(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、タンタルは、酸素を実質的に含まない塩素系ガス(Cl系ガス)によるドライエッチング(Cl系ドライエッチング)およびフッ素系ガス(F系ガス)によるドライエッチング(F系ドライエッチング)がともに可能な材料ではあるが、酸素含有雰囲気下においては酸化しやすい材料である。さらに、酸化したタンタルは、Cl系ドライエッチングが実質的に困難になるという特殊な特性を有する材料である。このため、タンタルを主成分とする材料で、タンタルを主成分とする遮光層と、タンタル酸化物を主成分とする表面反射防止層との積層構造による遮光膜(TaO/Ta系)を単に形成しただけでは、遮光層と表面反射防止膜との間でCl系ドライエッチングに対するエッチング選択性を確保することは難しく、表面反射防止層にエッチングマスク機能を持たせることは容易ではない。
さらに、Cl系ドライエッチングに対するタンタル酸化物自体の酸化していないタンタルとのエッチング選択性は、従来、エッチングマスクの材料として用いられているMoSiONやSiONほど高くはない。通常のエッチングマスク膜のように、遮光層へのドライエッチング終了後に剥離してもよいのであれば、問題となるほどのエッチング選択性ではない。しかし、表面反射防止層としての役割も必要とされるため、Cl系ガスによる遮光層のドライエッチング中に表面反射防止層がダメージを受けてパターンエッジ部が丸まってしまってラインエッジラフネス(LER)等が悪化したり、光学特性が影響を受けて露光光に対する表面反射率が変化してしまったりすることは問題がある。
【0008】
また、光透過型リソグラフィのArF露光用マスクにおいては、反射型リソグラフィのEUV露光用反射型マスクとは異なり、遮光膜(吸収体膜)の表面側の露光光に対する反射率を所定値(例えば30%以下)に制御するだけでなく、同時に遮光膜の基板側(裏面側)の露光光に対する反射率も所定(例えば40%未満)に制御できなければならない。表面および裏面の反射率が大きいと、露光時に有害な反射光発生(フレア、ゴースト等)の原因となることがあるからである。つまり、遮光層には裏面反射防止の機能も確保しなければならず、遮光層を単にTaを主成分とする材料としただけでは裏面反射防止機能を確保できない。
さらに、タンタル酸化物を主成分とする表面反射防止層では、ArF露光光に対する表面反射率を20%前後に制御することが光学的に限界である。表面反射率を15%以下あるいは10%以下に制御できることは困難である。
【0009】
DCマグネトロンスパッタ法では、スパッタターゲットに、ある程度以上の導電性が必要となる。このため、TaSiOを主成分とする膜を成膜する場合、高い導電性を有するタンタル金属とケイ素との混合ターゲットを用い、酸素を含むスパッタリングガス、例えば酸素とアルゴンの混合ガスをターゲットに衝突させて、ターゲットの金属と反応させて成膜する(反応性DCスパッタリング)。このことは、タンタル以外の遷移金属とケイ素の酸化膜、窒化膜、酸窒化膜を成膜する場合についても同様である。しかし、遷移金属とケイ素との間で、酸素(窒素)に対する結合しやすさの差が大きい場合、その結合しやすい原子の方が選択的に酸化(窒化)される現象が発生する。この現象が発生すると、ターゲット表面において酸化した物質のスパッタ速度が選択的に低下するため、成膜した膜の下層側から上層側にかけての膜組成が均一にすることが困難になる。特に遷移金属が選択的に酸化(窒化)されてしまう場合、ターゲット面の導電性が低下して成膜が不安定になる。また、ターゲット面上に付着した酸化(窒化)した遷移金属で異常放電を起こしてパーティクルが発生する。特に、タンタルは大気中で酸化されやすい性質を有しているため、この問題は顕著である。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ArF露光光を用いた光透過型リソグラフィにおいて、表面反射率および裏面反射率が低減された、さらなる微細化に対応可能なフォトマスクブランク、およびフォトマスクおよびフォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、低欠陥であって、均一な組成を有するタンタルとケイ素に酸素や窒素を含有する膜を備えたマスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
ArFエキシマレーザの露光光が適用される転写用マスクを作製するために用いられ、透光性基板上に遮光膜を備えるマスクブランクであって、
前記遮光膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層をこの順に積層した構造であり、
前記遮光層は、タンタルと窒素を含有する材料からなり、
前記表面反射防止層は、タンタルとケイ素を含有し、さらに酸素および窒素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなることを特徴とするマスクブランク。
【0012】
(構成2)
前記遮光層中の窒素含有量は、62原子%未満であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
【0013】
(構成3)
前記遮光層中の窒素含有量は、7原子%以上であることを特徴とする構成1または2のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成4)
前記遮光膜は、膜厚が65nm未満であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成5)
前記表面反射防止層は、膜厚が5nm以上20nm以下であることを特徴とする構成1から4いずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成6)
前記遮光層または前記表面反射防止層は、ホウ素を含むことを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【0017】
(構成7)
構成1から6のいずれかに記載のマスクブランクを製造する方法であって、
前記表面反射防止層は、タンタル酸化物およびタンタル窒化物から選ばれる1以上の物質と、ケイ素酸化物およびケイ素窒化物から選ばれる1以上の物質とを含有する混合焼結ターゲットを用い、高周波スパッタリング法によって成膜することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0018】
(構成8)
前記混合焼結ターゲットは、Ta
2O
5およびTaNから選ばれる1以上の物質と、SiO
2およびSi
3N
4から選ばれる1以上の物質とを含有することを特徴とする構成7記載のマスクブランクの製造方法。
【0019】
(構成9)
前記混合焼結ターゲットは、Ta
2O
5およびSiO
2からなり、Ta
2O
5およびSiO
2のmol%混合量が、10:90〜90:10であることを特徴とする構成7記載のマスクブランクの製造方法。
【0020】
(構成10)
構成1から6のいずれかに記載のマスクブランクの前記遮光膜に転写パターンが形成されてなることを特徴とする転写用マスク。
【0021】
(構成11)
構成1から6のいずれかに記載のマスクブランクの前記遮光膜に転写パターンを形成してなる転写用マスクの製造方法であって、
前記遮光膜上に形成された、転写パターンを備えるレジスト膜をエッチングマスクとして、酸素を実質的に含まないフッ素系ガスで前記表面反射防止層をドライエッチングする第一の工程と、
該第一の工程後、前記表面反射防止層をエッチングマスクとして、前記遮光層を、酸素を実質的に含まない塩素系ガスでドライエッチングする第二の工程とを有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、遮光膜を、基板側から遮光層と表面反射防止層の積層構造とし、表面反射防止層をタンタルとケイ素を含有し、さらに酸素および窒素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成することにより、Cl系ドライエッチングに対するエッチング耐性を高めることができる。また、遮光層を、タンタルと窒素を含有する材料で形成したことにより、窒素によりタンタルの酸化が抑制され、Cl系ドライエッチングに対するエッチングレートを高くすることができる。遮光層のCl系ドライエッチングのエッチング時間を短縮することができることから、表面反射防止層がCl系ガスにさらされる時間が短くなる。これらの相乗効果から、遮光層のCl系ドライエッチング時に表面反射防止層が受けるダメージを大幅に抑制でき、パターンエッジ部のLERの低下や表面反射率の変動を抑制することができる。また、表面反射防止層の遮光層に対するエッチングマスクとして機能が高まることから、その上に形成されるレジスト膜は、F系ドライエッチングで表面反射防止層に転写パターンを形成できるだけの膜厚が最低限あればよくなる。
さらに、ArF露光光に対する表面反射率を15%以下あるいは10%以下に制御することもできる。
【0023】
また、遮光層の窒素含有率を、7原子%以上とすることにより、ArF露光光に対する裏面反射率を40%未満にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかるマスクブランクの構成を示す断面図であり、
図2は本発明の実施形態にかかるフォトマスクの断面図であり、
図3は、マスクブランクから転写用マスクを製造するまでの過程を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態にかかるマスクブランクは、例えば、縦×横の寸法が約152mm×152mmで、厚さが約6.35nmの合成石英からなる基板11上に、TaとNを含有する遮光層12、およびTaとSiに、OおよびNから選ばれる1以上の元素を含有する表面反射防止層13がこの順に形成されてなる遮光膜19がこの順に積層されてなるものである。
【0027】
本発明の転写用マスクは、
図2に示すように、上記の遮光膜19に転写パターンが形成されてなるものである。遮光膜19の転写パターン19aは、公知のフォトリソグラフィ法によって、遮光膜19上にパターンを有するレジスト膜を形成し、このレジスト膜をマスクとして、ドライエッチングにより、遮光膜19にパターンを形成して得ることができる。
【0028】
遮光膜19の全体での光学濃度は、遮光層12の寄与度が大きくなっている。表面反射防止層13は、露光装置の縮小光学系のレンズで反射される一部の露光光を遮光膜19でさらに反射してしまうことを抑制するために設けているものであり、露光光がある程度透過するように調整されている。これにより、遮光膜19の表面での全反射を抑制し、干渉効果を利用する等して露光光を減衰させることができている。表面反射防止層13は、この所定の透過率が得られるように設計されていることから、遮光膜19全体への光学濃度の寄与度は小さい。遮光膜19全体の光学濃度は、少なくとも2.5以上を確保する必要があり、標準的には2.8以上、補正機能が備わっていない露光装置にも対応するには3.0以上が望ましい。
【0029】
遮光層12は、Siを含有しないことが望ましい。Siは、F系ドライエッチングに対してはエッチングされやすいが、Cl系ドライエッチングに対してはエッチングされにくい。表面反射防止層はF系ドライエッチングでエッチングされやすい材料であり、エッチングマスクとして機能させるためには、遮光層12に用いる材料には、F系ドライエッチングに対して表面反射防止層との間で十分なエッチング選択性を持たせる必要がある。また、透光性基板11に適用される合成石英等の材料は、F系ドライエッチングでエッチングされやすく、Cl系ドライエッチングではエッチングされにくい。また、ArF露光光に対する遮光性能は、SiよりもTaの方が高い。これらのことを考慮すると、遮光層12は、Cl系ドライエッチングに対してエッチングされやすい材料である必要があり、Siは含有しないことが望ましく、含有するとしても少なくとも10%以下、さらには5%以下であることが必要である。
【0030】
前記の通り、遮光層12の主成分であるTaは酸素含有雰囲気下で酸化しやすい材料であるが、窒素(N)を含有させることで酸化を抑制させることができる。遮光層12のCl系ドライエッチングに対するエッチングレートを確保するためには、遮光層12中には窒素を含有させる必要がある。
図4は、TaNで形成された膜の窒素(N)含有量と表面粗さとの関係を示すグラフであり、
図5は、窒素含有量が異なるTaNで形成された膜の膜表面のAFM(原子間力顕微鏡)画像である。ここでは、合成石英からなる透光性基板の上にN含有量の異なるTaN膜を膜厚100nmで成膜したものを準備し、1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によってそれぞれ行った。
図4、
図5の結果から明らかであるが、膜中のN含有量が62原子%では表面粗さRqが1.46nmと大幅に悪化してしまう。表面粗さRqは、遮光層12に転写パターンを形成したときのパターン側壁のラインエッジラフネス(LER)に影響する。これらのことを考慮すると、TaとNを含有する遮光層12のN含有量は、少なくとも62原子%未満にする必要がある。
【0031】
また、遮光層12の表面粗さは、その上に形成される表面反射防止膜13の表面粗さに大きな影響を与え、遮光膜19全体の表面粗さに影響する。遮光膜19の表面粗さは、欠陥検査機による異物欠陥検査に影響を与える。本発明に係る検証では、欠陥検査機にレーザーテック社製 M1350を用いたが、表面粗さRqが0.84nmと大きい遮光膜で異物欠陥検査を行うと、異物のない正常部分についても欠陥と誤認されて検出されてしまうことが判明している。TaNの遮光層12の上に表面反射防止層13が形成されることで、遮光層12表面の表面粗さに比べて遮光膜19の表面粗さは多少小さくはなるが、各種欠陥検査機に対応するためには、少なくとも遮光層12の表面粗さRqが0.84nm未満にすることが望ましい。この点も考慮すると、TaとNを含有する遮光層12のN含有量は、56原子%以下にする必要がある。
【0032】
また、遮光層12が透光性基板11に接して形成される場合、遮光層12で裏面反射を抑制する必要がある。転写用マスクに求められるArF露光光に対する裏面反射率は、少なくとも40%未満とする必要があり、35%以下、さらに補正機能のないような露光装置にも対応するには30%以下とすることが望ましい。遮光膜の19の裏面反射率を40%未満とするには、遮光層12のN含有量は、7原子%以上とする必要があり、裏面反射率を35%以下とするには、遮光層12のN含有量は、16原子%以上、裏面反射率を30%以下とするには、遮光層12のN含有量は、34原子%以上とする必要がある。
【0033】
遮光層12には、膜の平滑性を向上させるため、ホウ素(B)や炭素(C)を含有させてもよい。ただし、これらの元素は、遮光層12のCl系エッチングに対するエッチングレートや光学濃度を低下させる傾向があるため、含有量を20原子%以下とすることが望ましい。また、遮光層12は、酸素を含有すると光学濃度が大きく低下するため、酸素は含有しないことが望ましく、含有するとしても少なくとも10原子%未満、さらには5原子%とする必要がある。
【0034】
遮光膜19の膜厚が厚くなるに従い、電磁界(EMF: ElectroMagnetics Field)効果に起因するバイアスが大きくなる。EMFバイアスは、ウェハ上のレジストの転写パターン線幅のCD精度に大きな影響を与える。このため、EMF効果のシミュレーションを行い、EMFバイアスによる影響を低減するための転写用マスクに形成する転写パターンの補正を行う。しかし、膜厚が厚くなるに従って複雑なシミュレーションが必要となり、多大な負荷がかかるという問題がある。レジスト膜の薄膜化を考慮すると、遮光膜19の膜厚は、少なくとも65nm未満にはすべきである。さらに電磁界(EMF)効果に起因するシミュレーション負荷の軽減も考慮すると、遮光膜19の膜厚は、少なくとも60nm以下とすることが望ましい。
【0035】
表面反射防止層13は、遮光層12をドライエッチングするときに用いられるCl系ガスに対して高い耐性を持たせる必要があることからSiを含有させている。この観点から、表面反射防止層13中のSiの含有量をTaとSiの合計含有量で除した比率(すなわち、層中のTaとSiの合計含有量を100としたときのSiの含有量の比率を原子%で表したもの。以下、(Si/Ta+Si)比率という。)は、5原子%以上とする必要があり、より好ましくは10原子%以上、15原子%以上が望ましい。また、(Si/Ta+Si)比率の上限は、90原子%以下が好ましく、82原子%以下、70原子%以下がより好ましい。表面反射防止層13は、遮光膜19の露光光に対する表面反射率を低減させる役割を有する必要があるため、酸素や窒素あるいはその両方を膜中に含有させる必要がある。Siに酸素や窒素を含有させた膜に比べ、Taに酸素や窒素を含有させた膜は、紫外線に対する屈折率を大きくすることができるため、(Si/Ta+Si)比率を調整することで、所望の低反射と反射防止層の薄膜化の両立が可能となる。
【0036】
酸素は、層中の含有量に対する消衰係数の低下度合が窒素に比べて大きく、上層の露光光の透過度をより高めることができるため、表面反射率をより低減させることが可能となる。このため表面反射防止層13中の酸素含有量は、10原子%以上であることが好ましく、15原子以上であるとより表面反射率の低減が図れ、20原子%以上であると干渉効果をより高めることができ、さらに低反射を図ることができるのでより好ましい。
【0037】
窒素は、酸素に比べて層中の含有量に対する消衰係数の低下度合が小さく、表面反射率低減への寄与が小さい。反面、酸素を含有させる場合に比べて、含有量に対する表面反射防止層13の光学濃度の低下度合が小さいという特性も有しているため、遮光層12に求められる光学濃度の制限を緩めることができ、遮光層12の薄膜化に寄与できる。表面反射率の低減と、遮光層12の薄膜化の両方を考慮する場合には、窒素を含有させることが望ましい。この場合、表面反射防止層13中の酸素含有量は、10原子%以上であることが好ましく、15原子以上であるとより表面反射率の低減が図れ、20原子%以上であると、層中の酸素含有量を抑えても低反射を図ることができるのでより好ましい。
【0038】
表面反射防止層13中の酸素と窒素の合計含有量が高くなり過ぎると、Cl系ドライエッチングに対するプラズマに対する物理的耐性が低下する。この点を考慮すると、表面反射防止層13中の酸素と窒素の合計含有量は、70原子%以下とする必要があり、65原子%以下とすることで高い耐性が得られ、60原子%以下とすることで耐性が大幅に高められるのでより望ましい。
【0039】
表面反射防止層13には、膜の平滑性を向上させるため、ホウ素(B)や炭素(C)を含有させてもよい。ただし、これらの元素は、表面反射防止層13の屈折率や消衰係数を高め、表面反射率を上昇させる傾向にあるため、これらの合計の含有量は20原子%以下とすることが望ましい。
【0040】
表面反射防止層13は、下層に露光光に対する反射率の高い材料を用いていることから、表面反射防止層13の厚さが5nm以上最低限必要であり、表面反射率をより低反射率とするには7nm以上とすることが望ましい。また、上述の通り、レジスト膜の薄膜化の観点から、遮光膜19の膜厚を65nm未満とすべきであることを考慮すると、表面反射防止層13の厚さの上限は、20nm以下とすることが好ましい。電磁界(EMF)効果に起因するシミュレーション負荷の軽減の観点から、遮光膜19の膜厚は60nm以下が望ましいことを考慮すると、表面反射防止層13の厚さの上限は、15nm以下とすることが好適である。
【0041】
表面反射防止層13は、タンタルとケイ素に、さらに酸素および窒素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で構成されるが、これらの元素のうち導電性が高い材料はタンタルだけである。タンタルとケイ素の混合ターゲットを用いて、成膜レートの速いDCスパッタリング法で成膜しようとすると、放電異常が生じやすく、表面反射防止層13の欠陥発生率が高い。この点を考慮すると、表面反射防止層13は、成膜レートが遅いというデメリットがあるが、導電性の低いターゲットを用いても低欠陥で成膜することが可能な高周波(RF)スパッタリング法で成膜することが好ましい。また、その場合、予め酸化や窒化がされている、タンタル酸化物およびタンタル窒化物から選ばれる1以上の物質と、ケイ素酸化物およびケイ素窒化物から選ばれる1以上の物質とを含有する混合焼結ターゲットを用いることが好ましい。
【0042】
ケイ素とタンタルを含有する膜をDCマグネトロンスパッタ法で成膜するにはいくつかの方法があるが、ターゲット自体の導電性確保の観点から、タンタルの粉末とケイ素の粉末とを混合焼結したターゲットが用いられることが多い。マスクブランクに形成する薄膜の場合、露光光の反射率を低減するためや、耐薬性、耐温水性を向上させるために、酸化や窒化させた組成とすることが多い。この場合、タンタルとケイ素の混合焼結ターゲットを用い、スパッタガスとして、アルゴン等の希ガスにさらに酸素や窒素を混合させたガスの雰囲気下でDCマグネトロンスパッタ法により成膜する。このとき、ターゲット中のタンタルとケイ素との間で、酸素や窒素との結合しやすさの差が大きいと、ターゲット中の結合しやすい原子(タンタル)の方が選択的に酸化(窒化)され、透光性基板上に成膜されてしまう現象が発生する。これよって、下層から上層に掛けて均一な膜組成である薄膜を形成したくても、下層側が酸化(窒化)されやすい原子の含有量が多く、上層側が酸化(窒化)されにくい原子の含有量が多いという傾斜した膜組成となってしまうことが生じる。
【0043】
特に、導電性の高いタンタルの方が酸化や窒化がされやすい原子であるとターゲットから選択的に出て行ってしまうので、ターゲットの導電性が次第に低下し、成膜が不安定になってしまう。また、ターゲット中の大気中で酸化しやすいタンタルに酸素を含有した薄膜を成膜する場合、タンタルの酸化物がターゲット表面に付着して、異常放電を起こしてパーティクルが発生してしまう。
【0044】
この問題を解決するためには、タンタルの酸化物(窒化物)とケイ素の酸化物(窒化物)を含有する混合焼結ターゲットを用いるとよい。これにより、成膜中に遷移金属とケイ素のうちの一方が選択的に酸化(窒化)されてしまうことを抑制できる。しかし、このようなターゲットは導電性の確保が困難である。この点を考慮し、成膜レートが遅くはなるがターゲットの導電性を考慮する必要のない高周波(RF)スパッタを適用することにしている。このような製造方法を適用することで、酸化や窒化されやすさの差が大きいタンタルとケイ素の混合焼結ターゲットを用い、酸素や窒素が混合されたスパッタガスで薄膜を形成する場合においても、意図しない組成傾斜、成膜不安定性、パーティクルの発生を低減することを実現する。この場合、ターゲット中の遷移金属やケイ素をある程度、酸化(窒化)しておけば、いずれかの元素が選択的に酸化(窒化)されることは抑制できるので効果は得られる。このとき、成膜しようとする薄膜の膜組成(酸素含有量、窒素含有量)と、ターゲット中の酸素含有量、窒素含有量との間の差は、スパッタガスを希ガスに酸素や窒素を適宜混合させたものを使用することで調整することができる。スパッタガスに用いる希ガスとしては、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が適用可能であるが、中でもアルゴンが最適である。
【0045】
上記の高周波スパッタを用いる製造方法では、薄膜の成膜時のスパッタガスに希ガスのみを使用することが望ましい。この場合、混合焼結ターゲット全体の酸素含有量および窒素含有量を、成膜する薄膜の酸素含有量および窒素含有量とほぼ同じに調整する。これにより、薄膜の組成の均一性がより向上する。また、スパッタガスに酸素や窒素を混合して薄膜中に酸素や窒素を添加する場合、求められる薄膜の膜組成となるように成膜条件を探す作業は煩雑であるが、これを大幅に簡素化できる。
【0046】
上記の高周波スパッタを用いる製造方法は、タンタルとケイ素を含有する酸化膜、窒化膜および酸窒化膜である場合、特に大きな効果が得られる。遷移金属の中でもタンタルは特に酸化されやすいためである。従来のDCマグネトロンスパッタ法による成膜であり、酸素を含有する薄膜を成膜する場合、ターゲット中のタンタルが選択的に酸化されてしまいやすく、組成傾斜の問題、成膜安定性の問題、パーティクルの問題が特に発生しやすいので、上記の製造方法は特に有効に機能する。
【0047】
上記の製造方法で適用する混合焼結ターゲットは、Ta
2O
5およびTaNから選ばれる1以上の物質と、SiO
2およびSi
3N
4から選ばれる1以上の物質とを含有する構成としてもよい。Ta
2O
5、TaN、SiO
2、Si
3N
4はいずれも化学量論的に安定な状態であることから、このターゲットを用いて成膜した薄膜は膜組成の均一性が非常に高い。成膜する薄膜の酸素含有量、窒素含有量に応じて、ターゲットに混合する物質の比率を適宜調整する。例えば、Ta、Si、Oを含有する膜の場合には、Ta
2O
5とSiO
2の混合焼結ターゲットを用いるとよい。また、Ta、Si、Nを含有する膜の場合には、TaNとSi
3N
4の混合焼結ターゲットを用いるとよい。さらに、Ta、Si、O、Nを含有する膜の場合には、Ta
2O
5、TaN、SiO
2、Si
3N
4から所定の酸素含有量や窒素含有量となるように各材料の混合比率を調整して混合焼結ターゲットを作るとよい。
【0048】
タンタルとケイ素と酸素とを含有する薄膜を成膜する場合、混合焼結ターゲットがTa
2O
5とSiO
2からなり、Ta
2O
5とSiO
2のmol%混合比率が、10:90〜90:10であると、恩恵をより受けることができる。なお、Ta
2O
5とSiO
2のmol%混合比率が、20:80〜70:30であるとさらにその効果は大きい。
【0049】
本発明において、Cl系ドライエッチングで用いるCl系ガスとしては、例えば、Cl
2、SiCl
4、HCl、CCl
4、CHCl
3、BCl
3等が挙げられる。また、F系ドライエッチングで用いるF系ガスとしては、例えば、SF
6、CF
4、C
2F
6、CHF
3等が挙げられ、これらとHe、H
2、N
2、Ar、C
2H
4等の混合ガスも用いることができる。
【0050】
本発明において、レジストは電子線描画用の化学増幅型レジストであることが好ましい。高精度の加工に適するためである。
本発明は、電子線描画によりレジストパターンを形成する電子線描画用のマスクブランクに適用する。
【0051】
本発明において、基板としては、合成石英基板、CaF
2基板、ソーダライムガラス基板、無アルカリガラス基板、低熱膨張ガラス基板、アルミノシリケートガラス基板などが挙げられる。
【0052】
本発明において、マスクブランクには、レジスト膜を塗布する前のマスクブランクや、レジスト膜付きマスクブランクが含まれる。
本発明において、転写用マスクには、位相シフト効果を使用しないバイナリ型マスク、レチクルが含まれる。
【0053】
次に、本発明のマスクブランクおよび転写用マスクについて実施例および比較例を用いて説明する。転写用マスクの製造方法については、
図3を参照しながら説明する。
【0054】
(実施例1)
図3(a)に示すように、縦×横の寸法が、約152mm×152mmで、厚さが約6.35nmの合成石英からなり、主表面が精密研磨された基板11を準備した。次に、枚葉式DCスパッタ装置内に基板11を設置し、Taターゲットを用い、キセノン(Xe)と窒素(N)の混合ガス雰囲気で、DCマグネトロンスパッタにより、TaN(膜組成比 Ta:84.0原子%,N:16.0原子%)からなる遮光層12を43nmの膜厚で成膜した。次に、遮光層12が成膜された基板11を枚葉式RFスパッタ装置内に設置し、遮光層12の上に、TaSiO混合焼結ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で、RFマグネトロンスパッタにより、TaSiO(膜組成比 Ta:27.4原子%,Si:5.9原子%,O:66.7原子%)からなる表面反射防止層13を12nmの膜厚で成膜した。以上の手順により、ArF露光用バイナリ型のマスクブランクを作成した。なお、遮光膜19の各層の元素分析は、RBS分析(ラザフォード後方散乱分析)を用いた(以下、各実施例、比較例とも同じ。)。なお、この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.29nmであった。
【0055】
次に、
図3(c)および(d)に示すように、遮光層12および表面反射防止層13を積層した基板11上に、厚さ150nmの電子線描画(露光)用化学増幅型ポジレジスト14(PRL009:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を塗布し、DRAM hp32世代の転写パターンを電子線描画露光および現像を行い、レジストパターン14aを形成した。
次に、
図3(e)に示すように、フッ素系(CHF
3)ガスを用いたドライエッチングにより、表面反射防止層13のパターンを形成した。続いて、
図3(f)に示すように、塩素系(Cl
2)ガスを用いたドライエッチングにより、遮光層12のパターンを形成した。続いて、
図3(g)に示すように、遮光膜パターン上のレジスト14aを除去し、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを得た。
【0056】
得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、15.9%、裏面反射率は、34.9%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。 なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0057】
(実施例2)
次に、実施例2にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、表面反射防止層13をTaSiO膜(膜組成比 Ta:23.3原子%,Si:11.7原子%,O:65原子%)に、膜厚を16nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.32nmであった。
【0058】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、8.4%、裏面反射率は、34.8%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0059】
(実施例3)
次に、実施例3にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、表面反射防止層13をTaSiO膜(膜組成比 Ta:30.1原子%,Si:1.7原子%,O:68.2原子%)に、膜厚を10nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.34nmであった。
【0060】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、22.1%、裏面反射率は、34.8%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0061】
(実施例4)
次に、実施例4にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、表面反射防止層13をTaSiO膜(膜組成比 Ta:7.0原子%,Si:31.4原子%,O:61.6原子%)に、膜厚を20nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.38nmであった。
【0062】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、6.8%、裏面反射率は、34.8%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0063】
(実施例5)
次に、実施例5にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、遮光層12をTaN膜(膜組成比 Ta:68.0原子%,N:32.0原子%)に、膜厚を45nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.28nmであった。
【0064】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、17.6%、裏面反射率は、30.4%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0065】
(実施例6)
次に、実施例6にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、遮光層12をTaN膜(膜組成比 Ta:49.0原子%,N:51.0原子%)に、膜厚を47nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.31nmであった。
【0066】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、16.5%、裏面反射率は、26.4%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0067】
(実施例7)
次に、実施例5にかかるマスクブランクについて説明する。
本実施例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、遮光層12をTaN膜(膜組成比 Ta:93.0原子%,N:7.0原子%)に、膜厚を40nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.48nmであった。
【0068】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、11.8%、裏面反射率は、39.9%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりは認められず、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして十分な精度を備えていることを確認できた。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0069】
(実施例7)
次に、実施例7にかかるマスクブランクについて説明する。
図1に、実施例7によるバイナリ型マスクブランクの概略断面図を示す。
実施例7によるマスクブランクの製造方法は、透光性基板11上に、TaNを主成分とする遮光層12を成膜する工程と、高周波(RF)スパッタリング法により、ターゲットとして、Ta
2O
5およびSiO
2からなる混合焼結ターゲットを用い、スパッタリングガスとして、アルゴン(Ar)を用いて、TaSiOを主成分である表面反射防止層を成膜する工程とを有することを特徴とする。なお、遮光層12と表面反射防止層13とで、マスクブランクにおける遮光膜19を構成している。
【0070】
透光性基板11は、例えば、縦×横の寸法が約152mm×152mmで、厚さが6.35nmの合成石英からなり、主表面が精密研磨されたものを用いることができる。
【0071】
遮光層12は、DCマグネトロンスパッタリングにより、ターゲットにTaを用い、スパッタリングガスとして、XeとN
2の混合ガスを導入し、TaN層(Ta:84.0原子%,N:16.0原子%)を厚さ43nmに成膜した。TaN層の窒素含有量は7at%以上であることが望ましい。これにより、基板の遮光層を形成していない面の反射率(裏面反射率)を40%未満にすることが可能となる。
【0072】
次に、遮光層12が成膜された基板11を枚葉式RFスパッタ装置内に設置し、遮光層の12の上面に、Ta
2O
5およびSiO
2からなる混合焼結ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で、RFマグネトロンスパッタによって、TaSiO(Ta:22.7原子%,Si:9.9原子%,O:67.4原子%)からなる表面反射防止層13を厚さ15nmに成膜した。このTa
2O
5およびSiO
2からなる混合焼結ターゲットは、Ta
2O
5の粉末とSiO
2の粉末とを70:30混合比率(mol%比)で混合および焼結して製造したものである。以上のようにして、ArF露光用のバイナリ型のマスクブランクを製造した。
【0073】
成膜された表面反射防止層13は、遮光層12との界面側(下層)から遮光膜19の最表面側(上層)に掛けてほぼ均一な膜組成比で形成されていた。また、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で、遮光膜19の異物欠陥検査を行ったところ、非常に低欠陥であった。
また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.29nmであった。
【0074】
なお、実施例7では、TaNからなる遮光層12の成膜で、スパッタリングガスとしては、キセノン(Xe)ガスを用いたが、これは、膜応力を大幅に低減できるためである。膜応力の調整を他の方法で行う場合には、アルゴン(Ar)やクリプトン(Kr)等の不活性ガスを適用してもよい。
【0075】
次に、製造したマスクブランクを用いてArF露光用の転写用マスクを製造する方法について説明する。
図3に転写用マスクの製造過程を示す。
図3(c)〜(d)に示すように、表面反射防止(TaSiO)層13上に、厚さ150nmの電子線描画用化学増幅型ポジレジスト14(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を塗布し、電子線描画および現像を行い、レジストパターン14aを形成した。
【0076】
次に、
図3(e)に示すように、レジストパターン14aを用いて、フッ素系(CHF
3)ガスを用いたドライエッチングにより、表面反射防止層13のパターンを作製した。
続いて、
図3(f)に示すように、塩素系(Cl
2)ガスを用いたドライエッチングにより、遮光(TaN)層12のパターンを作製する。さらに、30%の追加エッチングを行い、基板上に遮光膜19のパターンを作製する。このようにして作製された遮光膜パターンについて、断面のSEM観察を行ったところ、電子線レジストは約80nmの厚みで残存していた。
最後に、
図3(g)に示すように、遮光膜パターン上のレジスト14aを除去し、転写用マスクを完成させた。
【0077】
得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は、3.0以上であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は20%以下であり、裏面反射率は40%未満であった。
【0078】
(比較例1)
次に、比較例1にかかるマスクブランクについて説明する。
本比較例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、表面反射防止層13をTaO膜(膜組成比 Ta:31.6原子%,O:68.4原子%)に、膜厚を9nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.31nmであった。
【0079】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、25.2%、裏面反射率は、36.1%であり、いずれもパターン転写に影響のない反射率であったが、表面反射率は25%を超えてしまった。また、遮光膜パターン19aの表面反射防止層13のエッジ部分についてTEM観察を行ったところ、エッジ部分の丸まりが認められた。遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)も、DRAM hp32世代で用いられる転写用マスクとして求められる精度を満たすことはできていなかった。表面反射防止層13にSiを含有させていないこと、表面反射率を低反射とするために酸化度合を高くしたことに起因し、Cl系ドライエッチングに対する耐性が不十分になったものと推測される。
なお、転写用マスク作製前のマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、正常に欠陥を識別できていることが確認できた。
【0080】
(比較例2)
次に、比較例2にかかるマスクブランクについて説明する。
本比較例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、遮光層12をTa膜(膜組成比 Ta:100原子%)に、膜厚を39nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.55nmであった。
【0081】
また、実施例1と同様のプロセスにより、遮光膜パターン19aを有するArF露光用バイナリ型の転写用マスクを作製した。得られた転写用マスクに対して、分光光度計SolidSpec−3700DUV(島津製作所製)で光学特性の測定を行った。その結果、遮光膜19の光学濃度は3.0であり、バイナリ型転写用マスクとしては十分な遮光性能であった。また、ArF露光光に対する遮光膜19の表面反射率は、10.4%、裏面反射率は、44.6%であり、裏面反射率が高くパターン転写に問題があった。また、転写用マスクを大気中で放置しておくと、遮光膜パターン19の遮光層12のエッジ表面が酸化し始め、パターン線幅が変化してしまい、CD精度に問題が生じた。
【0082】
(比較例3)
次に、比較例3にかかるマスクブランクについて説明する。
本比較例にかかるマスクブランクは、上記実施例1に対して、遮光層12をTaN膜(膜組成比 Ta:38.0原子%,N:62.0原子%)に、膜厚を52nmに代えて作成した。この遮光膜19の光学濃度(OD)は、ArFエキシマレーザ露光光の波長に対して、3.0であった。また、得られたマスクブランクに対し、遮光膜19表面の1μm角領域内の表面粗さ(Rq)測定(測定点数:256点×256点)をNanoScopeIII(デジタルインスツルメント社製)によって測定したところ、表面粗さRq=0.86nmであった。このマスクブランクに対し、欠陥検査機M1350(レーザーテック社製)で異物欠陥検査を行ったところ、遮光膜19の全面に小サイズの欠陥が検出された。これらの欠陥について、検査画像を目視確認したところ、異物やピンホールは存在せず、表面粗さによる疑似欠陥であった。異物欠陥検査に問題のあるマスクブランクである
ことが判明した。
【0083】
なお、前記の各実施例において、表面反射防止層13としてTaSiOを適用したが、TaSiONを適用する場合においても、膜組成や膜厚を適宜調整してTaSiOの場合と同様に実施してみたところ、Cl系ガスを用いるドライエッチングに対して高い耐性を有しており、遮光膜パターン19aのラインエッジラフネス(LER)をDRAM hp32世代で適用しても十分な精度である転写用マスクを作製できること、遮光膜19全体の膜厚を65nm未満さらには60nm以下であっても、表面反射率を15%以下や10%以下の低反射率に調整可能であることを確認できた。