(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出器から干渉信号を受け取り、前記干渉信号が前記参照ビームと前記第二の回帰ビームとの間の光路差に応じた位相を含み、前記位相に基づいて、前記回折エンコーダスケールの位置の変化に関する情報を判定するように構成された電子プロセッサをさらに備える、請求項2に記載のエンコーダシステム。
前記第二の光学部品が、前記第一の再帰性反射体から前記第一の回帰ビームを受け取り、前記第一の回帰ビームを前記第二の入射ビームとして、第二の角度で被測定物へと方向転換させるように構成される、請求項15に記載のエンコーダシステム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
様々な図面中、同様の参照記号は同様の要素を示す。
図1を参照すると、干渉方式エンコーダシステム100は、光源モジュール120(例えば、レーザを含む)と、光学アセンブリ110と、被測定物101と、検出器モジュール130(例えば、偏光子と検出器)と、電子プロセッサ150とを含む。一般に、光源モジュール120は光源を含み、また、ビーム成形光学系(例えば、光コリメート光学系)、導光部品(例えば、光ファイバ導波路)、および/または偏光制御光学系(例えば、偏光子および/または波長板)等の他の部品も含むことができる。光学アセンブリ110の各種の実施形態を以下に説明する。いくつかの実装形態において、光学アセンブリはまた、「エンコーダヘッド」と呼ばれることがある。デカルト座標系が参照のために示されており、Y軸(図示せず)はページの中に向かって延びる。
【0021】
被測定物101は、Z軸に沿って光学アセンブリ110からある名目上の距離(nominal distance)に位置付けられる。多くの用途において、例えばエンコーダシステムがリソグラフィツール内のウェハステージまたはレチクルステージの位置をモニタするために使用される場合、被測定物101は、光学アセンブリ110に対してxおよび/またはy方向に移動され、その一方で、z軸については名目上(nominally)、光学アセンブリから一定の距離が保たれる。この一定の距離は比較的小さくすることができる(例えば、数センチメートルまたはそれより小さい)。しかしながら、このような用途では、被測定物の位置は一般に、名目上一定の距離から少量だけ変化し、デカルト座標系内の被測定物の相対的向きも少量だけ変化する可能性がある。動作中、エンコーダシステム100は、光学アセンブリ110に関する被測定物101のこれらの自由度のうちの1つまたは複数を、x軸に関する被測定物101の位置を含め、さらにはy軸および/またはz軸に関する、および/またはピッチとヨーの角方位に関する被測定物101の位置を含めて、モニタする。
【0022】
被測定物101の位置をモニタするために、光源モジュール120は入力ビーム122を光学アセンブリ110へと方向付ける。光学アセンブリ110は、入力ビーム122から測定ビーム112を所得し、測定ビーム112を被測定物101へと方向付ける。光学アセンブリ110はまた、入力ビーム122から参照ビーム(図示せず)も得て、参照ビームを測定ビームとは異なる経路に沿って方向付ける。例えば、光学アセンブリ110は、入力ビーム122を測定ビーム112と参照ビームとに分離するビームスプリッタを含むことができる。測定および参照ビームは、直交偏光(例えば、直交直線偏光)を有することができる。
【0023】
被測定物101はエンコーダスケール(encoder scale)105を含み、エンコーダスケール105は、測定ビームをエンコーダヘッドから1つまたは複数の回折次数に回折させる測定目盛りである。一般に、エンコーダスケールは多種多様な回折構造を含むことができ、例えば格子またはホログラフ回折構造がある。格子の例には、正弦格子、矩形格子、または鋸歯状格子が含まれる。格子は、ピッチが一定の周期的構造によってだけでなく、より複雑な周期的構造(例えば、チャープ格子)によって特徴付けることができる。一般に、エンコーダスケールは、測定ビームを複数の平面へと回折させることができる。例えば、エンコーダスケールは、測定ビームをx−zおよびy−z平面内での回折次数に回折させる二次元格子とすることができる。エンコーダスケールは、x−y平面内で、被測定物101の移動範囲に対応する距離にわたって延びる。
【0024】
この実施形態において、エンコーダスケール105は、その格子線がページの平面に対して垂直に延び、
図1のデカルト座標系のy軸に平行に延びるような格子である。格子線はx軸に沿って周期的である。エンコーダスケール105の格子面はx−y平面に対応し、エンコーダスケールは測定ビーム112をy−z平面内の1つまたは複数の回折次数に回折させる。
【0025】
測定ビームの回折次数のうちの少なくとも1つ(ビーム114として示される)は光学アセンブリ110に戻り、光学アセンブリ110によって参照ビームと合成されて出力ビーム132を形成する。例えば、1回回折測定ビーム(once-diffracted measurement beam)114は1次回折ビームとすることができる。
【0026】
出力ビーム132は、測定ビームと参照ビームとの間の光路長の差に関する位相情報を含む。光学アセンブリ110は、出力ビーム132を検出器モジュール130へと方向付け、検出器モジュール130が出力ビームを検出して、検出された出力ビームに応答して信号を電子プロセッサ150に送信する。電子プロセッサ150は、信号を受信して分析し、光学アセンブリ110に関する被測定物101の1つまたは複数の自由度に関する情報を判定する。
【0027】
特定の実施形態において、測定および参照ビームに小さい周波数の差(例えば、kHz〜MHz範囲の差)があり、この周波数の差に概して対応する周波数の関心対象(interest)の干渉信号が生成される。この周波数は以下、「ヘテロダイン」周波数と互換的に言及される。被測定物の相対位置の変化に関する情報は、このヘテロダイン周波数での干渉信号の位相に概して対応する。信号処理技術を使って、この位相を抽出できる。一般に、移動可能な被測定物によって、この位相項は時間変化する。この点で、被測定物の運動の一次時間微分により、干渉信号の周波数がヘテロダイン周波数からある量だけシフトし、このことを本明細書では「ドップラー」シフト(Doppler shift)と呼ぶ。
【0028】
測定および参照ビームの異なる周波数は、例えばレーザのゼーマン分離によって、音響光学変調によって、2種類の異なるレーザモードを使用するか、または複屈折素子を使用してレーザ内部によって、およびその他の技術によって生成できる。直交偏光により、偏光ビームスプリッタが測定および参照ビームを異なる経路に沿って方向付け、これらを合成して出力ビームを形成でき、出力ビームはその後、偏光子を通過して直交偏光成分と混ざり合うため、これらが干渉できる。標的の移動がなければ、干渉信号はヘテロダイン周波数で振動し、このことはちょうど2つの成分の光周波数の差である。標的の移動があれば、このヘテロダイン周波数は、よく知られたドップラーの関係を通じた標的速度に関する変化を生じさせる。したがって、ヘテロダイン周波数の変化をモニタすることによって、光学アセンブリに関する標的の移動をモニタできる。
【0029】
後述の実施形態において、「入力ビーム」とは概して、光源モジュールから発せられるビームを指す。ヘテロダイン検出の場合、入力ビームは上述のように、若干異なる周波数を有する成分を含む。
【0030】
特定の実施形態において、干渉計システムはリトロウでは動作しないように設計される。例えば、一般に、測定ビームはある入射角で被測定物101に入射し、一回回折測定ビームがリトロウ条件(Littrow condition)を満たさない。リトロウ条件とは、格子等の回折構造の、その回折構造が回折ビームを光源に向けて戻すような、入射ビームに関する方位を指す。換言すれば、エンコーダシステム100において、1回回折測定ビームは、1回回折測定ビームがエンコーダスケールに入射する測定ビームと共線状ではないため、リトロウ条件を満たさない。
【0031】
エンコーダスケール105は
図1において、1方向に周期的な構造として描かれているが、より一般的には、被測定物は測定ビームを適当に回折する異なる様々な回折構造を含むことができる。いくつかの実施形態において、被測定物は2方向(例えば、xおよびy軸に沿って)に周期的である回折構造(例えば、エンコーダスケール)を含むことができ、測定ビームを2つの直交平面内のビームに回折させる。一般に、エンコーダスケールの回折構造と光源モジュールは、エンコーダシステムがそのシステムの形状面の制約(geometrical constraints)内で、対応する参照ビームと合成されたときに1つまたは複数の検出可能な干渉信号を確立するのに十分な強度の1つまたは複数の回折測定ビームを提供するように選択される。いくつかの実施形態において、光源モジュールは、400nm〜1,500nmの範囲の波長を有する入力ビームを供給する。例えば、入力ビームは約633nmまたは約980nmの波長を有することができる。留意すべき点として、一般に、ヘテロダイン光源の周波数分割の結果、入力ビームの2つの成分の波長間の差が非常にわずかのみとなり、そのため、入力ビームが厳密に単色でなくても、依然として入力ビームを1つの波長で特徴付けることが現実的である。いくつかの実施形態において、光源モジュールはガスレーザ(例えば、HeNeレーザ)、レーザダイオードまたはその他のソリッドステートレーザ源、発光ダイオード、またはスペクトル帯域幅変調用フィルタの有無を問わないハロゲンランプ等の熱源を含むことができる。
【0032】
一般に、回折構造(例えば格子ピッチ)は、入力ビームの波長と光学アセンブリの配置および測定に使用される回折次数に応じて変えることができる。いくつかの実施形態において、回折構造は、約1λ〜約20λの範囲のピッチを有する格子であり、λは光源の波長である。格子のピッチは約1μm〜約10μmとすることができる。
【0033】
ある場合において、光学的エラーが、一般にビームの混ざり合いと呼ばれるプロセスを通じて干渉エンコーダシステム内で発生する可能性があり、「ゴースト」ビームが測定および/または参照ビームと干渉する。これらのゴーストビームは、それと合成されるビームと異なる振幅、異なる位相オフセット、および/または異なる周波数を有している可能性があり、その結果、干渉信号の検出された位相がシフトする。したがって、エンコーダスケールの相対位置の測定結果がエンコーダスケールの実際の位置からずれることもあり、それゆえ、干渉計によって測定される変位の変化の精度が限定される。
【0034】
このようなゴーストビームの原因は、干渉方式エンコーダシステム内の様々な欠点である可能性がある。例えば、測定および参照ビームの周波数が異なると、これらのビームの異なる周波数成分の偏光の楕円率によって、干渉エンコーダシステムの1つまたは複数の光学部品を通じて参照および/または測定ビームの望ましくない漏出が起こりうる。参照および/または測定ビームの望ましくない漏出はまた、光学部品自体の欠陥によっても引き起こされる可能性がある。例えば、干渉エンコーダシステムは偏光ビームスプリッタを含んでいてもよく、このビームスプリッタは低い消光比を有するため、不要なビーム成分がビームスプリッタによって反射されずに透過され、またはその逆となる。ゴーストビームはまた、干渉エンコーダシステムの他の部品からの不要な反射によって生じることもある。例えば、いくつかの実装形態において、エンコーダスケールに入射するビームの一部が、入力ビームと非共線状の経路に沿って回折されるのではなく、入射方向に沿って戻るように回折される。
【0035】
他の光学的エラーがまた、ビーム・シヤリング(beam shearing)の発生によって干渉エンコーダシステムの中で発生することもある。ビーム・シヤリングは、エンコーダヘッドに関するエンコーダ格子の相対位置が増減すると(例えば、エンコーダスケールおよび/またはエンコーダヘッドが
図1のz方向に沿って移動することによって起こる)発生する。ある場合において、この移動は測定ビームと参照ビームのビーム経路を発散させる可能性があり、これがエンコーダスケール位置の測定エラーがさらに発生することにつながる。同様のエラーは、エンコーダヘッドに関するエンコーダスケールの方位の小さな変化、例えば、エンコーダスケールのチップ、チルト、ヨーの変化によって発生しうる。
【0036】
上記のエラーに対する許容度を改善するために、干渉方式エンコーダシステムは、測定ビームがエンコーダスケールを2回通過し、測定ビームがエンコーダスケールから2回回折されるように構成することができる。入射ビームと対応する回折ビームの間の角度の差が大きくなるようにシステムを構成することによって、ゴーストビームおよびその他の妨害ビームからの干渉を低減化できる。いくつかの実装形態において、干渉方式エンコーダシステムのためのダブルパス構成はまた、エンコーダスケールとエンコーダヘッドの間の相対距離が変化すると発生しうるビーム・シヤリングも補償できる。これに加えて、ダブルパス構成は、いくつかの実装形態において、チップ、チルト、ヨー等の物体の方位の小さな一次変化を補償するという利点を有する。
【0037】
図2は、被測定物105の位置をモニタするためのダブルパス干渉方式エンコーダシステム200の、一例としてのエンコーダヘッド210の概略図であり、このエンコーダヘッド210は、測定ビームが被測定物105を2回通過するように構成され、被測定物105から戻る1つの回折ビームを参照ビームと共に使用して、被測定物105の位置を判定する。この例では、被測定物105はエンコーダスケール、例えば一次元格子等である。エンコーダスケール105は、例えば移動可能ステージを含む他の物体に取り付けることができる。
【0038】
エンコーダシステム200は、z座標およびx座標に沿った変位を検出するように構成され、zは格子表面に対して垂直であり、xは格子表面の平面内にあり、図の格子溝に対して垂直である。エンコーダヘッド210は、第一のビームスプリッタ202と、第二のビームスプリッタ(ビームコンバイナ)204と、再帰性反射体206と、プリズムペア208とを含む。エンコーダシステム200の動作中、エンコーダヘッド210は光源120からソースビーム101を受け取る。第一のビームスプリッタ202は、ソースビームを測定ビームと参照ビーム30に分け、測定ビームと参照ビーム30とがその後、異なる経路に沿って方向付けられる。
図2に示されるように、測定ビームは4つの異なる部分、すなわち、第一の入射ビーム11、第一の回帰ビーム12、第二の入射ビーム21、第二の回帰ビーム22を含む。被測定物105はエンコーダスケールであるため、第一の回帰ビーム12は第一の入射ビーム11の回折次数(例えば、1次または2次)に対応する。
【0039】
第一の回帰ビーム12は、再帰性反射体206とプリズムペア208の組み合わせによって方向転換されて、エンコーダスケール105に第二の入射ビーム21として戻され、エンコーダスケール105によって測定ビームが再び回折されて、第二の回帰ビーム22を生成する。第二の回帰ビーム22は、第二の入射ビーム12の回折次数(例えば、1次または2次)に対応する。ビームスプリッタ204は次に、参照ビーム30と第二の回帰ビーム22を再び合成して、出力ビーム207を形成し、出力ビーム207が検出器へと向けられる。検出器130で形成される干渉信号は次に、電子プロセッサへと通過され、これが干渉信号に基づいて、エンコーダスケール105に関する位置情報を判定する。
【0040】
ソースビームは、ヘテロダインレーザ等のヘテロダイン光源から生成でき、このソースビームは、直交偏光によってエンコードされる若干異なる周波数で伝播する2つの別々のビームを含む。ビームスプリッタ202は、それらの異なる偏光に基づいて2つの周波数を分離する偏光ビームスプリッタとすることができる。ビームコンバイナ204で参照ビーム203と第二の回帰ビーム22が再合成されると、出力ビーム207は検出器モジュール130へと伝播する。検出された出力ビーム207のビート周波数から正弦信号が取得され、その正弦信号の位相はφ
m−φ
rであり、φ
rは安定していると仮定されるか、または既知の参照位相、φ
mは測定位相である。
【0041】
第一と第二の入射ビームのための入射面がx座標を含むと仮定し、z座標に関する角度を図のように定義すると、ビーム11、12、21、22がエンコーダスケール105の法線に関する伝播角度はそれぞれ、θ
11、θ
12、θ
21、θ
22となる。第二の回帰ビーム22の角度θ
22は、
図2の中で例として示されている。被測定物105は入射ビームを回折させるため、以下のようなよく知られた格子関係が当てはまる。
Sin(θ
11)+sin(θ
12)=mλ/D (1)
Sin(θ
21)+sin(θ
22)=mλ/D (2)
式中、mは回折次数としての既知の整数、Dは格子ピッチ、すなわちエンコーダスケール105の線または反復的特徴物間の間隔である。図から明らかなように、以下のようなまた別の不等号が当てはまる。第一の回帰ビーム12は、第一の入射ビーム11と共線状でも平行でもない。
θ
12≠θ
11 (3)
第二の回帰ビーム22は、第二の入射ビーム21と共線状でも平行でもない。
θ
22≠θ
21 (4)
図2に示される構成の別の基本的特徴は、第一の入射ビーム11の伝播角度と第二の入射ビーム21の伝播角度の差が、第一の入射ビーム11と第一の回帰ビーム12の伝播角度の差より小さく、
|θ
11−θ
21|<|θ
11−θ
12| (5)
第一の入射ビーム11の伝播角度と第二の入射ビーム21の伝播角度の差が、第二の入射ビーム21の伝播角度と第二の回帰ビーム22の伝播角度の差より小さいことである。
|θ
11−θ
21|<|θ
21−θ
22| (6)
同様に、第一の回帰ビーム12の伝播角度と第二の回帰ビーム22の伝播角度の差は、第一の入射ビーム11と第一の回帰ビーム12の伝播角度の差よりも小さい。
|θ
12−θ
22|<|θ
11−θ
12| (7)
第一の回帰ビーム12の伝播角度と第二の回帰ビーム22の伝播角度の差は、第二の入射ビーム21と第二の回帰ビーム22の伝播角度の差より小さい。
|θ
12−θ
22|<|θ
21−θ
22| (8)
式(3)〜(8)における差は十分に大きく、ビームが光学部品により妨害されない。例えば、
図2に示されるビーム11は、再帰性反射プリズム206によってブロックされない。この例では、2つの入射ビーム11と21は略平行であり、それに対して、2つの反射ビーム12と22は略平行である。
θ
11≒θ
21 (9)
θ
12≒θ
22 (10)
反対に、この例では、式(3)と(4)により示されるように、何れの入射ビームも対応する反射ビームと平行ではない。
【0042】
いくつかの実装形態において、入射および回帰ビーム間の角度の差は十分に大きいため、最終的な干渉信号がゴースト反射およびその他の妨害ビームからの汚染による測定エラーが低減化される。例えば、いくつかの実装形態において、エンコーダヘッド210の光成分は、式(5)〜(8)における差が1mmビーム径について約1mradよりも大きくなるように配置される。ある場合において、より小さいビーム径の場合は、比例的に大きな角度を使用できる。
【0043】
ダブルパス干渉方式エンコーダシステムは、2つの直交方向に沿ったエンコーダスケール105の変位を感知できる。例えば、エンコーダスケール105のx座標に沿った面内変位によって、エンコーダから2回反射した後の測定ビーム(例えば、第二の回帰ビーム22)の位相φ
mは、以下のように表現できる割合で変化し、
【0044】
【数1】
式中、Δxはx方向に沿ったエンコーダスケール105の変位である。同様に、z座標に沿ったエンコーダスケール105の面外への変位は、以下のように表され、
【0045】
【数2】
式中、Δzはz方向に沿ったエンコーダスケール105の変位である。式(11)と(12)はまた、エンコーダスケール105に関するエンコーダヘッド210の移動にも当てはまる。したがって、電子プロセッサが検出された干渉信号から位相信号を評価すると、式(11)と(12)を使って、エンコーダヘッド210またはエンコーダスケール105のxまたはz方向への移動を判定することができる。例えば、当業者であればわかるように、電子プロセッサは測定位相φ
mを、既知の参照位相φ
rを検出信号の位相情報から差し引くことによって計算し、その後、式(11)と(12)を使ってxまたはz方向への変位を計算できる。
【0046】
エンコーダスケールおよび/またはエンコーダヘッドの何れかが2つの直交方向に沿って(例えば、xおよびz方向に沿って)移動するような用途では、エンコーダヘッド210を、異なる直交方向の各々に沿った移動の位置情報を別々に抽出するように変更できる。例えば、いくつかの実装形態において、エンコーダヘッド210は、
図2に示される光学部品(例えば、ビームスプリッタ202、ビームスプリッタ204、再帰性反射体206、プリズムペア208)の2つ目のセットを含むように拡張される。2つ目のセットの光学部品は、ソースビームから第二の測定ビームを得て、第二の測定ビームがエンコーダスケールの表面にあと2回通過するように構成される。しかしながら、第一の測定ビームと反対に、第二の測定ビームが当初エンコーダスケール105に入射する角度はビーム11の入射角と異なり、例えば、第二の測定ビームは当初、エンコーダスケール表面の法線に対してθ
11に対応する角度で入射できる。x方向とy方向から区別するために、2つの異なる角度での少なくとも2つの測定結果が使用される。異なる角度は、大きさは等しく、方向が反対の角度を含むことができるが、これに限定されない。それゆえ、式(11)における位相のΔxへの依存性は第二の測定ビームについては逆となるが、式(12)における位相のzへの依存性は同じままである。したがって、第一と第二の測定ビームについて式(11)により得られる2つの結果の差を使って、zとは関係なく、xの変位を抽出できる。またはこれに加えて、第一と第二の測定ビームについて式(12)により得られる2つの結果の和を使って、xとは関係なく、z変位を抽出できる。
【0047】
図2のシステムに関する上述の式で述べた差は、後述の別の実施形態にも当てはまる。特に、干渉エンコーダシステムは、両方の回帰ビーム角度12と22が正確なリトロウ条件とならないように構成される。それゆえ、少なくともある程度の角度分離がビーム間に導入され、このことがゴースト反射からの干渉に起因する位置測定エラーを低減させるのに役立つ。いくつかの実施形態において、エンコーダヘッドは、光学部品内の参照ビームの経路と測定ビームの経路の間の分離を大きくするように構成できる。ビーム経路間の分離を大きくすることにより、妨害ビームが干渉信号に大きく寄与する可能性を低減できる。
【0048】
例えば、
図3は、被測定物105の位置をモニタするためのエンコーダヘッド310を含むダブルパス干渉方式エンコーダシステム300の概略図であり、エンコーダヘッド310は、参照ビームの経路と測定ビームの経路の間の分離を大きくするように構成されている。エンコーダヘッド310は、偏光ビームスプリッタ302と、再帰性反射体304と、ウェッジプリズムペア306と、参照反射体308とを含む。エンコーダヘッド310はまた、参照反射体308とビームスプリッタ302の間の第一の四分の一波長板312と、被測定物105(例えば、エンコーダスケール)とビームスプリッタ302の間の第二の四分の一波長板314とを含むことができる。ウェッジプリズム306はシステム300の中に、式(3)〜(8)による差を導入する。特定の実装形態において、エンコーダヘッド310の構成は、熱安定性が高く、大きなビームの管理のために使いやすいという利点を有する。
【0049】
図3の例に示されるように、エンコーダヘッド310は、光源120からソースビーム301を受け取る。ビームスプリッタ302は、ソースビーム301から参照ビーム303と測定ビームを(例えば、ソースビームの異なる周波数成分の偏光の差に基づいて)取得する。測定ビームは4つの異なる部分、すなわち、第一の入射ビーム11、第一の回帰ビーム12、第二の入射ビーム21、第二の回帰ビーム22を含む。ビームスプリッタ302は第一の入射ビーム11を、第二の四分の一波長板314を通じてエンコーダスケール105へと向け、エンコーダスケール105によって第一の入射ビーム11は回折されて、第一の回帰ビーム12を生成する。第一の回帰ビーム12は、ビームスプリッタ302と再帰性反射体304の組み合わせによって、第二の入射ビーム21としてエンコーダスケール105に戻るように方向転換され、この第二の入射ビーム21は次に、回折されて、第二の回帰ビーム22を生成する。
【0050】
ビームスプリッタ302はまた、参照ビーム303を参照反射体308に向かって方向転換させる。参照反射体308は、例えばミラー等、何れの適当な反射面を含むこともできる。いくつかの実装形態において、反射体308の位置は調節可能である。例えば、ある場合において、反射体308は移動可能ステージに取り付けることができる。参照反射体308は、参照ビーム303をビームスプリッタ302に戻るように反射し、ここでビーム303はビームスプリッタ302と再帰性反射体304の組み合わせによって再び参照反射体308へと戻るように方向転換される。参照反射体308は、参照ビーム303の2回目の反射を行い、ビームスプリッタ302に向ける。すると、2回反射された参照ビーム303は、ビームスプリッタ302を透過する代わりに、第二の回帰ビーム22と合成されて、出力ビーム307を形成する。出力ビーム307は、検出器(例えば、光検出器)と混合偏光子を含む検出器モジュール130によって記録される。ビーム分離は、入射ビームの異なる偏光に基づいて行われる。例えば、ビーム301は、参照ミラー308に向かって反射するs偏光成分と、測定ビームとして格子105に向かって透過するp偏光成分を有する。四分の一波長板314を2回通過した後、偏光は逆転し、参照ビームが透過し、測定ビームが反射される。
【0051】
図4は、エンコーダヘッド410を含む、別の例によるダブルパス干渉方式エンコーダシステム400の概略図である。エンコーダヘッド410の構成は
図3に示されるエンコーダヘッド310と同様であるが、例外として、エンコーダヘッド410はウェッジプリズムの代わりに第一の複屈折プリズムペア416と第二の複屈折プリズムペア418を含む。複屈折プリズムペアを追加することによって、エンコーダ410を通る測定および参照ビームの経路間の偏差/分離がさらに大きくなる。
【0052】
いくつかの実施形態において、エンコーダヘッドは、第一の移動方向を直交する第二の移動方向とは関係なく測定するように設計できる。例えば、
図5はダブルパス干渉方式エンコーダシステム500の概略図を示し、ダブルパス干渉方式エンコーダシステム500は、z方向とは関係なく、x方向へのエンコーダスケール105の変位を測定するように構成されたエンコーダヘッド510を含む。エンコーダヘッド510の構成は
図3に示される例と同様である。しかしながら、
図3の例とは異なり、エンコーダヘッド510は、参照ビーム503が参照反射体ではなく、エンコーダスケール表面の一部に入射する。すなわち、ビームスプリッタ502がエンコーダスケールに対して、ビームスプリッタ502を出た入射参照ビーム503aが、エンコーダスケール105に向かうビーム経路に沿って進むように位置付けられる。入射参照ビーム503はその後、エンコーダスケールによって回折され、ビームスプリッタ502へと伝播する回折次数(例えば、1次または2次)を有する回折参照ビームを生成する。ビームスプリッタ502と再帰性反射体504の組み合わせは、1回回折ビーム(once-diffracted beam)をエンコーダスケール105に戻すように方向転換させ、エンコーダスケール105によって1回回折ビームは再び回折される。この2回回折参照ビーム503bは次に、ビームスプリッタ502に戻り、2回回折測定ビーム(twice-diffracted measurement beam)と合成されて、出力ビームを生成する。
【0053】
参照ビーム503がエンコーダスケール105に、エンコーダの表面の法線に対して、−θ
11(入射測定ビーム11がエンコーダスケールに衝突する角度の負数)に対応する角度で入射すると、
図5の例で示される構成を使って、z方向とは関係なく、x方向に沿ったエンコーダスケール105の変位を測定できる。例えば、式(11)を使って、2回回折参照ビームと2回回折測定ビームの両方について、位相のΔxへの依存性を計算できる。すると、参照および測定ビームについて式(11)により提供された2つの結果の差を使用して、y軸の周囲でのチルト(tilt)がないかぎり、zに関係なくx変位を抽出できる。
【0054】
一般に、
図2〜5に示される実施形態における入射ビームとそれに対応する回折ビームの間の角度の違いは、例えば、約1〜約10度の範囲の角度を含むことができるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、角度の差はこれより小さくすることができる。例えば、
図3に対して、角度の差は、約1mrad〜約10mradの間とすることができる。いくつかの実施形態において、エンコーダヘッドは、入射ビームと回折ビームの間の角度の差を大きくするように構成できる。例えば、
図6は、一例としてのダブルパス干渉方式エンコーダシステム600の概略図であり、ダブルパス干渉方式エンコーダシステム600は、入射測定ビームとそれに対応する回折ビームの間の角度を、約10度〜約80度の幅とすることができる。
【0055】
エンコーダヘッド610はビームスプリッタ602を含み、ビームスプリッタ602はソースビーム601から参照ビームと第一の入射測定ビーム11を取得する。第一の入射ビーム11はエンコーダスケール105に向かって伝播し、回折されて第一の回折回帰ビーム12を生成する。回帰ビーム12は第一の反射部品604によって第二の反射部品606へと反射される。第二の反射部品606は次に、第一の回帰ビーム12を、第二の入射ビーム21としてエンコーダスケール105に向かって方向転換させる。第二の入射ビーム21は、エンコーダスケール105によって回折されて、第二の回帰ビーム22を生成し、この第二の回帰ビーム22は2回回折測定ビームに対応する。すると、第二の回帰ビーム22は、第一の反射部品604によってビームスプリッタ/コンバイナ602に向かって方向転換されて、参照ビームと合成され、出力ビーム605を生成し、出力ビーム605が検出器モジュール130(例えば、偏光子と検出器を含む)へと通過する。第一の反射部品604と第二の反射部品606は、何れの適当な高反射性部品を含むこともでき、例えばミラー等がある。
【0056】
例示を目的として、
図6において、入射ビームの回折は図の平面内でのみ示されている。しかしながら、システム600は、3D再帰性反射全体のために図の平面の中に入るか、または図の平面から出る方向に沿って回折するビームを方向転換させ、それゆえ物体のチルトに関するシステムの感度をさらに低下させるように構成することができる。
図2〜5に開示される実施形態と同様に、システム600を使用して、検出器における横方向のビーム・シヤリングを補償でき、この場合、ビーム・シヤリングは、z方向に平行な方向に沿ったエンコーダヘッド610またはエンコーダスケール105の位置の相対的変化によって起こる。
【0057】
図7は、
図6に示される構成の変形形態である、一例としてのダブルパス干渉方式エンコーダシステム700の概略図である。特に、システム700のエンコーダヘッド710は、第一の反射部品704と、第二の反射部品706と、ビームスプリッタ/ビームコンバイナ702に加えて、再帰性反射体708を含む。再帰性反射体708は、第一の回帰ビーム12を第一の反射部品704から受け取って、ビーム12を第二の反射部品706へと方向転換させるように動作でき、第二の反射部品706が今度は、ビーム12をエンコーダスケール105へと向けるように動作できる。再帰性反射体708はまた、第二の回帰ビーム22をビースプリッタ702に向かって方向転換させるように動作可能であり、第二の回帰ビーム22は、ビームスプリッタ/ビームコンバイナ702において、参照ビームと合成されて、出力ビーム705を生成する。
【0058】
図8は、
図6に示される構成の別の変形形態である、一例としてのダブルパス干渉方式エンコーダシステム800の概略図である。特に、第一の反射部品804は回折部品、例えば回折格子を含む。したがって、ビームスプリッタ/ビームコンバイナ802において参照ビームと合成された測定ビームは、エンコーダスケール105による2回と回折部品804よる2回を含めて、4回回折されたビームに対応する。特定の実施形態において、
図8に示されるエンコーダヘッドの構成は、
図6に示されるシステム600のエンコーダヘッド構成と比較して、格子のチルトの補償を改善することができる。特に、エンコーダヘッド810は、エンコーダスケール105の非線形の回折角度挙動(nonlinear diffraction angle behavior)を補償する。当業者にとっては当然のことながら、入射ビーム11に小さな角度の変化がある場合、式(1)から計算される反射ビーム12の角度の変化は、入射ビーム11の角度の変化と同じではなくなる。しかしながら、図のように回折部品804を設置することによって、この角度変化の差が補償され、ビーム21は、式(9)のように、ビーム11と平行なままとなる。
【0059】
図9は、
図6に示される配置の別の変形形態である、一例としてのダブルパス干渉方式エンコーダシステム900の概略図である。エンコーダシステム900は、第一の回帰ビーム12と第二の回帰ビーム22をエンコーダスケール105から透過させる透過格子904を利用する。システム900は、第一の回帰ビーム12を第二の入射ビーム21としてエンコーダスケール105へと方向転換させるための再帰性反射体906を含み、透過格子904を通過した第二の回帰ビーム22をビームスプリッタ902へと方向転換させる反射部品908を含む。いくつかの実装形態において、
図9に示される構成は、異なるチルト角度(tilt angle)でのエンコーダスケール105の非線形の回折挙動を補償することによって、エンコーダスケール105のチルト許容範囲(tolerance for tilting)を改善する。
【0060】
図10は、
図6に示される構成の別の変形形態である、一例としてのダブルパス干渉方式エンコーダシステム1000の概略図である。エンコーダシステム1000は、プリズム部品1004(例えば、ガラスプリズム)と、反射部品1006(例えば、ミラー)と、再帰性反射体1008とを利用する。いくつかの実装形態において、
図10に示される構成は、異なるチルト角度でのエンコーダスケール105の非線形の回折挙動を補償することによって、エンコーダスケール105のチルト許容範囲を改善する。
【0061】
いくつかの実施形態において、単独のモノリシック光学部品を使って、測定ビームにエンコーダスケールを2回通過させることができる。単独のモノリシック光学部品を使用することにより、よりコンパクトなエンコーダシステムの設計が可能となるだけでなく、アラインメントの要求も緩和される。
図11Aは、部品1110の本体の中の内部反射を利用して測定ビーム1101をエンコーダスケール105へと方向転換させる単独のモノリシック光学部品1110の概略図である。
図11Bは、
図11Aに示される部品1110の三次元概略図である。
図11Cは、
図11Aに示される光学部品1110の別の図である。
図11Dは、部品1110の別の三次元図面である。説明のために、参照ビームとエンコーダシステムのその他の光学部品は示されていない。部品1110は、適当な光学的透明材料、例えばガラスから形成できる。
図11A〜11Dに示される部品1110は非明示的なガラスウェッジを含み、エンコーダスケール105からの回折ビームは部品1110に、エンコーダスケール105の法線に関して、および部品1110に垂直な表面に関して測定された異なる角度で出入りする。光学部品1110の表面角度は、非明示的ウェッジの回折角度の非線形挙動がエンコーダスケールの格子のチルトに関する回折角度の非線形挙動を補償するように最適化される。エンコーダスケール105の1回目と2回目の相互作用の間に、測定ビームは、再帰性反射体のビーム経路と同様に、光学部品1110の中で3回内部反射される。
【0062】
いくつかの実装形態において、
図8と
図11に示されるエンコーダヘッドの構成には、ビーム・シヤリングとフォアショートニング(foreshortening)を一部のみ補償する
図2と
図3に示される実施形態のエンコーダヘッド構成と比べて、1)z移動時の検出器でのビームシヤリングが補償され、2)ビーム・フォアショートニング(beam foreshortening)をほとんど、または全く示さないという追加の利点がある。
【0063】
いくつかの実施形態において、
図11に示されるエンコーダヘッドは、より効率化させるように変更できる。例えば、
図12は、モノリシック光学部品1210の三次元概略図であり、モノリシック光学部品1210は、測定ビームの初期回折後に、1つの回折次数を捕捉するのに対して、2つの回折次数を受けるように構成されている。例えば、光学部品1210は、エンコーダスケールからの+1および−1次回折ビームの両方を受け取って、+1および−1次回折ビームの各々をエンコーダスケール105へと戻るように方向転換させる。それゆえ、2つの2回回折測定ビームが部品1210から出力される。2つの測定ビームの各々は、参照ビームと合成されて、2つの出力ビームを生成でき、次に2つの出力ビームを使って2次元でのエンコーダスケール105の位置を計算することができる。説明のために、参照ビームとエンコーダシステムのその他の光学部品は示されていない。ここでも、部品1210は適当な光学的透明材料、例えばガラスから形成できる。
【0064】
いくつかの実施形態において、エンコーダスケール105に面する、モノリシック光学部品の表面を、1つの連続する平坦な表面に結合することができる。例えば
図13Aはモノリシック光学部品1310の三次元概略図であり、測定ビームは光学部品1310に、部品1310の1つの平坦な表面1302から出入りする。
図13Bは、光学部品1310と使用するためのモノリシック光学部品1312の三次元概略図であり、光学部品1312は参照ビームを受け取るように構成される。光学部品1310と部品1312は、部品1310を通る測定ビーム1305の光路長が参照ビームの光路長と等しくなるように構成される。
図13Cは、光学部品1312に光学的に連結されて、2回回折測定ビームと参照ビームの合成である出力ビームを生成する光学部品1310の三次元概略図である。いくつかの実装形態において、光学部品1310と部品1312を合成して単独のモノリシック光学部品にすることができる。いくつかの実装形態において、
図13Cに示される構成には、比較的コンパクトであるという利点がある。これに加えて、
図13Cに示されるエンコーダヘッド構成によって、チルトとビーム・シヤリングに起因する入力ビームのアラインメントエラーがあっても、確実に同様の出力ビーム挙動を得ることができる。
【0065】
図14Aは、
図13Aの光学部品1310の二次元概略断面図であり、第一の回帰ビーム12が入射測定ビーム11の1次回折ビームに対応し、第二の回帰ビーム22が第二の入射測定ビーム21の1次回折ビームに対応する。これに対して、
図14Bは、
図14Aと同じ断面の二次元概略図であり、0次回折ビーム等の妨害ビームがたどるビーム経路が、光学部品によって所望の測定ビームと共線状となるように方向転換されることができないことを示している。したがって、妨害ビームと測定ビームとの干渉によって発生する測定エラーを減らすことができる。
【0066】
一般に、上述の分析方法の何れも、検出された干渉信号から位相情報とエンコーダスケールの自由度情報の判定を含め、コンピュータハードウェアまたはソフトウェア、またはこれら両方の組み合わせで実装できる。例えば、いくつかの実施形態において、電子プロセッサ150をコンピュータの中に設置して、1つまたは複数のエンコーダシステムに接続し、エンコーダシステムからの信号の分析を実行するように構成できる。分析は、本明細書に記載される方法に従って、標準的なプログラミング技術を使ってコンピュータプログラムに実装できる。プログラムコードを入力データ(例えば、干渉位相情報)に適用し、本明細書に記載された機能を実行して出力情報(例えば、自由度情報)を生成する。出力情報は、表示モニタ等の1つまたは複数の出力装置に適用する。各プログラムは、高級手続型またはオブジェクト指向プログラミング言語で実装して、コンピュータシステムと通信してもよい。しかしながら、プログラムは、希望に応じて、アセンブリまたはマシン言語でも実装できる。何れの場合も、言語はコンパイル型またはインタプリタ型言語とすることができる。さらに、プログラムは、その目的のために予めプログラムされた専用の集積回路上で実行できる。
【0067】
このようなコンピュータプログラムの各々は好ましくは、汎用または特殊用途用のプログラム可能コンピュータによって読出可能な記憶媒体または装置(例えば、ROMまたは磁気ディスケット)に保存して、そのコンピュータを、記憶媒体または装置をそのコンピュータが読み出すと、本明細書に記載された手順を実行するように構成または動作させる。コンピュータプログラムはまた、プログラム実行中にキャッシュまたはメインメモリの中に格納できる。分析方法もまた、コンピュータプログラムを備えて構成されたコンピュータ読出可能記憶媒体として実装でき、そのように構成された記憶媒体は、コンピュータに特定の、予め決められた方法で本明細書に記載された機能を実行させる。
リソグラフィツールへの応用
リソグラフィツールは、コンピュータチップおよびその他をはじめとする大規模集積回路の製造に使用されるリソグラフィ用途で特に有益である。リソグラフィは、半導体製造業にとって鍵となるテクノロジーの牽引役である。オーバレイの改善は、22nm未満のライン幅(デザインルール)の実現に向けた5大難題の1つであり、例えば、国際半導体技術ロードマップ(International Technology Roadmap for Semiconductors)p.58−59(2009年)を参照のこと。
【0068】
オーバレイは、ウェハおよびレチクル(またはマスク)ステージの位置決めに使用される計測システムの性能、すなわち精度と精密さに直接依存する。リソグラフィツールの年間生産額は50〜100百万ドルに上ることがあり、計測システムの改良の経済的価値は大きい。リソグラフィツールによる生産量が1%増大するごとに、集積回路メーカにとっては年間約1百万ドルの経済的利益がもたらされ、リソグラフィツールのサプライヤの競争優位が高まる。
【0069】
リソグラフィツールの機能は、空間的にパターニングされた放射を、フォトレジスタコーティングを有するウェハに向けることである。このプロセスには、ウェハのどの位置が放射を受けるかを判定すること(アラインメント)と、その位置のフォトレジストに放射を当てること(露光)が関わる。
【0070】
露光中、放射源はパターニングされたレチクルを照射し、これが放射を散乱させて、空間的にパターニングされた放射を生成する。レチクルはまた、マスクとも呼ばれ、これらの用語は以下、互換的に使用される。縮小投影リソグラフィの場合、縮小投影用レンズは散乱放射を集光して、レチクルパターンの縮小像を形成する。あるいは、近接プリンティングの場合、散乱放射が短い距離だけ(一般に、マイクロメートルのオーダ)伝播し、それからウェハと接触してレチクルパターンの1:1の像を生成する。放射によってレジスト内の光化学プロセスが始まり、光化学プロセスによって放射パターンをレジスト内の潜像へと変換する。
【0071】
ウェハを適正に位置決めするために、ウェハはウェハ表面にアラインメントマークを含み、アラインメントマークを専用のセンサによって測定できる。測定されたアラインメントマークの位置がツール内のウェハの位置を定義する。この情報は、ウェハ表面の所望のパターニングの仕様と共に、空間的にパターニングされた放射に関するウェハのアラインメントを案内する。このような情報に基づいて、フォトレジストコーティングされたウェハを支持する並進運動可能なステージがウェハを移動させて、放射がそのウェハの正しい位置を露光させるようにする。特定のリソグラフィツール、例えばリソグラフィスキャナにおいては、マスクもまた、露光中にウェハと一緒に移動される並進運動可能なステージ上に設置される。
【0072】
前述のものなどのエンコーダシステムは、ウェハとレチクルの位置を制御し、レチクル像をウェハ上で位置合わせする位置決め機構の重要な部品である。このようなエンコーダシステムが上述の特徴を含んでいれば、そのシステムによって測定される距離の精度が向上し、および/または、オフラインメンテナンスをせずに保持される期間が長くなり得、その結果、生産量の増大とツールのダウンタイム削減によってスループットが向上する。
【0073】
一般に、リソグラフィツールは、露光システムとも呼ばれ、通常、照明システムとウェハ位置決めシステムを含む。照明システムは、紫外線、可視線、X線、電子またはイオン放射等の放射を供給する放射源と、放射にパターンを与えるようなレチクルまたはマスクを含み、それによって空間的にパターニングされた放射が生成される。これに加えて、縮小投影リソグラフィの場合、照明システムは空間的にパターニングされた放射をウェハに結像させるためのレンズアセンブリを含むことができる。結像した放射は、ウェハに被覆されたレジストを露光させる。照明システムはまた、マスクを支持するマスクステージと、マスクステージの、マスクを通じて方向付けられる放射に関する位置を調節するための位置決めシステムとを含む。ウェハ位置決めシステムは、ウェハを支持するウェハステージと、結像した放射に関するウェハステージの位置を調節するための位置決めシステムとを含む。集積回路の製造には複数の露光ステップが含まれ得る。リソグラフィに関する一般的な参考資料としては、例えば、J.R.シーツ(J.R.Sheats)とB.W.スミス(B.W.Smith)著、マイクロリソグラフィ:サイエンス・アンド・テクノロジー(Microlithography:Science and Technology(マーセル・デッカ・インコーポレーテッド(Marcel Dekker,Inc.)ニューヨーク1998年)を参照されたい。その内容は参照によって本願に援用される。
【0074】
上述のエンコーダシステムは、露光システムの他の部品、例えばレンズアセンブリ、放射源または支持構造に関するウェハステージとマスクステージの各々の位置を正確に測定するために使用できる。このような場合、エンコーダシステムの光学アセンブリを静止構造に取り付けることができ、エンコーダスケールをマスクおよびウェハステージのうちの1つ等の移動可能な要素に取り付けることができる。あるいは、この状況は逆転でき、光学アセンブリを移動可能な物体に取り付け、エンコーダスケールを静止物体に取り付けることができる。
【0075】
より一般的には、このようなエンコーダシステムは、露光システムの中の他の何れかの構成部品に関連して露光システムの中の何れか1つの構成部品の位置の測定にも使用でき、この場合、光学アセンブリはそれらの部品のうちの一方に取り付けられるか、それによって支持され、エンコーダスケールがそれらの部品のもう一方に取り付けられるか、それによって支持される。
【0076】
干渉方式システム1526を用いたリソグラフィツール1500の一例が
図15に示されている。エンコーダシステムは、露光システム内のウェハ(図示せず)の位置を正確に測定するために使用される。ここで、ステージ1522は、ウェハを露光ステーションに対して位置決めし、支持するように使用される。スキャナ1500はフレーム1502を含み、フレーム1502はその他の支持構造と、これらの支持構造の上に担持される各種の部品を担持する。露光ベース1504はその上面でレンズ筐体1506に取り付けられ、レンズ筐体1506上に、レクチルまたはマスクを支持するように使用されるレチクルまたはマスクステージ1516が取り付けられる。露光ステーションに対してマスクを位置決めするための位置決めシステムは、要素1517によって概略的に示されている。位置決めシステム1517は、例えば、圧電トランスデューサ素子とこれに対応する制御用電子機器を含むことができる。あるいは、ここに説明されている実施形態には示されていないが、上記のエンコーダシステムの1つまたは複数を使って、その位置をリソグラフ構造の製造プロセス中に正確にモニタする必要のあるマスクステージおよびその他の移動可能な要素の位置を正確に測定することもできる(上述のシーツ(Sheats)とスミス(Smith)著、マイクロリソグラフィ:サイエンス・アンド・テクノロジー(Microlithography:Science and Technology)参照)。
【0077】
露光ベース1504の下には支持ベース1513が懸下され、支持ベース1513がウェハステージ1522を担持する。ステージ1522は、測定ビーム1554が光学アセンブリ1526によってステージへと回折されるようにする被測定物1528を含む。ステージ1522を光学アセンブリ1526に対して位置決めするための位置決めシステムが要素1519によって概略的に示されている。位置決めシステム1519は、例えば、圧電トランスデューサ素子とそれに対応する制御電子部品を含むことができる。被測定物は測定ビームの反射を回折させて、露光ベース1504に取り付けられた光学アセンブリへと戻す。エンコーダシステムは、前述の実施形態の何れとすることもできる。
【0078】
動作中、放射ビーム1510、例えば、紫外線(UV)レーザ(図示せず)からのUVビームはビーム成形光学系アセンブリ1512を通過して、ミラー1514で反射された後に下方に進む。その後、放射ビームは、マスクステージ1516によって担持されるマスク(図示せず)を通過する。マスク(図示せず)は、レンズ筐体1506によって担持されるレンズアセンブリ1508を通じて、ウェハステージ1522上のウェハ(図示せず)上に結像される。ベース1504とそれによって支持される各種の部品は、ばね1520として描かれている減衰システムによって環境振動から隔離される。
【0079】
いくつかの実施形態において、前述のエンコーダシステムの1つまたは複数を使って、例えば、これらに限定されないが、ウェハおよびレチクル(マスク)ステージに関連する複数の軸と角度に沿った変位を測定できる。また、UVレーザビームではなく、その他のビームを使ってウェハを露光させることもでき、例えば、X線ビーム、電子ビーム、イオンビーム、可視光線等がある。
【0080】
特定の実施形態において、光学アセンブリ1526は、レチクル(またはマスク)ステージ1516または、スキャナシステム等のその他の移動可能部品の位置の変化を測定するように位置付けることができる。最後に、エンコーダシステムは、スキャナに加えて、またはスキャナの代わりにステッパを含むリソグラフィシステムにも同様の方法で使用できる。
【0081】
当業界でよく知られているように、リソグラフィは、半導体装置を製作するための製造方法の重要な部分である。例えば、米国特許第5,483,343号明細書にはこのような製造方法のステップの概略が記載されている。これらのステップを、
図16Aと16Bを参照しながら以下に説明する。
図16Aは、半導体チップ(例えば、ICまたはLSI)、液晶パネルまたはCCD等の半導体装置の製造シーケンスのフローチャートである。ステップ1651は、半導体装置の回路を設計する設計プロセスである。ステップ1652は、回路パターン設計に基づいてマスクを製造するプロセスである。ステップ1653は、シリコン等の材料を使用することによってウェハを製造するプロセスである。
【0082】
ステップ1654は、前工程と呼ばれるウェハプロセスであり、ここではそのように準備されたマスクとウェハを使って、回路がリソグラフィを通じてウェハ上に形成される。ウェハ上に、十分な空間分解能でマスク上のこれらのパターンに対応する回路を形成するために、リソグラフィツールのウェハに関する、干渉方式による位置決めが必要である。本明細書に記載される干渉方式の方法とシステムは特に、ウェハプロセスで使用されるリソグラフィの有効性の改善にとって有益となりうる。
【0083】
ステップ1655はアセンブリステップであり、これは後工程と呼ばれ、ステップ1654で加工されたウェハが半導体チップへと形成される。このステップは、アセンブリ(ダイシングとボンディング)とパッケージング(チップ封入)を含む。ステップ1656は検査ステップであり、検査ステップで、ステップ1655により生産された半導体装置の動作性のチェック、耐久性のチェック等が実行される。これらの工程により、半導体装置が完成し、出荷される(ステップ1657)。
【0084】
図16Bは、ウェハプロセスの詳細を示すフローチャートである。ステップ1661は、ウェハ表面を酸化するための酸化プロセスである。ステップ1662は、ウェハ表面上に絶縁膜を形成するためのCVDプロセスである。ステップ1663は、蒸着によってウェハ上に電極を形成する電極形成プロセスである。ステップ1664は、ウェハにイオンを打ち込むためのイオン打ち込みプロセスである。ステップ1665は、レジスト(感光材料)をウェハに塗布するためのレジストプロセスである。ステップ1666は、上述の露光装置を使って、露光(すなわち、リソグラフィ)を通じてマスクの回路パターンをウェハに印刷するための露光プロセスである。露光プロセスでも、上述のように、本明細書に記載される干渉方式システムと方法の使用によって、このようなリソグラフィステップの精度と分解能が改善される。
【0085】
ステップ1667は、露光されたウェハを現像するための現像プロセスである。ステップ1668は、現像されたレジスト像以外の部分を取り除くためのエッチングプロセスである。ステップ1669は、エッチングプロセス実行後にウェハ上に残っているレジスト材料を分離するためのレジスト分離プロセスである。これらのプロセスを繰り返すことによって、ウェハ上に回路パターンが形成され、重ね合される。
【0086】
上述のエンコーダシステムはまた、物体の相対位置を正確に測定する必要のあるその他の用途にも使用できる。例えば、レーザ、X線、イオン、または電子ビーム等の書込みビームがパターンを基板上に、基板またはビームの何れかを移動させながらマーキングするような用途において、エンコーダシステムを使って基板と書込みビームの相対移動を測定できる。
【0087】
多数の実施形態が説明された。それでもなお、当然のことながら、様々な変更を加えることができる。その他の実施形態も特許請求の範囲に含まれる。