(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記防錆処理層としての亜鉛合金層は、亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金又は亜鉛−スズ合金で構成したものである請求項1又は請求項2に記載の表面処理銅箔。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本件発明に係る表面処理銅箔及びその表面処理銅箔の製造方法に関する形態に関して、詳細に説明する。
【0027】
[本件発明に係る表面処理銅箔の形態]
本件発明に係る表面処理銅箔は、
図1に模式的に示すように、銅箔の両面に防錆処理層を備える表面処理銅箔である。この
図1には、銅箔2の片面側には、「防錆処理層3/クロメート処理層4/有機剤処理層5」の3層構成の表面処理層があり、反対面には「粗化処理層6/防錆処理層3/クロメート処理層4/有機剤処理層5」の4層構成の表面処理層がある状態を典型例として示している。なお、このときの粗化処理層は、微細銅粒子の集合体として示している。そして、
図1における、粗化処理層6、クロメート処理層4及び有機剤処理層5は、要求特性に応じて設ける任意の表面処理層である。よって、層構成として多くのバリエーションが、本件発明に含まれることになる。なお、図面において、模式的に示した各層及び粗化状態は、説明を容易にするためのものであり、現実の製品の厚さ及び粗化状態を反映したものでないことを明記しておく。以下、本件発明に係る表面処理銅箔の構成が理解できるように、各項目毎に説明する。
【0028】
銅箔: ここで言う「銅箔」には、炭素、硫黄、塩素、窒素から選ばれる1種又は2種以上の微量成分を含有し、これらの総含有量が100ppm以上の銅箔を用いることが好ましい。銅箔が、上述の炭素、硫黄、塩素又は窒素を含有し、少なくともこれらの総含有量が100ppm以上になると、銅箔に高い物理的強度を付与できるようになるからである。従って、この微量成分を含ませることの出来る限り、圧延銅箔でも、電解銅箔でも構わない。なお、念のために記載しておくが、本件発明において、「銅箔」と称する場合には、粗化処理、防錆処理等の表面処理を施していない未処理銅箔を意味する。
【0029】
そして、上述の「炭素、硫黄、塩素、窒素の総含有量が100ppm以上」という条件に加えて、各成分毎にみて、以下の条件を満たすことが好ましい。本件発明における表面処理銅箔の製造に用いる銅箔は、硫黄を5ppm〜600ppm、炭素を20ppm〜470ppm、窒素を5ppm〜180ppm、塩素を15ppm〜600ppmの範囲で含有する電解銅箔であることが、より好ましい。このような微量成分を、銅箔の結晶組織中に適正量含有させることで、、電解銅箔の結晶粒径が1.0μm以下となり、常態で50kgf/mm
2以上という高い常態での引張強さを備えた銅箔となる。この電解銅箔の高い物理的強度は、主に結晶粒微細化の効果に依るものと考えられる。そして、このような銅箔の常態における伸び率は、3%〜15%の範囲となる。ここで、念のために記載しておくが、成分の含有量表示に使用した単位「ppm」は、「mg/kg」と同義である。なお、以下では、表面処理を施していない銅箔の箔中に含有する銅以外の上述した炭素、硫黄、塩素、窒素を、単に「微量元素」と称することもある。以下、これら微量元素毎に、含有量範囲を定めた意義に関して、以下に述べる。
【0030】
銅箔の含有する硫黄が5ppm未満の場合には、後述する常態の結晶粒径が1.0μm以下になりにくいため、結晶粒微細化による高強度化が困難となるため好ましくない。一方、電解銅箔の含有する硫黄が600ppmを超える場合には、電解銅箔の引張強さは高くなるが、伸び率が低下し、脆化するため好ましくない。
【0031】
銅箔の含有する炭素が20ppm未満の場合には、電解銅箔組織の高強度化に寄与するグラファイトの形成が不足して、高強度化が困難となるため好ましくない。一方、電解銅箔の含有する炭素が470ppmを超える場合には、グラファイトが粗大化し、クラックが生じやすくなるため好ましくない。
【0032】
銅箔の含有する窒素が5ppm未満の場合には、電解銅箔組織の高強度化に寄与する窒素化合物の形成が不足し、高強度化に寄与できないため好ましくない。一方、電解銅箔の含有する窒素が180ppmを超えると、窒素化合物が過剰となり、電解銅箔の析出組織の高強度化効果が飽和して、窒素含有量を増加させる意義が没却するため好ましくない。
【0033】
銅箔の含有する塩素が15ppm未満の場合には、電解銅箔組織の高強度化に寄与する塩化物の形成が不足して、高強度化に寄与できないため好ましくない。一方、電解銅箔の含有する塩素が600ppmを超える場合には、電解銅箔の析出表面が粗くなり、低プロファイル表面を備える電解銅箔を得られなくなり、ファインピッチ回路の形成用銅箔としての使用が困難となり好ましくない。
【0034】
以上に述べてきた銅箔中の微量元素は、後述する防錆成分である亜鉛合金中の亜鉛が銅箔の結晶組織内に拡散して、亜鉛と微量元素とが反応することにより、本件発明に係る表面処理銅箔が加熱を受けた際に結晶組織の再結晶化を抑制し、微細な結晶粒が粗大化することを防止するように機能する。
【0035】
そして、この電解銅箔の結晶組織を構成する結晶粒径は、微細且つ均一であるため、その析出面の凹凸形状が滑らかになる。このように結晶粒径の微細さを備えるが故に、当該電解銅箔の析出面の表面粗さは極めて低く、低プロファイル表面となる。
【0036】
そして、ここで用いる銅箔の厚さは、表面処理銅箔の用途に応じて適切に調整すればよく、特段の限定は無い。例えば、プリント配線板の場合には、ゲージ厚さで5μm〜120μmの厚さの範囲で使用されることが多い。また、リチウムイオン二次電池の負極集電体の場合には、ゲージ厚さで5μm〜35μmの厚さの範囲で使用されることが多い。
【0037】
更に、防錆処理層を形成する前の銅箔としての物理的特性を考える。この銅箔は、表面処理銅箔としたときの要求特性を満足するために、次のような物理的特性を備える事が好ましい。即ち、防錆処理層を形成した表面処理銅箔としたときに、350℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが40kgf/mm
2以上で安定化させるためには、銅箔の常態の引張強さが50kgf/mm
2以上であることが好ましい。そして、当該表面処理銅箔としての加熱処理後の引張強さを40kgf/mm
2以上での更なる安定化を望む場合には、銅箔の常態の引張強さが60kgf/mm
2以上であることが好ましい。
【0038】
防錆処理層: 本件発明において、銅箔の表面に形成する亜鉛合金層は、銅箔の両面に形成し、且つ、いずれの面の亜鉛量も20mg/m
2〜1000mg/m
2であることが好ましい。このような亜鉛合金層を採用することで、加熱に対する電解銅箔の耐軟化性能が向上し、加熱処理後の引張強さの低下を抑制することが可能となる。ここで言う亜鉛合金としては、亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金又は亜鉛−スズ合金を用いることが好ましい。このように亜鉛を含有する防錆処理層を設けることで、加熱に対する耐軟化性能が向上し、加熱処理後の引張強さの低下を抑制することが可能となる。
【0039】
亜鉛合金層中の亜鉛量が20mg/m
2未満の場合には、加熱に対する耐軟化性能が向上せず、加熱処理後の引張強さが低下するため好ましくない。一方、亜鉛量が1000mg/m
2を超える場合には、350℃×60分間〜400℃×60分間レベルの加熱を行う際の、加熱に対する耐軟化性能を向上させる効果が飽和してしまうため、資源の無駄遣いとなり好ましくない。従って、本件発明に係る表面処理銅箔の一面側の亜鉛量及び他面側の亜鉛量とを包含して考えると、銅箔の両面に配した亜鉛合金層を構成する総亜鉛量が40mg/m
2〜2000mg/m
2であることが好ましいことになる。なお、ここで言う亜鉛量は、単位面積あたりの換算量として表示している。この換算量は、銅箔表面が完全に平坦な状態と仮定して、単位面積あたりの防錆成分量として求めたものである。なお、本件明細書で言う「亜鉛量」は、亜鉛合金で構成した防錆処理層の全体に含まれている亜鉛の含有量のことである。
【0040】
防錆成分として、亜鉛−銅合金を用いる場合においては、亜鉛含有量が40質量%以上であることが好ましい。亜鉛−銅合金中の亜鉛含有量が40質量%以上で無ければ、加熱に対する耐軟化性能を得ることが困難となるからである。
【0041】
防錆成分として、亜鉛−スズ合金を用いる場合においては、銅箔の両面に形成する亜鉛付着量は、上述のように20mg/m
2〜1000mg/m
2という条件に加えて、銅箔の両面に形成する防錆処理層のスズ付着量を1mg/m
2〜200mg/m
2の範囲とすることが好ましい。本件明細書で言う「スズ付着量」は、防錆処理層に含まれているスズ成分の含有量のことである。このスズ付着量が1mg/m
2未満の場合には、加熱に対する耐軟化性能が向上せず、加熱処理後の引張強さが低下するため好ましくない。一方、スズ付着量が200mg/m
2を超える場合には、350℃×60分間〜400℃×60分間レベルの加熱を受けた際の耐軟化性能の向上効果が飽和してしまうため、資源の無駄遣いとなり好ましくない。なお、ここで言うスズ付着量も、上記亜鉛付着量と同様に、銅箔が完全に平坦な状態と仮定したときの単位面積あたりの付着量として表示している。
【0042】
そして、亜鉛−スズ合金の場合には、{[亜鉛付着量]/[亜鉛−スズ合金付着量]}×100で算出される亜鉛含有比率が、30質量%以上であることが好ましい。この亜鉛含有比率が30質量%未満の場合には、亜鉛量に対するスズ量が過剰となり、防錆処理層の中でみれば、亜鉛含有量が相対的に低下するため、銅箔の結晶組織内への亜鉛の拡散が阻害され、加熱に対する耐軟化性能が向上し難くなる。
【0043】
ここで、
図2及び
図3を参照して、不活性ガス雰囲気中で350℃×60分間の加熱処理を行った後の表面処理銅箔の結晶組織を見ることにする。
図3は、本件発明に係る実施例の実施試料4に相当する表面処理銅箔である。これに対し、
図2(B)は、本件明細書における比較例の比較試料1に相当する表面処理銅箔であり、本件発明に係る表面処理銅箔には含まれない銅箔である。これらの図から理解できるように、350℃×60分間の加熱処理を行った後において、
図3の結晶組織の方が、
図2(B)の結晶組織と比べて、微細な結晶粒を維持している。即ち、防錆処理層として「亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金層」又は「亜鉛−スズ合金層」を採用し、「その防錆処理層が含有する亜鉛量が20mg/m
2〜1000mg/m
2」の二つの条件を満たしていれば、高温負荷を受けても、結晶粒子が粗大化することなく、微細な結晶粒を維持する効果が達成できることが分かる。
【0044】
銅箔表面の粗化処理: ここで、銅箔表面の粗化処理に関して述べる。一般的に、この粗化処理は、銅箔と上述の防錆処理層との間に施すものである。また、本件発明に係る表面処理銅箔に用いる前記銅箔は、片面側又は両面側に粗化処理を施すことが好ましい。係る場合、銅箔の片面側のみに粗化処理を施すか、又は、両面側に粗化処理を施すかは、当該表面処理銅箔の用途に応じて、適宜判断すれば足りる。プリント配線板の製造に用いた場合には、当該粗化処理を施した面に対して、構成材料である絶縁樹脂基材との密着性向上が図れるからである。また、当該表面処理銅箔をリチウムイオン二次電池の負極集電体として用いる場合には、当該粗化処理の施された負極集電体の表面と負極活物質との密着性向上が図れるからである。
【0045】
そして、ここで言う粗化処理の粗化処理方法、粗化処理条件等に、特段の限定は無い。従って、銅箔の表面に微細な金属粒子を付着形成する方法、銅箔表面をエッチング加工して粗化表面とする方法、金属酸化物を付着形成する方法等の採用が可能である。
【0046】
その他の表面処理: 本件発明に係る表面処理銅箔の場合には、粗化処理が施されているか否かを問わず、前記防錆処理層の表面に、クロメート処理層、有機剤処理層のいずれか一方又は双方を備えることも好ましい。これらの表面処理を施すことで防錆処理層と接触することになる「プリント配線板の絶縁樹脂基材」及び「リチウムイオン二次電池の負極活物質」との密着性が、更に良好となる。
【0047】
ここで言う有機剤処理層は、シランカップリング剤処理層と有機防錆処理層であり、いずれか一方でも、双方を併用して用いても構わない。そして、双方を併用する場合において、シランカップリング剤処理層と有機防錆処理層との積層順序に関しても、表面処理銅箔に対する要求特性を考慮して、適宜、積層配置の判断を行えばよい。このシランカップリング剤処理層及び有機防錆層とを形成するための成分に関しては、後に詳細に述べることとする。
【0048】
表面処理銅箔の表面粗さ: 本件発明に係る表面処理銅箔の場合、JIS B 0601に準拠して測定した表面粗さ(Ra)が、両面とも0.1μm〜0.7μmであることが好ましい。
当該表面処理銅箔の表面粗さが、0.1μm未満の場合には、「プリント配線板の絶縁樹脂基材」及び「リチウムイオン二次電池の負極活物質」との密着性が、実用レベルで確保できず、好ましくない。
当該表面処理銅箔の表面粗さが、0.7μmを超える場合には、プリント配線板の製造過程で、ピッチ50μmレベルのファインピッチ回路形成が困難になると共に、リチウムイオン二次電池の負極集電体として使用したときの膨張・収縮挙動において、凹凸の谷部がマイクロクラックの発生起点となりやすくなるため好ましくない。
【0049】
表面処理銅箔の物理的特性: 本件発明に係る表面処理銅箔においては、物理的特性の内、加熱処理後の引張強さに着目している。以下、引張強さに関して述べる。
【0050】
本件発明に係る銅箔は、不活性ガス雰囲気において、350℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが40kgf/mm
2以上という高い引張強さを備える。ここで、350℃という温度を採用したのは、次の理由による。プリント配線板分野において、キャスティング法によるフレキシブルプリント配線板の製造、耐熱性基板、高周波用基板等で、300℃を超える加熱温度を用いて、銅箔と絶縁樹脂基材とを張り合わせる場合が多く、加熱処理後の銅箔の耐軟化性能が問題となる場合があるからである。また、リチウムイオン二次電池の場合には、負極製造において、集電体である銅箔の表面に負極活物質を加熱して担持するにあたり、350℃〜400℃程度の温度が使用されるからである。
【0051】
そして、上述のことから分かるように、リチウムイオン二次電池の場合には、負極製造の加熱温度を考慮すると、不活性ガス雰囲気において、400℃×60分間の加熱処理を行った後にも、高い引張強さを備えることが好ましい。この要求に対し、本件発明に係る表面処理銅箔の場合、当該温度での加熱処理後の引張強さが35kgf/mm
2以上という物理的強度を示す。従来の銅箔の場合と比べて、本件発明に係る表面処理銅箔の400℃×60分間の加熱処理後の引張強さは、極めて高い値であることが明らかである。
【0052】
[本件発明に係る表面処理銅箔の製造形態]
本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、上述に記載の表面処理銅箔の製造方法であって、銅箔の表面に対して、防錆処理層として「亜鉛合金層」を設ける防錆処理工程の他、必要に応じて、粗化処理及びその他の各種表面処理を施し、所定の条件で加熱する乾燥工程を備える。以下、工程毎に説明する。
【0053】
銅箔の準備: 上述の内容から理解できるように、「箔中に炭素、硫黄、塩素又は窒素を含有し、少なくともこれらの総含有量が100ppm以上」という条件を満たす銅箔を選択的に使用することが好ましい。そして、当該銅箔が、「常態の結晶粒径が1.0μm以下」、「常態の引張強さが50kgf/mm
2以上」という特性を併せ持つ電解銅箔を選択的に使用することが、より好ましい。以下に示す実施例では、この条件を満たす電解銅箔として、三井金属鉱業株式会社製のVLP銅箔の製造に用いる表面処理が施されていない電解銅箔を用いている。
【0054】
銅箔表面の粗化処理: 最初に、ここで述べる粗化処理は、必須の工程ではなく、任意の工程であることを明記しておく。そして、この粗化処理は、表面処理銅箔の使用目的に応じて、銅箔の一面又は両面に施すことが可能である。以下、粗化処理の方法に関して説明する。粗化処理を施す前には、銅箔表面を酸洗処理する等して、銅箔表面の清浄化を行うことが好ましい。
【0055】
このときに用いる粗化処理方法に、特段の限定は無いが、以下に一例を挙げる。まず、硫酸系銅電解液として、銅濃度を5g/l〜25g/l、フリー硫酸濃度を50g/l〜250g/lとし、必要に応じ、添加剤としてゼラチンなどを添加し、液温15℃〜30℃、電流密度20A/dm
2〜50A/dm
2のやけめっき条件で、銅箔表面に微細銅粒子を付着形成する。そして、銅濃度を45g/l〜100g/l、フリー硫酸濃度を50g/l〜150g/lの硫酸系銅電解液を用い、液温30℃〜50℃、陰極電流密度30A/dm
2〜60A/dm
2で平滑めっきして、当該微細銅粒子を定着させ、粗化処理を完了する。
【0056】
防錆処理層の形成: 本件発明においては、銅箔の両面に、防錆処理層である亜鉛合金層として「亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金層」又は「亜鉛−スズ合金層」を設ける。この防錆処理層の形成において、上述のように、銅箔のいずれの面の亜鉛量も、20mg/m
2〜1000mg/m
2の範囲となるのであれば、如何なる防錆処理層の形成方法を採用しても構わない。即ち、銅箔表面への防錆処理層の形成には、電解めっき又は無電解めっき等の電気化学的手法、スパッタリング蒸着又は化学気相反応等の物理蒸着手法を用いることができる。しかしながら、生産コストを考慮すると、電気化学的手法を採用することが好ましい。
【0057】
電解めっき法を用いて、防錆処理層として亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金組成の亜鉛合金層を形成する場合に関して述べる。この場合の亜鉛−銅合金めっき液には、長期安定性及び電流安定性に優れた、ピロ燐酸亜鉛−銅めっき浴又は硫酸亜鉛−銅めっき浴等を用いることが好ましい。一例を挙げれば、ピロ燐酸亜鉛−銅めっき浴の場合には、亜鉛濃度が2g/l〜20g/l、銅濃度が1g/l〜15g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が70g/l〜350g/l、pH9〜pH10の浴組成を採用し、液温30〜60℃の溶液中で、電流密度3A/dm
2〜8A/dm
2Aの条件で電解して、銅箔表面に亜鉛含有量が40質量%以上である亜鉛−銅合金層を形成する等を採用することができる。
【0058】
次に、電解めっき法を用いて、防錆処理層として亜鉛−スズ合金組成の亜鉛合金層を形成する場合に関して述べる。この亜鉛−スズ合金層を形成する場合には、例えば、亜鉛濃度が3g/l〜30g/l、スズ濃度が0.1g/l〜10g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が50g/l〜500g/l、pH9〜pH12の浴組成を採用し、液温20〜50℃の溶液中で、電流密度0.3A/dm
2〜20A/dm
2Aの条件で電解して、銅箔表面に亜鉛−スズ合金層を形成することができる。
【0059】
クロメート処理の方法: このクロメート処理層の形成は、必須ではなく、銅箔に対して要求される防錆能力等を考慮して、適宜施す処理である。このクロメート処理には、電解クロメート処理と無電解クロメート処理とがあるが、いずれの方法を用いても構わない。しかし、クロメート皮膜の厚さバラツキ、付着量の安定性等を考慮すると、電解クロメート処理を採用することが好ましい。この電解クロメート処理の場合の電解条件は、特に限定を有するものではないが、クロム酸濃度が2g/l〜7g/l、pH10〜pH12の溶液を用いて、液温30℃〜40℃、電流密度1〜8A/dm
2の電解条件を採用することが、電解銅箔の表面を均一にクロメート処理層で被覆するために好ましい。
【0060】
有機剤処理の方法: ここで言う有機剤処理には、シランカップリング剤処理と有機防錆処理とがある。よって、順に説明する。
【0061】
本件発明において、シランカップリング剤処理は必須ではなく、銅箔に対して要求される絶縁樹脂基材若しくはリチウムイオン二次電池の負極活物質との密着性等を考慮して、適宜施す処理である。シランカップリング剤は、溶媒としての水に0.3g/l〜15g/l溶解させたシランカップリング剤溶液として用いるのが通常である。このときのシランカップリング剤の吸着方法は、浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させ、シランカップリング剤処理層を形成することのできる方法を任意に採用すれば良い。
【0062】
シランカップリング剤としては、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを選択的に用いることができる。ここに列挙したシランカップリング剤の中から、銅箔の表面に使用しても、i)プリント配線板の場合のエッチング工程及びプリント配線板となった後の特性に悪影響を与えないこと、ii)リチウムイオン二次電池の負極活物質との密着性を損なわないことを満足するシランカップリング剤種を選択して使用することが重要となる。
【0063】
より具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0064】
次に、有機防錆処理に関して説明する。本件発明において、有機防錆処理も必須ではなく、前述の無機防錆処理である「亜鉛合金層」に加えて、要求に応じて使用する防錆手法である。この有機防錆処理に用いる有機剤には、ベンゾトリアゾール類のメチルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール)、アミノベンゾトリアゾール、カルボキシルベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール等を用いることができる。その他の有機剤としては、脂肪族カルボン酸、アルキルアミン類、安息香酸類、イミダゾール類、トリアジンチオール類等の使用が可能である。これら有機剤の一種又は二種以上を、溶媒としての水、有機溶媒、これらの混合溶媒のいずれかの溶液に溶解又は分散させて用いる。
【0065】
以上の有機防錆剤を用いて、銅箔の表面に有機防錆層を形成する。このときの有機防錆被膜の形成は、上述の有機防錆剤を、水又は有機溶媒等の溶媒に溶解させ、そこに銅箔を浸漬させるか、当該溶液を有機防錆層を形成しようとする銅箔面にシャワーリング、噴霧法、滴下する等の方法が使用可能であり、当該溶液と銅箔表面とが十分に接触可能である限り、特に限定した手法を考える必要はない。このときの有機防錆剤濃度は、特に限定されるものではなく、本来濃度が高くとも低くとも問題は無い。
【0066】
乾燥工程: この乾燥工程の目的は、防錆処理等の表面処理工程で濡れた状態にある表面処理銅箔の乾燥を行うことである。そして、有機剤処理層を形成する場合にも、乾燥条件に配慮を要する。即ち、乾燥工程では、単に水分を除去するだけでなく、吸着した有機防錆剤又はシランカップリング剤を用いた場合に、これら薬剤の破壊若しくは分解が起こることなく、防錆処理層の表面に対して、良好な状態で定着させる必要がある。使用した有機剤の効果を最大限に引き出すためである。このようなことを考慮すると、この乾燥工程では、100℃〜250℃の温度で、2秒〜10秒、加熱することが好ましい。以下、実施例及び比較例を挙げて、本件発明に係る表面処理銅箔に関して、更に詳細に述べる。
【実施例】
【0067】
この実施例では、本件発明に係る防錆処理層として亜鉛−スズ合金又は亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛-銅合金で形成した亜鉛合金層を備える表面処理銅箔と、後述する比較例と対比することにより、本件発明に係る表面処理銅箔が、高温加熱に対する良好な耐軟化性能を備えることを述べる。この実施例では、以下の手順で表面処理銅箔を製造し、加熱処理後の引張強さ等を測定した。以下、工程順に述べる。
【0068】
[表面処理銅箔の製造]
銅箔: ここでは、箔中の微量元素の合計量が100ppm以上の電解銅箔として、三井金属鉱業株式会社製のVLP銅箔の製造に用いる厚さ12μmの表面処理の施されていない電解銅箔を用いた。この銅箔は、箔中に炭素を44ppm、硫黄を14ppm、塩素を52ppm、窒素を11ppm含有し、これら微量元素の総含有量が121ppmであった。また、結晶粒径が0.60μmであり、常態引張強さの値が54.4kgf/mm
2であった。
【0069】
防錆処理工程: この実施例における防錆処理には、亜鉛合金防錆処理を採用し、銅箔の両面に亜鉛−スズ合金又は亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛-銅合金で形成した防錆処理層を形成した。以下、亜鉛−スズ合金層及び亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛-銅合金層を形成するときの形成条件に関して述べる。
【0070】
亜鉛−スズ合金層を形成する場合には、亜鉛濃度が1g/l〜6g/l、スズ濃度が1g/l〜6g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が100g/l、pH10.6、液温30℃の溶液中で、銅箔自体をカソードに分極して、電流密度及び電解時間を変更して、銅箔の両面に亜鉛−スズ合金層を形成し、後の表1の実施試料1〜実施試料8を得た。
【0071】
亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛-銅合金層を形成する場合には、亜鉛濃度が6g/l、銅濃度が9g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が200g/l、pH9.2の浴組成を採用し、液温40℃の溶液中で、銅箔自体をカソードに分極し、銅箔の両面に亜鉛−銅合金層を形成し、後の表1の実施試料9を得た。
【0072】
クロメート処理工程: ここでは、以下の条件でクロメート処理層を形成した。この電解クロメート処理の場合の電解条件として、クロム酸濃度が2g/l、pH12の溶液を用いて、液温30℃、電流密度2A/dm
2の条件を採用して、防錆処理層上にクロメート処理層を形成した。
【0073】
シランカップリング剤処理工程: 前述のクロメート処理が完了すると、水洗後、銅箔表面を乾燥させることなく、シランカップリング剤水溶液をシャワーリングにて銅箔表面に吹き付け、表面処理銅箔の両面にシランカップリング剤の吸着を行った。このときのシランカップリング剤水溶液は、イオン交換水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシランを5g/lの濃度としたものである。
【0074】
乾燥工程: シランカップリング剤処理が終了すると、濡れた状態の表面処理銅箔は、乾燥領域において、雰囲気温度150℃×4秒の条件で、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を行わせ、完成した表面処理銅箔とした。なお、この実施例では、表1に示す実施試料1〜実施試料9の表面処理銅箔を作製した。
【0075】
念のために記載しておくが、以上に述べた防錆処理工程〜シランカップリング剤処理工程に至るまで、各工程間には、必要に応じて、水洗工程を適宜設けて洗浄し、前処理工程の溶液を後の工程に持ち込むことを防止した。
【0076】
[表面処理銅箔の評価]
以下、評価項目及びその測定方法に関して述べる。この実施例に係る実施試料1〜実施試料9の評価結果は、以下に述べる比較例に係る比較試料と対比可能なように表1に示す。
【0077】
銅箔中の微量元素: 表面処理前の銅箔中の炭素および硫黄の含有量は、堀場製作所製EMIA−920V 炭素・硫黄分析装置を用いて分析した。そして、窒素の含有量については、堀場製作所製 EMGA−620 酸素・窒素分析装置を用いて分析した。また、銅箔中の塩素の含有量については、塩化銀比濁法により 日立ハイテクフィールディング製 U−3310 分光光度計を用いて分析した。
【0078】
引張強さ: 本件明細書で言う「引張強さ」は、IPC−TM−650に準拠し、10mm×150mm(評点間距離:50mm)の短冊形の銅箔試料を用いて、引張り速度50mm/min.で測定したときの値である。なお、加熱処理後の引張強さを測定する際には、各表に記載した条件で加熱した後に、室温まで放冷して、同様の引張強さの測定を行った。
【0079】
防錆成分の付着量: 10cm×10cmの表面処理銅箔の亜鉛量を測定する側の反対面のみを接着剤で被覆し、測定面の表面処理層のみを、塩酸濃度が30mg/l、過酸化水素水が20mg/lの溶液に溶解し、その溶液を高周波誘導結合プラズマを光源としたICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法で定量分析し、その値をもって、単位面積あたりの防錆成分の付着量(mg/m
2)に換算した。
【0080】
表面粗さ: 本件明細書における表面粗さは、株式会社小坂研究所製表面粗さ・輪郭形状測定器SEF−30Dを用いて、JIS B 0601に準拠して、測定したものである。
【0081】
結晶粒径の測定: 銅箔の結晶粒径の測定には、EBSD評価装置(OIM Analysis、株式会社TSLソリューションズ製)を搭載したFE銃型の走査型電子顕微鏡(SUPRA 55VP、カールツァイス株式会社製)及び付属のEBSD解析装置を用いた。この装置を用いて、適切に断面加工された当該サンプルについて、EBSD法に準じて、銅箔の断面の結晶状態のパターンの画像データを得て、この画像データを、EBSD解析プログラム(OIM Analysis、株式会社TSLソリューションズ製)の分析メニューにて、平均結晶粒径の数値化を行った。本評価においては、方位差5°以上を、結晶粒界とみなした。観察時の走査型電子顕微鏡の条件は加速電圧:20kV、アパーチャー径:60mm、High Current mode、試料角度:70°であった。なお、観察倍率、測定領域、ステップサイズは、結晶粒の大きさに応じて、適宜、条件を変更して測定した。
【0082】
[比較例1]
この比較例1は、実施例で用いた銅箔に防錆処理を施すことなく、実施例と同様の手順で表面処理銅箔を製造し、これを比較試料1とした。
【0083】
[比較例2]
この比較例1は、実施例の防錆処理層に用いた亜鉛−スズ合金層を用いているが、その亜鉛−スズ合金層中の亜鉛量が20mg/m
2未満(亜鉛付着量:12mg/m
2、スズ付着量:2mg/m
2)となるようにして比較試料2を得た。その他の工程及び評価に関しては、実施例と同様であるため記載を省略する。
【0084】
[比較例3]
この比較例3は、防錆処理層を構成する亜鉛合金中の亜鉛防錆量が20mg/m
2未満で、且つ、亜鉛含有量が40質量%未満の「亜鉛−ニッケル合金(亜鉛付着量:12mg/m
2、ニッケル付着量:20mg/m
2)」に置き換えたものである。その他の工程及び評価に関しては、実施例と同様であるため記載を省略し、防錆処理工程に関してのみ述べる。
【0085】
防錆処理工程: この比較例3における防錆処理には、亜鉛−ニッケル防錆処理を採用した。ここでは、ピロ燐酸めっき浴として、ニッケル濃度が2.0g/l、亜鉛濃度が0.2g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が80g/lの浴組成を採用し、液温40℃の溶液中で、銅箔自体をカソードに分極して、電流密度0.2A/dm
2の条件で電解して、表1の比較試料3の亜鉛−ニッケル防錆処理層を形成した。
【0086】
[比較例4]
この比較例4では、「箔中の微量元素の合計量が100ppm以下」で、且つ、「結晶粒径が1.0μmより大きい」という条件を満たす電解銅箔を選択して用いた。
【0087】
銅箔: 箔中の微量元素の合計量が100ppm未満の銅箔として、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔であるHTE銅箔の製造に用いる表面処理を施していない、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この銅箔は、箔中に炭素を34ppm、硫黄を0ppm、塩素を8ppm、窒素を0ppm含有し、これら微量元素の総含有量が42ppmであった。また、結晶粒径が1.08μmであり、常態引張強さが39.3kgf/mm
2であった。
【0088】
そして、実施例と同様の防錆処理工程、クロメート処理工程、シランカップリング剤処理工程及び乾燥工程を経て、比較試料4を得た。なお、比較試料4に関しての防錆処理は、実施試料6と同等の亜鉛−スズ合金防錆処理を施している。
【0089】
[実施例と比較例との対比]
ここでの実施例と比較例との対比は、以下の表1を参照して行う。
【0091】
この表1からわかるように、今回の実施試料1〜実施試料9と比較試料1〜比較試料3とは、同じ銅箔を使用している。よって、使用した銅箔中の微量元素量に関しては、差異はない。
【0092】
最初に、実施試料1〜実施試料8の防錆処理層は、亜鉛−スズ合金で構成し、且つ、いずれの面の亜鉛量も20mg/m
2〜1000mg/m
2であるという条件を満たしている。一方、比較試料1は、防錆処理層を備えていないため、当該亜鉛量の条件は満たさない。そして、比較試料2及び比較試料3においても、いずれの面の亜鉛量も20mg/m
2〜1000mg/m
2であるという条件を満たしていない。
【0093】
これら実施試料1〜実施試料8と、比較試料1〜比較試料3との引張強さを見ると、常態における引張強さには、同じ銅箔を使用しているため差異はない。しかし、加熱処理後の引張強さを見ると、実施試料1〜実施試料8の引張強さが、比較試料1〜比較試料3の引張強さに比べ、大きな値を示していることが分かる。この結果から、本件発明に言う所定の条件を満たす表面処理銅箔は、「350℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが40kgf/mm
2以上」、「400℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが35kgf/mm
2以上」という良好な耐軟化性能を備えることが理解できる。
【0094】
ここで、結晶組織の観点から、実施例の実施試料4と、防錆処理層を備えていない比較試料1とを対比する。
図2は、表1に掲載した比較試料1のFIB−SIM像である。
図2(A)は常態における結晶粒であり、結晶粒径が0.60μmであり、
図2(B)は350℃×60分間の加熱処理後における結晶粒であり、結晶粒径が0.92μmであった。即ち、比較試料1は加熱を受けた場合に再結晶化が進行し、結晶組織の粗大化が起きるために耐軟化性能が低いことが分かる。
【0095】
これに対し、実施試料4のように、亜鉛合金層中の亜鉛量を265mg/m
2 とすると、350℃×60分間の加熱処理後の引張強さの値は52.1kgf/mm
2 、400℃×60分間の加熱処理後でも43.4kgf/mm
2 であり、いずれの温度条件で加熱処理した場合も引張強さの低下が少なく、耐軟化性能が高くなっている。ここで
図3をみると、実施試料4の350℃×60分間の加熱処理を行った後のFIB−SIM像において、結晶粒径は0.62μmであり、極めて微細な結晶粒を維持しており、当該表面処理銅箔の結晶粒の微細化効果が維持されていることが理解できる。
【0096】
次に、銅箔の箔中の微量元素量と、結晶粒径の大きさとが耐軟化性能に与える効果について検討する。比較試料4は、防錆処理層として亜鉛−スズ合金層を採用し、その亜鉛−スズ合金層中の亜鉛量も481mg/m
2 と十分なレベルにある。しかし、この比較試料4に使用した銅箔中の微量元素の合計量が100ppm以下であり、且つ、常態の結晶粒径が1.0μmより大きい電解銅箔を用いている。表1から分かるように、この比較試料4は、350℃×60分間の加熱処理後の引張強さの値が21.0kgf/mm
2 、400℃×60分間の加熱処理後では19.2kgf/mm
2 であり、いずれの温度条件で加熱処理した場合においても引張強さが著しく低下していることが分かる。そして、350℃×60分間の加熱処理を行った後の比較試料4のFIB−SIM像を示したのが
図4である。この結晶粒径は3.64μmであり、極めて大きな結晶粒径となり、引張強さが著しく低下する要因となっていることが理解できる。
【0097】
以上に述べてきた実施試料1〜実施試料8と、比較試料1〜比較試料3との対比から、350℃、400℃という高温の負荷を受けたときの電解銅箔の耐軟化性能を、より確実に向上させるためには、好ましくは「銅箔の箔中の微量元素量が適正であること」と「亜鉛合金で形成した防錆処理層が適正な亜鉛含有量を備えること」との2条件を備え、更には「銅箔の常態の結晶粒径が適正な範囲にあること」を加えた3条件を満たすことが、より好ましいと理解出来る。
【0098】
次に、「亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金層」を防錆処理層として備える実施例9を用いて、「亜鉛−銅合金層」を防錆処理層として備える表面処理銅箔が、「亜鉛−スズ合金層」を防錆処理層として備える表面処理銅箔(実施試料1〜実施試料8)と遜色のない高温加熱に対する耐軟化性能を発揮することを、以下に説明する。
【0099】
実施試料9は、防錆処理層として用いた「亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金層」の亜鉛量が41質量%(57mg/m
2)のものである。この実施試料9の350℃×60分間の加熱処理を行った後でも、引張強さは46.2kgf/mm
2 であった。このように、亜鉛−銅合金層が含有する亜鉛量を57mg/m
2 として表面処理銅箔を製造すると、加熱処理後の結晶組織が微細で、引張強さの低下も抑制できることが明らかである。
【0100】
そして、表1から理解できるように、実施試料1〜実施試料8の350℃、400℃という高温の負荷を受けたときの銅箔の耐軟化性能と、表1に示した実施試料9の示す耐軟化性能とを比べて見ると、防錆処理層として「亜鉛−銅合金層」を用いても、防錆処理層として「亜鉛−スズ合金層」を用いた場合と比べて、遜色のない良好な耐軟化性能を示すことが理解できる。
【0101】
[実施例と比較例との対比の纏め]
以上の対比結果から、表面処理銅箔は、「炭素、硫黄、塩素、窒素から選ばれる1種又は2種以上の微量成分を含有し、これらの総含有量が100ppm以上の銅箔」を用いることを前提として、この銅箔の両面にある防錆処理層は、亜鉛合金層として「亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛−銅合金層」又は「亜鉛−スズ合金層」を採用し、且つ、「その亜鉛合金層が含有する亜鉛量が20mg/m
2〜1000mg/m
2」の条件を満たすことが、高温負荷を受けたときの耐軟化性能を向上させるためには必須である。これらの条件を満たすことで、防錆処理層として亜鉛合金層を備える表面処理銅箔が「350℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが40kgf/mm
2以上」、「400℃×60分間の加熱処理を行った後の引張強さが35kgf/mm
2以上」という良好な耐軟化性能を備えることが理解できる。