【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、冷却性能に優れ、また、冷却用流体が流れる際に生じる圧力損失を小さく抑えたヒートシンクに関するものである。本発明のヒートシンクは、以下の特徴を有する。
【0010】
第1観点のヒートシンクは、
図1にその一実施態様の斜視図を、また、
図3にその一実施態様の模式的な平面図を示すように、発熱部品が熱的に接続されるベースプレート上に、冷却用流体への伝熱を行なうためのフィンユニットが設けられてなるヒートシンクにおいて、フィンユニットは、ベースプレート面に平行な断面の長さがLである多数の板状フィンが間隔Pずつ離れて互いに平行にベースプレート上に立設されてなる第1フィン群と、第1フィン群から0.8P以上かつ0.3L以下の距離aだけ離して冷却用流体の概ね上流側から下流側に向かう所定のD方向に配置される第1フィン群と同様な第2フィン群とから構成されるものであって、各板状フィンのベースプレート面に平行な各断面がD方向に対して偏倚角度γ(但し、1°≦γ≦5°。)をなしている。
【0011】
第2観点のヒートシンクは、
図1にその一実施態様の斜視図を、また、
図3にその一実施態様の模式的な平面図を示すように、第2フィン群から0.8P以上かつ0.3L以下の距離aだけ離してD方向に第2フィン群と同様のフィン群が更に配置されることがD方向に繰り返されている。
【0012】
第3観点のヒートシンクは、
図2にその一実施態様の模式的断面図を示すように、板状フィンの板面がベースプレート面に対して傾斜角度β(但し、20°≦β≦80°。)をなしている。
【0013】
第4観点のヒートシンクは、
図5にその一実施態様の模式的な平面図を示すように、隣り合う2つのフィン群の各板状フィンの板面同士が各々の共通同一平面上に存在するように板状フィンが配置されている。
【0014】
第5観点のヒートシンクにおいて、フィンユニットは、1枚の金属板をプレスして形成されるものである。
【0015】
第6観点のヒートシンクにおいて、フィンユニットはアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものである。
【0016】
ここで、本発明のヒートシンクにおいて、冷却性能が優れ、また、冷却用流体の圧力損失が小さく保たれ得る理由を説明する。
【0017】
一般に、ヒートシンクにおいて冷却用流体が放熱用フィンに沿って流れるときには、温度境界層が形成されてしまう。即ち、冷却用流体は、発熱部品からベースプレートを介して熱的に接続されて高温となっている放熱用フィンの表面に接することによりフィンから熱を奪うのであるが、それによりフィンの表面付近の冷却用流体は次第に暖められて、下流に行くに従ってより高温になってくる。一方、フィンに沿っての流れは一般に層流であることから、フィンから離れた所を流れる冷却用流体は高温フィンに接することがないので、下流に行っても特に高温になるということはない。このように、下流に行くに従ってフィン表面付近の部分とフィンから離れた部分とでは冷却用流体の中で温度差が生じて来ており、それらの間に温度境界層が形成されてしまうのである。
【0018】
フィン表面付近の既に高温になってしまった冷却用流体はフィンからの熱を奪う能力がもはや低くなってしまっている。従って、フィンから離れた部分のまだ低温のままでいる冷却用流体がフィン表面にやって来てそれに接するようになるならば、フィンからの熱を奪う能力がもっと高まることになる。即ち、もしフィン表面付近を流れていた冷却用流体とフィンから離れた部分を流れていた冷却用流体とを流れの途中で入れ替えることが出来るならば最も理想的であるといえるのであるが、しかし、そのような“入れ替え”を実現することは容易でない。そこで、次善の策として、上記両冷却用流体を完全に入れ替えることはできなくても、上記両冷却用流体を“混ぜ合わせる”だけでも効果は大きい。即ち、流れの途中で流れを乱して温度境界層を崩すことにより、フィン表面にもっと低温の冷却用流体が接するようになりフィンからの熱を奪う能力がもっと高まることになる。
【0019】
上記の事情を鑑みながら、まず、第1観点のヒートシンクにおいて、冷却性能が優れ、また、冷却用流体の圧力損失が小さく保たれ得る理由を説明する。
第2フィン群は第1フィン群から見てD方向に配置されているので、冷却用流体が第1フィン群を出て第2フィン群に入る時、冷却用流体はD方向に向かう。
ところが、各板状フィンのベースプレート面に平行な各断面はD方向に対しては偏倚角度γ(但し、1°≦γ≦5°。)をなしていることから、第1フィン群の板状フィンに沿って流れて来た冷却用流体は、第1フィン群を出て第2フィン群に入る時に、それまで流れて来た板状フィンの方向とは角度γだけ異なるD方向に向かうことになるので横向き方向の力を受ける。
【0020】
ここで、D方向とは、冷却用流体の概ね上流側から下流側に向かう方向であって、第1フィン群に対して、それと同様な第2フィン群が直列的に配置される方向のことをいう。但し、本発明のヒートシンクにおいて、始めの2つのフィン群が直列的に配置されることにより一たび『D方向』が確定したならば、そのヒートシンクにおいては全体を通してそのD方向のみが用いられるのであり、それとは別の『D方向』が新たに加えられるということはない。
【0021】
それにより、第1フィン群の板状フィンに沿って温度境界層を形成しながら層流として流れて来た冷却用流体はここで流れが乱されて温度境界層が崩されることとなり、第1フィン群の板状フィン表面から離れた部分を流れて来てまだ低温のままでいる冷却用流体が、次には、第1フィン群の板状フィン表面付近を流れて来た冷却用流体と混ざり合った状態で第2フィン群に入って行き、第2フィン群の板状フィン表面に接するようになる。このようにして冷却性能がより高まるのである。
【0022】
ところで、流れが乱されれば、層流的な流れのときよりも圧力損失が大きくなってしまうのが一般的である。しかし、本発明では、偏倚角度γは5°以下に抑えられていることから冷却用流体の流れ方向が偏倚する度合いはそれほど大きくないので、圧力損失もさほど大きく上昇してはこないのである。
【0023】
さて、第2観点のヒートシンクのように、距離aだけ離してD方向にフィン群を配置することをD方向に繰り返すことにより、冷却用流体が一のフィン群を出て他のフィン群に入る時に混ざり合う機会が多くなるので、冷却性能がいっそう高まる。
【0024】
また、第3観点のヒートシンクのように、板状フィンの板面がベースプレート面に対して傾斜角度β(但し、20°≦β≦80°。)をなしていることにより、ベースプレート面に垂直な方向にも冷却用流体をかき混ぜることができるようになり、冷却性能の一層の向上を図り得る。
【0025】
また、第4観点のヒートシンクのように、隣り合う2つのフィン群の各板状フィンの板面同士が各々の共通同一平面上に存在するような配置にするならば、この配置は各板状フィンの位置を把握しやすいので、製造が容易になる。また、予め各フィン群に共通するような長い板状フィンをベースプレート上に立設しておいた後に、長さLごとに間隔PのスリットをD方向に垂直な方向に切るという作製方法も可能である。
【0026】
また、第5観点のヒートシンクのように、1枚の金属板をプレスして形成することにより、比較的容易にフィンユニットを形成することが可能となる。
【0027】
また、第6観点のヒートシンクのように、熱伝導度の高いアルミニウム又はアルミニウム合金を用いてフィンユニットを構成することにより、ベースプレートからフィンユニットの末端まで効率よく熱を伝えることができる。
【0028】
以上に説明した本発明のヒートシンクに対して、これまでに特許文献1〜特許文献4などの特許公報に開示されている技術が本発明に類似する技術として知られているが、それらには冷却性能、小型化、形成の容易さ等のいずれかの面において必ずしも十分に満足し得えない点が残っている。
【0029】
特許文献1は、冷却しようとする対象物である温度の高い流体が流れる偏平管にコルゲートフィンが設けられ、コルゲートフィンにさらに傾斜ルーバーが設けられており、そのコルゲートフィン及び傾斜ルーバーに空気流を当てて冷却することにより偏平管内の流体を冷却するものである。コルゲートフィン上のルーバー配置を表わした断面図の模様が、一見したところでは恰も本発明と類似するかのような感じを与えるのであるが、実際は大きく異なる。
【0030】
本発明は、発熱部品が熱的に接続されるベースプレート上に板状フィンが直接立設されるものであり、特許文献1とは構造が大きく異なる。
特に、多数の板状フィンからなるところのフィン群とフィン群との間は距離aだけ離れており、板状フィンに沿って流れて来た冷却用流体はその所で横向き方向の力を受けることにより、板状フィン表面付近を流れて来た冷却用流体と板状フィン表面から離れた部分を流れて来た冷却用流体とが混ざり合い温度境界層が崩されて冷却性能が高まっているのに対し、特許文献1の配置ではそのような横向き方向の力は生じない。
【0031】
また、特許文献1では、傾斜ルーバーを設けるのはコルゲートフィン上であるので発熱体との距離が長くなり、また傾斜ルーバーとコルゲートフィンのつなぎ目の部分の面積が狭くなり熱の伝わり方が悪くなってしまうが、本発明では、発熱部品が熱的に接続されるベースプレート上に板状フィンが直接立設されるため発熱体との距離が短く、熱の伝わり方が良い。
【0032】
また、特許文献1では、フィンがベースプレート面に対して傾斜していない。そのため、ベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることができないが、本発明ではベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることも可能なため、冷却性能がより高い。
【0033】
次に、特許文献2は、ほぼ平行に複数並べた平板状のフィンの一部分を片持ちに折り曲げて切り起こしたウイングレットに、気流に対して迎え角度、フィン母材面に対して傾斜角度をもたせるものである。
【0034】
これに対して、本発明は、ベースプレート上に互いに平行に多数立設された板状フィンに偏倚角度、傾斜角度をもたせるものであり、特許文献2とは構造が大きく異なる。
また、特許文献2の主目的は局所的な着霜の防止という点にあることから、コーナー渦を強めウイングレット前方の伝熱促進を図るために、迎え角度γは30°〜70°の範囲、フィン傾斜角度βは90°〜160°の範囲としており、本発明の偏倚角度γが1°〜5°、傾斜角度βが20°〜80°とは大きく異なっている。
特許文献2のような迎え角度γ、傾斜角度βで本発明の板状フィンを立設した場合には、冷却用流体の圧力損失が著しく大きくなってしまう。
【0035】
特許文献3は、板状インナーフィンを管内流体の流れ方向に対して傾斜して設けることにより、冷媒通路の抵抗を低減させると共に、伝熱面積を有効に働かせて伝熱性能を向上させるとするものである。
【0036】
しかし、本発明のようにフィン群とフィン群との間は距離aだけ離すということはしていないので、板状フィンに沿って流れて来た冷却用流体がその所で横向き方向の力を受けることにより、板状フィン表面付近を流れて来た冷却用流体と板状フィン表面から離れた部分を流れて来た冷却用流体とが混ざり合い温度境界層が崩されて冷却性能が高まるという効果は無い。特許文献3の配置ではそのような横向き方向の力は生じない。
【0037】
また、特許文献3では、フィンがベースプレート面に対して傾斜していない。そのため、ベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることができないが、本発明ではベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることも可能なため、冷却性能がより高い。
【0038】
特許文献4は、冷却用流体の流れの上流側に向って凸形状を形成する複数の冷却フィンを冷却用流体の流れ方向に沿って略同一直線状に配置したものである。
特許文献4の発明の目的は、上流側の冷却フィンの後端部にて発生したカルマン渦を下流側の冷却フィンの高抵抗領域に接触させることにある。
【0039】
これに対して、本発明は特にカルマン渦を意図するものではないことから、フィン形状は単に板状である。
更に、本発明は、前述の通りフィン群とフィン群との間の空間で冷却用流体に横向き方向の力が作用するようになっているのであるが、特許文献4にはそのような記載も示唆も無い。
【0040】
また、特許文献4では、フィンがベースプレート面に対して傾斜していない。そのため、ベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることができないが、本発明ではベースプレート面に垂直な方向に冷却用流体をかきまぜることも可能なため、冷却性能がより高い。