている。また、第1の成形型71に構成される成型溝部76の側方押出方向端部は、ボルト孔24側に向かって傾斜する傾斜面761が形成されている。
これにより、冷間鍛造の鍛造型装置70の側方押出形成によって形成されるフランジ部21の側方押出方向端部は、この垂直端面771、傾斜面761によって、側方押出寸法が拘束されることによって、ローター支持面22側の端部位置の外径φKと、ボルト座面側の端部位置の外径φJに形成される。
なお、上記した垂直端面771、傾斜面761で構成される拘束面781の周方向の形状は、フランジ部21の先端形状の円弧面21a形状に対応して形成されている。
【0025】
また、実施例1におけるフランジ部21及び中間軸部20の軸方向から見た面積に関する特徴について説明する。
図15の斜線部は、冷間鍛造の二次成形において、フランジ部21が延出される外径円の範囲内で第1成形型71と第2成形型72が接触する範囲を示す。言い換えれば、フランジ部21が肉抜きされた部分である。
ここで、フランジ部21の外径をφK、フランジ部21の根元のフランジ基部20aの外径をφB、フランジ部21の周方向の幅をC、フランジ部21の数をNとし、フランジ部21及びフランジ基部20aの軸方向から見た面積(フランジ投影部の面積)をSf、フランジ部21の外径円の面積をSaとすると、
Sf=N×C×(1/2)×(φK−φB)+(φB/2)×(φB/2)×π
Sa=(φK/2)×(φK/2)×π
と表すことができ、実施例1では、二次成形品62のSf/Saが0.53〜0.56の範囲とされている。
【0026】
このSf/Saは、フランジ部21が延出される外径円の範囲内における第1成形型71と第2成形型72が非接触となる面積の外径円の面積に対する比率を表している。
このSf/Saが大きいほど、フランジ投影部の比率が大きくなるため鋼材の流動面積が大きくなり、押出加工による鋼材の流動性が良くなるため成形性が向上する。一方、Sf/Saが大きいほど、第1成形型71と第2成形型72が接触する面積が小さくなり狭い面積で型圧を支えることが必要となるため型に対する負荷が増大する。
また、Sf/Saが小さいほど、フランジ投影部の割合が小さくなるため鋼材の流動面積が狭くなり、押出加工による鋼材の流動性が悪くなるため成形性が低下する。一方、Sf/Saが小さいほど、第1成形型71と第2成形型72が接触する面積が大きくなるため広い面積で型圧を支えればよいので型に対する負荷が減少する。
なお、Sf/Saが異なる構成について試験した結果、Sf/Saが0.6より大きい場合は、金型の接触面積が狭く、狭い面積で型圧を支えることが必要となり型が割れやすくなることがわかった。また、Sf/Saが0.5より小さい場合は、鋼材の流動面積が狭くなり鋼材の流動性が悪くなるためフランジ部の成形性が悪くなり、フランジ部が予定した形状に成形されにくくなることがわかった。よって、Sf/Saは0.5以上かつ0.6以下のとすることが好ましい。
【0027】
ところで、
図15に斜線部で表された第1成形型71と第2成形型72が接触する面積をSsとすると、
Ss=Sa−Sf
と表すことができる。そして、実施例1では、Ssは5000平方ミリメートル以上かつ、6500平方ミリメートル以下となるように構成されている。なお、この値は1.5リットルクラスの自動車用の車輪用軸受装置の値である。
そして、Ssが5000平方ミリメートルよりも小さくなると、第1成形型71と第2成形型72が接触する面積が小さくなり型が割れやすくなる。また、Ssが6500平方ミリメートルよりも大きくなると、鋼材の流動面積が狭くなり鋼材の流動性が悪くなるためフランジ部の成形性が悪くなる。
【0028】
そして、先ず、
図6に示すように、鍛造型装置70の第1成形型(下型)71と第2成形型(上型)72のうち、第1成形型71に一次成形品61をセットし、第1成形型71に対し第2成形型72を型閉じする。
その後、
図6と
図8に示すように、パンチ73を一次成形品61の嵌合軸部30の中心部端面に向けて下降し、パンチ73の先端部74によって嵌合軸部30の中心部端面に鍛造凹部33を形成しながら一次成形品61の軸部10と嵌合軸部30との間に位置する中間軸部20の外周面を、第1、第2の両成形型71、72に形成されたキャビティ75のフランジ成形部78に側方押出することによって複数のフランジ部21を形成する。これと同時に、フランジ部21の長手方向に直交する横断面形状の角部21eをR面取り形状に形成する。
さらに、前記した側方押出加工によって、フランジ部21の根元部近傍の一側に厚肉部23を形成し、これによって側方押出加工による二次成形品62を製作する。
なお、中間軸部20は、冷間鍛造の変形によってフランジ基部20a及び嵌合軸部30の一部をなす。
【0029】
次に、二次成形品62の旋削が必要な各部を旋削加工する。そして、旋削加工によって、例えば、各フランジ部21にボルト孔24を形成すると共に、ボルト孔24の両端開口部に第1、第2の両面取り部25、26を形成する。さらに、軸部10の端軸部15に軸端凹部16を形成する。
その後、二次成形品62を焼き入れした後、軸部10の大径部11の軌道面43やフランジ部21のローター支持面22等を旋削加工又は研磨加工することで完成品となるフランジ付き軸部材1を製作する。
【0030】
また、
図2に示すように、フランジ部21にボルト孔24の両端開口部に形成される第1、第2の両面取り部25、26において、フランジ部21の厚肉部23側に位置する第1面取り部25の深さ寸法をT1とし、反対側の第2面取り部26の深さ寸法をT2としたときに、「T1<T2」の関係となるように設定されることが望ましい。
すなわち、フランジ部21のボルト孔24に、ハブボルト27のセレーション軸部(軸部29の根元部に形成される)29aを圧入した後の状態において、面取り部の深さ寸法が大きい側にフランジ部21が微量ではあるがそり変形する特性をもつ。
このため、仮に、側方押出加工によってフランジ部21の厚肉部23側へ向かって「そり」が発生したとしも、フランジ部21のボルト孔24にハブボルト27が圧入されることで、前記したフランジ部21の厚肉部23側への「そり」が軽減される。
【0031】
また、
図2に示すように、フランジ部21の厚肉部23が形成される一側面(ローター支持面22と反対側の面)のハブボルト27の頭部27下面に接するボルト座面21cはコイニング加工によって表面仕上げされ、これによってフランジ部21の必要平面精度(例えば、直角度0.1以下)を確保しかつ強度を高めることが望ましい。
さらに、ボルト座面21cの領域を越えかつフランジ部21の厚肉部23の傾斜面23aの境界R面23b又は、境界R面23b及び傾斜面23aにわたる範囲(
図2のコイニング加工範囲W)にわたってコイニング加工によって表面仕上げすることでフランジ部21の強度をより一層高めことが望ましい。
また、コイニング加工による表面硬さはHRC25以上、表面粗さがRa6.3以下に仕上げられることが望ましい。
【0032】
最後に、
図1に示すように、フランジ付き軸部材1の軸部10の外周面に、複数個の玉50、51と保持器52、53と外輪部材45とがそれぞれ組み込まれる。
そして、軸部10の小径部12の外周面に内輪体42が嵌め込まれた後、端軸部15の先端部が径方向外方へかしめられてかしめ部17が形成されることによって小径部12の外周面に内輪体42が固定される。
また、フランジ付き軸部材1の軸部10の外周面にアンギュラ玉軸受41が組み付けられる前、又は後において、フランジ部21のボルト孔24の第1面取り部25側からハブボルト27の軸部29が挿入され、軸部29のセレーション軸部29aがボルト孔24に圧入されることによってフランジ部21にハブボルト27が固定される。
これをもって車輪用軸受装置が製造される。
【0033】
なお、
図1に示すように、内輪体42の外周面には、速度センサ90に対応する被検出部95を周方向に有するパルサーリング96が必要に応じて圧入固定される。この場合、外輪部材45の端部内周面には、有蓋筒状のカバー部材91が圧入固定され、このカバー部材91の蓋板部92に速度センサ90が、その検出部をパルサーリング96の被検出部95に臨ませて取り付けられる。
【0034】
前記したように構成されるこの発明の実施例1に係る車輪用軸受装置の製造方法によると、
図6及び
図9等に示されるように、冷間鍛造の鍛造型装置70が備える第1、第2の両成形型71、72に形成されたキャビティ75のうち、フランジ部21に対応するフランジ成形部78の側方押出方向端部は、フランジ部21の先端部が当接してフランジ部21の側方押出寸法を拘束する拘束面781を有している。
この拘束面781は、嵌合軸部30側に構成されてブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側の端部位置の外径φKが、ロータ支持面の反対側面に構成され車輪を締め付けるハブボルトを配置するためのボルト座面側の端部位置の外径φJよりも大きい又は同一の形状に形成される傾斜面を有している。
詳しくは、第2の成形型72に構成される成型溝部77の側方押出方向端部は、フランジ面に垂直な垂直端面771で形成されている。これは、フランジ付き軸部材1の二次成形品62の離型を可能とするために垂直端面771が形成されている。また、第1の成形型71に構成される成型溝部76の側方押出方向端部は、ボルト孔24側に向かって傾斜する傾斜面761が形成されている。なお、上記した垂直端面771、傾斜面761で構成される拘束面781の周方向の形状は、フランジ部21の先端形状の円弧面21a形状に対応して形成されている。
一般的な側方押出加工では、肉厚の厚い厚肉部23の方に金属材料の肉流れが生じ、フランジ付き軸部材1の嵌合軸部30側に構成されたブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側が大きく形成できないおそれがあった。しかしながら、この発明の実施例1に係る車輪用軸受装置の製造方法によって製作された車輪用軸受装置のフランジ部21は、この問題を解消することができる。
これにより、この車輪用軸受装置の製造方法によって成形された車輪用軸受装置のフランジ部21は、フランジ部21の側方押出方向端部の最外径形状は、嵌合軸部30側に構成されてブレーキロータを支持する面となるローター支持面22側の端部位置の外径φKが、このロータ支持面22の反対側面に構成され車輪を締め付けるハブボルト27を配置するためのボルト座面21c側の端部位置の外径φJよりも大きい又は同一の形状に形成されている。これにより、ローター支持面22側の面積は、ボルト座面21c側の面積より大きい又は同一の面積で形成されるため剛性を確保することができる。そのため、ブレーキロータは、より大きなフランジ面で支持されることになりブレーキロータをより一層、安定よく取り付けることができる。
【0035】
また、前記したように構成されるこの発明の実施例1に係る車輪用軸受装置の製造方法によると、フランジ成形部78の長手方向に直交する横断面形状が、フランジ部21の横断面形状と同じ形状で、角部80b、81bがR面(例えば、半径3mmのR面)とされた第1、第2の両成形型71、72を用いて、フランジ付き軸部材1の二次成形品62を容易に形成することができる。
また、フランジ成形部78の横断面形状の角部80b、81bがR面に形成されるため、冷間鍛造の材料流圧が集中して作用することを回避することができる。
この結果、フランジ成形部78の横断面形状の角部80b、81bの早期摩耗を防止して型寿命を向上させることができ、ひいては、車輪用軸受装置の製造コストを軽減することができる。
【0036】
また、前記したように構成されるこの発明の実施例1に係る車輪用軸受装置の製造方法において、フランジ部21の根元部近傍の厚肉部23側と反対側に対応する部分にフランジ部21と第2成形型72の成型溝部77との間に隙間S2を保持する逃がし部84が形成される。このため、パンチ73の先端部74によって嵌合軸部30の中心部端面に鍛造凹部33を形成しながらフランジ部21を形成する際の冷間鍛造の材料流動時における材料と第2成形型72の成型溝部77との間の接触摩擦力を逃がし部84に相当する分だけ軽減することができる。これによって、成形型、特に、第2成形型72の摩耗を軽減して型寿命の向上を図ることが可能となる。
【0037】
また、この実施例1において、第1成形型71は、その成型溝部76に逃がし部がない型構造とすることによって、冷間鍛造のファイバーフローに沿う材料流動性によるフランジ部21の厚肉部23側へ向かう「そり」の発生を良好に抑制することができる。
すなわち、冷間鍛造においては、ファイバーフローに沿う材料流動性によってフランジ部21に、厚肉部23側へ向かうそりが発生しやすくなる特性がある。このフランジ部21の厚肉部23側へ向かうそりによって、例えば、フランジ部21のローター支持面22の全面を平坦面に仕上げ加工することが困難となる恐れがある。フランジ部21のローター支持面22の全面が平坦面に仕上げ加工されていない場合、例えば、ブレーキロータ55の取り付けが不安定となることが想定される。しかしながら、前述したようにフランジ部21の厚肉部23側へ向かう「そり」の発生を抑制することで、フランジ部21のローター支持面22の全面を平坦面に仕上げ加工すること容易となり、ブレーキロータ55を安定よく取り付けることが可能となる。