【実施例】
【0030】
本発明の実施形態A、B、Cにより、表1に示す条件でBiTeSb合金の熱電変換材料マトリクス中に断面が多重円弧状のフォノン散乱粒子が0.5〜11vol%分散したナノコンポジット熱電変換材料を作製し、接触角θ、ナノ粒子直径a、格子熱伝導率κ、電気伝導率を測定した。測定結果も表1に示した。
【0031】
《本発明例のサンプル作製》
〔マトリクス熱電変換材料用原料〕
ナノコンポジット熱電変換材料のマトリクス熱電変換材料として、各形態共通のBiTeSb熱電変換材料を構成する第1群元素(Bi、Sb、Te)の塩として、下記原料を用いた。
[第1群元素の塩]
Bi源:BiCl
3 0.24g
Sb源:SbCl
3 0.68g
Te源:TeCl
4 1.51g
以下、実施形態A、B、C毎に説明する。
【0032】
実施形態<A>:実施例1〜7
〔フォノン散乱粒子用原料〕
表1の実施例1〜7に示すように、フォノン散乱粒子を構成する第2群元素酸化物(SiO
2)の前駆体として、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC
2H
5)
4)を用いた。
【0033】
[第2群元素酸化物の前駆体]
SiO
2源:TEOS 0.14g
溶媒として、表1の実施例1〜7に示したように、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2プロパノールのいずれかを用いた。
【0034】
まず、第1段階として、下記の工程(1)(2)を順次行った。
(1)溶液の形成
上記の第1群元素の塩と第2群元素酸化物の前駆体とを上記各溶媒100mlに溶解して表1に示した実施例1〜7の各溶液を作製した。
上記の溶液に、還元剤としてNaBH
4(1.59g)、N
2H
4・H
2O(2.10g)、アスコルビン酸(7.40g)のいずれかを上記溶媒100mlに溶解した溶液を表1に示したように用いた。
【0035】
実施形態<A>に必要な条件《1》は下記のとおり満たされている。
条件《1》:実施例1〜7の各溶液中において、各還元剤に対して、第1塩(BiCl
3、SbCl
3、TeCl
4)が還元されて第1群元素(Bi、Sb、Te)が析出する速度は、前駆体(TEOS)が重合して第2群元素酸化物(SiO
2)が析出する速度より大きい。
【0036】
(2)ナノ粒子の析出・成長
実施例1〜7の各溶液に表1に示した各還元剤溶液を滴下し、第1群元素(Bi、Sb、Te)を析出させつつ、第2群元素酸化物(SiO
2)を析出させた。その際、
図1(1)に示すように、析出速度が大きい第1群元素(Bi、Sb、Te)が先に成長して球状のナノ粒子となり、そのナノ粒子の表面あるいはナノ粒子間の間隙または谷間に第2群元素酸化物(SiO
2)のナノ粒子が多重円弧状に成長した。
【0037】
得られた実施例1〜7の各溶媒のスラリーを水500mlでろ過洗浄し、その後更に、同じ溶媒300mlでろ過洗浄した。これによりナノ粒子の混合物が得られた。
【0038】
次に、第2段階として、下記の工程(3)(4)を順次行った。
(3)水熱処理:複合ナノ粒子の形成
上記の混合物を密閉のオートクレーブに入れ、240℃、48hrの水熱処理を行い、合金化させた。その後、窒素ガスフロー雰囲気中で乾燥させた。これにより、BiTeSb合金ナノ粒子とSiO
2ナノ粒子との複合ナノ粒子の粉末が回収された。
【0039】
(4)焼結:ナノコンポジット熱電変換材料の完成
複合ナノ粒子粉末を360℃でSPS焼結した。これにより、BiTeSb熱電変換材料マトリクス中にフォノン散乱粒子としてのSiO
2ナノ粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料のバルク体が得られた。
【0040】
TEM観察により、実施例1〜7のSiO
2の接触角θおよび直径aを測定し、各々表1に示す。
得られた焼結体の格子熱伝導率および電気伝導率を測定し、結果を表1に示す。
【0041】
実施形態<B>:実施例8〜14
〔フォノン散乱粒子用原料〕
〔フォノン散乱粒子用原料〕
表1の実施例8〜14に示すように、フォノン散乱粒子を構成する第2群元素酸化物(SiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2、TiO
2)の前駆体として、それぞれ珪酸ソーダ3号、TEOS、Biエトキシド、Sbエトキシド、Teエトキシド、Tiアルコキシドを用いた。
【0042】
[第2群元素酸化物の前駆体]
SiO
2源 :TEOS 0.14g
:珪酸ソーダ 0.08g
Bi
2O
3源:Biエトキシド 0.23g
Sb
2O
3源:Sbエトキシド 0.17g
TeO
2源 :Teエトキシド 0.21g
TiO
2源 :Tiアルコキシド 0.15g
溶媒として、表1の実施例8〜14に示したように、2−プロパノールを用いた。
【0043】
まず、第1段階として、下記の工程(1)(2)を順次行った。
(1)溶液の形成
上記の第1群元素の塩を溶媒2−プロパノール100mlに溶解して第1溶液とし、上記の第2群元素酸化物の前駆体を溶媒2−プロパノール100mlに溶解して第2溶液とした。
上記の溶液に、還元剤としてNaBH
4(1.59g)、N
2H
4・H
2O(2.10g)のいずれかを溶媒2−プロパノール100mlに溶解した溶液を表1に示したように用いた。
【0044】
実施形態<B>に必要な条件《1》は下記のとおり満たされている。
条件《1》:実施例8〜14の各溶液中において、各還元剤に対して、塩(BiCl
3、SbCl
3、TeCl
4)が還元されて第1群元素(Bi、Sb、Te)が析出する速度は、前駆体(珪酸ソーダ3号、TEOS、Biエトキシド、Sbエトキシド、Teエトキシド、Tiアルコキシド)が重合して第2群元素酸化物(SiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2、TiO
2)が析出する速度より大きい。
【0045】
(2)ナノ粒子の析出・成長
実施例8〜14の各第1溶液に表1に示した各還元剤溶液を滴下し、第1群元素(Bi、Sb、Te)を析出させた後、第2溶液を投入し第2群元素酸化物(SiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2、TiO
2)を析出させた。その際、
図1(1)に示すように、析出速度が大きい第1群元素(Bi、Sb、Te)が先に析出・成長して球状のナノ粒子となり、そのナノ粒子の表面あるいはナノ粒子間の間隙または谷間に第2群元素酸化物(SiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2、TiO
2)のナノ粒子が多重円弧状に成長した。
【0046】
得られた実施例8〜14の2−プロパノールのスラリーを水500mlでろ過洗浄し、その後更に、2−プロパノール300mlでろ過洗浄した。これによりナノ粒子の混合物が得られた。
【0047】
次に、第2段階として、下記の工程(3)(4)を順次行った。
(3)水熱処理:複合ナノ粒子の形成
上記の混合物を密閉のオートクレーブに入れ、240℃、48hrの水熱処理を行い、合金化させた。その後、窒素ガスフロー雰囲気中で乾燥させた。これにより、BiTeSb合金ナノ粒子とSiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2またはTiO
2のナノ粒子との複合ナノ粒子の粉末が回収された。
【0048】
(4)焼結:ナノコンポジット熱電変換材料の完成
複合ナノ粒子粉末を360℃でSPS焼結した。これにより、BiTeSb熱電変換材料マトリクス中にフォノン散乱粒子としてのSiO
2ナノ粒子、Bi
2O
3ナノ粒子、Sb
2O
3ナノ粒子、TeO
2ナノ粒子またはTiO
2ナノ粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料のバルク体が得られた。
【0049】
TEM観察により、実施例8〜14のSiO
2、Bi
2O
3、Sb
2O
3、TeO
2またはTiO
2の接触角θおよび直径aを測定し、各々表1に示す。
得られた焼結体の格子熱伝導率および電気伝導率を測定し、結果を表1に示す。
【0050】
実施形態<C>:実施例15〜16
〔フォノン散乱粒子用原料〕
〔フォノン散乱粒子用原料〕
表1の実施例15〜16に示すように、フォノン散乱粒子を構成する第2群元素酸化物(SiO
2、Sb
2O
3)の前駆体として、それぞれTEOS、Sbエトキシドを用いた。
【0051】
[第2群元素酸化物の前駆体]
SiO
2源 :TEOS 0.14g
Sb
2O
3源:Sbエトキシド 0.17g
溶媒として、表1の実施例15〜16に示したように、エタノールを用いた。
【0052】
まず、第1段階として、下記の工程(1)(2)を順次行った。
(1)溶液の形成
上記の第1群元素の塩を溶媒エタノール100mlに溶解して第1溶液とし、上記の第2群元素酸化物の前駆体を溶媒エタノール100mlに溶解して第2溶液とした。
上記の溶液に、還元剤としてN
2H
4・H
2O(2.10g)を溶媒エタノール100mlに溶解した還元剤溶液を表1に示したように用いた。
【0053】
(2)ナノ粒子の析出・成長
実施例15〜16の各第1溶液に表1に示した各還元剤溶液を滴下し、第1群元素(Bi、Sb、Te)を析出させた。48時間静置して、ナノ粒子を凝集させた。その後、第2溶液を投入し第2群元素酸化物(SiO
2、Sb
2O
3)を析出させた。その際、
図1(1)に示すように、第1群元素(Bi、Sb、Te)が既に析出・成長して球状のナノ粒子となった状態であり、そのナノ粒子の表面あるいはナノ粒子間の間隙または谷間に第2群元素酸化物(SiO
2、Sb
2O
3)のナノ粒子が多重円弧状に成長した。
【0054】
得られた実施例15〜16のエタノールスラリーを水500mlでろ過洗浄し、その後更に、エタノール300mlでろ過洗浄した。これによりナノ粒子の混合物が得られた。
【0055】
次に、第2段階として、下記の工程(3)(4)を順次行った。
(3)水熱処理:複合ナノ粒子の形成
上記の混合物を密閉のオートクレーブに入れ、240℃、48hrの水熱処理を行い、合金化させた。その後、窒素ガスフロー雰囲気中で乾燥させた。これにより、BiTeSb合金ナノ粒子とSiO
2またはSb
2O
3のナノ粒子との複合ナノ粒子の粉末が回収された。
【0056】
(4)焼結:ナノコンポジット熱電変換材料の完成
複合ナノ粒子粉末を360℃でSPS焼結した。これにより、BiTeSb熱電変換材料マトリクス中にフォノン散乱粒子としてのSiO
2ナノ粒子またはSb
2O
3ナノ粒子が分散したナノコンポジット熱電変換材料のバルク体が得られた。
【0057】
TEM観察により、実施例15〜16のSiO
2、Sb
2O
3の接触角θおよび直径aを測定し、各々表1に示す。
得られた焼結体の格子熱伝導率および電気伝導率を測定し、結果を表1に示す。
【0058】
〔比較例〕
比較のため、上記合金マトリクス中にフォノン散乱粒子として従来の球状のSiO
2ナノ粒子(市販品:粒径5nmまたは15nm)が10〜15vol%分散したナノコンポジット熱電変換材料を作製した。
【0059】
《比較例の作製条件》
〔マトリクス熱電変換材料用原料〕
実施例1〜16と共通の原料を用いた。
[第1群元素の塩]
Bi源:BiCl
3 0.24g
Sb源:SbCl
3 0.68g
Te源:TeCl
4 1.51g
〔フォノン散乱粒子〕
市販品SiO
2(粒径5nmまたは15nm)を0.034〜0.054g(15vol%の場合)用いた。
【0060】
100mlのエタノール中に上記第1群元素の第1塩およびフォノン散乱粒子を投入し、得られた溶液に還元剤としてNaBH
41.59gの100ml溶液の還元剤溶液を滴下して、第1群元素(Bi、Sb、Te)のナノ粒子とSiO
2ナノ粒子との混合物を得た。この混合物を密閉のオートクレーブに入れ、240℃、48hrの水熱処理を行い、合金化させた。その後、窒素ガスフロー雰囲気中で乾燥させた。これにより、BiTeSb合金ナノ粒子とSiO
2ナノ粒子との複合ナノ粒子の粉末が回収された。
【0061】
この複合ナノ粒子粉末を360℃でSPS焼結した。その際、SiO
2ナノ粒子はそのまま維持され、BiTeSb熱電変換材料マトリクス中に分散したナノコンポジット熱電変換材料のバルク体が得られた。
【0062】
【表1】
表1に示したように、本発明例は、比較例に比べて、格子熱伝導率が大幅に低下し、かつ、高い電気伝導率が確保されている。
実施形態A、B、Cを比較する。
【0063】
接触角θは、実施形態A>B>Cの順に小さくなっている。
【0064】
粒子直径aは、実施形態A<B<Cの順に大きくなっている。
【0065】
これはいずれも、熱電変換材料ナノ粒子の比表面積がA<B<Cの順に大きくなるためである。それにより格子熱伝導率および電気伝導率が全般的に高くなる。
【0066】
図6、7に、本発明例と比較例について、ナノコンポジット熱電変換材料のフォノン散乱粒子の体積分率と各特性との関係を示す。
【0067】
まず
図6にフォノン散乱粒子の体積率に対して格子熱伝導率をプロットした。体積率は、本発明例0.5〜11vol%、比較例5〜20vol%(粒径5nm)および10〜30vol%(粒径15nm)である。本発明例の代表として実施形態Bの結果を示した(
図6、7、8について共通)。
【0068】
図中上部の水平破線(「BiSbTe」と付記)は、フォノン散乱粒子を含まないBiSbTe熱電変換材料(本発明のマトリクス材料)のみの場合の格子熱伝導率κ
phであり、0.90W/m/Kである。
【0069】
これに対して、球状のフォノン散乱粒子(SiO
2)が分散している比較例は、フォノン散乱粒子の粒径15nm(体積率10〜30vol%)の場合に格子熱伝導率κ
phが0.57〜0.52W/m/Kであり、粒径5nm(体積率5〜20vol%)の場合に格子熱伝導率κ
phが0.34〜0.12W/m/Kであり、フォノン散乱粒子の分散により、大幅に低下している。
【0070】
更に、多重円弧状のフォノン散乱粒子(体積率0.5〜11vol%)が分散している本発明例は、フォノン散乱粒子体積率の増加に伴い0.5〜0.02W/m/Kと低下の度合いが大きくなっており、少ない体積率で極めて大幅に格子熱伝導率κ
phが低下している。
【0071】
このように本発明によれば、多重円弧形状のフォノン散乱粒子により、フォノン散乱界面が大幅に増大(
図3参照)したことにより、格子熱伝導率κ
phが大幅に低下する。
【0072】
次に
図7に、フォノン散乱粒子の体積率に対して電気伝導率をプロットした。
図中上部の水平破線(「BiSbTe」と付記)は、フォノン散乱粒子を含まないBiSbTe熱電変換材料(本発明のマトリクス材料)のみの場合の電気伝導率σであり、900S/cmである。
【0073】
これに対して、球状のフォノン散乱粒子(SiO
2、粒径5nm、体積率10〜30vol%)が分散している比較例は、電気伝導率σが、270〜390S/cmであり、多重円弧状のフォノン散乱粒子(体積率0.5〜11vol%)が分散している本発明例は、比較例より高い体積率でフォノン散乱粒子が分散しているにもかかわらず320〜700S/cmと比較例より高い値を示している。
【0074】
この結果は、本発明によれば多重円弧状のフォノン散乱粒子は界面密度が高いにも関わらず、比較例の球状フォノン散乱粒子の場合と同一曲線上の変化となっていると観ることができる。これは、本発明の多重円弧状のフォノン散乱粒子は、トンネル効果(
図4(1)(2)参照)により、界面増加によるキャリア散乱の増加(=電気伝導率の低下)が抑制されているためである。