【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、被験化合物が3型分泌機構T3SSの機能を阻害する能力を有するか否かを決定するための方法であって、被験化合物をT3SSを有する細菌細胞と接触させ、
a.第1工程で、該細菌細胞中のエフェクターまたは輸送体タンパク質の分泌を阻害する能力を試験し、
b. 第2工程で、T3SSニードル複合体を形成する構造成分の組み立てを阻害する能力を試験する、方法に関する。
【0012】
該第1工程で、分泌エフェクターまたは輸送体(トランスロケーター)(「輸送体」または「輸送体タンパク質」はエフェクターが真核細胞の膜を横切るのを助けるタンパク質である)の量を、例えば、実験室規模で、電気泳動、次いでタンパク質染色により直接測定することができる。上清中のIII型分泌タンパク質の量を、該分泌タンパク質の1またはそれ以上に対する抗体を用いる免疫学的方法により検出することもできる。適切な方法には、限定されるものではないが、ウエスタンブロット、イムノドットブロット、およびELISAが含まれる。
【0013】
好ましくは、該第1工程のアッセイはELISAである。固定化エフェクターに加えた抗体を直接標識するか、または過剰の第1抗体を洗浄除去後、モル過剰の、第1抗体の動物種のIgGに対する第2標識抗体を加えて間接的に検出することができる。
【0014】
常套的ELISAアッセイは、通常、例えば以下の当該分野でよく知られたプロトコールに従って行う:試験する試料、例えば細菌溶解物を固定化捕捉(またはコート)試薬と接触させ、インキュベーションする。固定化は、常套的に、アッセイ手順の前に、例えば水に不溶性のマトリックスまたは表面に吸着させることにより捕捉試薬を不溶化することにより達成される。固定化に用いる固相は、実質的に水に不溶性で免疫測定法に有用なあらゆる不活性支持体もしくは担体(例えば表面、粒子、ビーズ、多孔マトリックスなどの形の支持体を含む)でありうる。一般的に用いられる支持体の例には、小シート、Sephadex、塩化ポリビニル、プラスチックビーズ、およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどから製造されたアッセイプレートまたは試験チューブ(96ウェルマイクロタイタープレートを含む)、および微粒子物質、例えば濾紙、アガロース、架橋デキストラン、および他のポリサッカライドが含まれる。あるいはまた、反応性水不溶性マトリックス、例えば臭化シアン活性化炭化水素を用いることができ、該反応性物質は、捕捉試薬の固定化に適切に用いられる。好ましい態様において、固定化捕捉試薬でマイクロタイタープレートをコートし、特に用いるのに好ましい固相は一度に種々の試料を分析するのに用いることができるマルチウェルマイクロタイタープレートである。
【0015】
該固相を捕捉試薬でコートし、これを非共有または共有相互作用または物理的結合により固体支持体と結合させることができる。結合技術は当該分野でよく知られている。共有交互作用であれば、プレートまたは他の固相を、当該分野でよく知られた条件下で、例えば室温で1時間、捕捉試薬と共に架橋剤とインキュベーションする。
【0016】
コートしたプレートを、典型的には、結合部位に非特異に結合するブロッキング剤で処理し、結合部位を飽和させ、該プレートのウェルの過剰な部位への望ましくない結合を抑制する。適切なブロッキング剤の例には、例えばゼラチン、ウシ血清アルブミン、卵アルブミン、カゼイン、および脱脂乳が含まれる。
【0017】
コーティングおよびブロッキングの後、試料を固定化相に加える。充分な感度を得るため、加える試料の量は、固定化捕捉試薬が試料中の予期される遊離エフェクターの最大モル濃度のモル過剰となるようにすべきである。試料と固定化捕捉試薬のインキュベーション条件は、アッセイの感度を最大にし、解離を最小にするように選択する。次に、試料を除去し(このましくは「洗浄用緩衝液」で洗浄することにより)、捕捉されていないエフェクターを除去する。捕捉したエフェクターが続く工程である程度解離するかもしれない心配がある場合には、架橋剤または他の適切な試薬をこの段階で加え、結合したエフェクターを捕捉試薬に共有結合させることもできる。
【0018】
次に、固定化エフェクターを、直接または間接的に検出可能な抗体と接触させる。抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。抗体は、例えば蛍光標識され直接検出可能でありうる。蛍光標識は、比色標識に比べて感度が高い。検出可能な抗体をビオチン化し、検出手段はアビジンもしくはストレプトアビジン-β-ガラクトシダーゼ、およびMUG(4-メチルウンベリフェリル-β-ガラクトシダーゼ)でありうる。
【0019】
好ましくは、遊離エフェクターの最大予測濃度に対してモル過剰の抗体を、洗浄後のプレートに加える。抗体の親和性は、少量の遊離エフェクターを検出することができるように十分高くなければならない。
【0020】
次に、捕捉試薬と結合するエフェクターの量をエフェクターに結合した抗体を検出することにより測定する。このために、抗体を直接標識するか、過剰の第1抗体を洗浄除去後に、モル過剰の、第1抗体の動物種のIgGに対する第2抗体を加えることにより間接的に検出することができる。後者の間接アッセイでは、第1抗体に対する標識抗血清を試料に加え、in situで標識抗体を生成する。
【0021】
第1抗体または第2抗体に用いる標識は、結合パートナーの結合に干渉しないあらゆる検出可能な官能性がある。適切な標識の例には、直接標識することができる成分、例えば蛍光色素、化学ルミネッセント、および放射性標識、ならびに検出するために反応させるかまたは誘導体化する必要がある成分、例えば酵素を含むイムノアッセイに用いるための当該分野で知られた標識がある。そのような標識の例には、放射性同位体
32P、
14C、
125I、
3H、および
131I、蛍光体、例えば希土キレートまたはフルオレセイン、およびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルセリフェラーゼ、例えばホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソゾーム、糖オキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、およびグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えば色素前駆体を酸化するために過酸化水素を用いる酵素、例えばHRP、ラクトパーオキシダーゼ、またはミクロパーオキシダーゼと結合させたウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/ストレプトアビジン-β-ガラクトシダーゼおよびMUG、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカルなどが含まれる。これら標識とタンパク質またはポリペプチドを共有結合させるのに常套的方法を用いることができる。例えば、カップリング剤、例えばジアルデヒド、カルボジイミド、ジマレイミド、ビス-イミデート、ビス-ジアゾ化ベンジンなどを用いて、上記、蛍光、化学ルミネッセント、および酵素標識で抗体を標識することができる。
【0022】
酵素標識を含むそのような標識の抗体に対する結合は、イムノアッセイ技術における当業者にとって標準的手順である。例えば、O'Sullivan et al. 「Methods for the Preparation of Enzyme-antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay」、Methods in Enzymology中、J. J. Langone and H. Van Vunakis編、Vol. 73(Academic Press、New York、N.Y.、1981)、pp. 147-166参照。
【0023】
標識抗体を添加した後、洗浄して過剰の非結合標識抗体を除去し、次いで該標識に特異的な検出方法を用いて結合した標識の量を測定し、測定した量と試料中のエフェクターの量を相関させることにより結合抗体の量を測定する。例えば、酵素の場合は、測定した発色の量をエフェクターの量と相関させることができる。具体的には、HRPが標識である場合は、基質OPDを用い、490nmで吸光度を測定して色を検出する。
【0024】
ある例では、第1非標識抗体に対する酵素標識第2抗体を固定化相から洗浄した後、色または化学ルミネッセンスを固定化捕捉試薬と酵素の基質をインキュベーションすることにより発現させ、測定する。次に、分泌濃度の量を、同時の標準的エフェクター操作により生じた色または化学ルミネッセンスと比較して計算する。
【0025】
本発明に有用なELISAは、Gauthier et al.、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、Oct. 2005、4101-410、およびWO1999/45136に記載されている。簡単には、一夜培養の細菌をマイクロタイタープレートで継代培養し、目的の分泌エフェクタータンパク質を該プレートの表面に付着させる(あるいはまた、細菌を遠心分離して得た上清を用いることができる)。プレートに結合したエフェクター(または輸送体)をそれぞれ抗エフェクター抗体または抗輸送体抗体、およびパーオキシダーゼ結合二次抗体を用いて検出する。該試験は、o-フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)を加えて発色させ、反応を止めた後プレートリーダーで分析した。
【0026】
好ましい態様では、該第1工程において、分泌エフェクタータンパク質の量は、該タンパク質がその同種シャペロン分子と結合(相互作用)する能力により測定する。(本発明の目的では、この文脈において用語「シャペロン」は、上記クラスIシャペロン(またはクラス1Aシャペロン)(すなわち、該エフェクターの分泌に必要なシャペロン分子)と同義である。すなわち、この態様では、第1工程のアッセイはそのシャペロンと結合しているエフェクターの量を測定することに基づく。
【0027】
この態様では、分泌エフェクターの量は、結合パートナーと結合しているタンパク質をアッセイするのに適したあらゆる方法により測定することができる。
【0028】
ある態様では、該エフェクタータンパク質は、市販の標準的方法論を用いて上記原理に従って行うことができるELISA形アッセイにより検出される。例として、そのようなアッセイは、以下のごとく行うことができる:シャペロンをマイクロタイタープレート上に固定化する(例えば、プレートに結合した、シャペロンに対する抗体またはその断片、またはシャペロン結合タグ(例えば、GST、His、Myc)に対する抗体による)。通常エフェクタータンパク質を分泌し、被験化合物で処理した細菌培養由来の溶解物または上清(同時に、非処理細菌由来のコントロール試料)を該プレートに加え、エフェクタータンパク質の量をエフェクタータンパク質に対する抗体および上記の検出可能な標識、例えば、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはフルオロフォアを有する抗体により検出する。
図1Aは、分泌前の同種シャペロン(図ではPで示す)と結合しているエフェクターの分泌メカニズムを模式的に示す。
図1Bは、シャペロンPをプレートにコートし、エフェクターを一次抗エフェクター抗体と結合する標識二次抗体の量を測定することにより測定するELISAを示す。
【0029】
好ましくは、ELISAを実施例1に記載のごとく用いる(本発明の目的では、そのようなELISAは「分泌ELISA」と呼ばれ、ELISAフォーマット以外を用いる場合は、そのようなアッセイは「分泌アッセイ」と呼ばれる)。分泌ELISAは、細胞上清から分泌分子、例えばエフェクター分子を直接検出することができる。主な利点は、24時間以内の培養増殖およびエフェクター両方の測定を含めて1マルチウェルプレートあたり96試料までを試験することができることである。分泌ELISAは、現在、一人一日あたり384試料を試験するのに用いることができ、TCA(トリクロロ酢酸)沈殿およびウエスタンブロッティングの代わりに日常的に用いられる。例として、分泌アッセイは、エフェクター/シャペロンペアSptP/SicP(実施例1に記載)またはSipA-Flag/InvBを用いて確立することができる。
【0030】
Salmonella typhimuriumにより例示されるが、上記原理は、T3SSによりエフェクタータンパク質を分泌するあらゆる他の病原性グラム陰性菌に適用することができる。すなわち、該アッセイは、検出すべき各エフェクターに対する各シャペロンをコートする成分に用いてシャペロン/エフェクターペアに相当するあらゆるタンパク質の組み合わせに基づくことができる。該化合物の効果は、測定した量と、該細菌細胞を該化合物で処理していないコントロールの測定量を比較することにより分析することができる。
【0031】
Salmonella typhimurium以外の細菌由来のエフェクタータンパク質の例には以下のものがある:Yersinia spp.由来のYopE、YopH、YpkA/YopO、YopP/YopJ、YopM、YopT;E. coli由来のTir;P. aeruginosa由来のExoS、ExoT、ExoY;Shigella spp.由来のIpaA、IpaB、およびIpgD;P. syringae pv. Tomato由来のAvrPto;Xanthomonas campestris pv. Vesicatoria由来のAvrBs2;およびX. campestris pv. Vesicatoria由来のAvrBs3。例えば、Yersiniaのインヒビターを同定するためには、エフェクターSptP(Salmonella由来)の代わりに、シャペロンSycTをコートするタンパク質として用いることができ、検出するエフェクターはYopTである。シャペロンおよびエフェクタータンパク質(それらのタンパク質およびDNA配列を含む)、および組み合わせは文献で知られており、有用なエフェクターおよびエフェクター/シャペロンペアーの例を表1〜5に示す。
表1:Salmonella enterica;表2:Yersinia pestis/Yersinia enterocolitica/Yersinia pseudotuberculosis;表3:Escherichia coli;表4:Shigella flexneri/Shigella sonnei;表5:Chlamydia(Chlamydia pneumoniae/Chlamydia trachomatis/Chlamydia muridarum/Chlamydophila felis)。
【0032】
特定のエフェクターのシャペロンが(まだ)同定されていない場合は、その存在を、例えばPallen et al.、2005;BMC Microbiol. 5:9に記載の生物情報学分析を用いて測定することができる。
【0033】
しばしば、細菌細胞とその宿主細胞を接触させるIII型タンパク質分泌機構の完全活性化が必要である。in vitro条件下ではT3SSの成分の発現は低いかもしれない。したがって、好ましくはWO2005/113791に記載のように、本発明の方法は、さらに、細菌細胞の外に分泌されたエフェクターの量を検出する工程の前に、III型タンパク質分泌機構を活性化する工程を含む。III型タンパク質分泌機構の活性化工程は、宿主細胞を被験化合物に暴露する前または後に行うことができる。例えば、細菌細胞をその真核宿主細胞と直接接触させるか、または温度、浸透圧、栄養素、二価カチオン(Ca
2+)、pH値、および増殖期などのin vitroの実験条件を選択して適用することにより、特定の細菌細胞中でIII型タンパク質分泌機構の活性を増大するための方法は当業者に知られており、WO2005/113791に記載されている。例えば、in vitroのYop分泌をもたらすために、Yersiniaを、一般的には、Ca
2+除去培地中、28℃で増殖させ、次いで37℃に移す。Yersinia spp.と同様に、P. aeruginosaにおけるタンパク質の分泌は、低Ca
2+条件下で活性化される。37℃でShigellaまたは腸管病原性大腸菌を増殖させるとそのT3SSが活性化する。Salmonella typhimuriumについては、SPI-I III型タンパク質分泌機構は、好ましくは、in vitroで、低酸素、高浸透圧、および弱アルカリ性(pH8)条件下で活性化される。
【0034】
好ましい態様において、本発明の方法の第1工程は、高スループットフォーマットで行うスクリーニング法であり、このための種々の有用なアッセイが市販されている。
【0035】
好ましい態様によれば、該高スループットアッセイは、ELISAアッセイ(いわゆる「AlphaLISAs」)の変換に適した、容易に自動化される高感度のホモジニアスアッセイを可能にする、ビーズベースのアルファ技術(「増幅ルミネッセント近接ホモジニアスアッセイ」;PerkinElmer)を利用する。
【0036】
この技術は、いわゆるドナービーズとアクセプタービーズの近接に依存するシグナルに基づく。AlphaScreenでは、バイオ結合のための官能基を提供するヒドロゲルの層でコートする「ドナー」ビーズと「アクセプター」ビーズを使用する。該ドナービーズは、さらに、680nmで励起すると一重項酸素を発生する光増感層でコートされる。該ビーズをごく接近させると、一重項酸素の半減期はアクセプタービーズに伝達され、化学ルミネッセンスを生じさせるのに充分な長さである。
【0037】
例として、エフェクターが、直接、すなわち、そのシャペロンに結合することなく検出される場合は、該アッセイは、該エフェクター上の異なるエピトープを認識する2つの抗体を必要とする、いわゆるサンドイッチフォーマットである。一方の抗体は、ビオチン化され、ストレプトアビジンコートされたドナービーズにより捕捉される。第2抗体は、アクセプタービーズと結合する。エフェクターの存在は、ドナービーズとアクセプタービーズをごく接近させるイムノサンドイッチを生じる。エフェクターの濃度が高いと、ドナー-アクセプターイムノサンドイッチが形成され、シグナルの増加をもたらす。
【0038】
該アッセイをエフェクターとその同種シャペロンとの相互作用に基づく態様に従って実施する場合は、例として、一方のビーズはシャペロンを有し、他のビーズは抗エフェクター抗体を有する。該シャペロンをビーズと直接結合させるか、またはストレプトアビジンコートした標準ビーズを用い、これにビオチン化シャペロン分子を結合させる。
【0039】
検出は直接的でも間接的でもよく、直接アッセイフォーマットでは、抗エフェクター抗体またはシャペロンをビーズ上に直接結合させる。これは、アッセイをすぐに行える利便性をもたらす。間接アッセイでは、二次抗体またはプロテインAをビーズと結合させる。この方法は、一次抗体が非常に高価であるか入手困難である場合、その使用を最小限にする。
【0040】
例として、該アッセイは、例えば1時間、試料をビオチン化シャペロンでコートしたビーズおよび抗エフェクター抗体でコートしたビーズとインキュベーションすることにより二段階の反応として行うことができる。これに次いでストレプトアビジンで共有結合的にコートしたビーズと30分間インキュベーションする。インキュベーション工程の後、ビーズ内で化学ルミネッセンス反応から生じた光を定量する。該アッセイは、試料容量5μLの384ウェルプレート中で行うことができる。
【0041】
好ましくはないが、他の高スループットフォーマット用のアッセイタイプは、蛍光検出技術、例えば時間分解蛍光アッセイ、例えば解離増強ランタニドフルオロイミノアッセイ(DELFIA)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)から選ばれる。DELFIAは、緩衝剤、培地、試薬、または化合物などのアッセイ成分からのバックグラウンドの干渉を避けるため蛍光寿命の長い(>100μs)ランタニドキレートを用いる。標識は、窒素レーザーまたはフラッシュランプからUV範囲の光を吸収し、用いるランタニドに応じて500〜700nmの蛍光を放射する。このアッセイは、洗浄工程を含むが、この欠点は、ある場合には検出性が高い利点の代償として許容されるかもしれない。
【0042】
市販のDELFIAキットの大部分は、非競合的「サンドイッチ型」アッセイに基づく。例として、本発明では、シャペロン分子は固体支持体と結合するが、抗エフェクター抗体は例えばユーロピウムで標識される。測定したEuの量は、シャペロンと結合したエフェクターの量と直接相関する。
【0043】
さらなる局面において、本発明は、T3SSニードル複合体を形成する構造成分の組み立てをモニターする方法であって、ニードル複合体の組み立てを、それぞれ、既存の構造成分[x-1]、または成分[x-1]を含む予め形成された複合体と結合する場合に、後で結合した構造成分[x]を検出することにより測定する方法に関する。
【0044】
被験化合物がT3SSの機能を阻害する能力を有するか否かを検出するための本発明の方法において、この方法は第2工程に相当する。
【0045】
該第二工程(本発明の目的において「構造アッセイ」、またELISAフォーマットの場合は「構造ELISA」とも呼ぶ)において、第1工程からの陽性ヒット、すなわち、エフェクターまたは輸送体の分泌を阻害する化合物の、ニードル複合体を形成する構造成分の組み立てを阻害する能力について試験する。このアッセイ工程は、組み立てが、構造成分[x]が、それぞれ既存の構造成分[x-1]または成分[x-1]を含む予め形成された複合体と結合する段階的プロセスであるということを利用する。
【0046】
Salmonella typhimuriumによって例示すると、基部構造は、構造成分PrgH、PrgK、およびInvGにより形成されるが、PrgIおよびPrgJは、天然の組み立ての連鎖において基部が形成された後に加えられ、ニードルおよび内部ロッド基部構造を構成する。
る。この配列に基づけば、例として、PrgIは成分[x]でありうるが、PrgHは[x-1]を表す。あるいはまた、PrgKまたはInvGは、成分[x-1]、またはPrgHおよびPrgKからなる複合体、または3つ全ての基部成分PrgH、PrgK、およびInvGを含む複合体を表しうる。これら2つの構造成分により例示されるように、該アッセイは、PrgHが試験プレート上に捕捉され、PrgHを含む予め形成された基部と結合するとPrgIが検出されるように設計される。
図2Aは、インジェクティソームの組み立てを模式的に示す。
図2Bは、PrgHがプレートと結合し、ニードルフィラメント成分PrgIの結合を、一次抗PrgI抗体と結合する標識二次抗体の量を測定することにより測定されるELISAを例示する。
【0047】
該第二工程の構造ELISAアッセイを行うために、例として、標識PrgH、例えばHis標識PrgHをコードするプラスミドを保持するSalmonella typhimurium細胞を該被験化合物の存在下または非存在下で増殖させる。該細胞を溶解し、溶解物をニッケルでコートした試験プレートに加え、細菌溶解物中に含まれるHis標識PrgHを試験プレートに結合させる。PrgHを該プレートと充分な時間結合させ、次いでプレートを洗浄する。次の工程において、プレートのPrgIの存在をアッセイする。被験化合物の非存在下(またはPrgIと予め形成された基部構造との結合に影響を及ぼさない被験化合物の存在下)で、PrgIは、予め形成された複合体と結合し、一次抗PrgI抗体および検出可能な標識を有する二次抗体により検出することができる。あるいはまた、構造成分[x-1]は、His-標識融合タンパク質として発現するかわりに、GST抗体でコートされたプレートと結合する別の標識、例えばGST標識(ヒトグルタチオンS-トランスフェラーゼ)を有することができる。他の一般に用いられる融合標識には、HA-標識、MBP、Myc-標識がある。
【0048】
構造アッセイが、予め形成された基部複合体を有するPrgIの組み立てに対する阻害効果を示さない場合は、Salmonella由来の構造成分[x-1]/[x]の他の組み合わせ(例えば、成分[x-1]としてPrgH/PrgK複合体および成分[x]としてInvG)を試験する。
【0049】
被験化合物のPrgIの結合に対する阻害効果に関する否定的な結果は、T3SSの基部と結合する該ニードル中のタンパク質を検出するのに必要なATPアーゼに対する被験化合物の阻害効果によるかもしれない。ATPアーゼに対するそのような阻害効果は、確認され、さらに、例えば、該化合物が触媒機能を阻害するか否か、または該酵素の別の部分を標的とするか否かをみいだすために分析することができる。そのような分析結果は、化合物をその細菌のT3SS関連ATPアーゼに特異的な阻害剤として最適化するための出発点として有用である。
【0050】
Salmonella typhimuriumによって例示するが、構造ELISAの上記原理は、T3SSを用いるあらゆる他の病原性グラム陰性菌に適用することができる。すなわち、該構造アッセイは、成分[x-1]を、コートした成分として、また後で組み立てられるタンパク質[x]を、検出する成分として用いて該ニードル複合体を形成するあらゆる構造成分を利用することができる。例として、Shigella flexneriの阻害剤を同定するにはPgHの代わりに成分mxiGを、コートされたタンパク質として用いることができ、PrgIの代わりにmxiHが検出すべき成分である。各成分は文献から知られており、本発明の構造アッセイに用いることができるPrgH、PrgI、およびInvGに対応する構造タンパク質の例を表6に示す。他の構造タンパク質の相同体(ホモログ)は文献に記載されている。
【0051】
特定の細菌のT3SSの阻害剤であることが同定された化合物が、別のグラム陰性菌のT3SSもブロックするか否かを試験することができる。通常、該化合物は、最初に、上記方法に従ってその他の細菌のエフェクターまたは輸送体の分泌を阻害する能力について試験することができる。その結果が肯定的な場合は、最初の細菌におけるある種の組み立て工程に干渉することが示された化合物は第2の細菌の同じ組み立て工程を阻害すると予期されるかもしれない。したがって、第2細菌の構造アッセイは、第1細菌の構造成分とホモローガスな構造成分を含むであろう。第2細菌の阻害剤としての化合物の特異性を得るために、該化合物を2つの細菌のいずれかの関連構造成分にモデル化する。
【0052】
本発明の方法は、インジェクティソームの組み立てにおける分離した工程に干渉する特異性の高いT3SSの阻害剤の同定を可能にする。ある化合物が構造成分[x]の成分[x-1]に対する結合と干渉することが示されたら、これら成分の結晶構造を得、被験化合物の構造を該構造にまたは該構造を用いてモデル化することにより最適化することができる。
【0053】
さらなる態様によれば、阻害剤は、構造設計によりde novoで設計することもできる。すなわち、さらなる態様において、本発明は、T3SSの構成成分の構造座標により定義された構造と結合するかまたは関連する被験化合物、すなわち、原子構造モデルを用いて2つの成分が組み立てられる部位と空間的に適合する化合物の能力を測定する方法に関する。好ましくは、特定の組み立て工程と相互作用するように設計または選択した化合物は、成分[x]および/または[x-1]と結合し、3次元構造および該組み立て部位と適合する幾何学的配置を推定することができる。
【0054】
構造成分の組み立て部位と特異的に結合(例えば高親和性で)することによりT3SSモジュレーターである化合物を設計する方法も、典型的にはコンピュータで行う。それは、原子モデルを作製することができるプログラムを有するコンピュータの使用を含む。X線結晶学的データを用いるコンピュータプログラムは、特にそのような化合物を設計するのに有用である。プログラム、例えばRefmac(Collaborative Computational Project、Number 4により配布された)を用いて、T3SS構造成分またはその部分の3次元モデル断片を作製することができる。分子の三次元構造を表現するために現在利用することができるSYBYL(Tripos、Inc.)またはMOE(Chemical Computing Group、Inc.)などの多くのコンピュータプログラムがある。一般的に、これらプログラムは、分子の三次元構造の座標、すなわち、例えば、x、y、およびz軸に沿った各構造成分の各原子の数的割り当て、またはアミノ酸の相対的構造座標により定義される結合部位の各原子の数的割り当て、そのような座標を表現する手段(例えば視覚的表示)、そのような座標を修正する手段、およびそのような修正した座標を有する分子の画像を表現する手段を入力するために提供される。好ましい表現手段は当業者によく知られている。
【0055】
コンピュータープログラム、例えば、Glide(Schroedinger)、INSIGHT(Accelrys、Burlington、MA)、GRASP(Anthony Nicholls、Columbia University)、Dock(Molecular Design Institute、University of California at San Francisco)、およびAuto Dock(Accelrys)は、新規構造を導入するさらなる操作と能力をもたらす。
【0056】
各構造成分の結晶を得るために、当業者は多くの方法を利用することができる。通常用いられるポリペプチド結晶法には以下の技術が含まれる:バッチ、懸滴、シードイニシエーション、および透析。これら方法のそれぞれにおいて、過飽和溶液の維持による核形成後、連続的結晶化を促進することが重要である。バッチ法において、ポリペプチドを沈殿剤と混合して過飽和を達成し、次いで管を密封し、結晶が出現するまで放置する。透析法では、ポリペプチドを密封透析膜中に保持し、沈殿剤を含む溶液中におく。膜を横切る平衡化によりポリペプチドと沈殿剤の濃度は増加し、ポリペプチドは過飽和レベルに達する。
【0057】
結晶の形成は、pH、温度、生物高分子の濃度、溶媒の性質、および沈殿剤、ならびに加えるイオンやタンパク質のリガンドの存在を含む多くの種々のパラメーターに依存する。多くの日常的結晶実験は、X線回折分析に適した結晶を生成する組み合わせについてこれらのパラメーターすべてをスクリーニングする必要があるかもしれない。結晶化ロボットを自動化し、多数の結晶実験の再現性のあるセットアップ作業をスピードアップすることができる(例えばUS 5,790,421参照)。
【0058】
コンピューター適合分析により同定した候補化合物の効果を、上記のような標準的細胞アッセイもしくは無細胞アッセイで試験することによりさらにコンピューター的または実験的に評価することができる。
【0059】
T3SSの阻害剤である本発明の方法により同定された化合物を、さらに毒性試験により動物疾患モデルを用いて試験する。T3SSをブロックする化合物を、関連動物疾患モデル、例えばウサギでEPEC/EHEC、マウスではS. typhimuriumを用いて試験することができる。化合物は、典型的には当業者に知られた標準的方法を用いてマウスに対する毒性を最初に試験する。最初に、該薬剤の薬物動態を薬剤の経口摂取後数時間以内の血液中の薬剤レベルを測定することにより試験する。この情報は、該化合物のバイオアベイラビリティの目安をもたらす。毒性試験は、最大耐容用量を決定するためにも行う。このために増加する濃度の薬剤を1000mg/kgのレベルまで動物に投与する。
【0060】
動物疾患モデルにおける初期の試験は、例えば、EPEC介在疾患の阻害により行うことができる。初期の毒性およびバイオアベイラビリティ試験が完結したら、動物感染モデルを最も有望な化合物を用いて試験する。これら標準的アッセイを用い、ウサギにおけるRDEC-1(ウサギEPEC病原体)およびベロトキシンを含むRDEC-1(よく知られたEHEC動物モデル)に対する有望な化合物の効果を測定する。下痢の量を測定し、感染動物において薬剤の有無における定着(コロニー形成)の程度を病理学的に検査する。これらの試験は、III型分泌化合物がこれら感染の結果に影響を及ぼすことができるか否かを示す。
【0061】
本発明の方法によりSalmonella typhimuriumのT3SSに対する効果があることが示された化合物を、WO1999/045136に記載のごとく動物疾患モデルで、ネズミ腸チフスモデルにおいてSalmonella typhimurium疾患の阻害を測定することにより試験する。Balb/CマウスにおけるS. typhimurium感染はネズミ腸チフスを生じ、動物は最終的に死に至る。経口(LD
50=10
6)と静脈内(LD
50=10
2)の2つの感染経路を用いる。そのかわりに、動物を種々の時点でと殺し、肝臓と脾臓をホモゲナイズし、これら臓器中のS. typhimurium数をLeung et al.(Proc. Nat. Acad. Sci. USA. 88:11470-4、1991)の方法に従って計算することができる。この技術は感染性の指標である。S. typhimuriumの病原性を阻害する阻害剤の能力を試験するため、該マウスに、経口およびIV感染と同時に種々の用量の化合物を与える。該用量は毒性試験とバイオアベイラビリティ試験の結果に依存する。これら化合物の臓器定着率を変化させる能力は、これら化合物の潜在的抗菌療法剤としての有効性の優れた指標である。