【文献】
RecName: Full=Golgi-associated plant pathogenesis-related protein 1; Short=GAPR-1; Short=Golgi-associated PR-1 protein; AltName: Full=Glioma pathogenesis-related protein 2; Short=GliPR 2,Gen Pept,[2011.07.21](online); [retrieved on 2014.07.10];GenBank Accession No.Q9CYL5; <URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/48474637?sat=15&satkey=4912847>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
N末端アセチル、ホルミル、ミリストイル、パルミトイル、カルボキシルもしくは2−フロシル基および/またはC末端ヒドロキシル、アミド、エステルもしくはチオエステル基を含む、請求項1記載の化合物。
【発明の概要】
【0007】
発明の概括
本発明は、オートファジーを誘導するための方法および組成物を提供する。
【0008】
1つの態様においては、本発明は、(a)12個以下の天然で隣接しているベクリン1残基に各末端において直接的に隣接しているベクリン1残基269−283(該残基269−283のうちの6個までは置換されていてもよい)を含むオートファジー誘導性ペプチドと、(b)例えばその化合物の治療上の安定性または運搬を促進する第1異種部分とを含むオートファジー誘導性化合物または組成物を提供する。
【0009】
活性なそのような化合物は、種々の代替的構造および式を伴って開発されており、種々の特定の実施形態においては、例えば、以下のとおりである:
−該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接している;
−該ペプチドはF270、F274およびW277の少なくとも1つを含む;
−該ペプチドは少なくとも1つの置換、特にH275E、S279DまたはQ281Eの置換を含む;
−該ペプチドはN末端で該第1部分に結合しており、C末端で第2異種部分に結合している;
−該ペプチドはリンカーまたはスペーサーを介して該第1部分に結合している;
−該第1部分は、タンパク質由来(例えば、tat、smac、pen、pVEC、bPrPp、PIs1、VP22、M918、pep−3)、キメラ(例えば、TP、TP10、MPGΔ)および合成(例えば、MAP、Pep−1、オリゴ−Arg)細胞透過性ペプチドを含むトランスダクションドメインを含む;
−該第1部分は、ホーミングペプチド、例えばRGD−4C、NGR、CREKA、LyP−1、F3、SMS、IF7またはH2009.1を含む;
−該第1部分は、安定化剤、例えばPEG、オリゴ−N−メトキシエチルグリシン(NMEG)、アルブミン、アルブミン結合タンパク質または免疫グロブリンFcドメインを含む;
−該ペプチドは、1以上のD−アミノ酸、L−β−ホモアミノ酸、D−β−ホモアミノ酸またはN−メチル化アミノ酸を含む;
−該ペプチドは環化している;
−該ペプチドはアセチル化、アシル化、ホルミル化、アミド化、リン酸化、硫酸化またはグリコシル化されている;
−該化合物は、N末端アセチル、ホルミル、ミリストイル、パルミトイル、カルボキシルもしくは2−フロシル基および/またはC末端ヒドロキシル、アミド、エステルもしくはチオエステル基を含む;
−該化合物はアフィニティタグまたは検出可能な標識を含む;ならびに/または
−該ペプチドはN末端で該第1部分に結合しており、C末端で、検出可能な標識、例えば蛍光標識を含む第2異種部分に結合している。
【0010】
特定の実施形態は、例えば以下のような、特定の実施形態の全ての組合せ及び部分的組合せを含む:
−該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接しており、該第1部分は、ジグリシンリンカーを介して該ペプチドに連結されたtatタンパク質トランスダクションドメインである;および
−該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接しており、該第1部分は、マレイミド−PEG(3)リンカーを介して該ペプチドに連結されたH2009.1として公知の四量体インテグリンα(v)β(6)結合性ペプチドである。
【0011】
もう1つの態様においては、本発明は、オートファジーの誘導を要する者に本化合物の有効量を投与することを含む、オートファジーを誘導する方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、ベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターを特定するための方法および組成物を提供する。
【0013】
1つの態様においては、本発明は、予め決められた量の(a)請求項1記載の化合物、ベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチド、および(b)GAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドを含む組成物を提供する。
【0014】
もう1つの態様においては、本発明は、(a)ある物質の非存在下ではベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドがGAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドを対照相互作用に関わらせる条件下、本組成物を該物質と一緒にし、(b)該ベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドと該GAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドとの間の試験相互作用を検出する工程を含む、ベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターを特定する方法を提供し、ここで、該対照相互作用と試験相互作用との相違がベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターとしての該物質を特定する。
【0015】
本発明の特定の実施形態の説明
1つの態様においては、本発明は、(a)12個以下(または6、3、2、1もしくは0個)の天然で隣接しているベクリン1残基に各末端において直接的に隣接しているベクリン1残基269−283[該残基269−283のうちの6個(または3、2、1もしくは0個)までは置換されていてもよい]を含むオートファジー誘導性ペプチドと、(b)例えばその化合物の治療上の安定性または運搬を促進する第1異種部分とを含むオートファジー誘導性化合物または組成物を提供する。
【0016】
該オートファジー誘導性ペプチドは、12個以下(または6、3、2、1もしくは0個)の天然で隣接しているベクリン1残基に各末端において直接的に隣接しているベクリン1残基269−283(VFNATFHIWHSGQFG;配列番号1)[該残基269−283のうちの6個(または3、2、1もしくは0個)までは置換されていてもよい]を含む。本明細書に例示されているとおり、ペプチドおよび化合物の活性は、定められた境界内の種々の追加的部分、隣接残基および置換に対して抵抗性である。例えば、幾つかの実施形態においては、該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接している(TNVFNATFHIWHSGQFGT;配列番号2)。他の実施形態においては、該ペプチドは置換H275E、S279DおよびQ281Eの少なくとも1つ(または2もしくは3つ)を含む(例えば、VFNATFEIWHDGEFG;配列番号3)。他の実施形態においては、該ペプチドはF270、F274およびW277の少なくとも1つ(例えば、2もしくは3つ)を含む。
【0017】
ペプチドおよび化合物の活性は、バックボーンの修飾および置換、側鎖修飾、ならびにNおよびC末端修飾(これらは全て、ペプチド化学の分野において一般的なものである)に対しても抵抗性である。
【0018】
ペプチド結合の化学修飾は、酵素媒介性加水分解に対する代謝安定性の増強をもたらすために用いられることが可能であり、例えば、ペプチド結合置換(ペプチド同族体)、例えばトリフルオロエチルアミンは、より代謝的に安定で生物学的に活性なペプチド模倣体を与えうる。
【0019】
ペプチドバックボーンを束縛するための修飾には、例えば、CおよびN末端が保護されているためにエキソペプチダーゼに対する代謝安定性の増強を示しうる環状ペプチド/ペプチド模倣体が含まれる。環化のための適当な技術には、Cys−Cysジスルフィド架橋、ペプチドマクロラクタム、ペプチドチオエーテル、平行および逆平行環状二量体などが含まれる。
【0020】
他の適当修飾には、ペプチドのバイオアベイラビリティおよび/または活性を改善するために用いられうるアセチル化、アシル化(例えば、リポペプチド)、ホルミル化、アミド化、リン酸化(Ser、Thrおよび/またはTyr上のもの)など、グリコシル化、スルホン化、キレーター(例えば、DOTA、DPTA)の取り込みなどが含まれる。PEG化は、ペプチドの安定性、バイオアベイラビリティ、インビボ安定性を増強し、および/または免疫原性を低減するために用いられることが可能であり、多種多様なPEG、例えばHiPEG、分枝および分岐PEG、遊離可能なPEG;ヘテロ二官能性PEG(末端基N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミンおよびカルボン酸を有するもの)などを含む。
【0021】
適当な末端修飾には、N末端アセチル、ホルミル、ミリストイル、パルミトイル、カルボキシルおよび2−フロシル、ならびにC末端ヒドロキシル、アミド、エステルおよびチオエステル基が含まれ、これらは、該ペプチドが、その天然タンパク質の荷電状態をより厳密に模倣したものとなるようにし、および/または、それを、エキソペプチダーゼによる分解に対して、より安定なものにしうる。
【0022】
該ペプチドは、D−アミノ酸、L−β−ホモアミノ酸、D−β−ホモアミノ酸、N−メチル化アミノ酸などを含む非定型または非天然アミノ酸をも含有しうる。
【0023】
該化合物は、ベクリン1ペプチドに対して異種(天然で隣接していない)である第1部分、典型的には、治療上の安定性または運搬を促進するもの、そして所望により、好ましくは同様にベクリン1ペプチドに対して異種である同じ又は異なる第2部分を含む。特定の実施形態においては、該ペプチドはN末端で該第1部分に結合しており、C末端で該第2部分に結合している。
【0024】
多種多様なそのような部分、例えばアフィニティタグ、トランスダクションドメイン、ホーミングもしくは標的化部分、標識または他の官能基、例えば、バイオアベイラビリティおよび/もしくは活性を改善させ、ならびに/または追加的な特性を付与するものが使用されうる。
【0025】
そのような部分の1つの有用なクラスには、細胞透過性または取り込みを促進するトランスダクションドメイン、例えば、タンパク質由来(例えば、tat、smac、pen、pVEC、bPrPp、PIs1、VP22、M918、pep−3);キメラ(例えば、TP、TP10、MPGΔ)または合成(例えば、MAP、Pep−1、オリゴArg)細胞透過性ペプチドが含まれる。例えば、“Peptides as Drugs:Discovery and Development”,Bernd Groner編,2009 WILEY−VCH Verlag GmbH & Co,KGaA,Weinheim,特にChap 7:“The Internalization Mechanisms and Bioactivity of the Cell−Penetrating Peptides”,Mats Hansen,Elo EristeおよびUlo Langel,pp.125−144を参照されたい。
【0026】
もう1つのクラスはホーミング生体分子、例えばRGD−4C(CCDCRGDCFC;配列番号4)、NGR(CCNGRC;配列番号5)、CREKA、LyP−1(CGNKRTRGC;配列番号6)、F3、SMS(SMSIARL;配列番号7)、IF7およびH2009.1(Liら,Bioorg Med Chem.2011 Sep 15;19(18):5480−9)、特に、癌細胞ホーミングまたは標的化生体分子であり、この場合の適当な例は当技術分野で公知であり、例えば、Homing peptides as targeted delivery vehicles,Pirjo Laakkonen and Kirsi Vuorinen,Integr.Biol.,2010,2,326−337;Mapping of Vascular ZIP Codes by Phage Display,Teesalu T,Sugahara KN,Ruoslahti E.,Methods Enzymol.2012;503:35−56を参照されたい。
【0027】
そのような部分の他の有用なクラスには、安定化剤、例えばPEG、オリゴ−N−メトキシエチルグリシン(NMEG)、アルブミン、アルブミン結合性タンパク質または免疫グロブリンFcドメイン;アフィニティタグ、例えば免疫タグ、ビオチン、レクチン、キレーターなど;標識、例えば光学的タグ(例えば、Au粒子、ナノドット)、キレート化ランタニド、蛍光色素(例えば、FITC、FAM、ローダミン)、FRETアクセプター/ドナーなどが含まれる。
【0028】
該部分、タグおよび官能基は、当技術分野で公知のリンカーまたはスペーサー、例えばポリグリシン、ε−アミノカプロン酸などを介して該ペプチドに連結されうる。
【0029】
該化合物および/またはペプチドはまた、潜在的または活性化可能な形態、例えば、活性ペプチドが代謝により遊離[例えば、アシルオキシアルコキシ プロ部分(プロドラッグ1)または3−(2’−ヒドロキシ−4’,6’−ジメチルフェニル)−3,3−ジメチルプロピオン酸 プロ部分(プロドラッグ2)を伴って製造された環状プロドラッグからの直鎖状ペプチドの遊離]されるプロドラッグとして提供されうる。
【0030】
特定の実施形態は、それぞれが別々に記載されている個々の実施形態の全組合せを含み、例えば、該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接しており、該第1部分は、ジグリシンリンカーを介して該ペプチドに連結されたtatタンパク質トランスダクションドメインであり、該ペプチドはN末端でT−Nに隣接しており、C末端でTに隣接しており、該第1部分は、マレイミド−PEG(3)リンカーを介して該ペプチドに連結された、H2009.1としての公知の四量体インテグリンα(v)β(6)結合性ペプチドである。
【0031】
もう1つの態様においては、本発明は、オートファジーの誘導を要する者に本化合物または組成物の有効量を投与することを含む、オートファジーを誘導する方法を提供する。本出願は、オートファジーの増強を要する者を広く包含し、オートファジーのアップレギュレーションが治療上有益な疾患および病状、例えば、細胞内病原体による感染、神経変性疾患、癌、心筋症および老化を含む。
【0032】
オートファジーは、生化学的(Atg8−PEもしくはLC3−IIの生成またはp62の分解を評価することによる)または顕微鏡的(例えば、蛍光標識Atg8またはLC3の局在化パターンを観察することによる)アッセイを含む、本明細書に開示および/または例示されているような通常のアッセイにより、直接的に、間接的に、または推論により検出されうる。
【0033】
本発明はまた、ベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターを特定するための方法および組成物を提供する。
【0034】
1つの態様においては、本発明は、予め決められた量の(a)請求項1記載の化合物、ベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチド、および(b)GAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドを含む組成物を提供する。
【0035】
もう1つの態様においては、本発明は、(a)ある物質の非存在下ではベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドがGAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドを対照相互作用に関わらせる条件下、本組成物を該物質と一緒にし、(b)該ベクリン1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドと該GAPR1またはGAPR1結合性ベクリン1ペプチドとの間の試験相互作用を検出する工程を含む、ベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターを特定する方法を提供し、ここで、該対照相互作用と試験相互作用との相違がベクリン1−GAPR1相互作用のモジュレーターとしての該物質を特定する。このアッセイは、蛍光偏光、プル−ダウン、固相結合などを含む種々の形態で実施されうる。
【0036】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は例示のためのものであるに過ぎず、それを考慮して、種々の修飾または変更が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであると理解される。本明細書中で引用されている全ての刊行物、特許および特許出願(それらにおける引用を含む)の全体を、全ての目的のために、参照により本明細書に組み入れることとする。
【0037】
実施例
A.Tat−ベクリン1ペプチドはインビトロにおけるオートファジーの強力な誘導物質である
HIV−1ウイルスタンパク質Nefはオートファジータンパク質ベクリン1と相互作用することが示されている
12。HIV−1 Nefとベクリン1の相互作用に不可欠である、ベクリン1のドメインを位置決定するために、本発明者らは種々のflagエピトープタグ付きベクリン1欠失突然変異体(アミノ酸1−377、141−450および257−450)をC末端HAエピトープタグ付きNefと共にコトランスフェクトした。全3個のflag−ベクリン1欠失突然変異体がNef−HAと共に免疫共沈降した。このことは、共通の重複領域であるベクリン1のアミノ酸244−377(進化的保存ドメイン(ECD)と称される)がHIV−1 Nefへの結合に関与しうることを示唆している。
【0038】
この仮定を試験するために、ECD内に種々の欠失を含有する幾つかのベクリン1突然変異体を構築した。免疫共沈降実験は、ベクリン1のアミノ酸267−299が、ベクリン1がNefに結合するのに必須であることを示した。267−299の領域内のベクリン1のどのアミノ酸がHIV−1 Nefへの結合に必要なのかを更に位置決定するために、2つの追加的な欠失突然変異体を構築した。アミノ酸285−299を欠くベクリン1欠失突然変異体と比較して、アミノ酸267−284を欠く欠失突然変異体は、HIV−1 Nefへの、より弱い結合を示した。これは、該ECD内のベクリン1のアミノ酸267−284がHIV−1 Nefとのベクリン1の相互作用に決定的に重要であることを示している。
【0039】
次に、ベクリン1のアミノ酸267−284がベクリン1のオートファジー機能に必要かどうかを調べた。これを行うために、低レベルの内因性ベクリン1を発現し、外因性ベクリン1発現の非存在下で飢餓誘導性オートファジーを欠くMCF−7細胞
7,11を使用した。MCF−7細胞を、オートファゴソームの緑色標識マーカー(GFP−LC3
13)、およびアミノ酸267−284の欠失を含有するFlag−ベクリン1または完全長Flag−ベクリン1のいずれかをコードするプラスミドでコトランスフェクトした。正常または飢餓培地内の培養の後、オートファゴソーム(GFP−LC3ドット)の数を定量した。正常培地においては、空ベクター、ならびにWT Flag−ベクリン1およびFlag−ベクリン1Δ267−284を発現するプラスミドでトランスフェクトされた細胞において、オートファジーレベルは類似していた。WT Flag−ベクリン1でトランスフェクトされたMCF−7細胞においては、飢餓はオートファジーを増強したが、空ベクターまたはFlag−ベクリン1Δ267−284でトランスフェクトされた細胞においてはそうではなかった。このことは、ベクリン1のアミノ酸267−284がベクリン1のオートファジー機能に決定的に重要であることを示している。
【0040】
次に、ベクリン1のアミノ酸267−284はオートファジーの誘導に十分であるかどうかを調べた。これを評価するために、HIV−1 Tatタンパク質トランスダクションドメイン(PTD)、ジグリシンリンカーおよびアミノ酸267−284に伸長するベクリン1の領域に由来する18アミノ酸から構成される細胞透過性ペプチドを設計した。該ペプチドの疎水性を増強し、溶解度を最適化するために、この領域内に、H275E、S279DおよびQ281Eを含む3つの置換を施した。これらの置換がベクリン1発現にもベクリン1/Nef相互作用にも影響を及ぼさないことを確認するために、該突然変異Flag−ベクリン1 H267E/S279D/Q281Eを発現するプラスミドを構築した。Flag−ベクリン1 H267E/S279D/Q281Eは、WT Flag−ベクリン1の場合と同様に効率的に、Nef−2HAと免疫共沈降した。このことは、ベクリン1における置換H267E、S279DおよびQ281EがHIV−1 Nefへのその結合を変化させないことを示している。更なる研究は、このベクリン1活性が追加的置換に対して抵抗性であることを証明した。
【0041】
したがって、Tatタンパク質トランスダクションドメインと、ジグリシンリンカーと、置換H267E、S279DおよびQ281Eを含む、ベクリンのアミノ酸267−284からの18アミノ酸とから構成される、Tat−ベクリン1(T−B)と称される31アミノ酸長のペプチドを合成した。対照ペプチドとして、Tat−ベクリン1におけるベクリン1の18アミノ酸をランダムにシャッフルして、Tat−スクランブル(T−S)と称されるペプチドを得た。Tat−ベクリン1およびTat−スクランブルの円二色性スペクトルは非常に類似したパターンを示した。このことは、これらの2つのペプチドが類似した三次元構造を有すること、およびTat−スクランブルがTat−ベクリン1ペプチドに関する適当な対照ペプチドであることを示している。
【0042】
次に、Tat−ベクリン1ペプチドがオートファジーを誘導するかどうかを調べるために、p62およびLC3のタンパク質レベルを分析した
5.p62はオートファジー装置により選択的に分解され、そのタンパク質レベルはオートファジーフラックス(autophagic flux)(すなわち、完全オートファジー応答)の量を表す。脂質化LC3(LC3−II)はオートファゴソームに結合するが、非脂質化LC3(LC3−I)は結合せず、LC3脂質化はオートファゴソーム形成と相関する。ウエスタンブロット分析は、HeLa、COS−7、MEFs、A549、HBEC30−KT、THP1およびHCC827細胞を含む複数の細胞系において、Tat−ベクリン1ペプチド処理の後、p62タンパク質レベルが減少し、LC3−IIタンパク質レベルが増加したことを示した。p62分解およびLC3−II変換により測定された場合の、オートファジーを誘導するのに必要な厳密な用量は、細胞型によって若干変動する。Tat−ベクリン1での結果とは対照的に、Tat−スクランブル対照ペプチドで処理された細胞においては、p62およびLC3−II発現のレベルはいずれの試験用量においても変化しなかった。
【0043】
本発明者らは、4つの追加的なアッセイを用いて、Tat−ベクリン1ペプチドのオートファジー誘導効果を確認した。第1に、GFP−LC3を安定に発現するHeLa細胞
14において、Tat−ベクリン1がオートファゴソーム数を増加させるかどうかを評価した。Tat−ベクリン1で処理された細胞は、Tat−スクランブル対照ペプチドで処理された細胞と比較してGFP−LC3ドット(オートファゴソーム)の数における27倍の増加を示した。この誘導の大きさは、最も強力な公知の生理的なオートファジー誘導因子である飢餓で見られるものより大きい。第2に、Tat−ベクリン1で処理されたHeLa細胞におけるオートファジー構造体の存在を確認するための電子顕微鏡検査を行った。Tat−ベクリン1で処理された細胞においては多数のオートファゴソームおよびオートリソソームが観察されたが、Tat−スクランブルで処理された細胞においては非常に少数のオートファジー構造体が観察されたに過ぎなかった。第3に、オートファゴソーム/リソソーム融合を阻止することによりオートファジー分解を抑制する液胞型H
+−ATPアーゼインヒビターであるバフィロマイシンA1の存在下および非存在下でp62およびLC3−IIのレベルを測定することにより、Tat−ベクリン1ペプチド処理がオートファジーフラックスを増加させることを証明した。前記のとおり、バフィロマイシンA1の非存在下、HeLaおよびCOS7細胞において、Tat−ベクリン1はLC3−IIのレベルを増加させ、p62のレベルを減少させた。Tat−ベクリン1で処理されたHeLaおよびCOS−7細胞において、バフィロマイシンA1は、バフィロマイシンA1の非存在下のTat−ベクリン1処理細胞において観察されたものと比較して、LC3−IIレベルの更なる顕著な増加およびp62タンパク質レベルの軽度な増加を引き起こした。これは、Tat−ベクリン1ペプチド処理がオートファジーフラックスを増強することを示している。第4に、Tat−ベクリン1ペプチドにより誘導されたオートファジーフラックスを更に分析するために、細胞からのTCA−可溶性[
3H]ロイシンの遊離を測定することにより、長寿命タンパク質の大量分解を評価した。Tatベクリン1処理細胞においては、Tat−スクランブル処理細胞の場合と比較して、長寿命タンパク質分解が有意に増加した。この増加は、オートファゴソーム形成を阻止するホスファチジルイノシトール−3−キナーゼのインヒビターである3−メチルアデニン(3−MA)
15により部分的に阻止された。総合すると、これらの結果は、Tat−ベクリン1ペプチドがオートファゴソーム形成を誘導し、リソソームによるオートファジー分解を増強することを示している。
【0044】
2つの必須オートファジー遺伝子であるATG7およびベクリン1をノックダウンするためにsiRNAを用いることにより、Tat−ベクリン1媒介性オートファジーが正規オートファジー経路を必要とするかどうかを調べた。ATG7およびベクリン1標的化siRNAでトランスフェクトされたHeLa細胞は、それぞれ、Atg7およびベクリン1のタンパク質発現を低減し、オートファゴソームの数を有意に減少させた。これらのデータは、クラスIII/PI3K複合体(すなわち、ベクリン1)およびタンパク質共役系(すなわち、Atg7)の両メンバーが関わる正規オートファジーがTat−ベクリン1ペプチド媒介性オートファジーに関与していることを示している。
【0045】
B.Tat−ベクリン1ペプチドの突然変異分析
次に、Tatタンパク質トランスダクションドメインに連結された18マー配列における最小生物活性領域を決定し、潜在的必須残基を特定するために、Tat−ベクリン1ペプチドの追加的な突然変異分析を行った。ベクリン1のアミノ酸277におけるトリプトファン残基からイソロイシンへの突然変異は、p62レベルおよびLC3−II変換のウエスタンブロット分析により測定された場合、Tat−ベクリン1の活性を低減し、270位におけるフェニルアラニンからセリンへの突然変異または274位におけるフェニルアラニンからセリンへの突然変異はTat−ベクリン1ペプチド媒介性オートファジー誘導を阻止した。しかし、F274およびW277における置換を有するペプチドは有意な活性を保有していた。
【0046】
ついで、ペプチドTat−ベクリン1内のベクリン1の18マー配列のN’末端および/またはC’末端におけるアミノ酸を欠く一連のトランケート化突然変異体を構築した。C’末端の1アミノ酸の欠失(ΔC−1)、N’末端の1アミノ酸の欠失(ΔN−1)、N’末端の2アミノ酸の欠失(ΔN−2)、N’末端の3アミノ酸の欠失(ΔN−3)、またはN’末端の2アミノ酸の欠失およびC’末端アミノ酸の欠失の両方(ΔN−2/ΔC−1)は、p62レベルの低減およびLC3−II変換の増加の大きさにより測定された場合、完全長Tat−ベクリン1ペプチドに類似した活性、またはより一層大きな活性(ΔN−2の場合)を有するペプチドを与えた。C’末端の2アミノ酸の欠失(ΔC−2)またはN’末端の4アミノ酸の欠失(ΔN−4)を含有するペプチドはTat−ベクリン1より低い活性を示した。N’末端の3アミノ酸およびC’末端アミノ酸を欠くペプチド(ΔN−3/ΔC−1)を合成したが、このペプチドはPBSに溶解性でなかった。これらの突然変異分析に基づいて、本発明者らは、Tat−ΔN−2/ΔC−1がTat−ベクリン1ペプチドの最短活性形態であり、Tat−ΔN2が、本発明者らが試験したもののなかで最も活性な形態でありうると結論づけた。
【0047】
C.Tat−ベクリン1ペプチドはインビボで複数の組織においてオートファジーを誘導する
Tat−ベクリン1ペプチドがマウスにおいてオートファジーを誘導するかどうかを調べるために、オートファゴソームに関するマーカータンパク質であるGFP−LC3をトランスジェニック発現するマウス
16を使用した。Tat−ベクリン1またはTat−スクランブルペプチドを6〜8週齢のマウスに20mg/kgの用量で腹腔内注射し、注射の6時間後、肺および骨格筋(外側広筋)の2つの組織を回収した。Tat−ベクリン1で処理されたマウスの筋肉組織および肺マクロファージにおいては、Tat−スクランブルで処理されたものと比較して有意に大きな数のオートファゴソームが観察された。5日齢の乳飲みマウスにおいて、Tat−スクランブル対照、Tat−ベクリン1ペプチド、またはTat−ベクリン1の逆(retro−inverso)D−アミノ酸形態で処理されたマウスの脳におけるp62タンパク質発現のレベルを測定することにより、オートファジー誘導を評価した。Tat−スクランブルペプチド対照で処理されたマウスと比較して、Tat−ベクリン1ペプチドのL−またはD−形態で処理されたマウスの脳におけるp62レベルの有意な減少が見出された。複数の反復実験に基づけば、全体として、Tat−ベクリン1のD−形態は、脳内のオートファジーの誘導において、より活性であるらしい。また、Tat−ベクリン1のL−およびD−形態での処理の後、骨格筋、心筋および外分泌膵臓におけるオートファジー誘導のレベルを比較した。これらの組織の3つ全てにおいて、Tat−ベクリン1のD−形態での処理はTat−ベクリン1のL−形態での処理より有意に高いレベルのオートファゴソームを示し、更なる研究は、この活性がベクリン1ペプチドにおける追加的置換に対して抵抗性であること証明している。
【0048】
D.Tat−ベクリン1ペプチドは、突然変異ヒトハンチンチンタンパク質を発現する細胞における凝集物の蓄積を減少させる
オートファジーの誘導は、ハンチントン病(HD)を引き起こす凝集性突然変異ハンチンチン(Htt)タンパク質の消失を招く
17,18。Tat−ベクリン1媒介性オートファジーがHtt凝集およびHttタンパク質のレベルを減少させるかどうかを調べるために、本発明者らは、103残基のポリQ拡張(Htt103Q)をコードするhttのエキソン1を発現するHeLa細胞系であるHeLa/Htt103Q細胞
19をTat−ベクリン1ペプチドで処理した。該細胞系は、蛍光顕微鏡検査によりHttの消失を評価することを可能にするCFPに融合したドキシサイクリン(dox)抑制性Htt103Qを発現する
19。オートファジーは大きなタンパク質凝集物を消失させないという従前報告に合致して、Tat−ベクリン1ペプチド処理は大きな(>1μm)Htt103Q凝集物の数に影響を及ぼさなかった。しかし、Tat−ベクリン1処理(1日当たり4時間で2日間)は小さな(<1μm)Htt103Q凝集物の数を、Htt103Qの発現を抑制するドキシサイクリン(100ng/ml)での処理と同様に効率的に減少させた。これらの知見は、大きなタンパク質凝集物、小さなタンパク質凝集物および可溶性タンパク質を分離するためのフィルタートラップアッセイを用いて生化学的に証明された。本発明者らの顕微鏡分析に類似して、Tat−ベクリン1ペプチドは、Htt103Qタンパク質合成のドキシサイクリン抑制に類似した度合で、小さな凝集物におけるHtt103Qタンパク質の量を減少させた。更に、Tat−ベクリン1ペプチドはまた、可溶性Htt103Qタンパク質の発現のレベルの顕著な減少をもたらした。これらの知見は、Tat−ベクリン1ペプチドが突然変異Httタンパク質の前凝集および小凝集形態を消失させる可能性があり、ハンチントン病および他の神経変性疾患の治療におけるこの物質の前臨床試験に関する論理的根拠を与えうることを示している。
【0049】
E.Tat−ベクリン1ペプチドはシンドビスウイルス、西ナイルウイルス、チクングニヤウイルス、マウス適応エボラウイルス、エル・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)およびHIV1に対する活性を有する
これまでに、本発明者らは、ベクリン1の過剰発現がマウス脳におけるシンドビスウイルス複製を低減することを示した
6。より最近になって、本発明者らは、ニューロンにおけるオートファジー遺伝子Atg5を欠くマウスが、中枢神経系の致死性シンドビスウイルス感染に、より感受性であることを示し
14、本発明者らの共同研究者は、Atg16L1オートファジー遺伝子の低次形態対立遺伝子を有するマウスが、致死性チクングニヤウイルス感染に、より感受性であることを示している
20。また、他の研究は、ベクリン1および他のオートファジー遺伝子の遺伝的ノックアウトまたはノックダウンが、植物におけるタバコモザイクウイルス
21およびドロゾフィラ(drosophila)における水疱性口炎ウイルス
22を含む種々のウイルスの複製を増強することを示している。総合すると、これらの研究は多種多様なウイルスの制御におけるオートファジーの重要な役割を示している。
【0050】
したがって、本発明者らは、2つのアルファウイルス、すなわち、シンドビスウイルスおよびチクングニヤウイルス、ならびに1つのフラビウイルス、すなわち、西ナイルウイルスに感染したHeLa細胞を使用して、Tat−ベクリン1ペプチドがウイルス複製を抑制するという仮定を検証した。全ての実験において、トリパンブルー排除およびMTTアッセイにより測定された場合に細胞毒性を有さない用量(30μmで4時間)のTat−ベクリン1ペプチドを使用した。シンドビスウイルス、チクングニヤウイルスまたは西ナイルウイルスを0.1プラーク形成単位/細胞の感染多重度でHeLa細胞に感染させ、感染の4時間後、4時間にわたって該細胞をTat−スクランブルまたはTat−ベクリン1ペプチドで処理し、ついで、感染の18時間後(シンドビスウイルスの場合)または感染の24時間後(チクングニヤウイルスおよび西ナイルウイルスの場合)、ウイルス力価を測定した。Tat−スクランブル対照で処理されたものと比較して、Tat−ベクリン1ペプチドで処理された全3種のウイルスに感染した細胞におけるウイルス力価の有意な減少(
>2 log)を見出した。Tat−ベクリン1ペプチド処理が、感染後のより後の時点で投与された場合(ウイルス感染を有する患者においてこのペプチドが治療用物質として使用される状況を模擬しているもの)、ウイルス複製の低減において有効でありうるかどうかを判定するために、チクングニヤウイルス感染の毎日のペプチド処理を、感染の24時間後から開始した。これは感染の48時間後および72時間後にウイルス力価の有意な減少をもたらし、これは、有意により低いウイルス誘導性細胞変性効果に関連づけられた。これらのデータは、感染の開始後に開始されたTat−ベクリン1ペプチド処理が幾つかの異なる包膜プラス鎖RNAウイルスに対する抗ウイルス活性を有することを示している。
【0051】
また、本発明者らの共同研究者であるUTMBのRobert Daveyは、マウス適応エボラウイルスに感染したベロ細胞およびHeLa細胞において、Tat−ベクリン1ペプチドの抗ウイルス活性を試験した。これらの実験においては、細胞をTat−スクランブル対照またはTat−ベクリン1ペプチドで1時間にわたって前処理し、細胞を0.1pfuのMOIで感染させ、感染の24時間後にウイルス感染細胞の比率を決定した。結果は、該Tat−ベクリン1ペプチドがベロ細胞およびHeLa細胞の両方においてマウス適応エボラウイルスの感染性の低減をもたらすことを示した。
【0052】
Tat−ベクリン1ペプチドは初代マウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるエル・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)の細胞内生存を低減した。本発明者らは、オートファジー回避タンパク質ActAを欠くエル・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)の株、および未感染BMDMに対して無毒性である用量(10μMで2時間)の該ペプチドを使用した。この抗細菌効果は、Atg5発現の低減およびTat−ベクリン1誘導性オートファジーの低減を示したAtg5flox/floxLysozymeM−Creマウス由来のBMDMにおいて低減した。
【0053】
Tat−ベクリン1は初代ヒトMDMにおけるHIV−1複製を顕著に抑制した。確立された前処理モデル(Campbell ら,J Biol Chem 286,18890−902,2011;PLoS Pathog 8,e1002689,2012)を用いて、本発明者らは、無毒性濃度(0.5、1、2.5および5μM)のTat−ベクリン1の存在下で培養されたMDMにおいて、HIV p24抗原遊離の用量依存性抑制を観察した。この場合、5μM Tat−ベクリン1ペプチドで毎日処理された細胞においては、ほとんど検出不可能な抗原レベルが示された。HIV−1複製の抑制の大きさは、同様にオートファジーを誘導するmTORインヒビターであるラパマイシンで観察されたものに類似していた。HIV−1複製のTat−ベクリン1ペプチド媒介性抑制は正規のオートファジー経路により生じるようであった。なぜなら、必須オートファジー遺伝子ATG5のshRNAノックダウンはTat−ベクリン1誘導性オートファジーを低減し(LC3脂質化により評価された場合)、細胞生存の低下を何ら伴うことなくTat−ベクリン1処理の抗ウイルス効果を完全に阻止したからである。
【0054】
F.Tat−ベクリン1ペプチドはヒトマクロファージ細胞系THP1細胞においてエム・ツベルクローシス(M.tuberculosis)に対するインビトロ抗マイコバクテリア活性を有する
幾つかの研究は、結核の原因因子であるエム・ツベルクローシス(M.tuberculosis)に対する宿主防御においてオートファジーが決定的に重要な役割を果たすことを示している
23,24,25。エム・ツベルクローシス(M.tuberculosis)は最も重要な世界的病原体であり、全世界の人口の約3分の1が結核を有し、毎年200万〜300万人が結核で死亡している。結核を治療し根絶させるために、より良好な治療が必要とされている。
【0055】
Tat−ベクリン1ペプチドが抗マイコバクテリア活性を有しうるかどうかを評価するために、本発明者らは、ホルボールエステル分化THP−1細胞(ヒトマクロファージのモデル)にエム・ツベルクローシス(M.tuberculosis)を感染させた。感染の1日後、細胞を種々の用量のTat−ベクリン1またはTat−スクランブルペプチドで処理し、6日後に細胞内細菌増殖を測定した。10μm以上の用量のTat−ベクリン1ペプチドがエム・ツベルクローシス(M.tuberculosis)細菌増殖の有意な低減をもたらすことを見出した。
【0056】
G.Tat−ベクリン1ペプチドはマウスにおけるチクングニヤウイルス感染に対する有益な効果を有する
Tat−ベクリン1ペプチドがチクングニヤウイルス複製をインビトロで抑制することを確認した後、本発明者らはマウス新生児感染モデルにおける死亡率およびウイルス複製に対するその効果を評価した。チクングニヤは、幾つかの致命的症例を含む急性熱病を引き起こし、東南アジアで重大な問題となっている新興病原体である
26。また、それはNational Institute of Allergy and Infectious Diseasesにより潜在的生物脅威因子とみなされている。現在、チクングニヤに対する特異的治療法は存在せず、この疾患に対するワクチンは利用可能でない。
【0057】
マウスにおけるTat−ベクリン1のチクングニヤウイルス病理発生の効果を評価するために、本発明者らは10
6 pfuをC57BL6マウスに皮下(s.c.)感染させ、感染後(p.i.)第1日から13日間にわたって毎日、該マウスを15mg/mlのTat−ベクリン1ペプチドで腹腔内(i.p.)処理した。感染後第6日までに、調べた2つの筋群(外側広筋およびヒラメ筋)においてウイルス力価の有意な低減が認められることを見出した。オートファジーがチクングニヤウイルス感染筋肉において誘導されることを証明するために、ウイルスに感染したGFP−LC3トランスジェニックマウスの筋肉を調べ、Tat−ベクリン1ペプチドで処理した。チクングニヤウイルスエンベロープタンパク質E2抗体に対する抗体での免疫染色により標識されたウイルス感染筋肉細胞において、Tat−ベクリン1ペプチドで処理されたマウスにおいては、Tat−スクランブル対照ペプチドで処理されたマウスと比較して有意に多いGFP−LC3陽性ドットが存在した。重要なことに、Tat−ベクリン1ペプチドのインビボ抗ウイルス効果は動物致死性の有意な低減に関連づけられた。Tat−スクランブルペプチドで処理された動物の100%が致死性疾患のために死亡し、一方、Tat−ベクリン1ペプチドで処理された動物の58%が死亡した。
【0058】
H.Tat−ベクリン1ペプチドはマウスにおける西ナイルウイルス感染に対する有益な効果を有する
西ナイルウイルスは重要な世界的新興病原体であり、1999年に北米にそれが侵入して以来、北米における流行性髄膜脳炎の最も頻繁な原因となっている
27。神経侵襲性疾患(無菌性髄膜炎、脳炎、髄膜炎)は稀な感染症状であるが(感染個体の約1%)、神経疾患を有する者においては罹病率および致死率が非常に高い。他のアルボウイルスの場合と同様に、現在、利用可能な抗ウイルス治療は存在しない。また、利用可能なワクチンも存在しない。
【0059】
Tat−ベクリン1ペプチドが、アルボウイルスにより引き起こされる神経感染症に対する防御活性をもたらしうるかどうかを判定するために、本発明者らは、新生児マウスへの西ナイルウイルスのエジプト株の直接脳内接種を伴う、西ナイルウイルス神経感染症のモデル
28,29を使用した。接種の1日後、Tat−ベクリン1のL−アミノ酸形態またはTat−ベクリン1のD−アミノ酸形態でマウスを処理した。Tat−ベクリン1のL−アミノ酸形態はチクングニヤウイルス感染に対する防御を誘導可能であったが、D−アミノ酸Tatタンパク質トランスダクションドメイン結合ペプチドは、血清および組織ペプチダーゼによる酵素的切断に対する抵抗性により増強された安定性を有し、優れたインビボ細胞内運搬を示している
30。したがって、該ペプチドが脳内で活性であることを要するCNS感染モデルの本発明者らの使用を考慮して、本発明者らはTat−ベクリン1のL−アミノ酸形態およびD−アミノ酸形態の効力を比較した。Tat−ベクリン1のD−アミノ酸形態は注射後第4日および第6日に脳内の西ナイルウイルス力価の有意な低減およびウイルス誘導性致死の有意な遅延をもたらしたが、Tat−ベクリン1のL−アミノ酸形態はそうではなかったことを、本発明者らの結果は示している。
【0060】
I.Tat−ベクリン1ペプチドはインビボ抗リケッチア活性を有する
リケッチアは、発疹チフスおよびロッキー山紅斑熱を含む重篤なヒト感染症を引き起こしうる節足動物媒介性細菌の一群である
31,32。リケッチアは、オートファジーの細胞経路が宿主防御メカニズムを代表するものであることが仮定された最初の細胞内細菌病原体である
32。したがって、リケッチア症の専門家であるUTMBのGustavo Valbuena博士との共同研究において、本発明者らはリケッチア・コノリイ(Rickettsia conorii)感染のマウスモデルにおいてTat−ベクリン1処理の効果を評価した。Tat−ベクリン1ペプチド処理は肺における細菌負荷の有意な低減(接種後第6日に測定された)ならびに肝臓および脳における低減の傾向をもたらすことを見出した。これらの結果はTat−ベクリン1のL−アミノ酸形態で得られた。現在、Tat−ベクリン1のD−アミノ酸形態での追加的な研究が繰り返されている。
【0061】
J.Tat−ベクリン1ペプチドは、化学療法抵抗性癌細胞の場合を含む用量依存的細胞死を誘導する
前記研究において、本発明者らは、ハンチンチン凝集物を含有する又はウイルスもしくは細胞内細菌に感染した細胞に対するオートファジーの防御効果を記載している。しかし、高レベルのオートファジーは細胞死を誘導することが可能であり、これは、癌細胞を殺すための治療手段として潜在的に有用でありうるであろう。したがって、細胞死を誘導するTat−ベクリン1の能力を調べた。
【0062】
本発明者らは、子宮頸癌上皮細胞系であるHeLa細胞を使用して、Tat−ベクリン1処理後には細胞が細胞死の時間依存的増加を示すが、Tat−スクランブル対照処理後にはそうでないことを見出した。用量依存的効果も認められる。Tat−ベクリン1により引き起こされる死はアポトーシスまたは壊死アポトーシスではなく、オートファジー細胞死である。なぜなら、それは、アポトーシスのインヒビター(z−VAD)によっても壊死アポトーシスのインヒビター(Nec−1)によっても阻止されないが、オートファジーのインヒビター(3−MA)により阻止されるからである。また、それはオートファジー遺伝子ATG7またはベクリン1に対するsiRNAにより部分的に阻止される。腫瘍形成細胞および非腫瘍形成細胞の殺傷に関して該ペプチドのいずれかの特異性が存在するかどうかを調べるために、非腫瘍形成不死化ヒト乳上皮細胞(HMEC)のクローン原性生存を腫瘍形成MCF7ヒト乳癌細胞の場合と比較した。Tat−ベクリン1ペプチドは生存の用量依存性低減を誘導するが、MCF7細胞はTat−ベクリン1ペプチド誘導性細胞死に対してHMECより感受性であることが見出された。これらのデータは、腫瘍形成細胞が、Tat−ベクリン1ペプチド誘導細胞死に対して、より感受性でありうることを示している。
【0063】
本発明者らは、上皮増殖因子受容体(EGFR)における活性化突然変異を有する非小細胞肺癌細胞系、例えばHCC827細胞が、EGFRチロシンキナーゼインヒビター療法(一般名:エルロチニブ(Erlotinib);商品名:タルセバ(Tarceva))に応答してオートファジー細胞死を受けることを見出した。このタイプの肺癌を有する患者におけるタルセバ療法に関する主な問題点の1つは、耐性突然変異が頻繁に発生することである。EGFRにおける最も一般的な耐性突然変異T790Mを含有する肺癌細胞系(H1975細胞)においては、タルセバはオートファジーを誘導せず、該細胞を殺さない。したがって、本発明者らは、Tat−ベクリン1ペプチドでの治療(処理)がオートファジー誘導および細胞死に対するこの耐性を克服しうるかどうかを疑問視した。Tat−ベクリン1ペプチドでの治療はH1975細胞におけるオートファジーの顕著な誘導およびクローン原性生存の低減をもたらすことが見出された。これらの知見は、Tat−ベクリン1ペプチドが、それを使用しなければ化学療法誘導性オートファジー細胞死に対して耐性である癌細胞を殺す能力を有しうることを示している。また、ベクリン1ペプチド(Tat以外)の細胞内運搬を癌細胞特異的に媒介するペプチドは、正常細胞における細胞死を誘導することなく、腫瘍細胞におけるオートファジー細胞死を選択的に誘導するのに有用でありうる。UT SouthwesternのKathlynn Brownとの共同研究において行っている本発明者らの現在進行中の研究は、Tat−ベクリン1内に含有されるベクリン1の18アミノ酸に結合した肺癌細胞特異的ペプチド運搬配列(例えば、H2009.1)を使用している。
【0064】
K.Tat−ベクリン1ペプチドは、オートファジー誘導性ベクリン1/Vps34複合体の新規成分であるGAPR−1に結合する
Tat−ベクリン1ペプチドがどのようにしてオートファジーを誘導するのかを調べるために、本発明者らは、Tat−ベクリン1ペプチドの結合タンパク質を特定するための生化学的分析を行った。注目すべきことに、アミノ酸267−284はベクリン1 ECDの公知結合相手(例えば、Vps34)に要求されなかった。このことは、ベクリン1のこの領域は現在未特定のベクリン1の結合相手とのその相互作用に要求されることを示唆している。Tat−ベクリン1に結合するタンパク質を単離するために、本発明者らは細胞透過性ビオチン共役Tat−ベクリン1ペプチドを使用し、該ペプチド(または対照ビオチン共役Tat−スクランブルペプチド)と共にHeLa細胞を3時間処理し、ライセートをストレプトアビジンビーズと混合した。ビオチン共役Tat−ベクリン1に結合したタンパク質をビオチン共役Tat−スクランブルの場合と比較して、15〜20kDaのビオチン共役Tat−ベクリン1に結合したタンパク質のサンプルにおける特異的バンドを観察した。このバンドは、LC−MS/LC分析により、ホスファチジルイノシトールを含む負荷電脂質を含有するリポソームに結合することがこれまでに報告されているタンパク質であるGAPR−1
33と特定された。LC−MS/MS分析に用いたのと同じ方法により調製されたサンプルの免疫ブロット分析を行うために抗GAPR−1抗体を使用することにより、ビオチン−Tat−ベクリン1とGAPR−1との相互作用を確認した。また、ベクリン1のアミノ酸267−284(Tat−ベクリン1ペプチド内に含有されている領域)が、完全長ベクリン1タンパク質がGAPR−1と相互作用するのに必要かどうかを調べた。野生型ベクリン1はGAPR−1と免疫共沈降するが、アミノ酸267−284を欠くベクリン1欠失突然変異体は、非特異的結合のバックグラウンドレベルを超えるレベルでGAPR−1と相互作用しないことを、本発明者らの結果は示している。総合すると、これらのデータは、ベクリン1のアミノ酸267−284が、ベクリン1がGAPR−1と相互作用するのに必要かつ十分であることを示している。
【0065】
本発明者らは、オートファジーフラックスインヒビターを使用してオートファジーに対するGAPR−1 siRNAの効果を評価することにより、オートファジーにおけるGAPR−1の機能を評価した。GAPR−1のsiRNAノックダウンは、Tat−スクランブル対照ペプチドで処理された細胞およびTat−ベクリン1ペプチドで処理された細胞の両方においてオートファジーを増強した。これらのデータは、GAPR−1が、オートファジーの負の調節因子として機能する新規ベクリン1相互作用性タンパク質であること、ならびにGAPR−1およびベクリン1とのその相互作用がオートファジー促進性治療法のスクリーニングおよび設計のための新規標的となることを示している。
【0066】
L.典型的な代替的オートファジー誘導性構築物
1.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284
2.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,H275E
3.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,S279D
4.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,Q281E
5.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,H275E,S279D,Q281E
6.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,H275E,S279D,Q281E,V269I,A272G,G283A
7.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,F274およびW277
8.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基268−284
9.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−283
10.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基269−284
11.HIV−l Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基268−283
12.HIV−l Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基269−283
13.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基257−283
14.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基269−283
15.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基257−295
16.H2009.1−マレイミド−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
17.FLAAG−マレイミド−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
18.ビオチン−マレイミド−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
19.pVec−ε−アミノカプロン酸−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
20.RGD−4C−ε−アミノカプロン酸−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
21.マレイミド−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
22.アルブミン−ε−アミノカプロン酸−PEG(3)−ベクリン1残基267−284
23.FITC−Ser−PEG(3)−ベクリン1残基267−284−ポリHis
24.GFP−PA−ベクリン1残基267−284−TAP
25.PEG−ベクリン1残基267−284−Cys−AuNP
26.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基(D)269−284
27.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基(D)269−284
28.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,N−271 N結合N−アセチルグルコサミン
29.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基267−284,N−271 N結合N−アセチルグルコサミン,S279 O結合N−アセチル−ガラクトサミン
30.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基(N−メチル)269−284
31.HIV−1 Tat PTD−ジグリシン−ベクリン1残基N−アセチル−269−284−C−アミド
32.HIV−1 Tat PTD−Cys−ベクリン1残基269−284−Cys(ジスルフィド環状)
略語:H2009.1:四量体インテグリンα(v)β(6)結合性ペプチド;PTD:タンパク質トランスダクションドメイン;PA:ブドウ球菌タンパク質Aのα−ヘリックス束状ドメインA;GFP:グリーン蛍光タンパク質;AuNP:金ナノ粒子。