【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、環境および人体への影響の点から有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、これに伴い有機溶剤をほとんど含まない水系樹脂組成物が提案されている。本願発明者は、二色性色素の多くは水溶性であるため、上記水系樹脂組成物であれば二色性色素を含む偏光膜への塗布適性に優れると考え、偏光膜と機能性膜との間に設けるプライマー層について水系樹脂組成物を用いて形成したところ、偏光膜と機能性膜との初期の密着性を向上することは可能となった。
しかし本願発明者の検討により、上記プライマー層では、長期にわたり偏光膜と機能性膜との密着性を良好に維持するには不十分であることが判明した。そこで本願発明者は、長期にわたり密着性を良好に維持するための手段を見出すべく更に検討を重ねた。その結果、二色性色素の固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に加熱処理を施すことにより、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することが可能となることを新たに見出した。この点について本願発明者は、被塗布面である、固定化処理後の偏光膜表面の表面状態が、上記加熱処理によって水系樹脂組成物に含まれる樹脂成分が有する官能基と結合ないしは吸着しやすいように改質されることが、長期密着性向上に寄与していると推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成した偏光膜に対し、該膜中の二色性色素の固定化処理を施すこと、
固定化処理後の偏光膜上に樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗布し、該組成物を乾燥させることによりプライマー層を形成すること、ならびに、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施すことを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[2]前記固定化処理を、シランカップリング剤溶液を偏光膜上に塗布することにより行う、[1]に記載の偏光部材の製造方法。
[3]前記シランカップリング剤として、エポキシ基含有シランカップリング剤を使用する、[2]に記載の偏光部材の製造方法。
[4]前記固定化処理を、アミノ基含有シランカップリング剤溶液およびエポキシ基含有シランカップリング剤溶液をこの順に、偏光膜上に塗布することにより行う、[3]に記載の偏光部材の製造方法。
[5]前記樹脂成分はポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[6]前記加熱処理後の被塗布物を一旦冷却した後に、前記水系樹脂組成物を塗布する、[1]〜[5]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[7]前記加熱処理を、炉内雰囲気温度が40〜80℃の範囲である加熱炉内に被塗布物を配置することにより行う、[1]〜[6]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[8]に記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記機能性膜はハードコート膜である、[1]〜[9]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記加熱処理前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0008】
先に説明したように、水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成することにより偏光膜と機能性膜との初期の密着性を向上することができるが長期にわたり密着性を維持するには不十分である。これに対し、上記本発明を適用することにより、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することができる。
ところで本願発明者の検討の結果、上記のように偏光膜と機能性膜との間に水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成した偏光部材の中には、偏光膜にクラックが発生してクモリ(ヘイズ)が生じるものが確認された。偏光部材、特に偏光レンズ(眼鏡レンズ)におけるクモリ(ヘイズ)の発生は、光学特性低下の原因となる。そこで本願発明者は、優れた耐久性と光学特性を兼ね備えた偏光部材を提供すべく、水系樹脂組成物から形成したプライマー層を有する偏光部材において偏光膜のクラック発生を防止する手段を見出すために更に検討を重ねた結果、上記プライマー層を膜厚0.5μm以下の薄層として形成することにより、偏光膜にクラックが発生することを抑制できることを新たに見出した。この理由について本願発明者は、以下のように推定している。
水系樹脂は一般に吸湿しやすい性質を有するため膨潤しやすい。したがって水系樹脂組成物から形成されたプライマー層は変形(膨潤)しやすく、このプライマー層の変形に伴い偏光膜も変形する。そしてプライマー層が厚くなるほど変形量も大きくなり、プライマー層の変形量に追随できなくなると偏光膜にクラックが発生する。したがって、プライマー層の厚さを、偏光膜がその変形に耐え得る範囲とすることにより、即ち0.5μm以下とすることにより、偏光膜のクラック発生を抑制することができると考えられる。
【0009】
即ち、本願発明者により、下記態様(以下、「態様A」ともいう)も見出された。下記態様Aによれば、優れた光学特性と耐久性を兼ね備えた偏光部材を提供することができる。特に、前記した本発明の製造方法を下記態様Aと組み合わせることで、優れた光学特性を有するとともに、長期にわたり優れた耐久性を示すことができる偏光部材を提供することができる。
【0010】
[1]基材上に二色性色素を含有する偏光膜と機能性膜とをこの順に有する偏光部材であって、
前記偏光膜と機能性膜との間に、厚さ0.5μm以下の水系樹脂層を有することを特徴とする偏光部材。
[2]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]に記載の偏光部材。
[3]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[2]に記載の偏光部材。
[4]前記水系樹脂層は樹脂成分としてポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の偏光部材。
[5]前記機能性膜はハードコート膜である、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材。
[6]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成された偏光膜上にプライマー層を形成すること、および、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記プライマー層として、厚さ0.5μm以下の水系樹脂層を、樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を偏光膜上に塗布し、該組成物を乾燥させることにより形成することを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[7]前記樹脂成分としてポリウレタン樹脂を使用する、[6]に記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記水系樹脂組成物は樹脂成分が水中に分散した水分散液である、[6]または[7]に記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記基材上に配列層を形成し、該配列層上に前記偏光膜を形成する、[6]〜[8]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記配列層としてケイ素酸化物含有層を形成する、[9]に記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記機能性膜としてハードコート層を形成する、[6]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[12]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[6]〜[11]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[13]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の固定化処理を行うことを更に含む、[6]〜[12]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0011】
更に本願発明者により、以下の新たな知見も見出された。
【0012】
前述の特許文献1、3の実施例では、偏光膜上に機能性膜として、アクリル系の被膜が設けられている。しかし、上記アクリル系の被膜は偏光部材の耐スクラッチ性を高めるために有効であるものの、二色性色素を含有する偏光膜との密着性に乏しく、そのため保管中ないしは使用中に部材本体から剥離する場合がある。この理由について本願発明者は、機能性膜を形成するために使用される多官能アクリレート系化合物が、偏光膜中に含まれる二色性色素との親和性に乏しいことが、アクリル系機能性膜と偏光膜との密着性の低さの原因であると考えた。
これに対し本願発明者が、偏光膜とアクリル系機能性膜との間に水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成したところ、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することが可能となった。これは水系樹脂組成物が、二色性色素膜(偏光膜)のみならず多官能アクリレート系化合物に対しても高い親和性を有することに起因すると、本願発明者は推察している。また、本願発明者の検討の結果、水系樹脂組成物は、二色性色素の非水溶化処理を施した後であっても偏光膜に対して高い親和性を示すことも明らかになった。この点は、従来知られていなかった点であり、本願発明者により見出された新たな知見である。
【0013】
即ち、本願発明者により、下記態様(以下、「態様B」ともいう)も見出された。下記態様Bによれば、アクリル系被膜と偏光膜との密着性を長期にわたり良好に維持することができる。特に、前記した本発明の製造方法、前記態様A、および下記態様Bの三態様の二以上を任意に組み合わせることにより、長期にわたり優れた耐久性を示し、優れた光学特性を有する偏光部材を提供することが可能となる。
【0014】
[1]基材上に二色性色素を含有する偏光膜と機能性膜とをこの順に有する偏光部材であって、
前記偏光膜と機能性膜との間に水系樹脂層を有し、かつ前記機能性膜は多官能アクリレート系化合物を含有する塗布膜を硬化させることにより形成されたものであることを特徴する偏光部材。
[2]前記偏光膜は、非水溶化処理が施された二色性色素を含有する、[1]に記載の偏光部材。
[3]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]または[2]に記載の偏光部材。
[4]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[3]に記載の偏光部材。
[5]前記水系樹脂層は樹脂成分としてポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材。
[6]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成された偏光膜上にプライマー層を形成すること、および、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記プライマー層を、樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を偏光膜上に塗布し、該組成物を乾燥させることにより形成し、かつ、
前記機能性膜を、形成されたプライマー層上に多官能アクリレート系化合物を含有する塗布液を塗布することにより塗布膜を形成し、次いで該塗布膜を硬化させることにより形成することを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[7]前記樹脂成分としてポリウレタン樹脂を使用する、[6]に記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記水系樹脂組成物は樹脂成分が水中に分散した水分散液である、[5]または[7]に記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記基材上に配列層を形成し、該配列層上に前記偏光膜を形成する、[6]〜[8]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記配列層としてケイ素酸化物含有層を形成する、[9]に記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[6]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[12]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の固定化処理を行うことを更に含む、[6]〜[11]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0015】
本発明によれば、長期にわたり優れた耐久性を示す、高品質な偏光部材を提供することができる。