特許第5714630号(P5714630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714630
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】貯水設備
(51)【国際特許分類】
   E02B 9/04 20060101AFI20150416BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   E02B9/04 B
   E02B3/06 301
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-61044(P2013-61044)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-185460(P2014-185460A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2013年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山中 光幸
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−054190(JP,A)
【文献】 特開2010−248745(JP,A)
【文献】 特開平03−043512(JP,A)
【文献】 特開昭56−048417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00〜9/08
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置された取水口と、陸側に設けられ、前記取水口から取水した海水を貯える取水槽と、補機を冷却する冷却水を冷却するために使用する海水を前記取水槽から汲み上げるポンプと、前記冷却水の冷却に使用されて昇温した海水を海に放出する放出口とを備えた発電プラントが面する海岸に設置される水中堤を有し、海岸の岸壁と前記水中堤とによって海水を貯水する貯水エリアを海底に形成する貯水設備であって、
前記取水口及び前記放出口は、前記貯水エリア内に配置され、
前記水中堤の天端は、前記ポンプの取水可能水位よりも高い位置にあり、
前記水中堤は、前記岸壁の所定の2箇所から沖に向かって直線状に延びて、くの字型に形成されていることを特徴とする貯水設備。
【請求項2】
前記取水口及び前記放出口は、海底に近い場所に設置されることを特徴とする請求項1記載の貯水設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所における取水口を囲むように設置され、補機の冷却水の冷却に使用する海水を貯水する貯水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原子力発電所においては海水を取水口より取水し、この海水を、例えば補機を冷却する冷却水の冷却に用いる。取水口は、常時、海水を取水できるように海面よりも十分に低い位置に設けられている。
【0003】
しかし、地震等により津波が発生すると、津波による引き波時に海面が低下し、取水口が海面に露出するおそれがある。取水口が海面に露出すると海水を導入することができないため補機の冷却が困難になり、原子炉を停止させることが困難になるおそれがある。このため、通常は、取水口を取り囲むように取水プールが設けられ、津波による引き波時においても、補機を冷却するための海水を確保している。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された取水プールは、原子力発電所に設けられた取水口を囲むようにかつ海面よりも低い位置に設けられた潜堤により形成されている。これにより、津波による引き波時においても、必要な量の海水が取水プールによって確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−248745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、原子力発電所の補機の冷却水の冷却のために取水プールから海水を取水し続けると、海水を取水するにつれて取水プール内の海水が減少する。ここで、取水プール内に確保された海水によって補機が冷却され、原子炉を停止することができるのであれば問題はないが、原子炉が停止する前に、取水プール内の水位がポンプの取水可能水位よりも低くなった場合にはポンプが故障するおそれがある。ポンプが故障すると補機の冷却水を冷却するための海水を送ることができないため、別の系統か海水を確保する必要が生じる。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決し、補機の冷却水を冷却するために海水を使用する発電所において、津波時の引き波によって海面の水位が低下しても海水を確保することを実現した貯水設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
【0009】
(1) 海中に設置された取水口と、陸側に設けられ、前記取水口から取水した海水を貯える取水槽と、補機を冷却する冷却水を冷却するために使用する海水を前記取水槽から汲み上げるポンプと、前記冷却水の冷却に使用されて昇温した海水を海に放出する放出口とを備えた発電プラントが面する海岸に設置される水中堤を有し、海岸の岸壁と前記水中堤とによって海水を貯水する貯水エリアを海底に形成する貯水設備であって、前記取水口及び前記放出口は、前記貯水エリア内に配置され、前記水中堤の天端は、前記ポンプの取水可能水位よりも高い位置にあり、前記水中堤は、前記岸壁の所定の2箇所から沖に向かって直線状に延びて、くの字型に形成されていることを特徴とする貯水設備。
【0010】
(1)によれば、津波による引き波時においても、補機を冷却する冷却水を冷却するために必要な量の海水が貯水エリアに確保される。また、貯水エリアから取水口を介して導入された海水が、冷却水の冷却に使用された後に放出口を介して貯水エリアに戻されるため、貯水エリア内の海水の減少を抑えることが可能になる。このため、海水を冷却に使用する発電所において、津波時の引き波によって海面の水位が低下しても海水を確保することが可能になる。また、水中堤の天端が、取水口から海水を導入するポンプにおける取水可能水位よりも高い位置にあるため、海水ポンプを通る海水がなくなることに起因してポンプが故障することを防止することができる。
また、(1)によれば、津波が護岸に到達する前に、波が水中堤の連結部分に当たることによって津波の衝撃が分散され、護岸側の各種の施設が受ける津波の衝撃を緩和することが可能になる。
【0011】
(2) (1)において、前記取水口及び前記放出口は、海底に近い場所に設置されることを特徴とする貯水設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、補機の冷却水を冷却するために海水を使用する発電所において、津波時の引き波によって海面の水位が低下しても冷却水を確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の貯水設備1の概要を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態の貯水設備1の配置を示す断面図である。
図3】RSWポンプ44と水中堤10との位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の貯水設備1の概要を示す説明図である。貯水設備1は、水中堤10と、海岸の岸壁に相当する護岸20とによって構成され、水中堤10と、護岸20とによって囲まれた貯水エリア12を形成するものである。
【0016】
水中堤10は、海中に設置され、干潮時の最低水位より天端が低い潜堤である。この水中堤10は、直線状で略同じ長さの2本の堤防部10a、10bによって構成されており、2本の堤防部10a、10bは、護岸20の所定の2箇所から延びており、2本の堤防部10a、10bの先端は連結されて一体になっている。このため、水中堤10は、平面視くの字型に形成されている。また、2本の堤防部10aの基端から堤防部10bの基端までの護岸20は、直線状に形成されている。このため、貯水エリア12は、沖側に山型に突出する略二等辺三角形型に形成されている。
【0017】
この貯水エリア12に取水口30が設置されている。取水口30は、陸地に建造された原子力発電プラントにおいて冷却水として使用する海水を取り入れるものである。
【0018】
原子力発電プラントは、原子炉を収容する原子炉建屋や蒸気タービン及び発電機を収容するタービン建屋等の各種の建屋の他に、取水口30から取水した海水を貯水する取水槽40と、原子炉補機100と、原子炉補機熱交換器102とを備えている。
取水口30と取水槽40とは取水管32によって連結されており、取水口30から取水した海水は、取水管32を通って取水槽40に送られる。
【0019】
取水槽40には、除塵装置42と、原子炉補機冷却海水ポンプ(以下、RSWポンプと称する)44と、循環水ポンプ46とが備えられている。
【0020】
除塵装置42は、取水槽40に導入された海水から、魚介類やゴミ等の異物を取り除くものである。
【0021】
RSWポンプ44は、原子炉や使用済み燃料プール等の冷却水を冷却するために使用する海水を、取水槽40から汲み上げるものである。
【0022】
循環水ポンプ46は、送蒸気タービンを回転させるために使用した蒸気を冷却して復水する復水器に送る海水を、取水槽40から汲み上げるものである。
【0023】
放出口50は、護岸20に設けられている。原子炉や使用済み燃料プール等の冷却水を冷却するために使用されて昇温した海水は、放出口50から貯水エリア12に放出される。
【0024】
また、原子炉補機100は、原子炉の運転を補助する設備であり、例えば、原子炉の運転を停止させる際に、原子炉補機100が駆動する。
【0025】
原子炉補機熱交換器102は、原子炉補機100の冷却に用いる淡水の冷却水を冷却するものである。原子炉補機熱交換器102には、RSWポンプ44によって取水槽40から汲み上げられた海水が供給され、この海水によって原子炉補機100の冷却に使用された冷却水が冷却される。冷却に使用された海水は、放出口50から貯水エリア12に放出される。
【0026】
図2図1の断面図である。取水槽40の底面は、干潮時の海面の最低水位よりも低い位置に配置されている。また、取水槽40には、取水管32からの海水を取水槽40内に放出する導入口40aが形成されており、取水槽40の上部には、導入口40aに近い方から、除塵装置42、RSWポンプ44、循環水ポンプ46の順に配置されている。取水槽40内の海水は、除塵装置42によって除塵され、RSWポンプ44及び循環水ポンプ46によって汲み上げられる。
【0027】
RSWポンプ44にはベルマウス44aが取り付けられており、このベルマウス44aは鉛直下方を向いている。同様に循環水ポンプ46にもベルマウス46aが取り付けられており、このベルマウス46aも鉛直下方を向いている。ベルマウス44a及びベルマウス46aの先端部は、取水槽40内の海水に浸されている。ここで、ベルマウス44a及びベルマウス46aは、潮の満ち引きによって海面の位置が変化しても、先端部が海水内に浸されているような長さに設定されており、ベルマウス44aの先端は、ベルマウス46aよりも高い位置に配置されている。すなわち、ベルマウス44aの先端位置が、RSWポンプ44が運転可能な想定可能最低水位となる。
【0028】
そして、循環水ポンプ46を稼働させた場合には、取水槽40の底部の海水を汲み上げ、RSWポンプ44を稼働させた場合には、ベルマウス46aの先端よりも上部の海水を汲み上げる。
【0029】
また、水中堤10の天端は、図3に示すように、RSWポンプ44が運転可能な想定最低水位に高さHを加えた位置に設定されている。本実施形態によれば、ベルマウス44aの先端から水中堤10の天端までの高さHは約2mに設定されている。
【0030】
なお、RSWポンプ44の長尺化によりベルマウス44aの位置を下げた場合、ベルマウス44aの先端から水中堤10の天端までの高さHは、長尺化された長さが加算されて水中堤10内の直接冷却に寄与する範囲の冷却海水量が増加する。
【0031】
ところで、本実施形態によれば、通常状態においては、取水口30から取水された海水が、冷却水の冷却に使用されることによる熱交換によって昇温した後、放出口50から海に放出される。放出口50された海水は海水表層に上昇し、潮の流れによって貯水エリア12の外部に移動する。このため、比較的冷たい海底の海水が取水口30から取水される。
【0032】
しかし、仮に、大きな津波のおそれがある場合には、原子炉等を速やかに停止させる必要があるため、原子炉補機100、原子炉補機熱交換器102及びRSWポンプ44を運転して原子炉等の冷却を行う必要がある。この際、津波が押し寄せる前の引き潮が発生することにより、海面の水位が大きく低下するが、貯水エリア12内の海水は水中堤10を越えることなくそのまま貯水エリア12内に残る。貯水エリア12内に残った海水が、原子炉等の冷却に使用される。
【0033】
更に、取水口30から取水され、原子炉等の冷却水の冷却に使用された海水は、放出口50を介して貯水エリア12に戻されるため、貯水エリア12の海水が循環するようになる。このため、貯水エリア12の海水量の低減を抑えることが可能になり、貯水エリア12内に残った海水の水位が、水中堤10の天端から高さHの位置より下方になることを抑えることが可能になる。これにより、取水槽40内の水位が、RSWポンプ44が運転可能な想定最低水位よりも低くなることが防止され、RSWポンプ44を安定して運転させることが可能になる。
【0034】
また、貯水エリア12内に戻された昇温した海水は、貯水エリア12内の海水表層に上昇して大気へ蒸発すること及び海底、大気への放熱によって冷却されて、再び、取水口30から取水される。なお、海水の循環を繰り返すことによって貯水エリア12内の海水温度は上昇することになるが、原子炉等の冷却に寄与することは十分に可能である。なお、海底への放熱を効率よく行うために、取水口30及び放出口50の設置場所は可能な限り海底に近いことが望ましい。
【0035】
以上、説明したように構成された本実施形態によれば、津波による引き波時においても、補機の冷却に必要な量の海水が貯水エリア12に確保される。また、貯水エリア12から取水口30を介して導入された海水が、補機を冷却する冷却水を冷却するために使用された後に、放出口50を介して貯水エリア12に戻されるため、貯水エリア12内の海水の減少を抑えることが可能になる。このため、海水を冷却水として使用する発電所において、津波時の引き波によって海面の水位が低下しても冷却水を確保することが可能になる。また、水中堤10の天端が、RSWポンプ44における取水可能水位、すなわちベルマウス44aの先端よりも高い位置にあるため、RSWポンプ44を通る海水がなくなることに起因してRSWポンプ44が故障することを防止することができる。
【0036】
また、津波が護岸20に到達する前に水中堤10によって津波からの衝撃が分散されるため、護岸20側の各種の施設が受ける津波の衝撃を緩和することが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
1 貯水設備
10 水中堤
10a 堤防部
10b 堤防部
12 貯水エリア
20 護岸
30 取水口
32 取水管
40 取水槽
40a 導入口
42 除塵装置
44 原子炉補機冷却海水ポンプ(RSWポンプ)
44a ベルマウス
46 循環水ポンプ
46a ベルマウス
50 放出口
100 原子炉補機
102 原子炉補機熱交換器
図1
図2
図3