(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715347
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】線輪部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20150416BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F27/24 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-87162(P2010-87162)
(22)【出願日】2010年4月5日
(65)【公開番号】特開2011-222590(P2011-222590A)
(43)【公開日】2011年11月4日
【審査請求日】2012年11月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】NECトーキン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 一之
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博行
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−059925(JP,U)
【文献】
実開平04−093116(JP,U)
【文献】
特開2002−093627(JP,A)
【文献】
特開2001−052931(JP,A)
【文献】
特開平03−150815(JP,A)
【文献】
特開平10−022136(JP,A)
【文献】
特開昭55−053404(JP,A)
【文献】
特開昭63−179604(JP,A)
【文献】
特開2003−309017(JP,A)
【文献】
特開2005−243805(JP,A)
【文献】
特開2002−329617(JP,A)
【文献】
特開2003−229312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−19/08、27/24−27/26、
H01F 30/00−38/12、38/16、38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを有するC字状コアと、前記C字状コアに隣接して積層する少なくとも一つの閉磁路コアを備え、前記C字状コアと前記閉磁路コアは各々内周表面と外周表面を有し、前記C字状コアと前記閉磁路コアの接合部および前記C字状コアにおける前記磁気ギャップに絶縁材によるスペーサを配するよう構成し、前記C字状コアにおける前記磁気ギャップを前記閉磁路コアにおける磁性体部に前記接合部を介し隣接させ、前記閉磁路コアは、半径線に沿わない直線に沿って分割した、複数の同一形状の磁性体片よりなり、互いに隣接する前記磁性体片間の間隙に前記スペーサを配した線輪部品であって、前記C字状コア表面全てと前記磁気ギャップを充填する前記絶縁材はモールディングにより形成し、同時に前記閉磁路コアの前記内周表面と前記外周表面の全てと、前記磁性体片間の間隙に当たる箇所に前記絶縁材を予め磁性体片ケースとして形成し、前記磁性体片を前記磁性体片ケースに装着したことを特徴とする線輪部品。
【請求項2】
前記C字状コア材料は前記閉磁路コア材料よりも飽和磁化が大きく、透磁率が小さいことを特徴とする請求項1に記載の線輪部品。
【請求項3】
前記C字状コアにおける前記磁気ギャップには、前記C字状コアと材質の異なる磁性体が挿入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の線輪部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種交流機器における整流回路、雑音防止回路、共振回路等に装備される線輪部品及びその部品構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された先行技術には、磁気ギャップ部を有するC字状のコアを作成し、さらに磁気ギャップ部を埋め、同時にC字状のコア表面を被覆するよう、樹脂を材料とするモールディングを施すことで工数が少なく、自動化が可能であり、コイルへの通電によってコアに加振力が作用したとしても破損の虞がないトロイダルコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−93627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の先行技術によってもなお、通電によるコア加振力は発生する。特に、通電電流の周波数が20kHz以下になると可聴領域にかかるため、コア加振力によって生じる騒音の問題は依然残されたままとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、磁気ギャップを有するC字状コアと、前記C字状コアに隣接して積層する少なくとも一つの閉磁路コアを備え、前記C字状コアと前記閉磁路コアは各々内周表面と外周表面を有し、前記C字状コアと前記閉磁路コアの接合部および前記C字状コアにおける前記磁気ギャップに絶縁材によるスペーサを配するよう構成し、前記C字状コアにおける前記磁気ギャップを前記閉磁路コアにおける磁性体部に前記接合部を介し隣接させ、前記閉磁路コアは、
半径線に沿わない直線に沿って分割した、複数の同一形状の磁性体片よりなり、互いに隣接する前記磁性体片間の間隙に前記スペーサを配した
線輪部品であって、前記C字状コア表面全てと前記磁気ギャップを充填する前記絶縁材はモールディングにより形成し、同時に前記閉磁路コアの前記内周表面と前記外周表面の全てと、前記磁性体片間の間隙に当たる箇所に前記絶縁材を予め磁性体片ケースとして形成し、前記磁性体片を前記磁性体片ケースに装着した線輪部品により上記課題を解決する。
【0006】
特許文献1記載の先行技術では、コイルへの通電により、磁気ギャップ部に面する磁性体に、互いに磁気的な引力が働くことでコア加振力が発生していた。そこで本発明では、特許文献1記載の構成に対応するC字状コアの磁気ギャップに閉磁路コアの磁性体が隣接するよう構成することにより、通電による磁気的な引力はC字状コアと閉磁路コアの間にも生じるため、磁気的な引力が分散されることから、コア加振力も分散し、低減される。また、磁気ギャップに隣接する磁性体は絶縁材よりも剛性が高いため、磁気ギャップを強固に固定でき、コア加振力によって生じる振動を抑制することができる。また、C字状コアの磁気ギャップにC字状コアと異なる材質のMnZnフェライト等の磁性体を挿入してもよい。なお、閉磁路コアの用語は磁路が磁性体内のみに限定された磁気ギャップのない磁性体コアを含む意味として用いているが、さらに一つ以上の磁気ギャップを持ち、磁気ギャップ部に磁束が限定されている磁性体コアをも含む意味として用いている。従って、例えば閉磁路コアには、C字状等の磁性体コアも含まれることになる。また、C字状コアと閉磁路コアの内周表面と外周表面は、巻線の作業性を良くするために、接合部を介して連続しているのが望ましい。
【0007】
なお、絶縁材としては、硬化性アクリル系樹脂、熱硬化性ポリエチレン系樹脂、硬化性エポキシ樹脂、硬化性シリコーン樹脂、熱可塑性PBT樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、熱可塑性PBT、熱可塑性PC樹脂等やアルミナ、ガラス、セメント等があるが、コアの振動を抑制できるよう、コア割れが発生しない限度内で、可能な限り剛性、すなわちヤング率の高いものが望ましい。インダクタンスの高い線輪部品とする場合は、絶縁材にMnZnフェライト粉やFeSiAl軟磁性金属粉などの磁性体粉を配合してもよい。また、コアの外側部に位置する絶縁材部のエッジのR(曲率半径)は、被服導線の被服層の厚みの10倍以上あれば導体間のレアショートさせないための品質の絶縁性を充分確保できる。
また、閉磁路コア材として透磁率の高い磁性体を用いた場合は、磁気飽和し易くなるため、磁気ギャップを設ける必要がある。また、絶縁材をモールディングする際の応力で閉磁路コアが割れるような場合は、閉磁路コアを複数の磁性体片に分割し、磁性体片間の磁気ギャップを絶縁材で充填することで絶縁材による応力がさらに分散され、コア割れをより確実に防ぐことができる。
【0009】
閉磁路コアには絶縁性が充分でないものが多いため、コア表面を絶縁材で被覆することで絶縁性を確保する工夫が必要となるが、閉磁路コア材が割れ易いフェライト等である場合は、表面を完全に被覆してしまうよりは、表面の一部を露出したほうが被覆した絶縁材の応力集中によるコア割れを防ぐことができる。閉磁路コアの露出した表面には、別途作成した絶縁材製の蓋を接着または粘着することで確実に絶縁性を持たせることができる。
【0013】
本発明における表面被覆や隙間充填には、金型中に絶縁材製のスペーサを用いてC字状コアと、閉磁路コアを固定し、絶縁材製のスペーサごと熱硬化樹脂や熱可塑性樹脂を注入し、硬化させるのが好適である。
【0016】
閉磁路コアを複数の磁性体片に分割しても、絶縁材をモールディングすることでコア割れが発生してしまう場合もある。この場合は、予め絶縁材をC字状コアごとモールディングしたケースとして形成しておき、ケースに閉磁路コアか、磁性体片を入れて接着する。ケースで充分な剛性が確保できていれば、接着剤としてヤング率の低いエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、または粘着剤を用いることでコア割れを確実に防ぐことができるため望ましい。またケースとコアで対応する小さい凹凸を設け、コアをケースに嵌め込むだけで固定できるスナップフィット構造とすれば、接着剤や粘着剤を用いなくとも固定できるため望ましい。
【0017】
また本発明ではさらに、前記C字状コア材料は前記閉磁路コア材料よりも飽和磁化が大きく、透磁率が小さい線輪部品とすることで上記課題の解決に貢献する。
【0018】
C字状コアと、閉磁路コアを異なる磁性材で構成することで、互いの磁気特性の優れた側面を生かし、不利な側面を抑えることができる。例えばC字状コア材を積層珪素鋼板、閉磁路コア材をMnZnフェライトとした場合には、積層珪素鋼板の飽和磁化の高さと、MnZnフェライトのコアロスの低さ、透磁率の高さを兼ね備えた線輪部品とすることができる。すなわち、積層珪素鋼板の透磁率の低さ、コアロスの高さをMnZnフェライトの磁気特性で補うことができる。なお、C字状コア材は飽和磁化の高い鉄心、珪素鋼板、アモルファス積層磁芯などが望ましく、閉磁路コア材は透磁率やコアロスで優位なMnZnフェライト等が望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、コアの振動が抑制され、人間の可聴領域の周波数(25kHz以下の交流信号で通電印加を行う)での使用時も静粛な線輪部品を提供することができる。
【0020】
また本発明の線輪部品は、飽和磁化、すなわち直流電流を通電してもインダクタンスが維持される直流重畳特性が好適で、高インダクタンス、低コアロスによる高い電力変換効率も兼ね備えている。
【0021】
さらに本発明の線輪部品は、コア割れも発生せず、コア割れによる特性変動もコア割れ部からの騒音発生も無いため、特性面および静粛性の面での信頼性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態における磁芯の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態における磁芯の断面図である。
図2(a)、
図2(b)、
図2(c)、
図2(d)は本発明の実施形態における磁芯断面図の一例である。
【
図3】本発明の実施形態における閉磁路コアを示す図である。
図3(a)、
図3(b)は本発明の実施形態における閉磁路コアの斜視図である。
図3(c)は本発明の実施形態における閉磁路コアの分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0024】
本発明における線輪部品の一例を
図1及び
図2に示す。
図1は本発明の線輪部品の複合磁性体コア1の斜視図である。複合磁性体コア1は
図1のような円環状すなわちトロイダル形状がコイル巻線の作業性がよく汎用性があって好適であるが、四角環状、楕円環状であってもよい。
【0025】
図1における複合磁性体コア1は、被覆絶縁材2と複数の磁性体コアよりなる。
【0026】
図1の複合磁性体コア断面であるa面の一例が
図2(a)である。
図2(a)は、
図1閉磁路コア4と磁気ギャップを有するC字状コア5を積層し、閉磁路コア4とC字状コア5の間には絶縁材3が充填され、閉磁路コア4とC字状コア5の内周と外周表面は全て絶縁材3により被覆されていることを示している。絶縁材3により被覆されていることで、図示されないコイルと複合磁性体コアとの絶縁性が確保される。また、閉磁路コア4とC字状コア5には絶縁材モールドによる応力集中を防ぐため、絶縁材3で被覆されていない露出部が複合磁性体コア1の厚み方向端面にあるが、その露出部より絶縁材3が突き出していることでコイルと閉磁路コア4、C字状コア5とが接触しないため、絶縁性が確保されている。コイルと複合磁性体コアとの絶縁性をより確実とする場合は、絶縁材キャップ7を閉磁路コア4またはC字状コア5の露出部にヤング率の小さいシリコーン樹脂等で接着するか、粘着テープで粘着してもよい。
【0027】
なお、閉磁路コア4には複数の磁気ギャップが設けられていてもよい。また図示されていないが、C字状コア5はコア円周上の少なくとも一箇所に磁気ギャップを設けている。
【0028】
図2(b)は、C字状コア5の厚み方向の上下層に各々閉磁路コア4を積層した3層構造の複合磁性体コア1における磁路に垂直な断面を示す図である。C字状コア5の磁気ギャップが上下層の閉磁路コア4によって閉じ込められるため、
図2(a)の構成よりもコアの振動および騒音の抑制効果が高い。
【0029】
図1の複合磁性体コア断面であるa面の他の一例が
図2(c)である。
図2(c)は、C字状コア5のみ表面を全て絶縁材で被覆している点が
図2(a)と異なる。C字状コア5は珪素鋼板などの良導体で強度のある材料が好適に用いられるため、表面を全て絶縁材で被覆しても良い。
【0030】
図1の複合磁性体コア断面であるa面の他の一例が
図2(d)である。
図2(d)は、
図2(a)における厚み方向端面の露出部の中央部を除く部分を絶縁材で被覆した構成を示している。閉磁路コア4は電気抵抗率がC字状コア5よりも高いフェライト材等が好適に用いられ、絶縁材3の応力の集中を防ぐ必要があることから、C字状コア5よりも露出部を広めにしている。
【0031】
閉磁路コア4のコア割れを防ぐため、
図3のように複数の磁性体片で構成してもよい。閉磁路コアを予め複数の磁性体片に分割しておくことで、絶縁材3の応力を分散し、低減することができる。
【0032】
図3(a)は複数の磁性体片41よりなる閉磁路コア4を示している。互いに隣接する磁性体片間の磁気ギャップは絶縁材31で充填されている。なお、磁性体片41は閉磁路コア4を半径線に沿って均等に分割しても良いが、
図3(a)のように半径線に沿わない直線に沿って分割することで、磁性体片41の磁気飽和が不均一に起こるため、直流重畳特性を向上させることができるため望ましい。
【0033】
図3(b)は互いに磁気特性の異なる磁性体片41、42よりなる閉磁路コア4を示している。必要とされる磁気特性の調整をする上では全ての磁性体片は同じ磁気特性でなくともよく、また同じ形状でなくともよい。また、互いに隣接する磁性体片間の磁気ギャップも均一である必要はなく、磁気ギャップへの絶縁材充填部32のように特定の箇所で広い磁気ギャップを取るようにしてもよい。
【0034】
図3(c)は予め絶縁材3を磁性体片41のケースとして形成しておき、磁性体片41を絶縁材3のケースに実装する構成を示している。
【実施例】
【0035】
以下で本発明を実施した一例を示す。なお、以下で述べるフェライト材とは透磁率約2100のMnZnフェライトのことであり、積層珪素鋼板とは透磁率約15000、1枚あたりの厚さ0.23mmの積層珪素鋼板のことである。また、いずれも巻線の巻数は12ターンで、磁芯の内径19mm、外径38mm、磁気ギャップは4mmである。コイルへの通電電流の周波数は10〜20kHz、通電電流の時間平均値である直流重畳電流は12Aとした。また、閉磁路コア4とC字状コア5で複合磁性体コア1を作成する際は、互いの磁気ギャップは円周方向へ互いに4mmずらしている。
【0036】
(実施例1)
フェライト材で高さ7mmの閉磁路コア4と、積層珪素鋼板で高さ7mmのC字状コア5を
図2(a)の構成で熱硬化性エポキシ樹脂絶縁材を用い複合磁性体コア1を形成し、コイルを巻線して線輪部品を作成した(インダクタンスは600マイクロH)。次に人間の可聴領域の周波数(25kHz以下の交流信号で通電印加を行う)でコイルに対し低周波から高周波へ10kHz/分でスウィープ通電し、線輪部品の騒音について被験者10人にアンケートを取ったところ、そのうち3人が線輪部品から騒音が聞こえると回答した。
【0037】
(実施例2)
フェライト材で高さ7mmの閉磁路コア4と、積層珪素鋼板で高さ7mmのC字状コア5を
図2(a)の構成で熱硬化性エポキシ樹脂絶縁材を用い複合磁性体コア1を形成し、コイルを巻線して線輪部品を作成した。次にコイルへ実施例1と同様に通電したところ、インダクタンスは600μHであった。通電状態で線輪部品の騒音について被験者10人にアンケートを取ったところ、そのうち3人が線輪部品から騒音が聞こえると回答した。
【0038】
(実施例3)
フェライト材で高さ3.5mmの閉磁路コア4を二つと、積層珪素鋼板で高さ7mmのC字状コア5を
図2(b)の構成で熱硬化性エポキシ樹脂絶縁材を用い複合磁性体コア1を形成し、コイルを巻線して線輪部品を作成した。次に実施例1と同様にコイルへ通電したところ、インダクタンスは600μHであった。通電状態で線輪部品の騒音について被験者10人にアンケートを取ったところ、そのうち全員が線輪部品から音が聞こえないと回答した。
【0039】
(比較例)
フェライト材で高さ14mmのC字状コア5のみを用い、磁気ギャップの充填とコア表面被覆を熱硬化性エポキシ樹脂絶縁材で行い、コイルを巻線して線輪部品を作成した。次にコイルへ実施例1と同様に通電したところ、インダクタンスは600μHであった。通電状態で線輪部品の騒音について被験者10人にアンケートを取ったところ、全員が線輪部品から騒音が聞こえると回答した。
【符号の説明】
【0040】
1 複合磁性体コア
2 絶縁材被覆部
3 絶縁材
31 絶縁材充填部
32 絶縁材充填部
4 閉磁路コア
41 磁性体片
42 磁性体片
5 C字状コア
61 磁気ギャップ
62 磁気ギャップ