【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(試験例1:プロテアーゼ産生能を有する微生物の選抜)
神奈川県三浦市沖の海洋底泥から、土壌試料を採取し、該土壌試料中の微生物から希釈液列を作製し、該希釈液からプロテアーゼ産生能を有する微生物を選抜した。なお、海底汚泥は、バクテリアコアーサンプラー(株式会社離合社製)を用いて採取した。
採取した前記土壌試料各1gを、滅菌生理的食塩水9mLにそれぞれ添加し、懸濁後、室温で約1時間放置した。次に、固形物が沈澱した上記土壌懸濁生理的食塩水の上清を分取し、新たな前記滅菌生理的食塩水9mLに添加した。これを繰り返して希釈液列を調製した。
調製した希釈液列をそれぞれ100μL用い、下記タンパク質含有寒天培地に塗抹し、30℃にて3日間、静置培養することにより微生物を育成した。前記微生物がプロテアーゼを産生する場合に、該微生物が生育した周囲はタンパク質が溶解し透明な消化円を与える。これにより、該微生物がプロテアーゼ産生能を有すると判断された微生物コロニーを釣菌した。
−タンパク質含有寒天培地の組成(pH8.0)−
[1.5質量%寒天溶液(下層)]
・ディフコ マリンアガー 5.51質量%
[0.8質量%寒天と1.5質量%スキムミルク溶液(上層)]
・ディフコ マリンアガー 0.8質量%
・スキムミルク 1.5質量%
【0077】
前記集積培養により選抜され、プロテアーゼ活性が高かった神奈川県海洋底泥土壌由来の微生物1種を、104−1−3−1株とし、以下の試験に用いた。104−1−3−1株の光学顕微鏡写真を
図1に示す。
【0078】
(試験例2:微生物の同定)
<16S rDNA−Full解析及び分子系統解析>
104−1−3−1株を培地(Nutrient agar、英国ハンプシャー州、Oxoid製)にて、30℃で24時間、好気培養した。
培養した104−1−3−1株らDNA抽出キット(InstaGene Matrix、BIO RAD社製)を用いてDANを抽出し、Prime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いてPCRを行った。次いで、PCR産物を鋳型とし、プライマーとして、9F、339F、785F、1099F、536R、802R、1242R、及び1510R(BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit、Applied Biosystems社製)を用いて、シークエンス(ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System、Applied Biosystems社製)を行った。
解析は、解析ソフトウェア(Auto Assembler、Applied Biosystems社製、及び、DNASIS Pro、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社製)を用いて行った。
また、相同性検索を、細菌基準株データベース(テクノスルガ・ラボ)及び国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を用いて行った。
【0079】
BLASTを用いた細菌基準株データベースに対する相同性検索の結果、下記表1に示すように104−1−3−1株の16SrDNA塩基配列は、Bacillus由来の16S rDNAに対し高い相同性を示し、中でも
Bacillus subtilis IAM12118株の16S rDNAに対し最も高い相同性を示した(相同率99%)。
また国際塩基配列データベースに対する相同性検索の結果においても、下記表2に示すように104−1−3−1株の16S rDNA塩基配列は、
Bacillus subtilis由来の16S rDNAに対し高い相同性を示した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
104−1−3−1株は、下記表3に示す
Bacillus subtilisの亜種であり、これらとクラスターを形成し非常に近縁な
Bacillus subtilis subsp. spizizeniiを含めた8種1亜種と比較的近縁な2種(アウトグループ)の基準株由来の16S rDNAを取得し分子系統解析を行った。ここで、株名の末尾のTは、その種の基準株(Type strain)であることを示す。
【0083】
【表3】
【0084】
更に、表3に示す基準株の塩基配列を用いてCLUSTAL W(J.D.Thompson et al., 1994, Nucleic Acids Research, 22, pp.4673−4680)にてアライメントを作成し、MEGA ver3.1(S.Kumar, K. 2004, Briefings in Bioinformatics, 5, pp.150−163)の系統樹作成ソフトを用いて
図2に示す系統樹を作成した。系統樹の推定には近隣結合法(N.Saitou and M.Nei, 1987, Molecular Biology and Evolution, 4, pp.406−425)を用い、
図2の各枝に示す数値で表される各系統枝の信頼度はブートストラップ法(J.Felsenstein, 1985, Evolution, 39, 783−791)により評価した。
その結果、
図2に示すように、104−1−3−1株の16S rDNAは
Bacillus subtilisの16S rDNAと系統枝を形成し、
Bacillus subtilisに属することが推定された。
【0085】
<形態観察及び生理・生化学的性状試験>
104−1−3−1株を培地(ニュートリエントアガー、ベクトンデッキンソン社製)にて30℃で24時間培養した。
培養した104−1−3−1株をグラム染色(フェイバーG、日水製薬株式会社製)し、光学顕微鏡(BX50F4、オリンパス株式会社製)で形態観察及びグラム染色観察を行った。
また、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産生、ブドウ糖の酸化/発酵(O/F)等の生理・生化学試験を、API50CH(bioMerieux製)を用いて行った。
【0086】
形態観察及び生理・生化学的性状試験の結果を下記表4〜6に示す。表4〜6において、「+」は陽性、「−」は陰性であることを示す。
下記表4に示すように、104−1−3−1株は好気条件下で生育するグラム陽性桿菌で、細胞は連鎖を示し、芽胞を形成した。芽胞による菌体の膨張は認められなかった。カタラーゼ反応は陽性、オキシダーゼ反応は陰性を示した。
また、下記表5〜6に示すようにAPI試験では、L−アラビノース、リボース、及びグルコース等を酸化し、エリスリトール、D−アラビノース及びL−キシロース等を酸化しなかった。更に、下記表4に示すように、嫌気条件下では生育せず、50℃及び10%NaCl含有培地で生育した。カゼインを加水分解し、でんぷんを加水分解しなかった。
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
これらの性状は、16S rDNA解析及び分子系統解析で104−1−3−1株が帰属を推定された
Bacillus subtilisに類似する点が認められたが、アルブチン、サリシン、セロビオース、でんぷん、及びグリコーゲンを酸化しないことで、
Bacillus subtilisの典型性状と相違した。以上のことから、104−1−3−1株は、Bacillus sp.の中の新たな株であることが推定された。
【0091】
なお、104−1−3−1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号(郵便番号292−0818))に、2008年11月21日に受託番号:NITE P−680として受託されている。
【0092】
(試験例3:104−1−3−1株の培養温度のプロテアーゼ活性に対する影響)
104−1−3−1株を2.5質量%大豆脱脂成分(製品名:トーストソーヤ、日清オイリオ株式会社製)、6.0質量%スクロース(和光純薬工業株式会社製)、0.1質量%リン酸水素カリウム(和光純薬工業株式会社製)、及び0.2%炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を含むpH6.2の液体培地に添加し、27℃、30℃、35℃、及び40℃でそれぞれ振盪培養した。培養開始から、0時間、24時間、41時間、及び65時間経過後に104−1−3−1株の菌体を遠心分離して除去し、菌体外に産生されたプロテアーゼ含有培養上清のプロテアーゼ活性を、C.E.McDonald and Lora L.Chen, “The Lowry Modification of the Folin Reagent for Determination of Proteinase Activity”, Analytical Biochemistry, (1965), 10, 175−177.に記載の方法を改変した方法、即ち、下記の方法により定量した。
【0093】
試験管(18mm×180mm)に2質量%ミルクカゼイン溶液5mLを採り、40℃の恒温槽中で3分間保温した。次に2質量%ミルクカゼイン溶液が40℃になったところで、前記104−1−3−1株の培養上清をそれぞれ1mL添加した。これを40℃で10分間反応後、タンパク質沈澱剤(酢酸19.5mL、酢酸ナトリウム(無水)(和光純薬工業株式会社製)18g、及びトリクロロ酢酸(和光純薬工業株式会社製)18gをそれぞれ300mLの蒸留水に溶解後、混合して全量を1,000mLとした。)5mLを入れて反応を停止させた。反応停止後、反応液をそのまま30分間、恒温槽中で40℃に保持した後、濾紙No.2(アドバンテック株式会社製)にて自然濾過をした。次に、この濾液2mLを別の試験管に採り、ここへ0.5M炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)溶液5mLを添加し、3倍希釈のフォーリン試薬(製品名:フェノール試液、ナカライテスク株式会社製)1mLを添加して混合した。混合後、40℃で30分間恒温槽中にて保温した。30分間経過後、直ちに分光光度計を用い660nmの波長で吸光値を測定し、この値をTとした。
また、盲検値(ブランク)は、前記104−1−3−1株の培養上清のプロテアーゼ活性測定において、前記104−1−3−1株の培養上清を添加せず、40℃に保温した2質量%ミルクカゼイン溶液5mLに前記タンパク質沈澱剤5mLを添加して充分に混合した後、前記液体培地(pH6.2)を1mL添加したこと以外は、前記104−1−3−1株の培養上清のプロテアーゼ活性測定と同様の操作を行い、吸光値を測定した。この盲検値をBとした。
前記104−1−3−1株の培養上清の吸光値(T)と盲検値(B)とから、下記式1によりプロテアーゼ活性を算出した。このように算出される活性の単位を「FLV」とする(C.E.McDonald and Lora L.Chen, “The Lowry Modification of the Folin Reagent for Determination of Proteinase Activity”, Analytical Biochemistry, (1965), 10, 175−177.参照)。
プロテアーゼ活性(FLV)=[(T−B)×66.7+2]×培養上清希釈倍率 ・・・(式1)
【0094】
結果を
図3に示す。なお、それぞれの温度での104−1−3−1株由来プロテアーゼ活性の測定は3回行い、グラフ中のプロットは、平均値±標準偏差を示す。
図3の結果から、104−1−3−1株は30℃で培養したときに、最もプロテアーゼが多く産生され、したがって、最も高いプロテアーゼ活性を示すことが観察された。また、培養時間が長いほど高いプロテアーゼ活性が認められた。
【0095】
(試験例4:プロテアーゼの至適温度の検討)
104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、プロテアーゼ含有培養上清を得た。この104−1−3−1株の培養上清を、40℃、43℃、47℃、50℃、及び53℃で、0時間、1時間、2時間、及び3時間それぞれ加熱し、急冷した。
試験例3において、104−1−3−1株の培養上清を、試験例3で調製したものに代えて、試験例4で調製した各培養上清を用い、ミルクカゼインと培養上清との反応温度を40℃に変えて、前記培養上清の加熱温度に対応した温度(40℃、43℃、47℃、50℃、及び53℃)にしたこと以外は、実施例2と同様の方法でプロテアーゼ活性を測定した。
【0096】
結果を
図4に示す。
図4の結果から、40℃〜53℃の温度範囲でそれぞれの温度での保温時間が0時間の場合、加熱温度が高いほどプロテアーゼ活性が高く、例えば、40℃で加熱した場合のプロテアーゼ活性は、53℃で加熱した場合のプロテアーゼ活性の約半分の活性だった。また、プロテアーゼの加熱温度が高いほど3時間後の酵素活性低下の減少が速いことがわかった。
【0097】
(試験例5:pH安定性の検討)
104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、プロテアーゼ含有培養上清を得た。この前記104−1−3−1株の培養上清に、等量の緩衝液を混合してpHを3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び12にそれぞれ調整(pH3〜6は、50mM クエン酸−リン酸緩衝液、pH7〜9は、50mM トリス塩酸緩衝液、pH10〜12は、50mM グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液で調整)した後、10℃で24時間保温した後、溶液のpHを7に調整した。
試験例3において、104−1−3−1株の培養上清を、試験例3で調製したものに代えて、試験例5で調製した各培養上清を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法でプロテアーゼ活性を測定した。
【0098】
結果を
図5に示す。
図5の結果から、104−1−3−1株由来プロテアーゼは、pH7で最も安定であることがわかった。強酸側では極端に活性が低下したが、強アルカリ側ではpH7の15%ほど活性が残存していた。
【0099】
(試験例6:プロテアーゼの凍結乾燥安定性)
104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、プロテアーゼ含有培養上清を得た。この104−1−3−1株の培養上清8Lを用い、バーチス社製の凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥粉末を粉砕後、0.1mgの粉末を5mLのリン酸緩衝液(50mM、pH7)に溶解して一昼夜4℃で保存した。この粉末溶解液のプロテアーゼ活性を、試験例3と同様の方法で測定し、凍結乾燥前のプロテアーゼ活性と比較した。プロテアーゼ活性は、培養上清10Lあたりの活性として換算した。
【0100】
結果を
図6に示す。
図6の結果から、104−1−3−1株由来プロテアーゼは、凍結乾燥後でもほとんど活性が低下せず、溶液の態様より体積が少ない粉末の態様で、該プロテアーゼを保存できることがわかった。
【0101】
(試験例7:104−1−3−1株由来プロテアーゼの繊維素(血栓)溶解活性の検討) 試験例6において、凍結乾燥前に、プロテアーゼの含有培養上清をリン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7)で透析後、試験例6と同様の方法で凍結乾燥し、得られた粉末を粉砕した粗精製プロテアーゼ0.1mgを、リン酸緩衝液(50mM、pH7)5mLに溶解したものを用いて、難分解性タンパク質である繊維素(フィブリン)を基質として溶解活性について検討した。
また、セリン血栓溶解酵素であるサチライシンA(EC3.4.21.14、エムピーバイオメディカル社製(USA))、セリン血栓溶解酵素であるトリプシン(EC3.4.21.4、和光純薬工業株式会社製)、システイン血栓溶解酵素であるフィチン(EC3.4.22.3、エムピーバイオメディカル社製(USA))、及びメタロ血栓溶解酵素であるV型コラゲナーゼ(EC3.4.24.3、和光純薬工業株式会社製)を用いた。なお、これらの血栓溶解酵素無添加を対照区として用いた。
【0102】
<酵素溶液の調製>
前記粗精製プロテアーゼ溶液の酵素活性(FLV)を試験例3と同様の方法を測定したところ、酵素活性(FLV)は111であった。
前記粗精製プロテアーゼ溶液の酵素活性(FLV=111)と、前記各種プロテアーゼの酵素活性とが同一の条件となるようにするため、カゼインに対する各種プロテアーゼの酵素活性を比較検討した。
試験例3において、プロテアーゼとして前記各種プロテアーゼを下記に示す濃度で用い、試験例3と同様の方法で、酵素活性の測定及び評価を行った。下記に示すように、各種プロテアーゼの段階希釈液を調製し、それぞれのプロテアーゼ濃度における酵素活性の検量線を作成した。これによりそれぞれの濃度におけるカゼインを基質とした酵素活性を測定した検量線から、任意の酵素活性を示すときの各種プロテアーゼ濃度が計算によって求められる。検量線を
図7A〜Dに示す。
[酵素の種類及び濃度]
・サチライシンA:0.005mg/mL、0.01mg/mL、0.015mg/mL、0.02mg/mL、0.025mg/mL、0.03mg/mL
・トリプシン:0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.4mg/mL、0.6mg/mL、0.8mg/mL、1.0mg/mL
・V型コラゲナーゼ:0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.4mg/mL、0.6mg/mL、0.8mg/mL、1.0mg/mL
・フィチン:0.2mg/mL、0.4mg/mL、0.6mg/mL、0.8mg/mL、1.0mg/mL、1.2mg/mL
【0103】
<フィブリン含有固形培地の調製>
フィブリン含有固形培地は下記組成に従い、以下の方法で調製した。下層を9cmプレートに分注し、固化した。次いで、10ユニットのトロンビン(伊藤ライフサイエンス株式会社製)、0.02M塩化カルシウム、0.05Mホウ砂緩衝液(pH8.5)1mLを前記プレートに分注し、更に溶解したアガロース溶液、及びフィブリノゲン溶液を同時に分注して、前記固形培地を調製した。
−フィブリン含有固形培地の組成−
[1.5質量%寒天(下層)]
・ディフコ 寒天(ディフコ社製) 1.5質量%
[2質量%アガロース、及び0.6質量%フィブリン(上層)]
・アガロース(蒸留水に溶解) 2.0質量%
・フィブリノゲン(0.05Mホウ砂緩衝液(pH8.5)に溶解、伊藤ライフサイエンス株式会社製) 0.6質量%
【0104】
<繊維素溶解活性の測定>
前記フィブリン含有固形培地の上層の上に直径8mm(8mm厚、ペーパーディスク抗生物質検定用、東洋濾紙株式会社製)を置き、プロテアーゼ活性(FLV)が111となるように調製した各種プロテアーゼ液80μLを浸含させ、37℃で一昼夜静置後、消化円(繊維素の溶解円)直径を測定した。
【0105】
結果を
図8に示す。これらの結果、104−1−3−1株由来プロテアーゼ(
図8の「N」)は、明確な消化円が観察され、血栓溶解活性を有する血栓溶解酵素であることが確認された。
なお、対象区のトリプシン(
図8の「T」)では消化円が観察されたが、サチライシンA(
図8の「S」)、V型コラゲナーゼ(
図8の「C」)、フィチン(
図8の「F」)では、全く消化円は認められなかった。
したがって、104−1−3−1株由来の血栓溶解酵素は、フィブリンのような難分解性タンパク質の分解において固有の基質分解性を有することがわかった。
【0106】
(試験例8:血栓溶解酵素の精製)
前記104−1−3−1株の培養上清中の血栓溶解酵素は、以下の方法により精製した。最初に、104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、血栓溶解酵素含有培養上清を得た。この104−1−3−1株の培養上清から血栓溶解酵素含有画分を疎水性相互作用クロマトグラフィーで分画し、次にゲル濾過クロマトグラフィーで脱塩を行った。脱塩した血栓溶解酵素含有画分は密度勾配等電点電気泳動で精製した。
【0107】
<疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分画>
疎水性相互作用クロマトグラフィーは、以下の条件下で行った。
カラム:プレパックカラム(Hi−Trap 16/10 Phenyl FF high、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)
装置:BioLogic DuoFlowシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)
溶媒:A液 30容量% 2−プロパノール+0.05M リン酸緩衝液(pH7) B液 1M 硫酸アンモニウム+0.05M リン酸緩衝液(pH7)
添加量:1mL
流速:2mL/分間
【0108】
図9に、前記疎水性相互作用クロマトグラフィーのクロマトグラム及び硫酸アンモニウム濃度変化を示す。
図9のクロマトグラムにおける全画分を回収した。
試験例3において、試験例3で調製した104−1−3−1株の培養上清に代えて、前記画分を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で血栓溶解酵素活性を測定した。
その結果、
図9中矢印で示すピーク画分(画分39〜画分43)において、血栓溶解酵素活性が確認された。
【0109】
<ゲル濾過クロマトグラフィーによる脱塩>
前記疎水性相互作用クロマトグラフィーで、血栓溶解酵素活性が確認された画分は、PD−10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)で脱塩し、以下に示す密度勾配等電点電気泳動で精製した。
【0110】
<密度勾配等電点電気泳動による精製>
両性担体(40%濃度)は、Bio−Lyte(3/10及び7/9)(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)を用い、グリセリン密度勾配等電点電気泳動装置(カラム容量90mL、N−1720型、日本エイドー株式会社製)で血栓溶解酵素活性画分の分画を行った。電圧は600Vに設定し、72時間電気泳動を行った。50質量%ショ糖で密度勾配をかけた。
試験例3において、試験例3で調製した104−1−3−1株の培養上清に代えて、前記密度勾配等電点電気泳動の各画分を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で血栓溶解酵素活性を測定した。また、各画分のpHの測定を行った。
【0111】
図10に前記密度勾配等電点電気泳動のクロマトグラム及びpH測定の結果を示す。
図10に示した、最も血栓溶解酵素活性が高かった画分(画分35)の等電点は8.7であった。これは、104−1−3−1株由来血栓溶解酵素の等電点を示す。
【0112】
<血栓溶解酵素の分子量の確認>
前記画分(画分35)のタンパク質成分50ngを、ジチオエリトリトールを含むレムリ緩衝液(0.125M Tris−HCl[pH6.8]、10%グリセロール、2%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1Mジチオエリトリトール、0.02%ブロモフェノールブルー)13μLに混和して95℃にて3分間処理した後、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)存在下にてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルのアクリルアミド濃度は、濃縮に4質量%、分離に10質量%で行い、それぞれ10mA、25mAの定電流条件下で泳動した。泳動後のポリアクリルアミドゲルは、固定液(40容量%エタノール+10容量%酢酸)で固定した後、Flamingoゲルステイン(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製)により蛍光染色し、Ultravioletトランスイルミネーター(フナコシ株式会社製)を用いてUV励起下にて観察した。
【0113】
結果を
図11に示す。
図11より、前記画分(画分35)のタンパク質成分から、単一のバンドが得られた(
図11に矢印で示す)。得られた単一バンドの相対分子質量は、標準タンパク質試料(マーカー、Precision Plus Protein Standards、バイオラッド社製)との泳動度を比較することにより約27,000Daと推定された。
【0114】
(試験例9:血栓溶解酵素の同定)
試験例8における電気泳動後のポリアクリルアミドゲル中の104−1−3−1株由来血栓溶解酵素の単一バンドを切り出し、超純水にて洗浄した。ゲル中の酵素は還元アルキル化処理の後、トリプシンを用いて37℃にて消化し、ペプチド溶液を調製した。
【0115】
前記調製したペプチド溶液は、下記条件にて逆相クロマトグラフィーにより分離した。
[逆相クロマトグラフィー]
カラム:Magic C18AQ(粒子径3μm、孔径200Å、カラム内径200μm、カラム長さ50mm:ミクローム・バイオリソース社製)
オートサンプラー:CTC−HTS PAL(エーエムアール株式会社製)
ポンプ:Paradigm MS4システム(エーエムアール株式会社製)
溶媒:A液 2容量%アセトニトリル/98容量%超純水(0.1容量%ギ酸を含む) B液 90容量%アセトニトリル/10容量%超純水(0.1容量%ギ酸を含む)
流速:2μL/分間
濃度勾配:95容量%A液+5容量%B液から55容量%A液+45容量%B液の条件で20分間かけて、溶出した。
【0116】
前記逆相クロマトグラフィーにより分離したペプチドは、ナノスプレーイオン化法によりイオン化し、質量分析計(LTQ−Orbitrap、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)にて個々のペプチド(プリカーサーイオン)のm/zを測定した。更に、ペプチドの内部配列情報を得るために、コリジョンセル内にてペプチドにヘリウムガスを衝突させ、分解生成したプロダクトイオンのm/zを測定した(MS/MS分析)。
【0117】
図12にクロマトグラムを示す。
図12の結果から、液体クロマトグラフィーによりペプチドが良好に分離されたとともに、MS/MS分析が十分に行われたことが確認された。質量分析計により得られた測定値から、2種類のデータベース検索エンジンMascot(マトリックスサイエンス株式会社製)、及びSEQUEST(BioWorksソフトウェア、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いたMS/MS ion search法により血栓溶解酵素を同定した。
【0118】
前記データベース検索の結果から、104−1−3−1株由来血栓溶解酵素は、サチライシン(subtilisin)に属する酵素であると同定された。前記質量分析にて検出されたペプチドは、SEQUEST検索では、前駆体サチライシンの全アミノ酸配列の31.8%を占めていた。一方、Mascot検索では、前駆体サチライシンのアミノ酸配列の48%、活性型サチライシンのアミノ酸配列の30%を占めていた。
【0119】
(試験例10:血栓溶解酵素遺伝子の塩基配列の決定)
前記104−1−3−1株からISOPLANTキット(株式会社ニッポンジーン製)を用いて、ゲノムDNAを抽出した。104−1−3−1株由来血栓溶解酵素の遺伝子を増幅させるため、NCBIのGenBank内に登録されている複数の近縁菌種に由来するサチライシン遺伝子(アクセッション番号:NC_000964、S51909、D00264、M64743)の上下流の塩基配列から、以下のPCRプライマーを設計した。即ち、サチライシン遺伝子の上流にある遺伝子内の20bpにハイブリダイズする下記配列番号:1で表されるプライマー配列と、下流にある遺伝子内の20bpにハイブリダイズする下記配列番号:2で表されるプライマー配列とを増幅用プライマーとした。KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績株式会社製)を用いたPCRの条件としては、94℃で2分間、続いて、94℃で15秒間の変性、52℃で30秒間のアニーリング及び68℃で2分間の伸長を30サイクル行った。期待された大きさのPCR産物(〜1,800bp)を、pGEM−T Easyベクター(プロメガ株式会社製)にクローニングした。
5’−AGCCATCCGTCGATCATGGA−3’ (配列番号:1)
5’−TAAAATTCCCGATATTGGTT−3’ (配列番号:2)
【0120】
前記pGEM−T Easyベクター内のpUC/M13シークエンシングプライマー(フォワードプライマー及びリバースプライマー)を用いて、前記クローン化した104−1−3−1株由来血栓溶解酵素の遺伝子の塩基配列のシークエンシングを行い、決定した(株式会社バイオマトリックス研究所委託)。決定した塩基配列をアミノ酸配列(配列番号:3)に翻訳し、NCBIのBLASTPを用いてホモロジー検索を行った。
【0121】
前記ホモロジー検索の結果から、104−1−3−1株由来血栓溶解酵素を構成するアミノ酸配列は、GenBank内に登録されているナットウキナーゼ遺伝子(アクセッション番号:P35835)のアミノ酸配列と100%の同一性を示した。このことから、104−1−3−1株由来血栓溶解酵素はナットウキナーゼと同定された。
【0122】
前記遺伝子解析の結果、104−1−3−1株由来血栓溶解酵素は、275のアミノ酸から構成され、相対分子質量が27.7であり、バチルス属微生物が産生する細胞外セリン血栓溶解酵素、サチライシンEと99.5%、サチライシンAmylosacchariticusと99.3%の相同性を示す(T. Urano et al., 2001, J.Biol.Chem, 27, 24690−24696参照)。以上の試験例において、同定された104−1−3−1株由来血栓溶解酵素を、ナットウキナーゼと称することがある。
【0123】
(試験例11:クラゲ類の分解試験)
104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、ナットウキナーゼ含有培養上清(pH7.2)を得た。この培養上清中のナットウキナーゼの酵素活性を、試験例3と同様の方法で測定したところ、酵素活性(FLV)は6,500であった。
【0124】
<エチゼンクラゲの分解>
クラゲは、京都府舞鶴市の定置網で捕獲したエチゼンクラゲ(Nemopilema nomurai Kishinouye)個体を使用した。エチゼンクラゲをドライアイスで凍結し輸送後、−20℃で保管した。分解試験時には流水で解凍し、5cm〜10cm角に切断した。
ホットスターラー上にビーカーを設置し、ビーカー内に2Lの前記ナットウキナーゼ含有培養上清を入れ、50℃に加温し、エチゼンクラゲ300gを入れた1mmメッシュ籠をビーカー内に入れ、常時低速(80rpm)で攪拌しながら分解試験を行った。エチゼンクラゲを培養上清中に入れてから、5分間、10分間、30分間、及び60分間後に、それぞれエチゼンクラゲの質量を測定し、下記式2により残渣率を求めた。各時間エチゼンクラゲと培養上清とを反応させたサンプルについて、それぞれ4系統で行い、平均と標準偏差を求めた(以下、「試験区」と称することがある。)。
対照区としては、50℃に加温した水道水を用いた。試験区においてエチゼンクラゲ分解に供した培養上清は淡水であるため、対照区も同様に海水を用いず淡水(水道水)を用いた。なお、エチゼンクラゲ分解試験は、それぞれ同一条件で3回行い、再現性を確認した。
残渣率(%)={(分解前クラゲ質量−分解後クラゲ質量)/分解前クラゲ質量}×100 ・・・(式2)
【0125】
エチゼンクラゲ分解試験の結果を
図13に示す。
図13の結果から、ナットウキナーゼ含有培養上清を添加した試験区は、エチゼンクラゲを1時間以内で完全に分解することができた。これに対して対照区では、0分間の残渣率と、60分間の残渣率とを比較すると、分解できた割合は50%程度であった。
また、エチゼンクラゲ個体の皮の部分は分解されにくく、分解試験開始後30分間からは分解されにくい皮状の部分が残存したため、残渣率は低かった。しかし、その他の部分については、開始後約30分以内に完全に分解され、溶解液となった。
以上の結果から、クラゲをナットウキナーゼにより分解することにより、陸揚げされて産業廃棄物となっているクラゲ個体を最小限のエネルギーで短時間に分解できることがわかった。
【0126】
<ミズクラゲの分解>
−完全個体の分解−
前記ナットウキナーゼ含有培養上清100mLと、リン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7)100mLとを300mL容ビーカーに混合し、これに新鮮なミズクラゲ(
Aurelia aurita、傘径:約14cm〜17cm)3個体(完全個体)をそれぞれ別のビーカーに入れて30℃で静置し、クラゲ形態の消失を目視観察した。
その結果、いずれの個体も約2時間(105分間±8分間)でクラゲは完全に分解され、液状となった。なお、すべてのミズクラゲ分解試験は、それぞれ同一条件で3回行い、再現性を確認した。
【0127】
−裁断個体の分解−
前記ミズクラゲ完全個体の分解において、ミズクラゲの完全個体に代えて、ミズクラゲを約3cm角に裁断したもの100gを使用したこと以外は、前記ミズクラゲ完全個体の分解と同一条件で分解試験を行った。
その結果、裁断したミズクラゲは、約65分間で完全に分解され液状となった。
【0128】
−対照区−
前記ミズクラゲ完全個体の分解において、前記ナットウキナーゼ含有培養上清とリン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7)とを混合した溶液に代えて、前記ナットウキナーゼ含有培養上清とリン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7)とを混合した溶液を、121℃、30分間のオートクレーブ処理によりナットウキナーゼを失活させた混合溶液を使用したこと以外は、前記ミズクラゲ完全個体の分解と同一条件で分解試験を行った。
その結果、前記対照区ではミズクラゲの分解は観察されなかった。
【0129】
(試験例12:クラゲ類の分解におけるナットウキナーゼ濃度の検討)
104−1−3−1株を試験例3と同じ液体培地(pH6.2)に添加し、30℃で72時間培養後、菌体を遠心分離して、ナットウキナーゼ含有培養上清(pH7.2)を得た。この培養上清中のナットウキナーゼの酵素活性(FLV)を、試験例3と同様の方法で測定したところ5,000であった。
クラゲは、前記エチゼンクラゲと同様に身が厚くて硬い北方性のアカクラゲ(
Chrysaora hysocella)を捕獲後、ドライアイスで凍結し輸送後、−20℃で保管した。分解試験時には流水で解凍し、5cm〜10cm角に切断した。
【0130】
5L容ビーカーに3Lの水を入れ、ホットスターラーで47℃に加熱した。加熱後、ナットウキナーゼ含有培養上清の濃度が、0体積%、0.2体積%、0.5体積%、1.0体積%となるように4区に分けたビーカーに、前記切断した北方性アカクラゲをそれぞれ1.4kgずつ投入し、直ちに所定の濃度になるように培養液を混合し、47℃に維持し、マグネットスターラーで北方性アカクラゲ混合液を攪拌しながら反応させた。2時間経過後、北方性アカクラゲ残渣の質量を測定し、前記式2を用いて投入した北方性アカクラゲ質量に対する残渣率を算出して北方性アカクラゲを2時間以内で溶解する最小の培養上清濃度を求めた。
【0131】
結果を
図14に示す。ナットウキナーゼ含有培養上清を入れなくても加熱するだけで、分解開始2時間後に約86%減量(残渣 約14%)することができた。これは加熱によりクラゲに脱水と熱変性が生じたためと推測された。しかし、加熱のみでは前記培養上清を投入したときのように、完全に(100%)分解されることはなく、熱によって変性したと考えられる固形物が残存した。
これに対し、培養上清濃度が1.0体積%の場合、試験開始後1時間程でほとんどの北方性アカクラゲが溶解し、2時間後には完全に溶解した。
【0132】
(試験例13:最適条件下におけるミズクラゲの分解)
試験例11に記載した3cm角に切断したミズクラゲ100gを500mL容ビーカーに入れ、50℃に保温した人工海水(ダイゴ人工海水SP、日本製薬株式会社製)を300mL入れた。これに試験例11で調製したナットウキナーゼ含有培養上清の酵素活性(FLV)が100になるように混合し、攪拌しながら分解試験を行った。ミズクラゲの分解時の温度は50℃、pH8とした。所定時間ごとにミズクラゲを取り出してその質量変化を測定し、試験例11の式2より残渣率を算出した(以下、「試験区」と称することがある。)。
また、対照区としては、ナットウキナーゼ含有培養上清に代えて、50℃に保温した人工海水を用いた。なお、ミズクラゲ分解試験は、それぞれ同一条件で3回行い、再現性を確認した。
【0133】
結果を
図15に示す。グラフ中のプロットは平均値±標準偏差を示している。
図15の結果、ナットウキナーゼを混合しなかった対照区は、30分間経過後において、約40%のミズクラゲが残存していた。
これに対し、ナットウキナーゼを添加した試験区は、15分間以内で完全にミズクラゲが溶解され液状となった。
【0134】
(試験例14:クラゲ分解廃液の急性毒性試験)
試験例11において、ナットウキナーゼ含有培養上清を用いて分解したエチゼンクラゲ分解液の毒性をJIS K0102(2003)「工場排水試験方法」(日本規格協会 2003)魚類を用いた急性毒性試験に従い検討を行った。発電所から排出される排水の排水基準値は、事業所によっても異なるが、COD値(Chemical Oxygen Demand;化学的酸素要求量)として15mg/L以下である。
ナットウキナーゼ含有分解処理後の分解液のCOD値を日本工業規格(JIS)に準拠したポータブル吸光光度計(DR−2400、HACH社製)により測定したところ、1,920mg/Lであった。これを海水で、COD値15mg/L、30mg/L、45mg/L、60mg/L、及び75mg/Lにそれぞれ希釈して試験液とした。供試生物としては、ヒメダカ(Oryzias latipes)を用いた。対照は、エチゼンクラゲ分解処理液を混合しない海水とした。
【0135】
室温20℃〜22℃の実験室に5L容量の飼育水槽を設置し、上記試験液中にヒメダカ10個体をそれぞれ収容した。この条件下で96時間飼育し、24時間毎に観察して生死個体数を数えた。
【0136】
ヒメダカに対する急性毒性を測定した結果を下記表7に示す。4日間(96時間)にわたって対照区も試験区もヒメダカの死亡は確認されなかった。したがって、希釈したエチゼンクラゲ個体の分解液には毒性が認められないものと判断した。
【0137】
【表7】
【0138】
(試験例15:ナットウキナーゼとその他のプロテアーゼとの比較)
<酵素溶液の調製> ナットウキナーゼは、試験例6において、凍結乾燥前に、ナットウキナーゼ含有培養上清をリン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7)で透析後、試験例6と同様の方法で凍結乾燥し、得られた粉末を粉砕した粗精製ナットウキナーゼ0.1mgを、リン酸緩衝液(50mM、pH7)5mLに溶解したものを用いた。このナットウキナーゼ溶液の酵素活性(FLV)を試験例3と同様の方法を測定したところ、14,952であった。
その他のプロテアーゼとしては、試験例7で使用した、サチライシンA、トリプシン、フィチン、及びV型コラゲナーゼを用いた。なお、これらのプロテアーゼを添加しなかったものを対照区とした。
前記ナットウキナーゼの活性と、前記各種プロテアーゼの活性とが同一の条件となるようにするため、試験例15と同様の方法で、検量線法により前記各種プロテアーゼの活性(FLV)が100となるように調製した。
【0139】
200mL容ビーカーに人工海水(ダイゴ人工海水SP、日本製薬株式会社製)100mLを入れ、前記調製した各種プロテアーゼを混合し、3cm角に切断したミズクラゲを1個(約20g)浸漬し、37℃で保温した。これを攪拌せず静置状態で所定の時間毎にクラゲブロック残渣を取り出して質量を測定し、投入したミズクラゲ質量に対する残渣(質量%)を算出した。すべてのミズクラゲブロック分解試験は、それぞれ同一条件で3回行い、再現性を確認した。
【0140】
結果を
図16A〜Fに示す。人工海水中に浸漬しただけの対照区では、5時間経過後も約65質量%の組織が溶解せず残存していた(
図16A)。これに対し、ナットウキナーゼでは浸漬開始から1時間後に残渣が約20%となり、2時間後には完全にミズクラゲが消失していた(
図16B)。ナットウキナーゼと同じセリンプロテアーゼに属するサチライシンA及びトリプシンでは、2時間経過後も10%〜20%のミズクラゲが未溶解であった(
図16C及びD)。植物由来システインプロテアーゼであるフィチンは、対照区と同様にほとんどミズクラゲを減量することができなかった(
図16E)。V型コラゲナーゼ試験区では、5時間経過後になってから完全なミズクラゲの溶解が観察された(
図16F)。
これらの結果より、ナットウキナーゼは、プロテアーゼの中でも、クラゲの分解に優れた活性を示すことが確認された。
【0141】
(試験例16:ナットウキナーゼによるアンドンクラゲ毒素タンパク質の失活の検討)
アンドンクラゲ(Carybdea rastoni Haacke)は、神奈川県の海岸で採取し、採取後直ちにビニール袋に入れドライアイスで凍結後持ち帰り、−80℃下で実験に供するまで保管した。アンドンクラゲ毒素はクラゲ触手部分を解凍後、プラスチック容器に入れ、氷冷下で超音波破壊を行い、これをアンドンクラゲ毒素液(以下、「CrTXs」と称することがある。)とした。
なお、以下の試験において使用した容器は、毒素液のガラス容器への不可逆的な吸着を防止するため、全てプラスチック容器を使用した。
【0142】
−溶血率の算出方法−
ヒツジ赤血球(日本生物材料センター製)8μLを1mLのPBS(+)(カルシウム、マグネシウム含有リン酸緩衝食塩水)に懸濁し、ここへ、任意の量のアンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を添加して混合した。これを室温で4時間放置した後、3,000×gで2分間遠心分離した。この上清を550nmの波長で吸光値を測定して「試験値」とした。
また、8μLのヒツジ赤血球を100倍に希釈した溶解緩衝液(6質量%ドデシル硫酸ナトリウム、7質量%トリトンX−100溶液)と混合し、これを室温で4時間放置した後、3,000×gで2分間遠心分離した。この上清を550nmの波長で吸光値を測定したときの吸光値を溶血率100%とし、これを「対照値」とした。
前記方法で測定した試験値と、対照値から、下記式3により溶血率(%)を評価した。
溶血率(%)=(試験値/対照値)×100 ・・・(式3)
【0143】
<ナットウキナーゼの赤血球溶血に対する影響の検討>
ナットウキナーゼとしては、試験例15で調製したナットウキナーゼを用いた。試験例2において、培養上清に代えて、試験例15で調製したナットウキナーゼを用いたこと以外は、試験例3と同様の方法で酵素活性(FLV)を算出したところ5,563であった。このナットウキナーゼを、PBS(+)(カルシウム、マグネシウム含有リン酸緩衝食塩水)で5体積%に希釈して、以下の試験に用いた。
【0144】
前記溶血率の算出方法において、試験値の算出時に、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)に代えて、前記希釈したナットウキナーゼを50μL(アンドンクラゲ毒素液に対して5体積%)添加したこと以外は、前記溶血率の算出方法と同様の方法で前記(式3)により溶血率を算出した。
【0145】
結果を
図17に示す。ヒツジ赤血球に対する溶血率は、ナットウキナーゼ含有区で9.0%だった。ナットウキナーゼ非含有の対照区においては、7.1%だった。また、このときの酵素活性(FLV)は、278.15だった。
この結果から、5体積%、即ち酵素活性(FLV)が278以下においてはナットウキナーゼが、ヒツジ赤血球の溶血を起こさないということがわかった。
【0146】
<アンドンクラゲ毒素の赤血球溶血に対する影響の検討>
前記溶血率の算出方法と同様の方法で、アンドンクラゲ毒素の赤血球溶血に対する影響について検討した。このとき、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)は、1μL、2μL、5μL、10μL、50μL、及び100μLのいずれかの容量となるように添加した。
【0147】
結果を
図18に示す。
図18より、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を含まない対照区では、溶血率が14.3%であったが、これに対し、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を添加した全ての試験区において100%の溶血率を示した。
また、顕微鏡観察下においても赤血球の形態は認められず、アンドンクラゲ毒素により溶血したものと考えられた。ただし、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)が0.1体積%量(1μL添加)の場合、他の試験区に比べて完全な溶血までに時間を要した。
【0148】
<アンドンクラゲ毒素の熱安定性の検討>
次に、アンドンクラゲ毒素の熱安定性について前記溶血率の算出方法と同様の方法を用いて検討した。
試験に用いたアンドンクラゲ毒素液としては、前記アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を、室温(25℃)で30分間放置、37℃で30分間、及び100℃で5分間のいずれかの条件においたものを用い、それぞれ0.5体積%(5μL)又は1.0体積%(10μL)となるように添加した。
【0149】
結果を
図19及び下記表8に示す。これらの結果より、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を含まない対照区では、溶血率が14.0%であった。
アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を、室温又は37℃で30分間放置した試験区においては溶血率が90%以上を示し、これらの温度条件下においては30分間の加熱でアンドンクラゲ毒素は失活しないことがわかった。
一方、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を100℃で5分間加熱した試験区においては、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)をいずれの容量で添加した場合も、その溶血率は11.0%以下を示し、アンドンクラゲ毒素が加熱により変性し失活したことが示唆された。
【0150】
【表8】
【0151】
<アンドンクラゲ毒素タンパク質の失活におけるナットウキナーゼ量の検討>
前記溶血率の算出方法において、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を0.5体積%(5μL)となるように添加し、更に、前記ナットウキナーゼを0.1体積%(1μL)、0.5体積%(5μL)、1.0体積%(10μL)、及び2.0体積%(20μL)のいずれかの容量で混合し、37℃で30分間反応させた。
対照区としては、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)及びナットウキナーゼを添加しないものを用いた。
【0152】
結果を
図20及び下記表9に示す。
図20及び表9より、ナットウキナーゼ量が2.0体積%以上、即ちカゼインを基質としたときの酵素活性(FLV)として111以上で、前記アンドンクラゲ毒素液を37℃、30分の定温放置条件下でほぼ完全に失活できることがわかった。
【0153】
【表9】
【0154】
(試験例17:各種プロテアーゼによるアンドンクラゲ毒素タンパク質の失活の検討)
試験に用いるプロテアーゼとして、ナットウキナーゼ、サチライシンA、トリプシン、フィチン、及びV型コラゲナーゼを、試験例15と同様の方法で、検量線法によりそれぞれ酵素活性(FLV)が111となるように調製した。
前記溶血率の算出方法において、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)を2.0体積%となるように添加し、更に、前記各種プロテアーゼを、前記検量から、酵素活性(FLV)が111となるように調製し、37℃で30分間反応させた。
対照区としては、アンドンクラゲ毒素液(CrTXs)及びナットウキナーゼを添加しないものを用いた。
【0155】
結果を
図21及び下記表10に示す。この結果、ナットウキナーゼ以外のプロテアーゼ(サチライシンA、トリプシン、V型コラゲナーゼ、フィチン)を用いた場合、アンドンクラゲ毒素の失活は、ほとんど認められなかった。一方、ナットウキナーゼを用いた場合、低い溶血率を示し、アンドンクラゲ毒素の顕著な失活が認められた。
このことからナットウキナーゼは、カゼイン分解を指標とした同値の酵素活性の条件下において、よりアンドンクラゲ毒素を分解する能力が高いことがわかった。
【0156】
【表10】