特許第5715117号(P5715117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5715117-摂食障害治療剤 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715117
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】摂食障害治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20150416BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   A61K37/18
   A61P3/04
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-501825(P2012-501825)
(86)(22)【出願日】2011年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2011054001
(87)【国際公開番号】WO2011105435
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2013年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-39179(P2010-39179)
(32)【優先日】2010年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】素本 友紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 明男
(72)【発明者】
【氏名】松本 宏志
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−517464(JP,A)
【文献】 特表2008−525430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプシンによるαs2−カゼインの加水分解物である分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を50質量%以上含んでなる画分を有効成分として含有してなる、食事前又は食事中に摂取する必要がない、過食症治療剤。
【請求項2】
ペプシンによるαs2−カゼインの加水分解物である分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を50質量%以上含んでなる画分が、カゼイン1質量部に対して、ペプシン1/10000質量部〜1/1000質量部を添加して加水分解された加水分解物の水溶性画分である、請求項1に記載の過食症治療剤。
【請求項3】
水溶性画分が、ペプシンによるカゼインの加水分解物を、デカンテーション又は遠心分離によって画分して得られた上清画分である、請求項2に記載の過食症治療剤。
【請求項4】
摂食障害治療剤が、過食症における一日の食事摂取量を、投与開始から5週間後に、投与開始時と比較して、10%以上低下させる過食症治療剤である、請求項1〜3の何れかに記載の過食症治療剤。
【請求項5】
カゼイン1質量部に対して、ペプシン1/10000質量部〜1/1000質量部を添加して、カゼインをペプシンで加水分解して、ペプシンによるカゼインの加水分解物を得る工程、
ペプシンによるカゼインの加水分解物を、デカンテーション又は遠心分離して分画した上清画分を、αs2−カゼインの加水分解物である分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を50質量%以上含んでなる水溶性画分として得る工程、
を含んでなる、上記水溶性画分を有効成分として含有してなる、食事前又は食事中に摂取する必要がない、過食症治療剤を、製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン加水分解物を有効成分とする摂食障害治療剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、カゼイン溶液をペプシンで加水分解して得られる分子量1kDa(キロダルトン)〜25kDaのカゼイン加水分解物を有効成分とする摂食障害治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
摂食障害(eating disorder)は、食行動の異常を呈する疾患で、心理的な要因によるとされる。機能的嚥下障害等と区別するために、摂食障害は、近年、中枢性摂食異常症とも呼ばれる。摂食障害は、大別して、いわゆる拒食症(神経性食欲不振症)(anorexia nervosa)と、いわゆる過食症(神経性大食症)(bulimia nervosa)として現れるが、両者には移行がある。
【0003】
拒食症は、適切な食欲が失われて、十分な食事を摂取しない(拒食する)というものであり、この行動の結果から、低栄養となり、不整脈、貧血、無月経、肝機能障害、骨粗鬆症などの重大な事態に至ることがある。結果として生じるこれらの疾患に対する治療は、摂食障害を治療するものではない。強制的な栄養剤投与は低栄養に対する対処とはなるが、摂食障害を治療するものではない。
【0004】
過食症は、食欲が亢進して自己制御できず、必要以上の食事を摂取する(過食する)というものであり、この行動の結果から、肥満、高血圧、糖尿病などの重大な事態に至ることがある。結果として生じるこれらの疾患に対する治療は、摂食障害を治療するものではない。強制的な食事制限(食事療法)は過剰摂取に対する対処とはなるが、摂食障害を治療するものではない。過剰な食欲は、食事の時刻に限らずに亢進するために、食事の制限や食欲の抑制は、終日に渡って行う必要があり、容易なことではない。
【0005】
摂食障害を治療するための医薬として、例えば、フルオキセチン (Fluoxetine)(製品名:プロザック(登録商標)、米国イーライリリーアンドカンパニー社、日本未承認)がある。しかし、フルオキセチンは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)として知られる抗うつ剤の一種であり、精神面での副作用があり、投与量に十分な配慮を要するなど、取り扱いが難しい。
【0006】
また、摂食障害を治療するための医薬、特に過食症に着目した医薬として、食欲抑制剤が使用されることがある。食欲抑制剤としては、マジンドール(Mazindol)(製品名:サノレックス(登録商標)、ノバルティスファーマ株式会社)が、日本国内で唯一市販されているものである。しかし、マジンドールは、アンフェタミン類と類似した向精神薬であり、依存性や耐性が成立することや、精神症状に副作用を与える可能性もあることから、長期間の投与には適さず、取り扱いが難しい。また、マジンドールなどによる食欲の抑制は、異常に亢進した食欲に限らず、正常に発揮される適切な食欲をも抑制してしまうために、摂食障害の治療薬として問題がある。
【0007】
このように、現在有効とされている、摂食障害を治療するための医薬(摂食障害治療剤)は、いずれも、精神面での副作用があり、投与量、投与回数、投与期間などを慎重に配慮する必要があり、取り扱いが難しく、気軽に使用できるものではなく、長期間継続して日常的に安心して使用できるものでもない。
【0008】
一方、摂食障害の治療ではなく、食事前又は食事中に摂取して飽満感を高めることで、食事の際の食欲を一時的に満足させて、食事量を減少させることを目的とした、多糖類や繊維が添加された低カロリーの経口用組成物が存在する。特許文献1には、食事後の飽満感を高め、持続させるために食事前又は食事中に摂取する栄養摂取介入組成物が記載されている。しかし、特許文献1の栄養摂取介入組成物は、食事前又は食事中に摂取する必要があり、一方で、摂食障害の過食症による異常な食欲の亢進は、食事の予定時間以外にも発揮されるために、過食症に対しては実効に乏しい。また、食事のかわりに、飽満感を得られる低カロリー組成物を、終日食べ続けることは、現実的ではない。
【0009】
カゼインは、乳から分離される主要な乳タンパク質成分であり、遺伝子的に異なる4つのタンパク質、すなわち、αs1カゼイン、αs2カゼイン、βカゼイン、κカゼインからなる。カゼインは、ほ乳類に摂取されて、種々の生理的作用を示すことが明らかになってきた。例えば、特許文献2には、αs−カゼインを有効成分として含有する脂質代謝改善剤が記載されている。しかし、カゼインの分解物が、摂食障害に対する治療剤となることは、未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−523368号公報
【特許文献2】国際公開第2007/142230号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、摂食障害の治療のために、様々な飲食品や医薬品、及びこれらを用いた食事療法が研究されてきた。しかしながら、従来技術では必ずしも効果が十分でないことから、より安全で効果的な摂食障害治療剤が求められていた。
【0012】
特に過食症患者においては、異常な食欲の亢進を意思によって抑制することが困難であり、精神的な負担のない、過食症治療剤が強く求められていた。さらに、過食症患者の異常な食欲の亢進に対して、正常に発揮されている通常の食欲は維持したままで、過剰な食欲のみを抑制する治療剤が求められていた。
【0013】
従って、本発明は、安全性が高くて、効果的な摂食障害治療剤、好ましくは過食症治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、摂食障害を改善する有効成分について、鋭意検討を行った。そして、乳タンパク質の中でも、カゼインの加水分解物の特定の画分が、過食症による異常な食欲の亢進を顕著に抑制して、摂食障害を治療することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、カゼインの加水分解物の特定の画分を有効成分として含有する摂食障害治療剤、好ましくは過食症治療剤を提供する。
好適な実施の態様において、本発明の治療剤は、ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分を有効成分として含有する。
好適な実施の態様において、本発明の治療剤は、カゼインをペプシンで加水分解して得られる分子量1kDa〜25kDaのカゼインの加水分解物を有効成分として含有する。
本発明の治療剤は、カゼインの加水分解物が、カゼイン1質量部をペプシン1/10,000質量部〜1/1,000質量部で加水分解して得られるカゼインの加水分解物であることが好ましい。
好適な実施の態様において、本発明の治療剤は、投与開始から5週間後の過食症患者の食事摂取量を10%以上低下させる薬剤であることが好ましい。
好適な実施の態様において、本発明の治療剤は、摂食障害治療、特に過食症治療が、過剰な食欲の抑制(過剰食欲抑制)であることが好ましい。
【0015】
従って、本発明は次の(1)〜(12)にある。
(1)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分を有効成分として含有してなる、摂食障害治療剤。
(2)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1kDa〜25kDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(1)に記載の摂食障害治療剤。
(3)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(1)に記載の摂食障害治療剤。
(4)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を50%以上含むものである、(1)に記載の摂食障害治療剤。
(5)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、αs2−カゼインの加水分解物である分子量1kDa〜25kDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(1)に記載の摂食障害治療剤。
(6)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、αs2−カゼインの加水分解物である分子量1kDa〜20kDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(1)に記載の摂食障害治療剤。
(7)
ペプシンによるカゼインの加水分解物が、カゼイン1質量部に対して、ペプシン1/10000質量部〜1/1000質量部を添加して加水分解された加水分解物である、(1)〜(6)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
(8)
水溶性画分が、ペプシンによるカゼインの加水分解物を、デカンテーション又は遠心分離によって画分して得られた上清画分である、(1)〜(7)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
(9)
水溶性画分が、ペプシンによるカゼインの加水分解物を、300G〜100000Gで遠心分離して得られた上清画分である、(1)〜(7)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
(10)
摂食障害治療剤が、持続性摂食障害治療剤である、(1)〜(9)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
(11)
摂食障害が、過食症である、(1)〜(10)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
(12)
摂食障害治療剤が、過食症における一日の食事摂取量を、投与開始から5週間後に、投与開始時と比較して、10%以上低下させる摂食障害治療剤である、(1)〜(11)の何れかに記載の摂食障害治療剤。
【0016】
このように、本発明は、摂食障害、中枢性摂食異常症、拒食症、神経性食欲不振症、過食症、及び神経性大食症の治療剤にあり、摂食障害、中枢性摂食異常症、拒食症、神経性食欲不振症、過食症、及び神経性大食症の治療用医薬品にもあり、持続性の上記治療剤及び医薬品にもあり、経口用の上記治療剤及び医薬品にもある。上記治療には、治療及び予防が含まれ、改善及び緩解も含まれる。好適な実施の一態様において、本発明の治療剤及び医薬品は、過食症患者の血糖値低減剤及び血糖値低減用医薬品としても用いることができる。好適な実施の一態様において、本発明の治療剤及び医薬品は、摂食障害治療が、好ましくは過食症治療、さらに好ましくは過剰な食欲の抑制(過剰食欲抑制)であり、過食症抑制剤、過剰食欲抑制剤にもある。好適な実施の一態様において、本発明の治療剤及び医薬品は、過食抑制が、好ましくは過食症患者の血糖値の低下をもたらすものである。
【0017】
さらに、本発明は次の(13)〜(20)にもある。
(13)
カゼインをペプシンで加水分解して、ペプシンによるカゼインの加水分解物を得る工程、
ペプシンによるカゼインの加水分解物から水溶性画分を得る工程、
を含んでなる、摂食障害治療剤を製造する方法。
(14)
カゼインをペプシンで加水分解して、ペプシンによるカゼインの加水分解物を得る工程が、
カゼイン1質量部に対して、ペプシン1/10000質量部〜1/1000質量部を添加して、カゼインをペプシンで加水分解して、ペプシンによるカゼインの加水分解物を得る工程、
である、(13)に記載の方法。
(15)
ペプシンによるカゼインの加水分解物から水溶性画分を得る工程が、
ペプシンによるカゼインの加水分解物を、デカンテーション又は遠心分離して分画した上清画分を、水溶性画分として得る工程、
である、(13)〜(14)の何れかに記載の方法。
(16)
ペプシンによるカゼインの加水分解物から水溶性画分を得る工程が、
ペプシンによるカゼインの加水分解物を、300G〜100000Gで遠心分離して分画した上清画分を、水溶性画分として得る工程、
である、(13)〜(15)の何れかに記載の方法。
(17)
摂食障害治療剤が、持続性摂食障害治療剤である、(13)〜(16)の何れかに記載の方法。
(18)
摂食障害が、過食症である、(13)〜(17)の何れかに記載の方法。
(19)
摂食障害治療剤が、過食症における一日の食事摂取量を、投与開始から5週間後に、投与開始時と比較して、10%以上低下させる摂食障害治療剤である、(13)〜(18)の何れかに記載の方法。
(20)
(13)〜(19)の何れかに記載の方法によって製造された、ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分を有効成分として含有してなる、摂食障害治療剤。
【0018】
さらに、本発明は次の(21)〜(38)にもある。
(21)
(1)〜(12)の何れかに記載された摂食障害治療剤を投与することにより、摂食障害を治療する方法。
(22)
(1)〜(12)の何れかに記載された摂食障害治療剤を投与することにより、ほ乳類の摂食障害を治療する方法。
(23)
摂食障害が過食症である、(21)〜(22)の何れかに記載の方法。
(24)
投与が経口投与である、(21)〜(23)の何れかに記載の方法。
(25)
過食症における一日の食事摂取量を、投与開始から5週間後に、投与開始時と比較して、10%以上低下させる、(21)〜(24)の何れかに記載の方法。
(26)
(1)〜(12)の何れかに記載された摂食障害治療剤を製造するための、ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分の使用。
(27)
摂食障害が過食症である、(26)に記載の使用。
(28)
摂食障害の治療に用いられる、ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分。
(29)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1KDa〜25KDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(28)に記載の水溶性画分。
(30)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1KDa〜20KDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(28)に記載の水溶性画分。
(31)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、分子量1KDa〜20KDaのペプチド断片を50%以上含むものである、(28)に記載の水溶性画分。
(32)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、αs2−カゼインの加水分解物である分子量1KDa〜25KDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(28)に記載の水溶性画分。
(33)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、αs2−カゼインの加水分解物である分子量1KDa〜20KDaのペプチド断片を有効成分として含んでなる画分である、(28)に記載の水溶性画分。
(34)
ペプシンによるカゼインの加水分解物が、カゼイン1質量部に対して、ペプシン1/10000質量部〜1/1000質量部を添加して加水分解された加水分解物である、(28)〜(34)の何れかに記載の水溶性画分。
(35)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、ペプシンによるカゼインの加水分解物を、デカンテーション又は遠心分離によって画分して得られた上清画分である、(28)〜(34)の何れかに記載の水溶性画分。
(36)
ペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分が、ペプシンによるカゼインの加水分解物を、300G〜100000Gで遠心分離して得られた上清画分である、(28)〜(34)の何れかに記載の水溶性画分。
(37)
摂食障害の治療が、持続性摂食障害の治療である、(28)〜(36)の何れかに記載のペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分。
(38)
摂食障害の治療が、過食症の治療である、(28)〜(36)の何れかに記載のペプシンによるカゼインの加水分解物の水溶性画分。
【0019】
本発明によれば、安全性が高く、優れた摂食障害治療効果を有する摂食障害治療剤が得られる。
本発明の摂食障害治療剤は、過食症治療剤として、特に有効である。
本発明によれば、過食症患者特有の過剰な食欲を自然に抑制する一方、正常な食欲(通常の食欲)を抑制することがないので、安全に過食症状の改善が図れる。
本発明の摂食障害治療剤は、ヒト及び動物に対する安全性が高く、安心して長期間継続して日常的に摂取することができる。従って、摂食障害から二次的に生じる種々の疾患に対する治療及び予防に有効である。
本発明の有効成分であるカゼイン加水分解物は、比較的安価な乳等の原料から安定して大量に製造することができるので、安価に提供することができる。さらに、本発明の摂食障害治療剤は、飲食品や飼料の形態として提供することもできる。
本発明の摂食障害治療剤は、満腹感によって食事摂取量を抑制するものではないため、摂取の時期が食事の前後に限定されず、自由である。また、一定期間、効果が持続するので、毎日摂取する必要もない。
本発明の摂食障害治療剤は、摂取するだけで自然に過剰な食欲が抑制するものであるため、一般的な食事療法で問題となる精神的なストレスがほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1はZDFラットの摂餌パターン変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。なお、本明細書において、百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0022】
本発明の過食症治療は、過食症患者の有する食欲のうち、過食症患者の過剰な食欲を抑制する一方、正常な(通常の)食欲はそのまま維持するものである。本発明の過食症抑制剤の作用により、食事摂取量が適正範囲に改善し、エネルギー摂取量も正常範囲となる。結果として、食事摂取量の過剰に伴って生じる様々な症状の改善、例えば、高血糖値の低減効果を得ることができる。従って、本発明の過食症治療剤は、過食症患者のための血糖値を低下させる薬剤(血糖値低下剤)として好適に用いられる。また、本発明の過食症治療剤を投与することにより、哺乳類の過食症を抑制する方法、過食症状を有する哺乳類の血糖値を低下する方法を提供する。
【0023】
本発明は、摂食障害を治療する方法、好ましくはほ乳類の摂食障害を治療する方法にもある。「ほ乳類」とは、ヒト及び家畜動物(例えば、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ヤギ等)を含む。
【0024】
また、後述の試験例にも示されるように、本発明の治療剤は、過食症に特有の過剰な食欲を抑制するものであるが、正常な食欲(通常の食欲)まで抑制するものではない。そのため、正常な食欲までもが抑制されてしまうことによる健康への懸念がない。そこで、過食症と拒食症の移行が懸念される場合であっても、安心して使用することができる。このため、本発明の治療剤は、過食症の治療剤として好適であり、さらに摂食障害の治療剤として好適である。
【0025】
本発明における「治療」とは、症状を緩和(改善)する効果と疾患を治療する効果を含む。本発明により得られる効果は、好ましくは、寛解に導入する効果とその状態を維持する効果である。本発明の治療剤を日常的に投与又は摂取することによって、副作用をほとんど生じずに摂食障害治療効果、特に過食症治療効果が発揮される。
【0026】
[カゼイン]
本発明のカゼイン加水分解物の出発物質は、乳蛋白質のカゼインである。カゼインは、ほ乳類(例えば、牛、羊、山羊)の乳由来のカゼインを主成分とするものであれば使用することができ、特に牛乳由来のカゼインを好適に使用することができ、加水分解によってαs2−カゼイン由来の加水分解物を生じるものであれば、如何なるカゼインも使用することができる。具体的には、市販の各種カゼインやカゼイネート、例えば、乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、塩酸カゼイン、ナトリウムカゼイネート、カリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート又はこれらの任意の混合物等が好ましい。また、牛乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳から常法により精製して得られるカゼインを原料として使用することができる。好ましい実施の一態様において、カゼインの加水分解では、カゼインを溶解してカゼイン溶液にしたものに酵素等を添加して行われる。したがって、好ましい実施の一態様において、本発明のカゼインはカゼイン水溶液であることが好ましい。
【0027】
[カゼイン加水分解物]
本発明のカゼイン加水分解物は、以下のように製造することができる。
カゼイン加水分解物の製造方法においては、まず、カゼインを水に分散し、溶解してカゼイン溶液とする。カゼイン溶液のカゼイン濃度は特に制限されないが、通常、蛋白質換算で5〜15質量%の濃度範囲が効率及び操作性の点から望ましい。
【0028】
カゼイン溶液のpHは、後工程で使用する蛋白質分解酵素の至適pH付近に調整することが好ましい。本発明では酵素としてペプシンを用いることから、原料溶解液のpHはペプシンによる分解が可能な範囲のpHとすることが好ましく、pH2〜4の範囲のpHに調整することが特に好ましい。カゼイン溶液のpH調製は、通常の手段を使用して行うことができ、例えば酸性溶液を添加して行うことができる。pH調整に用いる酸性溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸やこれらの濃縮物等を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0029】
好適な実施の一態様において、カゼイン溶液を加熱保持殺菌することが好ましく、pH調整後に加熱殺菌することが好ましい。殺菌条件は、例えば80〜120℃、好ましくは85〜100℃の範囲の温度で、例えば20分〜1秒、好ましくは10分〜10秒の範囲時間で実施することができる。殺菌後、原料溶解液は、42℃以下に冷却することが好ましい。
【0030】
続いて、カゼイン溶液に蛋白質分解酵素を添加して、カゼインを酵素反応させて加水分解し、カゼインの加水分解物の溶液を得る。ここで、本発明の加水分解物を得るためには、蛋白質分解酵素としてペプシンを用いることが最も好ましい。本発明のペプシンとしては、例えば市販品を使用でき、SIGMA社製やBIOPHEDEX社製のペプシン等を例示することができる。酵素は、水に溶解して添加することが望ましい。
【0031】
本発明のペプシンの添加量は、カゼインの加水分解度を決定する上で重要である。本発明のペプシンは、カゼイン1質量部に対してペプシンを1/50,000〜1/1,000質量部の割合で添加することが必要であり、好ましくはカゼイン1質量部に対してペプシンを1/10,000〜1/2,000質量部の割合で添加し、さらに好ましくはカゼイン1質量部に対してペプシンを1/10,000〜1/5,000質量部の割合で添加する。ペプシンの添加量が多すぎると、分解度が進行し過ぎて本発明の効果を有する加水分解物が得られず、ペプシンの添加量が少なすぎると、加水分解が進行しないためである。
【0032】
酵素反応時の温度は特に制限がなく、酵素作用が発現する最適温度範囲を含む範囲から選ばれる。酵素反応の温度は、通常30〜60℃の範囲が好ましい。加水分解の程度は、反応温度によって進行状態が異なるが、酵素反応の時間は、例えば40〜45℃であれば30分間〜16時間が好ましく、30分間〜4時間がより好ましく、2時間程度が最も好ましい。
【0033】
好ましい実施の一態様において、このようにして得られる本発明のカゼイン加水分解物の加水分解率は、好ましくは10〜50%であり、さらに好ましくは15〜30%である。
なお、加水分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
加水分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0034】
カゼインの加水分解処理後、酵素の失活処理を行うことが好ましい。ペプシンの失活処理として、ペプシンの加熱失活処理を行うことが好ましい。加熱失活処理の温度と時間は、ペプシンを十分に失活できる条件に設定する。例えば85〜120℃、好ましくは85〜100℃の温度範囲で、例えば20分〜10秒、好ましくは10分間〜10秒間の保持時間で行うことができる。
【0035】
このようにして得られたカゼインの加水分解処理液は、通常は沈殿を含む懸濁液となっており、水溶性画分(上清画分、可溶性画分)と不溶性画分(沈殿画分)が含まれている。続いて、このカゼインの加水分解処理液から、沈殿を除去する。沈殿を除去する方法としては種々の方法を使用することができ、好適な実施の態様において、例えば遠心分離法や精密濾過法(MF濾過法)、好ましくは遠心分離法を用いることができる。
【0036】
遠心分離法は、遠心分離機を用いて行う。遠心分離条件としては、一般に20,000〜1,500rpm、好ましくは20,000〜3,000rpm、さらに好ましくは10,000〜3,000rpmの回転速度、一般に5〜120分、好ましくは20〜90分、さらに好ましくは20〜60分の時間で行うことができ、例えば10,000〜3,000rpmの回転速度、20〜60分の時間で行うことができるが、これらに限られるものではない。また、一般に300〜100,000G、好ましくは2000〜100,000G、さらに好ましくは2000〜50,000Gで行うことができ、例えば2000〜50,000G、20〜60分の時間で行うことができるが、これらに限られるものではない。好ましい実施の態様において、一般に10,000〜30,000G、好ましくは15,000〜25,000G、さらに好ましくは18,000〜22,000G、さらに好ましくは19,000〜21,000Gで行うことができ、例えばこれらのGで20〜60分の時間で行うことができるが、これらに限られるものではない。遠心分離後、沈殿を除去し、遠心分離による上清画分(水溶性画分)として、本発明のカゼイン加水分解物(カゼインの加水分解物の水溶性画分)を得ることができる。なお、本発明のカゼイン加水分解物は乾燥して粉末にしてもよい。乾燥方法は、熱風乾燥又は凍結乾燥のいずれの方法を用いてもよい。
【0037】
こうして得られた本発明のカゼイン加水分解物は、後述するようにαs2−カゼイン由来の加水分解物を主成分とするものであった。本発明のカゼイン加水分解物の分子量は、37kDa以下の範囲であることが好ましく、1kDa〜37kDaの範囲であることがより好ましく、1kDa〜25kDaの範囲であることがさらに好ましく、1kDa〜20kDaであることがさらに好ましい。本発明のカゼイン加水分解物は、カゼイン溶液をペプシンで加水分解して得られる分子量1kDa〜25kDaの可溶性画分(水溶性画分)からなる組成物ということもでき、カゼイン溶液をペプシンで加水分解して得られる分子量1kDa〜20kDaの可溶性画分(水溶性画分)からなる組成物ということもできる。
【0038】
[摂食障害治療剤]
本発明の摂食障害治療剤は、過食症に対して特に有効であり、過食症治療剤として使用することができる。本発明の治療剤は、過食症患者の過剰な食欲を抑制することにより、食事摂取量を正常の範囲に戻して過食症を治療することができる。本発明の摂食障害治療剤の投与対象は、摂食障害患者であり、好ましくは過食症患者であり、さらに好ましくは拒食症への移行が懸念される過食症患者である。
【0039】
本発明の摂食障害治療剤は、一度摂取しただけでも効果が発揮されるが、摂取の時点から効果が発揮されるまでに、好ましくは1〜数日、さらに好ましくは1〜6日、さらに好ましくは1〜4日、さらに好ましくは1〜3日、さらに好ましくは1〜2日、好ましくは1日、好ましくは2〜3日、さらに好ましくは2日を要し、一方で発揮される効果は一週間程度、好ましくは6〜10日間、好ましくは7〜9日間継続するものとなっている。効果が摂取当日ではなく1〜数日後から発揮されて約一週間継続するという事実から、食事前又は食事中に摂取して、満腹感を早めたり、満腹感を生じさせたりすることで、食事の際の食欲を一時的に満足させて食事量を減少させるという、従来の飽満感を得られる低カロリー組成物とは、異なったメカニズムによって本発明の治療剤が作用していることが示されている。この点で、摂取によって満腹感を早めたり、満腹感を生じさせることで効果を発揮する従来の食欲抑制剤と異なる。
【0040】
本発明の治療剤の投与方法は、経口投与でもよく、経腸投与等の非経口投与でもよく、これらに限定されるものではない。好適な実施の一態様において、本発明の治療剤は、経口投与されることが好ましい。経口投与の場合、食前、食間、食後で摂取してもよく、食事とは別に摂取してもよい。
【0041】
本発明の治療剤の有効成分は、乳由来成分であるカゼインを出発物質としている。乳、例えば牛、羊、山羊などの乳は、歴史的な年月の間、ヒトの飲食に使用されているために、ヒトに対する安全性が極めて高い水準で担保されている。そのため、本発明の治療剤の有効成分は、安心して日常的に長期間継続して摂取することができるものである。つまり、現在有効とされている、摂食障害を治療するための従来の医薬(摂食障害治療剤)とは異なって、精神面での副作用は全くなく、そのために投与量、投与回数、投与期間などについても、厳格な制約はなく、取り扱いが容易であって、長期間継続して日常的に安心して使用できるものとなっている。
【0042】
本発明の治療剤は、本発明のカゼイン加水分解物のみからなる剤でもよく、本発明の加水分解物と他の成分とを含む組成物からなる剤でもよい。いずれの場合も、用途に応じた剤型に製剤化されたものが好ましい。
【0043】
本発明の治療剤の剤型は特に限定されない。例えば、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、乳剤、噴霧剤等、公知の経口投与剤型とすることができる。または、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等の非経口投与剤も可能である。
【0044】
有効成分である本発明のカゼイン加水分解物の投与量は、剤型、症状、年齢、体重等によって異なるが、過食抑制効果を効果的に発揮させるためには、好ましくは83mg/kg体重/日以上、さらに好ましくは100mg/kg体重/日以上、さらに好ましくは120mg/kg体重/日以上の投与量とすることが好ましい。なお、本発明のカゼイン加水分解物は安全性が高いために投与量の上限は制限されないが、特に240mg/kg体重/日程度の量を投与すれば、本発明による過食抑制効果が充分に享受される。また、それ以上の量を投与しても過食症治療効果にほとんど変化は現れないので、投与量の上限は320mg/kg体重/日以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の治療剤は、有効成分(本発明のカゼイン加水分解物)の1日の投与量が上記の範囲となるように製剤化されたものが好ましく、また、有効成分(本発明のカゼイン加水分解物)の1日の投与量が上記の範囲となるように投与されることが好ましい。
【0046】
製剤化は、例えば、有効成分(本発明のカゼイン加水分解物)を薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を適宜用いて、公知の方法により行うことができる。製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
【0047】
本発明の治療剤が、有効成分(本発明のカゼイン加水分解物)と、添加剤等の他の成分を含む組成物からなる場合、該組成物中における有効成分の含有量は、特に制限されないが、通常0.1〜90質量%、好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜20質量%である。
【0048】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マグロゴール等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
注射剤用溶剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリン等が挙げられる。
【0049】
本発明の治療剤は、前記医薬品としての用途以外に、これを飲食品や飼料等に配合して経口投与することもできる。本発明の治療剤を含有する飲食品は、本発明のカゼイン加水分解物を有効成分として含有し、摂食障害治療効果、特に過食症治療効果を有する飲食品である。好ましい実施の一態様において、該飲食品は、過食症治療の効果に伴う過食症患者の血糖値低減用途に好適に使用することができる。
【0050】
かかる飲食品は、例えば、カゼイン加水分解物に、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を適宜配合することにより製造できる。
【0051】
飲食品の形態は、日常的に摂取可能な形態が好ましい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、パン;経腸栄養食;機能性食品等が挙げられる。好ましい実施の一態様において、飲食品として、摂食障害患者に対する摂食障害治療用、過食症患者に対する過食症治療用、過食症患者に対する血糖値低減用、に用いられる機能性食品として好適に使用することができる。
【0052】
本発明の治療剤を含有する飼料は、カゼイン加水分解物を有効成分として含有する、本発明の治療効果を有する飼料である。
かかる飼料は、例えば、カゼイン加水分解物に、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエー、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を配合することにより製造できる。
飼料の形態は、日常的に給餌が可能な形態が好ましい。具体例としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0053】
本発明の摂食障害治療剤は単独で使用してもよいが、その他の摂食障害治療に効果を有する医薬組成物、飲食品、又は飼料と併用してもよい。これらと併用することによって、摂食障害治療効果をより高めることができる。併用する医薬組成物、飲食品、又は飼料は、本発明にかかる医薬組成物、飲食品、又は飼料中に有効成分として含有させてもよいし、本発明の医薬組成物、飲食品、又は飼料中には含有させずに別個の薬剤、飲食品等として組み合わせて商品化してもよい。
【0054】
[電気泳動]
実施例の電気泳動(二次元電気泳動)は以下のように行うことができる。
(1)1次元目
始めに、試料を5mg/mlとなるように膨潤用緩衝液(例えばインビトロジェン社製)に溶解し、市販の等電点電気泳動用ストリップゲル(例えばインビトロジェン社製)をこの溶液内で膨潤させて一晩静置した。一晩静置したゲルを175V、20分、175Vから2000Vまでの電圧勾配を45分、更に2000V、30分で泳動する。泳動の終了したストリップゲルは染色液に浸して染色する。
(2)2次元目
1次元目の泳動が終了したストリップゲルを2次元目用のゲル(インビトロジェン社製)にアプライし、200Vの定電圧で35分泳動する。泳動終了後、CBB染色液(インビトロジェン社製)を用いて染色する。
【0055】
[TOF/MS(飛行時間型質量分析装置)]
本明細書では、飛行時間型質量分析装置をTOF/MSと記載することがある。
実施例のTOF/MSは、例えば以下のように行うことができる。
上記の電気泳動法によって、2次元電気泳動をした後、各々スポットとして確認されるペプチドについてゲル内消化を行い、個々のペプチドをTOF/MS測定機(ブルカーダルトニクス社製)にて同定する。
【0056】
以下、具体的な例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
(本発明のカゼイン加水分解物の製造方法1)
1)カゼイン溶液を調製し、殺菌する工程
レンネットカゼイン(フォンテラ社製、蛋白質含量80%)123gを精製水2300gに加え、膨潤させた。これに濃塩酸(和光純薬社製、濃度36.5%)を加えてpHを2.8にした後、85℃、10分保持して殺菌した。
2)カゼイン溶液を消化する工程
殺菌したカゼイン溶液を42℃に冷却してからペプシン(SIGMA社製)20mgを加え、2時間消化した。
3)酵素を失活させる工程
消化後、再度、温度を85℃にして10分保持し、ペプシンを失活させた。
4)遠心分離工程
ペプシンを失活させた溶液を、遠心分離機(日立製作所社製)10,000rpm(20,000G)で20分遠心分離を行い、上清画分(可溶性画分)と沈殿画分(不溶性画分)に分離した。溶液の温度は10℃であった。
5)乾燥工程
遠心分離後の上清画分を凍結乾燥し、カゼイン加水分解物24gを得た。
一方、遠心分離後の沈殿画分を凍結乾燥し、沈殿画分乾燥粉末92gを得た。
【実施例2】
【0058】
(本発明のカゼイン加水分解物の製造方法2)
1)カゼイン溶液を調製し、殺菌する工程
レンネットカゼイン(フォンテラ社製、蛋白質含量80%)10gを精製水200gに加え、膨潤させた。これに濃塩酸(和光純薬社製、濃度36.5%)を加えてpHを2.8にした後、85℃、10分保持して殺菌した。
2)カゼイン溶液を消化する工程
殺菌したカゼイン溶液を42℃に冷却してから消化酵素としてペプシン(BIOPHEDEX社製)4.88mgを加え、2時間消化した。
3)酵素を失活させる工程
消化後、再度、温度を85℃にして10分保持し、ペプシンを失活させた。
4)分離工程
ペプシンを失活させた溶液を、MF膜(旭化成社製)に通液し、透過液(可溶性画分)と濃縮液(不溶性画分)に分離した。
5)乾燥工程
透過液を凍結乾燥し、カゼイン加水分解物2.2gを得た。
【実施例3】
【0059】
(タブレット状の過食症治療剤の製造)
実施例1の方法で得られたカゼイン加水分解物150gに、ラクチュロース粉末(森永乳業社製)100g、マルツデキストリン(松谷化学工業社製)635g、脱脂粉乳(森永乳業社製)85g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1g、ヨーグルトフレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、グリセリン脂肪酸エステル製剤(理研ビタミン社製)24gの各粉末を添加して均一に混合し、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、1錠当り0.5gとし、12錠/分打錠速度、9.8KPaの圧力で前記混合粉末を連続的に打錠し、カゼイン加水分解物を含有するタブレット(過食症治療剤)1800錠(約900g)を製造した。タブレット1錠当りのカゼイン加水分解物は約15質量%であった。
【実施例4】
【0060】
(過食症治療剤を含有する経腸栄養食粉末の製造)
ホエー蛋白加水分解物(森永乳業社製)10kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解して、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解して油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更に、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgにショ糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及び実施例1の方法で得られたカゼイン加水分解物1kgを添加し、均一に混合して、カゼイン加水分解物を含有する経腸栄養食粉末約56kgを製造した。
【0061】
[試験例1]
本試験は、本発明品である実施例1のカゼイン加水分解物を同定することを目的とした。
[試験方法]
(1)試料の調製
実施例1で遠心分離後の上清画分を凍結乾燥した本発明のカゼイン加水分解物(試料1、以下、本発明品ということがある)、実施例1で遠心分離後の沈殿画分の凍結乾燥したもの(試料2、以下、沈殿画分ということがある)及びコントロールとして、実施例1でカゼインとして使用したレンネットカゼイン(試料3、フォンテラ社製)を試料とした。
(2)電気泳動
(1次元目)
上記試料をそれぞれ5mg/mlとなるように膨潤用緩衝液(インビトロジェン社製)に溶解し、市販の等電点電気泳動用ストリップゲル(インビトロジェン社製)をこの溶液内で膨潤させて一晩静置した。一晩静置したゲルを175V、20分、175Vから2000Vまでの電圧勾配を45分、更に2000V、30分で泳動した。電気泳動の終了したストリップゲルは染色液に浸して染色した。
(2次元目)
上記(1)で実施した1次元目の電気泳動が終了したストリップゲルを2次元目用のゲル(インビトロジェン社製)にアプライし、200Vの定電圧で35分泳動した。電気泳動終了後、CBB染色液(インビトロジェン社製)を用いて染色した。
(3)上清画分についてのスポットの同定
2次元電気泳動後、各々スポットとして確認されるペプチドについてゲル内消化を行い、個々のペプチドをTOF/MS測定機(ブルカーダルトニクス社製)にて同定した。
【0062】
[結果]
試料1(本発明品)には分子量20kDaよりも大きい分子はほとんど消失していた。また、試料2(沈殿画分)では、試料3(レンネットカゼイン)で確認されるカゼインミセルや重合体に由来すると思われる高分子化合物はほぼ消失したが、分子量10〜30kDaで検出されるカゼイン画分が、蛋白質のまま残存していた。分子量分布の結果を表1に示す。表中に記載された数値は、それぞれの画分の全体に占める百分率を意味する。
【0063】
さらに、TOF/MSを用いた解析を市販のカゼイン画分標本と比較、検討した。すると、試料1のカゼイン加水分解物(本発明品)は約80%がαs2−カゼイン由来の加水分解物であり、一部αs1−カゼイン由来の加水分解物又は蛋白質等が含まれることが判明した。なお、αs2−カゼイン由来の加水分解物の割合はTOF/MS解析結果をスキャナで取り込み、エリア解析を用いた。
ここで、αs2−カゼインの分子量は、25kDaであることが知られている(山内邦男、他2名「牛乳成分の特性と健康」、株式会社光生館、1993年6月1日初版第1刷発行、p.8参照)。従って、本発明のカゼイン加水分解物の有効成分は、分子量が25kDa以下であることが明らかとなった。
また、本結果から本発明品の分子量分布は、50%以上の成分が1〜20kDaであることが明らかとなった。
一方、沈殿画分は、β−カゼインとαs1−カゼインを由来とするカゼイン加水分解物が大部分を占めることが明らかとなった。
なお、20,000Gで20分の条件で遠心分離して得られた画分(試料1)の他に、15,000Gで60分の条件で遠心分離して得られた画分を同様に分析したところ、上記試料1と同様の分子量の分子を含むものとなっていた。
【0064】
【表1】
【0065】
[試験例2]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物のアミノ酸分析を行うことを目的とした。
[試験方法]
試験例1で得られた本発明のカゼイン加水分解物(試料1)及び沈殿画分(試料2)を用いた。各試料を塩酸で加水分解した後、ダンシルクロライド(シグマ社製)で標識した。この標品を、C18カラム(Waters社製)で分離し、得られたピークを蛍光検出器(日立製作所社製)にて検出して、解析した。
【0066】
[結果]
実施例1のカゼイン加水分解物(試料1)及び沈殿画分(試料2)は、いずれも原料のレンネットカゼインと同じアミノ酸組成を有していた。
【0067】
[試験例3]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物の過食症治療効果を確認することを目的とした。
(1)試料の調製
コントロール:注射用蒸留水をそのまま使用した。
本発明品:実施例1の方法により作製した、本発明品であるカゼイン加水分解物を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
沈殿画分:試験例1の試料2を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
全カゼイン加水分解物:実施例1で用いたレンネットカゼイン(フォンテラ社製、蛋白質含量80%)を実施例1と同様の方法により、ペプシンで消化後、遠心分離をせずにそのまま取り出して、注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
GMP(グリコマクロペプチド):市販のGMP(MGニュートリショナルズ社製)を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
αs−カゼイン:市販のαs−カゼイン(SIGMA社製)を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
κ−カゼイン:市販のκ−カゼイン(SIGMA社製)を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
全カゼイン:市販の乳酸カゼイン(フォンテラ社製)を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
(2)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない飼料(日本農産社製、商品名:MRストック)を使用した。また、飲料水は水道水とした。
(3)試験動物
過食症のモデル動物としてKK−Ayマウス(オス、5週齢、日本クレア社から購入)を使用した。
【0068】
(4)試験方法
上記の飼料による10日間の予備飼育の後、体重と摂餌量がほぼ同等となるように一群を8匹とする8群に分けた。各群には、飼料と水を自由摂取させた。また、一週間のうち5日間を、1日1回のペースでゾンデを用いて試料を0.5ml/匹ずつ投与した。試験期間は5週間とし、週1回の割合で摂餌量を測定した。
各群については、以下の通りである。
1群(コントロール)
2群(本発明品)
3群(沈殿画分)
4群(全カゼイン加水分解物)
5群(GMP)
6群(αs−カゼイン)
7群(κ−カゼイン)
8群(全カゼイン)
【0069】
(5)試験結果
表2に投与開始から5週間後の各群の相対摂餌量を示す。
相対摂餌量とは、コントロールの平均摂餌量を1としたときの各群の平均摂餌量である。本発明品では、コントロールに比べ、有意に摂餌量が減少した。一方、沈殿画分では、摂餌量の増加傾向が見られたが、有意な差ではなかった。また、κ−カゼイン由来のGMPでは、摂餌量の減少傾向が見られたが、コントロールと比較して有意な効果ではなかった。また、κ−カゼインでは、摂餌量の減少傾向が見られたが、有意な効果ではなかった。αs−カゼインでは、摂餌量の増加傾向が見られたが、有意な効果ではなかった。全カゼインでは、摂餌量の増加傾向が見られたが、有意な効果ではなかった。全カゼイン加水分解物では、摂餌量の減少傾向が見られたが、有意な効果ではなかった。このことから、全カゼインを加水分解物し、さらに沈殿画分を除去して、上清画分(水溶性画分)を分離すると、分離前には認められなかった有意な過食症治療効果が出現することが明らかとなった。
これらの結果から、本発明品(2群)が過食症治療効果を有していることが明らかとなった。また、本発明のカゼイン加水分解物が、他のカゼイン画分や、全カゼイン加水分解物と対比して、顕著な過食抑制効果を有することが明らかとなった。
【0070】
【表2】
【0071】
[試験例4]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物が過食症における血糖値低減効果を有することを確認することを目的とした。
(1)試料の調製
試験例3の試料と同じものを使用した。
(2)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない飼料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は水道水とした。
(3)試験動物
過食症のモデル動物としてKK−Ayマウス(オス、5週齢、日本クレア社から購入)を使用した。
【0072】
(4)試験方法
上記の飼料による10日間の予備飼育の後、体重と摂餌量がほぼ同じになるように一群を8匹とする8群に分けた。各群に飼料と水を自由摂取させた。また、一週間のうち5日間を、1日1回、ゾンデを用いて試料を0.5ml/匹ずつ投与した。試験期間は5週間とし、週1回の割合で自己検査用グルコースキット(Johnson & Johnson社製)を用いて血糖値を測定した。
各群の試料については、以下の通りである。
1群(コントロール)
2群(本発明品)
3群(沈殿画分)
4群(全カゼイン加水分解物)
5群(GMP)
6群(αs−カゼイン)
7群(κ−カゼイン)
8群(全カゼイン)
【0073】
(5)試験結果
表3に投与開始から5週間後の相対血糖値を示す。相対血糖値とは、コントロールの平均血糖値を1としたときの各群の平均血糖値である。本発明品は、コントロールと比較して有意に血糖値が低減した。全カゼイン加水分解物、全カゼイン及びκ−カゼインでは血糖値の低減傾向が見られたが、有意な効果は認められなかった。また、沈殿画分、GMP、αs−カゼインでは血糖値の増加傾向が見られたが、有意な効果は認められなかった。
【0074】
(6)過食症治療効果との関連性
更に、この血糖値の低減効果と過食症治療効果との相関性について検定した。Pearsonの相関係数は0.593で、この相関係数はp<0.01で有意であった。
【0075】
【表3】
【0076】
[試験例5]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物を、過食症状のない正常動物に投与したときの食欲及び血糖値に与える影響を確認することを目的とした。
(1)試料の調製
コントロール:注射用蒸留水をそのまま使用した。
本発明品:実施例1の方法で製造したカゼイン加水分解物を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
(2)試料
市販の乳由来蛋白質を含まない飼料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は水道水とした。
(3)試験動物
KK−AyマウスのコントロールであるKKマウス(オス、5週齢、日本クレア社より購入)を過食症状のないモデル動物として用いた。
【0077】
(4)試験方法
上記の飼料による10日間の予備飼育の後、体重と摂餌量が同じになるように一群8匹とする二群に分けた。そして、一週間のうち5日間を1日1回、ゾンデを用いて試料を0.5ml/匹ずつ投与した。試験期間は5週間とした。試験期間中、週1回の割合で摂餌量及び血糖値を測定した。血糖値の測定は、自己検査用グルコースキット(Johnson & Johnson社製)を用いた。
【0078】
(5)試験結果
表4に投与開始から5週間後の相対摂餌量及び相対血糖値の結果を示す。Studentのt検定を行ったが、本発明品にはKKマウスに対する摂餌量抑制及び血糖値の上昇抑制効果を認めなかった。即ち、本願発明品は、過食症状のない正常動物に対しては影響のないことが明らかとなった。このことから、本発明品が、適切に発揮されている通常の食欲(正常な食欲)を抑制することがなく、安全に摂取できることを示すものである。
【0079】
【表4】
【0080】
[試験例6]
本試験は、過食症状を有する動物(過食動物)の摂餌量のうち、正常な食欲に起因する摂餌量と過剰な食欲に起因する摂餌量とを特定することを目的とした。
(1)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない飼料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は水道水とした。
(2)試験動物
過食症のモデル動物としてKK−Ayマウス(オス、5週齢、日本クレア社から購入)、過食症状のないモデル動物としてKK−AyマウスのコントロールであるKKマウス(オス、5週齢、日本クレア社から購入)、過食症のモデル動物としてZDFラット(オス、ホモ、5週齢、日本チャールズリバー社から購入)、及び過食症状のないモデル動物としてZDFラットのコントロールであるZucker leanラット(オス、5週齢、日本チャールズリバー社から購入)を使用した。
(試験動物)
マウス:
(i) KK−AyマウスのコントロールであるKKマウス(以下、コントロール1と記載することがある)
(ii) KK−Ayマウス
ラット:
(iii) ZDFラットのコントロールであるZucker lean ラット(以下、コントロール2と記載することがある)
(iv) ZDFラット
【0081】
(3)試験方法
上記のマウス及びラットについて飼料及び飲料水を自由摂取させた。
マウスについては、入荷後10日間の馴化期間後の摂餌量を比較した。また、ラットについては、入荷後、13週間飼育後の摂餌量を比較した。ラットは13週間飼育後としたが、これはZDFラットが過食症状を示すまでに相当期間を必要とするためである。
【0082】
(4)結果
表5に5週間後の平均摂餌量の結果を示す。コントロール1はKKマウス、コントロール2はZucker leanラットを意味する。KK−Ayマウスはコントロールの1.22倍の飼料を摂取し、ZDFラットはコントロールの1.23倍の飼料を摂取した。すなわち、過食マウス及び過食ラットのいずれにおいても、過食動物の摂餌量が対照の正常動物の摂餌量と比較して2割程度増加していることが判明した。このことから、過食症における過剰な食欲は、通常の食欲による摂餌量に対して2割程度と見ることができる。
【0083】
【表5】
【0084】
[試験例7]
本試験は、本発明の治療剤の用量依存性を確認することを目的とした。
(1)試料の調製
コントロール:注射用蒸留水を使用した。
高用量試料:実施例1のカゼイン加水分解物を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
低用量試料:実施例1より作製したカゼイン加水分解物を注射用蒸留水で0.5mg/mlとなるように希釈した。
(2)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない試料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は、水道水とした。
(3)試験動物
過食症のモデル動物としてKK−Ayマウス(オス、5週齢日本クレア社から購入)を使用した。
【0085】
(4)試験方法
一日1回ずつ週5日、上記試料を0.5ml/匹で投与した。投与期間は5週間とし、飼料及び飲料水は自由摂取とした。
(5)評価方法
KK−Ayマウスの摂餌量と血糖値の測定を毎週1回行った。
血糖値測定は、毎週1回、自己検査用グルコースキット(Johnson & Johnson社製)を用いて測定した。
【0086】
(6)結果
表6に、投与開始から5週間後の各群の相対摂餌量及び相対血糖値を示す。高用量試料で有意な摂餌量抑制及び血糖値の上昇抑制が認められた。一方、低用量試料では有意な効果が認められなかった。
従って、本発明の過食症治療剤は用量依存性を有することが明らかとなった。
なお、高用量試料群での投与量は、1日当り2.5mg(5mg/ml×0.5ml)であり、投与対象であるKK−Ayマウスの平均体重は43g程度であった。
従って、本発明のカゼイン加水分解物は、毎週、体重当り290mg/kg以上の摂取をすれば、上記効果が得られることが明らかになった。
【0087】
【表6】
【0088】
[試験例8]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物を摂取してから効果が発現するまでの期間、及び効果の持続期間を検討することを目的とした。
(1)試料の調製
コントロール:注射用蒸留水を使用した。
本発明品:実施例1で調製した本発明のカゼイン加水分解物を注射用蒸留水で5mg/mlとなるように希釈した。
(2)試験動物
過食症のモデル動物としてZDFラット(オス、5週齢、日本チャールズリバー社から購入)を使用した。ZDFラットは過食症状を発症させるため、12週間予備飼育を行った。
(3)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない飼料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は水道水とした。
【0089】
(4)試験方法
以下の観察期間の経過後、飼料を投与した。
[観察期間1]
特に何もせず、1週間摂餌量を観察した。
[観察期間2]
開始時に摂餌量を計量後、注射用蒸留水を投与し、1週間摂餌量を観察した。そして、観察期間1の摂餌リズムと比較して、注射用蒸留水の経口ゾンデ投与によっては、摂餌量パターンに変化が見られないことを確認した。観察期間2の経過後、ZDFラットの体重及び血糖値を測定し、摂餌量と併せて均等となるように、コントロール群と本発明品群の2群に分けた。1群当りのZDFラットは8匹とした。
[投与]
観察期間2の後、本発明品群には本発明品を調製した試料を、対照試料群には注射用蒸留水を、1日1回ずつ週5日、毎回2ml投与して、2週間摂餌量を観察した。
試験期間中、週5回摂餌量を測定した。
【0090】
(5)結果
図1に、観察期間中の摂餌量の測定値を示す。図中、試料の投与及び摂餌量を測定しなかった土曜日、日曜日は省略して記載した。また、注射用水は注射用蒸留水を示す。
観察期間2と観察期間3との間の「sample」は各群に本発明品または注射用蒸留水を投与したことを示す。
観察期間1において、ZDFラットの毎日の摂餌量の変化は±2g程度であることを確認した。観察期間2では注射用蒸留水の投与以降も摂餌パターンに影響はなく、経口ゾンデ投与によるストレスが影響しないことを確認した。
本発明のカゼイン加水分解物の投与後4日目から、本発明品群ではコントロール群と比較して明らかな摂餌量の低下を認めた。そして、驚くべきことに、この効果は投与後9日目まで継続した。
この結果から、本発明のカゼイン加水分解物の摂餌量抑制効果は即時的なものではなく、4日程度経過してから効果を発揮し、その効果は6日間程度持続することが明らかとなった。
この結果は、本発明品は、即時的に膨満感を誘導するものではないことを示す。そのため、本発明品の摂取のタイミングは食事の前後や食間に限定されることがない。さらには、一定期間過食抑制効果が発揮されるので、毎日摂取する必要もない。
【0091】
[試験例9]
本試験は、本発明のカゼイン加水分解物の有効成分の分子量の特定を目的とした。
(1) 試料の調製
下記の試料を調製した。
コントロール:注射用蒸留水を使用した。(コントロール)
本発明品:実施例1で調製したカゼイン加水分解物(本発明品)を注射用蒸留水で5mg/mlの濃度に調製した。
再消化試料:実施例1で調製したカゼイン加水分解物(本発明品)33gにペプシンを66mg加え、pH2.8及び42℃で2時間消化した後、凍結乾燥した。この凍結乾燥標品を注射用蒸留水で5mg/mlの濃度に調製した。
なお、再消化試料は、電気泳動により分子量が1KDa未満であることを確認した。
(2)試験動物
過食症のモデル動物としてKK−Ayマウス(オス、5週齢、日本クレア社から購入)を使用した。
(3)飼料
市販の乳由来蛋白質を含まない試料(日本農産社製、MRストック)を使用した。また、飲料水は、水道水とした。
【0092】
(4)試験方法
体重と摂餌量がほぼ同等となるように一群8匹とする3群に分け、一週間のうち5日間を、1日1回、ゾンデを用いて各試料を0.5ml/匹ずつ投与した。
投与期間は5週間とし、飼料及び飲料水は自由摂取とした。
【0093】
(5)結果
投与開始から5週間後の各群の相対摂餌量を比較した。本発明品では、コントロールと比較して有意に摂餌量が減少した。
一方、再消化試料はコントロールと差異が見られず、有意な効果が認められなかった。再消化試料が分子量1kDa以下の成分であることから、本発明の過食症治療剤の有効成分は分子量が1kDa以上の成分であることが明らかとなった。
以上の結果から、本発明の過食抑制効果を有する成分は、分子量1kDa〜37kDaの範囲に存在することが明らかとなった。本結果と、試験例1の結果とを合わせると、本発明の過食抑制効果を有する成分は、分子量1kDa〜25kDaの範囲に存在することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、ヒトや動物に対する安全性が高く、日常的に投与又は摂取することができる、摂食障害治療剤、特に過食症治療剤を得ることができる。本発明の治療剤は、過食症患者の血糖値低減剤としても使用することができる。
また、本発明の治療剤の有効成分である本発明のカゼイン加水分解物は、乳等の原料から大量に製造することができるので、安価に提供することができる。
図1