(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンのシリンダブロックに固定されクランクジャーナルを囲繞する外輪と、前記外輪の内面に設けられた周溝内に部分的に収容され前記クランクジャーナルに当接する複数の転動体とを有するクランクジャーナル用転がり軸受に於いて、
前記外輪の外面に設けられ前記外輪の少なくとも一方の端面まで延在する給油溝を有し、前記給油溝は前記シリンダブロックに設けられた内部給油通路に連通し、潤滑油が前記内部給油通路より前記給油溝、前記外輪の端面とクランクアームのボス部との間の空間、前記外輪の内面と前記クランクジャーナルとの間の空間を経て前記転動体の周りへ供給され、
前記給油溝は前記外輪の端面と前記内部給油通路との間にて前記外輪の外面に設けられ周方向に延在する円弧溝と、前記内部給油通路及び前記円弧溝に連通する第一の給油溝と、前記第一の給油溝より周方向に隔置された位置に於いて前記外輪の端面より延在し前記円弧溝に連通する第二の給油溝とを含んでいる、
ことを特徴とするクランクジャーナル用転がり軸受。
前記第二の給油溝はピストンの往復運動及びクランクシャフトの回転に起因して前記外輪が前記クランクジャーナルより径方向外向きに受ける力が最も高くなる領域に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のクランクジャーナル用転がり軸受。
前記外輪の内面には前記外輪の一方の端面と前記周溝との間に延在する連通溝が設けられており、前記第二の給油溝及び前記連通溝は径方向に互いに整合していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のクランクジャーナル用転がり軸受。
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記公開公報に記載されている如き従来のクランクジャーナル用転がり軸受に於いては、転がり軸受の内部は給油通路及び内部通路を介してメインギャラリーと連通している。給油通路や内部通路に潤滑油が詰まって潤滑不良になることがないよう、給油通路及び内部通路の断面積は潤滑油の自由な流通を許す大きさに設定されている。従ってこれらの通路に於ける絞り効果及び圧力降下は非常に小さいので、軸受内への潤滑油の供給量が過剰になり、軸受内の潤滑油の圧力が高くなるため、クランクシャフトの回転に伴って軸受内に於いて発生する潤滑油の撹拌の抵抗が高いという問題がある。
【0007】
本発明は、従来のクランクジャーナル用転がり軸受に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、軸受内への潤滑油の供給圧力を低下させ、これにより軸受の良好な潤滑を確保しつつ軸受内の潤滑油の圧力を低くして軸受内に於ける潤滑油の撹拌抵抗を低下させることである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0008】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ちエンジンのシリンダブロックに固定されクランクジャーナルを囲繞する外輪と、前記外輪の内面に設けられた周溝内に部分的に収容され前記クランクジャーナルに当接する複数の転動体とを有するクランクジャーナル用転がり軸受に於いて、前記外輪の外面に設けられ前記外輪の少なくとも一方の端面まで延在する給油溝を有し、前記給油溝は前記シリンダブロックに設けられた内部給油通路に連通し、潤滑油が前記内部給油通路より前記給油溝、前記外輪の端面とクランクアームのボス部との間の空間、前記外輪の内面と前記クランクジャーナルとの間の空間を経て前記転動体の周りへ供給され
、前記給油溝は前記外輪の端面と前記内部給油通路との間にて前記外輪の外面に設けられ周方向に延在する円弧溝と、前記内部給油通路及び前記円弧溝に連通する第一の給油溝と、前記第一の給油溝より周方向に隔置された位置に於いて前記外輪の端面より延在し前記円弧溝に連通する第二の給油溝とを含んでいる、ことを特徴とするクランクジャーナル用転がり軸受によって達成される。
【0009】
上記請求項1の構成によれば、転動体を部分的に収容する周溝は内部給油通路に直接的には連通していない。潤滑油は内部給油通路より給油溝、外輪の端面とクランクアームのボス部との間の空間、外輪の内面とクランクジャーナルとの間の空間を経て転動体の周りへ供給される。従って周溝が内部給油通路に直接的に連通している従来のクランクジャーナル用転がり軸受の場合に比して、周溝内への潤滑油の供給圧力を低くして軸受内への潤滑油の供給量及び軸受内の潤滑油の圧力を低くすることができる。よって軸受の良好な潤滑を確保しつつ、従来のクランクジャーナル用転がり軸受の場合に比して軸受内に於ける潤滑油の撹拌抵抗を低下させることができる。
また上記請求項1の構成によれば、第二の給油溝の位置を第一の給油溝の位置とは異なる周方向の位置に設定することができる。よって内部給油通路及び第一の給油溝とは異なる周方向の位置に於いて、潤滑油を外輪の端面とクランクアームのボス部との間の空間より周溝内へ流動させることができる。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記外輪の内面には前記外輪の一方の端面と前記周溝との間に延在する連通溝が設けられているよう構成される(請求項2の構成)。
【0011】
上記請求項2の構成によれば、外輪の一方の端面と周溝との間に延在する連通溝が外輪の内面に設けられているので、外輪の一方の端面とクランクアームのボス部との間の空間より連通溝を経て転動体の周りへ潤滑油を良好に供給することができる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記給油溝及び前記連通溝は径方向に互いに整合しているよう構成される(請求項3の構成)。
【0013】
上記請求項3の構成によれば、給油溝及び連通溝は径方向に互いに整合している。従ってこれらの溝が径方向に互いに整合していない場合に比して、給油溝内の潤滑油を外輪の一方の端面とクランクアームのボス部との間の空間を経て連通溝へ効率的に流動させることができる。
【0016】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項
1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記第二の給油溝はピストンの往復運動及びクランクシャフトの回転に起因して外輪がクランクジャーナルより径方向外向きに受ける力が最も高くなる領域に設けられているよう構成される(請求項
4の構成)。
【0017】
上記請求項
4の構成によれば、ピストンの往復運動及びクランクシャフトの回転に起因して外輪がクランクジャーナルより径方向外向きに受ける力が最も高くなる領域に於いて、クランクジャーナルと転がり軸受の転動体との間を効果的に潤滑することができる。従って第二の給油溝が他の領域に設けられている場合に比して、外輪がクランクジャーナルより径方向外向きに受ける力が最も高くなるときのクランクジャーナルの回転抵抗を低減し、これによりクランクシャフトの回転抵抗を効果的に低減することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項
1乃至4の何れか一つの構成に於いて、前記外輪の内面には前記外輪の一方の端面と前記周溝との間に延在する連通溝が設けられており、前記第二の給油溝及び前記連通溝は径方向に互いに整合しているよう構成される(請求項
5の構成)。
【0019】
上記請求項
5の構成によれば、外輪の一方の端面と周溝との間に延在する連通溝が外輪の内面に設けられており、第二の給油溝及び連通溝は径方向に互いに整合している。従って連通溝が設けられていない場合や第二の給油溝及び連通溝が径方向に互いに整合していない場合に比して、第二の給油溝内の潤滑油を外輪の端面とクランクアームのボス部との間の空間を経て連通溝へ効率的に流動させることができる。
【0020】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至
5の何れか一つの構成に於いて、前記外輪の内面には前記外輪の他方の端面と前記周溝との間に延在する排油溝が設けられているよう構成される(請求項
6の構成)。
【0021】
上記請求項
6の構成によれば、外輪の他方の端面と周溝との間に延在する排油溝が外輪の内面に設けられている。従って排油溝が外輪の内面に設けられていない場合に比して、排油溝を経て周溝内の潤滑油を効率的に排出させることができ、これにより軸受内に潤滑油を効率的に循環させることができる。
【0022】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項
6の構成に於いて、前記外輪の他方の端面には一端にて前記排油溝と連通し径方向外方へ延在する流出溝が設けられているよう構成される(請求項
7の構成)。
【0023】
上記請求項
7の構成によれば、一端にて排油溝と連通し径方向外方へ延在する流出溝が外輪の他方の端面に設けられている。従って流出溝が外輪の他方の端面に設けられていない場合に比して、外輪の他方の端面の側に於いて排油溝内の潤滑油を効率的に流出させることができ、これにより軸受内に潤滑油を更に一層効率的に循環させることができる。
【0024】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、給油溝はクランクジャーナルの軸線に沿って延在しているよう構成される(好ましい態様1)。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2又は3の構成に於いて、連通溝はクランクジャーナルの軸線に沿って延在しているよう構成される(好ましい態様2)。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、給油溝及び連通溝は互いに異なる周方向位置に設けられているよう構成される(好ましい態様3)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項
1乃至3の何れか一つの構成に於いて、第一及び第二の給油溝の少なくとも一方はクランクジャーナルの軸線に沿って延在しているよう構成される(好ましい態様4)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項
1乃至4の何れか一つの構成に於いて、第二の給油溝及び連通溝は互いに異なる周方向位置に設けられているよう構成される(好ましい態様5)。
【0029】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項
7の構成に於いて、外輪は軸受キャップによりシリンダブロックに固定され、軸受キャップには一端にて流出溝に連通し径方向外方へ延在する流出溝が設けられているよう構成される(好ましい態様6)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
【0032】
図1は本発明によるクランクジャーナル用転がり軸受の第一の実施形態を示す回転軸線に沿う縦断面図、
図2は
図1に示された第一の実施形態の外輪及びローラを示す回転軸線に垂直な縦断面図である。
【0033】
これらの図に於いて、符号10はクランクシャフトを全体的に示しており、符号12はシリンダブロックを示している。
図1及び
図2には示されていないが、クランクシャフト10は回転軸線14に沿って互いに隔置された複数のクランクジャーナル16と、各気筒に対応する複数のクランクピンとを有している。各クランクピンは回転軸線14よりそれに垂直な方向に隔置され、各クランクピンの両端はクランクアーム18によってクランクジャーナル16と一体に接続されている。各クランクアーム18のボス部18Aには回転軸線14に対しクランクピンとは径方向反対の側にカウンタウエイト(バランスウェイト)20が一体に接続されている。
【0034】
各クランクジャーナル16は本発明の第一の実施形態による転がり軸受22を介してシリンダブロック12により回転軸線14の周りに回転可能に支持されている。軸受22はシリンダブロック12に設けられ下向きに開いた半円筒形の窪み24及び軸受キャップ26に設けられ上向きに開いた半円筒形の窪み28に配置されている。軸受22はその軸線30が回転軸線14に整合するよう、軸受キャップ26が図には示されていないボルトによってシリンダブロック12に固定されることにより、シリンダブロック12に固定されている。
【0035】
図には示されていないが、軸受22とクランクアーム18のボス部18Aとの間には、これらの摩擦接触を防止するスラストプレートが配置されていてよい。スラストプレートは半円弧状に延在する一対のプレート部材よりなり、一対のプレート部材はクランクジャーナル16を囲繞するよう互いに連結される。
【0036】
軸受22はシリンダブロック12に固定されクランクジャーナル16を囲繞する外輪32と、外輪32の内面32aに設けられた周溝34内に部分的に収容されクランクジャーナル16に当接する複数のローラ36とを有している。外輪32は窪み24内に配置され下向きに開いた半円筒形をなす上部外輪半体32Aと、窪み28内に配置され上向きに開いた半円筒形をなす下部外輪半体32Bとよりなっている。
【0037】
クランクジャーナル16と外輪32との間には断面C形の円筒状をなす保持器38が配置されており、保持器38はクランクジャーナル16と外輪32との間の径方向の間隔よりも小さい厚さを有している。保持器38はローラ36を回転可能に受け入れる複数の孔を有し、これらの孔は周方向に互いに隔置されており、これによりローラ36は周方向に互いに隔置された状態にて回転可能に保持されている。
【0038】
シリンダブロック12には潤滑油を供給するためのメインギャラリー40が設けられており、シリンダブロック12の各クランクジャーナル16に対応する部分にはメインギャラリー40より軸受22へ潤滑油を供給するための内部通路42が設けられている。上部外輪半体32Aの外面32bには給油溝44が設けられており、給油溝44は内端にて内部通路42と連通し、外輪の一方の端面32cまで軸線30及び回転軸線14に沿って延在している。
【0039】
外輪32の内面32aには外輪の一方の端面32cと周溝34との間に延在する連通溝46が設けられており、連通溝46も軸線30及び回転軸線14に沿って延在している。連通溝46は軸線30の上方に設けられており、従って軸線30及び回転軸線14の周りについて見て給油溝44と同一の周方向位置に設けられている。尚連通溝46は給油溝44とは異なる周方向位置にも設けられてもよく、また連通溝46は複数設けられてもよい。
【0040】
この第一の実施形態によれば、メインギャラリー40内の潤滑油は矢印Aにて示されている如く内部通路42を経て給油溝44へ流入し、矢印Bにて示されている如く給油溝44内を
図1で見て左方へ移動し、外輪32の端面32cより流出する。そして潤滑油は軸線30の周りの全周に亘り外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を充填し、その一部は図には示されていないオイルパンへ落下する。他の潤滑油は矢印Cにて示されている如く連通溝46内を
図1で見て右方へ移動し、周溝34内へ流入する。これにより潤滑油はローラ36の周りを潤滑し、クランクジャーナル16とローラ36との間の摩擦を低減する。
【0041】
尚周溝34内へ流入した潤滑油は順次
図1で見て右方へ移動し、端面32cとは反対側の端面32dへ向けて内面32aとクランクジャーナル16との間を
図1で見て右方へ移動し、端面32dとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間へ流出する。よって軸受22内に潤滑油が循環供給される。
【0042】
かくして第一の実施形態によれば、潤滑油が給油溝44より外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間へ流出すると、潤滑油の圧力が解放されるので、メインギャラリー40及び内部通路42内の高圧は軸受22内には作用しない。従って従来の軸受の場合に比して、軸受22内への潤滑油の供給圧力を低くして軸受内の潤滑油の圧力を低くすることができ、これにより軸受の良好な潤滑を確保しつつ、従来の軸受の場合に比して軸受内に於ける潤滑油の撹拌抵抗を低下させることができる。
【0043】
特に図示の第一の実施形態によれば、外輪32の内面32a及び外面32bにそれぞれ軸線30に沿って端面32cまで延在する連通溝46及び給油溝44が設けられるだけでよい。従って後述の他の実施形態の場合に比して単純且つ低廉な構造にて軸受22内の潤滑油の圧力を低くすることができる。
【0044】
また第一の実施形態によれば、給油溝44及び連通溝46は径方向に互いに整合している。従ってこれらの溝が径方向に互いに整合していない場合に比して、給油溝44内の潤滑油を外輪32の一方の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を経て連通溝46へ効率的に流動させることができる。
[第二の実施形態]
【0045】
図3は本発明によるクランクジャーナル用転がり軸受の第二の実施形態を示す回転軸線に沿う縦断面図、
図4は
図3に示された第二の実施形態の外輪及びローラを示す回転軸線に垂直な縦断面図である。尚
図3及び
図4に於いて
図1及び
図2に示された部材と同一の部材にはこれらの図に於いて付された符号と同一の符号が付されており、このことは後述の第三の実施形態を示す
図9及び
図10についても同様である。
【0046】
この第二の実施形態に於いては、外輪32の上部外輪半体32Aの外面の最も上の位置には第一の給油溝44Aが設けられている。第一の給油溝44Aは内端にて内部通路42と連通し、外輪の端面32cの手前まで軸線30及び回転軸線14に沿って延在している。第一の給油溝44Aの外端は外輪32の上部外輪半体32A及び下部外輪半体32Bの外面32bに設けられ外輪の全周に亘り延在する円弧溝48と連通している。
【0047】
外輪32の下部外輪半体32Bの外面32bの最も下の位置には第二の給油溝44Bが設けられている。第二の給油溝44Bは内端にて円弧溝48と連通し、外輪の一方の端面32cまで軸線30及び回転軸線14に沿って延在している。またこの第二の実施形態の連通溝46は軸線30及び回転軸線14の周りについて見て第一の給油溝44Aと同一の周方向位置ではなく、第二の給油溝44Bと同一の周方向位置、即ち最も下の位置に設けられている。尚第二の給油溝44B及び連通溝46は互いに異なる周方向位置に設けられていてもよい。
【0048】
この第二の実施形態によれば、メインギャラリー40内の潤滑油は矢印Aにて示されている如く内部通路42を経て給油溝44へ流入し、矢印Bにて示されている如く第一の給油溝44A内を
図3で見て左方へ移動する。潤滑油は第一の給油溝44Aより円弧溝48へ流入し、矢印Dにて示されている如く円弧溝48内を下方へ流れ、矢印Eにて示されている如く第二の給油溝44Bを経て外輪32の端面32cより流出する。
【0049】
そして潤滑油は軸線30の周りの全周に亘り外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を充填し、その一部は図には示されていないオイルパンへ落下する。他の潤滑油は矢印Fにて示されている如く連通溝46内を
図1で見て右方へ移動し、周溝34内へ流入する。これにより潤滑油はローラ36の周りを潤滑し、クランクジャーナル16とローラ36との間の摩擦を低減する。
【0050】
図5は直列4気筒エンジン用のクランクシャフトを示す概略図である。
図5に示されている如く、クランクシャフト10はエンジンの前端側(
図5の左側)より後端側へ第一乃至第五の五つのクランクジャーナル16−1〜16−5を有している。クランクジャーナル16−1〜16−5は第二の実施形態の転がり軸受22−1〜22−5を介してシリンダブロック12により回転軸線14の周りに回転可能に支持されている。隣接する二つのクランクジャーナル16−1〜16−5の間には一対のクランクアーム18−1〜18−4が回転軸線14に沿って互いに隔置された状態にて設けられている。一対のクランクアーム18−1〜18−4の一方にはそれぞれカウンタウエイト20−1〜20−4が一体に設けられている。
【0051】
一対のクランクアーム18−1〜18−4の間には第一乃至第四気筒のためのクランクピン50−1〜50−4が一体に設けられている。第一及び第四気筒のクランクピン50−1及び50−4の軸線は回転軸線14に対しそれに垂直な同一の方向に隔置されている。第二及び第三気筒のクランクピン50−2及び50−3の軸線は回転軸線14の周りに第一及び第四気筒のクランクピン50−1及び50−4の軸線に対し180度の回転位相の位置にて回転軸線14に対しそれに垂直な同一の方向に隔置されている。カウンタウエイト20−1〜20−4は回転軸線14に対しそれぞれクランクピン50−1〜50−4とは径方向反対側に位置している。
【0052】
図5には示されていないが、クランクピン50−1〜50−4にはそれぞれコネクティングロッドの大端部が回転自在に連結され、コネクティングロッドの小端部は第一乃至第四気筒のピストンのピストンピンに回転自在に連結されている。従って第一及び第四気筒のピストンは互いに同期して往復運動し、第二及び第三気筒のピストンは第一及び第四気筒のピストンとは逆方向に互いに同期して往復運動する。これらのピストン往復運動はコネクティングロッド及びクランクシャフト10の共働によって回転軸線14の周りのクランクシャフト10の回転に変換される。
【0053】
従ってピストンの往復運動に伴う慣性力がコネクティングロッドを介して、クランクピン50−1〜50−4に伝達される。この慣性力はピストンが上死点及び下死点近傍を移動する際に大きくなり、ピストンが上死点及び下死点近傍を移動する際に最大値になる。そのため軸受22−1〜22−5には隣接する気筒のピストンの往復運動及びクランクシャフト10の回転に伴う慣性力に起因して、それぞれクランクジャーナル16−1〜16−5より径方向外方への荷重が繰り返し作用する。
【0054】
第一及び第五のクランクジャーナル16−1、16−5はそれぞれ第一及び第五の気筒のピストンの往復運動に伴う慣性力の影響を強く受け、その慣性力はピストンが下死点近傍を移動する際に最大値になる。よって
図6に示されている如く、軸受22−1及び22−5の連通溝46は軸線30及び回転軸線14に対しクランクピン50−1及び50−5と同一の側に設けられている。即ちクランクシャフト10が
図5に示された位置にある場合について見ると、軸受22−1及び22−5の連通溝46は最も上の領域に設けられている。
【0055】
第二のクランクジャーナル16−2は主として第一及び第二の気筒のピストンの往復運動に伴う慣性力の影響を受け、第四のクランクジャーナル16−4は主として第四及び第五の気筒のピストンの往復運動に伴う慣性力の影響をく受ける。しかし第一及び第五の気筒のピストンの往復運動に伴う慣性力はそれぞれ軸受22−1及び22−5によっても支承される。従って第二及び第四のクランクジャーナル16−2、16−4はそれぞれ第二及び第四の気筒のピストンの往復運動に伴う慣性力の影響を強く受ける。
【0056】
そしてそれらの慣性力は第二及び第四の気筒のピストンが下死点近傍を移動し第一及び第五の気筒のピストンが上死点近傍を移動する際に最大値になる。従って第二及び第四のクランクジャーナル16−2、16−4の軸受22−2及び22−4がそれぞれクランクジャーナル16−2及び16−4より受ける径方向外方への荷重は、軸受22−1及び22−5が受ける荷重よりも高い。
【0057】
よって
図7に示されている如く、軸受22−2及び22−4の連通溝46は軸線30及び回転軸線14に対しクランクピン50−2及び50−4と同一の側に二つずつ設けられている。即ちクランクシャフト10が
図5に示された位置にある場合について見ると、軸受22−1及び22−5の連通溝46は最も下の領域に二つずつ設けられている。
【0058】
更に第三のクランクジャーナル16−3は全てのピストンの往復運動に伴う慣性力の影響を受け、他のクランクジャーナルが受ける慣性力の影響ほどピークは高くない。従って第三のクランクジャーナル16−3の軸受22−3がクランクジャーナル16−3より受ける径方向外方への荷重のピークは他の軸受が受ける荷重のピークほど高くない。
【0059】
よって
図8に示されている如く、軸受22−3の連通溝46は軸線30及び回転軸線14に対し各クランクピンと同一の側に設けられると共に、それらに対し90度の位相の位置に設けられている。即ちクランクシャフト10が
図5に示された位置にある場合について見ると、軸受22−3の連通溝46は最も上及び下の領域とそれらに対し90度の回転位相の領域とに設けられている。
【0060】
かくして第二の実施形態によれば、軸線30及び回転軸線14の周りの位置としてメインギャラリー40及び内部通路42とは異なる位置に第二の給油溝44B及び連通溝46を設けることができる。よって潤滑油が軸受22へ流入する位置の設定の自由度を高くすることができ、また流入位置を複数設定することができる。
【0061】
特に第二の実施形態によれば、連通溝46はピストンの往復運動及びクランクシャフト10の回転に起因してクランクジャーナルが受ける径方向外方への荷重が最大値になる領域に設けられている。従って上述の第一の実施形態の如く、クランクジャーナルが受ける径方向外方への荷重が最大値になる領域以外の領域に連通溝46が設けられている場合に比して、径方向外方への荷重が最大値になる領域に於いても軸受の潤滑を良好に行わせることができる。
【0062】
また第二の実施形態によれば、第二の給油溝44B及び連通溝46は径方向に互いに整合している。従ってこれらの溝が径方向に互いに整合していない場合に比して、第二の給油溝44B内の潤滑油を外輪32の一方の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を経て連通溝46へ効率的に流動させることができる。尚この作用効果は後述の第三の実施形態に於いても同様に得られる。
[第三の実施形態]
【0063】
図9は第二の実施形態の変形例として構成された本発明によるクランクジャーナル用転がり軸受の第三の実施形態を示す回転軸線に沿う縦断面図、
図10は
図9に示された第三の実施形態の外輪及びローラを示す回転軸線に垂直な縦断面図である。
【0064】
この第三の実施形態に於いては、外輪32の内面32aには周溝34と外輪の他方の端面32dとの間に延在する排油溝52が設けられており、排油溝52は軸線30及び回転軸線14に沿って延在している。軸線30及び回転軸線14の周りの排油溝52の周方向位置は連通溝46の周方向位置とは異なる位置に設定されている。また外輪32の端面32dには内端にて排油溝52に連通し外面32bまで径方向外方へ延在する流出溝54が設けられており、軸受キャップ26の側面には内端にて流出溝54の外端に連通し外面まで径方向外方へ延在する流出溝56が設けられている。この第三の実施形態の他の点は上述の第二の実施形態と同様に構成されている。
【0065】
この第三の実施形態によれば、軸受22内の潤滑油は排油溝52を経て効率的に流出すると共に、排油溝52より流出溝54及び56を経て効率的に流出する。従って上述の第二の実施形態の場合と同様の作用効果が得られることに加えて、第一及び第二の実施形態の場合に比して効率的に潤滑油を軸受22内に循環供給させることができる。
【0066】
図示の第三の実施形態に於いては、軸線30及び回転軸線14の周りの排油溝52及び流出溝54、56の周方向位置は連通溝46の周方向位置とは異なっているが、連通溝46の周方向位置と同一であってもよい。排油溝52及び流出溝54、56はそれぞれ一つしか設けられていないが、複数組設けられてもよい。更に流出溝54及び56が省略されてもよく、或いは流出溝56のみが省略されてもよい。
[第一乃至第六の修正例]
【0067】
上述の各実施形態に於いては、外輪32の端面32cに整合するシリンダブロック12の端面及び軸受キャップ26の端面は平坦である。また外輪32の端面32cに対向するクランクアーム18のボス部18Aの端面も平坦である。従って外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を充填する潤滑油のうち連通溝46内へ流入する潤滑油の比率を高くするための修正が加えられてもよい。
【0068】
図11乃至
図13は第一の実施形態の構造についての第一乃至第三の修正例の要部を示す回転軸線に沿う拡大部分縦断面図である。同様に
図14乃至
図16は第二及び第三の実施形態の構造についての第四乃至第六の修正例の要部を示す回転軸線に沿う拡大部分縦断面図である。
【0069】
第一の修正例に於いては、
図11に示されている如く、シリンダブロック12の端面及び軸受キャップ28の端面に軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク58が設けられている。この場合バンク58は給油溝44に隣接して設けられていることが好ましい。
【0070】
第二の修正例に於いては、
図12に示されている如く、外輪32の端面32cに対向するクランクアーム18のボス部18Aの端面に軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク60が設けられている。この場合バンク60は給油溝44に隣接して給油溝に対し径方向外側に設けられていることが好ましい。
【0071】
第三の修正例に於いては、
図13に示されている如く、外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間にはスラストプレート62が介装されている。シリンダブロック12及び軸受キャップ26の端面に対向するスラストプレート62の一方の側面の外周には、軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク64が設けられている。この場合バンク64も給油溝44に隣接して給油溝に対し径方向外側に設けられていることが好ましい。
【0072】
第四の修正例に於いては、
図14に示されている如く、シリンダブロック12の端面及び軸受キャップ26の端面に軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク66が設けられている。この場合バンク66は第二の給油溝44Bに隣接して設けられていることが好ましい。
【0073】
第五の修正例に於いては、
図15に示されている如く、外輪32の端面32cに対向するクランクアーム18のボス部18Aの端面に軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク68が設けられている。この場合バンク68は第二の給油溝44Bに隣接して第二の給油溝に対し径方向外側に設けられていることが好ましい。
【0074】
第六の修正例に於いては、
図16に示されている如く、外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間にはスラストプレート70が介装されている。シリンダブロック12及び軸受キャップ26の端面に対向するスラストプレート70の一方の側面の外周には、軸線30及び回転軸線14の周りに環状に延在するバンク72が設けられている。この場合バンク72も第二の給油溝44Bに隣接して第二の給油溝に対し径方向外側に設けられていることが好ましい。
【0075】
第一乃至第六の修正例によれば、第一乃至第三の実施形態の場合に比して、外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間を充填する潤滑油のうち連通溝46内へ流入する潤滑油の比率を高くすることができる。また外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の間隔に対する各バンクの高さの比の設定により、連通溝46内へ流入する潤滑油の比率を設定することができる。
【0076】
尚第一乃至第三の実施形態及び第一乃至第六の修正例によれば、外輪32の内面32aには外輪の一方の端面32cと周溝34との間に延在する連通溝46が設けられている。従って連通溝46が設けられていない構造の場合に比して、外輪32の端面32cとクランクアーム18のボス部18Aとの間の空間にある潤滑油を効率的に周溝34へ導くことができる。
【0077】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0078】
例えば上述の各実施形態に於いては、給油溝44、44A、44B及び連通溝46は軸線30及び回転軸線14に沿って延在しているが、これらの溝は軸線30及び回転軸線14に沿って延在していなくてもよい。
【0079】
また上述の各実施形態に於いては、外輪32の内面32aには外輪の端面32cと周溝34との間に延在する連通溝46が設けられているが、連通溝46が省略されてもよく、逆に
図7及び
図8に示された軸受以外の軸受に於いて複数の連通溝46が設けられてもよい。
【0080】
また連通溝46が省略される場合には、連通溝46が設けられている場合に比して内面32aとクランクジャーナル16との間隔が大きくなるよう、周溝34に対し給油溝44、44A、44Bが設けられた側の内面32a内径が大きい値に設定されてもよい。
【0081】
また上述の第三の実施形態又はその変形例に於ける排油溝52若しくは流出溝54、56と同様の溝が第一の実施形態の軸受に設けられてもよい。
【0082】
また上述の第二及び第三の実施形態に於いては、円弧溝48は軸線30及び回転軸線14の周りの全周に亘り延在しているが、軸線30及び回転軸線14の周りの一部の円弧に沿って延在していてもよい。
【0083】
また上述の各実施形態に於いては、ころ軸受はローラ軸受であり、転動体はローラであるが、本発明の軸受の構造は転動体がボールであるボール軸受に適用されてもよい。
【0084】
また上述の第二の実施形態に於いては、直列4気筒エンジン用のクランクシャフトを支持する五個の軸受について説明したが、本発明の軸受が適用されるエンジンは直列4気筒以外のエンジンであってもよい。