(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.複酸化物積層体
本発明の複酸化物積層体は、下記一般式(1)で表される組成を有する第1の複酸化物層と、当該層の少なくとも一方の面に積層した、下記一般式(2)で表される組成を有する第2の複酸化物層を備えることを特徴とする。
Ca
xNb
yO
z 一般式(1)
(上記一般式(1)中、1≦x≦3、2≦y≦4、8≦z≦12である。)
Li
pLa
qTi
rO
s 一般式(2)
(上記一般式(2)中、0<p≦1、0<q≦1、0<r≦2、1≦s≦5である。)
【0016】
本発明の複酸化物積層体は、後述する結晶構造例において詳しく説明するように、前記一般式(1)の組成を有する複酸化物の酸素原子の位置と、前記一般式(2)の組成を有する複酸化物の酸素原子の位置が、少なくとも第1の複酸化物層と第2の複酸化物層との界面において揃う。したがって、本発明の複酸化物積層体は化学組成が異なる2層以上の積層体であるにもかかわらず、少なくとも前記一般式(2)の組成を有する複酸化物の結晶の配向性が高く、その結果高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0017】
上記一般式(1)で表される組成を有する第1の複酸化物層は、ナノ単位の厚さを有する単層膜が互いに積み重なった層状構造を有する結晶性の高い無機化合物からなる層である。
当該単層膜の層間は、静電気力や分子間力によって保持されているため弱い結合を有するが、当該単層膜の面内は強い結合を有する。また、当該単層膜は、当該単層膜の面内方向に広がりを有する二次元結晶であり、その面内には単結晶に匹敵する高い結晶性を有することが知られている(例えば、特許3726140号公報の記載を参照)。したがって、当該単層膜は、分子レベルの厚さを有する完全に平坦な単結晶とみなすことができる。
【0018】
本発明においては、第1の複酸化物層の厚さが1〜3nmであることが好ましい。第1の複酸化物層の厚さが1nm未満であると、配向性の高い第2の複酸化物層を形成することができないおそれがある。また、第1の複酸化物層の厚さが3nmを超えると、複酸化物積層体全体の厚みが厚くなりすぎてリチウム二次電池の使用に適さないおそれがある。
第1の複酸化物層の厚さは、1.4〜2.4nmであることがより好ましい。
【0019】
上記一般式(1)中、1.5≦x≦2.5、2.5≦y≦3.5、9≦z≦11であることが好ましく、x=2、y=3及びz=10であること、すなわち、第1の複酸化物層の組成がCa
2Nb
3O
10であることがより好ましい。
図2は、Ca
2Nb
3O
10の結晶構造中、a軸及びc軸によって張られる面に平行な結晶面を示した模式図である。
図2中の黒丸21は酸素原子(O)を、丸22はニオブ原子(Nb)を、丸23はカルシウム原子(Ca)を、それぞれ示す。図中には結晶構造の他、結晶の格子間距離も併せて示した。
Ca
2Nb
3O
10の空間群対称性は以下の通りである。
System:Orthorhombic
Number:63
Std.symbol:C m m m
Ca
2Nb
3O
10の格子パラメータは以下の通りである。
a=3.88020
c=7.71400
α=90
β=90
γ=90
【0020】
本発明においては、第2の複酸化物層の厚さが0.1〜10μmであることが好ましい。第2の複酸化物層の厚さが0.1μm未満であると、第2の複酸化物層が薄すぎる結果、絶縁性が保てなくなるおそれがある。また、第2の複酸化物層の厚さが10μmを超えると、第2の複酸化物層が厚すぎる結果、電解質層として用いたときに抵抗が大きくなりすぎるおそれがある。
第2の複酸化物層の厚さは、1〜3μmであることがより好ましい。
【0021】
上記一般式(2)中、0.2≦p≦0.5、0.4≦q≦0.7、0.5≦r≦1.5及び2≦s≦4であることが好ましく、p=0.35、q=0.55、r=1及びs=3であること、すなわち、第2の複酸化物層の組成がLi
0.35La
0.55TiO
3であることがより好ましい。
図3は、Li
0.35La
0.55TiO
3中、a軸及びc軸によって張られる面に平行な結晶面を示した模式図である。
図3中の黒丸31は酸素原子(O)を、丸32はチタン原子(Ti)を、丸33はリチウム原子(Li)を、それぞれ示す。なお、ランタン原子(La)は図には現れていない。図中には結晶構造の他、結晶の格子間距離も併せて示した。
Li
0.35La
0.55TiO
3の空間群対称性は以下の通りである。
System:Orthorhombic
Number:65
Std.symbol:C m m m
Li
0.35La
0.55TiO
3の格子パラメータは以下の通りである。
a=7.73830
c=7.73640
α=90
β=90
γ=90
【0022】
ここで、
図2と
図3に示した各結晶構造中の、c軸方向における酸素原子間の距離を比較する。
図2に示すCa
2Nb
3O
10の結晶構造においては、c軸方向における酸素原子間の距離は、4.437Å及び3.277Åが交互に繰り返される。一方、
図3に示すLi
0.35La
0.55TiO
3の結晶構造においては、c軸方向における酸素原子間の距離は、4.402Å及び3.332Åが交互に繰り返される。このように、いずれの結晶構造においても、c軸方向における酸素原子間の距離が、4.4Å及び3.3Åの繰り返しとなる。その結果、Ca
2Nb
3O
10結晶からなる層とLi
0.35La
0.55TiO
3結晶からなる層を積層した場合に、両結晶構造中の酸素原子の位置が結晶界面において揃うため、両結晶構造の格子ミスマッチは極めて小さく、Li
0.35La
0.55TiO
3結晶の配向性が高くなり、その結果高いリチウムイオン伝導性を有する。
一方、後述する
図7に示すLa
0.95Nb
2O
7の結晶構造においては、c軸方向における酸素原子間の距離は3.877Åのみである。したがって、c軸方向における酸素原子間の距離が3.9ÅであるLa
0.95Nb
2O
7の結晶構造と、4.4Å及び3.3Åの繰り返しであるLi
0.35La
0.55TiO
3の結晶構造とは、酸素原子間の距離が一致しないため、La
0.95Nb
2O
7結晶とLi
0.35La
0.55TiO
3結晶とは格子ミスマッチが大きい。その結果、La
0.95Nb
2O
7結晶からなる層とLi
0.35La
0.55TiO
3結晶からなる層を積層した場合に、Li
0.35La
0.55TiO
3の結晶の配向性は、上述したCa
2Nb
3O
10結晶とLi
0.35La
0.55TiO
3結晶との組み合わせの場合と比較して低くなる。
【0023】
図1は、本発明に係る複酸化物積層体の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。複酸化物積層体100は、上記第1の複酸化物層1、及び、第1の複酸化物層の一方の面に積層した第2の複酸化物層2を有する。
なお、本発明に係る複酸化物積層体は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。例えば、第1の複酸化物層の両面に第2の複酸化物層が積層した態様や、第1の複酸化物層と第2の複酸化物層が交互に積層した態様なども、本発明に含まれる。
【0024】
2.固体電解質膜・電極接合体
本発明の固体電解質膜・電極接合体は、上記複酸化物積層体を備えることを特徴とする。
本発明に係る固体電解質膜・電極接合体は、上述した複酸化物積層体の少なくとも一面側に、好ましくは電極活物質層を備える電極を積層させたものである。なお、電極として、複酸化物積層体の積層に使用した基板をそのまま用いてもよい。電極及び電極活物質層の材料及び積層の方法の詳細については後述する。
【0025】
3.リチウム二次電池
本発明のリチウム二次電池は、少なくとも正極と、負極と、当該正極と当該負極との間に介在する固体電解質とを備えるリチウム二次電池であって、前記固体電解質が、上記複酸化物積層体であることを特徴とする。
【0026】
図4は、本発明に係るリチウム二次電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係るリチウム二次電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
リチウム二次電池200は、正極活物質層12及び正極集電体14を備える正極16と、負極活物質層13及び負極集電体15を備える負極17と、正極16及び負極17に挟持される固体電解質11を有する。
本発明に係るリチウム二次電池のうち、固体電解質については上述した複酸化物積層体を用いる。積層体中の第1の複酸化物層及び第2の複酸化物層のうち、いずれが正極に接するように配置されてもよいし、いずれが負極に接するように配置されてもよい。
以下、本発明に係るリチウム二次電池の構成要素である、正極、負極、セパレータ、電池ケースについて、詳細に説明する。
【0027】
(正極)
本発明に係るリチウム二次電池の正極は、好ましくは正極活物質を有する正極活物質層を有するものであり、通常、これに加えて、正極集電体、及び当該正極集電体に接続された正極リードを有するものである。なお、本発明に係るリチウム二次電池がリチウム空気電池である場合には、上記正極の替わりに、空気極層を含む空気極を有する。
【0028】
(正極活物質層)
以下、正極として、正極活物質層を有する正極を採用した場合について説明する。
本発明に用いられる正極活物質としては、具体的には、LiCoO
2、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、LiNiPO
4、LiMnPO
4、LiNiO
2、LiMn
2O
4、LiCoMnO
4、Li
2NiMn
3O
8、Li
3Fe
2(PO
4)
3及びLi
3V
2(PO
4)
3等を挙げることができる。これらの中でも、本発明においては、LiCoO
2を正極活物質として用いることが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる正極活物質層の厚さは、目的とするリチウム二次電池の用途等により異なるものであるが、10〜250μmの範囲内であるのが好ましく、20〜200μmの範囲内であるのが特に好ましく、特に30〜150μmの範囲内であることが最も好ましい。
【0030】
正極活物質の平均粒径としては、例えば1〜50μmの範囲内、中でも1〜20μmの範囲内、特に3〜5μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなるおそれがあり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になるおそれがある。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0031】
正極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着材等を含有していても良い。
本発明において用いられる正極活物質層が有する導電化材としては、正極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、正極活物質層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常1〜10質量%の範囲内である。
【0032】
本発明において用いられる正極活物質層が有する結着材としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、正極活物質層における結着材の含有量は、正極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着材の含有量は、通常1〜10質量%の範囲内である。
【0033】
(正極集電体)
本発明において用いられる正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものである。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0034】
前記正極及び前記負極のうち少なくとも一方の電極の電極活物質層が、少なくとも電極活物質及び電極用電解質を含有するという構成をとることもできる。この場合、電極用電解質としては、固体酸化物電解質、固体硫化物電解質等の固体電解質や、上述したポリマー電解質、ゲル電解質等を用いることができる。
【0035】
本発明に用いられる正極を製造する方法は、上記の正極を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。なお、正極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、正極活物質層をプレスしても良い。
【0036】
(空気極層)
以下、正極として、空気極層を有する空気極を採用した場合について説明する。本発明に用いられる空気極層は、少なくとも導電性材料を含有するものである。さらに、必要に応じて、触媒及び結着材の少なくとも一方を含有していても良い。
【0037】
空気極層に用いられる導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料等を挙げることができる。さらに、炭素材料は、多孔質構造を有するものであっても良く、多孔質構造を有しないものであっても良いが、本発明においては、多孔質構造を有するものであることが好ましい。比表面積が大きく、多くの反応場を提供することができるからである。多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー等を挙げることができる。空気極層における導電性材料の含有量としては、例えば65〜99質量%の範囲内、中でも75〜95質量%の範囲内であることが好ましい。導電性材料の含有量が少なすぎると、反応場が減少し、電池容量の低下が生じるおそれがあり、導電性材料の含有量が多すぎると、相対的に触媒の含有量が減り、充分な触媒機能を発揮できないおそれがある。
【0038】
空気極層に用いられる触媒としては、例えばコバルトフタロシアニン及び二酸化マンガン等を挙げることができる。空気極層における触媒の含有量としては、例えば1〜30質量%の範囲内、中でも5〜20質量%の範囲内であることが好ましい。触媒の含有量が少なすぎると、充分な触媒機能を発揮できないおそれがあり、触媒の含有量が多すぎると、相対的に導電性材料の含有量が減り、反応場が減少し、電池容量の低下が生じるおそれがある。
電極反応がよりスムーズに行われるという観点から、上述した導電性材料は触媒を担持していることが好ましい。
【0039】
上記空気極層は、少なくとも導電性材料を含有してれば良いが、さらに、導電性材料を固定化する結着材を含有することが好ましい。具体的な結着材としては、上述した「正極活物質層」の項に記載したものを用いることができる。空気極層における結着材の含有量としては、特に限定されるものではないが、例えば30質量%以下、中でも1〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0040】
上記空気極層の厚さは、空気電池の用途等により異なるものであるが、例えば2〜500μmの範囲内、中でも5〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0041】
(空気極集電体)
本発明に用いられる空気極集電体は、空気極層の集電を行うものである。空気極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。空気極集電体の形状としては、例えば箔状、板状及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。中でも、本発明においては、空気極集電体の形状がメッシュ状であることが好ましい。集電効率に優れているからである。この場合、通常、空気極層の内部にメッシュ状の空気極集電体が配置される。さらに、本発明のリチウム二次電池は、メッシュ状の空気極集電体により集電された電荷を集電する別の空気極集電体(例えば箔状の集電体)を有していても良い。また、本発明においては、後述する電池ケースが空気極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
空気極集電体の厚さは、例えば10〜1000μmの範囲内、中でも20〜400μmの範囲内であることが好ましい。
【0042】
(負極)
本発明に係るリチウム二次電池中の負極は、好ましくは負極活物質を含有する負極活物質層を有するものであり、通常、これに加えて負極集電体、及び当該負極集電体に接続された負極リードを有するものである。
【0043】
(負極活物質層)
本発明に係るリチウム二次電池中の負極層は、負極活物質を含有する。負極活物質層に用いられる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、及びグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
リチウム元素を含有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。また、負極層には、固体電解質をコートしたリチウムを用いることもできる。
【0044】
また、上記負極層は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料及び結着剤の少なくとも一方を含有するものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着剤を有する負極層とすることができる。なお、導電性材料及び結着剤については、上述した「空気極」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
負極活物質層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば10〜100μmの範囲内、中でも10〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
(負極集電体)
負極集電体の材料及び形状としては、上述した正極集電体の材料及び形状と同様のものを採用することができる。
【0046】
(セパレータ)
本発明に係るリチウム二次電池が、正極−電解質−負極の順番で配置されている積層体を、繰り返し何層も重ねる構造を取る場合には、安全性の観点から、異なる積層体に属する正極及び負極の間に、セパレータを備えることが好ましい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
本発明に係るリチウム二次電池は、正極及び負極の間に、電解液を含浸させたセパレータを備えていてもよい。
【0047】
(電池ケース)
本発明に係るリチウム二次電池は、通常、正極、固体電解質及び負極等を収納する電池ケースを備える。電池ケースの形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
本発明に係る電池がリチウム空気電池である場合には、電池ケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。大気開放型の電池ケースは、少なくとも空気極層が十分に大気と接触可能な構造を有する電池ケースである。一方、電池ケースが密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、気体(空気)の導入管及び排気管を設けることが好ましい。この場合、導入・排気する気体は、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【0048】
4.複酸化物積層体の製造方法
本発明の複酸化物積層体の製造方法は、互いに異なる化学組成の少なくとも2層からなる複酸化物積層体の製造方法であって、基板を準備する工程、前記基板の少なくとも一面側に、下記一般式(1)で表される組成を有する第1の複酸化物層を形成する工程、及び、前記基板の前記第1の複酸化物層が形成された面に、下記一般式(2)で表される組成を有する第2の複酸化物層を形成する工程を有することを特徴とする。
Ca
xNb
yO
z 一般式(1)
(上記一般式(1)中、1≦x≦3、2≦y≦4、8≦z≦12である。)
Li
pLa
qTi
rO
s 一般式(2)
(上記一般式(2)中、0<p≦1、0<q≦1、0<r≦2、1≦s≦5である。)
【0049】
本発明の製造方法により、上述した複酸化物積層体を得ることができる。
本発明に係る複酸化物積層体の製造方法は、少なくとも、(1)基板を準備する工程、(2)第1の複酸化物層を形成する工程、及び、(3)第2の複酸化物層を形成する工程を有する。本製造方法は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはない。
以下、上記工程(1)〜(3)について、順に説明する。
【0050】
4−1.基板を準備する工程
本工程において準備する基板は、任意の材料及び任意の形状が適用可能である。本発明に使用される基板は、具体的には、ガラス、金属、半導体単結晶(例えば、シリコン基板)、及び、プラスチックからなる群から選択される。特に、ガラス及びプラスチックは、低コストであるとともに、大型な基材を入手することができるため好ましい。従来から複酸化物層の積層に適用される金属及び半導体単結晶も基板として採用してもよい。
【0051】
4−2.第1の複酸化物層を形成する工程
本工程は、上述した基板の少なくとも一面側に、上記一般式(1)で表される組成を有する第1の複酸化物層を形成する工程である。第1の複酸化物層を形成する方法については、特に限定されない。
【0052】
以下、第1の複酸化物層を形成する方法の一例として、Langmuir−Blodgett(LB)法を用いた方法について説明する。
まず、上記一般式(1)の組成を有する複酸化物を含むコロイド溶液を調製する。コロイド溶液は、例えば、当該複酸化物を水素イオン交換した後、水酸化テトラn−ブチルアンモニウム等の嵩高いゲストを導入し、単層剥離することによって得られる。LB法では、希釈されたコロイド溶液を展開液として用いる。コロイド溶液はトラフ(水槽)に展開され、単層剥離されたナノシートの一部は、気液界面に浮遊する。
【0053】
次に、コロイド溶液に基板を浸漬させ、基板上に第1の複酸化物層を形成する。LB法では、トラフに基板を浸漬させた後、展開液表面を一定の表面圧まで圧縮して、第1の複酸化物層を気液界面に形成し、垂直引き上げ法で基板をコロイド溶液から引き上げることによって、基板上に第1の複酸化物層を転写(形成)する。なお、LB法を用いたナノシート単層膜の基板への形成の具体的な方法については、例えば、Muramatsuら, Langmuir 2005,21,6590〜6595を参照されたい。ここでも基板には、上述した基板が採用される。
【0054】
ここまで、LB法を用いた場合を説明したが、第1の複酸化物層を形成する工程は、LB法に限定されない。第1の複酸化物層は交互吸着法を用いて製造してもよい。交互吸着法を用いた場合も、基板に形成されるべき第1の複酸化物層が有する電荷と反対の電荷を有するポリマーをあらかじめ基板表面に付与するステップが追加される以外は、上述したLB法と同様である。なお、この場合には、静電相互作用により第1の複酸化物層の基板への密着性が向上するため好ましい。
【0055】
上述したLB法は、高価な物理的/化学的気相成長法(MBE、スパッタ、PLD、MOCVD等)を不要とするので、コスト効率がよいだけでなく、グリーンケミカル、すなわち、省エネルギー且つ環境負荷が低い。また、上記一般式(1)で表される組成を有する複合酸化物は高い結晶性を有しているため、熱処理することなく、常温で製造できる。これにより、ガラス以外の熱安定性の低い材料、例えばプラスチック等も基板として採用できる。このような材料は、安価であり、大型化が可能であるため、後述する第2の複酸化物層の大型化及び低コスト化に寄与する。
【0056】
4−3.第2の複酸化物層を形成する工程
本工程は、基板の第1の複酸化物層が形成された面に、上記一般式(2)で表される組成を有する第2の複酸化物層を形成する工程である。
【0057】
本工程においては、従来の高価な単結晶基板を用いることなく、所定の方向に配向した第2の複酸化物層を得ることができる。配向成長には、第1の複酸化物層と目的とする第2の複酸化物層との間の結晶構造の整合性が高い条件で反映される。基板上に所定の材料を配向成長させる場合には、基板と所定の材料との間の格子ミスマッチが寄与することが知られている。薄膜成長の分野においては、通常、基板と所定の材料との結晶構造が同じであり、格子ミスマッチの絶対値が小さいことが望ましい。具体例を挙げて説明する。
【0058】
複酸化物の一種であるCa
2Nb
3O
10は、ペロブスカイト構造に関連した構造を有しており、二次元長方形格子を有する。上述したように、二次元長方形格子の格子長の一辺は、a=3.8802Å(0.3880nm)である。
一方、複酸化物の一種であるLi
0.35La
0.55TiO
3は、立方晶系のペロブスカイト構造を有し、その(100)面は長方形格子を有する。Li
0.35La
0.55TiO
3の長方形格子の格子長の一辺は、b=3.910Å(0.3910nm)である。Ca
2Nb
3O
10表面とLi
0.35La
0.55TiO
3とは、同じ結晶構造を有し、かつ、その格子長は極めて近い。格子長から算出される格子ミスマッチは、1%以下であり、この値は、Ca
2Nb
3O
10結晶面上にLi
0.35La
0.55TiO
3が配向成長することを示唆する。
【0059】
以上、第1の複酸化物層と、当該層上に配向する第2の複酸化物層との関係を例示的に説明したが、本工程における第1の複酸化物層と第2の複酸化物層との関係は、必ずしもこれに限らない。本発明における第1の複酸化物層と、当該層上に配向する第2の複酸化物層との一般的関係は、配向膜の配向面の格子長a及びb、並びに、これらa及びbがなす角θを用いて、以下1)〜4)のようにまとめられる。
【0060】
1)a=b、θ=90°の場合、第1の複酸化物層は二次元正方形格子を有する。これは、上述したCa
2Nb
3O
10の場合に相当する。
2)a≠b、θ=90°の場合、第1の複酸化物層は二次元長方形格子を有する。
3)a=b、θ=120°の場合、第1の複酸化物層は二次元六角形格子を有する。
4)a≠b、θ≠90°の場合、第1の複酸化物層は二次元平行四辺形格子を有する。
【0061】
また、上述したように、第1の複酸化物層の二次元結晶格子の格子長と、当該層上に製造されるべき第2の複酸化物層の配向面の格子長との間の格子ミスマッチの絶対値は、小さいことが望ましい。
【0062】
さらに、格子ミスマッチをできるだけ少なくすることにより、シード層となる第1の複酸化物層を構成する複合酸化物の酸素原子の位置と、当該第1の複酸化物層の上に形成される第2の複酸化物層を構成する複合酸化物の酸素原子の位置が、少なくとも当該第1の複酸化物層と第2の複酸化物層との界面において揃うため、配向性の高い複酸化物積層体を製造することができる。
【0063】
図5は、本発明に係る製造方法により製造した、基板に積層した複酸化物積層体の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。積層体300は、上記基板3、当該基板の一方の面に積層した第1の複酸化物層1、及び、当該第1の複酸化物層の一方の面に積層した第2の複酸化物層2を備える。
基板3から複酸化物積層体100を剥離することによって、本発明に係る複酸化物積層体が得られる。また、基板3として、電極としても機能する基板を用いることにより、本発明に係る固体電解質膜・電極接合体が得られる。
なお、本発明において得られる、基板に積層した複酸化物積層体は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。例えば、基板の両面に本発明に係る複酸化物積層体が積層した態様なども、本発明に含まれる。
【0064】
本発明の複酸化物積層体の製造方法により、シード層となる第1の複酸化物層を構成する複合酸化物の酸素原子の位置と、当該第1の複酸化物層の上に形成される第2の複酸化物層を構成する複合酸化物の酸素原子の位置が、少なくとも当該第1の複酸化物層と第2の複酸化物層との界面において揃うため、少なくとも前記一般式(2)の組成を有する複酸化物の結晶の配向性が高い複酸化物積層体を製造することができる。さらに、本発明の複酸化物積層体の製造方法により、基板上に第1の複酸化物層を介して第2の複酸化物層を形成することで、当該基板が単結晶でない場合にも、少なくとも前記一般式(2)の組成を有する複酸化物の結晶の配向性が高い複酸化物積層体を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の具体的態様を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
1.複酸化物積層体の作製
[実施例1]
KCa
2Nb
3O
10を、Ebinaら,Solid State Ionics 2002,151,177に記載の工程にしたがって、単層剥離し、Ca
2Nb
3O
10を含むコロイド溶液を得た。より詳細には、K
2CO
3、CaO及びNb
2O
5を混合し、1200℃で12時間焼成し、KCa
2Nb
3O
10を合成した。次いで、KCa
2Nb
3O
10を5M HNO
3でイオン交換し、HCa
2Nb
3O
10・1.5H
2Oを得た。HCa
2Nb
3O
10・1.5H
2Oと、水酸化テトラn−ブチルアンモニウムを含む水溶液とを反応させ、単層剥離させ、コロイド溶液を得た。コロイド溶液は超純水で濃度が約0.08gcm
−3となるように希釈し、トラフに配置した。
【0067】
基材として、石英基板(フルウチ化学社製、Lot:1006021)を用いた。石英基板を、HCl/CH
3OH溶液、次いで、濃H
2SO
4溶液に、各30分間浸漬させて、洗浄した。
【0068】
洗浄した石英基板にLB法を用いて、Ca
2Nb
3O
10コロイド溶液からCa
2Nb
3O
10単層膜を形成した。詳細には、洗浄した石英基板を、上記の条件を維持したトラフに浸漬させ、0.5mm・s
−1の速度で表面を圧縮した。次いで、石英基板を、一定表面圧を維持したまま、1mm・min
−1の垂直引上げ速度で引上げた。Ca
2Nb
3O
10単層膜の石英基板への形成は、表面圧8.5mN・m
−1で行った。なお、表面圧が8.5mN・m
−1のとき、もっとも良好なCa
2Nb
3O
10単層膜が得られることを確認した。このようにしてCa
2Nb
3O
10/石英基板を得た。
【0069】
次に、Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルを調製した。具体的には、CH
3CO
2Li、La(CH
3CO
2)
3・1.5H
2O、Ti(OCH(CH
3)
2)
4、CH
3CO
2H、i−C
3H
7OH及び純水を、モル比にして0.35:0.55:1:10:20:140の割合で混合し、Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルを調製した。
【0070】
次に、Ca
2Nb
3O
10/石英基板上にLi
0.35La
0.55TiO
3膜を配向させた。
具体的には、上記Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルをスピンコート法によってCa
2Nb
3O
10/石英基板上に付与し、その後、1分間120℃に加熱したホットプレート上で乾燥させた。スピンコートの回転速度は2500rpmであった。次いで、Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルが付与されたCa
2Nb
3O
10/石英基板を、電気炉を用いて、大気中、700℃で1時間焼成し、実施例1の複酸化物積層体を作製した。
【0071】
[実施例2]
石英基板を金基板に替えたこと以外は、実施例1と同様に、Ca
2Nb
3O
10/金基板のCa
2Nb
3O
10単層膜上にLi
0.35La
0.55TiO
3膜が配向した積層体を作製した。当該積層体のLi
0.35La
0.55TiO
3膜上に金を蒸着させ、実施例2の複酸化物積層体を作製した。
【0072】
[比較例1]
石英基板上にCa
2Nb
3O
10単層膜を形成せずに、当該基板上に直接Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルをスピンコート法によって付与したこと以外は、実施例1と同様に、比較例1の複酸化物積層体を作製した。
【0073】
[比較例2]
まず、石英基板の一方の面にTaO
3単層膜が形成された、TaO
3/石英基板を作製した。TaO
3単層膜の形成方法は、Inorganic Chemistry Vol.46,No.12,2007,4787−4789を参考にした。
まず、Rb
2CO
3とTa
2O
5よりRbTaO
3を合成した。得られたRbTaO
3を1mol/L HClaq.によりイオン交換し、Rb
0.1H
0.9TaO
3・1.3H
2Oを得た。得られたRb
0.1H
0.9TaO
3・1.3H
2Oと水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム水溶液とを反応させ、単層剥離させることにより、石英基板の一方の面にTaO
3単層膜が形成された、TaO
3/石英基板が得られた。
実施例1と同様に、得られたTaO
3/石英基板上にLi
0.35La
0.55TiO
3膜をスピンコート法によって形成して焼成し、比較例2の複酸化物積層体を作製した。
TaO
3の空間群対称性は以下の通りである。
System:Monoclinic
Number:12
Std.symbol:C 1 2/m 1
TaO
3の格子パラメータは以下の通りである。
a=9.589
b=8.505
α=90
β=94.87
γ=90
【0074】
[比較例3]
まず、石英基板の一方の面にLa
0.95Nb
2O
7単層膜が形成された、La
0.95Nb
2O
7/石英基板を作製した。
まず、K
2CO
3、Nb
2O
5、La
2O
3から、KLaNb
2O
7を合成した。得られたKLaNb
2O
7をイオン交換後、単層剥離することにより、石英基板の一方の面にLa
0.95Nb
2O
7単層膜が形成された、La
0.95Nb
2O
7/石英基板が得られた。
実施例1と同様に、得られたLa
0.95Nb
2O
7/石英基板上にLi
0.35La
0.55TiO
3膜をスピンコート法によって形成して焼成し、比較例3の複酸化物積層体を作製した。
図7は、La
0.95Nb
2O
7の結晶構造中、a軸及びc軸によって張られる面に平行な結晶面を示した模式図である。
図7中の黒丸41は酸素原子(O)を、丸42はニオブ原子(Nb)を、丸43はランタン原子(La)を、それぞれ示す。図中には結晶構造の他、結晶の格子間距離も併せて示した。
La
0.95Nb
2O
7の空間群対称性は以下の通りである。
System:Orthorhombic
Number:65
Std.symbol:C m m m
La
0.95Nb
2O
7の格子パラメータは以下の通りである。
a=3.90400
c=3.87700
α=90
β=90
γ=90
【0075】
[比較例4]
石英基板を金基板に替え、石英基板上にCa
2Nb
3O
10単層膜を形成せずに、当該基板上に直接Li
0.35La
0.55TiO
3ゾルをスピンコート法によって付与したこと以外は、実施例1と同様に、金基板上にLi
0.35La
0.55TiO
3膜が配向した積層体を作製した。当該積層体のLi
0.35La
0.55TiO
3膜上に金を蒸着させ、比較例4の複酸化物積層体が完成した。
【0076】
2.複酸化物積層体の分析
実施例1及び比較例1〜3の複酸化物積層体について、Li
0.35La
0.55TiO
3層の結晶面及び結晶の配向性を、粉末X線回折法(XRD)により調べた。測定は、粉末X線回折計(Rint 2200,Rigaku)を用いた。測定条件は、単色化されたCuK
α線を用い、加速電圧は40kVとし、印加電流は40mAとした。
【0077】
図6は、実施例1及び比較例1〜3の複酸化物積層体のXRDパターンを並べて示した図である。
図6から分かるように、実施例1のXRDパターンには、2θ=11.5°に(1/200)面の回折ピークが、2θ=46.6°に(200)面の回折ピークが、いずれも明確に現れ、また、2θ=23.0°に(100)面の回折ピークが、2θ=34.8°に(3/200)面の回折ピークが、それぞれ確認できた。したがって、実施例1の複酸化物積層体中のLi
0.35La
0.55TiO
3層は、a軸に配向しており、その配向性は極めて高いことが分かる。
一方、比較例1及び2のXRDパターンには、上記4つの回折ピークは全く確認できなかった。したがって、比較例1及び2の複酸化物積層体中のLi
0.35La
0.55TiO
3層には配向性がないことが分かる。
また、比較例3のXRDパターンには、2θ=47.0°に(200)面の回折ピークが確認できたが、他の3つの回折ピーク、すなわち、(1/200)面の回折ピーク、(100)面の回折ピーク及び(3/200)面の回折ピークはいずれも確認できなかった。したがって、比較例3の複酸化物積層体中のLi
0.35La
0.55TiO
3層は、a軸に配向しているものの、その配向性は低いことが分かる。
【0078】
3.イオン伝導度の測定
実施例2及び比較例4の複酸化物積層体について、交流インピーダンス測定を行い、イオン伝導度を求めた。交流インピーダンス測定は、乾燥空気中、インピーダンスアナライザー(Solartron社製、1260型)を用いて、0.1Hz〜1MHzの周波数領域について行った。なお、測定温度は25℃とした。
下記表1は、実施例2及び比較例4のイオン伝導度をまとめた表である。
【0079】
【表1】
【0080】
上記表1から分かるように、実施例2のイオン伝導度は、比較例4のイオン伝導度と比較して20倍以上高い。この結果と、上述したXRD測定の結果とを併せて考察すると、Ca
2Nb
3O
10単層膜の上に形成したLi
0.35La
0.55TiO
3層は、基板上に直接形成したLi
0.35La
0.55TiO
3層と比較して高い配向性を有し、そのため、イオン伝導度が向上したことが分かる。