(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1から第3の巻線が巻回された前記コアでは、前記コア内で磁気飽和が発生していない状態において、前記第2の電流が前記第3の巻線を通過したときにおける、前記第1の部位を経由する第1の磁気回路の磁気抵抗と、前記第2の部位を経由する第2の磁気回路の磁気抵抗とが同等であり、
前記第1および第2の巻線とは、互いに逆の巻き方向を有する、請求項1記載の電力変換器。
前記電力変換器は、前記複数のスイッチング素子の制御によって、前記第1および第2の直流電源が前記電源配線に対して直列に電気的に接続された状態で前記直流電力変換を実行する第1の動作モードと、前記第1および第2の直流電源が前記電源配線に対して並列に前記直流電力変換を実行する第2の動作モードとを切換えられるように構成される、請求項3または4記載の電源システム。
前記第1から第3の巻線が巻回された前記コアでは、前記コア内で磁気飽和が発生していない状態において、前記第2の電流が前記第3の巻線を通過したときにおける、前記第1の部位を経由する第1の磁気回路の磁気抵抗と、前記第2の部位を経由する第2の磁気回路の磁気抵抗とが同等であり、
前記第1および第2の巻線とは、互いに逆の巻き方向を有する、請求項3〜5のいずれか1項に記載の電源システム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0023】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態に従う磁気部品を備えた電力変換器および電源システムの構成例を示す回路図である。
【0024】
図1を参照して、電源システム5は、直流電源10と、電力変換器6と、直流電源20と、電力変換器7とを備える。電源システム5は、直流電源10,20から負荷30への電力供給を制御する。あるいは、電源システム5は、負荷30によって発電された電力によって、直流電源10,20を充電する。
【0025】
本実施の形態において、直流電源10および20は、二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置によって構成される。たとえば、直流電源10は、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池のような二次電池で構成される。また、直流電源20は、たとえば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の出力特性に優れた直流電圧源要素により構成される。直流電源10および直流電源20は、「第1の直流電源」および「第2の直流電源」にそれぞれ対応する。ただし、直流電源10および20を同種の蓄電装置によって構成することも可能である。
【0026】
電力変換器6は、直流電源10および負荷30の間に接続される。電力変換器7は直流電源20および負荷30の間に接続される。電源システム5において、直流電源10および20は、電力変換器6および7を介して、負荷30に対して並列に接続されていることが理解される。
【0027】
負荷30は、コンバータ6,7からの出力電圧Voを受けて動作する。出力電圧Voの電圧指令値Vo*は、負荷30の動作に適した電圧に設定される。電圧指令値は、負荷30の状態に応じて可変に設定されてもよい。さらに、負荷30は、回生発電等によって、直流電源10,20の充電電力を発生可能に構成されてもよい。たとえば、負荷30は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両の走行用電動機および、当該電動機を駆動制御するためのインバータを含むように構成される。
【0028】
電力変換器6は、直流電源10と、負荷30と接続された電源配線PLとの間で双方向のDC/DC変換を実行する。電力変換器7は、直流電源20と電源配線PLとの間で双方向のDC/DC変換を実行する。以下では、電力変換器6および電力変換器7について、コンバータ6およびコンバータ7とも称する。
【0029】
コンバータ6および7の各々は、いわゆる昇圧チョッパ回路の構成を有する。具体的には、コンバータ6は、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)S1,S2と、リアクトルL1とを有する。スイッチング素子S1およびS2は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に直列に接続される。リアクトルL1は、直流電源10の正極端子と、スイッチング素子S1およびS2の接続ノードとの間に電気的に接続される。
【0030】
コンバータ7は、スイッチング素子S3,S4と、リアクトルL2とを有する。スイッチング素子S3およびS4は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に直列に接続される。リアクトルL2は、直流電源20の正極端子と、スイッチング素子S3およびS4の接続ノードとの間に電気的に接続される。
【0031】
本実施の形態において、スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子S1〜S4に対しては、逆並列ダイオードD1〜D4が配置されている。スイッチング素子S1〜S4は、制御装置40からの制御信号SG1〜SG4に応答して、オンオフを制御することが可能である。
【0032】
昇圧チョッパ回路によって構成されるコンバータ6,7では、所定周期(スイッチング周期)内での上アーム素子(S1,S3)と下アーム素子(S2,S4)とのオン期間比を示すデューティ比に応じて、DC出力が制御される。一般的には、デューティ比を示すDC信号と、所定周波数のキャリア信号との比較に応じて、上アーム素子および下アーム素子が相補にオンオフするように、スイッチング素子S1〜S4は制御される。
【0033】
昇圧チョッパ回路における電圧変換比(昇圧比)は、低圧側(直流電源側)の電圧Vi、高圧側(負荷側)の電圧VH、および、下アーム素子のデューティ比DTを用いて、下記(1)式で示されることが知られている。なお、デューティ比DTは、下アーム素子のオン期間およびオフ期間の和であるスイッチング周期に対する、下アーム素子のオン期間比で定義される。なお、下アーム素子のオフ期間には、上アーム素子がオンされる。
【0034】
VH=1/(1−DT)・Vi …(1)
制御装置40は、たとえば、図示しないCPU(Central Processing Unit)および
メモリを有する電子制御ユニット(ECU)によって構成される。制御装置40は、メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、各センサによる検出値を用いた演算処理を行なうように構成される。あるいは、制御装置40の少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0035】
制御装置40は、負荷30への出力電圧Voを制御するために、スイッチング素子S1〜S4のオンオフを制御する制御信号SG1〜SG4を生成する。なお、
図1では図示を省略しているが、直流電源10の電圧(V[1]と表記する)および電流(I[1]と表記する)、直流電源20の電圧(V[2]と表記する)および電流(I[2]と表記する)、ならびに、出力電圧Voの検出器(電圧センサ,電流センサ)が設けられている。コンバータ6において、電流I[1]は、リアクトルL1を流れる電流I(L1)に相当する。同様に、コンバータ7において、電流I[2]は、リアクトルL2を流れる電流I(L2)に相当する。
【0036】
図2は、
図1に示した電源システム5の一般的な制御ブロック図である。
図2を参照して、コンバータ6,7で共通の制御(出力電圧Voの電圧制御)を同時に実行すると、回路が破綻する可能性がある。したがって、コンバータ6,7は、一方のバッテリが電圧源として動作する一方で、他方のバッテリが電流源として動作するように、直流電源10,20と負荷30との間でDC/DC変換を実行する。
【0037】
ここでは、直流電源10が電流源として動作するように、コンバータ6は、バッテリ電流I[1]を電流指令値Ii*に従って制御するものとする。一方で、コンバータ7は、直流電源20が電圧源として動作するように、出力電圧Voを電圧指令値Vo*に従って制御する。
【0038】
ここで、直流電源10の電力P[1]、直流電源20の電力P[2]、負荷30への出力電力Poおよび、電流源における電流指令値Ii*の間には、下記(2)式の関係が成立する。
【0039】
P[2]=Po−P[1]=Po−V[1]・Ii* …(2)
直流電源10の電圧V[1]の検出値に応じて、P[1]*=V[1]・Ii*が一定になるように電流指令値Ii*を設定すれば、電流源を構成する直流電源10の電力P[1]を電力指令値P[1]*に制御できる。
【0040】
なお、直流電源20を電流源とし直流電源10を電圧源として制御することも可能である。この場合には、電流源を構成する直流電源20の電力P[2]について、V[2]・Ii*が一定になるように電流指令値Ii*を設定すれば、直流電源20の電力P[2]を電力指令値に従って制御できる。
【0041】
電流制御器41は、直流電源10の電流I[1]が電流指令値Ii*と一致するように、コンバータ6のデューティ比を制御する。具体的には、電流偏差(Ii*−I[1])が正のときには、電流I[1]を上昇させるために、下アーム素子(S2)のオン期間を長くするようにデューティ比が変化される。反対に、電流偏差(Ii*−I[1])が負のときには、電流I[1]を低下させるために、コンバータ6の上アーム素子(S1)のオン期間が長くなるように、デューティ比が変化される。
【0042】
電圧制御器42は、出力電圧Voが電圧指令値Vo*と一致するように、コンバータ7のデューティ比を制御する。電圧制御器42は、電圧偏差(Vo*−Vo)が正のときには、出力電圧Voを上昇させるために、コンバータ7の下アーム素子(S4)のオン期間比が長くなるようにデューティ比を変更する。反対に、電圧偏差(Vo*−Vo)が負のときには、出力電圧Voを低下させるために、コンバータ7の上アーム素子(S3)のオン期間比が長くなるようにデューティ比を変更する。
【0043】
このように、直流電源10は、コンバータ6によって電流指令値Ii*に従って電流制御される。一方で、直流電源20は、コンバータ7によって、電圧指令値Vo*に従った電圧制御のために出力が制御される。
【0044】
図3には、
図2に示した制御ブロックによって制御された電源システム5の動作波形例が示される。
【0045】
図3を参照して、P[1]>0かつP[2]>0であり、直流電源10および20が放電して、負荷30へ電力を供給している場合の動作波形が示される。すなわち、Po=P[1]+P[2]で示される、出力電力Poは正である。
【0046】
コンバータ6によって、直流電源10の電流I[1]が電流指令値Ii*に従って一定に制御されるため、直流電源10の電力P[1]も一定である。したがって、電圧指令値Vo*が一定の下で負荷30の電力が増加する時刻t1〜t2の期間では、P[1]が一定に維持される一方で、直流電源20の電力P[2]が増加する。
【0047】
時刻t2〜t3の期間では、出力電力Poが減少するとともに、電圧指令値Vo*が上昇する。電圧指令値Vo*に従ってコンバータ7によって出力電圧Voが上昇する。さらに、コンバータ6によって電流I[1]が一定に制御されるため電力P[1]が一定である一方で、電力P[2]は徐々に低下する。
【0048】
このように、電流制御される直流電源10は、電流指令値Ii*に従って電力P[1]が制御される。一方で、直流電源20は、出力電圧Voを確保しながら、負荷30への出力電力Poとバッテリ電力P[1]との差分を供給するためのバッファとして動作することになる。
【0049】
上述のように、電源システム5では、コンバータ6のリアクトルL1を流れる電流I(L1)と、コンバータ7のリアクトルL2を流れる電流I(L2)とは独立に制御される。すなわち、電流I(L1)によってリアクトルL2に誘起電圧が生じたり、反対に、電流I(L2)によってリアクトルL1に誘起電圧が生じたりすると、コンバータ6,7の制御が適切に行なわれなくなってしまう。
【0050】
特許文献1または2に従ってリアクトルL1,L2を一体的に構成すると、誘起電圧の干渉によって、各リアクトルの電流を独立に制御することが困難となる。まず、比較例として、誘起電圧の干渉を確実に回避するために、リアクトルL1およびL2を独立した別個の磁気部品として構成した場合の構造について、
図4を用いて説明する。
【0051】
図4を参照して、リアクトルL1を構成する磁気部品101は、コア110aおよび、コア110aに巻回された巻線120aによって構成される。コア110aには、ギャップ112aが設けられる。同様に、リアクトルL2を構成する磁気部品102は、
コア110bおよび、コア110bに巻回された巻線120bによって構成される。コア110bには、ギャップ112bが設けられる。
【0052】
リアクトルのインダクタンス値Lは、下記(3)式に従って、コイルの巻数N、磁性材料の磁気抵抗Rおよびギャップの磁気抵抗rによって示される。
【0053】
L=N・N/(R+r) …(3)
磁気抵抗Rは、コア110a,110bの磁気特性(比透磁率)およびサイズ、形状(磁路長および断面積)によって調整できることが知られている。磁気抵抗rは、ギャップ112a,112bのギャップ長や個数によって調整することができる。
【0054】
また、コア110a,110bに用いられる磁性材料は非線形特性を有するため、過剰な磁束が発生すると、飽和現象のために特性が悪化する。このため、設計上の最大電流I(max)の通過時における最大磁束密度B(max)が、コアの飽和磁束密度を超えないように、コアの有効断面積Sを設計する必要がある。B(max)は、下記(4)式によって求められる。
【0055】
B(max)=I(max)・N/(R+r)/S …(4)
このように、リアクトルL1,L2を別個の磁気部品101,102で構成した場合には、誘起電圧の干渉を回避できるとともに、各磁器部品の設計によって、磁気飽和を避けて所望のインダクタンス値を得ることができる。すなわち、インダクタンス値の設計は比較的容易である。その一方で、コアが2個必要となるため、リアクトルL1,L2の大型化により、コンバータ6,7および電源システム5が大型化してしまう虞がある。
【0056】
本実施の形態では、リアクトルL1,L2について、誘起電圧による干渉の発生がないように、かつ一体的な磁気部品として構成するための構造を説明する。
【0057】
図5は本発明の実施の形態による磁気部品100の構造を説明する概略図である。
図5には、磁気部品100の断面図が示される。
【0058】
磁気部品100は、コア150と、巻線121a,121b,122とを含む。巻線121aおよび121bは、電気的に直列に接続されて、リアクトルL1のコイルを構成する。巻線122は、リアクトルL2のコイルを構成する。
【0059】
磁性材料によって形成されるコア150は、脚部151,152,153を有するように構成される。脚部151〜153には、ギャップ161〜163がそれぞれ設けられる。上述のように、ギャップ161〜163は、インダクタンス値を調整する面で有用である。
【0060】
図6は、
図5に示した磁気部品100の上面図である。
図6によって、巻線間の配置関係および接続関係が示される。
【0061】
図6を参照して、巻線121aはコア150の脚部151に巻回され、巻線121bは、脚部152に巻回されている。
【0062】
巻線121aおよび121bは、導線125によって電気的に直列に接続されて、リアクトルL1のコイルを形成する。直列接続される巻線121aおよび121bは、互いに逆の巻方向を有するように巻回される。巻線122は、コア150の脚部153に巻回されて、リアクトルL2のコイルを形成する。
【0063】
このように、磁気部品100において、巻線121aは「第1の巻線」に対応し、巻線121bは「第2の巻線」に対応し、巻線122は「第3の巻線」に対応する。また、脚部151は「第1の部位」に対応し、脚部153は「第2の部位」に対応し、脚部152は「第3の部位」に対応する。
【0064】
図7は、磁気部品100の等価回路図である。
図7を参照して、リアクトルL1の巻線121aおよび121bには、共通の電流I(L1)が流れる。リアクトルL2の巻線122に電流I(L2)が流れると、巻線121aおよび121bには、誘起電圧Vm1aおよび誘起電圧Vm1bが、それぞれ生じる。巻線121aおよび121bは逆の巻方向で巻回されているため、誘起電圧Vm1aおよびVm1bは逆極性であり、互いに打ち消し合う。また、リアクトルL1に電流I(L1)が流れるときに、巻線122に生じる誘起電圧をVm2と示す。
【0065】
図8および
図9により、リアクトルL1に電流I(L1)が通過したときの磁気的な挙動を説明する。
図8には、巻線121aを流れる電流によって生じる磁束が示される一方で、
図9には、巻線121bを流れる電流によって生じる磁束が示される。
【0066】
図8を参照して、巻線121aに電流I(L1)が通過することにより、電流I(L1)および巻線121aの巻数の積に従った起磁力により、磁束200が発生する。
【0067】
磁束200は、脚部153を経由する磁気経路203と、脚部152を含む磁気経路202とに分流される。磁気経路202の磁気抵抗R2と、磁気経路203の磁気抵抗R3との比に従って、磁気経路202を流れる磁束と、磁気経路203を流れる磁束との比が決められる。
【0068】
図9を参照して、巻線121bには、巻線121aと共通に電流I(L1)が通過する。これにより、電流I(L1)および巻線121bの巻数の積に従った起磁力により、磁束210が発生する。
【0069】
磁束210は、脚部151を経由する磁気経路211と、脚部152を経由する磁気経路212とに分流される。磁気経路211の磁気抵抗R1と、磁気経路212の磁気抵抗R2との比に従って、磁気経路211を流れる磁束と、磁気経路212を流れる磁束との比が決められる。
【0070】
図8および
図9から理解されるように、巻線122が巻回される脚部152において、磁気経路202(
図8)および磁気経路212(
図9)には、互いに打ち消しあう方向に磁束が流れる。これは、巻線121aおよび121bが逆の巻方向を有するからである。
【0071】
したがって、磁気経路202,212を流れる磁束の強さが同じになるように設計すれば、電流I(L1)がリアクトルL1を通過することによって生じる、巻線122の通過磁束を零とすることができる。これにより、リアクトルL1に流れる電流I(L1)によってリアクトルL2に生じる誘起電圧Vm2=0とすることができる。
【0072】
図10には、巻線122を流れる電流によって生じる磁束が示される。
図10を参照して、巻線122に電流I(L2)が通過することにより、電流I(L2)および巻線122の巻数の積に従った起磁力により、磁束220が発生する。磁束220は、脚部151を経由する磁気経路221と、脚部153を含む磁気経路223とに分流される。磁気経路221の磁気抵抗R1と、磁気経路223の磁気抵抗R3との比に従って、磁気経路221を流れる磁束と、磁気経路223を流れる磁束との比が決められる。
【0073】
したがって、磁気抵抗R1およびR3が同等となるように脚部151および153を構成することによって、磁気経路221および223を通過する磁束が等しくなる。このとき、巻線121aおよび121bにそれぞれ生じる逆極性の誘起電圧Vm1aおよびVm1bの絶対値が等しくなる。この結果、リアクトルL1全体の誘起電圧Vm1(Vm1=Vm1a+Vm1b)を零とすることができる。
【0074】
このように、磁気部品100では、共通のコア150に巻回された巻線121a,121b,122によって、リアクトルL1,L2を一体的に構成できる。さらに、電流I(L1)によってリアクトルL2に生じる誘起電圧Vm2および、電流I(L2)によってリアクトルL1に生じる誘起電圧Vm1をいずれも零にできる。すなわち、磁気部品100は、互いに独立に電流が制御される電流経路にそれぞれ含まれる2個のリアクトルを一体的に構成することが可能である。これにより、磁気部品100、ならびに、磁気部品100を含むコンバータ6,7および電源システム5の小型軽量化を図ることができる。
【0075】
さらに、磁気部品100におけるインダクタンス値の設計について説明する。
磁気部品100では、
図10で説明したように、電流I(L2)による巻線121a,121bの誘起電圧Vm1a,Vm1bの大きさを揃えるために、磁気抵抗R1およびR3を等しく設計する必要がある。
【0076】
さらに、脚部152を含む磁気経路202,212の磁気抵抗R2と、磁気抵抗R1,R3との比によって、リアクトルL1およびL2のインダクタンス値の比を設計することができる。また、巻線121a(脚部151)の巻数N11、巻線121b(脚部153)の巻数N13および、巻線122(脚部152)の巻数N12の比によっても、磁束数が調整できるので、リアクトルL1およびL2のインダクタンス値の比を設計することができる。このように、磁気抵抗および巻数比によって、リアクトルL1およびL2のインダクタンス値を自由に設計することができる。なお、各磁気経路の磁気抵抗の調整には、ギャップ161〜163が有用であることが知られている。
【0077】
たとえば、磁気抵抗の比をR1:R2=R3:R2=2:1に設計し、巻数比をN11=N12=N13に設計すると、巻線121a,121bと巻線122との間の結合率は、0.33(1/3)となり、L1のインダクタンス値を、L2のインダクタンス値の2倍に設計することができる。
【0078】
また、脚部151〜153のそれぞれについて、(4)式での最大電流I(max)の通過時に、磁気飽和が発生しないように、コア150の材質および脚部151〜153の形状・サイズを設計することができる。
【0079】
[実施の形態2]
実施の形態2では、実施の形態1で説明した磁気部品100が適用される電源システムの他の構成例について説明する。
【0080】
図11は、本発明の実施の形態2に従う電源システム5cの構成を示すブロック図である。
【0081】
図11を参照して、実施の形態2に従う電源システムで5cは、直流電源10,20と、コンバータ50と、制御装置40とを備える。
図1に示した電源システム5と比較して、実施の形態2に従う電源システム5cは、コンバータ6および7に代えて、コンバータ50が設けられた構成を有する。コンバータ50は、直流電源10,20と、負荷30との間に接続される。コンバータ50は、負荷30と接続された電源配線PL上の直流電圧(出力電圧Vo)を電圧指令値に従って制御する。
【0082】
コンバータ50は、スイッチング素子S5〜S8と、リアクトルL3,L4とを含む。スイッチング素子S5〜S8に対しては、逆並列ダイオードD5〜D8が配置されている。スイッチング素子S5〜S8は、制御装置40からの制御信号SG5〜SG8に応答して、オンオフを制御される。
【0083】
スイッチング素子S5は、電源配線PLおよびノードN1の間に電気的に接続される。リアクトルL4は、ノードN1と直流電源20の正極端子との間に接続される。スイッチング素子S6はノードN1およびN2の間に電気的に接続される。リアクトルL3はノードN2と直流電源10の正極端子との間に接続される。スイッチング素子S7は、ノードN2およびN3の間に電気的に接続される。スイッチング素子S8は、ノードN3および接地配線GLの間に電気的に接続される。接地配線GLは、負荷30および、直流電源10の負極端子と電気的に接続される。
【0084】
図11から理解されるように、コンバータ50は、直流電源10および直流電源20の各々に対応して昇圧チョッパ回路を備えた構成となっている。すなわち、直流電源10に対しては、スイッチング素子S5,S6を上アーム素子とする一方で、スイッチング素子S7,S8を下アーム素子とする電流双方向の第1の昇圧チョッパ回路が構成される。
【0085】
同様に、直流電源20に対しては、スイッチング素子S5,S8を上アーム素子とする一方で、スイッチング素子S6,S7を下アーム素子とする電流双方向の第2の昇圧チョッパ回路が構成される。そして、第1の昇圧チョッパ回路によって直流電源10および電源配線PLの間に形成される電力変換経路と、第2の昇圧チョッパ回路によって直流電源20および電源配線PLの間に形成される電力変換経路との両方に、スイッチング素子S5〜S8が含まれる。
【0086】
以下に詳細に説明するように、コンバータ50は、負荷30に対して直流電源10および20を並列に接続してDC/DC変換を実行するモード(以下、「パラレル接続モード」とも称する)と、負荷30に対して直流電源10および20を直列に接続してDC/DC変換を実行するモード(以下、「シリーズ接続モード」とも称する)とを切換可能に構成されている。特に、コンバータ50は、スイッチング素子S5〜S8の制御によって、パラレル接続モードおよびシリーズ接続モードを切替えて動作することが可能である。
【0087】
(パラレル接続モードでの回路動作)
コンバータ50のパラレル接続モードでの回路動作について説明する。
【0088】
図12および
図13に示されるように、スイッチング素子S8またはS6をオンすることによって、直流電源10および20を電源配線PLに対して並列に接続することができる。ここで、並列接続モードでは、直流電源10の電圧V[1]と直流電源20の電圧V[2]との高低に応じて等価回路が異なってくる。
【0089】
図12(a)に示されるように、V[2]>V[1]のときは、スイッチング素子S8をオンすることにより、スイッチング素子S6,S7を介して、直流電源10および20が並列に接続される。このときの等価回路が
図12(b)に示される。
【0090】
図12(b)を参照して、直流電源10および電源配線PLの間では、スイッチング素子S7のオンオフ制御によって、下アーム素子のオン期間およびオフ期間を交互に形成できる。同様に、直流電源20および電源配線PLの間では、スイッチング素子S6,S7を共通にオンオフ制御することによって、昇圧チョッパ回路の下アーム素子のオン期間およびオフ期間を交互に形成できる。なお、スイッチング素子S5は、負荷30からの回生を制御するスイッチとして動作する。
【0091】
一方、
図13(a)に示されるように、V[1]>V[2]のときには、スイッチング素子S6をオンすることにより、スイッチング素子S7,S8を介して、直流電源10および20が並列に接続される。このときの等価回路が
図13(b)に示される。
【0092】
図13(b)を参照して、直流電源20および電源配線PLの間では、スイッチング素子S7のオンオフ制御によって、下アーム素子のオン期間およびオフ期間を交互に形成できる。同様に、直流電源10および電源配線PLの間では、スイッチング素子S7,S8を共通にオンオフ制御することによって、昇圧チョッパ回路の下アーム素子のオン期間およびオフ期間を交互に形成できる。なお、スイッチング素子S5は、負荷30からの回生を制御するスイッチとして動作する。
【0093】
次に、
図14および
図15を用いて、コンバータ50のパラレル接続モードにおける昇圧動作について詳細に説明する。
【0094】
図14には、パラレル接続モードにおける直流電源10に対するDC/DC変換(昇圧動作)が示される。
【0095】
図14(a)を参照して、スイッチング素子S7,S8のペアをオンし、スイッチング素子S5,S6のペアをオフすることによって、リアクトルL3にエネルギを蓄積するための電流経路250が形成される。これにより、昇圧チョッパ回路の下アーム素子をオンした状態が形成される。
【0096】
これに対して、
図14(b)を参照して、スイッチング素子S7,S8のペアをオフするとともに、スイッチング素子S5,S6のペアをオンすることによって、リアクトルL3の蓄積エネルギを直流電源10のエネルギとともに出力するための電流経路251が形成される。これにより、昇圧チョッパ回路の上アーム素子をオンした状態が形成される。
【0097】
スイッチング素子S7,S8のペアがオンされる一方で、スイッチング素子S5,S6の少なくとも一方がオフされている第1の期間と、スイッチング素子S5,S6のペアがオンされる一方で、スイッチング素子S7,S8の少なくとも一方がオフされている第2の期間とを交互に繰返すことにより、
図14(a)の電流経路250および
図14(b)の電流経路251が交互に形成される。
【0098】
この結果、スイッチング素子S5,S6のペアを等価的に上アーム素子とし、スイッチング素子S7,S8のペアを等価的に下アーム素子とする昇圧チョッパ回路が、直流電源10に対して構成される。
図14に示されるDC/DC変換動作では、直流電源20への電流流通経路がないため、直流電源10および20は互いに非干渉である。すなわち、直流電源10および20に対する電力の入出力を独立に制御することが可能である。
【0099】
このようなDC/DC変換において、直流電源10の電圧V[1]と、電源配線PLの出力電圧Voとの間には、下記(5)式に示す関係が成立する。(5)式では、スイッチング素子S7,S8のペアがオンされる第1の期間のデューティ比をDaとする。
【0100】
Vo=1/(1−Da)・V[1] …(5)
図15には、パラレル接続モードにおける直流電源20に対するDC/DC変換(昇圧動作)が示される。
【0101】
図15(a)を参照して、スイッチング素子S6,S7のペアをオンし、スイッチング素子S5,S8のペアをオフすることによって、リアクトルL4にエネルギを蓄積するための電流経路260が形成される。これにより、昇圧チョッパ回路の下アーム素子をオンした状態が形成される。
【0102】
これに対して、
図15(b)を参照して、スイッチング素子S6,S7のペアをオフするとともに、スイッチング素子S5,S8のペアをオンすることによって、リアクトルL4の蓄積エネルギを直流電源20のエネルギとともに出力するための電流経路261が形成される。これにより、昇圧チョッパ回路の上アーム素子をオンした状態が形成される。
【0103】
スイッチング素子S6,S7のペアがオンされる一方で、スイッチング素子S5,S8の少なくとも一方がオフされている第1の期間と、スイッチング素子S5,S8のペアがオンされる一方で、スイッチング素子S6,S7の少なくとも一方がオフされている第2の期間とを交互に繰返すことにより、
図15(a)の電流経路260および
図15(b)の電流経路261が交互に形成される。
【0104】
この結果、スイッチング素子S5,S8のペアを等価的に上アーム素子とし、スイッチング素子S6,S7のペアを等価的に下アーム素子とする昇圧チョッパ回路が、直流電源20に対して構成される。
図15に示されるDC/DC変換動作では、直流電源10を含む電流経路がないため、直流電源10および20は互いに非干渉である。
【0105】
このようなDC/DC変換において、直流電源20の電圧V[2]と、電源配線PLの出力電圧Voとの間には、下記(6)式に示す関係が成立する。(6)式では、スイッチング素子S6,S7のペアがオンされる第1の期間のデューティ比をDbとする。
【0106】
Vo=1/(1−Db)・V[2] …(6)
上述のように、コンバータ50のパラレル接続モードでは、リアクトルL3を流れる電流と、リアクトルL4を流れる電流とは独立に制御される。この結果、直流電源10および20に対する電力の入出力を独立に制御することが可能である。すなわち、リアクトルL3およびL4についても、一方のリアクトルの電流通過によって他方のリアクトルに誘起電圧が生じないように構成することが必要である。
【0107】
(シリーズ接続モードでの回路動作)
次に、
図16および
図17を用いて、コンバータ50のシリーズ接続モードでの回路動作について説明する。
【0108】
図16(a)に示されるように、スイッチング素子S7をオン固定することによって、直流電源10および20を電源配線PLに対して直列に接続することができる。このときの等価回路が
図16(b)に示される。
【0109】
図16(b)を参照して、シリーズ接続モードでは、直列接続された直流電源10および20と電源配線PLとの間では、スイッチング素子S6,S8を共通にオンオフ制御することによって、昇圧チョッパ回路の下アーム素子のオン期間およびオフ期間を交互に形成できる。なお、スイッチング素子S5は、スイッチング素子S6,S8のオフ期間にオンされることによって、負荷30からの回生を制御するスイッチとして動作する。また、オン固定されたスイッチング素子S7により、リアクトルL3をスイッチング素子S8と
接続する配線15が等価的に形成される。
【0110】
次に、
図17を用いて、シリーズ接続モードにおけるDC/DC変換(昇圧動作)を説明する。
【0111】
図17(a)を参照して、直流電源10,20を直列接続するためにスイッチング素子S7がオン固定される一方で、スイッチング素子S6,S8のペアがオンし、スイッチング素子S5がオフされる。これにより、リアクトルL3,L4にエネルギを蓄積するための電流経路270,271が形成される。この結果、直列接続された直流電源10,20に対して、昇圧チョッパ回路の下アーム素子をオンした状態が形成される。
【0112】
これに対して、
図17(b)を参照して、スイッチング素子S7をオン固定したままで、
図17(a)とは反対に、スイッチング素子S6,S8のペアがオフし、スイッチング素子S5がオンされる。これにより、電流経路272が形成される。電流経路272により、直列接続された直流電源10,20からのエネルギと、リアクトルL3,L4に蓄積されたエネルギとの和が電源配線PLへ出力される。この結果、直列接続された直流電源10,20に対して、昇圧チョッパ回路の上アーム素子をオンした状態が形成される。
【0113】
スイッチング素子S7がオン固定された下で、スイッチング素子S6,S8のペアがオンされる一方でスイッチング素子S5がオフされている第1の期間と、スイッチング素子S5がオンされる一方でスイッチング素子S6,S8がオフされている第2の期間とを交互に繰返すことにより、
図17(a)の電流経路270,271および
図17(b)の電流経路272が交互に形成される。
【0114】
シリーズ接続モードのDC/DC変換では、直流電源10の電圧V[1]、直流電源20の電圧V[2]、および、電源配線PLの出力電圧Voの間には、下記(7)式に示す関係が成立する。(7)式では、スイッチング素子S6,S8のペアがオンされる第1の期間のデューティ比をDcとする。
【0115】
Vo=1/(1−Dc)・(V[1]+V[2]) …(7)
ただし、V[1]およびV[2]が異なるときや、リアクトルL3,L4のインダクタンスが異なるときには、
図17(a)の動作終了時におけるリアクトルL3,L4の電流値がそれぞれ異なる。したがって、
図17(b)の動作への移行直後には、リアクトルL3の電流の方が大きいときには電流経路273を介して差分の電流が流れる。一方、リアクトルL4の電流の方が大きいときには電流経路274を介して、差分の電流が流れる。
【0116】
このように、コンバータ50は、複数のスイッチング素子S5〜S8の制御によって、2つの直流電源(バッテリ)10,20を並列接続するモードと直列接続するモードとを使い分けることができる。この結果、負荷電力への対応性(消費電力の供給および発電電力の受入)および電力管理性が向上するパラレル接続モードと、効率および蓄積エネルギの活用性に優れたシリーズ接続モードおよびを使い分けることによって、2つの直流電源10,20を有効に使用することができる。
【0117】
コンバータ50の構成要素であるリアクトルL3,L4は、パラレル接続モードにおいてそれぞれの電流を独立に制御する必要がある。したがって、リアクトルL3およびL4についても、実施の形態1で説明した磁気部品100を適用することによって一体的に構成することができる。すなわち、実施の形態2に係るコンバータ50については、装置の小型軽量化を図るために、リアクトルL3,L4について、本実施の形態に係る磁気部品100を適用して構成することが好ましい。
【0118】
[実施の形態2の変形例]
実施の形態2の変形例は、実施の形態2で説明した電源システムにおいて、磁気部品100を適用した場合における、パラレル接続モードでの好ましい制御動作について説明する。以下に説明する制御動作は、制御装置40によるハードウェア処理および/またはソフトウェア処理によって実現される。
【0119】
図18には、パラレル接続モードにおける負荷側から見た等価回路が示される。
図18を参照して、パラレル接続モードでは、直流電源10と負荷30との間でDC/DC変換を実行する電源PS1と、直流電源20と負荷30との間でDC/DC変換を実行する電源PS2とは、負荷30に対して並列に電力を授受する。電源PS1は、
図14に示したDC/DC変換動作を実行する昇圧チョッパ回路に相当する。同様に、電源PS1は、
図15に示したDC/DC変換動作を実行する昇圧チョッパ回路に相当する。
【0120】
電源PS1は、直流電源10の電圧V[1]および出力電圧Voの間で、式(5)に示した電圧変換比によるDC/DC変換機能を有する。同様に、電源PS2は直流電源20の電圧V[2]および出力電圧Voの間で、式(6)に示した電圧変換比によるDC/DC変換機能を有する。
【0121】
パラレル接続モードでは、コンバータ6,7(
図1)と同様に、両方の電源で共通の制御(出力電圧Voの電圧制御)を同時に実行すると、負荷側で、電源PS1およびPS2が並列接続される形になるため、回路が破綻する可能性がある。したがって、電源PS1および電源PS2の一方の電源が、出力電圧Voを制御する電圧源として動作する。そして、電源PS1および電源PS2の他方の電源は、当該電源の電流を電流指令値に制御する電流源として動作する。
【0122】
したがって、各電源PS1,PS2での電圧変換比は、電圧源または電流源として動作するように制御される。たとえば、実施の形態1と同様に、直流電源10の電流を制御するように、電源PS1を電流源とし電源PS2を電圧源として制御する。
【0123】
図19には直流電源10に対応する電源PS1の具体的な制御動作例を説明するための波形図が示される。
【0124】
図19を参照して、電源PS1でのデューティ比Da(式(5)参照)は、電流源として動作するための電流フィードバック制御によって算出される。なお、
図19中では、デューティ比Daを示す電圧信号を、同一の符号Daで示している。
【0125】
電源PS1の制御パルス信号SDaは、デューティ比Daと、周期的なキャリア信号25aとの比較に基づくパルス幅変調(PWM)制御によって生成される。一般的に、キャリア信号25aには、三角波あるいはのこぎり波が用いられる。キャリア信号25aの周期は、各スイッチング素子のスイッチング周波数に相当し、キャリア信号25aの振幅は、Da=1.0に対応する電圧に設定される。
【0126】
制御パルス信号SDaは、デューティ比Daを示す電圧が、キャリア信号25aの電圧よりも高いときに論理ハイレベル(以下、Hレベル)に設定される一方で、キャリア信号25aの電圧よりも低いときに論理ローレベル(以下、Lレベル)に設定される。制御パルス信号SDaの周期(Hレベル期間+Lレベル期間)に対するHレベル期間の比、すなわち、制御パルス信号SDaのデューティ比は、Daと同等である。
【0127】
制御パルス信号/SDaは、制御パルス信号SDaの反転信号である。デューティ比Daが高くなると、制御パルス信号SDaのデューティ比が高くなる。反対に、デューティ比Daが低くなると、制御パルス信号SDaのデューティ比が低くなる。
【0128】
制御パルス信号SDaは、
図14に示した昇圧チョッパ回路の下アーム素子のオンオフを制御する信号に対応する。すなわち、制御パルス信号SDaのHレベル期間で下アーム素子がオンされる一方で、Lレベル期間で下アーム素子がオフされる。一方、制御パルス信号/SDaは、
図14に示した昇圧チョッパ回路の上アーム素子のオンオフを制御する信号に対応する。
図19に示した電源PS1に対する制御動作は、
図2に示した電流制御器41による制御動作に相当する。
【0129】
図20には直流電源20に対応する電源PS2の具体的な制御動作例を説明するための波形図が示される。
【0130】
図20を参照して、電源PS2においても、電源PS1と同様のPWM制御によって、デューティ比Db(式(6)参照)に基づいて、制御パルス信号SDbおよび、その反転信号/SDbが生成される。制御パルス信号SDbのデューティ比はDbと同等であり、制御パルス信号/SDbのデューティは(1.0−Db)と同等である。すなわち、デューティ比Dbが高くなると、制御パルス信号SDbのHレベル期間が長くなる。反対に、デューティ比Dbが低くなると、制御パルス信号SDbのLレベル期間が長くなる。
【0131】
制御パルス信号SDbは、
図15に示した昇圧チョッパ回路の下アーム素子のオンオフを制御する信号に対応する。制御パルス信号/SDbは、
図15に示した昇圧チョッパ回路の上アーム素子のオンオフを制御する信号に対応する。
【0132】
なお、デューティ比Dbは、電源PS2が電圧源として動作するための電圧フィードバック制御によって算出される。
図20に示した電源PS2についての制御動作は、
図2の電圧制御器42による制御動作に相当する。
【0133】
図21には、パラレル接続モードにおける各スイッチング素子の制御信号の設定が示される。
【0134】
図21を参照して、スイッチング素子S5〜S8のオンオフをそれぞれ制御するための制御信号SG5〜SG8は、電源PS1の電流制御のための制御パルス信号(SGa,/SGa)と、電源PS2の電圧制御のための制御
パルス信号(SGb,/SGb)とに基づいて設定される。具体的には、制御信号SG5〜SG8は、制御パルス信号間の論理演算に基づいて(より特定的には、論理和をとる態様)で設定される。
【0135】
スイッチング素子S5は、
図14および
図15の昇圧チョッパ回路の各々で上アーム素子を形成する。したがって、スイッチング素子S5のオンオフを制御する制御信号SG5は、制御パルス信号/SDaおよび/SDbの論理和によって生成される。
【0136】
この結果、スイッチング素子S5は、直流電源10を制御するための
図14の昇圧チョッパ回路の上アーム素子および、直流電源20を制御するための
図15の昇圧チョッパ回路の上アーム素子の両方の機能を実現するように、オンオフ制御される。
【0137】
スイッチング素子S6は、
図14の昇圧チョッパ回路では上アーム素子を形成し、
図15の昇圧チョッパ回路では下アーム素子を形成する。したがって、スイッチング素子S6のオンオフを制御する制御信号SG6は、制御パルス信号/SDaおよびSDbの論理和によって生成される。これにより、スイッチング素子S6は、
図14の昇圧チョッパ回路の上アーム素子および、
図15の昇圧チョッパ回路の下アーム素子の両方の機能を実現するように、オンオフ制御される。
【0138】
同様にして、スイッチング素子S7の制御信号SG7は、制御パルス信号SDaおよびSDbの論理和によって生成される。これにより、スイッチング素子S7は、
図14の昇圧チョッパ回路の下アーム素子および、
図15の昇圧チョッパ回路の下アーム素子の両方の機能を実現するように、オンオフ制御される。
【0139】
また、スイッチング素子S8の制御信号SG8は、制御パルス信号SDaおよび/SDbの論理和によって生成される。これにより、スイッチング素子S8は、
図14の昇圧チョッパ回路の下アーム素子および、
図15の昇圧チョッパ回路の上アーム素子の両方の機能を実現するように、オンオフ制御される。
【0140】
パラレル接続モードでは、制御信号SG6およびSG8が相補のレベルに設定されているので、スイッチング素子S6およびS8は相補的にオンオフされる。これにより、
図12に示したV[2]>V[1]のときの動作と、
図13に示したV[1]>V[2]の動作とが、自然に切替えられる。さらに、各動作において、スイッチング素子S5,S7が相補にオンオフされることにより、電源PS1,PS2のそれぞれにおいて、デューティ比Da,Dbに従ったDC/DC変換が実行できる。
【0141】
上述のように、実施の形態2によるコンバータ50をパラレル接続モードで動作させる場合には、直流電源10および直流電源20のそれぞれについてPWM制御が並列に実行される。ここで、直流電源10および直流電源20のPWM制御に使用されるキャリア信号の位相について説明する。
【0142】
図22は、パラレル接続モードでのPWM制御を説明するための動作波形図である。
図22を参照して、直流電源10のPWM制御に用いられるキャリア信号25aと、直流電源20のPWM制御に用いられるキャリア信号25bとは、同一周波数の周期信号である。実施の形態2の変形例による制御では、キャリア信号25aおよび25bの間の位相差φが制御される。
図22の例では、位相差φ=180度である。
【0143】
直流電源10の電圧または電流に基づいて算出されたデューティ比Daと、キャリア信号25aとの電圧比較に基づいて、制御パルス信号SDaが生成される。同様に、直流電源20の電流または電圧に基づいて算出されたデューティ比Dbと、キャリア信号25bとの比較に基づいて制御パルス信号SDbが求められる。制御パルス信号/SDa,/SDbは、制御パルス信号SDa,SDbの反転信号である。
【0144】
制御信号SG5〜SG8は、
図21に示した論理演算に従って、制御パルス信号SDa(/SDa)およびSDb(/SDb)の論理演算に基づいて設定される。制御信号SG5〜SG8に基づいてスイッチング素子S5〜S8をオンオフすることにより、リアクトルL3を流れる電流I(L3)およびリアクトルL4を流れる電流I(L4)が
図14に示すように制御される。電流I(L3)は直流電源10の電流I[1]に相当し、電流I(L4)は直流電源20の電流I[2]に相当する。
【0145】
PWM制御の原理から、位相差φを変化させても、制御パルス信号SDa,SDbの各々のHレベル期間の長さは変わらない。すなわち、位相差φに依存することなく、同一のデューティ比Da,Dbに対して、電流I(L3),I(L4)の平均値は等しくなる。このように、直流電源10,20の出力は、デューティ比Da,Dbによって制御されるものであり、キャリア信号25a,25bの位相差φを変化させても影響が生じない。
【0146】
一方で、位相差φに応じて、制御パルス信号SDa,SDbの位相関係は変化する。したがって、キャリア信号25a,25bの間の位相差φを変化させることにより、電流I(L3)および電流I(L4)の位相関係(電流位相)が変化する。
【0147】
図23には、リアクトルを通過する電流の位相と磁束密度との関係を説明する概念的な波形図が示される。
【0148】
図23を参照して、リアクトルL3,L4の電流I(L3),I(L4)の位相は、キャリア信号の位相差φに応じて変化する。
【0149】
リアクトルL3の磁束密度B(L3)は、電流I(L3)に比例し、リアクトルL4の磁束密度B(L4)は、電流I(L4)に比例する。コア150を流れるトータル磁束密度Bt(Bt=B(L3)+B(L4))の最大値である最大磁束密度Bmaxは、電流I(L3)+I(L4)の最大値に比例する。
【0150】
したがって、電流I(L3)の極大点と電流I(L4)の極小点との位相を一致させるように位相差φを制御することによって、電流I(L3)+I(L4)の最大値、すなわち、最大磁束密度Bmaxを抑制することができる。あるいは、反対に、電流I(L4)の極大点と電流I(L3)の極小点との位相を一致させるように位相差φを制御しても、トータル磁束密度の最大値Bmaxを抑制することができる。
【0151】
このように、コンバータ50に磁気部品100を適用してリアクトルL3,L4を構成した場合には、一方のリアクトルを通過する電流の極大点と、他方のリアクトルを通過する電流の極小点との位相が一致するように位相差φを制御することが、磁束密度の最大値を抑制する点から好ましい。
【0152】
なお、実施の形態1に従う電源システム5においても、コンバータ6,7のそれぞれについて、コンバータ50のパラレル接続モードと同様に制御することができる。すなわち、
図18〜20、
図22および
図23で説明したのと同様に、コンバータ6,7のそれぞれについて独立にPWM制御を実行し、かつ、両PWM制御で使用するキャリア信号間の位相差を制御することができる。したがって、電源システム5(
図1)に適用された磁気部品100においては、電流I(L1)およびI(L2)の一方の電流の極大点と、他方の電流の極小点との位相が一致するように位相差φを制御することによって、磁束密度の最大値を抑制することが可能である。
【0153】
なお、実施の形態2によるコンバータ50では、磁束密度の最大値を抑制するためにキャリア信号の位相差φを制御すると、スイッチング素子の損失低減についても図ることが可能となる。以下、その内容について詳細に説明する。
【0154】
まず、代表的な例として、直流電源10および20の両方が力行状態、すなわち電流I(L3)>0かつ電流I(L4)>0である状態での制御について説明する。
【0155】
図24は、コンバータ50においてパラレル接続モードにおけるスイッチング素子の損失を低減するための、実施の形態1による位相制御による電流位相を説明する波形図である。
【0156】
図24を参照して、時刻Taまでは、スイッチング素子S6〜S8がオンされるので、直流電源10,20の両方に対して、昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオンされた状態となる、このため、電流I(L3)およびI(L4)の両方は上昇する。
【0157】
時刻Taにおいて、スイッチング素子S6がターンオフされることにより、直流電源20に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオフされた状態となるので、電流I(L4)が下降を開始する。スイッチング素子S6のターンオフと入替わりに、スイッチング素子S5がターンオンされる。
【0158】
時刻Ta以降では、直流電源10に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオンされ、直流電源20に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオフされた状態となる。すなわち、電流I(L3)が上昇する一方で、電流I(L4)が下降する。このとき、コンバータ50での電流経路は、
図25(a)のようになる。
【0159】
図25(a)から理解されるように、時刻Ta以降では、スイッチング素子S8には、電流I(L3)およびI(L4)の差電流が通過することになる。すなわち、スイッチング素子S8の通過電流が小さくなる。
【0160】
再び
図24を参照して、時刻Ta以降の状態から、スイッチング素子S8がターンオフすると、直流電源10に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオフされた状態となるので、電流I(L3)が下降を開始する。また、スイッチング素子S6がターンオンすると、直流電源20に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオンされた状態となるので、電流I(L4)が再び上昇を開始する。すなわち、コンバータ50での電流経路が、
図25(a)の状態から、
図25(b)の状態に変化する。
図25(b)の状態では、スイッチング素子S6には、電流I(L3)およびI(L4)の差電流が通過することになるため、スイッチング素子S6の通過電流が小さくなる。
【0161】
図25(a)の状態でスイッチング素子S8をターンオフさせることにより、スイッチング素子S8のターンオフ時の電流、すなわち、スイッチング損失を低減できる。また、
図25(b)の状態でスイッチング素子S6をターンオンさせることにより、スイッチング素子S6のターンオン時の電流、すなわち、スイッチング損失を低減できる。
【0162】
ここで、電流I(L3)の下降開始タイミング(極大点)と、電流I(L4)の上昇タイミング(極小点)との位相が重なるように、電流位相、すなわち、キャリア信号25a,25bの位相差φを調整する。これにより、
図24の時刻Tbにおいて、スイッチング素子S6がターンオンされるとともに、スイッチング素子S8がターンオフされる。
【0163】
再び
図24を参照して、時刻Tcでは、スイッチング素子S5がターンオフされるとともに、スイッチング素子S8がターンオンされる。これにより、直流電源10,20の各々に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオンされた状態となる。これにより、上述した時刻Ta以前の状態が再現されて、電流I(L3)およびI(L4)の両方が上昇する。
【0164】
図26には、
図24に示した電流位相におけるスイッチング素子S6,S8の電流波形が示される。
図26(a)には、スイッチング素子S6の電流I(S6)の波形が示され、
図26(b)には、スイッチング素子S8の電流I(S8)の波形が示される。
【0165】
図26(a)を参照して、電流I(S6)は、時刻Taまでの期間および時刻Tc以降の期間では、I(S6)=I(L4)となる。時刻Ta〜Tbの期間では、スイッチング素子S6がオフされるので、I(S6)=0である。そして、時刻Tb〜Tcの期間では、
図25(b)に示したように、I(S6)=−(I(L3)−I(L4))となる。
【0166】
図26(b)を参照して、電流I(S8)は、時刻Taまでの期間および時刻Tc以降の期間では、I(S8)=I(L3)となる。時刻Ta〜Tbの期間では、
図25(a)に示したように、I(S8)=−(I(L4)−I(L3))となる。そして、時刻Tb〜Tcの期間では、スイッチング素子S8がオフされるので、I(S8)=0である。
【0167】
図27には、
図24と比較するための、
図24と同等のデューティ比の下でキャリア信号間の位相差φ=0としたときの電流位相が示される。
【0168】
図27を参照して、キャリア信号25a,25bの位相差φ=0のときには、電流I(L3),I(L4)が上昇/下降するタイミング(Tx,Ty,Tz,Tw)はそれぞれ別個のものとなる。
【0169】
具体的には、時刻Tx以前での、スイッチング素子S5がオフしスイッチング素子S6〜S8がオンしている状態では、電流I(L3)およびI(L4)の両方が上昇する。そして、時刻Txでスイッチング素子S8がターンオフすることによって、電流I(L3)が下降を開始する。スイッチング素子S5は、スイッチング素子S8のターンオフと入替わりにターンオンする。
【0170】
そして、時刻Tyでは
、スイッチング素子S7がターンオフすることによって、電流I(L4)が下降を開始する。スイッチング素子S8は、スイッチング素子S7のターンオフと入替わりにターンオンする。これにより、電流I(L3)およびI(L4)の両方が下降する。
【0171】
時刻Tzでは、スイッチング素子S6がターンオフするとともに、スイッチング素子S7がターンオンする。これにより、直流電源10に対して昇圧チョッパ回路の下アーム素子がオンした状態となるので、電流I(L3)が再び上昇する。さらに、時刻Twでは、スイッチング素子S5がターンオフするとともに、スイッチング素子S6がターンオンする。これにより、時刻Tx以前の状態が再現されるので、電流I(L3)およびI(L4)の両方が上昇する。
【0172】
図28には、
図27に示した電流位相におけるスイッチング素子S6,S8の電流波形が示される。
図28(a)には、スイッチング素子S6の電流I(S6)の波形が示され、
図28(b)には、スイッチング素子S8の電流I(S8)の波形が示される。
【0173】
図28(a)を参照して、電流I(S6)は、時刻Txまでの期間および時刻Tw以降の期間では、I(S6)=I(L4)となる。時刻Tx〜Tyの期間では、
図25(b)と同様の電流経路が形成されるので、I(S6)=−(I(L3)−I(L4))となる。そして、時刻Ty〜Tzの期間では、直流電源10に対する上アーム素子として動作するので、I(S6)=−I(L3)となる。電流I(L3),I(L4)の両方が下降する時刻Ty〜Tzの期間では、スイッチング素子S6は直流電源10に対して上アーム素子として動作するので、I(S6)=−I(L3)となる。時刻Tz〜Twの期間では、スイッチング素子S6がオフされるので、I(S6)=0である。
【0174】
図28(b)を参照して、電流I(S8)は、時刻Txまでの期間および時刻Tw以降の期間では、I(S8)=I(L3)となる。時刻Tx〜Tyの期間では、スイッチング素子S8がオフされるので、I(S8)=0である。電流I(L3),I(L4)の両方が下降する時刻Ty〜Tzの期間では、スイッチング素子S8は直流電源20に対する上アーム素子として動作するので、I(S8)=−I(L4)となる。時刻Tz〜Twの間では、
図25(a)と同様の電流経路が形成されるので、I(S6)=−(I(L4)−I(L3))となる。
【0175】
図26(a)の時刻Tbで生じる電流I(S6)と、
図28(a)の時刻Twで生じる電流I(S6)との比較から、
図24の電流位相となるように位相差φを調整することによって、スイッチング素子S6のターンオン電流、すなわち、ターンオン時のスイッチング損失が低減されることが理解される。さらに、
図26(a)の時刻Tb〜Tcでの電流I(S6)と、
図28(a)の時刻Ty〜Tzでの電流I(S6)との比較から、スイッチング素子S6の導通損失についても低減されることが理解される。
【0176】
同様に、
図26(b)の時刻Tbでの電流I(S8)と、
図28(b)の時刻Txでの電流I(S8)との比較から、
図24の電流位相となるように位相差φを調整することによって、スイッチング素子S8のターンオフ電流、すなわち、ターンオフ時のスイッチング損失が低減されることが理解される。さらに、
図26(b)の時刻Ta〜Tbでの電流I(S8)と、
図28(a)の時刻Ty〜Tzでの電流I(S8)との比較から、スイッチング素子S8の導通損失についても低減されることが理解される。
【0177】
このように、キャリア信号25a,25bの間に位相差φを設けることにより、スイッチング素子S5〜S8での損失を低減できる。
図24に示したように、直流電源10および20の両方が力行となる状態では、電流I(L3)の下降開始タイミング(極大点)と、電流I(L4)の上昇タイミング(極小点)との位相が重なるように、すなわち、スイッチング素子S6のターンオンタイミングと、スイッチング素子S8のターンオフタイミングとが一致するように、位相差φを設定することによって、スイッチング素子S5〜S8での損失が抑制される。この結果、直流電源10および20と電源配線PL(負荷30)との間の直流電力変換を高効率で実行することができる。このような位相差φでは、制御パルス信号SDaの立下りタイミング(または立上りタイミング)と、制御パルス信号SDbの立上りタイミング(または立下りタイミング)とが重なることになる。
【0178】
制御パルス信号SDa,SDbは、デューティ比Da,Dbによって変化する。したがって、
図24のような電流位相が実現できる位相差φについても、デューティ比Da,Dbに応じて変わることが理解できる。このため、デューティ比Da,Dbと、スイッチング素子の損失を低減するための位相差φとの関係を予め求めるとともに、その対応関係を予めマップ(位相差マップ)あるいは関数式(位相差算出式)として制御装置40に記憶することが可能である。
【0179】
そして、パラレル接続モードにおける、直流電源10,20での電圧/電流制御のためのPWM制御において、算出されたデューティ比Da,Dbに基づいて、位相差マップまたは位相差算出式に従って、キャリア位相制御のための位相差φを算出することができる。そして、算出された位相差φを有するようにキャリア信号25a,25bを発生させてPWM制御を実行することにより、スイッチング素子S5〜S8での損失を抑制した高効率の直流電力変換を実現することができる。
【0180】
図24〜
図28では、直流電源10および20の両方が力行の状態を説明したが、その他の状態においても、同様のキャリア位相制御が実行できる。
【0181】
図29は、直流電源の各動作状態における本発明の実施の形態1に従うキャリア位相制御を説明するための図表である
図29を参照して、状態Aでは、上述した、直流電源10および20の両方が力行状態である。
図24に示したように、電流I(L3)の下降タイミング(極大点)と、電流I(L4)の上昇タイミング(極小点)とが図中のTbで重なるような電流位相となるように、キャリア信号の位相差φを調整する。これにより、Tbにおけるスイッチング素子S6のターンオン損失およびスイッチング素子S8のターンオフ損失を低減できる。さらに、上述のように、Ta〜Tbの期間におけるスイッチング素子S8の導通損失および、Tb〜Tcの期間におけるスイッチング素子S6の導通損失を低減することができる。
【0182】
状態Bでは、直流電源10および20の両方が回生状態である。この状態では、電流I(L3)の上昇タイミング(極小点)と、電流I(L4)の下降タイミング(極大点)とが図中のTbで重なるような電流位相となるように、キャリア信号の位相差φを調整する。これにより、Tbにおけるスイッチング素子S8のターンオン損失およびスイッチング素子S6のターンオフ損失を低減できる。さらに、上述のように、Ta〜Tbの期間におけるスイッチング素子S6の導通損失および、Tb〜Tcの期間におけるスイッチング素子S8の導通損失を低減することができる。
【0183】
状態Cでは、直流電源10が回生状態である一方で、直流電源20は力行状態である。この状態では、電流I(L3)の下降タイミングと、電流I(L4)の下降タイミングとが図中のTaで重なるような電流位相となるように、キャリア信号の位相差φを調整する。これにより、Taにおけるスイッチング素子S7のターンオン損失およびスイッチング素子S5のターンオフ損失を低減できる。さらに、上述のように、Ta〜Tbの期間におけるスイッチング素子S5の導通損失および、Tc〜Taの期間におけるスイッチング素子S7の導通損失を低減することができる。
【0184】
さらに、状態Dでは、直流電源10が力行状態である一方で、直流電源20は回生状態である。この状態では、電流I(L3)の上昇タイミングと、電流I(L4)の上昇タイミングとが図中のTcで重なるような電流位相となるように、キャリア信号の位相差φを調整する。これにより、Tcにおけるスイッチング素子S5のターンオン損失およびスイッチング素子S7のターンオフ損失を低減できる。さらに、上述のように、Tb〜Tcの期間におけるスイッチング素子S5の導通損失および、Tc〜Taの期間におけるスイッチング素子S7の導通損失を低減することができる。
【0185】
このように、状態A〜Dの各々において、電流I(L3)およびI(L4)のいずれかの極点と、他方の電流の極点とが同じになる(すなわち、位相が重なる)ような、キャリア信号の位相差φを設定することによって、スイッチング素子S5〜S8での損失を低減することができる。さらに、直流電源10および20の力行/回生状態の組合せによって、スイッチング素子S5〜S8での損失を低減するための位相差φが異なることが理解される。したがって、コンバータ50のパラレル接続モードでは、力行/回生状態の組合せ(
図29での状態A〜D)ごとに、上述した、位相差マップまたは位相差算出式を設定することが好ましい。
【0186】
このように、本実施の形態2の変形例によるコンバータ50の制御では、コンバータ50の動作状態、具体的には、直流電源10,20の電流/電圧制御のためのデューティ比、あるいは、当該デューティ比と直流電源10,20の力行/回生状態とに応じて、キャリア信号25a,25bの間の位相差φを制御する。
【0187】
特に、直流電源10および20が揃って力行または回生状態となる状態AおよびBでは、上記位相差マップまたは位相差算出式に従って、
図29に示した電流位相が実現されるように位相差φを制御することによって、電流I(L3)およびI(L4)の一方の極大点と他方の極小点との位相が重なるようになる。上述のように、このような位相差φでは、制御パルス信号SDaの立下りタイミング(または立上りタイミング)と、制御パルス信号SDbの立上りタイミング(または立下りタイミング)とが重なることになる。これにより、スイッチングに依存する損失低減に加えて、リアクトルL3,L4を一体的に構成した磁気部品100の最大磁束密度Bmaxを抑制できる。これにより、コア断面積を小さくすることが可能となるので、さらなる小型軽量化を図ることが可能となる。
【0188】
以上、実施の形態1および2では、本実施の形態による磁気部品100が適用される、2個のリアクトルを含むコンバータ(電力変換器)および電源システムの構成例を例示した。しかしながら、本発明の適用は、これらの電力変換器および電源システムに限定されるものではない。すなわち、互いに独立に電流が制御される電流経路にそれぞれ含まれる2個のリアクトルを含む限り、任意の回路構成に対して、本実施の形態による磁気部品を適用することができる。これにより、電力変換器および電源システムに含まれる2個のリアクトルを一体的に構成することによって、装置の小型軽量化を図ることができる。
【0189】
また、負荷30は、制御された直流電圧Voによって動作する機器であれば、任意の機器によって構成できる点について確認的に記載する。すなわち、本実施の形態では、電気自動車やハイブリッド自動車等に搭載される走行用電動機およびインバータによって負荷30が構成される例に言及したが、本発明の適用はこのような場合に限定されるものではない。
【0190】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。