【実施例】
【0064】
本発明は、以下の実施例にしたがって理解されてよいが、当該実施例は、単に本発明を説明する目的で記載されたものにすぎず、本発明について限定するものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって解されるべきものである。
【0065】
本実施例に記載される反応及び操作は、不活性雰囲気のボックス、あるいは標準のシュレンク(Schlenk)技術のいずれかを用いて、純窒素雰囲気下で行った。テトラヒドロフラン(THF)、エーテル、ヘキサン及びアセトニトリルを、革新的な技術である溶媒精製法を用いて乾燥し、そして4Åの分子篩に貯蔵した。第二ブチルアミンを、酸化バリウムからの蒸留によって乾燥した。メチルリチウム、第三ブチルリチウム、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミド、CuBr,AgCl、CoCl
2、NiCl
2、MnCl
2、MgCl
2、SrCl
2、TiCl
3、VCl
3、BiCl
3、RuCl
3、Me
3Al(トリメチルアルミニウム)、(CF
3SO
3)
3La(Laトリフレート)、La及びPrは、Aldrich Chemical Company から入手して使用した。これらの手順によって得られた金属化合物は、一般に、周囲空気中の湿分及び/又は酸素と反応するので、純窒素ガスあるいはアルゴンガスのような不活性な、乾燥雰囲気下で、貯蔵し、また取り扱わなければならない。
【0066】
実施例1:銅(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Cu(
iPr−AMD)]
2)の合成
メチルリチウムのエーテル溶液(エーテル34mL中1.6モル、0.054モル)を、−30℃下で、100mLの1,3−ジイソプロピルカルボジイミド(6.9g、0.055モル)エーテル溶液に滴下して加えた。この混合物を室温まで暖め、4時間攪拌した。次いで、得られた無色溶液を、50mLの臭化銅(7.8g、0.054モル)溶液に添加した。この反応混合物を、光を排除した下で12時間攪拌した。次いで、減圧下で全ての揮発物を除き、得られた固体をヘキサン(100mL)で抽出した。このヘキサン抽出物をガラスフリット上のセライトパッドを通過させて濾過して、淡黄色の溶液を得た。炉液を濃縮し、それを−30℃に冷却したところ、9.5gの無色の結晶を生成物(83%)として得た。昇華:50ミリトール下で70℃。
1H NMR(C
6D
6、25℃):1.16(d,12H)、1.65(s,3H)、3.40(m,2H)。C
16H
34N
4Cu
2の計算値:C,46.92、H,8.37、N,13.68。実測値:C,46.95、H,8.20、N,13.78。
[Cu(
iPr−AMD)]
2結晶を、X線結晶学によって構造決定した。
図2に示す[Cu(
iPr−AMD)]
2は、アミジナート配位子がμ,η
1:η
1様に銅金属原子を橋架けしている固体状態の二量体である。その平均Cu−Nの距離は、1.860(1)Åである。Cu−N−C−N−Cuの5員環の形状は、結晶構造的に中心に対して対称である平面状である。
【0067】
実施例2: コバルトビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Co(
iPr−AMD)
2])の合成
この化合物を、溶媒としてエーテルとTHFの1:1の混合物を用いたことを除いて、 [Cu(
iPr−AMD)]
2に関して記載したと同様な方法で得た。−30℃下で、ヘキサン中で再結晶したところ、暗緑色の結晶を生成物(77%)として得た。昇華:50ミリトール下で40℃。融点:72℃。C
16H
34N
4Coの計算値:C,56.29、H,10.04、N,16.41。実測値:C,54.31、H,9.69、N,15.95。
図3に示されるCo(
iPr−AMD)
2は、歪んだ四面体位置におけるそれぞれのコバルト原子の近傍に配位した2個のアミジナート配位子をもつ単量体である。その平均Co−Nの距離は、2.012(8)Åである。Co−N−C−Nの4員環は、強制鏡面をもつ平面である。
【0068】
実施例3: コバルトビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Co(
iBu−AMD)
2])の合成
この化合物を、1,3−ジイソプロピルカルボジイミドの代わりに1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いて、実施例2における([Co(
iPr−AMD)
2])と同様な方法で得た。暗青色の結晶(84%)。昇華:50ミリトール下で45℃。融点:90℃。C
20H
42N
4Coの計算値:C,60.43、H,10.65、N,14.09。実測値:C,58.86、H,10.33、N,14.28。
【0069】
実施例4: ランタントリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([La(
iPr−AMD)
3])の合成
CoCl
2の代わりにLaCl
3(THF)
2を用いて、[Co(
iPr−AMD)
2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、灰色がかった白色の固体を、粗原料の固体材料を昇華した生成物として得た。昇華:40ミリトール下で80℃。
1H NMR(C
6D
6、25℃):1.20(d,36H)、1.67(s,18H)、3.46(m,6H)。C
24H
51N
6Laの計算値:C,51.24、H,9.14、N,14.94。実測値:C,51.23、H,8.22、N,14.57。
【0070】
実施例5: ランタントリス(N,N'−ジイソプロピル−2−t−ブチルアミジナート)([La(
iPr−
iBuAMD)
3]・1/2C
6H
12)の合成
LaCl
3(THF)
2を用いることを除いて、[Co(
iPr−AMD)
2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、灰色がかった白色固体を、粗原料の固体材料を昇華した生成物として得た。無色の結晶(80%)。昇華:50ミリトール下で120℃。融点:140℃。
1H NMR(C
6D
6、25℃):1.33(br,21H)、4.26(m,6H)。C
33H
75N
6Laの計算値:C,57.04、H,10.88、N,12.09。実測値:C,58.50、H,10.19、N,11.89。
【0071】
実施例6: 鉄ビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Fe(
iPr−AMD)
2]
2)の合成
FeCl
2を用いたことを除いて、[Co(
iPr−AMD)
2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、黄緑色の固体[Fe(
iPr−AMD)
2]
2を、そのヘキサン抽出から溶媒を蒸発させた生成物として得た。昇華:50ミリトール下で70℃。融点:110℃。
【0072】
実施例7: 鉄ビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Fe(
iBu−AMD)
2])の合成
1,3−ジイソプロピルカルボジイミドに代えて1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いたことを除いて、[Fe(
iPr−AMD)
2]
2に関して上記したと同様な手順にしたがって、白色の結晶(77%)を得た。昇華:60ミリトール下で55℃。融点:107℃。C
20H
42N
4Feの計算値:C,60.90、H,10.73、N,14.20。実測値:C,59.55、H,10.77、N,13.86。
【0073】
実施例8: ニッケルビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ni(
iPr−AMD)
2])の合成
NiCl
2を用いたことを除いて、[Co(
iPr−AMD)
2]に関して実施例2に記載したと同様な手順にしたがい、かつ当該反応混合物を一晩還流して、褐色の固体[Ni(
iPr−AMD)
2]
2を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。褐色の結晶(70%)。昇華:70ミリトール下で35℃。融点:55℃。C
16H
34N
4Niの計算値:C,56.34、H,10.05、N,16.42。実測値:C,55.22、H,10.19、N,16.12。
【0074】
実施例9: マンガンビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Mn(
iPr−AMD)
2]
2)の合成
MnCl
2を用いたことを除いて、[Co(
iPr−AMD)
2]に関して記載したと同様な手順にしたがい、固体[Mn(
iPr−AMD)
2]
2を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。黄緑色の結晶(79%)。昇華:50ミリトール下で65℃。C
32H
68N
8Mn
2の計算値:C,56.96、H,10.16、N,16.61。実測値:C,57.33、H,9.58、N,16.19。
【0075】
実施例10: マンガンビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mn(
iBu−AMD)
2])の合成
1,3−ジイソプロピルカルボジイミドに代えて1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いたことを除いて、[Mn(
iPr−AMD)
2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、淡黄色の結晶(87%)を得た。昇華:60ミリトール下で55℃。融点:100℃。
【0076】
実施例11: チタントリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ti(
iPr−AMD)
3])の合成
LaCl
3(THF)
2の代わりにTiCl
3を用いたことを除いて、[La(
iPr−AMD)
3]に関して上記したと同様な手順にしたがって、[Ti(
iPr−AMD)
3]を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。褐色の結晶(70%)。昇華:50ミリトール下で70℃。C
24H
51N
6Tiの計算値:C,61.13、H,10.90、N,17.82。実測値:C,60.22、H,10.35、N,17.14。
【0077】
実施例12: バナジウムトリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([V(
iPr−AMD)
3])の合成
TiCl
3の代わりにVCl
3を用いたことを除いて、[Ti(
iPr−AMD)
3]に関して上記したと同様な手順にしたがって、[V(
iPr−AMD)
3]を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。赤褐色の粉体(80%)。昇華:45ミリトール下で70℃。
【0078】
実施例13: 銀(N,N'−ジ−イソプロピルアセトアミジナート)([Ag(
iPr−AMD)]
x(x=2及びx=3)の合成
これら二種の化合物は、[Cu(
iPr−AMD)]に関して記載したと同様な方法で同時に調製して、二量体と三量体の1:1の混合物として得た。無色の結晶(90%)。昇華:40ミリトール下で80℃。融点:95℃。
1H NMR(C
6D
6、25℃):1.10(d,二量体)、1.21(d,三量体)、1.74(s,三量体)、1.76(s,二量体)、3.52(m,二量体及び三量体に係るピークは明瞭に分解されない)。[C
8H
17N
2Ag]
xの計算値:C,38.57、H,6.88、N,11.25。実測値:C,38.62、H,6.76、N,11.34。
【0079】
実施例14.銅材料の原子層の析出
図1の装置を用いて、銅材料を析出させた。銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナートの二量体を、蒸気容積125cm
3をもつステンレス鋼製の容器11内に置いて、85℃に加熱した。その温度では、約0.15トールの蒸気圧を有する。1.0ミクロモルの投与量の銅先駆物質を、窒素のキャリアガスを用いて10トールまでチェンバーを加圧することによって導入した。水素を、ガスクロマトグラフの試料採取バルブを用いて1.4ミリモルの投与量で導入した。基板130とチェンバー110の加熱壁の面積の合計は、約10
3cm
2となった。よって、銅先駆物質の1回分の投与量は1×10
-9モル/cm
2で、水素の1回分の投与量は1.4×10
-6モル/cm
2であった。その「暴露」は、析出領域における先駆物質の蒸気の分圧とこの蒸気が基板表面の所定の位置で接触する時間との積として定義される。当該銅先駆物質に対する基板の暴露は、2.3×10
4ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は3.4×10
7ラングミュア/作業周期であった。
【0080】
一枚のシリコン基板130を、希塩酸溶液中に数秒間浸漬してその固有の酸化物を溶解させることによって調製した。次いで、当該基板を、その表面が親水性になるまで(約2分)、空気中で紫外線(例えば、UV水銀灯)を照射した。その後、基板130をチェンバー110内に配置し、225℃の温度まで加熱した。その他の狭い細孔(4.5:1比の長さ対直径)を有するシリコン基板を、同様に処理してチェンバー110内に配置した。ガラス状の炭素基板を、乾燥及びUV洗浄前に、10%のHF(5秒)、脱イオン水(30秒)、及びイソプロパノール(10秒)で洗浄した。シリコン上のガラス及びスパッタされた白金と銅からなる基板を、イソプロパノール(10秒)で洗浄し、乾燥した。
【0081】
キャリアガスを、銅先駆物質と水素との交互の複数回分の投与量の間に、10秒間流した。500回の作業周期が完了した後、析出チェンバー用の加熱器の電源を切った。基板が室温まで冷却した後に、それらを反応器から取り出した。炭素及びシリコン基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、8×10
16原子/cm
2厚、即ち1.4×10
-7モル/cm
2厚の新鮮な銅からなる薄膜を有していることが判明した。
【0082】
多数の細孔を有するシリコンウェーハを切り取り、その細孔の断面について走査電子顕微鏡(SEM)観察をした。
図4の顕微鏡写真では、銅が約10:1のアスペクト比(長さ対直径の比として定義される)を有する細孔の内面全体を覆っていることが示されている。よって、この銅のALD法は、優れたステップカバレッジを示している。
【0083】
実施例15.表面反応が自己制御的であることの立証
両反応体の複数回分の投与量を2倍にしたことを除いて、実施例14を繰り返した。薄膜の厚さ及びその特性は、実施例14のそれと不変であった。この結果は、その表面反応が自己制御的であることを示している。
【0084】
実際例16.薄膜の厚さは、作業周期の数と共に直線的に変わることの立証
500回の作業周期に代えて1000回の作業周期を用いたことを除いて、実施例14を繰り返した。2倍量の材料が析出した。この結果は、それぞれの自己制御的反応が、再度開始するための他の反応に必要な条件を再生していること、および基板表面での開始反応又は核生長に、実質的な遅れが全くないことを示している。
【0085】
実施例17.銅の原子層の析出に係る温度範囲の立証
基板温度を180℃〜300℃の範囲内で変えたことを除いて、実施例14を繰り返した。作業周期当たりの厚さが
図6に示されるように温度と共に変化したことを除いては、同様な結果が得られた。基板温度が180℃以下では、銅の析出は全く観察されなかった。この観察によると、反応チェンバーの壁の温度が180℃以下でかつ先駆物質の露点以上に保持されるならば、当該壁には望ましくない銅の析出物は残留しないことを教示している。
【0086】
実施例18.コバルト金属の原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持されたコバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を300℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、内径20μmを有する溶融シリカ製の毛管と共に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、コバルト先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水素の一回分の投与量は9×10
-7モル/cm
2であった。コバルト先駆物質に対する基板の暴露は、1×10
5ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、2×10
7ラングミュア/作業周期であった。
【0087】
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×10
16原子/cm
2厚、即ち8×10
-8モル/cm
2厚の新鮮なコバルト金属からなる薄膜を有していることが判明した。その被覆された溶融シリカの毛管を光学顕微鏡で調べたところ、当該コバルト薄膜が管の細孔中に少なくとも60倍(即ち、アスペクト比>60)まで延びていることが判明した。
図5において、1は細孔の開口端部を示し、そして2は細孔中に皮膜がどこまで浸透したかの程度を示している。この結果は、このコバルトALD法によって達成された、優れたステップカバレッジを示している。
【0088】
実施例19.コバルトの原子層析出に係る温度範囲の立証
基板温度を250℃〜350℃の範囲内で変えたことを除いて、実施例18を繰り返した。作業周期当たりの厚さが
図7に示されるように温度と共に変化したことを除いては、同様な結果が得られた。基板温度が250℃以下では、コバルトの析出は全く観察されなかった。この観察によると、反応チェンバーの壁の温度が250℃以下でかつ先駆物質の露点以上に保持されるならば、当該壁には望ましくないコバルトの析出物は残留しないことを教示している。
【0089】
実施例20. Co/WN接着剤層/拡散バリア上への付着性銅薄膜の原子層の析出
先に二酸化珪素上に被覆された窒化タングステン(WN)層、WN/SiO
2/Si上に、実施例14と実施例18における作業を交互に繰り返した。多層構造Cu/Co/WN/SiO
2をもつ平滑な、付着性薄膜が得られた。次いで、この多層構造の表面に接着テープを接着した。当該テープを引き剥がしたときに、接着力の喪失は全く観察されなかった。
【0090】
実施例21. 酸化コバルトの原子層の析出
水素ガスを水蒸気に代えたことを除いて、実施例18を繰り返した。略CoOの組成をもつ酸化コバルトの均一で、平滑な層が析出した。
【0091】
実施例22. 金属ニッケルの原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持されたニッケルビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を280℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、ニッケル先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水素の一回分の投与量は8×10
-7モル/cm
2であった。ニッケル先駆物質に対する基板の暴露は、3×10
4ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、7×10
6ラングミュア/作業周期であった。
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×10
16原子/cm
2厚、即ち8×10
-8モル/cm
2厚の新鮮なニッケル金属からなる薄膜を有していることが判明した。
【0092】
実施例23. 金属鉄の原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持された鉄ビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を280℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、鉄先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水素の一回分の投与量は4×10
-6モル/cm
2であった。鉄先駆物質に対する基板の暴露は、8×10
4ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、4×10
7ラングミュア/作業周期であった。
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×10
16原子/cm
2厚、即ち8×10
-8モル/cm
2厚の新鮮な鉄金属からなる薄膜を有していることが判明した。
【0093】
実施例24. 酸化鉄のALD
コバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて85℃に保持された鉄ビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Fe(
iBu-AMD)
2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、鉄先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10
-8モル/cm
2であった。鉄先駆物質に対する基板の暴露は、8×10
4ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、7×10
5ラングミュア/作業周期であった。略FeOの組成をもつ酸化鉄の均一で、平滑な層が250℃に加熱された基板上に析出した。
【0094】
実施例25. 酸化ランタンのALD
コバルトトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて120℃に保持されたランタントリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([La(
iBu-AMD)
3])を用いて、実施例21を繰り返した。50回の作業周期のそれぞれでは、ランタン先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10
-8モル/cm
2であった。ランタン先駆物質に対する基板の暴露は、3×10
4ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、7×10
5ラングミュア/作業周期であった。略La
2O
3の組成をもち、約5nm厚の酸化ランタンの均一で、平滑な層が300℃に加熱された基板上に析出した。
【0095】
実施例21の手順を50回以上の作業周期で繰り返すと、反応チェンバーの異なる部分での試料を覆う厚さは均一に分布せず、そして作業周期当たりの厚さは、特に真空ポンプの排出口に近い領域では作業周期当たり0.1nmより大きかった。この結果についての我々の解釈によれば、水の投与時に、水蒸気が、より厚い酸化ランタン層の塊中に吸収されるということである。噴射水に続く数秒のパージ時間中に、吸収された水の全部でなく一部が、解放されて窒素ガス中に戻り、チェンバー外に搬出された。しかしながら、更なる水蒸気の解放が、次のランタン先駆物質の投与時に継続した。La
2O
3の化学蒸着があると、次いでこの残留水蒸気とランタン先駆物質との反応が起こり、期待以上の成長速度が、特に真空ポンプの排出口に最も近い析出チェンバーの部分に得られる。均一な厚さは、水蒸気のパージ時間を長くすることによって回復することができる。厚さの均一性を回復させるより実際的な解決は、実施例26に記載される。
【0096】
実施例26. 酸化ランタン/酸化アルミニウムのナノラミネートのALD
実施例25を、16回の作業周期の酸化ランタンを析出させるために繰り返した。次いで、当該分野の周知技術にしたがい、トリメチルアルミニウム蒸気と水蒸気の交互の複数回の投与量を用いて、6回の作業周期の酸化アルミニウムをALDによって析出させた。このパターン(16La
2O
3+6Al
2O
3)の作業周期を5回繰り返した。約10nm厚の均一で、平滑な層が、300℃に加熱された基体上に析出した。当該層は、略LaAlO
3の平均組成を有していた。この材料から作られたコンデンサーは、約18の誘電率を有し、1ボルトの印加電圧下で、非常に低い約5×10−8アンペア/cm
2の漏れ電流しか生じなかった。
実施例26で達成した厚さの均一性についての我々の解釈によれば、その酸化アルミニウム層が、下方の酸化ランタン層への水の拡散を防止するバリアとして作用しているということである。
【0097】
実施例27. 酸化マンガンのALD
コバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて75℃に保持されたマンガンビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mn(
iBu-AMD)
2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、マグネシウム先駆物質の一回分の投与量は4×10
-9モル/cm
2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10
-8モル/cm
2であった。マンガン先駆物質に対する基板の暴露は、3×10
4ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、6×10
5ラングミュア/作業周期であった。略MnOの組成をもつ酸化マンガン(II)の均一で、平滑な層が、約0.1nm/作業周期の析出速度で、250℃に加熱された基板上に析出した。
【0098】
実施例28. 酸化マグネシウムのALD
実施例21で用いたコバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて、実施例3に記載したそれと同様な手順によって調製された、80℃に保持されたマグネシウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mg(
iBu-AMD)
2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、マグネシウム先駆物質の一回分の投与量は3×10
-9モル/cm
2であり、水蒸気の一回分の投与量は6×10
-8モル/cm
2であった。マグネシウム先駆物質に対する基板の暴露は、3×10
4ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、5×10
5ラングミュア/作業周期であった。略MgOの組成をもつ酸化マグネシウムの均一で、平滑な層が、0.08nm/作業周期の析出速度で、250℃に加熱された基板上に析出した。
【0099】
実施例29. リチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートの合成
1当量の乾燥第二ブチルアミン、1当量の乾燥アセトニトリル及び0.02当量のランタントリフレート、触媒を、還流冷却器付シュレンクフラスコに投入した。反応混合物を3日間還流させながら、乾燥窒素を、還流カラムを通して通気ビンからフラスコ中にゆっくりと通過させた。次いで、過剰の反応体を真空下に取り除き、残留液を蒸留により精製して、第二ブチルアセトアミジンを得た。
1H NMR(C
6D
6、25℃):δ1.49(m,4H)、δ1.38(s,3H)、δ1.11(d,J=6Hz,6H)、δ0.90(t,J=8Hz,6H)。
【0100】
第二ブチルアセトアミジンのエーテル溶液を、還流カラムとオイル通気ビンをもつ反応フラスコ内で、1g/乾燥エーテル10mLの濃度で調製した。次いで、1当量のメチルリチウムエーテル溶液をゆっくりとこの第二ブチルアセトアミジン溶液に添加して、反応混合物を1時間攪拌した。得られたリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート溶液を、その後、更に精製することなく、他の金属sec−ブチルアセトアミジナート塩の合成に使用した。リチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートの
1H NMR(C
6D
6、25℃):δ3.16(m,2H)、δ1.71(s,3H)、δ1.68(m,2H)、δ1.52(m,2H)、δ1.19(d,J=6Hz,4H)、δ0.94(m,6H)。
【0101】
実施例30. コバルトビス(N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート)([Co(sec−Bu−AMD)
2])の合成
無水塩化コバルト(II)、CoCl
2を、乾燥箱内のシュレンクフラスコ中に秤量装填した。実施例29で作製した2当量のリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート溶液を、等容量の乾燥THFと共に添加した。反応混合物を一晩攪拌し、次いで揮発物を室温下、真空中で取り除いた。当該固体を乾燥ヘキサンに溶解し、濾過して、真空中、室温下で濾液からヘキサンを除いたところ、粗収率82%のコバルトビス(N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート)を得た。この液体を蒸留(60ミリトール下で55℃)により精製した。
【0102】
実施例31. 銅(I)N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート二量体([Cu(sec−Bu−AMD)]
2)の合成
実施例30の手順を、塩化コバルトと実施例29で調製した1当量のリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートとに代えて、1当量の塩化銅(I)、CuClを用いて実施した。[Cu(sec−Bu−AMD)]
2を、実施例30の手順で単離した。昇華:50ミリトール下で55℃。融点:77℃。[Cu(sec−Bu−AMD)]
2は、銅のALD用の先駆物質として、それが蒸発に用いられる温度(約100℃)下で液体であり、その結果、固体先駆物質の昇華により得られるよりも一層再生可能な蒸気の送出が得られるという点で利点を有する。
【0103】
実施例32. ビスマストリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)二量体([Bi(
iBu−AMD)
3]
2)の合成
1当量の三塩化ビスマス、BiCl
3、及び3当量のリチウムN,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート(1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドとメチルリチウムとの反応によって得られる)を、THF中で一晩還流した。THFを蒸発した後、乾燥ヘキサンで抽出し、濾過して、濾液からヘキサンを抽出し、粗生成物を昇華(80ミリトール下で70℃)によって単離した。融点:95℃。p−キシレン溶液中での凝固点降下法による二量体。
【0104】
実施例33. ストロンチウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([St(
iBu−AMD)
2]
n)の合成
実施例32で用いたそれと同様な手順にしたがって、ストロンチウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を得た。粗生成物を、昇華(90ミリトール下で130℃)によって生成した。
【0105】
実施例34. 酸化ビスマス、Bi
2O
3のALD
実施例25と同様な手順にしたがって、酸化ビスマス、Bi
2O
3の薄膜を、85℃でビスマストリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を含む蒸発源から、200℃の温度下で基板上に析出させた。当該薄膜の厚さは、約0.03nm/作業周期であった。
【0106】
実施例35. ルテニウムトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ru(
iPr−AMD)
3])の合成
実施例11と同様な手順にしたがって、ルテニウムトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ru(
iPr−AMD)
3])を、低収率で得た。
【0107】
比較例1.
実施例14を、銅先駆物質のみを用い、かつ水素ガスを用いないで繰り返した。基板表面に析出された薄膜は、全く観察されなかった。
【0108】
比較例2.
実施例18を、コバルト先駆物質のみを用い、かつ水素を用いないで繰り返した。基板表面に析出された薄膜は、全く観察されなかった。
【0109】
当業者であれば、単に慣用の実験のみをもってしても、本明細書に特定して記載される発明の特定の実施態様に相当する多くの発明が認められるか、あるいはそれを確認することが可能となろう。かかる発明についても、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。