(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5714895
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】魚類を用いた植物生理活性物質の濃縮・蓄積方法
(51)【国際特許分類】
A23K 1/18 20060101AFI20150416BHJP
A23K 1/00 20060101ALI20150416BHJP
A23K 1/16 20060101ALI20150416BHJP
A23L 1/30 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
A23K1/18 102A
A23K1/00 103
A23K1/16 301B
A23K1/16 304C
A23L1/30 A
A23L1/30 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-505318(P2010-505318)
(86)(22)【出願日】2009年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2009001228
(87)【国際公開番号】WO2009119047
(87)【国際公開日】20091001
【審査請求日】2012年3月12日
【審判番号】不服2013-22147(P2013-22147/J1)
【審判請求日】2013年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2008-77700(P2008-77700)
(32)【優先日】2008年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508090332
【氏名又は名称】坂本飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(72)【発明者】
【氏名】潮 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】長阪 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大原 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩志
【合議体】
【審判長】
本郷 徹
【審判官】
中川 真一
【審判官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−50901(JP,A)
【文献】
特開2005−176799(JP,A)
【文献】
特開2005−29553(JP,A)
【文献】
特開平3−195460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 1/00 − 3/04
A23L 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠、米胚芽及び米胚芽抽出エキス、コンブ、及び大豆粉から選択されるγ−オリザノール、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製され、γ−オリザノールを10mg/配合飼料kg以上含有する、γ−オリザノール、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材を配合した養魚用配合飼料を養殖魚に飽食給餌により給餌し、養殖魚の筋肉部位へγ−オリザノールを蓄積させ、γ−オリザノールが蓄積・濃縮された養殖魚の筋肉部位を取得することを特徴とするγ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法。
【請求項2】
養殖魚が、サケ科、タイ科、又はウナギ科、アジ科又はサバ科の魚類であることを特徴とする請求項1記載のγ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法。
【請求項3】
サケ科、アジ科、タイ科、又はウナギ科の魚類が、それぞれニジマス、ブリ、マダイ、又はウナギであることを特徴とする請求項2記載のγ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法。
【請求項4】
養殖魚として、ニジマスを用い、γ−オリザノールを0.4mg/g筋肉以上蓄積させたことを特徴とする請求項1記載のγ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の製造方法によって製造されたγ−オリザノールが蓄積・濃縮された健康機能成分高含有食品素材を、食品製造原料として用いることを特徴とするγ−オリザノール健康機能を付与した健康食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類を用いた植物生理活性物質の濃縮・蓄積方法、特に、植物素材から、サケ科、タイ科、ウナギ科、アジ科又はサバ科の魚類のような魚類の生物濃縮を利用してγ−オリザノールや植物性ステロールのような健康機能性成分を濃縮・蓄積する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、米糠等に含まれるγ−オリザノールは、生長促進作用、性腺刺激作用、ビタミンE様作用、抗ストレス作用、脱コレステロール作用、抗高脂血症等の薬理作用や、抗酸化作用、紫外線吸収作用、チロシナーゼ活性抑制作用、皮膚温上昇作用等の生理活性作用が知られている。また、大豆等に含まれる植物性ステロールは、血液中のコレステロール低下作用等の生理活性作用があることが知られている。
【0003】
これら植物性ステロールやγ−オリザノールは、血中コレステロールレベルを下げる等の抗生活習慣病予防作用などの健康機能を有しているので、生活習慣病の予防或いは治療への利用が期待されている。しかし、かかる利用に際しては、植物性ステロールやγ−オリザノールなどは比較的高濃度の投与量を確保しないと、哺乳類に機能性をもたらさない。これは、これらの成分が腸管等に存在するステロール輸送体によって吸収されるが、哺乳類の輸送体の場合コレステロールに対する特異性が高いため、これらの成分の吸収が遅いためであると考えられる。
【0004】
そこで、従来より、これらの健康機能性成分を利用するにあたっては、該健康機能性成分を含有する植物素材からの機能性成分の抽出・分離精製を行い、その有効濃度を確保することが行なわれている。これらの健康機能性成分の有効濃度を確保するためには、該健康機能性成分を含有する植物素材から有機溶媒を用いて、該成分の大量抽出が行なわれている。例えば、穀類等から、γ−オリザノールのような健康機能性成分を濃縮・分離するために、穀類等からの溶媒による抽出・分離が行なわれており、かかる抽出・分離には一般に有機溶媒が用いられる。しかしながら、有機溶媒を用いた健康機能性成分の抽出では、残留有機溶媒が問題となるほか、ヘキサン、エタノール、アセトン、メタノールなど引火性の高い有機溶媒を用いる必要があり、その使用に多大な注意が必要となる。
【0005】
更に、植物素材から有機溶媒を用いて濃縮・分離された健康機能性成分を更に精製するには、更なる溶媒抽出や酵素処理、或いは蒸留のような処理が行なわれている。例えば、米糠等からのγ−オリザノール等の分離・精製においては、まず、米糠等から有機溶媒抽出によりγ−オリザノール等を含む米油が調製されるが、該γ−オリザノール等を含む米油を、健康機能素材として利用するために、更なる、精製処理が用いられ、各種の方法が開示されている。
【0006】
例えば、特開平6−340889号公報には、米糠原油を精製するに際し、真空下で水蒸気蒸留により、含有される脂肪酸除去し、オリザノール類を濃縮させた米油を製造する方法が開示されている。また、特開2000−119681号公報には、米糠から油を抽出する際に、米糠を予めアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ等の酵素を用いて処理し、炭化水素系有機溶剤で抽出することにより、オリザノールやステロールを1.8重量%以上含有する生理活性米糠油を製造することについて、特開2002−238455号公報には、米糠原料から原油を抽出し、該原油の脱ガム、脱ロウ、脱酸工程を経て、原油を精製する米油の製造方法において、原油を210〜250℃の蒸留温度で真空状態で蒸留し、更に、アルカリ処理して脱酸し、或いは原油の脱ガム、脱ロウ、脱臭工程を経て、原油を精製する米油の製造方法において、原油を減圧下、250℃以下で蒸留することにより脱臭し、γ−オリザノールやトコフェノール、ステロール等を含有する米油を製造する方法が開示されている。
【0007】
また、特開2002−293793号公報、特開2004−300034号公報には、米糠油ソープストックに水酸化ナトリウムのようなアルカリを加えて鹸化し、脱水した鹸化ソープストックを、酢酸エチル、アセトンのような有機溶媒で抽出してオリザノール富化フラクションを得、更には、カラムクロマトグラフィーにかけて、オリザノール富化画分を得る方法について、特開2007−124917号公報には、米糠から製造される米油を原料として、アルカリ抽出、或いは、リパーゼのような酵素で処理して、高濃度のオリザノールを含有する米油を製造する方法について開示されている。
【0008】
これらの従来の方法は、米糠等に含まれるγ−オリザノール等の健康機能性成分を利用するために、該成分を含有する食用油として調製するものであるが、いずれも複雑な処理を必要とするため、実用的な健康機能性成分高含有素材の製造方法としては適用性に欠け、しかも、かかる方法で調製される製品は、いずれも食用油の形であるため、これを食品等の健康機能性成分高含有食品素材として用いる場合に、その利用対象が制限され、利用上制約があった。
【0009】
一方で、γ−オリザノール等の成分を魚の養殖の際に用いて、養殖魚の酸化ストレスの抑制や養殖魚の体色改善を行うことが知られている。例えば、特開2005−29553号公報には、γ−オリザノール等のフェニールプロパノイド化合物を有効成分と養殖魚の酸化ストレス抑制剤を用いてマダイ等の養殖時の酸化ストレスの抑制を行なうことについて、特開2007−68527号公報には、γ−オリザノールを有効成分とするストレス抑制剤を用いて、フグ養殖時における養殖フグのストレスを抑制し、噛み合いや共食いを防ぐことについて、それぞれ開示されている。また、特開2005−176799号公報には、フェルラ酸とγ−オリザノールを必須成分として構成された養殖魚の体色改善剤を養殖用配合飼料に配合して、マダイ等の養殖魚の体色を改善することが、開示されている。これらは、いずれも養殖魚の養殖時の酸化ストレスの抑制や養殖魚の体色改善を行うものであって、γ−オリザノール等の健康機能性成分を有効に濃縮・取得することを開示するものではない。
【0010】
【特許文献1】特開平6−340889号公報
【特許文献2】特開2000−119681号公報
【特許文献3】特開2002−238455号公報
【特許文献4】特開2002−293793号公報
【特許文献5】特開2004−300034号公報
【特許文献6】特開2005−29553号公報
【特許文献7】特開2005−176799号公報
【特許文献8】特開2007−68527号公報
【特許文献9】特開2007−124917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、植物素材に含まれる植物性ステロールやγ−オリザノールのような種々の健康機能を有する健康機能性成分を、抗生活習慣病予防や治療に有効に活用できるようにするために、従来のような有機溶媒による抽出法を使用することなく、植物素材から、該健康機能性成分を安全に、安価にかつ有効に濃縮・蓄積する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、植物素材に含まれる植物性ステロールやγ−オリザノールのような種々の健康機能を有する健康機能性成分を、抗生活習慣病予防や治療に有効に活用できるようにするために、従来のような有機溶媒による抽出法を使用することなく、植物素材から、該健康機能性成分を安全に、安価にかつ有効に濃縮・蓄積する方法を検討する中で、サケ科、タイ科、ウナギ科、アジ科又はサバ科の魚類のような魚類が、植物性ステロールやγ−オリザノールのような健康機能性成分を効率的に吸収し、筋肉中に効率的に蓄積させることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製された養魚用配合飼料を養殖魚に給餌し、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させることからなる植物素材含有
γ−オリザノールの魚類を用いた蓄積・濃縮方法からなる。すなわち、本発明は、植物性ステロールやγ−オリザノールを効率的に吸収するサケ科、タイ科、ウナギ科、アジ科又はサバ科の魚類のような魚類に、穀類糠などの植物性素材を含有した餌を給餌し、該魚類の生物濃縮を利用することにより、従来のような有機溶媒を用いた抽出処理を全く使用せず、当該成分を魚体へ移行させ、筋肉中に蓄積させることによって、植物素材から、該健康機能性成分を安全に、安価にかつ有効に濃縮・蓄積する方法からなる。
【0014】
すなわち、本発明の機作について説明すると、哺乳類では、輸送体の特異性が高く、γ−オリザノールを高濃度で与えても、筋肉に蓄積されないことが発明者らにより報告されている。しかし、本発明において、発明者は、魚類が、
γ−オリザノールを効率的に吸収し、筋肉中に効率的に蓄積させることを見い出した。このことは、魚類の腸管はステロール輸送体の特異性が非常に低いと想定されることの理由に基くものと考えられる。
【0015】
本発明において、植物素材含有
γ−オリザノールを有効に蓄積・濃縮できる魚類としては、ニジマス、ブリ、マダイ、又はウナギ等のサケ科、アジ科、タイ科、又はウナギ科のような魚類を挙げることができ、特に、効率的に高濃度の
γ−オリザノールを蓄積・濃縮できる魚類としては、ニジマスを挙げることができる。本発明において、γ−オリザノールを含有する植物素材としては、米糠を挙げることができる。本発明において、γ−オリザノールを蓄積・濃縮するために用いられる養魚用配合飼料としては、γ−オリザノールを10mg/配合飼料kg以上含有するものであることが望ましい。
【0016】
本発明は、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材及びそれを原料とする抽出物から調製された養魚用配合飼料を養殖魚に給餌し、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させることにより、植物素材含有
γ−オリザノールを蓄積・濃縮することからなるが、該養魚用配合飼料の養殖魚への給餌を、飽食給餌により行なうことが望ましい。
【0017】
本発明は、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製された養魚用配合飼料を養殖魚に給餌し、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させ、該養殖魚の筋肉部位を取得することにより、
γ−オリザノールを蓄積・濃縮した健康機能成分高含有食品素材を製造する方法を包含する。本発明において、養殖魚として、ニジマスを用いた場合には、γ−オリザノールを0.4mg/g筋肉以上蓄積させたことが可能であり、健康機能成分高含有の食品素材を提供することができる。
【0018】
すなわち本発明は、(1)米糠、米胚芽及び米胚芽抽出エキス、コンブ、及び大豆粉から選択されるγ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製され、γ−オリザノールを10mg/配合飼料kg以上含有する、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有
する植物素材を配合した養魚用配合飼料を養殖魚に飽食給餌により給餌し、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させ、
γ−オリザノールが蓄積・濃縮された養殖魚の筋肉部位を取得することを特徴とする
γ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法や、(2)養殖魚が、サケ科、タイ科、又はウナギ科、アジ科又はサバ科の魚類であることを特徴とする上記(1)記載の
γ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法や、(3)サケ科、アジ科、タイ科、又はウナギ科の魚類が、それぞれニジマス、ブリ、マダイ、又はウナギであることを特徴とする上記(2)記載の
γ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法からなる。
【0019】
また本発明は、(4)養殖魚として、ニジマスを用い、γ−オリザノールを0.4mg/g筋肉以上蓄積させたことを特徴とする上記(1)記載の
γ−オリザノール健康機能を付与するための食品製造原料として用いる健康機能成分高含有食品素材の製造方法や、(5)上記(1)〜(3)のいずれか記載の製造方法によって製造された
γ−オリザノールが蓄積・濃縮された健康機能成分高含有食品素材を、食品製造原料として用いることを特徴とする
γ−オリザノール健康機能を付与した健康食品の製造方法からなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製された養魚用配合飼料を養殖魚に給餌し、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させることにより、植物素材含有
γ−オリザノールを魚類を用いて蓄積・濃縮する方法よりなる。本発明における養殖魚としては、サケ科、アジ科、タイ科、又はウナギ科のような魚類が用いられ、該サケ科、アジ科、タイ科、又はウナギ科の魚類としては、それぞれニジマス、ブリ、マダイ、又はウナギ等を用いることができる。
【0021】
γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材としては、γ−オリザノールについては、米糠などの穀類糠や米胚芽や米胚芽抽出エキス、コンブ等を挙げることができるが、養魚用配合飼料の調製の観点からは、米糠を用いることが好ましい。該養魚用配合飼料の調製に用いる米糠は、適宜、米油に含有されるγ−オリザノールを用いて、γ−オリザノール強化米糠として用いることができる。また、
γ−オリザノールと植物性ステロールについては、該成分を含有する、大豆粉を用いることができる。養魚用配合飼料としては、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材を添加することを除いては、通常、養殖する魚類の養殖に用いられている養魚用配合飼料を用いることができる。
【0022】
養魚用配合飼料のγ−オリザノールの配合量としては、特に限定されないが、10mg/配合飼料kg以上含有するものであることが望ましい。魚類の養殖において、γ−オリザノール
、又は、γ−オリザノールと植物性ステロールを含有する植物素材から調製された養魚用配合飼料を養殖魚に給餌し、養殖魚の筋肉部位へγ−オリザノールを蓄積させるには、該養魚用配合飼料を用いて、飽食給餌により、数ヶ月(ニジマスでは、約2ヶ月)給餌、養殖を行い、養殖魚の筋肉部位へ
γ−オリザノールを蓄積させる。
γ−オリザノールを蓄積・濃縮させた養殖魚の筋肉部位は、適宜分離して、健康機能成分高含有食品素材を調製することができる。ニジマスを用いた場合では、約2ヶ月の養殖でγ−オリザノールを0.4mg/g筋肉以上蓄積させた食品素材を調製することができる。
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
米糠を含む飼料(10mgγ−オリザノール/kg)(表1)をニジマスに投与し、2か月間飼育した。飼育後のニジマス背側普通筋を採取し、Bligh & Dyer法にて全脂質を抽出した。得られた全脂質に0.2mlの70mM tetrapentylaminium bromide(TPR Br、Aldrich)を含む1M水酸化ナトリウム溶液及び0.8mlの0.5mM pyrenesulfonyl chloride(PS Cl、 Morecular Probes) ジクロロメタン溶液を加え、2分間よく攪拌した後、遠心分離機(KUBOTA5700, KUBOTA)を用いて2000rpm 5分間遠心分
離を行った。次いで、下層のジクロロメタン層を採取し、窒素気流下にて溶媒を除去して1mlのクロロホルム:メタノール=1:1(v/v)混合溶液に再度溶解した。続いて、ディスポーザブルカラム(LiChrolutSi60(500mg)、MERCK) に負荷し、クロロホルム:メタノール溶液にて誘導体化されたγ−オリザノールを溶出した。溶媒をジクロロメタンに置換した後、0.2mlミクロフィルター(PTFE, Advantec TOYO)でろ過して、以下のHPLC分析に供した。
【0025】
【表1】
【0026】
移動相をアセトニトリル:ジクロロメタン(国産化学)=77:23(v/v)混合溶液とし、固定相をMightysil PR-18 GP250-4.6(3μm、関東国産化学)、流速を1ml/minとした逆相高速液体クロマトグラフィーシステムで分離を行い、RF-10AXL(SHIMADZU)にて励起波長330nm、蛍光波長390nmにおける蛍光強度を測定した。移動相のタイムプログラムを表2に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
ニジマスにおいて、背側普通筋に蓄積したγ−オリザノール量を表
3に示す。このように、ニジマスにおいては、2か月間の飼育によって約0.4mgのγ−オリザノール/g筋肉が、ニジマスの筋肉に移行することが明らかとなった。ヒトの1日当たりのγ−オリザノール摂取量を20mg程度と考えると当該方法にて穀類糠等から抽出したニジマス筋肉を50g程度摂取すればよいことになり、極めて有用な高含有の健康機能成分を蓄積・濃縮した食品素材を提供することができることが示された。
【0029】
【表3】
【0030】
一方、同様にしてブリについても検討したところ、その抽出効果はニジマスに比べて低く、約20μg/g筋肉(0.02mg/g筋肉)であった。ブリにおいてもγ−オリザノールが蓄積・濃縮されていたが、このような差が生じた原因は食性や遺伝的適応の結果であるものと考えられる。しかし、本魚類の生物濃縮を利用したγ−オリザノールの蓄積・濃縮においては、ニジマスの方がより優れていることが示された。
【実施例2】
【0031】
実施例1と同様にして、マダイを用いてγ−オリザノールの蓄積・濃縮について試験した。マダイについての試験結果において、その抽出効果はニジマスと同程度で約0.2mg/g筋肉のγ−オリザノールが,マダイの筋肉に移行することが明らかとなった(表4)。一方、γ−オリザノール無給餌魚ではその値は1/4程度と低かった。γ−オリザノール無給餌魚の試験でγ−オリザノールが検出されたのは,試験飼育前に極低濃度のγ−オリザノールを含む飼料を摂取しており,これが蓄積したものと推定された。
【0032】
【表4】
【実施例3】
【0033】
実施例1と同様にして、ウナギを用いてγ−オリザノールの蓄積・濃縮について試験した。ウナギについての試験結果において、その抽出効果はニジマスと同程度で約0.2mg/g筋肉のγ−オリザノールが、ウナギの筋肉に移行することが明らかとなった(表5)。一方、γ−オリザノール無給餌魚ではその値は1/10程度と低かった。
【0034】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、植物素材に含まれる植物性ステロールやγ−オリザノールのような種々の健康機能を有する健康機能性成分を、抗生活習慣病予防や治療に有効に活用できるようにするために、従来のような有機溶媒による抽出法を使用することなく、更に、植物素材から有機溶媒を用いて濃縮・分離された健康機能性成分を更に精製するために、更なる溶媒抽出や酵素処理、或いは蒸留のような複雑な処理を行なうことなく、植物素材から、該健康機能性成分を安全に、安価にかつ有効に濃縮・蓄積する方法を提供することができる。
【0036】
本発明において、養殖魚として、ニジマスを用いた場合には、γ−オリザノールを0.4mg/g筋肉以上蓄積させた健康機能成分高含有の食品素材を提供することができる。例えば、γ−オリザノールのような健康機能成分のヒトの有効な摂取量としては、ヒト1日あたりのγ−オリザノール摂取量は20mg程度とされていることから、該食品素材を50g摂取すれば良いことになり、健康機能成分含有食品素材として極めて実用的かつ有効な食品素材を提供することができる。更に、魚類の筋肉は、食品素材として各種の食品に適合できる素材であり、従来のγ−オリザノールを含有する米油等と比較して、各種の食品の調製に利用できる広い利用分野の素材を提供することができる。