(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正規化されたEGR偏差が所定値未満である場合には内挿法により基準NOx量を補正し、前記正規化されたEGR偏差が所定値以上である場合には外挿法により前記基準NOx量を補正することを特徴とする請求項1に記載の窒素酸化物の量を予測する方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンから排気マニホールドを介して排出される排ガスは、排気パイプに配設された触媒コンバータ(Catalytic Converter)に導入されて浄化され、マフラを通過しながら騒音が減殺された後にテールパイプを介して大気中に排出される。上述した触媒コンバータは、排ガスに含まれている汚染物質を浄化する。そして、排気パイプ上には排ガスに含まれているパティキュレート(粒子状物質:Particulate Matters:PM)を捕集するためのパティキュレートフィルタが装備される。
窒素酸化物低減触媒(Denitrification Catalyst)は、排ガスに含まれている窒素酸化物(NOx)を浄化する触媒コンバータの一種である。尿素(Urea)、アンモニア(Ammonia)、一酸化炭素および炭化水素(Hydrocarbon;HC)などの還元剤を排ガスに提供すると、窒素酸化物低減触媒において、排ガスに含まれている窒素酸化物が還元剤と酸化−還元反応を起して還元される。
【0003】
最近は、この種の窒素酸化物低減触媒として、LNT触媒(Lean NOx Trap Catalyst)が用いられている。LNT触媒は、エンジンが希薄(lean)な雰囲気で作動すれば排ガスに含まれている窒素酸化物を吸着し、エンジンが濃厚(rich)な雰囲気で作動すれば吸着された窒素酸化物を脱離する(特許文献1)。
また、窒素酸化物低減触媒として、選択的触媒還元(Selective Catalytic Reduction;SCR)触媒も用いられる。選択的触媒還元(SCR)触媒は、尿素(Urea)、アンモニア(Ammonia)、一酸化炭素および炭化水素(Hydrocarbon;HC)などの還元剤が酸素よりは窒素酸化物とより活発に反応するようにしたものである(特許文献2)。
【0004】
この種の窒素酸化物低減触媒を用いる場合、エンジンにおいて発生する排ガスに含まれている窒素酸化物の量により排ガスに噴射されるべき還元剤の量が決定される。このため、排ガスに含まれている窒素酸化物の量を正確に予測することが、浄化の効率を向上させる上で重要である。
排ガスに含まれている窒素酸化物の量を予測する従来の方法は、エンジンの各運転条件において発生する窒素酸化物の量を保存されているマップを利用して予測することである。すなわち、各時間ごとに運転条件において発生する窒素酸化物の量をマップから計算し、この窒素酸化物の量を積算して排ガスに含まれている窒素酸化物の量を予測する。しかしながら、マップは、エンジンが正常状態(steady state)であるときに作成されているため、時間ごとにエンジンの運転条件が変化する遷移状態(transient state)において利用する場合は予測された窒素酸化物の量が正確でない。特に、エンジンは正常状態において作動する期間よりも、遷移状態において作動する期間の方が遥かに長いため、実際の窒素酸化物の量と予測された窒素酸化物の量との間の差が大きいという問題点があった。
【0005】
排ガスに含まれている窒素酸化物の量を予測する従来の他の方法は、窒素酸化物低減触媒の上流側の排気パイプに装備されているNOxセンサーを利用することである。すなわち、各時間ごとにNOxセンサーにおいて測定される窒素酸化物の量を積算する。しかしながら、NOxセンサーは排ガスの温度が所定温度以上である場合に限って正常に作動するため、NOxセンサーが正常に作動するまでに発生した窒素酸化物の量は測定することができないという問題点があった。なお、NOxセンサーを用いても、実際の窒素酸化物の量と測定された窒素酸化物の量との間の測定誤差があまりにも大きいという問題点があった(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、排ガスに含まれている窒素酸化物の量を正確に予測する方法を提供するところにある。
本発明の他の目的は、予測された窒素酸化物の量により噴射される還元剤の量、または燃焼雰囲気を調節することにより、窒素酸化物の浄化効率を向上させることができる排気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の窒素酸化物の量を予測する方法は、エンジンの運転条件により基準NOx量を
検出するステップと、EGR(排ガス再循環:Exhaust Gas Recirculation)率により基準NOx量を一次的に補正するステップと、環境因子により一次的に補正されたNOx量を2次的に補正するステップとを含む。EGR率により基準NOx量を一次的に補正するステップは、実際のEGR率を検出するステップと、エンジンの運転条件による基準EGR率を計算するステップと、実際のEGR率から基準EGR率を差し引いたEGR率偏差を計算するステップと、EGR率偏差により基準NOx量を補正するステップとを含む。
【0009】
EGR率偏差により基準NOx量を補正するステップは、EGR率偏差を正規化させて、正規化されたEGR率偏差を計算するステップと、正規化されたEGR率偏差によるEGR係数を計算するステップと、エンジンの運転条件によるEGRオフ時の基準NOx量を計算するステップと、エンジンの運転条件による基準NOx量と、EGRオフ時の基準NOx量およびEGR係数に基づいて、内挿法または外挿法により基準NOx量を補正するステップとを含む。
正規化されたEGR偏差が所定値未満である場合には内挿法により基準NOx量を補正し、正規化されたEGR偏差が所定値以上である場合には外挿法により基準NOx量を補正することができる。
【0010】
エンジンの運転条件は、現在の係合された
変速ギヤのギヤ段数と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量を含む。環境因子により一次的に補正されたNOx量を2次的に補正するステップは、エンジン燃焼室に供給される総空気量と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量による第1の補正係数を検出するステップと、第1の補正係数により一次的に補正されたNOx量を補正するステップとを含む。
【0011】
環境因子により一次的に補正されたNOx量を2次的に補正するステップは、エンジン回転数と、現在の燃料噴射量および冷却水温度による第2の補正係数を検出するステップと、第2の補正係数により一次的に補正されたNOx量を補正するステップとを含む。
環境因子により一次的に補正されたNOx量を2次的に補正するステップは、エンジン回転数と、現在の燃料噴射量およびエンジン燃焼室に供給される吸入空気の温度による第3の補正係数を検出するステップと、第3の補正係数により一次的に補正されたNOx量を補正するステップとを含む。
【0012】
本発明の他の実施の形態による排気装置は、燃焼室内燃料を噴射する第1のインジェクターを有するエンジンにおいて発生した排ガスが流通する排気パイプと、排気パイプに装備されて還元剤を噴射する噴射モジュールと、噴射モジュールの下流側の排気パイプに装備されて噴射モジュールから噴射された還元剤を用いて排ガスに含まれている窒素酸化物を低減させる窒素酸化物低減触媒と、排ガスに含まれている窒素酸化物の量を予測し、この窒素酸化物の量により還元剤の供給量、または燃焼雰囲気を調節する制御部とを備え、制御部は、エンジンの運転条件により基準NOx量を
検出し、この基準NOx量をEGR率および環境因子により補正することが好ましい。制御部は、エンジンの運転条件により基準EGR率およびEGRオフ時の基準NOx量を計算し、実際のEGR率を検出し、且つ、基準EGR率と、実際のEGR率と、基準NOx量およびEGRオフ時の基準NOx量に基づいて、内挿法または外挿法により基準NOx量を一次的に補正することが好ましい。
【0013】
エンジンの運転条件は、現在の係合された
変速ギヤのギヤ段数と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量を含む。制御部は、一次的に補正された基準NOx量を、環境因子による第1、第2および第3の補正係数を用いて2次的に補正することができる。第1の補正係数は、エンジン燃焼室に供給される総空気量と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量に基づいて計算されることが好ましい。第2の補正係数は、エンジン回転数と、現在の燃料噴射量および冷却水温度に基づいて計算されることが好ましい。
【0014】
第3の補正係数は、エンジン回転数と、現在の燃料噴射量およびエンジン燃焼室に供給される吸入空気の温度に基づいて計算されることが好ましい。
還元剤は燃料であり、噴射モジュールは第2のインジェクターであることができる。
還元剤は尿素またはアンモニアであることができる。
燃焼雰囲気は、エンジンの燃焼室に供給される空気への燃料の割合を制御することにより調節されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排ガスに含まれている窒素酸化物の量を正確に予測することができるので、窒素酸化物の浄化効率が向上する。
また、本発明によれば、正確な窒素酸化物の量により還元剤の噴射量、または燃焼雰囲気を調節することができるので、燃費が向上する。
さらに、本発明によれば、窒素酸化物の量を予測するためにセンサーを別設する必要がないので、コストを節減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施の形態を詳述する。
図1は、本発明の実施の形態による、窒素酸化物の量を予測する方法が適用可能な排気装置の一例を示す概略図である。
図1に示したとおり、内燃機関の排気装置は、エンジン10と、排気パイプ20と、排ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation;EGR)装置80と、燃料分解触媒32と、パティキュレートフィルタ(Particulate Filter)30と、窒素酸化物低減触媒40と、制御部50と、を備える。
【0018】
エンジン10は、燃料と空気とが混合された混合気を燃焼させて、化学的エネルギーを機械的エネルギーに変換する。エンジン10は吸気マニホールド18に連通されて燃焼室12の内部に空気が流入し、燃焼中に発生した排ガスは排気マニホールド16に溜まった後にエンジンの外部に排出される。燃焼室12には第1のインジェクター14が装備されて燃料を燃焼室12の内部に噴射する。
ここではディーゼルエンジンを例示したが、希薄燃焼(lean burn)のガソリンエンジンを用いてもよい。ガソリンエンジンを用いる場合、吸気マニホールド18を介して混合気が燃焼室12の内部に流入し、燃焼室12の上部には点火のための点火プラグ(図示せず)が装備される。
また、様々な圧縮比、好ましくは、16.5以下の圧縮比を有するエンジンを用いてもよい。
【0019】
排気パイプ20は排気マニホールド16に連通されて排ガスを車両の外部に排出する。排気パイプ20上にはパティキュレートフィルタ30および窒素酸化物低減触媒40が装備されて排ガスに含まれている炭化水素、一酸化炭素、パティキュレートおよび窒素酸化物などを除去する。
排ガス再循環装置80は排気パイプ20上に装備されて、エンジン10から排出される排ガスの一部を排ガス再循環装置80を介してエンジンに再供給する。また、排ガス再循環装置80は吸気マニホールド18に連通されて排ガスの一部を空気に混入して燃焼温度を制御する。このような燃焼温度の制御は、制御部50が吸気マニホールド18に供給される排ガスの量を調節することにより行われる。
【0020】
排ガス再循環装置80の下流側の排気パイプ20には第1の酸素センサー25が装備されて、排ガス再循環装置80を通過した排ガス内の酸素量を検出する。
第2のインジェクター90は、排ガス再循環装置80の下流側の排気パイプ20に装備され、制御部50に電気的に接続されて制御部50の制御により排気パイプ20内へ燃料の追加噴射を行う。
【0021】
パティキュレートフィルタ30は第2のインジェクター90の下流側の排気パイプ20に装備されている。パティキュレートフィルタ30の上流側には燃料分解触媒(Fuel Cracking Catalyst)32が配設されている。この場合、燃料分解触媒32は、第2のインジェクター90と窒素酸化物低減触媒40との間に配置される。ここでは、パティキュレートフィルタ30とは別途に燃料分解触媒32が配置されている例を示したが、燃料分解触媒32をパティキュレートフィルタ30の前部にコーティングしてもよい。
燃料分解触媒32は、触媒作用により燃料内に含まれている炭素化合物の炭素鎖を切断して分解する。すなわち、燃料分解触媒32は、熱分解(Thermal Cracking)機能により、炭化水素を構成する炭素−炭素結合を切断して低分子の炭化水素に分解する。これにより、追加噴射された燃料の有効反応表面積が増大して、高反応性酸素含有炭化水素(Oxygenated HC)、一酸化炭素(CO)、水素(H
2)などを生成する。
【0022】
燃料分解触媒による熱分解は、例えば、〔化1〕に示す順で行われ、反応収支として〔化2〕のようになる。
〔化1〕
C
16H
34→2n−C
8H
17*→n−C
6H
13*→n−C
4H
9*→C
2H
5*→C
2H
4
〔化2〕
C
16H
34―――→8C
2H
4+H
2
ここで、
*はラジカルを意味する。
ここで、炭化水素とは、排ガスおよび燃料に含まれている炭素と水素とからなる化合物のいずれをも指すものとする。
【0023】
燃料分解触媒32の下流側にはパティキュレートフィルタ30の一種である煤煙ろ過装置が装備されて、排気パイプ20を介して排出される排ガスに含まれるパティキュレートを捕集する。ここで、パティキュレートフィルタ30は煤煙ろ過装置30と同じ意味で用いられる。しかしながら、煤煙ろ過装置30の代わりに他の種類のパティキュレートフィルタ30(例えば、触媒煤煙フィルタ(catalyzed particulate filter:CPF))などを用いてもよい。
また、煤煙ろ過装置30には酸化触媒(Oxidation Catalyst)がコーティングされてもよい。かかる酸化触媒は、排ガスに含まれる炭化水素および一酸化炭素を二酸化炭素に酸化させ、排ガスに含まれる一酸化窒素を二酸化窒素に酸化する。酸化触媒はパティキュレートフィルタ30の所定部分に多量にコーティングされていてもよく、パティキュレートフィルタ30の全領域に亘って一様にコーティングされていてもよい。
【0024】
燃料分解触媒32の上流側の排気パイプには第1の温度センサー35が装備されて燃料分解触媒32の入口温度を測定する。燃料分解触媒32の下流側には第2の温度センサー36が装備されて燃料分解触媒32の出口温度またはパティキュレートフィルタ30の入口温度を測定する。
一方、排気パイプ20には差圧センサー55が装備される。差圧センサー55は、パティキュレートフィルタ30の入口部と出口部との間の圧力差を測定し、これに対する信号を制御部50に送信する。制御部50は、差圧センサー55において測定された圧力差が所定圧力以上である場合にパティキュレートフィルタ30を再生するように制御を行う。この場合、第1のインジェクター14は燃料を後噴射することにより、パティキュレートフィルタ30の内部に捕集されたパティキュレートを燃焼することができる。これとは別に、第2のインジェクター90は燃料を追加噴射することにより、パティキュレートフィルタ30を再生することもできる。
【0025】
窒素酸化物低減触媒40はパティキュレートフィルタ30の下流側の排気パイプ20上に装備されて排ガスに含まれている窒素酸化物を吸着し、燃料の追加噴射により吸着された窒素酸化物を脱離して還元反応を進めることにより排ガスに含まれている窒素酸化物を浄化する。
窒素酸化物低減触媒40の上流側または下流側には第3の温度センサー60および第4の温度センサー65がそれぞれ装備されて、窒素酸化物低減触媒40の入口部温度および出口部温度を測定する。ここで、窒素酸化物低減触媒40は両分されていてもよい。これは、担体にコーティングされた金属の割合を異ならせることにより特定の機能を行わせるためである。例えば、窒素酸化物低減触媒40のエンジン10に近い第1の部分にはパラジウム(Pd)の割合を高めることにより耐熱機能を強化させ、窒素酸化物低減触媒40のテールパイプに近い第2の部分には白金(Pt)の割合を高めることにより炭化水素のスリップを防止することができる。むろん、担体にコーティングされた金属の割合が全領域に亘って一様な窒素酸化物低減触媒40であってもよい。
【0026】
また、窒素酸化物低減触媒40の上流側の排気パイプ20には第2の酸素センサー62が装備され、窒素酸化物低減触媒40の下流側の排気パイプ20には第3の酸素センサー70が装備される。第2の酸素センサー62は、窒素酸化物低減触媒40に流入する排ガスに含まれている酸素量を測定し、これに対する信号を制御部50に送信することにより、制御部50が排ガスのリーン/リッチ制御(lean/rich control)を行うことを補助する。また、第3の酸素センサー70は、本発明の実施の形態による内燃機関の排気装置が排ガスに含まれている有害物質を正常に除去しているかどうかをモニターリングするためのものである。ここでは、排気パイプ20に第2の酸素センサー62が付設されている。しかしながら、排気パイプ20に第2の酸素センサー62を付設することなく、第1の酸素センサー25および第3の酸素センサー70の測定値、燃料消耗量およびエンジンの起動履歴のうち少なくとも一つに基づいて窒素酸化物低減触媒40に流入する排ガスに含まれている酸素量を推定してもよい。
【0027】
制御部50は、各センサーにおいて検出された信号に基づいてエンジンの運転条件を判断し、エンジンの運転条件に基づいて燃料の追加噴射量および追加噴射時期を制御することにより、窒素酸化物低減触媒40に吸着された窒素酸化物を脱離する。例えば、制御部50は、窒素酸化物低減触媒40に吸着された窒素酸化物の量が所定値以上である場合には燃料を追加噴射するように制御する。
また、制御部50は、窒素酸化物低減触媒40において窒素酸化物の還元反応が活性化するように、排ガス内における窒素酸化物への炭化水素の割合が所定の割合以上になるように制御する。所定の割合は5であってもよい。
【0028】
一方、制御部50は、エンジンの運転条件に基づいて窒素酸化物低減触媒40に吸着された窒素酸化物の量、窒素酸化物低減触媒40の後部における窒素酸化物のスリップ量、および窒素酸化物への炭化水素の割合を計算する。このような計算は、数多くの実験により決められたマップに基づいて行われる。
さらに、制御部50は、エンジンの運転条件、エンジンの状態または窒素酸化物低減触媒の状態に応じて、第2のインジェクター90からの燃料噴射パターンを変化させる。ここで、エンジンの状態はエンジンの作動期間を考慮して推定され、窒素酸化物低減触媒の状態は窒素酸化物低減触媒の劣化を考慮して推定される。
ひいては、制御部50は、パティキュレートフィルタ30の再生を行う。
【0029】
一方、制御部50は、第2のインジェクター90からの追加噴射を制御する代わりに、第1のインジェクター14からの後噴射を制御することにより、窒素酸化物低減触媒40における窒素酸化物の還元反応を活性化させることができる。この場合、燃料分解触媒32において後噴射された燃料は高反応性還元剤に変換され、窒素酸化物低減触媒40において窒素酸化物の還元反応を促進する。よって、この明細書および特許請求の範囲における追加噴射は後噴射を含むものと解釈さるべきである。
ここでは、窒素酸化物低減触媒40としてLNT触媒が用いられた場合を例示したが、窒素酸化物低減触媒40としてSCR触媒が用いられてもよい。この場合、排気パイプ20上のパティキュレートフィルタ30と窒素酸化物低減触媒40との間には排ガスに還元剤を噴射する噴射装置(図示せず)が介設され、制御部50は、排ガスに含まれている窒素酸化物の量により還元剤の噴射を制御する。なお、還元剤としては、尿素またはアンモニアが使用可能である。
【0030】
以下、窒素酸化物低減触媒40の一例を詳述する。
窒素酸化物低減触媒40は、担体にコーティングされた第1および第2の触媒層を含む。第1の触媒層は排ガスの近くに配置され、第2の触媒層は担体の近くに配置される。
第1の触媒層は排ガスに含まれている窒素酸化物(例えば、一酸化窒素)を酸化し、酸化された窒素酸化物(例えば、二酸化窒素)の一部を不燃燃料または排ガスに含まれている炭化水素との酸化−還元反応により還元する。なお、酸化された窒素酸化物の残りの一部は第2の触媒層に拡散される。
第2の触媒層は第1の触媒層から拡散されてきた窒素酸化物(例えば、二酸化窒素)を吸着し、追加噴射される燃料により吸着された窒素酸化物を脱離して第1の触媒層において還元せしめる。
第2の触媒層は吸着物質を含む。この吸着物質としては、弱塩基性酸化物が用いられる。
【0031】
以下、窒素酸化物低減触媒40の作動原理を詳述する。
燃料が第2のインジェクター90から追加噴射されない場合には、排ガスに含まれている窒素酸化物(例えば、一酸化窒素)は第1の触媒層において酸化される。酸化された窒素酸化物(例えば、二酸化窒素)の一部は排ガスに含まれている炭化水素と酸化−還元反応をして窒素気体に還元される。この過程で、排ガスに含まれている炭化水素は二酸化炭素に酸化される。
また、酸化された窒素酸化物の残りの一部および排ガスに含まれている窒素酸化物は第2の触媒層に拡散されて吸着される。
燃料が第2のインジェクター90から追加噴射される場合には、追加噴射された燃料が燃料分解触媒を通過し、この過程で燃料が低分子の炭化水素に変換される。なお、低分子の炭化水素の一部は酸素と結合した炭化水素に変換されて窒素酸化物低減触媒40を通過する。
【0032】
このとき、第2の触媒層においては、窒素酸化物が炭化水素と置換されて脱離される。また、第1の触媒層においては、脱離された窒素酸化物と炭化水素または酸素と結合した炭化水素との間の酸化−還元反応により窒素酸化物は窒素気体に還元され、炭化水素または酸素と結合した炭化水素は二酸化炭素に酸化される。
これにより、排ガスに含まれている窒素酸化物および炭化水素が浄化される。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態による、窒素酸化物の量を予測する方法に用いられる制御部における入出力関係を示すブロック図である。
図2に示したとおり、ギヤ段数検出部100、EGR率検出部110、エンジン回転数検出部120、燃料噴射量検出部130、吸入空気量検出部140、EGR量検出部150、吸入空気温度検出部160および冷却水温度検出部170は制御部50と電気的に接続されており、これらの検出部で検出した検出値を制御部50に送信する。
【0034】
ギヤ段数検出部100は、現在の係合されたギヤ段数を検出する。
EGR率検出部110は、現在のEGR率(すなわち、吸入空気量へのEGR量の割合)を検出する。制御部50は、EGR弁(図示せず)をデューティ制御しているため、EGR率は現在のデューティ値を読み取ることにより検出することができる。
エンジン回転数検出部120は、クランクシャフト(図示せず)の位相変化からエンジンの回転数を検出する。
【0035】
燃料噴射量検出部130は、現在の燃料噴射量を検出する。最近では、NOx低減のために燃料は、主噴射およびパイロット噴射に分けて噴射される。このため、燃料噴射量検出部130は、一周期中に噴射される主噴射量およびパイロット噴射量を検出する。なお、燃料噴射量は制御部50によりデューティ制御されるため、現在のデューティ値を読み取ることにより検出することができる。
吸入空気量検出部140は、吸気通路を通過する空気量を検出する。
EGR量検出部150は、再循環されるガスの量を検出する。EGR量は、吸入される空気量およびEGR率から計算可能である。
吸入空気温度検出部160は吸気通路に装備されて吸入される空気の温度を検出する。
冷却水温度検出部170は、冷却水の温度を検出する。
【0036】
制御部50においては、送信された検出値に基づいて、エンジンの運転条件、燃料の追加噴射量、追加噴射時期および追加噴射パターンを決定し、第2のインジェクター90を制御するための信号を第2のインジェクター90に出力する。また、制御部50は、差圧センサー55において測定した値に基づいて、パティキュレートフィルタ30の再生を制御する。上述したように、パティキュレートフィルタ30の再生は、第1のインジェクター14による後噴射あるいは第2のインジェクター90による追加噴射により行われる。さらに、制御部50は、排ガスに含まれている基準NOx量を検出し、この基準NOx量をEGR率および環境因子により補正し、最終的なNOx量により燃料の追加噴射または還元剤の噴射を制御する。
一方、本発明の実施の形態による内燃機関の排気装置には、
図2に示すセンサーの他にも多数のセンサーを装備することが可能である。
【0037】
図3は、本発明の実施の形態による、窒素酸化物の量を予測する方法を示したフローチャートであり、
図4は、本発明の実施の形態による、窒素酸化物の量を予測する方法において、EGR率により基準NOx量を一次的に補正する方法を示したフローチャートであり、
図5は、本発明の実施の形態による、窒素酸化物の量を予測する方法において、環境因子により一次的に補正されたNOx量を2次的に補正する方法を示したフローチャートである。
ギヤ段数検出部100はギヤ段数を検出して(S210)、EGR率検出部110は実際のEGR率を検出し(S220)、エンジン回転数検出部120はエンジンの回転数を検出し(S230)、燃料噴射量検出部130は現在の燃料噴射量を検出する(S240)。また、吸入空気量検出部140において検出される吸入空気量にEGR量検出部150において検出されるEGR量を加えて、エンジン燃焼室に供給される総空気量を検出し(S250)、吸入空気温度検出部160はエンジン燃焼室に供給される吸入空気の温度を検出し(S260)、冷却水温度検出部170は冷却水の温度を検出する(S270)。
【0038】
制御部50は、検出値に基づいて基準NOx量を検出し、この基準NOx量をEGR率により一次的に補正し(S280)、一次的に補正された基準NOx量を環境因子により2次的に補正する(S290)。
以下、基準NOx量を一次的に補正する過程を詳述する。
図4に示したとおり、制御部50は、エンジンの運転条件(ギヤ段数と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量)による基準NOx値を計算し(S310)、エンジンの運転条件によるEGRのオフ時に(すなわち、EGR弁が閉じた場合に)基準NOx値を計算し(S320)、エンジンの運転条件による基準EGR率を計算する(S330)。ステップS310〜S330は、所定のマップを用いて行う。すなわち、エンジンの運転条件による基準NOx値、EGRオフ時の基準NOx値および基準EGR率がマップに保存されている。エンジンの各運転条件による基準NOx値、EGRオフ時の基準NOx値およびEGR率を測定し、これらの値をマップに保存する。
【0039】
制御部50は、現在のEGR率およびエンジンの運転条件による基準EGR率からEGR率の偏差を計算し、このEGR率の偏差が0未満であるかどうかを判断する(S340)。EGR率の偏差は、現在のEGR率から基準EGR率を差し引くことにより計算する。
もし、EGR率の偏差が0未満であれば、内挿法により基準NOx値を補正し、EGR率の偏差が0以上であれば、外挿法により基準NOx値を補正する。このために、ステップS350およびS360においては、EGR率の偏差を正規化する。
すなわち、ステップS350においては、[数1]により正規化されたEGR率偏差を計算する。
【0040】
〔数1〕
正規化されたEGR率偏差=EGR率偏差/基準EGR率
また、ステップS360においては、[数2]により正規化されたEGR率偏差を計算する。
〔数2〕
正規化されたEGR率偏差=EGR率偏差/(最大EGR率−基準EGR率)
【0041】
ステップS350およびS360において、正規化されたEGR率偏差を計算した後、この正規化されたEGR率偏差の最大値および最小値を限定する(S370)。ここで、最大値は1であってもよく、最小値は−1であってもよい。
その後、制御部50は、正規化されたEGR率偏差によるEGR係数を決定する(S380)。
図6は、正規化されたEGR率偏差に対するEGR係数を示すグラフである。
図6は、EGR率偏差に対するEGR係数のいくつかの関係を例示するものであり、本発明がこれに限定されることはない。
【0042】
EGR係数を決定した後、制御部50は、EGR係数、EGRオフ時の基準NOx値および基準NOx値を用いて、内挿法または外挿法により、基準NOx値を一次的に補正する(S390、S400)。すなわち、EGR率の偏差が0未満であれば、内挿法により基準NOx量を補正し(S390)、EGR率の偏差が0以上であれば、外挿法により基準NOx量を補正する(S400)。
図7は、本発明の実施の形態を適用して、EGR率によりNOx量を一次的に補正することを例示するグラフである。
図7中、点線は実際のNOx値を示し、実線は基準NOx値を内挿法または外挿法により補正した値を示す。なお、
図7には基準NOx値を内挿法または外挿法により直線状に補正した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることはなく、基準NOx値を多項式の形態に補正してもよい。
【0043】
以下、
図7に基づき、基準NOx値を内挿法または外挿法により補正することを簡略に説明する。ここでは、EGR係数が正規化されたEGR率偏差と同じ場合を例示している。
正規化されたEGR率偏差が−1であるときのNOx値はEGRオフ時の基準NOx値を示し、正規化されたEGR率偏差が0であるときのNOx値は基準NOx値を示す。正規化されたEGR率偏差が−1と0との間にあるときのNOx値を内挿法により求めるために、EGRオフ時の基準NOx値と基準NOx値とを直線で結ぶ。また、正規化されたEGR率偏差が0と1との間にあるときのNOx値を外挿法により求めるために、基準NOx値と正規化されたEGR率偏差が1であるときのNOx値(
図7では、0)とを直線で結ぶ。上述した内挿法または外挿法により基準NOx値を実際のEGR率により補正する。
【0044】
その後、制御部50は、1次的に補正された基準NOx値を出力し(S295)、環境因子により1次的に補正された基準NOx値を2次的に補正する(S290)。
図5に示したとおり、制御部50は、第1、第2および第3の補正係数を算定する(S420、S430、S440)。第1の補正係数はエンジンの燃焼室に供給される総空気量と、エンジン回転数および現在の燃料噴射量に基づいて求められ、第2の補正係数はエンジン回転数と、現在の燃料噴射量および冷却水温度に基づいて求められ、第3の補正係数はエンジン回転数と、現在の燃料噴射量およびエンジン燃焼室に供給される吸入空気の温度に基づいて求められる。第1、第2および第3の補正係数は所定のマップから割り出される。
その後、制御部50は、1次的に補正された基準NOx値と、第1、第2および第3の補正係数とを用いて、基準NOx値を2次的に補正する(S450、S460、S470)。基準NOx値の2次補正は、一次的に補正された基準NOx値に第1、第2および第3の補正係数を乗じて計算する。
最後に、制御部50は、環境因子により補正されたNOx値を出力する(S300)。
【0045】
このようにして排ガスに含まれるNOx値を予測した後、制御部50は、NOx値により燃料の追加噴射または還元剤の噴射を制御する。これとは別に、制御部50は、NOx値によりエンジン10の燃焼室に供給される空気への燃料の割合を制御することにより、燃焼雰囲気を調節する。
【0046】
以上、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されず、本発明の属する技術的範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。