特許第5714508号(P5714508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714508
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】電気外科手術中の神経監視
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20150416BHJP
   A61B 5/0488 20060101ALI20150416BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   A61B17/39
   A61B5/04 330
   A61N1/36
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-548071(P2011-548071)
(86)(22)【出願日】2010年1月20日
(65)【公表番号】特表2012-516205(P2012-516205A)
(43)【公表日】2012年7月19日
(86)【国際出願番号】US2010021504
(87)【国際公開番号】WO2010090835
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年1月9日
(31)【優先権主張番号】12/363,154
(32)【優先日】2009年1月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504101304
【氏名又は名称】メドトロニック・ゾーメド・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100080137
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100119426
【弁理士】
【氏名又は名称】小見山 泰明
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,ジョン・エム
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,ジョン・エイ
(72)【発明者】
【氏名】メンデス,アドノリン・エル
(72)【発明者】
【氏名】マクファーリン,ケヴィン・エル
(72)【発明者】
【氏名】ハッカー,デヴィッド・シー
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06334068(US,B1)
【文献】 特表2005−507700(JP,A)
【文献】 特開2000−316855(JP,A)
【文献】 特表2003−511123(JP,A)
【文献】 特表2006−507865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61B 5/0488
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気手術器の動作中に患者からの電気信号および/または手術用金属間アーチファクトを感知するようになっている、神経統合監視システム用の信号処理モジュールにおいて、
複数の感知プローブに電気的に結合され、当該複数の感知プローブの各々から複数の入力信号を同時に受信するようになっている入力モジュールであって、当該複数の入力信号の第1入力信号が患者の筋電図(EMG)活動を示し、当該複数の入力信号の第2入力信号が金属間接触のアーチファクトを示す、入力モジュールと、
前記入力モジュールに電気的に結合され、前記第1入力信号の条件を検出して、前記患者から受信するEMG活動のレベルに応じて前記条件を分類するようになっている、EMG検出モジュールと、
前記第2入力信号の前記アーチファクトを検出するようになっているアーチファクト検出モジュールと、
前記EMG検出モジュール及び前記アーチファクト検出モジュールに結合され、前記第1入力信号における前記検出される条件を示す第1出力信号と前記アーチファクトを示す第2出力信号とを同時に提供するようになっている、出力モジュールと、を含む、信号処理モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の信号処理モジュールにおいて、
前記アーチファクトは、前記第2入力信号における電力の推定値に基づいて検出される、信号処理モジュール。
【請求項3】
請求項1記載の信号処理モジュールにおいて、
前記アーチファクトは、前記第2入力信号の周波数成分の推定値に基づいて検出される、信号処理モジュール。
【請求項4】
請求項1記載の信号処理モジュールにおいて、
前記アーチファクト検出モジュールは、前記第2入力信号を選択的に抑制するようになっている、信号処理モジュール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記第2入力信号における、閾値よりも低い周波数を有するノイズを抑制するようになっている直流フィルタモジュールをさらに含む、信号処理モジュール。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記複数の入力信号において検出されるEMG活動のレベルを閾値と比較し、高レベルのEMG活動の存在の判断の結果を前記出力モジュールに提供するようになっている、信号処理モジュール。
【請求項7】
請求項6記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記複数の入力信号におけるエネルギーのレベルを推定して、前記EMG活動がエネルギーレベル閾値よりも大きいか否かを判断する、信号処理モジュール。
【請求項8】
請求項7記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記複数の入力信号の自己共分散または自己相関を計算して、EMG活動のレベルを検出する、信号処理モジュール。
【請求項9】
請求項7記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記複数の入力信号の多数のサンプルを使用して、当該複数の入力信号の自己共分散または自己相関を計算する、信号処理モジュール。
【請求項10】
請求項8記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記複数の入力信号の複数のサンプルを使用して、当該複数の入力信号のウェーブレットまたはシグモイド分類関数を使用する、信号処理モジュール。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記電気手術器によって形成されるノイズをフィルタリングし、患者におけるEMG活動を示す信号を前記出力モジュールに提供するようになっている、EMG復元モジュールをさらに含む、信号処理モジュール。
【請求項12】
請求項11記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG復元モジュールは、参照プローブを使用して、前記電気手術器によって形成される前記ノイズを推定する、信号処理モジュール。
【請求項13】
電気手術器の動作中に使用する神経統合監視システムにおいて、
患者のEMG活動および前記電気手術器の動作を示す複数の入力信号を生成するようになっている複数の感知プローブと、
請求項1から12のいずれか1項に記載の信号処理モジュールと、を含む、神経統合監視システム。
【請求項14】
請求項13記載の神経統合監視システムにおいて、
前記プローブは、前記電気手術器によって生成されるノイズ信号の基本周波数をフィルタリングするフィルタを含む、神経統合監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、神経監視システムに関する。より具体的には、電気外科手術中または金属製手術器具からの電気的アーチファクトの存在下における神経活動の監視に関する。
【背景技術】
【0002】
電気生理学的監視は、外科医が、よく見えない手術野内の神経の位置を特定し、手術中にリアルタイムで神経機能を保存保護および評価するのを支援する。この目的を達成するために、一般的には神経統合監視が採用され、筋電図(EMG)活動の監視が行われている。神経統合監視の間、EMG活動を感知するために、感知または記録電極は適切な組織(例えば対象の神経、末梢神経、脊髄、脳幹などによって刺激または制御される頭蓋筋)に結合される。例えば電気的刺激または機械的刺激などの刺激は、組織の興奮を引き起こすことができる。電気的に刺激している間、刺激プローブは、対象の神経が位置している可能性がある領域の付近に、刺激信号を印加する。刺激プローブが神経に接触しているかまたは適当にその付近にある場合、印加された刺激信号は、神経を通じて伝達されて、刺激される組織を興奮させる。機械的刺激では、適切な組織への直接的な物理的接触が、組織の興奮を引き起こすことができる。いずれにせよ、関連組織の興奮が、記録電極(またはその他の感知装置)で感知される電気的インパルスを発生させる。記録装置は、EMG活動の判断に関連する解釈のために、感知される電気的インパルス情報を外科医に伝える。例えば、EMG活動は、モニタ上に表示されること、および/または聴覚的に提示されることが可能である。
【0003】
神経統合監視は、神経組織、筋肉組織、または神経電位の記録を包含するかまたはこれらに関連する、多数の異なる外科手術または評価にとって有用である。例えば、様々な頭部および頸部外科手術は、頭蓋および末梢運動神経の位置を特定して識別する必要がある。場合により、これらの外科手術を行うために、電気手術器が使用される。現在の電気手術器は、患者に結合された接地電極を経由して完結される電気回路中の1つの電極として機能する導電性チップまたは針を含む。組織の切開は、電気エネルギー源を(最も一般的には、高周波発生器からチップに)印加することによって、実現される。チップを組織に適用すると電圧勾配が形成され、それによって接触点に電流の流れおよびこれに関連する発熱が引き起こされる。十分に高レベルの電気エネルギーを用いると、発生した熱は、組織を切除するのに、および、有利なことに、切断された血管を同時に焼勺するのに、十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気手術器によって発生した電気エネルギーのレベルのために、神経統合監視のためのシステムは、電気外科手術中に使用されるときに、大量の電気的干渉を受ける。電気的干渉は、EMG活動の誤信号(例えば、誤検出)を生成するほか、神経統合監視システムに顕著な量のノイズを導入する可能性がある。その結果、現在の技術は、電気外科手術中に神経統合監視システムの全てのチャネルをミュートするために、プローブの使用を伴う。その結果、電気手術器の動作中、EMG活動の監視が中断する。外科医が電気手術器で神経を切断するのを防止するために、外科医は短時間で切断し、その後神経統合監視が復元できるように切断を止める。EMG活動が検出されない場合には、神経の切断を防止するように、神経統合監視を復元するために断続的に休止しながら、外科医はさらに短時間切断することができる。この過程は、外科医が電気外科手術を完了するまで繰り返される。電気外科手術中にEMG活動の監視を可能にしなければ、電気外科手術は面倒で時間がかかるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に示される概念は、信号処理モジュール、手術方法、および神経統合監視システムに関する。信号処理モジュールの入力モジュールは、神経統合監視システムの感知プローブと電気的に結合されている。プローブは、電気手術器の動作中に、患者からの電気信号を感知する。入力モジュールは、プローブから入力信号を受信する。EMG検出モジュールは、入力モジュールに結合されており、入力信号の条件を検出するようになっている。条件は、筋電図活動のレベルに応じて分類される。EMG検出モジュールに結合された出力モジュールは、検出された条件の兆候を提供する。
【0006】
アーチファクト検出モジュールもまた、入力信号のアーチファクト条件を検出するために採用することができる。アーチファクト検出モジュールは、アーチファクトを検出するために入力信号の電力を推定することができる。これに加えて、直流フィルタモジュールおよびEMG復元モジュールなど、その他のモジュールが含まれることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1神経統合監視システムにおいて信号を処理する方法のフロー図である。
図2神経統合監視システムに入力を提供する1つ以上のチャネルにおいてアーチファクトを検出する方法のフロー図である。
図3神経統合監視システムにデータを提供する1つ以上のチャネルから低周波ノイズ成分をフィルタリングする方法のフロー図である。
図4神経統合監視システムに入力を提供する1つ以上のチャネルからEMG活動を検出する方法のフロー図である。
図5神経統合監視システムにデータを提供する1つ以上のチャネルに対するEMG信号復元方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
神経統合監視システムおよび電気手術器(ESU)を含む手術環境を以下に説明する。一般的な意味において、システムは、人体構造が持つ実質的にあらゆる神経/筋肉の組合せについての神経統合監視、および神経電位の記録を支援ならびに実行するように構成されている。システムは制御装置を含み、これは広範な形態を想定することができ、一実施形態においてはモニタを有するコンソール、および患者インターフェイスモジュールを含む。電気手術器は、手術器具に結合されたESU発電機を含む。ESU発電機は、患者の組織を切断またはその他の操作を行うために、手術器具に送られる電流を発生させる。
【0009】
システムは刺激プローブアセンブリ(これは電気的刺激のために使用することができる)および1つ以上の感知プローブ(これは電極などどんな種類の感知装置であってもよい)を含む。制御装置は、プローブアセンブリの動作を容易にするほか、使用中に感知プローブおよびその他のシステムの要素によって生成される全ての情報を処理する。プローブアセンブリおよび制御装置は、プローブアセンブリに(制御装置から離れて)設けられるアクチュエータを通じてプローブアセンブリに伝達される刺激エネルギー、およびしたがってこれによって伝達される刺激レベルの制御および変化を許容するようになっている。この目的を達成するために、プローブアセンブリおよび制御装置は、プローブアセンブリのアクチュエータの操作を通じて、個々のステップが順次的な一連のステップにわたる刺激エネルギーの連続的な変化(例えば増加または減少)を許容するようになっている。さらに、制御装置は、伝達される刺激によってもたらされる、感知プローブから受信する情報(例えば、患者の反応)を処理する。
【0010】
感知プローブを使用して、システムは、プローブアセンブリおよび/または組織の物理的操作によって伝達される電流エネルギーに応えて記録されるEMG活動に基づいて、監視を実行する。一実施形態では、コンソールおよび患者インターフェイスモジュールは、ケーブルによって通信可能に結合される別々の構成要素として提供される。あるいは、無線接続が採用されることも可能である。さらに、コンソールおよび患者インターフェイスモジュールは、単一の装置として提供されることも可能である。しかしながら、基本的な意味において、患者インターフェイスモジュールは、刺激/感覚的構成要素(プローブアセンブリおよび感知プローブなど)の容易な接続を推進し、入力および出力電気信号を管理する働きをする。そして、コンソールは、入力信号(例えば、感知プローブによって感知されたインパルス)を解釈し、ユーザが求める情報を表示し、信号の聴覚的フィードバックを提供し、ユーザインターフェイスを(例えばタッチパネルを含むことによってなど)提示し、そして、プローブアセンブリからの(患者インターフェイスモジュールへの接続を経由する)制御信号に従って、プローブアセンブリに刺激エネルギーを伝達するほか、必要に応じてその他の役割も果たす。
【0011】
先に説明したように、患者インターフェイスモジュールは、プローブアセンブリとやりとりする情報および感知プローブからの情報を、ケーブルを通じてコンソールと通信する。事実上、患者インターフェイスモジュールは、患者をコンソールに接続する働きをする。この目的を達成するために、また一実施形態において、患者インターフェイスモジュールは、感知プローブから信号を受信するように電気的に結合された対になった電極入力など、1つ以上の(好ましくは8つの)感覚入力を含む。これに加えて、患者インターフェイスモジュールは、刺激器入力ポートおよび刺激器出力ポートを提供する。刺激器入力ポートは、所望の刺激レベルおよび/またはその他の活動に関する制御信号をプローブアセンブリから受信し、その一方で刺激器出力ポートは、プローブアセンブリへの刺激エネルギーの伝達を容易にする。患者インターフェイスモジュールは、接地(またはリターン電極)ジャック、追加刺激器プローブアセンブリ用の補助ポートなど、追加構成要素のポートをさらに提供することができる。
【0012】
制御装置、ならびに具体的にはコンソールおよび患者インターフェイスモジュールは、フロリダ州ジャクソンビルのメドトロニック・ゾーメド(Medtronic Xomed)より入手可能な、NIM−Response(商標)神経統合モニタなどの入手可能な監視システムと、いくつかの点において類似している。例えば、NIM−Response(商標)神経統合モニタによって提供されるタッチパネル機能は、制御装置に組み込まれることが可能である。しかしながら、これに加えて、システムは信号処理モジュールを採用しており、これは電気手術器の動作中に、感知プローブから受信する入力信号を分類して神経監視に関する出力信号を伝達する、信号処理技術を実行する。具体的には、信号処理モジュールは、電気手術器の動作中に、低EMG活動(EMG活動が無い場合を含む)または高EMG活動の兆候を提供することができる。これに加えて、信号処理モジュールは、感知プローブから感覚入力ポートに提供される情報の1つ以上のチャネルを選択的にミュートし、受信した信号における直流(DC)成分または低周波ノイズを遮断し、EMGデータを復元することができる。
【0013】
感知プローブは、信号処理モジュールに信号を提供するために、患者(例えば選択された組織)に結合されている。一実施形態において、複数のプローブは、感覚入力に電気的に結合されている8つのプローブを含む。通常の動作において、プローブは、患者からの電気信号を感知し、信号処理モジュールに信号を送信する。これらの信号は患者組織からの電気的インパルスを含み、これは患者におけるEMG活動を示す。しかしながら、いくつかの条件がプローブにノイズを導入し、そのため信号処理モジュールに提供される信号を破壊する可能性がある。例えば、ESUによって発生する電流は、プローブのうちの1つ以上によって検出されるノイズを生じる。
【0014】
複数のプローブの各々は、以下で論じられるように、信号処理モジュールにおいて単独で処理され得る別々のチャネルを構成する。例えば、合計で8つの感知プローブが使用される場合、8つの別々のチャネルは、信号処理モジュールによって単独で処理されることが可能である。この目的を達成するために、信号処理モジュールは、感知プローブから受信する信号を分類する構成要素を含み、外科医が電気外科手術中に1つ以上のチャネルの神経活動の監視し続けることができるようにする。分類が、低レベルのEMG活動(ゼロを含む)または高レベルのEMG活動であることが可能である。
【0015】
一実施形態において、複数のプローブの各々は、ESU12によって生成される基本周波数をフィルタリングするために利用され得る、例えばフィルタなどのフロント・エンド・フィルタ(front−end filter)を含む。あるいは、複数のプローブの各々から受信する信号をフィルタリングするために、単一のフロント・エンド・フィルタが提供されることも可能である。ESUの動作および/またはESUによって生成される信号の解析を通じて、ESUの動作中にどのような成分が存在しているかが判断され得る。一実施形態において、ESUは、29kHzパルスの500kHz高周波信号、および追加高調波を発生する。フィルタは、ESUによって生成される信号のフィルタリングを最適化して、信号処理モジュールに供給されるノイズを減少させるように、調整されることが可能である。
【0016】
信号処理モジュールは入力信号を受信して、入力信号におけるEMG活動のレベルを示す出力信号を生成するために、信号を処理する。出力信号は、例えばアーチファクト検出条件、復元済みEMG信号など、付加的な兆候によってさらに補完されることが可能である。感知プローブからの信号は、入力モジュールを通じて信号処理モジュールにおいて受信される。実例としては、入力モジュールは、信号処理モジュール内の他のモジュールによって使用される特定のプローブ(すなわちチャネル)に信号を関連づけることができる。これに加えて、入力モジュールはアナログ−デジタル変換器(ADC)を含むことができ、これは、以下でより詳細に説明されるように、アナログ形式からデジタル形式に信号を変換するために、指定された速度で受信する信号をサンプリングする。入力モジュールに加えて、信号処理モジュールは、例えばコンソールに出力信号を提供する、出力モジュールを含む。入力モジュールと出力モジュールとの間には、電気外科手術の際に神経統合監視が維持されるように、入力モジュールによって受信される信号における条件を検出し、対応する応答を出力モジュールに提供するための、複数のモジュールがある。具体的には、信号処理モジュールは、アーチファクト検出モジュール、DCフィルタモジュール、EMG検出モジュール、およびEMG信号復元モジュールを含む。
【0017】
図1は、神経統合監視システムおよび特に感知プローブによって得られる信号の、フロントエンド処理の方法200のフロー図である。ステップ202において、例えば1つ以上のプローブなどの感知プローブによって、信号が取得される。信号は、(ESUの動作によって生じるような)EDUデータ、および(患者からの神経電位によって生じるような)EMG活動の両方を示す。ステップ204において、ESUデータの基本周波数がフィルタリングされる。このフィルタリングは、例えばプローブのフィルタによって実行されることが可能である。フィルタリングされた信号はその後、信号処理モジュールの入力モジュールに送られる。
【0018】
先に論じられたように、入力モジュールは、感知プローブから受信する信号を処理するために、サンプリングレートで動作するADCを含む。エイリアシングを防止するために、入力モジュールは、ステップ206において、プローブから信号をオーバーサンプリングする。電気手術器は広範囲の周波数を有するノイズを発生させるので、受信した信号におけるエイリアシングを防止するために、オーバーサンプリングが使用され得る。オーバーサンプリングレートは、ADCのサンプリングレートの数倍の大きさであることができる。一実施形態において、オーバーサンプリングレートは、サンプリングレートの128倍であることができる。ステップ208において、プローブで感知されるアナログ信号をデジタル信号に変換するために、デシメーションフィルタを使用して信号がダウンサンプリングされることが可能である。ステップ210においてデジタル信号が出力される。一例において、ADCは16kHzの速度で信号をサンプリングする。ステップ206においてサンプリングレートの128倍、すなわち2,048kHzの速度で信号がオーバーサンプリングされる場合、1,024kHz未満の成分周波数においてエイリアシングが防止されることが可能であり、8kHzを超えるESU信号は、ステップ210において出力されるデジタル信号に存在すべきではない。デジタル信号は、アーチファクト検出モジュール、DCフィルタモジュール、EMG検出モジュール、および/またはEMG信号復元モジュールに送られることが可能である。以下で論じられるように、これらのモジュールは、出力モジュールに提供される条件を検出するために、デジタル信号を処理することができる。
【0019】
図2は、アーチファクト検出モジュールによって実行されるような、信号処理モジュールに提供される1つ以上のチャネルにおいてアーチファクトを検出する方法250のフロー図である。アーチファクト検出モジュールは、組織と接触している金属製手術器具によって生じる可能性のあるアーチファクトを検出するための状況、および/または2つ以上の手術器具が相互に接触する状況において、助けになることができる。
【0020】
金属間(または金属から患者への)アーチファクトは、異なる静電荷を有する器具が互いにまたは患者に接触して、電荷が等しくなるように電流を流すときに、発生し得る。電荷移動は、EMGをはるかに超える高周波を含む広帯域ノイズスペクトルを含有する火花による。夜間周波数は、EMGになり得ない高速の垂直応答として、モニタに現れる。これは、同時にフィルタリングを必要とする多数のチャネルに起こりがちである。
【0021】
チャネル用の信号がアーチファクトになりそうな場合、EMG活動の誤検出の兆候を防止するように、チャネルはその他のチャネルから独立してミュートされることが可能である。ステップ252において、方法200(図1)によって生成されたデジタル信号は、入力モジュールからアーチファクト検出モジュール内に受信される。ステップ254において、EMGデータを除く範囲を有するストップバンドを用いて、デジタル信号にハイパスフィルタが適用される。一例において、EMG活動は0から3.5kHzの範囲となるように決定され、このため適用されるストップバンドは0から3.5kHzである。結果的に生じる信号は、信号に関連づけられたチャネルがミュートされるべきか否かを判断するためにさらに処理されることが可能な、帯域制限信号である。
【0022】
ステップ256において、帯域制限信号の電力は、信号を二乗すること、およびサンプルバッファを超える中間値を見出すことによって、推定される。バッファはいずれのサイズであってもよく、一例において、5ミリ秒のデータを構成する80のサンプルを含む。電力推定の平均値はその後、ステップ258において平均化無限大インパルス応答を用いてフィルタリングされることが可能である。一実施形態において、平均値は、50%の旧データおよび50%の新規データを含むことができる。ステップ260において、フィルタリングされた平均値は、閾値と比較されることが可能である。必要に応じて、閾値比較にヒステリシスが採用されてもよい。比較に応じて、ステップ262においてチャネルが選択的にミュート(すなわち抑制)されることが可能である。アーチファクトが検出されたという兆候は、出力モジュールに出力されることが可能である。この兆候はその後、例えばモニタを通じて、外科医に中継されることが可能である。このため、誤検出は回避されることが可能であり、外科医が誤ってEMG活動の警告を受けることはない。
【0023】
図3は、データ入力から信号処理モジュールへのDC成分をフィルタリングする方法300のフロー図である。ステップ302において、方法200(図1)によって生成された信号の中間値が取得される。ローパス無限大インパルス応答フィルタがその後、信号の中間値をフィルタリングして信号内のDCを遮断するために、ステップ304において使用される。1つの例示的フィルタは、以下の数式を使用する:
y[n]=x[n]−x[n−1]+α・y[y−1]
ここでx[n]は(入力モジュールから受信した)入力信号、y[n]は出力信号、およびαは定数である。必要に応じて、αの値は、信号の低周波成分も遮断するように調整されることが可能である。フィルタの適用後、信号のDC成分が遮断される。その後、遮断されたDC信号は、ステップ306において出力される。
【0024】
図4は、例えば電気外科手術によって発生するノイズなどノイズの多い環境内でEMG活動のレベルを検出するEMG検出モジュールによって利用される方法のフロー図である。EMG活動のレベルを検出するために、自己共分散法を使用して高レベルのEMG活動の存在を判断する。電気外科手術中に高レベルのEMG活動が検出される場合、外科医は警告を受けることが可能である。方法350は、方法300(図3)から信号のサンプルが取得されるステップ352で開始される。サンプルのエネルギーはその後ステップ354において推定される。エネルギーレベルはその後ステップ356において閾値と比較される。この比較に基づいて、サンプルが高レベルのEMG活動の存在を示すのに十分なエネルギーを含んでいるか否かについて、ステップ358において判断がなされる。プローブがきちんと接続されていなかったり、患者組織から切り離されていたりする場合、結果的に生じる信号は限られたエネルギーを有することになり、したがって低レベルのEMG活動が出力モジュールに提供されることになる。
【0025】
信号の自己共分散は、ステップ360において計算される。周知のように、自己共分散は、観察の時間差に応じて信号の時間差観察に基づいて決定され得る係数である。EMGデータの解析により、EMGデータは高度に相関していると判断されている。このため、高度に相関したデータは、高レベルのEMG活動を示すことができる。ステップ362において、全てのまたは選択された数の時間差について、自己共分散信号の中間値が計算され得る。計算された中間値はその後、ステップ364において閾値と比較される。中間値が閾値を超える場合、高レベルのEMG活動の存在の兆候が、ステップ366において提供される。
【0026】
堅牢性を改善するために、いくつかの調整が方法350になされ得る。例えば、有限数のサンプルにわたって自己共分散係数を計算することによって起こり得る末端効果を低減するために、取得されたサンプルに、窓関数(例えば、バートレット窓)が適用されることが可能である。さらに、信号が入力モジュールのADCのレール(例えば、高または低電圧レベル)に近いか否かを判断するために、レベル検出器が利用することができる。この場合、EMG活動はまったく報告されない。さらに別の調整が、DC遮断フィルタになされることが可能である。例えば、フィルタはより積極的に低周波データを減衰するように作られることが可能である。さらに、自己共分散の結果を改善するために、多数のデータバッファ(例えば4つ)が使用され得る。必要に応じて、自己共分散計算は、計算能力から広がることが可能である。これに加えて、データをEMG閾値と比較する前に、選択された係数の平方の中間値が、ノイズを低減してデータを平滑化するために入力されるフィルタとして使用されることが可能である。他の分類方法も使用され得ることは、注目に値する。例えば、自己相関、ウェーブレット、シグモイド関数などの全てが、EMGを含むようなノイズの多い信号を分類し、および/または信号においてEMG活動を検出するために、使用され得る。
【0027】
図5は、EMG復元技術において適応フィルタを適用する方法400のフロー図である。方法400はステップ402で開始され、ここで入力信号が入力モジュールから取得される。ステップ404において、ESUによって生成されるノイズを遮断するために、適応フィルタが信号に適用される。フィルタは、様々な技術を使用する、参照ベースまたは非参照ベースであることが可能である。ESUによって生成されたノイズが一旦フィルタリングされると、EMG活動を示す信号が、ステップ406において出力される。
【0028】
様々な適応フィルタおよび適応フィルタリング技術が、方法400において採用されることが可能である。参照ベースのフィルタを使用するとき、入力信号において電気手術器によって形成されるノイズを推定するために、感知プローブのうちの1つが利用され得る。参照プローブからのデータは、適応フィルタへのノイズ推定値の役割を果たす。例えば、最小平均平方アルゴリズム、正規化最小平均平方アルゴリズム、または再帰アルゴリズムが、参照ベース適応フィルタとして使用されることが可能である。使用される項の数、および電気手術器12によって形成されるノイズの多い信号においてEMGデータを復元するためにフィルタにおいてデータがどのように処理されるかを変化させるために、これらのアルゴリズムが調整されることが可能である。
【0029】
これに加えて、EMGデータを復元するために、方法400において非参照ベースの適応アルゴリズムが使用されることが可能である。フィルタの例は、カルマンフィルタおよびH無限大フィルタを含む。これらのフィルタも、復元済みEMG信号を生成するのに望ましいように調整され得る。
【0030】
本開示は好適な実施形態を参照して説明されてきたが、本開示の精神および範囲を逸脱することなく、形状および詳細について変更がなされ得ることを、当業者は認識するであろう。
〔態様1〕
電気手術器の動作中に患者からの電気信号および/または手術用金属間アーチファクトを感知するようになっている、神経統合監視システム用の信号処理モジュールにおいて、
感知プローブに電気的に結合され、患者の筋電図(EMG)活動および電気手術器の動作を示す入力信号を受信するようになっている、入力モジュールと、
前記入力モジュールに電気的に結合され、前記入力信号の条件を検出して、前記患者から受信するEMG活動のレベルに応じて前記条件を分類するようになっている、EMG検出モジュールと、
前記EMG検出モジュールに結合され、前記検出される条件を示す出力信号を提供するようになっている、出力モジュールと、を含む、信号処理モジュール。
〔態様2〕
態様1記載の信号処理モジュールにおいて、
前記入力信号のアーチファクトを検出し、前記出力信号を抑制するための兆候を前記出力モジュールに提供するようになっているアーチファクト検出モジュールをさらに含む、信号処理モジュール。
〔態様3〕
態様2記載の信号処理モジュールにおいて、
前記アーチファクトは、前記入力信号における電力の推定値に基づいて検出される、信号処理モジュール。
〔態様4〕
態様2記載の信号処理モジュールにおいて、
前記アーチファクトは、前記入力信号の周波数成分の推定値に基づいて検出される、信号処理モジュール。
〔態様5〕
態様2記載の信号処理モジュールにおいて、
前記入力モジュールは、多数の感知プローブから多数の入力信号を受信するようになっており、ミューティングモジュールは、前記多数の入力信号のうちの少なくとも1つを選択的に抑制するようになっている、信号処理モジュール。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記入力信号における低周波ノイズを抑制するようになっている直流フィルタモジュールをさらに含む、信号処理モジュール。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記入力信号において検出されるEMG活動のレベルを閾値と比較し、当該比較の兆候を前記出力モジュールに提供するようになっている、信号処理モジュール。
〔態様8〕
態様7記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記入力信号におけるエネルギーのレベルを推定して、前記EMG活動がエネルギーレベル閾値よりも大きいか否かを判断する、信号処理モジュール。
〔態様9〕
態様8記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記入力信号の自己共分散または自己相関を計算して、EMG活動のレベルを検出する、信号処理モジュール。
〔態様10〕
態様8記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記入力信号の多数のサンプルを使用して、当該入力信号の自己共分散または自己相関を計算する、信号処理モジュール。
〔態様11〕
態様9記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG検出モジュールは、前記入力信号の複数のサンプルを使用して、当該入力信号のウェーブレットまたはシグモイド分類関数を使用する、信号処理モジュール。
〔態様12〕
態様1から11のいずれか1項に記載の信号処理モジュールにおいて、
前記電気手術器によって形成されるノイズをフィルタリングし、患者におけるEMG活動の兆候を前記出力モジュールに提供するようになっている、EMG復元モジュールをさらに含む、信号処理モジュール。
〔態様13〕
態様12記載の信号処理モジュールにおいて、
前記EMG復元モジュールは、参照プローブを使用して、前記電気手術器によって形成される前記ノイズを推定する、信号処理モジュール。
〔態様14〕
電気手術器の動作中に使用する神経統合監視システムにおいて、
患者のEMG活動および前記電気手術器の動作を示す入力信号を生成するようになっている感知プローブと、
態様1から13のいずれか1項に記載の信号処理モジュールと、を含む、神経統合監視システム。
〔態様15〕
態様14記載の神経統合監視システムにおいて、
前記プローブは、前記電気手術器によって生成されるノイズ信号の基本周波数をフィルタリングするフィルタを含む、神経統合監視システム。
図1
図2
図3
図4
図5