(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715206
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】溶融金属内の試料採取用の測定プローブ
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20150416BHJP
G01N 33/20 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
G01N1/10 S
G01N33/20 A
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-168913(P2013-168913)
(22)【出願日】2013年8月15日
(65)【公開番号】特開2014-44202(P2014-44202A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2013年8月15日
(31)【優先権主張番号】10 2012 016 697.4
(32)【優先日】2012年8月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598083577
【氏名又は名称】ヘレーウス エレクトロ−ナイト インターナシヨナル エヌ ヴイ
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Electro−Nite International N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ドリス・バイェンス
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ベー・ボルテルス
【審査官】
長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−163494(JP,A)
【文献】
特開平06−074949(JP,A)
【文献】
特開2005−017222(JP,A)
【文献】
特開昭59−202041(JP,A)
【文献】
特開2012−001815(JP,A)
【文献】
特開2013−088436(JP,A)
【文献】
実開昭60−189848(JP,U)
【文献】
米国特許第3967505(US,A)
【文献】
米国特許第4535640(US,A)
【文献】
英国特許出願公告第1396140(GB,A)
【文献】
独国実用新案第8120824(DE,U1)
【文献】
韓国公開特許第10−2007−0078377(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
G01N 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持チューブの浸漬端部に配置されて、少なくとも一箇所の試料室を有する測定ヘッドを備え、
前記試料室が有する供給管は、第一端部が、当該試料室内に開口しており、第二端部が、前記支持チューブに背を向けた測定ヘッドの前面から突出して保護キャップで被覆された供給口を有するものとしてなる、溶融金属内での試料採取用の測定プローブであって、
前記供給管の外側で前記供給口の上流側に、当該供給口を被覆する保護シールドを、当該供給口から供給方向に距離をおいて配置し、前記保護シールドが、前記供給管を横方向に完全には取り囲まないものとし、前記供給口と前記保護シールドとの間に、前記供給管内への溶融金属の浸入を可能とする側方開口部が形成されることを特徴とする測定プローブ。
【請求項2】
前記保護シールドを、前記供給口の前記保護キャップに比して、溶融スチールに対する耐性に優れるものとしたことを特徴とする、請求項1に記載の測定プローブ。
【請求項3】
前記保護シールドを、前記測定ヘッドの前面に配置したことを特徴とする、請求項1又は2に記載の測定プローブ。
【請求項4】
前記保護シールドを、角のあるストリップ状の材料として設けたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【請求項5】
前記保護シールドが、金属、セラミック又は石英からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【請求項6】
保護シールドと供給管との間に、保護シールドの方向で供給管の仮想延長部分の円周をなす表面を設け、該表面を、供給口の表面積より大きくしたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【請求項7】
供給口と保護シールドとの間の、供給管の方向の距離を、前記供給口の直径の半分以上としたことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【請求項8】
前記供給管及び前記保護シールドを有する前記測定ヘッドの前面を、スラグキャップで覆ったことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【請求項9】
前記測定ヘッドに、溶融金属の、温度その他のパラメータを測定する少なくとも一個のセンサーを配置したことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の測定プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持チューブの浸漬端部に配置される測定ヘッドを有し、溶融金属、特に溶融スチール内での試料採取に用いる測定プローブに関するものであり、この測定ヘッドは、供給管を有する少なくとも一箇所の試料室を備え、供給管は、第一端部が試料室に開口しており、第二端部が、支持チューブに背を向けた測定ヘッドの前面から突出するとともに保護キャップに覆われた供給口を有するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の測定プローブとしては、たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。このプローブは、転炉内での測定の実施を対象とするものである。転炉内では、溶融金属への酸素の吹込みにランスを用いる。溶融スチール等の溶融金属に含まれる気泡は、試料室内に侵入して試料に欠陥をもたらし、そして試料を分析困難なものとするので、試料採取の著しい妨げとなることがある。同種の試料採取装置は、たとえば特許文献2により知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010024282(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許第102005060493(B3)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、既存の試料採取装置に改良を加え、質の高いサンプリングを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、独立請求項の特徴事項により達成されるものであり、好ましい改良点は、従属請求項に記載したところによる。
【発明の効果】
【0006】
供給管の外側で供給口の上流側に、保護シールドを、保護キャップで覆われた供給口から供給方向に一定の距離をおいて配置することにより、保護シールドによって、供給口は覆われる一方で、供給管は横方向に完全には包囲されないことから、溶融金属内に存在して転炉内に吹き込まれる酸素等から生ずる気泡は、供給口の保護キャップの目の前には位置しないことになり、それ故、気泡は、保護キャップが融解したときに試料室の内部に入り込まず、保護シールドによって軌道が変更される。転炉内へのガスの吹込みは、一方では、吹込みランスを介した酸素の吹込みにより行うことができ、また一方では、底部ノズルを介した不活性ガスの吹込みにより行うことができる。本発明によれば、明らかに優れた無孔性の試料(pore-free sample)を得ることができることは明白である。
【0007】
保護キャップは、測定ヘッドを溶融金属内に浸漬した際に溶解・融解させて、試料室の供給口を露出させる従来と同じのものである。保護シールドについては、保護キャップを有する供給口から距離をおいて配置することが重要である。これに関連して、保護シールドは、それの外輪郭が、供給管の軸線方向に視て、供給管の供給口の外輪郭を取り囲む態様で、供給口を覆うものとする。保護シールドは測定ヘッド上に支持することが好都合である。
【0008】
保護シールドの支持構造及び形状は、供給口と保護シールドとの間に、溶融金属の、供給管内への浸入を可能とする側方開口部が形成されるような適切な設計を必要とする。ここでの側方とは、供給管の軸線方向から外れること、好ましくは、当該軸線に対して略半径方向に外れることを意味する。
【0009】
保護シールドは、供給口の保護キャップよりも溶融スチールに対する耐性に優れたものとすることが好ましい。そのような優れた耐性は、より耐性に優れた材料を用いるか、又は材料の厚みを厚くすることにより実現することができる。保護シールドは、測定ヘッドの前面側に配置することが好ましく、それにより、測定ヘッドの表面上に取り付け、又は、測定ヘッドそれ自体の内部に支持させる。
【0010】
保護シールドは、特に、角のある、ないしは湾曲したストリップ状の材料として設けることができ、それにより、容易な製造のみならず、流入する溶融金属のための大きな開口部の形成が可能となる。保護シールドは、金属、セラミックまたは石英で形成することができる。
【0011】
保護シールドと供給管との間には、保護シールドの方向に、供給管の仮想延長部分の円周を取り巻く表面を設け、その表面を、供給口の表面積よりも大きくすることが好都合であり、それにより、供給管に流入する溶融金属は支障なくこれに到達することができ、またこの場合、気泡の形成に関係し得る引裂き(tearing-off)は生じない。特に、供給口と保護シールドとの間の、供給管の方向の距離は、少なくとも、供給口の直径の半分とすることが好適である。
【0012】
好ましくは、供給管及び保護シールドを有する測定ヘッドの前面の片側がスラグキャップで覆われるように、測定プローブを適切に設ける。これによれば、保護シールドを、スラグキャップと供給管の保護キャップとの間に配置することができる。スラグキャップは、スラグが保護シールドまたは供給管に損傷を与えることがないように、測定プローブの輸送の間および、スラグを通過して浸漬する間に、測定ヘッドの前面を保護する。
【0013】
スラグキャップそれ自体は、溶融金属に貫入する測定ヘッド上で最も遅く溶解し、そしてその後、供給管を取り付けた測定ヘッドの前面が溶融金属にさらされる。それにより、供給管の保護キャップが溶解し、溶融金属は試料室内に浸入することができる。溶融金属の温度その他のパラメータを測定する少なくとも一個のセンサーを測定ヘッドに配置することは有効である。そのようなセンサーはまた、測定ヘッドの前面に配置して、スラグキャップを介して覆われるものとすることが好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明に従う測定プローブの、転炉内での使用態様を示す。
【
図2】この発明に従う測定プローブの測定ヘッドの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の例示的な実施形態を、図面に基づいて、より詳細に説明する。
【0016】
図1に、ライニング2を有する転炉1を示す。転炉1は溶融スチール3を収容するものであり、その上方にはスラグ層4が配置されている。鉄鋼を生産するため、アルゴンを、フロアノズル5を介して転炉1の底部から溶融金属へと吹き込む。酸素は、吹込みランス6によって上方から吹き込む。かかる吹込みランス6とは別に、転炉には、測定プローブ8を備える、いわゆるサブランス7を導入している。この測定プローブ8は、浸漬される端部に配置した測定ヘッド9を有するものである。
【0017】
測定及び/又はサンプリングの作業は、酸素が吹き込まれる間、一般には酸素の吹き込みが終了する前の約2分間にわたって行う。その間には温度測定を行いながら、たとえば溶融スチールのカーボン含有量等を測定するために試料を採取する。測定結果は吹込みモデルの修正に用いることができ、それにより、溶融スチールの品質を変えることができる。
【0018】
酸素を吹き込んだ後は、第二の測定を行うことができる。ここでは一般に、溶融スチール内で、温度のみならず活性酸素の含有量をも測定し、また、実験室でスチールの最終組成を測定するための試料を採取する。酸素含有量は、スチールにおける現在のカーボン含有量を数秒以内に測定することに用いることができる。また、脱酸剤(アルミニウム)の必要量を予め計算することができる。
【0019】
酸素の吹込み、及び、気泡の生成によって、サンプリングが妨げられ、もしくは阻害されるが、上述したそれらによる影響の他、底部ノズル5を介してガスを吹き込むこともまた、サンプリングを妨害することになる可能性がある。このようなガスは、浸漬された測定プローブの方向に上昇し、それにより、測定プローブ及び供給口が保護されていない限り、ガスは確実にそれらに接触する。その上、吹込みランスの働きにより、少量のスラグが溶融スチール内に入り込む。このスラグもまた、サンプリングの邪魔をすることがある。
【0020】
この発明に従う測定プローブの設計によれば、保護シールドにより、気泡及びスラグ粒子の向きを、供給口から離れる方向に変えて、この点における改善策をもたらす。
【0021】
図2に測定ヘッドを示す。測定ヘッドのベース本体は、鋳物砂からなる二個の部品10、11からなるものであって、浸漬される端部とは逆側を向く端部に、それらの二個の部品10、11を相互に固定するべく延在するねじが入るボアホール12を有する。当該二個の部品の構造により、試料室と複数のセンサーとの組立てが簡略化される。
【0022】
供給管14は、測定ヘッドの前面13側で、測定ヘッドの内部から外部へと延びるものである。この供給管は、測定ヘッドの内部で試料室15に連結されている(
図3参照)。前面13側には、熱電対16も配置されている。熱電対16は熱電対インサート17内に装着されている。熱電対16と供給管14はともに、保護キャップ18で覆われている。
【0023】
試料室15に向かう供給管14の近傍には、保護シールド19を配置する。保護シールド19は、板金を湾曲させたストリップで形成されており、このストリップは、測定ヘッドの前面13に固定されて、供給管に沿って延びるとともに、供給管14の供給口を覆うべく供給管の供給口の上流側へ湾曲している。供給口と保護シールド19との間の距離は、供給口の直径の半分よりも若干大きい。供給口それ自体は、保護キャップ18によって覆われているので、
図2には示されない。
【0024】
スラグキャップ20は、測定ヘッドの前面13側に配置されて、当該前面に配置された要素を含む前面13を完全に覆って取り囲む。ここでいう、前面に配置された要素には、各保護キャップ18及び保護シールド19を含めた熱電対16及び供給管14が含まれる。それにより、保護シールド19は、供給管14の保護キャップ18とスラグキャップ20との間に配置されることになる。
【0025】
図3に測定ヘッドの内部を、断面図、及び/又は、測定ヘッドの部品11の切断部に対する図で示す。測定ヘッドの部品10、11はいずれも、該部品のそれぞれの凹部22に係合するスタッド21により、互いに調節されている。
図3に示す試料室15は、一般的なものと同様に、厚みの異なる二つの部分をもつように設計された平坦な試料室である。
【0026】
供給管は、石英管23からなるものであり、その供給口24は保護キャップ18によって閉ざされている。供給管とは逆側にある試料室15の端部は、溶融金属が流入したときに試料室内に存在するガスを逃がすガス抜き口25を有する。
図3には、シグナル線を示していないが、このシグナル線は、熱電対インサート17の接点部分26に配置されて、測定ヘッドの後端部を介して外部へ導かれるものである。
【0027】
測定ヘッドは、板紙製チューブ27、28に差し込まれて、外側の当該板紙製チューブに、耐熱性の接着剤29によって取り付けられている。二本の板紙製チューブ27、28を組み合わせることにより、測定ヘッドを安定して固定することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 転炉
2 ライニング
3 溶融スチール
4 スラグ層
5 フロアノズル(底部ノズル)
6 吹込みランス
7 サブランス
8 測定プローブ
9 測定ヘッド
10、11 部品
12 ボアホール
13 測定ヘッドの前面
14 供給管
15 試料室
16 熱電対
17 熱電対インサート
18 保護キャップ
19 保護シールド
20 スラグキャップ
23 石英管
24 供給口
25 ガス抜き口
26 接点部分
27、28 板紙製チューブ(支持チューブ)
29 接着剤