特許第5714387号(P5714387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5714387アルミニウム合金ブレージングシートおよび熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714387
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシートおよび熱交換器
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20150416BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20150416BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20150416BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20150416BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20150416BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20150416BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150416BHJP
   B23K 35/14 20060101ALN20150416BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20150416BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20150416BHJP
【FI】
   B23K35/22 310E
   C22C21/00 J
   C22C21/00 E
   C22C21/00 K
   C22F1/04 B
   B23K35/28 310B
   C22C21/00 D
   B23K1/00 S
   B23K1/00 330L
   B23K1/19 F
   !C22F1/00 605
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 631Z
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !B23K35/14 F
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-81008(P2011-81008)
(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2011-224656(P2011-224656A)
(43)【公開日】2011年11月10日
【審査請求日】2013年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-84701(P2010-84701)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【復代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【復代理人】
【識別番号】100123249
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】泉 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】植田 利樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 申平
(72)【発明者】
【氏名】鶴野 招弘
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−246525(JP,A)
【文献】 特開2003−082427(JP,A)
【文献】 特開2008−188616(JP,A)
【文献】 特開平07−041919(JP,A)
【文献】 特開2008−303405(JP,A)
【文献】 特開2011−140696(JP,A)
【文献】 特開2008−308724(JP,A)
【文献】 特開2009−024265(JP,A)
【文献】 特開平09−272942(JP,A)
【文献】 特開2000−073852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22
B23K 35/28
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mn系合金からなる心材と、その片面または両面にAl−Si系合金からなるろう材と、を備え、成形して両縁をろう付け接合して熱交換器のチューブに形成されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記Al−Mn系合金は、Mn:0.6〜2.0質量%、Fe:0.25〜0.35質量%を含有し、さらに、Si:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Ti:0.35質量%以下から選択される1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記Al−Si系合金は、Si:4〜13質量%、Fe:0.45質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
600℃で3分間のろう付け処理後において、前記心材の前記ろう材を備えた面上で凝固したろうの断面における共晶Siの面積率が35%以下であり、かつ前記心材の板厚方向中心部の結晶粒径が圧延方向で80μm以上であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記Al−Mn系合金は、さらにMg:0.5質量%未満を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
アルミニウム合金からなる心材とその片面または両面にAl−Si系合金からなるろう材とを備えるプレート材を成形してなるプレートに、請求項1または請求項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートを成形してなるチューブを、前記チューブの継ぎ目と共にろう付け接合して構成された熱交換器。
【請求項4】
前記チューブに、さらにアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されたフィンをろう付け接合して構成された請求項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記プレート材が請求項1または請求項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートである請求項または請求項に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシートおよびこれを用いた自動車用等の熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるコンデンサ、エバポレータ、インタークーラ等の熱交換器は、主に、流体通路を構成する偏平管状のチューブと板材をコルゲート成形したフィンとを交互に繰り返し重ねて組み合わせ、流体通路を集結させるように、板材をプレス成形したプレート(ヘッダ)にチューブを嵌合させて組み立てた構造である(図1参照)。これらの部品が組み立てられた状態でろう付け加熱されることによって、チューブとフィン、チューブとプレートがそれぞれ接合されて、熱交換器が製造される。これらのチューブ、プレート、およびフィンには、ろう付け用のアルミニウム合金材、またはアルミニウム合金を心材としてこれにAl−Si系合金からなるろう材を積層したクラッド材であるアルミニウム合金ブレージングシートが適用されている。ろう付け加熱により溶融したろう材(溶融ろう)が部品間の接続部位に充填されてフィレットを形成することで、部品同士が接合される。熱交換器のチューブとプレートとのろう付けにおいては、熱交換器の流体通路に漏れが生じないように、ろう付けされた接合部(嵌合部)に隙間が生じない、良好なろう付け性が特に要求される。
【0003】
ろう付け性を向上させるためには、アルミニウム合金ブレージングシートにおけるろう材の厚さやろう材のSi含有量を所定値以上として、ろう付け加熱により十分な量のろう材が溶融してフィレットを形成させる方法が考えられる。しかし一方で、溶融ろうが多くなると、ろうが心材を侵食するエロージョンが発生するため、溶融ろうの量を最適化すべくろう材のSi含有量等が制御される。熱交換器のプレートとして、ろう材をSi:1.6〜5.0質量%と比較的低濃度としてさらにMnを添加して溶融ろうの粘度を高くして流動を抑制したアルミニウム合金ブレージングシートが、開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−303405号公報(請求項1、段落0019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、チューブを板材であるアルミニウム合金ブレージングシートで形成する場合は、これをロール成形し、両縁で重ね合わせて外側表面と内側表面とでろう付け接合される、あるいは両縁をロール成形した内側に向けてL字型に折り曲げて、外側表面同士を突き合わせてろう付け接合される、等の継ぎ目が形成される。このようなアルミニウム合金ブレージングシートを成形してなるチューブを用いた熱交換器は、ろう付け処理時に、チューブにおいて、プレート上の溶融ろうが表面を伝わってフィンを接合した側へ流動し易く、プレートとの接合部に溜まる溶融ろうの量が少なくなるため、接合部に隙間が生じる虞がある。
【0006】
特許文献1に記載された技術は、プレート表面の溶融ろうの粘度を高くしたため、プレートからフィン近傍まで流動するろうはほとんどないといえる。しかしながら、ろう材を、Si濃度を比較的低くしてさらにMnを添加したものとしたため、ろう付け加熱によって溶融しても、溶融ろうは流動性が抑制されているため、チューブとの接合部まで流動して溜まる溶融ろうも少なくなって、接合部に隙間が生じる虞がある。これらのことから、熱交換器の部品とするためのアルミニウム合金ブレージングシート、特にチューブ材に適用されるものは、ろう付け性を適切なものとすることが要求される。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、熱交換器の、特にチューブ材に適用されて、ろう付け性および耐エロージョン性に優れるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、Al−Mn系合金からなる心材と、その片面または両面にAl−Si系合金からなるろう材とを備え、成形して両縁をろう付け接合して熱交換器のチューブに形成されるものである。そして、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、前記Al−Mn系合金が、Mn:0.6〜2.0質量%、Fe:0.25〜0.35質量%を含有し、さらに、Si:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Ti:0.35質量%以下から選択される1種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記Al−Si系合金が、Si:4〜13質量%、Fe:0.45質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、600℃で3分間のろう付け処理後において、前記心材の前記ろう材を備えた面上で凝固したろうの断面における共晶Siの面積率が35%以下であり、かつ前記心材の板厚方向中心部の結晶粒径が圧延方向で80μm以上であることを特徴とする。さらに、前記心材とするAl−Mn系合金は、Mg:0.5質量%未満を含有してもよい。
【0009】
このように、ろう材のFe含有量を所定値以下に制限し、かつろう付け後の心材の結晶粒径を大きくすることにより、ろう付けにおけるろうの凝固時に、ろうの流動する通路となる心材表面の共晶Siを少なくしたアルミニウム合金ブレージングシートとなる。これにより、ろう付け処理において、ろう付け接合部に流動してくる溶融ろうを十分に確保しつつ、このろう付け接合部に到達した溶融ろうが、前記ろうの流動する通路面積が少ないためにこれを伝わって流出することが抑制される。その結果、十分な量のろうがろう付け接合部に留まってフィレットを多くしてろう付け性を向上させることができる。また、心材のFe含有量を所定値以下に制限することにより、ろう付け後の心材の結晶粒径を大きくすることができる。
【0010】
そして、本発明に係る熱交換器は、アルミニウム合金からなる心材とその片面または両面にAl−Si系合金からなるろう材とを備えるプレート材を成形してなるプレートに、前記の本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートを成形してなるチューブを、前記チューブの継ぎ目と共にろう付け接合して構成される。さらにこの熱交換器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されたフィンをチューブにろう付け接合して構成されてもよく、また、プレート材にも前記の本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートを適用してもよい。
【0011】
このように、ろう付け性および耐エロージョン性に優れるアルミニウム合金ブレージングシートをチューブ材、さらにはプレート材として適用することで、エロージョンが発生せず、ろう付け性よく組み立てられた熱交換器とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートによれば、良好なろう付け性および耐エロージョン性が得られる。そしてこのようなアルミニウム合金ブレージングシートをチューブ材、さらにプレート材として適用することで、組み立て、ろう付けされた際、チューブとプレートとの接合部に漏れの生じない熱交換器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱交換器の部品の組立て状態を説明する要部拡大斜視図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの断面模式図であり、(b)、(c)は、ろう付け処理後のアルミニウム合金ブレージングシートのろうにおける共晶Siの面積率を模式的に説明するための断面図で、(b)は共晶Siの面積率の小さいもの、(c)は共晶Siの面積率の大きいものである。
図3】実施例におけるろう付け性評価のためのろう付け接合構造体の模式図であり、(a)は斜視図、(b)はチューブ−プレートろう付け接合部のフィレット断面積の測定箇所を示す断面図である。
図4】実施例におけるろう付け性評価のためのろう付け接合構造体の模式図であり、(a)は斜視図、(b)、(c)、(d)はチューブの継ぎ目の仕様を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートおよび熱交換器を実現するための形態について説明する。
【0015】
〔アルミニウム合金ブレージングシート〕
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、アルミニウム合金からなる心材の片面または両面にろう材がクラッドされており、例えば熱交換器のチューブ材に適用される場合は、成形されたときに外側となる面にろう材を備えることが好ましい。図2(a)に、片面にろう材を備えたアルミニウム合金ブレージングシートの断面図を模式的に示す。アルミニウム合金ブレージングシートの厚さは、特にチューブ材については薄肉化するほど作製される熱交換器を軽量化することができるが、強度および耐食性を維持し難くなるので、0.15〜0.50mmの範囲とすることが好ましい。また、熱交換器のプレート材に適用する場合は、厚さを0.50〜1.5mmの範囲とすることが好ましい。
以下に、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートを構成する各要素について説明する。
【0016】
〔心材〕
(心材Mn:0.6質量以上2.0質量%以下)
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの心材は、心材として、またろう付け用のアルミニウム合金材として通常用いられ、アルミニウム合金の中でも強度が高く耐食性の比較的優れるAl−Mn系合金で形成される。具体的にはMn:0.6〜2.0質量%を含有することが好ましい。Mnは、Al−Mn−Si系金属間化合物を形成してろう付け後強度を向上させる。Mnの含有量が0.6質量%未満であると、この効果が小さく、また、Siを含有する場合はAl−Mn−Si系金属間化合物が減少して固溶Si量が増加するため、心材の固相線温度が低下してアルミニウム合金ブレージングシートのろう付け加熱の際に心材が溶融する虞がある。一方、Mnの含有量が2.0質量%を超えると、鋳造時に形成される粗大な金属間化合物の量が増加し、アルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下する虞がある。
【0017】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの心材は、さらにSi:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mg:0.5質量%未満、Ti:0.35質量%以下、Fe:0.45質量%以下から選択される1種以上を含有するアルミニウム合金としてもよい。このような条件を満たすアルミニウム合金として、JIS規定の3000系アルミニウム合金を適用してもよい。
【0018】
(心材Si:1.0質量%以下)
Siは、アルミニウム合金中で固溶してその強度を向上させる。また、Al−Mn−Si系金属間化合物を形成してろう付け後強度を向上させる。さらにMgと共存させた場合はMg2Siを形成してろう付け後強度を向上させる。これらの効果を十分なものとするために、Siの含有量は0.3質量%以上とすることが好ましい。一方、Siはアルミニウム合金の固相線温度を降下させるため、Siの含有量が1.0質量%を超えると、アルミニウム合金ブレージングシートのろう付け加熱の際に心材が溶融する虞がある。
【0019】
(心材Cu:1.0質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金中で固溶強化してその強度を向上させる。この効果を十分なものとするために、Cuの含有量は0.3質量%以上とすることが好ましい。また、Cuはアルミニウム合金の電位を貴にする作用があるため、心材がろう材のアルミニウム合金の電位よりも貴となるので、ろう材が心材を犠牲防食し、アルミニウム合金ブレージングシートの耐食性を向上させる。一方、Cuはアルミニウム合金の固相線温度を降下させるため、Cuの含有量が1.0質量%を超えると、アルミニウム合金ブレージングシートのろう付け加熱の際に心材が溶融する虞がある。
【0020】
(心材Mg:0.5質量%未満)
Mgは、アルミニウム合金中で固溶、析出強化してその強度を向上させる。特にSiと共存することで、Mg2Siを形成してろう付け後強度を向上させる。しかし一方で、Mgはろう付け用のフラックスの機能を低下させる作用があるため、Mgの含有量が0.5質量%以上になると、ろう付けの際にろう材までMgが拡散してろう付け性が著しく低下する。
【0021】
(心材Ti:0.35質量%以下)
Tiは、Ti−Al系化合物を形成して層状に分散する。Ti−Al系化合物は電位が貴であるため、腐食形態が層状化し、厚さ方向への腐食(孔食)に進展し難くなる効果がある。この効果を十分なものとするために、Tiの含有量は0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Tiの含有量が0.35質量%を超えると、粗大な金属間化合物が形成されるため、アルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下する虞がある。
【0022】
(心材Fe:0.45質量%以下)
Feは、アルミニウム合金中で固溶してその強度を向上させる。一方、FeはAl−Fe系金属間化合物を形成し、このAl−Fe系金属間化合物がろう付け処理の際に心材の再結晶核として働く。Feの含有量が0.45質量%を超えると、再結晶核となるAl−Fe系金属間化合物が多くなるために、再結晶粒の個数が多くなって再結晶粒が微細となり、ろう付け後においても心材の結晶粒径が十分に大きなものとならない。このような心材では、後記するように、凝固時に心材を下地として当該心材の結晶方位に沿って成長するろうのα相の1つずつが十分な大きさに成長せず、その結果、ろう付け後のアルミニウム合金ブレージングシート表面の面積あたりのα相の数が多くなって共晶Siの晶出が増え、十分な大きさのフィレットが形成されないためにろう付け性が低下する。Feの含有量は0.35質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの心材は、不可避的不純物として、例えばZn:0.2質量%以下、Cr:0.2質量%以下を含有してもよい。
【0024】
〔ろう材〕
(ろう材Si:4〜13質量%)
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートのろう材は、一般的なアルミニウム合金ブレージングシートに積層されるろう材やろう付け用アルミニウム合金材のろう付けに通常用いられるろう材用のアルミニウム合金と同様に、Al−Si系合金からなり、Siの含有量は4〜13質量%とすることが好ましい。Siはアルミニウム合金の固相線温度を低下させ、ろう付け温度における流動性を高める作用がある。Siの含有量が4%質量未満では流動するろうの量が不十分となりろう付け不良を引き起こし、13%質量を超えると過共晶組成となるため、粗大な初晶Siが生成し、アルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下する虞がある。
【0025】
(ろう材Fe:0.45質量%以下)
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートのろう材を形成するAl−Si系合金は、Feの含有量を0.45質量%以下とする。FeはAl−Fe系金属間化合物を形成し、このAl−Fe系金属間化合物が孔食の起点として働く。Feの含有量が多いほど、Al−Fe系金属間化合物が多くなって孔食の起点が増えるために腐食が分散し、板厚方向への腐食が抑制されるため、アルカリ腐食環境下での耐食性が向上する。一方、Al−Fe系金属間化合物は、ろう付け処理の際のろう凝固時にα相の生成核として働く。ろう材のFe含有量が0.45質量%を超えると、生成核となるAl−Fe系金属間化合物が多くなるためにα相の個数が多くなってそのそれぞれが微細となり、α相の界面で晶出する共晶Siが多くなる(図2(c)参照)。すなわち、ろう付け後のアルミニウム合金ブレージングシートの表層(心材表面上)にろうの多くが共晶Siとして晶出し、フィレットを形成するろうが少なくなってろう付け性が低下する。したがって、Feの含有量は0.45質量%以下とする。
【0026】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートのろう材は、さらにZn:7.0質量%以下、Mg:3.0質量%以下、Ti:0.3質量%以下から選択される1種以上を含有するアルミニウム合金としてもよい。
【0027】
(ろう材Zn:7.0質量%以下)
Znは、アルミニウム合金の固相線温度を低下させ、ろう付け温度での流動性を高める作用がある。また、アルミニウム合金の電位が卑となって、アルミニウム合金ブレージングシート(心材)の、当該ろう材を積層した側からの耐食性を向上させることができる。これらの効果を十分なものとするために、Znの含有量は0.1質量%以上とすることが好ましい。一方、Znの含有量が7.0質量%を超えると、アルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下したり、自己腐食を生じて、却って耐食性を低下させる虞がある。
【0028】
(ろう材Mg:3.0質量%以下)
Mgは、Znと同様にアルミニウム合金の固相線温度を低下させ、ろう付け温度での流動性を高める作用がある。また、真空ろう付けにおいて、ろう付け雰囲気で蒸発することにより、ろう材表面の酸化皮膜を除去する効果がある。これらの効果を十分なものとするために、Mgの含有量は0.1質量%以上とすることが好ましい。一方、Mgの含有量が3.0質量%を超えると、真空ろう付けにおいては雰囲気のMgによる汚染が促進され、さらにフラックスの機能が損なわれてろう付け性を低下させ、またアルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下する虞がある。
【0029】
(ろう材Ti:0.3質量%以下)
Tiは、鋳造時の結晶粒を微細化する作用がある。この効果を十分なものとするために、Tiの含有量は0.01質量%以上とすることが好ましい。一方、0.3質量%を超えると、粗大な金属間化合物が形成されるため、アルミニウム合金ブレージングシートの加工性が低下する虞がある。
【0030】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートのろう材は、不可避的不純物として、Cu,Mn,Crを各0.2質量%以下含有してもよい。
【0031】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう材は片面あたりで厚さ15μm以上かつクラッド率1〜25%でクラッドされることが好ましい。ろう材厚さが15μm未満ではろうの絶対量が不足してろう付け性が低下する虞がある。一方、ろう材厚さがクラッド率25%を超えて厚くなると、ろうの流動量が過剰となって、一部が心材を侵食し、心材のエロージョンが発生する虞がある。なお、両面にろう材を備えたアルミニウム合金ブレージングシートとする場合は、それぞれの面におけるろう材が同じ成分のアルミニウム合金であっても異なるものであってもよい。例えば熱交換器のプレート材に適用されるアルミニウム合金ブレージングシートについては、熱交換器に組み立てられたときに外側(腐食環境側)となる面をZnを添加したAl−Si−Zn系合金として、他面をAl−Si系合金としてもよい。
【0032】
〔犠牲陽極材〕
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、前記の心材の一方の面に前記ろう材を備え、他方の面には犠牲陽極材を備えてこの面の側からの耐食性を向上させてもよい。このような犠牲陽極材を備えたアルミニウム合金ブレージングシートで熱交換器を作製する際は、犠牲陽極材を備えた面を腐食環境側となるように部品を成形する。
【0033】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートに備える犠牲陽極材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる公知の材料を使用することができ、また、その厚さは特に限定されないが、耐食性向上の十分な効果を得るためには15μm以上、クラッド率1〜25%が好ましい。アルミニウム合金としては、例えば、Zn:6.0質量%以下を含有するAl−Zn系合金、そしてAl−Zn系合金またはアルミニウムにMn,Si,Mg等を添加した合金が挙げられる。
【0034】
〔熱交換器〕
本発明に係る熱交換器は、一例として次のようにして製造される。本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(チューブ材)を偏平管状にロール成形してチューブとする。なお、チューブ材は、少なくとも外側にろう材を備えるようにする。別のアルミニウム合金ブレージングシートまたは本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(プレート材)をプレス成形してプレートとする。ろう付け用のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材(アルミニウム合金板という)をコルゲート成形してフィンとする。フィン材用のアルミニウム合金板は、特に限定しないが厚さ0.05〜0.3mmとすることが好ましく、また、Al−Si系合金やAl−Si−Zn系合金からなるろう材を両面に備えるアルミニウム合金ブレージングシートを適用してもよい。図1に示すように、チューブをフィンと交互に重ね合わせて、チューブのそれぞれの管の端部をプレートに嵌合させて組み合わせた状態で、常法にてろう付け接合することにより製造される。なお、チューブの継ぎ目(チューブ材同士)、チューブとプレート、およびチューブとフィンが同時にろう付け接合されるように、それぞれの部品の各面に備えるろう材を構成するAl−Si系合金は、同程度の温度で溶融するものを適用する。
【0035】
(凝固したろうにおける共晶Siの面積率:35%以下)
本発明に係る熱交換器の製造においては、ろう付け加熱により溶融したろう材が部品間の接続部位や重なり部分の間に充填されてフィレットを形成して凝固することで、部品同士が接合される。溶融したろう材(溶融ろう)は、部品すなわち本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの表面を流動して、多くが心材から離脱し、またある程度の量が接続部位等に集まることで、フィレットが十分な大きさに形成されてろう付け性がよくなる。すなわち、アルミニウム合金ブレージングシート(心材)表面において接続部位等以外の領域からは、ろう材の多くが流出するので、心材にろう材が侵食することなく、エロージョンが生じない。アルミニウム合金ブレージングシートのろう付け処理時に溶融して、表面から流出せずに接続部位等以外の領域に留まったろうの量を直接に測定することは困難である。そこで、本発明においては、ろう付け処理後のアルミニウム合金ブレージングシートの断面を観察して、溶融して凝固したろうにおける共晶Siの割合からろうの流動性を測る。
【0036】
ろう材を構成するAl−Si合金は、ろう付け加熱により溶融してアルミニウム合金ブレージングシート表面を流動し、加熱が完了して温度が降下すると、まずα相(Al)を成長させ、次いでα相の界面に沿って共晶Siを晶出させて凝固する(図2(b)参照)。したがって、ろう付け処理後(冷却後)にアルミニウム合金ブレージングシートの心材上に晶出している共晶Siは、ろう付け加熱時には確実に溶融していた領域とみなせる。心材上で凝固したろうすなわちα相と共晶Siの和に対して共晶Siが少なければ、溶融ろうの十分な量をアルミニウム合金ブレージングシート同士または他の部材との接合部に流動させて、かつ、この接合部に到達した溶融ろうが心材上に残存した溶融ろうを伝わって当該接合部から流出することを抑制することになり、接合部に十分な大きさのフィレットを形成できると判定することができる。具体的には600℃で3分間加熱された後の冷却された状態において、アルミニウム合金ブレージングシートのろう材を備える側の表層の断面における共晶Siのα相との和に対する面積率が35%以下であることをいう。チューブ材のような薄肉化したアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、前記面積率(共晶Siの面積率という)が35%を超えていると、フィレットを形成したろうの量が少なく、ろう付け性が不十分となる。
【0037】
前記共晶Siの面積率の測定は、アルミニウム合金ブレージングシートを公知のろう付け処理と同様の方法で加熱した後(600℃で3分間加熱して冷却後)、測定片を切り出して、切断面におけるアルミニウム合金ブレージングシートのろう材を備えていた側を光学顕微鏡で観察し、共晶Siが観察される領域において、当該共晶Siおよびα相のそれぞれの面積を測定することで得られる。例えば光学顕微鏡写真を画像解析して、共晶Siの面積率を算出してもよい。
【0038】
ろう付け処理後のアルミニウム合金ブレージングシートの心材上に晶出する共晶Siを少なくするためには、溶融ろうの凝固の際にα相を大きく成長させて個数を少なくすることが望ましい。前記した通り、共晶Siは先に形成されたα相の界面に沿って晶出するので、図2(b)に示すように、α相のそれぞれが大きく、アルミニウム合金ブレージングシート表面の面積あたりのα相の数が少ないと、共晶Siが晶出し得るα相の界面の総面積も少なくなる。このようなアルミニウム合金ブレージングシートをプレート材とした場合においては、溶融ろうの多くが心材上を流動して通過し、チューブとの接合部でフィレットを形成するろうの量も多くなる。チューブ材とした場合においては、プレートからの溶融ろうの流動を抑制し、プレートとの接合部で同じくフィレットを形成するろうの量も多くなる。これに対して、図2(c)に示すように、α相の個数が多く、そのそれぞれが小さいと、アルミニウム合金ブレージングシート表面の面積あたりの共晶Siが晶出し得るα相の界面の総面積が多くなる。プレート材とした場合は、溶融ろうの多くがこのような心材上を流出せず、チューブとの接合部でフィレットを形成するろうの量が少なくなる。チューブ材とした場合は、プレートからの溶融ろうの流動が促進されて、チューブとの接合部でフィレットを形成するろうの量が少なくなる。
【0039】
溶融ろうが凝固するときのα相の個数を抑えるためには、溶融ろう中のα相の生成核として働くAl−Fe系金属間化合物の数を少なくすることが望ましい。すなわち、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートのろう材に析出しているAl−Fe系金属間化合物の数を少なくする。そのために、前記した通り、ろう材を構成するAl−Si系合金は、Feの含有量を0.45質量%以下に抑制する。また、後記するように、アルミニウム合金ブレージングシートの製造において、ろう材用のAl−Si系合金鋳塊の均質化熱処理を所定温度以上で行うことによりAl−Fe系金属間化合物を固溶させ、仕上げ冷間圧延率を所定以下として、析出しているAl−Fe系金属間化合物を破砕して数を増やさないようにすることが好ましい。
【0040】
(ろう付け処理後の心材の結晶粒径:圧延方向長80μm以上)
また、ろう(Al−Si合金)のα相は、下地である心材の結晶方位に沿って成長する。したがって、α相を大きく成長させて共晶Siの晶出を減らすために、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは心材の結晶粒径の面方向における長さを大きくする。具体的には600℃で3分間加熱された後の冷却された状態において、心材の板厚方向中心部の結晶粒径が圧延方向で80μm以上とする。ろう付け処理後の心材の結晶粒径が80μm未満では、ろうのα相の1つずつが十分な大きさに成長しないために、アルミニウム合金ブレージングシート表面の面積あたりのα相の数が多くなって共晶Siの晶出が増え、十分な大きさのフィレットが形成されない。心材の結晶粒径を面方向に十分に長くするためには、前記したように心材のFe含有量を少なくして、かつ、後記するように、アルミニウム合金ブレージングシートの製造において、中間焼鈍温度および仕上げ冷間圧延率をそれぞれ所定範囲とすることが好ましい。
【0041】
心材の結晶粒径は、前記共晶Siの面積率の測定と同様に、アルミニウム合金ブレージングシートを公知のろう付け処理と同様の方法で加熱した後(600℃で3分間加熱して冷却後)、測定片を切り出して測定することができる。この測定片を一方の面から心材の板厚方向中心部に到達する深さまで研磨し、この研磨した面を電解液にてエッチングして、光学顕微鏡にて100倍程度で観察することで結晶粒径を測定する。なお、心材の板厚方向中心部とは、板厚方向においてその中心から心材の板厚の±25%の領域をいう。
【0042】
〔製造方法〕
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、公知のクラッド材の製造方法により製造される。以下にその一例を説明する。
【0043】
まず、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの心材の成分のアルミニウム合金を連続鋳造にて溶解、鋳造し、必要に応じて面削し、均質化熱処理して、心材用鋳塊を得る。同様に、ろう材用、そして必要に応じて犠牲陽極材用の鋳塊を、前記の心材用鋳塊と同様の方法で得る。
【0044】
鋳塊の均質化熱処理の温度は、それぞれの鋳塊の成分に基づいて設定されるが、心材用のAl−Mn系合金の鋳塊の均質化熱処理は、440〜620℃で行うことが好ましい。440℃未満では、Al−Fe系金属間化合物はほとんど固溶しないために、アルミニウム合金ブレージングシートとした際の心材に多く存在することとなる。したがって、ろう付け時における再結晶核が多くなり、ろう付け処理後の心材の結晶粒が微細となる。一方、620℃を超えると、鋳塊が溶融して材料として使用不可となる虞がある。また、ろう材用のAl−Si系合金の鋳塊の均質化熱処理は、440〜570℃で行うことが好ましい。440℃未満では、Al−Fe系金属間化合物はほとんど固溶しないために、アルミニウム合金ブレージングシートとした際のろう材に多く存在することとなる。したがって、ろう付け時におけるα相の生成核が多くなり共晶Siが増えてろう付け性が低下する。一方、570℃を超えると、ろう材のSi含有量等によらず、鋳塊が溶融して材料として使用不可となる虞がある。
【0045】
それぞれの鋳塊は、必要に応じて熱間圧延または切断して、アルミニウム合金ブレージングシートにおけるクラッド率に合わせた比の厚さのアルミニウム合金板(またはアルミニウム板)とする。なお、最も厚い心材については鋳塊の状態でもよい。次に、それぞれのアルミニウム合金板を、所望のアルミニウム合金ブレージングシートの積層順に重ね合わせて、400℃以上の温度で加熱した(熱間圧延の予備加熱)後、熱間圧延により圧着して(クラッド圧延)一体の板材とする。その後、必要に応じて焼鈍を行い、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を行うことにより所望の板厚とする。なお、冷間圧延は、所望の板厚になるまで適宜中間焼鈍を挟んで繰り返す。さらに、最終の板厚とした仕上げ冷間圧延の後、仕上げ焼鈍を実施してもよい。
【0046】
ここで、中間焼鈍は210〜460℃で行うことが好ましい。210℃未満では、その前の冷間圧延で蓄積された歪みの緩和が不十分で、結晶粒が微細になる。一方、460℃を超えると、心材に粗大なAl−Mn系金属間化合物が多数析出し、このAl−Mn系金属間化合物が再結晶核として働くため、心材の結晶粒の数が多くなって結晶粒が微細となる。
【0047】
また、仕上げ冷間圧延(最後の中間焼鈍後の冷間圧延)における加工率(仕上げ冷間圧延率)は20〜70%とすることが好ましい。仕上げ冷間圧延率が20%未満では、再結晶のための駆動力が不十分で未再結晶(サブグレイン)組織を生じる。特に心材にサブグレインが形成されていると、ろう付け時に溶融ろうが心材のサブグレインへ拡散してエロージョンを発生させる。一方、仕上げ冷間圧延率が70%を超えると、蓄積される歪みが過大なために結晶粒が微細となって、特に心材の結晶粒径が小さくなり、また、ろう材中のAl−Fe系金属間化合物が破砕されて分散することで数密度が増える。
【実施例1】
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(供試材の作製)
表1に示す組成を有する心材(C)用のアルミニウム合金(C1〜C6)、およびろう材(F)用の表2に示すSi:10質量%、Fe:0.25,0.5質量%を含有するアルミニウム合金(F1,F2)、そして犠牲陽極材(S)用としてZn:3質量%を含有するアルミニウム合金を、連続鋳造にて溶解、鋳造して鋳塊を得た。鋳塊の表面を面削し、ろう材用、犠牲陽極材用の鋳塊は後記するクラッド率に合わせた所定の厚さに切断して厚板としてから、4時間の均質化熱処理を行った。均質化熱処理温度は、心材用の鋳塊およびろう材用の鋳塊(厚板)は供試材毎に表3に示す温度とし、犠牲陽極材用の鋳塊(厚板)は500℃とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
チューブ材およびプレート材とするアルミニウム合金ブレージングシートとして、表3に示す心材用、ろう材用のアルミニウム合金の組合せで、表3に構成「F/C」で示すように、心材(C)用の鋳塊の片面にろう材(F)用の厚板を重ね合わせた。さらに「F/C/S」で示す構成については、心材用の鋳塊の反対側の面に犠牲陽極材(S)用の厚板を重ね合わせた。なお、表3では、心材用アルミニウム合金およびろう材用アルミニウム合金について、表1および表2に示す合金記号と共にFe含有量を記載する。重ね合わせた鋳塊等を500℃で4時間の予備加熱の後、熱間圧延により圧着して一体の板材とした。そして連続して冷間圧延を行って所定の厚さとし、表3に示す温度で4時間の中間焼鈍の後、表3に示す加工率で仕上げ冷間圧延を行って所定の最終厚さのアルミニウム合金ブレージングシート(供試材No.1〜24)とした。ただし、供試材No.16については、ろう材用の厚板が均質化熱処理で溶融したため、以降の作製工程および評価は行わなかった(表3に「−」で示す)。なお、チューブ材は、厚さ0.3mm、ろう材のクラッド率は15%、犠牲陽極材のクラッド率は10%とした。プレート材は、厚さ2.0mm、ろう材のクラッド率は10%、犠牲陽極材のクラッド率は10%とした。また、フィン材については、JIS3003合金を、常法により、鋳造、均質化熱処理、予備加熱、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、および仕上げ冷間圧延を行って、厚さ0.1mmのアルミニウム合金板とした。
【0053】
(ろう付け熱処理材の作製)
得られたアルミニウム合金ブレージングシート(チューブ材、プレート材)を、窒素雰囲気にて600℃で3分間保持することによりろう付け加熱を模擬し、ろう付け熱処理材を作製した。
【0054】
(心材の結晶粒径の測定)
チューブ材のろう付け熱処理材を切り出し、一方の面から心材の板厚中心部まで研磨し、この研磨した面を電解液にてエッチングして、光学顕微鏡にて100倍で写真撮影した。この顕微鏡写真で、切片法により圧延方向の心材の結晶粒径を測定した。結晶粒径は5箇所で測定し、平均値を表3に示す。
【0055】
(凝固したろうにおける共晶Siの面積率の測定)
チューブ材およびプレート材それぞれのろう付け熱処理材を切り出し、切断面のろう材を備えていた側を光学顕微鏡で観察し、共晶Siが観察される領域において、当該共晶Siおよびα相のそれぞれの面積を測定した。共晶Siとα相の面積の和に対する共晶Siの面積の百分率を算出し、表3に示す。
【0056】
(耐エロージョン性の評価)
チューブ材について、ろう付け熱処理材、および、ろう付け加熱前のアルミニウム合金ブレージングシートの仕上げ冷間圧延でさらに10%の加工率を追加したものをろう付け熱処理材と同条件でろう付け加熱を模擬した供試材を用いた。これらの供試材をそれぞれ切り出して樹脂に埋め込み、切断面を研磨し、その研磨面を光学顕微鏡にて倍率100倍で観察した。心材の残存厚さが最小の部分について測定し、元(ろう付け加熱前)の心材の厚さに対する残存率を算出した。心材の残存率が70%以上を「○」、70%未満を「×」で示す。冷間圧延の追加の無、有(0%、+10%)ともに心材の残存率が70%以上であるものを合格とした。
【0057】
(ろう付け接合構造体の作製)
所定の寸法として、チューブ材を圧延方向長30mm×幅25mmに、プレート材を圧延方向長20mm×幅25mmに、それぞれ切断してチューブおよびプレートとした。また、フィン材(アルミニウム合金板)を切断、コルゲート成形してフィンとした。チューブおよびプレートのろう材側の表面にフッ化物系フラックス10g/m2を塗布して乾燥させ、さらにフィンと合わせて表3に示す組合せで、図3(a)に示す形状に組み立てた。詳しくは、ろう材を備えた側を上にしてチューブを水平に載置し、このチューブの上にプレートを鉛直に立て、またフィンを載せてこれらを固定した。なお、チューブ上において、プレートのろう材を備えた面がフィンに対面するように組み立てた。ただし、供試材No.21は、フィンを備えず、チューブとプレートのみで組み立てた(図3(a)からフィンを除いた形状)。なお、心材およびろう材の各合金組成、ならびに製造条件が同じとなる部品同士を組み合わせた。組み立てた部品を、窒素雰囲気にて600℃で3分間保持することによりろう付け加熱を行い、ろう付け接合構造体の供試材(No.1〜15,17〜24)を作製した。
【0058】
(ろう付け性の評価)
ろう付け接合構造体の供試材を幅方向略中心線で切断し、切断面(図3(b)参照)のチューブとプレート(ろう材を備えた側)との接合部を光学顕微鏡にて倍率100倍で観察し、撮影した写真を継ぎ合わせて接合部のフィレットの断面積を測定した。フィレットの断面積が0.2mm2以上をろう付け性合格とし、2.0mm2以上を特に優れているとして「◎」、1.0mm2以上2.0mm2未満を優れているとして「○」、0.2mm2以上1.0mm2未満を良好であるとして「△」で表3に示す。一方、フィレットの断面積が0.2mm2未満はろう付け性不良として「×」で示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、供試材No.1〜12は、ろう付け処理後の凝固したろうにおける共晶Siの面積率が本発明の範囲を満足したため、耐エロージョン性およびろう付け性が良好であった。すなわち、片面にろう材を備えた2層材(供試材No.1等)、各面にろう材と犠牲陽極材をそれぞれ備えた3層材(供試材No.2,3,5)のいずれの構成としても、またチューブ、プレートのいずれに構成されても、熱交換器用のアルミニウム合金ブレージングシートとして十分な特性を示した。さらに、供試材No.1〜7,9〜11は、心材のFe含有量が少ないために心材の結晶粒径が特に大きくなって共晶Siの面積率が十分に小さく、その結果、優れたろう付け性を示した。
【0061】
これに対して、供試材No.13〜15,17〜20,22〜24は、ろう付け処理後の凝固したろうにおける共晶Siの面積率が本発明の範囲を超えたため、フィレットを形成するろうが不足してろう付け性が不良となった。供試材No.13,14はろう材のFe含有量が過剰であるため、供試材No.15はろう材の均質化熱処理温度が低いために、それぞれろう材中のAl−Fe金属間化合物が多く分布して、ろうの共晶Siの面積率が多くなった。なお、供試材No.16は、ろう材の均質化熱処理温度が高過ぎたために厚板が溶融したので、前記した通り作製および評価を行わなかった。また、供試材No.17,18はアルミニウム合金ブレージングシートの中間焼鈍温度が適正範囲外であるために、供試材No.19は仕上げ冷間圧延率が過大であるために、供試材No.22,24は心材のFe含有量が多いために、供試材No.23は心材の均質化処理温度が低いために、それぞれ心材の結晶粒径が小さく、その結果、ろうの共晶Siの面積率が多くなった。一方、供試材No.20は仕上げ冷間圧延率が小さいことでサブグレインを生じ、溶融ろうが心材のサブグレインへ拡散してエロージョンを発生させ、またろうの共晶Siの面積率が多くなった。
【0062】
供試材No.21も、ろう付け処理後の凝固したろうにおける共晶Siの面積率が本発明の範囲を超えたが、ろう付け接合構造体にフィンを備えなかったため、チューブ表面にフィンとの接合部のフィレットがなく、チューブとプレートとの接合部にのみフィレットが形成されたことで、フィレットは十分な大きさとなった。ただし、供試材No.21は、ろう材のFe含有量が過剰で、かつろう材の均質化熱処理温度が低いために、ろう材中のAl−Fe金属間化合物が特に多く分布し、さらにアルミニウム合金ブレージングシートの仕上げ冷間圧延率が小さいことでサブグレインを生じてエロージョンが発生したため、ろうの共晶Siの面積率が特に大きかった。なお、供試材No.21は、仕上げ冷間圧延率が小さいために、中間焼鈍温度が高くても心材の結晶粒径は微細化しなかったと考えられる。
【実施例2】
【0063】
(ろう付け接合構造体の作製)
実施例1の供試材No.1,5(表1,3参照)について、チューブを偏平管状にロール成形して両縁で接合した(継ぎ合わせた)状態を模擬するため、以下の構造のろう付け接合構造体を作製した。供試材No.1−2〜1−7は実施例1の供試材No.1と、供試材No.5−2は実施例1の供試材No.5と、それぞれ同じ仕様のアルミニウム合金ブレージングシートを適用した。さらに、供試材No.1−5,5−2は、フィン材についても、チューブ材等と同様の方法で作製したアルミニウム合金ブレージングシートを適用した。フィン材用のアルミニウム合金ブレージングシートは、心材はアルミニウム合金板の場合と同じJIS3003合金とし、ろう材は供試材No.1等のろう材と同じAl−10%Si合金F1(表2参照)を両面に各クラッド率15%で備え、厚さはアルミニウム合金板の場合と同じ0.1mmとした。プレート材およびフィン材は、実施例1と同じ形状に切断し、フィン材はさらにコルゲート成形してフィンとした。
【0064】
詳しくは、供試材No.1,5のチューブ材を圧延方向長30mm×幅15mmに切断したものを2枚1組として、幅方向に並べてそれぞれの縁(長辺)で継ぎ合わせた。チューブの継ぎ目は、両縁から各2.5mmで内側に向けて断面視L字型に折り曲げて、外側表面同士を突き合わせた「折曲げ突合せ」(図4(b)参照)、または両縁の2.5mmで重ね合わせて外側表面と内側表面を対面させた「重ね合せ」(図4(c)参照)、あるいは前記の重ね合わせたチューブの両縁の間にフィン材(成形せず)を挟んだ「フィン挟み込み」(図4(d)参照)とした(表4に記載する)。これらの部品のろう材側の表面にフッ化物系フラックス10g/m2を塗布して乾燥させ、図4(a)に示す形状に組み立てた。詳しくは、継ぎ合わせたチューブをその平らな面(図4(b)、(c)、(d)で上に示した側)を上にして水平に載置し、このチューブの上に実施例1と同様にプレートを鉛直に立て、またフィンを載せてこれらを固定した。ただし、供試材No.1−6,1−7は、チューブ上にフィンを備えず、プレートのみを載せた(図4(a)からフィンを除いた形状)。実施例1と同様に、組み立てた部品を、窒素雰囲気にて600℃で3分間保持することによりろう付け加熱を行い、ろう付け接合構造体の供試材(No.1−2〜1−7,5−2)を作製した。
【0065】
(ろう付け性の評価)
ろう付け接合構造体の供試材をチューブの継ぎ目近傍で切断し、実施例1と同様にチューブとプレートとの接合部のフィレットの断面積を測定した(図3(b)参照)。実施例1と同じ基準にてろう付け性を判定し、結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4に示すように、供試材No.1−2〜1−7,5−2は、いずれも実施例1での供試材No.1,5と同様に、ろう付け性が良好となった。特に、供試材No.1−3は、チューブ材の外側表面とろう材を備えない内側表面とを重ね合わせてろう付けしたために、また供試材No.1−4は、チューブの継ぎ目にろう材を備えないフィン材を挟んでろう付けしたために、それぞれチューブのろう材から比較的多くのろうが継ぎ目に流入した上、ろう材を備えないフィンとの接合にもろうを要したが、プレートとの接合部にもろうが留まって十分な大きさのフィレットを形成し、良好なろう付け性が得られた。
図1
図2
図3
図4