(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機肥料製造システムが、前記肥料基材に前記イエバエの成虫の死骸と該イエバエの蛹の脱け殻とを混合して前記有機肥料を作る肥料作成手段を実施する請求項1記載の有機肥料製造システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示の昆虫バイオ処理システムは、畜糞をイエバエの幼虫に食させてその畜糞を無害化処理または低害化処理するが、畜糞のみを幼虫に食させた場合、幼虫の食性を増進させることが難しく、短期間に多量の畜糞を処理することができない場合がある。また、幼虫の飼育条件が明確ではなく、飼育条件によっては卵の孵化率が低下し、幼虫の生存率が低下するとともに、幼虫の成長が遅れ、畜糞を効率よく処理することができない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、イエバエの幼虫を利用して家畜の排泄物を短期間に効率よく有機肥料に変えることができる有機肥料製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の前提は、イエバエの幼虫を利用して家畜の排泄物から有機肥料を製造する有機肥料製造システムである。
【0008】
前記前提における本発明の特徴は、有機肥料製造システムが、幼虫の食性を増進させる食性増進物を排泄物に混合して餌食を作る餌食作成手段と、所定量の餌食を所定容積の餌食収容容器に収容する餌食収容手段と、餌食収容容器に収容された餌食
の表面にイエバエの卵の複数個を
山盛りに接種する卵接種手段と、卵から孵化した幼虫に餌食収容容器に収容された餌食を食させて幼虫を飼育し、幼虫の飼育過程において餌食が幼虫の体内で酵素分解されてその幼虫から排泄されることで有機肥料の肥料基材を作る幼虫飼育手段と、蛹変態期を迎えた幼虫の活発な蠕動離散習性を利用して幼虫と肥料基材とを分別
し、餌食に卵を接種してから4日目に始まって7日目に終了する分別手段と、
餌食に卵を接種してから4日目に肥料基材から分別された幼虫群を殺処分する殺処分手段と、餌食に卵を接種してから5日目以降に肥料基材から分別された幼虫群を飼料に加工する飼料加工手段とを実施することにある。
【0009】
本発明の一例としては、有機肥料製造システムが肥料基材にイエバエの成虫の死骸とイエバエの蛹の脱け殻とを混合して有機肥料を作る肥料作成手段を実施する。
【0010】
本発明の他の一例としては、幼虫の活発な蠕動離散習性を利用した幼虫と有機肥料との分別が餌食に卵を接種してから4日目に始まって7日目に終了し、有機肥料製造システムが、餌食に卵を接種してから4日目に肥料基材から分別された幼虫群を殺処分する殺処分手段と、餌食に卵を接種してから5日目以降に肥料基材から分別された幼虫群を飼料に加工する飼料加工手段とを実施する。
【0011】
本発明の他の一例としては、有機肥料製造システムが、餌食に卵を接種してから5日目以降の幼虫群から一部の成虫を抽出し、抽出した幼虫を成虫に成長させ、それら成虫に産ませた次世代の卵を餌食に接種するリサイクル手段を実施する。
【0012】
本発明の他の一例として、幼虫飼育手段では、餌食の65〜90%が幼虫に食され、餌食の10〜35%の残余の餌食が発酵し、餌食が肥料基材に変わる。
【0013】
本発明の他の一例として、有機肥料製造システムでは、複数個の餌食収容容器を上下方向へ積み重ねて飼育床を作り、飼育床の複数を所定容積の飼育室に収納する。
【0014】
本発明の他の一例として、有機肥料製造システムでは、飼育室内部の温度が27〜30℃の範囲に維持され、飼育室内部の湿度が50〜70%の範囲に維持される。
【0015】
本発明の他の一例としては、餌食の全重量に対する排泄物の重量比が60〜80重量%の範囲にあり、餌食の全重量に対する食性増進物の重量比が20〜40重量%の範囲にある。
【0016】
本発明の他の一例としては、食性増進物がもみ殻とおからとであり、食性増進物の全重量に対するもみ殻の重量比が10〜15重量%の範囲にあり、食性増進物の全重量に対するおからの重量比が85〜90重量%の範囲にある。
【0017】
本発明の他の一例として、餌食作成手段では、排泄物に食物残渣が混入され、食物残渣が排泄物中において腐敗して餌食が作られる。
【0018】
本発明の他の一例としては、家畜が豚と鶏との少なくとも一方である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる有機肥料製造システムによれば、幼虫の食性を増進させる食性増進物を家畜の排泄物に混合して餌食を作り、餌食収容容器に収容されたその餌食をイエバエの幼虫に食させるから、幼虫の食性を増進させつつ、家畜の大量な排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。なお、排泄物を焼却処分する場合、燃料を消費するのみならず、多量の二酸化炭素を排出し、環境に悪影響を与えることになり、また、排泄物を長期間養生して無害化処理する場合、長期間悪臭を放つとともに病原菌の繁殖原因となる場合があるが、このシステムは、家畜の排泄物を含む餌食が幼虫の体内で酵素分解されてその幼虫から排泄されることで有機肥料の肥料基材が作られるから、焼却処分する場合の燃料の消費がないことはもちろん、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、イエバエの幼虫の食性を利用して排泄物を安全に処理することができる。システムは、蛹変態期を迎えた幼虫の活発な蠕動離散習性を利用して幼虫と肥料基材とを分別するから、幼虫が蛹変態する時に肥料基材から蠕動離散する習性を利用することで、イエバエの幼虫と肥料基材との人手を介した分別作業を省くことができ、手間と時間とをかけることなく、幼虫と肥料基材とを分離することができる。システムは、肥料基材にイエバエの幼虫が残存することはなく、肥料基材のみを効率よく採集することができるのみならず、肥料基材からのイエバエの成虫の発生を防ぐことができる。システムは、肥料基材が豊富なキトサンを含むから、それら肥料基材から土壌改良や抗菌作用、植物の成長促進、植物の病気抑制効果、果実質の改良等に優れた有機肥料を作ることができる。
【0020】
有機肥料製造システムは、自然界に存在するイエバエが培地に複数個の卵を山盛り状態に産卵し、それによって卵からの孵化率を高め、種の生存率を向上させていることから、同様に、
卵接種手段において、餌食収容容器に収容された餌食の表面に卵の複数個を山盛りに接種することで、接種した卵から孵化する幼虫の孵化率を向上させることができ、イエバエの幼虫の生存率を向上させることができる。システムは、卵から孵化する幼虫の孵化率が高いから、卵の無駄を省くことができ、必要最小限の卵を利用して家畜の排泄物を効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。
【0021】
有機肥料製造システムは、
餌食に卵を接種してから4日目に肥料基材から分別された幼虫群を殺処分する殺処分手段と、餌食に卵を接種してから5日目以降に肥料基材から分別された幼虫群を飼料に加工する飼料加工手段とを実行し、4日目に肥料基材から分別された幼虫群を殺処分することで、他の種類の昆虫の幼虫が紛れ込んでいたとしても他の昆虫の幼虫を幼虫群から排除することができるから、このシステムで利用するイエバエの幼虫のみを抽出することができ、イエバエの幼虫のみを使用した飼料を製造することができる。システムは、5日目以降に肥料基材から分別された幼虫群を飼料に加工するから、他の種類の昆虫の幼虫を排除した状態で、このシステムで利用するイエバエの幼虫のみから作られた飼料を製造することができる。システムは、イエバエの幼虫を飼料にすることで、抗菌性タンパク質を豊富に含んだ高タンパクの飼料を作ることができるとともに、成長促進や耐力増強、肉質向上等に優れた飼料を作ることができる。
【0022】
肥料基材にイエバエの成虫の死骸とイエバエの蛹の脱け殻とを混合して有機肥料を作る肥料作成手段を実行する有機肥料製造システムは、イエバエを余すところなくその全てを有機肥料の材料として使用することができ、材料の無駄を省くことができる。システムは、イエバエの成虫の死骸やイエバエの蛹の脱け殻が豊富なキトサンを含むから、それらを肥料基材に加えることで、土壌改良や抗菌作用、植物の成長促進、植物の病気抑制効果、果実質の改良等に優れた有機肥料を作ることができる。
【0023】
イエバエの幼虫が孵化直後の1齢幼虫と1回の脱皮後の2齢幼虫と2回の脱皮後の蛹変態前の3齢幼虫とに区分され、幼虫飼育手段において、1齢幼虫を暗中で飼育し、2齢幼虫を暗中または薄明中で飼育するとともに、3齢幼虫を照明中で飼育する有機肥料製造システムは、1齢幼虫を暗中で飼育するとともに、2齢幼虫を暗中または薄明中で飼育することでそれら幼虫を光によって刺激することがなく、1齢幼虫や2齢幼虫が餌食の下方へ潜り込むことや餌食の内部に隠れてしまうことを防ぐことができ、幼虫に餌食の表面からそれを食させることができる。システムは、1齢幼虫や2齢幼虫に餌食をその表面から食させることができるから、餌食の残存率を低下させることができ、幼虫に餌食の大部分を食させることができる。システムは、3齢幼虫を照明中で飼育するから、蛹変態期を迎えた幼虫の走光性を利用して幼虫と肥料基材とを確実に分別することができる。
【0024】
餌食に卵を接種してから5日目以降の幼虫群から一部の幼虫を抽出し、抽出した幼虫を成虫に成長させ、それら成虫に産ませた次世代の卵を餌食に接種するリサイクル手段を実施する有機肥料製造システムは、幼虫群の一部を成長させた成虫に次世代の卵を産ませ、その卵を利用して排泄物を肥料基材に変えるから、イエバエの卵を外部から新たに調達する必要はなく、半永久的なサイクルでイエバエを利用することができ、低コストで肥料基材を作ることができる。
【0025】
幼虫飼育手段において、餌食の65〜90%が幼虫に食され、餌食の10〜35%の残余の餌食が発酵し、餌食が肥料基材に変わる有機肥料製造システムは、幼虫に食されない残余の餌食が発酵して肥料基材の一部となるから、餌食の略全てを肥料基材に変えることができ、家畜の大量な排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。
【0026】
複数個の餌食収容容器を上下方向へ積み重ねて飼育床を作り、飼育床の複数を所定容積の飼育室に収納する有機肥料製造システムは、複数個の餌食収容容器を利用するとともに、複数の飼育床を利用することで、一度に大量の排泄物を短期間に効率よく肥料基材に変えることができ、大量の排泄物を安全に処理することができる。システムは、一度に大量の幼虫を飼育することができ、大量の飼料を作ることができるとともに、大量の肥料基材を作ることができる。
【0027】
飼育室内部の温度が27〜31℃の範囲に維持され、飼育室内部の湿度が50〜70%の範囲に維持される有機肥料製造システムは、飼育室内部の温度を前記範囲に維持するとともに、飼育室内部の湿度を前記範囲に維持することで、イエバエにとっての飼育室の環境を最適にすることができる。有機肥料製造システムは、卵からの幼虫の孵化を促進させて羽化率を向上させることができ、環境悪化による幼虫の死亡を防いで生存率を向上させることができるとともに、幼虫の成長を促進することができる。システムは、イエバエの卵や幼虫をその成長過程において確実に生存させることができ、卵や幼虫の生存率を向上させることができるのみならず、幼虫を利用して家畜の排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。
【0028】
餌食の全重量に対する排泄物の重量比が60〜80重量%の範囲にあり、餌食の全重量に対する食性増進物の重量比が20〜40重量%の範囲にある有機肥料製造システムは、排泄物の重量比が前記範囲にあるとともに、食性増進物の重量比が前記範囲にあるから、幼虫の食性を増進させることができ、多量の排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。システムは、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、イエバエの幼虫の食性を利用して家畜の排泄物を安全に処理することができる。
【0029】
食性増進物がもみ殻とおからとであり、食性増進物の全重量に対するもみ殻の重量比が10〜15重量%の範囲にあり、食性増進物の全重量に対するおからの重量比が85〜90重量%の範囲にある有機肥料製造システムは、食性増進物としてもみ殻とおからとを利用し、もみ殻の重量比が前記範囲にあるとともに、おからの重量比が前記範囲にあるから、幼虫の食性を増進させることができ、多量の排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。システムは、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、イエバエの幼虫の食性を利用して家畜の排泄物を安全に処理することができる。
【0030】
餌食作成手段において、排泄物に食物残渣が混合され、食物残渣が排泄物中において腐敗して餌食が作られる有機肥料製造システムは、家畜の排泄物とともに人間が出す大量の食物残渣(残飯)を処理することができ、大量に廃棄される食物残渣を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。なお、食物残渣を焼却処分する場合、燃料を消費するのみならず、多量の二酸化炭素を排出し、環境に悪影響を与えることになり、また、食物残渣を長期間養生して無害化処理する場合、長期間悪臭を放つとともに病原菌の発生原因となる場合があるが、このシステムは、食物残渣を含む餌食が幼虫の体内で酵素分解されてその幼虫から排泄されることで有機肥料の肥料基材が作られるから、焼却処分する場合の燃料の消費がないことはもちろん、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、イエバエの幼虫の食性を利用して食物残渣を安全に処理することができる。
【0031】
家畜が豚と鶏との少なくとも一方である有機肥料製造システムは、大量に排泄される豚や鶏の排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材に変えることができる。システムは、豚や鶏の排泄物を含む餌食が幼虫の体内で酵素分解されてその幼虫から排泄されることで有機肥料の肥料基材が作られるから、イエバエの幼虫の食性を利用して豚や鳥の排泄物を安全に処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一例として示す有機肥料製造システム10Aの概略構成図である
図1等の添付の図面を参照し、本発明に係る有機肥料製造システム10Aの詳細を説明すると、以下のとおりである。なお、
図2は、複数の飼育床16を収容した飼育室17の側面図であり、
図3は、有機肥料製造システム10Aにおいて利用する餌食収容トレー20の斜視図である。
図4は、
図3の収容トレー20の凸部45を示す部分拡大図である。
図3では、前後方向を矢印X1、横方向を矢印X2で示し、上下方向を矢印X3で示す。
【0034】
有機肥料製造システム10Aは、イエバエの幼虫50(
図9参照)を利用して家畜の排泄物18から有機肥料を製造する。イエバエの種類としては、「Musca Domestica」を使用することが好ましい。前記種類のイエバエの幼虫50は、短期間に大量の餌を食べる習性を有するとともに、短期間に蛹に変態し、蛹から成虫に羽化する。家畜として豚や鶏を例示することができるが、このシステム10Aは、他の家畜(牛、馬、羊等)の排泄物を処理することもでき、家畜の排泄物のみならず、食物残渣を含む排泄物を処理することもできる。
【0035】
有機肥料製造システム10Aは、原料受入ピット11、攪拌機12、定量切出機、コンベアー13、ベルトコンベアー14、昇降リフター15、飼育床16、飼育室17を利用し、餌食作成手段、餌食収容手段、卵接種手段、幼虫飼育手段、分別手段、肥料作成手段、殺処分手段、飼料加工手段を実施する。原料受入ピット11は、搬送された排泄物18を一時的に貯留する設備であり、図示なしていないが、悪臭の放出を防止するためのシャッターを有する。攪拌機12は、原料受入ピット11の下流側に配置され、排泄物18と食性増進物とを攪拌混合して餌食19を作る。定量切出機13は、餌食19を計量し、設定量の餌食19を餌食収容トレー20(餌食収容容器)に載せる。昇降リフター15は、餌食収容トレー20の上下方向へ積み上げ、飼育床16の組み立てに使用する。
【0036】
飼育室17は、天井21と周壁22とに囲繞された所定容積の内部気密空間23と、気密空間23の温度および湿度を調節可能な空調機24と、気密空間23の明るさを調光可能な照明装置25とから形成されている。飼育室17は、
図2に示すように、その内部気密空間25に複数の飼育床16を挿脱可能に収容可能であり、施解錠可能な開閉扉26(
図7参照)を備えている。飼育室17の天井21には、換気ダクト27が連結されている。
【0037】
空調機24や照明装置25は、インターフェイスを介してコントローラ(制御装置)(図示せず)に接続されている。空調機24は、飼育室17の天井21から延びるダクト28を介して飼育室17に連結されている。空調機24は、飼育室17の内部気密空間23の換気を行い、コントローラからの指示にしたがって気密空間23の温度を上昇または下降させるとともに、気密空間23の湿度を上昇または下降させる。照明装置25は、飼育室17の天井21近傍の内部気密空間23に設置され、コントローラからの指示にしたがって気密空間23の明るさを調節(調光)する。
【0038】
飼育床16を飼育室17に収容すると、照明装置25が飼育床16の上方であって、最上部に位置する餌食収容トレー20の後記する前後部36,37の先端部分39,43近傍に位置する。照明装置25には、蛍光灯またはLED照明が使用されている。コントローラは、中央処理部(CPUまたはMPU)とメモリとを有するコンピュータである。コントローラには、テンキーユニットやディスプレイ等の入出力装置がインターフェイスを介して接続されている。
【0039】
コントローラには、内部気密空間23に設置された温度センサ(図示せず)および湿度センサ(図示せず)がインターフェイスを介して接続され、気密空間23に設置された照度センサ(図示せず)がインターフェイスを介して接続されている。コントローラのメモリには、内部気密空間23の設定温度や設定湿度、設定照度が格納されている。設定温度や設定湿度、設定照度は、テンキーユニットを介して自由に設定することができる。温度センサは、内部気密空間23の温度を測定し、実測温度をコントローラに出力する。湿度センサは、内部気密空間23の湿度を測定し、実測湿度をコントローラに出力する。照度センサは、内部気密空間23の照度を測定し、実測照度をコントローラに出力する。
【0040】
コントローラは、温度センサから出力された実測温度とあらかじめ設定された設定温度とを比較し、実測温度が設定温度の範囲内に入るように、フィードバック制御を行う。具体的には、実測温度が設定温度の範囲外にある場合、実測温度と設定温度との誤差を解消するフィードバック信号を空調機24に出力し、空調機24をフィードバック制御(インバータ制御)して内部気密空間23の温度を設定温度に維持する。
【0041】
コントローラは、湿度センサから出力された実測湿度とあらかじめ設定された設定湿度とを比較し、実測湿度が設定湿度の範囲内に入るように、フィードバック制御を行う。具体的には、実測湿度が設定湿度の範囲外にある場合、実測湿度と設定湿度との誤差を解消するためのフィードバック信号を空調機24に出力し、空調機24をフィードバック制御して内部気密空間23の湿度を設定湿度に維持する。コントローラは、照度センサから出力された実測照度とあらかじめ設定された設定照度とを比較し、実測照度が設定照度になるように、照明装置25の照度を制御する。
【0042】
飼育床16は、採集箱29(
図7参照)と、複数個の餌食収容トレー20と、採集箱29およびそれら収容トレー20を着脱可能に支持する固定枠30(
図7参照)とから形成されている。採集箱29は、固定枠30の内側に配置され、最下位に配置された餌食収容トレー20の下方に位置している。採集箱29は、平面形状が矩形の収容凹部31と、収容凹部31の周縁につながる傾斜壁32とを有する。傾斜壁32は、収容凹部31から外方へ向かって上下方向上方へ傾斜している。餌食収容トレー20は、固定枠30の内側に配置され、上下方向へ等間隔離間して並んでいる。採集箱29やそれら餌食収容トレー20は、熱硬化性合成樹脂や熱可塑性合成樹脂等のプラスチック、アルミやジュラルミン等の金属から作られている。
【0043】
餌食収容トレー20は、
図3に示すように、平面形状が矩形の底壁33と、底壁33の両側縁から上下方向へ垂直に起立する両側壁34とを有する。底壁33は、水平に延びる中央部35と、中央部35から前後方向前方へ延びる前部36と、中央部35から前後方向後方へ延びる後部37とを有する。前部36は、中央部35の側に位置する基端部分38が中央部35につながり、基端部分38の反対側に位置する先端部分39が両側壁34の上部につながっている。前部36は、基端部分38から先端部分39に向かって上下方向上方へ所定角度で傾斜している。前部36には、その基端部分38から先端部分39に向かって上下方向上方へ所定角度で登り勾配に傾斜する斜面40が形成されている。前部36の先端部分39には、
図4に示すように、横方向へ等間隔離間して並ぶ複数の凸部41が形成されている。それら凸部41の間には、斜面40が位置している。
【0044】
後部37は、中央部35の側に位置する基端部分42が中央部35につながり、基端部分42の反対側に位置する先端部分43が両側壁34の上部につながっている。後部37は、基端部分42から先端部分43に向かって上下方向上方へ所定角度で傾斜している。後部37には、基端部分42から先端部分43に向かって上下方向上方へ所定角度で登り勾配に傾斜する斜面44が形成されている。後部37の先端部分43には、横方向へ等間隔離間して並ぶ複数の凸部45が形成されている。それら凸部45の間には、斜面44が位置している。
【0045】
両側壁34の上部には、上下方向上方へ凸となる位置決め凸部46が形成されている。両側壁34の下部には、上下方向上方へ凹んでいて位置決め凸部46を着脱可能に嵌合させる位置決め凹部47が形成されている。餌食収容トレー20では、底壁33とそれら側壁34とから所定容積の餌食収容凹部57が画成されている。餌食収容トレー20の餌食収容凹部57には、そこに餌食19を敷き詰めるときの目安となる目安線48が表示されている。
【0046】
餌食収容凹部57には、横方向へ等間隔離間して前後方向へ直状に延びる3個の仕切板49a〜49cが設置されている。仕切板49a,49cは、底壁33の前部36の先端部分39から中央部35に向かって延び、中央部35の中央に達している。仕切板49bは、底壁33の後部37の先端部分43から中央部35に向かって延び、中央部35の中央に達している。なお、仕切板の個数を図示の3個に限定するものではなく、4個以上の仕切板が餌食収容凹部57に設置されていてもよい。
【0047】
餌食収容トレー20は、固定枠30の内側に配置固定された状態で、6個のそれらが上下方向へ等間隔離間した状態で積み重なっている。なお、飼育床16における餌食収容トレー20の個数に特に限定はなく、7個以上の収容トレー20が積み重なっていてもよい。餌食収容トレー20では、上方に位置する収容トレー20の位置決め凸部46が下方に位置する収容トレー20の位置決め凹部47に嵌合し、それら収容トレー20どうしが上下方向へ固定されている。
【0048】
図5は、システム10Aにおいて実施される手順の一例を示すフロー図であり、
図6は、飼育室17の照度の変化を表す図である。
図7は、複数個の餌食収容トレー20を積み重ねた飼育床16の側面図であり、
図8は、
図7の飼育床16における餌食収容トレー20の上面図である。
図9は、1齢幼虫50aまたは2齢幼虫50bが餌食19を食している状態の飼育床16の側面図であり、
図10は、
図9の飼育床16における餌食収容トレー20の上面図である。
図11は、3齢幼虫50cが採集箱29に落下する状態を示す飼育床16の側面図であり、
図12は、
図11の飼育床16における餌食収容トレー20の上面図である。
図7,8では、餌食収容トレー20に餌食19が収容され、その餌食19の表面に卵51が接種されている。
図11,12は、幼虫50cによって食された餌食19の一部が肥料基材52に変わっている。なお、
図7,9,11では、仕切板49a〜49cや空調機24の図示を省略している。
【0049】
図1の有機肥料製造システム10Aにおいて実施される各手段を説明すると、以下のとおりである。なお、以下の説明では排泄物18として豚の糞尿を例に説明する。各地の養豚場において飼育されている豚の排泄物18(糞尿)が輸送車53(バキュームカー)によって集められ、排泄物18が原料受入ピット11に搬送される。排泄物18は、輸送車53から原料受入ピット11に移され、原料受入ピット11においてプール(貯留)される。次に、ベルトコンベアー(図示せず)を利用して所定量の排泄物18が原料受入ピット11から攪拌機12に投入される。排泄物18の他に、攪拌機12にはもみ殻54(食性増進物)およびおから55(食性増進物)が投入され、それらが攪拌機12において攪拌混合されて餌食19が作られる(餌食作成手段)。
【0050】
食性増進物(もみ殻54およびおから55)は、イエバエの幼虫50の食性を増進させる他、排泄物18の水分調節材としても機能する。排泄物18が水分を多く含む場合、食性増進物の投入量(混合量)を多くする。排泄物18の水分が不足している場合は、食性増進物とともに排泄物18に水56を加える。このシステム10Aでは、食性増進物や水56を排泄物18に混入することで、餌食19の水分含有量を調節し、餌食19の粘度(硬度)を調節している。なお、食性増進物には、もみ殻54とおから55とのうちの少なくとも一方を利用することができる。また、食性増進物には、もみ殻54やおから55の他に、酒粕、踏込粕、みりん粕、コーヒー粕、焼酎粕、ビール粕、菜種粕、パイン粕、紅茶粕、ワイン粕、デンプン粕を利用することができる。
【0051】
餌食19の全重量に対する排泄物18の重量比は、60〜80重量%の範囲にある。排泄物18の重量比が60重量%未満では、排泄物18の処理に時間を要し、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。排泄物18の重量比が80重量%を超過すると、餌食19に対する食性増進物の重量比が低下し、幼虫50の食性を増進させることができず、大部分の排泄物18を幼虫50に食させることが難しく、多量の排泄物18が残存する場合があり、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。このシステム10Aでは、餌食19の全重量に対する排泄物18の重量比が前記範囲にあるから、幼虫50の食性を増進させつつ、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。
【0052】
餌食19の全重量に対する食性増進物の重量比は、20〜40重量%の範囲にある。食性増進物の重量比が20重量%未満では、餌食19に対して食性増進物が少なく、幼虫50の食性を増進させることができず、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。食性増進物の重量比が40重量%を超過すると、餌食19に対する排泄物18の重量比が低下し、排泄物18の処理に時間を要し、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。また、餌食19の水分が減少し、餌食19の粘度が必要以上に増加して餌食19が硬化し、幼虫50が円滑に餌食19を食することができない場合がある。このシステム10Aでは、餌食19の全重量に対する食性増進物の重量比が前記範囲にあるから、幼虫50の食性を増進させることができ、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。なお、食性増進物としてもみ殻54やおから55以外の物を使用する場合、餌食19の全重量に対する食性増進物の重量比を20〜40重量%の範囲に調節する。
【0053】
食性増進物としてもみ殻54とおから55とを利用する場合、おから55は水分調節の役割を有するものの食性増進効果が大きく、もみ殻54は食性増進効果を有するものの水分調節の役割が大きいことから、食性増進物の全重量に対するもみ殻54の重量比を10〜15重量%の範囲とし、食性増進物の全重量に対するおから55の重量比を85〜90重量%の範囲とする。もみ殻54の重量比が15重量%を超過し、おから55の重量比が85重量%未満では、幼虫50の食性を十分に増進させることが難しく、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることが難しい。このシステム10Aでは、食性増進物の全重量に対するもみ殻54やおから55の重量比が前記範囲にあるから、幼虫50の食性を十分に増進させることができ、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。
【0054】
攪拌機12に排泄物18と食性増進物(もみ殻54、おから55)とを投入し(水56を投入する場合がある)、それらを攪拌混合して餌食19を作った後、餌食19が攪拌機12から定量切出機13に移される。定量切出機13では、餌食19が計量され、設定量の餌食19がその排出口から排出される。定量切出機13の排出口から排出された設定量の餌食19は、切出機13の下方に位置する餌食収容トレー20に落下し、ベルトコンベアー14に載置された収容トレー20の餌食収容凹部57に収容される(餌食収容手段)。餌食19は、餌食収容トレー20の目安線48に合わせて略平坦に均される。
【0055】
餌食19が収容された餌食収容トレー20は、ベルトコンベアー14によって定量切出機13から昇降リフター15に移動する。餌食収容トレー20がベルトコンベアー14上を定量切出機13から昇降リフター15に移動する過程において、所定量のイエバエの卵51の複数個が餌食19の表面に接種される(卵接種手段)。
【0056】
卵接種手段では、卵51を餌食19の表面全域に均一に散布するのではなく、
図7に示すように、卵51の複数個を餌食19の表面であって底壁33の中央部35や前後部36,37に横方向へ略等間隔離間させた状態で山盛りに接種する。自然界に存在するイエバエが培地に複数個の卵を山盛り状態に産卵し、それによって卵からの孵化率を高め、種の生存率を向上させていりことから、同様に、卵51の複数個を餌食19の表面に山盛りに接種する。これにより、接種した卵51から孵化する幼虫50の孵化率を向上させることができ、幼虫50の生存率を向上させることが可能となる。
【0057】
卵接種手段では、餌食19の全重量に対する卵51の重量比が0.002〜0.004重量%の範囲にある。卵51の重量比が0.002重量%未満では、卵51から孵化した幼虫50が少なく、幼虫50に餌食19の大部分を食させることができず、多量の餌食19が残存し、餌食19の大部分を肥料基材52に変えることが難しい。卵51の重量比が0.004重量%を超過すると、卵51から孵化した幼虫50が多すぎ、餌食19不足となって幼虫50の成長が遅れてしまい、排泄物18を効率よく処理することができない。このシステム10Aでは、卵51の重量比が前記範囲にあるから、餌食19と卵51から孵化した幼虫50の数とのバランスがとれ、卵51から孵化した幼虫50が餌食19不足にならず、卵51を無駄にすることなく、卵51から孵化した幼虫50を利用して餌食19を短期間に食させることができ、多量の餌食19が残存することなく、排泄物18を効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。
【0058】
卵51を接種した後、餌食収容トレー20が昇降リフター15によって上下方向へ積み重ねられ、階層構造の飼育床16が作られる。飼育床16は、
図2に示すように、その複数が飼育室17の内部気密空間23に収容される。飼育室17にはレール58が敷設されており、そのレール58に飼育床16の車輪59が嵌合し、飼育室17に飼育床16が走行可能に固定される。
【0059】
なお、
図2では3つの飼育床16が飼育室17に収容されているが、飼育床16の数を3つに限定するものではなく、4つ以上の飼育床16が飼育室17に収容される場合もある。飼育床16を飼育室17に収容した後、扉26が閉められ、その扉26が施錠される。なお、飼育床16の飼育室17への収容時では、空調機24や照明装置25、コントローラが稼動している。
【0060】
コントローラは、温度センサから出力された実測温度と設定温度とを比較しつつ、空調機24を介して飼育室17の内部気密空間23の温度を設定温度に維持し、湿度センサから出力された実測湿度と設定湿度とを比較しつつ、空調機24を介して気密空間23の湿度を設定湿度に維持する。コントローラは、飼育室17の内部気密空間23の温度を27〜31℃の範囲に維持し、気密空間23の湿度を50〜70%の範囲に維持する。内部気密空間23の温度が27℃未満では、卵51の孵化が遅れるとともに、幼虫50の成長が遅れ、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。内部気密空間23の温度が31℃を超過すると、暑さで卵51の孵化率が低下し、幼虫50の数が少なくなるとともに、孵化した幼虫50が死ぬ場合があり、排泄物18を処理することができない場合がある。
【0061】
飼育室17の内部気密空間23の湿度が50%未満では、卵51の孵化率が低下し、幼虫50の数が少なくなるとともに、幼虫50の成長が遅れ、多量の排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。内部気密空間23の湿度が70%を超過すると、幼虫50の食欲が低下し、幼虫50が罹患し易くなって幼虫50が死ぬ場合があり、排泄物18を処理することができない場合がある。システム10Aは、内部気密空間23の温度を前記範囲に維持するとともに、気密空間23の湿度を前記範囲に維持することで、卵51からの幼虫50の孵化を促進することができ、幼虫50の成長を促進することができるとともに、卵51や幼虫50をその成長過程において確実に生存させることができ、卵51の孵化率や幼虫50の生存率を向上させることができる。
【0062】
飼育室17では、卵51を餌食19に接種して1日目に卵51から幼虫50が孵化する。卵51から孵化した幼虫50は、孵化直後の1齢幼虫50a、1回の脱皮後の2齢幼虫50b、2回の脱皮後の蛹変態前の3齢幼虫50cに区分される。1齢幼虫50aは、卵51を接種してから2日目までの幼虫50aであり、2齢幼虫50bは、卵51を接種してから2日目の後の1日目まで(卵51を接種してから3日目)の幼虫50bである。3齢幼虫50cは、卵51を接種してから3日目の後の1日目から3日目まで(卵51を接種してから4日目〜7日目)の幼虫50cである。それら幼虫50a〜50cは、餌食収容トレー20に収容された餌食19を餌として成長する。
【0063】
この有機肥料製造システム10Aでは、餌食19を幼虫50a〜50cに食させて幼虫50a〜50cを飼育し、幼虫50a〜50cが餌食19を餌として成長する飼育過程において、餌食19が幼虫50a〜50cの体内で酵素分解されてその幼虫50a〜50cから排泄されることで、餌食19(家畜の排泄物18)が有機肥料の肥料基材52に変わる(幼虫飼育手段)。幼虫飼育手段では、餌食19の65〜90%が幼虫に食され、残余の10〜35%の餌食19が残される。幼虫50a〜50cが食べ残した餌食19は、発酵によって肥料基材52の一部となる。肥料基材作成手段では、
図6に示すように、暗闇の飼育室17aにおいて1齢幼虫50aを暗中で飼育し、暗闇または薄明かりの飼育室17bにおいて2齢幼虫50bを暗中または薄明中で飼育するとともに、明るい飼育室17cにおいて3齢幼虫50cを照明中で飼育する。
【0064】
コントローラは、卵51を接種してから2日目まで照明装置25を点灯させることなく、飼育室17aを暗闇にし、卵51から1齢幼虫50aまでを暗闇で飼育する。なお、飼育室17は外部から光が差し込まない構造に作られている。システム10Aは、1齢幼虫50aを暗中(暗闇)で飼育することで、その幼虫50aを光によって刺激することがなく、1齢幼虫50aが餌食19の下方へ潜り込むことや餌食19の内部に隠れてしまうことを防ぐことができ、幼虫50aに餌食19の表面からそれを食させることができる。
【0065】
コントローラは、卵51を接種してから2日目の後の1日目まで(卵51を接種してから3日目)照明装置25を点灯させることなく、飼育室17bを暗闇にし、2齢幼虫50bを暗中(暗闇)で飼育し、または、照明装置25を点灯させて飼育室17bを薄明かりにし、2齢幼虫50bを薄明中で飼育する。システム10Aは、2齢幼虫50bを暗中または薄明中で飼育することでその幼虫50bを光によって刺激することがなく、2齢幼虫50bが餌食19の下方へ潜り込むことや餌食19の内部に隠れてしまうことを防ぐことができ、幼虫50bに餌食19の表面からそれを食させることができる。
【0066】
コントローラは、卵51を接種してから3日目の後の1日目から3日目まで(卵51を接種してから4日目〜7日目)照明装置25を点灯させて飼育室17cを明るくし、3齢幼虫50cを照明中で飼育する。照明装置25からの光は、餌食収容トレー20の前後部36,37の先端部分39,43を照らし、3齢幼虫50cの収容トレー20の前後部36,37の先端部分39,43への移動を促進する。餌食19の大部分を幼虫50が食べた後、幼虫50が3齢幼虫50cとなり、蛹変態時期を迎える。3齢幼虫50cは、それが蛹変態する時に離散習性(蠕動離散習性)を有する。すなわち、蛹になる場所を求めて活発に蠕動する。
【0067】
蛹変態時期を迎えた3齢幼虫50cは、蛹になる場所を求めて活発に蠕動離散し、餌食収容トレー20の底壁33を動き回りながら、その走光性によって、照明装置25に導かれ、底壁33の中央部35から斜面40,44を這い上がり、中央部35から前後部36,37の先端部分39,43に向かって移動する。前後部36,37の先端部分39,43に移動した3齢幼虫50cは、
図11,12に示すように、前後部36,37の先端部分39,43に形成された凸部41,45の間の斜面40,44に入り、その斜面40,44をさらに這い上がって前後部36,37の先端を乗り越えて、前後部36,37の先端から採集箱29に向かって落下する。
【0068】
なお、底壁33の中央部35から両側壁34に向かった3齢幼虫50cは、仕切板49a〜49cに突き当たり、仕切板49a〜49cに沿って底壁33の中央部35から斜面40,44を這い上がり、中央部35から前後部36,37の先端部分39,43に向かって移動し、前後部36,37の先端を乗り越えて採集箱29に向かって落下する。または、両側壁34に突き当たり、両側壁34に沿って底壁33の中央部35から斜面40,44を這い上がり、中央部35から前後部36,37の先端部分39,43に向かって移動し、前後部36,37の先端を乗り越えて採集箱29に向かって落下する。
【0069】
有機肥料製造システム10Aでは、蛹変態時期を迎えた3齢幼虫50cが餌食収容トレー20の前後部36,37の先端から採集箱29に落下するから、3齢幼虫50cの習性を利用して幼虫50cと肥料基材52とが分別される(分別手段)。このシステム10Aは、3齢幼虫50cの習性を利用することで、人手を介すことなく幼虫50cと肥料基材52とを分離することができる。また、3齢幼虫50cを照明中で飼育することで、蛹変態期を迎えた幼虫50cの走光性を利用し、幼虫50cと肥料基材52とを確実に分別することができる。
【0070】
有機肥料製造システム10Aでは、3齢幼虫50cと肥料基材52との分別が餌食19に卵51を接種してから4日目に始まって7日目に終了する。したがって、最長7日で卵51から蛹変態前の3齢幼虫50cに育つ。このシステム10Aでは、餌食19に卵51を接種してから4日目に肥料基材52から分別された3齢幼虫50cのグループを殺処分する(殺処分手段)。殺処分手段では、餌食19に卵51を接種してから4日目の3齢幼虫50cを採集箱29から取り出し、それら幼虫50cを焼却処分する。家畜の排泄物18にはこのシステム10Aで利用するイエバエの幼虫50のみならず、他の種類の昆虫の幼虫が紛れ込んでいる場合があるが、4日目に肥料基材52から分別された3齢幼虫50cのグループを殺処分することで、排泄物18に紛れ込んでいる他の種類の昆虫の幼虫をこのシステム10Aにおいて利用するイエバエの幼虫50のグループから排除することができる。
【0071】
なお、餌食19に卵51を接種してから4日目に肥料基材52から分別された3齢幼虫50cのグループを殺処分する理由は、餌食19に卵51を接種する以前に、排泄物18には他の昆虫の幼虫が潜んでおり、幼虫として既に成長していることから、4日目には蛹になる直前の終齢幼虫になっている場合が多く、4日目の幼虫のグループを殺処分することで、他の昆虫の幼虫を一緒に排除することができるからである。
【0072】
有機肥料製造システム10Aでは、餌食19に卵51を接種してから5日目以降に有機肥料52から分別された3齢幼虫50cのグループのうちの95〜99%、好ましくは97〜98.5%の幼虫50cを飼料に加工するとともに(飼料加工手段)、残余の1〜5%、好ましくは1.5〜3%の幼虫50cを抽出し、それら幼虫50cを成虫に成長させ、それら成虫50cから成長した成虫に次世代の卵51を産ませる(リサイクル手段)。
【0073】
飼料加工手段では、それら3齢幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理して冷凍保存する。または、それら幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理、乾燥処理し、常温保存する。あるいは、それら幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理、乾燥処理、粉末処理し、常温保存する。飼料加工手段によって作られた飼料は、ペットフードに混入したり、魚類の餌や鳥の餌として利用される。
【0074】
有機肥料製造システム10Aは、5日目以降に肥料基材52から分別された3齢幼虫50cのグループを飼料に加工するから、他の種類の昆虫の幼虫を排除した状態で、このシステム10Aで利用するイエバエの幼虫50のみから作られた飼料を製造することができる。また、イエバエの幼虫50を飼料にすることで、抗菌性タンパク質を豊富に含んだ高タンパクの飼料を作ることができるとともに、成長促進や耐力増強、肉質向上等に優れた飼料を作ることができる。
【0075】
リサイクル手段では、3齢幼虫50cを採集箱29に収容したまま、空調機24を利用して飼育室17の内部気密空間23の温度を設定温度(27〜31℃)に維持しつつ、気密空間23の湿度を設定湿度(50〜70%)に維持し、残余の幼虫50cを蛹に変態させる。次に、蛹を採集箱29から回収し、蛹を飼育ゲージ(図示せず)に移し、蛹をイエバエの成虫に羽化させる。羽化した後の蛹の脱け殻は飼育ゲージから回収される。蛹から羽化したそれらイエバエに餌を与え、イエバエを飼育しつつ、イエバエに産卵させることで、次世代の卵51を収集する。なお、イエバエの成虫の死骸は飼育ゲージから回収される。次世代の卵51を餌食19に接種することで、その卵51から孵化した幼虫50に排泄物18を処理させる。
【0076】
有機肥料製造システム10Aは、3齢幼虫50cのグループから抜き出した残余の幼虫50cを成長させたイエバエの成虫に次世代の卵51を産ませ、その卵51を利用して排泄物18を肥料基材52に変えるから、イエバエの卵51を外部から新たに調達する必要はなく、半永久的なサイクルでイエバエを利用することができ、低コストで肥料基材52を作ることができる。
【0077】
幼虫飼育手段によって作られた肥料基材52は、餌食収容トレー20から回収され、乾燥機(図示せず)に投入される。乾燥機には、肥料基材52の他に、蛹の脱け殻とイエバエの成虫の死骸とが投入される。肥料基材52や蛹の脱け殻、イエバエの成虫の死骸は、乾燥機において所定温度、所定時間攪拌混合されるとともに乾燥される。幼虫飼育手段では、肥料基材52や蛹の脱け殻、イエバエの成虫の死骸を混合して有機肥料が作られる。有機肥料は、計量された後、袋詰めされる。
【0078】
有機肥料製造システム10Aは、イエバエを余すところなくその全てを有機肥料の材料として使用することができ、材料の無駄を省くことができる。システム10Aは、イエバエの成虫の死骸やイエバエの蛹の脱け殻が豊富なキトサンを含むから、それらを肥料基材52に加えることで、土壌改良や抗菌作用、植物の成長促進、植物の病気抑制効果、果実質の改良等に優れた有機肥料を作ることができる。
【0079】
有機肥料製造システム10Aは、イエバエの幼虫50の食性を増進させる食性増進物を家畜の排泄物18に混合して餌食19を作り、餌食収容トレー20に収容されたその餌食19を幼虫50a〜50cに食させるから、幼虫50a〜50cの食性を増進させつつ、家畜の大量な排泄物18を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。なお、排泄物18を焼却処分する場合、燃料を消費するのみならず、多量の二酸化炭素を排出し、環境に悪影響を与えることになり、また、排泄物118を長期間養生して無害化処理する場合、長期間悪臭を放つとともに病原菌の繁殖原因となる場合があるが、このシステム10Aは、家畜の排泄物18を含む餌食19が幼虫50a〜50cの体内で酵素分解されてその幼虫50a〜50cから排泄されることで有機肥料の肥料基材52が作られるから、焼却処分する場合の燃料の消費がないことはもちろん、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、幼虫50a〜50cの食性を利用して排泄物18を安全に処理することができる。
【0080】
図13は、他の一例として示す有機肥料製造システム10Bの概略構成図である。
図13のシステム10Bが
図1のそれと異なるところは、原料受入ピット11に貯留された排泄物18に食物残渣60が混入される点にあり、その他の構成は
図1のシステム10Aと同一であるから、
図1と同一の符号を付すとともに、
図1の説明を援用し、このシステム10Bのその他の構成の詳細な説明は省略する。
【0081】
図13の有機肥料製造システム10Bは、原料受入ピット11、攪拌機12、定量切出機、コンベアー13、ベルトコンベアー14、昇降リフター15、飼育床16、飼育室17を備えている。原料受入ピット11においてプール(貯留)されている排泄物に食物残渣60(残飯)が混入され、食物残渣60が排泄物18中において腐敗する。食物残渣60が腐敗した後、所定量の排泄物18と食物残渣60とが原料受入ピット11から攪拌機12に投入される。排泄物18と食物残渣60との他に、攪拌機12にはもみ殻54(食性増進物)およびおから55(食性増進物)が投入され、それらが攪拌機12において攪拌混合されて餌食19が作られる(餌食作成手段)。排泄物18や食物残渣60の水分が不足している場合は、食性増進物とともに排泄物18に水56を加える。
【0082】
なお、排泄物18の全重量に対する食物残渣60の重量比は、10〜50重量%の範囲にある。食物残渣60の重量比が10重量%未満では、食物残渣60の処理量が少なく、多量の食物残渣60を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。食物残渣60の重量比が50重量%を超過すると、食物残渣60を排泄物18中において腐敗させるまでに長期間を要し、餌食19を短期間に作ることが難しい。また、排泄物の処理量が低下し、排泄物を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができない。システム10Bは、食物残渣60の重量比が前記範囲にあるから、家畜の排泄物18とともに人間が出す大量の食物残渣60を処理することができ、大量に廃棄される食物残渣60を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。
【0083】
餌食19の全重量に対する排泄物18の重量比や餌食19の全重量に対する食性増進物の重量比、食性増進物の全重量に対するもみ殻54の重量比、食性増進物の全重量に対するおから55の重量比は、
図1のシステム10Aのそれらと同一である。
【0084】
排泄物18、食物残渣60、食性増進物(もみ殻54、おから55)を攪拌機12において攪拌混合して餌食19を作った後、定量切出機13において餌食19が計量され、設定量の餌食19がその排出口から排出される。餌食19は、切出機13の下方に位置する餌食収容トレー20に落下し、ベルトコンベアー14に載置された収容トレー20の餌食収容凹部57に収容される(餌食収容手段)。餌食19は、餌食収容トレー20の目安線48に合わせて略平坦に均される。
【0085】
餌食19が収容された餌食収容トレー20は、ベルトコンベアー14によって昇降リフター15に移動する。餌食収容トレー20がベルトコンベアー14上を移動する過程において、所定量のイエバエの卵51の複数個が餌食19の表面に接種される(卵接種手段)。卵接種手段は、卵51の複数個を餌食19の表面であって底壁33の中央部35に横方向へ略等間隔離間させた状態で山盛りに接種する(
図7援用)。餌食19の全重量に対する卵51の重量比は、
図1のシステム10Aのそれと同一である。
【0086】
卵51を接種した後、餌食収容トレー20が昇降リフター15によって上下方向へ積み重ねられ、階層構造の飼育床16が作られる。飼育床16は、その複数が飼育室17の内部気密空間23に収容される(
図2援用)。コントローラは、温度センサから出力された実測温度と設定温度とを比較しつつ、空調機24を介して飼育室17の内部気密空間23の温度を設定温度に維持し、湿度センサから出力された実測湿度と設定湿度とを比較しつつ、空調機24を介して気密空間23の湿度を設定湿度に維持する。飼育室17の内部気密空間23の温度は、27〜31℃の範囲に維持され、気密空間23の湿度は、50〜70%の範囲に維持される。
【0087】
餌食19を幼虫50a〜50cに食させて幼虫50a〜50cを飼育し、幼虫50a〜50cが餌食19を餌として成長する飼育過程において、餌食19が幼虫50a〜50cの体内で酵素分解されてその幼虫50a〜50cから排泄されることで、餌食19(家畜の排泄物18および食物残渣60)が有機肥料の肥料基材52に変わる(幼虫飼育手段)。なお、幼虫50a〜50cが食べ残した餌食19は、発酵によって肥料基材52の一部となる。幼虫飼育手段では、暗闇の飼育室17aにおいて1齢幼虫50aを暗中で飼育し、暗闇または薄明かりの飼育室17bにおいて2齢幼虫50bを暗中または薄明中で飼育するとともに、明るい飼育室17cにおいて3齢幼虫50cを照明中で飼育する(
図6援用)。
【0088】
蛹変態時期を迎えた3齢幼虫50cは、蛹になる場所を求めて活発に蠕動離散し、餌食収容トレー20の底壁33を動き回りながら、その走光性によって、照明装置25に導かれ、底壁33の中央部35から斜面40,44を這い上がり、中央部35から前後部36,37の先端部分39,43に向かって移動する。3齢幼虫50cは、前後部36,37の先端部分39,43に形成された凸部41,45の間の斜面40,44に入り、その斜面40,44をさらに這い上がって前後部36,37の先端を乗り越えて、前後部36,37の先端から採集箱29に向かって落下する(
図11,12援用)。
【0089】
蛹変態時期を迎えた3齢幼虫50cが餌食収容トレー20の前後部36,37の先端から採集箱29に落下するから、3齢幼虫50cの習性を利用して幼虫50cと肥料基材52とが分別される(分別手段)。システム10Bでは、餌食19に卵51を接種してから4日目に肥料基材52から分別された3齢幼虫50cのグループを殺処分する(殺処分手段)。殺処分手段では、餌食19に卵51を接種してから4日目の3齢幼虫50cを採集箱29から取り出し、それら幼虫50cを焼却処分する。
【0090】
システム10Bでは、餌食19に卵51を接種してから5日目以降に有機肥料52から分別された3齢幼虫50cのグループのうちの95〜99%、好ましくは97〜98.5%の幼虫50cを飼料に加工するとともに(飼料加工手段)、残余の1〜5%、好ましくは1.5〜3%の幼虫50cを抜き出し、それら幼虫50cを成虫に成長させ、それら成虫50cから成長した成虫に次世代の卵51を産ませる(リサイクル手段)。
【0091】
飼料加工手段では、それら3齢幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理して冷凍保存する。または、それら幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理、乾燥処理し、常温保存する。あるいは、それら幼虫50cを湯煎処理した後、脱水処理、乾燥処理、粉末処理し、常温保存する。飼料加工手段によって作られた飼料は、ペットフードに混入したり、魚類の餌や鳥の餌として利用される。
【0092】
リサイクル手段では、空調機24を利用して飼育室17の内部気密空間23の温度を設定温度(27〜31℃)に維持しつつ、気密空間23の湿度を設定湿度(50〜70%)に維持し、残余の幼虫50cを蛹に変態させる。次に、蛹を採集箱29から回収し、蛹を飼育ゲージに移し、蛹をイエバエの成虫に羽化させる。羽化した後の蛹の脱け殻は飼育ゲージから回収される。蛹から羽化したそれらイエバエに餌を与え、イエバエを飼育しつつ、イエバエに産卵させることで、次世代の卵51を収集する。なお、イエバエの成虫の死骸は飼育ゲージから回収される。次世代の卵51を餌食19に接種することで、その卵51から孵化した幼虫50に排泄物18を処理させる。
【0093】
幼虫飼育手段によって作られた肥料基材52や蛹の脱け殻、イエバエの成虫の死骸は、餌食収容トレー20から回収され、乾燥機に投入される。肥料基材52や蛹の脱け殻、イエバエの成虫の死骸は、乾燥機において所定温度、所定時間攪拌混合されるとともに乾燥され、有機肥料が作られる。有機肥料は、計量された後、袋詰めされる。
【0094】
図13の有機肥料製造システム10Bは、
図1のシステム10Aが有する効果に加え、以下の効果を有する。システム10Bは、餌食19に排泄物18と食物残渣60とが含まれ、その餌食19がイエバエの幼虫50によって処理されるから、家畜の排泄物18とともに人間が出す大量な食物残渣60(残飯)を処理することができ、大量に廃棄される食物残渣60を短期間に効率よく有機肥料の肥料基材52に変えることができる。
【0095】
なお、食物残渣60を焼却処分する場合、燃料を消費するのみならず、多量の二酸化炭素を排出し、環境に悪影響を与えることになり、また、食物残渣60を長期間養生して無害化処理する場合、長期間悪臭を放つとともに病原菌の発生原因となる場合があるが、このシステム10Bは、食物残渣60を含む餌食19が幼虫50の体内で酵素分解されてその幼虫50から排泄されることで有機肥料の肥料基材52が作られるから、焼却処分する場合の燃料の消費がないことはもちろん、二酸化炭素を排出せず、環境に悪影響を与えることはなく、長期間の悪臭の発生や病原菌の繁殖もなく、イエバエの幼虫50の食性を利用して排泄物18や食物残渣60を安全に処理することができる。