特許第5714814号(P5714814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5714814固体電解質ポリマー、架橋されたPVDF(ポリフッ化ビニリデン)系ポリマーを利用したポリマーアクチュエータ及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714814
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】固体電解質ポリマー、架橋されたPVDF(ポリフッ化ビニリデン)系ポリマーを利用したポリマーアクチュエータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20150416BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20150416BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20150416BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20150416BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150416BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20150416BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H02N11/00 Z
   C08L27/16
   C08K5/3445
   C08F214/22
   H01B1/06 A
   B81B3/00
   B81C1/00
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-281792(P2009-281792)
(22)【出願日】2009年12月11日
(65)【公開番号】特開2010-142108(P2010-142108A)
(43)【公開日】2010年6月24日
【審査請求日】2012年11月2日
(31)【優先権主張番号】10-2008-0126573
(32)【優先日】2008年12月12日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2009-0063072
(32)【優先日】2009年7月10日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】509017594
【氏名又は名称】成均館大学校 産学協力団
【氏名又は名称原語表記】Research & Business Foundation Sungkyunkwan University
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】權 鍾 午
(72)【発明者】
【氏名】崔 承 太
(72)【発明者】
【氏名】李 泳 官
(72)【発明者】
【氏名】具 滋 椿
(72)【発明者】
【氏名】朴 秀 陳
【審査官】 下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−050780(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/041998(WO,A1)
【文献】 特開2006−139942(JP,A)
【文献】 特開2008−252958(JP,A)
【文献】 特開2008−086185(JP,A)
【文献】 特開2005−176428(JP,A)
【文献】 特開2007−126624(JP,A)
【文献】 特開2002−258001(JP,A)
【文献】 特表2010−505995(JP,A)
【文献】 特開2007−204682(JP,A)
【文献】 特開平09−124873(JP,A)
【文献】 特開2008−013631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
B81B 3/00
B81C 1/00
C08F 214/22
C08K 5/3445
C08L 27/16
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVDF系ポリマー及び電解物質で形成された固体電解質層を備え、
前記PVDF系ポリマーは、架橋剤により架橋されたこと(但し、電界を印加した状態で架橋されたものを除く。)を特徴とし、
前記PVDF系ポリマー内の前記架橋剤の含有量は、0.1〜10wt%の割合であり、
前記架橋剤は、過酸化ジクミル(DCP)、過酸化ベンゾイル、ビスフェノルA、メチレンジアミン、エチレンジアミン(EDA)、イソプロピルエチレンジアミン(IEDA)、1,3−フェニレンジアミン(PDA)、1,5−ナフタレンジアミン(NDA)、2,4,4−トリメチル−1または6−ヘキサンジアミン(THDA)であることを特徴とするポリマーアクチュエータ。
【請求項2】
前記固体電解質層の両面に形成された第1電極及び第2電極を備えることを特徴とする請求項1に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項3】
前記PVDF系ポリマーは、第1〜第3単量体ユニットから構成されたターポリマーであり、このうち第1単量体ユニットとして、フッ化ビニリデン(VDF)を含み、第2単量体ユニットとして、トリフルオロエチレン(TrFE)またはテトラフルオロエチレンを含み、第3単量体ユニットとして、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン(CFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、またはヘキサフルオロプロピレンを含んで、ポリマー形成されたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項4】
前記PVDF系ポリマーは、P(VDF−TrFE−CTFE(クロロトリフルオロエチレン))またはP(VDF−TrFE−CFE)であることを特徴とする請求項3に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項5】
前記第1電極は、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)またはポリ(チエニレンビニレン)を含んで形成されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項6】
前記第2電極は、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)またはポリ(チエニレンビニレン)を含んで形成されたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項7】
前記電解物質は、BMIBF(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸)、BMIPF6(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩)及びBMITFSI(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)からなる群から選択された一種以上の物質であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータ。
【請求項8】
ポリマーアクチュエータの製造方法において、
PVDF系ポリマーの粉末でPVDF系溶液を形成した後、前記PVDF系溶液に架橋剤を投入する工程と、
前記架橋剤を含む前記PVDF溶液を膜形態に形成した後、熱処理して架橋された(但し、電界を印加した状態で架橋されたものを除く。)PVDFポリマー膜を形成する工程と、
前記架橋されたPVDFポリマー膜に伝導性ポリマー溶液をコーティングする工程と、
前記PVDFポリマー膜内に電解液を注入する工程と、を含み、
前記PVDF系ポリマー内の前記架橋剤の含有量は、0.1〜10wt%の割合であり、
前記架橋剤は、過酸化ジクミル(DCP)、過酸化ベンゾイル、ビスフェノルA、メチレンジアミン、エチレンジアミン(EDA)、イソプロピルエチレンジアミン(IEDA)、1,3−フェニレンジアミン(PDA)、1,5−ナフタレンジアミン(NDA)、2,4,4−トリメチル−1または6−ヘキサンジアミン(THDA)であることを特徴とするポリマーアクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記PVDF系ポリマーは、第1〜第3単量体ユニットから構成されたポリマーであり、このうち第1単量体ユニットとして、フッ化ビニリデン(VDF)を含み、第2単量体ユニットとして、トリフルオロエチレン(TrFE)またはテトラフルオロエチレンを含み、第3単量体ユニットとして、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、またはヘキサフルオロプロピレンを含んで、ポリマー形成されたことを特徴とする請求項に記載のポリマーアクチュエータの製造方法。
【請求項10】
前記PVDF系ポリマーは、P(VDF−TrFE−CTFE)またはP(VDF−TrFE−CFE)であることを特徴とする請求項に記載のポリマーアクチュエータの製造方法。
【請求項11】
前記伝導性ポリマーは、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(チエニレンビニレン)であることを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータの製造方法。
【請求項12】
前記電解液は、溶媒に溶解された電解物質を含むことを特徴とする請求項11のいずれか1項に記載のポリマーアクチュエータの製造方法。
【請求項13】
前記電解物質は、BMIBF(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸)、BMIPF6(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩)及びBMITFSI(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)からなる群から選択された一種以上の物質であることを特徴とする請求項12に記載のポリマーアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固体電解質ポリマー及びこれを利用したアクチュエータに係り、モバイル機器などに広く使われ、ポリマーMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、バイオ、太陽電池などの多様な分野に応用できる。
【背景技術】
【0002】
最近、ポリマーセンサー及びポリマーを利用した電解質ポリマーアクチュエータは、多様な分野での応用可能性が浮び上がりつつ、その活用範囲を広げつつある。例えば、モバイル機器用の高性能カメラモジュールと関連して、オートフォーカス及びズーム機能を具現するためにアクチュエータを活用できると予想される。
【0003】
電解質ポリマーアクチュエータは、液体電解質を利用することによって、電解質物質を収容できるチャンバーを採用せねばならないので、体積増加の問題が発生し、チャンバーシーリングの信頼性問題などが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、固体電解質ポリマー及び、該固体電解質ポリマーを含んで相対的に熱安定性及び耐化学性に優れて低電圧駆動の可能なポリマーアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態では、PVDF系ポリマー及び電解物質で形成された固体電解質層;を含むポリマーアクチュエータを提供する。
【0006】
本発明の実施形態では、PVDF系ポリマー及び電解物質で形成された固体電解質層を備えるポリマーアクチュエータを提供する。
【0007】
前記固体電解質層の両面に形成された第1電極及び第2電極を備えることができる。
【0008】
前記PVDF系ポリマーは、架橋剤により架橋されたものである。
【0009】
前記PVDF系ポリマーは、1構造ユニットとして、フッ化ビニリデン(VDF)を含み、第2構造ユニットとして、トリフルオロエチレン(TrFE)またはテトラフルオロエチレンを含み、第3構造ユニットとして、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン(CFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、またはヘキサフルオロプロピレンを含むものであり、具体的には、P(VDF−TrFE−CTFE(クロロトリフルオロエチレン))またはP(VDF−TrFE−CFE)などが挙げられる。ここで、Pはポリマーを意味する接頭語である「ポリ」の略号である。
【0010】
前記第1電極は、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(poly(p−phenylene vinylene))またはポリ(チエニレンビニレン)(poly(thienylene vinylene))を含み、前記第2電極は、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)またはポリ(チエニレンビニレン)を含んで形成されたものである。
【0011】
前記架橋剤は、過酸化ジクミル(DCP)、過酸化ベンゾイル、ビスフェノルA、メチレンジアミン、エチレンジアミン(EDA)、イソプロピルエチレンジアミン(IEDA)、1,3−フェニレンジアミン(PDA)、1,5−ナフタレンジアミン(NDA)、2,4,4−トリメチル−1または6−ヘキサンジアミン(THDA)である。
【0012】
前記電解物質は、BMIBF(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸;n−butyl−3−metyl imidazolium tetrafluoroborate)、BMIPF6(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩;n−butyl−3−metyl imidazolium hexafluorophosphate)及びBMITFSI(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;n−butyl−3−metyl imidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)よりなる群から選択された一種以上の物質である。
【0013】
そして本発明の実施形態では、ポリマーアクチュエータの製造方法において、PVDF系ポリマーの粉末でPVDF系溶液を形成した後、前記PVDF系溶液に架橋剤を投入する工程と、前記架橋剤を含む前記PVDF溶液を膜形態に形成した後、熱処理して架橋されたPVDFポリマー膜を形成する工程と、前記架橋されたPVDFポリマー膜に伝導性ポリマー溶液をコーティングする工程と、前記PVDFポリマー膜内に電解液を注入する工程と、を含むポリマーアクチュエータの製造方法を提供する。
【0014】
前記伝導性ポリマーは、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(poly(p−phenylene vinylene))、およびポリ(チエニレンビニレン)(poly(thienylene vinylene))よりなる群から選択された一種以上のものである。
【0015】
また、本発明の実施形態では、架橋されたPVDF系ポリマー及び電解物質で形成された固体電解質ポリマーを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用した固体電解質ポリマー及び、これを含むポリマーアクチュエータの構造を模式的に示した図面である。
図2】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用した固体電解質ポリマーアクチュエータの断面イメージ(断面写真)を示した図面である。
図3A】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3B】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3C】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3D】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3E】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3F】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3G】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3H】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3I】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3J】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
図3K】本発明の実施形態による架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、架橋されたPVDF系ポリマーを利用した固体電解質ポリマーとポリマーアクチュエータについて詳細に説明する。参考までに、図面に図示されたそれぞれの層または領域の厚さ及び幅は、説明のために誇張して図示した。
【0018】
図1は、本発明の実施形態によるPVDF系ポリマーを利用した固体電解質ポリマー及び、これを含むポリマーアクチュエータの構造を示した図面である。
【0019】
図1を参照すれば、固体電解質ポリマー層12が形成されており、固体電解質ポリマー層12の少なくとも一面に電極が形成されている。例えば、固体電解質ポリマー層12の上面及び/または下面に第1電極10、第2電極14が形成されている。固体電解質ポリマー層12は、架橋されたPVDF系ポリマーを含むポリマーマトリックスで形成されたものでもあり、電解物質がマトリックス内に分散されたものでもありうる。架橋されたPVDF系ポリマーは、架橋されたPVDF系ターポリマーでありうる。
【0020】
PVDF系ポリマーは、3つまたはそれ以上の構造ユニットまたは単量体ユニットを含むポリマーを意味する。実施形態において、PVDF系ターポリマーは、第1構造ユニットとして、フッ化ビニリデン(VDF)を含み、第2構造ユニットとして、トリフルオロエチレン(TrFE)またはテトラフルオロエチレンを含み、第3構造ユニットとして、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、またはヘキサフルオロプロピレンを含むことができる。具体的な例示として、PVDF系ポリマーは、P(VDF−TrFE−CTFE)またはP(VDF−TrFE−CFE)などを挙げることができるが、これに制限されるものではない。PVDF系ポリマーは、質量平均モル質量(質量平均物質量)が10,000ないし900,000(g/モル)でありうる。好ましくは50,000ないし900,000(g/モル)、より好ましくは50,000ないし500,000である。PVDF系ポリマーの質量平均モル質量が上記範囲内の場合、高い熱的安定性と各種溶剤に容易に溶解されない高い耐化学性の点で優れており、更に製造段階での撹拌・混合(ミキシング)性や成膜性に優れるなど、製造段階での取り扱い性にも優れている。
【0021】
PVDF系ポリマーは、固体電解質ポリマー層12が高い熱的安定性と各種溶剤に容易に溶解されない高い耐化学性を要求される場合、それ自体のみでは足りない。この場合、熱的安定性及び耐化学性を向上させるために、架橋剤を利用してPVDF系ポリマーを架橋させた状態で、固体電解質ポリマー層12として使用できる。PVDF系ポリマー内の架橋剤の含有量は、0.1ないし10wt%の割合、好ましくは0.1ないし5wt%の割合で含まれうる。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、固体電解質ポリマー層に要求される高い熱的安定性及び各種溶剤に容易に溶解されない高い耐化学性の双方を向上させることができるように、PVDF系ポリマーを適度に(好適に)架橋させることができる点で優れている。
【0022】
架橋剤として使われる物質は、例えば、過酸化ジクミル(DCP)、過酸化ベンゾイル、ビスフェノルA、メチレンジアミン、エチレンジアミン(EDA)、イソプロピルエチレンジアミン(IEDA)、1,3−フェニレンジアミン(PDA)、1,5−ナフタレンジアミン(NDA)、2,4,4−トリメチル−1または6−ヘキサンジアミン(THDA)などがあるが、これに制限されるものではない。ただし、固体電解質ポリマー層12内には、架橋されたポリマー以外に架橋されていないポリマーも含まれうる。
【0023】
架橋されたPVDF系ポリマーの内部に含まれうる電解物質は、例えば、BMIBF(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸)、BMIPF6(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩)及びBMITFSI(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)からなる群から選択された一種以上の物質であるが、これに限定されるものではない。電解物質とPVDF系ポリマーとの比率は、9:1(w/w)ないし5:5(w/w)であり、好ましくは8:2(w/w)ないし6:4(w/w)、より好ましくは8:2(w/w)ないし7:3(w/w)など選択的に調節できる。電解物質とPVDF系ポリマーとの比率が上記範囲内であれば、熱安定性及び耐化学性に優れて低電圧駆動の可能なポリマーアクチュエータを提供することができる。特に使用用途に応じて電解物質とPVDF系ポリマーとの比率を上記範囲内で調整することにより、低電圧駆動によるポリマーアクチュエータの駆動変位量(変位幅)を任意(自在)にコントロールすることができる点で優れている。その結果、例えば、当該ポリマーアクチュエータにより、モバイル機器用の高性能カメラモジュールと関連して、オートフォーカス及びズーム機能を具現することなどができる。
【0024】
第1電極10と第2電極14は、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(チエニレンビニレン)などの伝導性ポリマーで形成されたものでありうる。
【0025】
ポリマーアクチュエータの厚さ、第1電極10、固体電解質ポリマー層12及び第2電極14の各層の厚さは制限されない。例えば、第1電極10及び第2電極14の厚さは、数μmないし数mmであり、例えば、1μmないし1mmであり、好ましくは、1ないし100μm、より好ましくは、5ないし50μmである。また、固体電解質ポリマー層12は、数μmないし数mmであり、例えば、1μmないし1mmであり、好ましくは、1ないし100μm、より好ましくは、5ないし50μmである。さらにポリマーアクチュエータの厚さは、数μmないし数mmである。ポリマーアクチュエータの厚さ、第1電極10、固体電解質ポリマー層12及び第2電極14の各層の厚さが上記範囲であれば、使用用途、例えば、モバイル機器、ポリマーMEMS、バイオ、太陽電池など多様な分野に応じた、低電圧駆動での使用が可能な最適なサイズ(特に厚さ)のポリマーアクチュエータを任意に(自在に)作製でき、低電圧駆動により最適な駆動変位量(変位幅)を発現することのできるポリマーアクチュエータを得ることができる点で優れている。その結果、例えば、当該ポリマーアクチュエータにより、モバイル機器用の高性能カメラモジュールと関連して、オートフォーカス及びズーム機能を具現することなどができる。
【0026】
ポリマーアクチュエータの駆動原理を説明すれば、次の通りである。第1電極10及び/または第2電極14を通じて電圧が印加されれば、固体電解質ポリマー層12が酸化状態になって(+)電荷を帯びるようになる。そして、固体電解質ポリマー層12内の(−)電荷が第1電極10または第2電極14方向に移動しつつ、固体電解質ポリマー層12の膨潤現象により(曲げられてあるいは折り曲げられて)駆動(変位)する。このようなアクチュエータの駆動方向は、印加電圧方向によって選択的に調節できる。
【0027】
図2は、THDA架橋剤で架橋させたPVDF系ポリマーを利用した固体電解質ポリマーアクチュエータの断面イメージ(断面写真)を示した図面である。ここで、第1電極10及び第2電極14は、伝導性ポリマーであるPPyを20ないし25μmの厚さに形成させたものであり、固体電解質ポリマー層12は、P(VDF−TrFE−CTFE)ターポリマーを30ないし35μmの厚さに形成させたものであって、電解物質(BMITFSI)が含まれたものである。
【0028】
以下、図3Aないし図3Kを参照して、本発明の実施形態による、架橋されたPVDF系ポリマーを利用したアクチュエータの製造方法について説明する。
【0029】
図3Aを参照すれば、溶解剤31(solvent)を含む容器41内にPVDF系ポリマー粉末(P)を投入する。PVDF系ポリマーとしては、P(VDF−TrFE−CTFE)またはP(VDF−TrFE−CFE)ターポリマーを使用できる。例えば、5wt%のPVDF系ポリマー溶液状態(実施例で使用)で、常温または熱(例えば、常温ないし110℃程度、実質的に温度は時間と関係するため、常温でミキシング(mixing)が可能である。実施例では常温)を加えつつミキシングする。溶解剤31としては、例えば、メチルイソブチルケトン(Methyl isobutyl ketone;MIBK)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone;MEK)等が利用でき、実施例ではMIBKを使用した。
【0030】
図3B及び図3Cを参照すれば、PVDF系ポリマー溶液32に架橋剤(CL)を投入する。架橋剤(CL)としては、過酸化ジクミル(DCP)、過酸化ベンゾイル、ビスフェノルA、メチレンジアミン、エチレンジアミン(EDA)、イソプロピルエチレンジアミン(IEDA)、1,3−フェニレンジアミン(PDA)、1,5−ナフタレンジアミン(NDA)、2,4,4−トリメチル−1または6−ヘキサンジアミン(THDA)などを使用できるが、これに制限されるものではない。例えば、約0.1ないし10wt%、好ましくは0.1ないし5wt%(PVDF系ポリマー内の架橋剤の含有量(割合))の架橋剤(CL)をPVDF系溶液32が含まれた容器41に投入した後、常温または熱(例えば、常温ないし110℃程度;実質的に温度は時間と関係するため、常温で混合(mixing)が可能であり、実施例では常温とした。)を加えつつ混合して、架橋剤(CL)とPVDFポリマー溶液32との混合溶液33を形成する。
【0031】
図3Dを参照すれば、架橋剤とPVDFポリマー溶液との混合溶液33を例として挙げて、ソリューションキャスティング方法でバーコーター43を利用して、プレート42上で膜形態に形成する。そして、溶解剤31を蒸発させる。
【0032】
図3Eを参照すれば、架橋剤が含まれたPVDFポリマー膜F1を加熱容器44内で、例えば、約160℃ないし170℃の温度(実施例で使用)で熱を加えて架橋させる。
【0033】
架橋剤によるPVDFポリマーの架橋如何を確認するために、DMA(Dynamic Mechanical Analysis)、DSC(Differential Scanning Calorimeter)分析及び溶解度試験を行える。前記過程を経たPVDFポリマー膜F1に対するDMA分析結果、初期状態のPVDFポリマーと架橋された状態のPVDFポリマーとのガラス転移温度(glass transition temperature:Tg)を比較すれば、架橋された状態の場合にTgが上昇する。そして、損失弾性率(loss modulus)及び保存弾性率(storage modulus)とを比較すれば、架橋された状態のPVDFポリマーの場合、初期状態のPVDFに比べて高い値を持つことが確認できる。DSC分析の場合、初期状態のPVDFポリマーと架橋されたPVDFポリマーとのDSCピークの決定量(ΔH)を比較すれば、架橋された状態での決定量の値が相対的に小さくなる。これは、架橋剤によりPVDFポリマーが架橋状態になれば、鎖が互いにからまるためである。
【0034】
架橋剤による架橋が確認されたPVDFポリマーを利用して、ポリマーアクチュエータの形成方法を説明する。
【0035】
図3Fを参照すれば、架橋されたPVDFポリマー膜に電極として使われる伝導性ポリマー層をコーティングするために、伝導性ポリマー溶液34を収容する容器45にPVDFポリマー膜を浸漬する。伝導性ポリマーとしては、ポリピロール(PPy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(チエニレンビニレン)などを利用できるが、これに制限されるものではない。例えば、伝導性ポリマー溶液(伝導性ポリマーの単量体原液)34としてピロールを利用して、架橋されたPVDFポリマー膜をピロール原液に数分ないし数十分間浸漬させる。そして、PVDFポリマー膜F2にピロールを染み込めた後、ピロールが染み込んだPVDFポリマー膜F2を取り出した後、その表面についているピロールをフィルターペーパーでよく拭う。そして、単量体であるピロールを重合してPPyを形成するために、図3Gに示したように、酸化剤35を収容した容器45内にピロールが染み込んだPVDFポリマー膜を浸漬させる。酸化剤35としては、金属化合物、FTS(Iron toluene sulfonate;トルエンスルホン酸鉄)、FeClまたはAuClなどを使用できる。例えば、2MのFeCl水溶液(実施例で使用)にPVDFポリマー膜を含浸させることができる。酸化剤35溶液に用いられる溶剤としては、例えば、水等が利用でき、実施例では水を使用した。結果的に、伝導性ポリマーがコーティングされたPVDFポリマー膜F3を形成できる。
【0036】
図3Hを参照すれば、容器45から取り出した伝導性ポリマーでコーティングされたPVDFポリマー膜F4の4面をCラインに沿って切断した後、例えば、メタノール(実施例で使用)で洗浄してPVDFポリマー膜F4の内部のピロール単量体を除去する。そして、図3Iに示したように、真空オーブン46で常温乾燥させることによって、伝導性ポリマー/PVDFポリマー膜/伝導性ポリマー構造のポリマー膜F5、例えば、PPy膜/PVDFポリマー膜/PPy膜を形成できる。
【0037】
図3Jを参照すれば、PVDFポリマー膜に電解物質を注入するために、電解物質が溶媒に溶解された液体電解液36が収容された容器45内に、前記で製造された一定サイズの伝導性ポリマー/PVDFポリマー膜/伝導性ポリマー構造の膜を浸漬させる。電解物質としては、BMIBF(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸)、BMIPF6(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩)またはBMITFSI(n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)などを使用できる。溶媒としては、PC(propylene carbonate:炭酸プロピレン)、アセトニトリル、安息香酸メチルまたはEC(ethylene carbonate:炭酸エチレン)などを使用できる。液体電解液36をPVDFポリマー膜内に十分に染み込ませるために、含浸過程中に熱(実施例では加熱せず、常温で長持間含浸させて行った。)や圧力(実施例では加圧せず、大気圧下で行った。)を加えることができる。結果的に液体電解液36が含浸されたPVDFポリマー膜F6を得ることができる。そして、図3Kを参照すれば、液体電解液含浸時に使われた溶媒を蒸発させることによって、電解物質のみPVDFポリマーの内部に残して、電解物質が含まれたPVDF系ポリマーアクチュエータF7を形成できる。
【実施例】
【0038】
本発明は、下記の実施例によってさらに具体化されるが、下記の実施例は本発明の具体的な例示に過ぎず、本発明の保護範囲を限定したり制限しようとするものではない。ここに記載されていない内容は、この技術分野にて通常の知識を有する者であれば十分に技術的に類推できるものであるのでその説明を省略する。
【0039】
図3A図3Kを用いて前述したように製造されたアクチュエータの動きを確認するために、5×30mmサイズのアクチュエータを製造した。ここで、アクチュエータは、架橋剤としてDCP0.2wt%(PVDFポリマー内の架橋剤の含有量(割合)を使用して、P(VDF−TrFE−CTFE)で形成されたPVDF系ポリマー膜内にBMITFSI電解物質が含まれ、PPyで第1及び第2電極を形成したものである。ここで、製造されたアクチュエータでは、PVDF系ポリマー(P(VDF−TrFE−CTFE))内のポアー(pore)体積を100とした場合、電解物質の体積約70であった(即ちポアー(pore)体積の70%が電解物質で含浸・充填されていた)。また、製造されたアクチュエータの各層(膜)の厚さは、第1電極(PPy膜;厚さ15μm)/PVDFポリマー膜(厚さ30μm)/第2電極(PPy膜;厚さ15μm)であった。
【0040】
製造されたアクチュエータに対して、−5V〜5V間の範囲で500mV/secの速度でポテンショスタット装備(PARSTAT 2263)を利用して循環電圧電流法を実施した。この時に現れるアクチュエータの駆動変位(mm)を測定するために、レーザービーム(KEYENCE LK−081(キーエンス社製))装備を設置して駆動変位を測定した。測定した結果、5mm以上の駆動変位を確認し、約10mm及び15mmほどの駆動変位までも確認することができた。
【0041】
本発明の実施形態によれば、架橋されたPVDF系ポリマーをアクチュエータ用の高分子物質として使用することによって、低電圧駆動が可能であり、熱安定性及び耐化学性に優れた固体電解質ポリマー及びポリマーアクチュエータを提供できる。
【0042】
前記で多くの事項が具体的に記載されているが、これらは発明の範囲を限定するというより、実施形態の例示として解釈されねばならない。したがって、本発明の範囲は説明された実施形態によって定められるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想により定められねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、モバイル機器などに広く使われ、ポリマーMEMS、バイオ、太陽電池などの多様な分野に応用できる。
【符号の説明】
【0044】
10 第1電極、
12 固体電解質ポリマー層、
14 第2電極、
31 溶解剤、
32 PVDF系溶液、
33 混合溶液、
34 伝導性ポリマー溶液、
35 酸化剤、
36 液体電解液、
41、45 容器、
42 プレート、
43 バーコーター、
44 加熱容器、
46 オーブン、
P PVDF系ポリマー粉末、
CL 架橋剤、
C Cライン;切断線(カットライン)、
F1 架橋剤が含まれたPVDFポリマー膜、
F2 ピロールが染み込んだ架橋されたPVDFポリマー膜、
F3 伝導性ポリマーがコーティングされたPVDFポリマー膜、
F4 Cラインに沿って切断した後、メタノールで洗浄したPVDFポリマー膜、
F5 伝導性ポリマー/PVDFポリマー膜/伝導性ポリマー構造のポリマー膜、
F6 液体電解液が含浸されたPVDFポリマー膜、
F7 電解物質が含まれたPVDF系ポリマーアクチュエータ。
図1
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図2