特許第5715286号(P5715286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5715286
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】無塩梅干しの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/10 20060101AFI20150416BHJP
   A23L 1/212 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   A23B7/10 C
   A23L1/212 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-168690(P2014-168690)
(22)【出願日】2014年8月21日
【審査請求日】2014年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593107786
【氏名又は名称】武川 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(72)【発明者】
【氏名】武川 晋
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−019087(JP,A)
【文献】 特開平09−299022(JP,A)
【文献】 特開平11−137170(JP,A)
【文献】 特開2003−250442(JP,A)
【文献】 特開2006−136280(JP,A)
【文献】 特開2010−207132(JP,A)
【文献】 特開2012−024062(JP,A)
【文献】 特開2009−136279(JP,A)
【文献】 特開昭57−202247(JP,A)
【文献】 特開2004−305195(JP,A)
【文献】 特開平10−179022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−7/16
A23L 1/212−1/218
Food Science and Tech Abst(FSTA)(ProQuest Dialog)
Foodline Science(ProQuest Dialog)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生梅の果実を、砂糖が添加された酢液に所定時間だけ漬け込み、その後、この漬け込んだ梅の果実を乾燥させることにより無塩の梅干しを製造する方法であって、
30分〜1時間蒸した生梅の果実を砂糖を含む酢液に1〜5日間漬け込み、この後、蒸した生梅の果実をこの砂糖を含む酢液から取り出すことにより、ムメフラールが浸出した漬け込み液を得て、このムメフラールが浸出した漬け込み液を、上記砂糖が添加された酢液中に、10〜20%の割合で混入した無塩梅干しの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無塩梅干しの製造方法、詳しくは塩をまったく使用せずに、優れた健康パワーを生み出すことができる無塩梅干しの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では梅の収穫は6、7月に集中しているが、生梅は保存が難しいため、梅干しとして保存するのが一般的である。梅干しを製造するには、収穫した生梅を収穫から時間を置かずに塩蔵品に加工するのが一般的である。その加工方法は、生梅に18〜23重量%の割合で食塩を加え、これに重しをして1ヶ月以上塩漬け保存する。この保存期間に、塩の浸透圧と重しの圧力で梅の細胞が死んで、好ましくない成分(苦味青臭さ、エグミの基である青酸配糖体等)を酵素で分解して風味の良い有機酸などの有用成分に変えることとなる。
この塩漬け法は昔から行われ、現在も広く実施されている。カビの発生・腐敗を抑えるため、多量の食塩を使うので、高食塩濃度の梅(18〜20重量%)と、梅からの浸出液に食塩が混合された梅酢液(食塩濃度約20重量%;梅調味液)とが発生する。
高濃度の塩分は、高血圧などの原因となることがあり、現在では、梅干しについても減塩が望まれている。なお、この梅調味液は糖分、クエン酸の他、塩分を含むが、この梅調味液についても産業廃棄物としてその処理問題が一部で懸念されている。
この減塩を目的とした梅干しの製造方法としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
特許文献1の「梅干しの製造方法」は以下の通りである。すなわち、梅の果実を、塩分を含む梅酢に漬け込み、梅酢から取り出した梅の果実を天日干しにより乾燥する。その後、この乾燥した梅の果実を備長炭とともに漬け込む。備長炭が余分な塩分を吸着することで、梅干しの減塩化を図っているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−219795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製法では、梅酢には所定量の塩分が含まれるため、製造された梅干しにあってもいまだ所定量の塩分を含むことが不可避となっている。この塩分によりいわゆる健康への悪影響を完全には排除することができなかった。
【0005】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、当初より塩分を不使用として、その防腐効果を酢と砂糖とにより得ることで、減塩ではなく、完全に塩分をゼロとした無塩の梅干しを製造する方法を完成させた。
【0006】
すなわち、この発明は、無塩の梅干しを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、生梅の果実を、砂糖が添加された酢液に所定時間だけ漬け込み、その後、この漬け込んだ梅の果実を乾燥させることにより無塩の梅干しを製造する方法であって、30分〜1時間蒸した生梅の果実を砂糖を含む酢液に1〜5日間漬け込み、この後、蒸した生梅の果実をこの砂糖を含む酢液から取り出すことにより、ムメフラールが浸出した漬け込み液を得て、このムメフラールが浸出した漬け込み液を、上記砂糖が添加された酢液中に、10〜20%の割合で混入した無塩梅干しの製造方法である
この漬け込み用の酢液としては、例えば市販の食酢がある。穀物酢、果実酢その他を問わない。ただし、塩分をゼロとした酢である。食酢は、酢酸を3〜5%程度含み、種類によっては、その他に乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸類やアミノ酸、エステル類、アルコール類、糖類などを含むことがある。
酢液中に添加される砂糖は、製造法によって含蜜糖と分蜜糖とに大きく分けられる。含蜜糖は糖蜜を分離せずにそのまま結晶化したもので、黒砂糖・白下糖・カソナード(赤砂糖)・和三盆・ソルガム糖、メープルシュガーなどがこれに当たる。
これに対し分蜜糖は、糖蜜を分離し糖分のみを精製したものである。一般的に使用される砂糖はこちらがほとんどである。まず原料からある程度の精製を行い、粗糖を作成する。粗糖は精製糖の原料であり、不純物も多くそのままでは食用に適さない。このため、生産地の近くでまず一次精製を行って粗糖を作成した後、消費地の近くで二次精製を行って、商品として流通する精製糖が作られることが多い。
精製糖は、大きくザラメ糖・車糖・加工糖・液糖の4つに分類される。ザラメ糖はハードシュガーとも呼ばれ、結晶が大きく乾いてさらさらした砂糖であり、白双糖・中双糖・グラニュー糖などがこれに属する。なお、一般的には白双糖と中双糖を指してザラメという。白双糖を白ザラメ、中双糖を黄ザラメともいう。一方、車糖はソフトシュガーとも呼ばれ、結晶が小さくしっとりとした手触りのある砂糖で、上白糖・三温糖などがこれに属する。液糖はその名の通り、液体の砂糖である。
【0008】
請求項1に記載の発明に係る無塩の梅干しの製造方法にあっては、収穫後に水で洗浄された生梅の果実は酢液に漬け込まれることにより、梅果実が本来有する各種成分を保持したまま熟成されることとなる。したがって、この梅干しは、梅干しが本来有する健康増進効果の他に、酸味がより強くなるが、円やかな舌ざわりとなり、食し易くなる。
【0009】
例えば、収穫した青梅2キログラムを水洗し、これを約4リットルの酢液中に漬け込む。酢液には米酢にだし汁を少量添加して味付けし、赤砂糖を約150グラム添加してある。この他、赤シソの葉、ウコン粉末による色付けを行うことができる。ウコンのクルクミンは肝機能の改善に効果を有することが期待される。さらに、レモン果実をこの酢液中に入れてビタミンCを増やすことができる。
なお、青梅とは熟す前の青い実のことである。酢液において、食酢4リットルについて砂糖(赤砂糖)150〜200グラムの割合が好ましいが、好みにより砂糖を増量することもできる。梅果実と食酢(酢液)との配合の割合は青梅2キログラムが完全に漬け込まれる程度であって、この場合、酢液は4〜5リットルを目安とする。
例えば、梅果実1キログラムについて酢液は2〜3リットルとする。また、酢(米酢)1リットルにつき中温糖は300〜400グラム程度までとする。このときの漬け込み期間は常温暗所にて1ヶ月以上とする。
さらに、この漬け液を、野菜の甘酢漬けの原液あるいは足し液として活用することもできる。漬け液はこの他にもらっきょう漬けの漬け液等としても使用することができる。
【0010】
蒸された梅の実が漬け込まれる酢液は、上記と同様の割合で食酢に砂糖が添加されている。この漬け液から梅を取り除いた後の漬け液を上記砂糖が添加された酢液に所定割合で混入させるものである。
ここでの処理は、生梅を30分〜1時間程度蒸して梅に熱による化学的な変化を起こさせ、梅肉の内部にムメフラールを発生させるものとする。そして、この加熱処理された梅果実を酢液(食酢に砂糖を添加した液)に漬け込むことで、ムメフラールが充分に浸出した酢液(漬け液)を得ることができる。
このようにしてムメフラールを含む酢液(漬け液)に、水洗しただけの生梅の果実を所定期間だけ漬け込むことで得られた梅干しは、これを食すると、上述した梅本来の有する効果に加えて、ムメフラールが有するところの抗酸化作用による血液(赤血球)の酸化を抑えて血液をサラサラに保持することができるという効果も発揮することが期待できる。血液、血管を若返らせて全身の血行を活発に改善し、もって、血圧を安定化させることもできるという効果を期待することができる。換言すれば、この梅干しを食することで、成人病の予防効果も期待することができる。
なお、このように有用な梅干しを製造することができるため、梅の産地である山間の集落などでの梅干し加工作業を奨励することができ、農産物資源の有効活用に加えて産業創生効果をも期待することができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、梅干しを製造する過程にあって充分な防腐、防かび効果を得ることができる。また、この方法により製造された梅干しは、クエン酸による酸味を保持しつつ、まろやかな舌ざわりとなる。また、その健康増進効果として塩分を摂取しないことによる血圧への悪影響を避けることができる。また、梅の特徴である酸味の成分は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、ピクリン酸などで、このうち最も多く含まれているクエン酸には、体内でのエネルギー代謝を活発にし、疲労物質の分解を促進するはたらきなどがある。さらに、梅には、上記有機酸のほかに、カリウム、カルシウム、リン、鉄などのミネラル類や、カロチン、ビタミンB1、B2、C、Eなどのビタミン類が多様に含まれている。
製造された梅干しがムメフラールを含むことにより、血行増進などの効果をさらに高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明に係る無塩梅干しの製造方法の一実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0013】
使用する生梅の品種は以下の通りである。すなわち、大粒品種では「白加賀(しろかが)」、「藤五郎(とうごろう)」、「南高(なんこう)」、「鶯宿(おうしゅく)」、「豊後(ぶんご)」など、中粒品種では「長束(なつか)」、「薬師(やくし)」など、小粒品種では「甲州最小(こうしゅうさいしょう)」などである。
【0014】
まず、収穫した青梅を水洗する。例えば紀州南高梅を2キログラム使用する。すなわち、青梅をたっぷりの水(水道水または井戸水であって塩を含まない)に一晩つけて、灰汁(あく)抜きする。水から上げて、清潔なふきんなどで1個1個丹念に水分をふき取る。水分が残っていると、かびる原因になるからである。水洗後の青梅を約4リットルの酢液中に完全に漬け込む。酢液としては、市販の米酢4リットルに市販の赤砂糖500〜800グラムを添加したものである。
なお、酢液として米酢にだし汁を少量添加して味付けしてもよい。この他、酢液には、赤シソの葉を混入してもよい。
この後、3ヶ月程度漬け込んだ梅干し(無塩梅干し)は、酢液から取り出して良く乾燥させて(例えば天日干し)、食に供すると、以下の効能((1)〜(7))を発揮することが期待できる。なお、梅果実を取り出した後の漬け込み液は、糖分とクエン酸とを含み、らっきょう漬けの漬け液などとして再利用することができる。また、そのまま飲用としてもよい。
(1)疲労回復
クエン酸は糖質や脂肪酸の代謝を促し、疲労によってたまった乳酸を燃焼させてエネルギーに変えるはたらきがある。この流れであるクエン酸回路(TCAサイクル)が活発になることで、体内で大きなエネルギが生み出されるとともに、疲労からの回復がスムーズになる。
(2)食中毒予防
梅のpHは酸っぱい梅干しで2.0、梅肉エキスでは1.4である(数値が低いほど酸性が強い)。これは食中毒を起こす菌の中で最も酸に強いと言われるO−157菌が耐えうる限度のpH2.5を超えている。梅は、食中毒を起こす菌のみならず、赤痢菌、結結核菌、腸チフス菌、ブドウ球菌などの成長を完全に阻止する。弁当に梅干しを入れておくとご飯が傷みにくいというのはこの殺菌力のためである。
(3)食欲増進
梅の酸味は、唾液(だえき)や胃液などの消化液の分泌を活発にする。消化液が活発に出れば、消化吸収をスムーズにし、食欲がでてくる。胃の調子の悪くて食欲が無いときには特に有効である。
(4)整腸効果
梅には、食物繊維が比較的豊富に含まれているので整腸作用が期待できて便通が良くなる。
(5)老化予防
梅干しは口にしたらもちろん、見ただけで唾液(だえき)の分泌がさかんになる。唾液の中には、活性酸素のはたらきを抑制する成分が含まれ、体内細胞の老化防止に効果がある。
(6)骨を強化
クエン酸はカルシウムや鉄と結合して、これらのミネラル分を体内にスムーズに吸収させるはたらきがある。結果として、骨の強化や血行をよくする効果が期待できる。
(7)青梅の毒
「梅を食うとも種食うな中に天神寝て御座る」ということわざがある。青梅の核にはアミグダリンという物質があり、これが酵素で分解されると有毒な青酸を生成する。未熟な梅は核が砕けやすいので、生で食べると中毒を起こすおそれがある。青梅は酸味が強いので生食することはないと思われますが注意が必要である。アミグダリンは熟すにつれて蒸散するため、完熟した実では問題はない。
【0015】
また、砂糖入りの酢液(市販の米酢と砂糖)中に、30分〜1時間程度加熱処理した梅の果実が例えば1〜5日間漬け込まれた後、この酢液から梅の果実が取り除かれたものを、上記酢液に替えて、使用することができる。または、上記酢液の一部(例えば10〜20%程度)に混入して使用することができる。さらには、梅の果実とニンニクとを同様にして蒸した後、同時に砂糖入り酢液に漬け込むことで漬け液を作成することもできる。なお、ニンニク単独でもよいことはもちろんである。これらは無塩のプロセスである。
ここでの加熱処理は、例えば生梅を30分〜1時間程度蒸して梅に熱による化学的な変化を起こさせ、梅肉の内部にムメフラールを発生させる。そして、この加熱処理された梅果実を酢液(食酢に砂糖を添加した液)に漬け込むことで、ムメフラールが充分に浸出した酢液(漬け液)を得ることができる。
このようにしてムメフラールを含む酢液(漬け液)に、水洗しただけの生梅の果実を所定期間だけ漬け込むことで得られた梅干しは、これを食すると、上述した梅本来の有する効果に加えて、ムメフラールが有するところの抗酸化作用による血液(赤血球)の酸化を抑えて血液をサラサラに保持することができるという効果も発揮することが期待できる。血液、血管を若返らせて全身の血行を活発に改善し、もって、血圧を安定化させることもできるという効果を期待することができる。換言すれば、この梅干しを食することで、成人病の予防効果も期待することができる。
ニンニクを加熱処理後漬け液を作成するプロセスによれば、その酵素作用によるニンニク臭の発生を抑えることができると同時に、ニンニク成分が本来有するところの効能を発揮することができる。ニンニクの臭いの正体は、硫化アリルの一種であるアリシンという成分であり、このアリシンには、強い殺菌作用と体内でビタミンB1と同じ働きをする効果がある。
また、アリシンには、ガンを防ぐ(発ガン抑制)強力な抗酸化作用がある。また、アリシンは食用油などに溶けると、アホエンというイオウ化合物を生成し、このアホエンには抗ガン作用の他に、血栓を予防・改善する作用が報告されている。いずれも強い抗酸化作用によるものである。この他、アリシンには、風邪や気管支炎の原因になる連鎖球菌やブドウ状球菌などを殺す強い殺菌・抗菌力があり、胃潰瘍を引き起こすピロリ菌やO−157菌にも有効とされる報告もある。この作用で病気への抵抗力を高めるなどの働きをしている。さらには、ビタミンB1の吸収を助ける作用を有している。
【要約】
【課題】無塩梅干しの製造方法および製造された無塩梅干しを提供する。
【解決手段】食酢に対して砂糖を所定割合で添加した漬け込み液に、生梅の果実を所定期間だけ漬け込み、取り出して乾燥させる。無塩の梅干しを製造できる。梅干し本来の効果と塩分フリーによる効果とを併せ持つ。また、梅果実を蒸してムメフラールを抽出し、これを砂糖入りの食酢である漬け込み液に混入させる。さらには、ニンニクの実を蒸してそのエキスを抽出してこれを漬け込み液に加える。無塩梅干しに、ムメフラール効果、ニンニク効果を加えることができる。
【選択図】なし