特許第5715041号(P5715041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715041
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】リチウム電池および電極板構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20150416BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20150416BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20150416BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150416BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M2/16 P
   H01M4/13
   H01M10/052
【請求項の数】22
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-284343(P2011-284343)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2012-138359(P2012-138359A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2011年12月26日
(31)【優先権主張番号】099146137
(32)【優先日】2010年12月27日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100153017
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 昭人
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】呉 平耀
(72)【発明者】
【氏名】朱 文彬
(72)【発明者】
【氏名】楊 長榮
(72)【発明者】
【氏名】李 仁傑
(72)【発明者】
【氏名】潘 金平
(72)【発明者】
【氏名】王 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】彭 裕民
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/062727(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/156033(WO,A1)
【文献】 特開2010−157512(JP,A)
【文献】 特開2008−210686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 2/14− 2/18
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面を有する正極板と、
前記正極板の前記第1表面と向かい合う第2表面を有する負極板と、
前記第1表面および前記第2表面のうちの1つの上に配置され、無機材料、熱活性化材料およびバインダで構成された第1断熱層と、
前記正極板と前記負極板の間に配置されたセパレータと
を含み、
前記熱活性化材料が、窒素含有オリゴマーを含み、前記窒素含有オリゴマーの数平均分子量は200〜2999であり、且つ架橋可能な末端基を有し、また、電池の温度が上昇した時、前記窒素含有オリゴマーは更に架橋して窒素含有ポリマーを形成し、
前記無機材料および前記熱活性化材料が、複数の粒子の形式で前記バインダ内に分配されたリチウム電池。
【請求項2】
第2断熱層をさらに含み、前記第1断熱層が前記第1表面に配置された時に、前記第2断熱層が前記第2表面に配置され、前記第1断熱層が前記第2表面に配置された時に、前記第2断熱層が前記第1表面に配置される請求項1記載のリチウム電池。
【請求項3】
前記第2断熱層の材料が、前記第1断熱層の材料と同じである請求項2記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記第2断熱層の厚さが、0.1〜20ミクロンである請求項2記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記無機材料が、Al、Mg、Si、Zr、Ti、Zn、Li、Co、その酸化物、その水酸化物、その硫化物、その窒化物、そのハロゲン化物、またはこれらの組み合わせから成る群より選ばれた請求項1記載のリチウム電池。
【請求項6】
前記窒素含有ポリマーが、ビスマレイミドモノマーとバルビツール酸の反応によって形成された請求項1記載のリチウム電池。
【請求項7】
前記窒素含有ポリマーが、ジオンと、アミン、アミド、イミド、マレイミドおよびイミンから成る群より選ばれた1つとが反応して形成された請求項1記載のリチウム電池。
【請求項8】
前記ジオンが、バルビツール酸、バルビツール酸の誘導体、アセチルアセトン、またはアセチルアセトンの誘導体を含む請求項7記載のリチウム電池。
【請求項9】
前記熱活性化材料が、複数の粒子の形式で前記バインダ内に分配され、前記熱活性化材料の前記複数の粒子のそれぞれの表面に、ポリマー薄膜が塗布された請求項1記載のリチウム電池。
【請求項10】
前記ポリマー薄膜が、ポリオレフィンまたはポリエチレンで作られた請求項9記載のリチウム電池。
【請求項11】
前記第1断熱層中の前記熱活性化材料の重量百分率が、0.1〜40wt%である請求項1記載のリチウム電池。
【請求項12】
前記第1断熱層の厚さが、0.1〜20ミクロンである請求項1記載のリチウム電池。
【請求項13】
充放電表面を有する電極板と、
前記充放電表面の上に配置され、無機材料、熱活性化材料およびバインダで構成された断熱層と
を含み、
前記熱活性化材料が、窒素含有オリゴマーを含み、前記窒素含有オリゴマーの数平均分子量は200〜2999であり、且つ架橋可能な末端基を有し、また、電池の温度が上昇した時、前記窒素含有オリゴマーは更に架橋して窒素含有ポリマーを形成し、
前記無機材料および前記熱活性化材料が、複数の粒子の形式で前記バインダ内に分配された電極板構造。
【請求項14】
前記電極板が、正極板または負極板を含む請求項13記載の電極板構造。
【請求項15】
前記断熱層の厚さが、0.1〜20ミクロンである請求項13記載の電極板構造。
【請求項16】
前記無機材料が、Al、Mg、Si、Zr、Ti、Zn、Li、Co、その酸化物、その水酸化物、その硫化物、その窒化物、そのハロゲン化物、またはこれらの組み合わせから成る群より選ばれた請求項13記載の電極板構造。
【請求項17】
前記窒素含有ポリマーが、ビスマレイミドモノマーとバルビツール酸の反応によって形成された請求項13記載の電極板構造。
【請求項18】
前記窒素含有ポリマーが、ジオンと、アミン、アミド、イミド、マレイミドおよびイミンから成る群より選ばれた1つとが反応して形成された請求項13記載の電極板構造。
【請求項19】
前記ジオンが、バルビツール酸、バルビツール酸の誘導体、アセチルアセトン、またはアセチルアセトンの誘導体を含む請求項18記載の電極板構造。
【請求項20】
前記熱活性化材料が、複数の粒子の形式で前記バインダ内に分配され、前記熱活性化材料の前記複数の粒子のそれぞれの表面に、ポリマー薄膜が塗布された請求項13記載の電極板構造。
【請求項21】
前記ポリマー薄膜が、ポリオレフィンまたはポリエチレンで作られた請求項20記載の電極板構造。
【請求項22】
前記断熱層中の前記熱活性化材料の重量百分率が、0.1〜40wt%である請求項13記載の電極板構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池に関するものであり、特に、リチウム電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使い捨て電池は環境保護の要求を完全に満たさないため、充電可能な電池システムに関心が集まってきている。充放電サイクルを繰り返すことのできるリチウム電池は、軽量、高電圧、高エネルギー密度等の利点を有するため、携帯型電子機器の急速な発展および普及とともに、リチウム電池に対する市場の需要も増えてきた。ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、ニッケルカドミウム電池と比較して、リチウム電池は、高動作電圧、高エネルギー密度、軽量、長寿命、環境保護等の利点を有し、将来的にはフレキシブル電池に応用される電池の中で最も優れた電池の1つになると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リチウム電池は、いわゆる3C製品と呼ばれるコンピュータ(すなわち、情報製品)、通信製品(communication products)、消費者向け電子製品(consumer electronics)等に広く使用されるため、軽量、耐久性、高電圧、高エネルギー密度、安全性のように、リチウム電池の性能に対する要求がますます高まっており、特に、軽量の電気自動車産業、電動車産業、大型の電子保存産業におけるリチウム電池の発展潜在性や応用が高い。しかしながら、リチウム電池システムに使用される耐電圧の高い有機溶媒(大部分の有機溶媒は、エステル基を有する有機分子を含む)は、可燃性である。また、電池の温度が上昇した時、高容量の正極/負極活性物質が分解して大量の熱を発生させるため、リチウム電池が適切に使用されなかった時に発生した熱が有機溶媒を発火させ、爆発を起こすことさえある。さらに、リチウム電池の放電過程中、正極材料構造から酸素が放出されるため、放出された酸素が電解質と反応し、内部の温度を上昇させてリチウム電池の安全性に問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、リチウム電池の温度が上昇した時に導電率を下げることのできるリチウム電池を提供する。
【0005】
本発明は、リチウム電池使用時の安全性を向上させることのできる電極板構造を提供する。
【0006】
本発明は、正極板と、負極板と、第1断熱層と、セパレータとを含むリチウム電池を提供する。正極板は、第1表面を有する。負極板は、第2表面を有し、第2表面は、正極板の第1表面と向かい合う。第1断熱層は、第1表面および第2表面のうちの1つの上に配置され、無機材料、熱活性化(thermal activation)材料およびバインダで構成される。セパレータは、正極板と負極板の間に配置される。
【0007】
本発明は、さらに、電極板と、断熱層とを含む電極板構造を提供する。電極板は、充放電表面を有する。断熱層は、充放電表面の上に配置され、無機材料、熱活性化材料およびバインダで構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、正極板および負極板のうちの1つ、または両方の上に、断熱層が配置される。断熱層は、硬度を増やすことのできる無機材料と、リチウム電池の温度が上昇した時に熱活性化を始めることのできる熱活性化材料とを含むため、熱活性化材料の架橋反応(cross-linking reaction)が起こり、熱活性化材料がポリマーに変換される。そのため、ポリマーによってリチウムイオンの拡散が阻止され、電解液の導電率が下がる。
【0009】
本発明の上記及び他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、図面と併せた幾つかの実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るリチウム電池の局部の概略的断面図である。
図1A図1に示したリチウム電池の断面の部分拡大図である。
図1B】本発明の別の実施形態に係るリチウム電池の断面の部分拡大図である。
図1C】本発明のさらに別の実施形態に係るリチウム電池の断面の部分拡大図である。
図2】本発明の実施形態に係るリチウム電池の断熱層を示す概略的断面図である。
図3】本発明の別の実施形態に係るリチウム電池の断熱層を示す概略的断面図である。
図4】温度変化に伴う内部抵抗の変化を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るリチウム電池の局部の概略的断面図である。図1に示すように、本実施形態のリチウム電池100は、数個の正極板102と、数個の負極板104と、数個のセパレータ108と、電解液110とを含む。正極板102と負極板104は交互に配置され、且つ互いに積み重ねられる。さらに、1つの正極板102と1つの負極板104を1組として、正極板102と負極板104の間に1つのセパレータ108が配置される。各セパレータ108は、例えば、多孔構造であるが、本発明はこれに限定されない。また、多孔構造の孔隙率(porosity)は、約40〜55%である。さらに、多孔構造の孔は、セパレータ108全体に均一に分配される。互いに積み重ねられた正極板102、セパレータ108、負極板104は、電解液110中に浸漬される。つまり、電池の本体全体は、電解液110で充満している。
【0012】
正極板102の材料は、例えば、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoO2、Li2Cr2O7、Li2CrO4、LiNiO2、LiFeO2、LiNixCo1-xO2 (0<x<l) 、LiMPO4 (M=遷移金属) 、LiMn0.5Ni0.5O2、LiNixCoyMnzO2 (x+y+z=l) 、LiNixCoyAlzO2 (x+y+z=l) 、LiMc0.5Mn1.5O4、およびこれらの組み合わせから成る群より選ばれたリチウム混合金属酸化物(lithium mixed metal oxide)を含む。Mcは、二価金属である。
【0013】
負極板104の材料は、炭化物およびリチウム合金を含む。炭化物は、炭素粉末、グラファイト(graphite)、炭素繊維、カーボンナノチューブから、およびこれらの組み合わせから成る群より選ばれる。本発明の1つの実施形態において、炭化物は、炭素粉末であり、炭素粉末の粒径は、約1〜30ミクロンである。別の実施形態において、負極板104の材料は、例えば、LiAl、LiZn、Li3Bi、Li3Cd、Li3Sb、Li4Si、Li4.4Pb、Li4.4Sn、LiC6、Li3FeN2、Li2.6Co0.4N、Li2.6Cu0.4N、およびこれらの組み合わせ等の金属を含む。さらに、別の実施形態において、負極板104は、例えば、SnO、SnO2、GeO、GeO2、In2O、In2O3、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb3O4、Ag2O、AgO、Ag2O3、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、SiO、ZnO、CoO、NiO、FeO、TiO2、Li3Ti5O12、またはこれらの組み合わせ等の金属含有酸化物を含む。
【0014】
図1Aは、図1に示したリチウム電池の断面の部分拡大図である。さらに詳しく説明すると、図1Aに示すように、本実施形態のリチウム電池は、さらに、第1断熱層106を含む。つまり、正極板102は、負極板104と向かい合うように配置され、正極板102は、負極板104と向かい合う第1表面102aを有し、負極板104は、正極板102と向かい合う第2表面104aを有する。言い換えると、第2表面104aは、正極板102の第1表面102aと向かい合う。それぞれの第1表面102aおよび第2表面104aは、リチウム電池の充放電過程中にリチウムイオンが中に拡散する、または外に出る電極板の充放電表面である。
【0015】
第1断熱層106は、第1表面102aおよび第2表面104aのうちの1つの上に配置される。第1断熱層106の厚さは、約0.1〜20ミクロンである。本実施形態において、第1断熱層106は、正極板102の第1表面102aの上に配置される。しかしながら、本発明は、上述した配置に限定されない。図1Bは、本発明の別の実施形態に係るリチウム電池200の断面の部分拡大図であり、負極板104の上に第1断熱層106が配置される。つまり、第1断熱層106は、第1表面102aまたは第2表面104aのいずれか1つの上に配置される。
【0016】
さらに、図1Cは、本発明のさらに別の実施形態に係るリチウム電池の断面の部分拡大図である。図1Cに示すように、本実施形態のリチウム電池300は、さらに、第2断熱層306を含む。第2断熱層306の材料は、第1断熱層106の材料と同じである。つまり、第1断熱層106および第2断熱層306は、それぞれ正極板102の第1表面102aおよび負極板104の第2表面104aの上に配置される。第2断熱層306の厚さは、約0.1〜20ミクロンである。別の実施形態において(図示せず)、第1断熱層106は、負極板104の第2表面104aの上に配置され、第2断熱層306は、正極板102の第1表面102aの上に配置される。つまり、それぞれの正極板102および負極板104の充放電表面の上に、一層の断熱層が塗布される。
【0017】
図2は、本発明の実施形態に係るリチウム電池の断熱層を示す概略的断面図である。図2に示すように、断熱層400は、例えば、無機材料402と、熱活性化材料404と、バインダ406とで構成される。無機材料402は、Al、Mg、Si、Zr、Ti、Zn、Li、Co、またはその酸化物、その水酸化物、その硫化物、その窒化物、そのハロゲン化物、またはこれらの組み合わせを含む。より好適には、無機材料は、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、酸化リチウムチタン(LiTiO2)、または沸石(zeolite)を含む。バインダ406は、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride, PVdF)、スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber, SBR)、ポリアミド(polyamide)、メラミン樹脂(melamine resin)、またはこれらの組み合わせを含む。
【0018】
さらに、熱活性化材料404は、窒素含有ポリマーを含む。注意すべきこととして、窒素含有ポリマーは、数平均分子量が少なくとも1500の含窒素化合物、または数平均分子量が約200〜2999の窒素含有オリゴマーを含む。1つの実施形態において、熱活性化材料404は、ジオン(dione)と、アミン(amine)、アミド(amide)、イミド(imide)、マレイミド(maleimide)およびイミン(imine)から成る群より選ばれた1つとが反応して形成されたハイパーブランチポリマー(hyper branched polymer)を窒素含有ポリマーとして含む。さらに詳しく説明すると、ジオンは、バルビツール酸(barbituric acid)、バルビツール酸の誘導体、アセチルアセトン(acetylacetone)、またはアセチルアセトンの誘導体を含む。別の実施形態において、熱活性化材料404は、例えば、ビスマレイミド(bismaleimide)とバルビツール酸の反応によって形成された窒素含有ポリマーを含む。
【0019】
上述したアミンの化学構造は、下記の通りである。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、R1、R2およびR3は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。それぞれのR1、R2およびR3は、水素、脂肪族(aliphatic)基または芳香族(aromatic)基であってもよい。さらに詳しく説明すると、アミンは、R2とR3がともに水素の一級アミン(primary amine)であってもよい。1つの実施形態において、上述したアミンは、1,1’‐ビス(メトキシカルボニル)ジビニルアミン(1,1'-bis(methoxycarbonyl)divinylamine, BDA)、N-メチル-N,N-ジビニルアミン(N-methyl-N,N-divinylamine)、またはジビニルフェニルアミン(divinylphenylamine)を含む。
【0022】
上述したアミドの化学構造は、下記の通りである。
【0023】
【化2】
【0024】
式中、R、R’およびR”は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。それぞれのR、R’およびR”は、水素、脂肪族基または芳香族基であってもよい。さらに詳しく説明すると、アミドは、R’とR”がともに水素の一級アミド(primary amide)であってもよい。1つの実施形態において、上述したアミドは、N-ビニルアミド(N-Vinylamide)、ジビニルアミド(divinylamide)、シリル(ビニル)アミド(Silyl(vinyl)amide)、またはグリオキシル化ビニルアミド(glyoxylated-vinyl amide)を含む。
【0025】
上述したイミドの化学構造は、下記の通りである。
【0026】
【化3】
【0027】
式中、R1、R2およびR3は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。それぞれのR1、R2およびR3は、水素、脂肪族基または芳香族基であってもよい。1つの実施形態において、上述したイミドは、N-ビニルイミド(N-Vinylimide)、N-ビニルフタルイミド(N-Vinylphthalimide)、およびビニルアセトアミド(vinylacetamide)等のジビニルイミド(divinylimide)を含む。
【0028】
マレイミドは、モノマレイミド(monomaleimide)、ビス-マレイミド(bis-maleimide)、トリス-マレイミド(tris-maleimide)、およびポリマレイミド(polymaleimide)を含む。上述したビス-マレイミドのモノマーは、下記に示す化学構造(I)および化学構造(II)で構成される。
【0029】
【化4】
【0030】
式中、R1は、-RCH2R-、-RNH2R-、-C(O)CH2-、-CH2OCH2-、-C(O)- 、-O-、-O-O-、-S-、-S-S-、-S(O)- 、-CH2S(O)CH2-、-(O)S(O)- 、-C6H4-、-CH2(C6H4)CH2-、-CH2(C6H4)(O)- 、フェニレン(phenylene)、ビフェニレニル(biphenylenyl)、置換されたフェニレン、または置換されたビフェニレニルであり、R2は、-RCH2-、-C(O)- 、-C(CH3)2-、-O-、-O-O-、-S-、-S-S-、-(O)S(O)-、または-S(O)-であり、Rは、C1〜C6のアルキル基である。ビスマレイミドは、N,N’‐ビスマレイミド‐4,4’‐ジフェニルメタン(N,N’-bismaleimide-4,4’-diphenylmethane)、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド(1,1’-(methylenedi-4,1-phenylene)bismaleimide)、N,N’-(1,1’-ビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド(N,N’-(1,1’-biphenyl-4,4’-diyl) bismaleimide)、N,N’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビスマレイミド(N,N’-(4-methyl-1,3-phenylene)bismaleimide)、1,1’-(3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド(1,1’-(3,3’dimethyl-1,1’-biphenyl-4,4’-diyl)bismaleimide)、N,N’-エチレンジマレイミド(N,N’-ethylenedimaleimide)、N,N’-(1,2-フェニレン) ジマレイミド(N,N’-(1,2-phenylene)dimaleimide)、N,N’-(1,3-フェニレン)ジマレイミド(N,N’-(1,3- phenylene)dimaleimide)、N,N’-チオジマレイミド(N,N’-thiodimaleimid)、N,N’-ジチオジマレイミド(N,N’-dithiodimaleimid)、N,N’-ケトンジマレイミド(N,N’-ketonedimaleimid)、N,N’-メチレン-ビス-マレインイミド(N,N’-methylene-bis-maleinimid)、ビス-マレインイミドメチル-エーテル(bis-maleinimidomethyl-ether)、1,2-ビス-(マレイミド)-1,2-エタンジオール(1,2-bis-(maleimido)-1,2-ethandiol)、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテル-ビス-マレイミド(N,N’-4,4’-diphenylether-bis-maleimid)、および4,4’-ビス(マレイミド)-ジフェニルスルホン(4, 4’-bis(maleimido)-diphenylsulfone)を含む。
【0031】
上述したイミンの化学構造は、下記の通りである。
【0032】
【化5】
【0033】
式中、R1、R2およびR3は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。それぞれのR1、R2およびR3は、水素、脂肪族基または芳香族基であってもよい。上述したイミンは、ジビニルイミン(divinylimine)またはアリルイミン(allylic imine)を含む。
【0034】
バルビツール酸およびバルビツール酸の誘導体の化学構造は、下記の通りである。
【0035】
【化6】
【0036】
式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。それぞれのR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、H、CH3、C2H5、C6H5, CH(CH3)2、CH2CH(CH3)2、CH2CH2CH(CH3)2、または下記の化7であってもよい。
【0037】
【化7】
【0038】
式中、R1、R2、R3およびR4は、いずれも水素であるが、この化合物はバルビツール酸である。
【0039】
アセチルアセトンまたはアセチルアセトンの誘導体の化学構造は、下記の通りである。
【0040】
【化8】
【0041】
式中、それぞれのRおよびR’は、脂肪族基、芳香族基、または複素環基(heterocyclic group)であってもよい。また、RとR’はいすれもメチル基であるが、この化合物はアセチルアセトンである。
【0042】
ジオンの必要量とアミン、アミド、イミド、マレイミドまたはイミンのモノマーのモル比は、約1:20〜4:1である。より好適には、モル比は、約1:5〜2:1である。さらに好適には、モル比は、約1:3〜1:1である。
【0043】
注意すべきこととして、熱活性化材料404は、熱活性化の前にバインダ406に均一に分配されるマイクロ分子材料である。そのため、リチウム電池中のリチウムイオンの拡散は、熱活性化材料404の影響を受けない。リチウム電池の温度が上昇すると、熱活性化材料404の架橋反応が起こり、熱活性化材料404がポリマーに変換されるため、リチウムイオンの拡散が遅延し、電解液の導電率が下がる。言い換えると、リチウム電池の温度が上昇した時、熱活性化材料404の末端基が架橋反応を行い、リチウムイオンの拡散を阻止する。熱活性化材料404の架橋反応の温度は、開始温度(onset temperature)である。例えば、ビスマレイミドとバルビツール酸の反応によって窒素含有ポリマーが形成された時、熱活性化材料404の末端基は、エテニル(ethenyl)基(ビスマレイミドから)およびアミノ基(バルビツール酸から)を含む。電池の温度が上昇した時、エテニル基とアミノ基の架橋反応の温度は、熱活性化温度である。本発明において、熱活性化温度は、約80〜280℃である。より好適には、熱活性化温度は、約100〜220度である。さらに好適には、熱活性化温度は、約130〜200℃である。
【0044】
表1は、電極板で熱活性化材料の熱活性化(thermal activation)が起きる前と後の電解液の導電率を示したものである。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、断熱層中の熱活性化材料の重量百分率は、約10wt%であり、熱活性化材料は、ビスマレイミドとバルビツール酸の反応によって形成された窒素含有ポリマーである。エテニル基(ビスマレイミドから)とアミノ基(バルビツール酸から)の比率は、約2:1である。注意すべきこととして、熱活性化材料の熱活性化が始まる前は、リチウム電池の電解液の導電率が温度と共に上昇する。しかしながら、熱活性化材料の熱活性化が始まった後は、リチウム電池の電解液の導電率が減少する。明らかに、熱活性化材料を含む断熱層をリチウム電池の電極板に配置した場合では、熱活性化材料の熱活性化が始まった後で、電解液の導電率を効果的に下げることができる。
【0047】
図2に示すように、無機材料402および熱活性化材料404は、それぞれ複数の粒子の形式でバインダ406内に分配される。熱活性化層400中の熱活性化材料404の重量百分率は、約0.1〜40wt%である。より好適には、熱活性化層400中の熱活性化材料404の重量百分率は、約1〜30wt%または2〜15wt%である。本実施形態において、無機材料402の粒子は、円形である。しかしながら、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明は、無機材料402が単一粒子形状でバインダ406内に分配され、無機材料の粒子の形状が図2のように円形である場合のみに限定されない。言い換えると、無機材料402の粒子は、どの形状であってもよく、バインダ内に分配される無機材料402は、単一粒子形状であっても、あるいは、無機材料の複数の粒子を含むクラスタ形状(cluster form)であってもよい。同様に、図2に示すように、熱活性化材料404の粒子は、多角形形状である。しかしながら、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明は、熱活性化材料404が単一粒子形状でバインダ406内に分配され、熱活性化材料の粒子の形状が図2のように多角形である場合のみに限定されない。言い換えると、熱活性化材料404の粒子は、どの形状であってもよく、バインダ内に分配される熱活性化材料404は、単一粒子形状であっても、あるいは、熱活性化材料404の複数の粒子を含むクラスタ形状であってもよい。
【0048】
図3は、本発明の別の実施形態に係るリチウム電池の断熱層を示す概略的断面図である。図3に示すように、別の実施形態において、断熱層500中の熱活性化材料504の各粒子の表面に、ポリマー薄膜508が塗布される。つまり、ポリマー薄膜508は、バインダ506内に分配された熱活性化材料504の各粒子を完全に囲む。ポリマー薄膜508の材料は、ポリオレフィン(polyolefine)またはポリエチレン(polyethylene, PE)を含む。本実施形態において、リチウム電池の温度が上昇した時、熱によってポリマー薄膜508に亀裂が入り、ポリマー薄膜508に囲まれた熱活性化材料504が解放される。そのため、解放された熱活性化材料504の末端基の架橋反応が始まり、リチウムイオンの拡散が阻止される。
【0049】
それから、図1Aに示すように、正極板102と負極板104の間にリチウム電池100のセパレータ108が配置される。注意すべきこととして、正極板102、負極板104、断熱層106およびセパレータ108が、電解液110中に浸漬される。つまり、正極板102、負極板104、断熱層106およびセパレータ108の間の空間は、電解液110で充満している。さらに詳しく説明すると、セパレータ108の孔114は、電解液110で充満している。セパレータ108は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(polypropylene, PP)、テフロン((登録商標)(teflon))フィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)フィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリアニリン(polyaniline)フィルム、ポリイミドフィルム、不織布(nonwoven fabric)、ポリエチレンテレフタラート(polyethylene terephthalate)、ポリスチレン(polystyrene, PS)セルロース(cellulose)、またはPE/PP/PE等の多層複合構造を含む。電解液110の主成分は、有機溶媒、リチウム塩および添加剤を含む。有機溶媒は、例えば、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone, GBL)、炭酸エチレン(ethylene carbonate, EC)、炭酸プロピレン(propylene carbonate, PC)、炭酸ジエチル(diethyl carbonate, DEC)、酢酸プロピル(propyl acetate, PA)、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate, DMC)、炭酸エチルメチル(ethylmethyl carbonate, EMC)、またはこれらの組み合わせであってもよい。リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiClO4、LiAlCl4、LiGaCl4、LiNO3、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2CF3)2、LiSCN、LiO3SCF2CF3、LiC6F5SO3、LiO2CCF3、LiSO3F、LiB(C6H5)4、LiCF3SO3、LiB(C2O4)2、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0050】
図4は、温度変化に伴う内部抵抗の変化を示すプロット図である。図4に示すように、リチウム電池が熱くなっている時に、温度変化に伴う内部抵抗の変化を測定する。破線は、酸化アルミニウムをリチウム電池の正極板に塗布した場合の内部抵抗の変化を示し、実線は、3%の熱活性化材料を含む酸化アルミニウム層をリチウム電池の正極板に塗布した場合の内部抵抗の変化を示す。図4の曲線に基づき、熱活性化材料を塗布した正極板の内部抵抗の増加量は、熱活性化材料を塗布していない正極板の内部抵抗よりも大きい。明らかに、熱活性化材料は、リチウムイオンの拡散を効果的に阻止することができる。
【0051】
本発明は、正極板と負極板のうちの1つまたは両方に断熱層が配置される。断熱層は、硬度を増やすことのできる無機材料と、リチウム電池の温度が上昇した時に熱活性化を始めることのできる熱活性化材料とを含むため、熱活性化材料の架橋反応が始まり、熱活性化材料がポリマーに変換される。そのため、ポリマーによってリチウムイオンの拡散が阻止され、電解液の導電率が下がる。
【0052】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の電極板構造を有するリチウム電池は、リチウム電池使用時の安全性を高めることができるとともに、リチウム電池の温度が上昇した時に導電率を下げることができる。そのため、本発明のリチウム電池は、電源産業において有益である。
【符号の説明】
【0054】
100、300 リチウム電池
102 正極板
102a 第1表面
104 負極板
104a 第2表面
106 第1断熱層
108 セパレータ
110 電解液
114 孔
306 第2断熱層
400、500 断熱層
402 無機材料
404、405 熱活性化材料
406、506 バインダ
508 ポリマー薄膜
図1
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4