(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱交換機構が、前記空間を形成するように前記背面側管路内に挿入され、熱媒体を往路と復路で分離して輸送するガイド部材を有することを特徴とする請求項8に記載の露光装置。
前記前面熱交換部材と前記背面熱交換部材が、それぞれ熱伝導性のある連結部を有し、前記連結部を通じて連結していることを特徴とする請求項14に記載の熱交換機構。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DMDを単に前面側、背面側から冷却する構造では、そのDMD温度を全体的に均一で安定した温度状態にさせることが難しい。例えば露光装置の場合、実際の露光動作期間だけ照明光をDMDへ照射し、その前後の準備段階ではDMDへの照射を遮断する。このようなDMDに対する間欠的照射に伴い、露光動作中とその前後で急激な温度変動が生じる。また、DMDの投影面(ミラー配置面)側に発生する熱と、その背面側とに発生する熱との間で熱量に違いが生じ、DMDの表裏間で温度差が生じる。
【0007】
このようにDMDの温度が不安定になると、マイクロミラーを支持する支持機構において熱膨張による伸縮が発生し、また、DMD表裏間で温度差による歪等が生じる。その結果、各マイクロミラーの光軸に対する位置ずれ誤差、あるいはDMD全体における軸ずれが生じることになり、精度あるパターンを形成することができない。
【0008】
特に、フォトリソグラフィ工程では、投影型映像装置のように視覚的に違和感のない程度で画像の解像度を求めるのとは異なり、マイクロメートルあるいはそれ以下のオーダーでパターン精度が要求されるため、精密な温度管理が必要となる。
【0009】
そのため、光変調素子アレイの温度を全体的に安定させた状態で維持することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の露光装置は、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイと、光変調素子アレイの前面側に設けられる熱交換部材(以下、前面熱交換部材という)と、光変調素子アレイの背面側に設けられる熱交換部材(以下、背面熱交換部材という)とを設けた熱交換機構を備える。背面熱交換部材および前面熱交換部材内部には、熱媒体の流れる輸送管路が設けられている。また、露光装置は、熱交換機構を流れた熱媒体の温度を調整する熱媒体温度調整部を備える。
【0011】
光変調素子アレイとしては、例えばDMDなど複数のマイクロミラーをマトリクス配列させた反射面を設けているデバイスを用いることが可能である。また、熱媒体温度調整部として、熱交換機構との間で熱媒体を循環させる構成が適用可能であり、チラーユニットなどによる温度調整が可能である。熱媒体としては、効果的な温度調整を行うため、液体の熱媒体を用いるのが好ましい。
【0012】
熱交換機構の前面熱交換部材は、光変調素子アレイの前面側に設置される。ここで「前面側」とは、変調動作の障害とならないように光変調素子配列面の側に前面熱交換部材が配置されることを示し、光変調素子配列面の周りを囲むようにデバイス側面に設置する構成も、この前面側に含まれる。一方、「背面側」とは、光変調素子配列面とは反対側を示し、回路基板などが設けられる側として規定される。
【0013】
前面熱交換部材内の輸送管路を熱媒体が流れると、光変調素子アレイの前面側で発生する熱が熱媒体に吸収される。また、光変調素子アレイの背面側で発生する熱は、背面熱交換部材内の輸送管路を熱媒体が流れることによって吸収される。熱を受けた熱媒体は、熱媒体温度調整部において冷却される。
【0014】
本発明では、輸送管路が、背面熱交換部材と前面熱交換部材との間で熱媒体が輸送されるように形成されている。熱媒体が2つの熱交換部材間を移動することにより、熱交換機構に供給された熱媒体は、光変調素子アレイの部分的吸収ではなく、光変調素子アレイ全体に渡って熱を吸収することになる。したがって、前面側、背面側に発生する熱量の違いがあっても、その熱を吸収した熱媒体が他方の熱交換部材に流れるため、前面熱交換部材と背面熱交換部材との間で熱の伝達が生じ、結果的に光変調素子アレイの前側、後側の温度が均一化する。ここで均一化とは、光変調素子アレイの前側、後ろ側の温度差を最小化することを意味する。
【0015】
光変調素子アレイの温度の全体的バランスがとれて温度が均一化されるため、光変調素子アレイの温度を安定した平衡状態に維持することが可能となり、照明光の強度を上げても、光軸ずれがなくパターン精度に影響を与えない。特に、露光準備期間中、遮光手段を用いて光変調素子アレイへ導かれる照明光を遮断する場合、光変調素子アレイに対する照明は、間欠的に行われる。このような照明、遮光が繰り返されることによって光変調素子アレイの受ける熱エネルギーが急激に変化する状態においても、熱媒体の役割によって光変調素子アレイ全体における温度均一化、安定化が図られる。
【0016】
温度調整システムとしては、循環ポンプなどを用いて熱媒体を循環させる構成を適用することが可能である。また、熱交換機構をコンパクト化するため、背面熱交換部材を熱媒体温度調整部に接続し、背面熱交換部材を通じて熱交換機構に対する熱媒体の供給、排出をしてもよい。さらに、熱交換機構には、光変調素子アレイの温度を検出する温度センサを設けることが可能であり、熱媒体温度調整部は、温度センサからの温度データに基づいて熱媒体の温度を制御し、温度を適正範囲に維持することができる。特に、上述した間欠的な照明において、精度ある温度調整をすることができる。
【0017】
輸送管路の構成については、2つの熱交換部材間で熱媒体が移動する条件を満たす範囲で様々な管路の設置構成が適用可能である。例えば、熱媒体温度調整部から送られてくる熱媒体を分岐マニュホールドなどで分岐し、2つの熱交換部材に熱媒体を並列的に流し、かつ両方の間で熱媒体が移動するように輸送管路を設けてもよい。
【0018】
一方、背面熱交換部材と前面熱交換部材との間で直列的流路を形成する、すなわち、前面熱交換部材で熱媒体が熱を吸収するように輸送管路を移動した後に背面熱交換部材内の輸送管路に移動する、あるいはその逆の流れとなるように構成することも可能である。この場合、熱交換機構をコンパクトにすることが可能となり、また、どちらか一方の熱交換部材を流れて熱を吸収した熱媒体がそのまま他方の熱交換部材の熱を吸収するため、前面、背面熱交換部材との間で熱を伝達させることが可能となる。その結果、光変調素子アレイの一方面のみ受ける熱エネルギーが変動するような場合でも、光変調素子アレイの表裏の温度バランスを良好に保つことができる。
【0019】
DMDなどの光変調素子アレイでは、素子配列面周囲に輸送管路を形成する必要があり、エリア全体に熱交換部を設けることが可能な背面側に比べ、熱交換(冷却)の効率が悪くなる。また、前面側に発生する熱量も背面側に比べて大きくなる場合が多い。従って、直列的経路を設ける場合、前面熱交換部材、背面熱交換部材の順で熱を吸収し、先に熱吸収性の高い状態(低い温度状態の)熱媒体を前面熱交換部材の前面側熱を吸収する輸送管路に流すのがよい。
【0020】
また、光変調素子アレイの表裏間での温度バランスをより高めるためには、背面熱交換部材と前面熱交換部材を連結し、輸送管路を連結部に形成してもよい。連結構造としては、例えば直接当接させて連結することが可能であり、締結などによって一体的に繋げることができる。
【0021】
連結部内において熱媒体を輸送させることによって、専用の接続管路を設けることなく、熱媒体が関係のないところで熱交換、排熱をすることがなく、熱部材間の熱伝達が速やかになる。また、前面熱交換部材、背面熱交換部材を熱伝導性のある部材で構成する場合、一方の熱交換部材自身の熱が他方の熱交換部材に伝達し、より一層温度バランスを保つことができる。
【0022】
連結構造を適用する場合、熱交換機構の簡易な取り付け、取り外しを実現させるため、光変調素子アレイが2つの熱交換部材の間に挟持されるように連結させることが可能である。例えば、光変調素子アレイは露光ヘッド内部で光軸に対し固定されており、前面熱交換部材と背面熱交換部材が光変調素子アレイを両面から支持する構造にすることができる。
【0023】
一方、光変調素子アレイを支持する機構に熱が伝わると、熱の影響によってDMD全体に対する光軸ずれなどが生じる。このような光軸ずれを防ぐため、熱交換部材とは別に光変調素子アレイを支持する支持部材を構成するのがよい。
【0024】
前面熱交換部材の構成は、光変調素子アレイの素子配列構造などに合わせて定めることが可能である。例えば、光変調素子アレイの周囲に沿ってフレーム状熱交換部を形成し、輸送管路を、フレーム状熱交換部に形成することにより、照明の障害になることなく素子配列面周囲から熱を吸収することができる。
【0025】
背面熱交換部材については、直接的に光変調素子アレイ裏面を熱交換(冷却)することが可能である。できるだけ大きなエリアから熱を吸収するため、光変調素子アレイの背面に向かい合う熱交換面の内部側(できるだけ面近く)に、熱媒体流入流出可能な空間を輸送管路の一部として形成し、熱媒体を送り込むようにするのがよい。
【0026】
このような広い空間に熱媒体を満たす一方、複雑な加工、組立工程を必要とせず、シンプルな構成であって、かつ安定した熱媒体の流れを全体的に維持するように構成することが望ましい。この場合、背面熱交換部材内部に設けられる輸送管路として、光変調素子アレイの背面に垂直な方向に沿って熱交換面付近まで延びる管路(ここでは、背面側管路という)を設けるのが好ましく、背面側管路の先端部に設けられた熱媒体流出流入可能な空間に対し、熱媒体を背面側管路内で行き来させるのがよい。
【0027】
例えば、背面側管路先端部に隙間を設けてその隙間に上記空間を形成するように、熱媒体を背面側管路の軸方向に案内し、往路と復路で熱媒体を分離して輸送することを可能なガイド部材を、背面側管路に挿入すればよい。これによって、熱媒体の流れが強くなり、背面側の熱が熱媒体によって確実に吸収される。
【0028】
背面側管路内における気泡の発生を防いで熱交換効率を改善させるには、背面側管路の軸方向の熱媒体の流れを強く発生させるのが望ましい。例えば、ガイド部材のガイド軸方向に沿って溝を形成することにより、熱媒体を背面側管路の軸方向に安定して流すことができる。
【0029】
本発明の他の局面における熱交換機構は、露光装置、投影型映像装置などに使用される光変調素子アレイ(例えばDMD)の温度を調整するための熱交換機構であって、複数の光変調素子を2次元配列させた光変調素子アレイの前面側に設けられる前面熱交換部材と、光変調素子アレイの背面側に設けられる背面熱交換部材とを備える。前面熱交換部材は、前面側で発生する熱を受け取る。背面熱交換部材は、背面側で発生する熱を受け取る。
【0030】
本発明では、その周辺空間および光変調素子アレイを介在せずに前面熱交換部材と背面熱交換部材との間で熱が伝わることを特徴とする。すなわち、空気や光変調素子アレイによって受動的に熱が伝わるのではなく、媒体を通じた熱伝達、あるいは、部材単独あるいは部材間での直接的熱伝導が生じ、能動的な熱輸送がなされる構成になっている。
【0031】
このような熱輸送によって、光変調素子アレイの表裏で温度バランスが崩れることなく、光変調素子アレイの温度は、局所的な差異なく全体的に均一化されるため、光変調素子アレイの表裏温度差による光軸ずれがなく、適切かつ精度よく光変調素子アレイを温度管理することができる。
【0032】
熱の伝わる構成としては、例えば、前面熱交換部材と背面熱交換部材にそれぞれ熱伝導性のある連結部を設け、連結部を通じて連結させることが可能である。また、前面熱交換部材と背面熱交換部材内に熱媒体の流れる輸送管路を設け、輸送管路を、前面熱交換部材と背面熱交換部材との間で熱媒体が移動するように形成することも可能である。さらには、前面熱交換部材と背面熱交換部材との間に、ヒートパイプなどの熱輸送部材を介在させることも可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、光変調素子アレイを適切に温度調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0036】
図1は、本実施形態である露光装置(描画装置)を模式的に示した斜視図である。
図2は、露光ヘッドおよび熱交換システムに関する概略的構成を示した図である。
【0037】
露光装置10は、フォトレジスト、フィルムなどの感光材料を塗布あるいは貼り付けた基板SW(被描画体)に直接パターンを形成するマスクレス露光装置であって、ゲート状構造体12、基台14を備える。露光装置10には、モニタ、キーボードなどの入力装置(ここでは図示せず)が接続されており、オペレータの操作に従って描画処理が行われる。
【0038】
ゲート状構造体12には、光源20a、20bと露光ヘッド20
1、20
2がここでは設置されている。所定間隔を空けて配置される露光ヘッド20
1、20
2は、それぞれ光源20a、20bからの光に基づいて基板SWを照射し、基板SWの表面にパターンを形成する。基板SWは、プリベイク処理、フォトレジストの塗布やドライフィルムの貼り付け等の処理が施されたブランクスの状態で描画テーブル18に搭載される。
【0039】
図2には、露光ヘッド20
1の内部構成および露光ヘッド20
1に対する熱交換システムが図示されており、露光ヘッド20
2も同様の構成になっている。光源20aは、紫外光などの照明光を放射する放電ランプ21を備え、リフレクタ22によって放射される光が照明光学系23へ導かれる。
【0040】
照明光学系23によって平行光に成形された照明光は、ミラー26、プリズムあるいはハーフミラーなどの光学系27A、ミラー27Bを経てDMD24に導かれる。DMD24は、数μm〜数十μmの微小矩形状マイクロミラーをマトリクス状に2次元配列させた光変調素子アレイ(例えば、1024×768)であり、回路基板25に設置されている。
【0041】
DMD24では、露光制御部39から送られてくる露光データに基づいて、各マイクロミラーがそれぞれ選択的にON/OFF制御される。ON状態のマイクロミラーにおいて反射した光は、光学系27Aを介して投影光学系28へ導かれる。そして、ON状態ミラーからの反射光によって形成される光束、すなわちパターン像の光が基板SWに照射される。
【0042】
光源20aからDMD24までの光路上には、シャッタなどの遮光機構(図示せず)が設けられており、DMD24に対する照明光を遮光することが可能である。基板製造工程においては、1つの基板に対する露光動作が終了してから次の基板に対する露光動作が開始されるまでの間、遮光機構によって照明光が遮られる。したがって、露光装置の稼働中、DMD24に対する照明は間欠的なものとなり、DMD24に対する照射、遮光が所定期間ごとに繰り返される。
【0043】
熱交換システム35は、熱交換機構30とチラーユニット40を備える。熱交換機構30は、DMDに発生する熱を吸収、伝導する前面ジャケット(前面熱交換部材)70、背面ジャケット(背面熱交換部材)50を備え、DMD24および回路基板25を間に挟むように設置されている。
【0044】
熱交換機構30は、配管36によってチラーユニット40と接続されている。チラーユニット40は、循環ポンプおよびラジエータ(図示せず)を備えており、チラーユニット40と熱交換機構30との間で熱媒体Sが循環して流れている。
【0045】
熱媒体Sは、ここではフッ素化液など液体の熱媒体であり、熱媒体Sが熱交換機構30内部を流れる間、DMD24に発生する熱を吸収する。チラーユニット40に熱媒体が戻ると、ラジエータによって熱媒体の熱が放熱され、熱交換された(冷却された)熱媒体が熱交換機構30へ再び輸送される。
【0046】
背面ジャケット50には温度センサ37が配置されており、チラーユニット40は、温度センサ37から送られてくる温度データに基づいて熱媒体を熱交換し、DMD24を常時適正な温度で維持するように温度調整する。露光ヘッド20
2においても、同じような温度調整が行われる。
【0047】
以下、
図3〜
図9を用いて、熱交換機構の構成について説明する。
【0048】
図3は、後方側から見た(DMD背面側から見た)前面ジャケットの模式的斜視図である。
図4は、前方側から見た(DMD前面側から見た)熱交換機構の背面ジャケットの模式的斜視図である。
【0049】
図3に示すように、熱伝導性のある前面ジャケット70は、矩形状カバー71と、その下部に取り付けられた連結部72とを備え、カバー71の中央部には、DMDサイズに応じた窓71Wが形成されている。窓71Wの周囲には、熱媒体を流す熱交換部76が形成されている。
【0050】
連結部72は、熱媒体の流れる接続管路(輸送管路)73A、73Bを有し、熱交換部76に形成された輸送管路(ここでは図示せず)と連通している。カバー71の両側には固定穴71A〜71Cが形成されており、また、連結部72の両端には連結穴74A、74Bが設けられている。
【0051】
一方、熱伝導性のある背面ジャケット50は、前面50Sから突出する矩形状熱交換部58を備え、その下方に連結部52が前面50Sに設けられている。連結部52には、前面ジャケット70の連結部72に合わせて接続管路(輸送管路)53A、53Bが設けられており、その両脇には連結穴54A、54Bが設けられている。接続管路53A、53Bと接続管路73A、73Bとの間には、それぞれOリング55A、55Bが装着される。
【0052】
矩形状の熱交換部58には温度センサ37が設置されており、DMD24の温度を検出する。背面ジャケット50の下部には、チラーユニット40との間で熱媒体を循環させるための給排用接続管路(輸送管路)59A、59Bが設置されている。
【0053】
図5は、前方側から見た熱交換機構の概略的分解斜視図である。
図6は、後方側から見た熱交換機構の概略的分解斜視図である。
【0054】
DMD24は、ここでは図示しない回路基板25に搭載される。回路基板に取り付けたDMD24を、背面ジャケット50の熱交換部58および前面ジャケット70の窓71Wの位置に合わせ、DMD24および回路基板25を間に挟み込むように、前面ジャケット70と背面ジャケット50が連結される。前面ジャケット70と背面ジャケット50とを締結するため、留め具74E、74Fが、前面ジャケット70の穴74A、74Bおよび背面ジャケットの穴54A、54Bに挿入される。
【0055】
また、前面ジャケット70は、固定穴71A〜71Cに通す留め具を通して、回路基板25に設置された支持部材(図示せず)に固定される。そして、背面ジャケット50も支持部材によって保持される。これによって、DMD24が支持部材によって固定されるとともに、DMD24は熱交換機構30によって両側から押えつけられる。
【0056】
DMD24の反射面(素子配列面)24Mの周囲は、前面ジャケット70によって覆われており、DMD24の背面は、背面ジャケット50によって覆われている。露光動作中にDMD24に発生する熱は、熱交換部材内部を流れる熱媒体によって吸収され、熱交換した熱媒体はチラーユニット40へ輸送される。
【0057】
図5には、前面ジャケット70によって直接熱交換されるDMD24のエリア29が斜線で示されている。また、
図6には、背面ジャケット50の熱交換部表面58Sと接するエリア24Bが斜線で図示されている。
【0058】
次に、
図7、
図8、
図9A〜9Cを用いて、熱交換機構において熱媒体の流れる管路の構成について説明する。
【0059】
図7は、熱交換機構の内部構成を前方から見た概略的斜視図である。
図8は、熱交換機構の内部構成を後方から見た概略的斜視図である。ここでは、熱媒体用の輸送管路およびそれに関係する主な内部構成を破線によって表している。
【0060】
上述したように、熱媒体は、背面ジャケット50の接続管路59A、59Bを通じて熱交換機構30に対し流入、流出する。
図8に示すように、背面ジャケット50に供給された熱媒体は、背面ジャケット50内部に形成された輸送管路51B、および連結部52内に形成された接続管路53Bを介して、前面ジャケット70に輸送される。
【0061】
接続管路53Bを通じて前面ジャケット70の接続管路73B(
図7参照)に流入した熱媒体は、カバー71の窓71Wの周囲に形成された矩形状の輸送管路78を流れる。カバー71は、横方向に長いカバー本体70Bに溝を形成し、その上から矩形状窓枠70Aを溶接等によって取り付けた構成になっている。
【0062】
輸送管路78は、前面ジャケット70の背面側に形成された熱交換部76のフレーム部分76Fに沿って形成されており、フレーム部分76Fも内部がくりぬかれた溝形状になっている。輸送管路78は、輸送管路76A、76Bを通じて接続管路73Aと接続管路73Bとを連通させるように形成されており、窓71Wの下縁に沿った管路中央部分は連通せず、遮断されている。このような輸送管路78の構成により、前面ジャケット70に供給された熱媒体は、前方から見て反時計回りに輸送管路78を流れ、背面ジャケット50へ移動する。
【0063】
次に、
図8とともに
図9を用いて、背面ジャケット50の内部構成および熱媒体の流れについて説明する。
【0064】
図9Aは、ガイド部材の概略的側面図である。
図9Bは、
図9Aとは反対方向から見たガイド部材の概略的側面図である。
図9Cは、前面ジャケット側から見たガイド部材の正面図である。
【0065】
まず、
図8を用いて内部構成について説明すると、背面ジャケット50には、DMD24の背面垂直方向に沿って円筒状穴59が背面輸送管路として形成されており、穴には、円筒状のガイド部材60が挿入されている。ガイド部材60の一端に取り付けられた固定部材62を背面ジャケットに取り付けることにより、ガイド部材60がジャケット内部で固定される。
【0066】
図9A、Bに示すように、ガイド部材60のDMD側先端部は、円筒状穴59の端面59Sと隙間を設けて筒状空間58Dが形成されるように位置決めされている。また、円筒状穴59は、接続管路53Aと繋がっている輸送管路53Cと連通し、また、接続管路51Aと繋がっている輸送管路51Dと連通している。
【0067】
ガイド部材60は、円筒状穴59に応じた径を有する筒状部材であり、およそ90度の角度で切り込まれた溝61A、61Bが、ガイド軸Xに関して対称的に形成されている。溝61Bは、輸送管路53Cと円柱状穴59との接続部分に合わせて形成されている。
【0068】
一方、溝61Aを横断するようにガイド軸Xに垂直な切り込み部分61Dがガイド部材60に形成されており、輸送管路51Dと円柱状穴59との接続部分に形成されている。ガイド部材60と固定部材62との間にはOリング66が設けられており、溝66Sに嵌め込まれた状態で液漏れを防いでいる。
【0069】
熱媒体の流れを説明すると、前面ジャケット70から背面ジャケット50へ移動した熱媒体は、接続管路53A、53Cを通じて円筒状穴59に流入する。円筒状穴59に流入した熱媒体は、溝61Bを通じて円筒状穴端面59Sに向かって移動し、端面59Sとの間に設けられた筒状空間58Dに流れ込む。
【0070】
筒状空間58Dには熱媒体が貯留して空間一杯に熱媒体が満たされるが、熱媒体循環によって、今度は溝61Aを通じて熱媒体がDMD24から離れるように反対側へ流れていく。そして、切り込み部分61Dを通じて熱媒体が輸送管路51Dに流れ込み、接続管路51Aを通じて背面ジャケット50から流出する。
【0071】
このように、背面ジャケット50では、熱交換用の背面輸送管路である円筒状穴59が、熱媒体排出、前面ジャケット70への供給用輸送管路とは別にDMD背面に垂直な方向に沿って形成されており、その円筒状穴59内に設けたガイド部材60により、円筒状穴59内で熱媒体が往路、復路別々で移動し、チラーユニット40へ排出される。
【0072】
熱媒体が前面ジャケット70の窓71Wに沿って形成された輸送管路78を流れることにより、DMD24の前面側、側面において発生する熱が吸収される。そして、熱媒体がガイド部材60に沿って往路、復路別々で移動することにより、DMD24の背面側に発生する熱は、熱交換面58Sの内部にある筒状空間58Dに流入する熱媒体によって吸収される。
【0073】
図10は、熱媒体の流れを模式的に示した図である。
【0074】
上述したように、本実施形態の熱交換システムは、チラーユニット40を用いて熱媒体を循環させる構成であり、熱媒体の流れる管路は、直列的な繋がった輸送管路を熱交換機構に設けている。さらに、熱吸収のため、背面ジャケット50に流入した熱媒体は、最初にDMD前面側の熱を吸収するように前面ジャケット70へ供給される。
【0075】
そして、前面ジャケット70を流れた熱媒体は、背面ジャケット50に再び流入し、今度はDMD背面側の熱を吸収するように輸送される。そして、DMD両面の熱を吸収した熱媒体がチラーユニット40へ送られると、放熱した熱媒体が背面ジャケット50へ供給される。チラーユニット40は、DMD24の温度が動作環境として適正な温度範囲に定まるように、熱媒体の温度を調整する。
【0076】
このように本実施形態によれば、露光装置には、熱交換システムとして、熱交換機構30、チラーユニット40が設けられており、チラーユニット40によって液体の熱媒体を循環させるとともに、熱交換機構30において熱交換した熱媒体を、冷却、放熱させる。熱交換機構30は、DMD24の両側を熱交換するため、熱媒体の流れる輸送管路を内部に設けた前面ジャケット70、背面ジャケット50によって構成される。
【0077】
そして、DMD24を間に挟むように、前面ジャケット70、背面ジャケット50が一体的に連結されるとともに、輸送管路が熱交換機構30内部において直列的経路を構成する。また、熱媒体の流れとして、先に前面ジャケット70の熱交換部76へ熱媒体を供給し、その後、背面ジャケット50の熱交換部58に熱媒体を供給する。
【0078】
前面ジャケット70、背面ジャケット50との間で熱媒体が移動するように輸送管路が構成されているため、熱媒体はDMD24の表裏両方、すなわちDMD全体を流れていく。したがって、DMDに発生する熱量が表裏で差異があっても、DMD24の温度は全体的に均一化しやすく、また、変化するときも局所的ではなく全体的に変化する。その結果、熱変形、歪などによるDMD24の光軸ずれの恐れがなく、温度調整を精度よく行うことができる。
【0079】
また、直列的な輸送管路を形成しているため、熱交換機構をコンパクト化させることができ、隣接する露光ヘッド間のスペースに制限があっても、十分に対応することができる。一方、DMD24の前面側では、照明光を回避するように輸送管路が反射面周囲に設けられているため、熱媒体の熱交換効率が悪く、また照明光の照射側のために受ける熱量も多い。本実施形態では前面ジャケットの熱を最初に熱交換するため、前面側の熱を効果的に吸収することができ、表裏温度のバランスが保たれる。
【0080】
さらに、前面ジャケット70と背面ジャケット50とを連結することによって、専用輸送管路を介在させることなく熱媒体を輸送させることが可能となり、熱交換機構をコンパクト化することができる。その一方で、前面ジャケット70、背面ジャケット50の連結構造が、DMD24を回路基板25に押さえつける機能を果たしており、専用のDMD取り付け機構を設ける必要がない。さらに、熱交換機構30の取り付け、取り外しが容易になる。
【0081】
また、連結構造により、DMD24の周囲、近傍にだけ輸送管路を形成すればよいため、DMD24の関係ない部分での熱吸収、放熱がなく、熱媒体は効果的にDMD24から発生する熱を吸収することになり、温度均一化が図られる。
【0082】
さらに、前面ジャケット70、背面ジャケット50が熱伝導性をもつため、前面ジャケット70、背面ジャケット50自体が受ける熱を互いに連結部52、72を通じて伝達されることになり、熱交換機構全体の温度バランスも均一化し、DMD24の表裏温度バランスを崩さない。
【0083】
このように、前面ジャケット70、背面ジャケット50を連結させる構造を採用しているが、その一方、DMD24を支持する機構は別に設けられており、熱交換機構30においてDMD24を支持する構成にはなっていない。これにより、熱が支持機構に伝達されないため、光軸ずれなどパターン精度の低下を招く恐れがない。
【0084】
本実施形態では、背面ジャケット50内部において、前面ジャケット70への熱媒体供給、チラーユニット40への熱媒体排出を行う輸送管路と、DMD24の背面からの熱を熱交換するための管路を別々に構成しており、DMD24の背面に沿って輸送管路を形成するのではなく、DMD24の背面に垂直な方向に熱媒体を往路と復路で分離させて輸送し、DMD24の背面近傍に形成される貯留部分となる空間にまで熱媒体を送り込むように構成されている。
【0085】
このような構成により、より大きなエリアでDMD24の背面を効果的に熱交換することが可能となる。また、取り外し可能なガイド部材60を背面ジャケット50内部に取り付ける構成であるため、流路の組立、加工を容易に行うことができる。さらに、ガイド部材60に溝61A、61Bが形成されるため、流路抵抗を抑えながら、熱媒体液の流れをガイド軸方向に沿って起こして熱媒体が液溜まりすることなく交換され、合わせて気泡の発生を抑えることができる。
【0086】
ガイド部材の溝に関しては、ガイド軸方向に沿って直線的に切り込んだ溝の代わりに、ガイド軸周りに螺旋状溝を形成しても良い。流路長が長くなることで熱交換能力が高まる。また、流路ガイドをフィンや突起などを設けた形状にしてもよい。
【0087】
ガイド部材の材料に関しては、相対的に比熱の高い材料(例えば銅)によって構成してもよい。熱バッファの機能を果たすことによって、急激な温度変化を抑えることができる。ガイド部材を熱伝導性の高い材質にし、背面ジャケットを加工性のよいアルミ鋳物として、熱交換性能と自在な形状デザインを両立することができる。
【0088】
次に、
図11を用いて、第2の実施形態である露光装置について説明する。第2の実施形態では、熱媒体が最初に背面ジャケットの熱を吸収し、その次に前面ジャケットの熱を吸収するように、循環方向が逆に設定されている。それ以外の構成については、第1の実施形態と同じである。
【0089】
図11は、第2の実施形態における熱交換システムの模式図である。
【0090】
チラーユニット40から背面ジャケット50へ送られた熱媒体は、まず背面ジャケット50内の管路を流れてDMD背面側の熱を吸収する。そして、背面ジャケット50から前面ジャケット70へ移動し、DMD前面側の熱を吸収した後背面ジャケット50へ戻り、チラーユニット40へ排出される。
【0091】
次に、
図12を用いて、第3の実施形態である露光装置について説明する。第3の実施形態では、ヒートパイプを用いて前面ジャケットとの間で熱を輸送する。それ以外の構成については、第1の実施形態と同じである。
【0092】
図12は、第3の実施形態における熱交換システムの模式図である。背面ジャケット150と前面ジャケット170との間には、ヒートパイプ110が設けられている。チラーユニット40から供給される熱媒体は、背面ジャケット150内部を流れる。一方、前面ジャケット170に発生する熱は、ヒートパイプ110を通じて背面ジャケット150に伝達される。
【0093】
このように、第3の実施形態によれば、ヒートパイプが熱伝導部材となって、前面ジャケット、背面ジャケット間における熱を伝達する機能を果たす。前面ジャケット、背面ジャケット間で液体の熱媒体を輸送しないことにより、液漏れがなく、また、熱媒体流路の細径に起因する流量低下や熱媒体の詰まりも発生しない。
【0094】
次に、
図13を用いて、第4の実施形態である露光装置について説明する。第4の実施形態では、熱媒体の供給、排出機構を前面ジャケットに設ける。それ以外の構成については、第1の実施形態と同じである。
【0095】
図13は、第4の実施形態における熱交換システムの模式図である。前面ジャケット270には、第1の実施形態において背面ジャケットに設けられた熱媒体供給、排出機構が、前面ジャケット270に一体的に設けられている。
【0096】
次に、
図14を用いて、第5の実施形態である露光装置について説明する。第5の実施形態では、前面ジャケットと背面ジャケットがヒートパイプによって接続されている。それ以外の構成については、第4の実施形態と同じである。
【0097】
図14は、第5の実施形態における熱交換システムの模式図である。前面ジャケット470の給排用管路との間にヒートパイプ420が設けられている。熱媒体は、前面ジャケット470内部を流れる。一方、背面ジャケット450の熱は、ヒートパイプ420によって前面ジャケット470に伝達される。
【0098】
次に、
図15を用いて、第6の実施形態である露光装置について説明する。第6の実施形態では、熱交換器を設け、前面ジャケット、背面ジャケット両方に対してヒートパイプを接続させる。それ以外の構成については、第5の実施形態と同じである。
【0099】
図15は、第6の実施形態における熱交換システムの模式図である。チラーユニット40と前面ジャケット570、背面ジャケット550との間に熱交換器510を設ける。熱交換器510と背面ジャケット550との間にはヒートパイプ530が設けられており、熱交換510と前面ジャケット570との間にはヒートパイプ520が設けられている。
【0100】
熱媒体は、チラーユニット40と熱交換器510との間で循環し、前面ジャケット570、背面ジャケット550の熱は、それぞれヒートパイプ520、530を介して熱交換器510に伝達される。一方、前面ジャケット570と背面ジャケット550は、第1の実施形態で示したように一体的に連結している。したがって、連結部を介して熱が伝導する。
【0101】
次に、
図16を用いて、第7の実施形態である露光装置について説明する。第7の実施形態では、さらにペルチェ素子などの熱電素子を設けている。それ以外の構成については、第6の実施形態と同じである。
【0102】
図16は、第7の実施形態における熱交換システムの模式図である。チラーユニット40と前面ジャケット670、背面ジャケット650との間には、温度変化を平滑化するための熱バッファ容器660を設けており、ペルチェ素子680を間に挟んで熱交換器690を設けている。
【0103】
前面ジャケット670、背面ジャケット650と熱バッファ容器660との間には、それぞれヒートパイプ620、630が設けられている。前面ジャケット670、背面ジャケット650の熱は、ヒートパイプ620、630によって熱バッファ容器660に伝達される。そして、ペルチェ素子680が熱バッファ容器660を温度調整する。
【0104】
ペルチェ素子680の駆動によって発生する熱は、熱交換器690に供給される熱媒体に吸収され、チラーユニット40において温度調整される。熱バッファ容器660には温度センサ665が設置されており、温度コントローラ685がペルチェ素子680を制御することによって、高精度に温度調整を行う。
【0105】
以上に説明した第1〜第7の実施形態では、前面ジャケットと背面ジャケットとの間で熱が伝わるように、熱媒体の輸送、ヒートパイプなどによる熱輸送部材の配置、前面ジャケットと背面ジャケットとの直接的な連結などによって熱交換機構を構成しているが、前面ジャケット、背面ジャケットの形状、内部構成は、伝熱体として機能する条件でこれらに限定されるものではなく、また、DMD以外の光変調素子アレイ(SLMなど)にも適用可能である。
【0106】
光変調素子アレイの形状、構造、特性に合わせて、連結構造、熱媒体流路のデザイン、熱輸送部材の設置に関する様々な態様が適宜適用される。また、熱交換システムの方式、構成についても様々な手法、構成を採用することができる。さらに、熱媒体の種類についても、液体冷媒などを含めて様々な熱媒体が適宜選択可能である。