(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715247
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】5型ホスホジエステラーゼを阻害するための化合物およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20150416BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20150416BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150416BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20150416BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20150416BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20150416BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20150416BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
C07D487/04 142
C07D487/04CSP
A61K31/519
A61P43/00 111
A61P7/02
A61P9/12
A61P11/06
A61P1/14
A61P15/10
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-516957(P2013-516957)
(86)(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公表番号】特表2013-529651(P2013-529651A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】CN2010075587
(87)【国際公開番号】WO2012000212
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2013年5月21日
(31)【優先権主張番号】201010221658.7
(32)【優先日】2010年7月2日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512133384
【氏名又は名称】スージョウ マイディシャン ファーマシューティカル インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】313007208
【氏名又は名称】チャン ナン
(73)【特許権者】
【識別番号】313007219
【氏名又は名称】チョン ロン
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】チャン ナン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ロン
【審査官】
井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第1517349(CN,A)
【文献】
中国特許第1094492(CN,C)
【文献】
特表2008−510830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iによって表される化合物または薬学において許容できるその塩:
【化1】
であって、式Iによって表される化合物の化合物名は、5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンである、化合物または薬学において許容できるその塩。
【請求項2】
式IIによって表される化合物、5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンクエン酸塩。
【化2】
【請求項3】
5型ホスホジエステラーゼ阻害剤の調製における、請求項1に記載の化合物または薬学において許容できるその塩の使用。
【請求項4】
5型ホスホジエステラーゼ阻害剤の調製における、請求項2に記載の5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンクエン酸塩の使用。
【請求項5】
有効成分としての請求項1に記載の化合物または薬学において許容できるその塩と、一般的な薬物担体および/または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項6】
有効成分としての請求項2に記載の5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンクエン酸塩と、一般的な薬物担体および/または賦形剤とを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5型ホスホジエステラーゼを阻害するための化合物、その塩、その調製方法および当該化合物またはその塩を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状アデノシン一リン酸(cAMP)および環状グアノシン一リン酸(cGMP)は細胞における重要な二次メッセンジャーであり、細胞中のcAMPおよびcGMPのレベルは、細胞の種々の機能を制御するために重要である。細胞においてcAMPおよびcGMPのレベルを制御することに関与する酵素としては、アデニル酸シクラーゼ(AC)、グアニル酸シクラーゼ(GC)およびホスホジエステラーゼ(PDE)が挙げられる。これらの酵素のバランスのとれた協調によって、細胞中のcAMPおよびcGMPのレベルが正常範囲内に維持される。いくつかの病状(例えば、高血圧、狭心症など)では、細胞中のcAMPおよびcGMPのレベルが急激に低下することが認められる。細胞中のcAMPおよびcGMPのレベルを上昇させるために、1)ACおよびGCを活性化すること、ならびに2)PDEを阻害すること、という2つの選択肢を実行することができ、第2の選択肢がより良好な結果をもたらす。近年は、PDE阻害剤を研究および開発するという高い熱意があり、アイソザイム選択的なPDE阻害剤の臨床応用は、画期的な進歩を遂げた。現在、cDNA分子クローンの実験結果から、少なくとも10種のPDE遺伝子ファミリーが哺乳動物に存在するということが判明した。各PDE遺伝子ファミリーについて、スプライスバリアントに起因して複数のPDEアイソザイム亜型が存在し、その中で、5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)ファミリーはcGMPを選択的に加水分解することができ、かつ個体の器官に広く分布している。
【0003】
PDE5阻害剤は、以下の薬理学的機能および臨床応用を有する。
【0004】
(1)血小板凝集の阻害および抗血栓:理想的な抗血栓薬は、虚血部位がさらに虚血になるのを回避するために、血管平滑筋の弛緩なしに血小板凝集を阻害するはずである。PDE3およびPDE5の阻害剤はともに、血小板凝集を阻害する機能を有する。しかしながら、PDE5阻害剤は血管平滑筋の弛緩が低いということを踏まえると、PDE5阻害剤は、動脈の血栓性疾患を処置することにおいて実質的な長所を有する。典型的なPDE5阻害剤であるジピリダモールは、良好な抗血栓効果を有する。
【0005】
(2)肺高血圧の軽減および抗心血管疾患:肺血管抵抗の異常は、心血管疾患を引き起こす重要な要因であることが多い。動物モデル実験において、選択的なPDE5阻害剤であるザプリナストは、一酸化窒素の有効時間および強度を実質的に高めることができ、そしてより低い肺高血圧に対して比較的強い効果を有する。臨床的には、ザプリナストは、狭心症、高血圧および心筋梗塞を処置するために使用される。最新の報告では、PDE5阻害剤であるE−4010は、モノクロタリンによって誘導された高血圧を有するラットの生存率を上昇させることができる。
【0006】
(3)抗喘息:動物モデルとしてブタを使用する実験は、PDE5阻害剤であるSR−265579は、ヒスタミンによって誘導される気管支拡張症に対して治療効果を有するということを示す、ということが報告されている。
【0007】
(4)糖尿病性胃不全麻痺の処置:糖尿病を抱えるラットに対し、PDE5阻害剤であるクエン酸シルデナフィルは、胃排出遅延を逆転させることができ、そして糖尿病によって併発した消化器系の自律神経ニューロパチーに対して特定の治療効果および改善効果を有するということが報告されている。
【0008】
(5)勃起不全の処置:PDE5は陰茎の海綿体に広く分布しているので、PDE5阻害剤は、陰茎の海綿体の中のcGMPレベルを上昇させることができる。一連の生理的反応および生化学反応の際に、血管平滑筋は弛緩し、陰茎は勃起する。プロスタグランジンE1とは異なり、PDE5阻害剤は、病理的な勃起を引き起こさず、その機能には、いまだ性的刺激を必要とするであろう。
【0009】
PDE5阻害剤の上記の薬理学的機能を考慮して、本出願人らは、化学的な分子修飾方法を用いてシルデナフィルの化学構造を修飾し、新しい化合物およびそれらのクエン酸塩、すなわち、5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンおよびそのクエン酸塩(ZTH)を生成する。ZTHは、PDE5酵素の活性を効果的に阻害することができるということが認められる。これにより、本発明が成し遂げられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、5型ホスホジエステラーゼの活性を阻害することができる新しい化合物およびその塩、例えばクエン酸塩を提供することである。本発明の第2の目的は、新しい化合物およびそのクエン酸塩を調製するための方法を提供することである。本発明の第3の目的は、この新しい化合物またはその塩、例えばクエン酸塩を含有する医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、式Iによって表される化合物、および式IIによって表されるその薬学的クエン酸塩:
【化1】
を提供する。
【0012】
式Iによって表される化合物の化合物名は、5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンである。その構造を示すために核磁気共鳴技術が使用され、質量スペクトルは分子量を計算する。
【0013】
1H−NMR(400MHz,MeOD) δ8.180−8.185(d,J=2Hz,1H),7.880−7.908(dd,J
1=2.4Hz,J
2=8.8Hz,1H),7.356−7.379(d,J=9.2Hz,1H),4.284−4.337(q,J=14Hz,2H),4.234(s,3H),3.575−3.603(d,J=11.2Hz,2H),2.865−2.902(t,J=7.2Hz,2H),2.377(br,2H),2.261(s,3H),2.112−2.168(t,J=11.2Hz,2H),1.795−1.851(m,2H),1.465−1.500(t,J=7.2Hz,3H),1.090−1.105(d,J=6Hz,6H),0.978−1.015(t,J=7.2Hz,3H)。MS 503[M+H]
+。
【0014】
式IIのクエン酸塩は、式Iの化合物とクエン酸との反応から得られる。式IIによって表されるクエン酸塩の化合物名は、5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンクエン酸塩である。核磁気共鳴を用いて分析を行う:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3) δ8.164−8.170(d,J=2.4Hz,1H),7.914−7.942(dd,J
1=2.4Hz,J2=8.8Hz,1H),7.363−7.385(d,J=8.8Hz,1H),4.276−4.329(q,J=14Hz,2H),4.231(s,3H),3.746−3.776(d,J=11.2Hz,2H),2.986(br,2H),2.858−2.895(t,J=7.2Hz,2H),2.792(s,2H),2.739(s,2H),2.590(s,3H),2.406−2.464(t,J=11.6Hz,2H),1.784−1.839(m,2H),1.448−1.483(t,J=7.2Hz,3H),1.253−1.269(d,J=6.4Hz,6H),0.972−1.009(t,J=7.2Hz,3H)。
【0015】
式Iの化合物は、主に、出発物質としてのcis−2,6−ルペタジンおよび5−(2−エトキシフェニル)−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンを用いて得られ、多段階の反応によって合成される。合成経路は以下のとおりである。
【化2】
【0016】
テトラヒドロフランを2,6−ルペタジンおよびジ−tert−ブチルジカーボネートに加え、室温で反応させ、次いでテトラヒドロフランを最後まで濃縮すると、3,5−ジメチル−1−tert−ブトキシカルボニル−ピペラジン(ZTH−1)が得られる。核磁気共鳴および質量スペクトルで分析すると、以下のとおりである:
1H−NMR(400MHz,CDCl3) δ3.8−4.1(br,2H),2.75−2.80(m,2H),2.2−2.5(br,2H),1.45(s,9H),1.052−1.067(d,J=6Hz,6H)。MS 215[M+H]
+。
【0017】
テトラヒドロフラン、炭酸カリウム、およびヨウ化メチルをこの順にZTH−1に加え、室温で一晩反応させ、次いで濾過し、濃縮し、水およびジクロロメタンを残渣に加え、ジクロロメタンで洗浄し、有機層を合わせ、飽和ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮し、残渣のカラムクロマトグラフィー(メタノール:ジクロロメタン=1:20)を行うと、3,4,5−トリメチル−1−tert−ブチルカルボニルピペラジジン(ZTH−2)が得られる。核磁気共鳴および質量スペクトルで分析すると、以下のとおりである:
1H−NMR(400MHz,MeOD),δ4.505−4.533(m,2Η),4.110−4.134(m,2Η),2.943(s,3Η),2.779(br,2Η),2.196(s,9Η),1.782−1.797(d,J=6Hz,6H)。MS 229[M+H]
+。
【0018】
ZTH−2をジオキサンに溶解させ、冷却し、飽和塩化水素酸ジオキサン溶液を一滴ずつゆっくり加え、室温で撹拌し、次いで減圧下で溶媒を蒸発させると、1,2,6−トリメチルピペラジン(ZTH−3)が得られる。核磁気共鳴および質量スペクトルで分析すると、以下のとおりである:
1H−NMR(400MHz,MeOD) δ4.505−4.533(m,2H),3.722(br,2H),3.611−3.644(m,2H),3.310−3.423(m,2H),2.937(s,3H),1.493−1.506(d,J=5.2Hz,6H)。MS 129[M+H]
+。
【0019】
5−(2−エトキシフェニル)−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンをクロロスルホン酸へと滴下し、反応溶液を25℃以下に保ち、室温で反応させ、次いでこの反応溶液を砕氷の中へと注ぎ込み、室温で機械的に撹拌し、温度を25℃以下に保ち、次いで濾過し、乾燥すると、5−(2−エトキシフェニル−5−クロロスルホニル)−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトン(ZTH−4)が得られる。核磁気共鳴および質量スペクトルで分析すると、以下のとおりである:
1H−NMR(400MHz,DMSO) δ 7.871−7.876(s,1Η),7.700−7.727(dd,J
1=2Hz,J
2=8.4Hz,1H),7.098−7.119(d,J=8.4Hz,1H),4.125−4.161(m,5H),2.778−2.816(t,J=7.6Hz,2H),1.700−1.756(m,2H),1.303−1.337(t,J=6.8Hz,3H),0.919−0.956(t,J=7.6Hz,3H)。MS 411[M+H]
+。
【0020】
ZTH−4、ZTH−3、およびトリエチルアミンをテトラヒドロフランに加え、室温で一晩撹拌し、次いで溶媒を蒸発させ、水および塩化メチレンを残渣に加え、分離し、この塩化メチレン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和ブライン溶液でこの順に洗浄し、次いで乾燥し、濃縮し、残渣から、エタノールで再結晶して式Iの化合物(ZTH−5)を得る。
【0021】
無水メタノールをZTH−5に加え、撹拌して還流するまで加熱し、溶解して澄んだ後にクエン酸を加え、還流によって反応が終了すると、室温まで冷却し、濾過し、メタノールで洗浄し、乾燥すると、式IIの化合物(ZTH)が得られる。
【0022】
ZTH−5、ZTH−5塩(ZTHなど)は、ピラゾロピリミジンケトン化合物であり、それらの化学構造はcGMPの化学構造に類似しており、それらは、cGMPと競合してPDE5の触媒ドメインに結合することができ、そのため、PDE5によるcGMPへの分解を阻害し、cGMPの濃度を高め、cGMPの濃度が正常範囲内に留まることを確実にする。ZTH−5、ZTH−5塩(ZTHなど)は、5型ホスホジエステラーゼの活性を効果的に阻害することができ、従って、5型ホスホジエステラーゼ阻害剤として、または5型ホスホジエステラーゼ抑制剤の有効成分として使用することができる。ZTH−5、ZTH−5塩(ZTHなど)は、勃起不全の処置、血小板凝集の阻害および抗血栓、肺高血圧の軽減および抗心血管疾患、抗喘息および糖尿病性胃不全麻痺の処置のための新しい世代の薬物として開発される可能性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)ZTH−5の調製
(5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトン):
【0024】
1. 3,5−ジメチル−1−tert−ブトキシカルボニル−ピペラジン(ZTH−1)の調製:
2,6−ルペタジン(11.4g、100mmol、1当量)およびジ−tert−ブチルジカーボネート(21.8g、100mmol、1当量)を250mlのフラスコに加え、次いで100mlのテトラヒドロフランを加え、室温で4時間反応させ、テトラヒドロフランを濃縮し尽くし(すなわち、最後までテトラヒドロフランを濃縮し)、21.4gの橙色の油状物質ZTH−1を得る。収率は100%である。
【0025】
2. 3,4,5−トリメチル−1−tert−ブチルカルボニルピペラジジン(ZTH−2)の調製:
ZTH−1(10.7g、50mmol、1当量)を250mlのフラスコに加え、100mlのテトラヒドロフラン、炭酸カリウム(10.35g、75mmol、1.5当量)およびヨウ化メチル(8.52g、60mmol、1.2当量)をこの順に加え、室温で一晩反応させ、濾過し、濃縮し、100mlの水および100mlのジクロロメタンを残渣に加え、ジクロロメタンで洗浄し(50ml×2回)、有機層を合わせ、飽和ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮し、残渣のカラムクロマトグラフィー(メタノール:ジクロロメタン=1:20)を行うと、5.7gの橙色の油状物質ZTH−2が得られる。収率は50%である。
【0026】
3. 1,2,6−トリメチルピペラジン(ZTH−3)の調製:
ZTH−2(11.4g、50mmol、1当量)を100mlのジオキサンに溶解させ、0℃に冷却し、飽和塩化水素酸ジオキサン溶液(4M、25ml、2当量)を一滴ずつゆっくり加え、室温で2時間撹拌し、減圧下で溶媒を蒸発させると、白色固体の粗生成物ZTH−3が得られ、これを、精製せずに次の工程のために直接使用する。
【0027】
4. 5−(2−エトキシフェニル−5−クロロスルホニル)−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトン(ZTH−4)の調製:
−10℃の温度で、5−(2−エトキシフェニル)−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトン(50g、160mmo)を100mlのクロロスルホン酸に加え、滴下の間、この反応溶液を25℃以下の温度に保ち、滴下が終了すると、室温で3時間反応させ、反応液を砕氷へと注ぎ込み、機械的に撹拌し、25℃以下の温度を保ち、次いで室温で1時間撹拌し、濾過し、乾燥すると、50gの白色固体ZTH−4が得られる。収率は75.9%である。
【0028】
5. 5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトン(ZTH−5)の調製:
ZTH−4(36g、10mmol、1当量)、ZTH−3(17.6g、10mmol、1当量)、およびトリエチルアミン(60.6g、60mmol、6当量)を500mlのテトラヒドロフランに加え、室温で一晩撹拌し、溶媒を蒸発させ、200mlの水および200mlの塩化メチレンを加え、分離し、塩化メチレン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和ブライン溶液でこの順に洗浄し、次いで乾燥し、濃縮し、10倍量のエタノールを用いて再結晶することにより残渣から、32gの白色結晶のZTH−5を得て、次いで別の50倍量のエタノールを用いて再結晶することにより16.5gの白色結晶ZTH−5が得られる。収率は37%である。
【0029】
(2)ZTH(5−[2−エトキシフェニル−5−(3,4,5−トリメチルピペラジニル)−スルホニル]−1−メチル−3−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−ケトンクエン酸塩)の調製:
500mlの反応容器(瓶)の中に、15gの化合物ZTH−5、270mlの無水メタノールを加え、撹拌して還流するまで加熱し、溶解して澄んだ後に12.5gのクエン酸を加え、還流しながら約1.5時間反応させ、室温まで冷却し、濾過し、メタノールで洗浄し(3回×5ml)、乾燥すると、15gの白色固体のZTHが得られる。
【0030】
上記の(1)および(2)は調製の実施形態であり、下記の(3)は実験の実施形態である。
【0031】
(3)PDE5に対するZTHの阻害効果に関する検討
1. cGMPに対して作用するPDE5に対する、ZTHの阻害効果:
実験方法:
酵素結合免疫系を使用して、cGMPを分解するPDE5に対する、異なる濃度のZTHのインビトロ阻害効果を検出する。Amersham(会社)製のcGMP生体内変換酵素結合免疫測定システムキット(ELISAキット)(cGMP biotrack enzymeimmuoassy system、EIAとも呼ばれる)の操作手順に従って、cGMPの濃度を検出する。クエン酸シルデナフィルを陽性対照として使用する。
【0032】
試薬の調製:
異なる薬物濃度を有するZTHおよびクエン酸シルデナフィルの調製:
特定量のZTHをそれぞれ秤量してddh
2Oに懸濁させ、DMSO(薬物:DMSO=1mol:1L)を加えてZTHを100μlの試料穴において溶解させ、最終濃度を10
−4mol・L
−1、10
−5mol・L
−1、10
−6mol・L
−1、10
−7mol・L
−1、10
−8mol・L
−1、10
−9mol・L
−1、10
−10mol・L
−1、10
−11mol・L
−1、10
−12mol・L
−1とする。
【0033】
比較対象のクエン酸シルデナフィルも、上で論じたのと同様にして調製する。
【0034】
PDE5作業溶液の調製:
対応する体積のEIAバッファー溶液で希釈された特定量のPDE5を吸い上げ、最終濃度を1u/μlとし、これを、後の使用のために−80℃という低温で保存する。
【0035】
cGMPの調製:
対応する体積のEIAバッファー溶液に溶解させた特定量のcGMP(cGMP、Na)をそれぞれ秤量し、最終cGMPの濃度を3200fmol/50μlとし、これを、後の使用のために−20℃という低温で保存する。
【0036】
実験:
PDE5によるcGMPの分解効果:
PDE5およびcGMPを混合し、試料穴100μlに3200fmolのcGMPが含まれるようにし、30℃で20分反応させた後に、PDE5による、cGMPの分解効果を検出する。
【0037】
PDE5に対するZTHの阻害効果:
ZTHおよびクエン酸シルデナフィル陽性対照医薬をそれぞれcGMPと混合し、十分にブレンドし(DMSO ddh
2O溶液を陰性対照として使用すると仮定する)、PDE5 3uを加え、30℃で20分間反応させる。試料穴100μlには3200fmol cGMPが含まれる。薬物濃度は、10
−4mol・L
−1、10
−5mol・L
−1、10
−6mol・L
−1、10
−7mol・L
−1、10
−8mol・L
−1、10
−9mol・L
−1、10
−10mol・L
−1、10
−11mol・L
−1、10
−12mol・L
−1、cGMPを分解するPDE5に対する、異なる濃度のZTH、陽性対照医薬の阻害を検出する。上記の試験試料を、抗体でコーティングした試験穴に加え、次いで100μlの抗血清をそれぞれに加えて反応を停止し(これは、4℃で15〜18時間行う)、次いでcGMPペルオキシダーゼ接合体50μlを加えて反応を停止し(3時間行ってから洗浄する)、呈色のためにTMB 200μlを加え、BIORAD 450 ELISA読み取り器を使用して630nmの波長で読み取る。測定したcGMP吸光度の値に基づき、EIA吸光度の式[(標準または試料のOD−NSB OD)×100/(0 標準 OD−NSB OD)]を使用して%B/BOを算出する。S曲線にフィッティングするための線形回帰およびPROBIT回帰関数を用いて、PDE5に対するZTH、クエン酸シルデナフィル陽性対照医薬のIC50を算出する。
【0038】
実験の結果:
PDE5によるcGMPの分解:
PDE5は、30℃で20分間cGMPと反応し、そのときPDE5は、3200fmol cGMPを約1600fmolまで分解することができる。
【0039】
cGMPを分解するPDE5に対するZTHの阻害効果:
cGMPを分解するPDE5に対する、異なる濃度(10
−4mol・L
−1、10
−5mol・L
−1、10
−6mol・L
−1、10
−7mol・L
−1、10
−8mol・L
−1、10
−9mol・L
−1、10
−10mol・L
−1、10
−11mol・L
−1、10
−12mol・L
−1)のZTH、対照医薬およびDMSO ddH
2O溶液の群の阻害効果を、それぞれ比較する。PDE5がcGMPを分解することを阻害するZTHの異なる濃度から得られた異なる吸光度(OD値)に基づき、%B/BOを算出するためのEIA吸光度の式[(標準または試料 OD−NSB OD)×100/(0 標準 OD−NSB OD)]を使用して、上記薬物のIC50値を算出する。線形回帰フィッティングを用い、データをS曲線にフィッティングすることができ(p<0.05)、PROBIT回帰関数を用いて、IC50を算出する。ZTHのIC50は2.12×10
−9Mであり、クエン酸シルデナフィル陽性対照医薬は6.958×10
−9Mである。
【0040】
2. cAMPに対するPDE5における、ZTHの効果:
実験方法:
酵素結合免疫系を使用して、cAMPに対するPDE5における、異なる濃度のZTHのインビトロ効果を検出する。Amersham製のcAMP生体内変換酵素結合免疫測定システムキット(ELISAキット)(cAMP biotrack enzymeimmuoassy system、EIAとも呼ばれる)の操作手順に従って、cAMPの濃度を検出する。クエン酸シルデナフィルを対照として使用する。
【0041】
試薬の調製:
cAMPの調製:
特定量のcAMP(cAMP、Na)を秤量し、それぞれ対応する体積のEIAバッファー溶液に溶解させる。cAMPの最終濃度は、1600fmol/50μlである。この生成物を、後の使用のために−20℃という低温で保存する。
【0042】
ZTHおよびクエン酸シルデナフィルの調製、およびPDE5作業溶液の調製は、上で論じたものと同じである。
【0043】
実験:
PDE5によるcAMPの分解効果:
PDE5およびcAMPを混合し、試料穴100μlに1600fmolのcAMPが含まれるようにする。30℃で20分間反応させた後に、PDE5によるcAMPの分解効果を検出する。
【0044】
cAMPに対するPDE5における、ZTHの効果:
ZTHおよび陽性対照医薬をcAMPと混合し、十分にブレンドし(DMSO ddh
2O溶液を陰性対照として使用すると仮定する)、PDE5 3uを加え、30℃で20分間反応させる。試料穴100μlには1600fmolのcAMPが含まれる。薬物濃度は、10
−4mol・L
−1、10
−5mol・L
−1、10
−6mol・L
−1、10
−7mol・L
−1、10
−8mol・L
−1、10
−9mol・L
−1、10
−10mol・L
−1、10
−11mol・L
−1、10
−12mol・L
−1であってよい。上記の試験試料を、抗体でコーティングした試験穴に加え、次いで100μlの抗血清をそれぞれに加えて反応を停止し(これは、4℃で2時間行う)、次いでcAMPペルオキシダーゼ接合体50μlを加えて反応を停止し(1時間行ってから洗浄する)、呈色のためにTMB 150μlを加え、ELISA読み取り器を使用して630nmの波長で読み取る。測定したcAMP吸光度の値に基づき、EIA吸光度の式[(標準または試料のOD−NSB OD)×100/(0 標準 OD−NSB OD)]を使用して%B/BOを算出する。S曲線にフィッティングするための線形回帰およびPROBIT回帰関数を用いて、PDE5に対するZTH、クエン酸シルデナフィル陽性対照医薬のIC50を算出する。
【0045】
実験の結果:
cAMPに対するPDE5の分解効果:
PDE5はcAMPを分解しない。
【0046】
cAMPに対するPDE5におけるZTHの効果:
ZTH群、対照医薬群、およびddH
2O医薬陰性対照群の間でOD値に実質的な差はなく(p>0.05)、S曲線にフィッティングできない(p>0.05)。
【0047】
結論:
ZTHは、ピラゾロピリミジンケトン化合物であり、その化学構造はcGMPの化学構造に類似しており、ZTHは、cGMPと競合してPDE5の触媒ドメインに結合することができ、そのため、PDE5がcGMPを分解するのを阻害し、cGMPの濃度を高める。
【0048】
cGMPを分解するPDE5に対するZTHの阻害効果を検討した中で、ZTHのIC50は、2.12×10
−9Mと算出され、陽性対照医薬は6.958×10
−9Mである。この結果は、PDE5がcGMPを分解するのをZTHが阻害できること、ZTHが投与量に依存すること、およびZTHが非常に良好なPDE5阻害剤であることを示す。PDE5酵素に対するZTHの阻害活性は、クエン酸シルデナフィルよりも著しく良好である。従って、ZTHは、勃起不全の処置、血小板凝集の阻害および抗血栓、肺高血圧の軽減および抗心血管疾患、抗喘息および糖尿病性胃不全麻痺の処置のための新しい世代の薬物となる可能性を有する。
【0049】
上記の実験の実施形態では、ZTHの実験データのみが開示されているとはいえ、ZTHはZTH−5のクエン酸塩であり、ZTH−5がZTHと類似の構造を有する(すなわち、ZTH−5およびクエン酸塩以外のZTH−5の塩はZTHと類似の構造を有し、共通のピラゾロピリミジンケトン構造を有する)ということを踏まえると、ZTH−5、クエン酸塩以外のZTH−5の塩は、PDE5がcGMPを分解することを阻害する効果を有してPDE5阻害剤となり、勃起不全の処置、血小板凝集の阻害および抗血栓、肺高血圧の軽減および抗心血管疾患、抗喘息および糖尿病性胃不全麻痺の処置のための新しい世代の薬物となる可能性を有するということが、ZTHの実験的効果から推測できる。