特許第5714889号(P5714889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714889
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】油中水型エマルジョンの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/00 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   B01J13/00 A
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2010-289245(P2010-289245)
(22)【出願日】2010年12月27日
(65)【公開番号】特開2011-140020(P2011-140020A)
(43)【公開日】2011年7月21日
【審査請求日】2013年10月3日
(31)【優先権主張番号】PI 0905253-4
(32)【優先日】2009年12月28日
(33)【優先権主張国】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ − ペトロブラス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100132492
【弁理士】
【氏名又は名称】弓削 麻理
(74)【代理人】
【識別番号】100088926
【弁理士】
【氏名又は名称】長沼 暉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(74)【代理人】
【識別番号】100097870
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 斎子
(74)【代理人】
【識別番号】100140556
【弁理士】
【氏名又は名称】新村 守男
(74)【代理人】
【識別番号】100114719
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 久司
(74)【代理人】
【識別番号】100143258
【弁理士】
【氏名又は名称】長瀬 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100124969
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100163485
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100112243
【弁理士】
【氏名又は名称】下村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】レジーナ セリア ロレンコ ギマレス
(72)【発明者】
【氏名】ビアンカ マチャド ダ シルバ フェレイラ
(72)【発明者】
【氏名】マリア デ ファティマ ペレイラ ドス サントス
(72)【発明者】
【氏名】リカルド アンドレ グァルニエリ
(72)【発明者】
【氏名】モントセラト、フォルチュニイ エレディア
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ ダリバ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドレ フェレイラ サントス
(72)【発明者】
【氏名】リタ デ カシア ボンフィン レモス
(72)【発明者】
【氏名】リジアーネ ドス サントス フレイタス
【審査官】 川島 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/095279(WO,A1)
【文献】 特表2008−542024(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0185445(US,A1)
【文献】 J.G.Huddleston 他4名,Chemical Communications,1998年 8月21日,p.1765-1766
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00−13/22
B01D 17/04−17/05
C10G 1/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型エマルジョンの処理方法であって、
a)油相中の分散相として体積に関して0.5%〜85%の水を含有し、油相が重質石油であるW/Oエマルジョンに、1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムのテトラフルオロボラート又は1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムのヘキサフルオロホスファートのイオン性液体を含む、150℃未満の温度で液体状態の効果的な割合の一般式Cの塩[式中、Aはアニオンであり、Cはカチオン性基に結合する少なくとも1つの疎水性アルキル鎖を有するカチオンである]を、撹拌することにより添加して、式CとW/Oエマルジョンとの塩混合物を得る段階であって、式Cの塩はそのまま使用するか、或いは水又は有機溶媒に溶解させる段階;
b)a)において得られた混合物を、0.5bar〜200barの圧力下、25℃〜270℃の温度で5秒間〜120分間の間、加熱して、解乳化を行う段階;及び
c)b)において加熱された混合物を、分離機器を使用して、2つの別の相:主として水を含有する第1相及び油を含有する第2相に分離する段階
を含むことを特徴とする上記方法。
【請求項2】
W/Oエマルジョンの液滴径が少なくとも0.01μm、最高1000μmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
W/Oエマルジョンの水相が0〜280,000mg/Lの塩を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エマルジョン中の一般式Cの塩(イオン性液体)の濃度が、0.01μL/gから100μL/gまでの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
イオン性液体が、任意の割合での他のイオン性液体(単数又は複数)及び/又は従来の解乳化剤(単数又は複数)との混合物において使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
イオン性液体が、溶媒を添加することなく使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
イオン性液体が、アルコールを含む芳香族、脂肪族又はヒドロキシル化有機溶媒及び水から選択される溶媒中に溶解されて使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
芳香族有機溶媒がベンゼンであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
溶媒に対するイオン性液体の割合が、体積に関して1:0.01から1:100までであることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
イオン性液体が、再使用のために、W/Oエマルジョン分離プロセス後に回収されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
加熱が、電気を含む従来の加熱であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
熱が、1,000MHz〜300,000MHzの周波数で放射を発するマイクロ波エミッタを含む装置を使用してマイクロ波を印加することにより生成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
バッチプロセスで行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
連続プロセスで行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
イオン性液体によるW/Oエマルジョンの処理が、遠心分離、重力分離、超音波、ハイドロサイクロン、静電分離、濾過、膜を介した分離、又はこれらの技術の組合せと共に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型(W/O)エマルジョンの処理方法の分野に帰属し、さらに具体的にはイオン性液体及び加熱によりエマルジョンを安定化させるのにとりわけ適切な処理方法に属する。本発明の方法は、加熱がマイクロ波を使用して行われる、イオン性液体を用いたこれらの油中水型エマルジョンの処理をも含む。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体(IL)は、有機アニオン又は無機アニオンの両方に結合している有機カチオンを含む特定の種類の溶融塩を含む。イオン性液体は、溶融無機塩と強い化学的類似性を有し、主要な違いは、イオン性液体が、室温又は通常は100℃未満で液体であることである。
【0003】
イオン性液体の化学構造は、アニオン及びカチオンの多くの組合せを可能にして、様々な特性を有し、所定の適用のために設計され得る化合物を得ることを可能にする。
【0004】
アニオンとカチオンとの間の多様な組合せは、イオン性液体の物理的化学的特性にも影響する。一般に、アニオンの種類は、熱安定性及び水中でのその混和性をより強く決定する。挙げることができるこの後者の特性の例は、親水性アニオン(例えば塩化物やヨウ化物)であり、前記親水性アニオンは、PFアニオンが水へのILの溶解性を限定するため、水との任意の割合でのILに対して混和性を付与する。
【0005】
一方で、カチオンは、特に、粘度、融点、密度等の特性に主に影響する。
【0006】
最近では、イオン性液体の界面特性の研究が多くの注目を受けている。言及される一連のイオン性液体については、Bowlas,C.J.ら、「液晶イオン性液体(Liquid−crystalline ionic liquids)」、Chem.Commun.、14、1625〜1626頁、1996、Holbrey,J.D.、Seddon,K.R.J.、「1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートの相挙動(The Phase Behaviour of 1−alkyl−3−methylimiazolium tetrafluoroborates)」、J.Chem.Soc.、Dalton Trans.、13、2133〜2139頁、1999の論文の中で言及されるように、カチオン性鎖のテンソアクティブ剤により示されるものと同様の界面挙動及び凝集挙動が観察される。
【0007】
特定のイオン性液体の公知のテンソアクティブ能のため、イオン性液体が、エマルジョンのテンソアクティブ不安定化剤以外の何物でもない解乳化剤としての役割を果たす可能性を有する流体であり、且つ、イオン性液体の混合が、カチオンの炭化水素鎖の長さとアニオンの特性及び大きさとから生じる組合せプロセスであると結論することが可能である。
【0008】
解乳化化学剤は、石油エマルジョンの分解(breakup)に用いられてきている。この処理の効率は、媒質の粘度及びエマルジョンの安定性に依存し、さらに前記安定性は、天然テンソアクティブ剤の組成、塩類の含水率及び濃度、水滴の大きさの分布、並びに実験条件、例えばエマルジョンの温度、年数等に影響される。
【0009】
投入及びエネルギーの高消費をもたらす、特に温度に関してより厳密な条件がエマルジョンの不安定化のために必要とされる場合、重油から生成されるエマルジョンについて、これらの処理はあまり効率的でなかった。
【0010】
安定な石油エマルジョンの処理において有望であることがそれ自体示された新しい技術等は、マイクロ波領域における放射の適用に基づく。マイクロ波照射を使用して、石油エマルジョンの加熱を増進して、熱効果を介した水−油相の分離を促進することが可能である。これに加えて、マイクロ波は、エマルジョン化された液滴を保護する界面膜を占める極性型と相互作用し、故に界面中のテンソアクティブ剤の立体配座を改質し得る非熱的効果を促進し、故に不安定化に好都合であると考えられる。
【0011】
Fortuny,M.らによる論文「原油エマルジョンのマイクロ波解乳化に対する塩分濃度、温度、含水率及びpHの効果(Effect of salinity,temperature,water content,and pH on the microwave demulsification of crude oil emulsions)」、Energy & Fuels、21、1358〜1364頁、2007は、制御条件下でのマイクロ波エネルギー照射を介した処理の性能に対する油中水型(W/O)エマルジョンの特性の効果を理解しようと努めるわずかな研究の内の1つを石油分野の中に構成する。
【0012】
マイクロ波がもたらす効果は、極性分子(分極)と放射の電界により誘起される誘電材料の自由イオンとの負荷の再編成に基づく。
【0013】
この種の効果は、誘電加熱として知られており、マイクロ波と材料との間の相互作用の2つの古典的なメカニズムである双極子の回転及びイオン伝導により得ることが可能である。
【0014】
イオン性液体は、溶融塩であるので、電磁波とのその相互作用に好都合な誘電性を有する。ILは、マイクロ波を吸収し、続いてこの電磁エネルギーを熱に変換する高い能力を有する。実際、イオン性液体の誘電率は、電磁エネルギーを貯蔵する材料の能力を定量する。故に、高誘電率を有する物質は、マイクロ波照射を十分に吸収する傾向がある。
【0015】
特許文献には、油中水型エマルジョン処理の分野におけるマイクロ波の適用及びイオン性液体に関する少数の文書が示されている。
【0016】
故に、国際公開WO2001/012289号には、水と有機液体を分離するために有機液体中に水液滴を含むエマルジョンを処理するための方法であって、液滴を選択的に加熱するためにエマルジョンが300MHz〜100GHzの周波数でマイクロ波放射に供される上記方法が記載されている。選択された前記周波数で、液滴は、電磁放射を熱に変換する傾向がある。
【0017】
同じ出願人から公開された北米の出願、US2008/0221226において、原油に対して、少なくとも90%のエマルジョン処理効率を提供することを目的とする方法の一連の段階を体系化するためにマイクロ波によるW/Oエマルジョンの処理方法が記載されている。
【0018】
国際公開WO2006/111712号には、油中水型(W/O)又は水中油型(O/W)エマルジョン及びマイクロエマルジョンの安定化への界面活性剤としてのイオン性液体の適用が記載されている。界面活性剤として用いられるイオン性液体は、150℃の温度で液体状態で存在する一般式(I)Cの塩であり、カチオンC及びアニオンAの内の少なくとも1つは、イオン性頭部基に結合するペンディング疎水基を含み、Aは、リンを含有するアニオン又は一般式ROSO[式中、Rは、少なくとも8個の炭素原子を有するアルキル基である]のアルキル硫酸アニオンを表す。
【0019】
国際公開WO2006/131699号において、150℃未満の温度で液体状態の塩であるイオン性液体のエマルジョンと油とを破壊するための方法であって、
a)マイクロ波放射をエマルジョンに照射する段階;
b)イオン性液体を含む相及び油相の中のエマルジョンを分離する段階;及び
c)前記相の内の少なくとも1つを回収する段階
を含む上記方法が記載されている。
【0020】
イオン性液体を含むエマルジョンは、この化合物が、多環芳香族化合物及び硫酸化合物の抽出剤として、又は有機反応における触媒として使用される方法において形成され得る。これらの方法において、続く精製及び再使用のためにイオン性液体を含む相の迅速な分離を促進することが興味深い。
【0021】
国際公開WO2007/138307号は、塩基性イオン性液体が抽出剤として使用される硫酸型の原油の基質又は石油の蒸留物のための抽出方法を示す。
【0022】
イオン性液体の塩基度は、分子の各カチオン及び/又はアニオン部分に組み込まれる特定の官能基について確認され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、文献において利用可能な文書の範囲にもかかわらず、分離が効果的であり、同時にエネルギー消費が低いW/Oエマルジョンの処理方法が、依然として必要である。
【0024】
以下に記載される方法は、解乳化剤としての役割を果たすイオン性液体と加熱源との存在下でのW/Oエマルジョンの処理を示し、ここで、エマルジョンの破壊を可能にするための加熱は従来の熱的手段を使用して、又はマイクロ波等の高周波エネルギーを使用して行われる。解乳化剤としてのイオン性液体の適用は、マイクロ波照射と組み合わせる場合、特に有用であり、W/O界面にマイクロ波を向けることを可能にし、エマルジョンの安定性の原因である保護膜の不安定化を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
概要として、安定なW/Oエマルジョンの処理のための本発明の方法は:
油相中の分散相として体積に関して0.5%〜85%の水を含有するW/Oエマルジョンに、150℃未満の温度で液体状態の効果的な割合の一般式Cの塩[式中、Aはアニオンであり、Cはカチオン性基に結合する少なくとも1つの疎水性アルキル鎖を有するカチオンである]を、撹拌することにより添加して、C式とW/Oエマルジョンとの塩混合物を得る段階であって、C式の塩はそのまま使用するか、或いは水又は有機溶媒に溶解させる段階;
a)a)において得られた混合物を、0.5bar〜200barの圧力下、25℃〜270℃の温度で5秒間〜120分間の間、加熱して解乳化を行う段階;及び
b)b)において加熱された混合物を、分離機器を使用して、2つの別の相:主として水を含有する第1相及び油を含有する第2相に分離する段階
を含む。
【0026】
任意の段階は、再使用のためのイオン性液体の回収である。
【0027】
故に、本発明は、W/Oエマルジョンの処理方法であって、このエマルジョンにイオン性液体を添加し、解乳化条件下でこれを加熱し、分離器で分離し、成分を回収することによる上記方法を明示するものであって、前記方法は、バッチ様式又は連続様式で行うことが可能である。
【0028】
本発明は、このエマルジョンにイオン性液体を添加することによるW/Oエマルジョンの処理方法であって、分離が望まれるエマルジョンの加熱がマイクロ波エネルギー等の高周波エネルギーにより行われるため、W/O界面にマイクロ波が向けられ、エマルジョンの安定性の原因である保護膜の不安定化を促進する上記方法をも明示するものである。
【0029】
本発明は、このエマルジョンへのイオン性液体の添加を介したW/Oエマルジョンの処理方法であって、
a)0〜280,000mg/Lの割合で塩を含有するエマルジョン;
b)体積に関して0.5%〜85%の水を含有するエマルジョン;
c)0.01μm〜1000μmの液滴径のため
に適用可能な上記方法をも明示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】例1に適用される時間に対する加熱及び電力曲線を示す。
図2】例1についての、初期エマルジョン並びにマイクロ波処理(ILを添加せず)後にフラスコ3及び7の上部で採取されたエマルジョンの液滴径分布を示す。
図3】例6についての、初期エマルジョン並びにマイクロ波処理(ILを添加せず)後にフラスコ3及び7の上部で採取されたエマルジョンの液滴径分布(DSD)を示す。
図4】例6の試験D942Bにおける、初期エマルジョン並びに処理(化学添加剤を添加せず)後にフラスコ3及び7の上部で採取されたエマルジョンの液滴径分布(DSD)を示す。
図5】1000Wの定電力下で行われた加熱試験についての水加熱曲線(IL及びD942)を示す。
図6】500Wの定電力下で行われた加熱試験についての水加熱曲線(IL及びD942)を示す。
図7】別の処理温度の下でomimBF4及びomimPF6を使用した処理の効率の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、イオン性液体(IL)の存在下でのW/Oエマルジョンの処理方法であって、イオン性液体をW/Oエマルジョンに添加し、続いてエマルジョン成分の加熱及び分離を行い、次いで前記エマルジョン成分を任意の認識された手段により回収する上記方法に関する。場合により、イオン性液体は、再使用のために回収される。本発明による方法は:
a)油相中の分散相として体積に関して0.5%〜85%の水を含有するW/Oエマルジョンに、150℃未満の温度で液体状態の効果的な割合の一般式Cの塩[式中、Aはアニオンであり、Cはカチオン性基に結合する少なくとも1つの疎水性アルキル鎖を有するカチオンである]を、撹拌することにより添加して、式Cの塩とW/Oエマルジョンとの塩混合物を得る段階であって、式Cの塩はこのまま使用するか、或いは水又は有機溶媒に溶解させる段階;
b)a)において得られた混合物を、0.5bar〜200barの圧力下、25℃〜270℃の温度で5秒間〜120分間の間、加熱して解乳化を行う段階;及び
c)b)において加熱された混合物を、分離機器を使用して、2つの別の相:大部分が水を含有する第1相及び油を含有する第2相に分離する段階
を含む。
【0032】
任意選択の段階は、再使用のためのイオン性液体の回収である。
【0033】
ILの油相及び水相の親和性が同時に与えられる場合、本発明の範囲により包含されるエマルジョンは、合成エマルジョン又は天然エマルジョンのいずれかを有する、油性連続相中に分散する水相を含むものである。本発明によれば、水相は、最高280,000mg/Lの塩割合を含む食塩溶液までの蒸留水であると理解され得る。
【0034】
前記方法は、とりわけ、0.01μm〜200μmの液滴径を有するいわゆる安定エマルジョンを対象とする。エマルジョン中の水の割合は、体積に関して0.5%〜85%の間で、典型的には体積に関して30%〜50%の値で変化する。
【0035】
油相は、原油、石油、蒸留物等の鉱物油相、合成油、並びに原料のままの状態又は精製された状態のいずれかの食用油等の植物由来の油、或いは動物由来の油等の他の油脂を含む。石油等の鉱物油相の場合、7〜30の範囲内のAPIグレードを有する石油が、本明細書における方法を使用して処理され得る。
【0036】
ILは解乳化の可能性を有し、一般式を有する塩のための本発明のW/Oエマルジョン処理方法に有用であると考えられる。ILは、150℃未満の温度で液体状態で存在し、ここでAはアニオンであり、Cは、カチオン基に結合する少なくとも1つの疎水性アルキル鎖を有するカチオンである。これらの塩において、両親媒特性は、カチオンにより提供される。
【0037】
本発明の目的ために有用なILの中では、複素芳香族カチオンの化合物、例えばn−アルキルピリジニウム、1.3−ジアルキル−イミダゾリウム、1.2.3−トリアルキル−イミダゾリウム、1.1−ジアルキル−ピペリジン、1.1−ジアルキル−ピロリジニウム、有機カチオンの化合物、例えばトリアルキルスルホニウム、テトラアルキルアンモニウム又はホスホニウム、並びに無機アニオン及び有機アニオン、例えばCl、Br、I、BF、PF、NO、(CFSO、SbF、CFSO、HSO、CHSO、SCNを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。関連する他の有機アニオンは、スルフェート、スルホネート、ホスフェート、アセテート及びニトレートに基づいてよい。実際のアルキル基は、1〜18個の炭素原子を有する。
【0038】
優先的には、使用されるイオン性液体は、1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムのテトラフルオロボレート、1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムのヘキサフルオロホスフェート、並びに1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムのヘキサフルオロホスフェートであるが、それはこれらが良好な分離効率を示すからである。
【0039】
W/Oエマルジョンへのイオン性液体の添加は、エマルジョン中のイオン性液体の濃度が0.01μL/g〜100μL/gの範囲の値に達するまで行われる。
【0040】
IL及び従来の解乳化生成物の両方が同様の作用機構を有するので、本発明にとって有用なILは、ILの混合物や任意の割合でのILと従来の解乳化剤との混合物等の混合系の形態で適用され得る。
【0041】
一般に、イオン性液体は、体積に関して1:0.01〜1:100の間で変化する割合で溶媒中に溶解されて使用されるが、溶媒は、アルコールを含む芳香族、脂肪族又はヒドロキシル化有機溶媒及び水から選択され、優先的に使用される芳香族溶剤はベンゼンである。イオン性液体は、溶媒を用いることなく使用することも可能である。
【0042】
本発明は、概してバッチ様式により記載されたが、著しい改変を行うことなくこれが連続プロセスに適用されることは、専門家には明らかである。これらのプロセスは、その分野の技術者の領域内の適応に基づく試験台規模又は工業規模で行われる。
【0043】
マイクロ波をエマルジョン化媒質の加熱源として使用する場合はいつでも、マイクロ波機器は、1000MHz〜300,000MHzの周波数で放射を発するマイクロ波エミッタを含む任意の装置である。
【0044】
本発明に従って、従来の加熱は、電気の作用を用いる加熱を含む伝導及び対流の機構に基づいた熱交換及び電気的抵抗装置の使用を意味する。
【0045】
この方法のために適用可能な温度は25℃〜270℃の範囲に及び、それは一次処理並びに精製前の石油において行われる脱塩における両方の適用を包含する。
【0046】
処理時間は、5秒間〜120分間の範囲に及ぶ。故に、これらは、短い滞流期間を伴うバッチプロセス及び連続プロセスを含む。
【0047】
イオン性液体によるW/Oエマルジョンの処理のための本明細書で記載される方法は、遠心分離、重力分離、超音波、ハイドロサイクロン、静電分離、濾過、膜を介した分離の技術又はこれらの技術の組合せと共に用いることが可能である。
【0048】
試験が単に減圧のみを参照するにもかかわらず、圧力が、提案された解乳化機構に対する主要な影響を有するとは予想されない。故に、高圧によるプロセスにおいてもILを適用することが可能である。この理由のために、絶対圧力条件は、0〜20MPa(0〜200bar)の範囲に及ぶもの並びに石油一次処理ユニットにおいて(生産ユニットにおいて)及び脱塩ユニットにおいて(精油所で)典型的に用いられる値を含むものである。
【0049】
まさに従来の解乳化生成物が遠心分離、重力分離、超音波等の技術と共に使用されるように、本発明は、従来使用される機器を備えた分離プロセスを用いると同時にILを添加することを包含する。
【0050】
以下で示される実験法は、イオン性液体の添加、及び/又は記載される実施例において用いられるマイクロ波放射に対する曝露の後の、エマルジョンの調製、解乳化試験、及びエマルジョンの分析を記載する。
【0051】
エマルジョンの調製
連続相としてAPI24.6のグレードの重質石油と、分散相として蒸留水及びブライン(50g/LのNaClの濃度)とを使用して機械的分散機による集中的均質化を介してエマルジョンを調製する。
【0052】
合成エマルジョンは、体積に関しておよそ30%〜50%で変化する含水率と、3μm〜4μmの平均液滴径とを有し、この直径は、非常に安定なエマルジョンに相当する。固定された粒度分布を有する合成エマルジョンの高安定性の結果として、マイクロ波を介した破壊プロセスにおける遊離水の形成は、解乳化剤の添加により観察されるだけである。これらの結果は、90℃の一定温度及び30分間の処理時間で行われる誘電加熱を介した破壊試験において観察される。これらの同じ条件の下で、10μm〜30μmの平均径を有するエマルジョンは、解乳化剤の添加のないマイクロ波を介した破壊プロセスにおいてほとんど全体の相分離(残留エマルジョンの含水率は1.5%未満)を示した。
【0053】
マイクロ波による解乳化試験
典型的には出願人により使用されたイオン性液体又は解乳化剤の存在下及び非存在下で、マイクロ波反応器においてエマルジョン破壊試験を行う。
【0054】
マイクロ波を介した破壊試験を、65℃〜120℃の値に設定される一定温度、及び13〜30分間の処理時間で、Anton PaarのSynthos3000反応器において行う。すべての試験において、4つの石英フラスコを、反応器内の位置1、3、5及び7に設置して使用した。すべてのフラスコに、30gのエマルジョン質量を充填する。これに加えて、位置1及び5に設置されたフラスコ内において、既知量のイオン性液体又は市販の解乳化剤を、以下で示される方法に従って添加する。故に、各試験について、2つのフラスコ(1及び5)内においては、破壊効率に対する化学剤及びマイクロ波の相乗効果を評価するが、一方で他の2つのフラスコ(反応器の位置3及び7)内においては、分離に対するマイクロ波の効果だけを評価する。
【0055】
従来の解乳化剤試験
従来の加熱の下で行う破壊試験を、熱流体としての水とマイクロ波反応器内において典型的に使用される石英フラスコとを使用する恒温浴中で行う。
【0056】
従来の加熱試験における実験条件は、90℃の温度及び45分間の処理時間である。この処理時間は、従来のプロセスがこの種の系のための誘電加熱よりも非常に遅い加熱方法であるので、マイクロ波試験において使用される量を上回る。API24.6グレードの油を有する合成石油エマルジョンの加熱試験において、かかるエマルジョンは、石英フラスコ内に挿入される場合、熱交換の開始から15分後に90℃の温度に達することが確認された。故に、試料を設定温度で維持する30分間を加えた、試料を加熱するための15分間を含む従来の処理のための45分間の時間を設定する。
【0057】
イオン性液体及び解乳化剤の添加
この報告において示される試験において、1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウム(omimBF4)のテトラフルオロボレートや1−n−オクチル−メチルイミダゾリウムのヘキサフルオロホスフェート等のイオン性液体及び市販の解乳化剤Dissolvan942(D942)を対照として使用する。本発明の目的のために多くの他の異なるイオン性液体及び市販の解乳化剤も有用であり、これらの変形物は、添付の請求の範囲の内容のみにより限定される本発明の範囲内に全体として包含されることは、当業者に明らかである。
【0058】
かかる化学物質を合成エマルジョンに添加するため、3つの別の方法を用いる。
a)遠心分離フラスコ内での手動混合を介したエマルジョン中のILの均質化(ビン試験において使用されるものと同等の系)。この系において、混合物は、90gのエマルジョンと、ベンゼンにおけるILの100μLの溶液の添加物とから成る。この溶液は、2.01gのILと1mLのベンゼンとの混合物から成る。IL/溶媒の体積に関しての1:0.01〜1:100の範囲に及ぶ割合が許容され得る。溶媒は、アルコール及び水を含む芳香族、脂肪族又はヒドロキシル化溶媒である。溶媒の使用は、エマルジョン中へのILの混合を促進する;
b)機械的分散機を使用する混合を介したエマルジョン中のILの均質化。この系において、混合物は、180gのエマルジョンと、200μLのベンゼン中IL溶液の添加物とから成り、以前の段階において得られた同じ割合を維持しようとする。
c)機械的分散機を使用する混合による、エマルジョン中のトルエン溶液(体積に関して25%)の形態の、添加される溶媒やD942解乳化剤を含まないILの均質化。
【0059】
この系において、混合物は、90gのエマルジョンと、既知量のIL又は90gのエマルジョンの添加物と、D942に基づく20μLの解乳化溶液とから成る。
【0060】
試験後のエマルジョンの分析
破壊試験の後、試料を、60℃の温度に達するまで10分間冷却する。この後、以下の分離プロセスの進行の程度の結果として異なる方法に従って試料を特性評価する。
a)遊離水形成を示さない試料:非分解エマルジョンの上部から試料を採取し、含水率(カールフィッシャー試薬を用いた電位差滴定法)及び液滴径分布(レーザ回折を介して)を確認する。
これらの確認は、水液滴の凝集及び/又は重力沈降の進行の程度を示す。
b)遊離水形成を示す試料:非分解油及び/又はエマルジョン相を、全体として試料採取し、含水率について特性評価する。この特性評価に基づいて、分離効率(SE)を、以下の式:
【数1】

[式中:TA及びTAは、それぞれ合成エマルジョンの初期含水率及び非分解エマルジョンの含水率を表す]に基づいて算出する。
【0061】
以下、本発明の例証となる実施例が示される。
【実施例】
【0062】
(例1)
本例では、反応器内に挿入された2つの試料に対してイオン性液体と共にマイクロ波加熱系を使用することを示し、解乳化剤としてomimBF4イオン性液体を使用し、手動混合し、事前にベンゼンに可溶化されたILとエマルジョンの分散相としての蒸留水を添加する。
【0063】
この試験における合成エマルジョンは、以下の初期特性:含水率=31.7%及びD(05)=3.5μmを示す。処理時間は、13.5分間である。
【0064】
図1は、実験に亘ってマイクロ波反応器の赤外線センサ及びガス膨張センサにより与えられる印加電力曲線及び加熱曲線を示す。ガスセンサが、位置1に設置される石英のフラスコのエマルジョンの中に浸漬され、IRセンサが、石英の各フラスコの裏面外側での温度を提供することは、指摘するに値する。石英のフラスコの厚みが大きいので、両センサの測定値の間に有意差がある。系がいかなる遊離水の形成も示さない場合、ガスセンサの温度は、IRセンサにより明示される温度よりも約30℃高い。
【0065】
遊離水が系内に形成されるにつれて、この水はフラスコの底に蓄積し、著しい量のマイクロ波放射を吸収し、これは分離水の温度の増大の結果として熱に変換される。故に、この種の試験における遊離水の形成は、IRセンサを介して明示される温度の増加により容易に確認され得る。
【0066】
図1は、ILが添加されたフラスコ1及び5についてのこの種の挙動を示す。我々は、ILを添加した又は添加しない結果としての加熱曲線の別の挙動をも示す。
【0067】
加熱曲線において観察された結果は、各フラスコ内で得られた分離の効率を決定することにより実験終了時に確認される。
【0068】
フラスコ3及び7は、遊離水形成を示さず、開始される重力沈降のプロセスも有さない。ILを添加したフラスコ1及び5において、遊離水の形成と、少なくとも30%の効率とが示される。
【0069】
以下の表1に、FRと称される別々のフラスコについて例1において得られた初期及び最終の含水率と分離効率(SE%)とを列挙する。
【表1】
【0070】
図2は、初期エマルジョン並びにマイクロ波を介した処理の後のフラスコ3及び7内にある非分解エマルジョンの液滴径分布(DSD)を示す。試料3及び7では、より大きな液滴径に関する分布の発生を介する凝集プロセスの開始に注意が必要である。しかし、この凝集は相対的にスムーズであり、プロセスの間に十分に大きな直径を有する液滴を形成して重力で沈降することが生じるのに十分でない。この点で、マイクロ波の印加でも遊離水の形成を開始するために効果的でないので、エマルジョンは十分に安定であると考えることができる。
【0071】
これらの実験において使用したILの濃度が、本出願人がこの方法を開発することにつながった研究において用いられた、典型的には解乳化剤で用いられるものの範囲と同等の上で示された濃度の範囲の下限であることにも注意するべきである。マイクロ波と共にこれらの低濃度のILを添加することの効果は、相乗効果によるエマルジョンの破壊効率の増加を明らかに促進する。
【0072】
(例2)
本例において、マイクロ波及び従来の加熱の系を、omimBF4イオン性液体と共に使用するが、それは手動で混合され、ベンゼンにおいて可溶化されたILとエマルジョンの分散相としての蒸留水との添加が行われる。
【0073】
従来の加熱系と同様にマイクロ波反応器内に配置した試料の内の2つにイオン性液体を挿入する。この試験における合成エマルジョンは、以下の初期特性:含水率=32.9%及びD(0.5)=3.1μmを示す。処理時間は30分間である。
【0074】
本例に亘ってマイクロ波反応器の赤外線センサ及びガス膨張センサにより与えられる加熱曲線は、図1で示されたものと同様であり、フラスコ1及び5のIRセンサの温度の増加は、ILの添加による遊離水形成のプロセスの開始を示す。
【0075】
これらの結果は、各フラスコにおいて明示される初期含水率及び効率が示される以下の表2に列挙されるデータにより確認される。ILを添加したフラスコについては遊離水の形成が示され、ILが添加されないエマルジョンを含むフラスコは、遊離水形成や重力沈降の開始を示さない。
【0076】
表2は、誘電加熱に供した試料において用いられたものと同じ濃度でILが添加された従来の加熱試験において得られた結果をも示す。従来の試験の終了時、遊離水の形成を認めず、したがってフラスコの上部にあるエマルジョンは4.4%の含水率を示し、これは重力沈降のプロセスが開始したことを示す。
【表2】
【0077】
ここで示される結果に基づいて、使用されたイオン性液体は、W/Oエマルジョンにおいて解乳化剤としての役割を果たす(作用機構は依然として不明)と推測することができる。なお、ILのテンソアクティブがW/Oエマルジョンの安定性の増加を誘起する可能性がある場合、この効果は些細なものではない。
【0078】
表2のデータから結論を下すことができる別の一局面は、ILの解乳化効果がマイクロ波放射により強められることであり、このことは、ILとマイクロ波との併用が石油のW/Oエマルジョンの破壊における高度に有望な一局面であることを示唆する。
【0079】
(例3)
例1及び2におけるマイクロ波反応器内に配置されたフラスコ1及び5において得られた最終含水率の値の有意差を鑑み、且つこれらの有意差が、効果が不十分なエマルジョンとのILの混合方法(手動混合系)に起因し得ることを考慮して、機械的分散機を使用してイオン性液体を均質化する試験を行った。これに加えて、有害物質の使用を最小限に抑えるため、ILをベンゼンと混合することなくそのまま添加する。この試験において、マイクロ波加熱系を、omimBF4イオン性液体と共に使用するが、それにおいて、ホモジナイザにより混合物が作製され、いずれの溶媒も用いることなくILが添加され、蒸留水がエマルジョンの分散相として使用される。マイクロ波反応器内に配置された2つの試料においてイオン性液体を添加する。この実験において合成されたエマルジョンは、以下の初期特性:含水率=33.4%及びD(0.5)=3.1μmを有する。処理時間は30分間である。
【0080】
例3の実験に亘ってマイクロ波反応器の赤外線センサ及びガス膨張センサにより与えられる電力印加曲線及び加熱曲線は、図1で示されたものと同様であり、フラスコ1及び5のIRセンサの温度の増加は、ILの添加による遊離水形成プロセスの開始を証明する。
【0081】
表3は、試料において認められた初期含水率及び効率の結果を示す。また、ILが添加された試料は、遊離水形成と、およそ60%の分離効率とを示した。なお、ILが添加された2つのフラスコは、非常に類似した効率の結果を示す。これに加えて、フラスコ3及び7は、遊離水形成や重力沈降プロセスの開始を示さない。
【表3】
【0082】
(例4)
この試験において、マイクロ波及び従来の加熱の系を、omimBF4イオン性液体と共に使用するが、それはホモジナイザにより混合され、溶媒の非存在下でILが添加され、分散相は蒸留水である。
【0083】
従来の加熱系におけるようにマイクロ波反応器内に配置された2つの試料においてイオン性液体を添加する。この試験における合成エマルジョンは、以下の初期特性:含水率=33.3%及びD(0.5)=3.2μmを示す。処理時間は30分間である。
【0084】
この試験の結果は、以前の試験において明らかにされたものと一致する。
【0085】
マイクロ波系におけるILの添加は、約50%の効率で、使用した2つのフラスコにおいて同様の値でエマルジョンの破壊をもたらす。
【0086】
ILを添加せずに処理した試料は、分散相からの水液滴の小さな凝集だけを示す。
【0087】
初期エマルジョン並びにフラスコ3及び7の非分解エマルジョンについての液滴径の分布は、図2に示されたものと同様である。
【0088】
以下の表4は、これらの実験において得られた初期含水率データ及び分離効率を示す。
【表4】
【0089】
なお、従来の加熱を受ける系について、試料は遊離水形成を示さないが(SE=0)、エマルジョンは、重力沈降のプロセスを既に開始しており、このことはフラスコの上部にある残留エマルジョンにおける初期レベルの含水率を下回る含水率を示す。また、ILは、系の解乳化を促進し、その効果はマイクロ波の作用により増進される。
【0090】
(例5)
本例は、この報告において上で記載した添加方法c)に従って反応器に挿入された2つの試料においてomimBF4イオン性液体及びD942解乳化剤を使用するマイクロ波加熱系の使用を示す。
【0091】
エマルジョンにおけるD942解乳化剤の濃度は、0.056μL/gである。これらのエマルジョンにおいて用いられる分散相は、以下の初期特性をもたらす蒸留水である。
−D942による実験:含水率=32.2%及びD(0.5)=3.2μm。
−omimBF4による実験:含水率=34.6%及びD(0.5)=3.5μm。
【0092】
乳化剤が添加されるD492試験において、解乳化剤の性能に対する従来の方法及びマイクロ波加熱方法の効果を比較する目的で従来の加熱試験を行う。
【0093】
他の例のように、omimBF4イオン性液体及びD942A(その中のAは、エマルジョンに塩類が添加されないで実験が行われることを示す)による試験に亘ってマイクロ波反応器の赤外線センサ及びガス膨張センサにより与えられる電力印加曲線及び加熱曲線は、IRセンサの温度を増加させることにより化学添加剤を添加するフラスコ1及び5内の遊離水の形成を示す。化学添加剤の添加は、これらの試験において用いられる条件の下での遊離水の形成に不可欠である。加熱曲線において観察される結果を、各フラスコ内で得られた分離の効率を決定することにより試験終了時に確認する。フラスコ3及び7は両試験において遊離水形成を示さず、重力沈降のプロセスも開始しない。しかし、化学添加剤を有するフラスコ1及び5においては、両試験についての遊離水の形成及び高効率が言及される。
【0094】
以下の表5に、別々のフラスコについての初期及び最終の含水率と分離効率とを列挙する。
【表5】
【0095】
上の表5において、化学添加剤を使用する場合、主に使用された添加剤がD942乳化剤である場合、両試験において達成された効率は非常に高いことが言及される。この点で、解乳化剤の性能はわずかに優れている。高効率は、D942Aによる試験における合成エマルジョンに基づくD942解乳化剤を使用する従来の加熱試験においても認められる。
【0096】
この試験の効率は結果として83.4%の値になり、したがってこれはマイクロ波加熱による試験において認められたものよりわずかに低く、このことは誘電加熱法が解乳化作用を増進することを示す。
【0097】
初期エマルジョンと、両試験(イオン性液体及び解乳化剤)のためのマイクロ波処理の後のフラスコ3及び7にある非分解エマルジョンの液滴径分布(DSO)は、図2について認められるものと非常に類似した形態を示し、凝集の開始を伴うが、それは、プロセスの間の重力沈降に十分に非常に大きな直径を有する液滴の形成をもたらすには不十分である。この点で、マイクロ波の印加でさえ遊離水の形成の開始に効果的でないので、前記エマルジョンは十分に安定であると考えることができる。
【0098】
(例6)
本例は、この報告において上で記載された添加方法c)を使用して反応器に挿入される2つの試料においてomimBF4イオン性液体及びD942B解乳化剤(その中のBは、NaClの存在下で添加剤により実験が行われることを示す)を使用するマイクロ波加熱系の使用を示す。これらのエマルジョンにおいて用いられる分散相は、50g/LのNACl濃度を有するブラインである。両試験において、以下の初期特性:含水率=31.5%及びD(0.5)=2.8μmを有する同じエマルジョンを使用する。D942乳化剤の濃度は、0.056μL/gである。
【0099】
例6の試験に亘ってマイクロ波反応器の赤外線センサ及びガス膨張センサにより得られる電力印加曲線及び加熱曲線は、図1のものと同様の形態を示し、故に示されない。
【0100】
結果は、各フラスコにおいて明示された効率が示される表6のデータにより確認される。ILが添加されたフラスコにおいて遊離水形成が言及されるが、一方でILが添加されないエマルジョンを含有するフラスコにおいては、遊離水形成や重力沈降の開始は認められない。
【0101】
表6において、両方の化学添加剤(IL及び解乳化剤)は、行われた試験において同様の解乳化の結果を生じたことが言及される。エマルジョンにおける分散相としてのブラインの使用は、分散相中においてNaClを用いることのないより以前の試験において用いられたエマルジョンよりも安定なエマルジョンの形成をもたらす。
【表6】
【0102】
安定性の増加は、フラスコ3及び7に挿入された試料についての破壊試験終了時に測定されるDSD(液滴径分布)を用いて立証され得る(この点については、図3及び4を参照すること)。なお、マイクロ波を介した破壊試験の後で測定されたDSDは、初期エマルジョンの分布と比較した場合、いかなる関連の変化も示さないが、このことは凝集プロセスがまだ開始されていないことを意味する。なお、分散相中においてNaClを用いることのないエマルジョンによる試験において、化学添加剤を用いずにエマルジョンの凝集現象の開始が認められる。エマルジョンの安定性の増加に伴い、分離に対するD942B解乳化剤の性能はより低くなり、これにより、D942A試験(分散相中においてNaClを用いることのないエマルジョン)と比較した場合、解乳化効率はより低くなる。一方で、これらのより安定なエマルジョンについて、イオン性液体の添加により行われた試験は、omimBF4A試験(分散相中においてNaClを用いることのないエマルジョン)において認められたものと同等の性能を示すが、これにより、フラスコ1において添加された試料の特定の場合においても効率がより高くなる。これらの結果は、水相がある割合の塩を含むエマルジョンにおけるILの向上した性能を示す。
【0103】
(例7)
本例は、ホモジナイザにより混合され、溶媒を用いることなくILが添加されたomimPF6イオン性液体を用いるマイクロ波及び従来の加熱の系の使用を示す。従来の加熱系におけるように、マイクロ波反応器内に配置される試料の内の2つにおいてイオン性液体を添加する。このエマルジョンにおいて使用される分散相は蒸留水である。この試験における合成エマルジョンは、以下の初期特性:含水率=50.9%及びD(0.5)=2.5μmを示す。処理時間は30分間である。
【0104】
マイクロ波系におけるILの添加は、約78%の効率で、使用する2つのフラスコにおいて同様の値でエマルジョンの破壊をもたらす。
【0105】
添加されたILで処理されない試料は、重力沈降の開始を示すフラスコの上部の含水率の減少を示すにもかかわらず、遊離水のあらゆる形成を示す。
【0106】
これらの結果は、合成エマルジョンが、エマルジョンに組み込まれる高含水率のため、より以前の試験において使用されたエマルジョンよりも安定でないことを示す。分散相の液滴の数の増加は、液滴とそれらのその後の凝集との間の接触に好都合である。このように、重力の作用により沈降し得るより大きな直径の液滴が形成される。
【0107】
以下の表7は、これらの実験において得られた初期及び最終の含水率と分離効率とのデータを示す。
【0108】
従来の加熱を受けた系について、試料は遊離水形成を示し、プロセスの効率は70.0%であり、それはマイクロ波照射が使用される試験において認められた効率よりもわずかに低いことが明らかである。また、ILは系の解乳化を促進し、その効果はマイクロ波の作用により増進される。
【表7】
【0109】
D942解乳化剤の誘電体加熱曲線
解乳化剤が、イオン性液体について認められるものと同等の加熱速度を有するのかどうかを決定するため、D942乳化剤の試料のマイクロ波加熱試験を行い、水及びイオン性液体についてのより以前の研究において算出された曲線と比較する。
【0110】
加熱試験は、ロータが定電力(1000W及び500W)を維持しながら位置するマイクロ波空洞内の照射から成る。
【0111】
ロータに、位置1で15mLの解乳化剤の試料を充填し、位置3、5及び7で15mLの水の試料を充填する。図5及び図6は、関連の3成分:水、IL及びD942についての加熱曲線(温度対時間)を示す。
【0112】
なお、図5及び6において、研究された温度範囲内のより高い加熱速度を示す化合物はILである。この結果は、500Wの定電力の下で算出される曲線を主に使用して示される。
【0113】
解乳化剤の加熱に関して、両方の試験についておよそ90℃の温度限界に言及することが可能であり、その後、系は、ゼロの加熱速度を達成する。D492解乳化剤の試料において認められた結果は、解乳化剤の可溶化において使用された溶媒の内の1つに起因した可能性があった。
【0114】
解乳化の効率に実質的に影響する別の実験条件は、プロセスの温度である。
【0115】
図7は、別々の処理温度で行われたomimBF4についての試験とomimPF6についての試験との結果のグラフを示す。
【0116】
これらの試験に用いた条件は:30分間の作業時間、30%近くのエマルジョンの含水率、蒸留水の分散相、約3μmの平均液滴径、及び急速な加熱プロファイル、である。明示された加熱プロファイルが、120℃のより高い温度で行われる試験についても、最高3分間で各試験における所望の温度に到達することを可能にすることは、指摘するに値する。
【0117】
図7から、プロセスの温度に伴って処理の効率が増加することが認められる。この効果は、omimPF6により行われる試験についてとりわけ強められる。これらの試験において認められた温度の影響は、凝集速度及び水液滴沈降速度並びに油相の粘度及び中間相のイオン性液体の拡散速度が温度によって広く影響されるに相違なく、それによってより高い温度が適用される場合に急速な解乳化動力学がもたらされるという事実により説明され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7