(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は車両に乗車した運転者を基準とする。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1の右側面図である。
図1に表れているように自動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3とを備えている。前輪2は、各々略上下方向に延びる左右一対のフロントフォーク4の下端部に回転自在に支持されている。左右のフロントフォーク4の上部は、アッパおよびロワの一対のブラケット(図示せず)によって互いに連結されるとともに、ステアリングシャフト(図示せず)を介して車体側のヘッドパイプ5に回転自在に支持されている。アッパブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられており、このハンドル6を握って運転者は、ヘッドパイプ5の周りにフロントフォーク4および前輪2を転舵することができる。
【0026】
また、ハンドル6の右端には、運転者の右手により把持されるスロットルグリップ7が設けられており、手首のひねりによってスロットルグリップ7を回転させることで、後述のメインスロットルバルブ21(
図3を参照)を操作することができる。スロットルグリップ7の前方には主に前輪ブレーキ74を操作するためのブレーキレバー8が設けられている。一方、ハンドル6の左端には運転者の左手により把持されるグリップの前方に、後述するクラッチ28(
図3を参照)を操作するためのクラッチレバー9(
図3を参照)が設けられている。
【0027】
前記フロントフォーク4は、一例として
図2(A)に模式的に示すように、アウタチューブ40およびインナチューブ41を備えたテレスコピック形のもので、内部にコイルスプリング43が配設されるとともにオイルダンパが一体化された緩衝装置でもある。すなわち、インナチューブ41内には摺動自在にピストン42が収容され、これにより伸び側および縮み側の各作動室41a,41bが区画されている。ピストン42は、インナチューブ41の軸線に沿って延びるロッド44の下端に固定され、このロッド44の上端は、アウタチューブ40の底部に固定されている。
【0028】
前記作動室41a,41bにはオイルが封入されており、詳細は図示しないが、フロントフォーク4の伸び縮みにそれぞれ対応して前記伸び側および縮み側の各作動室41a,41bの間をオイルが流通するように、ピストン42には伸び側および縮み側のワンウエイバルブが設けられている。また、縮み側の作動室41bとリザーバ45との間にはバルブユニット46が配設されている。一例としてバルブユニット46には、伸び側および縮み側のワンウエイバルブと、それらをバイパスする連通の開度を調整するコントロールバルブとが設けられており、このコントロールバルブの開度を電磁アクチュエータ47(
図10を参照)によって変更し、オイルの流通抵抗を増減させることで、減衰力を変更することができる。
【0029】
図1に戻って、前記のように構成されたフロントフォーク4の下端部には、前輪2と一体に回転する前輪ブレーキディスク74Aを挟むようにして、前輪ブレーキキャリパ74Bが支持されている。これらの前輪ブレーキディスク74Aおよび前輪ブレーキキャリパ74Bによって前輪ブレーキ74が構成される。前輪ブレーキキャリパ74Bは、液圧力によって前輪ブレーキディスク74Aに押し付けられるピストン(図示せず)を備えている。前輪ブレーキキャリパ74Bに液圧力(ブレーキ液圧)を供給するためのブレーキ液圧系統60については
図6を参照して後述する。
【0030】
自動二輪車1は、ヘッドパイプ5から後方に向かって若干、下方に傾斜しながら延びる左右一対のメインフレーム10を備えている。この各メインフレーム10の後部にはそれぞれ、下方に伸びるピボットフレーム11が接続されていて、略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部を揺動可能に支持している。スイングアーム12の後端部には後輪3が回転自在に支持されているとともに、前記した前輪ブレーキ74と同様に後輪ブレーキディスク76Aを挟むようにして、後輪ブレーキキャリパ76Bが支持されて、後輪ブレーキ76を構成している。
【0031】
また、スイングアーム12の途中、一例としてその前後方向の中央よりも前寄りの部位に、リンク等を介してクッションユニット18(
図2(B)を参照)が取り付けられている。このクッションユニット18は、スイングアーム12の揺動に対応してバネ力および減衰力を発生する後輪3側の緩衝装置であり、
図2(B)に一例を示すように、オイルの封入されたシリンダ181と、その内部に摺動自在に収容されたピストン182と、このピストン182に固定されるとともに、シリンダ181の下端部にシール184を介して摺動可能に嵌合するロッド183と、を備えている。
【0032】
前記ピストン182は、前述したフロントフォーク4のピストン42と同様に伸び側および縮み側の各作動室181a,181bを区画するとともに、オイルの流通する伸び側および縮み側のワンウエイバルブを備えている。また、縮み側の作動室181bとリザーバ185との間にもフロントフォーク4と同様にバルブユニット186が設けられており、このバルブユニット186の有するコントロールバルブの開度を電磁アクチュエータ187(
図10を参照)によって変更し、オイルの流通抵抗を増減させることで、減衰力を変更することができる。
【0033】
なお、
図2(B)の例ではシリンダ181の上端に車体側に連結されるピロボール181cが設けられる一方、ロッド183の下端には、下側ばね受け座183aと、スイングアーム12に連結されるピロボール183bとが設けられている。そして、シリンダ181の長手方向の中央付近に設けられた上側ばね受け座181dと、前記下側ばね受け座183aとの間に、クッションばね188が予圧縮された状態で介装されている。
【0034】
再び
図1に戻って、自動二輪車1のメインフレーム10の上部には、ヘッドパイプ5の付近から後方に向かって伸びるように燃料タンク13が配設され、その後方に連なって騎乗用のシート14が配設されている。シート14の下方には、左右両側に運転者の足載せのステップ15が設けられており、右側のステップ15の下方から前方へ延びるようにブレーキペダル16が設けられている。ブレーキペダル16の後端部はステップステーなどに軸支されており、このブレーキペダル16を運転者が足で踏み込むことで、主に後輪ブレーキ76を作動させることができる。
【0035】
また、前記メインフレーム10の下部には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。一例としてエンジンEは並列4気筒エンジンであり、その後側には、
図3を参照して後述する吸気系が接続されている一方、エンジンEの前側には排気系が接続され、各気筒からの排気を集合させてサイレンサ17に導くようになっている。エンジンEの回転出力は、クランクケースに一体的に設けられた変速装置T(
図3を参照)からチェーンなどの伝動部材を介して後輪3に伝達される。
【0036】
−エンジン等の制御システム−
図3は、
図1の自動二輪車1に搭載されたエンジンE等の制御システムを示すブロック図である。
図3に示すようにエンジンEの吸気系において、エアクリーナ19から吸気の下流側に伸びる吸気管20にはメインスロットルバルブ21とサブスロットルバルブ22とが配設されている。メインスロットルバルブ21は、スロットルワイヤー23を介してスロットルグリップ7に接続されており、運転者によるスロットルグリップ7の操作に連動して開閉する。このメインスロットルバルブ21の開度はスロットルポジションセンサ25によって検出される。
【0037】
一方、サブスロットルバルブ22はメインスロットルバルブ21の吸気上流側に配設され、一例として電動モータからなるバルブアクチュエータ24に接続されている。このバルブアクチュエータ24がエンジンECU30からの信号を受けて動作することで、サブスロットルバルブ22の開度が変化し、吸気管20内の吸気の流路断面積を連続的に変更する。また、メインスロットルバルブ21の吸気下流側に燃料を噴射するようにインジェクタ26が設けられている。これらのインジェクタ26から噴射された燃料はエンジンEの各気筒内において空気と混合される。こうして形成される混合気に点火するために、各気筒毎に点火プラグおよび点火回路からなる点火装置27が設けられている。
【0038】
また、前記の如くエンジンEと一体的に設けられた変速装置Tには、クランク軸からの駆動力を伝達するか、または遮断するかのいずれかの状態に切換えられるクラッチ28が設けられている。このクラッチ28にワイヤー等によって接続されているクラッチレバー9が運転者により把持されると、クラッチ28は動力を遮断する状態になり、クラッチレバー9が離されると動力を伝達する状態になる。クラッチレバー9には、その操作(把持されたか否か)を検出可能なクラッチスイッチ29が設けられている。
【0039】
詳細は図示しないが変速装置Tは、互いに平行な入力軸および出力軸を備え、それぞれのギヤ列を噛み合わせるようにした二軸式のものである。この変速装置Tは、前記クラッチ28において動力を遮断した状態で入力軸および出力軸のギヤの組み合わせを変更することにより、変速段(ギヤポジション)を変更可能に構成されている。また、変速装置Tには、そのギヤポジションを検出して信号を出力するギヤポジションセンサ35が設けられている一方、エンジンEには、クランク軸の回転角をピックアップしてその角速度(クランク角速度ω)、即ちエンジン回転数を検出するためのエンジン回転数センサ36が設けられている。
【0040】
前記したスロットルポジションセンサ25、クラッチスイッチ29、ギヤポジションセンサ35、およびエンジン回転数センサ36等からの信号は、それぞれ、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成されたエンジンECU30に入力される。また、後述する前輪車速センサ37および後輪車速センサ38からの信号と、自動二輪車1の傾倒角度(以下、バンク角βという)を検出するバンク角センサ39からの信号もエンジンECU30に入力される。
【0041】
そして、本実施形態のエンジンECU30は、前記各センサ25,35,36,37〜39およびスイッチ29から入力される信号に基づいて、エンジンEの運転制御のための吸気量、燃料噴射量、点火時期等の演算を行うエンジン制御演算部31を備えている。また、エンジンECU30は、エンジン制御演算部31における演算結果に基づいて点火装置27、インジェクタ26、およびサブスロットルバルブ22のバルブアクチュエータ24をそれぞれ制御する点火制御部32、燃料制御部33、およびスロットル制御部34を備えている。
【0042】
−TRC制御機能−
本実施形態のエンジンECU30は、駆動輪である後輪3のスリップ状態に応じてエンジンEの出力を調整する、いわゆるトラクション制御(TRC制御)を行う。
図4は、本実施形態においてTRC制御機能を実現する制御系統の要部のブロック図であり、一例としてエンジン制御演算部31が、TRC制御の介入条件が成立したことを判定する第1および第2のTRC判定部31a,31bと、これらいずれかのTRC判定部31a,31bによってTRC制御の介入条件が成立したと判定されたとき、点火制御、燃料噴射制御およびスロットル制御の少なくとも1つによってエンジンEの出力を低下させるTRC制御部31cと、を備えている。
【0043】
前記第1のTRC判定部31aは、エンジン回転数センサ36からの信号を入力し、エンジン回転数の上昇率、即ちクランク角速度ωの時間あたりの上昇率Δωが所定の閾値以上に大きくなったとき、後輪3が路面に対して不所望な空転を生じる可能性があり、これを抑止すべく駆動力を減少させるべきであることを、即ちTRC制御の第1の介入条件が成立したことを判定する。
【0044】
なお、クランク角速度ωの時間あたりの上昇率Δωというのは、所定時間内におけるクランク軸の回転速度(角速度ω)の増分であり、本実施形態では所定時間あたりの角速度ωの差分を用いている。この差分の算出には、エンジン回転数センサ36により所定のサンプリング周期で取得された角速度ωの各値のうち時間的に隣接した2つの値を用いてもよいし、時間的に隣接していない2つの値を用いてもよい。また、移動平均処理をしてもよい。
【0045】
一方、前記第2のTRC判定部31bは、後述の前輪車速センサ37、後輪車速センサ38からの信号をそれぞれ入力し、加速時において駆動輪である後輪3の車速Vrが前輪車速Vrに対して所定の閾値以上に大きくなったときに、駆動力を減少させるための条件、即ちTRC制御の第2の介入条件が成立したことを判定する。加速時には従動輪である前輪2は殆どスリップしていないと見なしてよいので、これに対する後輪車速Vrの差分(Vr−Vf)を後輪車速Vrで除算したもの、即ち(Vr−Vf)/Vrが後輪3のスリップ率を表すと考えてよい。つまり、第2のTRC判定部31bは、駆動輪である後輪3のスリップ率からTRC制御の介入するタイミングを判定するものである。
【0046】
そして、TRC制御部31cは、前記第1および第2のいずれかのTRC判定部31a,31bによる判定結果に基づいて、後輪3の駆動力を減少させるTRC制御を実行する。例えば点火時期の遅角量、燃料噴射の減少量、吸気の減少量を演算し、それぞれの値に対応する指令値を点火制御部32、燃料制御部33、およびスロットル制御部34に出力する。また、いずれかの気筒の燃焼を休止することで、速やかにエンジン出力を低下させることもできるし、以下に述べるABSの液圧制御系統を利用して後輪3に制動力を付与し、その駆動力を低下させることも可能である。
【0047】
なお、前記第1および第2のTRC判定部31a,31b、並びにTRC制御部31cは、いずれもエンジンECU30のCPUによってソフトウェア・プログラムが実行されることにより実現される。これらは、自動二輪車1の加速時に後輪3に付与する駆動力(回転方向の力)を調整して、そのスリップを抑制するスリップ制御手段に対応する。
【0048】
−ブレーキ制御装置−
本実施形態の自動二輪車1は、公知のアンチロックブレーキシステム(ABS)として機能するブレーキ制御装置を備えている。
図3に表われているように、マイコン等の演算装置やメモリ等より構成されたブレーキECU50には、ブレーキレバー8の操作によって発生する前輪ブレーキ液圧を検出する前輪ブレーキ液圧センサ51と、同じくブレーキペダル16の操作による後輪ブレーキ液圧を検出する後輪ブレーキ液圧センサ52と、前輪2の回転速度からその車輪速度(前輪車速Vf)を検出するための前輪車速センサ37と、後輪3の回転速度からその車輪速度(後輪車速Vr)を検出するための後輪車速センサ38と、からの信号が入力される。
【0049】
なお、ブレーキ液圧はキャリパ圧、マスタ圧のいずれであってもよいし、ブレーキ液圧の代わりにブレーキレバー8やブレーキペダル16の操作量、或いはブレーキパッドの移動量等をブレーキ力として用いることも可能である。車輪速度はその回転角速度に車輪の周長を掛け合わせて求めればよい。
【0050】
また、本実施形態ではブレーキECU50は、以下に詳しく説明するようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69の電動モータ66をそれぞれ制御する。すなわち、前記各センサ37,38、51,52およびエンジンECU30から入力される信号などに基づき、自動二輪車1の制動時に前輪2および後輪3のスリップ率が大きくなってロックする可能性があり、これを抑止すべく制動力を減少させるべきであると判定すれば、ブレーキ液圧系統60を制御して、前輪2および後輪3のそれぞれのブレーキ74,76の液圧を増減させ、当該前輪2および後輪3に付与するブレーキ力を減少させる。
【0051】
さらに、
図5に模式的に示すようにブレーキECU50は、多重通信の可能なCAN(カーエリアネットワーク)によって信号の授受可能にエンジンECU30に接続されている。CANには、詳しくは後述するように、自動二輪車1のフロントフォーク4やクッションユニット18の減衰力を可変調整するためのサスペンションECU90も接続されており、一例としてエンジンECU30がマスターになってブレーキECU50およびサスペンションECU90に指令を与える統合的な制御システムを構成している。
【0052】
また、CANには、運転者により操作されるモード切替スイッチ59も接続されている。これは例えば、TRC制御の介入しやすさ、その効きの強さなどを調整するトラコンモードスイッチであってもよいし、スポーツモードや市街地モードのように走行モードを選択するためのスイッチであってもよい。図示はしないがCANには、電子制御ステアリングダンパのコントローラが接続されていてもよい。
【0053】
なお、エンジン制御のための前記各センサ25,35,36およびスイッチ29やサブスロットルバルブ22のバルブアクチュエータ24、インジェクタ26および点火装置27、並びにABS制御のための各センサ37,38、51,52や以下に述べるブレーキ液圧系統60のアクチュエータ等も、CANを介してエンジンECU30やブレーキECU50に接続されていてもよい。
【0054】
−ブレーキ液圧系統−
図6は、本実施形態におけるブレーキ液圧系統60を表しており、左側には、ブレーキレバー8の操作に応じて前輪ブレーキ74のキャリパ74Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪2にブレーキ力を付与する前輪側のブレーキ液圧系統を表している。同様に右側には、ブレーキペダル16の操作に応じて後輪ブレーキ76のキャリパ76Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪3にブレーキ力を付与する後輪側のブレーキ液圧系統を表している。前輪側および後輪側のブレーキ液圧系統の基本的な構成は同じなので、以下、後輪側について説明する。
【0055】
後輪側のブレーキ液圧系統においてブレーキペダル16は、後輪ブレーキマスタシリンダ77に連結されており、そのブレーキペダル16の踏力圧に応じたブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する。このブレーキ液圧が後輪側の主液路81によって後輪ブレーキキャリパ76Bのピストンに供給される。後輪側主液路81の途中には後輪側第1コントロールバルブ61が介設されており、ブレーキECU50からの信号を受けて開閉されて、後輪側主液路81を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0056】
また、その後輪側第1コントロールバルブ61と後輪ブレーキキャリパ76Bとの間で後輪側主液路81から後輪側減圧液路82が分岐している。後輪側減圧液路82の下流端は後輪側液圧ポンプ63の吸込み側に接続されており、その途中には後輪側第2コントロールバルブ62と後輪側リザーバ65とが介設されている。後輪側第2コントロールバルブ62はブレーキECU50からの信号を受けて開閉され、後輪側減圧液路82を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0057】
一例として前記後輪側第1コントロールバルブ61は、2ポート2位置の常開型の電磁弁であり、また、後輪側第2コントロールバルブ62は2ポート2位置の常閉型の電磁弁である。よって、通常は運転者によるブレーキペダル16の踏み操作に応じて、後輪ブレーキマスタシリンダ77で発生したブレーキ液圧(マスタ圧)が開状態の後輪側第1コントロールバルブ61を介して後輪ブレーキキャリパ76Bに供給される。これにより、ブレーキペダル16の踏み操作に対応する制動力が後輪3に加えられる。
【0058】
一方、ABS制御が開始されると、ブレーキECU50からの信号を受けて後輪側第1コントロールバルブ61および後輪側第2コントロールバルブ62がそれぞれデューティ制御されることで、後輪ブレーキキャリパ76Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持或いは減圧され、後輪3のブレーキ力が調整される。例えば後輪側第2コントロールバルブ62を閉じたまま、後輪側第1コントロールバルブ61も閉じれば、後輪ブレーキ76のキャリパ圧を保持することができ、後輪側第2コントロールバルブ62を開いて後輪ブレーキキャリパ76Bを後輪側リザーバ65に連通させれば、キャリパ圧を減少させることができる。
【0059】
さらに、前記後輪側液圧ポンプ63の吐出口には後輪側加圧液路83が接続されており、この後輪側加圧液路83の下流端は、後輪ブレーキマスタシリンダ77と後輪側第1コントロールバルブ61との間で後輪側主液路81に接続されている。また、後輪側加圧液路83の途中には後輪側ワンウェイバルブ64が介設されている。ブレーキECU50からの信号を受けて電動モータ66が動作すると、後輪側液圧ポンプ63が駆動されて後輪側加圧液路83のブレーキ液圧が増圧され、これにより後輪ブレーキ76のキャリパ圧も増圧させることができる。
【0060】
前記した後輪側ブレーキ液圧系統と同様に、
図6の左側に表れている前輪側ブレーキ液圧系統にも、ブレーキレバー8の操作に応じてブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する前輪ブレーキマスタシリンダ75と、このブレーキ液圧を前輪ブレーキキャリパ74Bに供給する前輪側の主液路84と、その途中から分岐して前輪側液圧ポンプ69の吸込み側に至る前輪側減圧液路85と、前輪側液圧ポンプ69の吐出口から前輪側主液路83までを繋ぐ前輪側加圧液路86と、が設けられている。
【0061】
そして、前記前輪側主液路84、前輪側減圧液路85および前輪側加圧液路86には、それぞれ前輪側第1コントロールバルブ67、前輪側第2コントロールバルブ68および前輪側ワンウェイバルブ70が介設されており、ECU50からの信号を受けて前記前輪側液圧ポンプ69が駆動され、前輪側第1コントロールバルブ67および前輪側第2コントロールバルブ68がそれぞれデューティ制御されることで、前輪ブレーキキャリパ74Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持、減圧或いは増圧され、前輪2のブレーキ力が調整されるようになっている。なお、前輪側第2コントロールバルブ68と前輪側液圧ポンプ69との間の前輪側減圧液路85には前輪側リザーバ71が接続されている。
【0062】
−ABS制御−
図7は、本実施形態に係るブレーキ制御装置の要部を説明するブロック図である。一例としてブレーキECU50は、前輪2および後輪3のブレーキ液圧センサ51,52からの信号を入力し、制動時における自動二輪車1の走行状態を表す状態量として例えばブレーキ液圧を検出する走行状態検出部53と、前輪車速センサ37および後輪車速センサ38からの信号を入力し、前輪2および後輪3のそれぞれについて車輪速度(前輪車速Vf、後輪車速Vr)の低下率が所定の閾値以上に大きくなったとき、ABS制御の第1の介入条件が成立したと判定する第1のABS判定部54と、を備えている。
【0063】
なお、車輪速度の低下率というのは、自動二輪車1の制動時の所定時間内における車輪速度の低下分(絶対値)であり、前記したクランク角速度の上昇率Δωと同様に、車輪速度の差分、即ち前輪車速Vfの差分ΔVf、および後輪車速Vrの差分ΔVrを用いればよい。また、介入判定の閾値については、実験等によって自動二輪車1の制動特性を調べて、これに基づいて設定した閾値ライン(一例として車輪に付与されるブレーキ液圧の増大に応じて、車輪速度Vの低下率ΔVが大きくなるような相関曲線)を、ブレーキECU50のメモリ領域の一部にテーブルとして電子的に格納しておけばよい。
【0064】
さらに、前記ブレーキECU50は、制動時に関して前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差(絶対値)|Vf−Vr|が所定の閾値以上に大きくなったとき、車速の小さな方の車輪についてABS制御の第2の介入条件が成立したと判定する第2のABS判定部55と、この第2のABS判定部55または前記第1のABS判定部54のいずれかによってABS制御の介入条件が成立したと判定された場合、前記のようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69を動作させて、ブレーキ液圧を調整し、車輪に付与する制動力を減少させるABS制御部56と、を備えている。
【0065】
ここで、仮に前輪2または後輪3のいずれか一方の車輪が全く滑っていない(スリップ率が零)とすれば、前記の前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差は、他方の車輪のスリップ率に対応する値になる。一例として制動時に前輪車速Vfよりも後輪車速Vrの方が低ければ、高い方の前輪車速Vfを基準として、これに対する後輪車速Vrの偏差の絶対値|Vf−Vr|を後輪車速Vrで除算したもの(|Vf−Vr|/Vr)を後輪3のスリップ率とみなすことができる。つまり、前記第1および第2のABS判定部は、前輪2または後輪3のスリップ率からABS制御の介入するタイミングを判定するものである。
【0066】
なお、前記第1および第2のABS判定部54,55、並びにABS制御部56は、ブレーキECU50のCPUによってソフトウェア・プログラムが実行されることにより、実現される。これらは、自動二輪車1の制動時に前輪2または後輪3に付与する制動力(回転方向の力)を調整して、そのスリップを抑制するスリップ制御手段に対応する。
【0067】
−路面状態の推定−
さらに、本実施形態においてエンジンECU30は、前述したTRC、ABS制御の演算に用いる車輪2,3のスリップ率に関する値、例えばクランク角速度ωの上昇率Δω、前輪2および後輪3の車輪速度の差|Vf−Vr|やこれを各車輪速度Vf,Vrで除算した値、或いは各車輪速度の差分ΔVf,ΔVr等々に基づいて、自動二輪車1の走行する路面の状態を推定する機能も有している。以下、前記のようなスリップ率に関する値のいずれかを便宜上、スリップ値Sと呼び、これを用いて路面の状態を推定する手法について簡単に説明する。
【0068】
まず、
図8に一例を示すように、自動二輪車の走行試験から、路面状態とスリップ値Sの平均値とその変化率ΔS(スリップ値の単位時間当たりの変化量であり、以下、スリップ値変化率という)の平均値との関係を得る。
図8の左欄における「路面状態1〜路面状態4」は、数字が小さいほど路面と車輪(タイヤ)との間の摩擦係数が高いことを表す。また、中欄および右欄のスリップ値Sおよびスリップ変化率ΔSは、「路面状態1」における当該値を基準(1)として比率で表している。
【0069】
図8に表われているように走行試験の結果から、摩擦係数の変化とスリップ値Sの変化との間に相関性を認めることはできないが、摩擦係数が小さいほどスリップ値変化率ΔSは大きくなることが判る。摩擦係数とスリップ値変化率ΔSとの間には強い相関性がある。また、走行試験においてスロットル開度θを変更しながら、これによるスリップ値変化率ΔSの変化を調べたところ、
図9に一例を示すように、互いに摩擦係数の異なる路面状態1〜4のいずれにおいてもスロットル開度θの大小に関わらず、スリップ値変化率ΔSの最大値は大きく変化しないことが判った。
【0070】
このことから、自動二輪車1の走行中に所定の周期でスリップ値変化率ΔSを計算し、その平均値に基づいて路面状態を推定することができる。すなわち、計算したスリップ値変化率ΔSの平均値を予め設定した閾値、例えば
図9に示すΔS
TH#1〜ΔS
TH#4 の4つの閾値と比較し、これらの閾値ΔS
TH#1〜ΔS
TH#4 によって規定される5つの数値範囲R1〜R5のいずれの範囲にスリップ値変化率ΔSが収まるかによって、路面状態1〜4のいずれかにあることを判定できる。
【0071】
なお、ここでは一例として4つの路面状態に分類したが、これに限定されることはなく、2つ以上の任意の数の領域に分けてもよい。また、前述の如くスリップ値変化率ΔSが路面状態に対応することから、このスリップ値変化率ΔS自体を出力したり、制御パラメータとして車体制御に利用したりすることもできる。
【0072】
−サスペンション制御−
図5を参照して前述したように、本実施形態の自動二輪車1においてはCANを介してエンジンECU30とブレーキECU50とが信号の授受可能に接続されているとともに、これらのECUとの間で信号の授受可能に、フロントフォーク4およびクッションユニット18の減衰力を制御するためのサスペンションECU90も接続されている。減衰力の制御は、以下に説明するように、TRC、ABS制御の介入に対応して走行中の自動二輪車1の姿勢を動的に変化させるものであり、以下、ADC(Active Damping Control)制御と呼ぶ。
【0073】
図10は、サスペンション制御系統の要部を説明するためのブロック図であり、一例としてサスペンションECU90にはエンジンECU30およびブレーキECU50から、前輪車速Vf、後輪車速Vrの他、バンク角センサ39により検出されたバンク角β等の所定の情報に対応する信号が入力する。そして、サスペンションECU90からフロントフォーク4およびクッションユニット18へ、詳しくはそれぞれのバルブユニット46,186の電磁アクチュエータ47,187へ制御指令が出力される。
【0074】
図10のサスペンションECU90は、TRC、ABS制御の介入に対応してそれぞれ、前輪2または後輪3のスリップを抑制するための所定の条件(以下、スリップ抑制条件という)が満たされたことを判定する第1および第2のADC判定部91,92と、この判定に応じて前輪2または後輪3の接地荷重が増大するように、フロントフォーク4およびクッションユニット18の少なくとも一方の減衰力を調整するADC制御部93とを備えている。
【0075】
また、本実施形態のサスペンションECU90は、一例として前輪車速Vf、後輪車速Vr、バンク角β等に基づいて加速時または制動時における自動二輪車1の走行状態を検出する走行状態検出部94も備えており、前記ADC制御部93は、一例としてバンク角βの小さなときほど減衰力の調整量を大きくする、というように自動二輪車1の走行状態に応じてADC制御の内容を変更する。また、ADC制御部93は、上述した路面状態の推定結果に応じて、滑りやすい路面状態であるほど減衰力の調整量を大きくするようにしてもよい。
【0076】
前記第1のADC判定部91は、自動二輪車1の加速時におけるTRC制御の介入に対応して、例えばTRC制御の介入が予想される後輪3のスリップ状態において、当該後輪3のスリップ抑制条件が満たされたと判定する。また、第2のADC判定部92は、自動二輪車1の制動時におけるABS制御の介入に対応して、例えば前輪2のロック傾向が強まりABS制御の介入が予想されるときに、前輪2のスリップ抑制条件が満たされたと判定する。
【0077】
これらの判定に応じてADC制御部93は、自動二輪車1の加速時であればクッションユニット18の減衰力を低下させて後方への姿勢の変化(荷重移動)を助長し、TRC制御の介入する前に後輪3の接地荷重を増大させて、その空転(ホイールスピン)を抑制する(以下、第1のADC制御ともいう)。一方、自動二輪車1の制動時に前輪2のロックが予測されると、ADC制御部93はフロントフォーク4の減衰力を低下させ、前方への姿勢の変化(荷重移動)を助長して前輪2の接地荷重を増大させ、それがロックすることを抑制する(以下、第2のADC制御ともいう)。
【0078】
つまり、ADC制御部93は、第1または第2のADC判定部91、92によって前輪2または後輪3のスリップ抑制条件の満たされたことが判定されると、この条件の満たされていないときに比べて、フロントホーク4またはクッションユニット18のいずれかが縮退しやすくなるようにその緩衝特性を変化させ、自動二輪車1の姿勢をピッチング軸の周りに変化させるものである。換言すれば本実施形態では、前輪2および後輪3の緩衝装置であるフロントフォーク4およびクッションユニット18の減衰力を調整するための構成が、自動二輪車1の姿勢をピッチング軸の周りに変化させる姿勢変化手段に対応している。
【0079】
なお、前記第1および第2のADC判定部91,92、並びにADC制御部93、走行状態検出部94は、以下に説明するフロー(
図11を参照)のようなソフトウェア・プログラムがサスペンションECU90のCPUによって実行されることにより、実現される。第1および第2のADC判定部91,92がスリップ抑制条件判定手段に対応し、ADC制御部93は、自動二輪車1の走行中にその姿勢をピッチング軸の周りに変化させることで、前後輪2,3への荷重分布を変更させる荷重分布制御手段に対応する。一例としてADC制御部93は、フロントフォーク4またはクッションユニット18の減衰力を変化させるものであり、そのタイミングや変化のさせ方を自動二輪車1の車速など走行状態に応じて変更する。
【0080】
−ADC制御の手順−
以下にADC制御の具体的な手順を、
図11のフローチャート図を参照しながら説明する。まず、スタート後のステップSA1において、第1のADC制御の実行中であることを示すADCフラグF1の値を読み込み、F1=1で第1ADC制御中であれば(NO)後述のステップSA6に進む一方、F1=0で第1ADC制御中でなければ(YES)ステップSA2に進む。ステップSA2では同様に第2のADC制御の実行中であることを示すADCフラグF2の値を読み込み、F2=1で第2ADC制御中であれば(NO)後述のステップSA11に進む一方、F2=0で第2ADC制御中でなければ(YES)ステップSA3に進む。
【0081】
ステップSA3では、一例としてスロットルグリップ7の操作量の変化やエンジンEのクランク角速度ωの上昇率Δω、或いは後輪車速Vrの上昇率等に基づいて、自動二輪車1の加速時であるかどうか判定し(加速時?)、この判定がYESであればステップ4に進む。そして、後輪3のスリップ抑制のために接地荷重を増大させる第1のADC制御を開始する条件、即ち後輪3のスリップ抑制条件が満たされたかどうか判定する。
【0082】
この判定は、一例としてエンジンECU30のエンジン制御演算部31における第1のTRC判定部31aから、クランク角速度ωの時間あたりの上昇率Δωの情報を取得し、それがTRC制御の第1の介入条件よりも低い所定の閾値以上になったときに、TRC制御の介入を予測してスリップ抑制条件が満たされたと判定すればよい。同様に第2のTRC判定部31bから後輪3のスリップ率を表す情報を取得し、その値がTRC制御の第2の介入条件よりも低い所定の閾値以上になったときに、スリップ抑制条件が満たされたと判定してもよい。
【0083】
そうして後輪3のスリップ抑制条件が満たされれば、ステップSA5においてADCフラグF1の値を1とし(F1←1)、ステップSA6に進んで、後輪3の接地荷重を増大させるように第1のADC制御を実行する。すなわち、クッションユニット18の減衰力を低下させて、加速に伴う自動二輪車1の後方への姿勢変化、即ち後輪3への荷重移動を助長し、そのグリップ力を増大させる。併せて、フロントフォーク4の減衰力を増大させてもよい。
【0084】
ここで、前記第1のADC制御によるクッションユニット18の減衰力の低下量は、例えば前輪車速Vfの高いときほど、後輪3の空転が生じにくいことを考慮して、減衰力の低下量を小さくしてもよい。また、例えばバンク角βの大きなときほど後輪3が空転しやすいことを考慮すれば、このときには減衰力の低下量を大きくしてもよい。さらに、上述した路面状態の推定結果に応じて、摩擦係数の小さな路面では減衰力の低下量を大きくしてもよい。
【0085】
一方、前記ステップSA3の判定がNOで、自動二輪車1の加速時でなければステップSA7に進み、今度はブレーキECU50を介して前輪2および後輪3のブレーキ液圧に関する情報を取得して、自動二輪車1の制動時であるかどうか判定する(制動時?)。この判定もNOで自動二輪車1が加速時でも制動時でもなければ、ステップSA8において第1および第2のADCフラグF1,F2をいずれもリセットし(F1←0,F2←0)、リターンする。
【0086】
これに対し、自動二輪車1の制動時であれば(ステップSA7でYES)ステップSA9に進み、今度は前輪2の接地荷重を増大させてそのスリップを抑制する、第2のADC制御の開始条件、即ち前輪2のスリップ抑制条件が満たされたかどうか判定する。この判定は、一例としてブレーキECU50の第1のABS判定部54から、制動時における前輪車速Vfの低下率の情報を取得し、それがABS制御の第1の介入条件よりも低い所定の閾値以上になったとき、前輪2のABS制御の介入を予測してスリップ抑制条件が満たされたと判定すればよい。
【0087】
或いは、ブレーキECU50の第2のABS判定部55から前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差(絶対値)|Vf−Vr|の情報を取得し、それがABS制御の第2の介入条件よりも低い所定の閾値以上になったときに、前輪2のABS制御の介入を予測してスリップ抑制条件が満たされたと判定してもよい。そして、ステップSA10においてADCフラグF2の値を1とし、ステップSA11に進んで、前輪2の接地荷重を増大させるように第2のADC制御を実行する。
【0088】
このステップSA11においては、制動時にABS制御が介入する前にフロントフォーク4の減衰力を低下させ、自動二輪車1の制動に伴う前方への姿勢変化、即ち前輪2への荷重移動を助長し、そのグリップ力を増大させる。制動時には後輪3が浮き上がり気味になるので、クッションユニット18の減衰力は低下させて、後輪3と路面との接地状態を維持しやすくしてもよい。制動時にスイングアーム12にはその前端の揺動軸周りに後輪3の浮き上がりを抑えるようなモーメントが作用するので、クッションユニット18の減衰力を増大させて、後輪3の接地荷重を高めるようにしてもよい。
【0089】
ここで、制動時における前記第2のADC制御によるフロントフォーク4の減衰力の低下量は、例えば後輪車速Vrの高いときほど、また、バンク角βの大きなときほど、減衰力の低下量を小さくしてもよい。車速の高いときには、自ずと制動による荷重移動が大きくなりやすく、また、バンク角βの大きいときは急制動に伴い自動二輪車1の姿勢が不安定になりやすいからである。加えて、上述した路面状態の推定結果に応じて、摩擦係数の小さな路面では減衰力の低下量を大きくしてもよい。
【0090】
なお、前記のフローではADC制御を、TRC、ABS制御の介入する直前のタイミングで開始するようにしているが、ADC制御はTRC、ABS制御の介入と同時に、または介入からやや遅れて開始するようにしてもよい。或いは自動二輪車1の走行状態によってADC制御の開始するタイミングを変更してもよい。一例として加速時の第1のADC制御については、自動二輪車1のバンク角βが大きく後輪3の空転が転倒に繋がる可能性の高いときには、TRC制御の介入を優先する一方、バンク角βが小さければTRC制御の介入の前にADC制御を開始し、後輪3の接地荷重を高めるようにしてもよい。
【0091】
また、制動時の第2のADC制御については例えば自動二輪車1の車速に応じて、低速域では前記したようにABS制御の介入する前にADC制御を開始する一方、高速域では制動による荷重移動が大きくなりやすいことや大きな姿勢の変化が好ましくないことを考慮して、先にABS制御を介入させるようにしてもよい。こうすれば、車速が或る程度、低下した後にADC制御が行われることになり、結果として自動二輪車1の姿勢の変化が大きくなることを阻止できる。
【0092】
さらに、TRC、ABS制御の介入およびADC制御の開始のタイミングは、自動二輪車1の運転者によって選択されているモード(市街地モードかスポーツ走行モードか)によって順序を変更してもよい。TRC、ABS制御の介入と同時にADC制御を開始しても、実際には応答性の高い方の制御が先に実効を表すことも考慮しなくてはならない。
【0093】
以上、説明した第1の実施形態のADC制御による自動二輪車1の加速時および制動時の姿勢の変化と、これによる荷重分布の変化について
図12を参照して説明すると、まず、加速時にはTRC制御の介入する直前にクッションユニット18の減衰力を低下させることで、
図12(A)に模式的に示すように自動二輪車1の後部が沈み込み、後輪3への荷重移動が大きくなってその接地荷重が増大する。このことで、後輪3の発生し得る最大のグリップ力が大きくなり、駆動力が効果的に路面に伝わるようになる。
【0094】
こうしてTRC制御の介入する前に後輪3の接地荷重を増大させて、スリップを抑制することができるので、TRC制御の介入する頻度を低下させることが可能になり、運転フィールの向上が図られるとともに、TRC制御が介入した場合でもエンジン出力の低下度合いを小さくすることが可能で、その分、自動二輪車1の動力性能の向上が図られる。
【0095】
一方で制動時には、ABS制御の介入する直前にフロントフォーク4の減衰力を低下させることで、
図12(B)に模式的に示すように自動二輪車1の前部が沈み込み、前輪2への荷重移動が大きくなってその接地荷重が増大する。このとき、図示のようにフロントフォーク4は圧縮されて立ち気味になり、路面に対する傾斜角αが大きくなるから、フロントフォーク4から前輪2へ作用する荷重の路面に垂直な成分が大きくなる。よって、前記の荷重移動と相俟って前輪2の接地荷重が急増する。
【0096】
これにより前輪2の発生し得るグリップ力が十分に大きくなって、制動力が効果的に路面に伝わるようになる。このため、ABS制御の介入する頻度を低下させて運転フィールを向上させることが可能になるとともに、ABS制御が介入した場合でも制動力の低下度合いは小さくなるので、その分、制動距離の短縮が図られる。なお、制動時に浮き上がり気味になる後輪3については元々、あまり大きな制動力は期待できないが、ABS制御の介入によってロックが防止され、路面への追従性が維持される。
【0097】
つまり、加速時や制動時の荷重移動が大きく且つ早いという自動二輪車1の特性に着目し、この荷重移動を利用して積極的に前輪2または後輪3の接地荷重を増大させるADC制御によって、車輪2,3のスリップを抑制することができるので、TRC、ABS制御に付随する難点を軽減して、自動二輪車1の動力性能および制動能力を向上できる。
【0098】
しかも、本実施形態ではTRC、ABS制御の介入判定に用いるパラメータを利用して、それらの制御が介入する直前にADC制御を開始するようにしているので、制御系統の簡素化が図られる。加えて、ABS制御を行うブレーキECU50とADC制御を行うサスペンションECU90とを、TRC制御を行うエンジンECU30とは別のコントロールユニットによって構成しているので、それぞれの制御演算の負荷を分散でき、制御の応答性を確保しやすい。
【0099】
さらに、本実施形態によれば自動二輪車1の例えば車速(前輪車速Vfや後輪車速Vrで代用できる)やバンク角β等の走行状態、さらには路面の滑りやすさまで考慮して加速時、制動時のそれぞれに適したやり方でフロントフォーク4やクッションユニット18の減衰力を適切に低下させることができるので、自動二輪車1の走行中に姿勢が不安定になって運転者に不安感を与えることを回避しながら、TRC、ABS制御と最適に協調させてADC制御を行うことができる。
【0100】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態では、自動二輪車1の制動時に、まず前記の実施形態1と同じくフロントフォーク4の減衰力を低下させ、フロントフォーク4が概ね縮み切った頃に今度は減衰力を増大させることで、前輪2の接地荷重が増大した状態を保つようにしている。それ以外の構成は第1実施形態と共通なので、共通の構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0101】
具体的には、
図11のフローのステップSA11における第2のADC制御として一例を
図13に示すように、まず、ステップSB1において自動二輪車1の走行状態に応じて、フロントフォーク4の減衰力を低下させる低減衰時間を設定し、ステップSB2では、サスペンションECU90の内部タイマによるカウントを開始するとともに、バルブユニット46のコントロールバルブの開度を大きくして、フロントフォーク4の減衰力を減少させる(ステップSB3)。なお、低減衰時間は、フロントフォーク4が圧縮され、その反動で伸び始める直前のタイミングとなるように、少なくとも車速やブレーキ力に対応付けてテーブルを設定し、サスペンションECU90のメモリに電子的に格納しておけばよい。
【0102】
続いてステップSB4において前記のタイマカウント値が、低減衰時間に対応する値になったかどうか判定し(低減衰時間の経過?)、この判定がNOであればステップSB3に戻って、フロントフォーク4の減衰力の低い状態を継続する。つまり、第2のADC制御を開始してから所定の低減衰時間が経過するまでは、フロントフォーク4の減衰力が低くなって容易に縮むようになり、自動二輪車1の制動による前輪2への荷重移動が助長される。フロントフォーク4が縮むとそれが立ち気味にるとともに、内部のコイルスプリング43も圧縮され、前輪2の接地荷重が大きくなる(前記
図12(B)を参照)。
【0103】
そうして低減衰時間が経過し、フロントフォーク4が十分に圧縮されると前記ステップSB4の判定がYESになるので、今度はフロントフォーク4の減衰力を増大させて、その伸びを抑制する(ステップSB5)。これにより自動二輪車1は、前記のようにフロントフォーク4が縮んで前のめりになり、前輪2の接地荷重が大きくなった状態に保たれる。つまり、前輪2の接地荷重が大きく、それが発生し得るグリップ力の十分に大きな状態に保たれて、前輪2のスリップが抑制される。
【0104】
続いてステップSB6では前記のタイマカウント値が、予め設定した高減衰時間に対応する値になったかどうか、或いは、運転者がブレーキ操作を終えてブレーキ液圧が低下したかどうか、車速(前輪車速Vf、後輪車速Vrで代用できる)が所定以下に低下したかどうか等々、第2のADC制御の終了条件を満足したかどうか判定する。この判定がNOであればステップSB5に戻って、フロントフォーク4の減衰の高い状態を継続する。判定がYESになれば第2のADC制御は終了する(エンド)。
【0105】
なお、第1のADC制御については自動二輪車1の加速時にTRC制御に対応して開始するものであり、この場合は制動時に比べて加速に伴う後方への荷重移動が比較的緩やかで且つ長く続くことや、凹凸の多い路面での後輪3の接地性等を考慮すれば、クッションユニット18の減衰力は低下させたままとしてもよい。或いは、前記の第2のADC制御と同様に所定時間の経過後に減衰力を増大させるようにしてもよい。
【0106】
(第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態では、自動二輪車1の加速時または制動時にADC制御によって、クッションユニット18やフロントフォーク4の減衰力を縮み側、伸び側の双方で個別に変更するようにしている。それ以外の構成は第1実施形態と共通なので、共通の構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0107】
まず、第3の実施形態ではフロントフォーク4およびクッションユニット18の少なくとも一方が、縮み側および伸び側の減衰力を個別に変更可能に構成されている。このような緩衝装置の構成は既知(公知)であり、図示は省略するが、一例として
図2(A)のフロントフォーク4のバルブユニット46において、開度の調整可能なコントロールバルブを縮み側の作動室41bからリザーバ45へのオイルの流れのみを絞るように設ける。また、ピストン42には、伸び側の作動室41aから縮み側の作動室41bへのオイルの流れのみを絞るように開度の調整が可能なコントロールバルブを設ける。例えばコントロールバルブをロータリバルブとし、ロッド43を中空状としてその内部に挿通したシャフトをロータリバルブに連結して、そのシャフトを電動モータにより回動させるようにすればよい。或いは、ピストン42にスプールバルブとこれを駆動する電磁ソレノイドと配設してもよい。
【0108】
そうしてフロントフォーク4の伸び側および縮み側の減衰力を個別に変更可能とした場合、
図11のフローのステップSA11における第2のADC制御としては、フロントフォーク4の縮み側の減衰力を減少させて、制動時の前輪2への荷重移動を助長するとともに、その伸び側の減衰力は増大させることによって、圧縮されたフロントフォーク4が反動で伸びることを抑制する。こうすると、
図12(B)を参照して上述したように制動時に前のめりになったは自動二輪車1の姿勢が、前記第2の実施形態と同様に維持されるようになり、前輪2の接地荷重の大きな状態を保つことができる。
【0109】
同様に、クッションユニット18の伸び側および縮み側の減衰力を個別に変更可能とした場合、
図11のフローのステップSA6における第1のADC制御としては、クッションユニット18の縮み側の減衰力を減少させて、加速時の後輪3への荷重移動を助長するとともに、その伸び側の減衰力は増大させることによって、自動二輪車1を後輪3側の沈み込んだ状態に維持し、後輪3の駆動力を十分に路面に伝達することができる。
【0110】
また、そうしてフロントフォーク4およびクッションユニット18の双方の縮み側および伸び側の減衰力を個別に変更可能に構成した場合は、ADC制御のいろいろなバリエーションが考えられる。一例として制動時には、前記のようにフロントフォーク4の縮み側の減衰力を低下させるとともに、クッションユニット18は伸び側の減衰力を低下させ且つ縮み側の減衰力は高くしてスイングアーム12を突っ張らせるようにしてもよい。その際に、自動二輪車1の姿勢の安定化を考慮すれば、先にフロントフォーク4の縮み側の減衰力を低下させて前輪2側を沈み込ませ、少し遅れてクッションユニット18の縮み側の減衰力を高くするようにしてもよい。
【0111】
反対に加速時には前記のようにクッションユニット18の縮み側の減衰力を低下させるとともに、フロントフォーク4は伸び側の減衰力を低下させ且つ縮み側の減衰力は高くしてもよい。また、加速時には凹凸の多い路面での前輪2の接地性等も考慮して、フロントフォーク4の伸び側および縮み側の両方の減衰力を低下させてもよい。
【0112】
さらに、加速時にフロントフォーク4の伸び側の減衰力を低下させ且つ縮み側の減衰力を高めたり、制動時にクッションユニット18の伸び側の減衰力を低下させ且つ縮み側の減衰力を高める、というようにスリップを抑制するのとは反対側の車輪の緩衝装置の特性を変えるようにしてもよいし、加速時、制動時によらずクッションユニット18の減衰力だけを変更するようにしてもよい。この場合はフロントフォーク4には減衰力を調整する機構が不要になって、コストの低減に有利になる。
【0113】
(第4の実施形態)
次に本発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態は、前記した第1〜第3の実施形態のようにTRC、ABS制御と連係してADC制御を実行するのではなく、TRC、ABS制御とは直接は関連のない所定のスリップ抑制条件が満たされたときに、ADC制御を行うようにしたものである。この点を除いて第4の実施形態も前記第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0114】
前記のスリップ抑制条件としては、一例として自動二輪車1が予め設定した運転状態にある場合、或いは予め設定した路面状態である場合としてもよい。すなわち、例えば前輪2または後輪3のブレーキ液圧が所定値以上に大きくなった急制動時に、或いはスロットルグリップ7が加速方向に急操作(時間あたりの操作量が設定値以上の場合)された急加速時に、それぞれ前輪2または後輪3のスリップ抑制条件が成立したと判定してもよい。また、単にブレーキレバー8およびブレーキペダル16の少なくとも一方が操作されたとき、さらにはスロットルグリップ7が減速方向に急操作(時間あたりの操作量が設定値以上の場合)されたとき等に、前輪2のスリップ抑制条件が成立したと判定してもよい。
【0115】
或いは、運転者により操作されるモード切替スイッチ59の操作状況に応じて、例えば積極的にTRC制御を介入させるモードであれば、前輪2または後輪3のスリップ抑制条件が成立していると判定してもよい。上述した路面状態の推定結果に応じて、例えば滑りやすい路面状態1にあるときに、前輪2および後輪3のスリップ抑制条件が成立していると判定してもよい。この第4の実施形態によれば、自動二輪車1がTRC、ABS制御のためのシステムを備えていない場合でも、ADC制御によって前輪または後輪3のスリップを抑制することが可能である。
【0116】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明は前記第1〜第4の各実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、実施形態1〜3では、ADC制御におけるフロントフォーク4やクッションユニット18の減衰力の調整量を、一例として自動二輪車1の車速やバンク角β、および路面状態の推定結果に応じて変更するようにしているが、さらに、例えばモード切替スイッチ59の操作状況に応じて減衰力の調整量を変更するようにしてもよい。また、自動二輪車1の走行状態や路面の状態、モード切替スイッチ59の操作状況等に応じて、ADC制御を開始するスリップ抑制条件を変更するようにしてもよい。
【0117】
また、前記各実施形態では、自動二輪車1のフロントフォーク4およびクッションユニット18の減衰力を変更可能に構成しているが、減衰力に加えて或いは減衰力に代えて、ばね力を変更可能に構成し、これを制御することによって自動二輪車1の加速時または制動時に姿勢変化を助長するようにしてもよい。ばね力や減衰力以外にもフロントフォーク4およびクッションユニット18のストローク長を変化させて、自動二輪車1の姿勢を変化させるようにしてもよい。例えば制動時にクッションユニット18のストローク長を長くすることで、前輪2への荷重移動を助長するようにしてもよい。
【0118】
さらに、緩衝装置が前記各実施形態のようなテレスコピック型のフロントフォーク4やスイングアーム12のクッションユニット18に限定されないことは勿論であり、サスペンションの形態についても前記各実施形態のものには限定されない。また、緩衝装置の特性を変化させる以外の方法で車体姿勢を変化させたり、或いは車体の姿勢を変化させることにも限定されず、それ以外の方法で前後輪2,3の荷重分布を変更させるようにしてもよい。例えば、自動二輪車1に前後に移動可能にウエイトを搭載し、これが加速時には後側に、制動時には前側にそれぞれ移動することによって、前後輪2,3の荷重分布を変更させるようにしてもよい。
【0119】
さらにまた、前記各実施形態におるエンジンECU30、ブレーキECU50およびサスペンションECU90の構成も一例に過ぎない。すなわち、各実施形態では
図5に一例を示すように、TRC制御機能を備えたエンジンECU30と、ABS制御を行うブレーキECU50と、ADC制御を行うサスペンションECU90とが、CANを介して接続されており、一例としてエンジンECU30がマスターになってブレーキECU50およびサスペンションECU90に指令を与えるようになっている。
【0120】
これに対し、一例として
図14に示すように、エンジンECU30、ブレーキECU50およびサスペンションECU90の他に、それらを統合的に制御するメインECU100を設けてもよい。この場合、一例としてメインECU100からエンジンECU30、ブレーキECU50およびサスペンションECU90にそれぞれ、TRC制御、ABS制御およびADC制御の実施・解除を許可する指令が与えられ、これを受けたエンジンECU30、ブレーキECU50およびサスペンションECU90がそれぞれTRC制御、ABS制御およびADC制御を実施・解除するとともに、その実施状況等の情報をメインECU100に送るようにしてもよい。
【0121】
また、メインECU100において独自にTRC制御、ABS制御およびADC制御の実施条件を判断し、エンジンECU30、ブレーキECU50およびサスペンションECU90にそれぞれ実施指令を送るようにしてもよい。この場合、メインECU100はCANを介して、一例としてインターフェースから、トラコンモード、乗員情報、走行情報等、運転者から与えられる情報を入手し、この情報に応じてTRC制御、ABS制御およびADC制御の実施条件を変更するようにしてもよい。なお、トラコンモードとはTRC制御の実行モードであり、例えばトラコンモード大の場合にADC制御が開始しやすくしてもよい。乗員情報(重さ)小の場合にはフロントフォーク4やクッションユニット18の減衰力を高めてもよい。減衰力は市街地モードかスポーツ走行モードかによっても変更してもよい。
【0122】
さらに、図示は省略するが、前記メインECU100の機能をブレーキECU50またはサスペンECU90のいずれかによって実現するように構成してもよいし、それら3つのECU50,90,100を一つにまとめてもよい。要するにECUの演算能力とコストとの兼ね合いで、4つのECU30,50,90,100の幾つかを一つにまとめてもよいし、全ての機能を一つのECUにまとめてもよい。
【0123】
また、TRC、ABS制御の内容についても前記各実施形態は例示に過ぎず、全く異なるTRC、ABS制御をしてもよい。例えば自動二輪車1の駆動源がエンジンEではなくて電動モータであれば、TRC制御はそのトルクを調整するだけでよいし、ABS制御もモータの回生制動量を調整することで実現可能である。
【0124】
また、前記各実施形態は本発明を自動二輪車1に適用した場合について説明したが、本発明は自動二輪車以外の鞍乗り型の乗り物にも適用できる。運転者がシートに跨がって運転する鞍乗型の乗り物は、高重心のためピッチングモーションが起こりやすいとともに、比較的軽量で車輪の接地荷重が小さいわりに高出力であることから、加速時のホイールスピンや制動時のロックが起こりやすい。このことから、ピッチングモーションによる荷重移動を積極的に利用して車輪のスリップを抑制できる本発明は、特に有効なものといえる。鞍乗り型の乗り物には自動二輪車は勿論、ATV(All Terrain Vehicle)なども含まれる。