(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の電極の電位を基準として前記第1のゲート電極に正の電圧を印加することにより、前記チャネル領域に正孔が注入される動作モードを有している請求項1に記載の半導体装置。
前記第1のコントロール層と前記半導体層積層体とにより形成されるpn接合のビルトインポテンシャル以上の電圧が、前記第1のゲート電極と前記第1の電極との間に印加される動作モードを有している請求項1又は2に記載の半導体装置。
前記第2のコントロール層と前記半導体層積層体とにより形成されるpn接合のビルトインポテンシャル以上の電圧が、前記第2のゲート電極と前記第2の電極との間に印加される動作モードを有している請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の窒化物半導体を用いたノーマリオフ型のFETを用いて、電力制御等に必要な双方向スイッチ動作を実現しようとすると、以下のような問題がある。ここでいう、双方向スイッチ動作とは、少なくとも1方向に電流を流すことができ且つ双方向の電流を遮断できるスイッチ動作である。
【0009】
まず、従来のFETは負バイアスに対する耐圧(逆耐圧)が小さいため、複数の素子を組み合わせなければ電流の導通及び遮断を行う双方向スイッチ本体を実現することができないという問題がある。さらに、双方向スイッチとして動作させる場合、外部機器からの制御が複雑となる。また、4象限において制御すること及びダイオードつまり逆阻止スイッチとして動作させることも困難である。
【0010】
また、従来のノーマリオフ型のFETは、ゲート電極に印加できる電圧の許容範囲が狭い。このため、1V程度よりも高いゲート電圧を印加することができず、ノイズによる誤動作が生じるおそれがある。
【0011】
本発明は、前記従来の問題を解決し、優れた逆耐圧特性を有し、一素子だけで双方向スイッチ本体となり且つ高いゲート電圧が印加可能な半導体装置を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
具体的に本発明に係る半導体装置は、基板の上に形成され、チャネル領域を有する半導体層積層体と、前記半導体層積層体の上に互いに間隔をおいて形成された第1の電極及び第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に間隔をおいて形成された第1のゲート電極及び第1のゲート電極と第2の電極との間に形成された第2のゲート電極と、半導体層積層体と第1のゲート電極との間に形成され、p型の導電性を有する第1のコントロール層とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の半導体装置は、p型の導電性を有する第1のコントロール層を備えている。このため、チャネル領域に対して、第1のゲート電極から順方向のバイアスを印加することにより、チャネル領域内に正孔を注入することができる。チャネル領域内に注入された正孔はドナーイオンのような機能を発揮するので、チャネル領域内においてキャリア濃度の変調を行うことが可能となる。その結果、動作電流が大きいノーマリオフ型の窒化物半導体トランジスタを実現することが可能となる。
【0014】
本発明の半導体装置において、第1の電極の電位を基準として、第1のゲート電極に正の電圧を印加することにより、チャネル領域に正孔が注入される動作モードを有していてもよい。
【0015】
本発明の半導体装置において、第1のゲート電極の閾値電圧と、第2のゲート電極の閾値電圧とは互いに異なっていてもよい。
【0016】
本発明の半導体装置において、第2のゲート電極は、半導体層積層体とショットキー接合していてもよい。
【0017】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体は凹部を有し、第2のゲート電極は、凹部の底面と接していてもよい。
【0018】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体と第2のゲート電極との間に形成され、p型の導電性を有する第2のコントロール層をさらに備えていてもよい。
【0019】
この場合において、半導体層積層体の最上層は、第1の部分と、該第1の部分よりも膜厚が薄い第2の部分とを有し、第1のコントロール層及び第2のコントロール層は、第1の部分の上に形成されていてもよい。
【0020】
この場合において、第1の部分は、膜厚が第2の部分以下である第3の部分を囲み、第1のコントロール層及び第2のコントロール層は、第1の部分及び第3の部分の上に形成されていてもよい。
【0021】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体は、下側から順次形成された第1の半導体層と、該第1の半導体層と比べてバンドギャップが大きい第2の半導体層と、該第2の半導体層と比べてバンドギャップが小さいエッチング吸収層とを含み、エッチング吸収層は、半導体層積層体の最上層であってもよい。
【0022】
本発明の半導体装置において、第1のコントロール層及び第2のコントロール層は、凸部を有していてもよい。
【0023】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体の上における、第1のコントロール層と第2のコントロール層との間の領域に形成され、第1のコントロール層及び第2のコントロール層よりも高抵抗である高抵抗層をさらに備えていてもよい。
【0024】
この場合において、高抵抗層は、酸化ガリウムであっても、ホウ素イオンを含む層であってもよい。
【0025】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体の上に形成されたアンドープの半導体層をさらに備え、第1のコントロール層及び第2のコントロール層は、アンドープの半導体層に選択的に形成されたp型不純物の拡散領域であってもよい。
【0026】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体の上に形成された開口部を有する酸化膜層をさらに備え、第1のコントロール層及び第2のコントロール層は、開口部から露出した半導体層積層体と接するように形成されていてもよい。
【0027】
本発明の半導体装置において、第1のゲート電極と第2のゲート電極との間隔は、第1の電極と第1のゲート電極との間隔よりも大きく且つ第2の電極と第2のゲート電極との間隔よりも大きくてもよい。
【0028】
本発明の半導体装置において、第1のコントロール層と半導体層積層体とにより形成されるpn接合のビルトインポテンシャル以上の電圧が、第1のゲート電極と第1の電極との間に印加される動作モードを有していてもよい。
【0029】
本発明の半導体装置において、第1のゲート電極の閾値電圧以上の電位を第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極に印加し、第2のゲート電極の閾値電圧以下の電位を第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極に印加することにより、第2の電極から第1の電極へは電流が流れ、第1の電極から第2の電極へは電流が流れない逆阻止状態となり、第1のゲート電極の閾値電圧以下の電位を第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極に印加し、第2のゲート電極の閾値電圧以下の電位を第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極に印加することにより、第1の電極と第2の電極との間にどちらの方向にも電流が流れない遮断状態となってもよい。
【0030】
この場あいにおいて、第2の電極と第2のゲート電極とは電気的に短絡されていてもよい。
【0031】
本発明の半導体装置において、第1のゲート電極の閾値電圧以上の電位を第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極に印加し、第2のゲート電極の閾値電圧以上の電位を第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極に印加することにより、第1の電極と第2の電極との間に双方向に電流が流れる導電状態となり、第1のゲート電極の閾値電圧以下の電位を第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極に印加し、第2のゲート電極の閾値電圧以下の電位を第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極に印加することにより、第1の電極と第2の電極との間にどちらの方向にも電流が流れない遮断状態となってもよい。
【0032】
本発明の半導体装置は、半導体層積層体の上に、第1のコントロール層と間隔をおいて形成され、p型の導電性を有する第3のコントロール層をさらに備え、第2のゲート電極及び第2の電極は、第3のコントロール層の上に一体に形成されていてもよい。
【0033】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体は、基板側から順次積層された第1の半導体層及び第2の半導体層を有し、第2の半導体層は、第1の半導体層と比べてバンドギャップが大きく、チャネル領域は、第1の半導体層と第2の半導体層との界面領域である構成としてもよい。
【0034】
本発明の半導体装置において、半導体層積層体は、窒化物半導体又は炭化珪素からなる半導体により構成されていてもよい。
【0035】
本発明の半導体装置において、窒化物半導体は、窒化ガリウム及び窒化アルミニウムガリウムの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の半導体装置において、第1のゲート電極及び第2のゲート電極に印加する電圧を制御する制御部をさらに備え、制御部は、第1の電極と第2の電極との間に双方向に電流が流れる導通状態においては、第1のゲート電極に第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加し、第2のゲート電極に第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加し、第1の電極と第2の電極との間にどちらの向にも電流が流れない遮断状態においては、第1のゲート電極に第1の電極の電位を基準として第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加し、第2のゲート電極に第2の電極の電位を基準として第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加してもよい。
制御部は、第1の電極と第1のゲート電極との間に電圧を印加する第1の電源と、第2の電極と第2のゲート電極との間に電圧を印加する第2の電源とを有していてもよい。
【0037】
本発明の半導体装置において、第1の電源の出力電圧と、第2の電源の出力電圧とは互いに等しくてもよい。
【0038】
本発明の半導体装置において、第1の電源及び第2の電源は、出力電圧を変化させることができる可変電源であってもよい。
【0039】
本発明の半導体装置において、制御部は、第1のゲート電極に印加する電圧を制御する第1の制御信号が入力される第1の制御端子と、第2のゲート電極に印加する電圧を制御する第2の制御信号が入力される第2の制御端子と、第1の制御信号により駆動され、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧が印加された第1の状態と、第1の電極とゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧が印加された第2の状態とを切り換える第1のゲート駆動回路と、第2の制御信号により駆動され、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧が印加された第3の状態と、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧が印加された第4の状態とを切り換える第2のゲート駆動回路とを有し、導通状態においては、第1のゲート駆動回路を第1の状態とすると共に、第2のゲート駆動回路を第3の状態とし、遮断状態においては、第1のゲート駆動回路を第2の状態とすると共に、第2のゲート駆動回路を第4の状態としてもよい。
【0040】
本発明の半導体装置において、第1のゲート駆動回路と第2のゲート駆動回路とは、基準電位が互いに異なる制御信号により制御される構成であってもよい。
【0041】
本発明の半導体装置において、半導体素子はノーマリオフ型であり、制御部は、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加する第1の電源と、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加する第2の電源とを有し、第1のゲート駆動回路は、第1の状態において、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1の電源を接続し、第2の状態において、第1の電極と第1のゲート電極とを短絡し、第2のゲート駆動回路は、第3の状態において、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2の電源を接続し、第4の状態において、第2の電極と第2のゲート電極とを短絡する構成であってもよい。
【0042】
本発明の半導体装置において、半導体素子はノーマリオン型であり、制御部は、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加する第3の電源と、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加する第4の電源とを有し、第1のゲート駆動回路は、第1の状態において、第1の電極と第1のゲート電極とを短絡し、第2の状態において、第1の電極と第1のゲート電極との間に第3の電源を接続し、第2のゲート駆動回路は、第3の状態において、第2の電極と第2のゲート電極とを短絡し、第4の状態において、第2の電極と第2のゲート電極との間に第4の電源を接続する構成であってもよい。
【0043】
本発明の半導体装置において、制御部は、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加する第1の電源と、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加する第2の電源と、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加する第3の電源と、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加する第4の電源とを有し、第1のゲート駆動回路は、第1の状態において、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1の電源を接続し、第2の状態において、第1の電極と第1のゲート電極との間に第3の電源を接続し、第2のゲート駆動回路は、第3の状態において、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2の電源を接続し、第4の状態において、第2の電極と第2のゲート電極との間に第4の電源を接続する構成であってもよい。
【0044】
本発明の半導体装置において、制御部は、第1のゲート駆動回路に電力を供給する駆動電源と、第2のゲート駆動回路に電力を供給するコンデンサと、コンデンサを充電する充電回路とを有し、充電回路は、駆動電源とコンデンサとの間に接続され、駆動電源によりコンデンサを充電する充電スイッチ回路を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の半導体装置において、充電スイッチ回路は、半導体スイッチと該半導体スイッチと直列に接続されたダイオードとを含んでいてもよい。
【0046】
本発明の半導体装置において、半導体スイッチはpチャネルMOSFET、pチャネルIGBT又はPNPトランジスタであってもよい。
【0047】
本発明の半導体装置において、充電回路は、第2の電極と第1の電極との間に電流が流れる際に、コンデンサを充電する構成であってもよい。
【0048】
本発明の半導体装置において、制御部は、第1のゲート駆動回路と第1のゲート電極との間に接続された第1の降圧回路と、第2のゲート駆動回路と第2のゲート電極との間に接続された第2の降圧回路とを有していてもよい。
【0049】
本発明の半導体装置において、第1の降圧回路及び第2の降圧回路は、抵抗素子とツェナーダイオードとを含む構成であってもよい。
【0050】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、第2の制御信号を第2の電極の電位から電気的に絶縁するフォトカップラを有していてもよい。
【0051】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、第2の制御信号の信号レベルを変換するレベルシフト回路を有していてもよい。
【0052】
本発明の半導体装置において、制御部は、第1の制御信号を遅延させて第1の制御端子に入力する遅延回路を有し、遅延回路の遅延時間は、レベルシフト回路の遅延時間と等しくてもよい。
【0053】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、一次側が第1の電極と第2の電極との間に接続され、二次側が第2のゲート電極と第2の制御端子との間に接続され、二次側からの出力の電圧及び位相が一次側への入力の電圧及び位相と等しいトランスを有していてもよい。
【0054】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、一次側が第1の電極と第2の電極との間に接続され、二次側が第2のゲート電極と第2の制御端子との間に接続され、二次側からの出力の電圧が一次側への入力の電圧と等しく且つ二次側からの出力の位相が一次側への入力の位相とずれたトランスと、一次側と二次側との位相のずれを補償する位相補償回路とを有していてもよい。
【0055】
本発明の半導体装置において、位相補償回路は、コンデンサからなることが好ましい。
【0056】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、一次側に第2の制御信号が入力され、二次側が第2の電極と第2のゲート電極とに接続されたトランスを有していてもよい。
【0057】
本発明の半導体装置において、第2のゲート駆動回路は、トランスの一次側に接続され、パルス状の電流を発生するパルス電流発生部を有し、第2の制御信号は、パルス電流発生部を介してトランスに入力される構成であってもよい。
【0058】
本発明の半導体装置において、第1のゲート駆動回路は、第1の電極と第1のゲート電極との間に、第1の制御信号を直接印加する構成であってもよい。
【0059】
本発明の半導体装置において、第1の制御信号と第2の制御信号とは同一の信号であってもよい。
【0060】
本発明に係る半導体装置の駆動方法は、基板の上に形成された半導体層積層体の上に、互いに間隔をおいて順に形成された第1の電極、第1のゲート電極、第2のゲート電極及び第2の電極を有する半導体素子を備えた半導体装置の駆動方法を対象とし、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加すると共に、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧よりも高い電圧を印加することにより、第1の電極と第2の電極との間に双方向に電流が流れる導通状態とするステップと、第1の電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加し、第2の電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加することにより第1の電極と第2の電極との間が遮断された遮断状態とするステップとを備えていることを特徴とする。
【0061】
本発明に係る半導体装置の駆動方法は、第1のオーミック電極と第1のゲート電極との間に第1のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加し、第2のオーミック電極と第2のゲート電極との間に第2のゲート電極の閾値電圧以下の電圧を印加することにより第1のオーミック電極と第2のオーミック電極との間が遮断された遮断状態とするステップを備えている。このため、第2のオーミック電極の電位が第1のオーミック電極の電位よりも低い場合においても、第2のゲート電極の下側においてチャネル領域がピンチオフされる。従って、第1のオーミック電極と第2のオーミック電極との間をどちらの方向にも電流が流れないように遮断することができるので、双方向スイッチを実現できる。
【発明の効果】
【0062】
本発明に係る半導体装置及びその駆動方法によれば、優れた逆耐圧特性を有し、一素子だけで双方向スイッチ本体となり且つ高いゲート電圧が印加可能な半導体装置及びその駆動方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体装置の断面構成を示している。
図1に示すように本実施形態の半導体装置は、デュアルゲートの半導体素子である。具体的には、主面の面方位が(0001)面であるサファイアからなる基板11の上に、厚さが100nmのAlNからなるバッファ層12が形成され、その上に半導体層積層体13が形成されている。半導体層積層体13は、厚さが1μmのアンドープのGaNからなる第1の半導体層14と、厚さが25nmのアンドープのAl
0.15Ga
0.85Nからなる第2の半導体層15とが下側から順次形成されている。
【0065】
第2の半導体層15の上には、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とが積層され、一方がソース電極となり他方がドレイン電極となる第1の電極16A及び第2の電極16Bが互いに間隔をおいて形成されている。第2の半導体層15における第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の領域には、厚さが200nmのp型にドープされたGaNからそれぞれなる第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bが互いに間隔をおいて形成されている。第1のコントロール層19Aの上にはニッケル(Ni)からなる第1のゲート電極18Aが形成されている。第2のコントロール層19Bの上には、Niからなる第2のゲート電極18Bが形成されている。第2の半導体層15、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの上には、窒化シリコンからなるパッシベーション膜41が形成されている。
【0066】
第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第2の半導体層15の上に、例えば幅が1.5μmのストライプ状に形成し、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、幅が1μmのストライプ状に形成する。十分大きなドレイン耐圧を実現するために第1のコントロール層19Aの側端部から第2の電極16Bの側端部までの距離L1は5μm以上とすることが好ましい。また、第2のコントロール層19Bの側端部から第1の電極16Aの側端部までの距離L2は5μm以上とすることが好ましい。
【0067】
以下に、第1の実施形態に係る半導体装置の動作原理を説明する。第1の実施形態のトランジスタは、第1のゲート電極18Aがp型の導電性を有する第1のコントロール層19Aの上に形成されている。このため、第1の半導体層14と第2の半導体層15との界面領域に生成されるチャネル領域に対して、第1のゲート電極18Aから順方向のバイアスを印加することにより、チャネル領域内に正孔を注入することができる。窒化物半導体においては正孔の移動度は、電子の移動度よりもはるかに低いため、チャネル領域に注入された正孔は電流を流す担体としてほとんど寄与しない。このため、第1のゲート電極18Aから注入された正孔は同量の電子をチャネル領域内に発生させるので、チャネル領域内に電子を発生させる効果が高くなり、ドナーイオンのような機能を発揮する。つまり、チャネル領域内においてキャリア濃度の変調を行うことが可能となるため、動作電流が大きいノーマリオフ型の窒化物半導体トランジスタを実現することが可能となる。
【0068】
本発明の構造はJFETに類似しているが、キャリア注入を意図的に行うという点で、ゲート電界によりチャネル領域内のキャリア変調を行うJFETとは全く異なった動作原理により動作する。具体的には、ゲート電圧が3VまではJFETとして動作するが、pn接合のビルトインポテンシャルを超える3V以上のゲート電圧が印加された場合には、ゲートに正孔が注入され、前述したメカニズムにより電流が増加し、大電流且つ低オン抵抗の動作が可能となる。
【0069】
また、従来の窒化物を用いたFETは、順方向立上り電圧を超えた例えば1V程度を越える電圧を印加すると、大きなゲート電流が流れ込み、正常なスイッチング動作ができなくなる。このため、0.8V程度のゲート電圧しか印加することができず、ノイズによる誤動作が生じるおそれがある。しかし、本実施形態の半導体装置は、高いゲート電圧を印加することができ、ノイズによる誤動作を発生しにくくすることができる。
【0070】
また、本実施形態の半導体装置は、第2の電極16Bの近くに第2のコントロール層19Bが形成されており、第2のコントロール層19Bの上には第2のゲート電極18Bが形成されている。第2のゲート電極18Bも第1のゲート電極18Aと同様にチャネル領域を制御することができる。このため、第1のゲート電極18Aにより第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の電気伝導性を制御し、少なくとも第2の電極16Bの電位が第1の電極16Aの電位よりも低い場合に、第2のゲート電極18Bに第2の電極16Bの電位以下の電位を与えることにより、第2のコントロール層19Bの下側におけるチャネル領域をピンチオフ状態とすることができる。その結果、従来のFETと異なり、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に電流が流れることがなく、優れた逆耐圧特性を示す。
【0071】
また、第2のゲート電極18Bと、第2の電極16Bとを電気的に接続した場合には、第2のゲート電極18Bは、第2の電極16Bと同電位となる。従って、第2の電極16Bに正のバイアスが印加されている場合には、第2のゲート電極18Bにも正のバイアスが印加され、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の電気伝導性は、第1のゲート電極18Aによって制御される。一方、第2の電極16Bに負のバイアスが印加された場合には、第2のゲート電極18Bにも負のバイアスが印加される。従って、第1の半導体層14及び第2の半導体層15における第2のコントロール層19Bの下側の領域に空乏層が広がり、チャネル領域がピンチオフ状態となる。その結果、従来のFETと異なり、第2の電極16Bに負のバイアスが印加された場合に、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に電流が流れることがなく、優れた逆耐圧特性を示す。
【0072】
図2は、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとを電気的に接続(短絡)し、第1の電極16Aをソース電極とし第2の電極16Bをドレイン電極とした場合について、V
S2S1−I
S2S1特性を示している。V
S2S1は、第2の電極16Bと第1の電極16Aとの間の電圧であり、通常のFETのドレイン電圧Vdsに相当する。I
S2S1は、第2の電極16Bと第1の電極16Aとの間の電流であり、通常のFETのドレイン電流Idsに相当する。なお、
図2において横軸であるV
S2S1は、第1の電極16Aを基準とした電圧であり、縦軸であるI
S2S1は第2の電極16Bから第1の電極16Aへ流れる電流を正としている。また、第1のゲート電極18Aに、0V、1V、2V、3V及び4Vの電圧を印加した場合について示している。
【0073】
図2において破線で示した従来の第2のゲート電極18Bを設けていない半導体装置は、ゲート電圧にかかわらず、V
S2S1(ドレイン電圧)が負になると負のI
S2S1(ドレイン電流)が流れており、逆耐圧特性を有していないことが明らかである。
【0074】
一方、本実施形態の半導体装置は、第1のゲート電極18Aに印加する電圧にかかわらず、V
S2S1が負になってもI
S2S1が流れることがなく、優れた逆向耐圧特性を有していることが明らかである。
【0075】
このように、優れた逆耐圧特性を有するため、従来の半導体装置では達成できなかった4象限における制御も可能となる。
【0076】
本実施形態の半導体装置において、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、1×10
19cm
-3程度のマグネシウム(Mg)をドーピングすればよく、この場合のキャリア濃度は1×10
18cm
-3程度となる。また、第2の半導体層15における第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの下側の部分が、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bから熱拡散された不純物を含んでいても問題ない。なお、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19BをGaNとしたが、AlGaNとしてもよい。
【0077】
第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18BはNiとしたが、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bに対して良好なオーミック特性を示す材料であればよく、パラジウム(Pd)等を用いてもよい。
【0078】
第1の電極16A及び第2の電極16Bは第2の半導体層15の上に形成したが、トンネル電流を介して第1の半導体層14と第2の半導体層15とのへテロ接合界面に生成する2次元電子ガスと電気的に接続され、オーミック接合を形成できればどのような構造としてもよい。例えば、第2の半導体層15における第1の電極16A及び第2の電極16Bの下側の領域にシリコン(Si)等の不純物を選択的に拡散させた構成としてもよい。
【0079】
基板には、サファイア基板を用いたが、例えばSiC、GaN又はSi等からなる基板を用いてもよく、主面の面方位も良好な結晶を成長させることができれば、(0001)面である必要はない。
【0080】
本実施形態においては、1つの半導体装置のみについて説明したが、素子分離領域を設けて複数の半導体装置を形成してもよい。素子分離領域は、例えばホウ素(B)イオンを注入して第1の素子分離領域及び第2の素子分離領域を選択的に高抵抗化することにより形成すればよい。
【0081】
図3に示すように、第2の電極16Bの上を第2のゲート電極18Bが覆うように形成し、第2の電極16Bと第2のゲート電極18Bとを短絡してもよい。このようにすることにより、配線の形成工程を簡略化できる。また、逆に第2のゲート電極18Bを第2の電極16Bが覆うように形成してもよい。
【0082】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。
図4は第2の実施形態に係る半導体装置の断面構成を示している。
図4において
図3と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0083】
図4に示すように本実施形態の半導体装置は、第2の半導体層15と第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとの間に、厚さが15nmのp型にドープされたAl
0.2Ga
0.8Nからなる第3の半導体層17が形成されている。
【0084】
第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第2の半導体層15の上にp型のGaNからなる窒化物半導体層を形成した後、塩素ガス等を用いたドライエッチングによりp型の窒化物半導体層を選択的にエッチングして形成することが一般的である。しかし、第2の窒化物半導体層をエッチングすることなく第1のコントロール層及び第2のコントロール層となるp型の窒化物半導体層のみを完全にエッチングにより除去することは非常に困難である。その結果、第2の半導体層15が削られるオーバーエッチング又は第2の半導体層15の上にp型の窒化物半導体層が残存するアンダーエッチングが発生するおそれがある。オーバーエッチングが生じると、第2の半導体層15が薄くなり、分極によって発生する二次元電子ガス(2DEG)の濃度が下がるため、最大電流(Imax)が低下してしまう。逆にアンダーエッチングが生じた場合には、エッチングの際に残存したp型の窒化物半導体層の上にn型のオーミック電極である第1の電極16A及び第2の電極16Bが形成されるため、第1の電極16A及び第2の電極16Bのコンタクト抵抗が上昇する。しかし、本実施形態の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bと比べてエッチングレートが小さいp型の導電性を有する第3の半導体層17を設けているので、p型の窒化物半導体層における第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとなる部分以外の部分をエッチングによって完全に除去することが可能となる。その結果、優れたデバイス特性を有する半導体装置を再現性良く得ることが可能となる。
【0085】
本実施形態においては、第1の電極16A及び第2の電極16Bは、第3の半導体層17に形成された開口部に形成され、第2の半導体層15と接するように形成されている。しかし、第1の電極16A及び第2の電極16Bは、チャネル領域とオーミックコンタクトを形成できればよく、第2の半導体層15を貫通し、第1の半導体層14と接するように形成すれば、さらに良好なオーミックコンタクトを実現できる。
【0086】
また、第2の電極16Bの上を覆うように第2のゲート電極18Bを形成した例を示したが、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとを配線により短絡してもよい。
【0087】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態について図面を参照して説明する。
図5は第3の実施形態に係る半導体装置の断面構成を示している。
図5において
図1と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図5に示すように本実施形態の半導体装置は、第2のコントロール層19Bの上にNiからなる第2のゲート電極と第2の電極とが一体となった一体電極16Cが形成されている。
【0088】
図6は本実施形態の半導体装置のV
S2S1−I
S2S1特性を、第2のコントロール層がない従来の半導体装置と比較して示している。
図6においてV
S2S1は、第1の電極16Aを基準とした電圧であり、縦軸であるI
S2S1は第2の電極16Bから第1の電極16Aへ流れる電流を正としている。なお、従来の半導体装置については、ドレイン電圧VdsをV
S2S1とし、ドレイン電流IdsをI
S2S1として示している。また、
図6には、ゲート電圧を0V、1V、2V、3V及び4Vとした場合をそれぞれ示している。
【0089】
図6において破線で示した従来の半導体装置の場合は、ゲート電圧が0VであってもV
S2S1(ドレイン電圧)が負になると、負の
IS2S1(ドレイン電流)が流れ、逆耐圧特性を有していないことが明らかである。一方、本実施形態の半導体装置は、ゲート電圧にかかわらず、V
S2S1が負の場合にはI
S2S1が流れることがなく、優れた逆耐圧特性を有していることが明らかである。また、第2のコントロール層19Bとチャネル領域とによってpn接合が形成される。このため、一体電極16Cに正バイアスがかけられている動作領域では、ドレイン電圧がGaN系pn接合の順方向オン電圧である3V以上になると急激に電流が流れはじめ、あたかもIGBTのような動作をする。その結果、伝導度変調が生じるので、大きなドレイン電流を得ることが可能となる。
【0090】
本実施形態においては、一体電極16CをNiとしたが、第2のコントロール層19Bと良好なオーミック特性を示す材料であればよく、例えばPd等を用いてもよい。
【0091】
なお、
図7に示すように、第2の実施形態と同様に、第2の半導体層15と第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとの間に第3の半導体層17を形成してもよい。なお、第1の電極16Aは、チャネル領域とオーミックコンタクトを形成できればよく、第2の半導体層15を貫通し、第1の半導体層14と接するように形成すれば、さらに良好なオーミックコンタクトを実現できる。
【0092】
(第4の実施形態)
以下に、本発明の第4の実施形態について図面を参照して説明する。
図8は第4の実施形態に係る半導体装置の断面構成を示している。
図8において
図1と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図8に示すように、本実施形態の半導体装置は第2の半導体層15が、厚さが厚い第1の部分15aと、第1の部分15aよりも厚さが薄い第2の部分15bとを有している。第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第1の部分15aの上に形成されている。つまり、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第2の半導体層15に形成された凸部の上に形成されている。
【0093】
第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第2の半導体層15の上にp型GaN層を形成した後、p型GaN層を選択的に除去することにより形成する。この場合に、
図9に示すようにp型GaN層がアンダーエッチとなると、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間にp型GaN層が残存し、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとが抵抗を挟んで電気的に接続された状態となる。ノーマリオフ型のデュアルゲート半導体素子においては第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、それぞれ第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとオーミック接触している。このため、残存するp型GaN層を介して第1のゲート電極18Aと第2のゲート電極18Bとの間に流れる電流が無視できない。特に、
図9に示すような双方向スイッチ装置を形成した場合には、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間にリークパスが形成され、遮断状態を維持できなくなるおそれがある。
【0094】
本実施形態の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成する際に、p型GaN層をオーバーエッチングし、第2の半導体層15の一部も除去している。これにより、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを除いて、確実にp型GaN層を除去することができる。この場合、第2の半導体層15の膜厚が、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bが形成された部分において、他の部分よりも厚くなる。
【0095】
第2の半導体層15のオーバーエッチング量は、第2の半導体層15の成長時の膜厚、閾値電圧及びエッチング量のばらつき等を考慮して決定すればよい。例えば、第2の半導体層15を60nm成長させ、p型GaN層を300nm成長させた場合には、オーバーエッチング量を40nmとすればよい。つまり、第1の部分15aの膜厚は60nmとなり、第2の部分15bの膜厚は20nmとなる。これにより、不要なp型GaN層をほぼ完全に除去できる。一方、第2の半導体層15の膜厚は、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の電流特性に大きく影響を与える。このため、第2の半導体層15の膜厚を薄くしすぎることはできない。しかし、本実施形態の半導体装置は、オーバーエッチングされた第2の部分15bにおいても第2の半導体層15の膜厚を20nm確保することができるため、電流特性の劣化を抑えることができる。
【0096】
なお、第1の部分15aの厚さは、アンドープのGaNからなる第1の半導体層14の上にエピタキシャル成長が可能で、ノーマリーオフ動作が可能な限りさらに厚くてもよく、例えば100nm程度としてもよい。また、下限は、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間に残されたp型GaN層の残渣を完全に除去できる限り、薄くてもよい。例えば、オーバエッチング量を5nmとした場合、25nm程度としてもよい。また、第2の部分15bの厚さは、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間に残されたp型GaN層の残渣を完全に除去できる限り、さらに厚くてもよく、例えば95nm程度としてもよい。また、下限は素子が動作する限り薄くてもよく5nm程度でもよい。
【0097】
なお、
図8においては、コンタクト抵抗を低減するために、第2の半導体層15の一部を除去すると共に第1の半導体層14を40nm程度掘り下げて、第1の電極16A及び第2の電極16Bが第2の半導体層15と第1の半導体層14との界面に接するように形成した例を示した。しかし、第1の電極16A及び第2の電極16Bは、第2の半導体層15の上に形成してもよい。
【0098】
(第4の実施形態の第1変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第1変形例について図面を参照して説明する。
図10は第4の実施形態の第1変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図10において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0099】
図10に示すように本変形例の半導体装置は、第2の半導体層15と第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとの間にエッチング吸収層42を備えている。エッチング吸収層42は、厚さが50nm程度のn型のGaNからなり、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの下側の部分の膜厚が他の部分の膜厚よりも厚い。このような構成とすれば、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成する際に、p型GaN層を30nm程度オーバーエッチングしても、第2の半導体層15がエッチングされることがない。
【0100】
ドライエッチングにより第2の半導体層15の一部をエッチングすると、第2の半導体層15の表面がダメージを受け、欠陥準位が形成される。欠陥準位が形成されると、電流遮断時に電子がトラップされ、電流コラプス現象を引き起こすおそれがある。本変形例に示すようにエッチング吸収層42を設けることにより、第2の半導体層15にダメージを与えることなく、確実に不要なp型GaN層を除去できる。さらに、第2の半導体層15の膜厚は、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の電流特性に大きな影響を与える。本実施形態の半導体装置は、第2の半導体層15がオーバーエッチングされることがないため、第2の半導体層15の膜厚がオーバーエッチングによりばらつくことがない。このため、半導体装置間の電流特性のばらつきを抑え、再現性良く半導体装置を製造することが可能となる。
【0101】
なお、エッチング吸収層42は、アンドープのGaNであってもよい。また、第2の半導体層15は、アンドープのAlGaNに代えてn型のAlGaNとしてもよい。
【0102】
(第4の実施形態の第2変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第2変形例について図面を参照して説明する。
図11は第4の実施形態の第2変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図11において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図11に示すように、本変形例の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bが凸部を有する。
【0103】
リーク電流の低減のためには、不要なp型GaN層を完全に除去することが好ましい。一方、第2の半導体層15へのダメージを考えるとオーバーエッチング量はできるだけ少なくしたい。以下に説明するように、本変形例の半導体装置は、オーバーエッチング量を少なくしつつ確実に不要なp型GaN層を完全に除去することが可能となる。
【0104】
図12は、本変形例に係る半導体装置の製造方法を工程順に示している。まず、
図12(a)に示すように、Siからなる基板11の上にバッファ層12と、半導体層積層体13と、p型GaN層19を順次MOCVD法により形成する。バッファ層12は、交互に積層された厚さが10nmのAlNと厚さが10nmのGaNとにより形成すればよく、厚さは1μmとすればよい。半導体層積層体13は、厚さが2μmのアンドープのGaNからなる第1の半導体層14と、厚さが60nmのn型又はアンドープのAlGaNからなる第2の半導体層15とすればよい。また、p型GaN層の膜厚は300nmとすればよい。
【0105】
次に、
図12(b)に示すように、Cl
2ガスを用いたICP(Inductively Coupled Plasma)エッチングとフォトリソグラフィにより、p型GaN層19を選択的に除去し、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成する。この段階では、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間に、p型GaN層19が残存していても問題ない。
【0106】
次に、
図12(c)に示すように、第1の電極16A、第2の電極16B、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bをそれぞれ所定の位置に形成した後、電気的特性を測定する。測定の結果、第1のゲート電極18Aと第2のゲート電極18Bとの間のリーク電流が大きい場合には、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間にp型GaN層19が残存している。
【0107】
p型GaN層19の残存が確認された場合には、
図12(d)に示すように、フォトリソグラフィとドライエッチングにより、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間に残存しているp型GaN層19を除去する。
【0108】
プロセスの途中で電気的特性を測定することができるため、オーバーエッチング量をクリティカルに設定した場合であっても、不要なp型GaN層19を確実に除去することができる。
【0109】
(第4の実施形態の第3変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第3変形例について図面を参照して説明する。
図13は第4の実施形態の第3変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図13において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図13に示すように、本変形例の半導体装置は、第2の半導体層15が、第1の部分15aと、第1の部分15aよりも厚さが薄い第2の部分15bと、第2の部分15b以下の厚さである第3の部分15cとを有している。第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、第1の部分15aと第3の部分15cの上に形成されている。
【0110】
第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成する際に、p型GaN層をオーバーエッチングすると、第2の半導体層15の膜厚が薄くなってしまう。第2の半導体層15の膜厚が薄くなると、欠陥準位がチャネル領域に影響を及ぼしたり、チャネル領域の2次元電子ガス濃度が低下したりするおそれがある。このため、オーバーエッチング前の第2の半導体層15の膜厚はできるだけ厚い方が好ましい。しかし、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの下側における第2の半導体層15の膜厚が厚くなると、閾値電圧が低下し、ノーマリオフ動作ができなくなるおそれがある。
【0111】
本実施形態の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの下側において、第2の半導体層15は膜厚が厚い第1の部分15aと膜厚が薄い第3の部分15cとを有している。このため、閾値電圧は第3の部分15cの膜厚により決定される。従って、オーバーエッチング前における第2の半導体層15の膜厚を厚くしても、閾値電圧が低下することはない。
【0112】
第1の部分15aの膜厚は厚い方が好ましいが、あまり膜厚が厚くなると第2の半導体層15の形成が困難となる。従って例えば、100nm程度とすればよい。第3の部分15cの膜厚は、必要とする閾値電圧に応じて決定すればよいが、例えば20nm程度とすればよい。第2の部分15bの膜厚は、p型GaN層を確実に除去できる膜厚とすればよい。例えば第1の部分15aの膜厚が100nmの場合に、第2の部分15bの膜厚を40nm程度とすれば、オーバーエッチング量を60nm程度確保できる。これにより、確実にp型GaN層の残存を防止できる。また、オーバーエッチング後においても、第2の半導体層15の膜厚を十分確保できるため、欠陥準位がチャネル領域に及ぼす影響を小さく抑えることができ、2次元電子ガス濃度も高くすることができる。なお、第2の部分15bと第3の部分15cとは膜厚が同じであってもよい。
【0113】
(第4の実施形態の第4変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第4変形例について図面を参照して説明する。
図14は第4の実施形態の第4変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図14において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図14に示すように、本変形例の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bが形成された領域を除いて、半導体層積層体13の上に酸化ガリウム(GaO)からなる高抵抗層43が形成されている。これにより、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間を確実に絶縁し、リーク電流の増大を防ぐことができる。また、第2の半導体層15がダメージを受けることがなく、欠陥準位による電流コラプスの発生を低減できる。
【0114】
高抵抗層43は、できるだけ高抵抗であることが好ましいが、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bよりも高抵抗であれば、リーク電流を低減できる。例えば、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間に残存したp型GaN層を酸素雰囲気においてアニールして形成すればよい。このようにすれば、膜厚の制御等も容易である。また、高抵抗層43は、GaOに代えて、ホウ素イオン等を注入することにより形成してもよい。
【0115】
(第4の実施形態の第5変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第5変形例について図面を参照して説明する。
図15は第4の実施形態の第5変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図15において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図15に示すように、本変形例の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bがp型不純物の拡散領域により形成されている。
【0116】
図16は、本変形例の半導体装置における第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの形成方法を工程順に示している。まず、
図16(a)に示すように、Siからなる基板11の上にバッファ層12と、半導体層積層体13と、第4の半導体層44を順次MOCVD法により形成する。バッファ層12は、交互に積層された厚さが10nmのAlNと厚さが10nmのGaNとにより形成すればよく、厚さは1μmとすればよい。半導体層積層体13は、厚さが2μmのアンドープのGaNからなる第1の半導体層14と、厚さが60nmのn型又はアンドープのAlGaNからなる第2の半導体層15とすればよい。第4の半導体層44は、膜厚が300nmのアンドープのGaNとすればよい。
【0117】
次に、
図16(b)に示すように、リフトオフ法と蒸着法により、第4の半導体層44の上に互いに間隔をおいて厚さが100nmのMgと、厚さが10nmのNiと、厚さが10nmのPtとからなる不純物層45を形成する。
【0118】
次に、
図16(c)に示すようにアンモニア(NH
3)雰囲気において900℃でアニールを行うことにより、Mgを第4の半導体層44中に拡散させる。これにより、Mgがドープされたp型のGaNからなる第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成する。この後、不純物層45を王水等を用いて除去する。電極の形成等は既知の方法により行えばよい。
【0119】
このように、アンドープのGaNからなる第4の半導体層44中にMgを選択的に拡散させることにより、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを形成すれば、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間にリークパスが形成されるおそれがない。また、エッチングが不要であり、第2の半導体層15にダメージが生じることもない。さらに、第2の半導体層15が第4の半導体層44に覆われるため、欠陥準位がチャネル領域に及ぼす影響も低減される。なお、第4の半導体層44は、GaNに代えてAlGaNとしてもよい。
【0120】
(第4の実施形態の第6変形例)
以下に、本発明の第4の実施形態の第6変形例について図面を参照して説明する。
図17は第4の実施形態の第6変形例に係る半導体装置の断面構成を示している。
図17において
図8と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
図17に示すように、本変形例の半導体装置は、第2の半導体層15を覆うSiO
2からなる酸化膜層46を備えている。酸化膜層46は、互いに間隔をおいて形成された開口部を有し、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、開口部に形成されている。
【0121】
図18は、本変形例の半導体装置における第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bの形成方法を工程順に示している。まず、
図18(a)に示すように、Siからなる基板11の上にバッファ層12と、半導体層積層体13とを順次MOCVD法により形成する。バッファ層12は、交互に積層された厚さが10nmのAlNと厚さが10nmのGaNとにより形成すればよく、厚さは1μmとすればよい。半導体層積層体13は、厚さが2μmのアンドープのGaNからなる第1の半導体層14と、厚さが60nmのn型又はアンドープのAlGaNからなる第2の半導体層15とすればよい。
【0122】
次に、
図18(b)に示すように、第2の半導体層15の上にSiO
2からなる酸化膜層46を形成した後、選択的に除去して開口部46aを形成する。
【0123】
次に、
図18(c)に示すように、開口部46aにp型GaNからなる第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを再成長により形成する。この後、既知の方法により電極等を形成すればよい。
【0124】
本変形例の半導体装置は、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを再成長により形成している。このため、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間にリークパスが生じるおそれがない。また、第2の半導体層15がエッチングされることがないため、第2の半導体層15がダメージを受けることがない。従って、欠陥準位による電流コラプスの発生を抑えることもできる。
【0125】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態について図面を参照して説明する。
図19は第5の実施形態に係る半導体装置の構成を示している。
図19に示すように第5の実施形態の半導体装置は、双方向スイッチ装置であり、双方向スイッチ本体であるデュアルゲートの半導体素子10と、デュアルゲートの半導体素子10を双方向スイッチとして動作させる制御部20とにより構成されている。
【0126】
半導体素子10は、第1の実施形態において示したデュアルゲート半導体素子を用いればよい。また、第4の実施形態及びその変形例において示したデュアルゲート半導体素子を用いることもできる。
【0127】
具体的には、シリコン(Si)からなる基板11の上に厚さが10nm窒化アルミニウム(AlN)と厚さが10nmの窒化ガリウム(GaN)とが交互に積層されてなる厚さが1μmのバッファ層12が形成され、その上に半導体層積層体13が形成されている。半導体層積層体13は、第1の半導体層14と第1の半導体層14と比べてバンドギャップが大きい第2の半導体層15とが基板側から順次積層されている。本実施形態においては、第1の半導体層14は、厚さが2μmのアンドープの窒化ガリウム(GaN)層であり、第2の半導体層15は、厚さが20nmのn型の窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層である。
【0128】
第1の半導体層14の第2の半導体層15とのヘテロ界面近傍には、自発分極及びピエゾ分極による電荷が生じる。これにより、シートキャリア濃度が1×10
13cm
-2以上で且つ移動度が1000cm
2V/sec以上の2次元電子ガス(2DEG)層であるチャネル領域が生成されている。
【0129】
半導体層積層体13の上には、互いに間隔をおいて第1の電極16Aと第2の電極16Bとが形成されている。第1の電極16A及び第2の電極16Bは、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とが積層されており、チャネル領域とオーミック接触している。
図19においては、コンタクト抵抗を低減するために、第2の半導体層15の一部を除去すると共に第1の半導体層14を40nm程度掘り下げて、第1の電極16A及び第2の電極16Bが第2の半導体層15と第1の半導体層14との界面に接するように形成した例を示している。なお、第1の電極16A及び第2の電極16Bは、第2の半導体層15の上に形成してもよい。
【0130】
n型の第2の半導体層15の上における第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の領域には、p型半導体層である第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bが互いに間隔をおいて選択的に形成されている。第1のコントロール層19Aの上には第1のゲート電極18Aが形成され、第2のコントロール層19Bの上には第2のゲート電極18Bが形成されている。第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、それぞれパラジウム(Pd)と金(Au)とが積層されており、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bとオーミック接触している。
【0131】
第2の半導体層15及び第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bを覆うように窒化シリコン(SiN)からなるパッシベーション膜41が形成されている。パッシベーション膜41を形成することで、いわゆる電流コラプスの原因となる欠陥を補償し、電流コラプスを改善することが可能となる。
【0132】
第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bは、それぞれ厚さが300nmで、マグネシウム(Mg)がドープされたp型のGaNからなる。第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bと、第2の半導体層15とによりpn接合がそれぞれ形成される。これにより、第1の電極と第1のゲート電極間との電圧が例えば0Vでは、第1のp型GaN層からチャネル領域中に空乏層が広がるため、チャネルに流れる電流を遮断することができ、同様に、第2の電極と第2のゲート電極間との電圧が例えば0V以下のときには、第2のp型GaN層からチャネル領域中に空乏層が広がるため、チャネルに流れる電流を遮断することができ、いわゆるノーマリーオフ動作をする半導体素子を実現している。
【0133】
第1の電極16Aの電位をV1、第1のゲート電極18Aの電位をV2、第2のゲート電極18Bの電位をV3、第2の電極16Bの電位をV4とする。この場合において、V2がV1より1.5V以上高ければ、第1のコントロール層19Aからチャネル領域中に広がる空乏層が縮小するため、チャネル領域に電流を流すことができる。同様にV3がV4より1.5V以上高ければ、第2のコントロール層19Bからチャネル領域中に広がる空乏層が縮小し、チャネル領域に電流を流すことができる。つまり、第1のゲート電極18Aのいわゆる閾値電圧及び第2のゲート電極18Bのいわゆる閾値電圧は共に1.5Vである。以下においては、第1のゲート電極18Aの下側においてチャネル領域中に広がる空乏層が縮小し、チャネル領域に電流を流すことができるようになる第1のゲート電極の閾値電圧を第1の閾値電圧とし、第2のゲート電極18Bの下側においてチャネル領域中に広がる空乏層が縮小し、チャネル領域に電流を流すことができるようになる第2のゲート電極の閾値電圧を第2の閾値電圧とする。
【0134】
また、第1のコントロール層19Aと第2のコントロール層19Bとの間の距離は、第1の電極16A及び第2の電極16Bに印加される最大電圧に耐えられるように設計する。
【0135】
制御部20は、第1の電極16Aと第1のゲート電極18Aとの間に接続された第1の電源21と、第2の電極16Bと第2のゲート電極18Bとの間に接続された第2の電源22とを有している。本実施形態における第1の電源21及び第2の電源22は、出力電圧を変化させることができる可変電源である。
【0136】
第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間には負荷回路が接続される。以下においては負荷回路が、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に接続された可変電源35であるとして説明を行う。
【0137】
以下に、第5の実施形態に係る半導体装置の動作について説明する。説明のため、第1の電極の電位を0Vとし、第1の電源21の出力電圧をVg1、第2の電源22の出力電圧をVg2、第2の電極16Bと第1の電極16Aとの間の電圧をV
S2S1、第2の電極16Bと第1の電極16Aとの間に流れる電流をI
S2S1とする。V
S2S1は、通常のFETのドレイン電圧Vdsに相当し、I
S2S1はドレイン電流Idsに相当する。
【0138】
V4がV1よりも高い場合、例えば、V4が+100Vで、V1が0Vの場合において、第1の電源21及び第2の電源22の出力電圧Vg1及びVg2をそれぞれ第1の閾値電圧及び第2の閾値電圧以下の電圧、例えば0Vとする。これにより、第1のコントロール層19Aから広がる空乏層が、チャネル領域中を第2のp型GaN層の方向へ向けて広がるため、チャネルに流れる電流を遮断することができる。従って、V4が正の高電圧であっても、第2の電極16Bから第1の電極16Aへ流れる電流を遮断する遮断状態を実現できる。
【0139】
一方、V4がV1よりも低い場合、例えばV4が−100Vで、V1が0Vの場合においても、第2のコントロール層19Bから広がる空乏層が、チャネル領域中を第1のコントロール層19Aの方向へ向けて広がり、チャネルに流れる電流を遮断することができる。このため、第2の電極16Bに負の高電圧が印加されている場合においても、第1の電極から第2の電極へ流れる電流を遮断することができる。すなわち、双方向の電流を遮断することが可能となる。
【0140】
以上のような構造及び動作において、耐圧を確保するためのチャネル領域を第1のゲート電極と第2のゲート電極とが共有する。2個のノーマリーオフ型のAlGaN/GaN−HFETと2個のダイオードとからなる従来の双方向スイッチ本体では、AlGaN/GaN−HFET2素子分のチャネル領域とダイオード2素子分のチャネル領域が必要であった。しかし、本実施形態の素子は1素子分のチャネル領域の面積で双方向スイッチ本体が実現可能である。従って、デュアルゲートの半導体素子を双方向スイッチ本体として用いれば、2個のノーマリーオフ型AlGaN/GaN−HFETと2個のダイオードとを用いた場合と比べてチップ面積をより少なくすることができる。従って、双方向スイッチ装置の低コスト化及び小型化が可能となる。
【0141】
第1の電源21及び第2の電源22の出力電圧Vg1及びVg2が、それぞれ第1の閾値電圧及び第2の閾値電圧よりも高い電圧、例えば5Vの場合には、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bに印加される電圧は、共に閾値電圧よりも高くなる。従って、第1のコントロール層19A及び第2のコントロール層19Bからチャネル領域に空乏層が広がらないため、チャネル領域は第1のゲート電極18Aの下側においても、第2のゲート電極18Bの下側においてもピンチオフされない。その結果、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に双方向に電流が流れる導通状態を実現できる。
【0142】
次に、Vg1を第1の閾値電圧よりも高い電圧とし、Vg2を第2の閾値電圧以下とした場合の動作について説明する。本実施形態のデュアルゲートの半導体素子10を等価回路で表すと
図20(a)に示すように第1のトランジスタ36と第2のトランジスタ37とが直列に接続された回路とみなすことができる。この場合、第1のトランジスタ36のソース(S)が第1の電極16A、第1のトランジスタ36のゲート(G)が第1のゲート電極18Aに対応し、第2のトランジスタ37のソース(S)が第2の電極16B、第2のトランジスタ37のゲート(G)が第2のゲート電極18Bに対応する。
【0143】
このような回路において、例えば、Vg1を5V、Vg2を0Vとした場合、Vg2が0Vであるということは第2のトランジスタ37のゲートとソースが短絡されている状態と等しいため、半導体素子10は
図20(b)に示すような回路とみなすことができる。つまり、半導体素子10は、第1の電極16Aがソース(S)、第2のゲート電極18Bがゲート(G)、第2の電極16Bがドレイン(D)であるトランジスタであり、ソース(S)とゲート(G)とが電気的に接続された回路と等しくなる。
【0144】
以下において、
図20(b)に示すトランジスタのソース(S)をA端子、ドレイン(D)をB端子、ゲート(G)をC端子として説明を行う。
【0145】
B端子の電位がA端子の電位よりも高い場合には、A端子がソースでB端子がドレインであるトランジスタとみなすことができる。このような場合、C端子(ゲート)とA端子(ソース)との間の電圧は0Vであり、閾値電圧以下のため、B端子(ドレイン)からA端子(ソース)に電流は流れない。
【0146】
一方、A端子の電位がB端子の電位よりも高い場合には、B端子がソースでA端子がドレインのトランジスタとみなすことができる。このような場合、C端子(ゲート)とA端子(ドレイン)との電位が同じであるため、A端子の電位がB端子を基準として閾値電圧以上となると、ゲートにB端子(ソース)を基準として閾値電圧以上の電圧が印加され、A端子(ドレイン)からB端子(ソース)へ電流を流すことができる。
【0147】
つまり、トランジスタのゲートとソースとを短絡させた場合、ドレインがカソードでソースがアノードのダイオードとして機能し、その順方向立上り電圧はトランジスタの閾値電圧となる。
【0148】
そのため、
図20(a)に示す第2のトランジスタ37の部分は、ダイオードとみなすことができ、
図20(c)に示すような等価回路となる。
図20(c)に示す等価回路において、双方向スイッチ本体のドレインの電位がソースの電位よりも高い場合、第1のトランジスタ36のゲートに5Vが印加されているので、第1のトランジスタ36はオン状態であり、ドレインからソースへ電流を流すことが可能となる。但し、ダイオードの順方向立上り電圧によるオン電圧が発生する。また、双方向スイッチ素子のソースの電位がドレインの電位よりも高い場合、その電圧は第2のトランジスタ37からなるダイオードが担い、双方向スイッチ素子のソースからドレインへ流れる電流を阻止する。つまり、第1ゲートに閾値電圧以上の電圧を与え、第2ゲートに閾値電圧以下の電圧を与えることによりいわゆる逆阻止動作が可能なトランジスタが実現できる。
【0149】
図21は、半導体素子10の第2の電極16Bと第1の電極16Aとの間の電圧V
S2S1と、第2の電極16Bから第1の電極16Aに流れる電流I
S2S1との関係であり、(a)は、Vg1とVg2とを同時に変化させた場合を示し、(b)はVg2を第2の閾値電圧以下の0Vとし、Vg1を変化させた場合を示し、(c)はVg1を第1の閾値電圧以下の0VとしてVg2を変化させた場合を示している。なお、
図21において横軸であるV
S2S1は、第1の電極16Aを基準とした電圧であり、縦軸であるI
S2S1は第2の電極16Bから第1の電極16Aへ流れる電流を正としている。
【0150】
図21(a)に示すように、Vg1及びVg2が0Vの場合及び1Vの場合には、V
S2S1が正の場合にも負の場合にもI
S2S1は流れず、半導体素子10は遮断状態となる。また、Vg1とVg2とが共に閾値電圧よりも高くなると、V
S2S1に応じてI
S2S1が双方向に流れる導通状態となる。
【0151】
一方、
図21(b)に示すように、Vg2を第2の閾値電圧以下の0Vとし、Vg1を第1の閾値電圧以下の0Vとした場合には、I
S2S1は双方向に遮断される。しかし、Vg1を第1の閾値電圧以上の2V〜5Vとした場合には、V
S2S1が1.5V未満の場合にはI
S2S1が流れないが、V
S2S1が1.5V以上になるとI
S2S1が流れる。つまり、第2の電極16Bから第1の電極16Aにのみに電流が流れ、第1の電極16Aから第2の電極16Bには電流が流れない逆阻止状態となる。また、Vg1を0Vとし、Vg2を変化させた場合には
図21(c)に示すように、第1の電極16Aから第2の電極16Bにのみに電流が流れ、第2の電極16Bから第1の電極16Aには電流が流れない逆阻止状態となる。
【0152】
以上より、半導体素子10は、そのゲートバイアス条件により、双方向の電流を遮断・通電する双方向スイッチ本体として機能すると共に、1方向にのみ電流を流す動作と双方向の電流を遮断する動作とを行う逆阻止動作を行う双方向スイッチ本体としても機能させることができる。その逆阻止特性の電流が通電する方向も切り換えることができる。
【0153】
なお、本実施形態においては、第1ゲート及び第2ゲートの閾値電圧が1.5Vの場合について説明した。しかし、第1ゲート及び第2ゲートの閾値電圧は、AlGaN層の膜厚及びAl組成並びにp型GaN層のアクセプタ濃度を変更することにより、調整することができる。第1ゲート及び第2ゲートの閾値電圧は、0V〜3V程度であることが望ましい。
【0154】
(第6の実施形態)
以下に、本発明の第6の実施形態について図面を参照して説明する。
図22は第6の実施形態に係る半導体装置に用いる半導体素子の断面構成を示している。
図22において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0155】
本実施形態の半導体素子10は、Siからなる基板11の上に厚さが10nmのAlNと厚さが10nmのGaNとが交互に積層されてなる厚さが1μmのバッファ層12が形成され、その上に半導体層積層体13が形成されている。半導体層積層体13は、厚さが2μmのアンドープの第1の半導体層14と、厚さが50nmのn型の第2の半導体層15とが下側から順次積層されている。
【0156】
半導体層積層体13の上には、互いに間隔をおいて第1の電極16Aと第2の電極16Bとが形成されている。第1の電極16A及び第2の電極16Bは、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とが積層されており、チャネル領域とオーミック接触している。本実施形態においては、第1の電極16A及び第2の電極16Bを第2の半導体層15の上に形成する例を示している。しかし、第5の実施形態と同様に、第2の半導体層15の一部を除去すると共に第1の半導体層14を40nm程度掘り下げて、第1の電極16A及び第2の電極16Bが第2の半導体層15と第1の半導体層14との界面に接するように形成してもよい。
【0157】
第2の半導体層15における第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の領域には、深さが40nmの凹部(リセス構造)が2つ形成されており、凹部を埋めるように第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bがそれぞれ形成されている。第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、それぞれパラジウム(Pd)と金(Au)とが積層されており、第2の半導体層15とショットキー接合を形成している。
【0158】
本実施形態の半導体素子10は、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bが第2の半導体層15に形成された凹部にそれぞれ形成されている。このため、第2の半導体層15の厚さが、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bの下側において他の部分よりも薄い。これにより、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bの閾値電圧を正の方向にシフトすることがでる。従って、ノーマリーオフ型のデュアルゲートの半導体素子10を実現することが可能となる。また、AlGaN層の表面に形成されるトラップに起因する電流コラプスが、AlGaNとGaNとが積層された電界効果トランジスタにおいて問題となっている。しかし、本実施形態の半導体素子10は、AlGaN層の表面がチャネル領域から離れているため、電流コラプスを低減できるという効果も得られる。
【0159】
また、
図22に示す半導体装置は、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18BがAlGaN層と接触するように形成されているが、絶縁膜を介してAlGaN層上に形成されていてもよい。この場合の絶縁膜は、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)アルミナ(Al
2O
3)又は酸化タンタル(Ta
2O
5)等が望ましい。
【0160】
なお、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bが凹部の周辺における第2の半導体層15の上を覆うように形成する例を示したが、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bが第2の半導体層15の上を覆っていなくてもよい。
【0161】
本実施形態においては、第1のゲート電極及び第2のゲート電極の直下におけるAlGaN層の膜厚を、凹部を形成することにより薄膜化して、ノーマリーオフ動作を可能とする例を示した。しかし、AlGaN層全体を薄膜化することにより、ノーマリーオフ動作を実現してもよい。このような構造とすれば、凹部を形成するプロセスが不要となり、より少ない工数で素子を作成でき、低コスト化が可能となる。
【0162】
なお、本実施形態の半導体素子は、AlGaN層の膜厚及びAl組成並びにゲート電極の材料を変更することにより、その閾値電圧を調整することができる。ノーマリーオフ動作をする双方向スイッチ本体を実現する場合においては、閾値電圧は0V〜1Vが望ましい。
【0163】
(第7の実施形態)
以下に、本発明の第7の実施形態について図面を参照して説明する。
図23は第7の実施形態に係る半導体装置に用いる半導体素子の断面構成を示している。
図23において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0164】
本実施形態の半導体素子10は、Siからなる基板11の上に厚さが10nmのAlNと厚さが10nmのGaNとが交互に積層されてなる厚さが1μmのバッファ層12が形成され、その上に半導体層積層体13が形成されている。半導体層積層体13は、厚さが2μmのアンドープの第1の半導体層14と、厚さが50nmのn型の第2の半導体層15とが下側から順次積層されている。
【0165】
半導体層積層体13の上には、互いに間隔をおいて第1の電極16Aと第2の電極16Bとが形成されている。第1の電極16A及び第2の電極16Bは、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とが積層されており、チャネル領域とオーミック接触している。本実施形態においては、第1の電極16A及び第2の電極16Bを第2の半導体層15の上に形成する例を示している。しかし、第5の実施形態と同様に、第2の半導体層15の一部を除去すると共に第1の半導体層14を40nm程度掘り下げて、第1の電極16A及び第2の電極16Bが第2の半導体層15と第1の半導体層14との界面に接するように形成してもよい。
【0166】
第2の半導体層15の上における第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間の領域には、第1の電極16A側から互いに間隔をおいて、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bが形成されている。第1のゲート電極18Aは、第2の半導体層15の上に選択的に形成された第1のコントロール層19Aの上に形成され、第2のゲート電極18Bは第2の半導体層15と接して形成されている。第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、それぞれパラジウム(Pd)と金(Au)とが積層されており、第1のゲート電極18Aは第1のコントロール層19Aとオーミック接合を形成している。第1のコントロール層19Aは、厚さが300nmで、マグネシウム(Mg)がドープされたp型のGaNからなる。
【0167】
第1のコントロール層19Aと第2の半導体層15とによりpn接合が形成される。これにより、第1の電極16Aと第1のゲート電極18Aとの間の電圧が例えば0Vの場合には、第1のコントロール層19Aからチャネル領域中に空乏層が広がり、チャネルに流れる電流が遮断される。従って、第1の閾値電圧は約1.5Vとなる(上本康弘 他,"信学技報",社団法人電子情報通信学会,2007年,106巻,459号,p.193−197を参照。)。
【0168】
一方、第2のゲート電極18Bと第2の半導体層15とはショットキー接合を形成している。このため、第2の電極16Bと第2のゲート電極18Bとの間の電圧が例えば0Vのときには、チャネル領域中に空乏層が広がるため、チャネルに流れる電流を遮断することができる。従って、第2のゲート電極18Bの閾値電圧は0Vとなる(中田健 他,"信学技報",社団法人電子情報通信学会,2005年,105巻,325号,p.51−56を参照)。但し、第2の閾値電圧が0Vとなるように第2の半導体層15のAlとGaとの組成比を調製している。
【0169】
このように第1の閾値電圧が1.5V、第2の閾値電圧が0Vである半導体装置とすることにより、逆阻止動作において順方向電流が流れている際に発生するオン電圧を0Vとすることが可能となる。このため、より低抵抗なデュアルゲート半導体装置を形成することができる。
【0170】
また、第2の閾値電圧を0Vとする方法として、
図24に示すように第2の半導体層15に凹部を形成し、凹部を埋めるように第2のゲート電極18Bを形成してもよい。このような構造とすることで、第2の半導体層15のAl組成を少なくしないままで第2のゲート電極18Bの閾値電圧を0Vとすることができるので、高濃度のシートキャリア濃度を維持したまま第2のゲート電極18Bの閾値電圧を0Vとすることができる(非特許文献2を参照)。なお、第2ゲートの閾値電圧は、必ずしも0Vとする必要はなく、0V〜1Vの範囲とすることが好ましい。
【0171】
なお、第2のゲート電極18Bが凹部の周辺における第2の半導体層15の上を覆うように形成する例を示したが、第2のゲート電極18Bが第2の半導体層15の上を覆っていなくてもよい。
【0172】
なお、第5〜第7の実施形態は4端子の双方向スイッチ本体の例を示しているが、逆阻止動作だけを必要とする双方向スイッチ本体を形成する場合には、第2のゲート電極と第2の電極をAu等からなる配線を用いて電気的に接続してもよい。このような構成とすることにより、逆阻止動作のみが可能な3端子の双方向スイッチ本体を形成できる。このように3端子の素子とすることにより、従来のトランジスタと同様に扱え、第2のゲート電極をバイアスするための駆動回路や電源が不要となる。
【0173】
また、第5〜第7の実施形態において双方向スイッチ本体の逆阻止動作について説明したが、この動作はダイオードの動作と同じであるため、双方向スイッチ本体はダイオードで求められるのと同等の高速スイッチング特性が求められる。ダイオードのスイッチング特性とは、印加電圧の極性が切り替わる際に、すばやく電流を通電状態から遮断状態にする特性のことである。一般的なpn接合ダイオードは、アノードからカソードへ通電中に、ダイオードの印加電圧の極性を切り換えると、ダイオードは瞬間的にカソードからアノードへ電流を通電し、一定時間後にカソードからアノードへの電流を遮断する特性を示す。この特性は一般にリカバリー特性と呼ばれ、カソードからアノードへの電流が遮断されるまでの一定時間はリカバリー時間と呼ばれ、瞬間的にカソードからアノードへ流れる電流はリカバリー電流と呼ばれている。
【0174】
一般的にpn接合ダイオードのリカバリー電流は、少数キャリア蓄積効果により、通電時に注入された少数キャリアが、逆バイアス時に排出される課程で、ダイオードの整流作用と反して逆方向の電流として排出されことで発生する。
【0175】
ダイオードのリカバリー電流を低減するためには、原因となる少数キャリアを少なくすればよく、pn接合を廃したダイオードを構成すればよい。例えば、ショットキー障壁によりダイオードを構成しているショットキーバリアダイオードは、キャリアが電子のみであるためリカバリー電流が小さい。
【0176】
第5〜第7の実施形態における双方向スイッチ本体の逆阻止動作では、第2のゲート電極を通じて電流が流れるのではなく、第2の電極から第1の電極へ二次元電子ガスによるチャネル領域を介して通電する。つまり、p型半導体を通過することなく、ダイオードとしての動作を行い、寄生ダイオードのような寄生構造もないため、少数キャリア蓄積効果がない。その結果、pn接合ダイオードと比べてリカバリー電流が小さくなり、リカバリー時間が短くなる。
【0177】
(第8の実施形態)
以下に、本発明の第8の実施形態について図面を参照して説明する。
図25は第8の実施形態に係る半導体装置の構成を示している。
図25において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0178】
図25に示すように本実施形態の半導体装置は、制御部20が、第1のスイッチ回路23Aを介して第1のゲート電極18Aと接続された第1の電源21と、第2のスイッチ回路23Bを介して第2のゲート電極18Bと接続された第2の電源22とを有している。
【0179】
第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bは、発光ダイオード(LED)とフォトダイオードとからなるフォトカップラを有し、外部からの制御信号によりオン状態とオフ状態とを切り換えることができ且つ制御信号とスイッチ出力とを電気的に分離することができる。
図25においては、第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bに、ゲート駆動回路が内蔵された集積回路を用いる例を示している。このような集積回路は広く市販されているものを用いればよく、例えば東芝社製のフォトカップラTLP251等を用いればよい。また、このようなゲート駆動回路が内蔵された集積回路でなくても、制御信号とスイッチ出力とを電気的に分離できるスイッチであればどのようなものを用いてもよい。
【0180】
本実施形態においては、第1の電源21及び第2の電源22の電圧は、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bの閾値電圧よりも高く設定する。また、第2の電源22は、絶縁されたバッテリ又は絶縁型電圧コンバータ(DC−DCコンバータ)等の負荷電源31とは絶縁された電源を用いる。これにより、第2のゲート電極は、回路共通の基準電位(接地電位)とは異なる基準電位を有する駆動信号により駆動される。
【0181】
以下に、第8の実施形態に係る半導体装置の動作について説明する。外部からの制御信号により第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bがオン状態となると、第1の電源21と第1のゲート電極18A及び第2の電源22と第2のゲート電極18Bとがそれぞれ接続される。これにより、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bには、共に閾値電圧よりも高い電圧が印加されるため、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間には双方向に電流が流れる。
【0182】
一方、制御信号により第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bがオフ状態となった場合には、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bは、それぞれ第1の電源21及び第2の電源22と切り離され、第1のゲート電極18Aに第1の電極16Aと等しい電位が印加され、第2のゲート電極18Bに第2の電極16Bと等しい電位が印加される。第2の電極16Bの電位が+100Vで、第1の電極16Aの電位が0Vの場合には、第1のゲート電極18Aの電位は第1の閾値電圧以下の0Vとなるため、チャネル領域は第1のゲート電極18Aの下側においてピンチオフされ、第2の電極16Bから第1の電極16Aに電流は流れない。第2の電極16Bの電位が−100Vで、第1の電極16Aの電位が0Vの場合においても、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとの間の電圧は第2の閾値電圧以下の0Vとなる。従って、第1の電極16Aから第2の電極16Bに電流が流れることはない。
【0183】
(第9の実施形態)
以下に、本発明の第9の実施形態について図面を参照して説明する。
図26は第9の実施形態に係る半導体装置の構成を示している。
図26において
図25と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0184】
本実施形態の半導体装置は、制御部20が、第1の電源21と第1のスイッチ回路23Aを挟んで反対側に接続された第3の電源25と、第2の電源22と第2のスイッチ回路23Bを挟んで反対側に接続された第4の電源26とを有している。第1の電源21及び第2の電源22の電圧は例えば5Vであり、第3の電源25及び第4の電源26の電圧は例えば3Vに設定する。また、第2の電源22及び第4の電源26は負荷電源31と絶縁された電源を用いる。
【0185】
本実施形態においては、制御信号により第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bがオン状態となると、第8の実施形態と同様に、第1のゲート電極18Aと第1の電源21とが接続され、第2のゲート電極18Bと第2の電源22とが接続される。一方、第1のスイッチ回路23A及び第2のスイッチ回路23Bがオフ状態となると、第1のゲート電極18Aと第3の電源25とが接続され、第2のゲート電極18Bと第4の電源26とが接続される。従って、第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bには−3Vが印加される。このため、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間をより完全に遮断でき、リーク電流を低減できるので、半導体装置が消費する電力を低減することができる。
【0186】
第8及び第9の実施形態において、第1の電極が接地された例を示したが、第1の電極は接地されていなくてもよい。但し、この場合には、第1の電極と接続されたゲート制御用の電源は、負荷回路のグランドとは絶縁する。具体的には、バッテリ又は絶縁型DC−DCコンバータ又はチャージポンプ回路を用いた絶縁型電源等を用いればよい。
【0187】
(第10の実施形態)
以下に、本発明の第10の実施形態について図面を参照して説明する。
図27は第10の実施形態に係る半導体装置の構成を示している。
図27において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0188】
図27に示すように本実施形態の半導体装置は、制御部20が、HVIC(High VoltageIntegrated Circuit)と呼ばれるゲート駆動回路を内蔵する駆動素子53と第1の電源51及び第2の電源52とを有している。第1の電源51及び第2の電源52は第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bの閾値電圧以上の電圧、例えば5Vを出力している。制御部20に用いられている駆動素子53は、低電圧側で使用するローサイドゲート駆動回路53Aと高電圧側で使用するハイサイドゲート駆動回路53Bとを有している。
【0189】
一般に高電圧側に接続されているゲート駆動回路に制御信号を伝えるにはフォトカプラ又は絶縁トランス等を用い、制御信号を電気的に絶縁する必要がある。しかし、HVICは、ハイサイドゲート駆動回路53Bへの制御信号の伝達をレベルシフト回路53Cにより行うため、フォトカプラ及び絶縁トランス等を用いる必要がなく、装置を小型化及び低コスト化することができる。
【0190】
本実施形態において用いた駆動素子53は、ローサイド側の入力端子LINに入力された信号によりローサイドゲート駆動回路53Aが駆動される。入力端子LINにローレベル(例えば、0V)の信号が入力されると、ローサイド側の出力端子LOとローサイド側の接地端子LGNDとが接続され、出力端子LOとローサイド側のバイアス電源端子VCCとは絶縁される。一方、入力端子LINにハイレベル(例えば、5V)の信号が入力されると、出力端子LOと接地端子LGNDとが絶縁され、出力端子LOとバイアス電源端子VCCとが接続される。
【0191】
また、ハイサイド側の入力端子HINに入力された信号は、レベルシフト回路53Cを介してハイサイドゲート駆動回路53Bに伝達され、ハイサイドゲート駆動回路53Bを駆動する。入力端子HINにローレベルの信号が入力されると、ハイサイド側の出力端子HOとハイサイド側のオフセット端子VSとが接続され、出力端子HOとハイサイド側のバイアス電源端子VBとは絶縁される。一方、入力端子LINにハイレベルの信号が入力されると、出力端子HOとオフセット端子VSとが絶縁され、出力端子HOとバイアス電源端子VBとが接続される。
【0192】
レベルシフト回路53Cを介して信号が伝達されることにより、共通の基準電位である接地電位と異なる電位を基準とするハイサイドゲート駆動回路に、制御信号を伝達することが可能となる。つまり、出力端子HOから出力されるハイサイド側の制御信号は、基準電位が接地電位とは異なる駆動信号となる。
【0193】
本実施形態の半導体装置は、ローサイド側の入力端子LINには第1の信号源54から第1の制御信号が供給され、出力端子LOは半導体素子10の第1のゲート電極18Aと接続されている。駆動素子53の接地端子GNDと電源端子VDDとの間及びローサイド側の接地端子LGNDとローサイド側のバイアス電源端子VCCとの間には第1の電源51が接続されており、接地端子GND及び接地端子LGNDは第1の電極16Aと接続されている。本実施形態においては、第1の制御信号及び第2の制御信号のローレベル及びハイレベルは例えば0V及び5Vとする。
【0194】
第1の制御信号がローレベルの場合には、第1のゲート電極18Aと第1の電極16Aとは短絡され、第1の制御信号がハイレベルの場合には、第1のゲート電極18Aと第1の電極16Aとの間には、第1の電源51により第1のゲート電極18Aの閾値電圧以上の電圧が印加される。
【0195】
一方、ハイサイド側の入力端子HINには第2の信号源55から第2の制御信号が供給され、出力端子HOは第2のゲート電極18Bと接続されている。ハイサイド側のオフセット端子VSとハイサイド側のバイアス電源端子VBとの間には第2の電源52が接続されており、オフセット端子VSは第2の電極16Bと接続されている。なお、第2の電源52は、第1の電極16Aの電位から電気的に絶縁された絶縁型電源である。
【0196】
従って、第2の制御信号がローレベルの場合には、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとは短絡され、第2の制御信号がハイレベルの場合には、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとの間に、第2の電源52により第2のゲート電極18Bの閾値電圧以上の電圧が印加される。
【0197】
このため、第1の制御信号及び第2の制御信号をローレベルとすることにより、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に電流が流れない遮断状態を実現できる。また、第1の制御信号及び第2の制御信号をハイレベルとすることにより、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に双方向に電流が流れる導通状態を実現できる。さらに、第1の制御信号をローレベルとし、第2の制御信号をハイレベルとすることにより第1の電極16Aから第2の電極16Bには電流が流れ、第2の電極16Bから第1の電極16Aには電流が流れない逆阻止状態とすることができる。また、第1の制御信号をハイレベルとし、第2の制御信号をローレベルとすることにより第2の電極16Bから第1の電極16Aには電流が流れ、第1の電極16Aから第2の電極16Bには電流が流れない逆阻止状態とすることができる。
【0198】
本実施形態の半導体装置は、制御部20にHVICからなる駆動素子53を用いているため、ハイサイド側の駆動回路に制御信号を伝えるためのフォトカプラ又は絶縁トランス等が不要となる。従って、制御部20を小型化及び、低コスト化することができる。なお、駆動素子53として、ハイサイド側の駆動回路が誘電体により分離されたHVICを用いている。
【0199】
なお、レベルシフト回路は、IC化が可能なトランスを有し、そのトランスを介して信号を伝達することで入力信号と出力信号を電気的に絶縁する回路である。具体的な例としてアナログデバイス社製ICのADum5240等が知られている。
【0200】
(第11の実施形態)
以下に、本発明の第11の実施形態について図面を参照して説明する。
図28は第11の実施形態に係る半導体装置の構成を示している。
図28において
図27と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0201】
図28に示すように本実施形態の半導体装置は、制御部20が第2の電源に代えてコンデンサ61を有すると共に、コンデンサ61を充電するための充電回路63と、ローサイド側の出力端子LOの出力及びハイサイド側の出力端子HOの出力をそれぞれ一定電圧以下にする第1の降圧回路64及び第2の降圧回路65とを有している。
【0202】
充電回路63は、充電スイッチ回路と充電スイッチ回路を駆動するロジック回路67とを有している。充電スイッチ回路は、駆動電源66とコンデンサ61との間に直列に接続されたダイオード69とpチャネルMOSFETからなる半導体スイッチ68を含む。半導体スイッチ68であるpチャネルMOSFETの閾値電圧は、例えば−3Vとする。ロジック回路67は、排他論理積(NAND)ゲート回路67Aと遅延回路67Bとを有する。ロジック回路67は、第1の制御信号及び第2の制御信号が共にハイレベルとなった際に、遅延回路67Bにより設定された遅延時間だけ遅れて出力がローレベルとなり、第1の制御信号及び第2の制御信号の少なくとも一方がローレベルとなった際に、遅延時間だけ遅れて出力がハイレベルとなる。
【0203】
第1の降圧回路64は、抵抗64Aとツェナーダイオード64Bとを有し、出力端子LOの出力をツェナーダイオード64Bの降伏電圧以下に制限する。第2の降圧回路65は抵抗65Aとツェナーダイオード65Bを有し、出力端子HOの出力をツェナーダイオード65Bの降伏電圧以下に制限する。ツェナーダイオード64B及びツェナーダイオード65Bの降伏電圧は、半導体素子10の第1のゲート電極及び第2のゲート電極に流れ込む過電流によりトランジスタが破壊しない程度の電圧以下となるように設定すればよく、例えば5Vとすればよい。
【0204】
本実施形態において、駆動電源66は、第1のゲート電極18Aの閾値電圧以上の例えば10Vの電圧を出力する。また、第1の制御信号及び第2の制御信号のハイレベルは例えば駆動電源66の出力と等しい10Vとし、ローレベルは0Vとする。
【0205】
以下に、本実施形態の半導体装置の動作について説明する。まず、第1の制御信号及び第2の制御信号がハイレベルとなると、出力端子LOと第1の電極16Aとの間の電圧は、駆動電源66の出力と等しい10Vとなる。しかし、第1の降圧回路64により出力電圧は5Vに制限されるため、第1のゲート電極18Aと第1の電極16Aとの間の電圧は5Vとなる。この際に第2の電極16Bに正の電圧が印加されていると、半導体素子10はオン状態となり電流が流れるため、第2の電極16Bの電位はオン電圧まで低下する。オン電圧は半導体素子10のオン抵抗と通電電流とによって決まるが、ここでは例えば3Vであるとして説明をする。
【0206】
一方、第1の制御信号及び第2の制御信号がハイレベルとなることによりロジック回路67の出力はローレベルとなる。従って、半導体スイッチ68のゲートには0Vが印加される。半導体スイッチ68のソースの電位は10Vであるため、ソースに対するゲートの電圧が閾値電圧以下の−10Vとなり、半導体スイッチ68はオン状態となる。第2の電極16Bの電圧がオン電圧である3Vに低下しているため、コンデンサ61の両端には半導体スイッチ68とダイオード69を通して7Vの電圧が印加されて充電される。
【0207】
また、入力端子HINがハイレベルであるため、出力端子HOと第2の電極16Bとの間の電圧は、バイアス電源端子VBとオフセット端子VSとの間の電圧である7Vとなる。出力端子HOの出力電圧は第2の降圧回路65により5Vに降圧されるため、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとの間の電圧は5Vとなる。これにより、半導体素子10は双方向に電流が流れる導通状態となる。また、コンデンサ61は7Vに充電された状態を保つ。
【0208】
次に、第1の制御信号及び第2の制御信号がローレベルとなると、ロジック回路67の出力はハイレベルとなり、半導体スイッチ68のゲートには10Vが印加される。これにより半導体スイッチ68のソースゲート間の電圧は0Vとなり、半導体スイッチ68はオフ状態となる。
【0209】
この状態で、第2の電極16Bの電位が正の高電位(例えば+100V)となると、制御部20には正の高電圧が印加される。しかし、ダイオード69がその高電圧を担い、制御部20が破壊されないようにする。また、第2の電極16Bの電位が負の高電位(例えば−100V)となると、制御部20には負の高電圧が印加される。しかし、半導体スイッチ68がオフ状態であるため、半導体スイッチ68がその高電圧を担い、制御部20が破壊されないようにする。このように、半導体素子10がオフ状態の場合に、正又は負の高電圧が印加されたとしても、制御部20がその高電圧で破壊されることはない。
【0210】
コンデンサ61に再び充電する場合は、半導体素子10をオン状態とし、第2の電極16Bの電位をオン電圧まで低下させればよい。もし、コンデンサ61に充電されるまでの時間が長い場合又はゲート駆動回路により大きな電力が必要な場合には、容量の大きなコンデンサを使用すればよい。
【0211】
また、NAND回路67Aの出力と半導体スイッチ68のゲートとの間に設けられた遅延回路67Bは、半導体素子10がオン状態となった後に半導体スイッチ68をオン状態とするために設けられている。このため、遅延回路67Bの遅延時間は半導体素子10がオン状態となるまでの時間よりも遅く設定すればよい。
【0212】
本実施形態の半導体装置は、第2のゲート電極18Bにバイアス電圧を印加するための絶縁型の電源が不要となる。従って、制御部20をさらに小型化及び低コスト化することが可能となる。
【0213】
なお、一般に使用されるハーフブリッジ回路用のHVICは、端子HINと端子LINに入力される信号が同時にハイレベルとなることを内蔵するロジック回路が禁止している。しかし、第10及び第11の実施形態において使用したHVICは、端子HINと端子LINとが同時にハイレベルとなった場合においても動作が可能なHVICを使用した。
【0214】
また、本発明で使用したHVICは、端子HINに入力した信号がレベルシフト回路53Cを介してハイサイドゲート駆動回路53Bに入力される。このため、ハイサイドゲート駆動回路53Bにおける、制御信号が入力されてからゲート電圧を出力するまでの遅延時間が、ローサイドゲート駆動回路53Aにおける遅延時間よりも長くなってしまうおそれがある。この場合には、ローサイドゲート駆動回路53Aの入力端子LINに遅延回路を設け、ローサイドゲート駆動回路53Aの出力とハイサイドゲート駆動回路53Bの出力とが同期するようにすればよい。
【0215】
本実施形態においては、ゲート駆動回路がHVICである例を示したが、フォトカップラを有するゲート駆動回路を用いてもよい。また、半導体スイッチ68をpチャネルMOSFETとしたが、これに代えてpチャネルIGBT又はPNPトランジスタを用いてもよい。
【0216】
(第12の実施形態)
以下に、本発明の第12の実施形態について図面を参照して説明する。
図29は第12の実施形態に係る半導体装置の回路構成を示している。
図29において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0217】
図29に示すように本実施形態の半導体装置は、制御部20がトランス70を有し、第1の信号源54が第1の電極16Aと第1のゲート電極18Aとの間に接続され、第2の信号源55がトランス70の二次側を介して第1の電極16Aと第2のゲート電極18Bとの間に接続されている。トランス70の一次側は、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に接続されている。トランス70は、入力電圧と出力電圧とが1:1となり、使用する負荷回路30の周波数において一次側に入力される電圧と二次側へ出力される電圧とが同位相となるものを用いた。また、第1の信号源54が出力する第1の制御信号及び第2の信号源55が出力する第2の制御信号のローレベル及びハイレベルは、例えば0Vと5Vとする。
【0218】
このような半導体装置において、例えば、負荷回路30が−100V〜+100Vの交流信号を出力している場合には、トランス70の一次側にも−100V〜+100Vの交流信号が入力される。このため、トランス70の二次側にも同位相で−100V〜+100Vの交流信号が出力される。
【0219】
この状態において、第2の制御信号を0Vとすると、トランス70の二次側の電圧は一次側の電圧と等しくなる。従って、第2の電極16Bの電位が−100Vの場合には、第2のゲート電極18Bの電位も−100Vとなり、第2の電極16Bの電位が+100Vの場合には、第2のゲート電極18Bの電位も+100Vとなる。つまり、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとの間には常に第2の閾値電圧以下の電圧が印加される。
【0220】
同時に、第1の制御信号を0Vとすると、第1のゲート電極18Aと第1の電極16Aとの間の電圧も0Vとなり、双方向に電流が流れない遮断状態を実現できる。また、第1の制御信号を5Vとすると、第2の電極16Bから第1の電極16Aに電流が流れ、第1の電極16Aから第2の電極16Bに電流が流れない逆阻止状態を実現できる。
【0221】
一方、第2の制御信号を5Vとすると、トランス70の二次側の電圧は一次側の電圧よりも5V高くなる。従って、第2のゲート電極18Bと第2の電極16Bとの間の電圧は、第2の閾値電圧よりも高い5Vとなる。この状態において、第1の制御信号を5Vとすると、第1の電極16Aと第2の電極16Bとの間に双方向に電流が流れる導通状態を実現できる。また、第1の制御信号を0Vとすると、第1の電極16Aから第2の電極16Bに電流が流れ、第2の電極16Bから第1の電極16Aに電流が流れない逆阻止状態を実現できる。
【0222】
本実施形態の半導体装置は、ゲート駆動用の電源が不要であるため、制御回路の簡素化及び低コスト化が可能となる。
【0223】
なお、本実施形態においては、トランス70として、使用する負荷回路30の周波数において一次側に入力される電圧と二次側へ出力される電圧とが同位相となるものを使用した。しかし、二次側に位相補償回路を設けることにより、同位相でないトランスを使用することも可能である。位相補償回路はどのようなものを用いてもよく、例えばトランス70の二次側と第2のゲート電極18Bとの間に、二次側が一次側と同位相となるような容量値をもつコンデンサを接続すればよい。
【0224】
また、本実施形態においては第1の信号源54及び第2の信号源55の電力により第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bに電流を印加しているが、ゲート駆動回路を介して第1のゲート電極18A及び第2のゲート電極18Bにバイアス電圧を印加する構成としてもよい。
(第13の実施形態)
以下に、本発明の第13の実施形態について図面を参照して説明する。
図30は第13の実施形態に係る半導体装置の回路構成を示している。
図30において
図19と同一の構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0225】
図30に示すように本実施形態の半導体装置は、制御部20がトランス70とnチャネルMOSFET71とダイオード72とツェナーダイオード73と第1の電源74とを有している。
【0226】
第1の信号源54は、第1の電極16Aと第1のゲート電極18Aとの間に接続され、第2の信号源55は、nチャネルMOSFET71のゲート端子とソース端子の間に接続されている。nチャネルMOSFET71のソース端子は第1の電極16Aと接続され、第1の電源74の負極は第1の電極16Aと接続され、第1の電源74の正極はトランス70の一次側の一方の端子に接続されている。トランス70の一次側の他方の端子は、nチャネルMOSFET71のドレイン端子と接続されている。トランス70の一次側の両端子の間にはダイオード72とツェナーダイオード73とが直列に接続されている。トランスの二次側の一方の端子は第2の電極16Bと接続され、他方の端子は第2のゲート電極18Bと接続されている。トランス70の二次側の両端子の間には抵抗素子75が接続されている。トランス70は、入力電圧と出力電圧とが1:1である。また、第1の信号源54が出力する第1の制御信号及び第2の信号源55が出力する第2の制御信号のローレベル及びハイレベルは、例えば0Vと5Vとする。
【0227】
nチャネルMOSFET71のオン状態とオフ状態とは、第2の信号源55により制御される。このため、トランス70の一次側に接続されたnチャネルMOSFET71と第1の電源74とは、パルス状の電流の発生させるパルス電流発生部となっている。トランス70の一次側へパルス状の電流を入力すると、トランス70の二次側回路には電圧が発生する。発生した電圧を抵抗素子75で受けることにより、第2の電極16Bと第2のゲート電極18Bとの間に所望の電圧を印加する。このような構成とすることで、ハイサイド側の絶縁電源をなくすことが可能となり、部品点数が少なくなるため、デュアルゲートの半導体素子10の制御部20をより低コストに作製できる。
【0228】
なお、トランス70の一次側に流す電流のオンオフ動作を行うと、トランス70のインダクタンスにより第1の電源74及びnチャネルMOSFET71を破壊するほど高い電圧が発生する。その電圧を吸収するため、ダイオード72とツェナーダイオード73とを異なる極性で直列接続した保護回路をトランス70の一次側に設けている。
【0229】
なお、第10〜第13の実施形態において逆阻止状態が必要ない場合には、制御用の信号源は1つでよい。また、第8及び第9の実施形態の回路についても、制御用の信号源を2つ設けることにより逆阻止状態を実現することが可能である。
【0230】
第10〜第13の実施形態において、デュアルゲートの半導体素子10は、第5の実施形態において示したものを用いたが、第6及び第7の実施形態において示したものを用いてもよい。また、ノーマリオフ型のものに代えて、ノーマリオン型のものを用いてもよい。この場合に、第1のゲート電極及び第2のゲート電極に印加する電圧は、第1のゲート電極の閾値電圧及び第2のゲート電極の閾値電圧に応じて適当な値に変更すればよい。また、第1のゲート電極の閾値電圧と第2のゲート電極の閾値電圧とは異なっていてもよい。
【0231】
(第14の実施形態)
以下に、本発明の第14の実施形態について図面を参照して説明する。
図31は本発明の第14の実施形態に係る窒化物半導体装置を用いたプラズマディスプレイ駆動回路を示している。本実施形態のプラズマディスプレイ駆動回路は、プラズマディスプレイパネルの電極にサステインパルスを供給するサステイン回路であり、以下のような構成を有している。
【0232】
第1のスイッチング素子84の出力の一端は電源ラインV
susに接続され、他端はサステイン回路の出力SUSと接続されている。第2のスイッチング素子85の出力の一端はサステイン回路の出力SUSと接続され、他端は接地されている。第3のスイッチング素子86の出力の一端は、コンデンサ89の一端と接続され、コンデンサ89の他端は接地されている。第3のスイッチング素子86の他端は、インダクタ88の一端と接続されている。第4のスイッチング素子87は、第3のスイッチング素子86と導通方向を逆方向にして並列接続され、第3のスイッチング素子86及び第4のスイッチング素子87により双方向スイッチング回路90が形成されている。インダクタ88の他端は、サステイン回路の出力SUSと接続されている。第1のスイッチング素子84、第2のスイッチング素子85、第3のスイッチング素子86及び第4のスイッチング素子87の各ゲート端子は、それぞれゲート駆動回路83を介して制御信号線CTL1、制御線CTL2、制御線CTL3及び制御線CTL4と接続されている。
【0233】
双方向スイッチング回路90は、出力SUSが接続されたプラズマディスプレイパネルの電極が有するコンデンサ成分とインダクタ88とに起因する共振電流が流れる経路を形成するために設けられている。サステインパルスは、周期的に交互に反転する大電流のパルスである。従って、双方向スイッチング回路90を構成するスイッチング素子には、正方向及び逆方向の大きな耐圧と、高速な動作が求められる。
【0234】
双方向スイッチング回路90を構成する第3のスイッチング素子86及び第4のスイッチング素子87に例えば、
図3に示す第1の実施形態の半導体装置を用いることにより、大電流のパルスを双方向に制御できるスイッチを容易に実現することができる。第1の実施形態の半導体装置は、十分な逆耐圧特性を有しているため、従来は必要であった逆耐圧特性を向上するためのダイオードが不要となるという効果も得られる。
【0235】
第1の実施形態の半導体装置は、オン抵抗が小さいため、スイッチング時間を短縮すると共に、スイッチング素子の電力損失を小さくでき、ジャンクション温度の制約をほとんど受けることがなくなる。また、第1の実施形態の半導体装置は、第1の窒化物半導体層及び第2の窒化物半導体層にホウ素等の不純物を注入することにより素子分離領域を形成すれば、1つの基板の上に2つの半導体装置を容易に形成することができる。このようにして、第3のスイッチング素子86と第4のスイッチング素子87とを1チップ化すれば、スイッチング素子間に生じる特性のばらつき及び配線のインピーダンス差による電流集中の問題もなくなり、スイッチング素子の電力能力を効率的に小さくできる。
【0236】
なお、第3のスイッチング素子86及び第4のスイッチング素子87には、他の実施形態に示した半導体素子を用いてもよい。また、双方向スイッチング回路90とゲート駆動回路83とを第5〜第13の実施形態において示した双方向スイッチ装置に置き換えてもよい。
【0237】
第1のスイッチング素子84及び第2のスイッチング素子85には、第2のコントロール層19Bを設けていないノーマリオフ型の窒化物半導体を用いた半導体装置を用いることができる。
【0238】
各実施形態及びその変形例において、デュアルゲート半導体素子を窒化物半導体により形成する例を示したが、基板の主面と平行に電子が走行する半導体素子であればよく、炭化珪素(SiC)等からなる半導体により形成されていてもよい。第1のゲート電極及び第2のゲート電極の材料にPdとAuとを用いたが、p型半導体とオーミック接合を形成すれば、これらに代えてNi等を用いてもよい。また、基板11は、Siに代えてGaN、サファイア、SiC、ZnO、GaAs、GaP、InP、LiGaO
2若しくはLiAlO
2又はこれらの混晶等であってもよい。
【0239】
第1の電極及び第2の電極がオーミック接合したオーミック電極である例を示したが、制御すべき電流が流れれば必ずしもオーミック電極である必要はない。
【0240】
保護膜はSiNである例を示したが、絶縁性が確保できればば特に限定はなく、窒化アルミニウム(AlN)、酸化シリコン(SiO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、アルミナ(Al
2O
3)又は酸化タンタル(Ta
2O
5)等を用いてもよい。
【0241】
また、各実施形態及び変形例において示した半導体素子は、AlGaN層やGaN層の主面が、c面((0001)面)である例を示している。しかし、c面ではなく、窒素とIII族元素を同数含む無極性面であってもよい。例えば、A面(11−20)上に形成されていてもよい。このような構成にすることで、二次元電子ガス層によるチャネルに発生していた分極に起因するキャリアをなくし、閾値電圧をより正の方向に上昇させることができるため、ゲート直下に凹部構造を形成したり、AlGaN層を薄膜化することなく、容易にノーマリーオフ動作が可能となる。
【0242】
また、第2の半導体層15は、いずれの実施形態及び変形例においても、アンドープとしてもn型としてもよい。
【0243】
なお、第8〜第13の実施形態において、第1の電極を接地している場合について説明したが、接地されていなくともよい。
【0244】
また、第8〜第13の実施形態において、第2の電源には第1の電極の電位から絶縁されたバッテリ又は絶縁型電圧コンバータ(DC−DCコンバータ)等を用いればよい。また、第1の電源は、非絶縁型電源でよく、コストがより安い非絶縁型DC−DCコンバータ等を用いてもよい。
【0245】
また、第10及び第11の実施形態におけるHVICを駆動するための電源は、周辺回路の電源と共用してもよい。
【0246】
また、第8〜第11の実施形態において、交流電源を用いた負荷回路を用いたが、交流電源ではなく、パルス波形を出力する回路などでもよく、特に限定はない。
【0247】
第8〜第13の実施形態において、制御部の具体例を示したが、他の構成の制御部を用いてもよい。この場合、第2のゲート電極を駆動する第2の駆動回路は、基準電位が接地電位等の回路共通の基準電位とは異なる制御信号を出力するものであればよい。
【0248】
各実施形態及び変形例において、凸部又は凹部と表現した構造は、その角が丸みを帯びていてもよい。