特許第5715614号(P5715614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムラ製作所の特許一覧

<>
  • 特許5715614-圧粉磁心とその製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715614
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】圧粉磁心とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20150416BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20150416BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20150416BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20150416BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20150416BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20150416BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20150416BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20150416BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20150416BHJP
【FI】
   H01F41/02 D
   H01F1/24
   H01F1/14 C
   B22F3/00 B
   B22F3/02 M
   B22F3/26 F
   C22C33/02 E
   C22C33/02 L
   B22F3/24 B
   !C22C45/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-277057(P2012-277057)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-120723(P2014-120723A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−27871(JP,A)
【文献】 特開昭63−104407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 3/00
B22F 3/02
B22F 3/24
B22F 3/26
C22C 33/02
H01F 1/153
H01F 1/24
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合し、
この混合物を加圧成形処理して成形体を作製し、
加圧成形処理によって得られた成形体に対して第1の熱処理を行い、
第1の熱処理を行った成形体に無機材料と有機物成分を含有する含浸剤を含浸させ、
無機材料と有機物成分を含有する含浸剤を含浸した成形体を、酸化雰囲気中において、350℃以上前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度よりも低い温度で第2の熱処理を行ったことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスの混合物に対して、結着性樹脂を添加して加圧成形処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
記含浸剤がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された圧粉磁心であって、
前記非晶質軟磁性合金粉末の周囲に形成される絶縁被膜は、前記含浸剤の有機物成分が除去されていること、
を特徴とする圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑用チョークコイル等に使用される圧粉磁心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等の出力波形を平滑するために、チョークコイルが使用されている。特に、高周波出力の平滑用チョークコイルとしては、フェライト磁心や圧粉磁心を備えたものが使用されている。これらの中で、軟磁性のフェライトから作製された磁心は、飽和磁束密度が小さいと言う欠点を有している。これに対して、金属合金粉末を成形して作製された圧粉磁心は、軟磁性フェライトに比べて高い飽和磁束密度を持つため、直流重畳特性に優れている。この金属合金粉末として、珪素・アルミ・鉄合金であるセンダスト、ニッケル・鉄合金であるパーマロイ、珪素・鉄合金である珪素鋼等が用いられている。また、より低損失な合金としてアモルファス合金(非晶質軟磁性合金)が検討されている。
【0003】
各種電子機器の高性能化・多機能化に伴い、それに使用されるチョークコイル等の磁心においても、大電流でも特性変化の小さいものが要求されている。具体的には、優れた直流重畳特性と低損失特性を有する磁心が求められている。
【0004】
これらの非晶質合金粉を用いて圧粉磁心とするためには、金属合金粉末を低融点ガラスと有機バインダーなどと混合して高圧で圧縮成形した後、熱処理を行う方法がとられている。特許文献1に記載の方法は、成形時、金型と粉末を高温にして成形して高密度成形を行なう。特許文献2に記載の方法は、金属合金粉末を低融点ガラスと有機バインダーなどと混合して、室温で高圧で成形を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−212503号公報
【特許文献2】特開2001−73062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の発明は、ガラスの添加量、結着樹脂の種類・添加量については詳細に書かれていなく、磁気特性も、透磁率のみしか評価していなく、鉄損については全く述べていない。
【0007】
従来技術の1つとして、成形体の原材料に対して、シランカップリング剤を添加した後、成形体を製作し、その成形体を焼成して磁心を製造するものが知られている。この従来技術では、焼成後の成形体において、シランカップリング剤中の無機質が絶縁材料として機能するので、鉄損の減少が可能となる。しかし、金型で強く加圧したとしても、成形体を構成する金属合金粉末間には微小な空隙が存在し、金属合金粉末の表面が確実に被覆されていない。そのため、磁心を高温・高湿度の環境に長時間曝すと、金属合金粉末の表面酸化による振幅透磁率(μa)の低下が発生し、鉄損が増加する。
【0008】
本発明の目的は、圧粉磁心に無機材料を含有する含浸剤を含浸することで、高温・高湿度の環境下においても、低損失・高強度な圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の圧粉磁心の製造方法は、非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合し、この混合物を加圧成形処理して成形体を作製し、加圧成形処理によって得られた成形体に対して第1の熱処理を行い、第1の熱処理を行った成形体に無機材料と有機物成分を含有する含浸剤を含浸させ、無機材料と有機物成分を含有する含浸剤を含浸した成形体を、酸化雰囲気中において、350℃以上前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度よりも低い温度で第2の熱処理を行ったことを特徴とする。
【0010】
本発明において、非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することができる。非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスの混合物に対して、結着性樹脂を添加して加圧成形処理することができる。無機材料を含有する含浸剤としてシランカップリング剤を使用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成型後の磁心に対して、シランカップリング剤などの無機材料を含有する含浸剤を含浸させた後、これを350℃以上の温度で熱処理することにより、コアロスの低減及び強度の補強が可能になる。
【0012】
特に、成形前の工程においてシランカップリング剤などの無機材料を含む絶縁材料を添加して混合しても、軟磁性合金粉末の周囲に確実に絶縁被膜を形成することは困難であるが、本発明では、成形体に含浸剤を含浸させることで、成形体内部の空隙部に露出している軟磁性合金粉末の表面全体を含浸剤で被覆することが可能になる。その結果、軟磁性合金粉末の周囲に無機質による絶縁層を確実に形成することが可能になり、圧粉磁心を高温高湿度環境に長期間曝した場合でも、コアロスの低下を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における圧粉磁心の製造方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、図1に示すように、次のような各工程を有する。
(1)非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラスを混合する混合工程。
(2)混合工程を経た混合物に対して、結着性絶縁樹脂を添加する絶縁樹脂添加工程。
(3)絶縁樹脂添加工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程。
(4)成形工程によって得られた成形体に対して熱処理を行う第1の熱処理工程。
(5)第1の熱処理を行った成形体に無機材料を含有する含浸剤を含浸させる含浸工程。
(6)無機材料を含有する含浸剤を含浸した成形体を、350℃以上非晶質軟磁性合金の結晶化温度以下の温度で熱処理する第2の熱処理工程。
【0015】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)混合工程
混合工程では、例えば、平均粒径が30〜100μmの非晶質軟磁性合金粉末に対して、その0.5wt%のリン酸系の低融点ガラス及び0.5wt%の潤滑性樹脂を添加し、これらをV型混合機を使用して2時間混合する。非晶質軟磁性合金粉末としては、Fe基非晶質軟磁性合金粉末を使用する。このFe基非晶質軟磁性合金粉末は、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeである。
【0016】
他に、非晶質軟磁性合金粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。非晶質軟磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、結晶化しにくいからである。非晶質軟磁性粉末は、ガラス転移温度Tgが結晶化温度Txより低く、過冷却液体領域を示す金属ガラスであるのが望ましい。これは、金属ガラスとすることにより、結晶磁気異方性が抑制されるため、コア損失を抑制できるからである。
【0017】
低融点ガラスとしては、ビスマス系またはリン酸系の低融点ガラスを使用する。その他に、軟化点が前記非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することができる。軟化点が非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することで、ガラスが軟化する温度まで加熱した場合でも、非晶質軟磁性合金粉末の結晶化による磁気特性の低減を防止することができる。
【0018】
潤滑性樹脂を添加することにより、成形密度を高くすることができる。潤滑性樹脂として、ステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。これらを混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。
【0019】
(2)絶縁樹脂添加工程
絶縁樹脂添加工程では、混合工程を経た混合物と、結着性絶縁樹脂であるメチルフェニルシリコーンとを混合する。メチルフェニルシリコーンの添加量は、非晶質軟磁性合金粉末に対して0.75〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ成形体の強度が不足して、割れが発生する。これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0020】
その他の結着性絶縁樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用する。混合するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は非晶質である軟磁性合金の粉末に対して2.0wt%であり、その場合の乾燥温度と乾燥時間は、150℃で2時間である。
【0021】
アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、種々の架橋剤・諸物性付与剤を配合したソープフリーコロイド状のエマルジョンである。アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、加熱乾燥により水分を蒸発させると、水に再溶解せず、殆ど吸湿性がない架橋構造を持った被膜を形成する。この被膜は粘着性があり、成形時のバインダーとして最適に作用する。また、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は、0.5〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。また、2.0wt%よりも多いと、密度低下による最大密度低下の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0022】
アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの代りに、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用しても良い。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)の添加量は0.5〜3.0wt%が適量である。
【0023】
メチルフェニル系シリコーン樹脂もしくはPVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用した場合、それぞれの適量よりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。また、それぞれの適量より多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0024】
絶縁樹脂添加工程において、シランカップリング剤を加えることもできる。シランカップリング剤を使用した場合は、結着性絶縁樹脂の分量を少なくすることができる。相性の良いシランカップリング剤の種類としては、アミノ系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが良い。
【0025】
非晶質軟磁性合金粉末と、潤滑性樹脂と、低融点ガラスに対して、結着性絶縁樹脂を添加して混合することで、絶縁樹脂添加工程と前記混合工程とを同時に行うことも可能である。
【0026】
(3)成形工程
成形工程では、結着性絶縁樹脂を添加し、混合してなる混合物を加圧成形する。前記絶縁樹脂添加工程を経た混合物を、金型温度が25℃〜150℃にて加圧成形することにより、成形体を形成する。この時、加圧乾燥された結着性絶縁樹脂は、成形時のバインダーとして作用する。成形圧力は、例えば1300〜1700MPaである。
【0027】
(4)第1の熱処理工程
第1の熱処理工程では、前記成形体に対して、窒素雰囲気中で450〜470℃を2時間保持する熱処理を行う。450℃の温度を保持することは、非晶質である軟磁性合金粉末の結晶化温度以下で、ある程度の圧環強度を維持するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、非晶質軟磁性合金粉末の結晶化が進み、透磁率が低下し、鉄損(ヒステリシス)が増加する。そのため、450〜470℃の温度を保持することは、鉄損の増加を抑制するために効果的である。
【0028】
前記成形体に対して、大気中で350℃を2時間保持し、その後窒素雰囲気に切り換えて470℃を2時間保持する熱処理を行うこともできる。結着性絶縁樹脂として、メチルフェニルシリコーンを使用すると、潤滑性樹脂として添加したステアリン酸とその金属塩による触媒効果により、メチルフェニルシリコーンの熱分解速度が速くなる。これにより、非晶質軟磁性合金粉末の表面に丈夫なシリカ層が形成され、このシリカ層がバインダーとして非晶質軟磁性合金粉末同士を結着させる。
【0029】
メチルフェニルシリコーンは、200℃前後で加熱乾燥することで、成形時のバインダー(結着剤)として作用し、350℃程度でSi基に直結しているメチル基が熱分解する。熱分解したメチルフェニルシリコーンは、シリカ(SiO2)層として、非晶質軟磁性合金粉末の表面に残り、これが強固なバインダー及び絶縁膜となる。そのため、前記の様にして成形体を450〜470℃で熱処理した後は、成形体を構成する軟磁性合金粉末の周囲に、シリカ層を主成分とする絶縁膜が形成されている。
【0030】
(5)含浸工程
第1の熱処理を行った成形体を冷却後、絶縁性の無機材料を含有する含浸剤の溶液中に浸し、成形体内に形成された空隙部内に含浸剤を浸入させる。絶縁性の無機材料を含有する含浸剤としては、珪素Siを含有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤はその粘度が低く、水に近い性状であるため、成形品の内部まで円滑に浸透する。
【0031】
絶縁性の無機材料を含有する含浸剤としては、シランカップリング剤に限定されるものではなく、他の無機材料を含む含浸剤が使用できる。例えば、アルコキシシラン、フルオロアルキルシラン、及びオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系などのカップリング剤、低分子あるいは高分子界面活性剤等の一種又は二種以上を使用できる。好ましくは、アルコキシシラン、フルオロアルキルシラン、シラン系カップリング剤、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系の各種カップリング剤である。
【0032】
含浸処理としては、真空中で含浸剤の水溶液、あるいは他の溶媒に含浸剤を溶解した溶液内に成形体を沈めて、所定時間(例えば、2時間程度)放置する。ここで、真空中とは、成形体内部の空隙に含浸剤が浸入するのを妨げる気体が存在しない条件下を意味するものであり、必ずしも物理学的な真空状態そのものを意味するものではない。含浸が円滑に進むのであれば、大気中あるいは加圧空気中で含浸剤溶液に成形体を沈めて、所定時間放置することもできる。
【0033】
(6)第2の熱処理工程
含浸処理が終了した成形体は、自然乾燥あるいは加熱乾燥することで成形体内部から含浸剤が垂れ落ちることがない状態とする。乾燥した成形体を酸化雰囲気の加熱炉内において、350℃以上の温度で、2時間以上加熱する。この加熱時間については、成形体の寸法、形状及び含浸剤の組成によって異なる。必要最低限の加熱時間は、成形体内に含浸させた含浸剤中の有機物成分が除去されるのに十分な時間である。加熱温度は、含浸剤中の有機物成分が除去されるに必要な温度であるが、その上限は非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度よりも低い温度である。第2の熱処理は、含浸剤の有機成分が酸素と結合して二酸化炭素や水になって成形体内部から除去されるので、大気中などの酸化雰囲気中で行うことが好ましいが、窒素ガスなどの非酸化雰囲気中で行うことも可能である。
【実施例】
【0034】
(1)圧粉磁心の製造
平均粒経45μmのFe−Si−B−Cr−CのFe系非晶質軟磁性合金粉末に、軟化温度360℃のビスマス系ガラスを3.5wt%、ステアリン酸リチウム(潤滑剤)を0.3wt%を混合し、有機バインダー(結着性絶縁樹脂)3.0wt%混合して、150℃で乾燥し、目開き850μmの篩を通したものにステアリン酸リチウム(潤滑剤)を0.3wt%を混合して造粒粉末を作製した。これを1700MPaの圧力で成形体を作製し、酸化雰囲気中470℃の温度で2時間、第1の熱処理をおこなった。
【0035】
これらの成形体に対して、下記表1に記載の各含浸材を真空中2時間で含浸させ、その後、表1に記載の温度で、酸化雰囲気中(大気中)で2時間、第2の熱処理を行った。
【0036】
(2)鉄損の測定方法
圧粉磁心に1次(15ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、BHアナライザ(岩通:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.05Tの条件下で鉄損を測定した。鉄損からヒステリシス損失と渦電流損失を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の3式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損係数を算出することで行った。
【0037】
Pc=Kh×f+Ke×f2
Ph=Kh×f
Pe=Ke×f2
Pc:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
圧環強度…JIS2507に従って測定
【0038】
【表1】
【0039】
(3)測定結果
前記のような各比較例及び実施例における振幅透磁率(μa)の変化を分析すると次の通りである。
【0040】
(a)含浸及び熱処理なし…比較例1
第2の熱処理を行わない比較例1と、含浸後に熱処理を行う他の例との比較から分かるように、熱処理時の応力で振幅透磁率(μa)が低下する。損失は透磁率に依存する渦電流損失が支配的のため、第2の熱処理を行った圧粉磁心の方が熱処理を行わない比較例1よりも低下する。しかし、高温高湿試験の結果を見ると、成形体に含浸剤を含浸させない比較例1は、成形体を構成する合金粉末の周囲に、含浸剤による被膜が存在しないため、合金粉末の表面酸化により振幅透磁率(μa)が大幅に低下する。
【0041】
(b)アクリル系・エポキシ系樹脂…比較例5,6
アクリル系樹脂を含浸させた比較例5及びエポキシ系樹脂を含浸させた比較例6では、高温高湿試験の結果、樹脂の吸湿による振幅透磁率(μa)の低下が見られる。これは、含浸させた樹脂の膨張による粉末間距離が拡大するためと思われる。
【0042】
(c)シランカップリング剤を含浸(300℃以下で第2の熱処理)…比較例2〜4
シランカップリング剤を含浸させた後、300℃以下で第2の熱処理を行った比較例2〜4では、成形体内部にSi樹脂(有機物)が存在する。そのため、高温・高湿度環境に長時間曝すと、Si樹脂の吸水によって膨張するため粉末間距離が拡大して振幅透磁率(μa)が低下する。
【0043】
(d)シランカップリング剤(350℃以上)…実施例1〜3
シランカップリング剤を含浸させた後、350℃以上で第2の熱処理を行った実施例1〜3では、シランカップリング剤が無機物(SiO2)に変化するため、成形体を構成する合金粉末の周囲に無機物による絶縁皮膜が形成される。その結果、長期にわたる高温高湿環境下でも、振幅透磁率(μa)の低下がない。
図1