(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714819
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】圧電磁器組成物及びこれを用いた圧電素子
(51)【国際特許分類】
C04B 35/462 20060101AFI20150416BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
C04B35/46 J
H01L41/18 101J
H01L41/187
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-547001(P2009-547001)
(86)(22)【出願日】2009年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2009002817
(87)【国際公開番号】WO2010001542
(87)【国際公開日】20100107
【審査請求日】2012年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2008-171618(P2008-171618)
(32)【優先日】2008年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】309012742
【氏名又は名称】青木 昇
(74)【代理人】
【識別番号】309012731
【氏名又は名称】中島 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 誉幸
(72)【発明者】
【氏名】山際 勝也
(72)【発明者】
【氏名】光岡 健
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−034312(JP,A)
【文献】
特開平11−029356(JP,A)
【文献】
特開2004−077304(JP,A)
【文献】
特開昭50−034313(JP,A)
【文献】
Seiji IKEGAMI et al.,Piezoelectricity in ceramics of ferroelectric bismuth compound with layer structure,Japanese Journal of Applied Physics,October 1974, Vol.13, No.10,pp.1572- 1577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/462
H01L 41/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na、Bi、Ti、Cr及びOを含み、Pbを含まず、
Na、Bi、Ti及びCrの酸化物換算による含有比が下記組成範囲(1)内であると共に、第2族元素が実質的に無含有であり、さらに、ビスマス層状構造強誘電体であるNa0.5Bi4.5Ti4O15型結晶を主結晶相としており、
本圧電磁器組成物全体を100質量%とした場合に、CrO3/2換算によるCrの含有量が0.35質量%以下であることを特徴とする圧電磁器組成物。
aNa2O−bBi2O3−cTiO2−dCrO3/2 ・・・ (1)
(但し、a、b、c及びdは、モル比を表し、0.030≦a≦0.042、0.330≦b≦0.370、0.580≦c≦0.620、0<d≦0.017、a+b+c+d=1である。)
【請求項2】
請求項1に記載の圧電磁器組成物からなる圧電体と、該圧電体と接する少なくとも一対の電極と、を備えることを特徴とする圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電磁器組成物及びこれを用いた圧電素子に関する。更に詳しくは、Na、Bi及びTiを含みPbを含まない圧電磁器組成物及びこれを用いた圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用的であり多く使用されている圧電磁器は、チタン酸鉛(以下、単に「PT」という)、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、単に「PZT」という)等に代表されるように有鉛圧電磁器である。しかし、有鉛圧電磁器は鉛(Pb)成分を用いるために、その製造段階、使用中及び使用後の各段階における環境面への影響が課題となっており、鉛を含まない圧電磁器の開発が急がれている。
また、圧電磁器にはキュリー点が存在し、このキュリー点を越える範囲では圧電性が消失してしまう。一般に、有鉛圧電磁器では、キュリー点が200〜500℃程度であるため、更なる高温で使用可能な圧電磁器が求められている。
【0003】
このような要求に対応できる圧電磁器としてビスマス層状構造強誘電体{(Na0.5Bi4.5Ti4O15)(以下、単に「NBT」ともいう)}が知られている。NBTはキュリー点が約670℃と高く、PT及びPZTのキュリー点よりも高いことから、500℃を越える高温での使用が可能な無鉛圧電磁器として期待されている。このNBTを主体とする圧電磁器に関しては下記特許文献1〜3及び非特許文献1、2に開示がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭50−67492号公報
【特許文献2】特開平11−29356号公報
【特許文献3】特開2007−119269号公報
【非特許文献1】「Piezoelectricity in Ceramics of Ferroelectric Bismuth Compound with Layer Structure」 S.Ikegami and I.Ueda Japanese Journal of Applied Physics,13 (1974) p.1572−1577
【非特許文献2】「Grain−Oriented and Mn−Doped (NaBi) (1−x)/2CaxBi4Ti4O15 Ceramics for Piezo−and Pyrosensor Materials」 T.Takenaka and K.Sakata Sensor and Materials,1 (1988) p.35−46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記NBTは、前述のように無鉛組成において高いキュリー点を有するものの、圧電歪定数(d定数)が小さいという課題がある。即ち、印加電圧に対する変位量が小さくセンサ(例えば、感圧センサ)等への応用が困難であるという課題がある。
また、NBTのような結晶構造異方性を有する材料については、一般に配向処理を施すことによって圧電歪定数を向上できることが知られている。しかし、配向処理にはホットプレス等を行なう必要があり、製造工程が複雑化し且つ製造コストがかかるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであり、高い耐熱性と大きな圧電歪定数とを有する圧電磁器組成物及びこれを用いた圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕Na、Bi、Ti、Cr及びOを含有し、Pbを含まず、
Na、Bi、Ti及びCrの酸化物換算による含有比が下記組成範囲(1)内であると共に、第2族元素が実質的に無含有であり、さらに、ビスマス層状構造
強誘電体であるNa
0.5Bi
4.5Ti
4O
15型結晶を主結晶相と
しており、本圧電磁器組成物全体を100質量%とした場合に、CrO3/2換算によるCrの含有量が0.35質量%以下であることを特徴とする圧電磁器組成物。
aNa
2O−bBi
2O
3−cTiO
2−dCrO
3/2 ・・・ (1)
(但し、a、b、c及びdは、モル比を表し、0.030≦a≦0.042、0.330≦b≦0.370、0.580≦c≦0.620、0<d≦0.017、a+b+c+d=1である。)
〔2〕
上記〔1〕に記載の圧電磁器組成物からなる圧電体と、該圧電体と接する少なくとも一対の電極と、を備えることを特徴とする圧電素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の圧電磁器組成物によれば、鉛を含有することなく、キュリー点が高く耐熱性に優れ且つ圧電歪定数が大きい圧電磁器を得ることができる。更に、これらの圧電特性を無配向(結晶粒子の配向性が実質的にない状態)で得ることができる。
また、上記の圧電磁器組成物においては、第2族元素を実質的に無含有とすることで、キュリー点の低下がなく、Na、Bi、Ti、Cr及びOを含有する組成系を適用した際のキュリー点が高くなる効果が確実にもたらされる。また、圧電磁器組成物が高熱に晒された際にも、第2族元素を実質的に無含有とすることで、圧電歪定数(d33)の劣化の度合を実使用下で問題のない範囲内に抑えられるというメリットが得られる。なお、本発明において、「実質的に無含有」とは、蛍光X線分析(XRF ; X-ray fluorescence analysis)によっても周期表の第2族元素が検出ないし同定できないことを意味するものである。
【0009】
上記の圧電磁器組成物においては、ビスマス層状構造強誘電体を主結晶相とする場合には、特に優れた耐熱性及び圧電歪定数を有する圧電磁器を得ることができる。
また、上記の圧電磁器組成物においては、Na
0.5Bi
4.5Ti
4O
15型結晶を主結晶相とする場合には、特に優れた耐熱性及び圧電歪定数を有する圧電磁器を得ることができる。
【0010】
さらに、上記の圧電磁器組成物においては、CrO
3/2換算によるCrの含有量が1.00質量%以下(より好ましくは0.35質量%以下)である場合は、特に優れた耐熱性及び圧電歪定数を有する圧電磁器を得ることができる。
本発明の圧電素子によれば、鉛を含有することなく、高いキュリー点による優れた耐熱性を有すると共に大きな圧電歪定数を有する圧電特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1]圧電磁器組成物
本発明の圧電磁器組成物は、Na、Bi、Ti、Cr及びOを含有し、
上記Na、Bi、Ti及びCrの酸化物換算による含有比が下記組成範囲(1)内であることを特徴とする圧電磁器組成物。
aNa
2O−bBi
2O
3−cTiO
2−dCrO
3/2 ・・・ (1)
(但し、a、b、c及びdは、モル比を表し、0.030≦a≦0.042、0.330≦b≦0.370、0.580≦c≦0.620、0<d≦0.017、a+b+c+d=1である。)
【0012】
即ち、換言すれば、本圧電磁器組成物は、Na、Bi、Ti、Cr及びOを含有し、このうち上記金属元素を各々Na
2O、Bi
2O
3、TiO
2及びCrO
2/3の各酸化物に換算して下記関係(2)で表した場合に、該各酸化物のモル比を表すa、b、c及びdが下記関係(3)〜(7)を同時に満たす。
aNa
2O−bBi
2O
3−cTiO
2−dCrO
2/3 ・・・ (2)
0.030≦a≦0.042 ・・・ (3)
0.330≦b≦0.370 ・・・ (4)
0.580≦c≦0.620 ・・・ (5)
0<d≦0.017 ・・・ (6)
a+b+c+d=1 ・・・ (7)
【0013】
上記「a」は、本圧電磁器組成物に含まれたNa、Bi、Ti及びCrについて、各々Na
2O、Bi
2O
3、TiO
2及びCrO
3/2の各酸化物に換算した合計含有量に対するNa
2Oの含有比{モル比であり、a/(a+b+c+d)}である。この「a」は、0.030≦a≦0.042である。「a」が上記範囲内では、圧電歪定数をより大きくできるため好ましい。
【0014】
上記「b」は、本圧電磁器組成物に含まれたNa、Bi、Ti及びCrについて、各々Na
2O、Bi
2O
3、TiO
2及びCrO
3/2の各酸化物に換算した合計含有量に対するBi
2O
3の含有比{モル比であり、b/(a+b+c+d)}である。この「b」は、0.330≦b≦0.370である。「b」が上記範囲内では、圧電歪定数をより大きくできるため好ましい。
【0015】
上記「c」は、本圧電磁器組成物に含まれたNa、Bi、Ti及びCrについて、各々Na
2O、Bi
2O
3、TiO
2及びCrO
3/2の各酸化物に換算した合計含有量に対するTiO
2の含有比{モル比であり、c/(a+b+c+d)}である。この「c」は、0.580≦c≦0.620である。「c」が上記範囲内では、圧電歪定数をより大きくできるため好ましい。
【0016】
上記「d」は、本圧電磁器組成物に含まれたNa、Bi、Ti及びCrについて、各々Na
2O、Bi
2O3、TiO
2及びCrO
3/2の各酸化物に換算した合計含有量に対するCrO
3/2の含有比{モル比であり、d/(a+b+c+d)}である。この「d」は、0<d≦0.017である。この範囲では、特に圧電歪定数が大きく、優れた圧電特性を得ることができる。尚、d>0.017となると圧電歪定数が小さくなる傾向にある。これはビスマス層状構造強誘電体の結晶の歪みが過度に大きくなり、結晶構造自体が不安定となるためと考えられる。この「d」の範囲は、0<d≦0.017とすることが好ましく、0<d≦0.010とすることがより好ましい。
【0017】
更に、本発明の圧電磁器組成物は、ビスマス層状構造強誘電体を主結晶相とすることが好ましい。この本発明におけるビスマス層状構造強誘電体とは、[(Bi
2O
2)
2+]と[(X
m−1Ti
mO
3m+1)
2−]とが交互に層状に積層された結晶構造を有する化合物である。尚、式中のXはNa及びBiであり、m=1〜8の整数である。更に、このビスマス層状構造強誘電体磁器はNa
0.5Bi
4.5Ti
4O
15型結晶であることがより好ましい。これにより特に優れた耐熱性及び圧電歪定数を得ることができる。
【0018】
尚、上記主結晶相とするとは、後述する実施例におけると同様に圧電磁器組成物のX線回折測定により得られるX線回折チャートにおいて実質的にビスマス層状構造強誘電体が主成分であることを意味する。更に、この結晶相のみからなることが特に好ましい。
【0019】
また、本圧電磁器組成物全体を100質量%とした場合のCrの含有量は、CrO
3/2換算した場合に0質量%より大きく1.00質量%以下であることが好ましい。即ち、CrO
3/2換算含有量をMCr(質量%)とした場合に、0<MCr≦1.00である。この範囲では、特に圧電歪定数が大きく、優れた圧電特性を得ることができる。尚、MCr>1.00となると圧電歪定数が小さくなる傾向にある。これはビスマス層状構造強誘電体の結晶の歪みが過度に大きくなり、結晶構造自体が不安定となるためと考えられる。このCrO
3/2換算含有量は、0<MCr≦0.70とすることがより好ましく、0<MCr≦0.35とすることが特に好ましい。
【0020】
本発明では、Na、Bi、Ti及びOで形成される圧電特性を示す組成に対してCrを含有させることで、ビスマス層状構造強誘電体を極めて高効率で生成させることができる。特にビスマス層状構造強誘電体のなかでも、Na
0.5Bi
4.5Ti
4O
15(NBT)で示される結晶が生成されると共に、この結晶の生成の際に形成されやすい不純物相の生成を抑制する作用が特に強いものと考えられる。即ち、例えば、この不純物相としては、Bi
4Ti
3O
12、Bi
0.5Na
0.5TiO
3等の結晶が挙げられる。これらの不純物相の生成がCrの含有により極めて効果的に抑制されるために、結果的にビスマス層状構造強誘電体の生成比率が非常に高くなり、優れた圧電特性を示す圧電磁器が得られるものと考えられる。
【0021】
また、上記作用に加えて、Na、Bi、Ti及びOで形成される圧電特性を示す組成に対してCrを含有させた場合には、ビスマス層状構造強誘電体NBTを生成させると共に、このNBTの結晶構造に歪みを生じさせることによって、圧電歪定数を大きくすることができるものと考えられる。
更に、本発明の圧電磁器組成物は、多結晶体である場合に結晶粒子の配向が無配向な状態であっても、前述の優れた耐熱特性及び優れた圧電歪定数を発揮させることができる。
【0022】
本発明における圧電磁器組成物の組成としては、600℃で1時間熱処理を行った後にも20pC/N以上の圧電歪定数(d33)を維持し得るという観点から、0.030≦a≦0.042、0.330≦b≦0.370、0.580≦c≦0.620、0≦d≦0.017、CrO3/2換算含有量MCrが0<MCr≦0.70であることが好ましい。
【0023】
本発明の圧電磁器組成物を製造する方法は特に限定されないが、通常、前記組成範囲(1)となるように各金属元素を含む混合原料粉末(酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩等)を調合した後、焼成温度よりも低温にて仮焼した後、1000℃以上の温度(最高温度)で焼成して得られる。
更に詳しくは、まず、原料粉末として、上記Na源として炭酸ナトリウム、上記Bi源として酸化ビスマス、上記Ti源として酸化チタン、上記Cr源として酸化クロムの各原料粉末を用意する。その後、各原料粉末が上記組成範囲(1)となるように秤量し、分散媒(エタノール等)と共に混合機(ボールミル等)により湿式混合を行って泥漿を得る。次いで、得られた泥漿を乾燥させて上記原料混合粉末が得られる。なお、原料粉末としては、不純物として第2族元素を極力少量しか含まない、あるいは、全く含まない原料を用いるものとする。
【0024】
その後、上記原料混合粉末を仮焼(例えば大気雰囲気中、600℃〜1000℃、10分〜300分)して仮焼粉末とする。次いで、この仮焼粉末を、有機バインダ(ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等)及び分散媒(アルコール類、エーテル類等)と共に混合機(ボールミル等)により更に湿式粉砕して泥漿を得る。その後、得られた泥漿を乾燥させた後、造粒して造粒粉末を得る。
【0025】
更に、上記造粒粉末を所定の形状に成形して成形体とする。この成形に際しての成形条件は特に限定されないが、30MPa程度で一軸成形した後、150MPa程度で冷間等方静水圧プレス(CIP)処理を施すことが好ましい。その後、得られた成形体を焼成することで本発明の圧電磁器組成物からなる焼結体が得られる。
【0026】
[2]圧電素子
本発明の圧電素子は、本発明の圧電磁器組成物からなる圧電体と、該圧電体と接する少なくとも一対の電極と、を備えることを特徴とする。
【0027】
上記「圧電体」は、本発明の圧電磁器組成物からなる圧電磁器であり、圧電素子内において圧電特性を発揮する部分である。この圧電体の形状及び大きさは特に限定されず、感圧用途及び発振用途等に応じて適宜のものとすることが好ましい。特に感圧用途では、平面形状が方形、円形等の平板状、中央部に厚さ方向に貫通孔が設けられた平板状、角柱状、円柱状等の種々の形状とすることができる。また、本発明の圧電素子は、これらの形状の圧電体が複数積層されて構成されていてもよい。
【0028】
上記「一対の電極」は、圧電体の表面に接して形成された導体層である。この電極の各々は、圧電体が板状である場合にはその一面と他面とに各々形成されていてもよく、各々の電極が圧電体の同一面に形成されていてもよい。また、電極の形状、大きさ及び材質等は特に限定されず、圧電体の大きさ及び用途等により適宜のものとすることが好ましい。この電極の形状は、平面状でもよく、特に一対の電極の各々を圧電体の同一面に形成する場合は櫛歯状や半月状とすることもできる。この電極の形成方法も特に限定されないが、通常、導電性ペーストを圧電体の所望の表面に塗布した後、焼き付けて得られる。
【0029】
ここで、圧電素子の一例として、圧電素子200を
図3に示す。この圧電素子200は、円板状に形成されるとともに、中央部に貫通孔130を有し、本発明の圧電磁器組成物からなる圧電体100と、この圧電体100の表裏面の各々に導体層301、302(一対の電極)とを備える。
【0030】
上記導体層は、例えば、前記本発明の圧電磁器組成物からなる焼結体の表面を平行研磨して得られる研磨面に導電性ペーストを塗布し、これを焼き付けて(例えば、600〜800℃で10分間)形成できる。導電性ペーストは、ガラスフリットと、導電成分と、有機媒体とを用いて調製できる。ガラスフリットを含むことで圧電体と電極との接合強度を向上させることができる。
【0031】
上記導電成分としては、銀、金、パラジウム、白金等の貴金属からなる粉末、これらの粉末の2種以上を含む混合粉末、2種以上の貴金属の合金からなる粉末等を使用することができる。その他、銅、ニッケル等からなる粉末、又はこれらの混合粉末、及びこれらの金属の合金からなる粉末等を用いることもできる。
【0032】
更に、本発明の圧電素子は、分極処理を行うことで前記圧電特性を得ることができる。分極処理は、通常、所定の温度に保持された絶縁環境下{例えば、絶縁性の高い液体(25〜250℃に保温されたシリコーンオイル又はフロリナート液等)中}に置き、電極間に1〜10kV/mmの電界を1〜60分間加えることで行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を詳しく説明する。
(実施例1)
原料粉末として、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3、純度99.53%)、酸化ビスマス(Bi
2O
3、純度98.8%)、酸化チタン(TiO
2、純度99.0%)及び酸化クロム(Cr
2O
3、純度99.8%)を用い、下記表1(実施例;実験例2〜6、比較例;実験例1及び7)に示すモル比となるように各原料粉末を秤量した後、ボールミルにてエタノールと共に15時間湿式混合して得られた泥漿を湯煎乾燥して原料混合粉末を得た。その後、得られた原料粉砕物を、800℃で120分間仮焼し、仮焼粉末とした後、更に有機バインダとエタノールとを加え、ボールミルにより15時間の湿式混合を行って得られた泥漿を乾燥し、次いで、造粒して造粒粉末を得た。なお、上記の各原料粉末においては、後述する焼結体を得た後に、ICP発光分析を行った場合にも、第2族元素が検出ないし同定できない粉末を用いた。
【0034】
得られた造粒粉末を30MPaの圧力で一軸加圧成形を行って、直径20mm、厚み3mmの円板形状の成形体とした。その後、この成形体に150MPaの圧力で冷間等方静水圧プレス処理(CIP処理)を行った後、焼成温度1150℃で120分間焼成して、実験例1〜7の焼結体を得た。
【0035】
【表1】
【0036】
得られた各焼結体の表裏面を平面研磨した。その後、ガラスフリット(SiO
2、Al
2O
3、ZnO及びTiO
2を含む)、銀粉末及びブチルカルビトールアセテートを用いて調製した導電性ペーストを、上記成形体の表裏両方の研磨面に塗布し、700℃で20分間焼き付けて一対の電極が形成された。次いで、焼結体表面に電極を有する各素子を150℃の絶縁オイル中で、9kV/mmの電界を30分間加えて分極処理を行い、実施例1〜7の各圧電体を備える圧電素子を得た。
【0037】
得られた各圧電素子について、圧電歪定数(d33)を測定すると共に、これを600℃、1時間の条件で熱処理した後、再び圧電歪定数(d33)を測定した。圧電歪定数(d33)の測定は、EMAS−6100に従い、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製、形式「4194A」)を用いて、圧電素子を温度20℃に保持した恒温槽に静置して行った。得られた結果を表2に示した。更に、Crの含有量と熱処理前後の圧電歪定数との相関を
図2にグラフとして示した。
【0038】
更に、得られた各圧電素子について、ε33T/ε0(比誘電率)(1kHzにおける静電容量の値から算出)、Qm値(機械的品質係数)及びkt値(電気機械結合係数)についても測定を行った。これらの各値の測定は“日本電子材料工業会標準規格 圧電セラミック振動子の電気的試験方法 EMAS−6100”による。
【0039】
また、圧電素子に用いた圧電磁器組成物の組成と結晶相を確認するために、各圧電磁器組成物と同じ焼結体を用い、蛍光X線分析による組成分析と、X線回折測定による結晶相の同定を行った。上記蛍光X線分析は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、形式「ZSX100e」)を用いて行い、X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク製、形式「RU−200T」)を用いて行った。得られた結果を表2に併記すると共に、実験例1及び実験例3のX線回折チャートを
図1に示した。
【0040】
【表2】
【0041】
表1及び表2の結果より、Crが含有されていない実験例1では、d33が12.9pC/Nと小さく、また、Qm値も1300と小さく、kt値も10.0%と小さかった(加熱前のd33が小さい値であったため、実験例1では熱処理を行わなかった)。更に、この実験例1のX線回折測定の結果、副結晶相が認められた。また、Crに換えてCoが含有された実験例7では、d33は30pC/N、kt値が27.0%といずれも非常に良好であるものの、Qm値は1500と小さかった。
一方、本発明の実施例である実験例2〜6は、d33は30〜33.3pC/Nと極めて大きく、kt値は27.8〜35.1%と非常に良好であり、尚かつ、Qm値は2800〜4800と非常に大きいことが分かる。更に、これらの実験例2〜6では、X線回折測定の結果、副結晶相は認められず、Na
0.5Bi
4.5Ti
4O
15で示されるビスマス層状構造強誘電体が認められた。
【0042】
更に、実験例2〜3及び実験例5〜6についての600℃もの高温における熱処理後のd33値であっても26.0〜30.2pC/Nと非常に良好であり、その維持率は86.7〜90.7%と極めて良好である。即ち、600℃においても優れた耐熱性を有することが分かる。
加えて、実験例2〜6の圧電磁器組成物について無配向であることが確認された。即ち、上記優れた各種特性はいずれも無配向な状態であっても十分に発揮されていることが分かる。
【0043】
(実施例2)
実施例1の実験例2の圧電磁器組成物(圧電素子)と、この実験例2の圧電磁器組成物(圧電素子)に対して第2族金属であるBa,Srを含有させたときの組成(比較例)とについて、それぞれキュリー点(Tc)と、初期(換言すれば、熱処理前)の圧電歪定数(d33)と、600℃、1時間の熱処理した後の圧電歪定数(d33)を測定した。
なお、実験例2の圧電磁器組成物をなす原料粉末は、上記の実施例1と同様のものである。また、実験例2の圧電磁器組成物の組成をベースにしつつ、主成分をなすNBTを(Na
0.5Bi
0.5)Bi
4Ti
4O
15と表したときに(Na
0.5Bi
0.5)が25mol%Baに置換されるように原料粉末を調整したものを実験例8、(Na
0.5Bi
0.5)が25mol%Srに置換されるように原料粉末を調整したものを実験例9として、それぞれ準備した。
そして、これらの原料粉末を用いて、実施例1と同様の手順で調製し、それぞれの圧電素子を得た。
【0044】
得られた圧電素子(各試料)について、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製、形式「4194A」)と電気炉とを用いてキュリー点(キュリー温度)Tcを測定した。また、上述した実施例1と同様の手法にて、圧電素子の初期(熱処理前)の圧電歪定数(d33)と、600℃、1時間の条件で熱処理した後の圧電歪定数(d33)とを測定した。得られた結果を表3に示す。なお、実験例8,9の圧電素子においては、焼結体の部位に対して別途に蛍光X線分析を行ったところ、Ba,Srの成分が検出された。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から、第2族元素であるBa,Srを含有する実験例8,9(比較例)では、キュリー点Tcが600℃未満と低い値を示した。また、熱処理前後での圧電歪定数(d33)の劣化の度合について検討すると、実験例2の圧電磁器組成物(圧電素子)では、実使用で問題のない範囲内での若干の劣化しかみられなかったが、実験例8,9では大きく劣化することが認められた。
この結果から、前記組成範囲(1)となるように、Na、Bi、Ti、Cr及びOを含む本発明の圧電磁器組成物において、第2族元素を実質的に無含有とすることで、キュリー点の低下を招くことなく、圧電歪定数(d33)の劣化の度合が小さく抑えられることが分かった。
【0047】
本発明は、上記した実施例に限定されず、本発明の技術的思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の圧電磁器組成物及びこれを用いた圧電素子は、圧力検知用途、振動検知用途、発振用途及び圧電デバイス用途等に広く用いられる。更に具体的には、圧電トランス、レゾネーター、燃焼圧センサ、ノッキングセンサ、感圧センサ、超音波センサ、荷重センサ、超音波モータ、圧電ジャイロセンサ、圧電振動子及びアクチュエータ等として好適である。なかでも、高い機械的品質係数及び良好な共振周波数の温度依存性を有することから圧電トランス及びレゾネーターとしてや、自動車の燃焼室近傍等の高温部においても感度が高く且つ長期間安定して使用できる燃焼圧検出センサ等の高温用センサ部品として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】実験例1及び実験例3の圧電磁器組成物のX線回折測定の結果を示す多重チャート図である。
【
図2】圧電磁器組成物に含まれるCrの含有量と圧電歪定数(d33)との相関を示すグラフである。
【
図3】本発明の圧電素子の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
100 圧電磁器組成物からなる圧電体
130 貫通孔
200 圧電素子
301,302 導体層(一対の電極)。