特許第5715046号(P5715046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5715046目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の糖組成物の製造方法および製造された糖組成物の用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715046
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の糖組成物の製造方法および製造された糖組成物の用途
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/02 20060101AFI20150416BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20150416BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20150416BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150416BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20150416BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20150416BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20150416BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20150416BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150416BHJP
   A23L 1/22 20060101ALI20150416BHJP
   A23L 1/30 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C07H3/02
   A61K31/7004
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61K47/26
   A61P3/06
   A61K8/60
   A61Q11/00
   A61Q19/00
   A23L1/22 E
   A23L1/22 F
   A23L1/30 Z
【請求項の数】16
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2011-507146(P2011-507146)
(86)(22)【出願日】2010年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2010055336
(87)【国際公開番号】WO2010113785
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-81976(P2009-81976)
(32)【優先日】2009年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506388060
【氏名又は名称】株式会社希少糖生産技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】高峰 啓
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】大隈 一裕
(72)【発明者】
【氏名】下西 剛
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】松尾 達博
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02746889(US,A)
【文献】 特公昭38−023998(JP,B1)
【文献】 特公昭40−017453(JP,B1)
【文献】 米国特許第03684574(US,A)
【文献】 特表平05−504256(JP,A)
【文献】 米国特許第03285776(US,A)
【文献】 特開2007−051135(JP,A)
【文献】 特開平10−218891(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/093292(WO,A1)
【文献】 Hassan S. EL KHADEM, et al.,EVIDENCE OF STABLE HYDROGEN-BONDED IONS DURING ISOMERIZATION OF HEXOSES IN ALKALI,Carbohydrate Research,1989年,Vol.185,p.51-59
【文献】 Hassan S. EL KHADEM, et al.,CONTRIBUTION OF THE REACTION PATHWAYS INVOLVED IN THE ISOMERIZATION OF MONOSACCHARIDES BY ALKALI,Carbohydrate Research,1987年,Vol.169,p.13-21
【文献】 Carbohydrate Research,,1979年,Vol.70,p.209-216
【文献】 何森健,希少糖生産戦略の開発と用途への期待,月刊ファインケミカル,日本,株式会社シーエムシー出版,2006年 6月,Vol.35 No.6,p.5-13
【文献】 阿武喜美子,瀬野信子,糖化学の基礎,日本,株式会社 講談社サイエンティフィク,1995年 8月10日,p.39-43
【文献】 何森健,他,希少糖研究への挑戦と期待,生物工学会誌,日本,社団法人日本生物工学会,2008年 9月25日,Vol.86 No.9,p.427-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 3/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法であって、原料糖としてのヘキソースもしくはヘキソースを含む混合物からなる原料糖液を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのヘキソースを目的とするヘキソースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせ、目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖とすること、上記の原料糖液が、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖であること、上記の目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖が、D-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であること、上記の塩基性イオン交換樹脂が存在する系で処理するに当たっては、あらかじめ原料糖液をアルカリ性の溶液に調製してアルカリ条件下での異性化反応を該樹脂上で行いD-プシコースおよびD-アロースの収率を高めること、上記のアルカリが存在する系で処理するに当たっては、原料糖液中の該アルカリの濃度が0.005mol/l〜2mol/lであるように維持すること、上記のカルシウム塩が存在する系で処理するに当たっては、原料糖液中の該カルシウム塩の濃度が0.005mol/l〜6mol/lであるように維持することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記の原料糖液の濃度が5.0%(w/w)〜60%(w/w)である請求項1に記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
【請求項3】
D-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖が、糖質含量に対し、D-プシコースを0.5〜17.0%およびD-アロースを0.2〜10.0%含有する変換型の異性化糖である請求項1または2に記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
【請求項4】
塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理した後、酸性イオン交換樹脂および/またはミックス樹脂に通液することによって、反応、中和、脱塩を一連の工程で行う請求項1からのいずれかに記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
【請求項5】
製造された目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖から該目的とするヘキソースを分離し、残渣を原料糖として再利用する請求項1からのいずれかに記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする砂糖様甘味料
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする食品。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする医薬品もしくは医薬部外品
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする口腔用組成物
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする化粧品
【請求項11】
請求項1からのいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、原料の糖とは異なる糖組成のD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含むことを特徴とする変換型の異性化糖
【請求項12】
請求項11記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする抗肥満剤
【請求項13】
請求項11記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする摂食抑制剤
【請求項14】
請求項11記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とするインスリン抵抗性の改善剤。
【請求項15】
請求項11記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする低カロリー甘味剤。
【請求項16】
請求項11記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする砂糖様甘味剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料糖液から目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の糖組成物を製造する方法、および製造された糖組成物の用途に関する。さらに、グルコースとフラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える「異性化糖」からプシコースおよびアロースを含む変換型の異性化糖を製造する方法、製造されたプシコースおよびアロースを特定量含む変換型の異性化糖、およびその用途に関する。
[異性化糖の定義]
一般的には、特定の組成比のグルコースとフラクトースの混合糖を異性化糖というが、本発明で言う異性化糖とは、グルコースとフラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える。
【背景技術】
【0002】
澱粉を糖化して糖化液とし、これをグルコースイソメラーゼで処理して製造される異性化糖の製造方法は、代表的な方法では澱粉を酵素で加水分解してデキストリンとし、これをさらに別の酵素で加水分解してブドウ糖溶液、すなわち糖化液とする。グルコースイソメラーゼによるブドウ糖の果糖への異性化反応は平衡反応であり、異性化糖のグルコースとフラクトースとの比率は通常58:42程度である。さらに、甘味不足を解消するために、精製フラクトースを添加する場合があるが、この場合最終のグルコースとフラクトースとの比率は通常45:55程度である。この異性化糖は、生産コストの安さから、ソフトドリンクや他の飲料に甘味料として広く使用され、アメリカでは年間800万トン以上消費されている。
【0003】
近年希少糖は、種々の生理効果を有することから注目され、研究が盛んにおこなわれている。そして、工業的に広く使用されるには、これらの希少糖が効率的に生産されることが不可欠である。
希少糖の一つであるD-プシコースは、D-フラクトースに、D-ケトヘキソース・3−エピメラーゼ(特許文献1)を作用させることによりD-フラクトースから収率20〜25%で生成する。また、D-プシコース・3−エピメラーゼ(非特許文献1)を使用した場合は、40%程度の収率でD-プシコースが生成し、ホウ酸を併用した場合には60%程度のD-プシコースが生成するとの報告がある。この酵素を用いた希少糖の工業的大量製造の際には、酵素の安全性の確認をはじめ、酵素源となる菌体培養、精製、吸着体等の各生産工程についても問題点を順次克服しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−125776号公報
【特許文献2】特開2001−352936号公報
【特許文献3】EP 0 109 203 A1
【特許文献4】PCT/JP2008/001240
【特許文献5】特開2001−354690号公報
【特許文献6】特開2006−153591号公報
【特許文献7】特開2007−091696号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl.Environ.Microbiol.,2008,74(10),3008−13.
【非特許文献2】Carbohydr.Res.,1987,169,13−21.
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.1955,77(12),3323−5.
【非特許文献4】生物工学会誌,2008,86(9),427−42.
【非特許文献5】Metabolism,2010,59,206-14.
【非特許文献6】J.Agric.Food Chem.,2003,51,1894−6.
【非特許文献7】J.Clin.Biochem.Nutr.,2009,45,202−6.
【非特許文献8】J.Oleo.Sci.,2004,53(9),453−60.
【非特許文献9】Rare Sugar Congress 2008 in Kagawa ポスター発表 Acute and Chronic Toxicity of D−allose in Rats.
【非特許文献10】Biochimica et Biophysica Acta,2001,1528,116−26.
【非特許文献11】Biosci. Biotechnol. Biochem., 2006, 70(9),2081−5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、1800年代よりロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン(Lobry de Bruyn and Alberda van Ekenstein)転位反応と呼ばれる、エンジオールを介するアルドース、ケトースの異性化反応が知られている。この異性化反応は、あるヘキソースをアルカリ条件下におくことにより他のヘキソースに異性化することができる反応である。この反応を使って、ヘキソースの異性化が可能である(非特許文献2)が、生理活性を示す濃度で異性化物を得るには、実際の工業生産効率に見合わない反応時間を要する面と、カラメル化等により生成物の着色が著しくその後の精製が困難であるなどの問題がある。また、バッチ反応による大量生産を考えた場合、設備規模、多工程などに課題があり現実的な工業的な利用は難しい。
【0007】
上記方法によって得られた組成物の生理的な作用の利用に関しても、甘味の増強剤として、マンノースからなる甘味増強剤およびその利用法が提案されているものの(特許文献2)、それ以後実用化に至っておらず、甘味剤、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、低カロリー甘味料などとしての利用が図られた実績はない。
【0008】
異性化糖や砂糖に代表される糖質(資化性糖)は糖尿病や肥満を併発することが昨今問題視されている。そこで、これら資化性糖をベースに、甘味が優れ、これらの疾病を引き起こさない甘味料の上市が望まれる。本発明においては、これらの資化性糖、特に異性化糖の上記のような副作用もしくは欠点を克服する組成物について検討を行った。
【0009】
さらに、非特許文献3によると、上記反応に関してイオン交換樹脂を用いグルコースからソルボース、マンノース、フラクトースが生成する反応が記述されているが、本発明のように樹脂をクロマト管に詰めて、アルカリと共に通液し連続反応を可能にし、その結果生産性の向上がなされたものではない。また、本発明のようなD-プシコースに関しては生産法への応用としては報告されていない。さらに、D-プシコースとD-アロースが含まれる組成物としてはこれまで検討がなされていない。
【0010】
また、上記の通り、希少糖ヘキソースの製造方法は、効率生産、安全性の面から考えると未だ工業的に実用可能な製造法が得られていない。
そこで、本発明は、製造法の観点から、[1]生産工程が多くなる要因のうち必要酵素の生産工程と酵素の反応工程を省略でき、さらに、[2]酵素の漏洩、菌体残留物の混入など、安全性に関わる問題点を取り除くことが期待される、希少糖ヘキソースの酵素を用いない製造法の確立を課題とする。
非特許文献2のロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン転位反応(図1参照)の利用の際に生じる著しい褐変化を防ぎ、収率や生産性を上げることを課題とする。ここでの生産性向上とは、[3]例えば、著しい褐変物質を除くために用いる精製用樹脂量を大幅に減らすことや工程の省略化ができることを示す。さらに、本発明では、イオン交換樹脂のカラムを通すことにより、褐変化を防ぎ、目的となる希少糖ヘキソースの生産性を向上することを課題とする。さらに、[4]樹脂への原料糖、酸性副産物が吸着すると反応が進まなくなる問題点を解決する事も課題とした。
また、[5]樹脂上での反応を如何に連続反応へと連結し、反応、分離、副生成物の再利用へと一連の工業生産プラントを構築し、生産工程をいかに減らすことができるかを課題とした。[6]クロマトグラフィによってこれらの複雑な反応生成物を分離するので、その分離条件を検討することが課題となる。[7]さらに、クロマトグラフィの分離条件を崩さないために、分離した生成物に原料糖を加えて一定の反応生成物を得る工業的システムを得ることが課題となる。
さらに、本発明は、糖組成物の生理的な作用の観点から、特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目して、特定のヘキソースを含有する糖組成物を製造すること、すなわち、[8]ヘキソースにアルカリを作用させることによって得られる組成物の用途を確立し、生成物と組成比を絞り込むことも課題とする。
より具体的には、例えば、グルコースとフラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える「異性化糖」、もしくは、グルコースおよび/またはフラクトースからプシコースおよびアロースを含む変換型の異性化糖を製造する、工業的に実用可能な製造法の提供、ならびに、生理的効果に優れたプシコースおよびアロースを特定量含む変換型の異性化糖の提供、およびその用途の確立を課題とする。
これらの[1]〜[8]の課題を解決し、全てのヘキソースを生産する製造法および得られる組成物の用途を提供することを本発明の課題とした。
さらに、また、本発明は、希少糖を含む食品、医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねることにより本発明を完成したものであり、原料糖としてのヘキソースもしくはその混合物が、強塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系において、原料糖とは別のヘキソースに変換できることを見出したことに基づくものである。その中でも特に、製糖業で必須であるイオン交換過程を反応と精製の場にし、すなわち、カラム式にして連続反応させることにより、効率的に混合糖を生産し、次の過程でクロマト分離し、副産物を原料糖に加えることにより効率的な生産を図ることに成功したことに意義を有する。さらに、イオン交換樹脂を使用した場合を含む、ヘキソースのアルカリ異性化によって得られる糖組成物の糖組成と用途を検討し、医薬品、化粧品などの発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)ないし(5)の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法を要旨とする。
(1) 目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法であって、原料糖としてのヘキソースもしくはヘキソースを含む混合物からなる原料糖液を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのヘキソースを目的とするヘキソースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせ、目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖とすること、上記の原料糖液が、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖であること、上記の目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖が、D-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であること、上記の塩基性イオン交換樹脂が存在する系で処理するに当たっては、あらかじめ原料糖液をアルカリ性の溶液に調製してアルカリ条件下での異性化反応を該樹脂上で行いD-プシコースおよびD-アロースの収率を高めること、上記のアルカリが存在する系で処理するに当たっては、原料糖液中の該アルカリの濃度が0.005mol/l〜2mol/lであるように維持すること、上記のカルシウム塩が存在する系で処理するに当たっては、原料糖液中の該カルシウム塩の濃度が0.005mol/l〜6mol/lであるように維持することを特徴とする製造方法。
(2)上記の原料糖液の濃度が5.0%(w/w)〜60%(w/w)である上記(1)に記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
D-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖が、糖質含量に対し、D-プシコースを0.5〜17.0%およびD-アロースを0.2〜10.0%含有する変換型の異性化糖である上記(1)または(2)に記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
)塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理した後、酸性イオン交換樹脂および/またはミックス樹脂に通液することによって、反応、中和、脱塩を一連の工程で行う上記(1)から()のいずれかに記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
)製造された目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖から該目的とするヘキソースを分離し、残渣を原料糖として再利用する上記(1)から()のいずれかに記載の目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法。
【0013】
また、本発明は、以下の()ないし(10)の砂糖様甘味料、食品、医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、または化粧品を要旨とする。
)上記(1)から()のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする砂糖様甘味料
(7)上記(1)から(5)のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする食品。
(8)上記(1)から(5)のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする医薬品もしくは医薬部外品。
(9)上記(1)から(5)のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする口腔用組成物。
(10)上記(1)から(5)のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、該異性化糖とは異なる糖組成の糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖を含有することを特徴とする化粧品
【0014】
また、本発明は、以下の(11)の変換型の異性化糖を要旨とする。
(11) 上記(1)から()のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、原料の糖とは異なる糖組成のD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含むことを特徴とする変換型の異性化糖
すなわち、原料糖としてのD-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのD-グルコースおよびD-フラクトースを目的とするD-プシコースとD-アロースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせて製造された、原料の糖とは異なる糖組成のD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む変換型の異性化糖
【0015】
また、本発明は、以下の(12)ないし(16)の抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性の改善剤、低カロリー甘味剤、もしくは砂糖様甘味剤を要旨とする。
12)上記(11)記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする抗肥満剤
(13)上記(11)記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする摂食抑制剤。
(14)上記(11)記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とするインスリン抵抗性の改善剤。
(15)上記(11)記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする低カロリー甘味剤。
(16)上記(11)記載の変換型の異性化糖を含有することを特徴とする砂糖様甘味剤。
すなわち、(a)上記(1)から()のいずれかに記載された方法で、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖から製造された、原料の糖とは異なる糖組成のD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含むことを特徴とする変換型の異性化糖を有効成分とする抗肥満剤。
すなわち、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖原料糖とし、そのD-グルコースおよび/またはD-フラクトースをD-プシコースとD-アロースに、糖質含量に対しD-プシコース0.5〜17.0%およびD-アロース0.2〜10.0%になるように変換した変換型の異性化糖を有効成分とする抗肥満剤。
(b) D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖原料糖とし、そのD-グルコースとD-フラクトースをD-プシコースとD-アロースに、糖質含量に対しD-プシコース0.5〜17.0%およびD-アロース0.2〜10.0%になるように変換した変換型の異性化糖を有効成分とする摂食抑制剤。
(c) D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖原料糖とし、そのD-グルコースとD-フラクトースをD-プシコースとD-アロースに、糖質含量に対しD-プシコース0.5〜17.0%およびD-アロース0.2〜10.0%になるように変換した変換型の異性化糖を有効成分とするインスリン抵抗性の改善剤。
(d) D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖原料糖とし、そのD-グルコースとD-フラクトースをD-プシコースとD-アロースに、糖質含量に対しD-プシコース0.5〜17.0%およびD-アロース0.2〜10.0%になるように変換した変換型の異性化糖を含有する低カロリー甘味剤。
(e) D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖原料糖とし、そのD-グルコースとD-フラクトースをD-プシコースとD-アロースに、糖質含量に対しD-プシコース0.5〜17.0%およびD-アロース0.2〜10.0%になるように変換した変換型の異性化糖を含有する砂糖様甘味剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、原料糖液から目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖を製造することができる。特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目して、特定のヘキソースを含有する糖組成物を製造することができる。ヘキソースを含む原料糖液を塩基性イオン交換樹脂、アルカリまたはカルシウム塩が存在する系において、ヘキソースを原料糖とは異なる構造の糖に変換することによって異なる糖組成の混合糖を製造することができる。
より具体的には、例えば、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える「異性化糖」からD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖を製造することができる。
【0017】
すなわち、本発明により、希少糖ヘキソースの有する生理的な作用に着目した、該希少糖ヘキソースを含有する糖組成物の新規製造法が確立され、希少糖ヘキソースの従来の酵素を使った製造法の問題点を解消できる。また、従来のアルカリ性条件下でのヘキソースの異性化反応で、問題となる着色、精製の難しさを解決でき、化学法にとり、希少糖ヘキソースの製造が可能となった。特に、イオン交換樹脂を用いた一工程で、反応、中和、イオン除去(脱塩)を行ってしまうため、必要工程を大幅に短縮することが可能となった。さらに、アルカリを連続で反応樹脂に通液させることにより、イオン交換樹脂の反応性を高めることができる。このことにより、機能性を発揮する希少糖をより高比率で含み、なおかつ着色を抑えた混合糖を得ることができる。また、このアルカリ通液により樹脂の反応性低下を抑制したため、連続反応が可能になった。さらに、精製に用いられる樹脂量は、バッチによる褐変物を精製するのに用いる樹脂量の1/10以下に抑えることができる。また、本発明の製造法を使えば、必要酵素を生産する工程を省略でき、さらに酵素を用いて製造する際での問題点である、酵素または酵素生産菌のコンタミ、漏洩などに注意を払わなくすることができる。さらにまた、本発明により、医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品および食品に安価で安全に使用できる希少糖ヘキソースを提供することができる。
【0018】
また、本発明により、特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目した、特定のヘキソースを含有する糖組成物、ならびに、それらを用いた医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品および食品を提供することができる。
より具体的には、例えば、D-プシコースおよびD-アロースの有する生理的な作用に着目した、D-プシコースおよびD-アロースを含有する糖組成物、ならびに、それらを用いた抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性の改善剤、低カロリー甘味剤、もしくは砂糖様甘味剤を提供することができる。
ヘキソースの異性化によって得られる組成物の特性および用途を検討した結果、特にD-プシコースおよびD-アロースを含む糖組成物が優れた生理活性を有することを見出した。すなわち、D-プシコースおよびD-アロースを、望ましくは、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む組成物が医薬品などへ応用することができる優れた特性を発揮することを発見した。また、これら組成物を製造するための製造法については、ロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン反応を用いたものが優れている、特にイオン交換樹脂を用いる方法が最も適していたことが明らかとなった。これによって、資化性糖、例えば異性化糖やさらには砂糖に優れた甘味剤、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、低カロリー甘味剤としての特質を持たせることが可能となる。特に、得られる組成物はこれまで知られている単糖の抗肥満効果よりも優れている。さらに、低カロリーにもかかわらず、摂食抑制を引き起こすなど新たな特質を備えている。また、甘味も砂糖に近く、カロリーも低いため、低カロリー甘味剤として幅広く使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン転位反応を示す図面である。
図2】六単糖のイズモリングを示す図面である。
図3】本発明の方法を図式化して説明する図面である。
図4】実施例1<D-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>の目的糖を含む混合糖の分析組成を示す図面である。
図5】実施例2<異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>の目的糖を含む混合糖の分析組成を示す図面である。
図6】実施例4<0.1mol/l NaOH溶液中におけるD-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>の目的糖を含む混合糖の分析組成を示す図面である。
図7】実施例21<0.1 mol/l NaOH溶液中における異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>の目的糖を含む混合糖の分析組成を示す図である。
図8】実施例30<樹脂の種類によるD-プシコースの生成効率>の樹脂を用いたときに反応効率が高いこと、Cl型よりもOH型で効率が高いことを示す図面である。
図9】実施例30<樹脂の種類によるD-プシコースの生成効率>の樹脂の母体が多孔質形の方が、ゲル形よりも反応効率が高いこと、イオンの総交換用量が大きい方が、小さいものよりも反応効率が高いことを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ヘキソースもしくはヘキソースを含む混合物からなる原料糖液、例えばD-グルコースまたはD-フラクトースおよびこれらの混合糖(例えば異性化糖)を原料として、目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖、例えばD-プシコースとD-アロースを含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖を得ることも特徴とする。
なお、本発明において、糖液の濃度に関して、w/vおよびw/wを用いた。実施例の反応糖液の調製においては、異性化糖が液体であるので、調製が容易なw/vを用い統一した。その他の濃度に関しては、動物実験の餌組成は粉体の調製であること、ブリックスやクロマトグラムの屈折計がw/wであることから、w/wを用いた。
D-プシコースとD-アロースを含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖は、その組成物比は、糖質含量に対して0.5〜17.0%、好ましくは1〜15%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%、好ましくは0.4〜8%のD-アロースを含む組成物である。この組成において、良好な甘味剤として利用ができる。さらに例えば、2.3%以上のD-プシコースおよび1.3%以上のD-アロースを含む組成物において、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤として使用できる特性を示す。また、低カロリー甘味剤などとして使用する際には、D-プシコースが多いほど低カロリーとなる。また、反応効率(反応時間)を考慮すると、1時間程度の反応時間で生成するD-プシコースおよびアロースは、それぞれ、7%、5%程度である。これらのことから、糖質含量に対して2.5〜8%のD-プシコースおよび1.5〜5%D-アロースを含む組成物であればさらに好ましい。
【0021】
また、本発明では、原料糖液となるヘキソース液をカラム状に詰めた塩基性イオン交換樹脂にアルカリ性溶液とともに流し、目的となる希少糖ヘキソースを製造すること、アルカリまたはカルシウム塩の存在下に目的となる希少糖ヘキソース、例えばD-プシコースとD-アロースを含む組成物を製造することができる。
【0022】
[原料糖としてのヘキソース]
本発明において原料糖となるヘキソースは、D-体およびL-体のどちらでも良い。D-グルコースのようなアルドースやD-フラクトースのようなケトースでも良い。また、アルドースとケトースの混合物でも良い。特に、ぶどう糖果糖液糖(異性化糖)が原料費の面から有利である。また、澱粉からアミラーゼによるグルコースの生成、グルコース(キシロース)イソメラーゼによる、異性化糖の生産プラントと連結することによりさらに工程短縮、スケールメリットによる利点を生かすことができる。このグルコースイソメラーゼには、比較的アルカリ領域で働く種類も多く、陰イオン交換樹脂に固定化して用いることも可能である。このことから、グルコースを酵素で異性化しつつ、アルカリ条件下で本発明組成物を生産することも、工業的な効率を考えた際には好ましい。
【0023】
本反応はロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン転位反応による平衡反応を応用したものであるため、D体のフラクトース、グルコース、プシコース、マンノース、アロース、アルトロースからは、これら糖のいずれかもしくは混合糖が得られる。D体のタガトース、タロース、ガラクトース、ソルボース、グロース、イドースからは、これら糖のいずれか、もしくは混合糖が得られる。L体についても同様の反応が進行する。これは、非特許文献4の論文中のイズモリング(図2)を右上(A)、右下(B)、左上(C)、左下(D)の4つの区分に分けた場合に、そのブロックのどの糖を用いても、そのブロック内の他の糖を本法により作り出せることを示す。
糖組成物の生理的な作用の観点から、特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目して、特定のヘキソースを含有する糖組成物を製造することができる。
すなわち、原料糖としてD-フラクトース、D-グルコース、D-プシコース、D-マンノース、D-アロース、およびD-アルトロースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物を用いて、原料糖とは別のD-フラクトース、D-グルコース、D-プシコース、D-マンノース、D-アロース、およびD-アルトロースからなる群から選ばれる一種以上もしくはそれらを含む混合糖を生産することができる。
【0024】
原料糖としてのヘキソースの混合物としては、例えば、D-グルコースおよびD-フラクトースを含有する液状の糖が用いられる。両糖の含有比などには特に制限はなく使用される。一般的には、特定の組成比のD-グルコースとD-フラクトースの混合糖を異性化糖というが、本発明で言う異性化糖とは、D-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える。本発明の原料としては入手可能性などの観点からみて、市販されているぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、あるいは、D-グルコースとD-フラクトースを混合、砂糖を加水分解するなどして用いることが好ましい。
本発明での異性化糖とは、でん粉をアミラーゼなどの酵素または酸により加水分解して得られた主としてぶどう糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したぶどう糖および果糖を主成分とする液状の糖であって、果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が50%未満の「ぶどう糖果糖液糖」、50%以上90%未満の「果糖ぶどう糖液糖」、90%以上の「高果糖液糖」、および、ぶどう糖果糖液糖にぶどう糖果糖液糖を超えない量の砂糖を加えた「砂糖混合果糖ぶどう糖液糖」を含むものであり、これらの区分はJAS規格による。
【0025】
また、原料糖ヘキソースとして、D-タガトース、D-タロース、D-ガラクトース、D-ソルボース、D-グロース、およびD-イドースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物を用いて、原料糖とは別のD-タガトース、D-タロース、D-ガラクトース、D-ソルボース、D-グロース、およびD-イドースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物もしくはそれらを含む混合糖を生産することができる。
【0026】
また、原料糖ヘキソースとして、L-フラクトース、L-グルコース、L-プシコース、L-マンノース、L-アロース、およびL-アルトロースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物を用いて、原料糖とは別のL-フラクトース、L-グルコース、L-プシコース、L-マンノース、L-アロース、およびL-アルトロースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物もしくはそれらを含む混合糖を生産することができる。
また、原料糖ヘキソースとして、L-タガトース、L-タロース、L-ガラクトース、L-ソルボース、L-グロース、およびL-イドースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物を用いて、原料糖とは別の、L-タガトース、L-タロース、L-ガラクトース、L-ソルボース、L-グロース、およびL-イドースからなる群から選ばれる一種以上を含有する混合物もしくはそれらを含む混合糖を生産することができる。
【0027】
しかしながら、非特許文献3にあるように、糖の開裂から逆アルドール縮合反応を経て、ブロックを飛び越えた糖が僅かに生成する可能性はある。例えばA→B経路である、D-グルコース→D-ソルボースなどである。本発明は、上記ブロック内での反応を優先的に起こさせ、ブロックを越えた反応を起こさせ難くくする穏やかな反応条件を発見し用いている。
【0028】
また、2糖、3糖、オリゴマーなどでも、その一部を異性化することが可能である。特に、本反応を利用して、2糖類、3糖類、オリゴ糖、デキストリンなどの末端基のヘキソースを異性化することも可能である。例えば、乳糖(ガラクト−ス-グルコース)を異性化して、ラクチュロース(ガラクトース-フラクトース)、ガラクトース-プシコースなどの2糖類を生産することが可能である。
また、多種類のヘキソースを反応させ、混合糖を得ることも可能である。例えば、乳糖を加水分解してから、本法により異性化すると、D体のフラクトース、グルコース、プシコース、マンノース、アロース、アルトロース、タガトース、タロース、ガラクトース、ソルボース、グロース、イドースが得られる。
【0029】
[原料糖液の濃度]
原料糖液の濃度に関しては、事後の濃縮を考慮すると濃度が高いほど好ましい範囲であるが、原料糖液の濃度が低いほど、希少糖ヘキソースの収率を上げることができることから、生産効率を考慮すると、原料糖液の濃度は5%〜90%、好ましくは10%〜60%、最も好ましくは20%〜40%が好ましい。濃度が高い場合に(水分が少なければ)、より副産物の生成が少ないと考えられるが、濃度調節によって生成物の比を変えて混合糖を得ることも可能である。例えば、100%濃度、いわば粉体にアルカリを噴霧して生産することも可能である。
【0030】
[イオン交換樹脂]
糖液濃度に関しては、5%(w/w)以上が事後の濃縮のことから好ましいが、クロマトグラフィの分離条件によって、変えることが可能である。樹脂の浮遊を防ぐためには5〜30%程度がより好ましい。さらに60%の糖液で反応を行う際には、アルカリは2.5倍程必要量が増えるが、濃縮が少ないなどの利点があることから、30〜60%濃度で反応を行うことも好ましい条件である。
本発明に使用する塩基性イオン交換樹脂としては、官能基として、一級アミン、二級アミン、三級アミン、四級アミンなどが使用されるが、中でも四級アミンが好ましい。
また、支持体としては、種々あるが、ゲル型よりも多孔質型が好ましい。また、支持体当たりのイオン交換基が多いほど好ましい。より具体的には、実験の結果、樹脂を用いない場合よりも、樹脂を用いたときに反応効率が高いこと、樹脂がCl型よりもOH型で効率が高い(図8参照)。また、樹脂の母体が多孔質形の方が、ゲル形よりも反応効率が高いこと、イオンの総交換用量が大きい方が、小さいものよりも反応効率が高いことが示された(図8、9参照)。
【0031】
[アルカリおよびカルシウム塩]
本発明に使用するアルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化鉛、水酸化ストロンチウム、水酸化マグネシウム、水酸化スズ、水酸化アルミニウムなども適宜使用することができるが、安全性、費用の面から水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが好ましい。
最適なアルカリの濃度はイオン交換樹脂の存在によっても左右されるが、通常、ヘキソース溶液中に0.005mol/l以上含有されていることが好ましい。
本発明において、強塩基性イオン交換樹脂を使用する際にはアルカリは必ずしも必要とはせず、ヘキソースの変換反応は強塩基性イオン交換樹脂のみによっても進行する。
【0032】
また、特許文献3には、塩化カルシウムを用いたD-グルコースの異性化が記載されているが、本発明においてもカルシウムイオンの触媒作用を用いることにより、異性化を起こす。本発明では、カルシウムイオンを生成するカルシウム塩、例えば、塩化カルシウムの存在下にヘキソースの異性化反応が進行し、例えば、D-フラクトースからD-プシコースとD-アロースを含有する糖組成物を製造することができる。カルシウム塩は、アルカリ共存下であれば望ましく、糖液中に0.005mol/l以上含有されていることが好ましい。カルシウム塩が存在する系では、塩基性イオン交換樹脂の共存は必ずしも必要ではない。
【0033】
[塩基性イオン交換樹脂を用いたヘキソースの製造工程]
本発明では、アルカリの存在の有無にかかわらず、塩基性イオン交換樹脂によりヘキソースの構造を他のヘキソースに変換することができる。アルカリを使用すると反応カラムを連続して使用することが可能となる利点がある。本発明は、塩基性イオン交換樹脂によりヘキソースを異性化することにも特徴を有するものである。
一般的な製糖業においては、反応後の脱塩工程は、アルカリ条件での余分な副反応を防ぐため通常は酸性イオン交換樹脂に通液後、塩基性イオン交換樹脂に通液し、最後は混合樹脂に通液する。本発明の製造法は、この通常の通液工程を逆に配置することによって、副反応により生成する副反応物を主生成物(目的とするヘキソース)として得るものである。
例えば、グルコース、フラクトースのアルカリ条件下における希少糖への変換反応を塩基性イオン交換樹脂上で行うとともに、次に酸性イオン交換樹脂で中和、イオン交換を行い、ミックス樹脂に通液を導くものである。この場合に用いる樹脂は、一般的に酸もしくはアルカリの性質を持ち、イオン交換能を持つものであれば特に問わない。最後のミックス樹脂に関しては、生成純度によっては必ずしも必要ではない。また、適宜精製工程を加えることによって生成物の純度を調節することも可能である。必要な際には、塩基性イオン交換樹脂による精製を加えても良い。
また、特筆すべきことに、この樹脂上での反応過程で原料糖、酸性副生成物の吸着による反応効率の低下が認められるが、この問題点も、原料糖を最初からアルカリ性に保つことにより効率の低下を抑制することができることも本発明者らは発見し、本発明を完成した。
【0034】
アルカリ性溶液の濃度の上限に関しては、副生成物が生じない濃度が好ましいが、樹脂の使用条件によっても規定される。下限に関しては、反応生成物が十分生成する濃度である0.005mol/l以上が好ましい。イオン交換樹脂を使用した際の最も好ましいアルカリ濃度は0.005mol/lから2mol/lであり、実施例では0.0029mol/l〜0.1mol/lの範囲で使用した。
反応温度に関しては、好ましくは20℃以上、また40℃〜70℃で通液するのがより好ましい。反応温度およびアルカリ濃度、原料濃度を変えることにより、生成される組成物の組成を調節することも可能である。この組成の調製により、組成物が人体に摂取された際のカロリー量を調節した組成物を得ることができる。特に、D-プシコースのエネルギー値はゼロキロカロリー(非特許文献5)であることが報告されており、D-プシコース含量を調整することによりその量に応じてカロリーを減らすことができる。
非特許文献6の論文等の方法のように圧力をかけて、異性化を促進する方法が明らかにされているが、本法においても、圧力をかけて生産性を向上させても良い。また、生産規模によっては、樹脂をバッチ条件で使用することや、樹脂を用いず、アルカリのみを使用し本発明の組成物を得ることも可能である。
また、特許文献4によると、糖質含量に対して8%以上のD-プシコース含量で、抗肥満剤として使用できることが示されている。さらに、非特許文献7の論文によると、糖質含量に対して9%程度のD-プシコース含量で、食後血糖低下剤として使用できることが示されている。本発明による異性化反応とイオン交換によって得られた混合糖は、希少糖、特にD-プシコースを8%以上含ませることが可能であることから、分画をしなくても抗肥満、食後血糖低下作用などの機能性を持つ素材として提供することができる。
【0035】
イオン交換樹脂に通液後、反応液はカラムクロマトグラフィによって目的とする糖の分離を行っても良く、また、糖とキレートする薬剤を用いて沈殿分離しても良い。本発明の反応法ではカラムでの分離を行う前に著しい褐変などは生じないのであるが、カラムの寿命を考えて活性炭による脱臭、脱色過程など一般的知られる精製工程を加えることも可能である。クロマトグラフィに関しては、疑似移動相クロマトグラフィ(特許文献5,6参照)が本目的には最適であるが、その分離様式は特には問わない。本発明によって製造した組成物から、D-プシコースおよびD-アロースをクロマトグラムにより分画し、D-プシコースおよび/またはD-アロースを得ても構わない。
【0036】
目的とする糖を分離した後に残った目的以外の糖を再利用することができる。例えば、原料糖に加えて再び反応媒体である塩基性イオン交換樹脂に導くことができ、この様な連続プラントにより必要工程を省くことができる。本発明の好ましい態様を図3に図式化して示す。
ここで得られた希少糖は抗肥満、食後血糖低下作用などの機能性を持つ素材として提供することができる。
【0037】
[アルカリまたはカルシウム塩を用いたヘキソースの製造工程]
本発明においては、イオン交換樹脂を用いなくともヘキソースを他の構造のヘキソースに変換することができる。例えば、ヘキソースからD-プシコースおよびD-アロースを含有する組成物を製造することができる。ヘキソースにアルカリまたはカルシウム塩を混合して共存状態となし25℃〜100℃の範囲内で加熱処理することにより、原料ヘキソースを他の種類のヘキソースであるD-プシコースおよびD-アロースを含む糖組成物に変換することができる。加熱処理温度は40℃以上が特に好ましい。糖液中にカルシウム塩は、0.005mol/l〜6mol/lの濃度で含有されていることが好ましく、水酸化ナトリウムなどのアルカリは0.005mol/l 〜2mol/lの濃度で含有されていることが好ましい。アルカリまたはカルシウム塩を使用した方法では、生成した糖組成物中に、例えば、全糖量に対し、0.5%〜5.0%のD-アロースと3.0%〜7.0%のD-プシコースを含んだ糖が製造される。製造工程は、混合と加熱処理からなる簡便な工程からなり、バッチ式または連続式のいずれの方式も適用できる。
【0038】
[D-プシコースとD-アロースを含有する新規糖組成物]
本発明の製造法において、特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目して、特定のヘキソースを含有する糖組成物を得る目的で製造される混合糖は、新規な糖組成物である。
例えば、生理的効果に優れたD-プシコースおよびD-アロースを目的とするヘキソースとしてD-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖として広く捉える「異性化糖」からD-プシコースおよびD-アロースを含む変換型の異性化糖を製造した場合、製造される目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖は、新規な糖組成物である。
目的とする機能の種類や度合い、使用態様、使用量などに応じて、糖質含量に対し、目的とするヘキソースの含有量を決めて、それを得る目的で最適な製造条件で処理することにより目的とする組成の混合糖を製造することができる。すなわち、原料糖としてのD-グルコースとD-フラクトースを主組成とする混合糖である異性化糖、もしくはD-グルコースおよび/またはD-フラクトースからなる原料糖液を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのD-グルコースとD-フラクトースを目的とするD-プシコースとD-アロースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせて、原料の異性化糖とは異なる糖組成のD-プシコースおよびD-アロースを含む糖組成物であって、その組成が、糖質含量に対して0.5〜17.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む糖組成物を製造することができる。該ヘキソース組成物は、D-プシコースおよびD-アロースを同時に含有することに特徴を有し、糖質含量に対して1.0〜15.0%のD-プシコースと0.4〜8.0%のD-アロースを含有する組成からなるものが好ましいものとして、2.5〜8.0%程度のD-プシコースおよび1.5〜5.0%D-アロースを含有する組成からなるものが最も好ましいものとして、例示される。D-プシコースとD-アロースが共存するヘキソース組成物には顕著な効果が奏せられ、D-プシコースまたはD-アロースが単独での効果と対比して予期せぬ相乗効果が奏される。例えば、生理効果において優れた効果が発揮される。こうした相乗効果は、実施例31〜33において実証されるところであり、特に、体重減少率、体脂肪減少率や摂餌量減少率において本発明の特異的効果が示されている。さらに、本発明のD-プシコースおよびD-アロースを含有する糖組成物を摂取した場合には、血糖値の減少、インシュリン値の低下が認められる。特に、本発明の糖組成物によるインシュリン値の低下については、これまでD-プシコースまたはD-アロースを単独で摂取した試験では知られていなかった効果である。
本発明のヘキソース組成物が上述の優れた効果を発揮するには、D-プシコースとD-アロースの全糖質に対する割合に関しては、D-プシコースでは0.5〜15.0%であり、さらに1.0〜15.0%が好ましく、2.5〜8%が最も好ましい範囲である。また、D-アロースでは0.2〜10.0%であり、さらに0.4〜8.0%が好ましく、1.5〜5.0%が最も好ましい範囲である。
D-プシコースとD-アロースの総量としては、0.7〜25.0%であり、さらに、1.0〜20.0%の範囲であることが好ましい。0.7〜25.0%であり、さらに1.4〜23.0%が好ましく、4.0〜13.0%が最も好ましい範囲である。
【0039】
[ヘキソース組成物の用途]
本発明の製造法を使えば、医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品および食品に安価で安全に使用できる希少糖ヘキソースを提供することができる。
また、本発明により、特定のヘキソースの有する生理的な作用に着目した、特定のヘキソースを含有する糖組成物、ならびに、それらを用いた医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品および食品を提供することができる。
より具体的には、例えば、D-プシコースおよびD-アロースの有する生理的な作用に着目した、D-プシコースおよびD-アロースを含有する糖組成物、ならびに、それらを用いた抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性の改善剤、低カロリー甘味剤、もしくは砂糖様甘味剤を提供することができる。本発明の製造法によったヘキソース組成物は、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および/または患獣用飼料になど甘味もしくは機能性を必要とするものすべてに使用することができる。
ヘキソースの異性化によって得られる組成物の特性および用途を検討した結果、特にD-プシコースおよびD-アロースを含む糖組成物が優れた生理活性を有することを見出した。すなわち、D-プシコースおよびD-アロースを、望ましくは、糖質含量に対して0.5〜15.0%のD-プシコースおよび0.2〜10.0%のD-アロースを含む組成物が医薬品などへ応用することができる優れた特性を発揮することを発見した。また、これら組成物を製造するための製造法については、ロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン反応を用いたものが優れている、特にイオン交換樹脂を用いる方法が最も適していたことが明らかとなった。これによって、資化性糖、例えば異性化糖やさらには砂糖に優れた甘味剤、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、低カロリー甘味剤としての特質を持たせることが可能となる。特に、得られる組成物はこれまで知られている単糖の抗肥満効果よりも優れている。さらに、低カロリーにもかかわらず、摂食抑制を引き起こすなど新たな特質を備えている。また、甘味も砂糖に近く、カロリーも低いため、低カロリー甘味剤として幅広く使用が可能である。
【0040】
本発明のヘキソースを食品に利用する場合、そのままの形態、オイルなどに希釈した形態、乳液状形態食、または食品業界で一般的に使用される担体を添加した形態などのものを調製してもよい。飲料の形態は、非アルコール飲料またはアルコール飲料である。非アルコール飲料としては、例えば、炭酸系飲料、果汁飲料、ネクター飲料などの非炭酸系飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー、ココアなど、また、アルコール飲料の形態では薬用酒、酎ハイ、梅酒、ビール、発泡酒、第3ビールなどの一般食品の形態を挙げることができる。
本発明の組成物(ヘキソース)の、前記糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善を目的とした食品素材あるいは食品添加物、薬剤としての使用形態としては、錠剤、カプセル剤、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、ゼリーなどの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。
さらに、本発明のヘキソース組成物を適宜食品に添加して糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善などを目的とした保健食または病人食とすることができる。任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0041】
本発明によるヘキソースは調理やお茶、コーヒー、調味料(みりんなど)などにも使用できる。
飲食物としては、具体的には以下のものを例示することができる。洋菓子類( プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、チューインガム、チョコレート、ペストリー、バタークリーム、カスタードグリーム、シュークリーム、ホットケーキ、パン、ポテトチップス、フライドポテト、ポップコーン、ビスケット、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ワッフル、ケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー、せんべい、おかき、おこし、まんじゅう、あめなど) 、乾燥麺製品(マカロニ、パスタ)、卵製品(マヨネーズ、生クリーム)、飲料(機能性飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、無果汁飲料、果肉飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料)、嗜好品(緑茶、紅茶、インスタントコーヒー、ココア、缶入りコーヒードリンク)、乳製品(アイスクリーム、ヨーグルト、コーヒー用ミルク、バター、バターソース、チーズ、発酵乳、加工乳)、ペースト類(マーマレード、ジャム、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、果実のシロップ漬け)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、ラード)、魚介類製品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、ちくわ、ハンペン、魚の干物、鰹節、鯖節、煮干し、うに、いかの塩辛、スルメ、魚のみりん干し、貝の干物、鮭などの燻製品)、佃煮類(小魚、貝類、山菜、茸、昆布)、カレー類(即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー)、調味料剤 (みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、ケチャップ、オイスターソース、固形ブイヨン、焼き肉のたれ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、ペースト、インスタントスープ、ふりかけ、ドレッシング、サラダ油)、揚げ製品(油揚げ、油揚げ菓子、即席ラーメン)、豆乳、マーガリン、ショートニングなどを挙げることができる。
【0042】
上記飲食物は、ヘキソース組成物を常法に従って、一般食品の原料と配合することにより、加工製造することができる。上記飲食物への組成物の配合量は食品の形態により異なり特に限定されるものではないが、通常は0.1〜20重量%が好ましい。また、上記飲食物は、機能性食品、栄養補助食品或いは健康食品類としても用いることができる。その形態は、特に限定されるものではなく、例えば、食品の製造例としては、アミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミンなどの蛋白質、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物などの他、アミノ酸単体の混合物などを、常法に従って使用することができる。また、ソフトカプセル、タブレットなどの形態で利用することもできる。
【0043】
栄養補助食品或いは機能性食品の例としては、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料などが配合された流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク剤、カプセル剤、経腸栄養剤などの加工形態を挙げることができる。上記各種食品には、例えば、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの飲食物は、栄養バランス、風味を良くするために、さらにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの栄養的添加物や甘味料、香辛料、香料、色素などを配合することもできる。
【0044】
本発明の組成物は、家畜、家禽、ペット類の飼料用に応用することができる。例えば、ドライドッグフード、ドライキャットフード、ウェットドッグフード、ウェットキャットフード、セミモイストドックフード、養鶏用飼料、牛、豚などの家畜用飼料に配合することができる。飼料自体は、常法に従って調製することができる。
これらの治療剤および予防剤は、ヒト以外の動物、例えば、牛、馬、豚、羊などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラ、ダチョウなどの家禽類、は虫類、鳥類或いは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などにも用いることができる。
本発明による混合糖は、アスパルテームなどの高甘味度甘味料、糖アルコール、ケトース、アルドースなどの甘味料と混合し、甘味を調節することが出来る。
【0045】
本発明によるヘキソース組成物を含む糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善効果、肥満改善効果を目的とした薬剤は、これらを単独で用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの適当な添加剤を配合し、液剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、軟膏剤、貼付剤、散布剤、スプレー剤または注射剤等の適当な剤型を選んで製剤し、経口的、経鼻的、経皮的あるいは経静脈的に投与することができる。
【0046】
経口投与、経鼻投与、経皮投与または経静脈投与に適した医薬用の有機または無機の固体、半固体または液体の担体、溶解剤もしくは希釈剤を、本発明の組成物を薬剤として調製するために用いることができる。水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動・植物油、ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、ヤシ油、ラノリン、または医薬に用いられる他のキャリアー(担体)は全て、本発明の組成物を含む薬剤の担体として用いることができる。また、安定剤、湿潤剤、乳化剤や、浸透圧を変えたり、配合剤の適切なpHを維持するための塩類を補助薬剤として適宜用いることができる。
【0047】
また、化粧品等の製剤化に、可溶性フィルムが使用されるようになってきている。例えば、香料等を保持させたフレーバーフィルム等として気分転換、口臭予防等を目的として、可食性の可溶性フィルムが使用されている。また、保湿剤等を保持させた化粧品用フィルムを、パックとして使用したり、水に溶解して乳液として使用するといったアイディアも出されている。さらに、抗炎症剤等を保持させて湿布薬として使用したりすることも検討されている。食品、医薬品等の包装材として、又食品、医薬品等の有効成分を保持する担体として、優れた溶解性とフィルム特性を示し、これらの用途に好適に用いることができる可溶性フィルムが提案されており(特許文献7)、このようにして、本発明のヘキソース組成物を医薬品もしくは医薬部外品、化粧品に適応することができる。
【0048】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例等において、塩基性イオン交換樹脂は、Cl型のものを購入し、OH型のものに変換して用いた。そのため、実施例中の塩基性イオン交換樹脂は、Cl型の表示がなされているものもあるが、それらは実施例30を除き、実験時にはOH型に変換して用いた。実施例30だけに関しては、Cl型とOH型の反応を比較するのが目的なため、IRA900J[Cl]のみはCl型のまま用いた。特に言及しない場合、塩基性イオン交換樹脂で反応後、強酸性イオン交換樹脂に通液して、分析を行っている。
【実施例1】
【0049】
<D-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D-フラクトース10%(w/v)溶液500mlを、温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した (樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時に経時的にカラムから溶出してくる反応液をサンプリングして、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。着色度の測定は、光路幅10mmのセルを用い分光光度計にて行った。BRIX10にて〔(420nmの吸光度)−(720nmの吸光度)〕×10の値を着色度とした。
【0050】
分析組成を図4に示す。通液後(500ml)の溶液の糖組成は、D-グルコース15.0%、D-マンノース+ D-アルトロース6.3%、D-フラクトース69.3%、D-アロース1.8%、D-プシコース5.2%であり、5.2%のD-プシコース溶液が得られた。着色度は、0.05 (BRIX10換算)であり、ほとんど褐変は生じなかった。このことから、本方法により、D-フラクトース、D-グルコース、D-プシコース、D-アロース、D-アルトロース、D-マンノースのどの糖から出発しても、その他の糖が得られることが明らかとなった。また、この方法では、通液するに従って酸性副産物が生じ反応性が低下することは明らかである。本発明組成物の特徴は、概ね出発物質、反応時間、自由エネルギー差(非特許文献4のp431−433)に基づき生成物の比率が決まり、D-グルコース、D-フラクトースなどの資化性糖は数十%、希少糖は数%の割合であることが明らかとなった。特に、D-プシコースは、反応時間または、アルカリ濃度を増やすことにより、約15%、D-アロースは約8%生成する。
【実施例2】
【0051】
<異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖10%(w/v)溶液500mlを、温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0052】
分析組成を図5に示す。通液後(500ml)の溶液の糖組成は、D-グルコース45.9%、D-マンノース+D-アルトロース4.9%、D-フラクトース37.7%、D-アロース1.5%、D-プシコース3.7%であり、3.7%のD-プシコース溶液が得られた。この際の着色度は、0.04(BRIX10換算)であり、ほとんど褐変は認められなかった。
【実施例3】
【0053】
<バッチ法によるヘキソースの生成>
D-フラクトース40%溶液をpH11に調整し、バッチ法で100℃、90分加熱した。pHを維持するため、30分毎に4N NaOHを適量加えた。
【0054】
この際の反応液の糖組成はD-グルコース18.8%、D-マンノース+D-アルトロース21.9%、D-フラクトース29.3%、D-アロース10.0%、D-プシコース9.5%であり、9.5%のD-プシコースが得られたものの、着色度は292.2 (BRIX10換算)であった。この生成物をイオン交換樹脂により褐変を除くのに用いる樹脂量は、実施例1、2で用いた樹脂量の10倍以上であり、このことから、本方法のコストダウンは、バッチ法の10倍以上であることが明らかとなった。
【実施例4】
【0055】
<0.1mol/l NaOH溶液中におけるD-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D-フラクトースを0.1M NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂、強酸性イオン交換樹脂の順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0056】
分析組成を図6に示す。通液後の溶液の糖組成は、D-グルコース29.0%、D-マンノース+ D-アルトロース14.2%、D-フラクトース39.8%、D-アロース4.3%、D-プシコース8.8%であった。アルカリ溶液を原料として用いる本方法は、反応効率が低下しないことが明らかとなった。このことは、アルカリ溶液の通液によって、連続的にこの樹脂上での反応が可能となることを明らかにして本製造法に組み込んだことを示す。
【実施例5】
【0057】
<D-グルコースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D-グルコース10%(w/v)溶液500mlを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0058】
通液後(250ml)、D-グルコース、D-マンノース、D-フラクトース、D-アロース、D-プシコースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。このことから、D-グルコース(アルドース)を出発物質として用いても、Aブロックの糖(ケトースおよびアルドース)が得られることが明らかとなった。
【実施例6】
【0059】
<0.005mol/l NaOH溶液中におけるD-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D-フラクトースを0.005mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂、弱酸性イオン交換樹脂の順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0060】
通液後、D-グルコース、D-マンノース、D-フラクトース、D-アロース、D-プシコースの混合糖液が得られた。0.005Mアルカリ溶液を原料として用いる本方法は、反応効率が低下しないことが明らかとなった。このことは、アルカリ溶液の通液によって樹脂への原料糖、副生成物の吸着を抑えることにより、連続的にこの樹脂上での反応が可能となることを明らかにして本製造法に組み込んだことを示す。また、その際の濃度は少なくとも0.005M以上の溶液が必要なことを示す。
【実施例7】
【0061】
<0.1mol/l NaOH溶液中における異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂、弱酸性イオン交換樹脂の順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0062】
通液後、D-グルコース、D-マンノース、D-フラクトース、D-アロース、D-プシコースの混合糖液が得られた。異性化糖のアルカリ溶液を原料として用いる本方法においても、アルカリ溶液の通液によって連続的にこの樹脂上での反応が可能となることを明らかにして本製造法に組み込んだことを示す。
【実施例8】
【0063】
<5%異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を、0.1mol/l NaOH溶液で、5%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0064】
通液後(250ml)、D-グルコース、D-マンノース、D-フラクトース、D-アロース、D-プシコースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。このことから、5%程度の薄い溶液においても、Aブロック内の原料糖を用いて、Aブロック内の糖を生産できることが明らかとなった。
【実施例9】
【0065】
<30%異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を、0.1mol/l NaOH溶液で、30%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0066】
通液後(250ml)、D-グルコース、D-マンノース、D-フラクトース、D-アロース、D-プシコースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。
【実施例10】
【0067】
<D-タガトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D-タガトースを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0068】
通液後(250ml)、D-ガラクトース、D-タガトース、D-ソルボース、D-イドース、D-グロースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。このことから、Bブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Bブロックの糖を生産できることが明らかとなった。
【実施例11】
【0069】
<L-フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
L-フラクトースを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0070】
通液後(250ml)L-グルコース、L-マンノース、L-フラクトース、L-アロース、L-プシコースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。このことから、Dブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Dブロックの糖を生産できることが明らかとなった。
【実施例12】
【0071】
<L-タガトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
L-タガトースを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0072】
通液後(250ml)、L-ガラクトース、L-タガトース、L-ソルボース、L-イドース、L-グロースの混合糖液が得られ、ほとんど褐変は認められなかった。このことから、Cブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Cブロックの糖を生産できることが明らかとなった。
【実施例13】
【0073】
<異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による連続反応>
異性化糖20%(w/v)溶液500mlを、10%に希釈して温度60度、送液速度1.6ml/minで充填後の強塩基性イオン交換樹脂38.5mlに送液した(樹脂:アンバーライトIRA900J[Cl]、カラム内径1.5cm)。この反応液(組成物1)を陽イオン交換樹脂カラム、ミックス樹脂カラムに通液後、活性炭で脱色、濾過し、この濾液を濃縮した。濃縮液を疑似移動クロマトグラフィにてD-プシコースを分離して、その他の混合糖分離液に目減り分の異性化糖を加え、さらに、塩基性イオン交換樹脂に供し、反応組成物(組成物2)を得た。この組成物を上記HPLCによって確認した。
【0074】
原料糖組成物1と原料糖組成物2の比率はほぼ同様な組成が得られた。このことから、分離液に異性化糖を混合し反応させた場合にも一定組成の反応液が得られることが明らかとなった。この組成の発見は、連続的に分離が可能であることを示す。
【実施例14】
【0075】
〈強塩基性イオン交換樹脂上で生成した糖液の官能検査〉
パネラー6名を用い、実施例7で生じた10%糖液を調整し、味質試験を行った。評価は、砂糖と同じ甘味度を示す糖液および、砂糖と比べ「軽い」、「変わらない」、「重い」の3種類から甘味質を選択させた。選択した人数を求め、官能試験を行った。パネラーの構成は、20歳代〜30歳代の味覚に精通した男女6名であった。
【0076】
結果、本法で得られた糖の混合液の味質は砂糖様であった。
【実施例15】
【0077】
〈強塩基性イオン交換樹脂上で生成した糖液を含有する酸性飲料の製造〉
本製造法による混合糖およびショ糖を用いた飲料を作成したが、本法で得られた糖の混合液を用いた味質は砂糖様であった。
【実施例16】
【0078】
<樹脂を用いない反応1>
D−フラクトースを0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調整し、60℃で加温した。加温時間13分と20分でサンプリングし、それぞれの糖液に強酸性イオン交換樹脂(アンバーライト200CT[H型])を加えて中和した。各糖液の組成をHPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0079】
13分加温した反応液の糖組成は、糖質含量に対して、D−グルコース16.4%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース4.7%、D−フラクトース70.9%、D−アロース0.9%、D−プシコース4.7%であり、この際の着色度は0.37(Brix10換算)であった。また、20分加温した反応液の糖組成は、糖質含量に対して、D−グルコース21.9%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース7.0%、D−フラクトース60.1%、D−アロース1.5%、D−プシコース6.3%であり、この際の着色度は0.87 (Brix10換算)であった。これらは、実施例1、2で得られた糖液と比較すると、着色度が10〜30倍である。このことから、樹脂を用いない方法であっても、本発明組成物を得ることはできるが、樹脂を用いた方法は、後の精製効率の点で優れていることが明らかである。なお、ソルボースは、逆アルドール縮合による副産物で、数%程度生じるものと考えられる。
【実施例17】
【0080】
<樹脂を用いない反応2>
異性化糖(D−グルコース55%、D−フラクトース45%;w/w)を0.07mol/l Ca(OH)溶液で、10%(w/v)になるように調整し、60℃で1時間反応した。反応後の糖液を脱塩し、糖組成をHPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0081】
反応液の糖組成は、糖質含量に対して、D−グルコース39.8%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース10.8%、D−フラクトース27.8%、D−アロース2.8%、D−プシコース5.2%であった。このことから、水酸化ナトリウムのみならず、水酸化カルシウムにおいても本発明組成物が得られることが明らかとなった。また、0.0029mol/lCa(OH)溶液を用い同条件で実験した結果に置いても、反応2時間で、1.3%D−プシコースと0.3%のD−アロースを含む組成物が得られた。
【実施例18】
【0082】
<樹脂を用いない反応3>
実施例4の条件で、樹脂を用いない条件、つまり、0.1mol/l NaOH溶液中におけるD−フラクトースの加温セルによる反応を行った。
D−フラクトースを0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液600mlを、60℃の保温セル(長さ;30cm、内径1.5cm)、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、送液速度1.6ml/minで通液した。(強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型])。この時に保温セルから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0083】
通液後(600ml)の溶液の糖組成は、糖質含量に対して、D−グルコース18.2%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース5.9%、D−フラクトース67.0%、D−アロース1.2%、D−プシコース5.1%であり、着色度は1.24であった。このことより加温のみでも反応は進むが、実施例4の強塩基性イオン交換樹脂を用いた場合、反応速度がはやく、また着色度も低いため、生産効率の面で有利であることが示された。
【実施例19】
【0084】
<D−グルコースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D−グルコースを0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。温度60℃、送液速度1.6ml/minで強塩基性イオン交換樹脂45ml(樹脂:アンバーライトIRA900J OH、カラム長;30cm、内径1.5cm)、強酸性イオン交換樹脂26ml(樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)の順に送液した。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0085】
通液後(400ml)、糖質含量に対して、D−グルコース47.4%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース9.6%、D−フラクトース32.1%、D−アロース2.7%、D−プシコース5.7%の混合糖液が得られ、殆ど褐変は認められなかった。このことから、D−グルコース(アルドース)を出発物質として用いても、Aブロックの糖(ケトース及びアルドース)が得られることが明らかとなった。
【実施例20】
【0086】
<0.005mol/l NaOH溶液中におけるD−フラクトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D−フラクトースを0.005mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液1100mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度0.8ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0087】
通液後(1000ml)、糖質含量に対して、D−グルコース9.4%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース3.2%、D−フラクトース80.0%、D−アロース1.1%、D−プシコース3.9%の混合糖液が得られた。NaOHを添加せず、その他同条件で通液させると、糖質含量に対して、D−グルコース6.2%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース2.3%、D−フラクトース86.1%、D−アロース0.9%、D−プシコース2.9%の混合糖液が得られる。アルカリ溶液を原料として用いる本方法は、反応効率の低下を抑え、目的糖ヘキソースの生産性を向上させる方法として有効であることは明らかである。アルカリの濃度に関しては、投入量に応じて反応は進むし、ごく僅かの量であっても反応時間や温度を増加させば、本発明組成物が得られるが、1時間程度の短時間や60℃程度の低温度で効率よく本発明組成物を得るには、アルカリ濃度は0.005mol/l以上の溶液であることが好ましい。
【実施例21】
【0088】
<0.1mol/l NaOH溶液中における異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0089】
分析組成を図7に示す。通液後(400ml)の溶液の糖組成は、糖質含量に対して、D−グルコース40.3%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース10.7%、D−フラクトース32.2%、D−アロース3.2%、D−プシコース6.3%であった。アルカリ溶液を原料と共に通液する本方法は、実施例2と同様に、異性化糖を原料とした場合であっても、反応効率が低下しないことが明らかとなった。このことは、アルカリ溶液の通液によって樹脂への原料糖、副生成物の吸着を抑えることにより、目的糖ヘキソースの生産性を向上させる方法として有効であることを示す。
【実施例22】
【0090】
<5%異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を、0.1mol/l NaOH溶液で、5%(w/v)になるように調製する。この溶液1100mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度0.8ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm, 内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0091】
通液後(1000ml)、糖質含量に対して、D−グルコース34.3%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース12.4%、D−フラクトース25.8%、D−アロース4.1%、D−プシコース6.3%の混合糖液が得られた。このことから、希薄溶液であってもAブロック内の原料糖を用いて、Aブロック内の糖を生産でき、本発明組成物が得られるが、後の濃縮を簡便にするためにも、特に5%程度以上の原料溶液が好ましい。
【実施例23】
【0092】
<40%異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による反応>
異性化糖を、0.1mol/l NaOH溶液で、40%(w/v)になるように調製する。この溶液1100mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度0.8ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0093】
通液後(1000ml)、糖質含量に対して、D−グルコース46.2%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース6.3%、D−フラクトース32.8%、D−アロース2.0%、D−プシコース4.8%の混合糖液が得られた。実施例21、22と比較すると、希少糖ヘキソースの生産量が少ないことから、原料糖液の濃度が低いほど、希少糖ヘキソースの収率を上げることができることが示された。これらのことから、生産効率を考慮すると、原料糖液の濃度は5%〜40%、特に10〜30%程度が好ましい。
【実施例24】
【0094】
<D−タガトースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
D−タガトースを主成分(90%以上)とする糖液を、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。また、得られた糖液の30%溶液の味質を確かめた。
【0095】
通液後(400ml)、糖質含量に対して、D−グルコース1.8%、D−ガラクトース+D−ソルボース45.1%、D−イドース8.7%、D−タガトース+D−グロース29.2%、D−タロース8.8%の混合糖液が得られた。このことから、Bブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Bブロックの糖を生産できることが明らかとなった。また、この混合糖の味質は砂糖様であった。
【実施例25】
【0096】
<L−ソルボースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
L−ソルボースを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。また、得られた糖液の30%溶液の味質を確かめた。
【0097】
通液後(400ml)、糖質含量に対して、L−グルコース2.0%、L−ガラクトース+L−ソルボース59.2%、L−イドース9.9%、L−タガトース+L−グロース17.2%、L−タロース5.0%の混合糖液が得られた。このことから、Cブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Cブロックの糖を生産できることが明らかとなった。また、この混合糖の味質は砂糖様であった。
【実施例26】
【0098】
<L−プシコースの強塩基性イオン交換樹脂による反応>
L−プシコースを、0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液500mlを、強塩基性イオン交換樹脂45ml、強酸性イオン交換樹脂26mlの順に、温度60℃、送液速度1.6ml/minで通液した。(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型]、カラム長;30cm、内径1.5cm)。この時にカラムから溶出してくる経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。また、得られた糖液の30%溶液の味質を確かめた。
【0099】
通液後(400ml)、糖質含量に対して、L−グルコース7.7%、L−ソルボース+L−マンノース+L−アルトロース17.7%、L−フラクトース21.5%、L−アロース12.4%、L−プシコース34.1%の混合糖液が得られた。このことから、Dブロックの原料糖から、本イオン交換樹脂を用いる方法で、Dブロックの糖を生産できることが明らかとなった。また、この混合糖の味質は砂糖様であった。
【実施例27】
【0100】
<異性化糖の強塩基性イオン交換樹脂による連続反応>
異性化糖を0.1mol/l NaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製する。この溶液を、強塩基性イオン交換樹脂、強酸性イオン交換樹脂の順に、60℃で送液した(強塩基性イオン交換樹脂:アンバーライトIRA900J OH、強酸性イオン交換樹脂:アンバーライト200CT[H型])。この反応液(組成物1)を精製した後、疑似移動クロマトグラフィにてD−プシコースのみを分離して、残りの糖液を、上記条件で塩基性イオン交換樹脂に供し、反応組成物(組成物2)を得た。この組成物を上記HPLCによって確認した。
【0101】
組成物1は、糖質含量に対して、D−グルコース40.1%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース11.4%、D−フラクトース32.5%、D−アロース3.4%、D−プシコース6.7%である。組成物2は、糖質含量に対して、D−グルコース33.2%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース16.1%、D−フラクトース14.3%、D−アロース4.6%、D−プシコース6.1%である。このことから、本反応生成物から目的糖ヘキソースを分離後、残りの液を再度原料糖として用い反応・分離することで目的糖ヘキソースのみを得ることができることが明らかとなった。この様に、連続的に反応分離工程を繰り返すことによって、効率的に目的糖ヘキソースを得ることができる。
【実施例28】
【0102】
<カルシウムを用いたヘキソースの反応>
6.0g水に4.0gの塩化カルシウムと0.25gのD−フラクトースを加え、60℃、30分反応させた。反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)にて分析した。
【0103】
分析の結果、糖質含量に対して、D−グルコース2.54%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース4.09%、D−フラクトース86.54%、D−アロース0.72%、D−プシコース4.82%の混合糖液が得られた。このことから、カルシウムの触媒反応を用いることによっても本発明組成物を得られることが示された。
【実施例29】
【0104】
<異性化糖に含まれるD−プシコースの定量>
異性化糖に含まれるD−プシコースは非常に含量が低くこれまでの方法では定量は困難であった。そこで、異性化糖を酵母により資化させ、主な糖である、グルコースとフラクトースを除去した上で、HPLCによるD−プシコースの定量を行った。
乾燥酵母11.5gを、2%濃度のアルギン酸ナトリウム溶液100mlに懸濁させた。懸濁液は、よく冷却した5%濃度の塩化カルシウム溶液に滴下することで、酵母を含む固定化ゲルを作成した。三角フラスコに、異性化糖(フジフラクト95、日本食品化工)を14.4g、純水85.6gを投入し、100mlとした。この溶液中には、異性化糖が固形分として10g含まれている。この溶液と、内部標準物質と固定化酵母をメスシリンダーで50mlに相当する位置まで秤量したものを共に、500mlの三角フラスコに入れ、振盪培養器により、24時間振盪培養を行った。培養終了液は、0.8μmセルロース膜フィルタ(アドバンテック製)を用いて酵母を除去し、イオン交換樹脂を通液させることで脱塩した後、ロータリーエバポレーターで濃縮したものを、HPLC(検出器;RI、カラム;三菱化成 MCI GEL CK 08EC)を用いて分析した。
【0105】
D−プシコースの異性化糖中の含有量は、0.1%であった。このことから、異性化糖中にもD−プシコースが含まれていることが明らかとなった。このことから、上記実施例中のイオン交換樹脂法によるD−プシコースの生産法は、異性化糖に含まれているD−プシコース含量を更に大幅に増やす方法であると捉えることができる。
【実施例30】
【0106】
<樹脂の種類によるD−プシコースの生成効率>
4種類のイオン交換樹脂(IRA400J、IRA900J、IRA900J[Cl]、IRA904)を用いて、異性化効率の高い樹脂の検討を行った。0.1mol/lNaOH溶液で、10%(w/v)になるように調製した異性化糖を、塩基性イオン交換樹脂2リットルと、温度60℃において、送液速度2l/hでカラムに通液した。
経時的な反応液をサンプリング後、HPLC(検出器;RI、カラム;(株)日立ハイテクノロジーズGL−C611)にて分析した。
【0107】
図8、9に示すとおり、樹脂の種類による異性化効率を検討した。図8の結果から、樹脂を用いない場合よりも、樹脂を用いたときに反応効率が高いこと、樹脂がCl型(IRA900J[Cl])よりもOH型(IRA900J)で効率が高いことが示された。図9の結果から、樹脂の母体が多孔質形(IRA900J)の方が、ゲル形(IRA400J)よりも反応効率が高いこと、イオンの総交換用量が大きい(IRA900J:≧1.0mg当量/ml湿潤樹脂)方が、小さい(IRA904:≧0.65mg当量/ml湿潤樹脂)ものよりも反応効率が高いことが示された。
【実施例31】
【0108】
〈D−プシコースとD−アロースを含む糖液の官能検査〉
20歳代〜50歳代の味覚に精通した男女パネラー6名を用い、表1組成の10%(w/v)糖液(1〜8)を調整し味質試験を行った。評価は、甘味の強さ、後味の良さ、甘味の切れ、甘味のバランス、質感に関し、最も優れているとパネラーが感じた糖液(1〜8)に1票を投じる方法にて行った。また、砂糖と比較した場合の味質のアンケートを行った。さらに、糖液7と実施例21で生じた組成物(D−グルコース40.3%、D−フラクトース32.2%、D−アロース3.2%、D−プシコース6.3%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロースが10.7%を含有する)の味質の比較を行った。
【0109】
【表1】
【0110】
表1の結果から、既存の異性化糖(糖液1、2)に比較して、D−プシコースおよびD−アロースを含む組成物(糖液6、7、8)が味質を向上させることが明らかとなった。特に本発明の糖液(糖液6、7、8)は、甘味のバランスおよび質感で優れ、含まれている含量が少ない場合もしくは、多い場合でも、味質の改善効果が認められた。また、糖液7と、実施例21で得られた糖液の味質を比較すると、ほとんど味質は区別することは出来なかった。さらに、各組成物(糖液1〜8)と10%砂糖液に関して、味質を比較した結果、D−プシコースおよびD−アロースを含む組成物が、他の組成物に比較して、砂糖の味質に近いことが示された。D−アロースの甘味度は砂糖の8割程度で、味質も砂糖に近いことから、甘味の改善効果を示すことが考察されるが、特にD−プシコースとの相性も良いことが推察された。
【実施例32】
【0111】
<D−プシコースとD−アロースを含む糖液を含有する酸性飲料の製造>
表2に示す割合にて、本発明甘味料(実施例21の方法にて得られた糖液)およびショ糖を用いた飲料を作成した。
【0112】
【表2】
【0113】
D−プシコースおよびD−アロースを含む糖液(配合割合a、b、c)と、本実施例21(配合割合d)によって得られた糖液およびショ糖(配合割合e)を用いた飲料を作成した。その結果、配合割合eと比較して、配合割合a、b、c、d共に、味質は砂糖様であった。このことから、D−プシコースおよびD−アロースを含む本特許組成物は砂糖様甘味剤として利用できることが示された。
【実施例33】
【0114】
<D−プシコースとD−アロースを含む糖液の生理効果>
既存に知られる配合の異性化糖を本発明に従い異性化すると、異性化糖の構成糖であるグルコースとフルクトースが異性化され、7%程度のD−プシコースおよび4%程度のD−アロースを含む組成物が得られる(以後、本発明組成物と呼ぶ)。本実験では、既存の異性化糖(グルコース55%およびフラクトース45%)と比較して、本発明法によって得られた組成物の機能性に関して、ラットを用いて検討した。
【0115】
[実験方法]
実験動物として、3週齢の雄Wistar系ラットを用いた。群としては、異性化糖摂取群(異性化糖由来糖質28.5%+スターチ28.5%(w/w))および、本発明組成物を異性化糖に置き換えた本発明組成物摂取群(本発明組成物由来糖質28.5%+スターチ28.5%)、コントロール群としてのスターチ摂取群(スターチ57%)とした。餌の蛋白源としてカゼイン17.5%、脂質源として粉末油脂43.9%を用いた。実験飼料と水を自由摂取とし8週間飼育した。
飼育終了後、体重測定し解剖を行った。解剖時に、採血し、血糖値およびインスリン値を測定した。また、体脂肪を採取しその重量を測定した。摂餌量の集計も行った。測定値は平均値および標準偏差で表わし、多重検定法で検定を行った。
なお、(A)異性化糖摂取群は、異性化糖由来糖質として、D−グルコース55%、D−フラクトース45%を含み、(B)本発明組成物摂取群は、本発明組成物由来糖質として、D−グルコース40%、D−フラクトース31%、D−マンノース+D−ソルボース+D−アルトロース12%、D−プシコース7%、D−アロース4%を含む実施例21に記した方法を用いて得た組成物を用いた。
【0116】
[結果]
体重増加量(g)は、スターチ(対照)群で195±21、異性化糖群で189±15、本発明組成物群で158±17であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な体重の低下が認められた(P<0.01)。副睾丸脂肪組織(g)は、スターチ(対照)群で7.85±1.7、異性化糖群で8.56±1.4、本発明組成物群で4.62±0.7であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な脂肪組織重量の低下が認められた(P<0.01)。腎周囲脂肪組織 (g)は、スターチ(対照)群で7.05±1.1、異性化糖群で7.84±1.4、本発明組成物群で4.74±0.8であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な脂肪組織重量の低下が認められた(P<0.01)。腸間膜脂肪組織(g)は、スターチ(対照)群で5.34±1.2、異性化糖群で6.30±1.3、本発明組成物群で3.76±0.6であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な脂肪組織重量の低下が認められた(P<0.01)。総腹腔内脂肪組織(g)は、スターチ(対照)群で20.2±3.8、異性化糖群で22.7±3.9、本発明組成物群で13.1±1.9であり、本発明組成物群で有意な脂肪組織重量の低下が認められた(P<0.01)。
また、摂餌量(g/日)は、スターチ(対照)群で18.1±1.8、異性化糖群で18.6±1.4、本発明組成物群で16.6±1.5であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な摂餌量の低下が認められた(P<0.05、P<0.01)。
D−プシコースまたは、D−アロースの体重減少量および体脂肪低下量、摂餌量の低下は、非特許文献8の(報告1)、または、非特許文献9の(報告2)で報告されており、それによると、コントロール群の体重、体脂肪、摂食減少量に比較した、D−プシコースまたは、D−アロース摂取群の体重、体脂肪、摂食減少量(%)は以下の様である。また、本発明組成物に含まれるD−マンノースは、体重、摂食量に寄与しないことも非特許文献10の(報告4)に示されている。
結果を比較すると(表3)、本実験のD−プシコースとD−アロースを含む組成物は、含有量を比較すると明らかに、相乗的な体重減少率、体脂肪減少率および摂食量減少率を示している。なお、報告1+報告2の値は、各各の値をD−プシコース2.3%または、Dアロース1.3%あたりの値に計算し直したものである。このことから、D−プシコースとD−アロースを含む本発明組成物は、これまでにない体脂肪減少率および摂食量減少率を示す組成物であることが明らかとなった。また、本実験では、血糖値 (mg/dl)は、スターチ(対照)群で115±17、異性化糖群で95±12、本発明組成物群で98±21であり、対照群と比較した場合、本発明組成物群では、有意な減少が認められたものの(P<0.05)、異性化糖群と比較した場合、有意差は認められなかった。インスリン値(ng/dl)は、スターチ(対照)群で3.2±0.9、異性化糖群で3.7±1.1、本発明組成物群で2.3±0.9であり、対照群および異性化糖群と比較して、本発明組成物群で有意な体重の低下が認められた(P<0.05、P<0.01)。報告1および報告2のD−プシコースおよびD−アロースにおいては、血糖値およびインスリン値には有意な低下は認められていない。また、D−プシコースを投与した場合のインスリン値の日内変動に関しても、インスリン値の低下は報告されていない(非特許文献11参照)。このことから、本組成物が、糖代謝の改善効果、特にインスリン抵抗性の改善効果を有する組成物であることが明らかとなった。
【0117】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のプシコースおよびアロースなどの希少糖を含有するヘキソース組成物は、ソフトドリンクや他の飲料の甘味料として広く使用されることが期待できるばかりか、食品、医薬品もしくは医薬部外品、口腔用組成物、化粧品に利用されることが期待される。また、異性化糖を原料糖とすることによって製造された本発明のヘキソース組成物は、低い生産コストで大量生産して提供できるとともに、優れた特性を利用することにより用途範囲がさらに拡大されることが期待される。
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図9