(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語“急性医学的事象”は、患者が医療介助を求める誘因または原因となる患者の状態を表わす。そのような状態は、重篤で致命的となる可能性がある状態、たとえば身体生命機能の障害である場合がある。しかし、医療介助の要望は患者が感じるものであるためその主観的印象を受けやすいので、その状態が無害である場合もある。身体生命機能の障害は、好ましくは、その機能が生命にとって本質的である臓器の突然の障害を表わす。同様に、好ましくはこの用語はそれまで安定であった状態の突然の衰退を表わす。その機能が生存にとって本質的である臓器は、好ましくは肺、心臓、腎臓および肝臓である。臓器障害の結果は、その臓器に依存する。臓器障害の徴候には、罹患臓器に応じて、痛み、代謝性アシドーシス、無尿、肝性脳障害、血液の酸素供給不全、および意識喪失が含まれる。しかし、臓器障害自体の診断では適切な療法の十分な指示は得られない。
【0011】
用語“循環系合併症”は、心臓機能の突然の衰退を表わす。そのような衰退は、好ましくは心不整脈、一過性心停止または肺塞栓症により起きる。心不整脈は2形態で起きる可能性がある:徐脈型不整脈および頻脈型不整脈。徐脈型不整脈では心拍数が健康な対象と比較して病的に減少し、好ましくは徐脈型不整脈では心拍数が60回/分より少ない。徐脈型不整脈の最も高頻度の形態は、洞性徐脈、洞房ブロック、洞停止、洞不全症候群および房室ブロックである。頻脈型不整脈では心拍数が健康な対象と比較した場合に病的に増加し、好ましくは徐脈型不整脈では心拍数が100回/分より多い。頻脈型不整脈の大部分の形態は、構造性心血管疾患を伴う上室性頻脈、ウォルフ−パーキンソン−ホワイト症候群を伴う心房細動、1:1房室伝導を伴う心房粗動、および心室性頻脈である。肺塞栓症は、血塊(血塞栓)または気泡(空気塞栓)による肺動脈の閉塞が原因である。一般に血塊は骨盤静脈または下肢静脈で形成されて肺動脈へ移動し、そこで行き詰る。空気塞栓は、好ましくはダイビング事故または静脈カテーテルの漏出により起きる。肺塞栓症の症状には、胸痛、呼吸困難および喀血(咳による血液の吐出)が含まれる。肺循環圧が上昇する場合があり、これが右心室不全を引き起こす可能性がある。循環系合併症は、前記に詳述した従来既知の方法によって判定または確認することもできる。
【0012】
用語“虚血性合併症”は、いずれかの組織または臓器に突然起きる低酸素状態を表わす。好ましくは、この用語は脾臓、腸、腎臓、心臓または四肢の虚血を表わす。急性虚血は全身循環系の動脈における血塊の形成により起きる場合が多い。その閉塞した動脈にそれらへの血液供給を依存している部分の臓器は、したがってそれらへの血液供給が断たれる。血圧低下は虚血のもうひとつの高頻度の原因である。虚血の持続時間、虚血組織の酸素要求量、および残存する血液供給によっては、罹患組織が壊死する場合がある。虚血性合併症は、前記に詳述した従来既知の方法によって判定または確認することもできる。好ましくは、本明細書中で用いる虚血性合併症は、80mmHg未満の収縮期血圧を特徴とする。さらに虚血性合併症は、好ましくは臓器特異的疼痛、患部の脈拍低下、および/または皮膚の蒼白性をも特徴とする。
【0013】
急性医学的事象は、その急性医学的事象に先行または付随する循環系合併症および/または虚血性合併症がある場合は、それらの合併症と関連がある。それらの合併症がその急性医学的事象に先行する場合、合併症は、好ましくは患者が医療介助を求める1、2、3または4時間前に起きる。好ましくは、急性医学的事象はそれらの合併症により起きる。
【0014】
本明細書中で用いる用語“救急患者の急性医学的事象が循環系合併症および/または虚血性合併症と関連があるかどうかを迅速診断する”は、患者が罹患している急性医学的事象あるいは患者が病院または救急ユニットに収容された際に診断された急性医学的事象に付随または先行する病態生理学的障害または状態を同定することを表わす。当業者に理解されるように、そのような評価は通常は診断すべき対象の100%について正しいことを意図しない。しかしこの用語は、統計的に有意部分の対象をその疾患または状態に罹患していると正しく診断できることを要求する。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、当業者がさまざまな周知の統計的評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定を用いてさほど苦労せずに判定できる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中にある。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。好ましくは、本発明が想定する確率によれば、診断は特定のコホートまたは集団の対象の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について正しいことが可能になる。
【0015】
患者が実際に虚血性合併症および/または循環系合併症に罹患していることを本発明方法が示すならば、これはその患者が重篤な致命的となる可能性のある状態に実際に罹患しており、厳密な医学的配慮を要することの指標となる。
【0016】
本発明方法による評価は、好ましくは迅速評価である。迅速評価は、好ましくは治療の時点で行なわれる。好ましくは、評価の結果は、患者が救急ユニットに収容された後、救急車に収容された後、または最初の医師もしくは医療関係者が対応した後、約30分以内、約60分以内、または約120分以内に得られる。最も好ましくは、評価は患者が最初に医療介助を求めた後、約60分以内に得られる。
【0017】
好ましくは、本発明方法は救急ユニットで行なわれる。用語“救急ユニット”は、(実際の、または疑われる)医学的緊急状態を伴う個体/患者が、医学的背景をもつ者、好ましくは医師に相談して彼らの病的状態および彼らの状態の基礎にある原因を分析して貰うために居るいずれかの場所を表わす。代表例は、病院の救急部または救急室、救急車、医師のオフィス、および重症患者の治療に適した他の施設である。
【0018】
“救急患者”は、救急ユニットに収容されている患者、または患者の症状およびその病歴に基づく医師の予想からみて救急ユニットに収容すべき患者である。
本発明方法は、好ましくはインビトロ法である。それは、測定すべき各ペプチド(ANP型ペプチドまたはsFlt−1)またはペプチド類の測定をインビトロで実施することを意味する。
【0019】
本発明方法は、好ましくは他の診断法と組み合わせて用いられると理解すべきである。鑑別診断がほとんど常に患者の病歴、臨床検査および検査室検査の組合わせを必要とすることは当業者に知られている。したがって本発明方法は、好ましくは患者の詳細な検査を誘導するために、かつ不必要な検査を除外するために適用される。
【0020】
患者を詳細に検査するためには、イメージング法が好ましい。超音波診断法、コンピューター断層撮影法、造影剤の使用または不使用での磁気共鳴イメージング法、血管造影法およびシンチグラフィーが特に好ましい。
【0021】
用語“ANP型ペプチド”は、ANP、proANP、pre−proANPおよびNT−proANP、好ましくはNT−proANPを表わす。ANPは心房により合成されて分泌される。成熟ANPは、151アミノ酸を含むpre−proANPの逐次開裂により産生される。シグナルペプチド(25アミノ酸)の開裂によりproANP(126アミノ酸)が生成する。このプロペプチドは分泌されると生物活性ANP(28アミノ酸)と不活性なN末端部分(98アミノ酸)に分割される。ANPは血中でわずか2.5分の半減期をもつので、それの代謝回転は速やかである。ANPは全身の動脈拡張、ナトリウム利尿、利尿およびレニン阻害を促進し、したがってANPの作用により血圧が低下する(Bonow, 1996, Circulation 93: 1946-1950)。
【0022】
本明細書中で用いる用語“可溶性Flt−1”または“sFlt−1”は、可溶性形態のVEGF受容体Flt1であるポリペプチドを表わす。それは、ヒト臍静脈内皮細胞のならし培地中で同定された。内在性の可溶性Flt1(sFlt1)受容体は、クロマトグラフィー的および免疫学的に組換えヒトsFlt1に類似し、匹敵する高い親和性で[125I]VEGFを結合する。ヒトsFlt1は、インビトロでKDR/Flk−1の細胞外ドメインとVEGF安定化複合体を形成することが示されている。好ましくは、sFlt1はヒトsFlt1を表わす。より好ましくは、ヒトsFlt1はGenebank寄託番号P17948,GI:125361に示されるFlt1のアミノ酸配列から演繹できる。マウスsFlt1のアミノ酸配列は、Genebank寄託番号BAA24499.1,GI:2809071に示される。
【0023】
本明細書中で用いる用語“ANP型ペプチド”および“sFlt−1”は、前記の特定のANP型またはsFlt−1ポリペプチドのバリアントをも包含する。そのようなバリアントは、これらの特定のANP型またはsFlt−1ポリペプチドと少なくとも同じ本質的な生物学的および免疫学的特性をもつ。特にそれらを本明細書中に述べる同じ特異的アッセイ法、たとえば前記のANP型またはsFlt−1ポリペプチドを特異的に認識するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイ法により検出できれば、それらは同じ本質的な生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、そのバリアントのアミノ酸配列は依然として、好ましくはそれぞれ特定のANP型ペプチド(たとえば、ヒトANP、ヒトproANP、ヒトNTproANP)または特定のヒトsFlt1の全長にわたって、特定のANP型またはsFlt−1ポリペプチドのアミノ酸配列と好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であることを理解すべきである。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムにより判定できる。好ましくは、同一性の程度は比較ウインドウ全体にわたって最適状態にアラインさせた2配列を比較することにより判定すべきであり、その際、比較ウインドウ内のアミノ酸配列フラグメントは、最適アラインメントのための標準配列(付加または欠失を含まないもの)と比較して付加または欠失(たとえば、ギャップまたはオーバーハング)を含む可能性がある。パーセントは、両配列中に同一アミノ酸残基が現れる位置の数を測定して一致位置の数を求め、この一致位置の数をその比較ウインドウ内の位置の総数で割り、その答えに100を掛けて配列同一性パーセントを得ることにより計算される。比較に最適な配列アラインメントは、下記により実施できる:Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムの電子化処理系(GAP、BESTFIT、BLAST、PASTAおよびTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI)、または視覚検査。比較のための2配列が同定されると、好ましくはGAPおよびBESTFITを用いてそれらの最適アラインメント、したがって同一性の程度を決定する。好ましくは、ギャップ重みについて5.00、ギャップ長さについて0.30のデフォルト値を用いる。前記に述べたバリアントは、対立遺伝子バリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定のANP型もしくはsFlt−1ポリペプチドまたは上記タイプのバリアントのフラグメントまたはサブユニットが含まれる;ただし、これらのフラグメントは前記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。そのようなフラグメントは、たとえばANP型またはsFlt−1ペプチドの分解生成物であってもよい。さらに、リン酸化またはミリスチル化などの翻訳後修飾のため異なるバリアントが含まれる。
【0024】
本明細書中に述べるANP型ペプチドもしくはsFlt−1または他のペプチドもしくはポリペプチドの量の測定は、量または濃度を、好ましくは半定量的または定量的に測定することに関する。測定は、直接または間接的に行なうことができる。直接測定は、ペプチドまたはポリペプチド自体から得られる信号であってその強度が試料中に存在するペプチドの分子数と直接相関する信号に基づいて、ペプチドまたはポリペプチドの量を測定することに関する。そのような信号 −本明細書中で時には強度信号と呼ぶ− は、たとえばペプチドまたはポリペプチドの特異的な物理的または化学的特性の強度値を測定することにより得ることができる。間接測定には、二次成分(すなわち、そのペプチドまたはポリペプチド自体ではない成分)または生物学的読出し系、たとえば測定可能な細胞応答、リガンド、標識もしくは酵素反応生成物から得られる信号の測定が含まれる。
【0025】
本発明によれば、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、試料中のペプチドの量を測定するための既知のあらゆる手段により達成できる。その手段には、種々のサンドイッチ、競合または他のアッセイ方式において標識分子を使用できる、イムノアッセイデバイスおよび方法が含まれる。それらのアッセイ法は、ペプチドまたはポリペプチドの存在または不存在の指標となる信号を発生するであろう。さらに信号強度を、好ましくは、試料中に存在するポリペプチドの量に直接または間接的に相関させる(たとえば、反比例)ことができる。さらに他の適切な方法には、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、たとえばそれの厳密な分子質量またはNMRスペクトルの測定が含まれる。それらの方法は、好ましくはバイオセンサー、イムノアッセイと連携した光学装置、バイオチップ、分析装置、たとえば質量分析計、NMR分析計、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法にはマイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット式のイムノアッセイ法(たとえば、Elecsys(商標)分析計で実施できる)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ法(
Cobalt
Binding
Assay)、たとえばRoche−Hitachi(商標)分析計で実施できる)、およびラテックス凝集アッセイ法(たとえば、Roche−Hitachi(商標)分析計で実施できる)が含まれる。
【0026】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、(a)その強度がペプチドまたはポリペプチドの量の指標となる細胞応答を誘発しうる細胞を、そのペプチドまたはポリペプチドと、適切な期間接触させる工程、(b)細胞応答を測定する工程を含む。細胞応答を測定するために、試料または処理した試料を、好ましくは細胞培養物に添加し、内部または外部の細胞応答を測定する。細胞応答には、測定可能なレポーター遺伝子発現、またはある物質、たとえばペプチド、ポリペプチドもしくは小分子の分泌を含めることができる。この発現または物質は、ペプチドまたはポリペプチドの量に相関する強度信号を発生すべきである。
【0027】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、試料中のペプチドまたはポリペプチドから得られる特異的な強度信号を測定する工程をも含む。前記のように、そのような信号は、質量スペクトルにみられるm/z変数で観察されるそのペプチドもしくはポリペプチドに特異的な信号強度、またはそのペプチドもしくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルであってもよい。
【0028】
ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、好ましくは(a)ペプチドを特異的リガンドと接触させる工程、(b)(任意選択的に)結合していないリガンドを除去する工程、(c)結合したリガンドの量を測定する工程を含む。結合したリガンドは、強度信号を発生するであろう。本発明による結合には、共有結合および非共有結合が共に含まれる。本発明によるリガンドは、本明細書に記載するペプチドまたはポリペプチドに結合するいずれかの化合物、たとえばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子であってよい。好ましいリガンドには、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、たとえば前記のペプチドまたはポリペプチドに対する受容体または結合パートナー、およびそのフラグメントであって前記ペプチドに対する結合ドメインを含むもの、ならびにアプタマー、たとえば核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドを調製する方法は当技術分野で周知である。たとえば、適切な抗体またはアプタマーの同定および調製は業者によっても提供されている。それらのリガンドのより高い親和性または特異性をもつ誘導体を開発する方法は当業者に周知である。たとえば、核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム変異形成を導入することができる。次いで、当技術分野で既知のスクリーニング法、たとえばファージディスプレー法に従って、これらの誘導体を結合について試験することができる。本明細書中で述べる抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびにそのフラグメントであって抗原またはハプテンに結合しうるもの、たとえばFv、FabおよびF(ab)
2フラグメントが含まれる。本発明には、単鎖抗体、および目的とする抗原特異性を示すヒト以外のドナー抗体のアミノ酸配列がヒトのアクセプター抗体の配列と結合したヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は、通常は少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造関連および/または機能関連アミノ酸残基をも含むことができる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知である幾つかの方法により調製できる。好ましくは、リガンドまたは作用物質は前記のペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本発明による特異的結合は、そのリガンドまたは作用物質が、被分析試料中に存在する他のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(それらと“交差反応”)すべきではないことを意味する。好ましくは、特異的に結合されるペプチドまたはポリペプチドは、他のいずれかの関連ペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、よりさらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合されるべきである。非特異的結合は、たとえばウェスタンブロット法でそれのサイズにより、または試料中におけるそれの相対的に高い存在量により、それをなお明確に識別および測定することができるならば、許容できる。リガンドの結合は、当技術分野で既知であるいずれかの方法により測定できる。好ましくは、その方法は半定量的または定量的である。適切な方法を以下に記載する。
【0029】
第1に、リガンドの結合は直接的に、たとえばNMRまたは表面プラズモン共鳴により測定できる。
第2に、リガンドが目的のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性基質としても作用する場合、酵素反応生成物を測定してもよい(たとえば、プロテアーゼの量は、開裂した基質の量を、たとえばウェスタンブロット法で測定することにより測定できる)。あるいは、リガンドが酵素特性そのものを示してもよく、“リガンド/ペプチドもしくはポリペプチド”複合体またはペプチドもしくはポリペプチドが結合したリガンドのそれぞれを、強度信号の発生により検出できる適切な基質と接触させることができる。酵素反応生成物を測定するためには、好ましくは基質の量は飽和状態である。反応前に基質を検出可能な標識で標識することもできる。好ましくは、試料と基質を適切な期間接触させる。適切な期間とは、検出可能な、好ましくは測定可能な量の生成物を生成するのに必要な時間を表わす。生成物の量を測定する代わりに、特定の(たとえば検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定してもよい。
【0030】
第3に、リガンドの検出および測定を可能にする標識にリガンドを共有結合または非共有結合によりカップリングさせてもよい。標識は直接法または間接法により行なうことができる。直接標識法は、標識を直接に(共有結合または非共有結合により)リガンドにカップリングさせることを伴う。間接標識法は、第1リガンドへの二次リガンドの結合(共有結合または非共有結合により)を伴う。二次リガンドは、第1リガンドに特異的に結合すべきである。二次リガンドは適切な標識とカップリングさせてもよく、および/または二次リガンドに結合する三次リガンドのターゲット(受容体)であってもよい。信号を増強するために、二次、三次またはより高次のリガンドがしばしば用いられる。適切な二次およびより高次のリガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含めることができる。リガンドまたは基質に、当技術分野で既知である1以上のタグを“タグ付け”してもよい。次いでそのようなタグを、より高次のリガンドにターゲティングさせることができる。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、インフルエンザAウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端にある。適切な標識は、適切な検出法により検出できるいずれかの標識である。代表的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(“たとえば磁性ビーズ”、これには常磁性および超常磁性標識が含まれる)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に適切な基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート;既製原液としてRoche Diagnosticsから入手できる)、CDP−Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組合わせにより着色反応生成物、蛍光または化学発光を生じることができ、それを当技術分野で既知の方法に従って測定できる(たとえば、感光性フィルムまたは適切なカメラシステムを使用)。酵素反応の測定に関して、前記の基準を同様に適用できる。代表的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(たとえば、GFPおよびそれの誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(たとえば、Alexa 568)が含まれる。さらに他の蛍光標識を、たとえばMolecular Probes(オレゴン)から入手できる。量子ドットを蛍光標識として使用することも考慮される。代表的な放射性標識には、
35S、
125I、
32P、
33Pなどが含まれる。放射性標識は、既知の適切ないずれかの方法、たとえば感光性フィルムまたはリン光体イメージャーにより検出できる。本発明による適切な測定法には、沈降法(特に、免疫沈降法)、電気化学発光(電気的に発生させる化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、サンドイッチ酵素免疫検定、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強型ランタニド蛍光イムノアッセイ(dissociation-enhanced lanthamde fluoro immuno assay)(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法、ネフェロメトリー、ラテックス増強型の比濁法もしくはネフェロメトリー、または固相免疫検定も含まれる。当技術分野で既知であるさらに他の方法(たとえば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット法、および質量分析)を、単独で、または前記の標識法その他の検出法と組み合わせて使用できる。
【0031】
ペプチドまたはポリペプチドの量は、好ましくは下記に従って測定することもできる:(a)前記に特定したペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、そのペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させ、そして(b)支持体に結合しているペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは固体支持体上に固定化された形態で存在する。固体支持体を作製するための材料は当技術分野で周知であり、特に市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースのストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどを含む。リガンドまたは作用物質を多種多様な担体に結合させることができる。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および化工セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、ならびに磁鉄鉱が含まれる。本発明の目的に対して、担体の性質は可溶性であっても不溶性であってもよい。それらのリガンドの定着/固定化に適切な方法は周知であり、イオン性、疎水性、共有結合性相互作用などが含まれるが、これらに限定されない。本発明によるアレイとして“懸濁アレイ”の使用も考慮される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイにおいて、担体、たとえばマイクロビーズまたはマイクロスフェアは懸濁状態で存在する。アレイは種々のマイクロビーズまたはマイクロスフェアからなり、これらはおそらく標識されており、種々のリガンドを保持する。たとえば固相化学および光不安定保護基に基づいてそのようなアレイを製造する方法が一般に知られている(US 5,744,305)。
【0032】
本明細書中で用いる用語“量”には、ポリペプチドまたはペプチドの絶対量、ポリペプチドまたはペプチドの相対的な量または濃度、およびそれらに相関するかまたはそれらから誘導できるいずれかの数値またはパラメーターが含まれる。そのような数値またはパラメーターは、前記のペプチドから直接測定により得られるあらゆる特異的な物理的または化学的特性に由来する強度信号値、たとえば質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書中で他のいずれかの箇所に明記した間接測定により得られるあらゆる数値またはパラメーター、たとえばペプチドに応答して生物学的読出し系から測定される応答レベル、または特異的に結合したリガンドから得られる強度信号が含まれる。上記の量またはパラメーターに相関する数値はあらゆる標準的な数学操作によっても得られることを理解すべきである。
【0033】
用語“試料”は、体液の試料、分離した細胞の試料、または組織もしくは臓器に由来する試料を表わす。体液の試料は周知の手法により得ることができ、好ましくは血液、血漿、血清または尿の試料、より好ましくは血液、血漿または血清の試料を含む。組織または臓器の試料は、いずれかの組織または臓器から、たとえば生検により得ることができる。分離した細胞は、体液または組織もしくは臓器から、遠心分離または細胞選別などの分離法により得ることができる。好ましくは、細胞、組織または臓器の試料は本明細書中で述べるペプチドを発現または産生する細胞、組織または臓器から得られる。
【0034】
本明細書中で用いる用語“患者”は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを表わす。患者は、好ましくは医学的事象に罹患している。より好ましくは、患者は救急部において前記の状態を呈する。より好ましくは、患者は救急患者、すなわちその状態が緊急の医学的配慮および集中治療を要する患者である。一般にそのような患者は、その急性医学的事象の発生以前は、その急性循環系事象および急性虚血性事象に関して見掛け上は健康であった。したがって、救急部に到着する前には患者の生命機能は綿密には、あるいは全く、モニターされていなかった。このため、患者が救急部に居る時点でその患者の致命的状態の原因に関する既往情報はほとんど得られない。この状況において、治療時点で迅速に実施される本発明方法は患者の状態の原因の第1指標として役立ち、したがってさらにより具体的な診断措置を誘導するであろう。
【0035】
これらの具体的な診断措置には、標準的な検査室診断法、たとえばクレアチニン、グルコース、電解質、肝酵素の測定;総血球数;血液ガス分析;イメージング、たとえばECG、心エコー検査、コンピューター断層撮影、血管造影が含まれる。
【0036】
本明細書中で用いる用語“比較する”は、分析すべき試料が含むペプチドまたはポリペプチドの量を、本明細書中で他のいずれかの箇所に明記した適切な標準源の量と比較することを含む。本明細書中で用いる比較は対応するパラメーターまたは数値の比較を表わすことを理解すべきである;たとえば絶対量を絶対標準量と比較し、一方、濃度を標準濃度と比較し、あるいは被験試料から得られる強度信号を標準試料の同じタイプの強度信号と比較する。本発明方法の工程(c)で述べた比較は、手動またはコンピューター支援で実施できる。コンピューター支援による比較については、測定量の数値を、コンピュータープログラムにより、データベースに蓄積された適切な標準品に対応する数値と比較することができる。コンピュータープログラムはさらに、比較の結果を評価することができる;すなわち、目的とする評価を適切な出力フォーマットで自動的に提供する。本発明方法の工程a)およびb)で測定した量と標準量の比較に基づいて、本明細書中に述べる1以上の合併症にその対象が罹患するリスクを推定することができる。したがって、比較した量における相異または類似性により、その状態の原因が急性循環系事象によるか、虚血性事象によるか、両種類の事象によるか、あるいはこれらの事象のいずれにもよらない患者を同定できるように標準量を選択すべきである。
【0037】
したがって、本明細書中で用いる用語“標準量”は、患者が急性循環系事象に罹患しているか、虚血性事象に罹患しているか、両種類の事象に罹患しているか、あるいはこれらのいずれにも罹患していないかを診断できる量を表わす。したがって、標準量は(i)各種類の事象に罹患していることが分かっている患者、または(ii)各事象に罹患していないことが分かっている患者のいずれかに由来するものであってもよい。さらに、標準量は閾値を規定するものであってもよく、これによればその閾値より大きい量は前記事象のうち一方または両方に罹患している対象の指標となるはずである。個々の対象に適用できる標準量は、種々の生理学的パラメーター、たとえば年齢、性別または小集団に応じて、および本明細書中に述べるポリペプチドまたはペプチドの測定に用いる手段に応じて、変動する可能性がある。適切な標準量は、本発明方法により被験試料と一緒に、すなわち同時または逐次に分析される標準試料から測定できる。閾値として用いる好ましい標準量は、正常の上限(upper limit of normal)(ULN)、すなわち、前記に定めた合併症に罹患していないかまたは罹患しない対象の集団にみられる生理学的量の上限に由来するものであってもよい。特定集団の対象についてのULNは、多様な周知の手法により決定できる。適切な手法は、本発明方法で測定すべきペプチドまたはポリペプチドの量に関するその集団の中央値を決定するものであってもよい。
【0038】
診断マーカーの(すなわち、ANP型ペプチドまたはsFlt−1の)標準量を確立することができ、患者試料中のそのマーカーのレベルを標準量と比較するだけでよい。診断および/または予後検査の感度および特異性は、その検査法の分析の“質”に依存するだけではない−それらは異常な結果を構成するものの定義にも依存する。好ましくは、循環系合併症および/または虚血性事象に罹患するかまたは罹患している患者の集団における本発明のマーカーの測定量の分布を、それらの合併症を伴わない患者におけるそれらのマーカーの量の分布と比較する。当業者に周知の統計学的方法を用いて閾値量を決定し、それを用いて前記合併症のうち一方または両方に罹患している患者と前記合併症に罹患していない患者を分けることができる。この目的に特に好ましいのは、受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic curve)、すなわち“ROC”曲線の計算である。ROC曲線は一般に、“正常”集団および“疾患”集団における変数の数値をそれの相対頻度に対してプロットすることにより計算される。特異的マーカーのいずれについても、疾患を伴う対象と伴わない対象のマーカーレベルの分布はオーバーラップする可能性がある。そのような条件下で、検査法は正常と疾患を100%の精度で絶対的に鑑別するわけではなく、オーバーラップ領域はその検査法が正常と疾患を鑑別できない部分を指摘する。それより上(または下;それはマーカーが疾患に伴ってどのように変化するかに依存する)ではその検査が異常であるとみなされ、それより下ではその検査が正常であるとみなされる、閾値を選択できる。ROC曲線下面積は、採用した測定法により状態を適正に同定できる確率の尺度である。検査結果が必ずしも正確な数字を与えない場合ですら、ROC曲線を利用できる。結果をランク付けできる限り、ROC曲線を作製できる。たとえば“疾患”試料についての検査結果を程度に従ってランク付けしてもよい(たとえば、1=低、2=正常、および3=高)。このランキングを“正常”集団における結果と相関させてROC曲線を作製することができる。これらの方法は当技術分野で周知である。たとえば、Hanley et al, Radiology 143: 29-36 (1982)を参照。
【0039】
特定の態様において、マーカー(すなわち、ANP型ペプチドおよびsFlt−1)は、少なくとも約70%の選択性、より好ましくは少なくとも約80%の選択性、よりさらに好ましくは少なくとも約85%の選択性、よりいっそう好ましくは少なくとも約90%の選択性、最も好ましくは少なくとも約95%の選択性を、少なくとも約70%の特異性、よりさらに好ましくは少なくとも約80%の特異性、よりいっそう好ましくは少なくとも約85%の特異性、より好ましくは少なくとも約90%の特異性、最も好ましくは少なくとも約95%の特異性と合わせて示すように選択される。特に好ましい態様において、選択性および特異性は共に、少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、よりさらに好ましくは少なくとも約85%、よりいっそう好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。これに関して用語“約”は示した測定値の+/−5%を表わす。
【0040】
NT−proANPの標準量は、好ましくは約1000pg/ml、約2000pg/ml、約2500pg/ml、約3000pg/ml、約4000pg/ml、または約5000pg/ml、より好ましくは2500pg/mlである。この量より大きい量は患者が循環系合併症に罹患していることの指標となる。
【0041】
循環系合併症が不整脈である場合、NT−proANPの標準量は、好ましくは約1000pg/ml、約2000pg/ml、約2500pg/ml、約3000pg/ml、約4000pg/ml、または約5000pg/ml、より好ましくは約2500pg/mlである。循環系合併症が頻脈である場合、この標準量は、好ましくは約1000pg/ml、約2000pg/ml、約2500pg/ml、約3000pg/ml、約4000pg/ml、または約5000pg/ml、より好ましくは約2500pg/mlである。
【0042】
sFlt−1の標準量は、約100pg/ml、約200pg/ml、約300pg/ml、約400pg/ml、約500pg/ml、約750pg/ml、または約1000pg/ml、より好ましくは約500pg/mlである。この量より大きい量は患者が虚血性合併症に罹患していることの指標となる。
【0043】
用語“約”は、示した量の+/−30%、好ましくは示した量の+/−20%、好ましくは示した量の+/−10%、より好ましくは示した量の+/−5%を示すものとする。
上昇したレベルのsFlt−1およびANP型ペプチドが循環系と虚血性の複合合併症の指標となることは当業者に認識される。sFlt−1およびANP型ペプチドについて上記に引用した標準量は、循環系と虚血性の複合合併症についても適用され、これには不整脈および頻脈など特定の循環系合併症への適用が含まれる。
【0044】
以上の説明および例を考慮して、当業者はNT−proANP以外のANP型ペプチドについての標準値を容易に決定でき、これにより救急患者の急性医学的事象の病態生理学的原因が循環系合併症であるかどうかを診断できる。
【0045】
有利には、本発明方法は、急性医学的事象に罹患している患者の病態生理学的状態の基礎にある正確な原因(単数または複数)の確立を目標とするか、あるいは患者が罹患している疾患または状態の確立を目標とする、さらに詳細な検査/診断のための迅速診断および誘導を可能にする。本発明方法は、臓器障害の基礎にある原因を指示することによって、さらに詳細な診断を誘導することができる。たとえば、鑑別診断によってある疾患を除外することができる。診断時間の短縮によってより迅速に原因治療を開始することが可能になり、したがって患者の苦痛が軽減され、患者の状態のそれ以上の悪化または死亡すら阻止される可能性がある。これに関して、本発明方法は原則としてベッドサイドで実施でき、したがって医師を早期かつ速やかに他の必要な診断措置に導けることは、特に有利である。
【0046】
好ましくは、本発明方法は、循環系合併症または虚血性合併症の原因だけでなく程度または重症度をも指示する。程度または重症度の大きい合併症ほど、より低い程度または重症度の合併症と比較してより高い量のANP型ペプチドおよび/またはsFlt−1と関連する。好ましくは、標準量は程度または重症度が既知である合併症を伴う患者において決定される。程度または重症度が未知である合併症に罹患するかまたは罹患している患者からの試料を、重症度が既知である合併症に罹患している患者または患者集合体に由来する標準量と比較することにより、その患者の合併症の程度または重症度を速やかに確立することが可能になる。好ましくは、標準量より高い量のANP型ペプチドおよび/またはsFlt−1は、より重篤または拡大した合併症の指標となる。ある状態の程度および/または重症度に関する基準は、好ましくはそれの持続時間、たとえばより長期間の心不整脈、または合併症の強さ、たとえば虚血性組織の量である。
【0047】
さらに、本発明は救急患者の急性医学的事象の病態生理学的原因が循環系合併症および/または虚血性合併症と関連があるかどうかを迅速評価するための、またはそれに適応したデバイスであって、
a)患者の試料中のANP型ペプチドの量を測定するための手段;
b)患者からの試料中のsFlt−1の量を測定するための手段;
c)ANP型ペプチドおよびsFlt−1の測定量を標準量と比較するための手段;ならびに
d)比較の結果に基づいて診断を確立するための手段
を含むデバイスに関する。
【0048】
本明細書中で用いる用語“デバイス”は、予測可能となるように作動できる状態で互いに連結した少なくとも上記手段を含む手段のシステムに関する。ANP型ペプチドおよびsFlt−1の量を測定するための好ましい手段、ならびに比較を行なうための好ましい手段は、本発明方法に関連して前記に開示されている。これらの手段を作動する状態で連結する方法は、そのデバイスに含まれる手段のタイプに依存するであろう。たとえば、ペプチドの量を自動的に測定するための手段を適用する場合、目的とする結果を得るために、その自動的に作動する手段により得られるデータを、たとえばコンピュータープログラムにより処理することができる。好ましくは、そのような場合はこれらの手段は単一デバイスにより構成される。したがってそのデバイスは、適用した試料中のペプチドまたはポリペプチドの量を測定する分析ユニット、および得られたデータを評価のために処理するコンピューターユニットを含むことができる。あるいは、ペプチドまたはポリペプチドの量を測定するために検査ストリップなどの手段を用いる場合、比較のための手段は、測定量を標準量に割り当てる対照ストリップまたは表を含むことができる。検査ストリップは、好ましくは、本明細書中で述べるペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドにカップリングしている。ストリップまたはデバイスは、好ましくはそのリガンドへのペプチドまたはポリペプチドの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段は、前記の本発明方法に関する態様に関連して開示されている。そのような場合、システムの利用者がマニュアルに示された指示および解説に従って量の測定結果とその診断値および予後値を結びつけるという点で、それらの手段は作動できる状態で連結している。そのような態様では、それらの手段は別個のデバイスとして作製でき、好ましくは一緒にキットとしてパッケージされる。それらの手段を連結する方法は当業者にはさほど苦労せずに分かるであろう。好ましいデバイスは、専門の臨床医の特別な知識がなくても適用できるもの、たとえば試料を装填するだけでよい検査ストリップまたは電子デバイスである。結果は、臨床医が解釈する必要のある生データの出力として得られてもよい。しかし、好ましくはデバイスの出力は生データが処理され、すなわち評価されたものであり、それを解釈するのに臨床医を必要としない。さらに好ましいデバイスは、本発明方法に従って前記に述べた分析ユニット/デバイス(たとえば、バイオセンサー、アレイ、前記ペプチドを特異的に認識するリガンドにカップリングした固体支持体、プラズモン共鳴装置、NMR分光計、質量分析計など)または評価ユニット/デバイスを含む。
【0049】
さらに本発明は、救急患者の急性医学的事象の病態生理学的原因が循環系合併症および/または虚血性合併症と関連があるかどうかを迅速評価するためのキットであって、
a)患者の試料中のANP型ペプチドの量を測定するための手段;
b)患者からの試料中のsFlt−1の量を測定するための手段;
c)測定したANP型ペプチドおよびsFlt−1の量を標準量と比較するための手段;ならびに
d)比較の結果に基づいて診断を確立するための手段
を含むキットに関する。
【0050】
本明細書中で用いる用語“キット”は、前記手段の集合体であって、好ましくは個別にまたは単一容器内において提供されたものを表わす。容器は、好ましくは本発明方法を実施するための指示をも含む。
【0051】
さらに他の観点においては、アテローム硬化性病因を伴う血管疾患を診断するための方法であって、
a)患者の試料中のANP型ペプチドの量を測定する工程;
b)患者からの試料中のsFlt−1の量を測定する工程;
c)工程a)およびb)で測定した量を標準量と比較する工程;ならびに
d)c)の結果に基づいて診断を確立する工程
を含む方法が提供される。
【0052】
さらに他の観点において、本発明は、糖尿病患者が心血管合併症に罹患しているか、あるいは心血管合併症に罹患するリスクをもつかどうかを診断するための方法であって、
a)好ましくはインビトロで、患者からの試料中の少なくとも1種類の心臓ホルモン(たとえばNT−proBNP)のレベル(単数または複数)を測定する工程;
b)測定したレベル(単数または複数)を心血管合併症またはそのリスクに関連する既知のレベル(単数または複数)と比較することにより、心血管合併症を、または心血管合併症に罹患するリスクを診断する工程
を含む方法に関する。
【0053】
さらに、糖尿病患者が細小血管障害に罹患しているか、あるいは細小血管障害に罹患するリスクをもつかどうかを診断するための方法であって、
a)インビトロで、患者からの血清、血液または血漿試料中のPLGFまたはPLGF−1バリアントのレベル(単数または複数)を測定する工程;
b)測定したレベル(単数または複数)を細小血管障害またはそのリスクに関連する既知のレベル(単数または複数)と比較することにより、細小血管障害を、または細小血管障害に罹患するリスクを診断する工程
を含む方法が提供される。
【0054】
本明細書中に引用した文献をそれの開示内容全体に関して本明細書に援用する。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は本発明の説明にすぎない。決してそれらが特許請求の範囲を限定することはない。
実施例1
集中治療が必要である致命的な状態を伴っていた403人の患者(中央年齢:52.4歳)において、sFlt−1およびNT−proANPを入院後4時間以内に測定した。サンプリング時点ですべての患者が人工換気されていた。彼らの循環は安定していた。
【0056】
NT−proANPを、Biomedica(オーストリア、ウィーン)から求めたproANP ELISAアッセイ(BI−20892)で測定した。このサンドイッチアッセイ法は、マイクロタイターストリップに結合したポリクローナルヒツジNTproANP特異的抗体を含む。試料をproANPが抗体に結合できるようにマイクロタイターストリップに添加する。proANPがこの第1抗体に結合した後、第2のproANP特異的抗体を容器に添加する。この第2抗体は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしている。インキュベーション後、結合していない酵素コンジュゲート抗体をマイクロタイターストリップの洗浄により除去する。最後にテトラメチルベンジジン(TMB)をHRPに対する基質として添加する。より多量のproANPを試料が含有するほど、より多量のコンジュゲート抗体が結合する。したがって、容器内に存在するHRPの総活性は試料中のproANPの量に依存し、初期TMB変換率は試料中のNTproANPの量の尺度である。
【0057】
sFlt−1を、Roche Diagnostics(ドイツ、マンハイム)からのElecsysおよびCOBAS分析計と共に用いるsFlt−1イムノアッセイ法で測定した。このアッセイ法はサンドイッチ原理を基礎とし、2つのモノクローナルsFlt−1特異的抗体を含む。これらのうち第1はビオチニル化されており、第2のものはトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)錯体で標識されている。最初のインキュベーション段階で両抗体を試料と共にインキュベートする。sFlt−1および2つの異なる抗体を含むサンドイッチ複合体が形成される。次のインキュベーション段階では、ストレプトアビジンでコートされたビーズをこの複合体に添加する。ビーズはサンドイッチ複合体に結合する。次いで反応混合物を測定用セル内へ吸引すると、ビーズは電極の表面に磁気により捕捉される。次いで電圧をかけるとルテニウム錯体からの化学発光の発生が誘発され、これを光電子増倍管により測定する。光の量は電極上のサンドイッチ複合体の量に依存する。
【0058】
心電図検査により、または患者の脈拍を少なくとも30秒間測定することにより、頻脈を判定した。
【0059】
【表1】
【0060】
* 患者の総数;
** 患者が>120bpmの脈拍数を示した場合は頻脈と診断した;
§ 不整脈は、絶対不整脈または毎分10回を超える期外心拍数と定義された。
【0061】
【表2】
【0062】
* 患者の総数
** 患者の数
下記の基準に適合する場合は患者を虚血性事象に罹患しているとみなした:臓器特異的疼痛、患部の脈拍低下、および皮膚の蒼白性。
【0063】
表1は、NT−proANPの量が増加するのに伴って循環系事象を伴う患者の割合が増大したことを示す。2500pg/mlを超えるNT−proANPレベルを伴う患者のうち33%より多くが、サンプリング以前に不整脈に罹患し、またはサンプリング時点でもなお罹患しており、2500pg/mlを超えるNT−proANPレベルを伴う患者のうち60%より多くが、サンプリング以前に頻脈に罹患し、またはサンプリング時点でもなお罹患していた。したがって、救急患者のNT−proANPレベルを測定することにより、不整脈および頻脈により例示される循環系合併症を信頼性をもって診断できる。意外にも、そのような診断を入院後4時間以内にすら達成できる。
【0064】
表2は、虚血性事象の罹患率を示す。500pg/mlを超えるsFlt−1レベルを伴う患者のうち25%より多くが、サンプリング以前に80mmHg未満の収縮期血圧を伴い、またはサンプリング時点でもなお伴っていた。以上からみて、救急患者のsFlt−1レベルを測定することにより虚血性合併症を安全かつ迅速に診断できる。
【0065】
2つのマーカーsFlt−1およびNPproANP(または他のANP型ペプチド)はそれぞれ、統計的に独立した診断尺度を提供する。sFlt−1およびNPproANP(または他のANP型ペプチド)を組み合わせて1つの診断検査にすることにより、医師は救急患者の急性医学的事象の病態生理学的原因、すなわちその救急患者が循環系および/または虚血性合併症に罹患しているかどうかを、容易かつ迅速に判定できる。