【実施例】
【0055】
以上の効果を確認するために、次の実施例1〜実施例2と、比較例1〜比較例6の触媒を調製し、性能を比較した。
【0056】
(実施例1)
第1工程として、次の工程を行った。すなわち、硫酸ジルコニウム・4水和物1.66kgと、硝酸セリウム・6水和物816gとを水5Lに溶解した。得られた溶液に35%過酸化水素水500gを加えて、反応溶液とした。この反応溶液を、28%アンモニア水と1Lの水とを含む容器内に、攪拌しながら、pH8.5になるまでゆっくりと滴下して中和した。生成した沈殿物にメタタングステン酸アンモニウム水溶液180gを滴下した。その後、ろ過し、ろ取された沈殿物を水洗した。次に、第2工程として、得られた沈殿物を水と混合して懸濁液とした。懸濁液を97℃で3時間、加熱熟成させた。最後に、第3工程として、加熱熟成されたものを再びろ過し、ろ取された沈殿物を水洗した。得られた沈殿物を、140℃で15時間乾燥させた。乾燥された沈殿物を粉砕した。粉砕された沈殿物を700℃で6時間焼成した。このようにして、酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比57/32/9)が定量的収量で得られた。
【0057】
(実施例2)
セリウム源とジルコニウム源の量を変えて、実施例1と同様の工程を行った。酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比56/35/9)が定量的収量で得られた。
【0058】
(比較例1)
硫酸ジルコニウム・4水和物1.66kgと、硝酸セリウム・6水和物816gとを水5Lに溶解して、反応溶液とした。この反応溶液を、28%アンモニア水と1Lの水とを含む容器内に、攪拌しながら、pH8.5になるまでゆっくりと滴下して中和した。生成した沈殿物にメタタングステン酸アンモニウム水溶液180gを滴下した。得られた混合液を97℃で3時間、加熱熟成させた。加熱熟成されたものをろ過し、ろ取された沈殿物を水洗した。得られた沈殿物を、140℃で15時間乾燥させた。乾燥された沈殿物を700℃で6時間焼成した。焼成された沈殿物を粉砕した。このようにして、酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比57/32/9)が定量的収量で得られた。
【0059】
このように、比較例1の触媒の製造工程では、実施例1の触媒の製造工程と異なる主な点として、実施例1の第1工程において過酸化水素水を加えなかった。
【0060】
(比較例2)
硫酸ジルコニウム・4水和物1.66kgと、硝酸セリウム・6水和物816gとを水5Lに溶解した。得られた溶液に35%過酸化水素水500gを加えて、反応溶液とした。この反応溶液を、28%アンモニア水と1Lの水とを含む容器内に、攪拌しながら、pH8.5になるまでゆっくりと滴下して中和した。生成した沈殿物にメタタングステン酸アンモニウム水溶液180gを滴下した。その後、ろ過し、ろ取された沈殿物を水洗した。得られた沈殿物を、140℃で15時間乾燥させた。乾燥された沈殿物を700℃で6時間焼成した。焼成された沈殿物を粉砕した。このようにして、酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比57/32/9)が定量的収量で得られた。
【0061】
このように、比較例2の触媒の製造工程では、実施例1の触媒の製造工程と異なる主な点として、実施例1の第2工程の加熱熟成を行わなかった。
【0062】
(比較例3)
酸化セリウム粉体(比表面積115m
2/g)91gを水と混合して懸濁液とした。この懸濁液にメタタングステン酸アンモニウム水溶液18gを加えた。得られた混合物をろ過し、ろ取された沈殿物を水洗した。水洗された沈殿物を140℃で15時間乾燥させた。その後、700℃で6時間焼成した。焼成された沈殿物を粉砕した。このようにして、酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比91/9)が定量的収量で得られた。
【0063】
このように、比較例3の触媒の製造工程では、実施例1の触媒の製造工程と異なる主な点として、実施例1の第1工程においてジルコニウム源を加えなかった。
【0064】
(比較例4)
セリウム源とジルコニウム源の量を変えて、実施例1と同様の工程を行った。酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比71/20/9)が定量的収量で得られた。
【0065】
(比較例5)
セリウム源とジルコニウム源の量を変えて、実施例1と同様の工程を行った。酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比38/53/9)が定量的収量で得られた。
【0066】
(比較例6)
セリウム源とジルコニウム源の量を変えて、実施例1と同様の工程を行った。酸化ジルコニウム/酸化セリウム/酸化タングステン複合酸化物粉体(酸化物基準重量比61/20/19)が定量的収量で得られた。
【0067】
(結晶構造解析)
上述の実施例1と比較例1、比較例2の触媒について、X線回折パターンを測定した。スペクトリス株式会社製X’Pert−Pro MPDを用いて、管電流40mA、管電圧45kVとして、CuKα線で測定した。
【0068】
実施例1の触媒について得られたX線回折パターンを
図1に示す。また、
図1に示すX線回折パターンから読み取られるピークの位置、面間隔(d)、ミラー指数、相対強度を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
図1と表1とに示すように、実施例1の触媒のX線回折パターンには、特徴的なピークが2θ=29.6°、34.3°、49.5°、58.9°、61.8°(10°≦2θ≦70°)に観測された。これらのピークは、セリアジルコニア複合固溶体に帰属するピークである。一方、2θ=29.6°の位置のピーク強度の3%以上の強度を有するピークは、10°<2θ<70°の範囲内において、2θ=29.6°、34.3°、49.5°、58.9°、61.8°以外の位置に観測されなかった。
【0071】
このことから、実施例1の触媒においては、セリアジルコニア複合固溶体は単相を形成していることがわかった。
【0072】
図2に示すように、比較例1の触媒について得られたX線回折パターンにおいては、比較的強度の強いピークが2θ=30.1°、33.2°、34.8°、50.1°、59.0°、59.9°、62.3°(10°≦2θ≦70°)に観測された。また、比較例1の触媒について得られたX線回折パターンでは、例えば2θ=28.2°など、
図2に矢印Aで示す位置にもピークが観測された。
図2に矢印Aで示すピークは、酸化セリウムに帰属されるピークである。このように、比較例1の触媒のX線回折パターンでは、2θ=30.1°、33.2°、34.8°、50.1°、59.0°のピークと
図2に矢印Aで示すピークのように、10°<2θ<70°の範囲において、2θ=29.4°−30.0°、33.9°−34.7°、48.8°−49.9°、58.3°−59.5°、61.3°−62.3°以外の位置にピークが観測された。
【0073】
また、比較例2の触媒について得られたX線回折パターンでは、比較的強度の強いピークが2θ=30.0°、34.3°、35.1°、50.0°、58.9°、60.0°、62.5°(10°≦2θ≦70°)に観測された。また、比較例2の触媒について得られたX線回折パターンでは、
図2に矢印Bで示す位置や矢印Cで示す位置にもピークが観測された。
図2に矢印Bで示すピークは、単斜晶酸化ジルコニウムに帰属されるピークである。
図2に矢印Cで示すピークは、酸化タングステンに帰属されるピークである。このように、比較例2の触媒のX線回折パターンでは、2θ=35.1°、50.0°、60.0°、62.5°のピークと
図2に矢印B、矢印Cで示すピークのように、10°<2θ<70°の範囲において、2θ=29.4°−30.0°、33.9°−34.7°、48.8°−49.9°、58.3°−59.5°、61.3°−62.3°以外の位置にピークが観測された。また、10°≦2θ≦30°の範囲にもいくつかの弱いピークが観測された。
【0074】
このことから、比較例1と比較例2の触媒においては、セリアジルコニア複合固溶体は単相を形成していないことがわかった。
【0075】
(電子顕微鏡像の観察)
実施例1の触媒の透過型電子顕微鏡像を撮影した。
図3に示すように、実施例1の触媒の一次粒子径が5nm以上50nm以下であることが確認できた。
【0076】
次に、実施例1、実施例2と比較例1〜比較例6の触媒について、高温で保持した後の結晶子径と比表面積とを測定した。
【0077】
それぞれの触媒を、大気中で700℃に24時間保持した後、結晶子径と比表面積とを測定した。また、それぞれの触媒を、大気中で800℃に3時間保持した後、結晶子径と比表面積とを測定した。結晶子径と比表面積とは次のようにして求めた。
【0078】
(結晶子径)
上述のようにして測定されたX線回折パターンから、触媒中の結晶子の大きさを求めた。結晶子の大きさD
hklは、Sherrer式(式1)から求めた。
(式1) D
hkl=κ・λ/βcosθ
ここで、D
hklは(hkl)面における結晶子の大きさ、λは測定X線の波長、βは(hkl)面における結晶子の大きさによる回折線の広がりとして回折線の半値幅、θは(hkl)面の回折線のブラッグ角、κは定数でありβとして回折線の半値幅を用いる場合にはκ=0.9である。
【0079】
(比表面積)
触媒の粉末の比表面積は、全自動比表面積計(株式会社マウンテック製Macsorb HM model 1208)を使用して、BET一点法吸着理論に基づいて算出した。
【0080】
700℃で24時間保持した触媒について、上述のようにして求めた結晶子の大きさと比表面積とを表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、700℃で24時間保持した後、実施例1、実施例2、比較例4の触媒では、結晶子の大きさが比較的小さく、かつ、比表面積が比較的大きかった。
【0083】
800℃で3時間保持した触媒について、上述のようにして求めた結晶子の大きさと比表面積とを表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、800℃で3時間保持した後、実施例1と実施例2の触媒では、結晶子の大きさが比較的小さく、かつ、比表面積も大きく保たれていた。一方、比較例4の触媒では、結晶子の大きさが比較的大きくなり、また、比表面積が比較的小さくなった。
【0086】
この結果から、実施例1と実施例2の触媒は、比較例1〜比較例6の触媒と比較して、耐熱性が高く、高温で保持された後にも性能が劣化しにくいと考えられる。
【0087】
次に、実施例1、実施例2と比較例1〜6の触媒の性能試験の結果について説明する。
【0088】
実施例1、実施例2と比較例1〜6のそれぞれの触媒について、次のようにしてハニカム触媒構造体を作製した。まず、触媒30gにチタニアゾル(テイカ株式会社製チタニアゾル、TiO
2として30重量%)12gと適量の水とを加えて混合した。得られた混合物に、粉砕媒体として1.5mmのガラスビーズ50gを加え、ペイントコンディショナーで10分間粉砕した。このようにしてウォッシュコート用スラリーを得た。このスラリーを、1in
2あたり400セルのコージェライト製ハニカム基体に塗布した。スラリーを塗布されたハニカム基体を600℃で3時間焼成した。このようにして、表面に触媒成分を200g/L(ハニカム容積)の割合で担持するハニカム触媒構造体が得られた。
【0089】
上述のハニカム触媒構造体について、高温で保持した後のNO
x転化率を次のようにして測定した。
【0090】
まず、容積2mLのハニカム触媒構造体を常圧下、固定床上に設置した。それぞれのハニカム触媒構造体を、大気中で700℃に24時間保持した。その後、反応ガスにハニカム触媒構造体を通過させた。反応ガスは、NOを500ppm、NH
3を500ppm、O
2を9%、H
2Oを4%含み、残部はN
2であった。また、反応ガスの空間速度は50,000h
−1、温度は200℃〜550℃であった。ケミルミネセンスNO
x計(柳本製作所製ECL-77型)を用いて、ハニカム触媒構造体の入口と出口のそれぞれにおいて、反応ガス中のNO
x濃度を測定した。得られたNO
x濃度から、(式2)に基づいて、NO
x転化率を算出した。
(式2) NO
x転化率=(入口NO
x濃度−出口NO
x濃度)/(入口NO
x濃度)×100
【0091】
500℃と350℃の反応ガスについて算出された、700℃で24時間保持されたハニカム触媒構造体のNO
x転化率を表4と
図4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
表4と
図4とに示すように、実施例1または実施例2の触媒を用いたハニカム触媒構造体では、比較例1〜比較例6の触媒を用いたハニカム触媒構造体と比較して、500℃の反応ガスに対するNO
x転化率が高かった。一方、350℃の反応ガスに対するNO
x転化率は、実施例1、実施例2、比較例3の触媒を用いたハニカム触媒構造体で高かった。
【0094】
次に、容積2mLのハニカム触媒構造体を常圧下、固定床上に設置した。それぞれのハニカム触媒構造体を、大気中で800℃に3時間保持した。その後、上述の反応ガスに、上述の条件で、ハニカム触媒構造体を通過させた。上述のようにしてNO
x転化率を算出した。
【0095】
500℃と350℃の反応ガスについて算出された、800℃で3時間保持されたハニカム触媒構造体のNO
x転化率を表5と
図5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
表5と
図5とに示すように、実施例1または実施例2の触媒を用いたハニカム触媒構造体では、比較例1〜比較例6の触媒を用いたハニカム触媒構造体と比較して、500℃の反応ガスに対するNO
x転化率も、350℃の反応ガスに対するNO
x転化率も高かった。
【0098】
以上の結果から、実施例1または実施例2の触媒は、比較例1〜比較例6の触媒と比較して、低温域から高温域まで窒素酸化物浄化活性を示し、かつ、耐熱性を有することがわかった。
【0099】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。