特許第5714475号(P5714475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714475
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】増幅装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20150416BHJP
   H03F 1/56 20060101ALI20150416BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20150416BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H03F1/02
   H03F1/56
   H03F3/24
   H03F3/68 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-269200(P2011-269200)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-121131(P2013-121131A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2013年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000981
【氏名又は名称】アイ・ピー・ディー国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丹治 康紀
(72)【発明者】
【氏名】乙部 英一郎
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−185270(JP,A)
【文献】 特開昭52−149954(JP,A)
【文献】 特開2007−013451(JP,A)
【文献】 米国特許第05832305(US,A)
【文献】 特表2002−532883(JP,A)
【文献】 特開平07−307390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/02
H03F 1/56
H03F 3/24
H03F 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号が入力される入力端子と、高周波信号が出力される出力端子との間に接続され、バイポーラトランジスタを含み、入力端子から入力される高周波信号を増幅する第1増幅器と、
バイポーラトランジスタを含み、前記入力端子から入力される高周波信号を増幅し、前記第1増幅器よりも最大出力電力が低い第2増幅器と、
前記第2増幅器と前記出力端子との間に接続され、前記第2増幅器により増幅された高周波信号を、選択的に前記出力端子から出力させるスイッチング部と、
を備え、
前記スイッチング部は、
前記第2増幅器と前記出力端子との間の信号線上に設けられる、インピーダンスの変換を行うインピーダンス変成器と、
エミッタが接地され、コレクタが前記信号線に接続され、前記スイッチング部におけるスイッチング動作を制御する制御電圧に応じた電流がベースに印加される、第1バイポーラトランジスタと、
コレクタが接地され、エミッタが前記信号線に接続され、前記制御電圧に応じた電流がベースに印加される、第2バイポーラトランジスタと、
前記第2バイポーラトランジスタのベースに一端が接続され、他端が接地されるキャパシタと、
を備え、
前記インピーダンス変成器は、
一端が前記出力端子に接続され、他端が前記第1バイポーラトランジスタのコレクタ、および前記第2バイポーラトランジスタのエミッタと接続され、
前記第1バイポーラトランジスタと前記第2バイポーラトランジスタとがオン状態となることにより前記他端側の前記信号線が接地された場合には、前記第2増幅器と前記出力端子とを開放状態にさせることを特徴とする、増幅装置。
【請求項2】
前記第1増幅器と前記第2増幅器とが含むバイポーラトランジスタと、前記スイッチング部が備える前記第1バイポーラトランジスタ、および前記第2バイポーラトランジスタとは、同一プロセスにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の増幅装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば無線通信に用いられる高周波信号を増幅するために用いられる増幅器は、一般的に、最大出力付近で電力付加効率(Power Added Efficiency。以下、「PAE」と示す。)が良好である。しかしながら、上記のような増幅器が用いられる、携帯電話などの通信装置では、最大出力での使用頻度は少なく、出力電力が10[dB]から20[dB]程度の低い出力での使用頻度が多い。そのため、上記のような通信装置では、10[dB]から20[dB]程度の低い出力におけるPAEが、例えば、バッテリなどの内部電源で駆動する通信装置の連続使用時間に大きな影響を及ぼしている。
【0003】
このような中、動作に必要な出力電力に応じて高周波信号の増幅に用いる増幅器を切り替える技術が開発されている。複数の動作モードごとに最大出力電力を切り替える技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−211090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力増幅器には、例えばInGaP ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor。以下「HBT」と示す場合がある。)などの高性能なバイポーラトランジスタが用いられている。一方、増幅器を切り替えるためのスイッチには、例えば、GaAs系化合物半導体のHEMT(High Electron Mobility Transistor。高電子移動度トランジスタ)などが一般的に用いられている。そのため、例えば特許文献1に記載の技術を用いる増幅装置のように、動作に必要な出力電力に応じて高周波信号の増幅に用いる増幅器を切り替えることが可能な増幅装置(または、増幅器モジュール)は、例えば、複数の半導体チップを組み合わせて備える必要があり、その結果、コストが上昇や、サイズの増大を招いている。
【0006】
また、近年、例えば、InGaP HBTとHEMTとを1つの半導体チップで構成することが可能な複合プロセスが開発されている。しかしながら、上記のような複合プロセスは工程が複雑であることから、上記のような複合プロセスを用いる場合には、コストの上昇を招いてしまう。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、コストの低減を図りつつ、特性の劣化の防止を図ることが可能な、新規かつ改良された増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、高周波信号が入力される入力端子と、高周波信号が出力される出力端子との間に接続され、バイポーラトランジスタを含み、入力端子から入力される高周波信号を増幅する第1増幅器と、バイポーラトランジスタを含み、上記入力端子から入力される高周波信号を増幅し、上記第1増幅器よりも最大出力電力が低い第2増幅器と、上記第2増幅器と上記出力端子との間に接続され、上記第2増幅器により増幅された高周波信号を、選択的に上記出力端子から出力させるスイッチング部と、を備え、上記スイッチング部は、上記第2増幅器と上記出力端子との間の信号線上に設けられる、インピーダンスの変換を行うインピーダンス変成器と、エミッタが接地され、コレクタが上記信号線に接続され、上記スイッチング部におけるスイッチング動作を制御する制御電圧に応じた電流がベースに印加される、第1バイポーラトランジスタと、コレクタが接地され、エミッタが上記信号線に接続され、上記制御電圧に応じた電流がベースに印加される、第2バイポーラトランジスタと、を備える増幅装置が提供される。
【0009】
かかる構成によって、第1増幅器に係る信号経路、および第2増幅器に係る信号経路それぞれにおけるアイソレーションを確保し、特性の劣化を防止することができる。また、かかる構成によって、スイッチング部が備える第1バイポーラトランジスタと第2バイポーラトランジスタとを、第1増幅器や第2増幅器が含むバイポーラトランジスタと同種のバイポーラトランジスタとすることが可能となる。よって、かかる構成によって、コストの低減を図りつつ、特性の劣化の防止を図ることができる。
【0010】
また、上記スイッチング部は、上記第2バイポーラトランジスタのベースに一端が接続され、他端が接地されるキャパシタをさらに備えていてもよい。
【0011】
また、上記第1増幅器と上記第2増幅器とが含むバイポーラトランジスタと、上記スイッチング部が備える上記第1バイポーラトランジスタ、および上記第2バイポーラトランジスタとは、同一プロセスにより形成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コストの低減を図りつつ、特性の劣化の防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る増幅装置の構成の一例を示す説明図である。
図2A】本発明の第1の実施形態に係る第2バイポーラトランジスタを備えることによる効果を説明するための説明図である。
図2B】本発明の第1の実施形態に係る第2バイポーラトランジスタを備えることによる効果を説明するための説明図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る増幅装置の構成の一例を示す説明図である。
図4A】本発明の第2の実施形態に係るキャパシタを備えることによる効果を説明するための説明図である。
図4B】本発明の第2の実施形態に係るキャパシタを備えることによる効果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
動作に必要な出力電力に応じて高周波信号の増幅に用いる増幅器を切り替える場合、例えば、大電力出力が必要なときは大電力増幅器を用いて高周波信号を増幅し、また、中電力出力が必要なときには中電力増幅器を用いて高周波信号を増幅する構成がとられる。ここで、上記の構成をとる場合、大電力増幅時において中電力増幅器の電源がオフで大電力増幅経路に一切悪影響を及ぼさず、逆に中電力増幅時において大電力増幅器の電源がオフで中電力増幅経路に一切悪影響を及ぼさないことが理想である。
【0016】
しかしながら、単純に出力電力の異なる増幅器を並列に接続した場合には、高周波信号の振る舞いとして互いのインピーダンスの影響を受け、その結果、例えば増幅特性に劣化が生じてしまう。
【0017】
そこで、本発明の実施形態に係る増幅装置では、増幅器同士の接続点にスイッチング部を備えることによって、互いのアイソレーションを確保し、特性の劣化を防止する。
【0018】
以下では、本発明の実施形態に係るスイッチング部として、1入力1出力でオン/オフを切り替えるSPST(Single Pole, Single Throw)スイッチを例に挙げて説明する。なお、以下では、説明の便宜上、1入力1出力のSPSTについて説明するが、本発明の実施形態に係るスイッチング部は、SPSTスイッチに限られない。例えば、本発明の実施形態に係るスイッチング部は、1入力2以上出力でオン/オフを切り替えるスイッチであってもよい。本発明の実施形態に係る増幅装置は、後述するスイッチング部を1または2以上備えることによって、多様なスイッチを備えることが可能である。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る増幅装置100の構成の一例を示す説明図である。
【0020】
増幅装置100は、高周波信号が入力される入力端子Pinと、高周波信号が出力される出力端子Poutと、第1増幅器102と、第2増幅器104と、スイッチング部106とを備える。
【0021】
ここで、本発明の実施形態に係る高周波信号としては、例えば、長波や、中波、短波、超短波、極超短波、マイクロ波、ミリ波などの無線通信に用いられる周波数の信号(例えば、30[kHz]〜300[GHz]の信号)が挙げられる。なお、本発明の実施形態に係る高周波信号は、上記に限られない。例えば、本発明の実施形態に係る高周波信号は、30[kHz]未満の信号であってもよく、また、300[GHz]より高い周波数の信号であってもよい。
【0022】
第1増幅器102は、入力端子Pinと出力端子Poutとの間に接続される。また、第1増幅器102は、バイポーラトランジスタを含み、入力端子Pinから入力される高周波信号を増幅する。
【0023】
ここで、第1増幅器102を構成するバイポーラトランジスタとしては、例えば、InGaP HBTやInP HBTなどの化合物系のHBTや、SiGe HBTなどのCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)系のHBT、SiGe HBTとBulk CMOSとの複合プロセスであるSiGeBiCMOSなど一般的に用いられているプロセスが用いられたHBTなどが挙げられる。なお、本発明の実施形態に係るバイポーラトランジスタが、上記に限られないことは、言うまでもない。
【0024】
また、第1増幅器102は、バイポーラトランジスタで構成される条件を満たし、高周波信号を増幅することができれば、任意の構成をとることが可能である。
【0025】
第2増幅器104は、バイポーラトランジスタを含み、入力端子Pinから入力される高周波信号を増幅する。また、第2増幅器104における最大出力電力は、第1増幅器102における最大出力電力よりも低い。より具体的には、第2増幅器104は、例えば、第1増幅器102が含むトランジスタよりもトランジスタサイズが小さなトランジスタで構成される。なお、本発明の実施形態に係る第2増幅器104は、最大出力電力が第1増幅器102よりも低いことが実現されれば、第1増幅器102が含むトランジスタよりもトランジスタサイズが小さなトランジスタで構成されていなくてもよい。以下では、第2増幅器104が含むトランジスタのトランジスタサイズが、第1増幅器102が含むトランジスタのトランジスタサイズよりも小さい場合を例に挙げて説明する。
【0026】
ここで、第2増幅器102を構成するバイポーラトランジスタとしては、例えば、第1増幅器102を構成するバイポーラトランジスタと同様に、InGaP HBTなどの化合物系のHBTや、SiGe HBTなどのSi系のHBT、SiGe HBTとBulk CMOSとの複合プロセスであるSiGeBiCMOSなど一般的に用いられているプロセスが用いられたHBTなどが挙げられる。また、第2増幅器102を構成するバイポーラトランジスタは、例えば、第1増幅器102を構成するバイポーラトランジスタと同一プロセスにより形成されてもよい。
【0027】
また、第2増幅器104は、バイポーラトランジスタで構成される条件を満たし、高周波信号を増幅することができれば、任意の構成をとることが可能である。
【0028】
また、第2増幅器104におけるトランジスタサイズは、第2増幅器104の用途に応じて設定される。より具体的には、例えば、第1増幅器102が大電力増幅用の増幅器である場合には、第2増幅器104におけるトランジスタサイズは、当該大電力よりも小さな、中電力増幅または小電力増幅に対応するトランジスタサイズが設定され、また、第1増幅器102が中電力増幅用の増幅器である場合には、第2増幅器104におけるトランジスタサイズは、当該中電力よりも小さな、小電力増幅に対応するトランジスタサイズが設定される。
【0029】
スイッチング部106は、第2増幅器104と出力端子Poutとの間に接続され、第2増幅器104により増幅された高周波信号を、選択的に出力端子Poutから出力させる。言い換えると、スイッチング部106は、例えば、第2増幅器104を選択的に機能させる役目を果たす。
【0030】
[1]スイッチング部106の構成
スイッチング部106は、インピーダンス変成器MSTLと、第1バイポーラトランジスタTR1と、第2バイポーラトランジスタTR2とを備える。
【0031】
また、スイッチング部106では、制御電圧Vc0、Vc1の電圧レベル(ハイレベル/ローレベル)に応じて、スイッチング部106のオン/オフ動作が制御される。より具体的には、例えば、制御電圧Vc0の電圧レベルをハイレベルに固定すると、スイッチング部106は、制御電圧Vc1の電圧レベルがローレベルのときにオン状態となり、制御電圧Vcの電圧レベルがハイレベルのときにオン状態となる。
【0032】
インピーダンス変成器MSTLは、第2増幅器104と出力端子Poutとの間の信号線上に設けられ、高抵抗を低抵抗に、低抵抗を高抵抗に変換する役目を果たす。ここで、インピーダンス変成器MSTLとしては、例えば、使用周波数の1/4波長線路が挙げられる。
【0033】
第1バイポーラトランジスタTR1は、エミッタが接地され、コレクタが信号線に接続され、制御電圧Vc1に応じた電流がベースに印加される。
【0034】
ここで、第1バイポーラトランジスタTR1としては、例えば、InGaP HBTやInP HBTなどの化合物系のHBTや、SiGe HBTなどのSi系のHBT、SiGe HBTとBulk CMOSとの複合プロセスであるSiGeBiCMOSなど一般的に用いられているプロセスが用いられたHBTなどが挙げられる。なお、本発明の実施形態に係る第1バイポーラトランジスタTR1が、上記に限られないことは、言うまでもない。また、スイッチング部106は、第1バイポーラトランジスタTR1として、例えば、第1増幅器102や第2増幅器104を構成するバイポーラトランジスタと同種のバイポーラトランジスタを備える。
【0035】
第2バイポーラトランジスタTR2は、コレクタが接地され、エミッタが信号線に接続され、制御電圧Vc1に応じた電流がベースに印加される。
【0036】
ここで、第2バイポーラトランジスタTR2としては、第1バイポーラトランジスタTR1と同様に、例えば、例えば、InGaP HBTやInP HBTなどの化合物系のHBTや、SiGe HBTなどのSi系のHBT、SiGe HBTとBulk CMOSとの複合プロセスであるSiGeBiCMOSなど一般的に用いられているプロセスが用いられたHBTなどが挙げられる。なお、本発明の実施形態に係る第2バイポーラトランジスタTR2が、上記に限られないことは、言うまでもない。また、スイッチング部106は、第2バイポーラトランジスタTR2として、例えば、第1増幅器102や第2増幅器104を構成するバイポーラトランジスタと同種のバイポーラトランジスタを備える。
【0037】
[2]スイッチング部106におけるスイッチング動作の一例
次に、スイッチング部106におけるスイッチング動作の一例について説明する。
【0038】
(1)スイッチング部106がオフのとき:第1増幅器102が動作し、第2増幅器104が非動作であるとき
例えば、制御電圧Vc0の電圧レベルがハイレベル、制御電圧Vc1の電圧レベルがハイレベルのとき、第1バイポーラトランジスタTR1と、第2バイポーラトランジスタTR2とは、オン状態となる。このとき、図1に示すA点では、グランド(接地)に対して短絡状態となる。また、インピーダンス変成器MSTLによって、図1に示す点Bでは開放状態となり、第2増幅器104に係る信号経路は、第1増幅器102に係る信号経路に影響を及ぼさない。
【0039】
ここで、仮に、スイッチング部106が、第2バイポーラトランジスタTR2を備えていない場合には、図1に示す点Aにおいて、高周波信号の正の振幅は、第1バイポーラトランジスタTR1により短絡状態となる。しかしながら、スイッチング部106が、第2バイポーラトランジスタTR2を備えていない場合には、負の振幅に対して第1バイポーラトランジスタTR1は逆方向に電流が流れないため、図1に示す点Aにおいて、高周波信号の負の振幅は、短絡状態とならない。
【0040】
これに対して、本発明の第1の実施形態に係るスイッチング部106は、図1に示すように、第1バイポーラトランジスタTR1に対してエミッタとコレクタとが逆に接続されている第2バイポーラトランジスタTR2を備えているので、負の振幅の電流を流すことが可能である。よって、スイッチング部106は、図1に示す点Aにおいて、高周波信号の短絡状態を保つことができる。
【0041】
図2A図2Bは、本発明の第1の実施形態に係る第2バイポーラトランジスタTR2を備えることによる効果を説明するための説明図である。図2Aは、第1増幅器102−出力端子Pout間における高周波信号電力に対する挿入損失の関係を、第2バイポーラトランジスタTR2を備える場合と備えない場合それぞれについて示している。また、図2Bは、第1増幅器102−出力端子Pout間における高周波信号電力に対するIMD(Inter Modulation Distortion:相互変調歪)の関係を、第2バイポーラトランジスタTR2を備える場合と備えない場合それぞれについて示している。ここで、図2A図2Bに示すAは、第2バイポーラトランジスタTR2を備える場合における特性の一例を示しており、また、図2A図2Bに示すBは、第2バイポーラトランジスタTR2を備えない場合における特性の一例を示している。
【0042】
図2Aに示すように、第2バイポーラトランジスタTR2を備えることによって、スイッチング部106では、第1増幅器102−出力端子Pout間の挿入損失を、第2バイポーラトランジスタTR2を備えない場合よりも小さくすることができる。また、図2Bに示すように、第2バイポーラトランジスタTR2を備えることによって、スイッチング部106では、IMD(相互変調歪)を、第2バイポーラトランジスタTR2を備えない場合よりも小さくすることができる。
【0043】
(2)スイッチング部106がオンのとき:第1増幅器102が非動作であり、第2増幅器104が動作するとき
例えば、制御電圧Vc0の電圧レベルがハイレベル、制御電圧Vc1の電圧レベルがローレベルのとき、第1バイポーラトランジスタTR1と、第2バイポーラトランジスタTR2とは、オフ状態となる。よって、第2増幅器104−出力端子Pout間、すなわち、第2増幅器104に係る信号経路の挿入損失は最小となる。
【0044】
ここで、図1では、第1増幅器102−出力端子Pout間、すなわち、第1増幅器102に係る信号経路上に、本発明の実施形態に係るスイッチング部を備えていないが、これは、第1増幅器102のトランジスタサイズが第2増幅器104よりも大きいことから、第1増幅器102の非動作時のインピーダンスを利用し、図1に示す点Bにおける影響を抑えることが可能であるためである。つまり、図1では省略をしているが、本発明の第1の実施形態に係る増幅装置は、例えば、第1増幅器102に係る信号経路上に、スイッチング部106と同様の構成のスイッチを備えていてもよい。
【0045】
本発明の第1の実施形態に係る増幅器装置100は、図1に示すスイッチング部106を備えることによって、第1増幅器102に係る信号経路、および第2増幅器104に係る信号経路それぞれにおけるアイソレーションを確保し、特性の劣化を防止することができる。
【0046】
また、増幅器装置100は、例えば、第1増幅器102と第2増幅器104とが含むバイポーラトランジスタと、スイッチング部106が備える第1バイポーラトランジスタTR1、および第2バイポーラトランジスタTR2とを、例えばInGaP HBTなどの同種のバイポーラトランジスタで構成することが可能である。つまり、本発明の実施形態に係る第1増幅器102と第2増幅器104とが含むバイポーラトランジスタと、スイッチング部106が備える第1バイポーラトランジスタTR1、および第2バイポーラトランジスタTR2とは、例えば、同一プロセスにより形成されていてもよい。ここで、本発明の実施形態に係る“同一プロセスにより形成される”とは、例えば、第1増幅器102と第2増幅器104とが含むバイポーラトランジスタと、スイッチング部106が備える第1バイポーラトランジスタTR1、および第2バイポーラトランジスタTR2とが、同一の工程で同時期に形成されること、または、異なる工程で別途形成されることをいう。
【0047】
よって、増幅器装置100は、例えば、増幅器とスイッチとを異なる半導体プロセスにより製造される複数の別の半導体チップで構成する場合において生じうる、増幅装置(または増幅モジュール)のサイズの増大や、コストの上昇、アセンブリ時におけるばらつきが大きくなるデメリットが生じる可能性を、低減することができる。また、増幅器装置100では、例えば、InGaP HBTとHEMTとを1チップで構成することが可能な複合プロセスを用いる場合のような、プロセス価格の上昇によるコストの上昇が防止される。
【0048】
したがって、増幅器装置100は、コストの低減を図りつつ、特性の劣化の防止を図ることができる。
【0049】
(第2の実施形態)
本発明の実施形態に係る増幅装置の構成は、図1に示す構成に限られない。図3は、本発明の第2の実施形態に係る増幅装置200の構成の一例を示す説明図である。
【0050】
ここで、増幅装置200と、図1に示す第1の実施形態に係る増幅装置100とを比較すると、増幅装置200は、基本的に図1に示す増幅装置100と同様の構成を有しているが、スイッチング部202の構成が、図1に示すスイッチング部106と異なる。より具体的には、スイッチング部202は、図1に示すスイッチング部106の構成に加え、さらに、第2バイポーラトランジスタTR2のベースに一端が接続され、他端が接地されるキャパシタC1を備えている。
【0051】
キャパシタC1は、スイッチング部202がオン状態(すなわち、第1バイポーラトランジスタTR1、および第2バイポーラトランジスタTR2がオフ状態)である場合において、第2増幅器104−出力端子Pout間の挿入損失の増大と、歪みの劣化とが生じる可能性を低減する役目を果たす。
【0052】
ここで、スイッチング部202がオン状態である場合には、第2バイポーラトランジスタTR2は、オフ状態を維持している必要がある。しかしながら、仮に、スイッチング部202が、キャパシタC1を備えていない場合、例えば入力端子Pinから入力される高周波信号が大電力の信号であるときには、高周波振幅が第2バイポーラトランジスタTR2のベースにリークし、その結果、第2バイポーラトランジスタTR2は、オフ状態を維持できなくなることが起こりうる。
【0053】
これに対して、本発明の第2の実施形態に係るスイッチング部202は、図3に示すように、第2バイポーラトランジスタTR2のベースに一端が接続され、他端が接地されるキャパシタC1を備えることによって、第2バイポーラトランジスタTR2のベースの電位を高周波振幅に対して安定させ、第2バイポーラトランジスタTR2がオフ状態を維持できなくなることを防止する。
【0054】
ここで、キャパシタC1の容量としては、例えば、高周波で短絡となるような容量が挙げられる。より具体的には、キャパシタC1の容量としては、例えば、1[GHz]の周波数に対して2[pF]程度の容量が挙げられる。なお、本発明の実施形態に係るキャパシタC1の容量が、上記に限られないことは、言うまでもない。
【0055】
図4A図4Bは、本発明の第2の実施形態に係るキャパシタC1を備えることによる効果を説明するための説明図である。図4Aは、第2増幅器104−出力端子Pout間の高周波信号電力に対する挿入損失の関係を、キャパシタC1を備える場合と備えない場合それぞれについて示している。また、図4Bは、第2増幅器104−出力端子Pout間の高周波信号電力に対するIMD(相互変調歪)の関係を、キャパシタC1を備える場合と備えない場合それぞれについて示している。ここで、図4A図4Bに示すAは、キャパシタC1を備える場合における特性の一例を示しており、また、図4A図4Bに示すBは、キャパシタC1を備えない場合における特性の一例を示している。
【0056】
図4Aに示すように、キャパシタC1を備えることによって、スイッチング部202では、第2増幅器104−出力端子Pout間の挿入損失を、キャパシタC1を備えない場合よりも小さくすることができる。また、図4Bに示すように、キャパシタC1を備えることによって、スイッチング部202では、IMD(相互変調歪)を、キャパシタC1を備えない場合よりも小さくすることができる。
【0057】
本発明の第2の実施形態に係る増幅装置200は、図3に示す構成をとることによって、図1に示す第1の実施形態に係る増幅装置100よりも、さらに高周波信号の振幅に対する歪みを低減しつつ、スイッチング部202におけるスイッチングを実現することができる。また、増幅装置200は、図3に示す構成をとることによって、高周波信号が大電力の信号である場合においても、歪みを低減することができる。
【0058】
また、増幅装置200は、図1に示す第1の実施形態に係る増幅装置100と基本的に同様の構成を有する。したがって、増幅装置200は、図1に示す増幅装置100と同様に、コストの低減を図りつつ、特性の劣化の防止を図ることができる。
【0059】
(他の実施形態)
本発明の実施形態に係る増幅装置の構成は、図1に示す第1の実施形態に係る構成や、図3に示す第2の実施形態に係る構成に限られない。
【0060】
例えば、図1図3では、2つの出力電力を切り替える構成例を示したが、本発明の実施形態に係る増幅装置は、本発明の実施形態に係るスイッチング部を、例えば各増幅器と出力端子との間に備えることによって、3つ以上の出力電力を切り替える構成をとることも可能である。
【0061】
また、本発明の実施形態に係る増幅装置は、例えば、各増幅器の入力側(例えば、図1図3における点C側)に、本発明の実施形態に係るスイッチング部をさらに備えていてもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態として増幅装置を挙げて説明したが、本発明の実施形態は、かかる形態に限られない。本発明の実施形態は、例えば、携帯電話やスマートフォンなどの通信装置や、PC(Personal Computer)やサーバなどのコンピュータ、テレビ受像機などの表示装置、映像/音楽再生装置(または映像/音楽記録再生装置)、ゲーム機など、高周波信号を処理することが可能な様々な機器に適用することができる。また、本発明の実施形態は、例えば、上記のような機器に組み込むことが可能な、増幅モジュール(または、増幅IC(Integrated Circuit))に適用することもできる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば、本発明の実施形態に係る増幅装置が備える、本発明の実施形態に係るスイッチング部は、図1に示すスイッチング部100、図3に示すスイッチング部200(変形例に係るスイッチも含む)の等価回路で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
100、200 増幅装置
102 第1増幅器
104 第2増幅器
106、202 スイッチング部
TR1 第1バイポーラトランジスタ
TR2 第2バイポーラトランジスタ
C1 キャパシタ
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B