特許第5714552号(P5714552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714552
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】三次元素地品を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   C04B35/00 E
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-255306(P2012-255306)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2013-241320(P2013-241320A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年4月19日
(31)【優先権主張番号】101118038
(32)【優先日】2012年5月21日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509188942
【氏名又は名称】国立台北科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】湯華興
【審査官】 原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−085839(JP,A)
【文献】 特開平08−091941(JP,A)
【文献】 特開2003−137660(JP,A)
【文献】 特開2001−253763(JP,A)
【文献】 特開昭59−064579(JP,A)
【文献】 特開2009−252441(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0323301(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0119017(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0075197(US,A1)
【文献】 米国特許第06217816(US,B1)
【文献】 TANG,Hwa-Hsing,Building Ultra-Thin Layers by Ceramic Laser Sintering,Materials Transactions,日本,日本金属学会,2006年,Vol.47, No.3, pp.889-897
【文献】 Tang,Hwa-Hsing et al.,Slurry-based selective laser sintering of polymer-coated ceramic powders to fabricate high strength alumina parts,Journal of the European Ceramic Society,英国,Elsevier;European Ceramic Society,2011年,Vol.31, pp.1383-1388
【文献】 YEN,Hsiao-Chuan et al.,Laser scanning parameters on fabrication of ceramic parts by liquid phase sintering,Journal of the European Ceramic Society,英国,Elsevier;European Ceramic Society,2009年,Vol.29, pp.1331-1336
【文献】 Tang,Hwa-Hsing et al.,Ceramic laser gelling,Journal of the European Ceramic Society,英国,Elsevier;European Ceramic Society,2005年,Vol.25, pp.627-632
【文献】 TANG,Hwa-Hsing et al.,Ceramic Parts Fabricated by Ceramic Laser Fusion,Materials Transactions,日本,日本金属学会,2004年,Vol.45, No.8, pp.2744-2751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 無機粉末、結合剤及び溶媒を含むスラリー組成物を提供するステップと、
(b) 前記スラリー組成物でできているスラリー層を形成するステップと、
(c) 前記スラリー層の上面から前記スラリー層の前記溶媒を除去して、複数の孔を有する素地層を前記スラリー層から形成するようにするステップと、
(d) 充分な出力を有するエネルギービームにより所定の線形の第一走査経路に沿って前記素地層を走査して、前記結合剤を気化又は燃焼させて、気化した結合剤又は燃焼した結合剤が前記孔を通じて前記素地層から流出する一方で、前記結合剤によって結合していない前記無機粉末を残留させるステップと、
(e) ステップ(b)から(d)を繰り返し、前記素地層を重ねることで複数の素地層を形成し、複数回の走査ステップを通じて順次走査するステップと、を含み、
前記孔は、前記素地層の上面と相互接続し且つ流体連通しており、
前記素地層における走査された部分は、前記第一走査経路に沿って第一犠牲領域を形成し、
前記素地層における未走査部分は、工作部分と廃棄部分とに分けられ、
前記工作部分と前記廃棄部分は、前記第一犠牲領域によって各々分離される、三次元素地品を生産する方法。
【請求項2】
後に実行した前記走査ステップにおいて使用した前記第一走査経路は、前に実行した前記走査ステップにおいて使用した前記第一走査経路と重複する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(e)において形成される前記素地層の各々は、厚さ(t)を有し、
ステップ(e)において形成される前記第一犠牲領域の各々は、ステップ(e)において形成される前記素地層のうちの対応する層の上面からの深さである深さ(D1)を有し、
前記深さ(D1)は、前記厚さ(t)と同じかそれよりも大きい、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)において形成される前記素地層は、厚さ(t0)であり、
t0>2tである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記スラリー組成物において、前記結合剤は、前記無機粉末の体積を基準にして、10から30体積%の量として存在し、
前記溶媒は、前記スラリー層の前記結合剤を、前に実行した前記走査ステップにおいて形成された下層の素地層へ深さ(d1)までもたらすのに充分な量で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
D1≧t+d1である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
d1は、tに等しい、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(d)は、前記結合剤を気化又は燃焼させるのに充分な出力を有するエネルギービームにより所定の線形の第二走査経路に沿って前記廃棄部分を走査し、これによって気化した結合剤又は燃焼した結合剤が前記孔を通じて前記素地層から流出する一方で、前記結合剤と結合していない前記無機粉末の無機粒子を残留させて前記第二犠牲領域が形成されるようにするステップを更に含み、
後に実行した前記走査ステップにおいて使用した前記第二走査経路は、上部-底部方向において、先に実行した前記走査ステップにおいて使用した前記第二走査経路と重複する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(e)において形成される前記素地層の各々は、厚さ(t)を有し、
ステップ(e)において形成される前記第二犠牲領域の各々は、ステップ(e)において形成される前記素地層のうちの対応する層の上面からの深さである深さ(D2)を有し、
前記深さ(D2)は、厚さ(t)と同じかそれよりも大きい、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スラリー組成物において、前記結合剤は、前記無機粉末の体積を基準にして10から30体積%の量として存在し、
前記溶媒は、前記スラリー層の前記結合剤を、前に実行した前記走査ステップにおいて形成された下層の素地層へ深さ(d1)までもたらすのに充分な量で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
D2≧t+d1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(e)の後に前記第一犠牲領域に沿って前記廃棄部分から前記工作部分を分離するステップ(f)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記無機粉末は、1μm以下の平均粒径を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
1.発明の技術分野
本発明は、素地品を生産する方法、特に三次元素地品を生産する方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2012年5月21日に出願された台湾出願番号101118038の優先権を主張する。
【0003】
2.関連技術の説明
三次元素地品を生産する従来型の方法には、加圧焼結製造法(高い圧力を加える必要がある)、粉末射出成形法(高い圧力を加えることと結合剤を加えることを必要とする)、及び鋳込み成形法(結合剤を用いるが圧力を加える必要はない)が挙げられる。圧力を加えるステップには、圧力を生み出す機械と圧力抵抗性の高い型を必要とする。対照的に、加圧しない方法では、単に圧力抵抗性の低い型(例えば、鋳込み成形用の石膏型)が必要になる。
【0004】
近年では、ラピッドプロトタイピング技術が発展してきている。この特徴は、堆積の原理を用いて三次元工作物を生産することである。一般に、ラピッドプロトタイピング技術には、コンピュータに保存されたレイヤー-スライシングデータに基づいて複雑な二次元作業経路に沿って用具を動かして複数の素地層を形成するステップと、続いて、素地層を積み重ねて相互に接続し、三次元工作物を形成するステップとが含まれる。かかる技術の特徴は、極めて複雑な形状の工作物に関して型を使用せずに作成できるという点にある。型を必要としないので、圧力を加えない製造法である。従って、素地品を形成させるために粉末粒子を結合するための結合剤が必要になる。その後、緻密化焼結ステップを実施して所望の強度の工作物を生産する。
【0005】
ラピッドプロトタイピング技術において、作業経路は、種々の用具(例えば、三次元印刷(3DP)法用のノズル、熱溶解積層(FDM)法用の押出ヘッド、並びに選択的レーザー焼結(SLS)及びステレオリソグラフィー(SLA)法用のエネルギービーム)を使用して作成できる。エネルギービームを用いた三次元素地品を生産する方法は、アディティブ法及びサブトラクティブ法に分類できる。アディティブ法の特徴は、エネルギービームによって走査された素地層の一部が結合し素地品の一部を形成するという点にある。アディティブ法の例としては、SLA、SLS及びスラリーを基礎とする選択的レーザー焼結法が挙げられる。サブトラクティブ法の特徴は、エネルギービームによって走査された素地層の一部が取り除かれ、エネルギービームによって走査されていない他の部分が素地品の一部になるという点にある。サブトラクティブ法の例としては、薄膜積層(LOM)法、薄膜積層エンジニアリング材料のコンピュータ支援製造(CAM-LEM)法等が挙げられる。
【0006】
図1を参照する。US特許出願公開番号第2004/0075197号において、この発明の出願人は、素地品17を生産する方法を開示している。上記方法は、スラリーを基礎とする選択的レーザー焼結法に基づくものであり、
(A) セラミック粉末、溶解剤及び酸化物ゾルを共に混合してスラリー組成物11を形成するステップと、
(B) プラットフォーム12上にスラリー組成物11を置き、水平方向(X)に沿ってブレード13を動かしてプラットフォーム12上のスラリー組成物11をならしてスラリー層14を形成するステップと、
(C) レーザービーム15を用いて所定の平面(即ち、二次元)走査経路に沿ってスラリー層14に照射して、その結果、レーザービーム15により照射を受けたスラリー層14の酸化物ゾルがゲル化してセラミック粉末が結合し、二次元セラミック素地層16が形成されるステップと、
(D) ステップ(B)及び(C)を所定の回数繰り返して、複数の素地層16を形成し、続いて、レーザービーム15を用いて素地層16を結合させて三次元セラミック素地品17を形成するステップと、
(E) ステップ(D)の後に三次元セラミック素地品17を水18に浸漬し、未ゲル化酸化物ゾルを溶解させることで三次元セラミック素地品17を得るステップと、を含む。
【0007】
US2004/0075197にて開示される方法によると、スラリー層14は、ステップ(C)において所定の平面(即ち、二次元)走査経路に沿って照射される。特に、完成したセラミック素地品17の体積が大きいほど、平面走査経路によって規定される走査領域が広くなることに留意されたい。従って、完成したセラミック素地品17を形成する作業時間は、比較的長いことが予想される。
【0008】
以上から、三次元セラミック素地品を生産するための作業時間を減らすことで、三次元セラミック素地品の生産費用を減少させることが好ましい。その結果、大きな工作物を生産する技術の費用対効果が高くなる。
【0009】
三次元工作物がサブトラクティブ法であるLOM又はCAM-LEMによって生産される場合、工作物における線形の輪郭をレーザーによって走査することで作業時間を節約する。しかしながら、US 4,752,352に開示されるLOM法は、例えば、紙、プラスチック、金属又はセラミック物質を用いて三次元工作物を生産するのに適している。これとは対照的に、US 5,779,833に開示されるCAM-LEM法は、特に無機素地品を生産するのに適している。
【0010】
CAM-LEM法は、機器(例えば、テープ鋳造機)において薄板を製造し、レーザカット機器を用いて上記板を切断し切断形状の工作物にするステップを含む。次に、上記板の工作物を結合剤の使用により積層して、その後乾燥させる。そして、積層法を繰り返して三次元スタックを形成させる。最後に、三次元スタックを押圧によって圧縮し、三次元スタックの層を互いに密着させて、その後の焼結法において互いに結合できるようにする。従って、CAM-LEM法は複雑であり、種々の加工現場での作業を必要とする。さらに、複数の装置もCAM-LEM法において必要とされる。
【0011】
LOM法は、装置(例えば、テープ鋳造機)において薄板を製造し、上記板を作業台に接着させて、次にレーザーによってカットするステップを含む。LOM法では、必要とする装置と加工現場がより少ないが、同様に薄板を積層させて結合させる必要がある。薄板間の結合が良好であるか否かは、素地品の微細構造と焼結強さに影響を与える可能性がある。
【0012】
US 5,779,833によると、薄板間に配置される接着層によってか、結合剤を溶かした溶剤を接着剤として薄板に使用するかして、薄板を結合させ、そして圧縮加熱して薄板を確実に結合させる。しかしながら、接着層は、このように作られる積層体中に形成される。そのため、積層体から作られる素地品の微細構造は均一ではない可能性がある。さらに、溶剤の使用は、素地品の組成を変えず、接着層を必要としないが、乾燥した硬質薄板において結合剤が溶けるのにはより長い時間を必要とし、結合強度を適切に制御することができない。
【0013】
上述した方法を用いても薄板を密着させられないため、CAM-LEM法においては薄板のスタックを更に圧縮させることが提示されている。この場合、押圧と型が必要である。加えて、応力勾配が圧縮に起因して生じることで、結果として密度が不均一になることは当業者にとって周知である。より一様な密度の素地品は、静水圧プレス成形によって得ることができるが、静水圧プレス成形の実施は装置費用を増加させる可能性がある。加えて、静水圧プレス成形には型が必要であるため、複雑な形状又は微細な特徴を有する工作物に対する特定の型を提供することは比較的都合の悪いことである。問題の解決策は、工作物に対して補完する断面を有する犠牲材料を使用して単純な方形を形成することである。従って、圧縮工程において使用する型は、単純な方形を有していてもよい。圧縮工程が実行されたあと、犠牲材料と工作物を各々分離することができる。しかしながら、この方法においては、型を使用する必要がある。
【0014】
上述したCAM-LEM法の観点から、多数の装置が必要となるだけでなく、圧縮ステップ用の型が複数の加工現場で必要とされる。従って、必要な装置の数を減らし、圧縮ステップを実行することなく、そして型を使用することなく薄板の接着強さを向上させることが望ましい。
【0015】
発明の開示
従って、本発明の目的は、先行技術に関する上述した不利益を解決することができる三次元素地品を生産する方法を提供することである。
【0016】
本発明によれば、三次元素地品を生産する方法は、
(a) 無機粉末、結合剤及び溶媒を含むスラリー組成物を提供するステップと、
(b) スラリー組成物でできているスラリー層を形成するステップと、
(c) スラリー層の上面からスラリー層の溶媒を除去して、複数の孔を有する素地層をスラリー層から形成するようにするステップと、
(d) 充分な出力を有するエネルギービームを用いて所定の線形第一走査経路に沿って素地層を走査して、結合剤を気化又は燃焼させて、気化した結合剤又は燃焼した結合剤が孔を通じて素地層から流出する一方で、結合剤によって結合していない無機粉末を残留させるステップと、
(e) ステップ(b)から(d)を繰り返し、素地層を重ねることで複数の素地層を形成し、複数回の走査ステップを通じて順次走査するステップと、を含み、
上記孔は、素地層の上面と相互接続し且つ流体連通しており、
素地層における走査された部分は、第一走査経路に沿って第一犠牲領域を形成し、素地層の未走査部分は、工作部分と廃棄部分とに分けられ、
工作部分と廃棄部分は、第一犠牲領域によって各々分離される、方法である。
【0017】
本発明に関する他の特徴及び効果は、添付の図面を参照しながら、以下の本発明の好適な実施形態における詳細な説明において明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、US2004/0075197に開示される無機素地品を生産する方法を図示している流れ図である。
【0019】
図2図2は、本発明による三次元素地品を生産する方法の好適な実施形態を図示している流れ図である。
【0020】
図3図3は、走査ステップの好適な実施形態を図示している模式的な斜視図であり、エネルギービームは、所定の走査経路に沿って素地層を走査するために用いられる。
【0021】
図4図4は、好適な実施形態の方法のスラリー層を形成するステップとスラリー層の溶媒を除去するステップが実施されるときにおける、溶媒と結合剤の浸透状況と、結合剤と無機粉末との接着関係を図示している流れ図である。
【0022】
図5図5は、先に実施したステップと後に実施したステップにおいて形成された2つの第一犠牲領域のそれぞれの関係を図示している流れ図である。
【0023】
図6図6は、走査ステップで用いた不適切なパラメーターに起因する無機粉末の望ましくない崩壊事象と、素地層の望ましくない構造を図示する。
【0024】
図7図7は、適切なパラメーターを好適な実施形態の方法の走査ステップで用いたときに生産される素地層の完全な構造を図示している流れ図である。
【0025】
図8図8は、一連の走査ステップで形成されるいくつかの第二犠牲領域間の関係を図示している線図である。
【0026】
好適な実施形態の詳細な説明
図2、3及び4を参照する。本発明の三次元素地品5を生産する方法の好適な実施形態は、
(a) 無機粉末21、結合剤22及び溶媒23を含むスラリー組成物2を提供するステップと、
(b) スラリー組成物2でできているスラリー層20を作業台上に形成するステップと、
(c) スラリー層の上面からスラリー層の溶媒を除去して、複数の孔を有する素地層をスラリー層から形成するようにするステップと、
(d) 充分な出力を有するエネルギービームを用いて所定の線形第一走査経路に沿って素地層を走査して、結合剤を気化又は燃焼させて、気化した結合剤又は燃焼した結合剤が孔を通じて素地層から流出する一方で、結合剤によって結合していない無機粉末を残留させるステップと、
(e) ステップ(b)から(d)を繰り返し、素地層を重ねることで複数の素地層3を形成し、複数回の走査ステップを通じて順次走査するステップと、を含み、
上記孔は、素地層の上面と相互接続し且つ流体連通しており、
素地層における走査された部分は、第一走査経路に沿って第一犠牲領域を形成し、素地層の未走査部分は、工作部分と廃棄部分に分けられ、
工作部分と廃棄部分が第一犠牲領域によって各々分離される、方法である。
好ましくは、本発明の方法の好適な実施形態は、ステップ(e)の後に第一犠牲領域301に沿って廃棄部分312から工作部分311を分離するステップ(f)を更に含む。
【0027】
スラリー組成物2において、結合剤22と溶媒23との組合せは、以下で液体と称する。
【0028】
図4を参照する。ステップ(e)において繰り返したステップ(b)の各々において、スラリー層20を敷き詰めた後、スラリー層20における溶媒23の一部と結合剤22の一部(即ち、液体の一部)は、下層の素地層3(深さd1)の方へ下向きに浸透する。
【0029】
ステップ(e)において繰り返したステップ(c)の各々において、溶媒23が上方へ気化することで、相互に接続し且つ外部環境と接続した孔が形成される。このステップで溶媒が気化するにつれて、下層の素地層3に浸透した結合剤22は残留し、下層の素地層3の無機粉末21と結合する。同時に、上層のスラリー層20が乾燥する(即ち、溶媒が除去される)につれて、下方へ浸透していない結合剤22の一部は上層の素地層3を形成するように無機粉末21と結合する。この乾燥した素地層3は、厚さ(t)を有する。これは、スラリー層20よりも薄い。本発明では、d1とtとの合計は、接着厚(tb)と称する。
【0030】
このようにして、上層の素地層3と下層の素地層3は、下層の素地層3に浸透した結合剤22によって、シームレス結合を形成する。
【0031】
浸透深さ(d1)は、スラリー層20の溶媒の量と明確に関連する。厚い浸透厚(d1)は、より多量の溶媒を示すものであり、結果として乾燥時間がより長くなり、素地層3に望ましくない隙間を引き起こす可能性がある。逆に、薄い浸透厚(d1)は、少量の溶媒を示す。このような場合、乾燥時間を短縮させることができるが、これによって、形成される素地層3を平滑面とすることができない可能性がある。一般的には、浸透厚(d1)は、素地層3の厚さ(t)の2から3倍の範囲内にある。原則として、シームレス結合は、浸透厚(d1)が素地層3の厚さ(t)に等しいときに達成することができる。このような場合、乾燥時間を短縮することができる。従って、好ましくは、浸透厚(d1)は、素地層3の厚さ(t)に等しい。
【0032】
図5を参照する。ステップ(c)において形成される素地層3(即ち、素地層3のうちの最も下の層)は、厚さ(t0)を有し、ステップ(e)(図5の(e-c)を参照)において形成される素地層3の各々は、厚さ(t)を有する。そして、本発明の方法で形成される第一犠牲領域301の各々は、素地層3のうちの対応する層の上面からの深さである深さ(D1)を有する。深さ(D1)は、レーザービームの走査深さとして規定することもできる。本発明では、深さ(D1)は、厚さ(t)よりも大きければ好ましい。好ましくは、レーザー走査深さ(D1)は、結合厚(tb = t+d1)よりも大きいかその厚さと等しい。
【0033】
走査された部分の結合剤22(即ち、第一犠牲領域301)は気化又は燃焼するため、粉末21の結合強度は、未走査部分(即ち、工作部分311と廃棄部分312)と比べて比較的弱い点に留意すべきである。D1がtよりも大きくtbよりも小さい場合には、浸透した結合剤22は完全には除去されないが、走査された部分において浸透した結合剤22の量は未走査部分のその量よりも更に少ない。従って、走査された部分における粉末21の結合強度は、未走査部分のそれよりも弱い。D1がtbよりも大きい場合、走査された部分において浸透した結合剤22は完全に除去され、走査された部分の結合強度は比較的弱い(結合強度があるとは、ほとんどみなすことができない)。かかる2つの状況は、次の実施例によって説明される。
【0034】
作業台が平らではないかもしれないため、厚い基層を形成してもよい点に留意されたい。この基層は、無機粉末、結合剤及び溶媒を含むセラミック組成物から作られる。セラミック組成物における無機粉末、結合剤及び溶媒は、スラリー組成物2のそれらと同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
本発明の好適な実施形態において使用される無機粉末21は、セラミック粉末又は金属粉であってもよい。本発明の一実施例において、無機粉末21は、イットリア部分安定化ジルコニア(YPSZ)でできているセラミック粉末である。スラリー組成物2の結合剤22及び溶媒23は、素地品の分野において一般的に用いられるものとすることができる。本発明の一実施例において、結合剤はポリビニルアルコール(PVA)であり、溶媒は水である。
【0036】
ステップ(d)において使用するエネルギービーム4は、ビーム直径が通常は0.2mmから0.3mmにわたるCO2パルスレーザービームである。素地層3がCO2パルスレーザービームで走査される場合、レーザー走査速度とレーザー出力は、素地層3の結合剤22を除去しつつ、結合剤22により結合していない無機粉末21をその本来の位置に残すことができるように制御されなければならない。
【0037】
後に実施した走査ステップ(d)において用いた第一走査経路41は、先に実施した走査ステップ(d)において用いた第一走査経路41と重複するため、先に実施したステップ(d)と後に実施したステップ(d)で形成された第一犠牲領域301は互いに重複する。
【0038】
なお、繰り返したステップ(d)の各々において形成される第一犠牲領域301において、各素地層3の結合剤22は除去され、エネルギービーム4によって走査される各素地層3の無機粉末21はその本来の位置のままである。従って、繰り返したステップ(b)の各々におけるスラリー層20は、その上に形成されるスラリー層20のための支持体として使用することができる。この結果、素地層3の無機粉末21は、下層の素地層3上に効率的且つ均一に形成できる。
【0039】
スラリー組成物2において、結合剤22は、無機粉末21の体積を基準にして、10から30体積%の量で存在することが好ましい。溶媒23は、スラリー層20の結合剤22を下層の素地層3へ深さ(d1)までもたらすのに充分な量で存在する。前述の通り、好ましくは、d1はtに等しい。
【0040】
図6に示すように、走査ステップ(d)において、レーザー走査速度とレーザー出力が適切に制御されない場合、無機粉末21は崩壊するだろう。それによって、図6-1に示すように、走査された第一犠牲領域301に溝303が形成される。その後で、図6-2に示すように、無機粉末21、結合剤22及び溶媒23で構成されるスラリー層20は、溝303を有する素地層3に加えられ、溝303内に流入する。図6-3に示すように、溶媒23が除去された後、凹凸のある表面が得られる。従って、素地品5の形状に望ましくない影響を受ける可能性がある。更に、溝303を満たした材料には、本発明の第一犠牲領域301にとって所望の材料ではない結合剤22の一部が含まれる。従って、結果として形成される第一犠牲領域301にはムラがあり、結合剤22の存在により除去が困難である。更に、図2(e)に示すように、傾斜を有する素地品5を生産する場合、下層の素地層3における第一犠牲領域301に加えて、それによってサポートされる上層のスラリー層20の一部は、工作部分311(即ち、素地品5の一部)を形成する。従って、無機粉末21が崩壊して溝303が形成されると、適切な支持体が上層のスラリー層20に提供されず、工作部分311を完全に形成することができない。
【0041】
従来法においては、犠牲材料を溝303に満たして上層のスラリー層20をサポートすることができるが、かかるステップは作業時間、犠牲材料及び溝303に犠牲材料を満たすための道具に対する追加費用を必要とするだけでなく、小さな溝303を犠牲材料で満たす正確な技術も要求される。逆に、本発明の方法においては、レーザー条件が良好に制御され無機粉末21をその本来の位置に保つため、かかる追加のステップを必要としない。従って、本発明は、単純であるが効果的解決策を提供する。
【0042】
図7は、第一犠牲領域301の完全な構造を図示する。これは、好適な実施形態の方法において走査ステップで適切なパラメーターが使われるときに生産される。図7-1は、本発明の第一犠牲領域301の断面図である。追加のスラリー層20を第一犠牲領域301に加えると、図7-2に示すように、上層のスラリー層20における溶媒23の一部は結合剤22の一部を運搬し、下層の素地層3における第一犠牲領域301の孔に浸透すると共に無機粉末21、残留結合剤22及び残留溶剤23のすべては、上層のスラリー層20に留まる。溶媒23を除去した後、結合剤22は、上層の無機粉末21と、下層の素地層3における第一犠牲領域301の無機粉末21に結合する(図7-3を参照)。下層の素地層3における第一犠牲領域301は、この好適な実施形態において支持体として機能することから、上層のスラリー層20は、均一に敷き詰めることができる。生じた素地層3も均一に形成されることから、完全な素地品5の取得が可能である。
【0043】
図7-3に示すように、本発明において、上層のスラリー層20の結合剤22と溶媒23の浸透は、制御されている。その結果、先に実行した走査ステップ(d)において形成された第一犠牲領域301(図7-1に図示)は、上層のスラリー層20から下向きに浸透する結合剤22及び溶媒23によって完全には満たされない。更に、第一犠牲領域301を連続的に接続するために、後に実行した走査ステップ(d)において用いた第一走査経路41が先に実行した走査ステップ(d)において用いた第一走査経路41と重複したほうがよいという条件は別にして、深さ(D1)は、結合厚(tb=t+ d1)と同じかそれよりも大きくしたほうがよい。d1がtに等しいと、D1は2tと同じかそれよりも大きい。
【0044】
図2(e)に示すように、上述した特定の設計条件に基づくと、連続的に接続された第一犠牲領域301によって、素地層3の未走査部分31における廃棄部分312と工作部分311は、三次元素地品5を得るために重複する第一犠牲領域301に沿って分離することができる。
【0045】
図3及び図8を参照する。本発明の好適な実施形態において、ステップ(d)は、結合剤22を気化又は燃焼させるための走査速度と適切な出力を有するエネルギービーム4により所定の線形第二走査経路42に沿って素地層3の未走査部分31における廃棄部分312を走査し、これによって気化した結合剤22又は燃焼した結合剤22が孔を通じて素地層3から流出する一方で、結合剤22と結合していない無機粉末21が第二犠牲領域302を形成するように残留させるステップを含む。後に実行した走査ステップにおいて用いた第二走査経路42は、先に実行した走査ステップにおいて用いた第二走査経路42と重複する。本発明の一実施例において、後に実行した走査ステップにおいて用いた第二走査経路42は、先に実行した走査ステップおいて用いた第二走査経路42と完全に並行にする。繰り返したステップ(d)の各々において形成される第二犠牲領域302の各々は、素地層3のうちの対応する層の上面からの深さである深さ(D2)を有する。深さ(D2)は、厚さ(t)よりも大きければ好ましい。上述の通り、2つの隣接する第二犠牲領域302を重複させるために、D2は結合厚(tb=t+d1)と同じかそれよりも大きいことが好ましい。
【0046】
無機粉末21は、1μmと同じかそれよりも小さい平均粒径が好ましい。このようにすれば、より高い毛細管力が無機粉末21の粒子の間に生じ、無機粉末21の粒子を互いに確実に当接させる。
【0047】
本発明の特徴は、溶媒23が結合剤22を運搬して下層の素地層3に浸透し、その結果、結合剤22が下層の素地層3に結合することによって、素地層3において隣接する任意の2層がシームレスに結合することである。しかしながら、結合剤22と溶媒23があまりにも深く浸透すると、その除去はより困難になる。一方、下層の第一及び第ニ犠牲領域301、302は、結合剤22及び溶媒23によって完全に再充填されてもよい。即ち、最初は単に無機粉末で構成されていた下層の第一及び第ニ犠牲領域301、302の特性が、素地層の未走査部分(即ち、無機粉末及び結合剤で構成される部分)の特性になる。これによって、第一及び第ニ犠牲領域301、302が消失するという結果となる。従って、連続的に接続した第一犠牲領域301の構造と連続的に接続した第二犠牲領域302の構造はもたらされず、予期される形状の素地品5は得られないだろう。
【0048】
更に、前述のとおり、レーザー走査深さ(D1)は、tbと同じかそれよりも大きければ好ましい。tbがあまりにも大きいと、走査時間をより長くし、そしてレーザー出力をより大きくする必要がある。従って、スラリー層20を均一に敷き詰めることができる限り、スラリー層20における液体の含有率はできるだけ少なくしたほうがよい。
【0049】
好ましい結合厚(tb)は、2tである。即ち、d1はtに等しい。次の方程式(a)を用いて、d1がtに等しい場合における液体の含有率を得ることができる。
【0050】
【数1】
【0051】
方程式(a)を用いて、未走査部分に敷き詰められたスラリー層20の場合の体積関係を説明する(図4を参照)。Vb及びVsは、それぞれ、各スラリー層20の結合剤22と溶媒23の体積である。そして、Vvは、結合剤22を除いた後の素地層3の間隙体積である。
【0052】
方程式(a)の左側(浸透した液体の体積を表したものであり、総液体体積から間隙体積(Vv)を引いたものに等しい)は、溶媒23を除去(結合剤22はまだ残留)した後に下層の素地層3に形成される孔の体積(Va)を表す方程式(a)の右側に等しい点に留意すべきである。
【0053】
結合剤の体積(Vb)と間隙体積(Vv)が与えられると、溶媒の体積(Vs)は方程式(a)に基づいて算出することができる。
【0054】
方程式(a)は、次の数学的手法によって得られる。
【0055】
素地層3の体積が100であり、結合剤22が気化した後の素地層3の間隙が50体積%(即ち、Vvが50)である場合、無機粉末の体積(Vp)は、50である。スラリー組成物2において、結合剤22が無機粉末21の体積を基準にして30体積%である場合、Vbは15としたほうがよい。加えて、溶媒(Vs)の未知の体積は、Xに設定される。
【0056】
以上から、スラリー層20の体積は、Vp+Vb+Vs=(50+15+X)であり、液体(即ち、溶媒及び結合剤)の体積は、Vb+Vs(即ち(15+X))である。スラリー層20を下層の素地層3上に加えた後、液体の一部はスラリー層20に留まり、残りの液体は下方へ浸透する。Vvは50であるため、上層のスラリー層20に留まる液体の体積は50(即ち、Vvと同じ)であり、下層の素地層3に浸透する液体の体積はVb+Vs-Vv(即ち、15+X-50=X-35)である。液体中の結合剤22の体積比は、以下の通りである。
【0057】
【数2】
【0058】
従って、溶媒23が上層のスラリー層20に留まる液体から除去された後、上層の素地層3中の結合剤22の体積は、以下の通りである。
【数3】
そして、上層の素地層3の孔の体積(Va)は、以下の通りである。
【数4】
【0059】
溶媒23が下層の素地層3へ下方に浸透した液体から除去された後、下層の素地層3中の結合剤22の体積は、以下の通りである。
【数5】
【0060】
上述したスラリー組成物2を有する他のスラリー層20が更に加えられる場合、下層の素地層3へ下方に浸透する液体の体積はX-35(即ち、Vb+Vs-Vv)であり、液体の体積(即ち、(X-35))は、下層の素地層3の孔の体積Va(即ち、
)と同じにしたほうがよい。従って、方程式(a)は、このようにして得られる。Vb及びVvの値を方程式(a)に代入することによって、得られる方程式は次の方程式のようになり、その結果算出される溶媒23の体積(X)は77である。
【0061】
【数7】
【0062】
上述した体積は、100体積部の素地層3に基づいて算出される。スラリー組成物2の体積パーセントに関していえば、スラリー組成物2には、35.21体積%の無機粉末21、10.56体積%の結合剤22及び54.23体積%の溶媒23が含まれる。
【0063】
上述したスラリー組成物2に関して、溶媒23が除去された後、一番上のスラリー層20によって形成された素地層3には、50体積%の無機粉末21、8.15体積%の結合剤22及び41.85体積%の孔が含まれる。間隙体積は、結合剤体積と孔体積の合計に等しいことから、50体積%に等しい。d1はtに等しいので、浸透した液体の体積パーセントは41.85%にしたほうがよい。スラリー組成物2における結合剤22の体積比は、0.163(10.56体積%/(10.56体積%+54.23体積%))である。その結果、浸透した結合剤の体積パーセントは、6.82体積%(41.85% X 0.163)である。従って、下層の素地層3における結合剤22の全体積パーセントは、約15%(6.819%+8.15%)、無機粉末21の体積パーセントは50体積%、孔の体積率は35体積%である。その結果、上述したスラリー組成物2を使用することで、未走査部分における素地層3の一番上のものは、8.15体積%の結合剤22を有し、未走査部分における下層の素地層3の各々は、15体積%の結合剤22を有する。
【0064】
素地層3における走査された部分の結合剤22の体積パーセントは、図7を参照して以下の通りに算出することができる。
【0065】
上述のように算出され、未走査部に加えられた同じスラリー組成物2は、走査された部分における結合剤22の体積パーセントの算出に使われる点に留意すべきである。
【0066】
上述したスラリー層20が走査された部分(即ち、第一及び第二犠牲領域301、302)にも敷き詰められると、同じ量の液体が下層の素地層3に浸透する。それは、41.85体積%(Vb+Vs-Vv = 15+76.8-50= 41.8)になるだろう。浸透した液体における結合剤22の含有率は、6.82体積%(41.85% X 0.163)である。同じ量の液体が、加えられたスラリー層20に残留する。それは、50体積%になるだろう。従って、走査された部分における上層の素地層3には、8.15体積%の結合剤22(50% X 0.163)が含まれる。
【0067】
レーザー走査深さ(D1)が厚さ(t)に等しい場合、ちょうど敷き詰められた上層の素地層3の犠牲領域301、302における結合剤22は完全に除去され、結合剤22の含有率はゼロである。レーザーが達していない下層の素地層3の犠牲領域301、302においては、6.82%の結合剤がまだ残留している。従って、上記方法の完了後、犠牲領域301、302の各々は、6.82%の結合剤22を有し、工作部分311は、15%の結合剤22を有する。犠牲領域301、302の各々の結合剤22の含有率は、工作部分311においては、約45.5%の結合剤22含有率である。犠牲領域301、302の各々の結合強度は、工作部分311のそれの約45.5%である。
【0068】
レーザー走査深さ(D1)が2tに等しい場合、上層及び下層の素地層3の犠牲領域301、302における結合剤22は完全に除去される。従って、犠牲領域301、302には結合剤22が含まれないが、工作部分311及び廃棄部分312の両方とも15%の結合剤22が含まれる。かかる状況において、工作部分311は、第一犠牲領域301の結合強度が弱いため、第一犠牲領域301を介して廃棄部分312から容易に分離することができる。
【0069】
上述したことに基づくと、犠牲領域301、302は、レーザー走査により結合剤22の含有率が比較的低く、そして、レーザー走査深さ(D1)が深くなる場合、結合剤22の含有率は減少する。
【0070】
上記に鑑み、本発明の方法は、次の特徴を有する。
1. 本発明の方法、即ち、スラリー層20を形成し、溶媒23を除去し、素地層3を走査する方法は、1つの装置において実行できる。従って、本発明の方法で使用する装置が占める空間は、LOM法やCAM-LEM法において使用する装置のそれよりも非常に小さい。
2. 本発明では、第一走査経路は、工作物における線形の輪郭であり、先行技術(例えば、米国出願公開番号2004/0075197)で使用する平面走査と比較して時間の節約になる。
3. 本発明は、素地層3間に良好なシームレス結合を提供し、型を使用する圧縮ステップを実行することなく複雑な形状の素地品5を生産するのに用いることができる。
4. 素地層3には複数の孔が形成され、気化した結合剤又は燃焼した結合剤が素地層3に損傷を与えることなく素地層3からうまく流出することができる。
5. 素地層3の各々における犠牲領域301は、単に結合剤22のない無機粉末21で構成されるだけであり、上層のスラリー層20の支持体として使用することができる。従って、均一な表面のスラリー層20を得ることができ、素地品5を滑らかにすることができる。
【0071】
<実施例>
本発明に関する三次元素地品5を生産する方法の実施例は、以下に図示される。
【0072】
実施例において、無機粉末21、結合剤22及び溶媒23は、それぞれ、YPSZ粉末、ポリビニルアルコール(PVA)及び脱イオン水とした。2種類のスラリー組成物(即ち、基礎セラミックスラリー組成物と本発明の素地品5のための材料である工作物セラミックスラリー組成物2)を調製した。基礎セラミックス
【0073】
【表1】
EE-Tec, Inc.から市販
#Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd. (日本)から市販
ChangChunグループから市販(モデル番号BF-24)
【0074】
工作物セラミックスラリー組成物2の成分並びに成分の量及び添加順序が表2に示されている。YPSZ粉末の平均粒径は、約0.2μmである。工作物セラミックスラリー組成物2のpH値は、約10である。
【0075】
表2に示される成分を使用する工作物セラミックスラリー組成物2を調製するために、比較的多量の水が必要であった。しかしながら、多量の水は、工作物セラミックスラリー組成物2の結合剤21を望ましくない深さまで過度に浸透させる。従って、上述した方程式(a)に基づいて、工作物セラミックスラリー組成物2の調製が完了した後、それを50℃で撹拌し過剰な水を取り除いた。
【0076】
【表2】
&SHIN-ETSU Chemical Co. Ltd.から市販
【0077】
基礎セラミックスラリー組成物を作業台に加えて厚さ約150μmの基層を形成し、続いて平面型ヒーターを使用して50℃で基層中の脱イオン水を除去した。
【0078】
次に、工作物セラミックスラリー組成物2を基層に加えて、工作物セラミックスラリー層20を形成し、続いて平面型ヒーターを用いて50℃で工作物セラミックスラリー層20中の脱イオン水を除去した。その後、追加の工作物セラミックスラリー組成物2を加えて、75μm(即ち、t0)の工作物セラミック素地層3が得られるまで脱イオン水を除去した。工作物セラミックスラリー組成物2を75μmの工作物セラミック素地層3(即ち、下層の工作物セラミック素地層3)に更に加えると、脱イオン水の一部及びPVAの一部は下層の工作物セラミック素地層3に浸透した。その深さは、約25μmであり、これは次のステップで形成される工作物セラミック素地層3の厚さ(t)に等しかった。加熱後、脱イオン水が気化されるにつれて、外部環境と流体連通する複数の孔を有する上層の工作物セラミック素地層3が得られた。脱イオン水の除去後、上層の工作物セラミック素地層3及び下層の工作物セラミック素地層3中のYPSZ粉末は、PVAと結合する。従って、PVA及び脱イオン水の浸透と脱イオン水の気化は、本発明の非常に重要な特徴を構成する。即ち、PVA及び脱イオン水の浸透と脱イオン水の気化によって、PVAの分布が制御できる。そのため、工作物セラミック素地層3は、工作物セラミック素地層3間のシームレス結合のために孔を通じて外部環境と流体連通することができて、そして気化した結合剤22は容易に抜け出ることができる。
【0079】
次に、工作物セラミック素地層3を走査速度25mm/秒、出力1.3WのCO2パルスレーザービーム4で所定の線形第一走査経路41に沿って二回走査してPVAを気化させた。その結果、気化したPVAは、孔を通じて工作物セラミック素地層3から流出する一方で、PVAによって結合していないYPSZ粉末をその本来の位置に残留させる。PVAによって結合していないYPSZ粉末は、その後加えられる工作物セラミックスラリー組成物2の支持体として使用した。工作物セラミック素地層3における走査された部分は、第一走査経路41に沿って第一犠牲領域301を形成し、素地層3の未走査部は工作部分311と廃棄部分312とに分けて、第一犠牲領域301によって各々が分離される。第一犠牲領域301は、工作物セラミック素地層3の上面からの深さである深さ55μm(D1)(即ち、D1>2t)を有する。
【0080】
その後、廃棄部分312は、上記と同じレーザー出力及び走査速度のCO2パルスレーザービーム4によって複数の所定の線形第二走査経路42に沿って走査され、PVAを気化させた。その結果、気化したPVAは、孔を通じて工作物セラミック素地層3から流出する一方で、複数の第二犠牲の領域302を形成させるためにPVAによって結合していないYPSZ粉末を残留させた。
【0081】
走査ステップの完了後、工作物セラミックスラリー層20を形成するステップと、脱イオン水を除去するステップと、CO2パルスレーザービーム4により走査するステップを含む手順を400回繰り返した。その際、後に実行した走査ステップおいて用いた第一走査経路41は、先に実行した走査ステップにおいて用いた第一走査経路41と重複した。また、後に実行した走査ステップおいて用いた第二走査経路42は、上部-底部方向において、先に実行した走査ステップにおいて用いた第二走査経路42と完全に並行にした。
【0082】
CO2パルスレーザービーム4の機能は、工作物セラミック素地層3の表面を高温にして、その熱を表面から下方に転移させて工作物セラミック素地層3中のPVAを気化させ、第一及び第二犠牲領域301、302を形成することである点に留意されたい。従って、工作物セラミック素地層3において第一及び第二犠牲領域301、302の深さは、レーザー出力及び走査速度によって決定される。通常、単位時間当たりの気化したガス量がより大きいと、YPSZ粉末の爆発現象によりYPSZ粉末構造物がより容易に損傷してしまう。従って、第一及び第二犠牲領域301、302についてより深い厚さが望まれる場合、複数回の走査が必要である。この理由に基づいて、本発明の実施例において、各走査ステップでは、第一及び第二犠牲領域301、302の所望の深さを達成するために、工作物セラミック素地層3を二回走査した。実施中に煙が生じる場合、それはPVAの気化を示す。爆発現象がない場合は、YPSZ粉末が本来の位置のままであり、その後のステップにおいて、均一な工作物セラミックスラリー層20を滑らかに下層の工作物セラミック素地層3へ加えることができることを示している。
【0083】
最後に、工作部分311は、工作物セラミック素地層3の廃棄部分312から分離され、三次元セラミック(酸化ジルコニウム)素地品5が形成される。セラミック素地品5におけるPVAは、炉内で600℃、1時間加熱して完全に燃焼させることができ、そして機械的強度が増したセラミック工作物を形成するためにはセラミック素地品5を焼結炉において更に焼結させてもよい点に更に留意されたい。
【0084】
セラミック素地品5及びセラミック工作物の緻密化の程度は、それぞれ46.31%及び99.46%である。三点曲げ試験(ASTM C 1161)によれば、焼結セラミック工作物の平均強度は、923.3MPaに達する。このことから、圧力を加えなければならないCAM-LEM法と異なり、本発明の方法において、密度が一様なセラミック素地品5は、PVAの薄積層及びレーザー燃焼によって形成できることが明らかとなる。加えて、セラミック素地品5の焼結後、高密度セラミック工作物が得られる。
【0085】
要約すれば、本発明の三次元素地品5を生産する方法において、素地層3は、結合剤22に結合していない無機粉末21で構成される第一犠牲領域301を形成するために、結合剤22を気化させるのに充分な出力のエネルギービーム4により第一所定線形走査経路41に沿って走査される。平面(即ち、二次元)走査経路を使用する従来の方法と比較すると、本発明の方法は、走査時間を短縮することができ、大きい工作物を生産するのに有利である。さらに、CAM-LEM法とは異なり、本発明の方法において、密度が一様なセラミック素地品5は、圧力を加えずに得ることができる。加えて、高密度セラミック工作物は、セラミック素地品5を焼結させた後に得ることができる。
【0086】
本発明は、最も実用的で好適な実施形態であると考えられるものに関して記載している一方で、本発明は、開示された実施形態に限定されず、最も幅広い解釈及び等価な改変の範囲内に含まれる様々な改変を包含することを意図するものと理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8