【実施例】
【0026】
(報告されたピルフェニドンにおける薬物動態学的研究)
ヒト被験体における種々の薬物動態学的研究が報告されており、これには健常成人男性における1つの研究(Schmidt RM、Ritter AおよびMargolin S、1974、Bioavailability of Pirfenidone Capsules Following Oral Administration(Human Volunteers)(60−244−73)、10月11日1974年。Affiliated Medical Research,Inc.,Princeton,New Jersey、これ以後「Schmidt 1974」)、および肺線維症を有する患者における2つの研究(Nagai S,Hamada K,Shigematsu M,Taniyama M,Yamauchi SおよびIzumi T,2002,Open Label Compassionate Use One Year−Treatment with Pirfenidone to Patients with Chronic Pulmonary Fibrosis,Intern Med 41:1118−1123,これ以後「Nagai 2002」;およびAzuma A,Nukiwa T,Tsuboi Eら、2005、Double−Blind,Placebo Controlled Trial of Pirfenidone in Patients with Idiopathic Pulmonary Fibrosis,Am J Respir Crit Care Med.,これ以後「Shionogi Phase II」)が挙げられる。
【0027】
Schmidt 1974は、ピルフェニドン単回投与の薬物動態を試験した。ピルフェニドンは、10人の健常成人男性に100mg、200mg、および400mgの用量で経口投与された。1日目、100mgの単回投与が各被験体に与えられた。3日目、200mgの単回投与が各被験体に与えられた。そして、4日目、400mgの最終単回投与が各被験体に与えられた。この400mgの最終単回投与を薬物動態に関して解析した。血液血漿サンプルは、投薬前および投薬0.25時間、1時間、4時間および6時間後に採取した。血漿中のピルフェニドン濃度が、ガスクロマトグラフィーにより決定された。薬物動態的パラメータの結果の値は:C
max=6.3±2.5μg/mL、T
max=0.9±0.3時間、AUC
6hr=20.8±10.0μg/mL・hrおよびT
1/2=2.2±0.6時間である。
【0028】
Nagai 2002は、肺線維症を有する10人の男性患者を含む。被験体に、数日間400mgの初回用量で始め、40mg/kg/日の維持用量まで用量増加を実施した。薬物動態学的解析を、1日目において400mg用量が与えられたときに、10人の被験体各々について行なった。血漿サンプルを投薬から0時間、0.25時間、1時間、1.5時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間後に採取した。薬物動態学的パラメータの値を算出した。C
maxは、3.0〜7.2μg/mLであり、そしてUC
24hrは、16.9〜66.4μg/mL・時間であった。
【0029】
Shionogi Phase IIでは、15人の患者サブセットのピルフェニドンコフォート(13人の男性および2人の女性)における連続的なサンプリングを行った。1日目、200mg単回投与を15人の各患者に与え、血清サンプルを投薬前、および投薬0.5時間、1時間、2時間および3時間後に採取した。ピルフェニドンの血中濃度をHPLCアッセイにより決定した。
図1は、ピルフェニドンおよびその代謝物5−カルボン酸の観察した平均血清濃度の経時変化を示した。薬物動態学的パラメータの値は:C
max=2.7±0.7μg/mL、T
max=1.8±1.1時間、AUC
4hr=7.3±1.6μg/mL・時間およびT
1/2=3.5±2.2時間であると算出された。
【0030】
これら以前に報告された研究における薬物処方物は、異なっていた。Schmidt 1974は、100%ピルフェニドンを含むカプセルを使用した。Nagai 2002およびShionogi Phase IIは、特定の薬学的に受容可能な賦形剤を含んだピルフェニドン錠を使用した。例えば、Shionogi Phase IIに使用された薬物製品は、圧縮、コーティングされた200mgピルフェニドン錠として処方された。Shionogi Phase II錠は、薬学的に受容可能な賦形剤を含んだ。
図2は、Shionogi Phase II錠の成分および各成分の量を列挙した表である。示されるように、内核錠は285mgであり、このうちの200mgはAPIであった。種々の量の崩壊剤、充填剤、結合剤、および滑沢剤が含まれた。コーティングの添加にともない、Shionogi Phase II錠の総重量は、296.4mgであった。
【0031】
1つの付加的な薬物動態学的研究を、それぞれ100%ピルフェニドンを含む4つの100mgカプセルの単回投与で実施した。10人のヒトボランティアを本実験に含めた。400mgピルフェニドンの経口摂取から15分後、ピルフェニドンの平均血清濃度は、3.97μg/mLに達した。平均血清濃度は、1時間で5.57μg/mLであり、6時間で1.63μg/mLであると測定された。
図3は、本研究をまとめた経時的な血清ピルフェニドンレベルのプロットである。示されるように、最大血清ピルフェニドンレベルは、1時間と3時間の間に達した。T
1/2の値は、2.87±0.22時間であると計算された。
【0032】
(賦形剤を含むピルフェニドンのカプセル処方物)
薬学的研究および製造の当業者において、一般的に、錠剤処方物は、賦形剤およびコーティング物質、特に高パーセントの充填剤を含む非API成分の大量添加を許容することが公知である。しかしながら、非API成分の添加は、各錠剤に収容されるAPIの量を制限し得る。反対に、カプセル処方物は、非API成分を含まないか、またはより少ない非API成分しか含まずに高パーセントのAPIを含有することを容易にする。カプセルは、錠剤でより使用される充填剤に代わって、大量の結合剤の含有を可能にし得る。高パーセントのAPIが所望され、具体的な賦形剤が必須であることが知られていない場合、カプセル処方物がしばしば適用される。
【0033】
確かなことに、これまでに製造され、報告されたいずれのピルフェニドンのカプセル処方物も、賦形剤を含まない。本開示は、特定の薬学的に受容可能な賦形剤を用いる新規のピルフェニドンカプセル処方物を提供する。1つの実施形態に従って、この新規のカプセル処方物は、ヒト被験体において有利な薬物動態学的応答を誘導することができる。別の実施形態において、この新規のカプセル処方物は、カプセルの製造プロセスにおいて溶解を促進し、流動性を改善する。
【0034】
このカプセル処方物は、100〜400mgのピルフェニドンを含有する。1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤が種々の実施形態において添加される。例えば、1つの実施形態において、カプセルの2〜10重量%は崩壊剤であり、2〜30重量%は結合剤であり、2〜30重量%は充填剤であり、0.3〜0.8重量%は滑沢剤である。この詳細な説明の始めに記載されるように、多数の物質が、崩壊剤、結合剤、充填剤、および滑沢剤として適切に含有され得る。1つの例は、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム、結合剤として微結晶セルロース、および崩壊剤としてクロスカルメロースを使用することである。特定の実施形態において、カプセル処方物は、さらにポビドンを含む。ポビドンは、カプセルの1〜4重量%を構成し得る。
【0035】
1つの実施形態において、カプセルのシェルは、硬質ゼラチン製であり得る。このシェルは、種々の実施形態において、透明であっても不透明であってもよく、白色であっても色を有していてもよい。このカプセルは、好ましい実施形態においてサイズ1である。代替の実施形態においては、他のサイズが適用され得る。
【0036】
種々の実施形態のカプセル処方物に基づいたピルフェニドンの製造は、一連の工程を包含する。これらの工程は、ピルフェニドン顆粒の調製、流動層乾燥、粉砕、滑沢剤混合、カプセル化、およびバルクパッケージングである。
【0037】
ピルフェニドン顆粒の調製は、以下の順番で行なわれ得る。第1に、ポビドンが、水と混合され、オーバーヘッドミキサーを使用して溶解される。第2に、ピルフェニドンが、クロスカルメロースおよび微結晶セルロースとともに粉砕され、いずれの塊も分解する。第3に、この粉砕されたピルフェニドン、クロスカルメロース、および微結晶セルロースは、高せん断力(sheer)造粒機に添加され、混合される。第4に、ポビドンおよび水溶液がこの混合物に添加される。第5に、ピルフェニドン顆粒が、ポビドンおよび水溶液が完全に添加された後、さらなる期間混合される。
【0038】
流動層乾燥プロセスは、60℃の注入口温度で、Fluid Bed Dryerで実施され得る。この粉砕工程は、Quadro Comil(登録商標)のような適した粉砕機を使用して実施され得る。滑沢剤混合プロセスは、適量のクロスカルメロースおよびステアリン酸マグネシウムの添加により実施され得る。ピルフェニドンの顆粒は、さらにこの時点で混合され得る。次に、ピルフェニドン顆粒は、100〜400mgの所望されるピルフェニドン用量を与えるために、適切なカプセル製造機を使用して、2ピース、サイズ1のゼラチンカプセルにカプセル化される。好ましい実施形態において、200〜300mgの用量が得られる。カプセル製造プロセスを完結するために、完成したカプセルは、しっかりした二重ポリバッグにパッケージされ、制御された室温において貯蔵された。薬物研究および薬物製造の当業者は、特定の上記工程は、改変されるか、除外され得、実質的に製造生成物に影響を与えないでさらなる工程が包含され得ることを認識する。
【0039】
調製され試験されたピルフェニドン/賦形剤処方物含有カプセルの代表的な組成物を
図6に提供する。ピルフェニドン/賦形剤処方物の代表的なバッチは、通常の湿潤処方方法を使用して調製され、
図7に挙げられた成分と合わせた。
【0040】
薬物動態学的研究を、本開示のピルフェニドンカプセルで実施した。
図4に示される第1の研究は、
図6の267mgピルフェニドンカプセル処方物の単回用量を投与された被験体の4つのグループにおける血清濃度の経時的、平均変化を示す。このグラフの4つの線、A、B、CおよびDは、4つの異なる被験体群を示し、Aは絶食した被験体;Bは制酸剤を投与された絶食被験体;Cは食事をした被験体;Dは制酸剤を投与された食事をした被験体である。
【0041】
別の薬物動態学的研究では、2群の通常食ヒト被験体が含まれ、各群は13人の被験体を有する。一方の群(グループI)には制酸剤を与えないが、他方の群(グループII)には制酸剤を与えた。
図6の267mgピルフェニドンカプセル処方物を各被験体に与えた。
図5は、両群(カプセル グループIおよびII)について、得られるPK値をまとめた表であり、Schmidt 1974において報告されるPK値と比較される。
図5において示されるように、T
maxは、これら賦形剤含有カプセルについて、Schmidt 1974において報告されたT
maxより有意に長い(グループIおよびIIの各々においておおよそ2倍の増加)。AUCもまた、これら賦形剤含有カプセルついて、Schmidt 1974において報告されたAUCより有意に高い(グループIおよびIIの各々において約2倍の増加)。AUC値は、0〜無限大の期間にわたって算出される。C
maxおよびT
1/2の値もまた、Schmidt 1974において報告された値より高いか同等である。
【0042】
これら得られたPK値、特にT
maxおよびAUCの増加は、本開示による賦形剤を含むピルフェニドンカプセルの長期の吸収相を示す。従って、これらカプセルは、患者において長期の治療効果を維持することができる。それ故、Schmidt 1974において使用されるような賦形剤を含まないカプセルと比較して、賦形剤を含むカプセル処方物は、必要とする患者に有利に投与され得、それにより患者において所望の薬物動態学的応答を誘導する。そのような所望のPK応答は、驚くべき結果であるが、微結晶セルロースまたはポビドンのような結合剤は、ピルフェニドンのアミドカルボニル基と優位に相互作用して一時的な複合体を形成し、次いで解離し得、このことがピルフェニドンの血漿濃度の穏やかな上昇、または血漿濃度の穏やかな下降もしくはクリアランスを生じることが考えられる。
【0043】
長いT
maxおよびT
1/2に基づいて、簡便にした投薬レジメン(例えば、1日3回から1日2回への変更)が実行され得、これはよりよい患者のコンプライアンスを生じるようである。さらに、高いC
max値は、ピルフェニドンの治療効果に影響を与えることなしに、一日投与量が減少され得ることを示唆する。一日投与量の減少は、薬物の毒性および他の有害作用の減少または排除につながり得る。
【0044】
本明細書に提供されるピルフェニドン/賦形剤の治療的利点に加え、これらカプセルおよび処方物はまた、種々の貯蔵条件下において、長時間良好な安定性を示す。いくつかの実施形態において、種々の貯蔵条件下、本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物は、少なくとも3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、12ヶ月間、15ヶ月間、18ヶ月間、24ヶ月間、36ヶ月間、または48ヶ月間、あるいは少なくとも約3ヶ月間、約6ヶ月間、約9ヶ月間、約12ヶ月間、約15ヶ月間、約18ヶ月間、約24ヶ月間、約36ヶ月間、または約48ヶ月間安定であり得る。例えば、25℃、60%相対湿度の貯蔵条件下において、本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物は、少なくとも3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、12ヶ月間、15ヶ月間、18ヶ月間、24ヶ月間、36ヶ月間、または48ヶ月間、あるいは少なくとも約3ヶ月間、約6ヶ月間、約9ヶ月間、約12ヶ月間、約15ヶ月間、約18ヶ月間、約24ヶ月間、約36ヶ月間、または約48ヶ月間安定であり得る。別の例において、30℃、65%相対湿度の貯蔵条件下において、本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物は、少なくとも3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、12ヶ月間、15ヶ月間、18ヶ月間、24ヶ月間、36ヶ月間、または48ヶ月間、あるいは少なくとも約3ヶ月間、約6ヶ月間、約9ヶ月間、約12ヶ月間、約15ヶ月間、約18ヶ月間、約24ヶ月間、約36ヶ月間、または約48ヶ月間安定であり得る。別の例において、40℃、75%相対湿度の貯蔵条件下において、本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物は、少なくとも3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、または12ヶ月間、あるいは少なくとも約3ヶ月間、約6ヶ月間、約9ヶ月間、または約12ヶ月間安定であり得る。
【0045】
いくつかの実施形態において、本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の安定性は、貯蔵されたカプセルおよび/またはピルフェニドン/賦形剤処方物の溶出速度を測定することにより決定される。本明細書中に提供されるか、そうでなければ当該分野において公知の種々の溶出法のいずれかが、カプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の安定性を決定するために実施され得る。溶出測定は、当該分野において公知のインビトロ方法であり、インビボでのT
maxおよびAUCを表わすものである。従って、溶出法により測定されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の安定性は、カプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物が、例えば上に例示した条件下、示された時間、貯蔵した後の被験体のインビボでのT
maxおよびAUCを表わすものである。代表的には、受容可能な安定性レベルを示す溶出レベルは、明細書中に提供されるカプセル中、少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはそれ以上、あるいは少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはそれ以上のピルフェニドンである。本明細書中に提供されるか、そうでなければ当該分野において公知の種々の溶出法のいずれかが、カプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の安定性を決定するために実施され得る。例えば、溶出は、USP29に明記される、薬局方溶出法に従って、決定され得る。
【0046】
本明細書中に提供されるカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の安定性は、
図8に示される結果で実証される。
図6の267mgピルフェニドンカプセル処方物を3つの異なる貯蔵条件下:25℃および60%相対湿度、30℃および65%相対湿度、40℃および75%相対湿度で18ヶ月間貯蔵した。
図8は、25℃および60%相対湿度、30℃および65%相対湿度でのカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の溶出が18ヶ月の期間にわたって、感知できるほどには変化しなかったことを示す。40℃および75%相対湿度でのカプセルおよびピルフェニドン/賦形剤処方物の溶出は、最初の12ヶ月間感知できるほどには変化しなかった。溶出の分析を、溶媒として水、および30分でのラベルクレームQ=70%の仕様を用いて装置2(パドル)を使用するUSP29に明記される局方溶出試験法に従って実施した。また、
図8に示されるように、HPLCにより決定される各処方物における不純物レベルは、18ヶ月の期間にわたり0.05%より少なかった。さらに、Karl Fischer法により決定される水分含有量は、1点(18ヶ月での40℃、75%RH)を除いてすべて2%以下で維持され、すべてのサンプルの水分含有量は、18ヶ月の期間にわたり2.5%以下に維持された。最終的にHPLCによって決定された各サンプルのピルフェニドンの割合は、18ヶ月間にわたり感知できる分解を示さなかった。
【0047】
図6に提供される具体的な処方物に加え、本明細書中に企図されるさらなる処方物が
図9aおよび9bに提供される。
【0048】
(治療の指標)
本開示の1つの実施形態は、線維症性状態および他のサイトカイン媒介性障害を処置するための方法を提供する。これらの方法は、線維症性状態またはサイトカイン媒介性障害を患っている患者に本開示の賦形剤含有ピルフェニドンカプセルを投与する工程を包含する。この投薬は、1回の摂取につき1つ以上のカプセルでの、1日2回または3回であり得る。特定の実施形態に従って、総1日摂取量は、少なくとも1200mgピルフェニドンである。総1日摂取量は、患者プロフィール(とりわけ、患者の人口統計的特徴、生理学的および遺伝的状態、ならびに疾患予後を含む)に依存して変更し得る。例えば、子供または高齢者は、通常の成人に与えられるよりも1日あたり低用量で与えられ得る。
【0049】
ピルフェニドンの抗線維性活性は、インビボ動物線維症モデル、ならびにヒトまたは動物の肺線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、および線維芽細胞様細胞を用いるインビトロ細胞培養試験において実証される。これらのデータは、ピルフェニドンが術後の癒着、心筋線維症、腎臓線維症、肝硬変、動脈硬化症およびその他の線維症性障害の予防および処置に効果的な薬剤であり得ることを示している。ヒト間葉様細胞(肺線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、前立腺間質細胞および腎臓メサンギウム細胞などを含む)を用いるインビトロ細胞培養物は、サイトカイン増殖因子(TGF−β1、bFGF、PDGF、およびEGF)により誘導される過剰な細胞増殖のピルフェニドンによる薬理学的阻害を示した。細胞培養培地において、ピルフェニドンの段階的な濃度は、細胞において任意の薬理学的毒性作用を示す濃度より10〜20倍低いレベルで効果的であった。
【0050】
損傷部位では、損傷していなければ正常である内在細胞(例えば、線維芽細胞、血管周囲細胞、メサンギウム細胞、星状細胞、グリア細胞、および希突起膠細胞)が、高濃度の増殖因子を産生し隣接する組織間隙に放出する。これら異常に高濃度の増殖因子の内在性供給源が、持続的に過剰レベルの増殖因子の直接的な原因である。これらは、膠原またはアミロイドマトリックスの過剰かつ有害な形成、および隣接細胞に対する損傷、関連臓器の不全、ならびに頻繁に臓器奇形を引き起こす。
【0051】
TGF−β1は、強力な増殖関連ペプチドであり、その効果はフェムトモル濃度で観察され得る。これは至るところに現れ、インビトロにおける細胞増殖の二機能性の調節因子である。これは、組織濃度および細胞のコンフルエントの状態に依存して、マイトジェンまたは増殖因子のいずれかとして作用する(L.J.Strikerら、Lab.Invest.64:446〜456、1991年)。皮膚切開において、マクロファージおよび線維芽細胞を誘引した後、TGF−β1は、膠原およびフィブロネクチンに関する遺伝子の転写を増加させ、プロテアーゼの分泌を減少させ、プロテアーゼインヒビターの分泌を増加させ、そしてマトリックスタンパク質に関する細胞性受容体の転写を増加させることにより、細胞外マトリックスの形成を増強する。
【0052】
ピルフェニドンの抗線維症活性は、線維症性病巣を有する実験動物においてインビボで、ヒト肺線維芽細胞(WI38)細胞培養物を用いてインビトロで実証され、そして重篤な肺線維症、良性前立腺肥大症またはケロイドを有する患者におけるパイロットオープン試験を通して観察された。ピルフェニドンは、選択的に瘢痕の拡張を阻止し得、瘢痕組織または線維症を再構築するかまたは除去し得る。線維症性病巣により引き起こされる機能不全は、ピルフェニドン処置後の線維症性病巣の減少または除去により改善され得る。明らかに、臓器および組織の機能は、数年間の線維症の存在後でさえ回復され得る。組織への傷害(例えば、外傷、感染、またはアレルギー)後直ちに与えられると、ピルフェニドンはまた過剰な瘢痕組織または線維症性病巣の形成を防ぎ得、したがって組織の正常機能および外観を維持するのに役立ち得る。
【0053】
ピルフェニドンは、局所の線維芽細胞の食作用により過剰な膠原線維症性組織の除去を引き起こし得る。これは、光学顕微鏡下、ピルフェニドンで処置された肺線維症を有するイヌ、マウス、ラットおよびハムスターからの肺組織の組織学的切片の試験によって観察され、そしてまた、ピルフェニドンで処置された実験的に石綿肺症を誘導されたハムスターから採取された肺組織の組織学的切片の電子顕微鏡写真によっても観察された。炎症誘導性好中球、PMN細胞、単球、リンパ球の浸潤は起こらなかった。
【0054】
PDGFまたはbFGFへのインビトロでの曝露の際のWI38線維芽細胞の増強された増殖は、細胞増殖培地に添加されたピルフェニドンによりブロックされ得る。ピルフェニドンはまた、肺および皮膚の線維芽細胞培養物においてTGF−β1誘導性の膠原産生の増大を阻害する。
【0055】
ピルフェニドンでの処置後のヒトの臨床研究結果は、実験動物で観察された抗線維症性効果と一致した。経口のピルフェニドンを用いるパイロットオープン臨床試験を、肺性石綿肺症、ブレオマイシン誘導性肺線維症、特発性肺線維症、肺線維症を有する硬皮症、および肺線維症により特徴付けられるヘルマンスキー‐パドラック症候群に苦しむ患者を用いて実施した。
【0056】
ピルフェニドンにおける最初の一ヶ月間の有益な応答に関する臨床的基準として、咳の発症率の減少、補充酸素の必要性の減少、運動耐性の増加、運動中の呼吸困難の減少、肺性心の改善、通常の日常業務の再開、体重の増加、および生存が挙げられた。初期の数ヶ月の間、胸部X線、肺活量測定、またはCO拡散(DLCO)により測定した肺機能は、たとえあったとしてもほとんど変化を示さなかった。しかしながら、4〜6ヶ月後、ピルフェニドンにおいて、肺機能のさらなる悪化の阻害またはブロックが、肺機能試験、肺活量(VC)、一酸化炭素についての肺の拡散量(DLCO)により立証された。これらすべての所見は、患者によるブレオマイシン誘導性肺性肺炎からの自然回復の間(初期線維症)の、Van Barneveldら(Amer.Rev.Respr.Dis.,vol.135,48−51,1987)により記載される所見に優位に匹敵する。
【0057】
Martinetら(NE Jour.Med.,vol317,202−209,1987)は、特発性肺線維症を有する患者における、肺胞マクロファージによるPDGFの過度の放出を記載している。増殖因子(bFGF、PDGFおよびTGF−β1)により引き起こされる有糸分裂誘発および増強された膠原形成のピルフェニドンによる阻害のインビトロにおける実証は、ピルフェニドンの有益なインビボ抗線維症作用を部分的に説明し得る。
【0058】
臨床的に進行した良性前立腺肥大症(BPH、雄性前立腺の非癌性繊維拡大)を有する高齢男性におけるピルフェニドンのオープンパイロット試験において、この患者は、客観的な基準に基づく機能改善を経験した。経口ピルフェニドン摂取後、頻繁な膀胱の尿意促迫が改善され、夜間頻尿はほとんど再発しなかった。別のオープンパイロット試験において、ケロイド切除後すぐのピルフェニドン軟膏の手術部位への局所塗布は、患者における2年の追跡において観察されるように、ケロイドの再発を防いだ。これらの患者は各々、そのような手術の後、早期のケロイド再生を繰り返す前歴を有していたた。ピルフェニドンは、皮膚の線維症性病巣のリモデリングを誘導し、ケロイドを減少させるか除去し、皮膚の瘢痕を減少させるか除去し、過形成性(熱傷後)瘢痕の痙縮を除去するか少なくし得る。同様な条件において、ピルフェニドンはまた、術後の癒着を防ぐように作用する。
【0059】
従って、コントロールされたプロトコール設計とオープンラベル試験との両方における臨床研究が、ピルフェニドンが抗線維症性作用および細胞保護作用を示すことを実証した。経口投与後に観察される副作用は、比較的軽かった(嗜眠状態、胃の悪心または光過敏性発疹)。重篤な有害反応は報告されなかった。
【0060】
要約すると、ピルフェニドンのTNF−aインヒビター(細胞保護)活性に基づいて、本開示のカプセル処方物は、本開示の特定の実施形態に従って投与され得、以下の障害を患っている患者を処置し得る;
1)中枢神経系症候群:再発性−寛解性(remitting)多発性硬化症、一次性および二次性多発性硬化症、脊髄性多発性硬化症、大脳マラリア、CNSのウイルス感染または細菌感染、細菌性髄膜炎、中枢神経系(CNS)の「自己免疫」疾患、CNSの卒中および塞栓、脳浮腫、パーキンソン症候群、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)ならびに脳震とうまたは脳挫傷;
2)骨格筋症候群:慢性関節リウマチ、外傷誘導性関節炎、微生物感染または寄生虫感染により生じる関節炎、腱炎、および医療製品または薬物(合成小分子ならびに精製天然ペプチドまたはタンパク質、あるいは合成ペプチドまたはタンパク質を含む)により誘導される関節炎;
3)肺性症候群:急性成人呼吸促進症候群、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および肺性サルコイドーシス;
4)全身性免疫性、炎症性または毒性症候群:内毒素性ショック症候群、敗血症性ショック、対宿主性移植片病、同種移植片血管症、出血性ショック、脳または心筋の再灌流障害、熱傷、放射線障害、全身性または皮膚の外傷または挫傷障害、好酸球性肉芽種、糖尿病(II型)、または全身性エリトマトーデス;
5)胃腸管症候群:クローン病、潰瘍性大腸炎、および肝臓の炎症性疾患;および
6)うっ血性心不全。
【0061】
さらにピルフェニドンの抗線維症性活性に基づいて、本開示のカプセル処方物は、他の実施形態に従って投与され得、以下の障害を患っている患者を処置し得る:肺線維症、放射線および薬物誘導性の肺線維症、肝性線維症、心臓性線維症、ケロイド、術後癒着、ヒトの良性前立腺肥大症、動脈硬化症、皮膚線維症、および冠状再狭窄。
【0062】
例示的な実施形態を示しているが、説明、具体的な例およびデータは、例示のために与えられ、本開示の種々の実施形態を制限することを意図していないことが理解される。本明細書中に引用されるすべての参考文献は、いかなる理由であれ、具体的にかつ完全に参考として援用される。本開示内の種々の変更および改変は、明細書に含まれる説明およびデータより当業者に明らかとなり、従って、それらは本開示の種々の実施形態の一部とみなされる。