特許第5714821号(P5714821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5714821交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714821
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   H05F3/04 J
【請求項の数】36
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-554679(P2009-554679)
(86)(22)【出願日】2008年3月17日
(65)【公表番号】特表2010-521795(P2010-521795A)
(43)【公表日】2010年6月24日
(86)【国際出願番号】US2008057262
(87)【国際公開番号】WO2008115884
(87)【国際公開日】20080925
【審査請求日】2011年3月16日
【審判番号】不服2013-16301(P2013-16301/J1)
【審判請求日】2013年8月23日
(31)【優先権主張番号】60/918,512
(32)【優先日】2007年3月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/049,350
(32)【優先日】2008年3月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501441865
【氏名又は名称】イリノイ ツール ワークス インク
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジェフター、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】レビット、ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】パートリッジ、レスリー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルケ、スコット
【合議体】
【審判長】 森川 元嗣
【審判官】 中川 隆司
【審判官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−275366(JP,A)
【文献】 特開2001−85189(JP,A)
【文献】 特開2000−133413(JP,A)
【文献】 特開2005−216539(JP,A)
【文献】 特開2006−196378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置であって、
エミッタと、
第1の基準電極と、
前記エミッタと電気的に連結された出力と前記第1の基準電極と電気的に連結された基準端子とを有する電源であって、コロナ放電によるイオンを発生させ、前記エミッタに印加されると電場を発生させる出力波形を生成するよう設けられている、前記電源と、
前記イオンと前記エミッタとを含む第1の領域全体にわたり、一定の流速を有する気体フローを生成するよう設けられた気体フロー源と
を有し、
第1の期間中、前記出力波形は、前記電場により生じる電気力を低減して、前記気体フローが前記エミッタを取り囲む第2の領域内にある汚染粒子を当該エミッタから離れる方向に運び去ることを可能にし、且つ当該汚染粒子が当該エミッタ上に蓄積する可能性を最小限に抑えるものであり、前記第1の期間は、前記一定の流速に基づいて決定されるものである、
静電気除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の静電気除去装置において、
前記第2の領域は前記第1の領域のサブセットであり、前記出力波形は変調部分の期間を有する変調部分を含み、
前記第1の期間は前記変調部分の期間より短いものである。
【請求項3】
請求項1記載の静電気除去装置において、
前記第2の領域は、高強度場領域を含み、
前記電場は前記エミッタの表面の最も近くで最大値を有し、
前記高強度場領域は、前記表面から、前記最大値の1パーセント以上の電場強度を有する空間内の点までの半径を有する一定体積の空間である。
【請求項4】
請求項3記載の静電気除去装置において、さらに、
前記流速を調整するよう設けられたコントローラであって、前記第1の期間中、前記気体フローが前記汚染粒子を前記エミッタから離れる方向に運び去る上で十分な空力(空気力学的な力)を当該汚染粒子に提供するものである、前記コントローラを有し、
前記気体フローは、さらに、当該気体フローが前記高強度場領域を通過するようにするフロー方向を有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の静電気除去装置において、前記出力波形は、さらに、
前記エミッタと前記第1の基準電極との間で交流電流を生じる双極性イオン雲に前記イオンを構成し、
前記電場の振幅および強度を経時的に変化させるものである。
【請求項6】
請求項1記載の静電気除去装置において、
さらに、第2の基準電極を有し、
前記エミッタ、前記第1の基準電極、および前記第2の基準電極はイオン化室の一部である。
【請求項7】
請求項1記載の静電気除去装置において、
前記第1の期間は周期的なものであり、
前記出力波形は、前記汚染粒子に作用する誘電泳動力を発生させ、前記エミッタに印加されるとコロナ放電を発生させる上で十分な振幅を有するバースト部分を含むものである。
【請求項8】
請求項7記載の静電気除去装置において、前記出力波形は、さらに、前記第1の期間に相当するブローオフ(吹き飛ばし)部分の期間を有するブローオフ部分を含むものである。
【請求項9】
請求項8記載の静電気除去装置において、
前記気体フローは前記汚染粒子に空力を提供し、
当該静電気除去装置は、さらに、
前記出力波形の振幅を調整するよう設けられたコントローラを含み、当該調整により、前記ブローオフ期間中に前記空力は前記誘電泳動力を超えるものである。
【請求項10】
請求項9記載の静電気除去装置において、前記コントローラによる前記振幅の調整は、前記ブローオフ期間中における前記出力波形の振幅の減少を含むものである。
【請求項11】
請求項7記載の静電気除去装置において、
前記気体フローは前記汚染粒子に空力を提供し、
当該静電気除去装置は、さらに、
前記出力波形の振幅を調整するよう設けられたコントローラを含み、当該調整により前記ブローオフ期間中に前記空力は前記誘電泳動力を超えるものである。
【請求項12】
請求項7記載の静電気除去装置において、
前記電場は前記エミッタの表面から生じ、且つ当該エミッタの表面の最も近くで最大値を有し、
前記高強度場領域は、前記表面から、前記電場強度の最大値の1 パーセント以上の電場強度を有する空間内の点までの半径を有する一定体積の空間である。
【請求項13】
請求項12記載の静電気除去装置において、前記気体フローは一定の流速を有し、前記第1の期間は、次式のように選択されるものであり、
【数12】
ここで、tは期間、Rhf は前記半径、uは前記気体流速である。
【請求項14】
請求項13記載の静電気除去装置において、前記出力波形は、デューティサイクルと、
前記バースト部分のバースト周波数を含み、当該バースト周波数は次式のように選択されるものであり、
【数13】
ここで、Fmは前記バースト周波数、Dmは前記デューティサイクル、tは前記期間である。
【請求項15】
請求項1記載の静電気除去装置において、さらに、
グリッド電極と、
イオン電流センサーと、
前記流速を調整するよう設けられたコントローラであって、前記第1 の期間中、前記気体フローが前記汚染粒子を前記エミッタから離れる方向に運び去る上で十分な力を当該汚染粒子に提供するものである、前記コントローラと、
を有し、
前記気体フロー源は、ファン(送風機) スピード調整器により制御されるファンを含み、当該ファンスピード調整器は、前記気体流速の推定に使用可能な信号を提供する出力を含むよう設けられており、
前記コントローラは、前記グリッド電極を使ってイオンバランスを測定し、前記イオン電流センサーを使って当該静電気除去装置の動作中に生成されたイオン電流を決定するよう設けられているものである。
【請求項16】
請求項1記載の静電気除去装置において、さらに、
コントローラを含み、
前記電源は、さらに、
電圧昇圧器に連結された出力を有する発振器であって、前記電圧昇圧器は加算器に連結されているものである、発振器と、
前記加算器に連結された出力を含む電圧増幅器に連結されたDAC( デジタルアナログコンバータ)と
を含み、
前記コントローラは、前記DACおよび前記発振器に連結されており、
前記加算器は、前記エミッタに連結された出力を含み、
前記コントローラは前記流速を調整するよう設けられており、当該調整により、前記第1の期間中、前記気体フローが前記汚染粒子を前記エミッタから離れる方向に運び去る上で十分な力を当該汚染粒子に提供するものである。
【請求項17】
交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置におけるイオンエミッタの汚染を制限する方法であって、
一定の流速を有する気体フローを提供する工程と、
コロナ放電による双極性イオンを発生させ、前記静電気除去装置のエミッタに印加されると電場を発生させる出力波形を生成する工程であって、前記電場は、前記エミッタを取り囲む領域内に存在する汚染粒子を誘引する電気力を発生させ、当該出力波形は、出力波形の振幅と、出力波形の周波数と、バースト部分と、ブローオフ(吹き飛ばし)部分とを含むものである、前記出力波形を生成する工程と、
前記気体フローが、前記汚染粒子を前記エミッタから離れる方向に運び去り、前記ブローオフ期間中に前記汚染粒子が前記エミッタ上に蓄積する可能性を最小限に抑えることを可能にする工程であって、前記ブローオフ部分は、前記一定の流速に基づいて決定されるものである工程
を有する方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、前記ブローオフ期間中に前記出力波形の振幅を減少させることにより、前記電気力を減少させる工程を含むものである。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、この方法は、さらに、
前記電気力を減少させる前に、前記流速を選択する工程を含むものである。
【請求項20】
請求項17記載の方法において、
前記バースト部分はバースト部分の期間を含み、前記ブローオフ部分はブローオフ部分の期間を含むものであり、
前記バースト部分の期間を、前記バースト部分の期間およびブローオフ部分の期間の和で除算したものは、前記出力波形のデューティサイクルに等しいものである。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、さらに、前記デューティサイクルを減少させる工程を含むものである。
【請求項22】
請求項20記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、
前記領域内の前記気体流速を決定する工程と、
前記気体流速および前記出力波形の振幅に基づいて前記ブローオフ部分の時間長を変更する工程と
を含むものである。
【請求項23】
請求項20記載の方法において、
前記出力波形は、さらに、前記バースト部分と前記ブローオフ部分とを含む変調部分と、バースト部分の周波数とを含み、
前記最小限に抑えることを可能にする工程は、さらに、パラメータのセットに応答して、前記バースト部分の周波数、バースト部分の期間、およびデューティサイクルのうちいずれか1 つを調整する工程を含むものである。
【請求項24】
請求項23記載の方法において、前記パラメータのセットは前記流速を含むものである。
【請求項25】
請求項23記載の方法において、前記パラメータのセットはイオン生成領域と対象物との間の距離を含むものである。
【請求項26】
請求項23記載の方法において、前記パラメータのセットは必要なイオン濃度を含むものである。
【請求項27】
請求項23記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、前記流速が低下した場合に前記デューティサイクルを減少させる工程を含むものである。
【請求項28】
請求項23記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、前記流速が増加した場合に前記出力波形の周波数を増加させる工程を含むものである。
【請求項29】
請求項17記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、前記流速が低下した場合に前記出力波形の周波数を減少させる工程を含むものである。
【請求項30】
請求項17記載の方法において、前記最小限に抑えることを可能にする工程は、前記流速が増加した場合に前記バースト部分の周波数を増加させる工程を含むものである。
【請求項31】
請求項1記載の静電気除去装置において、前記出力波形は、前記一定の流速と、出力波形の振幅と、出力波形の周波数と、バースト部分と、ブローオフ(吹き飛ばし)部分を含む前記第1の期間とに依存するものである。
【請求項32】
請求項1記載の静電気除去装置において、前記第1の期間は、前記一定の流速と、前記エミッタの先端部分から前記第1の基準電極の表面まで測定された高強度場領域の半径とに基づいて決定されるものである。
【請求項33】
請求項1記載の静電気除去装置において、前記一定の流速は、前記エミッタから対象物までの距離と、当該対象物への双極性イオン送達率とに基づいて決定されるものである。
【請求項34】
請求項17記載の方法において、前記出力波形は、前記一定の流速と、前記出力波形の振幅と、前記出力波形の周波数と、前記バースト部分と、前記ブローオフ部分とに依存するものである。
【請求項35】
請求項17記載の方法において、前記ブローオフ部分は、前記一定の流速と、前記エミッタの先端部分から基準電極の表面まで測定された高強度場領域の半径とに基づいて決定されるものである。
【請求項36】
請求項17記載の方法において、前記一定の流速は、前記エミッタから対象物までの距離と、当該対象物への双極性イオン送達率とに基づいて決定されるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気除去装置(static neutralizer、通称static−charge neutralizer)に関する。より具体的には、本発明は、各エミッタ上の静電荷蓄積を制限、防止、または低減することにより、交流電流(alternating−current:AC)を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気除去装置は、一般に、フラットパネルディスプレイ、電子回路その他の物品などの静電気に敏感で静電荷の放電により損傷しやすい物品上またはその付近に蓄積する静電荷を低減または排除するため使用されている。静電気除去装置では、静電荷を低減または排除するために、当該静電荷に対し異極性のイオンが生成され、これが当該静電荷を有する領域へと方向付けられて当該静電荷が中和される。
【0003】
静電気除去装置は、一般にエミッタまたはイオン化電極(電離電極)と呼ばれる少なくとも1つのイオンエミッタ(イオン発生体)に、イオン化電圧(電離電圧)と呼ばれる大電圧を印加することにより前記イオンを生成する。各エミッタは、少なくとも1つの基準電極に近接して位置し、当該基準電極は、異極性の電圧を受けるエミッタまたは接地された電極の形態であってよい。どちらのタイプの基準電極も、前記エミッタからの電場の終端として作用する。各エミッタおよびそれに対応した基準電極は、当該エミッタとそれに対応した基準電極との間に十分な電圧が維持される場合、周囲の空気中または気体媒体中に双極性イオンを生成する。少なくとも1つのエミッタおよびそれに対応した基準電極は、イオン化室(ionizing cell)と呼ばれる場合もある。このイオン化電圧が高い電圧勾配を生じ、これにより、使用される各エミッタ付近に電場が生じて、この電圧が前記イオン化室のコロナ閾値電圧(corona threshold voltage)を超えるとコロナ放電が始まり、イオンが生成される。
【0004】
前記コロナ閾値電圧は、前記エミッタのコロナ開始電圧ということもある。ワイヤータイプまたはフィラメントタイプのエミッタの場合、そのコロナ開始電圧は、通常、正のイオン化電圧で(+)5〜6KV、負のイオン化電圧で(−)4.5〜5.5KVである。ポイント(先鋭)タイプのエミッタの場合、コロナ開始電圧は、通常、双方の極性について、上記より1〜1.5KV低い。ただし、これらのコロナ開始電圧値は、一般に、クリーン(清浄)なエミッタだけに該当する。
【0005】
エミッタが周囲の空気または気体に含まれる粒子および空気中の分子汚染物質を蓄積することは当該技術分野でよく知られている。また各エミッタはイオンを発生させるだけでなく、電気集塵装置としても作用する。エミッタに混入物質が引き付けられ収集されるのは、開放空気中でのコロナ放電の結果である。エミッタに汚染物質が蓄積すると、そのエミッタの幾何学的形状が変化し、そのコロナ開始電圧が高まる。エミッタが汚染されると、効率が有意に低下し、生成される正イオンおよび負イオンのバランス(「イオンバランス」という)が損なわれて、AC静電気除去装置の性能が低下する。
【0006】
また、AC高電圧波形を10〜10Hz範囲の周波数でイオン化室に印加する静電気除去装置では、イオン再結合率またはイオン損失率が高くなってしまうこともある。一般に高周波(別称「無線周波数」、radio frequency:RF)の周波数範囲内であるこれら周波数では、1つの極性の波形がイオン化電極に印加されると、コロナ放電で生成される同じ極性のイオンの大半が前記電極から反発される。これらのイオンは、イオン化電極から遠ざかる方向に移動する時間は十分あるが、前記波形の極性が逆転するまでに、低電圧電極または基準電極に達するほどの距離を移動することはできない。極性が逆転すると、他方の極性のイオンについても同じ移動が起こる。そのため、イオン化(イオン発生)電極間と基準電極との間の間隙の中央部に大部分の双極性イオン雲が生じる。この双極性イオン雲の形成は、これまで米国特許第7,057,130号で開示されているように、イオン移動度、電圧振幅、および周波数値に関する該当セットについて起こる。
【0007】
高電圧高周波AC波形を使用するこれらのタイプの静電気除去装置では、空気または気体のイオン化(電離)が非常に効率的に行われ、高いイオン濃度を有する双極性イオン雲が生成される。ただし、RF範囲で周期振動する電場は、イオンを放出し帯電物体へと移動させることはない。この問題を解決するため、これらの静電気除去装置では、ブロワ(blower:送風機)、ファン(fan:送風機)または少なくとも1つのノズルを通じて排出される圧縮気体など、空気または気体を移動させる手段を使って、これらのイオンを除電対象物へ向かって駆動する。
【0008】
この気体フロー(流れ)を使った解決策には、イオン化室の間隙を流れる気流が増加して、本体やエミッタポイント(先鋭端部)など、エミッタ上に不要な汚染物質が蓄積する率が増大してしまうという難点がある。この蓄積により、エミッタの幾何学的形状が影響を受け、エミッタのコロナ開始電圧が上昇して、リアルタイムのイオン生成量と静電気除去装置の効率とが落ちてしまう。
【0009】
その解決策の1つとして、清浄な、または汚染されていない空気または気体を、気体フローにより駆動される静電気除去用イオナイザー(静電気除去装置)に提供するものがある。ただし、この解決策を実現するのは、特にイオン化室が環境空気にばく露される大規模な製造環境では困難または高価になるおそれがある。
【0010】
別の解決策としては、米国特許第4,734,580号および第5,768,087号で開示されているように、手動または自動のブラシを使用して静電気除去装置のエミッタをクリーニングすることを含む。この機械的な浄化方法は有効だが、付加的な機械部品を必要とするため、この静電気除去装置を使用する顧客が、クリーニングするエミッタより前記手動または自動のブラシが保守されていない場合、エミッタの汚染を増大させてしまう。
【0011】
また別の解決策としては、米国特許第5,847,917号で開示され、米国特許出願公開第2006/0193100号で公開されているように、特殊なクリーンドライエア(CDA)または不活性ガス(例えば窒素)のフローを使って、エミッタ先端を取り囲む保護用ガスシースを生成するものがある。この方法は高価で、先の尖ったエミッタにノズルを使用する静電気除去装置への応用は限られている。
【0012】
図1は、米国特許第5,055,963号および第6,118,645号で開示され、米国特許出願公開第2003/0218855号で公開された、双極性イオン雲(図示せず)を生成する公知のDC静電気除去装置2の概略図を示したものである。このタイプのシステムは、非常に安定した2つの高電圧DC電源4aおよび4bを必要とし、これらは極性が異なるイオン化電圧6aおよび6bを、それぞれ一定の電圧+Uおよび−Uで、少なくとも2つのエミッタ8aおよび8bに別個に提供するため、製造および維持に比較的コストがかかる。このタイプのDC静電気除去装置では、汚染率が比較的高いという問題があり、これは、継続して各イオン化電圧下に置かれる空気中の粒子が、イオン化室10に近づくに伴い帯電し、正および負のエミッタ8aおよび8bに絶えず引き付けられるためである。
【0013】
図2は、米国特許第3,711,743号、第4,901,194号、および第4,951,172号に開示された、パルスが印加されるDC静電気除去装置(パルス印加DC静電気除去装置)12の概略図を示したものである。このパルス印加DC静電気除去装置12は、DC静電気除去装置2と同様なものであるが、イオン化電極とも呼ばれる別個のエミッタ18aおよび18bに、出力波形15aおよび15bをそれぞれ提供する正電源14aおよび負電源14bを使用する。出力波形15aおよび15bは、図示したように、それぞれパルスが印加されるイオン化電圧16aおよび16bを有する波形である。このタイプのDC静電気除去装置では、イオン再結合率は比較的低いが、エミッタ汚染率が比較的高く、システムが複雑になるという問題がある。
【0014】
図3は、別の例であるパルス印加DC静電気除去装置20を例示したもので、この装置は特開第2004−039352号公報および米国特許出願公開第2005/0116167号に開示されており、正および負の高電圧電源21aおよび21bを使用し、マイクロプロセッサ(図示せず)により定期的に切り替えが行われ、2つの電圧がそれぞれ加算回路22で重ね合わされる。この低周波数システムでは、高電圧バス24を1つだけ使用し、エミッタ26を含むすべてのイオンエミッタへと、前記加算回路の出力25を送出する。これらエミッタへの汚染物質の蓄積率は、パルス印加DC静電気除去装置12などのパルス印加DCシステムの場合とほぼ同じである。図1および3に開示した出力波形では、DC、または5Hz未満の低速切り替えDCパルスを使用している。
【0015】
図4に例示され、米国特許第4,757,422号および米国特許出願第2005/0286201号で開示されているように、静電気除去装置28などAC静電気除去装置の多くは、単純な公共電線周波数(50〜60Hz)の昇圧器30を高電圧電源として使用し、通常、約100Hz以下の低周波数イオン化出力波形32を使用する。これらのAC静電気除去装置は安価であるが、イオン化電圧の周波数が低いため、昇圧器が著しく大きくなり、これらの静電気除去装置は大型になってしまう。また、これらのタイプのAC静電気除去装置は、上記の静電気除去装置12および20などパルス印加DC静電気除去装置の場合より汚染率が高くなる。
【0016】
図5は、別例の交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置34を例示したもので、この装置は、米国特許第6,646,856号および特開第2004−273357号公報に開示されている。静電気除去装置34は、イオン化室36ごとに2つのエミッタ35aおよび35bを伴って示されている。エミッタ35aおよび35bは、コロナ放電により正イオンおよび負イオンを生成する上で十分な電圧振幅を有する高電圧電源38から、高周波の連続出力波形37を受け取る。この振幅は、一定に保たれ経時変化しないピークピーク値を有する。静電気除去装置34には、ブロワ(図示せず)も含まれており、その電源37は、比較的小さい設置面積で安価に製造できる。ただし、静電気除去装置34は、約50〜100稼働時間ごとにエミッタをクリーニングする必要があり、汚染率が比較的高いという問題がある。
【0017】
従って、気体中の汚染粒子がエミッタに蓄積するのを制限、防止、または低減する交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される、低保守タイプの静電気除去装置は、少なくとも1つのエミッタと、少なくとも1つの基準電極と、前記エミッタと電気的に連結された出力と前記基準電極と電気的に連結された基準端子とを有する電源であって、コロナ放電によるイオンを発生させ、前記エミッタに印加すると電場を発生させる出力波形を生成するよう設けられているものである、前記電源と、前記生成されたイオンと前記エミッタとを含む第1の領域全体にわたり、一定の流速を有する気体フローを生成するよう設けられた気体フロー源とを有し、第1の期間中、前記出力波形は、前記電場により生じる電気力を低減して、前記気体フローが前記エミッタを取り囲む第2の領域内にある汚染粒子を当該エミッタから離れる方向に運び去ることを可能にし、且つ当該汚染粒子が当該エミッタ上に蓄積する可能性を最小限に抑える。前記第1の領域は、前記第2の領域を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1〜5は、種々の先行技術による静電気除去装置と、それら各々のイオン化室および出力電圧波形とを例示したブロック図である。
図2図1〜5は、種々の先行技術による静電気除去装置と、それら各々のイオン化室および出力電圧波形とを例示したブロック図である。
図3図1〜5は、種々の先行技術による静電気除去装置と、それら各々のイオン化室および出力電圧波形とを例示したブロック図である。
図4図1〜5は、種々の先行技術による静電気除去装置と、それら各々のイオン化室および出力電圧波形とを例示したブロック図である。
図5図1〜5は、種々の先行技術による静電気除去装置と、それら各々のイオン化室および出力電圧波形とを例示したブロック図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に基づき強化されたエミッタ汚染制御を有する交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置を例示したブロック図である。
図7図7は、本発明の別の一実施形態に基づいて、双極性イオン雲の生成を可能にし、エミッタ付近の汚染粒子の蓄積を最小限に抑える出力波形を例示した図である。
図8図8は、ポイント(先鋭)タイプのエミッタおよびワイヤータイプのエミッタを使って生成された電場について場の強度分布プロファイルを例示した図である。
図9図9は、本発明のさらに別の一実施形態に基づき、側面から見て平面を有する少なくとも1つの基準電極104を含む静電気除去装置94を例示した図である。
図10図10は、本発明のさらに別の一実施形態における静電気除去装置に使用できる出力波形の代替例を例示した図である。
図11図11は、本発明のさらに別の一実施形態における静電気除去装置に使用できる出力波形の代替例を例示した図である。
図12図12は、本発明のさらに別の一実施形態に基づき、交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置で使用される電源により、所与の期間にわたり、流速の変化に応答して調整される出力波形の例を例示した図である。
図13図13は、本発明の別の一実施形態に基づき、交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置においてエミッタ汚染を制限する方法を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の詳細な説明では、本発明の種々の実施形態が完全に理解されるよう、説明を目的とした具体的な詳細事項を多数記載している。当業者であれば、本発明のこれら種々の実施形態が単に例示的なものであって、決して限定を目的としたものではないことが理解されるであろう。そのような当業者は、本明細書の開示内容に基づき、本発明の他の実施形態を容易に考案できるであろう。
【0021】
本発明では、所与の流速で気体フローを生成し、またイオン化電圧波形を使用しており、このイオン化電圧波形は少なくとも1つのエミッタに印加されると、前記エミッタから遠ざかる方向に汚染粒子を駆動して、当該エミッタへの汚染粒子の蓄積率の低減を促進する。コロナ放電領域を通過する前記気体フローは、コロナ放電により生じるイオンとイオン化電圧により生じる高強度電場とに影響される汚染粒子を含む可能性がある。次に、前記イオンは、前記エミッタ付近の領域から反発され、静電荷中和(静電気除去)の対象(標的)である物体(「対象物」という)へ向かって、前記気体フローにより搬送される。ただし、前記汚染粒子の一部は電場から電気力を受けて、前記エミッタを取り囲む領域内に残留し、前記気体フローがそれらの汚染粒子を前記エミッタから吹き飛ばすのを妨げる可能性がある。本発明は、この電気力を低減することにより、この汚染粒子蓄積を防止または低減する。本発明は、半導体やフラットパネルの製造および組み立て産業などにおける、環境空気中の粒子濃度が比較的低い環境でも、あるいは前記気体フロー源の一部として使用される気体中でも、エミッタの粒子汚染を低減するという利点をもたらすと考えられる。
【0022】
ここで図6を参照すると、本発明の一実施形態におけるエミッタ耐汚染性の交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置40が示されている。静電気除去装置40には、少なくとも1つのエミッタ42と、基準電極44aおよび44bなどの少なくとも1つの基準電極と、エミッタ42に電気的に連結された電源出力48を有する電源46と、接地52などの基準レールを介して基準電極44aおよび44bに電気的に連結された基準端子50が含まれる。静電気除去装置40には、エミッタ42付近の領域58全体にわたり一定の流速を有する気体フロー56を生成する気体フロー源54も含まれる。ここで示す例では、領域58に間隙60aおよび60bが含まれており、これらの間隙は、エミッタ42と、基準電極44aおよび44bとの間に形成される。
【0023】
エミッタ42および基準電極44aおよび44bは、当該エミッタ42および基準電極44aおよび44bの支持構造(図示せず)を提供するイオン化室67の一部であってよい。気体フロー源54には、低電圧電源63から受電するファン(送風機)66と、プレナム68とを含めることができる。ファン66は、領域58の上流または下流に配置できる。気体フロー源としてのファン使用は、本発明の限定を意図したものではない。気体フロー源としては、表面電荷65を有する対象物64へのイオン送達に気体が役立つよう当該気体を駆動する機能を提供するものであれば、いかなる気体フロー源も使用できる。例えば、ノズル、電極を同軸的に覆うノズルシース、排出開口部を伴ったプレナム、ガスアシストイオン化バー(gas−assist ionizing bars)、または当業者に知られている別の気体フロー源を圧力下の気体が貫流するようにしてもよい。
【0024】
電源46は時間変化する出力信号(「出力波形」という)62を生成し、出力波形は、コロナ放電により正および負の電荷を帯びたイオンのセット(本明細書では「双極性イオン雲」ともいう)を生成することにより、イオン化波形電圧(V)として機能する。これらの双極性イオン雲(図示せず)では、それぞれエミッタ42と基準電極44aとの間およびエミッタ42と基準電極44bとの間で交流電流が流れる。これらの双極性イオン雲を生成するには、約10KHz〜100KHzの周波数(Fb)を有するよう、出力波形62を構成すればよい。これらの周波数では、前記双極性イオン雲が間隙60aおよび60bの中央付近に集まるため、当該間隙60aおよび60bの中央またはその付近に比較的高密度のイオンが生じる。交流電流を生じる双極性イオン雲の生成は公知のもので、米国特許第7,057,130号で詳しく開示されている。気体フロー56を流通させる領域または空間、あるいはその付近のイオン密度が増加すると、気体フロー56が対象物64にイオンを送達する効率が高まり、イオン再結合率が低下する。
【0025】
代替実施形態では、出力波形62が1KHzもの低いAC周波数を有することもあるため、前記10KHzの下限は限定を意図したものではない。ただし、10KHzより低い出力波形周波数を使用すると、間隙60aおよび60bの中央付近に集まるイオンの効果は落ち、気体フロー56の大部分が流通および通過するイオンの密度が低下し、気体フロー56が対象物64にイオンを送達する効率が低下する。さらに、領域58が間隙60aおよび60bの中央に位置することは非限定的であり、生成された双極性イオンを気体フロー56が対象物64へ駆動できるようにするいかなる領域または空間であってもよい。
【0026】
出力波形62をエミッタ42に印加すると、出力波形62は、選択された周期で一定の強度を伴う電場も生成するため、気体フロー56は、領域58付近の汚染粒子を除去して、エミッタ42への汚染粒子蓄積を低減することができる。図6では、図を過度に複雑にしないよう、これらのイオンおよび電場を示していない。
【0027】
図6および7を参照すると、出力波形62は、DCオフセット(Voff)(図示せず)と、少なくとも1つの変調部分72(パルス列ともいう)とを有してよい。変調部分72には、ブローオフ(吹き飛ばし)部分74およびバースト部分76が含まれる。この例におけるバースト部分76はパルス列の形態をしているため、バースト区間とも呼ばれる。これらの波形パラメータは、以下さらに説明するように、静電気除去装置40が対象物64の電荷を中和(除去)して、エミッタ42への汚染粒子蓄積を低減できるようにするため選択される。
【0028】
バースト部分76中、出力波形62は、図6のエミッタ42など、特定のエミッタの正のコロナ開始閾値80aおよび負のコロナ開始閾値80bを超える振幅(V)78を有する。これらの閾値は、本発明を限定することを目的としたものでは決してなく、エミッタ42、イオン移動度、および当業者に知られている他の要因の幾何学的形状に応じて異なる。示した実施形態では、コロナ開始閾値80aおよび80bは、それぞれ約±4KV〜12KV範囲の振幅を有してよい。さらに、出力波形62は、バースト部分76の間、正弦波形を伴って示されている。正弦波形を使うと、振幅変調を使って、示した形状を生成できるが、バースト部分76中に時間変化する正弦波信号を使用することは非限定的であり、任意の波形形状を使用することができる。例えば、出力波形62は、台形波、のこぎり波、方形波、三角波、またはこれら波形形状の任意の組み合わせを含む任意の適切な波形形状を有してよい。
【0029】
バースト部分76の間、出力波形62は、本明細書で以下「出力波形周波数」または「基本周波数」(Fb)と呼ぶ一定の周波数も有し、これは対象物64への距離と気体フロー56の流速とに合わせて設定できる。この基本周波数は、示した実施形態では約10〜80KHzの範囲に限定されているが、約1KHz〜100KHzの範囲であってよい。
【0030】
変調部分72はバースト部分の周波数(Fm)で起こり、1秒あたりに起こる変調部分72のサイクル数を反映している。バースト部分76の期間(Tb)と変調部分72の期間(Tm)との比が、出力波形62のデューティサイクル(Dm)を決定し、Dmは次式で表せる。
【0031】
【数1】
【0032】
バースト部分の周波数(Fm)は、本明細書でさらに詳しく開示するように選択できる。
【0033】
ただし、出力波形62をエミッタに印加すると電場が生成され、エミッタ42など動作中のエミッタへ向かって汚染粒子を誘引する電気力が生じ、気体フローが前記汚染粒子をエミッタから離れる方向に運び去る能力が低下してしまう。これらの電気力には、クーロン力(Fc)や誘電泳動力(Fd)などがある。この電場は、ブローオフ部分74を出力波形62の一部として提供すると低減することができる。ブローオフ部分74の間、出力波形62は「非バースト振幅」と呼ばれる振幅(V)82を有し、この振幅はコロナ開始閾値80aおよび80bを超えない。示した例では、ブローオフ部分74中、非バースト振幅82の電圧はゼロである。非バースト振幅82を制限することにより、エミッタ42など選択されたエミッタに出力波形62が達した際に生じる電場が低減される。この電場を低減することによりクーロン力および誘電泳動力が低下し、所与の流速の気体フロー56は、その空力(空気力学的な力)(Fa)で汚染粒子を運び去り、または同伴できるようになる。その結果、気体フロー56が流通し出力波形64によりイオンが生成される領域58などの空間中または領域中の汚染粒子に影響を及ぼす力は、次式で表せる。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、Fはエミッタ付近の領域(領域58など)中の汚染粒子に最終的にかかる力、Faは気体フローにより駆動される静電気除去装置の気体フローによりかかる空力(空気力学的な力)、FcおよびFdは出力波形62により生成された電場でそれぞれ生じるクーロン力および誘電泳動力である。
【0036】
空力Faは、前記気体フローの方向および速度、または率に依存して、エミッタ面へ向かって、またはエミッタ面から遠ざかるよう汚染粒子を移動させる。一般に、気体乱流(レイノルズ数R>1000)に関する空力または抗力(流体抵抗)は、次式で表される。
【0037】
【数3】
【0038】
ここで、Cは抗力補正係数、Rは粒径、ρは空気または気体の密度、uは空気または気体の速度である。空力(Fa)は、エミッタ42及びそれに対応するイオン化室67から離れる方向へ汚染粒子を駆動する作用を有する。
【0039】
流速が比較的低く、汚染粒子が強く帯電している場合は、前記イオン化室の領域でクーロン力(Fc)が空力より大きくなる。
【0040】
【数4】
【0041】
ここで、qは粒子の電荷、Eは、出力波形62などの高電圧を、エミッタ42などのエミッタに印加することにより発生する電場の強度である。
【0042】
誘電泳動力(Fd)は、帯電した汚染粒子にも、中性(帯電していない)汚染粒子にも作用する。コロナ放電の起こっているAC電場に理想的な球形の中性粒子がある場合、誘電泳動力(Fd)は次式で与えられる。
【0043】
【数5】
【0044】
現在、領域58などエミッタ42付近の空間内の汚染粒子に関するクーロン力(Fc)の大きさは、当該汚染粒子の電荷に依存するため、急速にゼロに達すると考えられている。ただし、当該汚染粒子は、双極性イオンの作用で除電されるため、それに働くクーロン力(Fc)は比較的小さなものになる。そのため、所与の汚染粒子がエミッタに蓄積する可能性(尤度)または率を低減するには、当該汚染粒子にかかる空力と誘電泳動力との関係が、次式のようにならなければならない。
【0045】
【数6】
【0046】
【数7】
【0047】
ここで、Faは気体フローにより駆動される静電気除去装置中の気体フローによる空力、そしてFcおよびFdは、それぞれ出力波形62により生成された電場で生じるクーロン力および誘電泳動力である。
【0048】
これら2式を使うと、式(1)を次のように単純化できる。
【0049】
【数8】
【0050】
バースト部分76の各サイクル中、エミッタ42における出力波形62の平均電圧をゼロ付近に保つと、領域58内の汚染粒子の電荷(q)が効率的に中和される。この電荷(q)は中和されてゼロに近づくため、クーロン力(Fa)の大きさも、ゼロに近づいて条件(5)を満たす。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、誘電泳動力を生じる電場(E)は、各変調部分72中にブローオフ部分74が起こるため、定期的に所与の時間だけ低減される。汚染粒子は、この電気力低減がなければエミッタに蓄積して気体フロー56の空力に抵抗するが、この電気力低減により、気体フロー56に搬送または同伴される。また、バースト部分76を提供すると双極性イオンが生成されて、汚染粒子が中和(除電)され、また対象物も中和される。このように、バースト部分およびブローオフ部分を有する出力波形を使うと、気体フロー源により対象物へ駆動されるイオンを生成し、またエミッタ汚染を低減する静電気除去装置が得られ、これにより当該静電気除去装置の動作効率を改善し、エミッタをクリーニングする必要性を最小限に抑えることができる。
【0052】
図6および7の出力波形62などの出力波形により生成される電場は、半径方向(放射方向)について不均一な強度分布を有し、エミッタから発せられて基準電極で終了する。この半径方向に不均一な強度分布は、一般的にいうと、前記エミッタの先端で測定した場合に最大となり、そこから最も近くにある基準電極面に達して終了するまで減少する。例えば図8に例示するように、また図6および7も参照した場合、曲率半径0.1mmの先鋭形状の端部を有するようエミッタ42を構成すると、静電気除去装置40の動作中、当該エミッタ先端の中心から約0.5mmの距離88での電場強度の測定値が最大値と比べて100分の1未満に減少する場の強度分布86を有する電場が得られる。
【0053】
また、図8では、導電性フィラメントの形態のエミッタを使用した静電気除去装置の動作中に生成される電場の強度分布90も例示している。この電場強度90は、各電極から所与の距離において、先鋭電極の場合の率より低率で減少する。ワイヤータイプまたはフィラメントエミッタで、電場の強度分布86と同じく100分の1の電場の強度分布低下を実現するには、最も近くのエミッタ露出面から約1mmの距離92まで離れなければならない。本明細書では、特定のエミッタおよびその(1つまたは複数の)基準電極について、不均一な電場強度分布を有する領域のうち、可能最大値からその1%までの範囲を、「高強度場領域」という。例えば図6および図9では、静電気除去装置40および94は、それぞれ高強度場領域96および98の例を伴って示されている。
【0054】
再び図7を参照すると、バースト部分76には、双極性イオンを生成して汚染粒子を中和(除電)するための「粒子中和(除電)期間」100と呼ばれる一定期間(一定時間)と、双極性イオンを連続生成するための「イオン化期間」102と呼ばれる一定期間とが含まれ、これらの期間は対象物の中和(除電)に有用である。粒子中和(除電)期間100は、イオン生成に比例して生じるイオン電流により特徴付けることができる工程である。エミッタと基準電極との間の間隙におけるイオン濃度は、イオン生成率及び再結合率がほぼ等しい場合、急速に飽和する。汚染粒子の中和(除電)は、汚染粒子の半径、電荷、および濃度に依存した指数関数的で比較的緩慢な工程である。そのため、バースト部分76中に実施されるサイクル数は、汚染粒子の中和(除電)を十分行えるよう選択すべきである。これらの汚染粒子を中和(除電)すると、上記の式(5)で必要とされているように、当該汚染粒子に関し、クーロン力(Fc)が誘電泳動力(Fd)よりはるかに小さくなる。本発明の一実施形態によれば、バースト部分の周波数(Fm)は、ほぼ10〜1000Hzとなるよう選択でき、また固定し若しくはリアルタイムで調整することができる。ここに示した実施形態におけるバースト部分の周波数(Fm)は、リアルタイム制御の場合、ほぼ10〜600Hzとすることができる。
【0055】
ブローオフ部分74の期間は、図6の高強度場領域96または図9の高強度場領域98内など、電場により生じる誘電泳動力の効果で傾向として汚染粒子濃度が最大になるエミッタ42付近の領域から、汚染粒子を最大限に除去できるよう選択できる。非バースト振幅82をゼロに設定することは、限定を目的としたものではない。いかなる振幅(V)値を使用しても、使用する気体フローおよびそれにより汚染粒子にかかる空力(Fa)が、エミッタから離れる方向へ当該汚染粒子を十分駆動または同伴するよう、エミッタに印加する出力波形62により生じる電場(E)を低減または排除することができる。
【0056】
静電気除去装置40は、流速(u)が7.6m/sの気体フロー56を提供するよう構成することができる。この流速(u)は、主に、対象物64までの距離と、対象物64への望ましい双極性イオン送達率とに基づいて選択できる。静電気除去装置40では、エミッタ42などポイント(先鋭)タイプのエミッタを使用するため、エミッタ42の先端からそれに最も近い基準電極面(基準電極54aまたは54bなど)まで測定した場合、高強度場領域96は、約5mmの高強度場領域半径(Rhf)を有する球形で近似できる。したがって、この例では、「ブローオフ(吹き飛ばし)時間」と呼ばれる次式の時間区間(t)中に、誘電泳動力により集まる汚染粒子の大半が上記の高強度場領域半径(Rhf)の範囲から吹き飛ばされる。
【0057】
【数9】
【0058】
このブローオフ時間(t)を、高強度場領域96の幅全体を横切る気体フローについて決定すると、気体フロー56が高強度場領域96内のすべてまたは大半の汚染粒子を運び去ることを可能にするバースト部分の周波数80を選択することができる。これにより、基本周波数(Fb)40KHzおよびデューティサイクル(Dm)15%で出力波形62を生成するよう電源46を構成すると、次式によりバースト部分の周波数(Fm)646Hzが得られる。
【0059】
【数10】
【0060】
ここで、Fmはバースト部分の周波数、Dmはデューティサイクル、tは、所与の流速で高強度場領域を横切る気体フローに必要な最短ブローオフ時間である。この例では、デューティサイクルが15%の出力波形のバースト部分の周波数(Fm)が646Hzの場合、バースト部分の期間は232μsとなる。前記基本周波数(Fb)40KHzは周期25μsに対応するため、バースト部分の期間が232μsであると、バースト部分76中の双極性イオン生成に利用できる基本周波数(Fb)は約9.3サイクルとなる。このため、この例で、より低い基本周波数(Fb)を使っても対象物、汚染粒子、またはこれら双方の中和(除電)用に十分なイオンを生成できないおそれがあるため、非実用的な可能性がある。
【0061】
上記のバースト部分の周波数では、汚染粒子が凝集しエミッタ42に付着する前に、気体フローが当該汚染粒子(前記高強度場領域内のものも含めて)を吹き飛ばすか、または運び去る。このバースト部分周波数は最適値に近いと考えられるが、決して本発明を限定することを目的としたものではない。バースト部分の周波数が上記より高いと、汚染粒子の搬送または同伴に十分な時間が得られず、バースト部分の周波数が上記より低いと、十分なイオン出力が得られない。
【0062】
代替実施形態では、静電気除去装置40を修正し、「ワイヤータイプのエミッタ」と呼ばれるフィラメントまたは細いワイヤーの形態のエミッタを含むようにできる。ワイヤータイプのエミッタは、使用中、半径約10mmの円筒形状の高強度領域を有する。流速7.6m/sの気体フロー56を使用すると、ブローオフ時間(t)は2.63msとなる。これらの条件で、出力波形周波数を40KHz、デューティサイクルを15%とすると、バースト期間の周波数(Fm)は約323Hzとなる。別の例では、気体フローを約1.5m/sに低速化し、式(8)および(9)により、バースト期間の周波数(Fm)を約58Hzと上記より低くできる。気体フローの流速を落とすと、前記高強度場領域から汚染粒子をパージする時間が長びくため、ため、ブローオフ時間(t)が長くなる。
【0063】
また、気体フローの流速を落とすと、イオンが対象物に達するまでの所要時間が増えてイオン再結合が増すことにより、「イオン再結合損失」と呼ばれるイオン損失が増大する。流速低下によるこのイオン再結合損失を補う選択肢としては、デューティサイクルを増加させる、出力振幅(V)を増加させる、またはその双方などがある。例えば、図6および7の出力波形62の場合は、より長い期間を伴ったデューティサイクル、より高い振幅78、またはその双方を有するようにできる。
【0064】
図6に示した実施形態をさらに改善するよう、静電気除去装置は、コントローラ200と、低電圧電源63に連結されたファン(送風機)スピード調整器202とをさらに含むことができる。コントローラ200は、本明細書に開示する理由に基づき、気体フロー源54により生成される流速を自動的に調整するよう構成することができる。示した例において、コントローラ200は、コントローラ200での気体フロー56流速決定に使用できる出力信号をファンスピード調整器が含む場合はファンスピード調整器202を介して間接的に流速を監視し、またはフローセンサー(図示せず)を介して直接前記流速を監視したのち、ファン66のRPMを増加または低下させる信号をファンスピード調整器へ送信することにより、必要に応じてリアルタイムで当該流速を調整する。
【0065】
図6に示した実施形態をさらに改善するよう、静電気除去装置40は、イオン電流センサー204、インジケータ206、イオンを検出するグリッド「グリッド電極」208、またはこれら装置の任意の組み合わせをさらに含むことができる。イオン電流センサー204は、基準電極44aおよび44bなど任意の基準電極セットと、接地52など基準レールとの間に連結できる。イオン電流センサー204は、静電気除去装置40により生成されたイオン電流の振幅を決定するためコントローラ200がサンプリングできる信号210を提供する。このイオン電流振幅が、事前に選択可能な閾値より低い場合、コントローラ200は、インジケータ206に信号を送信できる。イオン電流が低いのは、エミッタ42が汚れておりクリーニングまたは保守が必要であることを意味するとして、インジケータ206を通じて示すことができる。イオン電流センサー204は、高周波フィルタリング技術または電磁誘導技術を使用するものなど、公知の方法を使って実施(実装)できる。
【0066】
用語「エミッタ」および「基準電極」については、それぞれ静電気中和(除電)分野で使用される一般的な意味を有するよう意図している。エミッタ42は、コロナ放電によりイオンを生成する上で適した形状を有し、図6に示した例では、一端の先が尖った形態をしている。エミッタ42の実装に尖った先端を使用することは、本明細書に開示する種々の実施形態の範囲を限定することを目的としたものではない。当業者であれば、フィラメントや細いワイヤーのループなどの形態の導電性電極など、他の形状も使用できることが容易に理解できるであろう。基準電極44aおよび44bの形状は、断面が円形または半円形の形態をしているが、これも非限定的なものである。
【0067】
例えば図9に示すように、静電気除去装置94では、側面から見て平面を有する少なくとも1つの基準電極104を使用でき、また正面または背面にグリッドパターン(図示せず)を有してもよい。静電気除去装置94には、グリッド電極105と、基準電極104の下流に設けられた少なくとも1つのエミッタ(エミッタ106aおよび106bなど)とをさらに含めることができる。静電気除去装置94には、選択された流速で気体フロー110を生成する気体フロー源108と、出力波形114を生成する電源112とも含まれる。電源112は、接地116などの基準レールに連結されており、エミッタ106aおよび106bに電気的に連結された出力118を含む。気体フロー源108、電源112、およびグリッド電極105は、それぞれ図6の気体フロー源54、電源46、およびグリッド電極208と実質的に同じ機能および構造を有するよう実装できる。電源112は、図6の出力波形62など他の出力波形と同様なものであってよい出力波形114用の出力波形パラメータを決定する。出力波形114をエミッタ106aおよび106bに印加すると、図示したように半径Rhfで特徴付けることのできる高強度場領域98を生成できる。
【0068】
本発明の一部として本明細書に開示する出力波形は、出力波形62、114、160、170、および180を含め、これらの出力波形が生成可能な任意の電源(図6の電源46など)を使って生成できる。図6の例では、電源46に、発振器120と、高電圧昇圧器122と、DAC(デジタルアナログコンバータ)124と、電圧増幅器126と、加算器128とを含めることができる。コントローラ200は、DCオフセット(Voff)、バースト部分またはイオン化部分の期間(時間長)、ブローオフ部分の期間、出力波形の周波数(Fb)、出力波形の振幅(V)、およびバースト部分の周波数(Fm)など、出力波形62のパラメータを決定する。
【0069】
出力波形62のDCオフセット(Voff)は、イオンバランス、イオン電流バランス、またはその双方を制御するため、調整しなければならない可能性がある。コントローラ200は、イオン電流バランスを制御するため、信号210をサンプリングし、この信号を使って、イオン電流バランスが保たれるまで、DCオフセット(Voff)、出力波形の振幅(V)、またはその双方を調整できる。コントローラ200は、イオンバランスを制御するため、グリッド電極208をサンプリングし、グリッド電極208から得られた信号を使って、イオンバランスが保たれるまで、DCオフセット(Voff)、出力波形の振幅(V)、またはその双方を調整できる。コントローラ200がイオン電流バランスおよびイオンバランスを調整する能力は、静電気除去装置40の能力および条件に応じて異なる。例えば、エミッタ42上に汚染粒子層が蓄積してエミッタ42の幾何学的形状が有意に変化してしまった場合、この形状変化について十分補正を行える制御範囲がコントローラ200にない可能性がある。そのような場合、静電気除去装置がインジケータ206も伴って構成されている場合は、インジケータ206で使用可能な信号がコントローラ200から発信され、エミッタ42のクリーニングまたは保守が必要なことが示される。
【0070】
コントローラ200は、デジタル信号をDAC 124に送信してアナログ信号を生成させ、それを使って電圧増幅器126に信号212を生成させて、DCオフセットとして使用可能にすることにより、出力波形のDCオフセット(Voff)を調整できる。次に、加算器128が、信号212を高電圧昇圧器122の出力に加算し、出力波形を生成する。
【0071】
コントローラは、必要なパラメータを発振器120に送信することにより、バースト部分またはイオン化部分の期間、ブローオフ部分の期間、出力波形の周波数(Fb)、出力波形の振幅(V)、バースト部分の周波数(Fm)、またはこれらの任意の組み合わせを調整することができる。これらのパラメータは、本明細書で以下さらに詳しく開示するように、特定の条件についてコントローラで調整可能である。コントローラにより出力波形のパラメータを変更できる制御可能な電源を使用することは、限定を目的としたものではない。これらのパラメータは、製造時に決定され、または利用者が選択できる設定または切り替えにより決定が可能である。高電圧昇圧器122は、発振器120から提供された周期振動する出力信号214の電圧を上昇させ、時間変化する高電圧信号216を提供する。加算器128は、信号216を信号212に加算して、出力波形を生成する。
【0072】
図10に例示するように、図6の電源46は代替出力波形160を生成することができ、この波形には、バースト部分161と、エミッタ42のコロナ開始閾値166aおよび166bより小さくゼロボルトより大きい非バースト振幅164を有するブローオフ部分162とが含まれる。図7の振幅78同様、振幅168は、コロナ開始閾値166aおよび166bなどのコロナ開始閾値を上回る。この例において、出力波形160は、非バースト振幅164と振幅168との差を低減することにより、電源46にかかる過渡的な電流負荷を軽減する。また、非バースト振幅164を低減すると、出力波形160により生成される電場がエミッタ42に及ぼす誘電泳動力(Fd)が過度に低下してしまう。本質的には、式(4)および次式(10)で表されるように、誘電泳動力(Fd)は電場(E)を生成する電圧振幅(V)(この例では、非バースト振幅164)の2乗に反比例する。
【0073】
【数11】
【0074】
ここで、Fdは前記電場(E)により生じる誘電泳動力、Vは、非バースト振幅164などの出力波形160の振幅(V)である。
【0075】
出力波形160は、(1つまたは複数の)エミッタと(1つまたは複数の)基準電極との間の間隙(図6の間隙60aおよび60bなど)において、バースト部分161中に生じる誘電泳動力(Fd)より小さい誘電泳動力(Fd)を生じる非バースト振幅(V)を出力波形160が提供している場合であっても、汚染粒子を運び去る上で十分な流速が存在する場合には、有用である。
【0076】
さらに、非バースト振幅164の平均(RMS(二乗平均平方根))値を比較的高く選択すると、646Hzなどの通常のバースト部分周波数(Fm)を、比較的低い出力波形周波数(Fb)および15%などの比較的短いデューティサイクルと併用して、正および負のイオンを生成することができる。これにより、対象物へ向かって前記間隙を離れる正および負の極性のイオン雲が分離して再結合が減少し、また汚染粒子を吹き飛ばし、またはこれを運び去る十分な時間が気体フローに提供されて汚染粒子の蓄積が減少する。また、デューティサイクルを小さくすると、オゾン生成が低下し、電力消費も劇的に低下する。
【0077】
本発明の別の一実施形態に基づき、図11では、図6の静電気除去装置40などのAC気体フロー駆動の静電気除去装置で使用される電源46などの電源により生成可能な出力波形170を例示している。出力波形170は、対象物64が静電気除去装置40から比較的近い距離にあり、イオンエミッタと基準電極との間の領域58などの領域内の気体フロー56の流速がある程度低速な動作条件で使用できる。例えば、対象物64は、エミッタとそれに最も近い基準電極の導電面との間の間隙(間隙60または間隙60bなど)の約1〜10倍の距離にあってよい。別の例では、低流速を、0.1〜1.0m/sの速度を有する流速と定義できる。
【0078】
イオン化部分172には、出力波形170と、ブローオフ部分174と、非イオン化部分176とが含まれる。イオン化部分172中、出力波形170は、コロナ開始閾値178aおよび178bなど、静電気除去装置40のコロナ開始閾値を超えるイオン化振幅171を有する。イオン化部分172は、その間、出力波形が特定のエミッタのコロナ開始閾値を超える振幅(V)を有するという点で、バースト部分76および161に類似している。ただし、イオン化振幅171は、イオン化部分172中に電圧が変化しても、コロナ開始閾値178aおよび178b未満にはならない。
【0079】
イオン化振幅171の正負が交互に切り替わり各コロナ開始閾値電圧を超えるに伴って双極性イオン雲が生成され、出力波形170により生成される誘電泳動力(Fd)が、エミッタ42を取り囲む空気などの気体中に浮遊する汚染粒子を引き付け、集め始める。イオン化部分172が終わり、出力波形170の振幅(V)が減少すると、前記誘電泳動力(Fd)は、出力波形の振幅(V)の2乗に反比例する率で急速に低下し、出力波形の振幅(V)がゼロボルトに近づくに伴い、ゼロ付近の値になる。気体フロー56による空力(Fa)が(Fd)を超えると、気体フロー56は、式(2)で表したように、領域58などエミッタ42付近の領域にある汚染粒子を、領域58、エミッタ42、およびそれに対応したイオン化室67から離れる方向へ搬送し始める。
【0080】
イオン化部分172は、約0.1〜100Hzの変調周波数(Fm)で起こるよう選択できる。この周波数範囲内の変調周波数は、エミッタ42に印加される平均振幅(V)を比較的緩慢に変化させることにより、気体フロー56が領域58内の汚染粒子を吹き飛ばし、または運び去る上で十分な時間を提供する。また、対象物64に誘導されるいかなる電圧の揺れも比較的小さなものである。また、ブローオフ部分174を、非イオン化部分176の期間より若干短くすることもできる。
【0081】
図12は、図6の静電気除去装置40などの交流電流を使用して生成される気体フローにより駆動される静電気除去装置で使用される電源46などの電源により調整された出力波形180を例示したものである。出力波形180のパラメータは、所与の時間長にわたり、気体フロー源54により生成される流速の変化に応答して変更される。出力波形180は、流速変動が存在する動作条件で使用することができる。この流速は、コントローラ200、ファンスピード調整器202、および低電圧電源63を含んだ静電気除去装置40の一実施形態を使って、監視および調整できる。
【0082】
例えば、時間T0では、静電気除去装置40は、所与の流速220および所与の出力波形で動作し、この出力波形は、所与のデューティサイクル期間223に関するデューティサイクル(Dm)を含む所与の出力波形パラメータのセット222を有する。時間T1では、気体フロー56の流速220が流速224まで減少するため、コントローラ200が、期間227の間、前記出力波形周波数(Fb)を低下させ、前記デューティサイクル(Dm)を増加させる、またはその双方を行うなどにより、出力波形パラメータ222を出力波形パラメータ226に変更する。時間T2には、流速224が流速228へと上昇するため、コントローラ200が、前記出力波形周波数(Fb)、前記バースト部分の周波数(Fm)、またはその双方を増加させるなどにより、出力波形パラメータ226を出力波形パラメータ230に変更する。
【0083】
一般に、上記の出力波形62、114、160、170、および180を含む出力波形に比較的高い出力波形周波数(Fb)を使うと、出力波形に比較的短時間のバースト部分を使用する若干の余地が得られる。例えば、動作条件に応じて、10%以下のデューティサイクルが使用可能である。示した実施形態では、バースト部分の周波数(Fm)、バースト部分の期間、およびデューティサイクル(Dm)は変更可能であり、気体フロー源54の流速、イオン生成領域から対象物64までの距離、中和(除電)効率に必要なイオン濃度、またはこれらパラメータの任意の組み合わせに基づき、またはこれらにより定義されるものであってよい。したがって、エミッタクリーニング間の時間(「クリーニングサイクル周期」という)を長くすることと、イオン電流の値との間には、トレードオフ(二律背反的な関係)が存在する。このクリーニングサイクル周期は、使用する気体の清浄度、動作環境、またはその双方に依存する一方、イオン電流値は、対象物の帯電量、運動速度、および静電気除去装置までの距離を含む対象物の特徴などに依存する。デューティサイクルを小さく選択すると、コロナ放電により生じるオゾンおよび酸化窒素が減少する。
【0084】
ここで図13を参照すると、本発明の別の一実施形態に基づき、AC気体フロー駆動の静電気除去装置においてエミッタ汚染を制限する方法が示されている。
【0085】
まず、静電気除去装置40または94などのAC気体フロー駆動の静電気除去装置を使って、一定の流速を有する気体フローが提供または生成される(240)。
【0086】
次いで出力波形が生成される(242)。この出力波形は、コロナ放電により双極性イオンを生成し、当該静電気除去装置のエミッタに印加されると電場を生成する。この出力波形は、出力波形62、114、160、170、および180(本明細書において以下「開示した波形」という)について、上記出力波形パラメータを有することができる。この電場により、前記エミッタを取り囲む領域内にある気体中の汚染粒子を誘引する電気力(本明細書で誘電泳動力(Fd)という)が生じる。前記出力波形には、出力波形の振幅、出力波形の周波数、バースト部分、およびブローオフ(吹き飛ばし)部分が含まれ、これらは上記開示した波形に関する出力波形の振幅、出力波形の周波数、バースト部分、およびブローオフ(吹き飛ばし)部分に実質的に類似したものであってよい。
【0087】
次に、図6の気体フロー56などの気体フローが提供され(244)、前記汚染粒子を前記エミッタから離れる方向へ運び去り、前記ブローオフ部分の間、当該汚染粒子が当該エミッタ上に蓄積する可能性を最小限に抑える。
【0088】
工程244で前記気体フローが前記汚染粒子を運び去ることを可能にする工程には、前記ブローオフ期間中に出力波形の振幅を減少させることにより、誘電泳動力(Fd)を減少させる工程を含めることができる。示した実施形態では、誘電泳動力(Fd)を減少させる前に流速を選択するが、この順序は限定を意図したものではない。
【0089】
前記ブローオフ期間中に波形振幅を減少させる工程の別の代替工程または追加工程として、工程244には、変調部分のデューティサイクルを減少させる工程を含めることができる。
【0090】
前記ブローオフ期間中に波形振幅を減少させる工程のさらに別の代替工程または追加工程として、工程244には、図6の流速、必要なイオン濃度、イオン生成領域と対象物との間の距離、領域58、対象物64を含むパラメータセットに応答して前記バースト部分の周波数、前記バースト部分の期間、前記デューティサイクル、またはこれらの任意の組み合わせをそれぞれ調整する工程を含めることができる。
【0091】
また、工程244をさらに改善するよう、図6のコントローラ200、ファンスピード調整器202、低電圧電源63、および気体フロー源54について上記開示したように、流速を監視することができる。流速が低下した場合は、前記デューティサイクル、出力波形周波数(Fb)、またはその双方を減少させて、ブローオフ期間中に気体フローが継続して汚染粒子を運び去るようにできる。あるいは、流速が増加した場合は、より高い流速でも条件(5)が満たされることから、前記出力波形周波数、バースト部分の周波数、またはその双方を増加させることができる。
【0092】
また、工程244の前記気体フローが汚染粒子を搬送できるようにする工程には、エミッタ42を取り囲む領域58内の気体流速を決定し、測定された気体流速に基づき、所与のエミッタの幾何学的形状およびブローオフ周期中の出力波形振幅について、前記出力波形のブローオフ期間の時間長を変更する工程を含めることができる。前記気体流速を決定する工程には、当該気体フローを直接測定する工程、または図6を参照して上記開示したようにコントローラ200およびファンスピード調整器202を使用するなどにより、当該気体フローを間接的に計算する工程のどちらかを含めることができる。
【0093】
以上、本発明について特定の実施形態を参照して説明したが、本発明は、そのような実施形態により限定されると解釈すべきではない。むしろ、本発明は、以下の特許請求の範囲に基づいて解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13