特許第5715203号(P5715203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715203
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】車両用開閉体制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/603 20150101AFI20150416BHJP
【FI】
   E05F15/10
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-157188(P2013-157188)
(22)【出願日】2013年7月29日
(62)【分割の表示】特願2009-44300(P2009-44300)の分割
【原出願日】2009年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-227862(P2013-227862A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2013年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正樹
【審査官】 川島 陵司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−150828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/603
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた開口部を開閉する車両用開閉体を制御する車両用開閉体制御装置であって、
前記車両用開閉体を駆動する電動モーターと、
前記電動モーターの回転により生じる力を推定する推定部と、
前記電動モーターの状態に基づいて閾値を決定する閾値決定部と、
前記閾値決定部によって決定された前記閾値と前記推定部によって推定された力とを比較し、前記閾値よりも前記推定部によって推定された力が大きい場合に前記車両用開閉体と前記開口部の縁部との間に物体が挟まれたと判定する判定部と、
前記判定部からの指示に基づいて、前記電動モーターの回転を制御する制御部と、
を備え
前記閾値決定部は、
前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力の方が大きいと判定されてから前記電動モーターの回転が停止するまでの間の前記電動モーターの惰走による回転によって挟まれた物体に生じる負荷の最大値が所定値となるようにするとともに、
前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力のほうが大きいと判定されてから前記電動モーターの回転が停止するまでの間の前記電動モーターの惰走による回転によって生じる前記負荷の増加分を前記所定値から減算した値の負荷が生じるときの前記電動モーターの回転によって生じる力を推定し、推定された値を前記閾値として決定する、
ことを特徴とする車両用開閉体制御装置。
【請求項2】
前記車両用開閉体制御装置は、前記電動モーターの回転の角速度を算出する角速度算出部と、前記制御部が前記電動モーターに印加する電圧値を検出する電圧値検出部とを有し、前記推定部は前記角速度算出部の角速度と前記電圧値検出部の電圧値とから前記電動モーターの回転により生じる力を推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用開閉体制御装置。
【請求項3】
前記閾値決定部は、
前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力のほうが大きいと判定されてから前記電動モータの回転が停止するまでの間を遅延時間と惰走時間とに分け、
前記遅延時間に電動モータが回転する角度(遅延角度)および前記惰走時間に電動モータが回転する角度(惰走角度)それぞれを前記角速度算出部によって算出された角速度を用いて算出し、
前記遅延角度及び前記惰走角度を用いて、閾値を算出することを特徴とする請求項2に記載の車両用開閉体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に取り付けられるサンルーフや窓等の車両用開閉体を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の天窓に配設されたサンルーフを電動モーターによって自動的に開閉する装置において、サンルーフによる物体の挟み込みを検知し、サンルーフを閉じる動作を停止する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、サンルーフの移動速度の変動に基づいて挟み込みの検知を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−150791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、挟み込みを検知してサンルーフの停止処理を行った後にも、モーターは惰性で回転しすぐには停止しない。そのため、挟み込まれた物体に生じる荷重が、挟み込みが検知された時点に発生している荷重よりも増大してしまう。したがって、サンルーフを動かす電動モーターの状況(回転速度や印加電圧など)によっては、挟み込まれた物体に生じる荷重の最大値が、想定されている荷重よりも大きくずれてしまうことがあるという問題があった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、サンルーフなどの車両用開閉体において挟み込みを検知し停止処理を行った際に、挟み込まれた物体に生じる荷重の最大値のぶれを小さくすることを可能とする車両用開閉体制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両に設けられた開口部を開閉する車両用開閉体を制御する車両用開閉体制御装置であって、前記車両用開閉体を駆動する電動モーターと、前記電動モーターの回転により生じる力を推定する推定部と、前記電動モーターの状態に基づいて閾値を決定する閾値決定部と、前記閾値決定部によって決定された前記閾値と前記推定部によって推定された力とを比較し、前記閾値よりも前記推定部によって推定された力が大きい場合に前記車両用開閉体と前記開口部の縁部との間に物体が挟まれたと判定する判定部と、前記判定部からの指示に基づいて、前記電動モーターの回転を制御する制御部と、を備え、前記閾値決定部は、前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力の方が大きいと判定されてから前記電動モーターの回転が停止するまでの間の前記電動モーターの惰走による回転によって挟まれた物体に生じる負荷の最大値が所定値となるようにするとともに、前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力のほうが大きいと判定されてから前記電動モーターの回転が停止するまでの間の前記電動モーターの惰走による回転によって生じる前記負荷の増加分を前記所定値から減算した値の負荷が生じるときの前記電動モーターの回転によって生じる力を推定し、推定された値を前記閾値として決定する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様において、前記車両用開閉体制御装置は、前記電動モーターの回転の角速度を算出する角速度算出部と、前記制御部が前記電動モーターに印加する電圧値を検出する電圧値検出部とを有し、前記推定部は前記角速度算出部の角速度と前記電圧値検出部の電圧値とから前記電動モーターの回転により生じる力を推定するとしても良い。
本発明の一態様において、前記閾値決定部は、前記判定部によって前記閾値よりも前記推定された力のほうが大きいと判定されてから前記電動モータの回転が停止するまでの間を遅延時間と惰走時間とに分け、前記遅延時間に電動モータが回転する角度(遅延角度)および前記惰走時間に電動モータが回転する角度(惰走角度)それぞれを前記角速度算出部によって算出された角速度を用いて算出し、前記遅延角度及び前記惰走角度を用いて、閾値を算出するとしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、車両用開閉体の挟み込みの発生を判定する際に用いられる閾値が、車両用開閉体を駆動する電動モーターの状態に基づいて決定される。そのため、電動モーターの状態に関わらずに閾値が一定であった従来に比べ、サンルーフなどの車両用開閉体において挟み込みを検知し停止処理を行った際に、挟み込まれた物体に生じる荷重の最大値のぶれを小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用開閉体システムの機能構成を表す概略ブロック図である。
図2】角速度算出部が行う角速度算出処理の概略を表す図である。
図3】電動モーターのアーマチュア軸のトルク(縦軸)及びアーマチュア軸の角速度(横軸)の関係を表すグラフである。
図4】挟み込み発生時のアーマチュア軸の角速度の時間変化を表すグラフである。
図5】挟み込み発生時のアーマチュア軸の回転によって生じる荷重の時間変化を表すグラフである。
図6】閾値決定部の処理の流れを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、車両用開閉体システムの機能構成を表す概略ブロック図である。車両用開閉体システムは、車両用開閉体1、電源2、操作パネル3、車両用開閉体制御装置4を備える。
【0013】
車両用開閉体1は、車両に設けられた開口部を開閉するものであり、例えばドアの開口部(窓枠)に設けられたスライド式の窓ガラスや、屋根(ルーフ)の開口部に設けられたスライド式又はチルト式のサンルーフパネル等である。車両用開閉体1は、車両用開閉体制御装置4の電動モーター401から与えられる駆動力によって開閉動作を行う。
【0014】
電源2は、車両に設けられたバッテリー等の電力供給部であり、特に車両用開閉体制御装置4の電動モーター401を回転動作させるための電力や車両用開閉体制御装置4の各機能部が処理を行うための電力を供給する。
【0015】
操作パネル3は、使用者が車両用開閉体1の開閉動作を指示するためのボタンを有し、押下されたボタンに応じた入力信号を車両用開閉体制御装置4のモーター制御部402に対して出力する。例えば、操作パネル3は、使用者によって開ボタンが押下された場合には開信号をモーター制御部402に対して出力し、閉ボタンが押下された場合には閉信号をモーター制御部402に対して出力する。
【0016】
車両用開閉体制御装置4は、電動モーター401、モーター制御部402、電圧値検出部403、角速度算出部404、推定部405、閾値決定部406、判定部407を備える。
【0017】
電動モーター401は、図示しないアーマチュア軸とアーマチュア軸の回転を減速させ、出力する図示しない減速機構を有する減速機構付モーターであって、モーター制御部402による制御に従ってアーマチュア軸を回転動作させ、アーマチュア軸の回転によって生じた駆動力を車両用開閉体1へ与える。電動モーター401には、モーターパルス検出部が設けられる。具体的には、複数の磁極を有するマグネットがアーマチュア軸と一体回転可能に取り付けられると共に、そのマグネットの近傍にセンサーとしてホールIC(Integrated Circuit)が設置される。アーマチュア軸が回転すると、アーマチュア軸の回転に連動してマグネットも回転する。そして、ホールICはマグネットの回転による磁極の切り替わりごとにパルス信号を発生する。電動モーター401は、ホールICから発生したパルス信号を角速度算出部404に対して出力する。
【0018】
モーター制御部402は、操作パネル3及び判定部407からの指示に基づいて、電源2から供給される電力を電動モーター401に与え、電動モーター401のアーマチュア軸の回転を制御する。例えば、モーター制御部402は操作パネル3から開信号を入力すると、車両用開閉体1が開く方向へ動くように電動モーター401のアーマチュア軸を回転させるべく、電源2から供給される電力を電動モーター401に通電させる制御を行う。また、モーター制御部402は判定部407から停止信号を入力すると、電動モーター401のアーマチュア軸の回転を停止させるべく、電源2から電動モーター401へ供給される電力を遮断する制御を行う。
【0019】
電圧値検出部403は、電源2からモーター制御部402を介して電動モーター401に印加される電圧の大きさ(電圧値)を検出する。
角速度算出部404は、電動モーター401のホールICから出力されるパルス信号に基づいて、電動モーター401のアーマチュア軸の回転における角速度を算出する。角速度算出部404が行う角速度算出処理は、既存のどのような技術によって実現されても良い。
【0020】
推定部405は、電圧値検出部403によって検出された電圧値と、角速度算出部404によって算出された角速度とに基づいて、電動モーター401のアーマチュア軸の回転によって生じるトルクの大きさを推定する。
【0021】
閾値決定部406は、角速度算出部404によって算出された角速度に基づいて、判定部407の判定処理において用いられる閾値を決定する。
判定部407は、推定部405によって推定されたトルクの大きさと、閾値決定部406によって決定された閾値とを比較し、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に物体が挟まれたか否か(挟み込み発生の有無)について判定する。判定部407は、推定部405によって推定されたトルクの大きさが、閾値決定部406によって決定された閾値よりも大きいと判定された場合は、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に物体が挟まれたと判定してモーター制御部402へ停止信号を出力し、推定部405によって推定されたトルクの大きさが、閾値決定部406によって決定された閾値よりも小さいと判定された場合は、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に物体が挟まれていないと判定する。
【0022】
図2は、角速度算出部404が行う角速度算出処理の概略を表す図である。A相センサー信号とB相センサー信号とは、それぞれアーマチュア軸と同心円の円周上の異なる角度(180度よりも小さい角度)の位置に設置された二つのホールICから出力されるパルス信号である。図2の場合は、二つのホールICは45度ずれて設置される。また、アーマチュア軸に取り付けられるマグネットは4極(90度ずつずれて)取り付けられる。図2の場合、角速度算出部404は、式1及び式2に基づいて角速度ω(n)を算出する。なお、式2においてzは減速比を表す。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
図3は、電動モーター401のアーマチュア軸のトルクT(縦軸)及びアーマチュア軸の角速度ω(横軸)の関係を表すグラフである。基準電圧時の特性直線は、予め定められた基準電圧が電動モーター401に印加された場合の特性直線を表す。また、特性直線と縦軸(トルク軸)とが交わるときのトルクの値を、ロックトルクと呼ぶ。また、推定時の特性直線は、基準電圧とは異なる電圧が電動モーター401に印加されている場合の特性直線を表す。
【0026】
推定部405は、基準電圧時の特性直線に基づいてトルクの大きさを推定する。以下、推定部405による推定処理の内容について説明する。推定部405は、式3に基づいて、電動モーター401によって生じるトルクT(k)を算出する。式3において、Tlockは基準電圧時のロックトルクを表し、Vbaseは基準電圧値を表し、vmod(k)は電圧値検出部403によって検出された電圧値を表し、aは基準電圧時の特性直線の傾きを表し、ω(k)は角速度算出部404によって算出された角速度を表す。このうち、Tlock、Vbase、aの三つの値は、予め推定部405において設定された既知の値である。
【0027】
【数3】
【0028】
また、推定部405は、式4に基づいて、慣性モーメントに係るトルクT(k)を算出する。式4において、T(k)はパルスエッジ間時間を表し、Jは慣性モーメントを表す。なお、パルスエッジ間時間とは、角速度算出部404において検出された最新のT(n)の値(図2参照)を表す。このうち、Jは、予め推定部405において設定された既知の値である。
【0029】
【数4】
【0030】
そして、推定部405は、式3及び式4の算出結果と式5に基づいてトルクの推定値T(k)を算出する。
【0031】
【数5】
【0032】
図4は、挟み込み発生時のアーマチュア軸の角速度の時間変化を表すグラフである。角速度は、挟み込みが発生するまでは一定値であり、挟み込みが発生すると時間の経過にしたがって低下する。また、判定部407によって挟み込みが発生したと判定された時点(挟み込み検知)から、電動モーター401のアーマチュア軸の回転が停止する時点(モーター停止)までの時間は、遅延時間と惰走時間とに分けられる。遅延時間は、判定部407によって挟み込みが発生したと判定された時点から、モーター制御部402によって電動モーター401の停止制御が開始される時点(リレーOFF)までの時間である。惰走時間は、モーター制御部402によって電動モーター401の停止制御が開始された時点(リレーOFF)から、電動モーター401のアーマチュア軸の回転が停止する時点(モーター停止)までの時間である。
【0033】
図5は、挟み込み発生時のアーマチュア軸の回転によって生じる荷重の時間変化を表すグラフである。図5において、符号Aによって表される波形は、荷重の時間変化を表す。また、図5において、符号Bによって表される矩形波は、電動モーター401に対して電圧を印加する部分に設けられたリレースイッチのオン(ON)及びオフ(OFF)を表す。この場合、モーター制御部402は、リレースイッチをオン・オフすることによって、電動モーター401の回転・停止を制御する。
【0034】
図示されるように、荷重の大きさは、挟み込みが発生するまではほぼ一定値であり、挟み込みが発生すると時間の経過に従って上昇する。また、荷重の大きさが最大となった時点の値は、判定閾値による荷重、遅延による荷重増加分、惰走による荷重増加分の三つに分けられる。判定閾値による荷重は、判定部407によって挟み込みが発生したと判定された時点に既に発生している荷重である。遅延による荷重増加分は、判定部407によって挟み込みが発生したと判定して停止信号を出力した時点から、モーター制御部402が判定部407から停止信号を受け取り、電動モーター401の停止制御を開始する時点までの荷重の増加分である。惰走による荷重増加分は、モーター制御部402によって電動モーター401の停止制御が開始される時点から、荷重の大きさが最大値となる時点までの荷重の増加分である。
【0035】
閾値決定部406は、上記した三つの値の合計値、則ち荷重の大きさの最大値が所定の値(目標反転荷重)となるように閾値を決定する。この場合、荷重の大きさの最大値とは、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に物体が挟まれた場合にこの物体に生じる負荷(以下、「挟み込み負荷」という)の最大値に等しい。以下、閾値決定部406による閾値決定処理の内容について説明する。図6は、閾値決定部406の処理の流れを表すフローチャートである。まず、閾値決定部406は、電動モーター401が作動中であるか否か判定する(ステップS101)。電動モーター401が作動中である場合(ステップS101−YES)、閾値決定部406は、遅延時間内にアーマチュア軸が回転する角度(以下、「遅延角度」といい、θと表す)を式6によって算出する(ステップS102)。式6において、ωは角速度算出部404によって算出された角速度を表し、tは遅延時間を表す。遅延時間の値は、推定値として予め設定される。
【0036】
【数6】
【0037】
また、閾値決定部406は、惰走時間内にアーマチュア軸が回転する角度(以下、「惰走角度」といい、θと表す)を式7によって算出する(ステップS103)。式7において、τは機械的時定数を表し予め設定される。また、機械的時定数の3倍の値が、惰走時間の推定値を表す。
【0038】
【数7】
【0039】
次に、閾値決定部406は、遅延角度と惰走角度とを式8に代入することによって、現在の電圧値及び角速度で挟み込みが発生した場合の遅延による荷重増加分と惰走による荷重増加分との和の推定値(F)を算出する(ステップS104)。式8において、Kは目標バネ定数を表し、rはピニオン半径を表す。目標バネ定数は、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に挟まれる物体に想定されるバネ定数を表す。
【0040】
【数8】
【0041】
次に、閾値決定部406は、式8によって算出したFを式9に代入することによって、現在の電圧値及び角速度で挟み込みが発生した場合に目標とする挟み込み負荷(判定閾値による荷重)の値Fを算出する(ステップS105)。式9において、Fは目標反転荷重を表す。目標反転荷重とは、挟み込まれた物体に生じる荷重の最大値の目標値である。
【0042】
【数9】
【0043】
そして、閾値決定部406は、式9によって算出したFを式10に代入することによって、閾値(T)を算出し、閾値を算出された値に決定する(ステップS106)。式10において、αは補正係数を表し、ηはピニオンギヤとワイヤとの間の伝達効率を表す。α及びηは、予め閾値決定部406において設定された既知の値である。
【0044】
【数10】
【0045】
一方、ステップS101において、電動モーター401が作動中でない場合(ステップS101−NO)、閾値決定部406は、予め定められている所定の最大値を閾値に設定する(ステップS107)。閾値決定部406は、所定のタイミング(例えば、0.1秒毎、1秒ごとなど)で、図6に表された処理を繰り返し実行し、最新の角速度の値に基づいて繰り返し閾値を算出し決定する。
【0046】
このように構成された車両用開閉体制御装置4によれば、閾値決定部406が現在の電動モーター401の角速度に応じて閾値を決定し、判定部407がこの閾値に基づいて挟み込みが発生したか否かを判定するため、閾値が一定値である場合に比べて、電動モーター401の状態に応じた正確な判定を行うことが可能となる。具体的には、閾値決定部406が現在の角速度で挟み込みが発生した場合の遅延による荷重増加分及び惰走による荷重増加分を推定し、予め決められた目標反転荷重から上記二つの荷重増加分の和を減算することによって判定閾値による荷重を算出し、この荷重を生じさせるトルクを閾値として算出する。そのため、このような閾値決定部406によって決定された閾値に基づいて判定部407が挟み込みの判定を行うことにより、電動モーター401の角速度がどんな値であるかによらず、挟み込み負荷の最大値と目標反転荷重とのぶれを小さくすることが可能となる。したがって、挟み込み負荷の最大値が大きくなることによって挟み込まれた物体が損傷することを防止することが可能となるとともに、閾値が不必要に小さくなることによる誤判定(挟み込みが発生したと誤って判定してしまうこと)を抑止することが可能となる。
【0047】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用開閉体, 2…電源, 3…操作パネル, 4…車両用開閉体制御装置, 401…電動モーター, 402…モーター制御部, 403…電圧値検出部, 404…角速度算出部, 405…推定部, 406…閾値決定部, 407…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6