(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714482
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】尾部質量の低い小滴で可変小滴サイズ放出を行う方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/045 20060101AFI20150416BHJP
B41J 2/055 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
B41J2/045
B41J2/055
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-510730(P2011-510730)
(86)(22)【出願日】2009年5月22日
(65)【公表番号】特表2011-523386(P2011-523386A)
(43)【公表日】2011年8月11日
(86)【国際出願番号】US2009045017
(87)【国際公開番号】WO2009143448
(87)【国際公開日】20091126
【審査請求日】2012年5月18日
【審判番号】不服2013-18903(P2013-18903/J1)
【審判請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】61/055,640
(32)【優先日】2008年5月23日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/470,389
(32)【優先日】2009年5月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502122794
【氏名又は名称】フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】ハーゼンバイン ロバート
【合議体】
【審判長】
吉野 公夫
【審判官】
藤本 義仁
【審判官】
江成 克己
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−529348(JP,A)
【文献】
特開昭56−15365(JP,A)
【文献】
特開昭59−133067(JP,A)
【文献】
特開昭63−71355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/045,2/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ及びノズルを有する小滴放出装置を駆動するための方法において、
2つ以上の駆動パルス及び該2つ以上の駆動パルスに続く離脱パルスを有する複数パルス波形を前記アクチュエータに印加するステップと、
前記2つ以上の駆動パルスで流体の小滴を形成するステップと、
サブ小滴の形成を生じることなく、前記離脱パルスを使用して、ノズルに生じる小滴の離脱を加速するステップと、
を備え、2つ以上の前記駆動パルスは前記小滴放出装置の周波数応答に対して最大小滴速度で有効パルス周波数に同調されており、前記離脱パルスは前記サブ小滴を形成させないように前記小滴放出装置の前記周波数応答に対してほぼゼロである最小小滴速度に同調されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記小滴放出装置が、前記小滴を形成するステップの後、小滴を放出するステップを更に備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記離脱パルスのピーク電圧は、第1の駆動パルスのピーク電圧より小さく、更に、このピーク電圧は、第2の駆動パルスのピーク電圧より小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の駆動パルスは、離脱パルスによって質量が減少された大きな小滴を形成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記離脱パルスは、放出ノズルからの小滴の尾部の滑らかな抽出を妨げ、小滴の頭部における質量の割合を当該小滴の尾部の割合と比べて増加させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ポンピングチャンバーから流体の小滴を放出するためのアクチュエータと、
前記アクチュエータに結合された駆動電子部品と、を備えた装置であって、
動作中に、前記駆動電子部品は、第1の駆動パルス及び前記第1の駆動パルスに続く第2の駆動パルスを少なくとも含む2つ以上の駆動パルスと前記2つ以上の駆動パルスに続く離脱パルスとを有する複数パルス波形で前記アクチュエータを駆動して、2つ以上の駆動パルスで流体の小滴を形成すると共に、前記離脱パルスでサブ小滴の形成を生じることなく、前記離脱パルスを使用して、ノズルに形成される小滴の離脱を加速するようになっており、
前記装置は少なくとも40kHzで動作するようになっており、前記第1の駆動パルスのピーク電圧は、前記第2の駆動パルスのピーク電圧より小さく、前記離脱パルスのピーク電圧は、前記第1及び第2の駆動パルスのピーク電圧より小さいことを特徴とする装置。
【請求項7】
前記アクチュエータは、前記駆動電子部品が小滴を形成した後、当該小滴を放出する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
インクジェットモジュールを備えたプリントヘッドであって、
該インクジェットモジュールが、ポンピングチャンバーから流体の小滴を放出するためのアクチュエータと、前記アクチュエータに結合された駆動電子部品と、
を有しており、
動作中に、前記駆動電子部品は、少なくとも2つの駆動パルス及び離脱パルスを有する複数パルス波形で前記アクチュエータを駆動して、流体の小滴を形成すると共に、前記離脱パルスでサブ小滴の形成を生じることなく、前記離脱パルスを使用して、ノズルに形成される小滴の離脱を加速するようになっており、
2つ以上の前記駆動パルスは前記小滴放出装置の周波数応答に対して最大小滴速度で有効パルス周波数に同調されており、前記離脱パルスは前記サブ小滴を形成させないように前記小滴放出装置の前記周波数応答に対してほぼゼロである最小小滴速度に同調されることを特徴とするプリントヘッド。
【請求項9】
前記アクチュエータは、前記駆動電子部品が小滴を形成した後、当該小滴を放出するように構成されている請求項8に記載のプリントヘッド。
【請求項10】
前記インクジェットモジュールは、更に、カーボン本体、強化プレート、空洞プレート、第1フレックスプリント、ノズルプレート、インク充填通路、及び第2フレックスプリントを含む、請求項8に記載のプリントヘッド。
【請求項11】
前記アクチュエータは、前記パルスに応答してポンピングチャンバー内の流体の圧力を変化させるように動作できる、請求項8に記載のプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小滴放出に係り、より詳細には、尾部質量の低い小滴の放出に係る。
【0002】
本出願は、2008年5月23日に出願の同時係争中の米国プロビジョナル特許出願第61/055,640号に係り、本出願は、35USC §119(e)のもとでプロビジョナル出願日の利益を主張するものであり、参考としてここにそのまま援用される。
【背景技術】
【0003】
小滴放出装置は、種々の目的で使用されており、最も一般的には、種々の媒体に映像をプリントするために使用されている。それらは、しばしば、インクジェット又はインクジェットプリンタと称される。滴下オンデマンド(drop-on-demand)の小滴放出装置が、その融通性及び経済性のために、多くの用途で使用されている。滴下オンデマンドの装置は、特定の信号、通常は、単一パルス又は複数パルスを含む電気的波形に応答して、1つ以上の小滴を放出する。複数パルス波形の異なる部分を選択的に作動して、小滴を発生する。1つ以上の駆動パルスが小滴を形成し、1つ以上の離脱パルスが小滴放出装置のノズルからの小滴の離脱を開始する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小滴放出装置は、典型的に、流体供給源からノズル経路への流体経路を含む。ノズル経路は、小滴が放出されるノズル開口で終わる。小滴の放出は、流体経路の流体をアクチュエータで加圧することにより制御され、アクチュエータは、例えば、圧電偏向器、熱バブルジェット発生器又は静電偏向要素である。典型的なプリントヘッドは、対応するノズル開口及び関連アクチュエータをもつ流体経路のアレイを有し、各ノズル開口からの小滴の放出は、独立して制御することができる。滴下オンデマンドプリントヘッドでは、各アクチュエータは、プリントヘッド及び基板が互いに移動されるときに特定のターゲットピクセル位置に小滴を放出するように選択的に作動される。小滴の質量は、小滴の頭部及び尾部に分布される。小滴の「尾部」とは、尾部の離脱が生じるまで、小滴の頭部即ち小滴の先導部をノズルに接続している流体のフィラメントを指す。小滴の尾部は、多くの場合、小滴の先導部よりゆっくり進行する。ある場合には、小滴の尾部は、小滴の主本体と同じ位置に到着しない衛星又は個別の小滴を形成する。従って、小滴の尾部は、放出器の全体的性能を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複数パルス波形で可変サイズ小滴を発生するように小滴放出装置を駆動するための方法及び装置がここに説明される。一実施形態では、アクチュエータを有する小滴放出装置を駆動するための方法は、少なくとも1つの駆動パルス及び少なくとも1つの離脱パルスを有する複数パルス波形をアクチュエータに印加することを含む。更に、この方法は、少なくとも1つの駆動パルスで流体の小滴を形成することも含む。更に、この方法は、少なくとも1つの離脱パルスで小滴の離脱を加速することも含む。更に、この方法は、小滴放出装置が、複数パルス波形のパルスに応答して流体の小滴を放出するようにさせることも含む。離脱パルスは、小滴の尾部質量を減少するために少なくとも1つの駆動パルスにより形成された小滴の離脱を生じさせる。
【0006】
本発明は、以下、添付図面を参照して一例として説明するが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による剪断モード圧電インクジェットプリントヘッドの分解図である。
【
図2】一実施形態によるインクジェットモジュールの断面側面図である。
【
図3】一実施形態によるインクジェットモジュールの斜視図で、ポンピングチャンバー及び圧電素子に対する電極の位置を示す図である。
【
図4A】
図4Bに示すインクジェットモジュールの別の実施形態の分解図である。
【
図4B】インクジェットモジュールの別の実施形態を示す。
【
図5】別の実施形態による剪断モード圧電インクジェットプリントヘッドを示す。
【
図6】一実施形態による空洞プレートを示すインクジェットモジュールの斜視図である。
【
図7】尾部質量の低い小滴を発生するように複数パルス波形で小滴放出装置を駆動するための一実施形態のフローチャートである。
【
図8】一実施形態による2つの駆動パルス及び1つの離脱パルスをもつ複数パルス波形を示す。
【
図9】一実施形態による小滴速度・対・周波数応答のグラフである。
【
図10】一実施形態による小滴頭部質量割合・対・離脱パルス電圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
複数パルス波形で可変サイズ小滴を発生するように小滴放出装置を駆動するための方法及び装置について、以下に説明する。一実施形態では、アクチュエータを有する小滴放出装置を駆動するための方法は、少なくとも1つの駆動パルス及び少なくとも1つの離脱パルスを有する複数パルス波形をアクチュエータに印加することを含む。更に、この方法は、少なくとも1つの駆動パルスで流体の小滴を形成することも含む。更に、この方法は、少なくとも1つの離脱パルスで小滴の離脱を加速することも含む。離脱パルスは、サブ小滴又は衛星を形成せずに小滴の離脱を加速する。というのは、小滴放出装置のジェット速度応答(例えば、放出小滴速度)が離脱パルスに対してほぼゼロだからである。更に、この方法は、小滴放出装置が、複数パルス波形のパルスに応答して小滴を放出するようにさせることも含む。離脱パルスは、小滴の尾部質量を減少し且つ潜在的に最小にするために少なくとも1つの駆動パルスにより形成された小滴の離脱を生じさせる。これは、プリンティング用途に対して映像の質及び製品の質を改善する。
【0009】
ある実施形態では、小滴放出装置は、複数パルス波形のパルスに応答して、又は付加的な複数パルス波形のパルスに応答して、流体の付加的な小滴を放出する。
【0010】
図1は、一実施形態による剪断モード圧電インクジェットプリントヘッドの分解図である。
図1を参照すれば、圧電インクジェットヘッド2は、複数のモジュール4、6を備え、これらはカラー素子10へとアッセンブルされ、これには、マニホールドプレート12及びオリフィスプレート14が取り付けられる。圧電インクジェットヘッド2は、種々の形式のプリントヘッドの一例である。一実施形態によれば、インクは、カラー10を通してジェットモジュールへ導入され、これらモジュールは、複数パルス波形で作動されて、種々の小滴サイズ(例えば、30ナノグラム、50ナノグラム、80ナノグラム)のインク小滴をオリフィスプレート14のオリフィス16から噴射させる。インクジェットモジュール4、6の各々は、焼結カーボン又はセラミックのような材料の薄い長方形ブロックで形成された本体20を含む。本体の両側には一連のウェル22が加工され、インクポンピングチャンバーを形成する。これもまた本体に加工されたインク充填通路26を通してインクが導入される。
【0011】
本体の両面は、柔軟なポリマーフィルム30及び30’で覆われ、これは、本体のポンピングチャンバーの上に位置されるよう構成された一連の電気接点を含む。電気接点は、リードに接続され、次いで、リードは、ドライバ集積回路33及び33’を含むフレックスプリント32及び32’に接続することができる。フィルム30及び30’は、フレックスプリントでもよい。各フレックスプリントフィルムは、エポキシの薄い層で本体20にシールされる。エポキシ層は、機械的結合を与えるようにジェット本体の表面の粗さを埋めるに足るほど薄く、しかも、エポキシの僅かな量だけが結合線からポンピングチャンバーへ圧搾されるに足るほど薄いものである。
【0012】
単一モノリシック圧電トランスジューサ(PZT)部材である各々の圧電素子34及び34’は、フレックスプリント30及び30’の上に位置される。各圧電素子34及び34’は、その圧電素子の表面に真空蒸着された導電性金属を化学的にエッチング除去することにより形成された電極を有する。圧電素子上の電極は、ポンピングチャンバーに対応する位置にある。又、圧電素子上の電極は、フレックスプリント30及び30’上の対応接点に電気的に係合する。その結果、アクチュエータが作用する圧電素子の側で圧電素子の各々に電気的接触がなされる。圧電素子は、エポキシの薄い層によりフレックスプリントに固定される。
【0013】
図2は、一実施形態によるインクジェットモジュールの断面側面図である。
図2を参照すれば、圧電素子34及び34’は、加工されたインクポンピングチャンバー22を含む本体の一部分だけをカバーするサイズとされる。インク充填通路26を含む本体の一部分は、圧電素子によりカバーされない。
【0014】
インク充填通路26は、モジュール本体の外部に取り付けられるフレックスプリントの一部分31及び31’によりシールされる。フレックスプリントは、インク充填通路の上に非堅牢カバーを形成し(及びそれをシールし)、大気へ露出される流体の自由面を近似する。
【0015】
クロストークは、ジェットとジェットとの間の望ましからぬ相互作用である。1つ以上のジェットの発射は、ジェット速度又は噴射小滴量を変化させることにより他のジェットの性能に悪影響を及ぼすことがある。これは、ジェットとジェットとの間に望ましからぬエネルギーが伝達されるときに発生する。
【0016】
通常の動作中、圧電素子は、先ず、ポンピングチャンバーの容積を増加する仕方で作動され、次いで、ある期間の後に、圧電素子は、不作動にされて、元の位置へ戻る。ポンピングチャンバーの容積を増加することで、負の圧力波が発射される。この負の圧力は、ポンピングチャンバーにおいてスタートし、ポンピングチャンバーの両端に向かって(矢印33及び33’で示唆されたようにオリフィス及びインク充填通路に向かって)進行する。負の波がポンピングチャンバーの端に到着し、(近似自由面と連通する)インク充填通路の大きなエリアに遭遇すると、負の波は、正の波としてポンピングチャンバーへ反射して戻され、オリフィスに向かって進行する。又、圧電素子がその元の位置へ戻っても、正の波が生じる。圧電素子を不作動にするタイミングは、その正の波及び反射した正の波が、オリフィス到着時に、加算的となるようなものである。
【0017】
図3は、一実施形態によるインクジェットモジュールの斜視図で、ポンピングチャンバー及び圧電素子に対する電極の位置を示す図である。
図3を参照すれば、ポンピングチャンバー及び圧電素子に対するフレックスプリント30上の電極パターン50が示されている。圧電素子は、フレックスプリントと接触状態になる圧電素子34の側に電極40を有している。各電極40は、ジェット本体のポンピングチャンバー45に対応する配置及びサイズとされる。各電極40は、細長い領域42を有し、その長さ及び巾は、一般的に、ポンピングチャンバーに対応するが、電極40の周囲とポンピングチャンバーの側部及び端との間にギャップ43が存在するように、より短く且つより狭いものである。ポンピングチャンバーを中心とする電極領域42は、駆動電極である。圧電素子の櫛状の第2電極52は、一般的に、ポンピングチャンバーの外側のエリアに対応する。この電極52は、共通(接地)電極である。
【0018】
フレックスプリントは、圧電素子と接触状態になる電極50をフレックスプリントの側部51に有する。フレックスプリントの電極及び圧電素子の電極は、フレックスプリントと圧電素子を良好に電気的接触させ且つ容易に整列させるに充分なほど重畳する。フレックスプリントの電極は、駆動回路を含むフレックスプリント32へ半田接続できるように圧電素子を越えて延びる(
図4において垂直方向に)。2つのフレックスプリント30及び32を有する必要はない。1つのフレックスプリントを使用することができる。
【0019】
図4Aは、
図4Bに示すインクジェットモジュールの別の実施形態の分解図である。この実施形態では、ジェット本体は、複数の部品で構成される。ジェット本体80のフレームは、焼結カーボンであり、インク充填通路を含む。ジェット本体の各側に取り付けられるのは、強化プレート82及び82’であり、これらは、アッセンブリを強化するように設計された薄い金属プレートである。強化プレートに取り付けられるのは、空洞プレート84及び84’であり、これらは、ポンピングチャンバーが化学的に加工された金属プレートである。空洞プレートに取り付けられるのは、フレックスプリント30及び30’であり、これらフレックスプリントには、圧電素子34及び34’が取り付けられる。これらの素子は、全て、エポキシで一緒に接合される。駆動回路32及び32’を含むフレックスプリントは、半田付けプロセスにより取り付けられる。
【0020】
図5は、別の実施形態による剪断モード圧電インクジェットプリントヘッドを示す。
図5に示すインクジェットプリントヘッドは、
図1に示したプリントヘッドと同様である。しかしながら、
図5のプリントヘッドは、
図1の二重インクジェットモジュール4及び6とは対照的に、単一インクジェットモジュール210を有する。ある実施形態では、インクジェットモジュール210は、次のコンポーネント、即ちカーボン本体220、強化プレート250、空洞プレート240、フレックスプリント230、PZT部材234、ノズルプレート260、インク充填通路270、フレックスプリント232、及び駆動電子回路233を含む。これらのコンポーネントは、
図1ないし4に関連して上述したコンポーネントと同様の機能を有する。
【0021】
一実施形態による空洞プレートが
図6に詳細に示されている。この空洞プレート240は、穴290と、インク充填通路270と、PZT234により歪められ又は作動されるポンピングチャンバー280とを備えている。小滴放出装置と称されるインクジェットモジュール210は、
図5及び6に示すポンピングチャンバーを備えている。PZT部材234(例えば、アクチュエータ)は、駆動電子装置233に印加される駆動パルスに応答してポンピングチャンバー内の流体の圧力を変化させるように構成される。一実施形態では、PZT部材234は、流体の小滴をポンピングチャンバーから放出させる。駆動電子装置233は、PZT部材234に結合される。インクジェットモジュール210の動作中に、駆動電子装置233は、少なくとも1つの駆動パルス及び少なくとも1つの離脱パルスを有する複数パルス波形でPZT部材234を駆動する。少なくとも1つの駆動パルスは、流体の小滴を形成する。少なくとも1つの離脱パルスは、小滴の離脱を加速する。少なくとも1つの離脱パルスは、サブ小滴又は衛星を形成せずに小滴の離脱を加速する。というのは、小滴放出装置のジェット速度応答(例えば、小滴放出速度)がほぼゼロだからである。離脱パルスは、小滴放出装置のノズルへ進行し、既に形成中の小滴の離脱を加速する。少なくとも1つの離脱パルスは、少なくとも1つの駆動パルスにより形成された小滴の離脱を生じさせ、小滴の尾部質量を減少させる。
【0022】
図7は、一実施形態により尾部質量の低い小滴を発生するように複数パルス波形で小滴放出装置を駆動するためのプロセスのフローチャートである。アクチュエータを有する小滴放出装置を駆動するためのプロセスは、処理ブロック702において、少なくとも1つの駆動パルス及び少なくとも1つの離脱パルスを有する複数パルス波形をアクチュエータに印加することを含む。次いで、このプロセスは、処理ブロック704において、少なくとも1つの駆動パルスで流体の小滴を形成することを含む。次いで、このプロセスは、処理ブロック706において、少なくとも1つの離脱パルスで小滴の離脱を加速することを含む。離脱パルスは、サブ小滴又は衛星を形成せずに小滴の離脱を加速する。というのは、小滴放出装置の放出小滴速度により特徴付けられるジェット速度応答が、少なくとも1つの離脱パルスに対してほぼゼロだからである。又、このプロセスは、処理ブロック708において、小滴放出装置が、複数パルス波形のパルスに応答して小滴を放出するようにさせることも含む。離脱パルスは、少なくとも1つの駆動パルスにより形成された小滴の離脱を生じさせ、小滴の尾部質量を減少させる。
【0023】
一実施形態では、小滴放出装置は、複数パルス波形のパルスに応答して、又は付加的な複数パルス波形のパルスに応答して、流体の付加的な小滴を放出する。波形は、一連の区分が一緒に連結されたものでもよい。各区分は、固定時間周期(例えば、1から3マイクロ秒)及びそれに関連した量のデータを含むある数のサンプルを含んでもよい。サンプルの時間周期は、駆動電子装置の制御ロジックが次の波形区分に対して各ジェットノズルをイネーブル又はディスエイブルするに充分な長さである。波形データは、一連のアドレス、電圧、及びフラグビットサンプルとしてテーブルに記憶され、ソフトウェアでアクセスすることができる。波形は、単一サイズの小滴及び種々の異なるサイズの小滴を発生するに必要なデータを与える。
【0024】
複雑な複数パルス波形を使用して、所与のサイズの小滴放出器に対してより大きな小滴を発生することができる。この方法で大きな小滴を発生することから示される利益の1つは、小滴が小滴質量の非常に大きな割合を小滴の頭部に有する傾向があることである。これは、複雑な波形を使用して小滴を発生する放出器に対してより小さなノズルのサイズによって尾部質量が制御されることに一部分起因する。別の理由は、小滴形成プロセスが、小滴の発生に使用されるパルス(例えば、離脱パルス)のシーケンスによって中断されることである。これは、ノズルからの尾部の滑らかな分離に干渉し、尾部の質量を減少させる。
【0025】
できるだけ多くの質量を小滴の頭部に置き、尾部には置かないことが望まれる。これは、映像の質及び製品の質を改善する。小滴の尾部は、複数パルス小滴発射により減少することができる。というのは、流体の次々の量の影響により小滴形成の特性が変化するからである。複数パルス波形の後期のパルスは、複数パルス波形の早期パルスにより駆動されてノズルの出口にある流体に向かって流体を駆動し、それらの異なる速度のために流体量を混合及び拡散させる。この混合及び拡散は、流体の広いフィラメントが小滴頭部の全直径において繋がってノズルへ戻るのを防止することができる。
図8に示す複数パルス波形は、単一パルス波形においてしばしば観察される円錐形の尾部ではなく、非常に細いフィラメントをもつか又は尾部をもたない小滴を発生する。
【0026】
図8は、一実施形態による2つの駆動パルス及び1つの離脱(break off)パルスをもつ複数パルス波形を示す。動作中に、各インクジェットは、複数パルス波形に応答して単一小滴を噴射する。複数パルス波形の一例が
図8に示されている。この例では、複数パルス波形800は、3つのパルスを有する。各複数パルス波形は、典型的に、噴射期間の整数倍に対応する期間(即ち、噴射周波数に対応する期間)だけその後の波形から分離される。各パルスは、ポンピング要素の容積が増加するときに対応する「充填」傾斜と、ポンピング要素の容積が減少するときに対応する「発射」傾斜(充填傾斜と逆の勾配)とを有するものとして特徴付けされる。複数パルス波形800では、一連の充填及び発射傾斜がある。典型的に、ポンピング要素の容積が膨張及び収縮すると、ノズルから流体を駆動する傾向の圧力変化をポンピングチャンバーに生成する。
【0027】
ある実施形態では、複数パルス波形800は、小滴放出装置が、
図8に示すパルスに応答して流体の小滴を放出させるために発射される駆動パルス810、820及び離脱パルス830を有する。一実施形態では、駆動パルス810は、ピーク電圧が約95ボルトであり、駆動パルス820は、ピーク電圧が約125ボルトであり、そして離脱パルス830は、ピーク電圧が約60ボルトである。複数パルス波形800において2つの駆動パルスは1つの離脱パルスの前に生じる。他の実施形態では、付加的な駆動パルス、又はより少数の駆動パルス(例えば、単一駆動パルス)が、1つ以上の離脱パルスの前に生じる。一実施形態では、離脱パルス830のピーク電圧は、第1駆動パルス810のピーク電圧より低く、このピーク電圧は、第2の駆動パルス820のピーク電圧より低い。小滴は、尾部質量減少小滴である40ナノグラム(ng)より低い質量を有してもよい。駆動パルス810及び820は、離脱パルス830とで質量が減少した大きな小滴を形成する。ある実施形態では、他の波形構成が考えられる。第1駆動パルスは、第2駆動パルスより高いピーク電圧を有してもよい。駆動パルス(例えば、
図8のパルス810及び820)間の電圧最小値は、ゼロより大きくてもよい。一実施形態では、3つ以上の駆動パルスを使用して、小滴を形成することもできる。ある用途では、1つ以上の駆動パルスが負でもよく、又は離脱パルスが負でもよい。
【0028】
波形800の1つの効果は、小滴の尾部質量が実質的に減少されることである。尾部質量が減少された小滴は、流体のより多くをターゲット上に配し、全体的なシステム性能を改善する。一実施形態では、波形800は、特定のプリントヘッド及びインク形式に対して公称30ngの小滴を発生する放射器から30ngの小滴を発生する。波形800は、先ず、パルス810及び820で40ないし50ngの小滴を形成する。次いで、尾部の早期離脱が離脱パルス830で開始される。一実施形態では、離脱パルス830は、駆動パルス820の約4ないし8マイクロ秒後に生じる。離脱パルス830は、ノズルから尾部が滑らかに抽出されるのを防止し、全体的な小滴質量を30ngへ減少し、そして小滴の頭部における質量の割合を増加させる。他の実施形態では、2つ以上の離脱パルスを使用して、更に大きな効果を得ることもできる。
【0029】
一実施形態では、離脱パルスを使用して、所与の速度で発射する小滴質量を減少することができる。例えば、小滴装置は、公称30ngの小滴質量で所与の速度(例えば、8m/s)において小滴を発射する。離脱パルスがないと所与の速度に対して公称30ngの小滴質量から得られる変化はほとんどない。離脱パルスがあると、小滴速度を維持できると共に、小滴質量を減少することができる(例えば、30ng未満に)。
【0030】
一実施形態では、小滴放出装置は、40kHzまでの又はそれより高い周波数のような高周波数で動作する。一実施形態では、小滴放出装置は、100kHzより高い周波数で動作する。
図9は、この実施形態による小滴速度・対・周波数応答のグラフである。複数パルス波形のパルスとパルスとの間隔は、波形の周波数を有効に定義するが、この間隔は必ずしも一定でなくてよい。有効パルス周波数は、次のように計算することができる。
周波数=1/時間
但し、時間は、パルスとパルスとの間の時間である。
【0031】
このグラフは、小滴放出装置において有効に働くパルス周波数には限界があることを示している。一実施形態では、駆動パルス810及び820は、小滴放出装置の周波数応答においてほぼ最終最大小滴速度に同調される。これは、全体的な波形時間を短く保持するために必要であり、これは、高周波動作のための要件である。
【0032】
離脱パルス830は、小滴放出装置の周波数応答においてほぼ最小小滴速度に同調される。この周波数(図示せず)は、この実施形態の場合に、ほぼ160kHzである。この周波数では、小滴速度により特徴付けられるジェット速度応答がほぼゼロである。このため、離脱パルス830は、サブ小滴又は衛星(satellite)小滴を放出する傾向にない。むしろ、離脱パルス830は、放出ノズルへと進行し、既に形成中の小滴の離脱を加速させる。別の実施形態では、小滴放出装置の周波数応答は、駆動パルスの場合よりも離脱パルスの場合の方が低い。
【0033】
小滴の頭部における小滴質量の量は、離脱パルスのピーク電圧、駆動パルスから離脱パルスまでの遅延、離脱パルスの数、及び離脱パルスのパルス巾のような種々のファクタに基づく。単一パルス波形は、典型的に、小滴頭部質量割合が60%であり、残りの40%の質量が尾部にある。
【0034】
複数パルス波形は、典型的に、頭部質量割合が80%である。上述したように、複数パルス波形は、頭部質量割合が高い。というのは、小滴形成プロセスが、小滴の形成に使用されるパルスのシーケンスによって中断されるからである。これは、ノズルからの小滴の尾部の滑らかな分離に干渉し、小滴の尾部における質量を減少させる。
【0035】
図10は、一実施形態による小滴頭部質量割合・対・離脱パルス電圧のグラフである。離脱パルスをもたない複数パルス波形では、頭部質量割合が約80%である。
図10は、小滴の頭部における小滴質量の量が、離脱パルスのピーク電圧に基づくものであり、離脱パルスのピーク電圧が上昇するにつれて小滴の頭部における小滴質量の量が増加することを示している。小滴は、ゼロより大きな離脱パルス電圧に対して小滴質量の80%より多くを小滴の頭部に有する。一実施形態では、最大波形電圧の約95%である電圧離脱パルスでは、頭部質量割合が約95%となり、それに対応する尾部質量割合が約5%となる。これは、離脱パルスを使用せず尾部質量割合が20%である場合に比して、尾部及び衛星質量の75%の減少を表す。
【0036】
別の実施形態では、離脱パルス電圧が最大波形電圧の30%ないし50%であり、小滴頭部割合は、小滴形成、小滴速度及び合体特性を維持しながら、離脱パルスをもたないものに比して、増加される。上述したように、小滴放出装置は、質量、重量及び/又は体積により定量化されて、特定の速度で発射される異なるサイズの小滴を放出し、各小滴が、発射パルスのタイミングに比して同じ相対的タイミングでターゲットに到着するようにする。
【0037】
以上の説明は、例示に過ぎず、これに限定されないことを理解されたい。当業者であれば、以上の説明を読んで理解したときには、他の多数の実施形態が明らかであろう。それ故、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその等効物の全範囲を参照して決定される。
【符号の説明】
【0038】
2:圧電インクジェットヘッド
4、6:モジュール
10:カラー素子
12:マニホールドプレート
14:オリフィスプレート
16:オリフィス
20:本体
22:ウェル
26:インク充填通路
30:ポリマーフィルム
32、32’:フレックスプリント
33、33’:ドライバ集積回路
34:圧電素子
40:電極
42:駆動電極
43:ギャップ
50:電極パターン
52:第2電極
80:ジェット本体
82:強化プレート
84:空洞プレート
210:単一インクジェットモジュール
220:カーボン本体
230:フレックスプリント
234:PZT
240:空洞プレート
250:強化プレート
260:ノズルプレート
270:インク充填通路
280:ポンピングチャンバー
290:穴