(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714616
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20150416BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-8510(P2013-8510)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-138917(P2014-138917A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2014年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚城
【審査官】
土井 伸次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−102609(JP,A)
【文献】
特開2006−224089(JP,A)
【文献】
特開2009−061395(JP,A)
【文献】
特開2008−151603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 11/00
B05C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヘッドを移動して板材に塗工する塗工装置において、
前記ダイヘッドの進行方向前方に下端が前記板材に近接するように配置され、下端が前記ダイヘッド側に移動するように揺動可能な検出部材と、
前記検出部材に当接して、前記検出部材の下端が前記ダイヘッドと反対側に移動するような揺動を防止するストッパと、
前記検出部材の揺動を検出する揺動センサと、
前記検出部材を前記ストッパに押圧可能な加速時付勢部材と、
前記ダイヘッドの加速時に、前記加速時付勢部材を前記検出部材に圧接する圧接装置とを有し、
前記圧接装置は、前記ダイヘッドの加速終了後、予め設定した遅延時間が経過してから、前記加速時付勢部材を前記検出部材から離間することを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
ダイヘッドを移動して板材に塗工する塗工装置において、
前記ダイヘッドの進行方向前方に下端が前記板材に近接するように配置され、下端が前記ダイヘッド側に移動するように揺動可能な検出部材と、
前記検出部材に当接して、前記検出部材の下端が前記ダイヘッドと反対側に移動するような揺動を防止するストッパと、
前記検出部材の揺動を検出する揺動センサと、
前記検出部材を前記ストッパに押圧可能な加速時付勢部材と、
前記ダイヘッドの加速時に、前記加速時付勢部材を前記検出部材に圧接する圧接装置と、
前記検出部材を前記ストッパに向かって常に付勢する常時付勢部材とを有することを特徴とする塗工装置。
【請求項3】
前記揺動センサは、前記検出部材の揺動を連続量として検出することを特徴とする請求項1または2に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記検出部材は、その重心位置において、揺動可能に枢支されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に対して塗工ダイヘッドを移動し、基板に液体を塗布する塗工装置において、基板上に異物が存在すると、ダイヘッドと基板との間に咬み込んで、ダイヘッドを破損したり、塗膜に欠陥を生じたりする。このため、特許文献1乃至5に記載されているように、ダイヘッドの前方に配置されて、ダイヘッドよりも先に異物と接触することによって揺動を生じ、異物を検出する検知部材を設けることがある。そのような塗工装置では、検知部材の揺動量がある限度を超えたとき、異物が存在していたと認識して非常停止し、異物の噛み込みによるダイヘッドの損傷を防止する。
【0003】
このような検知部材は、異物による他、ダイヘッドの加減速時に作用する慣性力によっても揺動する。したがって、ダイヘッドの加速による揺動を異物による揺動として誤検出しないように検知部材の揺動量の閾値を大きな値に設定する必要があり、異物の検出感度を十分に高くできないという問題があった。
【0004】
ダイヘッドの加減速時の誤検出の防止と、定速塗工時の検出感度の向上とを両立するために、ダイヘッドの加減速時のみ、異物による検知部材の揺動を判別するための閾値を大きく設定することが考えられる。しかしながら、通常のシーケンス制御において、動作の途中で閾値を変更すると、制御の1サイクルだけ、異物の検出ができない時間が生じる可能性がある。そのような異物検出の漏れは、塗工装置に重大な損傷をもたらす可能性があり、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224089号公報
【特許文献2】特開2009−61395号公報
【特許文献3】特開2008−151603号公報
【特許文献4】特開2010−227787号公報
【特許文献5】特開2010−232326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、本発明は、板材上の異物の検出感度が高く、ダイヘッドの加速時にも誤検出をしない塗工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による塗工装置は、ダイヘッドを移動して板材に塗工する塗工装置において、前記ダイヘッドの進行方向前方に下端が前記板材に近接するように配置され、下端が前記ダイヘッド側に移動するように揺動可能な検出部材と、前記検出部材に当接して、前記検出部材の下端が前記ダイヘッドと反対側に移動するような揺動を防止するストッパと、前記検出部材の揺動を検出する揺動センサと、前記検出部材を前記ストッパに押圧可能な加速時付勢部材と、前記ダイヘッドの加速時に、前記加速時付勢部材を前記検出部材に圧接する圧接装置とを有し
、前記圧接装置は、前記ダイヘッドの加速終了後、予め設定した遅延時間が経過してから、前記加速時付勢部材を前記検出部材から離間するものとする。
【0008】
この構成によれば、ダイヘッドの加速時には、検出部材の揺動を機械的な付勢力によって抑制し、異物の検出感度を低くして、誤検出を防止するとともに、ダイヘッドの定速移動時には、検出部材の自由な揺動を許すことにより検出感度を高められる。また、ダイヘッドの加速時と定速移動時とで検出閾値が変わらないので、制御の抜けが発生しない。
また、ダイヘッド等の慣性や弾性により発生するダイヘッドの速度の遅れやオーバーシュートによる検出部材の回転を抑制し、異物と誤って検出しない。
【0011】
また、本発明の塗工装置において、前記揺動センサは、前記検出部材の揺動を連続量として検出してもよい。
【0012】
この構成によれば、異物検出感度の調整が容易である。
【0013】
ダイヘッドを移動して板材に塗工する塗工装置において、
前記ダイヘッドの進行方向前方に下端が前記板材に近接するように配置され、下端が前記ダイヘッド側に移動するように揺動可能な検出部材と、
前記検出部材に当接して、前記検出部材の下端が前記ダイヘッドと反対側に移動するような揺動を防止するストッパと、
前記検出部材の揺動を検出する揺動センサと、
前記検出部材を前記ストッパに押圧可能な加速時付勢部材と、
前記ダイヘッドの加速時に、前記加速時付勢部材を前記検出部材に圧接する圧接装置と、
前記検出部材を前記ストッパに向かって常に付勢する常時付勢部材
とを有
するものとしてもよい。
【0014】
この構成によれば、
さらに、揺動センサの反力を相殺して、異物検出感度を高められる。
【0015】
また、本発明の塗工装置において、前記検出部材は、その重心位置において、揺動可能に枢支されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、慣性モーメントが小さくなるので、異物検出感度を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の1つの実施形態である塗工装置の概略図である。
【
図2】
図1の塗工装置のダイヘッド加速時を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および2に、本発明の1つの実施形態の塗工装置の概要を示す。この塗工装置は、矢印A方向に水平移動するダイヘッド1によって、不図示(他の構成要素を見易くするために省略)の定盤上に載置した板材2に塗料Pを塗布するものである。ダイヘッド1は、板材2の幅方向に延伸し、下端に塗料Pを吐出するためのノズルが幅方向に延伸して開口している。
【0019】
また、本塗工装置は、ダイヘッド1を保持する移動可能なフレーム3を有する。
フレーム3は、板材2の上に延伸する梁部3aと、板材2の幅方向の両外側に直立する脚部3bとからなる。脚部3bは、それぞれ、板材2の長さ方向に延伸するレール4に沿って移動可能なリニアモータ5によって支持されている。
【0020】
また、フレーム3は、ダイヘッド1の前方に揺動可能に配置された検出部材6と、検出部材6の揺動を規制するストッパ7と、検出部材6の揺動量を検出する揺動センサ8と、検出部材6をストッパ7に向かって付勢する加速時付勢部材9を支持するシリンダ(圧接装置)10と、検出部材6をストッパ7に向かって付勢する常時付勢部材11を支持する固定部材12とを保持する。
【0021】
検出部材6は、少なくともダイヘッド1のノズルと等しい長さ(板材2の幅方向の長さ)を有する板状の部材である。そして、検出部材6は、その下端と板材2との隙間が、ダイヘッド1と板材2との隙間よりも小さくなるように、水平な支軸13によって枢支されている。支軸13は、検出部材6の重心位置を貫通する。
【0022】
ストッパ7は、検出部材6が鉛直な状態において、支軸13よりも上方で、検出部材6のストッパ7側の面に当接するように配置されている。これにより、ストッパ7は、検出部材6の下端がダイヘッド1と反対側に移動するような揺動を防止する。
【0023】
揺動センサ8は、バネ力により突出して検出部材6に接触する接触子8aを有し、検出部材6の揺動に応じた接触子8aの変位を連続量(連続して変化する値)として検出するセンサである。常時付勢部材11は、検出部材6がストッパ7に当接している状態で、揺動センサ8の接触子8aの検出部材6に対する圧接力を相殺するようなバネ力を有する。
【0024】
シリンダ10は、
図2に示すように、伸長することによって加速時付勢部材9を検出部材6に押圧し、
図1に示すように、短縮することによって加速時付勢部材9を検出部材6から離間させる。
【0025】
また、本塗工装置は、リニアモータ5の移動を制御するサーボコントローラ14と、サーボコントローラ14に動作指示を与えるメインコントローラ15とを有する。また、メインコントローラ15は、揺動センサ8の検出信号が入力され、シリンダ10の伸縮を制御する。
【0026】
メインコントローラ15は、揺動センサ8の検出値が、あらかじめ設定した閾値以上となった場合、検出部材6が板材2の上の異物または下にある異物によって盛り上げられた板材2と接触し、それにより、検出部材6が回転させられたと判断する。この場合、異物や板材2との接触によりダイヘッド1が損傷しないように、塗工を非常停止する。揺動センサ8における閾値は、プロセス毎に最適な値に調節する。
【0027】
塗工開始時にダイヘッド1を加速すると、検出部材6には、自身の慣性力により回転力が作用する。もちろん、検出部材6を重心で枢支することによって、慣性による回転力はできるだけ小さくすべきであるが、回転力が全く作用しないようにすることは困難である。そこで、本塗工装置では、フレーム3の加速時には、加速時付勢部材9によって検出部材6の揺動を抑制することによって、異物検出の感度を低下させる。
【0028】
詳しく説明すると、本塗工装置で板材2に塗工する場合、先ず、ダイヘッド1および検出部材6が板材2の外側に位置するように、フレーム3を移動方向Aの最上流に配置する。そして、シリンダ10を伸長して、加速時付勢部材9を検出部材6に押圧する。それから、リニアモータ5を始動し、ダイヘッド1が板材2に塗料Pを塗布すべき範囲の前端に達するまでに、一定の加速度でプロセス毎にあらかじめ設定した塗工速度まで加速する。サーボコントローラ14がリニアモータ5の速度が所定の塗工速度に達したことを確認した後、プロセス毎にあらかじめ設定した遅延時間が経過するのを待って、シリンダ10を収縮し、加速時付勢部材9を検出部材6から離間させる。
【0029】
検出部材6の下端がダイヘッド1から離間する方向の回転は、ストッパ7によって防止されている。そして、加速時には加速時付勢部材9を検出部材6に押圧することで、検出部材6の下端がダイヘッド1に接近する方向の回転も抑制される。これにより、加速時の検出部材6の慣性モーメントの不均衡による回転が、揺動センサ8における閾値を超えるような大きな変位を生じさせない。もちろん、加速時付勢部材9のばね力は、実際に異物がある場合には、揺動センサ8によって閾値を超える変位が検出され得るような検出部材6の揺動を許す程度でなければならない。
【0030】
また、リニアモータ5が加速を終了して、一定速度での移動を開始しても、フレーム3や各部材の慣性や弾性力等により、支軸13の速度は、リニアモータ5の速度に対する遅れや、オーバーシュートおよびアンダーシュートを伴う場合が多い。このため、メインコントローラ15は、リニアモータ5が塗工速度に達したことを確認した後、さらに、実際の支軸13の速度がほぼ一定になると予測される遅延時間が経過するのを待ってから、加速時付勢部材9を検出部材6から離間させる。また、遅延時間が経過した後、ダイヘッド1が塗料Pの塗布を開始するように、リニアモータ5の加速度等を設定することが好ましい。
【0031】
検出部材6には、フレーム3を減速する際にも、慣性による回転力が作用する。しかしながら、通常、ダイヘッド1を板材2の上に停止することはないので、検出部材6が板材2の外側に達してからフレーム3を減速して停止すれば、もはや検出部材6の揺動によって異物を検出する必要がない。ただし、板材2の上でダイヘッド1を停止するのであれば、減速時にもシリンダ10を伸長して加速時付勢部材9を検出部材6に圧接し、検出部材6の揺動を抑制することが望ましい。
【0032】
上記実施形態において、加速時付勢部材9と常時付勢部材11とを一体化してもよい。例えば、定常時には1つのばねをわずかに圧縮した状態で検出部材6に当接して、揺動センサ8のばね力と均衡させ、加速時には、同じばねを大きく圧縮した状態で検出部材6に当接して、慣性による検出部材6の回転を抑制する。
【0033】
また、揺動センサ8が、検出部材6に回転力を作用しない非接触式等であれば、常時付勢部材11は検出部材6を直立状態に戻す最小限度の復元力を発揮できればよい。支軸13を検出部材6の重心から偏芯させることにより、揺動センサ8のばね力と均衡し、検出部材6を直立状態に復元するような回転力を作用させて、常時付勢部材11を省略してもよい。
【0034】
さらに、本発明は、固定したダイヘッドに対して板材を支持する定盤を移動させる塗工装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1…ダイヘッド
2…板材
3…フレーム
4…レール
5…リニアモータ
6…検出部材
7…ストッパ
8…揺動センサ
9…加速時付勢部材
10…シリンダ(圧接装置)
11…常時付勢部材
12…固定部材
13…支軸
14…サーボコントローラ
15…メインコントローラ
P…塗料